雛見沢ゲットー
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ぼくらの! 第1話 平沢憂
2009/09/28 01:32

【ぼくらの!】 唯「何で憂が死ななきゃいけなかったの!?」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 10:21:30.19 ID:Cq93apyd0


    第1話 平沢憂


 高校生になったとき、私達はもう一人前で、自分達で何でもできると思っていた。

 特に、私の場合は、両親が家を留守にしがちで、幼い頃からお姉ちゃんと二人きりだったから、
余計にそういう意識が強かった。

 私がお姉ちゃんの面倒をみなければならない。
 なぜかは分からないけど、昔からそう思っていた。

唯「今度の合宿、憂も一緒に行かない?」

 お姉ちゃんにそう誘われたのは、私が高校一年生で、お姉ちゃんが高校二年生の、
夏休みのことだった。

 お姉ちゃんは高校に進学して、軽音部に入ってからというもの、家にいる時間が少なくなり、
同時に、私と過ごす時間も減っていた。

 もちろん、お姉ちゃんが幸せそうにしているのは、私にとっても嬉しいことだった。
 しかし、その一方で、お姉ちゃんが私以外の人と仲良くしているのが、寂しくもあった。

 幼い頃の私は、この世界に存在している人間は、私とお姉ちゃんの二人きりであるように
感じていた。

 もちろん、それは錯覚に過ぎなかった。
 ただの都合のいい妄想だった。

 軽音部の仲間と楽しそうにしているお姉ちゃんを見るたびに、私はそのことを思い知らされる。


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 お姉ちゃんに幸せになってほしい。
 でも、お姉ちゃんが私以外の人と楽しそうにしているのは苦しい。

 そんな、相反する思いが、私を苛んでいた。
 だから、私は、お姉ちゃんを傷つけないように断るつもりだった。

憂「でも、私は部外者だし……」

唯「そんなの気にすることないよ! のどかちゃんだって行くって言ってたし」

 のどかさんが行くというのは意外だった。
 お姉ちゃんの幼なじみ。
 彼女は、私からお姉ちゃんを奪った最初の人だった。

憂「でも、練習の邪魔になっちゃうでしょ?」

唯「そんなことないってば。自分達だけで練習していると、どうしても
  途中で行き詰っちゃうんだよね。第三者の人に聞いてもらって、
  感想を教えて欲しい、って、りっちゃん達も言ってたんだよ」

憂「感想、か……」

唯「あずにゃんだって、憂が来てくれたら喜ぶと思うし」

 お姉ちゃんは、私と梓ちゃんが友達だと思っているし、ある意味では、それは間違いではない。
 しかし、私は、新入部員がいなくてお姉ちゃんが困っていたから、
 さり気なく梓ちゃんを誘導して入部させるために、彼女と友達になったのだった。

 全てはお姉ちゃんのためだった。

唯「ねえねえ憂、見て見て! 蟹さんだよ!」

 お姉ちゃんがピースサインを耳の横に当て、蟹の真似をしている。

 楽しそうだ。
 それを見て、私は、やっぱり合宿についてきてよかったと思った。

 私達家族は、滅多に旅行に行かなかったから、
 海辺で遊んでいる水着姿のお姉ちゃんというのは、かなり新鮮だった。

 紬さんの別荘のすぐ近くにある海辺は、シーズンだというのに私達以外に全然人がいなくて、
 贅沢な気持ちになれた。

 紬さんは何も言ってなかったけど、もしかすると、
 ここは噂に聞くプライベートビーチというものなのかもしれない。

 みんなでビーチバレーをしたり、かき氷を作ったり、スイカ割りをしたりしているうちに、
 あっという間に時間が過ぎていった。

紬「ねえ、向こうに洞窟あるの知ってる?」

 紬さんがそう言い出したのは、合宿初日の夕方のことだった。

律「洞窟!? 面白そうじゃん! みんなで行こうぜ!」

 律さんはおおはしゃぎだった。
 この程度でここまで喜ぶことができる律さんのことが羨ましかった。

澪「わ、私は行かない!」

 澪さんが怯えた声を出し、律さんから遠ざかった。

律「えー? いいじゃん澪、一緒に行こうよー」

 律さんが澪さんの手を取る。
 その手を振り払い、澪さんは両手で耳を塞いだ。

澪「嫌だ嫌だ嫌だ! 洞窟なんて、私は絶対に行かないぞ!」

憂「澪さん、どうしたんですか?」

唯「澪ちゃんは、怖いのが苦手なんだよ」

憂「洞窟って、怖いの?」

和「真っ暗だろうし、蝙蝠とかいるかもしれないし、怖いと言えば怖いかもしれないわね」

 それが一般的な女の子の感覚なのだろうか。
 私は昔から、他の女の子達とはズレていると自覚していたので、今さら驚かないが。
 お姉ちゃんはどうなのだろう。
 お姉ちゃんが行きたくないのならば、私も反対するつもりだった。

律「もちろん、唯は行くよな!?」

唯「もっちろん!」

憂「じゃあ、私も行きます。梓ちゃんは?」

梓「私は……どうしようかな」

唯「あずにゃんも行こうよー」

 お姉ちゃんが梓ちゃんに抱きつく。
 梓ちゃんは少し困ったような表情になる。
 お姉ちゃんに抱きつかれておきながらそんな表情をするなんて、梓ちゃんはおかしいと思う。

律「何? もしかして、怖いのか?」

梓「べ、別に怖くなんかありませんよ! 私も行きます!」

澪「私は行かないからな!」

紬「じゃあ、澪ちゃんはお留守番しててくれる? みんなの荷物とかを見張っていて」

 もちろん、こんな人気のない場所に泥棒がいるとは思えない。
 紬さんは澪さんに気を遣っているのだろう。

澪「うん、じゃあそうするよ」

 澪さんは笑顔になった。

 こうして、私、お姉ちゃん、律さん、紬さん、のどかさん、梓ちゃんの六人は、
 洞窟の中に入っていくことになった。

唯「暗くて何も見えないよー」

 数メートル進んだところで、お姉ちゃんがそう言い出した。

憂「お姉ちゃん、大丈夫だよ」

 私は携帯電話を開き、その明かりを懐中電灯代わりにした。

唯「おおっ、さすが憂!」

 自然と、お姉ちゃんが私に寄り添うような形で進むことになった。

 洞窟内に携帯電話を持ってきたのは、私だけだった。
 他のみんなは、澪さんが見張っている海辺に置いてきたらしい。

紬「憂ちゃんは準備いいわよね」

 紬さんはそう言ってくれたが、事実は違った。
 私はただ単に、携帯電話を置いてきたくなかっただけだった。

 だって、澪さんが覗き見するかもしれないから。

 私は、誰のことも信じていなかった。

梓「あっ、奥の方、何か光ってる!」

律「本当だ! 行こう!」

和「走ったら危ないわよ!」

 広い場所があり、数台のパソコンと、見たこともない機械があった。

 電気を引いているのか、もしくは自家発電しているのか、
 パソコンは起動しており、部屋の中も明るかった。

律「誰か住んでるのかな?」

梓「ムギ先輩、そうなんですか?」

紬「いえ、洞窟があることは知ってたんだけど、中がこんなことになっているとは……」

 本当だろうか。
 紬さんは、洞窟に行こうと言い出した張本人だ。
 それに、別荘が近くにあるのだから、例えば執事さんあたりが、
 事前に危険がないか調査しておくものなのではないだろうか。
 何しろ琴吹家のお嬢様だ。
 本人は自覚していないみたいだけど、それくらいのことは周囲が危機管理してくれているだろう。


 足音が聞こえた。


 全員が一斉に振り返る。
 そこには、見たことのないおじさんが立っていた。

男「あ――見つかっちゃったか――見つかっちゃったな」

 なぜ二回言う。

律「あんた誰? ここで何やってんの?」

 男は、私達六人のの顔を、順番に見ていく。

男「あ――あ――あ――丁度いいか。丁度いいな」

 だからなぜ二回言う。

男「君達、ゲームやってみない?」

一同「ゲーム?」

男「僕ね僕。ゲームつくってるのゲーム」

律「変人?」

男「失敬な。あらゆる創造性をさらに昇華させるための……」

 やっぱり変人だ。関わらない方がよさそうだ。
 何より、お姉ちゃんに危険が及ぶかもしれない。
 いざというときは、私がお姉ちゃんを守らなければ。

律「ゲームって?」

 私が逃げ出す言い訳を考えているというのに、律さんが話を掘り下げてしまった。
 どうしていつもいつも、律さんは余計なことを言うのだろう。

男「あ…あ――あ――ほぼ完成に近づいていてね。そのテストプレーヤーを捜すところだったんだよ」

男「君たちなら適任だな。適任だ」

 どこが?
 女子高校生をターゲットにしたゲームなのだろうか?
 それとも、やっぱりただの変質者なのだろうか?

 私は携帯電話を確認する。
 警察に通報しようと思ったのだが、電波が届かないらしい。

律「で、どんなゲーム?」

男「巨大ロボットを操って敵を倒す。この地球を、何体かの敵が襲う。迎え撃つのは巨大なロボット。
  黒い塊。積層された装甲。圧倒的な力。無敵の存在。それを操るのは、君たち」

律「面白そうじゃん!」

 私はそうは思えない。
 早くここから逃げ出した方がいいと思う。

唯「私、やってみたい!」

憂「私もやります!」

紬「私、ゲームって初めてなんですけど、大丈夫ですか?」

和「えっと、私は、ゲーム苦手だし……」

梓「私もちょっと……」

 どうやら、のどかさんと梓ちゃんは、ゲーム云々よりも、
 私と同じく、この男に危機感を抱いているらしい。

 というか、お姉ちゃんや律さんや紬さんに、危機意識が足りなさ過ぎるのだが。

 私達は女子高校生なのだ。
 男達の汚らわしい欲望の対象になっていることを、もっと自覚するべきだと思う。

男「おいおいルールは説明するとして、それじゃ、ここ。ここに手をついて、選ばれし勇者の契約を」

 男が指さしたのは、妙に古びたプレートだった。
 ああ、この人は、本当にヤバい人なのだな、と思った。
 みんなは笑っているが、そんな場合ではないと思う。

律「私は、田井中律」

唯「平沢唯!」

 なぜか二人は、名前を名乗りながらプレートに手を触れた。
 いやいや、名前を言えとは言われてなかったでしょ。

憂「平沢、憂、です」

 お姉ちゃんが参加するのに、私が参加しないわけにはいかない。
 仕方なく私も、理由は分からないが名前を名乗り、プレートに触れた。

紬「琴吹紬でーす」

 残るは、のどかさんと梓ちゃんだけだった。

唯「あずにゃんもやろうよ〜」

 お姉ちゃんが梓ちゃんの手を引っ張る。

憂「お姉ちゃん、無理強いはよくないよ」

 プレイヤーが少ない方が、お姉ちゃんと遊ぶ時間が増えるだろう。

和「私、本当にゲームが苦手なんだけど、それでもいい?」

 のどかさんがそんなことを言い出した。
 まさか、本当にただ単に、ゲームが苦手だから参加したくなかっただけだったのだろうか?
 それとも、早くここから逃げるために、話を合わせているだけなのだろうか?

男「構わない。もちろん構わないよ。実際に販売するときには、
  ゲームが苦手な人でも楽しめるようにしたいしね。楽しんで欲しいしね」

和「じゃあ……真鍋和」

 残るは梓ちゃんだけだった。

律「えいっ!」

 律さんが、無理矢理、梓ちゃんの手をプレートに触れさせてしまった。

梓「律先輩、何するんですか!」

律「いいじゃん、みんなでやった方が楽しいし」

梓「そういう問題じゃないです!」

律「ところで、あんたの名前は?」

男「僕は、ココペリ」

 ココペリ……?
 まさか本名のはずがない。
 ゲームプレイヤーとしての名前が「ココペリ」という意味だろうか?


ココペリ「じゃあこれでゲームの開始だよ。これから次々と敵が、現れる。最初の一体は、僕が倒す。
     そのあと君たちの、番だ。ではまた、あとで」


 突然、目の前が真っ暗になった。


澪「おい、大丈夫か!?」

 澪さんの叫び声が聞こえた。
 私は重い頭を振りながら、上体を起こし、目を開けた。

 見覚えのある海岸だった。
 さっきまで遊んでいた場所だ。
 遠くに荷物も見えるし、間違いない。

澪「やっと憂も起きたか。みんなを起こすのを手伝ってくれ」

 そう言われて初めて気が付いた。
 私の周りに、お姉ちゃん、律さん、紬さん、のどかさん、梓ちゃんの五人が倒れていた。

憂「お姉ちゃん、大丈夫?」

 私は真っ先にお姉ちゃんの肩を揺さぶった。

唯「うーん……後五分」

憂「お姉ちゃん、遅刻だよ!」

唯「えっ!? 遅刻?」

 お姉ちゃんは目を覚ました。

憂「澪さん。私達、どうしてこんなところで寝ていたんですか?」

 他の人たちを起こす前に、私は確認した。

澪「さあ、分からない。気が付いたら、みんながここに倒れていたんだ」

憂「でも、誰かが私たちをここに運んだはずなんです。本当に、誰も見てないんですか?」

澪「見てないよ」

 おそらく、あのココペリとかいう男が、私達を何らかの方法
(催眠ガスとか?)で眠らせ、ここまで運んだのだろう。

 私は素早く自分の身体を確認した。
 特に異常は感じない。
 何もされていないようだ。

憂「ねえ、お姉ちゃん、身体に違和感はない?」

唯「別にないけど?」

憂「そう、よかった……」

澪「そんなことより、他のみんなも起こさないと!」

 その後、私達は手分けして、みんなを起こした。

 みんなに確認したのだが、誰も、洞窟から出てくるところを憶えていなかった。

梓「夢ですよ、夢」

 夕食の準備をしながら、梓ちゃんがそう断言した。

紬「でも、みんなで同じ夢を見るかしら……?」

和「思ったんだけど……今、もう本当に、ゲームの最中なんじゃないかしら?」

 のどかさんがわけの分からないことを言い出した。

憂「どういう――」

 どういう意味ですか、と尋ねようとしたとき、地震が起こった。

澪「外に、何か落ちたんじゃないか?」

律「隕石だったりして」

澪「まさか」

 そんなことを口々に言いながら、私達は外に出た。

 そこには、巨大なロボットが聳え立っていた。

 黒い塊。積層された装甲。
 それは、あの男が言っていたロボットに違いなかった。

梓「な、何なんですかあれ!?」

和「たぶん、あれが、ココペリさんが言っていたロボットなんだと思う……」

紬「あ、あれは?」

 紬さんが指さした方向を見ると、今まさに、別の巨大なロボットが召喚されるところだった。

 それは、ハサミのような形をしたロボットだった。

 二本の棒を組み合わせて作ったように見える。
 その棒の内側は鋭利な刃になっていた。

梓「じゃあ、もしかして、あれが敵!?」

「そうです」

 突然、背後から声がした。

 振り返ると、ぬいぐるみが宙に浮いていた。
 首に蝶ネクタイを結び、シルクハットを被った、熊のぬいぐるみの出来損ないみたいだった。
 生意気に、口髭まで生やしている。

唯「えーと、このぬいぐるみは……?」

「ぬいぐるみとは失敬な。あまり私に失礼なことを言わない方がいいですよ?」

唯「は、はあ」

「私はコエムシです。まあ、ゲームのガイドのような存在だと思ってくれればいいです」

律「ガイドっていうと、サンディみたいな?」

コエムシ「私をあんなガングロ妖精と一緒にしないでください!
      私は紳士なんですよ。ジェントルマン。分かりますか?」

 どうしてこのぬいぐるみはドラクエ9を知っているんだろう。

コエムシ「ココペリの戦闘が終わったら、あなたたちのマガジンが装填されます。
      そうすれば、あなたたちの番です。
      ですから、よーく戦闘を確認しておいた方がいいですよ?では、早速、行きましょうか」

 また、目の前が真っ暗になった。
 少し頭痛がしたので、目を閉じた。

 目を開けると、そこには、広大な空間が広がっていた。
 背景には、夕焼けが映りこんでいる。

 そして、中央の空間に、いくつかの椅子が浮いていた。

ココペリ「やあ、コックピットへようこそ」

 椅子の描く円の中央に座っていたココペリが振り返った。

 この男は、変質者ではなかったのか。

澪「これは夢だこれは夢だこれは夢だ」

律「澪、落ち着けよ」

和「ここが、あの巨大なロボットの中なんですか?」

ココペリ「全て現実だよ。じゃあ、行くよ」

 ココペリがそう言うと、ロボットが動き出した。

 いや、この場所は不思議なくらい揺れを感じないので分からないが、
 背景にホログラムのような映像が映り、ロボットが動いているのが分かったのだ。

 それに、遠景ばかりなので分かりづらいが、景色も動いている。

 ギシギシと軋む音を立てながら、ロボットが歩いていく。

 ゆっくり歩いているように見えるが、ロボット自体が巨大なので、
 きっと、端の方はとんでもない速度で動いているのだろう。

 敵のハサミ型ロボットも動き出した。

 こちらのロボットのように人型ではないので、かなり歩きにくそうだ。
 正面をこちらに向けたまま、ジグザグに足を動かして歩いている。

澪「気持ち悪い……」

律「私達のが、あんなロボットじゃなくてよかったな」

 それよりも、私には気になっていることがあった。
 ココペリは、全然このロボットを操作しているようには見えないのだ。

ココペリ「こいつは、念じれば動く。君たちでも、何も難しくはない。そして、攻撃」

 私の疑問を読み取ったかのように、ココペリが言った。

 こちらのロボットから、無数のレーザーが発射された。
 レーザーは一瞬にしてハサミに到達したが、ハサミはレーザーを跳ね返してしまった。

ココペリ「当然、この程度じゃ、向こうも大してダメージをくらわない。だから、」

 こちらのロボットが大きく前進し、相手の懐に飛び込んだ。

ココペリ「力で装甲を、引きはがす!」

 ココペリの操るロボットは何度もハサミを殴った。

 ハサミは大きく揺れるが、その場に踏みとどまった。
 下が海になっているのでよく分からないが、おそらく、あの刃を大陸棚に突き刺しているのだろう。

 ココペリが大きく振りかぶるようにロボットに念じたとき、ハサミが反撃に出始めた。

 ハサミ型ロボットは、片方の棒を軸にして、もう一本の棒を高く振り上げたのだ。
 それはちょうど、相撲取りがシコを踏んでいるところを想像すると分かりやすいだろう。

 そして、振り上げた棒で、こちら側のロボットの拳を受け止めた。

 いや、受け止めたというのは間違いだった。

 こちらの攻撃をそのまま利用して、ハサミ型ロボットはこのロボットの拳を引き裂いてしまった。

ココペリ「くっ……思ったよりもやるな」

和「どうやら、あの脚の内側の刃が、あのロボットの唯一の武器であり、
  同時に無敵の硬度を誇っているみたいね」

 のどかさんが冷静に解説した。

 ココペリは、もう一方の拳で、ハサミの頭の部分を狙った。

 そのタイミングに合わせて、ハサミが角度を変え、刃を拳に当てた。
 先ほどと同じように、もう一本の腕も壊れてしまった。

ココペリ「くそっ……」

 これで、こちらのロボットは、両腕を使えなくなってしまった。

律「腕が駄目なら、こっちだって脚を使えばいいじゃないか!」

和「ちょっと待って! もしも脚をやられたら、立っていることもできなくなるのよ!?
  ここは、いったん退いて、様子を見るべきよ!」

 ココペリは、律さんではなく、のどかさんの意見を採用した。

 相手のロボットが振り上げた刃が落ちてきても届かない距離まで、急いで後退した。

コエムシ「おやおや。開始早々両腕を失ってしまうとは、残念ですよ」

 コエムシは、感情のこもらない無機質な声で言った。

和「確認しておきたいんだけど、私たちも、このロボットを操ってゲームをすることになるのよね?」

コエムシ「そうです」

和「今回失った腕は、ずっとそのままなの?」

コエムシ「いえいえ。このロボットは自動で修復する機能を持っているので、
      あなた達の戦闘のときには元に戻っていますよ。ご安心ください」

和「そう。よかったわ……」

律「そんなこと言ってる場合じゃないぞ! またハサミが動き出した!」

 ハサミが振り上げている方の脚が落ちてきても届かない距離に移動するというココペリの判断は、
 間違っていなかった。

 しかし、間違ってもいなかったが、それだけでは不十分だった。

 相手は、二本の脚のうち、自由に軸足を変えることができたのだ。

 落ちてきた方の脚を軸にして、もう一方の脚を振り回した。

 ココペリは避けようとしたが、間に合わなかった。

 当然、相手のもう一本の脚の刃が、こちらのロボットの両脚を粉砕した。

澪「倒れるぞ!」

 巨大なロボットがゆっくりと(スケールが大きすぎてそう見えた)倒れていく映像が映し出される。

 衝撃は殆ど感じなかったが、胴体が海面に落ちた音で、耳が痛くなった。

唯「ねえ、これ、どうなるの!?」

梓「このロボットは、両手両足を失っちゃったんですよね……。これで、勝てるんですか……?」

和「ねえ、コエムシ! 弱点とかはないの!?」

コエムシ「そういえば、説明がまだでしたね。敵ロボットには、必ず急所があります。
      その急所を壊しさえすれば、他の場所が無傷でも、こちらの勝利となります」

律「じゃあ、その急所を――」

コエムシ「それはもう、今となっては無理ですね。この状態で急所を潰すことができたら、奇跡ですよ」

 ココペリはレーザーを乱射しながら、何とか体勢を立て直そうとしている。
 残った短い手足で、せめて四つん這いになろうとしているらしいが、
 長さが違うため、それすら難しかった。

 相手のハサミは最初に現れたときのように直立し、
 悠然とした動作で、脚の刃で、こちらの胴体を真っ二つにした。

紬「きゃあああっ!」

 今度は激しい揺れが、コックピットを襲った。
 立っていることもできなくなり、私達は椅子にしがみついた。

コエムシ「こうなってしまっては、仕方がないですね。お嬢さん方を、安全な場所へ移動させます」

 目の前が真っ暗になった。

 次の瞬間、私達は、別荘を見下ろす、山の中にいた。

 遠くで、ハサミ型ロボットが人型ロボット――
 いや、もはや人型とは言えない、ロボットの残骸を切り刻んでいるところだった。

唯「あれって――」

 お姉ちゃんが何かを言い終える前に、ロボットの残骸が、激しく光るのが見えた。

コエムシ「おやおや。相手のロボットが、こちらのロボットの急所を潰してしまったみたいですね」

澪「え? じゃあ、私達、負けちゃったのか!?」

コエムシ「いえいえ。負けたのはあなた達ではなく、ココペリですよ」

澪「同じことだろう?」

コエムシ「いいえ。違いますよ。
      ……ココペリも死にましたし、そろそろ、種明かしをしてもいい頃ですね」

律「ココペリが死んだ!?」

 律さんが叫ぶのと同時に、紬さんが頭を押さえて倒れた。
 のどかさんが紬さんの様子を見て、首を横に振った。
 どうやら気絶してしまったらしい。

憂「それで、種明かしっていうのは……?」

コエムシ「ココペリは、この星の人間じゃなかったのです」

梓「じゃあ、宇宙人……?」

律「本当の姿は、グレイみたいな奴?」

コエムシ「グレイでもなければホイミスライムでもありません。あなた達と同じ、人間ですよ」

澪「これは夢だこれは夢だこれは夢だ」

コエムシ「ここは夢の世界でもなければ、幻の大地でもありませんよ」

和「幻の大地って何?」

律「ドラクエ6の話だよ。今は関係ないと思う」

コエムシ「何も分からないうちに、ココペリのように負けてしまってはあなた方が可哀想ですから、
      いいことを教えておいてあげましょう。あなた達が戦闘に負けると、この地球は滅びます」

 そう言われても、全員が無言だった。
 そんなこと、信じられるはずがない。

コエムシ「おやおや。無反応ですか。ちなみに、ココペリのいた星は、もう滅んでしまいましたよ?」

唯「本当に……?」

コエムシ「本当です。そのうち、お嬢さん方のマガジンが装填されます。
      そうしたら迎えに来ます。何かあれば、すぐに呼んでくれて構いません。
      私はいつでも、あなた方の傍にいますからねフヒヒ」

 コエムシは紳士とは思えない笑い声を残し、消えた。

 気絶した紬さんを除いて、私達は、呆然とその場に立ち尽くした。

 突然、携帯電話が鳴った。私のではない。
 全員が首を横に振る。

律「あ、ムギのケータイじゃないかな」

 律さんは勝手に紬さんのポケットを探り、携帯電話を取り出した。
 携帯電話を開くと、「斉藤」と表示されていた。

律「ムギの家の執事さんだね。――もしもし」

 あろうことか、律さんは勝手に電話に出てしまった。

律「……いえ、私は紬さんじゃありません。……紬さんは、眠っています。
  ……はい、私達は無事です。……え、今すぐにですか? ……分かりました」

 律さんは通話を切った。

澪「執事さん、何て言ってたんだ?」

律「すぐにマスコミや警察がここら辺に駆けつけるだろうって。
  その前に自家用ヘリで逃がしてあげるから、身支度を整えておくように、って言われた」

澪「じゃあ、とりあえず、ムギを別荘まで運ばないといけないな」

 私達はムギさんの身体を持ちながら、山を降りることにした。

和「今日のこと、誰にも言わない方がいいわね」

唯「どうして?」

和「誰が私たちの話を信じてくれるっていうの?」

憂「それもそうですね。頭がおかしいと思われるだけです」

 私は、昔のことを思い出しながら、そう言った。

 別荘は、ひどい状態になっていた。
 あの戦闘のせいで、小規模な津波が発生したらしく、
 別荘の窓ガラスが割れ、水浸しになっていたのだ。

 やがてヘリコプターでやってきた、紬さんの家の使用人の人たちに手伝ってもらって、
 私達は急いでその場を後にした。



憂「今、誰か、私の名前呼んだ?」



 うるさいヘリコプターの中で、私はそう尋ねた。

唯「どうかしたの?」

憂「気のせいかもしれないけど、誰かに名前を呼ばれたような気がして」

唯「うーん、私は何も聞こえなかったけど……」

憂「そう。それならいいの。きっと、疲れてるんだね」

 私はそう結論付けた。

 十数分後、私達は、紬さんの家が所有する、別の別荘の中にいた。

斉藤「まことに勝手ではございますが、ご家族の方に、
    津波のせいで別荘が使えなくなってしまったと連絡させていただきました。
    ただ、申し訳ありませんが、平沢様のご自宅には誰もいらっしゃらないようでして――」

憂「あ、いいんです。うちの両親は今、海外ですから」

紬「他の人の家族には連絡がついたの?」

 目を覚ました紬さんは、斉藤さんにそう尋ねた。

斉藤「はい。今晩中に迎えに来るとのことでした」

紬「そう。合宿がこんなことになって残念だけど、仕方がないわね。
  唯ちゃんや憂ちゃんは、今晩はこの別荘に泊まっていく?」

憂「こんな時間ですし、そうしていただけると助かります。
  明日の朝、家に戻りますから」

唯「はあ……せっかくの合宿だったのに」

紬「悪いけど、ちょっと席を外してもらえないかしら?」

斉藤「かしこまりました。何か御用があれば、内線でお呼びください」

 斉藤さんが出て行くと、紬さんは私達に向き直った。

紬「変なこと聞くけど、あれって、夢だったのよね?」

律「夢って……?」

紬「笑われるかもしれないけど、巨大なロボットに乗って敵と戦う夢を見たの」

律「それは……」

和「夢よ。そんなことは起こっていないわ。
  きっと、寝ている途中で地震が起きたから、そんな夢を見ちゃったのね」

唯「のどかちゃん!」

紬「……そう。夢でよかったわ」

 紬さんは安心したように呟くと、紅茶を飲んだ。

律「おい、どうして夢だなんて言ったんだよ」

 律さんが紬さんに聞かれない場所までのどかさんを引っ張っていき、小声で尋ねた。

和「だって、これからの戦闘に耐えられそうになかったから。抜けてもらおうと思って」

澪「抜ける……。そうだよ。あんな馬鹿げたゲーム、やめちゃえばいいんだよ」

律「やめるも何も、澪は最初から契約してないだろ?」

澪「あ、そうだった。忘れてた」

律「全く……。
  とにかく、一度夢だって言った以上、しばらくはそれで押し通した方がいいかもしれないな。
  唯と梓と憂も、これでいいか?」

 渋々、私達とは頷いた。

 それから数時間後、律さんや澪さん達の家族が迎えにやってきて、彼女たちは帰っていった。

唯「みんな、優しそうな人たちだったね」

 みんなというのは、彼女たちの家族のことをさしているのだろう。

憂「うん、そうだね。でも、紬さんの家族は……」

 娘のいた別荘が津波に巻き込まれたというのに、紬さんの家族は電話一つ寄越さなかった。

 まあ、私のうちも、人のこと言えないけどね。

紬「こんなことになっちゃって、ごめんなさいね」

 いつの間にか、紬さんが後ろに立っていた。
 私たちの会話を聞かれてしまったのだろうか。

唯「ムギちゃんのせいじゃないよ」

憂「そうですよ。気にしないでください。
  別荘を使わせてもらっただけでも、私たち、凄く感謝してるんですから」

紬「そう。じゃあ、悪いけど、私、先に……」

憂「はい、おやすみなさい」

唯「おやすみ〜」

 私たちは、与えられた部屋に行った。
 荷物は全て水浸しになってしまっていたので、
 服はこの家に置いてあった紬さんのものを借りていた。

唯「今日は大変な一日だったね」

憂「うん……。あれ、本当にあったことなのかな。
  私、今でも信じられないよ」

コエムシ「信じてください」

唯「きゃあっ!」

憂「いつの間に部屋に入ってきたの?」

コエムシ「言ってませんでしたか? 私は、どこでも自由に出入りすることができるのですフヒヒ」

憂「もしかして、着替えたりお風呂に入ったりしてるところも――」

コエムシ「目の保養になりましたよ。
      二人ともお顔はそっくりですが、胸は憂さんの方が大きいみたいですね」

唯「ガーン!」

憂「わ、私は、胸は小さい方が好きだよ!」

コエムシ「私も小さい方が好みです」

憂「コエムシの好みは聞いてない!」

コエムシ「おやおや。せっかく助言に来てあげたのに、随分な言い分ですね。
      ちなみにこれ、随分な言い分、っていうのは、韻を踏んでますからね」

憂「本気でどうでもいい。何しに来たの?」

コエムシ「次のパイロットは、平沢憂さん。あなたですよ。ちゃんと自覚してますか?」

憂「え……?
  あ、そう言えば、ヘリコプターの中で、名前を呼ばれたような気がしたけど、あれが?」

コエムシ「そうです。分かっていないみたいなので、教えに来たのです」

唯「ねえ、パイロットって何? みんなで一緒に戦うんじゃなかったの?」

コエムシ「あのロボットは人間が念じることによって動きますからね。
      複数のパイロットがいたら、同時に複数の操作をすることになり、混乱しますから。
      ゲームの主催者側で勝手にパイロットを選ぶことになっているんですよ」

憂「ふうん。そうだったんだ。でも、言おうと思えばいつでも言えたわけでしょ?
  お風呂を覗く必要はなかったと思うんだけど」

コエムシ「覗きとドラクエは、ジェントルマンの生きがいですからフヒヒ」

憂「もういいから、帰ってよ!」

 私はコエムシに枕を放り投げた。
 枕が当たる前に、コエムシは瞬間移動して、部屋から出て行った。

 私が息を荒くしていると、お姉ちゃんが拍手した。

唯「憂、おめでとう」

憂「え、何が?」

唯「最初のパイロットに選ばれるなんて、凄いことだよ」

憂「そうかな……?」

唯「そうだよ。憂は、私の自慢の妹だよ」

 自慢の妹。
 そう言われるたびに、胸が苦しくなる。

 なぜなら、私は――。

 お姉ちゃんと、血がつながっていないのだから。

 そう。
 私は、お姉ちゃんの本当の妹ではない。

 平沢憂という人間は、ちゃんと存在していた。
 平沢家の次女として生まれ、病院で医師に取り上げられ、
 出生届もちゃんと市役所に受理されている。

 もちろん、お姉ちゃんも、平沢家の長女として生まれた。

 違うのは、私なのだ。
 私は、本当の平沢憂ではないのだ。

 そのことを知ったきっかけは、中学のときの献血だった。
 親から教えられていた血液型と、本当の血液型が一致しなかったのだ。

 私は、その結果の方が間違っているのだと思い、もう一度病院で血液型を確かめてみた。
 母子手帳も確認した。

 やはり、二つの血液型は、違っていた。
 それどころか、私の両親の血液型からは、決して生まれない型だったのだ。

 私は両親を問い詰めた。

 そして、本当のことを教えてくれた。

 お姉ちゃん――私がずっと、自分の実の姉だと信じてきた平沢唯は、幼い頃に、自分の妹
 ――本物の平沢憂を、殺してしまったのだ。

 あまりにも小さかった頃の話で、しかも事故のようなものだったらしく、
 お姉ちゃん本人は、そのことをまったく憶えていない。

 幼い我が子を殺人者にするわけにはいかない。

 そう考えた両親は、本物の平沢憂をこっそりと埋葬し、
 孤児院から平沢憂にそっくりな子供を誘拐してきたのだ。

 それが私。

 私は、お姉ちゃんの本当の妹の身代わりとして、十数年間育てられてきた。

 その事実に私は打ちのめされた。
 それまでの私のアイデンティティは粉々に打ち砕かれ、新しい私が生まれた。

 私は、お姉ちゃんのためだけに存在するのだと。

 お姉ちゃんを守るために生かされているのだと。

 お姉ちゃんが私の世界の全てであり、神なのだと。

 そう信じる私が生まれた。
 そうとでも思い込まなければ、本当に気が狂うところだったのだ。

 いや、もしかすると、本当に、もう気が狂い始めているのかもしれないが。

憂「ねえ、お姉ちゃん。まだ起きてる?」

 私は、隣のベッドに眠る、私の神に話しかけた。
 ベッドの脇の電灯はつけていたので、お姉ちゃんの顔を見ることはできた。

唯「起きてるよ?」

 お姉ちゃんは目を開いて、私を見た。

憂「私、お姉ちゃんを守るために、立派に戦ってみせるからね」

唯「憂。それは違うよ」

憂「え?」

唯「私のためだけじゃなくて、みんなのために戦うんだよ。
  だって、ココペリさんみたいに負けちゃったら、この地球が滅びちゃうんだから。
  そしたら、お父さんもお母さんも、澪ちゃんもりっちゃんも、ムギちゃんものどかちゃんも、
  あずにゃんも――そして、憂。憂だって、死んじゃうんだから」

 お姉ちゃんは眩しい笑顔を浮かべて言った。

憂「私が死んだら、悲しい?」

唯「当たり前でしょ!」

憂「そう……。そうだよね」

 私は、お姉ちゃんの本当の妹ではない。
 でも、妹として育てられて良かった。
 そう思った。

 真実を知ったら、きっと、心優しいお姉ちゃんは、苦しむだろう。
 私は偽者だけど、だけど……お姉ちゃんが苦しまなくても済むように、
 一生、本物のふりをするつもりだ。

 献血は、日本では十六歳からだけど、海外ではもっと幼くてもできる。
 父の海外赴任先に遊びに行ったときに、気まぐれで献血しようなんて思わなければ、
 今、こんなことで悩むこともなかったのだろう。
 私は、他の人たちよりも一足早く、大人になってしまったのだ。

 だから、高校生になったとき、私達はもう一人前で、自分達で何でもできると思っていた。
 特に、私の場合は、両親が家を留守にしがちで、
 幼い頃からお姉ちゃんと二人きりだったから、余計にそういう意識が強かった。

 私がお姉ちゃんの面倒をみなければならない。
 なぜかは分からないけど、昔からそう思っていた。

 その理由を自覚した今、私は、お姉ちゃんのためなら、私は何だってできる。

突然、電灯が消えた。

 そう思ったのは錯覚だった。
 気が付くと、私は、あのロボットのコックピットにいた。

憂「え? ここは?」

 私は辺りを見回す。
 パジャマ姿のお姉ちゃん、澪さん、律さん、のどかさん、梓ちゃんがいた。

律「何で急に呼んだんだよ! やっと眠ったところだったのに!」

コエムシ「敵が現れました」

澪「ムギがいないみたいだけど……」

コエムシ「あなた方が、紬さんには秘密にしておきたいみたいでしたので、空気を読みました」

律「でも、澪は、契約してないのにいるじゃないか」

澪「私は……」

コエムシ「その辺も、空気を読みました。さあ、時間がありませんよ。
      とりあえず、皆さん、自分の椅子に座ってください」

 円形に並ぶ椅子。これが、私たちの操縦席なのか。
 私の椅子は――。

憂「ねえ、私の椅子は、どれ?」

 円を作っている椅子の中に、これが私の椅子だと確信できるものはなかった。

コエムシ「さあ。私にも分かりませんが、
      他の皆さんは、見覚えのある椅子があるでしょう?」

 確かに、他のみんなは、もう自分の椅子に座っている。
 契約していないはずの澪さんの席まであった。

 残っているのは、二つだけだった。

 軽音部の部室に置いてある椅子と、見たことがないデザインの、古びた小さな三輪車だった。

 おそらく、軽音部の部室の椅子は、紬さんのものだ。

 とすると、この小さな三輪車が、私の椅子なのだろうか?

 ……まさか。そんなわけがない。

 私は、軽音部の部室の椅子に座った。
 これといって馴染みのない椅子だったが、私はお姉ちゃんが大好きだから、
 無意識のうちに、お姉ちゃんが座っている椅子を想像してしまったのかもしれない。

 そう思い込むことにした。

憂「それで、敵は、どこ?」

 そう尋ねながらも、私は、三輪車が気になって仕方がない。

 赤い小さな三輪車。随分と乱暴に扱われていたらしく、塗装が剥げかかっている三輪車。

 それに、私の座った椅子が、ココペリのように円の中心に移動しないことも気になる。
 これではまるで、この椅子が私の椅子ではないみたいだ。

コエムシ「敵はあれですね」

 山の中腹に、蛇――のようなものがいた。

 異様なほど巨大で、長い蛇だ。

 昔、お祭りの屋台で買ってもらった、クネクネ動く蛇のおもちゃを馬鹿馬鹿しいほど拡大すると、
 あんな感じになりそうだった。

 よりによって、私の敵が蛇とは。

 古来より、蛇は神の使いとして人々に崇められていた。
 足を持たない長い身体や、毒を持つこと、脱皮をすることなどから、
 蛇は、死と再生の象徴だったのだ。

 死と再生。

 何て私に――平沢憂に、ぴったりの相手なのだろう。

唯「でも、戦う場所が人里離れた山の中でよかったよね。
   これが街中だったら、家を壊したり車を踏んだりしそうで、戦闘なんかできなかったもん」

 こんなときだというのに、お姉ちゃんは他人のことばかり心配している。

和「もしかして、このロボットって、私たちがいる場所に現れるの?」

コエムシ「その通りです」

律「ってことは、もしも私達がパイロットだったら……」

 律さんが青ざめた。
 あれ? 他の人たちは、私がパイロットだって知ってるのか。
 たぶん、コエムシが教えたのだろう。

和「とりあえず、敵がヘビ型ロボットなら、動きを封じるのが先決だと思うわ」

憂「分かりました」

 のどかさんの助言どおりに、私はヘビを捕まえようとした。
 しかし、このロボットには指らしきものがないので、
 捕まえようと思うと、手の先で突き刺すしかない。

 その度に、ヘビは身をくねらせ、避けてしまう。
 山の中なので、足場が悪く、この人型ロボットでは素早く動くことができないのだ。

 そういう意味では、地の利は向こうにあった。
 ヘビのような形なら、どんな足場でも敏捷に動くことができるのだ。

憂「ああもうっ! 捕まらない!」

 焦って刺したのが失敗した。
 人型ロボットの腕は、山肌に深く突き刺さった。

 ヘビ型ロボットは、ずっとそれを待っていたのだろう。
 山肌に突き刺さった腕を、這い登ってきたのだ。

澪「気持ち悪い……」

和「振り払って!」

 言われるまでもなく、私は腕を滅茶苦茶に振り回した。

 ヘビが宙に浮き、鞭のようにしなるが、腕から引き剥がすことはできない。

憂「どうすればいいの!?」

和「ヘビの尾を踏んでから引っ張ればいいのよ!」

 言われてみるとその通りだった。
 私はヘビを地面に叩きつけ、尾の方を踏んだ。

 そこに隙が生まれた。
 私がヘビの尾に気をとられているうちに、頭が動いていた。

 死と再生。

 先ほど自分が考えたことを改めて思い出す。

 ヘビが死と再生の象徴である理由は、脱皮をすることと、毒があることなのだ。

 私は、確かに尾を踏んでいた。
 しかし、それすらも、相手の計算どおりだったのだろう。

 ヘビが脱皮をした。

 私が踏んだ尾は、皮(薄い装甲)だけを残して、すり抜けていった。

 一方、ヘビの頭が、胴体に噛み付いた。

 そして、ヘビには、毒があるのだ。

唯「憂! 上!」

 お姉ちゃんの声で、天井を見上げる。
 外の風景を映し出していた天井に、亀裂が入った。

 思いがけない事態に、私は呆然と天井を見ることしかできなかった。

唯「憂いいいいいいっ!」

 お姉ちゃんが叫びながら、私を突き飛ばした。

 受身をとることもできずに床に叩きつけられた私は、吐きそうになった。
 しかし、自分の身体よりも、お姉ちゃんの身体の方が心配だった。
 気絶しそうになる身体に鞭打って目を開けた私が見たのは、悪夢のような光景だった。

 ヘビの毒――分かりやすく言えば、このロボットの胴体を溶かした溶解液のようなもの――
 が、お姉ちゃんの両足に降りかかっていた。

 何かが焦げるような音がして、お姉ちゃんの足から湯気が上がっていた。嫌な臭いも届く。

憂「あ――」

 お姉ちゃんが。

 私が守ろうとしたお姉ちゃんが。

 私の神であるお姉ちゃんが。

 私を、救った。私を助けるために、自分の身体を犠牲にした。
 お姉ちゃんに突き飛ばされなければ、あの溶解液は私に当たっていたのに。

憂「嫌ああああああああああああああああああっ!」

 私は子供のように泣き叫んだ。
 お姉ちゃんにすがりつき、足から溶解液を素手で取り除こうとする。

憂「駄目! 駄目! 駄目えええええ!こんなんじゃ歩けなくなっちゃうよ!
  私のお姉ちゃんがお姉ちゃんがお姉ちゃんがああっ!そんなの駄目駄目駄目駄目!
  あげるから! 私の足をあげるから!何本でも好きなだけあげるから!
  だからお姉ちゃんを助けて!」

 私は両手を無茶苦茶に振り回して、お姉ちゃんの足から毒を取り除こうと半狂乱になっていた。

 その動きが、人型ロボットにも伝わり、無意識のうちにヘビを振り払うことができていた。

 しかし、私は敵なんかどうでもよかった。
 地球なんか滅んでもよかった。
 人間なんかみんな死んでも構わなかった。
 でも、お姉ちゃんだけは無事でいてほしかった。

唯「憂――」

 お姉ちゃんは苦悶に満ちた表情をしながらも、優しい声を出した。


唯「憂が無事で、本当に良かった」


 その言葉を聞いた瞬間、私の中で、何かが壊れた。


 私は今まで、何かを勘違いしていたのではないだろうか。

 私がお姉ちゃんを大切だと感じているのと同じように、
 お姉ちゃんも、私を大切に思ってくれていたのではないだろうか。

 だとしたら、私が死んでもお姉ちゃんを助ける、なんて言っても、
 お姉ちゃんが喜ぶはずがなかった。

 私は今まで、そんなことすら分からなかったのだ。

 お姉ちゃんのために梓ちゃんと友達になって軽音部に入部するように誘導したり、
 お姉ちゃんが望むような理想の妹を演じたりしてきた。

 でも、お姉ちゃんは、それで本当に嬉しかったのだろうか。
 それで本当に幸せだったのだろうか。

 今回の合宿に私を誘ってくれたのだって、お姉ちゃん本人が楽しむためではなく、
 私を楽しませるものだったはずなのに。

憂「お姉ちゃん――」

 だとしたら、私が言わなければならない言葉は、

憂「ありがとう。みんなを守るために、私、頑張るよ。
  お姉ちゃんだけではなく、お姉ちゃん以外の誰かも、守れるように」

 私は再び、戦闘に意識を集中させた。

 いつの間にか、私が振り払っていたヘビは、人型ロボットの下敷きになっていた。

 ヘビのような形をしているのなら、おそらく、
 コエムシが言っていた「急所」というのは、頭にあるはずだ。

 私はレーザーを発射しながら、何度もヘビの頭を殴った。

コエムシ「もういいですよ。敵の急所を潰しました」

憂「終わった……の? 私、勝ったの?」

 部屋の隅で歓声が上がった。
 お姉ちゃんも、苦しげではありながらも、笑顔になった。

憂「じゃあ、コエムシ! 早くお姉ちゃんを病院に運んで!」

 私が叫ぶと、すぐにお姉ちゃん達の姿が消えた。

憂「コエムシ? 私もお姉ちゃんに付き添わないと――」

 その言葉の途中で、何も聞こえなくなった。
 何も見えなくなった。
 何も感じなくなった。
 しかし、私は、何も心配していなかった。
 自分の幸せが、お姉ちゃんの幸せでもあるのだと、信じていたから。


――――――第1話 平沢憂 終わり



第2話 中野梓へ 携帯用

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158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 17:20:47.01 ID:Cq93apyd0
正直、安価で次のパイロットを決めるのは失敗だったかなとも思う。

よく考えると、みんな、自分のお気に入りのキャラに死んで欲しくないんだよな。

あーあ……。
ID:lAhk3ULYOが安価とるとか嫌すぎるけど、>>154の澪にするしかないのか……。


159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 17:25:27.81 ID:efP6FqQh0
http://www.res.kutc.kansai-u.ac.jp/~murata/Labo/amida94/amida94.cgi
あみだくじ
いざとなったらこれだ
まあロシアンルーレットみたいな感じだな


160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 17:26:34.45 ID:aOMqdazY0
>>159
もうこれで良い気がする


161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 17:28:23.03 ID:Cq93apyd0
俺も>>159でいい気がしてきた。
これから先、何度もパイロット選びで揉めるの嫌だし。

予めあみだくじを作っておき、その番号を選んでもらう形式にしようかな?


164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 17:44:31.32 ID:Cq93apyd0
時間かかってごめん。

いめぴたにしてみた。

1番から6番まで、好きな番号を選んでね☆
早い者勝ち。

http://imepita.jp/20090926/637860画像


165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 17:45:38.75 ID:aS1/pmVj0



166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 17:50:58.60 ID:Cq93apyd0
2番は梓だった。

画像

じゃあ、今から続き書く。



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