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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その41

2014年04月04日 18:58

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目

436 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2013/02/07(木) 02:41:06.28 ID:J3/JFd5AO
――ミーティングルーム――

 その日、基地内では整備士達の格闘する声と作業の音が絶えず響いていた。
 本来基地施設の復旧に当てられていた人員も、全てが輸送機とMSの点検・整備に回されていた。
 此処は軍事基地、軍人が聞く音はかくあるべきと言うように、そのけたたましいまでの騒音に誰も反応を示さない。
 ただ目の前のモニターをじっと見つめ、己の役割を頭に叩き込んでいた。

マネキン「……以上が、本作戦の概要であります。」

グッドマン「……甚大な被害を被った後の、このような短期間で行える電撃戦ではないかもしれない」

グッドマン「だが我々は一矢でも報いねばならない! あの日死んでいった多くの英霊達の苦悩を、我々こそが世界の秩序を護るのだという矜持を!」

グッドマン「諸君らならば、必ずや無法の軍勢に思い知らせてやれると私は確信している」

グッドマン「今回諜報部からもたらされた情報は、今までの反国連組織の行動の中でも特に異質かつ大規模なものである!」

グッドマン「だからこそ! 奴らのこの最後の作戦を阻止しうるは、諸君ら前線の最精鋭を置いて他には無い!」

グッドマン「たった今から144時間後、作戦名【ファイアワークス】を開始する!」

グッドマン「諸君等の健闘に期待する! 以上!」

 グッドマン司令の激励に、その場の全員が敬礼する。
 軍人があらゆる想いを込める、ただ一つの礼。
 何度も作ってきたこの形が、今は重く感じてしまう。

リディ「…………」

グッドマン「解散!」

 グッドマン司令の檄が飛び、兵士達が一斉に部屋を飛び出していく。
 何せあと六日間で、大規模な電撃戦を可能にしなくてはならないのだ。
 ある者は鈍った身体を鍛え直そうとトレーニングルームへ、ある者はMSの調整の為にドックへ。 各々が為すべき事を成すために、わき目もふらずに走っていった。


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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その40

2014年04月03日 19:07

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目

394 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2012/12/12(水) 10:46:30.66 ID:WksrI/rAO
――フェレシュテ・秘密基地――


 その日は、基地全体が華やいだ雰囲気に包まれていた。
 恐らくフェレシュテ発足以来、初めてであろう正式なガンダムマイスターの来訪。
 そしてそれは、フェレシュテが当面の最重要目標として掲げていた、ソレスタルビーイングの実働部隊との合流でもあった。

エコ「…………」

シャル「どうぞ、こんなものしか無いけれど……」

ティエリア「お心遣い、感謝する」

ヨハン「有り難く頂く」

 パイロットスーツから私服に着替えた二人に、茶と菓子が振る舞われる。
 依然として予断を許さない状況ではあったが、フェレシュテも、マイスター二人も、苦境を打破する糸口を掴めたことを素直に喜んでいた。

シェリリン「えっと……紅茶は口に合わなかったかな?」

ヨハン「いや、美味しく頂いている」

ティエリア「あぁ、何か問題でも?」

ヒクサー「っっ……」

ティエリア「何がおかしい、ヒクサー」

ヒクサー「ごめんごめん、二人とも表情がピクリともしないから、フェレシュテのみんなは緊張しているんだよ」

シャル「ヒクサー!」

ティエリア「む」

ヨハン「……済まない、そんなつもりは無かったのだが」

シェリリン「気にしない、気にしない!」

シャル「えぇ、でも良かった。こうやって合流出来たのは、私達全員にとって本当に幸いなことだもの」


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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その39

2014年04月02日 19:24

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目

316 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2012/07/14(土) 23:55:41.55 ID:0CQC0aDAO
――フェレシュテ基地――

 組織とは、様々な役割を担う者がいて初めて成り立つ集合体である
 ソレスタルビーイングもまた例外ではなく、実働部隊であるトレミーとガンダム四機を支えるため、多数の支援部隊を保持している
 その中で唯一、ガンダムを有し戦力を持った支援部隊
 それがフェレシュテ、だった

エコ「フォンがガンダムを使って国連軍を急襲……!?」

シェリリン「ウソ……それじゃあフォンは【袖付き】の仲間になったっていうの!?」

エコ「そうとしか考えらんないだろう……!」

シャル「…………」

 フェレシュテには特異な人材が多数在籍している
 パイロットとしての技量はガンダムマイスターにも劣らぬが、イレギュラー要素に極端に弱い予備パイロット:エコ・カローレ
 モレノ医師が戦地で保護し、ソレスタルビーイングの組織性から一員となった、フェルトの親友でもある技術士:シェリリン・ハイド
 そして以前は第二世代ガンダムマイスターにして、フェルトの両親の同僚、フェレシュテの提唱者兼指揮者の元マイスター:シャル・アクスティカ
 此処に元テロリストにしてガンダムマイスター、フォン・スパークを加えれば、フェレシュテの全構成員となる
 数は少ないがガンダム単騎で行える程度の作戦が主軸なだけに、人員は事足りていた
 その結果、誰もフォンを抑えることが出来ず、今ではGNドライブの無い二機のMSを抱えたまま立ち往生という有り様であった

シャル「……ヒクサーは……」

シャル「連絡は無いよ。フォンがいなくなってすぐ、ガンダムを持って消えたっきり……」

エコ「アイツ信用していいのかぁ? いきなり現れて、『フォンは危険な男だ』とか言ってきてよ……」

エコ「シャルが言うからガンダムと太陽炉預けたけど、あの太陽炉だってキュリオスのなんだぜ? 万が一太陽炉を失いでもしたら……」

シェリリン「文句言わないっ! ヒクサーはシャルの昔の仲間なんでしょ? じゃあ信じるしかないじゃない!」

エコ「アイツに預けなきゃ俺がだなぁ……!」

シェリリン「作戦とちょっとでも違うと命中率0パーセントのエコ・カローレ先輩がなんですって?」

エコ「……うぐっ……」

シェリリン「えーっとぉ? 第七次適性試験、【四つあるコンテナの内一番左のコンテナから武器を取り出す】の第一工程を改変、パイロットに無断で【一番右に武器を収納】したところ武器を取り出すのに四分三十五秒もの時間を……」

エコ「わーっ! わーーっ」

シャル「……」

シャル(あれから世界は目まぐるしいまでに動いている……ソレスタルビーイングの残存部隊との合流を急がなくてはならないのに……)

シャル(フォン……あなたは何処にいるの? 私はどうすれば……)

 シャルは眼鏡を外し、潤む瞳からそれが流れ落ちる前に拭い去る
 すると、モニターに通信の印が点滅し、応答を願うとばかりに点滅を始めた

シャル「!」

エコ「通信!? フォンか、ヒクサーか!」

シェリリン「シャル!」

シャル「繋げて」

 発信対象は、ガンダムサダルスードtypeF
 ヒクサー・フェルミに預けられた第二世代ガンダム
 しかし、意外にも回線は繋がった瞬間向こう側から切断されてしまう
 皆が呆気に取られていると、メールが一通、すぐに送られてきた
 内容は、たったの一文
 しかし、三人に僅かな希望を持たせるのに、これ以上はないものであった

『ソレスタルビーイングとの接触に成功、連絡を待て』

エコ「おい……これ……!」

シェリリン「ヒクサーがやってくれたんだよ……きっとそうだよ!」

シャル「ええ……ヒクサーなら、間違いないわ」

エコ「? じゃあ何故回線を切ったんだ?」

シェリリン「それは……」

シャル「……戦っているんだわ」

エコ「え?」

シャル「彼は戦っている……私達の敵と」

 シャルは確信と共にそう呟いていた
 それは、ソレスタルビーイングの中で初めて確認されたNTの能力の残滓が感じさせたのだろうか
 だが、これで少なくともフェレシュテの存在意義は守られた
 彼等は即座に行動に移る
 物資の積載、修理に必要になるであろうパーツの選別、追加のHAROの充電に起動
 今まで彼等がやってきたことをそのまま辿るように、作業は流れるように進んでいった

 彼等は必ず帰ってくる、そう信じて
 フェレシュテは自らの職務をこなしていった


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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その38

2014年04月01日 19:31

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目

202 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2012/03/15(木) 00:44:32.55 ID:gpZcGv6AO
――――

ダリル「隊長ッ!!」

グラハム「来るな、ダリルッ!」

 二つの異なる刃が唸りを上げて目の前に迫る
 胸元を無残に抉られたフラッグでは、逃れる術もあるはずがなかった

 ダリルのオーバーフラッグが割り込み、ビームサーベルで真っ向から受け止める
 だが、一瞬の閃光と共に両腕は吹き飛ばされ、それぞれが建造物に叩きつけられ粉々に散った

グラハム「ダ……!」

グラハム「ダリル・ダァァァァッジ!!」

 崩れ落ちるフラッグ、そして立ちはだかる紅のガンダム
 脳裏に浮かんだのは、MSWAD基地をスローネが襲撃したあの日、あの時
 ハワード・メイスンが逝った、あの瞬間の映像だった

 ――割れんばかりの雄叫びと、最大出力で吶喊するオーバーフラッグ

 グラハムの咆哮と共に、二機の刃が交錯した


――紅海基地・中東側――

 元より真っ赤に彩られた装甲に、更なる朱を足したトランザムアストレア
 地に墜ちた黒き巨鳥を見下す深紅の悪魔は、半ばから砕かれたフェイスカバーを自ら剥がしガンダムヘッドを露わにする

874『フォン、トランザムの限界時間到達までカウント30』

フォン「あげゃ、思ったよりかかっちまったか」

フォン「撤退する。高度を維持すりゃ粒子不足を叩かれる心配も無いだろう」

874『よろしいのですか? オーバーフラッグスは全機健在ですが』

フォン「どうでもいい、手土産があれば十分だ」

874『了解』

フォン「まぁ、俺様のガンダムに傷をつけたのはまあまあだと誉めてやるか」

フォン「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!」

 二機の間に転がるビームサーベルが、光を失う
 見下されたフラッグ、左腕は引きちぎられアストレアの手の中にある
 他のオーバーフラッグスもまた手酷く傷つけられており、無傷なのはマリーダ機と、たまたま離れていたリディ機のみであった

マリーダ「ッ!」

フォン「おっと、今更強化人間とやり合う趣味はない!」

マリーダ「逃げるか、ガンダムッ!!」

フォン「そう睨むな……勝敗は決している」

フォン「あばよ、フラッグファイター! あげゃげゃげゃげゃげゃげゃッ!!」

 超速で去りゆく背中を見つめ、グラハムは血が滲むほどに強く、唇を噛み締める
 じわり、じわりと、敗北の味が口一杯に広がっていった

グラハム「見逃されたと……いうのか……!?」

ジョシュア『ダリル! 返事しろ、おいッ!』

グラハム「ッ!?」

リディ『くっ、ダリルさん! 隊長!!』

マリーダ「マスター、ダリルが……!」

グラハム「ダリル!」

 敵はガンダムの突入と同時に撤退、既に目視範囲には一機たりとも姿は見えない
 そのことからもあのガンダムが反国連軍に関わっているとは言い難い……と、後に判断したのはカティ・マネキン大佐であった
 たった一機のガンダムに壊滅的打撃を受け、ただ無様に見送るしかない
 それが今のグラハムの、オーバーフラッグスの現実だった

グラハム「ダリル、私を庇って……!」

ヴィクトル『衛生兵……衛生兵はまだか……!』

ジョシュア『ダリル、ダリィィル!!』

 圧倒的な性能に叩き潰され、膝を屈し、地を舐め這いつくばって
 悠然と背を向けられ、追うことも出来ず、矜持を目の前で踏みにじられて

グラハム「何が……」

グラハム「何がフラッグファイター……!!」

 たった数分の出来事に打ちのめされ、思い知らされた

 ――彼等は、空を取り返せてなどいなかったということを


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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その37

2014年03月31日 19:31

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目


111 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2012/01/10(火) 01:23:21.60 ID:OymKfUeAO
――基地内――

 跳ね上げられたRGMの胴体が、仮設住居に叩きつけられる
 下半身を伴わないそれはスパークと共に燃え上がり爆発、辺りに破片と粒子を撒き散らす
 業火に照らし上げられたそれは、それが何でもないことのように佇んでいた

マリーダ「っ……!」

 オイルを払うかのようにクローアームを軽く振るう、新型のMS
 その腹部から紅い粒子の光が迸る度、一本の線が破壊を伴い基地をなぞっていった

 塵に変わる建造物
 悲鳴さえ上げられず消えていく命

 その火力は、まさに圧巻

 流石に【デカブツ】と揶揄されたガンダムには及ばないものの、現行MSを圧倒し、警備の目を釘付けにするには十分過ぎる一撃であった

ダリル『反応がどんどん上がってきやがる……!』

ジョシュア『来るぜ、奴らが来る!』

 吹き上がる幾多の水柱、淡い水色の中から姿を現したのは、鉄の色そのままの円柱状の物体

 二十ほどの打ち上げられた物体は小さな爆発音と共に四つに分割
 まさに脱皮するかの如く、AEUイナクトが宙へと舞い上がった

リディ「た……隊長……!」

グラハム「…………」
112 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2012/01/10(火) 01:30:43.99 ID:OymKfUeAO
 国連軍の誰もが唖然としているうちに

 基地の司令部が呆けて口を開けているうちに

総勢二十三機のMSが、基地のすぐ真横に現れ、部隊を展開し突撃を敢行していた

 それはもはや、実体を伴う暴風

 一度飲まれれば、命は無い

 その場にいた誰もが、彼等に背を向け逃げ出した

 軍人も、非戦闘員も、皆誇りも矜持もかなぐり捨てて逃げ出した

 逃げる背中に撃ち込まれていく弾丸

 それは、目に映るもの全てに手当たり次第撃ち込む、文字通りの虐殺

 基地の至る所にミサイルが叩き込まれ、有象無象問わず焼き尽くしていく

 一つ、また一つとMSが膝をつき、命が消えていく

 【戦争】が、目の前で行われていた

リディ「隊長ッ!」

グラハム「黙れッッ!!」


 その様子をグラハムは……いや、オーバーフラッグスは微動だにせず見つめていた

マリーダ「……ッ……」

タケイ「……」

グラハム「…………」

グラハム「オーバーフラッグス全隊員、傾注」

 静かな声が無線に響く合間も、彼等は怒りを沸々とたぎらせていく
 今にも爆発しそうな感情のたかぶりを抑えることなく、憤怒に表情を染め上げ操縦桿を握り締めた

グラハム「往くぞ」

グラハム「奴らが誰に喧嘩を打ったのか、思い出させてやれ……!」

『了解』
113 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2012/01/10(火) 01:35:33.36 ID:OymKfUeAO
 重力を切り離し、一斉に舞い上がる八つの黒い翼

 加速は、一瞬で事足りた

 巻き起こる黒い陣風が、暴風へと真正面から突き当たる

 巡航形態の四機が左右半々に分かれ、前面を構成
 MS形態のフラッグが二列縦隊を組み、それに続いた

グラハム「ッ…………!!」

マリーダ「つぅっ……!」

 最大加速、唯一リミッターを外された二機が突出する

 翼を携えた一角獣と剣のマーク、敵機にその正体はすぐに知れ渡った

 一斉に向けられる銃口にも、襲いかかる数百の弾丸にも怯まない二人

 優位に立っていた敵軍の怯みが、波となって伝わっていく

グラハム「マリーダッ!」

マリーダ「了解!!」

 隙を狙い、即座に二機は空中変形を開始する
 最大戦速からの空中変形、【グラハムスペシャル】

 空気抵抗を利用しての急速な上昇、一気に射線から離脱した

グラハム「おおおぉぉぉぉぉぉッッ!!」

 一閃、袈裟に振られたビームサーベルが、イナクトを両断する

 このままラインを押し上げ、体勢を立て直す時間を稼ぐ――危険はもとより承知の上だ
 それさえこなせれば、数の上では若干優勢
 しかしあの新型MSの前ではそれも過信は出来ない

 万全を期し、最善を尽くす
 戦友に背を預け、想いを共にする者と同じ場所を見据え、ただ前に突き進む

 グラハムは、その眼差しに一片の恐怖も宿さず、敵陣の真っ只中に飛び込んだ

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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その36

2014年03月30日 18:50

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目


56 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2011/12/09(金) 03:16:04.46 ID:x6ZGLcOAO
――紅海・中東側沿岸――


 アフリカ大陸と中東の境を流れる紅海
 両方の沿岸一帯には国連軍の警備網が敷かれ、GN―XにRGM、イナクトといったMSが辺りを飛び回っている
 少し小型の空母がゆっくりと南下していく様を、じっと見つめる男が一人
 体の向きはそのままに、背後の兵士へと視線を移した

兵士「少佐、準備が整いました」

グラハム「御苦労」

グラハム「予定通り四隊に分かれサイクロプス及びヅダの捜索を行う、警戒は怠るなよ」

兵士「はっ!」

グラハム「……」

 額に滲む汗が、乾いた空気にさらわれていく
 この感触は以前中東にガンダムを追ってきたときに体験していた為、特には難儀もせずにいた
 苦労しているのは、ジョシュアくらいのものだろう

グラハム(絶好のフライト日和……晴れ男に生まれたことを、これほど嬉しく思ったことはない)

 本来パイロットスーツには調節機能が存在し、如何なる環境でも一定の体温を維持するようになっている
 暑ければ涼しく、寒ければ暖かく。四六時中パイロットスーツでも良いくらいの快適さが約束されるのだ
 しかしながら、その不自然さが好きになれず、自分はこの機能を使わないことが多かった
 盟友カタギリの苦い顔が目に浮かぶようで、つい口元がつり上がってしまう

マリーダ「マスター」

グラハム「マリーダか」

 対して、マリーダはいつもの冷静な表情を崩さず横に立っている
 二人の背後にはオーバーフラッグス、そしてRGMとイナクトの混成四個部隊
 出撃を今か今かと待ちわびていた

グラハム「……壮観だな」

マリーダ「はい、マスター」

 マリーダは頷き、メットを左から右に持ち替える
 僅かに距離が縮まる、自然なことだがつい背筋が伸びてしまうのを感じた
 彼女は直後に少し顔を伏せ、言葉を続けた
 憂いを帯びた顔には、えもいわれぬ艶が宿って見えた

マリーダ「ですが、やはりオーバーフラッグスを分けるのには少々不安が残ります」

グラハム「……懸念はもっともだと言わせてもらおう」

グラハム「此処はもう敵地、目立つオーバーフラッグが各個撃破される可能性も少なくはない」

マリーダ「……」

 これは、捜索部隊を編成する段階から危惧されていたことだ
 現状オーバーフラッグスがサイクロプスに並べるのは、決して個々の実力だけではない
 高い技量により徹底される新たなフォーメーション戦術、つまり空中変形戦術にあるからだ
 各個撃破を狙われる可能性は、十二分にあった

マリーダ「グッドマン司令からの要望とはいえ、やはり混成隊は我々には……」

グラハム「……どう足掻いても不安は拭えん、それは事実だ」

グラハム「だが今回、各部隊のイナクトにはGN粒子散布下においても電子戦が可能な偵察タイプを配備してある」

グラハム「発見が早ければ、いかにサイクロプスとてオーバーフラッグを易々と落とせはせんよ」

マリーダ「……はい」

グラハム「早期決着による地盤固めが優先とする司令の考えには、私も賛成だ」

グラハム「やるしかあるまい。他ならぬ我々の手で、な」

グラハム「マリーダ、今回部隊は分かれるが、目的が目的だ」

グラハム「あのときの約束。忘れるなよ」

マリーダ「了解、マスター」

 メットを装着し、フラッグに乗り込む
 機能を復活させた瞬間、全身を清涼感が包み込んでいく
 むずがゆさに声が出そうになりつつも、耐え切って無線を開いた

グラハム「……全部隊に通達する!」

グラハム「混成一番隊には私、グラハム・エーカーとリディ准尉が就く!」

リディ『了解です!』

グラハム「二番隊にはマリーダ・クルス中尉とダリル・ダッジ少尉!」

マリーダ『宜しく頼む』

ダリル『頼むぜ、RGM!』

グラハム「三番隊にはジョシュア・エドワーズ少尉、アキラ・タケイ少尉!」

ジョシュア少尉『足引っ張んなよ、ひよっ子諸君?』

タケイ『……』

グラハム「そして、四番隊にはヴィクトル・レオーノフ大尉とルドルフ・シュライバー少尉両名が加わる!」

ヴィクトル『……』

ルドルフ『世話焼かせるなよ、新型』

グラハム「いずれも腕には自負のある精鋭だ、好きなだけ頼れ!」

ジョシュア『ガキのお守りは御免だぜ』

ルドルフ『ふん……』

マリーダ『お前達……』

リディ(頼らせる気ねえ……)

グラハム「全部隊、1200より予定されたルートを通り索敵に入る」

グラハム「目標、サイクロプス及びヅダを発見した場合即座に全部隊へ連絡、もしくは照明弾による合図を以て知らせろ」

グラハム「敵MSは全て加速力に秀でた太陽炉搭載機、一瞬の油断が死を招くと思え。いいな!」

 総勢二十を越えるMSパイロット達からの、一斉の返答
 耳をつんざくような音量に心地良い痛みを覚えた

 予め各部隊の兵士には、それぞれあてがったオーバーフラッグスの面々と顔合わせをさせてある
 マリーダが女性だからと侮られるようなことがないようにとの配慮だったが、同時に士気も高まっているようだった

グラハム「ミッションタイムクリア、行くぞ」

リディ『了解、いつでもどうぞ!』

 大地から離れ、大空に舞い上がるフラッグ
 それに続きMS部隊も次々と動き出す
 散開し、それぞれが目指すルートへと飛翔していった

グラハム(しかし、不気味だ)

グラハム(彼等はあれ以来、何の行動も起こさない)

グラハム(GN―Xの回収も、まるでそれが本命ではないように淡白なものだった)

グラハム(やはり、策を擁しているのか……?)

 そんなことを考えている内に、地表は遥かに遠い足の下
 眼前には何処までも広がる空、右手には茶褐の大地、左手には母なる海が悠然と広がっている

グラハム「…………」

 世界の全てを手に入れたような錯覚
 一瞬とはいえ任務を忘れ吐息を漏らす
 やはり、空は良いものだ

リディ『隊長、良いもんですね。空は』

グラハム「ん……あぁ、全くもってその通りだと肯定させてもらおう」

リディ『俺、フラッグファイターで良かったですよ』

グラハム「ふふっ、いきなりどうした?」

リディ『ほら、最近ティエレンが空飛ぶのに成功したらしいじゃないですか』

リディ『どうせ飛ぶなら、やっぱり飛行機じゃなきゃ。俺には人型よりこっちです』

グラハム「ふふ……人革連のお偉方に聞かれないようにな、フラッグファイター」

リディ『このまま、何もかも忘れてずっと飛んでいられりゃあ……どんなにいいか』

グラハム「そうもいかんさ。我々には我々の使命がある」

 昔の自分ならリディの言葉に同意していたかもしれない
 だが今は違う、と心の内で呟いた

グラハム「アルファ3、反応は」

『今のところは確認出来ません』

リディ『捕まりませんね。やはり地上にはいないのかも……』

グラハム「……だとすると憂慮すべき事態だな、我々のフラッグにとってはそれが一番の気掛かりとなる」

 折り返しポイントで旋回、世界が横に傾くのを眺めながら規定ルートを消化する
 先ほどは背に、そして今は目の前に現れた紅海
 数千年変わらぬ悠久の流れを見つめながら、重い気を息にのせて吐き出した

グラハム「……奴らは海の中、か」


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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その35

2014年03月29日 19:10

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目

12 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga frontier]:2011/11/28(月) 23:59:47.31 ID:SdcGx20AO

 人里から離れた、山の奥

 堅く閉ざされた鉄の扉が、ゆっくりと開かれていく

 震える足で歩を進め、目の当たりにしたのはこの世の地獄

 吐き気を抑えることが出来ず、何度も手水場に駆け込んだ

 嫌悪と憤慨に蝕まれつつも、進んだ先に彼女はいた

 狂気と悪夢に蝕まれ、欲望と悪意に体も心も食い尽くされて

 それでも尚、彼女は息をしていた、生きていた

 生気を宿さぬ人形のような眼で見つめられ、差し出された小さな手

 少し力を込めたら折れてしまいそうな、その手を握ったとき

 決心した。彼女を守るのは、自分の責務なのだと



「許してくれとは言わない――」

「全ては知らなかった……私達の罪だ」

――It's all in the past.――



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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その34

2014年03月28日 18:55

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

919 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2011/11/23(水) 01:07:55.88 ID:Hcc31S6AO
――スイール・市内――

デュバル「……ッ」

燃え盛る街、逃げ惑う人々。目を向けないように意識しても、かえって視線はそれらを辿ってしまう
テストパイロットとして戦場を知らぬ訳ではないが、胸糞の悪い光景だと心中で毒づいた

クワニ『動けるか!? ……よし、いい子だ!』

GN―Xに接触通信で話している声が聞こえる
声などの感じから、向こうのパイロットは酷く怯え、萎縮してしまっているのが何となしに感じられた
クワニのギラ・ドーガがGN―Xを脇に抱えるように支えながら飛ぶ
自分のヅダとアイバンのギラ・ドーガが後方からの敵機に弾幕を張り、離れる
退却はスイールと国連軍の話し合いが終わらない内に済ませねばならない、時間との勝負だった

デュバル「左をカバーしてくれ、飛び込まれたら酷だ」

アイバン『了解です!』

GN―Xを子画面に映し、拡大した
彼等が行動を起こしてからすぐに突入した筈だが、その左腕は肩から切断され、バーニアや装甲には無数の損傷が生々しく残っている
人間に喩えれば、まるで野生の猛獣に飛びかかられたかのような重傷であった

デュバル(即座に帰還していれば、無傷のGN―Xを三機も手に入れられたものを……)

当初の連絡には三機と報告されていたのに、結果二機が撃墜され、一機はこの有り様
やはり狂信者に期待など、出来るはずもない
生還した本人を前にしても、改めてそう思った
市街を抜け、砂塵散る荒野に飛び出す
追っ手は数機、いずれもRGMで、一定以上の距離をつかず離れず追跡してきていた

デュバル「ヤザン・ゲーブルは……いないか」

話には聞いていたが、やはり恐ろしい男だった
自分等が合流した時には、既にGN―Xを一機撃墜され、もう一機は袋叩きにあっていた
もう一機からは何とか引き離したものの、退き際に三機目のGN―Xが強襲され、結果撃墜
頭部を破壊された機体では、対応のしようすらなかっただろう
ヤザン・ゲーブルの判断は確かに早かった
それでも何か手は打てなかっただろうかと思ってしまい、悔やんでも悔やみきれなかった

デュバル(我々が合流してから、イナクトでは勝てないと踏んだのだろう)

デュバル(リカバーも完璧……こちらのリターンも最小限に抑えつつ反撃の隙さえ与えない見事な判断力)

デュバル(あれがもう一人のライセンス持ち……とんでもない男が敵に回ったものだ)

イナクトで太陽炉搭載機を圧倒する技量もさることながら、兵士として一番重要な判断力と決断力、度胸も兼ね備えている
何度か相対したグラハム・エーカーとは、似通っていながらも違う何かを感じさせる存在であった

デュバル「厄介なことには変わりない……がな」

アイバン『少佐、前方二時十時方向、敵機!』

デュバル「やはり来たか……!」

望遠モードのモノアイが、敵機を捉える。
元々状況はかなり悪い
少数で飛び込み、GN―Xと合流しつつ半ばその力を頼り敵陣を突破するのがキャプテン・ジンネマンのプランだったからだ
それが半壊のGN―Xを抱えながらの逃避行となれば、知恵の輪が制限付きダミー満載の爆弾処理に変貌したくらいの差があるだろう
だが危機感はさほど感じられなかった
ヅダと共にいる、それが自らに力を与えてくれているようで、自然に笑みが浮かんだ

デュバル「突破するぞ、ついて来い!」
ヒートホークを抜き、マシンガンを構える
ギラ・ドーガとヅダでは性能に差があるものの、GNドライブと土星エンジンの親和性はそれを埋めてあまりあるものだ
街のことは忘れろ。ヅダが燃やしたわけではない
今まで通り、闘いの中でヅダの存在を証明する。それしかないのだ、そう自分に言い聞かせペダルを踏み込んだ

デュバル「ライセンス持ちでもない端役では、些か物足りないがな」

デュバル「退いてもらおう――私とヅダの道からッ!」

まだ死ねない。ヅダの名を永遠不動のものにするために
湧き出す雑念に眉をしかめながらも、ただただ前へと突き進んだ
           ・
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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その33

2014年03月27日 17:52

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

755 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/09/23(金) 01:00:58.11 ID:lgEFb8UAO

爆炎が大地を灼き、黒色の炭塊と変わり果てたMSの残骸がそこかしこに転がっている

エジプトを背後に控えた、中東最後の激戦
一進一退の攻防が、ゲリラ連合と国連軍の間で繰り広げられていた

クワニ『クソッ、右見ても左見ても敵だらけだ!』

アイバン『馬鹿野郎、前見ろ前!』

連なる敵MSのうねりは地平線の先まで続いている
飛び交う砲弾と怒号、かろうじて逃げてきた味方のMSが流れ弾に当たり火花を噴きながら次々に地に伏していく
圧倒的な物量、逃げ場など何処にもない

ジンネマン「畜生がぁ!」

腹部を貫かれ動かなくなったGN-Xを盾のように使い、RGMの猛攻を凌ぐギラ・ドーガ
背後では脚をやられたヘリオンを抱え、アンフがゆっくりと退路をひた歩いている
粒子弾を吐き続けるGNビームマシンガンの銃口は、今にも溶けそうなほどに赤熱していた

デュバル「ヅダを嘗めるなぁ!」

対艦ライフルから放たれた135mmの弾丸が、盾を貫徹しRGMを胴体から真っ二つに吹き飛ばす
明らかなオーバーキル、RGM混成部隊の動揺は降り注ぐ弾幕の揺らぎで判別できた
猛攻に対する激しい抵抗、ジンネマン隊の活躍も加味され最終防衛ラインは小揺るぎもしなかった
しばらくして少しずつ弾幕が減っていき、やがて身を翻し撤退を開始するRGM部隊

これ以上の被害は無意味だと判断したのだろう
勝利と呼ぶにはあまりにも酷な結果に終わったこの戦い
だが多大な犠牲を払って、ようやく凌ぎきったのだった

ジンネマン「はぁッ……はぁッ」
756 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/09/23(金) 01:08:04.07 ID:lgEFb8UAO
肩で呼吸をし、吹き出す汗を拭う
モニターに写る友軍機は四機、どうやら宇宙組は全員生き延びたようだった

デュバル「キャプテン、どうにか正念場は乗り越えられたようだな」

ヅダは空になった弾倉を投げ捨てながら、モノアイをしきりに動かし警戒する
旧型規格とはいえ流石はGNドライブ搭載MS、その装甲に大きなダメージは見当たらなかった

ジンネマン「あぁ……だが、死んだよ。何人死んだか分からないくらい、沢山な」

デュバル「無償で何とか出来た戦場ではない……気に病むな」

ジンネマン「……」

デュバル「敵も大部隊だ、移動に時間がかかりしばらくは攻めて来まい」

デュバル「行こうキャプテン。我々も撤退だ」

ジンネマン「……そうだな」

ヅダが気を残すようにモノアイを上げた
空を見上げれば、黒い機影が禿鷹のように旋回し此方の様子を伺っているのが見える

ジンネマン「オーバーフラッグス……」

今回も散々戦場を引っ掻き回してくれた猛禽の群、しかしついぞ彼らと刃を交えることはなかった

クワニ『この激戦でも、一回もぶつかりませんでしたねアイツ等とは』

ジンネマン「分かってるのさ。俺達が真っ正面からぶつかれば、双方半数以上が確実に死ぬことをな」

ジンネマン「奇襲による完全勝利を狙うか……グラハム・エーカー、噂とは随分違う戦い方をする」

アイバン『厄介ですね』

ジンネマン「あぁ、いざという時まで自分を殺せる奴は強い」

ジンネマン「猪突猛進な方が付け入れるってもんだが……さて、どうしたもんかな」

ジンネマン「また考えるさ……今は、大佐からの指示を待とう」



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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その32

2012年04月23日 22:49

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

696 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/09/01(木) 00:06:37.33 ID:7ugFIpTAO
――クルジス――

砂塵舞う地表は薄いカーテンがかかったように褐色に染まる
国連軍、反国連軍の区別無く
それは容赦なく吹き付けて、装甲に爪を立てる音を響かせた

ゲリラ兵士『……来たぞッ!』

反して空は透き通るような蒼を湛え、旧式のカメラアイでも遠方までを見据えられた
各地で爆炎と轟音が響き渡り、戦いの激しさを物語っている
対空型ティエレンのパイロットが小さく叫び、部隊に緊張が走る

見えたのだ

獲物を喰らわんと一直線に空を駆ける、黒い獣の姿
今彼等が相対する国連軍、その最高戦力と呼べる存在が

ゲリラ兵士『近付けるなよ! 変形されたらおしまいだッ!』

後方から巡航形態のヘリオン、リアルドが飛び出していく
地上部隊も自らの指を引き金に掛け、照準は獣をセンターに捉える

固唾を飲むかのように、砂塵が吹き止んだ
黒い獣は一斉にその身を飛び散らせ、二つの影、三つの飛燕へと分散していく

それを目視してすぐ、一斉に地上部隊の対空放火が放たれ、空は弾丸で埋め尽くされる

ヘリオン、リアルド混成部隊が空戦を仕掛けんとぶつかっていく
しかし、飛燕は反撃もせずその合間を縫って抜けていく

その瞬間、三つに分けられた部隊の先端、三機のオーバーフラッグが四肢を大きく投げ出し同時に変形した

ゲリラ兵士『うわぁぁぁぁぁ!』

空気抵抗をわざと受け、地面に頭を向けたまま宙に浮くフラッグ
他の三機が前に出て、地上からの対空放火に牽制の射撃をバラまく
変形したフラッグから、通り抜けた空戦部隊へリニアライフルが浴びせられる
背後から弾丸を受けたヘリオンらは、一機、また一機と煙を上げ墜落していった

ゲリラ兵士『くっ……!』

ヘリオン隊の全滅から、まさに一瞬の間。フラッグは再び変形し一挙に距離を離す
追撃すらままならない速度、更には置き土産と言わんばかりのミサイルまでが地上部隊に降り注ぐ

散り散りになった反国連軍の前には、本隊のイナクト・RGM部隊が迫っている

そこからは、文字通り一瞬で片が付いた



「あげゃげゃげゃ!」

『……』

そんな様子を廃墟の隅から見ていた若者が一人
毛質の荒い金髪に緋色の瞳、発達した犬歯とつり上がった口元が特徴的な青年
ガンダムマイスター、フォン・スパーク

フォン「オーバーフラッグス……変形を取り入れた新しい戦術の開発に着手し始めたな」

874『本日だけで五回もの変形、戦線の攪乱と後続の為のライン構築のみに従事していますが、その戦果は絶大です』

丸い支援メカから浮かび上がる猫耳と尻尾を付けた立体画像少女、二次元の申し子874が語りかける
それに対してフォンは反応もまばらに、崩れた壁を登りオーバーフラッグスが消えた空を見つめた

フォン「いや……それしか出来ないのさ。オーバーフラッグじゃそれが限界なんだ」

874『……』

フォン「グラハムとやらの精一杯の足掻き……何処まで続くか見物だな」

フォン「あげゃげゃげゃげゃげゃ!」

フォンの名前の由来、代名詞ともいえる馬鹿笑いに呼応したのか
廃墟の影から光学迷彩を解き、黒い色彩の戦闘機のようなMSが姿を現す
キュリオスの素体にもなった第二世代型ガンダム、ガンダムアブルホールである

フォン「基地に戻ってアストレアを動かす」

874『では?』

フォン「あぁ」

フォン「埒が明かないなら自分で明ける……俺がいつもやる手だ」

壊滅していくゲリラ部隊を背に、アブルホールは悠々と空に消えていった
その影を追う者がいるとも知らずに……



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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その31

2012年04月23日 18:59

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

644 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/08/17(水) 01:24:34.06 ID:A9FPM6rAO

――輸送機――

ビリー「一体何が起きたんだ!?」

オペ子「地上からの狙撃です! 兵装は恐らくレーザーカノン!」

ビリー「レーザーカノン……PMCか!」

オペレーター「グラハム少佐、応答してください! グラハム少佐ッ!」

オペレーター「駄目です……返信ありません……ッ」

ビリー「そんな……」

ビリー「グラハァァァムッ!!」



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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その30

2012年04月23日 18:37

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

593 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/08/01(月) 01:14:35.60 ID:8BrQa+yAO

――中東――

『撃て、撃て!』

『敵を近づけさせるな! 一秒でも多く、同志の時間稼ぎを!』

ティエレン対空型が五機、煤けた空を見上げながらひたすら砲火を放っていく
上空にはRGMが三機、GNビームガンとシールドを装備した一般型が粒子を吐き出しながら滞空していた

『装甲まではGN-X程ではないらしい、やはり無茶はしてこないぞ!』

RGMは弾を避けながら旋回、なかなか踏み出せず頃合いを見計らっているようにも見える
それもそのはず、RGMはまだ配備の進まないGN-Xの代替機として大量生産が成されている
故にその装甲は既存のEカーボンより少し良質な程度であり、カスタマイズ機以外は旧型MSの携行火器でも十分対応出来るのであった
この一点に於いてはティエレンのパイロットの思惑通り――とある人物の作戦も加味し、分断された国連軍の戦力は、どの戦線でも追撃をしきれずにいた

『まだ弾はある……いけるぞ!』

そして今この場においては、張られた弾幕と温存されたミサイルの脅威に、追撃部隊が足止めをされている状態にあった

『国連軍の狗共め、指をくわえて見ているがいい!』

『同志の手により、正義の鉄槌が振り下ろされるその日までッ!』

原理主義組織の出であるこの部隊は、死さえも厭わず足止めを引き受けていた
狂信者、と呼ばれる類の者達である
ガンダムという無国籍、無思想の脅威が消え去った今、この様な存在がまた各地で紛争の火種としてくすぶり始めていた

マリーダ「……だったら、我々がその火を消すまでだ」

『!』

弾幕を張り続けていた、耳元でひたすら反響し続ける爆音の中
最初に気づいたのは、左から二番目のティエレンのパイロットだった
日光が一瞬遮られ、ティエレン対空型の前に躍り出る漆黒の機影
RGMが攻めきれずにいた二十門の対空砲の掃射をいとも容易くくぐり抜けたそれは、あろうことか彼らの目の前で姿を変え、人型として手の届く位置に降り立った

『な、何だコイツ!?』

『黒い……黒いフラッグだ!』

マリーダ「……」

動揺が波立ち、五機へと一斉に伝わる
ほぼ同時に、中心の一機の胸部に深々と紅い粒子の刃が突き立てられた

マリーダ「悪いが、そう時間をかけてはいられないのでな」

『ま、まさかコイツ……!』

砂煙を上げながら倒れるティエレン
その刃が、他のティエレンへと即座に向けられる
今まで対峙していたRGMなど、比較にすらならない圧倒的な戦力差
もはや、彼等に抗う力は残されてはいなかった

マリーダ「……蹴散らすぞ」

『ユニオンの、ライセンサ……!』


――それから三分後、照りつける太陽の下にはティエレン対空型だったものが五個、ただただ無惨に転がっていた
戦場において、死は列を成し平等に訪れる
彼等の手には、抗う術が無かっただけなのだ……



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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その29

2011年10月12日 19:18

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

556 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/07/26(火) 01:00:35.27 ID:xjV4v0OAO

――中東・クルジス――

広い荒野にポツンと取り残された廃墟群を、月の光が白く優しく照らしている
かつては人の営みを支えていたこの場所も、今では砂と風のみが昔を語っていた

ジンネマン「ずぇああっ!!」

ギラ・ドーガの振るう両刃のビーム刃が、GN-Xの胴体部に喰らいつき横一文字に吹き飛ばす
残された下半身が落下し土煙を上げ、唸る風も止み巻き上がる砂も落ち着いた
ようやく戦場に静寂が戻ったのだった

ジンネマン「お前ら、生きてるか?」

クワニ『えぇ、何とか』

アイバン『コイツのじゃじゃ馬具合にはまだ手を焼くってのに。流石はキャプテン、手慣れたもんだ』

ジンネマン「リアルド以前の奴らに比べりゃずっとよく動いてくれる。贅沢言うんじゃねえよ」

専用GNビームアックスの長柄を中心から折り畳み、機体腰部に収納するジンネマン
ギラ・ドーガの左腕には特徴的な形状の盾、更にその裏には二連装ビームガン、B型装備と呼ばれるバリエーション装備が顔を覗かせていた

ジンネマン「利用できる物は何でも利用する……懐事情ってやつだ」

一人ごちながら目の前に転がるGN-Xのビームライフルを回収
隠してある小型の汎用輸送機の方角へと機体を進めていく
このままでは規格が合わず使えないものの、簡単な改造ですぐに使用に足る物へ変えることが出来るのだ

ジンネマン「シュツルムファウストやグレネードは無駄遣いするな。暫くは補給もままならん、節約していくぞ」

『『了解』』

ジンネマン「あいつも連れてこれりゃ良かったが……ユニオンの家族の保護が確認出来なきゃ闘わせるわけにもいかねえしな」

アイバン『次の機会を待ちましょう』

ジンネマン「分かっている」

辺りには偵察に現れた三機のGN-Xが残骸となって転がっている
連絡が途絶えれば直ぐにでも後発が現れるだろう。
それでは、軌道エレベーターによる監視システムが開発される前に事を起こした意味がない

ジンネマン(さっさと移動しないと、また次が来るか……)

ジンネマン「行くぞ。すぐにこの場所から……」

クワニ『キ、キャプテンッ!!』

ジンネマン「っ!」

機体を後方のギラ・ドーガに向けた、その時だった

『あげゃげゃげゃげゃげゃ!!』

反応は、下から飛び出すように突然現れた
空中に躍り出た真紅の機体。広域用無線の回線からは、耳を塞ぎたくなるような爆発的な笑い声が響き渡る
吹き飛ばされたようにくるくると舞い上がりながら、右手の巨大なGNソードが展開し粒子の光を纏う
その刃が描く軌道は、微塵の迷いも無くジンネマン専用ギラ・ドーガに向けられていた

ジンネマン「ちぃっ!!」

とっさにGNビームアックスを掴み、刃を受け止める
粒子が火花となって辺りを眩く照らし上げる、辛うじてパワー負けはしていないようだ
サブモニターは、砂にまみれたMS用のカバーシートがゆっくりと落下するのを捉えている
――まさか、ずっとここに隠れていたのか
ジンネマンは焦りはしなかったものの、降下が何者かに読まれていたという事実に呻いた

『あげゃ、なかなかやるなおっさん』

ジンネマン「ガキの声……だと!?」

『あげゃげゃげゃげゃ!』

『はじめまして……そしてサヨウナラ、だ!』

ジンネマン「嘗めんじゃねえ……よッ!」

機体を捻りながら柄を展開、一気に真紅のMSを弾き飛ばす
弾き飛ばした瞬間自身も反動で下がるが、その瞬間敵の機体は空中で軽やかに反転、ビームサーベルを抜き放ち虚空を切り裂いていた

ジンネマン(少しでも離れるのが遅けりゃ、やられていたってか……!)

『ぎぃっ!』

ジンネマン「近付ける訳には行かねぇ!」

『あげゃげゃげゃげゃげゃ!!』

背筋に刺さる冷たい感覚を振り払いながら、シールドの二連装ビームガンの引き金を引く
幾多の朱い粒弾が敵機に襲い掛かるが、真紅のMSはGNソードを盾代わりに使い、避けることなく向かってくる
その真っ赤な様相はけたたましい笑い声と重なり、ジンネマンにはまるで返り血に濡れた狂人に見えていた

クワニ『キャプテン、援護します!』

アイバン『下がってください!』

ジンネマン「おう……!」

二機のギラ・ドーガが後方から左右に展開、真紅のMSは二機が弾幕を張ってようやく距離を取ってくれた
だが諦めた様子は微塵もない。GNソードを振り上げ、無謀ともいえる突撃をただひたすらに繰り返してきたのだ

クワニ『何つう動きだ、化け物かコイツ!?』

ジンネマン「気張れよお前ら! こんなとこでやられたら、大佐と大佐を信じた同朋に顔向け出来んッ!」

再び風が吹き荒び、砂煙は渦となって巻き上がる
黒の斑と真紅の怪物が、刃と刃をぶつけ合う

ジンネマン「こんなところでェッ!!」

『あげゃげゃげゃッ!』


西暦2308年、【袖付き】と【ガンダム】、最初の邂逅であった



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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その28

2011年10月11日 19:16

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

511 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [sage]:2011/07/16(土) 01:17:03.01 ID:0PmofFpAO


きっかけは何でもない、ただの一枚の新聞記事
それも、自身の内側を掻き毟るだけの駄文に過ぎない代物であった

――それでも、気づけばスメラギさんに頭を下げ頼み込んでいた

ロックオン・ストラトスが友と呼び、刹那・F・セイエイを宇宙の闇に消し去った――

グラハム・エーカーに、逢いたいと


フェルト「……」

タクシーが道路を進む。整備された街並みが目の前を通り過ぎていく
大気と重力のへばりつく感覚、宇宙で育ってきたフェルトにとってはいずれも未だ慣れない感覚であった
『フェルト、分かっているわね? あくまであなたはスメラギさんの遠縁の子として同行するの、地球に降りたからには私達との連絡は一切禁止よ』

フェルト「っ……」

出発前のリンダさんの言いつけがまだ耳に残っている
膝元に置いた指に自然と力が込められ、スカートを強く握りしめた
おおよそフェルトがソレスタルビーイングの一員であると分かる人間は皆無に等しいだろう
だからこそフェルトと組織の繋がりは立たねばならない。必然だったが、心細かった

スメラギ「フェルト、先方には無理を言ってご挨拶しに行くんだから」

フェルト「!」

スメラギ「あまり迷惑になるようなことしないでよ? 向こうだって今忙しいの」

フェルト「はい、スメ……クジョウさん」

隣で窓枠に肘をつきながら、わざとぶっきらぼうな言い方で注意喚起するスメラギ
それでも、仕草の節々から心配してくていることが伝わってきた
やがて街並みを抜け、郊外へと車が進んでいく
遠目からでも基地のシルエットが確認出来た

もうすぐだ

幸い偽装データは看破されず、地球に降り立つまでは容易なものだった
また上がれる保証は無かったものの、その場合は面倒を見る、とスメラギがイアン等に言い切ったおかげでその辺りの不安は思ったより少なかった

フェルト「……」

トレミーに乗っていたクルーは、その半数が命を落としていた

クリスティナ・シエラ
リヒテンダール・ツェーリ
JB・モレノ

いずれも、特攻してきたコロンブス艦により轟沈したトレミーと運命を共にした
ソレスタルビーイングの中で育ったフェルトにとっては、いずれも家族と呼べる存在達だった

フェルト「……っ」

スメラギ「フェルト……?」

フェルト「大丈夫……大丈夫です」

自分の肩を抱き、逃げ出したくなる心を奮い立たせる
自分に言い聞かせるように、心配するスメラギに答えた

元々スメラギは地球でリーサ・クジョウという肩書きでの生活に入る予定であった
ガンダムの損傷……裏切りによる国連軍の軍備増強……生き残った二人のマイスターも重傷を負い、状況は予断を許さない
戦える筈もなく、明日を生きる糧さえ足らない現状、必要な人手の中に自分は入っていない、というのが理由だそうだ

スメラギ「……着いたわ」

フェルト「此処が……」

停車したタクシーから降りる。
一面滑走路と何処までも続くフェンス、ソレスタルビーイングに幼い頃から関わっていたフェルトには、そこが悪鬼蔓延る牙城にさえ見えていた
何機ものMS……あれはユニオンリアルドだろうか……が絶え間なく発着陸を繰り返している

旧ユニオン軍、現在の統一国連軍に属するイリノイ方面基地
ここに、グラハム・エーカーがいる

スメラギ「行くわよフェルト」

口調が波立ったのを感じた。スメラギもまた緊張を隠せないでいるのが分かった
無理もない。ソレスタルビーイングの構成員が取る行動としては、組織が崩壊後最も接敵する行為なのだから

おまけに相手は事象の本質を見抜くとされる人類の革新、ニュータイプ
フェルトが見目格好から構成員だとバレるはずがないという前提の上に今回の行動は容認されていた
だが万が一、という可能性はどうしても拭い去れないのも事実であった

フェルト「……」

分かっている、ただの危険行為だ
得るものがあるかも分からず、もし悟られたら全てが終わるだけ
何を話すかさえスメラギには伝えていない、それどころか自分でも何を話すか決まっていない

分かっている、利など何処にもない

それでも

フェルト「それでも……」

フェルト「逢ってみたい。ニールが、刹那が向き合った人に」



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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その27

2011年10月10日 19:02

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

470 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/07/05(火) 01:05:18.35 ID:oyzlWSHAO

―ヴェーダ―

「…………」

量子型演算処理システム・ヴェーダ。
電子によって構成された六角形の情報体が、この世界のあらゆるネットワークに食い込み膨大な情報をアップロードしていく

その中には肉体さえ持たないものの、ソレスタルビーイングで戦い続けた四人同様ガンダムマイスターの権限を有する存在、疑似生命体ガンダムマイスター874(ハナヨ)の存在があった

874「……」

彼女は今、自身の端末機であるHAROを使い、作業の真っ最中である
作業対象もまたHARO、黒いHAROに増設と特別な【システム】の組込、そして戦闘用端末として動くことの出来る最大限の吟味
874は今、ヴェーダの命令の外でこれらをこなしていた

『間に合いそうかな?』

874「ごめんなさい、もう少し時間がかかってしまう」

『うぅん、いいの。あたしの我が儘だもん』

874「そう……」

874「……」

『どうしたの? 874』

874「ヴェーダの中で、最初に貴女を見つけ出した時のことを思い出して……」

874「まさかこんなことまでしてあげるようになるなんて、あの頃は全く思わなかったから」

黒いHAROにマニピュレーターを突っ込み、混沌と化した配線を一つ一つ適切な配列に繋げ直していく
気の遠くなるような作業だが、そもそも疑似人格であるマイスター874には時間の概念すら存在しない
この器に組み込む為の中核を担うサイコミュ、その重要な部品をコアに作り込むこのHAROは一回りほどサイズも大きい代物
それ故に造った後の整備を他のHAROに任せることが出来ない。マイスター874はどうするべきかと思考を巡らせていた

『うふふ、874は優しくなったもの』

874「……私が……?」

『うん、そうじゃなかったら【亡霊】のあたしにこんなによくしてくれないよ』

874「……その言い方は好かない」

『うん、ごめん』

874「……ふふっ」

『うふふっ』

――事故により分かれた精神と共に、二十年近くを歩んだ自らの肉体
戻ろうと思えば自身の肉体に戻れたであろうに、彼女はそれをしなかった
それを彼女は新たな【個】と捉え、自身のモノではないと認識したからだった

『私は、私を殺せなかった』

同じ経験がある874位にしか解らないであろうこの思考と行動、故に874は彼女の為に新たな道を切り開こうとしていた
この高潔な魂が、新たな可能性を切り開いてくれると信じて

874「もう少しだけ……もう少しだけ私に時間を預けて、プル。貴女の望むままに動ける身体を、必ず造り上げてみせる」

『ありがとう、874』

874「いいの。私が望んだことだから」

不思議と、ヴェーダには何の警告も為されなかった
それはヴェーダが彼女の可能性を重く見ている故か、はたまたその存在に価値を見いだしていないのか
それは874もプルも理解の範疇外であった


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