牙狼―GARO―魔法少女篇 第一話「終焉」 その5

2011年11月25日 19:44

まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇

371 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/08/07(日) 23:57:53.66 ID:ASp9P10ho

――いったい何なの、あれは……。 

 ほむらが心中で呟く。口にこそ出さなかったが、彼女も黄金の狼の姿に圧倒されていた。
 鋼牙には何かあると思っていたが、予想は裏切られた。いや、大きく上を行っていた。

 鋼牙とすれ違った後、ほむらは一も二もなくまどかの手を引いて走っていた。
 鋼牙の去った方向、即ち自分たちが来た道を。
 この機に乗じて、まどかの契約をうやむやにする。
 それもあるが、彼の行動が気になったのが一番の理由。

 隣のまどかを見ると、彼女は息を切らしながらも、素直に目を輝かせていた。
 黄金の鎧もさることながら、さやかの命が救われたことが嬉しいのだろう。
 そうだ、鋼牙は疾風のように現れて救ってしまった。自分が救えないと見捨てた彼女を。
 そんなほむらが鋼牙に抱いた感情は、期待と苛立ちが入り混じった妙な気持ちだった。

 もう誰にも頼らないと決めた。独りでも、彼女を助けると誓った。
 その為に様々なものを犠牲にしてきた。今日も、二人の知り合いを切り捨てたばかりだ。
 なのに彼は唐突に現れて、すべてを救おうとしている。
 いくら彼がホラーとの戦いを専門とする戦士だとしても、自分が苦渋の末に選んだものを、彼は丸ごと手に入れられるのだ。

 それが何となく不満で。
 しかし、助けてほしい、身を委ねてしまいたい自分がいるのもまた事実で。
 そもそも、そんなふうに考えてしまう自分も嫌だった。
 この気持ちは何だろう。
 嫉妬。或いは羨望。どれでもあり、どれでもない。

 ほむらの葛藤など無関係に、黄金騎士は剣を抜き放つ。
 鎧が金なら、柄も鞘も金。鍔もなく、細身で見るからに地味だった剣が、豪華な長剣に変化している。
 三日月形に反り返った鍔。柄の中心には赤く三角形の紋章。
 剣身は厚く幅広になり、波打つような紋様が施されている。
 美術館に飾られていても不思議でないほど見事な芸術だった。

 しかし勇ましく剣を構えるガロに、ほむらは言い知れぬ胸騒ぎを覚える。
 誰もが魅せられ、畏怖する黄金の光は、何人たりとも近付くことを許さず、触れた途端に焼き尽くされそうな――。
 頼もしく思うと同時に、強過ぎる光で己の姿まで掻き消されるのではないかという、漠然とした不安。
 負けじと思えば思うほど、心の抵抗は頑なになってしまう。
 光が強ければ強いほど、影が濃くなっていくように。

――影……そう、彼が光だとすれば、私はきっと影。だから闇に打ち勝てない。
 彼に助力を願えば、何かが変わるかもしれない。でも、彼に期待して、またさっきみたいになったら……。
 助けられることばかり考えて後で後悔するくらいなら……。
 それならいっそ一人の方がまし。少なくとも、これ以上弱くなりはしないのだから――

 答えの出ない問いと感情を持て余しながら、ほむらはガロを目で追う。
 身勝手な解釈と知りつつも、眩い黄金の輝きは、持たざる者の苦悩を遥か高みから見下ろしているように思えてならなかった。


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牙狼―GARO―魔法少女篇 第一話「終焉」 その4

2011年11月24日 19:53

まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇

323 :◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/07/24(日) 23:45:02.22 ID:p/nmQMuUo
 闇の中、ほむらは走っていた。手を握っているまどかが悲鳴を上げるも、顧みることはない。
 今は一刻も早くここから逃げる。
 それがすべて。
 しかし思う。一体、何から逃げているのか。何を振り切ろうとしているのだろうと。

 ホラーから。
 それもあるが、奴はすぐには追ってこないはず。
 では、他に何があるというのか。

 あるとすれば、それは見捨ててきた二人の少女と、自身の罪。
 さやかとマミが追ってくる訳ではない。おそらく、彼女らとの生きて再会はあり得ないだろう。
 まどかを安全な場所まで送り届けた後は戻ってくるつもりだが、到底間に合うとは思えない。

 だからこそ幻影はいつまでも付き纏ってくる。ほむらが記憶している限り。
 何もかも覚悟の上でやったこと。だが、ほむらは実行に移せる程度には冷徹だったとはいえ、
 心まで無感動でいられるほど割り切れてはいなかった。

「待って、ほむらちゃん……! ハァ、お願いだから……」

 まどかが息を切らして、声を涸らして、なおも懇願する。
 既に抵抗らしい抵抗はなく、声には疲労が色濃く出てきている。
 消耗しきったまどかを見ても、ほむらは速度を落としこそすれ、止まりはしなかった。

 ホラーは追ってこなくとも、罪悪感は追ってくる。どこまでも、どこまでも。
 止まれば呑み込まれる気がした。この深い闇の奥の奥まで引きずり込まれて。
 想像して寒気が走り、ぶるっと身震いした。

 ここは嫌だ。潜在的な恐怖を引き出すから。
 きっと、あのホラーに自分も恐怖していたのだろうと冷静に分析するが、
 それで恐怖が払拭できるものでもない。

 子供の頃、訳もわからず怯えていた。
 例えば星も月もない夜。
 押し入れのような閉じた暗闇。
 黒一色に塗り潰された空間。
 何もいないと理性で理解していても、本能が凌駕する。意識した瞬間、何かが生まれる。

 人は、本能的に闇を恐れる。
 足を止めれば、穴という穴から闇がぬるりと這入り込んで、身体を内側から腐らせる。
 まるでこの空間そのものがホラーの体内であるかのような、自分が溶けて消えていく錯覚。
 
 だからこんなことを考えてしまうに違いない。ほむらは、そう言い訳した。

――連れて逃げられるのは一人だけ。背負ったとしても追い付かれる可能性が高いと判断した。
 だから、私はまどかを選んだ。
 たとえ何を犠牲にしてでも、まどかだけは絶対に守る。私とまどかを含む、すべてを裏切ってでも。
 
 足手まといになるから。二人を連れて逃げるのは困難だから。
 切り捨てるしかない。神ならぬこの身には限界がある。私は悪くない。
 でも、本当にそれだけだろうか。

 巴マミは歪んでいる。薄々感付いてはいた。
 彼女は死よりも孤独を恐れ、生よりも使命を優先させるきらいがある。
 故に魔法少女としての信念を曲げようとはしない。
 ここに美樹さやかを残して行けば、巴マミは彼女を守らんと最後まで抵抗を続けるだろう。

 巴マミは時に御しにくく、障害になる危険性も秘めている。強いからこそ厄介だった。
 そんな彼女を、ここで捨て駒として使う。逃げるまでの時間は十分に稼いでくれるだろう。

 美樹さやかはまどかの親友。直情故に精神的に追い詰められやすい彼女は、自ずと身を滅ぼす。
 それならここで死んでも同じ。そして彼女が消えれば、まどかの信頼と親愛を勝ち得るのは私。
 最初は憎まれたとしても、他に頼れる存在がいないのなら……。
  
 私自身にも否定できないのだ。
 そんな薄汚れた魂胆と、悪魔のような打算が、心の奥底に潜んでいるかもしれないことを。
 まどかを連れて逃げた瞬間は意識していなかったものの、決してないとは言い切れない。
 私は今、考えてしまったのだから。意識した瞬間、それは生まれる。
 目を背けたい私の醜い部分が、この闇と引き合っている。
 
 私は、まどか以外の死に対して鈍麻している。
 見ず知らずの他人はもちろん、深く関わりを持つ魔法少女三人も例外ではない。
 いずれ、まどかの死でさえも軽くなっていくのだろうか。

 こんな私は、巴マミ以上に歪んでいるのだろう。
 だからまどかを救えないのかもしれない。歪んだ欠片と正常な欠片は嵌まらない。
 私が最も恐れているものは、振り切ろうとしているものは、己が心の闇。
 私の中に確かにある陰――

 心の内面に潜ることに没頭するあまり、ほむらの注意はまどかから逸れていた。
 泣いていた彼女も、今は黙ってほむらに従っている。
 二人が分岐路まで差し掛かった、その時。
 ガクンッと、引いた手が突っ張り、後ろに力が掛かる。
 振り向くと、まどかがつんのめり倒れるところだった。

「――うぶっ!?」

 止められなかった。突然の衝撃でほむらも面食らい、繋いだ手を放してしまう。
 急停止すると、まどかは顔面から派手に床を滑った。

「まどか! 大丈夫!?」

「いたたた……。うん、なんとか。ほむらちゃんは大丈夫……?」

 助け起こすと、鼻と膝を赤く擦りむいたまどかが笑った。
 まどかは引きずられる覚悟で、力を抜いて全体重を預けた。
 そんな状態で手を放されれば転ぶに決まっている。
 何故、そんなことを――決まっている。そうでもしないと止まらなかった。

「ほむらちゃん、やっと止まってくれたね」

「どうして……どうして笑えるの? 私を憎んだり怒ったりしていないの?」

 ほむらが戸惑いがちに問うと、まどかはキッと見返し、

「怒ってるよ! すっごく怒ってるけど……ほむらちゃん、とっても辛そうな顔してたから……」

「っ……」

 最後には切なそうに目を伏せた。
 ほむらは何も言えず、押し黙る。きっと、今は何を言っても言い訳になってしまう。
 まどかはふっと表情を弛緩させると、立ち上がって言った。

「ありがとう。私だけでも逃がそうとしてくれたことは嬉しい。
でも、ごめんね。私、やっぱりさやかちゃんを見捨てていけないよ……」

「無駄よ、あなたが行っても何もできない。二人揃って殺されるのがオチ」

「そうかもしれない。でも、行かなきゃ。マミさんが戦ってる、
こっそりさやかちゃんを助け出すくらいできるかもしれないし……」

 いつものおどおどした内気な少女の面影はない。さっきまでの泣き叫んでいた彼女でもない。
 膝から血を滲ませて、全身は小刻みに震えているのに。
 一しきり泣いた今のまどかは、怯えながらも凛としていた。

「駄目よ。行かせないわ」

 だからと言って、死ぬとわかりきっている場所へ戻らせはしない。
 彼女の意志がどれだけ強かろうが、現実は変えられない。
 手を掴み直して、まどかを引き留めるほむら。必然、見つめ合う二人。

「鹿目まどか。美樹さやかを助けたいなら方法はあるよ」 

 沈黙に割って入ったのは、女性のようでもあり少年のようでもある声。 
 まどかにとっては助けを求めてきた庇護の対象。ほむらには憎むべき敵。
 二人の間から見上げる形で、いつの間にか白い小動物が座っていた。
 
「あなた……確かキュゥべえ?」

「まどか……君には力がある。さやかやマミを救い、あの怪物を倒せる力が」

「私に……力が?」

 ほむらは一瞬で、キュゥべえの企みを見抜いた。
 いつもそう、こいつは最も効果的なタイミングで現れ、少女を誑かす。
 取り分けこれは最高の、ほむらには最悪のタイミングと言えた。


「そうさ。だから……僕と契約して、魔法少女になってよ!」


「黙りなさい」

 キュゥべえに拳銃を突きつける。これ以上、こいつに喋らせてはいけない。
 ほむらにとって、まどかの死と同じく絶対に防がねばならない事態。
 それが、まどかとキュゥべえの契約。
 銃口を向けられても、キュゥべえは顔色一つ変えない。

「待って!」

 理由はすぐにわかった。
 まどかが腕に飛びついて拳銃を押さえてくる。
 これを予測してのこと。黙っていても、悪者になるのはほむらだ。

「ほんと? ほんとにさやかちゃんもマミさんも助けられるの?」

「もちろんさ。何でもいい。君が一つ願い事を決めれば、僕がそれと引き換えに君を魔法少女にしてあげる」

「私にも、私でも誰かを救える……」

「マミみたいに魔女と戦ってもらわなきゃいけないけどね。でも心配いらない。
君には素質がある。きっと最強の魔法少女になれる。無限の魔力、世界のすべてを変えてなお、あり余るほどの力だ」

 無機質に光る赤い目が、まどかを見据え、甘く囁く。
 まどかは目に見えて揺れていた。もう一押しで頷いてしまう。
 もう撃つしかない。
 ほむらはまどかを振り払い、引き金に指を掛けた。

 まどかが息を呑む。
 キュゥべえは動かない。命乞いもしなかった。
 沈黙は勝利を確信した余裕か。
 撃つがいい。彼女の信用を完全に失うだけだ。
 言外に宣言しているようでもあった。 


 ほむらは指に力を込め――しかし、銃声が響くことはなかった。


 素早く連続した足音を耳が拾う。
 視界の端を、韋駄天の如き速さで白い影が駆け抜けた。
 こちらに気付いていないのか、気付いていて構う暇もないのか、分岐路から高速でほむらたちが来た方向へ去っていく。

「あれは――!」

 一瞬だったが、見間違うはずがない。
 腰に携えた赤い鞘、脛まであるロングコート。
 暗中を疾駆する剣士は、ほむらが待ち焦がれ、遂には待つのを止めた、あの男。

「どうして今さら……!」

 もう誰も頼らない。
 皮肉にも、誓った矢先に彼は現れた。
 何故、もっと早く来てくれなかった。そうすれば、こんなことをしなくてもよかったのに。

 忌々しく思うと同時に気付く。強く思えば思うほど、それが期待の裏返しだったのだと。
 それでいて撃つ寸前の緊張が解けているのは、まだ心のどこかで彼を待っていた証なのだと。

――捩じれて縺れた糸は、一度どこかで切らなければ正しい形に戻すことはできない。

 それはまどかも、彼女たちも、この世界も、私自身も同じ。

 私は、待ち望んでいたのかもしれない。


 終わらない世界の旅を。
 絡まった因果の螺旋を。
 我(わたし)の陰を。
 心の闇を切り裂いてくれる存在を――



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牙狼―GARO―魔法少女篇 第一話「終焉」 その3

2011年11月23日 19:03

まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇

240 :◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/07/03(日) 23:57:27.77 ID:e8voSFyko

 目の前には、キュウべえを抱えるマミと、それ心配そうに見つめるまどかとさやか。
 現場に到着した瞬間、ほむらは何が起こったのか即座に理解した。

――遅かった……!

 ギリッと、表にこそ出さなかったが内心で歯噛みした。
 まどかの救命、この点に限っては問題ない。誰がやろうとも、そこは無事で何よりだと喜ぶべきこと。
 むしろマミが来なければ高確率で手遅れになっていたのだから、感謝して然るべきなのだろうが。

 しかし、事はそう単純ではない。まどかはキュゥべえと接触してしまった。
 キュゥべえは間違いなく、まどかを誑かすだろう。
 その人間が本質的に望むモノを嗅ぎ付け、取り入ることに長けた奴だ、中学生一人を手玉に取るくらい容易い。

 それだけでも危険なのに、なお助長するのがマミの存在。
 何も知らずに甘い英雄幻想を夢見るまどかは、当然の如くマミに憧れるだろう。
 その果てに、どんな未来が待ち受けているとも知らずに。
 マミはマミで新たな仲間の出現を喜ぶ。これまでの例を鑑みるに断る理由はない。

 つまりはマミとキュゥべえが合流し、まどかと出会った時点で、ほむらの考えていた作戦は意味をなくす。
 妨害しようとすれば、マミは十中八九、反撃してくる。なるべくなら彼女とは戦いたくなかった。
 彼女は強力な魔法少女だし、一応は顔見知りでもある。何より意味がない。
 いや、マミがいなくとも結果は同じだったか。
 見た目は愛らしい小動物を殺めようとするだけで、まどかには悪者と見なされてしまう。
 信じてもらえなければ、どれだけ想っていても、正しくとも、無意味なのだから。

 そうしてしばらくの間、黙考を続けていたほむらだが、

「魔女は逃げたわ。仕留めたいなら、すぐに追いなさい」

 マミの言葉でハッと我に返る。
 そうだ。魔女は逃げ、キュゥべえの殺害に固執する必要もなくなった。
 故に当初の目的を考えれば、ここに留まる理由はもうない。
 そう、当初の目的では。

 再びの黙考。
 向こうも事を構える気はないようだ。
 その余裕は、襲われたとしても自分は負けないという絶対の自信から来ている。
 その慢心とも言える余裕振りに従うのも癪だが、僥倖に違いはない。
 ならば答えは――。

「その必要はないわ。私にはまだやることが残っている」

 マミは目を丸くして意外そうな顔をした。ほむらを賢く、計算高い人間だと分析していたからである。
 が、その驚きも一瞬。すぐに取り繕い、微笑を取り戻す。

「意外と鈍いのね。見逃してあげるって言ってるの」
 
「勘違いしないで。見逃してあげるのは私の方。心配しなくても、あなたに興味はないわ。そこのキュゥべえにもね」

「なんですって……?」

 挑発とも取れる言葉に、マミの表情がやおら険しくなった。対するほむらは涼しい顔。
 空気が張り詰め、さやかとまどかが剣呑な雰囲気に怯えながら両者を交互に見る。
 ほむらはマミの殺気を真っ向から受け止めた。引けない理由があった。
 まだ、危機は去っていないのだから。

 ついさっきまで戦っていた使い魔。髭と張の使い魔は魔女のそれだろう、いかにもな風貌をしていた。
 だがローブを着込み、ナイフを振り回す影はどうだ? 
 攻撃方法といい、意匠といい、魔女の使い魔らしからぬ印象を受けた。

 ここにいた魔女は1体。
 その点はマミが逃げたと言っていること、結界が解けたことからも確か。
 ではあの、あまりにも髭と共通点のない影は何だろう。
 思うに、あれは魔女の使い魔とは違う、別の何かではないか。

 推測の域を出ないが、裏付けるものはある。髑髏の指輪に『鋼牙』と呼ばれた白い剣士の存在。
 彼は強かった。それどころか歴戦の戦士と呼ぶに相応しかった。だが、それだけではない。
 影との戦いは、日常的に戦い慣れた者だけが為せる業。

 そして、どれだけのダメージを与えれば殺せるか、死ねば死体はどうなるか、特性を完全に理解していた。
 これらのことから推察するに、鋼牙の敵とは奴らではないか。そう、ほむらは考えた。
 極め付けが別れ際の一言。

――敵は魔女だけじゃあない。危険を感じたらすぐに撃て。

 敵が影だけなら、こんなことは言わない。おそらくはあれも使い魔、操る何者かが近くにいる。
 となれば、まどかをマミだけに任せて一人逃げるわけにいかない、絶対に。
 まだ張った気を緩めていないが故に、マミの挑発にも挑発で返してしまった。
 マミの片目がスッと眇められる。同時にほむらも、そっと左腕の盾に手を伸ばす。

 彼女の手の内は知っている。相性は悪いが、先手を取られなければ負けはない。
 無言で睨み合う両者。
 まさに一触即発の静寂に割って入ったのは、近付いてくる足音だった。

「誰!?」

 そう言ったのはマミ。足音に向き直り、マスケット銃を構えた状態で闇に目を凝らす。
 ほむらの反応は真逆だった。心なしか緊張の解けた顔で、マミと同じ方を向く。

――来てくれたの?

 ほむらには心当たりがあった。今、こんな場所に来る人間といえば一人しかいない。
 彼が、鋼牙が使い魔を片付けて来たのだと。
 やはり無事だった。そうだろう、彼があんな雑魚に負けるはずがない。
 我知らず口元が綻ぶ。だが胸の内に湧き上がる感情に、ほむら自身は気付いていなかった。
 それは安堵。彼が共にいれば、誰が相手だろうと負ける気がしないという確信。
 一緒にいた時間は10分にも満たないにも関わらず、ほむらは鋼牙に僅かながら信頼を抱きかけていた。

 
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牙狼―GARO―魔法少女篇 第一話「終焉」 その2

2011年11月22日 19:41

まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇

160 :◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/05/29(日) 23:58:04.34 ID:U7bQmhEbo

 見滝原市中心部からやや遠ざかった、郊外に位置するショッピングセンター。
 食料品に始まり、老若男女を問わず様々なニーズに応じた服や靴、家具や家電にペットetc……果ては医薬品まで。
 ここに来れば揃わない物はほとんどないとされ、映画館やクリニックも備えた大型モールは、市民の憩いの場として平日休日の別なく、朝から晩まで人で賑わっている。

 優に千を超える人間が溢れるモールは、午後6時が迫っても全く静まる気配がない。
 そんな中を連れ立って歩く女子中学生が三人。彼女たちもまた、その内の一部に過ぎなかった。

「あ~、疲れた~」

 美樹さやかは、大きく息を吐いて椅子にもたれた。
 ここはモール内のカフェの一角。さやかの前には、隣り合って座る鹿目まどかと志筑仁美。
 三人は学校の帰り、モールに立ち寄っていた。

 珍しいことではない。三人は月に何度か、こうして寄り道しに来ている。
 中学からもほど近いショッピングモールは同じ制服はもちろん、近隣の学校の制服も多く見られた。
 とはいえ、流石に午後6時ともなれば大人の目も気になる。あまり長く居座れば補導の対象にもなりかねないのだが。

「もう、さやかちゃんったら。疲れたなんて言っても、ほとんど何も買ってないよ?」

「あはは。だって色々目移りしちゃうんだもん。これじゃ見てるだけでも疲れるよ」
 
 まどかの言う通り、文房具などの日用品をいくつか買っただけで、かさ張る物は購入していなかった。
 悲しいかな、中学生のさやかやまどかには自由になる小遣いは少ないのである。
 こうして飲み食いする代金だって馬鹿にならない。
 ……筋金入りのお嬢様である仁美はそうでもないようだが。
 
 それならいっそのことウィンドウショッピングで我慢して、ゆっくりお喋りに費やす方が楽しいだろうと考えた。
 店内は雑然として、多少声を張らないと向かいの席にも声が届かない。それでも、さやかはこの空気が嫌いじゃなかった。
 この心地良い気だるさが好きだった。

 気に入った服を手にしてあーだこーだと言い合ったり、本屋で立ち読みしたり、ペットショップでショーケース越しに動物を愛でたり。
 そんな漫然とした、良く言えばのんびりした時間が楽しい。

 そして今日最もホットな話題は、転校生、暁美ほむらについてだろう。
 今日転校してきたばかりの彼女は、才色兼備という熟語が的確に当てはまる、黒髪の美少女。
 それだけでも話題性抜群なのだが、そこへ更に話題を提供したのがまどかだ。
 なんとまどかは、暁美ほむらに既視感を覚えたと言う。
 しかも向こうは笑うでもなく、気味悪がるでもなく、謎めいた忠告を残していった、と。
 
 まるでマンガかアニメの序章のような展開にさやかは一しきり爆笑した挙句、仁美にたしなめられてしまった。
 まさか、そんな前世の絆みたいなものが本当にあるとは思えないが、まどかは随分と気にしているようだ。

 まだ引きつる腹筋を休ませる為、コーヒーを一啜り。それから、そういえばと思い出す。
 今朝すれ違った白いコートの男性。
 ほむらがまどかの関心を惹いているように、今日のさやかは妙に彼が気に掛かっていた。
 授業中も度々、彼の姿が頭をチラついていた。
 と言っても、まどかのそれのような運命だとか奇跡だとかいったものでは断じてない。  
 後にして思えば、自分の中に眠る何かが感じ取った予兆だったのかもしれないが。

 それから話は適当に雑談へとシフトし、それも一段落したあたりで仁美が腕時計を一瞥して席を立つ。

「あ……ごめんなさい。お先に失礼しますわ」

「お稽古の時間? 大変だね、仁美ちゃん。今日は何?」

「ピアノです。昨日はお茶で、明日は日本舞踊。ほんと毎日毎日、嫌になりそうですわ」

 深々と溜息をつく仁美。
 お嬢様にはお嬢様なりの苦労や苦悩がある。しかし、彼女を労わる人間は少ない。
 こういった場合まず家族だろうが、仁美に習い事を課しているのは他ならぬ両親だ。

 クラスや学校の人間にしてもそう、嫉妬や羨望の眼差しで見ても、彼女がどれだけ努力しているかなんて知りもしない。
 容姿、成績、家柄。彼女は人より一段高い場所に立っているだけに理解もされ辛いのだろう。

 さやかにも、彼女を羨ましいと思うことはある。かつては嫉妬もした。
 友達の自分ですらそうなのだから、赤の他人からすれば、憧ればかり先立って同情なんて持ち得ないのかもしれない。
 かくいうさやかも庶民である。共感はできないし、完全に理解もできない。

 昔、「嫌なら止めれば?」と軽々しく言ったら、酷く怒らせた上に泣かれてしまった。
 以来、不用意な助言は慎み、彼女の選択を応援している。あと、できることと言えば気晴らしに誘うぐらいか。

「あ、今日もだっけ? ごめん、付き合わせちゃって悪かったかな?」

 それにしても今日は少し遅くなり過ぎた。外はすっかり薄暗い。
 そろそろ帰って夕食かという時間だ。これから習い事なんて、想像するだけでげんなりする。
 なのに仁美は、にっこり笑って答えた。

「いいえ、お気になさらず。近くですし、好きで来たんですから。
私としても、お二人とお喋りしたり店を見て回る方が楽しいですもの」

「ん、ありがと仁美」

「でも今日はピアノですから、まだいいですわ。音楽は好きなんですの」

「そっか。仁美ちゃん、音楽の授業でも上手いもんね。他にも色々やってるの?」

 仁美は宙に目をやり、指折り数える。
 片手が全て握られ、また開いていくのを見て、さやかは苦い顔を禁じ得なかった。

「ピアノとフルートとヴァイオリンも少々……手習い程度ですけど。興味がおありでしたら、今度お話しますわ。では、御機嫌よう」

 にこやかに微笑んで立ち去る仁美を、さやかとまどかは手を振って見送る。

「じゃあね、仁美ちゃん。頑張って」

「バイバイ。また明日ね」


 ――また明日。
 何気なく放った一言で、そこに大した意味なんてない。
 だってそう、ずっとそうだったから。これからもそうだと思ってた。
 明日が来ればまた学校で会って、いつも通りの日々を笑って過ごせるって。

 だから考えもしなかった。知る由もなかった。
 夜を乗り越え、朝を無事に迎えられることが、どれだけ大変で幸せなことか。
 あたしがそれを嫌ってほど思い知る瞬間が、もうすぐそこまで迫っていたなんて――。



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牙狼―GARO―魔法少女篇 第一話「終焉」 その1

2011年11月21日 19:00

まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇

1 :1 ◆ySV3bQLdI. [sage]:2011/04/22(金) 00:21:06.94 ID:Nr8ofJqk0

特撮ドラマ『牙狼〈GARO〉』と『魔法少女まどか☆マギカ』のクロスオーバーSSです。
まどかは基本的に第10話時点での設定で進めます。
その為、勝手な予想、妄想、設定の改変等が入るかと思います。ご了承ください。

時系列としては、まどかは最初から。
牙狼は暗黒魔戒騎士篇(TV本編)→白夜の魔獣篇(OVA)→RED REQUIEM(劇場版)終了後から更に後、
使徒ホラーをすべて封印した直後くらいと考えています。

牙狼の映像作品はすべて目を通しましたが、小説、設定資料集は未読。
その為、設定と食い違う可能性があります。また、意図的に改変する場合もあります。
進めながら、なるべく購入してチェックするつもりですが、
詳しい方はどんどん突っ込みを入れていただければと思います。
その際、軌道修正できるものは修正。できなければ独自設定ということで補完をお願い致します。

PS2ゲーム、パチンコはプレイしていません。これに関しては今のところ予定はありませんので、
経験者の方、使えそうなネタがあれば是非教えていただければ幸いです。
(ゲーム・設定資料集はプレミア価格なので。
パチンコでは本編に出ていない色んな技名があったりするとか聞いて、気にはなってるのですが……)

【この作品には残虐表現が含まれます(エロもあるかも)】

牙狼ファンの方には言うまでもないかもしれませんが、

【苦手な方はご注意ください】


以上、長々と前書きを失礼致しました。


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牙狼―GARO―魔法少女篇 第ニ話「牙城・君にその勇気があるのなら 」 その1

2011年09月13日 14:05

まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇

469 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/04(日) 23:55:51.06 ID:7v+1S+Owo
 闇に潜む魔獣、ホラー。
 口の中で呟いてみるが、どうにも馴染まない響き。
しかし疑う余地はない。一夜明けてみると現実味は薄れているものの、あれは紛れもない現実。

 思い出そうとすると身震いする。本能が思い出すことを忌避しているよう。
 それほど恐ろしい怪物だった。取り分け、無力な少女にとっては。
同じく人を脅かす魔女と戦う魔法少女ですらそうだったのだ。

 少女――美樹さやかも、無力な側の人間だった。
今でこそ、こうして普段通りに登校できているが、昨夜は本当に死が一歩手前まで迫っていた。
泣いて喚いて、傷付いて。何事もなかったかのように、お日様の下を歩けることが嘘のようだった。
 嘘といえば、足と腕の傷と捻挫も、すっかり完治している。これも現実感の欠如に拍車を掛けていた。

 一条の光も差さぬ暗闇で、自分を喰い殺さんとする絶望の権化。さやかがそれに屈服し、呑まれかけた時。
 同時に救いの手も差し伸べられた。
 白いコートの剣士――冴島鋼牙。もっとも、その名を知ったのはモールに戻ってからだった。

――店が立ち並び、過剰なまでの光と音が混じって溢れる世界は、ほんの数十分前と何も変わらない。
閉じられたフロアで何が起こったのか、誰も知らない。
それが凄く不思議で、それでいて数十年振りみたいに懐かしい温かさもあって。気付いたらまた涙が出ていた。
 張り詰めていた緊張の糸が切れたのだと思う。
あんな人混みであの人にお姫様だっこされている状態なのに、人目も憚らず泣きじゃくってしまった。

 今思うとかなり恥ずかしい。でも本当に死ぬかと思ったのだ。それを、あの人は救ってくれた。
 ホラーとあたしの間に割って入った剣士は、剣を天に突き立て、光の円を描く。
そこから漏れ出る眩い光に照らされた直後、狼の顔をした黄金の騎士に姿を変えたんだ――

470 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 00:11:27.26 ID:UlScQPtlo

 瞬間、魂が震えた。
 黄金の鎧の輝きはどんな美辞麗句を並べても足らず、その感動たるや筆舌に尽くしがたい。
 太陽よりも燦然と。
 満月よりも妖しく、美しく。
 記憶と目蓋に、鮮烈なイメージとして焼き付いている。

 ホラーが絶望の具現なら、黄金騎士は希望の象徴。
 だというのに、さやかは未だ黄金騎士の名を知らず、悶々とした気分が抜けなかった。
 そのせいで昨日も疲労は極限に達していたのに、なかなか寝付けなかった。

 取り留めのない思考を巡らせていると、いつの間にか足はいつもの待ち合わせ場所に来ていた。
 陽光が降り注ぐアスファルトの照り返しを逃れて、木陰に佇む人影を見つける。
そこには親友の志筑仁美が一人、ぽつんと立っていた。こちらに気付いた仁美に、さやかは軽く手を挙げる。

「はよー、仁美」

「おはようございます。まどかさんは今日も遅刻みたいですわね」

「ふぅん……」

 視線を外し、努めて平静を装うさやか。
 さやかを悩ませている事柄。その一つは魔女と魔法少女について、もう一つはホラーと黄金騎士、
最後は親友――だったはずの鹿目まどか。

 混乱の最中、さやかはホラーの前に取り残され、まどかは謎の転校生、暁美ほむらと手に手を取り合って逃げた。 
傷付いて走れないさやかを置いて。その傷だって、まどかを庇って負ったものだ。
 信じていたのに。
 裏切られたと感じた。

471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 00:22:26.66 ID:nTMi3sJm0
寝る前に来たら投稿されてた
明日の朝読もう…
472 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 00:25:44.06 ID:UlScQPtlo

 でも冷静になって考えると、色々おかしい。
 確かに状況証拠からは、まどかが転校生と連れ立って逃げた推理が導き出される。
 だが、ほんの一,二の間に視認できない、足音も届かない距離まで忍び足で逃げられるだろうか?
他にも、まどかの直前の言動と噛み合わない等、不審な点は多い。
 そして何よりも――。

 さやかの知るまどかは、あんな極限状態でも、他人を見捨てられない少女だ。
 元々、さやかは小難しい理屈よりも感情に従って生きてきた。
だから、これだけは断言できる。過ごした月日、築いた想い出、結んだ絆はどんな理屈も飛び越える。
 そのはずだったのに。

「あの、さやかさん? どうかなさいましたか?」

 気付けば、仁美が顔を覗き込んでいた。さやかは斜めに下がっていた視線を上げ、

「え? 何が?」

 首を傾げる。
 とぼけたのではない。仁美が何を疑問に思っているのか、本当にわからなかった。

「いえ……とても思い詰めた……浮かない顔をしていましたので」

「あ……」

 と、漏らしてまた俯く。
 まどかがそんなことするはずない。そう信じていたのなら、どうしてあの時、手を振り払ってしまったのだろう。
 今なら自信を持って言える。何度だって言える。
 それだけに悔しい。たった一度、まどかを信じ切れなかった自分が悔しくて仕方なかった。

――だとしたら、裏切ったのはあたしの方かもしれない……


473 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 00:40:48.59 ID:UlScQPtlo

 自責の念が胸の内側から滲み出てきて、嗚咽となって込み上げそうになる。涙が溢れてきそうだった。
さやかが痛みに押し潰されまいと懸命に堪えていると、

「ごめん! 遅くなっちゃって――」

 声の方に向くと、小柄な身体にピンクのツインテールが揺れていた。
 息を切らして、小走りで駆け寄ってくるのはまどかだ。その肩には、昨日見た白い小動物。名前は確か、キュゥべえ。

「あら。おはようございます、まどかさん。そんなに急がなくても、まだ大丈夫ですのに」

「なんで……」

 キュゥべえの存在に驚くさやかをよそに、仁美はごく普通に挨拶を交わしている。
 まさか、見えていないのだろうか。

『(あの……さやかちゃん……)』

「うわっ……なにこれ……」

 頭の中に直接まどかの声が響く。さやかは耳を押さえると、思わず口に出して驚いた。
隣では仁美が怪訝な顔をしている。

「(なんか、頭で考えるだけで会話できるみたい……だよ)』

「(そ、そうなんだ……)』

 いわゆる念話――テレパシーというやつだろうか。が、念話そのものよりも、
まどかと会話したことに動揺してしまい、素っ気ない返事をしてしまう。声が上擦るのを隠せなかった。
 まどかの返事も、どこかぎこちない。きっと彼女も同じ思いを抱いているに違いない。


474 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 00:56:48.55 ID:UlScQPtlo

 しかし何故。と思っていると、

『昨日、ちょっと話しただろう? さやか、君にも魔法少女の素質があるって』

「(それじゃ何? あたしはもう魔法少女になっちゃってるの?)」

 今度はキュゥべえが割り込みを掛けてきた。
 マミはかっこいいと思うし、尊敬に値する。が、それはつまり命懸けで戦う使命を課せられる訳で。
昨夜のマミのように、恐ろしいモンスターとの戦いを意味するのだ。
 勝手にそんなものにされては堪ったものじゃない。

『いいや、今はまだ僕が中継しているだけだよ。君たちも契約すれば単独で使えるようになる』

「(ふぅん、何か変な感じ……。ね、あんたの姿って仁美には見えてないの?)』

『そうだよ、僕がそうしない限りね。声も聞こえない』

「(でも、昨日の人……冴島さん。あの人はキュゥべえが見えてたみたいだけど……)」

 まどかの言に頷く。
 昨日、5人と一匹は落ち着ける場所で軽く今後の相談をした。当初、鋼牙は素性を明かすのを躊躇っていたが、
思案の後、情報交換を提案した。その場で、鋼牙ははっきりとマミとほむら、キュゥべえを相手に指名した。
もっとも、ほむらは明言せず立ち去ってしまったが。

 しかしマミの体調がすぐには戻らず、さやかの為に治癒魔法も使わせてしまった。
結局、時刻も午後の8時を過ぎていたので、明日の約束をして別れたのだった。

『それは僕にはわからない。けど僕が考えるに、彼らは異なる存在を視る訓練をしていると思うな。
或いは違う世界の生物、魔獣ホラーと戦ううちに耐性が付いたのか』


475 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 01:10:37.08 ID:UlScQPtlo

――ん? 彼ら?

 キュゥべえの発言に僅かだが引っ掛かりを覚える。
 鋼牙のような戦士が複数いて、キュゥべえはそれを知っている?
 言い間違いや推測の可能性もあり得るが、ともあれこの場で深く追求するのも面倒だ。
さやかは一旦キュゥべえの発言を聞き流した。

『これは忠告だけど、あまり彼に関わらない方がいい。彼は危険な存在だ』

「(そんな! あの人はそんなんじゃないよ!)」

「(違う! あたしたちのこと助けてくれて、ちゃんと事情を話すって約束したじゃん!)」 

 これには黙っていられなかった。
 さやかがキッとキュゥべえを睨むと同時に、まどかも声を――といっても心の声を、だが――荒げた。
 いくら命の恩人とはいえ、つい昨日出会ったばかりの人間を、何故こうまで庇うのか。
自分でも不思議だった。

 それでも、マミもまどかも、あの場に居合わせて彼を疑う者は一人もいない。
いや、ほむらだけはどうだかわからないが。
 彼が単なるホラーの敵対者なら、さやかに声を掛ける理由もない。
何より、槍の嵐から危険を冒してまでさやかを守る必要などあろうはずがない。

 少なくともあたしだけは知っている。白と黄金、二つの背中を間近で見ていた、あたしだけは。
あの人の剣は、人を守る為にあると。そう、さやかは信じていた。

 さやかとまどか、二人からの吊るし上げと視線を受けてキュゥべえは慌てて弁解する。

『わわ、落ち着いてよ! 言い方が悪かったね。彼個人の問題じゃなく、彼と深く関わることは、
ホラーとの関わりも意味する。彼がホラーを追っているのは確かなんだ。
奴にはマミですら勝てなかった、ある意味、魔女よりも厄介かもしれない』

「それは、そうかもしれないけど……」



476 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 02:11:40.17 ID:UlScQPtlo

 キュゥべえの言う通り、ホラーは恐ろしい。できることなら二度と関わりたくない。
でも、それは魔女だって同じ。キュゥべえは契約して自分たちにも魔女と戦えと言っているのに。
 何か釈然としないものを感じながらも、さやかは語尾を濁した。

 二人から反論がないのを確認して、キュゥべえは更に続ける。
 
『同じく暁美ほむら。彼女にも警戒すべきだ。君たちは見てないけど、僕を狙っていたのは彼女だよ。
魔法少女が生まれるのを阻止したかったんだろうね』

「(えぇっ、ほむらちゃんが!? だって、ほむらちゃんは……)」

 まどかがほむらを庇う。さやかは、それが何となく面白くなかった。
 そりゃあ、まどかにとっては彼女は自分を守ってくれたかもしれない。でも、ほむらはさやかに銃を向け、マミを脅した。
あまつさえまどかと組んだ肩を振り解き、闇の中に置き去りにした。
 認められるはずがない。キュゥべえを狙ったのも頷ける気がした。彼女はきっと、そういう類の人間。

「(でも……ほむらちゃんは私たちを守って……。魔法少女が邪魔なら、何で私たちを助けたの?)」

 違う。
 守ったのはまどか、ただ一人。他はついでに過ぎない。現に、いよいよ危ないとなれば、まどかだけを連れて逃げ出した。
 理由なんか知らない。どうでもいい。確かなことは一つだけ。

「(だったら、マミさんはどうして? ほむらちゃんはマミさんを助けたんだよ?)」 

 また、ほむらか。
 さやかは自分の内で黒く淀んだ感情が生まれるのを感じていた。
 まどかの言葉は正論。ほむらの行動原理は善悪どちらかで説明できるものではない。理屈ではわかっている。

 それでも。
 さやかには他に術がなかった。まどかを憎みたくないが故に、その捌け口はほむらに向けるしかなかった。

477 : ◆ySV3bQLdI. [ saga]:2011/09/05(月) 02:44:59.91 ID:UlScQPtlo

 心なしか息が苦しい。膨らんだ黒い感情が気道を塞ぎ、内臓を圧迫しているかのよう。
人を憎むのは多大なエネルギーを消費すると聞いた覚えがあるが、今なら実感できる。
 いや、それとも――莫大なエネルギーを生んでもいるのだろうか。
この、自らの意志とは無関係に身体を突き動かし、暴走を促すような、全身に行き渡る力の源は。

『彼女の本当の目的はわからない。でも、僕を狙ったのは事実だ。とにかく心に留めておいて』

 キュゥべえにも構わず、まどかとさやかは視線をぶつけ合う。
 まどかは悲しそうに、さやかは疎ましそうに。
 どちらも口は開かない。思考すら交さない。交すのは視線のみ。
一たび開けば止まらない、感情に任せた言葉の応酬になりそうだった。

478 : ◆ySV3bQLdI. [ saga]:2011/09/05(月) 02:46:29.32 ID:UlScQPtlo

ああ……タイトルコールまでも行きませんでしたが、あんまり書き溜めができなかったので、ここまで。
できれば明日……明後日……水曜までにもう少し進めたいです。
一応、二話は零と杏子とマミが中心になる予定。

気持ち地の文を減らしました。いきなり減らすと違和感がありますので。減ったでしょうか。
慣れてくれば、もう少し要約できるはず。

479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/05(月) 06:39:49.15 ID:TvdgMwvV0

おお、実に虚淵だねぇ
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/05(月) 12:14:50.53 ID:vR6LNgFxo
乙です

まあほむらはさやかから見たら本当に嫌な奴だしなあ
というかまどか以外から見たら(ry
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 19:42:04.68 ID:k5gSMfcAo
乙です。

そしてほむらがああなったのは別世界のマミやさやかの影響という……世界ってどこまでも意地が悪い。
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/07(水) 23:36:47.05 ID:aUW3ZYzAO
キバ見たがパネェ
第2期に出てきそうな伏線いっぱい出てきた

483 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:29:44.44 ID:TlUijr0yo

「あの~……、お二人ともさっきから何を見つめ合っているんですの?」

 いつまでも動かないまどかとさやかの間に、仁美が割って入った。
 傍目からは、二人が無言で見つめ合っているようにしか見えないのだ。
ようやくそれに気付き、揃って返答に困っていると、

「はっ!? まさか二人とも、既に目と目でわかり合う間柄ですの?」

 何を勘違いしたのか、仁美は赤らんだ頬を押さえ、身体をくねらせながら首を振る。
 彼女らしい愉快な冗談。
普段ならここでさやかのツッコミが入り、まどかは引き気味に笑っているような、そんな場面。
 しかし、彼女の言うところの禁断の恋中の両者はピクリとも笑わず、気まずそうに視線を彷徨わせている。

「でも、いけませんわ。女の子同士でそんな……それは禁断の恋――なんて……」

 流石に空気の読めない場違いな冗談と自分でもわかっていたのか、仁美はコホンと咳払いをして、表情を引き締める。
 彼女なりに空気を変えようとしてくれたのは嬉しいのだが、そんな程度でどうにかなるレベルではなかった。
まどかもさやかも、とても笑い合うような気分にはなれなかった。

「こんな剣呑な雰囲気で、それはありませんわね。それくらい、私にもわかりますわ。
あれから喧嘩でもなさったんですか? 私でよろしければ相談に乗りますけど……」

 一転して真面目な顔になった仁美が親身な態度で尋ねるも、二人は口を噤んだ。
 天然の割に見るべきところは見て、察するべきところは察してくれる彼女は、
今回も親友同士の確執を早々に見抜いた。

 その気持ちは嬉しかった。涙が出るくらい。だからと言って話せる訳がない。
 魔女の使い魔、マミという魔法少女、転校生の正体、そしてホラーと黄金騎士。
上手く説明できる自信もなければ、信じてもらえるとも思えない。

484 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:33:23.57 ID:TlUijr0yo

 結局は、

「仁美ちゃん……」

 まどかのように迷った挙句に沈黙するか、

「仁美……ううん、何でもないよ。本当に、何でもないから」

 さやかのように笑って誤魔化すかの二択しか用意されていないのだ。
 何でもない。その台詞が上滑りしているのは自覚していた。
 あたしは上手く笑えているだろうか。誤魔化せているだろうか。

「そうですか……」

 不安は、寂しそうに目を伏せる仁美を見た瞬間に確信に変わった。
 仁美は気付いている。そして自分だけ除け者にされる疎外感に傷付いている。
 本気で心配してくれる友達に嘘を吐いて隠し事をするのは心が痛い。
それでも何でもないと答えた手前、今さら真実は打ち明けられない。

「さ、早くしないと遅刻しちゃうよ。今日も頑張っていこー!」

 せめて動揺を悟られないよう誰より前を歩き、声を張り上げる。
 空元気と空虚な笑顔を振り撒きながら。
 しかし隠しきれない僅かな不安と罪悪感が、揺れる瞳に湛えられていた。
 昨日の朝とまったく変わらない快晴の空を見上げて、さやかは思う。

――もう取り戻せない。

 この世界の裏側なんて知らなかった。知りたくもなかった。
けど、知ってしまった。そして、あたしも変わってしまった。
 だから戻れない。もう昨日までの自分にも、昨日までの親友にも。
 もう戻れないんだ、そう心のどこかで漠然と予感していた――


485 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:33:52.52 ID:TlUijr0yo

*

まどか「黄金の……狼……」

 第2話

 君にその勇気があるのなら

*

486 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:40:28.80 ID:TlUijr0yo

 見滝原中心部、駅前に位置するシティホテル。
一等地に位置するホテルは外観も立派で内装も豪奢、それなりに上等なホテルである。
 時刻は朝の9時を回った頃、ロビーから出てきたのは、酷く場違いな男だった。
と言っても、彼の服装ならどこに居ても浮いてしまうだろう。だのに、男に恥じる様子は一切見られない。
 
 もう季節は春なのに、上下とも黒のインナー、脛まである白のロングコート。
 男の名は冴島鋼牙。
 昨日、見滝原を訪れたばかりの魔戒騎士にして、
ショッピングモールで少女たちを助けた黄金騎士・牙狼。

 少女たちと別れた後も明け方まで街の探索をしていた割に、足取りは確か。
寝惚け面を晒したりもしない。いつも通りの仏頂面である。
 鋼牙は起床後、コーンフレークと簡素な朝食を平らげて、準備を整えるとすぐに街に出た。

 ホラーの活動は基本的に夜である。魔女も然り。
 魔戒騎士の昼間の仕事は、ホラーのゲートになる場所を探し、影に潜むエレメントを浄化すること。
陰我のあるオブジェが魔界と顕界を繋ぐゲートとなるのだが、これによってホラーの出現を未然に防げる。
 すべての浄化は不可能でも大分楽になる。何よりホラーが人に憑依すれば、
その時点で確実に一人犠牲者が出ている。憑依された人間だ。故に地味でも必要な仕事だった。

 当座のねぐらと定めたホテルを出るなり脇道に逸れると、左手中指にはめたザルバが口を開く。

『鋼牙、本気か?」

「ああ」

 質問の内容も確認せず、即答する鋼牙。
 昨夜も同じ問答があった。それを敢えて繰り返すのは、相当に重要な問題であるという意味。特に彼らの仲では。
 ザルバが鋼牙に食い下がるなど常なら滅多に起こり得ない。
487 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:42:05.95 ID:TlUijr0yo

「あのお譲ちゃんたちにホラーと魔戒騎士の情報を明かすなんざ掟に触れる罪。
牙狼の称号を持つお前なら尚更だ。番犬所どころか、元老院のお偉方だって黙っちゃいないぜ』

「必要な措置だ、深くは話さん。どうせ知ったところで、何ができる訳でもないだろう」

『そりゃそうだ。ま、バレなきゃ問題はないだろうが……』

 ザルバはやや呆れ気味に答えた。鋼牙は頑として考えを変える気はないらしい。
 まぁ、記憶を失っているといえども長年の付き合い。
鋼牙が決断を簡単に翻す人間でないと、本当は問う前からわかり切っていた。

 掟や制約など軽々と踏み越えていく。
 何より最優先すべき大前提。
 それは魔戒騎士に課せられた使命。

 人に仇為す者を討ち、人を守る。

 その為に邪魔になるなら、掟だろうと構わない。自由を縛る鎖はいらない。
 数年前、一人の女性と関わった頃から鋼牙は変わった。
魔戒騎士として命を賭してホラーと戦う生き方は同じ。けれども、顔もない誰かの為ではない。


488 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:43:51.35 ID:TlUijr0yo

 世界で一番大切な人と、そこに繋がる数多の人が。
 更に、そこから無限に枝分かれしていく人々の絆が。
 今の鋼牙には、はっきりとイメージできている。

"大衆"や"一般人"なんて名前ではなく、彼らにも友や家族や恋人がおり、分岐を辿ったどこかで自分と繋がっている。
 だからこそ以前にも増して、守り抜くと誓った意志が、確固たるものとして鋼牙の両足を支えている。
 時に無用な敵も作る。楽な生き方ではないだろう。
 だが、人の営みの中で何かを変える人間とは、総じてこんな愚直な人間――言い換えれば馬鹿なのかもしれない。

 鋼牙が一人の女性を救う為に掟を破ったように、彼女の想いが窮地の鋼牙に比喩でなく力を与えたように。
自らを信じ貫く一念が、掟や常識、法則や摂理、果ては運命すらも塗り替える。

 もしもこの世に奇跡なんてものがあるとすれば、それを言うのだろう。
ザルバはそれを誰より間近で見てきた。鋼牙の戦いと、彼が起こしてきた奇跡を。
奇跡などという陳腐な言葉、鋼牙はきっと否定するだろうが。

 最早、何も言うまい。
 ザルバは魔導輪の役割に徹すべく、エレメントの探索に意識を集中させる。
 元より鋼牙がどんな選択をしようと、付き合う覚悟はとうにできている。
共に過ごした長年の記憶が朧げだろうと、それが彼の"ザルバ"である証なのだから。


489 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:44:22.04 ID:TlUijr0yo

*

牙狼―GARO― 魔法少女篇

 第二話

 牙城

*


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