孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~506 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/12(日) 18:31:56.26 ID:yodFAbRko エピローグ
不思議な夢を見た。
そこには俺がいて、俺の周りに十代くらいの少女たちが集まり談笑している。
実に楽しそうな光景ではあるけれど、そんな状況はありえない。
俺には子どもはいないし、結婚すらしていない。最後の恋人と別れてもう数年になる。
ずっと一人だったはずだ。
学校の教職員でもないかぎり、こんな風に子どもたちに囲まれているということはない
だろう。
一人の少女が笑いかける。長い髪を後ろに束ねたその少女は、ちょっと生意気そうだけれども、とても癒される笑顔を見せていた。
ふと、バニラエッセンスの香りがした。
夢の中でも匂いは感じるんだな。
いつもより早い朝。
変な夢を見たり、早起きをしてしまったりしたのは、慣れないホテルの枕が悪かったからだろうか。
この日、俺は仕事のために群馬県になあるホテルに泊まっていた。
多忙な顧客に合わせて、朝早く商談を行うために、こうして前日に現地入りしていたのだ。
しかし起きる時間が早すぎた。
せっかく、前日入りしたのだからもう少し寝ていたかったのだが、なぜか眠れなかった。
仕方なく、俺は着替えをして朝の散歩をすることにした。
季節は春。
冷たい空気が心地よい。
今年は例年に比べて春の気温が低く、群馬県内では桜の開花が遅れたというニュースを聞いたことがある。
だがそのおかげで、俺は満開の桜を見ることができた。
東京の桜よりも、やや赤みがかった花びらを散らせた桜並木を俺はゆっくりと歩く。
「おはよー」
「花、きれいだね」
中学生らしい制服姿の生徒たちが何人も見えた。
どうやらここら辺りの道は、学校の通学路になっているらしい。
この先に中学校があるのか。
俺は元来た道を引き返すことにした。
学校は今の俺にはまったく縁のない場所だ。これまでも、そして恐らくこれからも。
前を見ると、制服を着た二人組の女子生徒が歩きながら話をしている。
「昨日もちょっと話したけど、新しく来た転校生が、ウチの部活に入りたいんだって」
「確か、あの下の名前みたいな苗字のやつだよな」
「そう、苗字がアケミで、下の名前がホムラ」
「なんで、ウチの部活に」
「パスタしか作れないから、色々な料理を習いたいんだって」
「ウチはうどんかお菓子しか作らねえけどなあ」
「これを機に、新しいものを作らせてもらいますか。ハハハ」
女子生徒の一人は、長い髪を後ろで束ねており、もう一人は短めの髪だった。
どこにでもいるような、普通の中学生。
そんなことを考えながら彼女たちとすれ違った時、
――バニラエッセンス?
バニラの香りをさせる少女を、俺は知っていたような気がする。
俺は立ち止まった。
「どうしたの、キョウコ」
「あ、いや……」
もしも、俺がここで振り返ったら、彼女も振り返る。
なぜか知らないけれど、そんな確信があった。
けれども、名も知らぬ少女と相対して、何と声をかければいいのだろう。
俺は心の中で踏みとどまる。
俺たちは、出会ってはいけない――
なぜかわからないけれど、そんな思いが頭の片隅に残っていた。
心地よい春の陽だまりなんて、俺には似合いませんよ。
再び俺は歩き出す。さて、そろそろ頭を仕事モードに切り替えなければ。
「ふにゃあ!」
他所事を考えていると、何かが俺の胸、というか腹の辺りに当たった。
「なに?」
俺の目の前に、尻餅をついた女子中学生らしき少女がいた。
やや長めの髪の毛を左右に縛った髪型に、赤いリボンを付けた姿がやけに印象的だった。
どうやら、考え事をしている俺とぶつかってしまったらしい。
「だ、大丈夫か」
「平気です。ゥェヘヘヘ」
俺は少女の華奢な手を引いて、助け起こした。
「ごめんなさい、単語帳見ながら歩いてたもので」
「いや、いいんだ。俺も少し考え事をしていて」
少女が、パンパンとお尻の辺りを払っていると、俺の後ろから誰かが声をかけてきた。
「おおい、まどか。何をやってんだよ」
「あ、キョウコちゃん。おはよう」
「おはようじゃないだろう、人にぶつかっておいて」
「えへへ」
俺の目の前には、もう一人の少女が現れた。
さっき、俺とすれ違った少女の一人だ。
「キミは……」
「ん?」
俺は、そのキョウコと呼ばれた少女に何と声をかけていいのかわからなかった。
「うーん、友達が迷惑かけたな」
「いや、別にそんなことは……」
俺と向かい合ったその髪の長い少し気の強そうな少女は、少しだけ考えた後に、なぜかお菓子の箱を取り出して俺に差し出す。
「なに?」
箱には、数本のポロツキーが入っている。
それを差し出した状態で、彼女は唐突に言った。
「……食うかい?」
お わ り
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~447 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/11(土) 21:33:56.41 ID:c8TMX/uIo 第十二話 決戦
時間が経つにつれて、徐々に風が強くなってくるように感じる。
そんな真夜中のホテルの屋上で、俺は杏子と正対していた。
「……なあ、五郎。……アタシのこと……、好きか?」
「なにを……」
神妙な面持ちで唐突な質問をしてくる杏子に、俺は少し戸惑ってしまった。
「いきなり何を言ってるんだ」
「だって、聞いておきたいんだ。五郎の気持ち」
「俺の気持ち?」
「明日、どうなるかわからないから。なあ、アタシのことどう思ってる?」
「いや……、好きだぞ。杏子のことは」
「……じゃあ、アタシたち、恋人同士か?」
「え?」
「違うのか」
「いやちょっと待て。なんでそうなるんだ」
「だって、男と女が好き同士なら、恋人同士なんだろう? さやかも言ってたぞ」
さやかめ……。
「恋人同士には、なれないのか?」
「落ち着け杏子」
俺が杏子に歩み寄る。離れている時は暗くてよくわからなかったけれど、近くに行くと彼女の小さな肩が小刻みに震えているのがわかった。
彼女はとても不安なのだろう。
俺ですら不安で眠れないのだ。当然かもしれない。
だが杏子の目は真剣だ。不安定で、不器用で、それでいて純粋な目。
俺は大きく息を吸った。
そして、彼女の顔を真っすぐ見据える。
「杏子、よく聞け」
「うん?」
涙を溜めた瞳が俺の顔を見上げた。
「お前とはまだ、恋人同士にはなれない」
「それは……、アタシが魔法少女だからか?」
「そうじゃない、よく聞けよ」
「……」
「恋愛っていうのは、対等な男と女の間であるべきなんだ」
もちろんそれは理想論だ。対等な男女交際なんて、俺の周りでも数えるほどしかなかった。
「俺は大人で、お前はまだ子ども。正確に言うと、大人になりかけた子どもだ。まだ大人じゃない」
「大人じゃない……」
「だから、俺と恋人同士になりたかったら、まず大人になれ。話はそれからだ」
「大人になるって、どういうことだよ」
「焦らなくてもいい。友達と遊んだり、勉強したり、運動したり、色々なことを知って、感じて、そして、少しずつ大人になっていけばいいんだ」
「……」
「そうやって過ごす毎日が、お前を素敵な大人にする」
「じゃあ、アタシが大人になったら、五郎と恋人同士になれるんだな」
「……まあ、そうかな」
「わかった」
杏子の顔に笑顔が戻る。
なんだか憑き物が落ちた、というような感じだ。いや、それはちょっと言い過ぎか。
「五郎っ」
「どうした」
「アタシ、周りがうらやむような超凄い大人になってやるぜ」
「そうか」
「だから」
「ん?」
「ちょっと耳貸して」
「なんだ?」
俺が身体を屈めると、急に杏子が首に腕を巻きつけてきた。
柔らかい感触が、俺の頬に伝わってきた。
「へへっ」
「杏子……」
「前払いだよ。じゃあな」
そう言うと、顔を真っ赤にした杏子は、屋上の出入り口まで走って行った。
俺は彼女に口づけされた頬を触りながら、誰もいない屋上にしばらくたたずんでいた。
すると、頭の上にポタリと雫が落ちる。
空を見上げると、暗い雲から大粒の雨が降り始めたようだ。
夜半から降り始めた雨は、翌日の朝になると激しい雷雨となって見滝原の街を覆った。
*
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~401 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/10(金) 21:08:09.98 ID:ZuHc8EUYo 第十一話 憤怒
暁美ほむらの自宅。
リビングに集まっていた俺たちは、黙ってほむらの話を聞いていた。
「……」
食べ物を見ればとりあえず手を伸ばす杏子が、目の前にあるシウマイにまったく手を付けず、じっとしている。
ワルプルギスの夜。
ほむらがそう呼ぶ魔女は、これまでの魔女とはまったく異なる最強の存在らしい。
「そんなの、アタシ一人でも楽勝だよ」
杏子は最初、そう言っていた。
だが、淡々と語られるほむらの言葉に、杏子だけでなく集まった魔法少女たち全員が言葉を失ってしまう。
ワルプルギスの夜は結界を必要としない。
具現化しただけで大規模な嵐を起こし、街は壊滅状態になる。
魔女の従える使い魔も、通常の魔女並みに強い。
ほむらはあらゆる時間軸で、いくどとなくその魔女に挑み、そして敗北した。
絶対的な強さと魔力を持つ魔女。それがワルプルギスの夜。
「鹿目まどかは、そのワルプルギスの夜から街を守るため、魔法少女となり、そして……」
「ちょっと待ってくれよほむら」
そこで杏子が口を挟む。
「なに、杏子」
「鹿目まどかって、キュゥべえの話だと、滅茶苦茶凄い魔法少女らしいじゃないか。だったらなぜやられたんだよ」
「それはわからない」
「わからないって……」
「何度か時間軸を繰り返していくうちに、ワルプルギスの夜を倒せるほどに魔力が増していったことだけは確かよ。でもその代わり、最強の魔法少女は最悪の魔女となって、この世界を壊す……」
「つまり、そのワルプルギスの夜と戦うために、鹿目まどかさんが魔法少女になったら、不味いってことよね」
マミがほむらの言葉を先読みするように言う。
「その通りよ。あなたたちが宇宙の法則を変えようとすることはわかる。でもその前に、私はあの魔女を倒さなければいけないの」
「ちょっと待てよほむら」
杏子はほむらの言葉を止めた。
「“私は”、じゃなくて、“私たちは”、だろ?」そう言って片目をつむる。
「杏子……」
「そうよ、ほむらさん。私たちがいるわ」マミも杏子の言葉に続く。
「この正義の魔法少女さやかちゃんがいる限り、負けませんよ」
「オメーは補欠だ、さやか」
「なんですってえ?」
「うるせえ」
杏子とさやかの二人が喧嘩をはじめた時、
「……クスッ」
「ん?」
全員が再びほむらの顔に注目する。
目を細めている彼女は、明らかに笑っている。
「ほむら?」
「ごめんなさい。バカにしているわけじゃないの。ただ、あなたたちが騒いでいるのを見ていると、久しぶりに楽しい気分になってしまって」
「なんだ、ほむらも笑うんだな」
そう言った杏子もなんだか嬉しそうだ。
「どういう意味よ」
ちょっと怒ったような感じだったので、俺はフォローを入れておくことにした。
「暁美さん、キミは笑顔のほうがずっと可愛いってことだ」
「……!」
一瞬、全員の動きが止まった。
「……ケッ」杏子はそう言って顔を背ける。
「あーあ、そういう人だとはわかっていたけど」なぜかさやかも不機嫌そうな顔になった。
「おい、何があった」
俺はマミのほうを見て聞いてみる。
「五郎さん……」
「なんだ」
「女心にはもっと敏感になってもらわないと」
女心?
「へ……変なこと言わないで」
ほむらも、杏子と同じように顔をそむけた。
しかし耳まで真っ赤なのはなぜだろう。風邪か?
「暁美――」
「……ほむら」
「ん?」
「呼び方、ほむらでいいわ」
ほむらは、俺と目を合わせることなくそう言った。
「ああ、そうなのか。わかった。じゃあよろしく、ほむら」
「……よろしく」
俺は杏子がそうしたように、ほむらと握手をする。
大人っぽい雰囲気とは裏腹に、まるで小さな子どものように柔らかい手の感触であった。
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~360 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/09(木) 20:22:21.26 ID:vDKi4wqHo 第十話 虚飾
彼女の第一印象は、キレイな黒髪だと思ったことだ。
しかしその瞳は多くの憂いを含んでいるようにも見えた。
一昨日までの曇り空とは違い、さわやかに晴れたその日の朝、初夏を匂わせる強い日差しの中でその少女は俺たちの前に姿を現す。
「暁美ほむらか……?」
「そうよ。あなたは」
「井之頭五郎」
「イノガシラ、ゴロー……」
暁美ほむら。美樹さやかの時のように、話が通じない相手、ということはなさそうだ。
「おい、どういうつもりだ」
「待て杏子」
ほむらに歩み寄ろうとする杏子を制し、俺は彼女たちの前に出た。
「五郎さん」
「心配するな」
俺はマミや杏子たちの姿をチラリと見る。二人とも心配そうな顔をしている。
ただ、こんな朝早くから周りに人もいるのに、いきなり刺されるということはないだろう。
多分……、恐らく。
「俺のことは知っているのか」
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「少しだけ。あなたも私と同じイレギュラーな存在のようね」
「どういう意味だ」
「それを知る必要はないわ」
「鹿目まどかに係るなと言ったが」
「その通りよ」
「なぜ」
「あなたに理由を教える義務はないわ」
「まどかを守るためか?」
「……」
ほむらは答えない。
「俺たちには彼女の力が必要なんだ」
「彼女の力を使えば、どうなるかわかっているの?」
「その言い方だとキミはわかっているようだな。魔法少女のなれの果てを」
「……ええ。わかっているわ」
「だったら尚更」
「彼女には何もさせやしない。まどかを守るのは、私なんだから……!」
ほむらは歯を食いしばる。
ギリッという音が聞こえてきそうなほど、彼女の意志が伝わってくる。
「なぜキミはそれほど」
「答える義務はないわ」
そう言うとほむらは、まどかたちと同じ方向へと歩いて行った。
「おい待ってくれ」
「……」
俺の呼びかけに、ほむらは応えることなく、ずんずんと学校へ向けて歩いて行くのだった。
「なんだあの女」
杏子の声は不機嫌そうだ。
「感じ悪いわね」と、マミも続く。
暁美ほむら、彼女は何者だ?
鹿目まどかとどのような関係なんだろうか。一度、まどかにも直接聞いてみたほうがいいかもしれない。
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~316 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/08(水) 20:49:32.53 ID:kKuJVhQho 第九話 憂鬱 ~後編~
夜の公園で、尋常じゃない瘴気を放つ少女。
昼間に鹿目まどかから貰った写真を思い出す。
短い髪、身長などから見て、美樹さやか本人で間違いないだろう。
「マミ、鹿目まどかに連絡を」俺は小声でマミに伝える。
「わかったわ」マミは素早く携帯電話を出す。
「杏子」
「わかってる」
杏子は主要武器(メインウェポン)である槍を構える。
俺は杏子のすぐ側で、美樹さやかと思われる魔法少女に声をかけた。
「美樹さやかさんだね」
「……」
少女は答えない。
「キミの友達、鹿目まどかくんに頼まれている。キミを迎えに来たんだ」
「……まどかに?」
少女の肩が小さく揺れる。親友の名前はまだ脳裏に刻まれているようだ。
「一緒に来てくれないか」
「……どうして」
「どうしてって」
「私はもう、戻れない……」
「何?」
「戻れないって、言っているの。私のことは放っておいて!」
一瞬、強い風に襲われる。
「五郎!」
杏子が俺の前に立つ。
いつの間にか、美樹さやかは白刃を振い、杏子に斬りかかっていた。
「杏子!」
「五郎、いいから下がってろ! こいつはアタシが制圧する! マミも手だし無用だ!」
二度、三度と剣が振るわれる。不気味な光を放つ片刃の剣を、杏子は槍の柄で素早く払いのけた。
杏子の動きも早いが、さやかの動きはそれ以上に早く見える。
「五郎さん、こっちへ」
俺はマミに手を引かれ、杏子の戦いを離れたところから見守ることにした。
「連絡は?」
「したわ。すぐこっちに来るって」
「そうか」
鹿目まどかへの連絡も重要だが、今の俺たちの関心の九割は杏子とさやかとの戦いである。
「大人しくしろ、このっ!」
「うるさい、私の街から……出て行け……!」
剣が振るわれる度に、黒い靄(もや)のようなものが見える。
「くっそ、話は聞いてもらえそうにねえな」
大丈夫か、杏子。
「少々手荒なことになるが、我慢しろよっと」
そう言うと、杏子は自らの槍の柄を分離させる。
柄と柄の間は鎖で繋がれており、この鎖による攻撃や牽制もできる。
その鎖を見てさやかは飛ぶ。
魔法少女らしく彼女も身体能力は飛びぬけているようだ。
「逃がすか!」
杏子は鎖ガマのように、槍の先端をさやかに投げつけた。
しかし空中で機動を変えつつ、さやかは杏子の攻撃をかわす。
「悪いが、アンタの得意な土俵で戦うほどアタシはお人好しじゃないんでね」
杏子の槍のほうが、さやかの剣よりも若干リーチが長い。
攻撃力が高くても、その攻撃が届かなければ意味がない、ということか。
杏子は槍を元に戻すと、先ほどよりも柄をやや長めに槍の再構成して、さやかに対し攻撃を仕掛ける。
「せいや!」
「……!」
さやかはそれをなぎ払う。しかし、はじかれた槍は、柄の部分が分離し、鎖が出てくる。
「……」
暗くてわかりにくいが、さやかの顔から戸惑いの表情が見えたような気がした。
「これまで戦ってきた魔女は、こんなしたたかな戦いはしていなかったでしょうからね」
マミは、まるで自分のことのように得意気につぶやく。
確かに。杏子はこれまで、俺と出会う前も後も、数え切れないほどの戦いを経験してきた。
ありとあらゆる戦闘パターンを知っているはずだ。
並みの魔法少女では、敵うはずがない。
だが――
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~275 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/06(月) 20:39:05.67 ID:DVwpjUl1o 第八話 憂鬱 ~前編~
俺と杏子が都内某所で名も知らぬ魔法少女に襲われたあの日から数日後、俺たちは自動車に乗って群馬県へと向かっていた。
群馬県の見滝原という場所に、キュゥべえの言っていた「鹿目まどか」という少女がいるという情報を掴んだからだ。
群馬県に行くということで、この日はいつも俺が乗っているボルボではなく、アウディA8の防弾装甲仕様車、「A8Lセキュリティ」を借りて、それを運転している。
「群馬県……、大変な場所ね」
後部座席に乗っているマミが携帯電を眺めながらつぶやく。
「何が大変なんだよ」隣に座る杏子が聞いた。
「群馬県は非常に危険な所よ」
「危険?」
「あそこは日常的にライフルやライフル弾が売買されているし、対戦車火器や携帯式対空ミサイルなんかも出回っているって話よ」
「はあ?」
「都市部は比較的安全だけど、農村部や山間部では匪賊の活動が活発で、政府の車両や施設などがしょっちゅう銃撃されているらしいわね。
住民も、自衛のためにライフル等で武装しているから各地で銃撃戦が絶えないわ」
「そこって、日本なのか?」
「群馬県よ」
「すげえな群馬県」
「ソマリアかシオラレオネ並みの危険度があるから注意しなさい」
「携帯電話通じるのか?」
「群馬県では、都市部以外で有線通信をすると、通信線を盗まれてしまうから、逆に携帯電話や無線通信の技術が発達したそうよ」
「なるほどねえ」
そうこうしているうちに、群馬県の県境付近に到着した。
県境では、89式小銃で武装した県境警備隊が俺の身分証を確認する。
県境を抜けると、道のすぐ近くには「危険、山間部への立ち入りを禁ず」とか「この先地雷原」などという看板がいくつも見られた。
すでにここは群馬県なのだ、ということをいやが上にも感じさせられる。
「お前ら、ちゃんとシートベルトしろよ」
俺は後ろの二人に呼びかける。
「なんだよ、高速道路でもないのに」杏子は文句を言ってきた。
「ちゃんと閉めておきなさい。あと、ここからはあまりお喋りはしないほうがいいわね」それをたしなめるマミ。
俺は二人がポップコーンなどを持っていないことを確認してからアクセルを踏み込んだ。
「うわっ!」
通常の道ならスピードを出し過ぎると危ないのだが、ここは群馬県だ。むしろスピードを出さないほうが危ない。
ノロノロ走っていたら匪賊の餌食になってしまう。
こうして俺たちは、約1時間かけて「前橋都市群」へと到着した。
*
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~254 : ◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/04(土) 21:12:06.36 ID:kCEFXT2Wo 週末特別編
魔法少女まどか☆マギカ
VS
究極!! 変 態 仮 面
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~216 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/03(金) 21:01:57.61 ID:skeHMvKbo 第七話 傲慢
その日、いつもより早く目が覚めたので、そのまま起きることにした。
台所に行くと人の気配がする。
杏子が早起きして朝食でも作っているのだろうか。
そう思い、とりあえず洗面所で顔を洗っていると、鼻歌交じりの歌が聞こえてきた。
「~ほんとめったに二人、ケンカをしない♪
そう秘訣はね、あさごはんなの♪」
随分と懐かしい歌が聞こえる。
「マミが作る オムレツをー、一度たーべたらー♪
すきやきも、しゃぶしゃぶも、とても、とても、かなわない♪」
ん?
台所に行くと、そこには杏子ではなく、学校の制服姿にヒラヒラのついたエプロンを付けたマミがフライパンを持っていた。
「マミ?」
「オムレツ上手は料理上……、あ、五郎さん。おはようございます」
「いや、ああ。おはよう。どうしたんだ」
「どうしたって、朝ごはんを作っているんですよ」
「いや……、なんで?」
どっから入ってきた。
「杏子に聞いたんですけど、五郎さん朝食をあんまり食べないって」
「いや、まあ」
面倒だから食べないことが多いだけだ。
「いけませんよ。朝食は一日の始まりなんですから。重要なんです」
「はあ……」
「杏子も起こしちゃってくださいよ」
「そうか」
最近はマミがウチのマンションに来ることも多くなった。
杏子も年の近い友達がいればそれなりに気分転換にはなるだろう
(勝手に入ってくるのは勘弁してもらいたいものだが)。
別にそれが嫌だというわけではない。むしろ、嬉しいとさえ思っている。
自分が彼女たちのいる生活に慣れてきているのだ。
仕事で疲れていても、杏子やマミの笑顔を見ているだけでホッとすることがあるのだ。
俺はこの日常をずっと続けたいと思っているのだろうか。
いや、ダメだ。このままではダメなんだ。
彼女たちと過ごす日々の心地よさに流されてしまいそうな自分の気持ちを振り払う。
一歩間違えれば俺たちは死んでしまうような、危うい戦いを続けている。
今まで生き残ってこれたのは、単に運が良かっただけなのかもしれないのだから。
いい加減この生活にピリオドを打つ打開策を考えなければならない。
キュゥべえはどうだ。
正直あの生物は信用できない。何かを隠しているような気がする。
だいたい幼い少女たちを戦いに駆り出させる連中に良心があるだろうか。俺はそうは思わない。
俺のこの“魔女を引き寄せやすい体質”だって、本気で治そうとしているように見えないし。
「朝っぱらから何しけた面してんだ、五郎」
「ん?」
杏子が食パンをかじりながら俺の顔を覗き込む。
「いや、まだ寝ぼけてるのかな」
「そんだけコーヒー飲んでもまだ眠たいのか?」
「ん? ああ」
気がつくと俺のコーヒーカップは空になっていた。
「五郎さん、コーヒーのお代わりはいかが?」マミが笑顔で聞いてくる。
「ありがとう、頼む」
「変な奴だな」そう言って杏子はミニトマトを口に運んだ。
奇妙な日常だ。
それでいて心地よい。
だがその心地よさが、薄いガラスのように簡単に、
脆く崩れやすいこともわかっている。
*
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~171 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/02(木) 21:02:19.90 ID:JBz0hJnOo 第六話 貪欲
欲望が支配する街。
そう言うとカッコイイかもしれない。
とはいえ、六本木や新宿の街ならその欲望も理解できないこともないが、この街の欲望はよくわからない。
本当にわからない。
東京、秋葉原。
十数年前に来た時はまだ「電器街」として有名だった。
当時から、そして今も電子機器には疎い俺にとって秋葉原は縁遠い街だ。
しかしその秋葉原も今はもっと縁遠いものになってしまった。
「おかえりなさいませー、ご主人さまー」
「新作、まどか☆イチローのDVD、ブルーレイが入荷しましたあー!」
「新人アイドル、サクライリホちゃんのスペシャルライブです! 是非一度ご覧ください!」
頭がクラクラする。
街を行き交う人々の服装も、ここでは独特なものが多い。あれはゴスロリと言われるファッションだろうか。
全身黒の服で統一している若者がいると思えば、街中なのになぜか白衣で歩きまわっている青年もいる。
「俺だ、何? 本部のサーバが攻撃を受けた?」
「厨二病乙」
「オカリーン、待ってよー」
以前来たときですら理解不能だったのこの世界が、余計に理解不能なものになっている。
電器店には、大きな垂れ幕だ。やたら目の大きい女の子の絵が描かれている。
よくわからんな。
「なあ五郎、なんでこんなところきてんだ?」
俺の隣には、いつもの杏子がポロツキーをくわえながら歩いていた。
「ちょっとな、携帯電話が古くなったんで新しい機種を見ようと思ってさ」
「そうか。アタシは携帯とかよくわかんないからなあ……。あ、そういやマミは?」
「学校だろう?」
「学校?」
「そりゃ、マミくらいの年なら学校行くのは当り前……」
「学校か……」
「悪い」
「べ、別に気にしてねえよ。学校なん面倒くせえだけだし。それに……」
「それに?」
「学校行ってたら、こうして五郎と一緒にいられなくなるじゃねえか」
「そうかい」
「バカ、何言わせんだ。アタシは外で待ってるから、アンタはさっさと携帯でも何でも買ってくりゃいいだろう」
「ああ」
*
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~127 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/05/31(火) 20:55:24.94 ID:caJxe4O5o 第五話
怠惰
春の眩しい光が木々の青さを際立たせる。
東京都練馬区にある石神井公園は、井之頭公園や代々木公園とはまったく違う雰囲気を
かもしだしていた。
近くに有名な観光地や繁華街が少ないせいか、ここを訪れる人々の顔ぶれも何か違って見える。
世間では日曜日のようで、訪れている人も夫婦や家族連れが多い。
「いい天気ですね、五郎さん」
「ん、ああ」
そして俺はなぜか、この公園を巴マミと一緒に歩いていた。
――話は今朝に遡る。
この日、俺は予定していた商談がキャンセルになったこともあって、暇を持て余していた。
こまったぞ、せっかく早起きをしたのに。
個人で商売をしていると、こういういおともままある。
たまっていた事務仕事をやるのもいいのだが、どうも気乗りしない。
奥の部屋で寝ている杏子は、まだ起きていないようだ。
その時、玄関のチャイムが鳴った。宅配便でも来たのか。
しかし違った。
「おはようございます五郎さん」
「マミか……?」
杏子と同じ魔法少女の巴マミが朝から訪ねてきたのだ。
杏子と違って、彼女にはちゃんとした家があるので、俺の家に転がり込むようなことはしない。
それにしても今日の巴マミはいつもと様子が違う。
「その服……」
「あ、変でしたか?」
「とりあえず、中に入ったら」
「では、お邪魔します」
巴マミは、いつもの学校の制服姿ではなく私服姿だった。
上着は彼女のイメージカラーである明るい黄色を基調としたコーディネートで、ベージュのロングスカートが大人っぽさを演出している。
まだ中学生のくせに。
「コーヒーくらいしか出せないけど」
「お構いなく」
「それで、今日は何の用できたんだ? 学校は?」
マミは杏子と違い学校に通っていた。
「今日は日曜日ですよ、五郎さん」
「あ、そうか」
「それで、用なんですけど」
「うん」
「私と、お出掛けしませんか?」
「はい?」
「だって、せっかくの日曜日ですよ。しかもこんなにいい天気」
「いや、だってそんな急に言われても……」
そんな話をしていると、杏子が起きてきた。
「ふああ、誰か来てんのか?」
杏子はマンションでは相変わらず、ジャージ姿だ。そしていつものように髪を結んでいない。
「あら杏子、今お目覚め?」
「んだよ、なんでマミがいるんだ? 魔女か?」
「魔女じゃないわ」
「じゃあ何だよ」
「五郎さんとお出掛けをしようと思って」
「お出掛け? なんか子どもみたいだな」
杏子はあまり感心なさげにつぶやく。
「五郎さんは今日、何か予定があるですか?」
「いや、予定はあったんだが、今朝キャンセルになった」
「じゃあ、丁度よかったじゃないですか」
「ああ、でも」
俺は杏子のほうをチラリと見た。
「アタシはパス」
「ん?」
「今日スカパーで、見たいドラマが連続でやってんだ。それを見て過ごすことにするよ。出かけるんなら、五郎とマミで行ってくりゃいいだろう」
「あら、いいの? 杏子」マミが少し微笑を浮かべながら言う。
「かまわんよ」
「五郎さん、いいですか? 私と二人でも」
「まあ、別にいいか」
「じゃあ、決定ですね」
「ふむ……」
なんだか変な展開になってきたぞ。俺はそう思いつつ、残ったコーヒーを飲みほした。
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~89 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/05/30(月) 20:13:30.03 ID:U8SC6v4Lo 第四話
淫欲
ジャンボジェット機が随分と大きく見える。かなり低い高度で飛んでいるからだろう。
羽田空港が近くにあるので当り前といえば当り前だ。
自分が運転している自動車から外の様子を見ると、巨大な工場がいくつも見える。まるで巨人の内臓がむき出しになっているようだ。
目の前に広がる京浜工業地帯に旅客機が突っ込んだら、東京が終わるのも案外簡単かもしれない。
ふと、そんなことを思った。
「うはあ、もう腹ペコペコのペコちゃんだぜ。五郎、まだかよ」
「もう、落ち着きなさい杏子。焼き肉は逃げたりはしないわ」
後部座席からは、二人の少女たちがこの日の昼食の話に花を咲かせている。
俺は以前、焼肉を食べさせてやるという約束を果たすため、杏子とマミの二人を車に乗せて川崎へと向かっていた。
焼肉は都心でも食べられるけれど、どうせ皆で食べるなら、前から気になっていた川崎のセメント通りにある焼肉屋で食べようと思っていたからだ。
知り合いからも、あそこの焼肉は都心よりも本格的で美味いと聞いていた。
目当ての焼肉屋の駐車場に車を止める。車のエンジンを停止させるやいなや、杏子が飛び出した。
「ひゃっほうーい」
「こら杏子。危ないわよ」
ハイテンションで車から降りる杏子をたしなめるマミ。
それにしても焼肉というだけであそこまで上機嫌になれる杏子が少し羨ましかった。
大人になると、あまりわくわくするようなことがない。
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~55 : ◆tUNoJq4Lwk [sage]:2011/05/29(日) 16:18:45.38 ID:RqlWRy44o 第三話
嫉妬 ~後編~
俺が“魔女を引き寄せやすい体質になった”と言われてから数日。
なかなか件の魔女が現れなかったので、もしかしてあの話はウソだったのではないかと思い始めたある日。
俺は帰り際に魔女に襲われた。
その日、たまたま杏子は一緒におらず、一人でマンションへ帰ろうとしていたところで、以前見た、俺がベルゼブブと名付けたあのハエの化け物が現れたのだ。
そして、化け物から救ってくれたのは、杏子ではなく、彼女と同じ魔法少女という巴マミであった。
マミが魔女を倒すと、魔女の結界は消え、俺はいつもの歩き慣れた歩道に立っていた。
目の前にいるのは、杏子よりは若干成長していると思われる制服姿の少女が一人。
「巴マミさん……、か」
「はい、マミで結構ですよ、五郎さん」
杏子もそうだが、なんで魔法少女ってのはファーストネームで呼び合おうとするかね。
「それはいいけど、なんで俺の名前を知っているんだ?」
「はい、キュゥべえから聞きました」
「キュゥべえ……」
俺は怪しげなあの白い生物を思い出す。
「あなたは、魔女を引き寄せやすい体質なんですよね」
「正直、信じてはいなかったけど」
「実は私も、半信半疑でした。ですが、こうして今日、実際に魔女に襲われたわけですし、
何より魔法少女以外にもああして魔女の結界の中に入れる人はそうはいません」
「あの時……、浅草の店で俺に話しかけてきたのは探るためだったのか?」
「ええ、まあ……」
「でっ」
「?」
「何が目的だ」
「目的?」
「そう。助けてくれたのはありがたい。だがキミにも目的があるんじゃないのか?」
「……そうですね。ここでは話しづらいので、場所を変えませんか?」
「場所……」
確かに、歩道で立ち止まって話をしていたのでは目立ってしまう。
「わかった。どこか喫茶店にでも行こう」
深夜でもやっている店なんて、あっただろうか。俺は少し考えた。
「あなたの家がいい」
「……」
「ダメですか?」
「……いや」
まさか、中学生くらいの子どもにこんなセリフを言われるとは思わなかった。
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~28 :◆tUNoJq4Lwk[sage]:2011/05/28(土) 17:39:28.86 ID:mC4OjpKGo 第二話
嫉妬 ~前編~
コンビニの近くで魔女と呼ばれるわけのわからない化け物に襲われそうになってから数時間後、俺は自宅兼事務所に戻っていた。
「なんでお前がここにいるんだ、杏子……」
「はあ? だって一緒にいなきゃ用心棒できないじゃん」
「一応、俺は男の独り暮らしなわけなのだが」
「なんだよ、襲おうってのか?」
「いや、別にそんなつもりはないが」
「それはいいけど、それ食おうぜ。せっかく買ってきたんだし」
「ん? ああ」
どうやら俺は相当食い意地が張っているようで、化け物から逃げている間も、必死にコンビニで買った食料を守っていたらしい。
お湯を沸かし、買ってきたカップみそ汁を作る。
「なんだよ五郎、おでんと卵焼きで卵が重なってるじゃねえか」
「悪かったな」
「あ、うずらの卵もある。よく考えたら焼きプリンも卵だよな」
「コンビニでの買い物は慣れてないんだ」
無意識に食べ物を選んでいると、どうしても何かに偏ってしまうのは俺の悪い癖だ。
この前も、豚汁とブタ肉炒めで豚がダブってしまったことがある。
「コンビーフうめえ」
「おいコラ、それは俺のだ」
なぜだかわからないが、深夜の自宅で杏子と二人、軽いパーティー状態になってしまった。
「それで、聞きたいことがあるんだが」
「ん? なんだよ」
デザートのプリンを食べながら杏子はこちらに視線だけ向ける。
この娘は小さい身体をしているわりに、本当によく食べる。
「こんな時間に出歩いて、ご両親は心配しないのか」
「……っ」
一瞬、杏子の動きが止まった。
「どうした」
「別に。親はいない」
シンプルな答え。
「ウソだろ?」
「ウソついてどうすんだよ」
「だったら、親代わりの人とか」
「そんなのもいない。アタシは一人で魔法少女やってたからな。魔力がありゃ、多少のことはできる」
魔法少女とはいえ、中学生くらいの少女が深夜に出歩くことができるなんて、不思議だと思った。
「学校も行ってないのか?」
「そうだよ、別に行く必要ないし」
「しかし……」
「ああうるせえなあ! オメーにゃ関係ねえだろう? アタシのことなんてどうでもいいじゃねえか」
「どうでもいいって、おい」
「アンタは自分の心配してろよ。魔女を引き寄せやすい体質になっちまったんだぜ。
アフリカのサバンナでいつも首から生肉をぶらさげているようなもんなんだからな」
「それは」
確かにそれは困る。今は、自分の身を守ることが最優先だとは思う。
けれど。
「ああ、なんか久しぶりに動いたら汗かいちまった」いつのまにかプリンを食べ終えた杏子は立ち上がる。
「なに?」
「シャワーあるだろう? ちょっと借りるぜ」
「おい、何を勝手に」
杏子は上に来ていたパーカーをソファの上に投げ捨て、浴室へと向かう。
「あ、そうだ」
しかし、すぐに立ち止まり、こちらを向く。
「覗いたら両目、潰すからな」
「覗くわけないだろう」
そう言うのはもっと発育してから言え、と思ったけれど無駄なトラブルを避けるために何も言わなかった。
そういえばアイツ、着替えとか持っていたのだろうか?
ふと顔を上げると、時計は午前四時。
「ああっ」
思わず声をあげる。
少し休むだけのつもりだったが随分時間が過ぎてしまった。
考えて見れば仕事の途中だったのだ。
俺は急いでデスクに戻り、仕事の続きを始める。
今日は色々あったので、正直かなり辛いけれど、ここでやめるわけにはいかない。
しばらくすると、シャワーを浴び終わった杏子が出てきた。
「よう五郎、仕事か?」
ほんのりとシャンプーの良い匂いが漂ってくる。こういう匂いは久しぶりかもしれない。
「というかお前、着替え――」
言葉が止まった。
「何着てるんだ」
「はあ? ああ、これか。ちょっと着るものがなくてさ」
杏子の着ているのは、俺のワイシャツであった。
「俺のワイシャツ……」
「男ってさ、こういうの好きなんだろう?」そう言うと、杏子はシャツの袖を持ってクルリと一回転する。
「何勝手に着てるんだ」
「だって着るもんねえじゃん」
「だからって、俺のシャツ着ることないだろう」
しかもよりにもよって、クリーニングから戻ってきたばかりのやつを着ていやがる。
「別に、アタシはこれから寝るから、何でもいいんだよ」
「……、ちょっと待ってろ」
きつく言っても、多分この娘には聞かないだろう。そう思った俺は別の部屋に向かった。
「何を考えてんだ? まさか裸で寝ろと――」
「奥に女物の服があったはずだ。それを着たらいい」
「なんで五郎が女物を持ってんだよ。まさか、女装癖……」
「そんなわけあるか。前に付き合っていた女が着ていたものだ」
「なんでそれがあるんだ?」
「別れる時、俺が買ってやったものは、いらないって全部返してきたんだよ」
「へえ、バカな女だね。そりゃ」
「まあ、嫌がらせという意味では十二分に効果はあったけどな」
女物の服など、独身の男が持っていても何の役にも立たない。
しかもやたら高い服もあったので、捨てるに捨てられず、こうして物置の奥にしまいこむことになったわけだ。
洋服ダンスを調べると、運がいいことにパジャマも出てきた。
サイズは大きめだが、これから寝るだけの杏子には十分だろう。
「うおっ、これシルクじゃん」
「そうだったかな」
なんで女にパジャマまでプレゼントしてたんだろうな。俺は昔の俺に問いかけてみる。
けれども、答えなど返ってくるはずもない。
杏子に服を渡した後、俺は再び仕事場に戻り仕事を再開した。
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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~1 : ◆tUNoJq4Lwk [sage]:2011/05/27(金) 21:02:36.14 ID:kkMp+c67o プロローグ
その日、俺は深夜まで事務所兼自宅で仕事を片付けていた。
「ふう……」
仕事も一段落ついたところで時計を見る。
「2時を回ったか。こりゃあ確実に朝までかかるな」
仕事が終わればベッドに直行、そこで惰眠をむさぶろう。いや、その前にシャワーを
浴びたほうが気持ちがいいか。
パソコンの画面を見続けたせいでクラクラする頭で考えつつ、小さく伸びをした。
「うーん、腹もペコちゃんだし、夜食でも食って一息つくか」
独身の独り暮らし。家に買い置きなどあるはずもないので、俺は近所のコンビニまで買い物に出かけることにした。
こういうとき、深夜も開いているコンビニは便利だ。
*
「いらっしゃいませー」
マンションを出て、コンビニへと入った。深夜にも関わらず、店内には数人の買い物客が見える。
コンビニへは、雑誌やコーヒーなどを買うくらいしか寄ることがないので、こうして食べ物を買うのは久しぶりかもしれない。
何か軽く食べられるもの。そう思って店内を物色する。
カップヌードルってんじゃないしな、オニギリだけってのもな……。
インスタント食品コーナーを軽く見てから、惣菜コーナーへ。
深夜でも開いているスーパーが出現したせいか、最近のコンビニフードは色々と充実しているような気もする。
「『うずらと牛肉の中華風』か……」俺は小さな惣菜のパックを手に取り、つぶやいた。
こういう小さなおかずはいい。これをいくつか買っていこう。
そう思い、おしんこや卵焼き、それにキンピラゴボウなどのパックをいくつか手にとってみる。
「ん……」
ふと周りを見ると、買い物かごを持った客の姿が目に入った。
「かごか……」
コンビニでかごを使うという発想はあまりなかった。これまで一つや二つくらいの物を買う用事しかなかったからだ。
俺は買い物かごを取ろうと、入口近くに向かおうとしたけれど、よく見ると惣菜コーナーの近くにもかごが置いてあった。
それを見て俺は、客の行動を把握して作られた店内構造に関心する。
かごを取ると、さきほど選んだものをかごに入れる。しかし、大きなかごに対してこの量はちょっと寂しい。
もう少し買うか。
そんな気持ちになって俺は、別の棚を見て回ることにする。
コンビーフ。そういうのもあるか。昔はよく食べたっけな。
懐かしい気持ちになりながら、俺はコンビーフの缶詰をかごに入れた。
バランスを取るため、ついでに野菜の煮物もかごに放り込む。
先ほどまでスカスカだったかごは、商品で一杯になってきた。
こうなったら汁モンもほしいな。
何となくエンジンがかかってきた俺は、インスタントみそ汁の棚に脚を運ぶ。
豚汁もいいけど……、ここはナメコ汁で決めよう。そう思い、俺はナメコ汁の容器に手を伸ばした。
その時――
「あっ」
誰かと手が触れ合ってしまう。一瞬だったけれど、すごく柔らかい手に思えた。
「なんだよ」
ふと横を見ると、赤みがかった長い髪を後ろで束ねた活発そうな少女がこちらを睨んでいる。
どうやらこの子もナメコ汁を買おうとして、俺と手が当たったらしい。
しかしなんでこの少女は、口にお菓子のポロツキーを咥えているのだろう。
「失礼……」
別にどちらが悪いというわけではないが、俺はとりあえず謝っておく。
「ふん」
少女は、強引にナメコ汁を手に取り、それを買い物かごに入れると、レジへと向かった。
彼女はパーカーにショートパンツ姿。比較的薄着だが寒くはないのだろうか。
俺は少女の後ろ姿を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
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