起の章 : 大復活理論
文明の起源は常に曖昧です。痕跡が乏しい時期に発生し、文字が導入される時点では一定の完成度に至っているからです。しかし、文明文化の発展のためには必要不可欠な事項が幾つか有ります。なかでも優秀な人材と組織力が重要となります。一つの集団内での能力を維持発展させるためには、次世代生産を組織的に操作するのが唯一の有効手段です。この章では、その過程を述べ、そうした操作が行われてきた歴史的事実を示唆し、次に過程の始まりを考えます。最後には、それらの操作が現代において如何に受け継がれているかを示唆し、そこから考えられる将来の展望を観ていきます。
先ず、過去から現在に存在した人間全体の中から一人を固定し、その人物をAと呼ぶことにします。ここでAとは、数学の未知数、たとえばxやyを実数、nやmを整数と考えるのと同様です。AにはPなる父親とMなる母親がいるとします。更には、Aの系図を可能な限り遡り、その末端に位置する全員N人の人々を{O(i) : i=1,2,...,N}で表しOシステムと呼びます。この際、遡る距離は充分に長く、Oシステムのサイズ、即ち判明している先祖の数Nも充分に大きいものとします。つまるところ、血統の良い人物をAとする訳です。更には、Oシステムから派出する人間山脈をGシステムと呼びます。このGシステムに属する人の先祖は全員Oシステムからのものです。更には、多少の外部の血が混じっている人々を含めてG(ε)システムと呼びます。多くの世代を経てAと同じ遺伝子を持つ人物を復活させる手法を以下に述べる訳ですが、その際、当初に少々雑りがあっても世代を経る毎に急激に減少し、最終的には問題とならなくなります。何となれば、人の染色体の数は46本で、一人から派出の遺伝子は各世代で半減しますから、祖父母に不明な人物が存在しても、数世代に渡ってGシステムから派出する片割れと交配することにより消えてしまいます。
次には、「如何にしてGシステムの純度を維持したままサイズを拡大するか」という問題を考えます。ここで、Aの父親であるPは{B(i) : i=1,2,....,M}なる子供を他に有しているとします。その数Mは充分に大きいとします。いわゆる種馬として活躍した場合、その数は優に四桁となります。さて、46のヒト染色体は23対として存在し、生殖の際には各親の各対から染色体が1つ合計23個分裂し、父親の場合には精子、母親の場合には卵子にそれぞれ振り分けられ、精子と卵子が合体して23対の染色体を構成して次世代が生産されます。Aの持つ23対の染色体での各対の片割れは父親からであり、もう1つの片割れは母親からのものです。ここでは、「染色体分裂は同等の確からしさでなされる」ことを仮定します。すなわち、2の23乗は8388608ですから、この8388608の分裂パターンの各々が1/8388608なる確立で発生することを仮定します。さて、各B(i)がPより受ける染色体23個の内でAと同じものがk個存在する確立は次の式で与えられます。
Pr(k) = [ 23 ! / {(23-k) ! k !} / 8388608 ]
これより以下の表が得られます。
K Pr(k)
7 0.0292545
8 0.0584499
9 0.0974166
10 0.1363822
11 0.1611802
12 0.1611802
13 0.1363822
14 0.0974166
15 0.0584499
16 0.0292545
合計 0.9653668
すなわち、Aの父親であるPが{B(i) :i=1,2,...,M}を生産する際の染色体分裂では、7個以上をAと共有する確立が98%となります。更に、10%以上の確率で15個以上を共有します。同様に10%の確立で8個以下の共有となります。すなわち、{B(i) :i=1,2,...,M}の内で10人に1人の割合でAとの共有が8個以下しか持たない場合が生じます。そうした兄弟姉妹から派出する子供の内、Pから派出する染色体をAと共有しない場合が256回に1回の割合で生じ、1個、2個、3個の場合は各々256回で8回、28回、56回となります。こうした子供とAが交配した際に染色体対に同一の2体が入ってしまわない確立は、各々で1、3/4、9/16、81/256となります。
さて、外部から異なった遺伝子を取り込むことなしにGシステムの維持拡大をする方法を考えます。Aの場合では、10人に1人の割合で{B(i) :i=1,2,...,M}から自らと最も似ていない異性を割り出し、その異性が生産する次世代の異性の内で自らとの類似度が平均を下回る場合、交配をしても同一染色体が対でぶつかり合わずに成功する確立は3割以上となります。更に厳密に吟味することで成功率は向上します。失敗しても虚弱体質であるとか、知能が多少遅れているという程度で済みますから、社会生活をまともに勤めることぐらいは出来るはずですし、若死にする傾向にあります。もちろん、五体満足な成功品と比べると育てる費用や手間がかかりますが、Gシステムが強力な場合は許容されるものでしょう。更には、父親のPにも異母兄弟姉妹が多数いますし、母親のMに関しても同様です。そこから派出する人間山脈に対しても同様の交配が可能です。要は、「自分を感じさせないような異性が居たら必ず交配」という方針でやれば良いのです。考えてみれば当たり前かもしれません。
A以外にもGシステム内で能力の高い者には大量交配が許可されます。中には勝手にやってしまうのも出現するでしょうが、生まれてくる子供の能力が劣っている場合には自然と数が制限されて行きます。このように、Pから派出して、以下、ネズミ算式に次世代が次々と生産され、P以外からも人間山脈が同様に派出され、Gシステムのサイズは拡大して行きます。ここで、Gシステムに属する各々には、元々のN人から構成されるO集団{O(i) :i=1,2,...,N}が異なった割合で詰まっています。そして、その割合を計算することが出来ます。それをO値と呼ぶことにします。更には、Aの世代以前のGシステムと、そこに属する各々のO値が判明しています。サイズが拡大したGシステムのなかで、Aが生成されるに至るGシステムの部分システムと同じものが出現しないかと確認していきます。旨く行かない場合には、外部から他の血統を取り込むことにより、割合が調整されて行きます。その場合、Aの再生は更に数世代先になってしまいます。組織的に行えば必ず再生されます。こうした過程を繰返すことにより、最適な交配組合せ方法が発見され、同じ手法が何回も繰返されて行きます。
次には、このような交配が実際に行われていたのか、更には現代でも行われているのか、という問題を考えます。答えは、「間違いなく行われてきた、そして行われている」となります。もちろん、「証明しろ」と言われても、まず資料が手元には有りませんし、見てきた訳でもありません。しかし、文明文化の進歩という動かし難い事実が存在します。また、日本の場合では、平安時代の貴族の性生活が歴史として伝えられており、それは前述のような意図的交配の存在を示唆するものかと思われます。こうした交配により、各世代で獲得された能力が次世代に受け継がれていき、それがGシステムに「進歩」もたらし、文明文化の発展を可能にします。これは何も日本に限ったものではなく、古代ギリシャ、古代ローマなどでの文明発達にも意図的交配が寄与します。日本の場合、おそらく中国から伝わったことは確かなことでしょう。島国のため外敵の侵略がなく、交配技術が世代を超えて進歩したのでしょう。明治維新の後、欧米列強に植民地化されることなく文明開化を可能にしたのも、こうして育んだ人材および次世代育成法が土台となったはずです。
さて、こうした意図的交配方法が中国から到来したことは間違いのないことなのですが、あるいは中国大陸から日本人の祖先が到来したのでしょうが、日本国の始まりの記録は存在せず、例の「神武」なる人物が紀元前6世紀に今の宮崎県である日向から瀬戸内海を船で渡り、近畿地方の既存勢力を制覇して大和の国を始めたと伝説で語られているだけです。ここで議論の確かな出発点として、「とにかく大和の国が近畿地方に出現し、それは外部からの力によるものである」という事実もしくは仮定を設けます。当然のことながら、この「神武」と称す人物は、前述の意図的交配方法を知っており、本人も同様に生産されたと考えます。充分な数の家臣と兵力を伴えて既存勢力を滅ぼすことは、相手の虐殺と奴隷化を意味しますが、相手勢力に属す若い女性は間違いなく強姦されまくり、結果として大量の子供が誕生し、到来勢力のOシステムからG(ε)システムが出現し、ここに種族発展の意図的交配が開始します。前述の「自分を感じさせない云々」という基準が開始から適用されたかは判りませんが、たとえ不良製品が誕生しても「始末」することに深刻であったとは思えません。(尤も、こうした推論は、多様化したイデオロギーで特徴付けられる現代社会においてのものであり、当時の人々の価値観は現代のものとは全く異なっていたはずです。既存勢力を後の時代での侵略対象のように考えるのにも問題があるでしょう。勢力の変遷は案外スムーズではなかったか、などと考えて良いかもしれません。)また、過去の人物、特に「神武」なる人物が数百年後に再来する際には、それに伴って生産される子供の群れに特徴が生ずるはずであり、それらは代々に渡り伝えられて行きます。聞いた話ですが、「神武」の復活を期待した交配は一過程で複数回行われ、旨く行けば立派な男子が生まれ、間違えれば虚弱体質の美人が生まれる傾向にあり、ここから「美人薄命」なる概念が誕生したそうです。 もちろん証明は不可能です。全く資料の存在しない時代の出来事を推論しているわけですあり、当然のことながら立証も反証も出来ませんが、系図を記録し始めて以来の「過程」が存在する限り、それ以前に「始まり」が存在した訳であり、「過程」の存在が記録されている時点での文明文化には見事なものがあり、とするなら、こうした推論も妥当かと思われます。
紀元1世紀には漢字が輸入され、交配に関する記録が可能となり、こうした次世代生産技術は更に進歩したと考えます。ここに登場するのが、例の「聖徳太子」という人物です。この方に関する研究は現代でも色々と行われていますが、私の手元には何の資料もなく、ここでは勝手に推論します。聞いた話ですが、この人物を中心にして意図的交配方法が厳密に設定されたそうです。もちろん、系図が手元に有れば一定の立証は可能となります。いずれにしましても、聖徳太子をAと見なした場合のGシステムは拡大し続け、文明文化は発展の一途を辿りますが、その一方で多種多様な能力や特質を有する人物が多く輩出され、当然の結果として意地と意地がぶつかり合うようになり、ついには戦国時代となります。次世代生産どころか、生き残りを掛けた戦いが繰り返され、こうした生産過程は一時的に中断します。せっかく次世代を生産しても、戦いに敗れれば何にもなりませんし、更には交配に参加する種馬の男性も、多くが戦場で命を落としてしまいます。やがて天下は統一され、江戸時代となり、再び意図的交配過程が復活します。前述では多少複雑な世代交代過程を定式化して示しましたが、これを数学的に厳密に記述するには、現在の大学教養課程で教えられている「線形代数」が必要とります。江戸時代には関孝和という数学者が登場し、西洋に数百年も先んじて、この「線形代数」を発展させたそうですが、とするなら、聖徳太子をAとして発展するGシステム内の各個人のOシステム値を計算することは既に可能であったはずです。案外、こうした計算が目的であったのかもしれません。
さて、現代は遺伝工学を目覚しい進歩を遂げており、以前は性交による自然交配のみが行われていましたが、現代では人工授精ばかりか、予め染色体タイプを確認した上での体外受精が可能となっています。私自身をAとみなして考えますと、以前は数百年かけてGシステムを拡大調節した末に復活となっていまししたが、現代では遺伝子工学の基礎技術が応用可能かもしれません。但し、特殊な状況でなければなりません。私の場合は、母方の曾祖父と父方の祖父が同一人物であったそうです。前述で考察した場合に該当します。私の母方の曾祖父と祖父および父親は種馬として活躍しましたが、以下、それぞれMe(曾祖父であり祖父)、Ry(母方の祖父)、Ms(父親)と呼ぶことにします。更に、母方の曾祖母をKyとして話を進めます。以下、自然交配ではない人工的な方法による復活方法を考えます。実に簡単な操作過程ですが、実現には特殊な環境が必要となります。
私の曾祖母であるKyの父親も種馬として活躍したはずですが、当然のことながら、Kyにも大量の異母兄弟姉妹が存在します。Kyは父親が相当に若い時期に誕生しましたから、大正時代から昭和初期にかけて妊娠可能となる異母姉妹が多数いたはずで、それらの女性は私の母方の祖父であるRyと交配することが可能となりますし、間違いなく交配が実行されたはずです。そこから生まれた女性山脈と私の父であるMsから派出する人間山脈は、私と極めて近い血縁関係を持つに至ります。その集団の各個人と私の違いは、私にはKyが1/8、Meが1/4+1/8=3/8となっているのに対し、当個人にはKyの異母姉妹が1/4、Meが1/4となることです。Ryの値は互いに1/4となります。さて、Kyの異母姉妹でKyの母とも異母姉妹である女性が多数存在したはずです。すなわち、Kyとは75%同じ血を持つ方々です。以下、これらの女性山脈から上記のようにRyとMsを経て派出してきた人間山脈を考えます。ここで問題です。ヒトには23個の染色体対があり、生殖にはそれぞれの対から片方だけが選択される分裂が生じますが、そのパターンは2の23乗すなわち8388608通りとなります。詳しい計算は省略しますが、これらの人間山脈の内で3人に1人が8回に1回の染色体分裂の割合で私のもつ8388608パターンの1つと一致するものを生産することが可能となります。中には、4回に1回などという人も居るかもしれません。これが男性の場合、自然交配で生産される子供の内で8人に1人の割合で、遺伝的父親を複数持つようになります。私から派出する次世代の染色体を有するからです。骨髄移植で染色体地図まで変えることが出来るはずです。但し、後の章で詳しく解説しますが、生まれて来るまでの胎内での成長には、DNAの作用に違いが生じますから、たとえ生まれた直後に骨髄移植をしても、多少の違いが生じてきます。
さて、ここで問題になるのは、私のパターンの1つと一致する遺伝情報を有する卵子を生産できる女性軍団です。卵子提供に応ずることは確かです。自分の製造する卵子が無駄なく利用されて自分の子供が誕生しますし、月経などと言う厄介ごとからも開放されます。こうした卵子が現時点で何個採集されたかは判りませんが、少なくとも数千個に上っている可能性があります。こうした人間山脈は戦前から高度成長期にかけて出現したからです。幾らでも子供を作って構わない状況だった訳ですし、男の方が遥かに強かったからです。「女性は子供を生む機械」と決めつけて構わない時代でした。そこで本題の「復活」を考えますが、こうした数千個に上る卵子の各々が持つ23個の染色体と対になる23個の染色体を持つ精子が8388608匹のなかで一匹だけ存在します。すなわち、この卵子を該当する精子で対外受精させて人間を製造すれば、それは私と全く同じ人間となります。適合する卵子が数千個の場合、数千の精子につき一匹が該当相手を有することになります。電子顕微鏡で判定する訳ですが、出現する染色体は予め判っていますから、画像認知システムと連動させれば、各精子を顕微鏡の下に置くだけで判定が出来ます。すなわち、以前は数百年費やして行ってきた「復活」が、いとも簡単に実行可能となる訳です。ただし、状況が本当に整っているかは知りません。整っているのなら、特に数的に整っているなら、必ず実行されているはずです。私自身も記憶を辿っていくと、こうした再生産が実行されている気が強くします。果たして確認まで辿り付けるでしょうか。
最近は少子化が問題となっていますが、それに比例して両親の染色体の合致を確認しての次世代生産は既に始まっており、この傾向は増加の一途を辿るでしょう。以前は優良遺伝子所有者が種馬として自然交配をしていましたが、今後は例の「臭い尻」を向けられる拷問から開放されることになります。更には、染色体地図を参考に特殊なDNAの断片を切取り、その部分が欠如している病人の骨髄に移植するなどといった医療行為が既に始まっているようです。これに万能細胞による再生医療が加わり、ヒトの平均寿命は100歳を超えてくるでしょうし、80過ぎても働くのが当り前になると予想します。手前味噌ならぬ手前ヒトゲノムですが、私の持つ遺伝子も大いに活用されていくと自負しています。再生可能な人間の数は大きいと予想します。自分と同じ遺伝子を持つ個体が生産可能とするなら、人生観も大いに変化しますし、「人とは如何なる存在か」などという哲学的問題にも対しても、以前とは異なった見解が生じるでしょう。
以前は自然交配のみでした。近代から現代にかけて、次世代生産技術が飛躍的に進歩した一方、欠陥も露呈されるようになりました。すなわち能力差が優越感になったり、不平等と批判されたりするようになります。一般に「否定」は「肯定」よりも簡単ですが、やたらと相手を批判したりする傾向が生まれますし、何とかしてシステムを切り崩して自らが優位に立とうとする場合もあるでしょう。こうした傾向等はGシステム発展過程で頻繁に生じていたのでしょう。上記にも述べましたが、戦国時代などは極端な例でしょう。あるいは、それが人間なのかもしけません。ある最近のテレビ番組で、「聖徳太子が第二次世界大戦を予言していた」などと取り上げたものがありましたが、原理的には戦国時代のようなものが極限な規模となることを予想したのかもしれません。上記では、文明文化の進歩発展とはGシステム発展過程であると述べましたが、それは世界中でも同様だったのでしょう。次の章では、第二次世界大戦をGシステム発展過程という観点より述べることにします。
承の章: 裏切の真珠湾
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