1月のある土曜日、メイン州インターステート95を猛スピードで走る車がいた。運転していたのはマロリー・ハーモン。ポートランドからのドライブだった。時速65マイル(105キロ)制限のところを時速92マイル(148キロ)で走っていたマロリーを見つけたパトロール中の警察官、ジョー・クレティエンはすぐにパトカーの回転灯を回し、彼女の車を道路脇へと停止させた。
「ずいぶん走ってましたね。92マイルも出てましたよ。」
「そんなに?気づかなかった。ごめんなさい。バンゴアのカジノに行く途中だったの。」
「もう少し出ていたら犯罪行為で逮捕されるところでしたよ。チケットを切りますからね。では、こちらで書類に記入をお願いいたします。」
車から降りたマロリーがしぶしぶ書類を受け取り書き込みを始めた時、クレティエンは助手席に男が落ち着かない雰囲気で座っているのに気がついた。こちらをちらちら見ている男の様子が気になったクレティエンは話しかけてみる。
「どうかしましたか?」
男は車の外にいるマロリーを気にしながら、彼女に見えないようにがさがさと小さな包みを取り出した。黒い小箱には「Zales jewelry」のロゴが光っていた。少しだけ箱のふたを開けると隙間からダイヤモンドらしい指輪が見える。名前をラポワントと名乗る男は顔を近づけると小声でクレティエンにささやいた。
「彼女にプロポーズをしたいんだ。だけどどうしていいかわからなくてさ。」
訳の分からない突然の相談にしばしぽかんとしていたクレティエンだが、口もとにニヤリと笑みを浮かべるとこう提案した。
「僕がきっかけを作ってもいいのかい?」
「イ、イエス」
ラポワンテは小刻みに2、3回うなづいた。
書類を書き終えたマロリーからファイルを受け取ったクレティエンは何気ない風に内容をチェックしていたが、早く車へ戻りたそうにしているマロリーの方へとふと視線を向けると声をかけた。
「これで結構ですよ。チケットを切りますので、罰則金など後でよろしくお願いします。…ところで、気分がすぐれないようですが大丈夫ですか?ご同行のラポワントさんからそんなあなたに気持ちが明るくなるようないい話があるそうですよ。」
クレティエンは車を振り返った。
「ねえ、ラポワンテさん?」
ラポワンテは急いで車を降りると片膝を地面に着いた。さっきの小さい小箱をマロリーさんの方に向かって差し出す。
「結婚してくれ。」
しばし時間が流れた。
「イ、イエス!?」
驚きの隠せないマロリーはうわずった声でかろうじて返事できるだけだった。
「お二方とも、おめでとうございます。それではこれで。」
不思議な緊張感の漂う二人に言葉をかけると、クレティエンはやれやれと小声でつぶやきながら片手を上げて挨拶し、パトカーの方へと戻って行った。
…っていうニュースがあったそうです。詳細は下からどうぞ!
なんていうか、小説風に書くとハーレクインロマンス的にベッタベタなんですけど…。本当にあった話だから仕方ないよね。
「愛の名において停止」?事件の内容はだいたい前述の通り。この後二人は車に戻ると2分間近く抱き合っていたそうです。指輪は二人で買ったのでマロリーさんも知っており、いつかプロポーズしてくれるんだろうなとは思っていたらしいのですが、まさかあんな形になるとは予想できなかったようで、
「予想してなかったわ。まったく期待していなかったもの。」とコメント。
まあ、きっかけがスピード違反ってのはどうかとは思いますけど、警官のクレティエン氏もこう言っています。
「それでも、時速92マイルも出されている車を見るのは全然幸せじゃないですね。」
ちなみに25〜29マイルの制限時速オーバーは263ドル(約2万3千円)。まだ結婚式の日にちは決めてないというマロリーさん。いつか生まれる子どもにはユニークな話題ができたと言いつつも、
「スピードを出し過ぎてて違反で捕まったなんて言えないかもしれないわね。」とのことでした。
結婚式にはぜひクレティエンさんも呼ぶべきだと思います。お幸せに!
http://garakuta.oops.jp/wordpress/?p=884#more-884 たまにはこういうのもね