岸辺露伴は動かない エピソード:猿夢1 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:35:42.19 ID:01V05yZ10
僕の名前は岸辺露伴。週間少年ジャンプで『ピンク・ダークの少年』っていう漫画を連載している漫画家だ。
突然だが、君たちは『夢』をよく見るだろうか。ああ、夢といっても寝ているときに見るほうだが。
楽しい夢、怖い夢、人には言えないような夢。色々とあるだろう。
今回はつい最近僕が体験したある『夢』の話をしようかと思う。
……おいおいおい、確かに『他人の夢の話はつまらない』って、相場では決まってる。誰が好き好んでそんな話を聞きたがるかってね。僕だってごめんさ。
でも、今回の話は僕が本当に体験した話だ。『リアリティ』なら、保証するぜ?
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2 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:37:42.98 ID:01V05yZ10
漫画家ってのは『締め切りに追われて寝不足だ』みたいに思われがちだ。確かにそんな作家もいる事だろう。だが、本当のプロフェッショナルっていうのは自分の体調だってしっかり管理しなくちゃぁいけない。『会社の為に仕事をし続け、過労で死にました』なんて社会人としてどうなんだ? と僕は思うね。
おっと。少しきつい言い方になってしまった。すまない。別に僕だって仕事を一生懸命してる人を悪く言うつもりはない。そういう人には好感は持てるからね。
ただ、他人の名前を間違える奴。こういうのは礼儀がなってないというか、『敬意』が感じられないな。ん? いや、単なる独り言さ。
話が逸れた。とにかく、その日僕はその週に提出する原稿を書き終えていつも通り定時に眠った。はずだったのだ……
3 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:38:38.34 ID:01V05yZ10
『目を開ける』と僕は無人駅にいた。
小さいレールとベンチの他にめぼしい物はなく、駅名が書かれていたであろう看板は掠れて読めなくなっている。
本来なら眠っているはずだが……きっと、これは夢なのだろう。それも自分が夢を見ていると認識できている。俗に言う『明晰夢』って奴だ。
確か、明晰夢では比較的自由に動き回れるらしい。試しにストレッチや準備体操をしてみるが全く問題はない。
服は普段着に戻っているが、ペンやスケッチブックなんかは無い。せっかくだからスケッチしたかったのだがこればかりは仕方が無い。できる限り鮮明に覚えておこう。
そういえば、スタンドも出せない。夢の中では出そうとした事もなかったが、よく考えてみると不思議だ。スタンドというものは精神の像のはずだ。自分の頭の中でくらい訳ないと思うのだが。
4 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:39:35.63 ID:01V05yZ10
さて、そんな風に僕が体を動かしていると、錆まみれのスピーカーからこれまたひび割れた声が鳴り出す。
『ま、間も無く電車が参りま゛ぁ~す』
『その電車にお゛乗りになりますとーー。あ、あなたは恐ろしい目にあ゛いますよぉー』
恐ろしい目?
ふんっ。悪いけど、僕はこれまでいろんな経験をしてきた。それこそ命の危険があったことや死を覚悟したことだってある。そんなチンケな警告に怯えるはずが無いのだ。
むしろ、そんな挑戦的な台詞に興味が出てきた。『怖いもの見たさ』とも言うが、ここで引いたら岸辺露伴の名が廃る。これでちゃっちい仕掛けだったら大爆笑してやろう。
そもそも、ここは夢の中――つまり僕の脳が作り出しているに過ぎない。もし、危険を感じた時には飛び起きればいいんだ。まぁ、そうなったらしゃくだけどね。
5 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:40:38.38 ID:01V05yZ10
そんなわけで、ベンチに座って待っているとレールの片方からチンチーンという音が聞こえてくる。どうやら来たようだ。
電車、というから僕はてっきりいつも乗っているような大きな物だと思っていたが、やってきたのは全くの別物だった。
それはまるで遊園地にあるような、いわば『おさるの電車』だった。子供が乗るような小さな箱型の車両がいくつかと、一番先頭には煙突のついた車両が猿を乗せて走ってくる。
乗客は2人、前詰めて乗っている男女だけだ。どちらも品のいいスーツを着ているが表情が全く無い。不気味なモンだ。僕は3両目に乗る事にした。というかそこしか空いていなかったのだ。
前方の猿がこちらを振り向き、帽子を下げて会釈をした。確認の合図だろうか。こちらも頷いて返してみると、そいつは前を向いてすぐ脇にあるボタンを押した。
ポッポーと汽車のような音を出して、電車がゴトゴトとレールを進み始める。思っていたより座り心地はいいが、バランスを取るのがなかなか難しい。
6 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:44:37.50 ID:01V05yZ10
しばらくすると電車はトンネルの中に入っていく。中は薄暗く、湿っぽい。近くの壁に手を触れるとひんやりとしていて、苔なのだろうか、ヌメリとした感触がする。
目が慣れてくるとトンネルの壁になにやら絵が描かれているのがわかる。目を凝らして見てみると、どうも僕の漫画のキャラのようだ。真っ二つになった奴、全身の血を抜かれ干からびた奴、そんな名もないヤラレ役ばかりが描かれていた。
僕の夢だから文句も言えないが、どうしてこんなのを見ているのだろうか。不思議なもんだ。
7 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:45:18.42 ID:01V05yZ10
トンネルの壁の絵を眺めていると、天井の方から先ほどと同じように音声が流れてきた。
『つ、次はーー、活け造りィーー……活け造りィーー…………』
イケズクリ? 変わった名前だが、次に停まる駅の事だろう。しかし、この夢はどこまで続くのだろうか。
電車の揺れが少し大きくなってきた。前方の男の影が動いているが、薄暗いうえに間にもう一人いるので、確認できない。
ふと、空気がよどむというか。変な匂いが漂ってきた。鉄っぽい感じだ。電車がきしむ音も大きくなる。鉄製でガタがきているのかもしれない。
特に変わったことは今のところない。暇なのでまた壁の絵に戻る。
8 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:46:22.64 ID:01V05yZ10
しばらくすると、揺れも小さくなり音も静かになった。前方にはトンネルの終わりを告げる小さな光が見えてくる。思ったよりも長かった気がする。
キキーーという音を立てて電車は駅に着く。駅名は先程と同様何も書かれていない。放送は一体何だったのだろうか?
『ほ、本日の運行はぁーー……ここまでとなりますーー』
一番前に座っていた猿が駅に降り立ち、帽子を外して一礼する。ここで降りろってことか。
特に恐ろしいことなんて起こらなかったが……まぁ、類人猿恐怖症の奴が載っていたら『恐ろしい目』だったろうが。
10 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:47:29.71 ID:01V05yZ10
僕が呆れていると、目の前の女性が駅のホームに降りる。自分もそれに習う。いつまでもここにいる意味なんてないからね。すると、視界の端で何かが見えた。
『それ』は二つ前の男性の席にあった。『それ』はまだ新鮮らしくビクビクと痙攣していた。『それ』と目が合ったかのような錯覚を感じる。
11 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:48:21.41 ID:01V05yZ10
『それ』は……綺麗なピンク色したものは『男性の活き造り』だった。
12 : ◆89yEm7E4qi/N [saga]:2015/08/23(日) 01:50:22.73 ID:01V05yZ10
「………………全く。朝っぱらからなんて夢を見るんだ」
その日は前日に原稿を書き上げ、特にやることがない日だ。大抵は取材に行ったり、康一くんなんかと駄弁りに行くのだが、朝から悪夢とはついてない。
とりあえず、汗でベタベタになった寝巻きを着替え、朝食の準備をする。そのうち気も紛れるだろう。
パンを焼いている間に新聞を取りに行く。最近はテレビやネットでニュースを見るなんて若者も多いと聞く。別にそれが悪いとは思わないが、活字を読む癖はつけるべきだと思う。
一面には国会での騒ぎが書かれている。アホらしい。国のトップがこれでどうするんだ。次の面にもその話題が続く。
ふと、下の方に書かれている亡くなった方々の記事を見る。特になんてことはない。いつもと同じような記事だ…………そのはずだった。
『○○党 ××議員 本日午前2:00 急性心筋梗塞にて死亡か』
そこには夢の中で見た男の顔が載っていた。
~~1夜目終了~~
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