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いーちゃん「へえ、雛見沢ですか」 二日目

2011年01月25日 21:15

いーちゃん「へえ、雛見沢ですか」

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40 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:50:38.23 ID:X3t9et.o

二日目



たとえば、誰かが携帯電話でメールを打ってるところを、横から覗き込む奴がいたら、かなり嫌な感じでしょう?



ぼくは目を開けた。
部屋はカーテンがされているのでまだ薄暗いが、窓からは微かに太陽の光が差し込んでいる。
推測するに、大体――六時くらいだろうか。
 まあ、どうせ寝れないのだし。

「……そろそろ起きるとしますか」

ぼくは呟き、ソファーからゆっくりと身体を起こす。
ベッドで寝ている春日井さんは――まだ睡眠中のようだ。
なんというか、さすがだよな……ほんと。
ソファーで横になっていた為か、体が少々軋んでいる感じがする。
なるべく音を出さないように、軽い柔軟体操で体を伸ばし、各所の軋みを丹念にほぐした。
さて、と。あまり気が進まないけど用意でもしようかな。

「あまり気が進まないのだけど、用意でもしてみようかな……」

口に出してみても、やはり気が進まない。なんとも気が滅入ってくる。
というより、真意が読めないってのも要因の一つなんだろうけど。

「学校行きたくねぇなぁ」不登校児顔負けのことを言ってみる。

最終学歴が小学校卒業のぼくが言うと、何とも情けない気がするんだよね。
しかし、何故ぼくが学校に……。
まあ、今更に文句を言ってもしょうがない。

「かくして、運命に流され続ける戯言遣いなのであった」

状況の認識の為に自分で解説してみたが何とも締まらない。というか馬鹿みたいだ。
いや、事実馬鹿なんだろうけど。

「……はぁ。諦めますか」

掛けていた布団を畳み、春日井さんの足元に置き、そのままの流れで、服を持って洗面所に行き、洗顔と着替えを済ます。
そして春日井さんが起きた時の為に、書き置きを残す。
そうしてぼくは雛見沢に出かけるのであった。


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バスを降りたぼくは、昨日と同じように古手神社までの道を歩く。
途中、何件か商店があるのを見つけた。
ところどころ錆びて色褪せたコーラの看板が、何ともいえないノスタルジックな感情を呼び起こす。
あくまでぼくの問題なのだけれど。こういうのって、なんか気に入らないな。
小学生以降、ぼくはヒューストンに留学していたから、見てないってのは当然なんだろうけど。
でも、それとも違うというかなんというか……。
……よく分からないな。

そうして、しばらく歩くと、石段と自転車が見えてきた。
ぼくは、長い旅の果て、古手神社の石段に到着してしまった。

おしまい。

……にしてしまいたいところだけれど、そうもいかないんですよね。
とりあえず今は何時なのだろう?
ぼくは腕時計で時間を確認する。まだ約束の時間には少し早いだろうか。

「待つか」あんまり早く行ってもあれだし。

石段に腰かけ、辺りを見渡す。見事なまでに何も無い。

「……エイトクイーンでもやろうかな」

エイトクイーンとは、要は頭の体操。
あまり楽しい物ではないけど、暇つぶしにはなるしな。
ぼくは頭の中にチェス盤を作り、女王を配置していく。

一つ目。二つ目。……三つ目。…………四つ目。
うん、割と良い感じ。女王は順当に配置されていく。
そして、五つ目に突入しようとした時――視界の端に何かを捉えた。
女の子が恰幅のいいおじさんを――いや、おじさんっぽい物体を左手に抱え、こちらの方向に歩いている。
良く見てみるとおじさんっぽい物体は、ケンタッキーフライドチキンでおなじみのサンダース大佐であり、
(厳密には大佐という意味ではないのだけれど)開いた右手には鉈を握っていた。
 それも凄い笑顔で。
どう考えてもお近づきにはなりたくない感じ。ちなみに女王はとっくに逃げ出している。

というか、

ぼくも逃げていいですか? むしろ逃げろ!

が、時既に遅し。女の子の足取りは軽く、既にぼくの目の前まで来ていた。
そして石段に座っていたぼくを見つけ、停止した。

「……」

無言。
ヤバい。怖い。

「……」

「かぁいいでしょ?」

と言い、いろいろ無残に壊れたカーネルをぼくに見せてきた。
ええと……どういうことなのでしょう? これは答え次第ではもしかしてまずめな状況なのでは?
というか、かぁいい、って可愛いって意味だよな。
しかしこんな状態のカーネルを可愛いと思う人類はそうそういないはずだろう。
崩れた頭部からは、まるで脳漿を模したように草が飛び出てるし。
 割れた腹部からは自転車のチューブみたいなのが出てるし。
女の子はぼくの混乱など露知らず、再びカーネルをぼくの目の前に掲げた。
カーネルとぼくの距離は一センチもない。

「コレ、かぁいいでしょ?」

「……はい」可愛くないです。

戯言抜きの恐怖だった。
さすがに瞬間的な恐怖は入江さんには敵わないものの、この子の継続的な恐怖は結構なものである。
雛見沢住人の恐ろしさを垣間見た気がする。
そうして、目の前の女の子は、たっぷりと時間を掛けてぼくを見つめ、口を開いた。

「それで、あなたは誰なのかな? かな? どうしてそこに座っているのかな? かな?」

ふむ、一応意思疎通は普通に出来るようで、石段に座っていた不審者に声を掛けた、という感じか。
この場合の不審者はぼくという事だろう。ぼくも不審者の定義を改めなければならないよな。
 と、この子を見て思う。
さて、とりあえず名乗って良いものか悪いものか。名乗らないけど。

「いえいえ、名乗るほどの者では御座いません、ぼくは一介の戯言遣い。後者の質問はここの子に用事があってね、ってとこかな」

アイドルのような仕草で、女の子は首を傾げる。
よくよく観察してみると、丁度肩くらい迄の茶色の髪の毛。
服装は一般的なタイプのセーラー服を着ていた。
 高校生だろうか、わりと可愛らしい感じの女の子だった。
半壊したカーネルと、鈍色に光る鉈のセットはとてもシュールに感じるけど。

「レナは竜宮レナっていうんだよ。あなたの名前は何ていうのかな? かな?」

かな? を連続するのは癖だろうか。
それに、こういう子は何となく苦手だな。……理由が予測出来るだけましなんだろうけど。

「悪いんだけどさ、レナちゃん。ぼくはね、今まで他人に本名を教えた事が一度しかないのを誇りに思ってる人間なんだ。
だから《戯言遣いのおにーさん》でも《いーたん》でも《いっくん》でも《いっきー》でも《いーちゃん》でも、好きなように呼んでくれ」

この二日で既に何度目になるだろう台詞をぼくは言う。

「梨花ちゃんや沙都子ちゃんはなんて呼んでるのかな? かな?」

ふぅん、……そう来ますか。ぼくは返す。

「……えっと、いーちゃんかな」

ぼくの言葉を聞いたレナちゃんは頷き、まるでスイッチを切り替えるように惚けた顔を変えた。
天然にして、純真無垢に、純一無雑に、清純無垢に、元からそうであるかのように、元がそうであったかのように、元々そうだったかのように、
彼女は、嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ私はいっくんって呼ぶよ。いいかな? かな?」

「……ご自由にどうぞ」

成程ね。
壊れているわけじゃなくて、あえて壊しているわけだ。
いや、ずらしていると表現した方が的確だろうか。それはそれでやり辛いな。
ぼくは腕時計を再び見た。分針は待ち合わせ時間の手前を指している。

「それじゃあ、また後で。……たぶん学校で会えるだろうしね」

ぼくは言った。それを聞いたレナちゃんは本当に楽しそうに。

「あはは」

と笑った。
そしてレナちゃんはぼくから目線を切り、再び歩きだす。
そして初めて彼女を見た時のような惚けた顔で、ぼくに振り返り。

「それじゃあ、また学校でねー! はう~お持ち帰りぃ~!」

と言い、まるで手の延長だとでもいったように、カーネルをぶんぶんと振り回した。
……あれって軽く三十キロくらいはあるよな。
そしてレナちゃんの姿は見えなくなった。

「ふう……」

狂言回しの仕事じゃねえよな、これは。
それにしても、何となく嫌われた気がする。
 ぼくはなにかレナちゃんに嫌われる様な事でもしたのだろうか。
考えても――やっぱり解んないんだよな。
まあいいや、としておく。

「……はてさて、これは戯言なのでしょうか」


 ~~~~


所変わって場所は古手家。

「いただきます」

何故だか食事中のぼくであった。
目の前に並んだ朝御飯。メニューは卵焼きにお味噌汁。
日本の朝食につきものの献立だった。見た目も悪くないし、これは結構期待できるのでは。
それでは、一口目。
――お。

「うん、なかなか美味しいね」

なかなかに美味しい。見た目に反した味じゃなくて良かった。

「ボクじゃなく沙都子に言うといいのです」

「結構料理が上手いんだね、沙都子ちゃん」

「結構は余計ですのよ」

頬を膨らまして不満げな沙都子ちゃん。

「じゃあ、わりと上手いと思わざるをえないと言って言えなくもないんだね」

「回りくどいので、もうちょっと優しさを加味してお願いしますわ」

「わりと上手いと思わざるをえないと言って言えなくもない優しさ」

「まずそうになった!? というか……美味しいと言う気がないんですの?」

「いや、なくはないんだけど。……それじゃあ文の最後に優しさと付けて雰囲気が変わる言葉でぼくを唸らせてくれたら、戯言抜きで言ってもいいよ」

「その勝負受けて立ちますわ!」

ばん、とちゃぶ台に手の平を叩きつけ、拳を握り、崩していた姿勢を正した。
明らかに気負いすぎである。
しかし、何でこんな展開になったのだろう。実際のところぼくにもわからない。
それでは、と前置きを付ける沙都子ちゃん。

「黙って食べ続けた優しさ」

「ぬ」

やっていることは普通に食べ続けているだけなのに、後ろに優しさとつけるだけで、
 不思議と誰かの為に頑張ってるようだ――そんなことは一言も言ってないのに。

「親が成績を心配する優しさ」

「むむ」

やっていることは普通に心配しているだけなのに、後ろに優しさとつけるだけで、
不思議と腹黒く感じてしまう――そんなことは一言も言ってないのに。

「幼女を愛する優しさ」

「なんと」

やっていることは普通にぺドフィリアなのに、後ろに優しさとつけるだけで、
 何となく慈愛溢れるよう感じてしまう――そんなことは一言も言ってないのに。言ってないのに。

「彼女との別れを選択した優しさ」

「……やめてくれ」

やっていることは普通に別れただけなのに、後ろに優しさとつけるだけで、
 まるで彼女の為に別れたようだ――そんなことは一言も言ってないのに。
 言ってないのに。言ってないのに。

「負けを認める優しさ」

「ぼくの負けだ……。えっと、逆立ちすればいいんだっけ?」

「それは違います」びしりと言われた。まあ、この状態だったらパンツは見えないもんな。

――というかね。

「いや、さ。ふと思ったんだけど、こんなのってぼくのキャラクターじゃない気がするんだよね」

「いいじゃありませんか。だいたいですね、こんな一見さんに不親切なSSをここまで読む人は、だいたい元ネタも読んでますわ」

「……何言ってんだきみ?」

元ネタ? SS?
わからない。沙都子ちゃんが何を言っているのかさっぱりわからない。皆目見当もつかない。
たぶん雛見沢症候群の影響だろう。気を付けないと偶にこういう事が起きてしまうかもしれない。
一応注意しておくべきだよな。うん。
うん。

「ごちそうさま」

ご飯を食べ終わり箸を置いた。

「おそまつさまです。――それでは、どうでしたか料理の方は?」

こういうふうに面と向かって聞かれると、ちょっとこそばゆいんだよね。
一応負けを認めた訳でありまして。

「美味しかったよ」と言う優しさ。

「それでは学校に行くのです。にぱー☆」


 ~~~~


「あー、それでなのだけど。学校に行ったらぼくは何をすればいいのかな?」

学校へ向う道すがら、ぼくは梨花ちゃんに問うた。
窺うような物言いになってしまうのは、今の心情を憂慮するならしょうがないのだけど。
とりあえず、ぼくのこれからの処遇は彼女に任せるしかない。

「そうですね……み~……」

悩んでる。……ほんとに考えてなかったんだな、この子。

「……年長組に勉強を教えてあげてください。いーは大学生なのです、かしこいかしこいなのです」

と言い、梨花ちゃんが背伸びをしてぼくの頭を撫でようとするのを躱した。
 なんだか微妙に馬鹿にされた気がする。
しかし勉強を教える程度なら、わりと楽な部類に入るからいいっちゃいいんだけど。

「それはいいんだけど――でもさ、やっぱりちゃんと先生に教えてもらったほうがいいと思うんだよね」授業の進行具合もあるし。

「それはそうなのですけれど」

沙都子ちゃんが割り込むようにぼくに言う。説明好きなんだろうかこの子は。

「担任の知恵先生じゃちょっと年長組の勉強まで手を回すのは難しいですからねー」

「知恵先生?」字的には、ちょっとだけ智恵ちゃんと似てるな。

「ええ、知恵先生。校長先生以外の唯一の教師ですのよ」

「へぇ、先生もあんまりいないんだね」

「はっきり言って廃校ぎりぎりなのです」

全校生徒集めて、やっと一クラスってのは聞いてたけど、そこまで寂れているとは……。
まあ、そうだよなぁ。どう見てもこの村って、クローズドヴィレッジにしか見えないもんな。
むしろ出ようとしても、この村から出ていけないのか。
まあ、いいか。

「家庭教師をしたことがあるし、高校生くらいの勉強で少人数なら、ぼくでもなんとかなると思うよ」

さすがに姫ちゃんに勉強を教えるよりは楽な筈だろう、たぶんだけど。

「では、そうしてくださると嬉しいのです」

という運びで学校に向かうぼく達であった。

「その時いーは、あんなに悲惨な状況になるとは、夢にも思わなかったのです……。にぱー☆」

ろくでもないナレーションを入れるな。


~~~~


梨花ちゃんと沙都子ちゃんの後ろについて歩き、目的の場所に到着。
古手家から徒歩で、だいたい二十分くらいだろうか。時刻は八時を少し過ぎていた。
ぼくの前を歩いていた梨花ちゃんが足を止め、振り返り両手を一杯に広げて無邪気な笑顔で言った。

「着きました。ここが私達の学校なのです」

雛見沢分校。
登校時に聞いた情報によると。
興宮の公立学校分校。教員は校長と教師の二名のみ。施設は営林署の建物を間借りしており。
小、中、高、等学校併設の学校。ということらしい。
正門を抜けると、校舎の全景が見えた。
うーむ。
想像していたよりかは立派だった。ちゃんと学校に見えるしな。
奥の方には営林署の名残だろうか、機材や作業機械が積み重なって放置されているようだ。

「沙都子、ボクはいーを知恵先生に紹介してくるのです」

「わかりましたわ。先に教室に行っていますのよ」

沙都子ちゃんは手を挙げ、校舎に入って行った。
それを見届けた後、梨花ちゃんは唐突に

「沙都子はとても良い子なのですよ」と言った。

「え? 一体……どういう事? そりゃあ、さ。沙都子ちゃんが良い子だっていうのは分かるんだけどさ……」

「いーには、知っておいてほしかったのです」

と、一瞬だけ儚げに笑ったように見えた。
それを見た瞬間。

ぞくり、とした。

なんだよ、それ。
どうやったら、
どんな事をしたら、
そんなのは、
それは、
これは、

どうして、ぼくは梨花ちゃんを――

ぼくは、言った。思わず言ってしまった。
ぼく自身が助かりたいが為に。
本当に思っているのかもわからない事を。

「けれど、ぼくには……きみだって良い子に見えるよ」

「みー。ボクは皆と同じで、初めから良い子なのですよ、にぱー☆」
梨花ちゃんは無邪気に笑い。「さあ、職員室に行くのです」と更に笑い、歩きだした。

梨花ちゃんの表情は変わらない。いつもと同じ、変わらない笑顔。
そして職員室に向かい少しだけ歩くと、木造廊下の向かいから歩いていた男の子がにこやかに笑み、片手をあげ。

「おはよっ、梨花ちゃん」気軽に挨拶をした。

「こちらこそおはようなのです、圭一」

梨花ちゃんも朗らかに返す。まるで何事もなかったかのように……。

「それで、あんたがいーちゃんかい?」

と、ぼくにも親しげに挨拶をしてきた。はて? 知り合い、じゃあねえよなぁ。
しかし、ぼくの名前も知ってるしな――。ああ、レナちゃんと一緒の理由か。
納得。

「どうも」ぼくは適当に返事を返す。

男の子は適当な返事に意気消沈したように溜息をつき。

「いやいや、聞いてた通り、本当にテンション低いんだな」まあいいけどな、と呟き。
「俺は前原圭一、ってんだ。よろしくな、いーちゃん」と爽やかに笑った。

どちらかというと悪ガキって感じではなく、されど優等生っぽくもない。普通と言って言えなくもない。
いたずらっ子てのが相応しいかな。
それに、なんとなくだけど雛見沢の人っぽくはないな、都会の子っぽいような。

気付くと圭一君はぼくの目の前で手を差し出していた。

「ああ、うん。こちらこそ」

ぼくも手を差し出し軽く握手した。
うーん。少しだけ気恥かしい気がしなくもない……。

「いー、それでは職員室に行くのです。圭一もまた後で。にぱー☆」

圭一君は納得すると、「じゃあ、後でな」と言い。駆け足で教室に走って行った。
元気だなぁ、ぼくが老成してるだけって線もあるけど。

「初めて雛見沢で普通の人に会った気がするな……」

「あはは」

ぼくの呟きを聞いた梨花ちゃんは楽しそうに笑った。

「……ぼく変な事言った?」

「いえ、圭一はですね、実は結構凄い人なのです。いわばヒーローみたいな人間なのですよ」

と誇らしそうに胸を張った。

「へぇ……ヒーローですか」

ヒーローって言うとまず真っ先に哀川さんが思い浮かぶんだよな。
……少々、というか結構ダークヒーロー分と怪獣分が混じっている気はするけど。
しかし圭一君がね、まあ、梨花ちゃんがヒーローと言うならそうなのだろう。

「それはおいおい分かるのです」

しかしぼくが言うのも何なのだけど、思わせぶりな子だよな。
笑ったり、喜んだり、期待したりと。
本当に猫みたいな気まぐれな子だな。

「さ、いざ職員室へ行くのです。もう授業が始まるのですよ」

かくして、ぼくの学校生活はいささか不安を残すも始まるのであった。


~~~~


「それじゃあよろしくお願いします」

「……はぁ、分かりました」

何かわかんないけど……知恵先生の話でほんとに疲れた。
熱意溢れるいい先生なんだろうけど。生徒の事を考える本当にいい先生なんだろうけど……。
何であんなにカレーが好きなのだろうか。
 ……向こう一週間は絶対にカレーは食べたくない気がする。
だいたいブラックカレーってまずいだろ――倫理的にだけど。
 実際どこかの作家が食べたらしいけど。
それに具はルーが出来た後に入れるなんて普通こだわらないですよ。あと黒鍵なんて知らねえよ。
知識を詰め込まれたせいか、目を瞑りながらでもカレーが作れそうな気がする。
というかね、なんでぼくがカレー博士みたいになってるんだろうか?
 嫌いじゃないですって言っただけなのに……。
ほんとに雛見沢で普通の人って圭一くんだけかもしれない。そう考えると貴重な存在だよな。

「お疲れなのです。いーは頑張ったのです」

職員室の戸の陰に、梨花ちゃんは座っていた。

「……あ、うん。ところで今何時なのかな?」時間という概念が曖昧になってきた。

「さっき十時半になりました」

「え……マジすか?」

予測を遥かに通り越している。

「マジなのです」

冗談でも何でもなく、腕時計はしっかりと十時半を映し出す。
まさかカレーでゲシュタルト崩壊を起こすとは……。というかカレーってなんだったっけ。
カレーって確かそういう名前の飲み物だよな。いや、違う。というよりぼくって誰だっけ?
カレーって確かぼくだよな。ぼくがカレーでカレーがぼくだったもんな。
 いかん――そっちへ行くな、ぼく。

「というか梨花ちゃん、もしかしてそこで待ってた?」

さすがに二時間はないと思うけど。

「待ってたのですよ。何回か教室に行ったりしましたのですが、七割は聞いていたのです」

それはそれですごいな……ぼくはまだ適当に相槌を打っていたから意識を保っていたけど。
一人でアレは聞くのはきついよな。しっかりした子だと思う。

「ところで、いー」

「なに?」

「カレーってなんの事でしょうか」

「は? ……梨花ちゃん?」何言ってんの?

梨花ちゃんは完璧に目が座っていた。
 目の光は消え失せ、深く濁った底なし沼のような、虚ろな暗い瞳でぼくを見て言った。

「梨花ちゃん? ボクはカレーなのですよ。あれ? カレーがボクなのでしょうか?」

かくして梨花ちゃん自我は、粉々に砕け、混ざり合った。
カレーと。


~~~~


「さて、教室に行くのです」

どうやら梨花ちゃんは我を取り戻したらしい。
一時は膝を抱えて、ぶつぶつと。
「違う違う違う違う、私はこんなカレーを極める為に生きて来たんじゃない」とか、
「むしろ人生自体がカレーなら楽になれるんじゃないか。というかカレー自体が……」などと呟いていたが。
やがて、なんとか自分を取り戻したようで。小さく「にぱー☆、にぱー☆」と呟き、いつもの笑顔に戻り、歩きだした。

そして教室の扉を開け、教壇に立つ。そうして後ろについていたぼくを指差し言う。

「ただいま戻ったのです。皆、この人はいーと言います。大学生なので皆に勉強を教えてくれるのです。
ひとでなしの目をしてますが、たぶん優しい気がしますので、使ってやってください。にぱー☆」

さりげに酷い事を言われた気がする。色々否定できないけど。
それにしても、結構人いるんだな。こんなに注目されるのは嫌だけど……。
皆の拍手。善意での行動なんだろうけど……それにしたってな。

「ふう……」

ため息が出た。いや、もう諦めてるけど、諦めてるんですけど。
……それでは、仕事でもしますか。
知恵先生の話だと高等学年の子はあまり多くはないから集中して見てやって欲しい、との事。

「圭一くんに、魅音ちゃん、レナちゃん……だっけか」

ああ、もう。子供達がぼくに集まってきた。ほんとにこんなのは、ぼくのキャラじゃない。
こんなのは本当に、嫌なんだ。


~~~~


ぼくは子供達を戯言混じりであしらいながら、勉強を見て行く。
勉強自体は簡単な物だったけれど、教えた後に、純粋な目でお礼を言うのは止めて欲しい。

「ついでだから圭一くんやレナちゃんも解らない事があったら聞いていいよ」

見覚えのある顔がいた。えっと……。

「……ふうん、詩音ちゃんもこの学校だったんだね」

たぶん間違えてはいないと思う。さすがに三回目……だしな。
でも何となく雰囲気が違うような。ホルスターとか着けてるような子だっけか。
まあいいや。
詩音ちゃんはぼくの言葉に大袈裟に驚き。

「あるぇ? いーちゃん詩音と知り合いなの?」

「え? きみって、確か詩音ちゃんだよね?」

どういうことだろうか。

「あたしは魅音、詩音の双子の姉だよ」

ふうん。成程。納得。

「へえ」

魅音ちゃんが、ぽん、と両の平手を合わせ皆に向き直った。

「そうだ! おじさんいいこと考えちゃったよ!」

「何かな? かな?」レナちゃんが机から身を乗り出す。

「ん? どうしたんだ魅音?」圭一くんもそれに続く。

「いーちゃんにも部活に出てもらおうよ」はあ。

「魅音さんにしては良い考えですのよ」ああ……。

魅音ちゃんは机から立ち上がり、胸を張って、大仰なポーズをとった。
ホントに演出過多な子だな。

「というわけで」びしりと、ぼくに指を突き付け。「いーちゃんには部活に出て貰いたいんだ」

皆の期待した視線がぼくに集まる。子供達の純真な視線。
 まともな人類なら断れる筈もないだろう。

「嫌だね」

それでも断る戯言遣いだった。
空間が凍る。圭一くんやレナちゃん、沙都子ちゃんは固まっていた。
いち早く硬直から解放された魅音ちゃんは慌てるようにぼくに言う。

「な、なんで!? ぶぶ、部活って言ってもね、そんなかたっ苦しいもんじゃないんだよ!」
動揺まる見えでぼくに笑いかけ「要は遊びみたいなものなんだよ――」

微妙な空気の中、必死の説明は続く。
ああ、なんか可哀そうになってきたぞ。
というか、またもやまずい流れなのではなかろうか。

「――とまあ、そんな感じだから構えなくてもいいのさ!」と爽やかに閉めた。

「いや、ぼくとしてもその輪を壊してしまうのはいささか気まずいので、きみ達の友情の促進の為に遠慮しておこう」

やんわりと断っておく。
さすがにここまで言えば大多数の人間は諦めてくれるだろう。

「それなら大丈夫!」と、指でVサインを作る魅音ちゃん「そんなことは気にせず参加してくれたまえ」

「……」

絶句した。
どうやら少数に含まれていたようです。
もしかして、……魅音ちゃんって空気読めない子なのでしょうか?
それとも、この空気の中に敢えて切り込んだのか。だとしたら大物だな。
よく分からないけど、やはり雛見沢の人間だよなぁ。

「…………」

静寂。お葬式のような静けさの教室。

「と、いうことで!」脈絡がない……。
そして勢いよく、ばん、とぼくの両肩を叩き「参加しようよ、いーちゃん!」と言う魅音ちゃん。

……この子すげぇ。

「あ、いや、うん。そうしたいところもやまやまなんだけどさ。……でもね、そういうのってさ――」

あまりの勢いに口ごもってしまうぼく。
教室の皆も、似たような精神状態だと見受けられるようで、
 梨花ちゃんや圭一くんは笑いを堪えているし。
 レナちゃんは朝見た時と同じように、現実から逃避してるし。
沙都子ちゃんに至っては目の端に涙を溜めている。……これはぼくの所為なんだろうが。
ああ、もう。頼まれなければ良かった。
いったいぼくは何を考えているんだろう――ぼくらしくもない、本当に思う。
いったい何なんだろうね、この状況は……。

「はぁ……」溜息をついていた。
「わかったよ。……でも今はちゃんと勉強してくれ」

流された。完膚なきまでに流された――それも勢いだけで。
そうしてぼくの自己嫌悪は、魅音ちゃんへの喝采にかき消されてしまった。


~~~~


そうしてつつがなく授業は終わり、生徒たちに昼休みを知らせているであろう鐘が鳴った。
あくまで客観的な感想としてなのだけど。
圭一くんは感覚的に問題を解くタイプだったので、しっかりとした公式を教えればすぐに理解してくれた。
というか、知能的なレベルはかなり高く纏っているのではなかろうか。
レナちゃんはそれとは真逆に公式そのものに捕らわれるタイプで、逆算的な教え方をしてみた。
そして、魅音ちゃん。
……勉強嫌いなんだろうなぁ。
頭自体は悪くないものの、今までまともに勉強した事がないんだろう。
それでも姫ちゃんよりは教えやすいってのが……。
ぼくはひっそりと夏休みは姫ちゃんに勉強漬けになってもらおうと誓った。

「ってかいーちゃんって教え方うまいな。大学で家庭教師でもやってたのか?」

教室の真ん中の席が開いていたので、座っていたぼくに話しかけてきた圭一くん。
頷き肯定の意を返す。

「まあ、基本的に貧乏学生だからね。バイトでもしなきゃやっていけないんだよ」

「はは、大変だな」快活に笑い「えと……確か京都だったっけ?」

ううむ。気さくな子なんだな。何となくぼくが行っている大学を思い出していた。
きっと圭一くんなら大学でも友人などには困らないだろうな。結構結構。
などどどうでもいい事を考え、どうでもいい返事を返しておく。

「そ、京都だよ」

「俺もさ、少し前に東京から越して来たんだぜ」

へえ、なるほど。だから雛見沢の人っぽくなかったんだな。

「ふうん。大変だね、都会から引っ越しって。……ところで何かぼくに用?」

「おっと……忘れてたぜ」圭一くんは軽く頭を掻き、教室の隅を指差し。
「梨花ちゃんと沙都子が呼んでるんだ」とぼくに言う。

「ふうん、何だって?」ぼくは圭一くんに問う。

圭一くんはにやけて。ま、行けばわかるさ。と言い去って行く。
ふむ、……行ってみますか。


「何か用かな?」

ぼくは座っていた梨花ちゃんを見下ろす形で声をかけた。
圭一くん、魅音ちゃん、梨花ちゃん、沙都子ちゃんが固まって座ってお弁当を広げている。

「み~。いーは何も食べていないのでしょう?」

梨花ちゃんはぼくに問うてきた。

「うん? 食べてないけど」

一応だけど、三日程度なら水だけで活動できるんですよね。
今も多少お腹はすいてるけど。

「ならここに座るのです」

「何故に?」

「いーの分のお弁当があるからなのです」

「それは嬉しいっちゃ嬉しいんだけど。いいのかな?」

ぼくの問いに梨花ちゃんは邪悪そうに笑い。

「食べなければ知恵先生にカレーを食べさせられるのです」

「いただきます」即答。よく心得てらっしゃる。

しかし攻撃にはノックバック、反動というものがつきものである。
つまりは因果応報。
梨花ちゃんはカレーという言葉に反応し、頭を抱えて、
 「……にぱー……にぱー」と呟き、あちら側に旅立って行った。

ぼくはちょうど梨花ちゃんと圭一くんの間に置かれた椅子に座る。
何となく座りが悪い気がする。いや、ぼくの気持の問題なのだろうけど。

「これをお食べになってください」と、沙都子ちゃんからお弁当の包みを渡される。

机を見ると、全員分の弁当箱があった事から推察するに。

「もしかして作ってくれたの?」

「おほほ、ほんのついでですわ」と、頬に手をあて笑った。

うーん。甘えてんな、ぼく。

「ごめんね、沙都子ちゃん。手間が増えちゃったよね?」

沙都子ちゃんは困ったように首を振り、ぼくの問いを否定した。

「いえいえ、私や梨花のもありますからついでですのよ」

……うーん、本当にいい子なんだよな。
けどな、引っかかる。
入江さんに言われたからか?
分からない。
けれど、本当に分かっていないのはどっちの事なのだろう。

「ささ、早くお食べになってください」

と沙都子ちゃんに促され、ぼくは分からないなりに弁当箱を開けた。

「へえ」

ぼくは感嘆の声をあげる。
中には色とりどりの具が入っており、中々に美味しそうである。
朝御飯もそうだったけど、本当に料理得意なんだな。と感心していると。
沙都子ちゃんがぼくの顔色を窺うように聞いてきた。

「嫌いな食べ物ってありますか?」

「いや、無いけど」

ぼくは基本的に雑食なので、大抵のものならなんでも食べれる。

「沙都子はかぼちゃが嫌いないのです。他にも――」というか梨花ちゃん復活してたんだ。

沙都子ちゃんは梨花ちゃんの言葉を遮るように言う。

「んもー、梨花ったら。……私はかぼちゃだって食べられますわ」

そして頬を膨らませ、冗談っぽく梨花ちゃんを睨んだ。

「気持ちは分かるけど好き嫌いはあまりいいことじゃないよ」

ぼくは沙都子ちゃんに言う。
気持は分かるけど、ね。
それを聞いた皆が、それぞれに沙都子ちゃんをからかう。
とても嬉しそうに。とても楽しそうに。

ぼくは顔色を変えずに、誰にも聞かれないように溜息をついた。
どうしてだろう――。
どうして、この村の人は。
どうして、この村の人は、
こんなに、
こんなに壊れているのに、欠けているのに、
どうして、こんなに真っ直ぐなんだろう。
そんな事を思考してみたところで、意味などありはしないのに。
所詮、戯言なのに。
なのに、どうして、ぼくは。

「おい、いーちゃん。……どうした? 具合でも悪いのか?」

圭一くんの声で我に帰る。
……今はこんな事を考えるべきではないよな。

「ああ、いや。……なんでもないよ」

ぼくは答えた。自分の声で、道化のように冷静な声で。

「停止してましたのですよ。本当に大丈夫ですの?」

沙都子ちゃんがぼくを覗き込み、心配するよう言った。。
どうやら大げさではなく停止していたようで、皆が心配しているような素振りをみせていた。
ぼくは頭を大げさに振り。

「本当に大丈夫だから。さっき梨花ちゃんが言ってた、カレーって言葉が今更になって効いてきたんだよ」

ぼくは笑い飛ばすように言う。まるで道化のように。
レナちゃんは笑った。圭一くんも、魅音ちゃんも笑った。
沙都子ちゃんも馬鹿にされたと感じたのか、頬を膨らませた後笑った。
だけど、ぼくは笑わなかった。
そして、梨花ちゃんはぼくを探るように、ぼくを観察するように、じっと見ていた。


~~~~


授業終了のチャイムが鳴り、教室は喧噪に包まれていた。
やはり雛見沢の子供達といえども、授業の終了は嬉しいようで瞬間的におもちゃ箱をひっくり返したような状況になっていた。
ぼくにもこんなふうに喜べる時期があったのかどうなのか。……まあ、なかったのだけれど。
思いを馳せる事なく、回想は終了しました。
教師ごっこが終わり、ぼくは教室を出ようとすると――後ろから肩をぽん、と叩かれた。

「何処に行こうというのですか?」

出れませんでした。ええ。
後ろを振り向くと、梨花ちゃんが邪悪な笑みで立っていた。

「今から京都に帰らないとルパンVSコナンが見れないからね」

ぼくは大げさに肩を竦めてみせる。

「諦めるのです」一言で切り捨てられた。

…………。
だいたいね、ぼくはこれでも大学生なのですよ。
それがなんでこんな子供達とゲームや遊びをしなければならないんでしょうか。
それに学生の本分って勉強でしょ。きみ達は大切な時期にそんなくだらない事をしていいのかい?
言わないけど、言えるはずもないんだけど。
そうして、ぼくは部活に参加させられるのでした。

「それで、何をするの?」

ぼくは教室の後ろの一角に陣取っていた魅音ちゃんに問うた。

「ふふふ。まあ、楽しみにしてくれたまえ」

魅音ちゃんはぼくの問いを完全に無視するかたちで、妖しげに笑い、皆に指示を出していく。
そうして準備が終わると、昼食の時と同じように机を四つ着け長方形の形を作り、その周りを囲むように全員で座る形になった。

「さーて、準備はいいね」そしておもむろに椅子から立ち上がり。
「それでは、会則に則り、部員の諸君に是非を問いたい! いーちゃんを新たなゲスト部員として我らの部活動に加えたいのだが」

えー?

「ああ、全然構わないぜ。むしろ男の部員が欲しかったところだぜ」

場の空気に乗せられたのか、圭一くんも立ち上がり、握り拳をぼくに向けウインクした。

「レナも勿論異議無しだよ。だよ」

「おほほ、いーちゃんさんにこの私の相手を務められるのかしら」

「ボクも沙都子も賛成するのですよ。いーも混ぜてあげてほしいのです」

やはり他の皆も場の空気に乗せられたのか、立ち上がりぼくを見つめた。
梨花ちゃんだけは純粋に笑うというより、ほくそ笑んでるって感じ。
 これって地が出てるんだよな……。
しかし……テンション高い子達だ。
羨ましくはないんだけど、若さの力というかなんというか。
 まあ、年頃を考えれば、それも当たり前なんですよね。

「ほら、いっくんもそんな顔してないで一緒にやろうね。うね」斬新な語尾で言うレナちゃん。

ぼくは両手を挙げ、降参のポーズで言う。

「はいはい。参加しますよ」ぼくは手をおろし聞いた「それでさっきも聞いたんだけどさ、何をするのかな?
大まかにしか聞いてないからよく分からないんだけれど、ゲームをしたり遊んだりする部活なんだよね?」

ゲーム部、みたいなものなんだろうか?
魅音ちゃんはおほん、と咳払いをしてでっかい胸を張り、ぼくの疑問に問うた。

「我が部はだね、複雑化する社会に対応するため、活動毎に提案される様々な条件下、時には順境、あるいは逆境からいかにして――」

魅音ちゃんの説明は終わらない。合間をぬうように皆が喋る。

「レナはあんまり強くないから苛めないでほしいな」

「おーっほっほ。弱いものは食い尽くされるのが世の常でございますのよ、レナさん」

「とどのつまりは、みんなでゲームをして、楽しく遊ぶ部活なのです。にぱ~☆」そうですか。

「そういう事だ。まあ、気楽にやろうぜ……」

圭一くんはにこやかに言う。
……何となく裏がありそうな気もするけど、ゲームぐらいだったら酷い事にはならないよな。

「うん。それじゃあ、お手柔らかに……」

「ふふふ、甘いよいーちゃん! 会則第一条! 狙うは一位のみ! 遊びだからなんていういい加減なプレイは許されない!!
そして、会則第二条! その為には、あらゆる努力をする事が義務付けられている!」

「はあ……」しかし凄いな、この子は。「それで何のゲームをするのかな?」

「そうだねー……」

ぼくの問いに数瞬の思考、そして教室の後ろに設置されているロッカーに向かう魅音ちゃん。
そしてロッカーを開け、がしゃがしゃと中を漁り始めた。
一瞬だけ中が見えたけど、……物を入れ過ぎなのではなかろうか。
物持ちが良いのか、収集癖があるのかはよく分からないけど、ぼくの部屋の物を全て集めてもあれ以下なんだろうな。
少しだけ待っていると、魅音ちゃんは

「おっし、あった!」と叫び、おっきい胸の前に何か小さい箱を掲げ。
「じゃじゃーん! 今日のゲームはジジ抜きだよ!」と声高らかに言った。

「えっと、ジジ抜きってババ抜きの亜種だっけ?」ぼくは魅音ちゃんに聞いた。

「そう。ババ、つまりはジョーカーの代わりに適当なカードを一枚を抜いてやるババ抜きだよ。
いーちゃんは今日が初日だしあんまり難しくないゲームの方がいいと思ったんだ」

まあ、ルールは理解した。
 基本的にはババ抜きだし、ルール上特に難しい事は無いので出来ないって事はないだろ。

「皆もジジ抜きでいいかな?」

「いいぜ。受けてやるよ!」

圭一くんの答えと同時に、ぼく以外が頷く。

「もちろん、罰ゲームありだからね。今回は一位が罰ゲームを決めるっていうので、どう?」

はて? なんか聞き捨てならない言葉があったような……。
 しかし話はぼくを置いてけぼりに進んでいる。

「ええ、構わないのですよ。ボクは大丈夫なのです。にぱー☆」

「へへっ、いーちゃんには悪いが、今回は俺が一位を取らせてもらうぜ!」

「あらあら? さすが圭一さん。下から数えて一位になろうとするとは見上げた根性ですこと」

「みんなレナには手加減してほしいな……」

みんな張り切ってんな。何かわかんねぇけど、すごく嫌な予感がしてきた。
このまま進んだら元には戻れないような……。

「ちょっと待ってよ。罰ゲームって何かな?」ぼくは問う。

「不本意な成績を取ってしまった参加者に対して、主催者や他の参加者から課されるペナルティ的な意味合いを持ったゲームのことだよ」

「それは知ってる」何この流れ? ……わざと、じゃないよね魅音ちゃん?

ぼくの隣に座っていた沙都子ちゃんがわざとらしく溜息を吐く。
そしてもの凄く演技臭く。

「えっと、バスゲーム?」

「そんなシンプル2000でも発売されそうにないゲーム、きみだってやりたくないだろ……
だが沙都子ちゃん、ぼくが聞いてるのは罰ゲームだ、バスゲームじゃない」

「失礼。噛みました」

「違う、わざとだ……」

「噛みまみた」

「わざとじゃないっ!?」

「アヴェマリア」

「何処に停車するんだよきみは?」祝詞か? 祝福されてるのか? バス停に?

「ちなみにバスを運転するゲームは存在しますのよ」

「知りたくなかったよ、そんな情報!?」もしも本当にあるとしたら、SEGAあたりだろうな。

「えっと、罰ゲームでしたっけ?」

沙都子ちゃんは言った。言い直した。

「……うん。出来ればどういう罰ゲームなのかを教えてほしいところなのだけど」

しかしぼくの問いに答えたのは、沙都子ちゃんではなく、暗い笑みを浮かべた梨花ちゃんだった。

「大丈夫なのですよ。いーはゲストなのですから、そこまで酷い罰は与えられない筈なのですよ」

半笑いで言われても信用出来ない。

「それじゃあ、どんな罰になるの?」

「女装猫耳メイド――」

「待て。もうこの段階で許容出来ないん気がするんだけど」

「んもう、いーはせっかちなのです。ちゃんと最後まで聞くのです」

「……分かった、聞こう」

「女装スク水猫耳メイド」ふ、増えてる……「姿で下校してください」

「断る。……だいたいね、なんで女装なんだよ?」

「いいじゃないですか。成人男性が女装する機会なんてそうそう無いのですよ。してたとしたらたんなる変態なのです」

「…………」

「え、もしかして……したことあるの?」梨花ちゃん素の問いだった。

「いやいやいやいや、そんな事ある筈ないじゃないか」ぼくの全力の否定。
「まったく、女装だなんて、男らしさの塊であるこのぼくがそんな事をする筈ないでしょ? そりゃあぼくに対する侮辱だよ。
やだやだ、あー、いやだいやだ。だいたいね、何を根拠にぼくが澄百合学園で女装をしたっていうんだよ。
スカートって案外にスースーするんだ、なんて思った事なんてある筈ないじゃないか。いやもうホント、本当に」

「……」

「…………」

うん、気付かれていない筈だ。……ですよね。

「じゃあそういう可能性があっても問題ないわよね?」梨花ちゃんは疑惑の眼差しでぼくを突き刺す。

「……ああ、そうだね。ぼくとしても未体験な領域な感じではありまして、
それを否定するわけでもなく肯定するのはやぶさかでもあったりするようで可もなく不可もないなんて思ってみたり……」

無茶苦茶だった。

「それじゃあやろうか」

「……はい」梨花ちゃんの無情の一撃に、ついつい頷いてしまういーちゃんでした。


~~~~


「それじゃ、始めよーか!」

それが始まりの合図だった。
魅音ちゃんはトランプから一枚のカードを抜き、別の場所に隔離した。
皆の表情は真剣そのものになり、隔離したトランプを穴があくほど見つめていた。
見つめたって透視出来る訳じゃないのにな。
ババ抜きなら前半戦でも、あくまで少々の心理戦なら出来るが、ジジ抜きはほとんど前情報が無い。
抜かれたカードを推測するにしても、情報が少なすぎる。皆無と言っても過言ではないだろう。
実際は運の要素が高すぎるってのが真理だろうけどね。

魅音ちゃんは再びカードをシャッフルし、配り始めた。
カードを配り方を見るだけで、手つきが手慣れているのが分かる。
やり慣れてるんだろうなぁ、などとどうでもいい感想を漏らしてみる。
そうして滑らかな手つきで、一度もつっかえる事無く全五十一枚のカードは配り終わった。

ぼくは手前に配られたカードを持ち確認。
揃えられたペアは二つ、そして残りの手札は四枚。これはかなり幸先の良いスタートだろう。
他の皆はワンペアや、ブタ。
遊技者は五人なので札数は少ない、あくまで順当にいけばの話だけど三順から四順、つまりは三十六ターンから四十八程度で終わるだろうか。
しかし最終的には運の要素が強すぎるゲームなので適当な予測は止めておく。
ぼくだってこんな田舎でも、女装スク水猫耳メイドなどどいう超弩級の羞恥を、間違って衆目に晒せしてしまえば、
 約束を破って衝動的に自殺してしまうかもしれない。ある意味命がけの遊戯である。
さすがに負けられないよね。

全員が手札を前に掲げる。
では、いざ開始といきましょうか。
カードを引く順番は魅音ちゃん、圭一くん、ぼく、梨花ちゃん、沙都子ちゃん、レナちゃんの順番。
席順を時計回りで進む感じ。場合によって反時計回りにもなるらしい。
まずは魅音ちゃんが圭一くんの手札を引く。
 どうやらペアが出来たようで、机のカード置き場に捨てた。
次は圭一くんがぼくの手札を引く番。ずいぶんにらめっこしてたが決めたようで引いた。ペア完成。
ぼくの番。特に何も考えず梨花ちゃんの手札を引いた。
ペア完成ならず。仕方ないが確率的にはまだある方だと自分を納得させる。
梨花ちゃん、ペア完成。沙都子ちゃんも。
レナちゃんも完成。机にはペアになったトランプが重なる。

初順はぼくだけブタか……。
まあ、序盤はこんなもんだろうな。だが次順は全員ペアが出来た。
それにしても……何か変なんだよな。
ぼくは首を捻る。確率的にはまだまだ考えられる範囲で収まっているのだが。

「これだね!」ノータイムでレナちゃんから手札を奪い取る魅音ちゃん。

ペアは完成したようで、机に札を二枚投げ捨てた。
魅音ちゃんは札の判断がついているかのように瞬間的に判断する。
他の皆もノータイムではないが的確にペアを作る。
……イカサマか。一応ハッタリの可能性も視野には入れておくべきだが。
てかさ、そこまではしないよね普通。

「おっし、次は俺だ。確かこれがハートの……」

圭一くんが身を乗り出し、ぼくのカードを凝視する。
ええ……あからさまにイカサマですね。ていうか初めから気付けよぼく。
これは、あらかじめカードに印か傷を付けてやがんのか。
まあ、他にも可能性なんていくらでもある。ぼくはすでに捕らわれていたって事か……。

「あらら、気付かれちゃったか」顔色を変えたぼくに気付いたのか、魅音ちゃんが舌を出し笑う。
「まさか、卑怯とは言うまいね? 会則でちゃんと言った筈だよ」ふん、と鼻を鳴らした。

は、言いやがるじゃねぇか。会則第一条。狙うは一位のみ。遊びだからなんていういい加減なプレイは許されない。
そして、会則第二条。その為には、あらゆる努力をする事が義務付けられている。ってか。
笑える冗談だな。いや、笑えないのがぼくなだけだ。

「そりゃそうだ。ぼくが間抜けだっただけだよ」まったく、詐欺師が詐欺に取られるってのは傑作だよな。

それじゃあ――。
ぼくは自嘲気味に笑み、あえてこの場の全員に宣言した。

「だったら――その会則にのっとって、このゲームを、この遊戯を、この部活を――」

「――殺して解して並べて揃えて晒してやるよ」

ここからは、殺し合いだ。とわざとらしく意気込んでみせる。
ぶっちゃけ誰が勝とうが何も関係ない。
 ただの単純な論理として、ぼくがビリにならなければいいだけだ。


~~~~


二回戦目が終了し。結果は上から魅音ちゃん、レナちゃん、梨花ちゃん、沙都子ちゃん。
 そしてぼくと圭一くんの差は無し。
少々意外だったのは、圭一くんもぼくと同様にビリになったことだろうか
圭一くんはつい最近雛見沢に引っ越してきたっていう話だから、そこまでカードの把握は出来ていないんだろうね。
初めの段階でそこまで差がつかなかったてのは、圭一くんには申し訳ない気もするけど、ぼくにとっては少々幸運だった。
それでは詐欺師らしく、正々堂々手段を選ばず真っ向から騙し合いに洒落込むとしましょうか。

「それじゃあ、三回戦目だ」魅音ちゃんはカードをシャッフルし始める。

「ああ、いいぜ。ぼくももう覚えたしね」

「覚えた……何をかな?」魅音ちゃんはぼくに疑惑の眼差しを向けた。

「さあ、何だろうね。何を覚えたんだろうね」ぼくは嘯く。

もちろんこの程度で揺らせるとは思っていない。
 あくまでこの段階ではハッタリと思ってもらった方が都合が良い。
実際ハッタリなんだし。

そしてゲームが中盤にさしかかった頃。ブタ何度か続いた。
魅音ちゃんがレナちゃんの手札を引く時、ぼくはわざとらしく言う。

「あーあ」

しかし、この状況。割と早かったな……さて、皆さんはどうでるのでしょうか?

「ふうん。どうやらある程度覚えたってのは本当なんだね」

ペアは出来なかったようで、魅音ちゃんは今の札を右端にしまった。

「さあ、何の事かな? 魅音ちゃんの札がスペードのAと四、そしてクローバーの九だよね、なんて事は全然分からないよね」

「いーちゃん、あ、あんたは――まさか?」

「おっと、勘違いしないでほしいな。ぼくは全然、全く、これっぽっちも分からない、と言っているんだよ。
勿論他のカードなんて、どれがどれなんだか理解できない。ましてや――新しく傷の付いたカードなんて判別すら出来ないんだ」

「それじゃあ、さっきから皆がペアに出来なかったのって……」

魅音ちゃんの後を継ぐようにぼくはわざとらしく言う。

「どうしてペアが出来なかったんだろうね?」

「確かにみんなさっきから間違えてばっかいると思ったら」圭一くんは乗せられたかな?

「もしかして新しく傷を付けていましたの?」

「さあて、ぼくには分からないな。ああ、圭一くん。個人的には一番右のカードがお勧めだぜ」

「それじゃあ、右のっと」

「……あうっ」

圭一くんが魅音ちゃんのカードを取る。ペア完成。先程のスペードのAが入っている。
……もう少し揺らしたほうがいいかな。
 魅音ちゃんはもう十分だと思うけど、梨花ちゃんとレナちゃんは……さすがに冷静だな。
もうちょい揺らすべきか……まあ、いいか。そこまでするほどのことじゃないんだよね。
というかさ、魅音ちゃんってちょっと想像力豊かすぎなんじゃないか……。自信故にってとこか。
それが良いことなのか悪いことなのかは、ぼくには分からないけど。

「それじゃ、まっさらになったところで再開しようか」


~~~~


「……ま、負けた。このあたしが……この部長であるあたしが……」

という事で、魅音ちゃんがビリになりました。
一位は梨花ちゃん。

「さーて、みぃにはどんな罰を受けて貰いましょうかね。……にぱー☆」

うわぁ、すげぇ邪悪。
人はここまで悪意溢れる笑みを作れるのでしょうか? と悩まざるを得ないほど邪悪な笑み。

「……ああ、どんとこいや! おじさんは部長なのさ!」やけっぱちの魅音ちゃん。

「みんなは何か良い案はありますか?」顔は笑っているけど、激烈な殺意を感じる。

「レナはね、みぃちゃんには可愛い格好をしてもらいたいな。魔法スク水猫耳メイドとか。……もしくは生皮を剥ぐとか。とか」

「それもいいですわね。魔法スク水猫耳メイド幼稚園児の恰好で、この世界に愛的な物を振りまいて欲しいですわ。……市役所とか駅とかで」

「折角だから魔法スク水猫耳眼鏡メイド幼稚園児の活躍をテレビ局に取材してもらおう。……全国の大きな大人達がお前の愛的な物を求めている筈だし」

「魔法……少女」梨花ちゃんは何故か分からないけど、少しだけその言葉に反応した。
「しかし、その程度でみぃの精神は崩壊するでしょうか?」

「ひぃっ」梨花ちゃんや皆の背後から立ち上る、黒い憎悪に怯える魅音ちゃん。

というか、精神の崩壊が前提ですか。いや、負けなくてよかったな、ほんとに。
しかしさすがに可哀そうになってきた気もする。
 自業自得とはいえ、ぼくの所為でもあるっちゃあるしな。

「あ、あのさ……もうちょっと軽い罰でもいいんじゃないか、なーんて……」

「それじゃあいーが代わりに罰を受けますか?」

冷たい梨花ちゃんの笑みに、ぼくは全力で首を左右に振る。
 恐怖からか、いつのまにか教室の端まで後退していたぼく。
梨花ちゃんはふぅ、と嘆息し「それでは、もう少し罪を軽くしましょう」
 罰が罪になっていたけど、ぼくは何も言わない。


「それでは……罰の発表なのです」そうして、一息つき。
「知恵先生にカレーという物質の成り立ちと、美味しいカレーの作り方を詳しく教えてもらって下さい」

「え、それだけ? そんなんでいいの?」

魅音ちゃんは呆けたように呟いた。皆も同じようなリアクション。知らないって素敵だと思う。
ぼくと梨花ちゃんは手を合わせ合掌。

「さよなら、魅音ちゃん。君の事はなるべく忘れないようにしたい」

「さよならなのです。また来世で」

「へ? なにそれ?」知らなければ良かった事って確かにあると思う。

「それがみぃの最後の言葉なのでした。にぱー☆」

やっぱりろくでもねえな、この子。


~~~~


「明日は学校が休みらしいけど、ぼくはどうしたらいいのかな?」

部活はほどなく終了し帰宅中。もうそろそろ魅音ちゃんは位相の違う世界に旅立った頃だろうか。
ぼくの問いに、梨花ちゃんはこっちを向いて言う。

「明日は休日なのです」指を立てる梨花ちゃん。
「つまりいーは野球を応援しに行かなければなりません」

反論してもどうせ押し切られるので諦めた。しかしな、明日もこんななのかよ……。

「ほらほら、そんな顔しないで下さりませんこと? 私共も陰気になりますわ」

「ほっといてくれ。そういうキャラクターなんだよ、ぼくは」

まあ、どうせ明日もやる事はないし、あと一日二日程度なら問題無いだろう。
何が問題無いのかは考えないでおく。

「それじゃあ明日もここに迎えに来ればいいのかい?」

「いえ、明日の野球は輿宮でやるのですよ。なので明日の朝に、駅で待ち合わせでいいでしょうか?」

「別に構わないけど……野球はしないからね。ぼくは生涯サッカーしかしないって誓ってるんだよ」

「いー、あなたはサッカーがどんな競技か知っていますか?」

「足でする野球だろ? いくらぼくが世間知らずだからってそれぐらいは分かるさ」

「……」

「…………」あれ?

「それと……沙都子」と話を打ち切り、梨花ちゃんは沙都子ちゃんの肩をぽん、と叩いた。


90. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/06(月) 00:26:31.38 ID:yb2XsZgo

「あの、その……」口ごもる沙都子ちゃん。どうしたんだろうか?

「うん? どうしたの? もしかして具合でも悪いの?」

そういう感じでもなかった気がするけど、少しだけ熱っぽく見える。風邪だろうか?
まあ、夏風邪ってのはいきなり引くって誰かから聞いた事があるような気もする。
しかし、ぼくの心配をよそに沙都子ちゃんは大きく首を振り「明日はお弁当は用意しないで下さいね!」と、叫んだ。

「……? いや、それにしたって悪いよ。ただでさえ今日も朝御飯と昼のお弁当まで世話になって申し訳ないと思ってるのに、
風邪気味の体で弁当を作らすなんてのは……さすがにね」

うーむ。料理が出来て、それに対して自身があるってのもある意味困りものだよな。
作った料理を色々な人に食べてもらいたくもあるってのは、分かるっちゃ分かるんだけど。
体調が良くない時くらい休めばいいのに。

「それじゃあ、ぼくが作ろうか? 沙都子ちゃんみたいに上手じゃないけど、ぼくも結構料理出来るんだぜ」

「……いー、ホテルでどうやって作るんですか?」呆れたように言う梨花ちゃん。

「あー。……まあ、そりゃそうだよな。厨房を貸してはくれないか……」

頼めば貸してくれなくも、無いよな……やっぱり。

「んもー! 私が作りますの!!」

と、沙都子ちゃんが地団駄を踏む。子供らしい感情表現がちょっと可愛らしい。
しかしそんな作りたいもんなのかね。食べてもらいたいってのは分かるけど、そこまでするもんか?
……まあ、一応本人も作りたいと言ってるし。

「……ああ、うん。それじゃあ、甘えようかな。でも本当に具合は大丈夫?」

「大丈夫ですわ!!」

案外に元気そうだった。というか元気一杯。
しかしなんだろう、この不安感は。このままの流れだと二人王様ゲームとかの状況になりかねない気がする……。
何故かそうなりそうだ。理由は全く分からないけど。見当もつかないけど。


100. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/13(月) 21:46:42.50 ID:M2A.44Qo



そうして、二人は階段を上って行った。
なんというか、一人になって賑やかだったなと思う。今迄そう思わなかったのは、なんだかんだで忙しかったからか。
騒がしいのは苦手だし、喧しいのは嫌いだ。うるさいのは鬱陶しい。
ひぐらし、ではなくセミがひっきりなしに鳴いている。こういうのは大丈夫なんだけどな。
寂寥感なのでしょうかね、これは。

「さて……」

それじゃホテルに帰るとしますか。正直少しばかり疲れた。……人に触れ過ぎた所為だろうか。
ぼくは空を仰ぎ見ると、日が少しだけ傾いていた。腕時計を確認しすると、午後四時を十分ほど過ぎたあたり。

「今日はバスに間に合いそうだな」

歩いて歩けない事はないんだけど、ある物は使っておきたいよな。
などと、文明にどっぷりと浸かった現代人的な事を考えながら歩いていると。

「よう、いーちゃん」と、声を掛けられた。

声のした方向に振り返ると、圭一くんが爽やかな笑顔で左手を上げていた。
彼が無意識に左手を上げてしまう病でなければ、ぼくに挨拶という事であろう。

「やあ」ぼくは圭一くんのまねをし、軽く手をあげた。

ぼくの動作を見た圭一くんは、小走りでぼくの隣に並び。にやっ、と悪ガキっぽく笑んだ。

「今から帰るのか? 輿宮のホテルに部屋を取ってるんだろ?」

「そうだけど。きみも今から帰るのかい?」

「ああ。俺の家は」右の方を指差し「あっちなんだ」と言った。

「ふうん」なんとなく相槌を打っておく。

「……相変わらずテンションが低いんだな、あんたは」と、困ったように笑い。
「そういえばさ、さっきジジ抜きやったじゃん」と、ぼくに問うた。

「うん?」何かひっかかるが、促す。

「それでだ。実際あんたは何枚覚えてたんだい?」と、軽い感じで言った。

へえ、鋭いな。……そういうふうに聞くんだ。
授業もそうだったけど、ほんとに頭のいい――いや、回る子なんだな。
とりあえず答えておくか。

「……二、いや三枚かな」


101. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/13(月) 21:48:43.77 ID:M2A.44Qo

たぶんそれくらいだったと思う。あの場ではその程度で十分だったってだけだ。
正直それ以上覚える意味も無さそうだったしな。

「は?」口をぽかんと開け「だってペアになる札や魅音の札を当ててたじゃんかよ」と続けた。

「単純に運が良かっただけだよ」ぼくは平然と答える。

「嘘つけ……」と、呆れたように圭一くんは嘆息する。

そうして、首を傾げつつ歩き。

「ううむ。さっぱり分からん……どうやったのか教えてくれよ」

気付いていそうな気もするんだけどな。気付けないのか何なのか。
ぼくにいえた事でも無いが、ほんのちょっと横道にそれてみれば分からなくもなさそうなんだけどな。
まあ、可能性だけで考えるならやはり低い方に入るな。という事で少し濁してみる。

「あまり人を頼るのもどうかと思うよ、自分で考えてみよう」

ぼくはしたり顔で言った。

「オーケー。あんたが雛見沢にいる間に解いてみせるぜ!」と、ぼくに意気込んで見せた。

爽やかだなぁ。と同時に若いなぁと思う。
けれど、疑問に対して明確な答えを見つけられなかったとき、圭一くんはどうするのだろうか。
もちろんこんな言葉遊び程度の疑問じゃなくて、それがもっと難問だったなら。
 人生に関わるほどの難問だったなら。
そして、それを解決した後、次々と現れた難問を解決し終わったら、圭一くんはどうなってしまうのだろう。
きっと、どうもならないのだろう。変わらないんだろうな。
今日見た印象だけで判断すると――勿論それが全てだって訳じゃないけど。
圭一くんはとても楽しそうだった。部活のメンバーと一緒に楽しそうに笑っていた。
それなら、失敗しないよな。

「期待してるよ」期待ね、ぼくにしては言い得て妙だ。

「ああ、そうだ」圭一くん唐突に話を区切り、ポケットの中をがさがさと探り。

「うん? どうかしたの?」ぼくの問いに、ちょっと待ってくれよ、と言いながらポケットを探り。

「おし、あった」何かのチケットのような物を二枚取り出し、それを目の前に掲げた。
「なあ、いーちゃん。甘いもの好きか」にや、と笑いぼくを見る。

「……嫌いではないけど」なんだこの流れ?

「そうかそうか。それじゃあ――メイド好きか?」ああ、成程。聞かずとも分かりました。


~~~~


そうしてぼくは輿宮の大道りに面した他の飲食店に比べると、
 一回りか二回りくらい大きめのファミレス、
 つまりはエンジェルモートに到着した。
 雛見沢からのバスに乗り、十分と少し走り、それから歩きで少々。
道は覚えていたので迷う事はなかった。

「しかしな……二日連続で来るとは思わなかったな」タダ券に釣られた訳ではないんだけどね。

ちなみに圭一くんは自分の自転車で来るらしいので、ぼくは一人エンジェルモートの前で挙動不審者のようにうろうろとしている訳なんですよね。
食事時なのか、中は結構込み合っているらしく、外から店内を眺めている人もいるし。
まあ、ここなら知り合いに会う事はそうそうないので――前言撤回。……なんか白いのが見えた。

「……あんたなにしてるんですか?」他の皆さんと同様に窓に張りついている白衣、すなわち春日井春日にぼくは声をかけた。

「あら。お仕事を終えたのですね旦那様。ささ。早く中へ入りましょう」

「…………」

ぼくは反撃も出来ず、黙る事しか出来ない。

「あらあら冗談だよ。冗談。お腹が空いたので何か食べようかと思ってね」

「はあ。……まあ、いいですけど。春日井さんって無一文じゃなくなったんですか?」

「いっきー。そんなに人生は甘くないんだよ」ふう、とため息を吐く春日井さん。

「……そりゃそうですけど」正しい事を、間違っている人に言われるのはどうしてこうも……。

「じゃあ早くご飯をごちそうしてほしいな」

「やっぱりあんた間違ってるよ、人として」

などなど約体の無いやり取りをしていると。

「待たせたかな、いーちゃん」と、圭一くんが現れた。

まあ、この人の間違ってるっぷりは今更なのでいいとしておこう。
しかし圭一くんみたいな青少年に、春日井さんは悪影響でしかない。
ぼくは春日井さんに向かって、何もするんじゃねえぞ、という視線を送った。
視線に気づいた春日井さんは、にっこりと胡散臭い笑顔を作り、ぼくじゃなく圭一くんに微笑んだ。

「そんで、この人はいーちゃんのお姉さんか何かか?」

さっそくそれに触れないでくれ。しかし気になるのは確かだろうしな。

「ああ、この人は――」ぼくの言葉に被せるように。

「旦那様のメイドでございます」と、しなを作った態度で、白衣の端を持ちお辞儀する春日井さん。

「黙りやがれ」

圭一くんはどっ引きだった。露骨に一メートルほど距離を取り、曖昧な笑顔を作り。

「ああ、なるほどな……ははは」と、言う。ちなみに足はいつでも逃げ出せるようにつま先立ち。

「あのね、圭一くん。この女の言う事は全てが嘘と偽りなので信用しない方がいいよ」

「ああ、そう……なんだ」困り顔の圭一くん。まあいい、話を変えよう。

「あのさ、さっきのケーキの券あったよね。あれをさ、この人にあげたいんだけどいいかな」

ぼくはあんまり食べるほうでもないので、春日井さんにあげたほうがいいという判断。
ケーキを口に入れたまま黙ってくれるといいんだけどね。
圭一くんは一も二もなく「ああ、構わないぜ」と了承した。

そうして少し並び、ぼく達の順番になった。エンジェルモート二度目の入店。
扉を開け中に入ると、当たり前だが昨日と変わらない配置。
ぼく達に気付いた店員さんが、

「いらっしゃいませー」とぼく等の前に来て言う。

そして窓際のボックス席に案内され、春日井さんと、ぼくが隣り合って座り、向いに圭一くんが座った。
向いに座っているのが入江さんじゃないだけで、気が楽なのは何でなのでしょうね。

「それじゃあ、何か頼もうか。圭一くんも何か頼んでいいぜ。春日井さんはケーキだけにしてください」聞かないだろうけど。

全員メニューが決まったというので、店員さんを呼ぶボタンを押す。
そうして、やってきた店員さんは、

「あれ? いーちゃんじゃないですか」詩音ちゃんだった。

「今日もバイトなのかい?」

「ええ、そうなんですよ。最近すっごく忙しくって……」と、ぼくの向かいに居た圭一くんに目を移す詩音ちゃん。

「あの……もしかして圭ちゃんですか?」と、言葉を発した。

うん? 知りあいじゃないのか?
圭一くんは目をまん丸くして詩音ちゃんに言う。

「……魅音? お前何してんだ?」

ふうん。圭一くんは詩音ちゃんとは面識がないんだ。学校でぼくも間違えたし。
魅音ちゃんの双子の妹なんだよな。一卵性の、顔が同じの。
もしも同じ服を着て並べたら、付き合いの短い人なんかは見分ける事が出来ないな。

「始めまして圭ちゃん。よくお姉から圭ちゃんの話は聞いてるんですよ」詩音ちゃんはぺこりとお辞儀をした。

圭一くんは、困ったようにぼくを見つめた。実際そっくりだもんな。

「いや、さすがにここまで似てるとは思わなかった。実は魅音なんじゃねーの?」

「いえいえ、本当にお姉じゃないんですよ。圭ちゃんと一緒に来てるという事は、いーちゃんはお姉に会ったんですよね」

「うん。確かにあったよ。しかし申し訳ないんだけどさ、ぼくにはきみ達を見分ける事は出来そうにないな」

「まあ、一卵性の双子ですからね。私がお姉のものまねをしたら、そのままになりますよ」

極論するなら入れ物が全く同じという事か。しかも中身も似てるんだよな。
圭一くんはじろじろと詩音ちゃんを見て。

「うーむ、分からん」と顎に手をやり悩んでいた。

詩音ちゃんはお盆をテーブルの上に置き、ぼくに問うた。

「お姉はどうでしたか? いーちゃんに罰ゲームのある部活だ、とか言いませんでしたか?」

「ああ、言ったね。たぶん今も罰ゲームを受けてるんじゃないかな」

……発狂してそうな気もするけどな。
ぼくの言葉を聞いた詩音ちゃんは口に手を当て、大げさに驚き。

「えー!? もしかしてお姉負けちゃったんですか?」

「ああ、俺も初めてだよ。魅音が負ける所を見たのは」

圭一くんがぼくを見て微笑んだ。
……なにか買いかぶられている気がする、実際何もやってないんだけどな。

「ほうほう。つまりいーちゃんが何かをしかけてお姉を負かした、という事ですか?」

圭一くんの視線から、何か謎の推理をしたのかぼくに聞いてきた。

「いや、そういうのじゃないから。魅音ちゃんはほんとに強かったし、ぼくがビリにならなかったのは運みたいなもんだよ」

ぼくは答える。そういうふうに見られるのは苦手だな。やはりゲームは避けるべきだったか。
事勿れ主義のぼくとしては本当に迂闊だった。しかし乗りかかった船だしな……。
などと、ひたむきに後ろ向きな事を考えてみる。

「うーん。それが本当だとしても、お姉が負けるんだ……」と、顎に人差し指を当てた。

「ところで店員さん。わたしはオーダーを頼みたいんだよね」

と、ずっとメニューとにらめっこしていた春日井さんが口を開いた。
それを聞いた詩音ちゃんは姿勢を正し、急いで営業スマイルを作る。

「失礼しました。それではご注文よろしいですか?」

ぼくは適当な物を頼ぶ。圭一くんも遠慮してくれたのか、安めな物を頼んだ。
そして、ぼくの財布を侵す者、春日井春日。

「上寿司一つお願い」と、本日もろくでもない人格を如何なく発揮した。

「……いつか返して下さいね」

「ふうん。どう返せばいいのかな?」

舌舐めずりしながら、じっとりとしたなまめかしい目で見られた。
怖っ!

「いや、返さなくていいです。むしろお断りだ」

哀川さんからあらかじめバイト代を貰っておいて良かった。
ぼく自身がお金を使う事はあまりないのだが、姫ちゃんの学費やらなんやらできつい事には変わりはないんだよな。
圭一くんはぼくと春日井さんのやり取りを見て。

「ところで春日井さんって本当は何者なんだ?」

と、答えにくい事を圭一くんに問われた。
……これは、困る。
君の住んでいる村のとある風土病を研究しに来て首になった科学者だよ。
 などと言えるはずもないしな。
さて、どうしたものか。
ぼくは春日井さんを盗み見る、そして変な事言わないでくださいね、という視線を送る。
春日井さんは小さく頷いたように見える。……通じたのだろうか。

「ああ、春日井さんはね――」

「うん少年。君の想像通りだ。お姉さんはいっきーのセックスフレンドだよ」真顔!?

「……てめえ」

圭一くんは引いている、それも露骨に。まあ、興味を逸らせた事で良しとしておこう。
 むしろそうしておきたい。
そうじゃなきゃぼくが浮かばれない。
ぼくは嘆息をつき、圭一くんに向きなおる。

「この人は医者だよ。ほら白衣とか着てるし」

と、本当に本来の意味じゃない適当で、適当に返しておく。

「ふうん。まあ、いいさ」苦笑いしながら笑みを作る圭一くん。

ごまかせればいいんだけどな。追及の如何は圭一くんの良心に任せるとしよう。

「お待たせしましたー」

助け舟参上。詩音ちゃんが店員さんの笑顔で、注文を持って再びぼく達のテーブルに来た。
お盆に載せられた料理が手際よくテーブルに並べられる。
店員さんの外観に惑わされるけど、この店の料理は結構美味しいんですよね。
よく考えたらファミレスに来る機会なんて無いもんな。行くとしたらみいこさんくらいか。
哀川さんは居酒屋だし、玖渚はジャンクフード限定。
 他の知り合いだって皆似たり寄ったりの偏食家ばかり。
だからといって貴重な体験だというわけでもない。……なんとも変な状況。
うーん……帰りてえな――他にも色々と気を回さなければならないし。

「なんだかなあ……」

「どうしたんですか? 独り言でてますよ」

圭一くんの隣に座った詩音ちゃん。昨日もそうだったけど、あんた店員の仕事はいいんですか?

「いや、なんでもないさ。ぼくはね、絶えず独り言を言わないと死んでしまう病にかかっていると、もっぱらの噂なんだ」

「誰に噂されてるんですか? 友達ですか?」

うぐ。
……この子はなんて事を聞きやがるんだ……。ぼくに友達だなんて……。
 そんな事を聞くだなんて……。聞くのだなんて……。

「ああ、そうさ! 沢山の友達に噂されてるのさ!」

開き直ってみた。旅の恥はかき捨てるべき、って零崎も言ってたしね。嘘だけど。
大嘘だけど。悲しくなんてなにもないけど。

「いーちゃんにも友達いたんですね」分かってんなら聞くんじゃねえよ。

「へえ、友達いたんだな」きみもかよ圭一くん。

「ふうん。沢山の友達ねぇ」

「……なんすかその目は、春日井さん? ぼくは間違った事など言ってませんよ」

「いいや。別になんでもないよ。いっきーは友達一杯だもんね!」

ピンポイントで人の心をえぐってきやがる。分かってる癖に……。

「ぼくに友達がいるとかいないとかなんてね、そんな事はどうでもいいんですよ……」

と、そろそろ逃げに入るぼく。付き合ってられませんよ。ホント。


~~~~


そうこうして食事が終わったぼく達は、エンジェルモートを後にした。
ちなみに春日井さんと圭一くんは、馬鹿みたいな量のケーキをたいらげ、しっかりとアンケートにまで答えていた。
何となくだけど、そういうバイタリティーの高さは尊敬したくなるような。やはりならないような。
ぼく等は夕焼けの橙色の中、大通りをホテルに向かい歩いていた。

「そんじゃ、俺はこっちだから」と、圭一くんは雛見沢に向かう道を指差した。

「ああ、うん。ありがとうねケーキの券貰っちゃってさ」

ぼくは食べてないけれど。一応の礼儀として、そこの社会不適合者の代わりにお礼を言っておく。
横目で春日井さんを見てみると――満足そうな顔してやがる。

「気にしないでくれよ。あれは貰いものだしな」

「ふうん。そうなんだ」そういえば、そこらへんの事は聞いてなかったな。

「ああ、いいや。むしろ俺こそ礼を言わなきゃな。奢ってもらってサンキュな」と、笑顔で頭を下げた。

「そんな気にしなくてもいいさ」ま、人それぞれか。

どこかに二日連続で他人の金で寿司を食って、つらっとしているような人もいるからな。
ぼくは春日井さんを見た。ぼくの視線に気づいた春日井さんは、ぼくと圭一くんに「うむ」と大きく頷いた。
……勝てる気がしねえ。

「そんじゃ、明日な!」と、圭一くんは自転車で走り去った。

そうして、残されたぼくと春日井さん。

「それじゃあ、とりあえずホテルに帰りますか」

「さて。それじゃわたしも帰ろうかな」と、唐突にぼくに向きなおり、こう言った。

「……え? 春日井さんって住む家あるんですか」

だって衣食住完備の研究所だからって雛見沢に誘われたんじゃなかったっけ?

「さあて。あったようななかったような」と、全く表情を変えずに言う。

「いや、わけわかんないです。だいたい春日井さんお金を持ってないじゃないですか。電車代とかだってあるだろうし……」

「わたしはそういう奴なんだよ。きみだって良く知ってるでしょう? 帰ろうと思ったのもただの気まぐれなんだよ。
それにお金も何とかなるだろうしね。だからきみはわたしを心配しなくてもいいんだよ」

ああ、そうだった。この人は本当に何も無いんだな。

分かってはいたけど。
分かりきっていたけど。理解出来すぎて忘れていたけど。
……まあ、大丈夫だっていうんなら大丈夫なんだろうけど。ここは山の中でもなんでもないし。
そして、振り返り、歩き始めた。

「何処に行くんですか?」ぼくは呼び止めるように、春日井さんの背中に声をかけた。

「京都にでも行ってみようかな」ぼくの問いに迷うでもなく返答。

また戻るのか。
それにしても……もしかして歩いて行くのか?
いくらなんでも遠すぎる気がしないでもない。しかしこの人だったらありえるんだよな。

「もしかして、歩いて行くんですか?」一応問うてみる。

「さあどうするのかな。……ああそうだ。ご飯美味しかったよ。それじゃあね。じゃあまた

縁が合えば

会えるかもしれないね」

それだけ残して、春日井さんは再び歩み出した。
こちらを振り返る事無く。

こうして。春日井春日は、ここ雛見沢の舞台から退場した。



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