2011年06月27日 12:01
唯「まじーん、ごー!」
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2011/02/27(日) 17:34:58.79 ID:xzchfqAl0
第十一話
中国 重慶基地郊外の上空
連邦軍の戦艦、ホワイトベースに巨大な鳥が降りた。
全長にして50メートルにもなる巨鳥の正体は、ライディーンが変形したゴッドバードだ。
ゆりえ「一橋ゆりえ、到着しましたー」
不慣れな敬礼は戦艦にあって似合わないものだが、格納庫まで出迎えた司令官は誠実に姿勢を正した。
シノン「ご協力感謝します。これより、ホワイトベース艦長代理、香月シノン少尉がゆりえさんの身を預からせていただきます」
ゆりえ「よろしくお願いします」
立夏「ヤッター、ゆりえちゃん来るの待ってたんダヨー!」
ゆりえ「わっ、わわわっ」
立夏「ホラホラ、リッカが案内してあげるヨー」
霙「召集がかかったら、早く戻ってくるんだぞ」
立夏「りょうかーいッチャオ」
ツインテールと一緒にぴょんぴょん飛び跳ねる立夏が、あっという間にゆりえを連れて行ってしまった。
それを遠目に見ながら、ヒカルがやれやれといった風に苦笑する。
ヒカル「久しぶりに年が近い相手だからな、立夏もはしゃいでる」
スズ「一橋さんのほうが一応、一個上なんだけどね」
霙「ゲッターチームの三人にも来てほしかったんだが、早乙女研究所で機体の調整があるらしいからな」
シノン「ともかく、これで海晴中尉とシノさんが抜けた穴はカバーできると思います」
アリア「だけど、シノちゃんは大丈夫かしら……長門さんを連れているとはいえ、敵の基地の中なんて……」
現在、天使海晴と天草シノは捕虜の長門有希を連れて、ギガノス軍に捕らえられているマチルダ・アジャン中尉との交換に向かっていた。
シノン「基地の中に入るわけではないから、何かあったとしたら私たちにもわかるわ」
スズ「何かあってからじゃ遅いと思いますけど」
ヒカル「しかし、彼女たちは罠を張るような人間には思えないが。長門さんは私たちに助けを求めてきたのだから」
スズ「はぁ……ヒカルはもう少し周りを疑うことを知ったほうがいいわね」
ヒカル「どういうことだ、スズ?」
霙「ギガノス帝国にはドルチェノフという好戦的な指揮官がいる。そして蒼き鷹の涼宮ハルヒは今、そいつの直属になっている」
シノン「下士官パイロット一人と補給船指揮の中尉では捕虜交換のうまみがギガノス側にはないわ。なのにそれをあちら側から提案してきたということは、この交換は彼女の独断である可能性が高い」
霙「当然、ドルチェノフがそんなことを容認するつもりはない。女性士官<ウェーブ>の捕虜は政治交渉のカードにも利用できるからな」
スズ「つまり、何かしらの妨害行為が予想されるということよ」
ヒカル「そ、そうなのか……」
霙「まあ、ヒカルは自分を鍛えること以外にすることがない脳筋だからな。そこまで考えが至らんだろうさ」
ヒカル「み、霙姉!? そんなひどい!」
霙「ははは、せめて材料工学の基礎くらいは身につけてほしいものだな」
ヒカル「う、うぅ……はい」
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638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2011/02/27(日) 17:34:58.79 ID:xzchfqAl0
第十一話
中国 重慶基地郊外の上空
連邦軍の戦艦、ホワイトベースに巨大な鳥が降りた。
全長にして50メートルにもなる巨鳥の正体は、ライディーンが変形したゴッドバードだ。
ゆりえ「一橋ゆりえ、到着しましたー」
不慣れな敬礼は戦艦にあって似合わないものだが、格納庫まで出迎えた司令官は誠実に姿勢を正した。
シノン「ご協力感謝します。これより、ホワイトベース艦長代理、香月シノン少尉がゆりえさんの身を預からせていただきます」
ゆりえ「よろしくお願いします」
立夏「ヤッター、ゆりえちゃん来るの待ってたんダヨー!」
ゆりえ「わっ、わわわっ」
立夏「ホラホラ、リッカが案内してあげるヨー」
霙「召集がかかったら、早く戻ってくるんだぞ」
立夏「りょうかーいッチャオ」
ツインテールと一緒にぴょんぴょん飛び跳ねる立夏が、あっという間にゆりえを連れて行ってしまった。
それを遠目に見ながら、ヒカルがやれやれといった風に苦笑する。
ヒカル「久しぶりに年が近い相手だからな、立夏もはしゃいでる」
スズ「一橋さんのほうが一応、一個上なんだけどね」
霙「ゲッターチームの三人にも来てほしかったんだが、早乙女研究所で機体の調整があるらしいからな」
シノン「ともかく、これで海晴中尉とシノさんが抜けた穴はカバーできると思います」
アリア「だけど、シノちゃんは大丈夫かしら……長門さんを連れているとはいえ、敵の基地の中なんて……」
現在、天使海晴と天草シノは捕虜の長門有希を連れて、ギガノス軍に捕らえられているマチルダ・アジャン中尉との交換に向かっていた。
シノン「基地の中に入るわけではないから、何かあったとしたら私たちにもわかるわ」
スズ「何かあってからじゃ遅いと思いますけど」
ヒカル「しかし、彼女たちは罠を張るような人間には思えないが。長門さんは私たちに助けを求めてきたのだから」
スズ「はぁ……ヒカルはもう少し周りを疑うことを知ったほうがいいわね」
ヒカル「どういうことだ、スズ?」
霙「ギガノス帝国にはドルチェノフという好戦的な指揮官がいる。そして蒼き鷹の涼宮ハルヒは今、そいつの直属になっている」
シノン「下士官パイロット一人と補給船指揮の中尉では捕虜交換のうまみがギガノス側にはないわ。なのにそれをあちら側から提案してきたということは、この交換は彼女の独断である可能性が高い」
霙「当然、ドルチェノフがそんなことを容認するつもりはない。女性士官<ウェーブ>の捕虜は政治交渉のカードにも利用できるからな」
スズ「つまり、何かしらの妨害行為が予想されるということよ」
ヒカル「そ、そうなのか……」
霙「まあ、ヒカルは自分を鍛えること以外にすることがない脳筋だからな。そこまで考えが至らんだろうさ」
ヒカル「み、霙姉!? そんなひどい!」
霙「ははは、せめて材料工学の基礎くらいは身につけてほしいものだな」
ヒカル「う、うぅ……はい」

重慶ギガノス軍基地 近郊
見晴らしのいい平原で海晴とハルヒが向かい合っていた。
大股五歩ほどの距離。話をするには充分で、掴みかかるには遠い位置で、強く瞳孔を光らせるハルヒが先に口を開いた。
ハルヒ「連邦軍の天使中尉と天草三等空士ね」
海晴「えぇ、ギガノス軍涼宮大尉と……」
ハルヒ「こいつは部下のキョン。気にしなくていいわ」
キョン「おいてめぇ」
ハルヒ「こっちはマチルダ・アジャン中尉を連れてきたわ。有希はどこ?」
やや後方でギガノス兵に拘束されたマチルダがいる。
それを確認して海晴はドラグナー1型で控えているシノに連絡をした。
シノはD-1のハッチを開けた。そこには電磁ロックをかけた長門有希がいた。
キョン「長門!」
コクピットから降りてくる長門を見て、ハルヒは安堵の息を吐いた。
海晴「それじゃあ、互いに一歩ずつ」
ハルヒ「えぇ」
ギガノス兵が連れてきたマチルダ中尉をキョンが受けとる。
シノとキョンは二人とも短銃を持って捕虜の横に侍り、海晴とハルヒが合図を出すごとに一歩ずつ前に進んだ。
長門とシノが海晴の横を、キョンとマチルダがハルヒの横を通り過ぎる。
四人の影が直線に並んだとき、キョンとシノが銃を下ろし、拘束を解いた。
そして、マチルダと長門はお互いの陣営に到達する。
ハルヒ「有希っ!」
長門の小柄な体をハルヒがしっかりと抱きとめた。
キョン「長門、大丈夫だったか?」
長門「大丈夫。何もされてない」
相変わらずの無表情だったが、むしろそれが二人にとって安心できた。
ハルヒ「よかった……本当に……」
短く切られた髪をくしゃくしゃにして顔を埋めるハルヒに、シノはどうしても蒼き鷹ファルゲン・マッフの姿を重ねることはできなかった。
シノ「少し……訊いてもいいか……?」
ハルヒ「何よ」
素早く顔を上げたハルヒの目は既に敵意を灯していた。
それを見てシノは、この機会を逃したら、こうして顔を合わせることができなくなるだろうと確信した。
シノ「その、君は……何のために戦っているんだ……?」
ハルヒ「…………」
シノ「……応えてはくれないのか?」
ハルヒ「アンタが、あのD兵器のパイロット?」
シノ「そうだが……」
ハルヒ「きっと、アンタと同じ理由よ」
シノ「同じ……理由?」
ハルヒ「私は、私が信じるもののために戦っているのよ」
シノ「信じるもののため……」
キョン「ハ、ハルヒ! ヤバイぞ!」
ハルヒたちから離れて後方に控えている古泉と通信をしていたキョンが二人の会話を中断させた。
ハルヒ「何よ、キョン」
キョン「しょ、所属不明のメタルアーマーがこっちに急接近している!」
ハルヒ「何ですって!?」
驚愕はシノよりもハルヒのほうが大きかった。
それを見たシノは、もしもこれが演技だとしたら、女優賞ものだと思った。
海晴「シノちゃん! こっちに戻ってきて!」
海晴のほうにもホワイトベースから不明機の情報が入っていたらしい。
シノが踵を返したとき、長門が目を大きく開いて空を見上げた。
長門「来る……!」
彼女が向いたほうをその場の全員が見上げると、高速で接近してくる物体があった。
ハルヒ「全員! 逃げ……伏せなさいっ!」
ババババババババババババッ! 飛行物体が両手に持っていた巨大なハンドレールガンが火を噴いた!
ハルヒの声で姿勢を下げたシノの十数センチ先にいくつもの穴が空いた。
もしも、彼女の声に従わずに動いていたら、今ごろは血だらけで伏せることになっていただろう。
未確認機が頭上を通り過ぎた。一瞬翳った大空に再び太陽が差したとき、黒い斑点が二つ見えた。
キョン「手榴弾っ!?」
キョンの声に全員が戦慄する。手榴弾といってもただの手榴弾ではない。
メタルアーマーが使う手榴弾だ。その真下にいる人間が避難して助かる威力ではない。
キョン「くっ!」
持ちっぱなしになっていた短銃を空に構えるが、太陽の光りが強くて目が眩む。
それでもとにかく撃とうと引き金に指の力を込めようとしたとき、横から何者かが短銃に手を伸ばし、ひったくった。
キョン「な、長門!?」
とても小柄な少女から出たとは思えない強い力にキョンが面食らっている間に、片膝を立てて短銃の照準に目線を重ねた長門有希は小さな唇から僅かに聞こえる程度の声で呟いた。
長門「パーソナルセキュリティーエリアを拡大――敵対物質捕捉――誤差修正――」
ハルヒ「有希! 何をしてるの!? 早く逃げなさい!」
長門「――風向――弾道予測完了――命中率100%――発射」
ドゥッ! パァンッ! 教本に載るような隙のない姿勢から、発砲音が二つ響いた。そして――
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!! 轟音と爆風が辺り一面を覆いつくした。
キョン「な、長門……」
ハルヒ「有希……」
シノや海晴だけでなく、味方である二人でさえ、呆然としてしまった。
長門の情報収集と分析能力、さらに正確無比な射撃の技術は知っていたが、数百メートル離れた上空から落下してくる爆発物を二つ、瞬時に捕捉して短銃で撃ち抜くなど、まさに神業としか言いようがないだろう。
長門「任務、完了――ッ!?」
短銃を下ろした直後、その首にまたハルヒの腕が抱きついてきた。
ハルヒ「すごいじゃない、有希! まるでシモ・ヘイヘよ! さすがSOS団の秘蔵っ子だわ!」
キョン「そうだ、すごいじゃないか、長門。あんな人間離れした技をやっちまうなんて」
耳元できゃんきゃん声を弾ませるハルヒの肩越しに安堵の息を吐くキョンを見る。
涼宮ハルヒはもとより、彼もこの世界では普通の人間である。
長門が情報統合思念体が作り出した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースであることなど知らない。
長門「私は――」
古泉一樹も、朝比奈みくるも超能力者や未来人ではない普通の人間。
おそらく、ここに長門有希が来る前にいた、この世界本来の長門有希も普通の人間だったのだろう。
それを乗っ取ってしまったことに、彼女は罪悪感を募らせていた。
こうして涼宮ハルヒに触れられているべきなのは自分ではないことに――
だから、彼女はこう口にした。
長門「私は人〈マン〉ではなく、機械〈マシーン〉だから」
それを聞いたキョンとハルヒは、少しぽかんとして顔を見合わせ、やれやれといった風に肩をすくめた。
キョン「久しぶりに聞いたな、それ」
ハルヒ「えぇ、有希の決まり文句」
この世界に来てから、長門は自分のことを常にそう言うようにしていた。
在るべきではない存在の自分が、どう存在していくべきか――
選択したことは、優先順位を変えないこと。
そのために、自分を機械のように律した。
だけど、その言葉はキョン達をいたく怒らせた。自分のことを機械として見る『安さ』が、彼らは気に喰わなかった。
ハルヒ『だったら、この言葉を付け加えなさい! あなたが本当に、機械のように生きるっていうのなら、絶対にこの言葉と一緒よ!』
その場で思いついたとは信じられない言葉を、ハルヒは考えた。
長門はその指示に従っている。何よりも高い優先順位をつけて――
長門「今はまだ、機械〈マシーン〉だから」
閉ざされたと思っていた未来を、開けることができる言葉だから。
ホワイトベース
未確認機の報告を受けたホワイトベースはすぐにドラグナーとゲシュペンストを出撃させた。
ヒカル「天使ヒカル、ゲシュペンストタイプS、発進する!」
立夏「天使立夏! ゲシュペンストタイプR、発進、ゴーッ!」
スズ「萩村スズ、ドラグナー2、出ます!」
アリア「七条アリア、ドラグナー3、いきます!」
シュパァッ! 四機の機動兵器が、出て行く、
ゆりえ「あの、私は……」
霙「私と君は待機だ。敵は一機だから、どこかに隠れているのかもしれない」
ゆりえ「わ、わかりました」
霙「ふむ、待機の間はヒマだからな、ライディーンについて聞きたいことがある。いいかな?」
ゆりえ「は、はひ!」
地上 連邦軍幕営
マチルダ中尉を軍用車輌に乗せた後、海晴は同乗し、ユニットで来たシノはドラグナー1型に搭乗した。
海晴「それじゃあ、無理はしちゃダメよ、シノちゃん」
シノ「はい、わかっています」
D-1を浮上させる。不明機は方向を修正して、またこちらに向かってきている。
シノ「何者かは知らないが……」
同じ高さまで来て、シノは始めて見る機体を再確認した。
それまで戦ってきたメタルアーマーを一回り分厚くしたような外観に蛇のようなカラーリング。
何よりも威圧的だったのは、巨大なハンドレールガンと肩がけされた給弾ベルト、背中に背負った大型の青竜刀だ。
新型のメタルアーマーがハンドレールガンを構える。
その照準が、ドラグナーに向けられていないことに、シノが気づく。
シノ「ま、まさか――!」
急いでシノは下降してシールドを持った。
その下には、まだ基地に戻る道を軍用車輌で走るハルヒたちがいた。
バババババババババババッ! 弾雨がシノに降り注ぐ。もしも彼女が動かなければ、弾丸は車輌を貫いていただろう。
シノ「み、味方を撃つのか……?」
邪魔をされたことに気づいた。新型機は、ハンドレールガンから背中の青竜刀に持ち替えた。
ぎらりと陽光を反射する青竜刀は、禍々しい存在感を持っていた。
シノ「く、来るのかっ!?」
シノは右手にレーザーソードを持った。
シールドで受け止めては切り落とされる可能性がある。
実体剣が相手なら、レーザーソードで切ることが出来るはずだ。
シノ「はああぁっ!」
新型機は青竜刀を大きく振りかぶった。まっすぐに切り下ろすつもりだろう。
シノはレーザーソードを両手で構えてパワー負けしないように受け止めるつもりだ。
「うん、それ無理」
シノ「えっ――なッ!?」
いかつい機体の外観からはとても似合わない晴れやかな声が聞こえたとき、レーザーソードと青竜刀がぶつかりあった。
バキィンッ! 砕かれたのは、レーザーソードのほうだった。
数週間のシミュレータで植え込まれた感覚がバーニアの逆噴射を命じていなければ、返す刃でD-1は両断されていただろう。
「逃げちゃダメだよ。涼宮さんたち、死んじゃうよ」
シノ「き、君はいったい!?」
いったい、どんな材質で出来ているのか、レーザーソードを弾いた青竜刀を構えなおした新型機のパイロットは、いかにも気だるそうに名乗った。
朝倉涼子「ギガノス帝国機動F別働隊・朝倉涼子。ゲイザムのテスト中だったんだけど、命令が来ちゃったのね。面倒くさいからそのまま来たの」
ゲイザムとは、おそらくこの新型メタルアーマーのことだろう。
テスト中の機体でたった一人で乗り込んでくるほどの能力は、彼女がエース級だということだ。
朝倉「あなたがD兵器のパイロットなのね。でも、今はそんなことに興味はないから、邪魔しないでくれたら見逃してあげてもいいわ」
口調はあくまで穏やかで、まるで夕飯のメニューを決めるような軽さだ。
シノ「だが、君の命令はもしや……」
つと汗が伝うシノに、まるでステップを踏むかのように朝倉涼子は応える。
朝倉「涼宮ハルヒの抹殺よ」
シノ「み、味方を殺すのか!?」
朝倉「仕方ないじゃない。彼女は邪魔なのよ」
シノ「ど、どういうことだ!?」
朝倉「ねぇ、『やらなくて後悔するより、やって後悔したほうがいい』って言うよね」
シノ「えっ……?」
朝倉「現状を維持するままではジリ貧になることはわかってるんだけど、どうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき、あなたならどうする?」
シノ「な、何の話だ?」
朝倉「とりあえず、何でもいいから変えてみようとは思わない? だけど、上の人は急な変化は望んでないの。でも、現場はそうは言っていられない」
ゲイザムがまた青竜刀を振りかぶった。
シノは反射的に身構える。
朝倉「このままじゃ、どんどん良くない方向に転がっちゃう。だったら、もう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね」
ゲイザムが瞬時にD-1の懐に青竜刀がうねりをあげて襲い掛かる!
シノ「うわぁっ!?」
朝倉「そんなもので私の打ち込みが止められると思う!?」
ガッ! ギィッ! バキッ!
シノ「うっ、ぐっ、うわっ!?」
強化コーティングの刃が精密な角度でシノに攻めかかる。一撃でも通せば重大な損傷は免れないだろう。
重い連続攻撃でドラグナーのモーターに負担がかかり、動きが止まる。
朝倉「そこっ!」
バキィッ! 堅牢な装甲から繰り出されるショルダータックルに吹っ飛ばされるドラグナー。
シノ「ぐあっ!」
衝撃で緊急姿勢制御が発動する。その反動で前後に大きく揺さぶられたシノの目の前がぐらつく。
シノ「ぐっ、うぅ……」
朝倉「じゃあ、死んでね。さようなら」
ぼやける視界で、メインモニターにゲイザムの黒い姿が映る。
シノ「ぐ……うあぁ……」
大きく青竜刀を持ち上げる威容に、シノは震えた。
あれが振り下ろされれば死ぬ。心臓が鷲掴みされたように痛む。
両手の震えが止まらない。震えは極度に緊張する体を弛緩させるために発生するもの。
その緊張は、紛うことなく――恐怖。
シノ「――ひっ!?」
青竜刀が落ちてくる! 声にならない悲鳴が体内で共鳴し、局所的に弛緩した部位を刺激する。
その時――
立夏「ちょえぇぇぇいっ!」
回線が拾ったのは、夏の強い日差しのような明るい声だが、ドラグナーの前に割り込んできたのは黒い影だった。
朝倉「なに!?」
ガキィッ! ゲシュペンストが横からゲイザムにぶつかった!
立夏「ニュートロンビーム!」
横殴りを喰らってバランスを崩したゲイザムにゲシュペンストが光り、中性子ビームがその脇を掠め、給弾ベルトが切れて荒野に落ちていった。
朝倉「ふーん」
さしたる感想も持たずに、朝倉は青竜刀を肩に乗せた。
すぐに攻撃を再開しなかったのは、さらに三機が迫っていたからだ。
立夏「サァ! ここまでだよ! 五対一じゃかないっこないんだから!」
朝倉「そうかしら、おチビさん」
立夏「プンプーンッ! 立夏はチビッコじゃないモン!」
ヒカル「立夏! ふざけている場合じゃないぞ!」
ヒカルのゲシュペンストが立夏の隣につく。後方にドラグナー2型と3型が支援の配置についている。
ヒカル「さぁ、ここから退いてはくれないか。腕に自信があるといっても、この数を一機で相手にはできないだろう」
朝倉「そうね、私も五機はちょっと大変ね」
あっさりとした言い方にヒカルは少し拍子抜けしたが、無意味な戦闘が回避できるなら、それは望ましいことだ。
だが、次に朝倉が口にしたのは、死神の言葉だった。
朝倉「でも、役立たずが一人いる状態じゃ、それもどうかしらね」
ヒカル「なに?」
朝倉「そこのD-1のパイロットに聞いてみたらどう?」
機動兵器に乗ってなどいなければ、いち学校の優等生にしか思えないような声に先ほどから沈黙しているドラグナー1型に接触して回線を開いた。
シノ「…………」
ヒカル「天草先輩? どうかしましたか?」
シノ「ぅ……ぁ……」
ヒカル「天草先輩!? 天草先輩!」
いくら呼びかけてもシノは応えなかった。微かに揺らしてみても、反応はなかった。
朝倉「いくら呼んでも無駄よ。その子は今、砕けちゃってるから」
ヒカル「――ッ!?」
立夏「ヒカルオネーチャンッ!?」
いつの間に移動したのか、ゲイザムがヒカルのゲシュペンストの肩に手をかけて寄り添っていた。
怖気に急発進させたゲシュペンストに弾かれたドラグナー1型がバーニアの制御を失い、落下する。
立夏「あぁっ! シノオネーチャンが!」
ガシッ! ゲシュペンストの手がドラグナーの手を取る。
朝倉「ダメよ。乱暴にしちゃあ」
立夏「ヒッ! リッカにもキタ!?」
冷たい手で背中をなぞられるような気色悪さに立夏もまたシノの手を落とすところだったが――
ヒカル「立夏に、手を出すなぁーっ!」
ガガッ! 姿勢を取り直したヒカルがジェットマグナムで突撃する! しかし、すんでのところでゲイザムはひらりと避けた。
朝倉「あら、素敵ね。熱い気持ち、笑えるわ」
ゲイザムの青竜刀が振り下ろされる。それをかろうじて避けながら、ヒカルもプラズマカッターで突く。
両機が競り合って上昇していく。
その下で立夏はサブモニターに映ったコクピットで沈黙しているパイロットに呼びかけた。
立夏「シノオネーチャン! オネーチャンってば!」
シノ「ぅぅ……」
揺らしてもさすってもシノは反応しない。
立夏「むむむ~っ……!」
小学生を卒業したばかりの立夏が痺れを切らすのは早かった。
立夏「シノオネェーーーーーーチャンッてばぁーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
シノ「うわっ!?」
バイザーの中のスピーカーが音量を調節するが、立夏の大音声はそのラインを振り切って音割れしてしまった。
その衝撃でシノがびっくりして目覚めた。
立夏「シノおねーちゃん、起きた!?」
シノ「り、立夏ちゃんか……鼓膜がやぶけるかと思った……」
立夏「シノおねーちゃん、ダイジョブ?」
シノ「あ、あぁ……っ!?」
自分が何をしているのか思い出したシノの顔が真っ赤に染まった。
両足をもじもじさせ始めたシノに立夏がかくんと首をかしげた。
立夏「おねーちゃん、どうしたの?」
シノ「その……も、漏らしてしまったみたいだ……」
上半身の妙な解放感とぐっしょりと濡れた下半身の生温かさにシノはもう操縦するどころではなくなっていた。
機動兵器のパイロットはノーマルスーツを着用する。
シートの内部には排泄用のタンクがあり、パイロットはそこに用を足せばいいのだが、ノーマルスーツの排泄プラグをシートのプラグと繋げて始めてタンクに通るホールが開くのだ。
今回のように、突発的なことになってしまうと、全てノーマルスーツ内に残ってしまう。
プラグを繋げばあらかた落とすことは出来るが、スーツ内に残る温もりは最悪といってもいいものだ。
シノ「こ、こんなところでス××ロプレイだなんて……」
シノが呟いた言葉の意味は小学生を卒業したばかりの立夏にはわからなかったが、シノが漏らしてしまったのは自分のせいじゃないかと思って、慌てた。
立夏「もも、もしかして、立夏のせい?」
シノ「い、いや、立夏ちゃんのせいじゃないよ……それより、私はいいからヒカル君を助けに行ってやってくれ」
立夏「わ、わかったヨ、おねーちゃん!」
ゲシュペンストの接触が解け、ドラグナーと外界を繋ぐものがなくなったとき、シノの肩が大きく跳ねた。
シノ「ぅぐっ……! あぁぁ……!!」
全身を駆け巡る寒気は下半身を包む残滓の影響だけではない。
ガチガチと歯が鳴る。脳裏に焼きついた青竜刀の映像が何度も襲い掛かってくる。
出すものを出したはずの尿道がまたひくついた。震えは治まらず、計器の残像がはっきり目に映る。
シノ「はは、はっははは……」
無理やりに笑みを浮かべてシノは恐怖を遠ざけようとした。
誰かが接触して回線を開けば、サブモニタには顔面神経痛のような醜い顔つきの少女が映ったことだろう。
重慶基地
基地に到着したハルヒたちに古泉がすぐに駆けつけてくる。
古泉「涼宮さん! ご無事でしたか!?」
ハルヒ「えぇ、有希のおかげで」
キョン「古泉、あの機体は何なんだ!? あいつが全部をぶち壊しにしやがったんだぞ!」
古泉「あれについて、ドルチェノフ中将の指令があります」
ハルヒ「何よ?」
古泉「新型機ゲイザムを援護し、D兵器を奪取せよ。それが果たされぬ場合はハルヒ・スズミヤ・プラートの少尉格を剥奪し、本国へ強制送還するものである、と」
キョン「だがな! あいつは俺たち諸共殺そうとしていたぞ!」
ハルヒ「つまり、どっちにしてもあたしを殺すつもりね、ドルチェノフは」
古泉「本国に戻ったとしても、よくて勾留の後に軍事裁判でしょうね」
ハルヒは爪を噛んだ。元を正せば父であるラング・プラート博士の裏切りで殺されてもおかしくない立場だった。
それをドルチェノフの下につき、尖兵として屈辱に耐えてきたのは、監禁されたみくるを救けることと、父の友であったメサイア・ギルトールの理想を叶えるためである。
だが、ドルチェノフはついにハルヒを抹殺することを決意したらしい。これは二つの大きな意味を持つ。
一つはドルチェノフが議会を制する用意ができたということ。
蒼き鷹の名でカリスマのあるハルヒとギルトールを始末すれば、ギガノスはドルチェノフの支配に陥るということだ。
そして、もう一つはドルチェノフの思想がギルトールの持つそれとは大きくかけ離れたところにあるということだ。
ハルヒ「……私たちの理想にあまりに遠い隔たりがある。高い美空の星のように、高いところで光っている」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒは爪を噛ませていた手を空にかざし、今激しく打ち合っている機動兵器に眩しそうに見る。
斜めに影を残す背中にかける言葉が見つからないキョンの袖が、不意に引っぱられた。
キョン「……長門?」
ともすれば見失ってしまいそうなくらい存在感の希薄な少女のアプローチに視線を下ろすと、薄い唇がはっきりと言った。
長門「方法はある」
キョン「な、長門、そりゃ本当か!?」
藁にもすがる思いの声にハルヒと古泉も振り返る。
三つの視線を集めてから、長門は右腕を上げた。
ハルヒ「えっ……?」
キョン「お、おい、長門。それはどういうことだ?」
長門の右手が握っている物は、先ほど彼女を救った短銃だ。
しかし、今度はその銃口がぴたりとハルヒの胸に向けられている。
ハルヒ「ゆ、有希……?」
突然のことにハルヒ後ずさりするのを燻した銀のような瞳で追った長門の指に力が込められるのをキョンは見た。
キョン「なが――」
乾いた音が基地内に響いた。
重慶基地 上空
朝倉「あら?」
ゲイザムの殺人的に狭いコクピット内で朝倉涼子は携帯端末の点灯に首をかしげた。
朝倉「涼宮さん、死んじゃった?」
その点灯は緑のはずが、今は赤に変わっている。これは、涼宮ハルヒの心臓とリンクしている。
ドルチェノフが反逆防止のために彼女の体に埋め込んだもので、これが赤ということはつまりハルヒの心臓が停止したということだ。
朝倉「さっきのかな? 意外とあっけなかったわね」
達成感はなかったが、とりあえず目的は達成できた。D-1は戦線を離脱したようだが。
朝倉「それじゃあ、遊びの時間は終わりね」
先ほどからまとわりついてくる二機のゲシュペンストとそれを支援しているD-2とD-3。
そこそこのセンスはあるようだが、彼女からすれば経験値が低すぎる。
生かしておく理由もないので、ここで完全に破壊する。パイロットごと。
朝倉「ちょっとは楽しかったよ。ばいばい」
両手を押し込むようにして、ぐんと機体の高度を下げた。
機体の頭上で立夏のゲシュペンストがプラズマカッターを空振りするのを確認することもなく、朝倉は前方に速度を増した。
スズ「!」
朝倉「まず、あなたが邪魔なのね」
目障りなことをするD-3にゲイザムが迫る。
向こう側のパイロットが息を詰まらせるのがはっきりとわかった。
朝倉「さよなら」
ゲイザムの捕食圏内に捉えたD-3に青竜刀が鈍く光った。そして――
ズドォォォォォォォォォッ!!
朝倉「!?」
今にも巨大な刃がD-3の胴を切り落とそうとしたとき、大気が大きく爆動した。
煽りを受けて機体のバランスが崩れ、D-3は辛うじて大蛇の顎から逃れることができた。
スズ「な、なにが起こったの……?」
九死に一生を得たスズがアリアの傍まで駆け寄ると、EWACが襲撃を警戒していた。
スズ「敵!? どこから……母艦の後ろ!?」
立夏「えぇっ!?」
ヒカル「くっ……こんなときに……」
アリア「でも、ホワイトベースには霙さんやゆりえちゃんもいるわ。どうにか持ちこたえられるはずよ」
スズ「識別は、あのドローメという戦闘機が多数と、その母艦と思しき巨大飛行物体です」
それ以上の会話の時間は与えられなかった。
朝倉「よそ見しちゃダメだよ」
ブゥンッ! 体勢を立て直したゲイザムが青竜刀を四機の中に振り下ろした。
ヒカル「くっ……私たちはこいつに集中だ!」
スズ「それじゃあホワイトベースが!」
ヒカル「……信じるしかない。まだ海晴姉がいる」
海晴はマチルダの護送の最中だ。連邦基地にヴァイスリッターが下ろしてあるので、直接乗り込むはずだ。
ヒカル「それまで、こいつは私たちが食い止めるんだ!」
ゲイザムの横薙ぎを上昇して回避したヒカルのゲシュペンストが、プラズマカッターを両手に構えた。
一方で、ホワイトベースは騒然としていた。
突如レーダーに侵入してきた無数のドローメに、香月シノンは矢継ぎ早に指示を出して乗組員達に行動させている。
まだ少女の域を脱し切れていない彼女の指揮能力も、度重なる実戦の中で確実に培われていた。
シノン「ゆりえさん、出られますか!?」
ゆりえ「はい! ライディーン、いけます!」
シノン「ライディーン、発進!!」
ゴッドバード形態のライディーンが飛び出し、空中でライディーンに変形する。
ゆりえ『ラァァァイディィィィィィン!』
シノン「ホワイトベースは敵との接触を避け、ヒカルさんたちの救援に向かいます。アルトアイゼンは直援に回ってください」
霙「了解した。アルトアイゼン、出る」
空になった格納庫を見て、シノンはオペレーターのほうを見た。
シノン「それで、先ほどのアレはわかりましたか?」
連邦兵「はい、どうやら敵の戦艦のようです」
シノン「まあ、そうでしょうね……ドローメが出てきたということは、妖魔帝国のものでしょう」
改めてモニターに映し出されたそれを、シノンはやはり疑わざるを得なかった。
戦艦と判断したものは、巨大な人間の手にしか見えないのだから。
ゆりえ『ゴォォォォッド・ミサァァァイル!』
地鳴りのするような声がライディーンの口から発せられ、羽のあるミサイルが近くのドローメを落とす。
ゆりえ『ゴォォォォォッド・ブゥゥゥゥゥメラァァン!』
左手の楯が弓状に変形し、それを投げつける。雑草を刈り取るかのようにドローメが爆発して墜落していく。
それを妖魔帝国岩石戦艦・大魔竜ガンテの中から見ている影が笑った。
シャーキン「フフフ、あれがライディーン……一万二千年前に我々妖魔帝国を地の底に沈めた忌まわしき巨神か」
均整の取れた青白い体にぴったりと軍服を着込んだ妖魔帝国のプリンス・シャーキンは細い顎に手を当てて顔の上半分を多い隠す仮面の目をキラリと光らせた。
シャーキン「よかろう、バラオ大帝復活を前に、奴を血祭りに上げよう。化石獣バストドンを出せ!」
ゆりえ『な、何か出てくる!?』
ガンテから出てきたのは真っ青な巨人、化石獣バストドンだ。
シャーキン「やれ、バストドン!」
バストドン「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」
ドドォンッ! 化石獣の体当たりでライディーンが倒される。
ゆりえ『きゃあぁぁっ!!』
バストドン「がおおぉぉぉぉぐ!」
ゆりえ『やられちゃうっ!? やりかえさなきゃ!』
つかみ掛かってくるバストドンにゆりえは左腕を上げた。
ゆりえ『ゴォォォォォッド・ブレイカァァァァァ!』
ズバァッ! 弓状に変形した楯で円を描くように切り付けると、バストドンの両腕が落とされる!
ゆりえ『や、やったぁ……!』
シャーキン「やるな、ライディーン。だが、バストドンはその程度ではない!」
バストドン「がおぉぉおぉっ!」
ぞるっ。まっさらな切り口を見せるバストドンの両手首から剣が出現した!
ゆりえ『そんなぁっ! ずるいよぅ!』
ガキッ! ガァンッ!
立夏「うひゃぁっ!」
ヒカル「くあぁっ!」
朝倉「ほらほら、もうぼろぼろじゃない。そんなので私を止められると思ってるの?」
ゲイザムの猛攻にヒカルのプラズマカッターは折れ、ジェットマグナムも失っていた。
立夏もミサイルと弾丸を撃ちつくし、右足を半壊されている。
アリア「スズちゃん!」
スズ「いけます! やってください!」
アリア「ごんぶと! いっけぇぇぇ!」
ドォンッ! ドォンッ! 2型の280ミリキャノンが3型の誘導支援を受けて放たれる。
朝倉「きゃっ、やっぱりあの子をやっておくべきだったわね」
体重のあるゲイザムでもひらりと避ける。この敵味方入り混じる状況で砲撃すれば味方に当たる可能性もあったが、やはりD-3の電子戦能力が強力にサポートしているのだろう。
ヒカル「たあぁぁーっ!」
キィンッ! 右肩の死角からプラズマカッターが舞い込むが、人間ならばありえない角度に曲がったゲイザムの手首がそれを防いだ。
朝倉「機械と人間は違うのよ。それを教えてあげる」
接触回線で拾った嘲笑の後、ゲイザムの右肩の一部がパージされた。
そこからハンドグレネードが飛び出し、ゲシュペンストの右腕に接触し、爆発する。
ドドォンッ!
ヒカル「うわぁぁっ!」
ゲシュペンストの右肘から先が消し飛んだ。残り一本のプラズマカッターが黒い煙のどこかに消えていった。
立夏「オネーチャン! このぉっ!」
ギュァッ! ニュートロンビームでゲイザムをヒカルから遠ざけることに成功したが、代わりに立夏のメインモニターがアラームを発した。
立夏「ウッソォ!? 弾切れ!?」
立夏のゲシュペンストは全ての攻撃兵装を使い切ってしまっていた。
プラズマカッターもとっくに切り払われている。文字通りのデクノボウだ。
ヒカル「立夏! くっ……どうすれば……」
ヒカルのゲシュペンストもほとんどの武器を失っている。後はもう取り付くぐらいしか手段がない。
ヒカル「――ッ! 待てよ……」
迫り来るゲイザムを前にヒカルはあることを思い出した。
霙からゲシュペンストを受け取ったときの言葉。
霙『ヒカルのゲシュペンストには、私が考案した究極のアタッカー・モーションがある。いざという時はそれを使え。ただし、修理屋泣かせの一度きりの大技だ』
敵は青竜刀を振りかぶっている。反撃の手段はない! 追い込まれれば終わる!
ヒカル「コード・UGK!」
躊躇うことなくヒカルは唱えた。
瞬間、ゲシュペンストは宙を蹴るように大きく上昇し、元いた場所をゲイザムの青竜刀が切った。
ヒカル「ドライブ・オン!」
ヒカル「アタッカー・フルドライブ!」
朝倉「何をする気!?」
ヒカル「この技は、叫ぶのがお決まりらしくてな……」
バシュッ! 体勢を整えたゲシュペンストが更に空中で後方に宙返りする。
ヒカル「だが、ここで叫ぶのはやぶさかではない!」
ゴオォッ! ヒカルの精神が燃え上がる!
ギシ、ガシィンッ! ゲシュペンストの全駆動が軋みを上げている。
まるで格闘家が全身の筋肉を興奮させているようだった。
ヒカル<熱血>「ゆくぞっ!」
バシュィィンッ! 右足首が垂直に下を向く。ゲシュペンストの背部の噴出口が全て開放される!
ヒカル<熱血必中努力>「究極ゥ! ゲシュペントォ!! キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィック!!!!」
朝倉「なにごと!?」
ズガァァァァァァァァァァンッ!! 渾身の一撃がゲイザムの頭部を直撃した!
朝倉「うぐっ……! やられちゃった。まあ、いいか。データは充分取れてるし、命令はクリアできたし」
コクピットが狭くて助かるということもあるのだと朝倉は思った。
もしもあと数センチずれていたら、コクピットは潰れていた。
脱出ポッドの中で朝倉は言う。
朝倉「涼宮さんは殺せた。D兵器のパイロットはもう使い物にならない。まあ、基地は取られちゃうかもしれないけど、そんなのは関係ないものね」
バストドン「ぎゃおぉぉぉぉぉんっ!」
ゆりえ『きゃあぁぁぁっ!』
バストドンの剣がライディーンにぶつかる。
ゆりえ『うぅぅ~、どうすれば……』
「勇者よ……!」
ゆりえ『! この声……また』
「勇者よ……声を聞け……!」
ゆりえ『聞いてますよぉ、どなたなんですか!?』
「ゴッド・ゴーガン……」
ゆりえ『ゴッド……ゴーガン……?』
ゆりえの呟きにライディーンの目が光りを放った。
ゆりえ『ゴッド・ゴーガン……うん、やってみる!』
バストドン「ぎゃおぉぉぉぉぉん!」
ゆりえ『ゴォォォォォッド・ブロォォォォォック!』
バストドンの攻撃を受け止めたゆりえはゴッド・ブレイカーで弾き飛ばす。
そして、ゴッド・ブレイカーの両辺をさらに長く伸ばし、光りの弦に矢を引いた。
ゆりえ『ゴォォォォォッド・ゴォォォォォガォォン!』
パシュゥッ! 光りを纏った矢がバストドンに突き刺さる!
バストドン「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉ!」
シャーキン「むっ、バストドン!?」
ゆりえ『ゴォォォォォッド・プレッシャァァァァァ! ラァァァァァイ!』
ドゴォォォォォォン! ライディーンの体当たりでバストドンが爆散した!
シャーキン「むっ、やるな、ライディーン。いや、一橋ゆりえ!」
ゆりえ「ど、どうして私の名前を?」
シャーキン「その胸の奥に訊ねてみるがよい! 撤退だ!」
シャーキンの号令でドローメは大魔竜ガンテに戻り、ガンテも背を向けて退却していった。
ゆりえ「やっぱり……妖魔帝国とライディーン……そして、私も関係あるのかな……」
シノン「ゆりえさん、聞こえますか?」
ゆりえ「は、はい!」
シノン「妖魔帝国が撤退するのを確認したら、戻ってきてください」
ゆりえ「わ、わかりました」
ホワイトベース
シノン「そう、やっぱりギガノス軍は重慶基地から撤退しつつあるのね」
連邦兵「はい、蒼き鷹の親衛隊の機影も確認しています」
シノン「どういうことなのかしら……」
連邦兵「香月少尉、天使少尉から通信が入っております」
シノン「繋いで」
海晴「こちら天使海晴少尉です。聞こえていますか?」
シノン「通じています」
海晴「よかった……マチルダ中尉は無事に戻ることができたわ。私はもう少しここで様子を見ます」
シノン「許可します。ところで、重慶基地からギガノス軍が撤退したそうですが、何かわかりますか?」
海晴「それは……ちょっとわからないわね」
シノン「そうですか……」
この通信で、気付けというほうが難しかっただろう。
あるいは、海晴の姉妹であるヒカルや霙、立夏ならば何かを感じているのかもしれない。
海晴の声と喉元が、僅かに震えているのを……
第十一話 強襲! 毒蛇の女と悪魔の王子 完
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見晴らしのいい平原で海晴とハルヒが向かい合っていた。
大股五歩ほどの距離。話をするには充分で、掴みかかるには遠い位置で、強く瞳孔を光らせるハルヒが先に口を開いた。
ハルヒ「連邦軍の天使中尉と天草三等空士ね」
海晴「えぇ、ギガノス軍涼宮大尉と……」
ハルヒ「こいつは部下のキョン。気にしなくていいわ」
キョン「おいてめぇ」
ハルヒ「こっちはマチルダ・アジャン中尉を連れてきたわ。有希はどこ?」
やや後方でギガノス兵に拘束されたマチルダがいる。
それを確認して海晴はドラグナー1型で控えているシノに連絡をした。
シノはD-1のハッチを開けた。そこには電磁ロックをかけた長門有希がいた。
キョン「長門!」
コクピットから降りてくる長門を見て、ハルヒは安堵の息を吐いた。
海晴「それじゃあ、互いに一歩ずつ」
ハルヒ「えぇ」
ギガノス兵が連れてきたマチルダ中尉をキョンが受けとる。
シノとキョンは二人とも短銃を持って捕虜の横に侍り、海晴とハルヒが合図を出すごとに一歩ずつ前に進んだ。
長門とシノが海晴の横を、キョンとマチルダがハルヒの横を通り過ぎる。
四人の影が直線に並んだとき、キョンとシノが銃を下ろし、拘束を解いた。
そして、マチルダと長門はお互いの陣営に到達する。
ハルヒ「有希っ!」
長門の小柄な体をハルヒがしっかりと抱きとめた。
キョン「長門、大丈夫だったか?」
長門「大丈夫。何もされてない」
相変わらずの無表情だったが、むしろそれが二人にとって安心できた。
ハルヒ「よかった……本当に……」
短く切られた髪をくしゃくしゃにして顔を埋めるハルヒに、シノはどうしても蒼き鷹ファルゲン・マッフの姿を重ねることはできなかった。
シノ「少し……訊いてもいいか……?」
ハルヒ「何よ」
素早く顔を上げたハルヒの目は既に敵意を灯していた。
それを見てシノは、この機会を逃したら、こうして顔を合わせることができなくなるだろうと確信した。
シノ「その、君は……何のために戦っているんだ……?」
ハルヒ「…………」
シノ「……応えてはくれないのか?」
ハルヒ「アンタが、あのD兵器のパイロット?」
シノ「そうだが……」
ハルヒ「きっと、アンタと同じ理由よ」
シノ「同じ……理由?」
ハルヒ「私は、私が信じるもののために戦っているのよ」
シノ「信じるもののため……」
キョン「ハ、ハルヒ! ヤバイぞ!」
ハルヒたちから離れて後方に控えている古泉と通信をしていたキョンが二人の会話を中断させた。
ハルヒ「何よ、キョン」
キョン「しょ、所属不明のメタルアーマーがこっちに急接近している!」
ハルヒ「何ですって!?」
驚愕はシノよりもハルヒのほうが大きかった。
それを見たシノは、もしもこれが演技だとしたら、女優賞ものだと思った。
海晴「シノちゃん! こっちに戻ってきて!」
海晴のほうにもホワイトベースから不明機の情報が入っていたらしい。
シノが踵を返したとき、長門が目を大きく開いて空を見上げた。
長門「来る……!」
彼女が向いたほうをその場の全員が見上げると、高速で接近してくる物体があった。
ハルヒ「全員! 逃げ……伏せなさいっ!」
ババババババババババババッ! 飛行物体が両手に持っていた巨大なハンドレールガンが火を噴いた!
ハルヒの声で姿勢を下げたシノの十数センチ先にいくつもの穴が空いた。
もしも、彼女の声に従わずに動いていたら、今ごろは血だらけで伏せることになっていただろう。
未確認機が頭上を通り過ぎた。一瞬翳った大空に再び太陽が差したとき、黒い斑点が二つ見えた。
キョン「手榴弾っ!?」
キョンの声に全員が戦慄する。手榴弾といってもただの手榴弾ではない。
メタルアーマーが使う手榴弾だ。その真下にいる人間が避難して助かる威力ではない。
キョン「くっ!」
持ちっぱなしになっていた短銃を空に構えるが、太陽の光りが強くて目が眩む。
それでもとにかく撃とうと引き金に指の力を込めようとしたとき、横から何者かが短銃に手を伸ばし、ひったくった。
キョン「な、長門!?」
とても小柄な少女から出たとは思えない強い力にキョンが面食らっている間に、片膝を立てて短銃の照準に目線を重ねた長門有希は小さな唇から僅かに聞こえる程度の声で呟いた。
長門「パーソナルセキュリティーエリアを拡大――敵対物質捕捉――誤差修正――」
ハルヒ「有希! 何をしてるの!? 早く逃げなさい!」
長門「――風向――弾道予測完了――命中率100%――発射」
ドゥッ! パァンッ! 教本に載るような隙のない姿勢から、発砲音が二つ響いた。そして――
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!! 轟音と爆風が辺り一面を覆いつくした。
キョン「な、長門……」
ハルヒ「有希……」
シノや海晴だけでなく、味方である二人でさえ、呆然としてしまった。
長門の情報収集と分析能力、さらに正確無比な射撃の技術は知っていたが、数百メートル離れた上空から落下してくる爆発物を二つ、瞬時に捕捉して短銃で撃ち抜くなど、まさに神業としか言いようがないだろう。
長門「任務、完了――ッ!?」
短銃を下ろした直後、その首にまたハルヒの腕が抱きついてきた。
ハルヒ「すごいじゃない、有希! まるでシモ・ヘイヘよ! さすがSOS団の秘蔵っ子だわ!」
キョン「そうだ、すごいじゃないか、長門。あんな人間離れした技をやっちまうなんて」
耳元できゃんきゃん声を弾ませるハルヒの肩越しに安堵の息を吐くキョンを見る。
涼宮ハルヒはもとより、彼もこの世界では普通の人間である。
長門が情報統合思念体が作り出した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースであることなど知らない。
長門「私は――」
古泉一樹も、朝比奈みくるも超能力者や未来人ではない普通の人間。
おそらく、ここに長門有希が来る前にいた、この世界本来の長門有希も普通の人間だったのだろう。
それを乗っ取ってしまったことに、彼女は罪悪感を募らせていた。
こうして涼宮ハルヒに触れられているべきなのは自分ではないことに――
だから、彼女はこう口にした。
長門「私は人〈マン〉ではなく、機械〈マシーン〉だから」
それを聞いたキョンとハルヒは、少しぽかんとして顔を見合わせ、やれやれといった風に肩をすくめた。
キョン「久しぶりに聞いたな、それ」
ハルヒ「えぇ、有希の決まり文句」
この世界に来てから、長門は自分のことを常にそう言うようにしていた。
在るべきではない存在の自分が、どう存在していくべきか――
選択したことは、優先順位を変えないこと。
そのために、自分を機械のように律した。
だけど、その言葉はキョン達をいたく怒らせた。自分のことを機械として見る『安さ』が、彼らは気に喰わなかった。
ハルヒ『だったら、この言葉を付け加えなさい! あなたが本当に、機械のように生きるっていうのなら、絶対にこの言葉と一緒よ!』
その場で思いついたとは信じられない言葉を、ハルヒは考えた。
長門はその指示に従っている。何よりも高い優先順位をつけて――
長門「今はまだ、機械〈マシーン〉だから」
閉ざされたと思っていた未来を、開けることができる言葉だから。
ホワイトベース
未確認機の報告を受けたホワイトベースはすぐにドラグナーとゲシュペンストを出撃させた。
ヒカル「天使ヒカル、ゲシュペンストタイプS、発進する!」
立夏「天使立夏! ゲシュペンストタイプR、発進、ゴーッ!」
スズ「萩村スズ、ドラグナー2、出ます!」
アリア「七条アリア、ドラグナー3、いきます!」
シュパァッ! 四機の機動兵器が、出て行く、
ゆりえ「あの、私は……」
霙「私と君は待機だ。敵は一機だから、どこかに隠れているのかもしれない」
ゆりえ「わ、わかりました」
霙「ふむ、待機の間はヒマだからな、ライディーンについて聞きたいことがある。いいかな?」
ゆりえ「は、はひ!」
地上 連邦軍幕営
マチルダ中尉を軍用車輌に乗せた後、海晴は同乗し、ユニットで来たシノはドラグナー1型に搭乗した。
海晴「それじゃあ、無理はしちゃダメよ、シノちゃん」
シノ「はい、わかっています」
D-1を浮上させる。不明機は方向を修正して、またこちらに向かってきている。
シノ「何者かは知らないが……」
同じ高さまで来て、シノは始めて見る機体を再確認した。
それまで戦ってきたメタルアーマーを一回り分厚くしたような外観に蛇のようなカラーリング。
何よりも威圧的だったのは、巨大なハンドレールガンと肩がけされた給弾ベルト、背中に背負った大型の青竜刀だ。
新型のメタルアーマーがハンドレールガンを構える。
その照準が、ドラグナーに向けられていないことに、シノが気づく。
シノ「ま、まさか――!」
急いでシノは下降してシールドを持った。
その下には、まだ基地に戻る道を軍用車輌で走るハルヒたちがいた。
バババババババババババッ! 弾雨がシノに降り注ぐ。もしも彼女が動かなければ、弾丸は車輌を貫いていただろう。
シノ「み、味方を撃つのか……?」
邪魔をされたことに気づいた。新型機は、ハンドレールガンから背中の青竜刀に持ち替えた。
ぎらりと陽光を反射する青竜刀は、禍々しい存在感を持っていた。
シノ「く、来るのかっ!?」
シノは右手にレーザーソードを持った。
シールドで受け止めては切り落とされる可能性がある。
実体剣が相手なら、レーザーソードで切ることが出来るはずだ。
シノ「はああぁっ!」
新型機は青竜刀を大きく振りかぶった。まっすぐに切り下ろすつもりだろう。
シノはレーザーソードを両手で構えてパワー負けしないように受け止めるつもりだ。
「うん、それ無理」
シノ「えっ――なッ!?」
いかつい機体の外観からはとても似合わない晴れやかな声が聞こえたとき、レーザーソードと青竜刀がぶつかりあった。
バキィンッ! 砕かれたのは、レーザーソードのほうだった。
数週間のシミュレータで植え込まれた感覚がバーニアの逆噴射を命じていなければ、返す刃でD-1は両断されていただろう。
「逃げちゃダメだよ。涼宮さんたち、死んじゃうよ」
シノ「き、君はいったい!?」
いったい、どんな材質で出来ているのか、レーザーソードを弾いた青竜刀を構えなおした新型機のパイロットは、いかにも気だるそうに名乗った。
朝倉涼子「ギガノス帝国機動F別働隊・朝倉涼子。ゲイザムのテスト中だったんだけど、命令が来ちゃったのね。面倒くさいからそのまま来たの」
ゲイザムとは、おそらくこの新型メタルアーマーのことだろう。
テスト中の機体でたった一人で乗り込んでくるほどの能力は、彼女がエース級だということだ。
朝倉「あなたがD兵器のパイロットなのね。でも、今はそんなことに興味はないから、邪魔しないでくれたら見逃してあげてもいいわ」
口調はあくまで穏やかで、まるで夕飯のメニューを決めるような軽さだ。
シノ「だが、君の命令はもしや……」
つと汗が伝うシノに、まるでステップを踏むかのように朝倉涼子は応える。
朝倉「涼宮ハルヒの抹殺よ」
シノ「み、味方を殺すのか!?」
朝倉「仕方ないじゃない。彼女は邪魔なのよ」
シノ「ど、どういうことだ!?」
朝倉「ねぇ、『やらなくて後悔するより、やって後悔したほうがいい』って言うよね」
シノ「えっ……?」
朝倉「現状を維持するままではジリ貧になることはわかってるんだけど、どうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき、あなたならどうする?」
シノ「な、何の話だ?」
朝倉「とりあえず、何でもいいから変えてみようとは思わない? だけど、上の人は急な変化は望んでないの。でも、現場はそうは言っていられない」
ゲイザムがまた青竜刀を振りかぶった。
シノは反射的に身構える。
朝倉「このままじゃ、どんどん良くない方向に転がっちゃう。だったら、もう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね」
ゲイザムが瞬時にD-1の懐に青竜刀がうねりをあげて襲い掛かる!
シノ「うわぁっ!?」
朝倉「そんなもので私の打ち込みが止められると思う!?」
ガッ! ギィッ! バキッ!
シノ「うっ、ぐっ、うわっ!?」
強化コーティングの刃が精密な角度でシノに攻めかかる。一撃でも通せば重大な損傷は免れないだろう。
重い連続攻撃でドラグナーのモーターに負担がかかり、動きが止まる。
朝倉「そこっ!」
バキィッ! 堅牢な装甲から繰り出されるショルダータックルに吹っ飛ばされるドラグナー。
シノ「ぐあっ!」
衝撃で緊急姿勢制御が発動する。その反動で前後に大きく揺さぶられたシノの目の前がぐらつく。
シノ「ぐっ、うぅ……」
朝倉「じゃあ、死んでね。さようなら」
ぼやける視界で、メインモニターにゲイザムの黒い姿が映る。
シノ「ぐ……うあぁ……」
大きく青竜刀を持ち上げる威容に、シノは震えた。
あれが振り下ろされれば死ぬ。心臓が鷲掴みされたように痛む。
両手の震えが止まらない。震えは極度に緊張する体を弛緩させるために発生するもの。
その緊張は、紛うことなく――恐怖。
シノ「――ひっ!?」
青竜刀が落ちてくる! 声にならない悲鳴が体内で共鳴し、局所的に弛緩した部位を刺激する。
その時――
立夏「ちょえぇぇぇいっ!」
回線が拾ったのは、夏の強い日差しのような明るい声だが、ドラグナーの前に割り込んできたのは黒い影だった。
朝倉「なに!?」
ガキィッ! ゲシュペンストが横からゲイザムにぶつかった!
立夏「ニュートロンビーム!」
横殴りを喰らってバランスを崩したゲイザムにゲシュペンストが光り、中性子ビームがその脇を掠め、給弾ベルトが切れて荒野に落ちていった。
朝倉「ふーん」
さしたる感想も持たずに、朝倉は青竜刀を肩に乗せた。
すぐに攻撃を再開しなかったのは、さらに三機が迫っていたからだ。
立夏「サァ! ここまでだよ! 五対一じゃかないっこないんだから!」
朝倉「そうかしら、おチビさん」
立夏「プンプーンッ! 立夏はチビッコじゃないモン!」
ヒカル「立夏! ふざけている場合じゃないぞ!」
ヒカルのゲシュペンストが立夏の隣につく。後方にドラグナー2型と3型が支援の配置についている。
ヒカル「さぁ、ここから退いてはくれないか。腕に自信があるといっても、この数を一機で相手にはできないだろう」
朝倉「そうね、私も五機はちょっと大変ね」
あっさりとした言い方にヒカルは少し拍子抜けしたが、無意味な戦闘が回避できるなら、それは望ましいことだ。
だが、次に朝倉が口にしたのは、死神の言葉だった。
朝倉「でも、役立たずが一人いる状態じゃ、それもどうかしらね」
ヒカル「なに?」
朝倉「そこのD-1のパイロットに聞いてみたらどう?」
機動兵器に乗ってなどいなければ、いち学校の優等生にしか思えないような声に先ほどから沈黙しているドラグナー1型に接触して回線を開いた。
シノ「…………」
ヒカル「天草先輩? どうかしましたか?」
シノ「ぅ……ぁ……」
ヒカル「天草先輩!? 天草先輩!」
いくら呼びかけてもシノは応えなかった。微かに揺らしてみても、反応はなかった。
朝倉「いくら呼んでも無駄よ。その子は今、砕けちゃってるから」
ヒカル「――ッ!?」
立夏「ヒカルオネーチャンッ!?」
いつの間に移動したのか、ゲイザムがヒカルのゲシュペンストの肩に手をかけて寄り添っていた。
怖気に急発進させたゲシュペンストに弾かれたドラグナー1型がバーニアの制御を失い、落下する。
立夏「あぁっ! シノオネーチャンが!」
ガシッ! ゲシュペンストの手がドラグナーの手を取る。
朝倉「ダメよ。乱暴にしちゃあ」
立夏「ヒッ! リッカにもキタ!?」
冷たい手で背中をなぞられるような気色悪さに立夏もまたシノの手を落とすところだったが――
ヒカル「立夏に、手を出すなぁーっ!」
ガガッ! 姿勢を取り直したヒカルがジェットマグナムで突撃する! しかし、すんでのところでゲイザムはひらりと避けた。
朝倉「あら、素敵ね。熱い気持ち、笑えるわ」
ゲイザムの青竜刀が振り下ろされる。それをかろうじて避けながら、ヒカルもプラズマカッターで突く。
両機が競り合って上昇していく。
その下で立夏はサブモニターに映ったコクピットで沈黙しているパイロットに呼びかけた。
立夏「シノオネーチャン! オネーチャンってば!」
シノ「ぅぅ……」
揺らしてもさすってもシノは反応しない。
立夏「むむむ~っ……!」
小学生を卒業したばかりの立夏が痺れを切らすのは早かった。
立夏「シノオネェーーーーーーチャンッてばぁーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
シノ「うわっ!?」
バイザーの中のスピーカーが音量を調節するが、立夏の大音声はそのラインを振り切って音割れしてしまった。
その衝撃でシノがびっくりして目覚めた。
立夏「シノおねーちゃん、起きた!?」
シノ「り、立夏ちゃんか……鼓膜がやぶけるかと思った……」
立夏「シノおねーちゃん、ダイジョブ?」
シノ「あ、あぁ……っ!?」
自分が何をしているのか思い出したシノの顔が真っ赤に染まった。
両足をもじもじさせ始めたシノに立夏がかくんと首をかしげた。
立夏「おねーちゃん、どうしたの?」
シノ「その……も、漏らしてしまったみたいだ……」
上半身の妙な解放感とぐっしょりと濡れた下半身の生温かさにシノはもう操縦するどころではなくなっていた。
機動兵器のパイロットはノーマルスーツを着用する。
シートの内部には排泄用のタンクがあり、パイロットはそこに用を足せばいいのだが、ノーマルスーツの排泄プラグをシートのプラグと繋げて始めてタンクに通るホールが開くのだ。
今回のように、突発的なことになってしまうと、全てノーマルスーツ内に残ってしまう。
プラグを繋げばあらかた落とすことは出来るが、スーツ内に残る温もりは最悪といってもいいものだ。
シノ「こ、こんなところでス××ロプレイだなんて……」
シノが呟いた言葉の意味は小学生を卒業したばかりの立夏にはわからなかったが、シノが漏らしてしまったのは自分のせいじゃないかと思って、慌てた。
立夏「もも、もしかして、立夏のせい?」
シノ「い、いや、立夏ちゃんのせいじゃないよ……それより、私はいいからヒカル君を助けに行ってやってくれ」
立夏「わ、わかったヨ、おねーちゃん!」
ゲシュペンストの接触が解け、ドラグナーと外界を繋ぐものがなくなったとき、シノの肩が大きく跳ねた。
シノ「ぅぐっ……! あぁぁ……!!」
全身を駆け巡る寒気は下半身を包む残滓の影響だけではない。
ガチガチと歯が鳴る。脳裏に焼きついた青竜刀の映像が何度も襲い掛かってくる。
出すものを出したはずの尿道がまたひくついた。震えは治まらず、計器の残像がはっきり目に映る。
シノ「はは、はっははは……」
無理やりに笑みを浮かべてシノは恐怖を遠ざけようとした。
誰かが接触して回線を開けば、サブモニタには顔面神経痛のような醜い顔つきの少女が映ったことだろう。
重慶基地
基地に到着したハルヒたちに古泉がすぐに駆けつけてくる。
古泉「涼宮さん! ご無事でしたか!?」
ハルヒ「えぇ、有希のおかげで」
キョン「古泉、あの機体は何なんだ!? あいつが全部をぶち壊しにしやがったんだぞ!」
古泉「あれについて、ドルチェノフ中将の指令があります」
ハルヒ「何よ?」
古泉「新型機ゲイザムを援護し、D兵器を奪取せよ。それが果たされぬ場合はハルヒ・スズミヤ・プラートの少尉格を剥奪し、本国へ強制送還するものである、と」
キョン「だがな! あいつは俺たち諸共殺そうとしていたぞ!」
ハルヒ「つまり、どっちにしてもあたしを殺すつもりね、ドルチェノフは」
古泉「本国に戻ったとしても、よくて勾留の後に軍事裁判でしょうね」
ハルヒは爪を噛んだ。元を正せば父であるラング・プラート博士の裏切りで殺されてもおかしくない立場だった。
それをドルチェノフの下につき、尖兵として屈辱に耐えてきたのは、監禁されたみくるを救けることと、父の友であったメサイア・ギルトールの理想を叶えるためである。
だが、ドルチェノフはついにハルヒを抹殺することを決意したらしい。これは二つの大きな意味を持つ。
一つはドルチェノフが議会を制する用意ができたということ。
蒼き鷹の名でカリスマのあるハルヒとギルトールを始末すれば、ギガノスはドルチェノフの支配に陥るということだ。
そして、もう一つはドルチェノフの思想がギルトールの持つそれとは大きくかけ離れたところにあるということだ。
ハルヒ「……私たちの理想にあまりに遠い隔たりがある。高い美空の星のように、高いところで光っている」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒは爪を噛ませていた手を空にかざし、今激しく打ち合っている機動兵器に眩しそうに見る。
斜めに影を残す背中にかける言葉が見つからないキョンの袖が、不意に引っぱられた。
キョン「……長門?」
ともすれば見失ってしまいそうなくらい存在感の希薄な少女のアプローチに視線を下ろすと、薄い唇がはっきりと言った。
長門「方法はある」
キョン「な、長門、そりゃ本当か!?」
藁にもすがる思いの声にハルヒと古泉も振り返る。
三つの視線を集めてから、長門は右腕を上げた。
ハルヒ「えっ……?」
キョン「お、おい、長門。それはどういうことだ?」
長門の右手が握っている物は、先ほど彼女を救った短銃だ。
しかし、今度はその銃口がぴたりとハルヒの胸に向けられている。
ハルヒ「ゆ、有希……?」
突然のことにハルヒ後ずさりするのを燻した銀のような瞳で追った長門の指に力が込められるのをキョンは見た。
キョン「なが――」
乾いた音が基地内に響いた。
重慶基地 上空
朝倉「あら?」
ゲイザムの殺人的に狭いコクピット内で朝倉涼子は携帯端末の点灯に首をかしげた。
朝倉「涼宮さん、死んじゃった?」
その点灯は緑のはずが、今は赤に変わっている。これは、涼宮ハルヒの心臓とリンクしている。
ドルチェノフが反逆防止のために彼女の体に埋め込んだもので、これが赤ということはつまりハルヒの心臓が停止したということだ。
朝倉「さっきのかな? 意外とあっけなかったわね」
達成感はなかったが、とりあえず目的は達成できた。D-1は戦線を離脱したようだが。
朝倉「それじゃあ、遊びの時間は終わりね」
先ほどからまとわりついてくる二機のゲシュペンストとそれを支援しているD-2とD-3。
そこそこのセンスはあるようだが、彼女からすれば経験値が低すぎる。
生かしておく理由もないので、ここで完全に破壊する。パイロットごと。
朝倉「ちょっとは楽しかったよ。ばいばい」
両手を押し込むようにして、ぐんと機体の高度を下げた。
機体の頭上で立夏のゲシュペンストがプラズマカッターを空振りするのを確認することもなく、朝倉は前方に速度を増した。
スズ「!」
朝倉「まず、あなたが邪魔なのね」
目障りなことをするD-3にゲイザムが迫る。
向こう側のパイロットが息を詰まらせるのがはっきりとわかった。
朝倉「さよなら」
ゲイザムの捕食圏内に捉えたD-3に青竜刀が鈍く光った。そして――
ズドォォォォォォォォォッ!!
朝倉「!?」
今にも巨大な刃がD-3の胴を切り落とそうとしたとき、大気が大きく爆動した。
煽りを受けて機体のバランスが崩れ、D-3は辛うじて大蛇の顎から逃れることができた。
スズ「な、なにが起こったの……?」
九死に一生を得たスズがアリアの傍まで駆け寄ると、EWACが襲撃を警戒していた。
スズ「敵!? どこから……母艦の後ろ!?」
立夏「えぇっ!?」
ヒカル「くっ……こんなときに……」
アリア「でも、ホワイトベースには霙さんやゆりえちゃんもいるわ。どうにか持ちこたえられるはずよ」
スズ「識別は、あのドローメという戦闘機が多数と、その母艦と思しき巨大飛行物体です」
それ以上の会話の時間は与えられなかった。
朝倉「よそ見しちゃダメだよ」
ブゥンッ! 体勢を立て直したゲイザムが青竜刀を四機の中に振り下ろした。
ヒカル「くっ……私たちはこいつに集中だ!」
スズ「それじゃあホワイトベースが!」
ヒカル「……信じるしかない。まだ海晴姉がいる」
海晴はマチルダの護送の最中だ。連邦基地にヴァイスリッターが下ろしてあるので、直接乗り込むはずだ。
ヒカル「それまで、こいつは私たちが食い止めるんだ!」
ゲイザムの横薙ぎを上昇して回避したヒカルのゲシュペンストが、プラズマカッターを両手に構えた。
一方で、ホワイトベースは騒然としていた。
突如レーダーに侵入してきた無数のドローメに、香月シノンは矢継ぎ早に指示を出して乗組員達に行動させている。
まだ少女の域を脱し切れていない彼女の指揮能力も、度重なる実戦の中で確実に培われていた。
シノン「ゆりえさん、出られますか!?」
ゆりえ「はい! ライディーン、いけます!」
シノン「ライディーン、発進!!」
ゴッドバード形態のライディーンが飛び出し、空中でライディーンに変形する。
ゆりえ『ラァァァイディィィィィィン!』
シノン「ホワイトベースは敵との接触を避け、ヒカルさんたちの救援に向かいます。アルトアイゼンは直援に回ってください」
霙「了解した。アルトアイゼン、出る」
空になった格納庫を見て、シノンはオペレーターのほうを見た。
シノン「それで、先ほどのアレはわかりましたか?」
連邦兵「はい、どうやら敵の戦艦のようです」
シノン「まあ、そうでしょうね……ドローメが出てきたということは、妖魔帝国のものでしょう」
改めてモニターに映し出されたそれを、シノンはやはり疑わざるを得なかった。
戦艦と判断したものは、巨大な人間の手にしか見えないのだから。
ゆりえ『ゴォォォォッド・ミサァァァイル!』
地鳴りのするような声がライディーンの口から発せられ、羽のあるミサイルが近くのドローメを落とす。
ゆりえ『ゴォォォォォッド・ブゥゥゥゥゥメラァァン!』
左手の楯が弓状に変形し、それを投げつける。雑草を刈り取るかのようにドローメが爆発して墜落していく。
それを妖魔帝国岩石戦艦・大魔竜ガンテの中から見ている影が笑った。
シャーキン「フフフ、あれがライディーン……一万二千年前に我々妖魔帝国を地の底に沈めた忌まわしき巨神か」
均整の取れた青白い体にぴったりと軍服を着込んだ妖魔帝国のプリンス・シャーキンは細い顎に手を当てて顔の上半分を多い隠す仮面の目をキラリと光らせた。
シャーキン「よかろう、バラオ大帝復活を前に、奴を血祭りに上げよう。化石獣バストドンを出せ!」
ゆりえ『な、何か出てくる!?』
ガンテから出てきたのは真っ青な巨人、化石獣バストドンだ。
シャーキン「やれ、バストドン!」
バストドン「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」
ドドォンッ! 化石獣の体当たりでライディーンが倒される。
ゆりえ『きゃあぁぁっ!!』
バストドン「がおおぉぉぉぉぐ!」
ゆりえ『やられちゃうっ!? やりかえさなきゃ!』
つかみ掛かってくるバストドンにゆりえは左腕を上げた。
ゆりえ『ゴォォォォォッド・ブレイカァァァァァ!』
ズバァッ! 弓状に変形した楯で円を描くように切り付けると、バストドンの両腕が落とされる!
ゆりえ『や、やったぁ……!』
シャーキン「やるな、ライディーン。だが、バストドンはその程度ではない!」
バストドン「がおぉぉおぉっ!」
ぞるっ。まっさらな切り口を見せるバストドンの両手首から剣が出現した!
ゆりえ『そんなぁっ! ずるいよぅ!』
ガキッ! ガァンッ!
立夏「うひゃぁっ!」
ヒカル「くあぁっ!」
朝倉「ほらほら、もうぼろぼろじゃない。そんなので私を止められると思ってるの?」
ゲイザムの猛攻にヒカルのプラズマカッターは折れ、ジェットマグナムも失っていた。
立夏もミサイルと弾丸を撃ちつくし、右足を半壊されている。
アリア「スズちゃん!」
スズ「いけます! やってください!」
アリア「ごんぶと! いっけぇぇぇ!」
ドォンッ! ドォンッ! 2型の280ミリキャノンが3型の誘導支援を受けて放たれる。
朝倉「きゃっ、やっぱりあの子をやっておくべきだったわね」
体重のあるゲイザムでもひらりと避ける。この敵味方入り混じる状況で砲撃すれば味方に当たる可能性もあったが、やはりD-3の電子戦能力が強力にサポートしているのだろう。
ヒカル「たあぁぁーっ!」
キィンッ! 右肩の死角からプラズマカッターが舞い込むが、人間ならばありえない角度に曲がったゲイザムの手首がそれを防いだ。
朝倉「機械と人間は違うのよ。それを教えてあげる」
接触回線で拾った嘲笑の後、ゲイザムの右肩の一部がパージされた。
そこからハンドグレネードが飛び出し、ゲシュペンストの右腕に接触し、爆発する。
ドドォンッ!
ヒカル「うわぁぁっ!」
ゲシュペンストの右肘から先が消し飛んだ。残り一本のプラズマカッターが黒い煙のどこかに消えていった。
立夏「オネーチャン! このぉっ!」
ギュァッ! ニュートロンビームでゲイザムをヒカルから遠ざけることに成功したが、代わりに立夏のメインモニターがアラームを発した。
立夏「ウッソォ!? 弾切れ!?」
立夏のゲシュペンストは全ての攻撃兵装を使い切ってしまっていた。
プラズマカッターもとっくに切り払われている。文字通りのデクノボウだ。
ヒカル「立夏! くっ……どうすれば……」
ヒカルのゲシュペンストもほとんどの武器を失っている。後はもう取り付くぐらいしか手段がない。
ヒカル「――ッ! 待てよ……」
迫り来るゲイザムを前にヒカルはあることを思い出した。
霙からゲシュペンストを受け取ったときの言葉。
霙『ヒカルのゲシュペンストには、私が考案した究極のアタッカー・モーションがある。いざという時はそれを使え。ただし、修理屋泣かせの一度きりの大技だ』
敵は青竜刀を振りかぶっている。反撃の手段はない! 追い込まれれば終わる!
ヒカル「コード・UGK!」
躊躇うことなくヒカルは唱えた。
瞬間、ゲシュペンストは宙を蹴るように大きく上昇し、元いた場所をゲイザムの青竜刀が切った。
ヒカル「ドライブ・オン!」
ヒカル「アタッカー・フルドライブ!」
朝倉「何をする気!?」
ヒカル「この技は、叫ぶのがお決まりらしくてな……」
バシュッ! 体勢を整えたゲシュペンストが更に空中で後方に宙返りする。
ヒカル「だが、ここで叫ぶのはやぶさかではない!」
ゴオォッ! ヒカルの精神が燃え上がる!
ギシ、ガシィンッ! ゲシュペンストの全駆動が軋みを上げている。
まるで格闘家が全身の筋肉を興奮させているようだった。
ヒカル<熱血>「ゆくぞっ!」
バシュィィンッ! 右足首が垂直に下を向く。ゲシュペンストの背部の噴出口が全て開放される!
ヒカル<熱血必中努力>「究極ゥ! ゲシュペントォ!! キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィック!!!!」
朝倉「なにごと!?」
ズガァァァァァァァァァァンッ!! 渾身の一撃がゲイザムの頭部を直撃した!
朝倉「うぐっ……! やられちゃった。まあ、いいか。データは充分取れてるし、命令はクリアできたし」
コクピットが狭くて助かるということもあるのだと朝倉は思った。
もしもあと数センチずれていたら、コクピットは潰れていた。
脱出ポッドの中で朝倉は言う。
朝倉「涼宮さんは殺せた。D兵器のパイロットはもう使い物にならない。まあ、基地は取られちゃうかもしれないけど、そんなのは関係ないものね」
バストドン「ぎゃおぉぉぉぉぉんっ!」
ゆりえ『きゃあぁぁぁっ!』
バストドンの剣がライディーンにぶつかる。
ゆりえ『うぅぅ~、どうすれば……』
「勇者よ……!」
ゆりえ『! この声……また』
「勇者よ……声を聞け……!」
ゆりえ『聞いてますよぉ、どなたなんですか!?』
「ゴッド・ゴーガン……」
ゆりえ『ゴッド……ゴーガン……?』
ゆりえの呟きにライディーンの目が光りを放った。
ゆりえ『ゴッド・ゴーガン……うん、やってみる!』
バストドン「ぎゃおぉぉぉぉぉん!」
ゆりえ『ゴォォォォォッド・ブロォォォォォック!』
バストドンの攻撃を受け止めたゆりえはゴッド・ブレイカーで弾き飛ばす。
そして、ゴッド・ブレイカーの両辺をさらに長く伸ばし、光りの弦に矢を引いた。
ゆりえ『ゴォォォォォッド・ゴォォォォォガォォン!』
パシュゥッ! 光りを纏った矢がバストドンに突き刺さる!
バストドン「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉ!」
シャーキン「むっ、バストドン!?」
ゆりえ『ゴォォォォォッド・プレッシャァァァァァ! ラァァァァァイ!』
ドゴォォォォォォン! ライディーンの体当たりでバストドンが爆散した!
シャーキン「むっ、やるな、ライディーン。いや、一橋ゆりえ!」
ゆりえ「ど、どうして私の名前を?」
シャーキン「その胸の奥に訊ねてみるがよい! 撤退だ!」
シャーキンの号令でドローメは大魔竜ガンテに戻り、ガンテも背を向けて退却していった。
ゆりえ「やっぱり……妖魔帝国とライディーン……そして、私も関係あるのかな……」
シノン「ゆりえさん、聞こえますか?」
ゆりえ「は、はい!」
シノン「妖魔帝国が撤退するのを確認したら、戻ってきてください」
ゆりえ「わ、わかりました」
ホワイトベース
シノン「そう、やっぱりギガノス軍は重慶基地から撤退しつつあるのね」
連邦兵「はい、蒼き鷹の親衛隊の機影も確認しています」
シノン「どういうことなのかしら……」
連邦兵「香月少尉、天使少尉から通信が入っております」
シノン「繋いで」
海晴「こちら天使海晴少尉です。聞こえていますか?」
シノン「通じています」
海晴「よかった……マチルダ中尉は無事に戻ることができたわ。私はもう少しここで様子を見ます」
シノン「許可します。ところで、重慶基地からギガノス軍が撤退したそうですが、何かわかりますか?」
海晴「それは……ちょっとわからないわね」
シノン「そうですか……」
この通信で、気付けというほうが難しかっただろう。
あるいは、海晴の姉妹であるヒカルや霙、立夏ならば何かを感じているのかもしれない。
海晴の声と喉元が、僅かに震えているのを……
第十一話 強襲! 毒蛇の女と悪魔の王子 完

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