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ぼくらの! 第2話 中野梓

2009年09月28日 01:31

【ぼくらの!】 唯「何で憂が死ななきゃいけなかったの!?」

第1話 平沢憂へ 携帯用

171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 17:57:44.35 ID:Cq93apyd0


    第2話 中野梓


 憂の戦闘が終わった直後、私達は大きな病院に飛ばされた。
 すぐさま、近くにいた看護師に、怪我人がいると伝えると、唯先輩の手術が始まった。

 しかし、いつまで待っても、憂は来なかった。

律「コエムシ」

 周囲に私達以外誰もいないことを確認して、

コエムシ「はいはい何ですか。美少女の味方のジェントルマン、コエムシですよ」

 ふざけたシルクハットと蝶ネクタイ、口髭の、コエムシが瞬間移動して現れた。

梓「どうして憂は来ないの?」

コエムシ「ああ……憂さんは、来れるような状況じゃないんですよ」

梓「ふざけないで。唯先輩が手術中だっていうのに……。意地悪しないで、早く呼んであげてよ」

コエムシ「そこまで言うなら、仕方ないですねえ。
      じゃあ、憂さんをここに呼びますけど、大騒ぎしないでくださいね」


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次の瞬間、憂が――正確には、憂だったものが現れた。

 憂は、幸福そうな表情で床に寝転がっていた。

 目を開けたままだった。
 瞬きもしていないし、息もしているようには見えない。

 私は、恐る恐る、憂の身体に触れてみた。
 まだ温かい。しかし、鼻の下に指を持っていっても、息吹を感じなかった。
 憂の腕を掴む。手首から先がだらりと垂れ下がる。

 私は憂の脈を取った。

梓「……死んでます」

 静かだった。
 女の子ばかりなのだから、誰かが悲鳴を上げてもいいシーンだったが、誰もが沈黙を守っていた。
 まるで、静かにしていれば憂が生き返るとでもいうように。

梓「……生き返る? そうだ、まだ蘇生できるかもしれない。ここは病院だし」

コエムシ「無駄ですよ。絶対に生き返りません」

梓「どうしてそんなことが言えるの?」

コエムシ「これが、ゲームのルールだからですよ。あのロボットは、人の生命力で動くのです」

律「生命力で動くってことは――」

コエムシ「一戦闘するかわりに、操縦者の命を奪うのです」

律「マジで?」

コエムシ「残念ですがマジです。
      そろそろ、憂さんの次のパイロットが選ばれてもいい頃なんですけど」




 誰かに 名前を 呼ばれた ような 気が した




梓「もしかして……私?」

コエムシ「おやおや、あなたですか。頑張ってくださいね」

梓「私、死んじゃうの?」

 死ぬ。現実感がない。自分とは関係ないことに思える。

コエムシ「最終的にはそうなりますが、その過程で世界を救うことができるのです。
      個人の死には、たいした意味はありませんよ」

律「いい加減にしろよ! 今すぐ、私達の契約を解け!」

看護師「あなた達、何騒いでるの?」

 律先輩が大声を出すから、看護師が駆けつけてきた。
 そして、床に倒れている憂に気付き、脈を取る。

看護師「先生! 先生!」

 看護師は駆けていった。

澪「コエムシ! 今すぐに憂を元の場所に戻してくれ!」

コエムシ「はいはい」

和「それから、私達も、いったん、どこか安全な場所へ」

コエムシ「では、一時的にロボットのコックピットに戻りますね」

 目の前が暗くなった。

 再び明るくなると、さっきと同じ場所に戻っていた。
 ただし、憂はいなかった。

梓「憂はどうなったの?」

コエムシ「とりあえず、憂さんの自宅に転送しておきました」

梓「駄目だよ。
  憂の両親は海外だし、唯先輩はあんなことになってるし、憂の家には誰もいないよ……」

コエムシ「このロボットの隙間に隠すこともできますが」

澪「とりあえず、憂のことは唯に任せるしかないだろうな」

律「澪は契約してないんだから、関係ないだろ」

澪「それは……」

コエムシ「喧嘩はいけませんよ、お嬢さん方」

梓「それはさておき、他にも問題はありますよね。やっぱり、ムギ先輩に知らせないわけには……」

律「そうだな……。でも、ムギ、耐えられるかな」

澪「それはムギ本人が受け止めることだよ」

梓「それと、もうすぐ朝になっちゃいますけど、私達がいないことに家族が気付くかも……」

和「ねえコエムシ。次の戦闘まで、どれくらい猶予期間があるの?」

コエムシ「さあ。数日後かもしれませんし、数ヵ月後かもしれません」

 随分といい加減なゲームだ。

澪「そんなことより、契約を解くことはできないのか?」

コエムシ「できると思いますか? そんな都合のいい話はありませんよ」

 結局、その日の話し合いは、ろくに何も決まらずに終わった。

 私達は家に帰った。
 もともとは合宿中の予定だったから、今日は昼過ぎまで寝ることができるだろう。

 憂が死んだことはショックだったが、昨夜は一睡もしていなかったので、もう限界だった。

 今日の分の薬を飲むと、私は目を閉じた。


 次の日。
 コエムシに転送してもらって、私は唯先輩のお見舞いに行った。
 いきなり病室に現れるのは失礼だと思い、病院の近くの人気のない場所に転送してもらい、
 そこから歩いて行った。

 受付で聞いた部屋に行くと、平沢唯というネームプレートのかかった部屋があった。

 ドアは開いていたので、ノックの必要はなかった。

唯「あずにゃん……」

 私の顔を見ると、唯先輩は泣きそうな顔になった。

梓「これ、お見舞いの花です」

 私は買ってきた花束を花瓶に移した。

唯「あずにゃん、来てくれてありがとう」

 唯先輩の目は赤かった。

梓「いえ、遅くなってすみませんでした」

唯「そんなことないよ。来てくれて嬉しい」

 しばらく、私達は無言だった。
 何を話せばいいのか分からなかった。

唯「学園祭は、あずにゃんに任せたからね」

梓「え?」

唯「私、もう歩けないかもしれないから」

 予想していたことではあったが、本人に言われると、やはりショックだった。

梓「車椅子でも、ギターは弾けますよ」

唯「そうかもしれないけど……病院じゃ練習できないし」

梓「そうですよね……。あの、憂は――」

唯「憂は、別の病院に入院してるんだよね?」

梓「え……?」

唯「午前中に澪ちゃんとりっちゃんが来て、教えてくれたんだよ」

梓「そうだったんですか」

 入院しただなんて――どうしてそんな嘘をつくのだろう。いつかは本当のことを知るのだ。
 早く真実を知った方が、回復も早いのに。

 そう思いながらも、私にも、憂は死んだと言うことはできなかった。

梓「でも、唯先輩、身の回りのこととか、大丈夫ですか?」

唯「それはコエムシがやってくれるから」

梓「そうですか……。じゃあ、お元気で」

 私は家に戻った。
 これでは、何をしに行ったのか分からない。
 台所に行くと、テーブルの上にメモが置いてあった。

『出かけてきます。夕方には戻ります。父より』

 メールではなく、わざわざ書置きを残すということは――。

 嫌な予感がして、私は自分の部屋に戻った。
 お金を隠しておいた教科書を開く。
 やっぱり、思ったとおりだった。
 お金は盗まれていた。

 私は家を飛び出し、自転車に乗り、駅前のパチンコ屋へ急いだ。
 一応、制服ではなく私服なので、追い出されることはないだろう。
 平日の昼間だというのに、いい年をしたおじさんおばさんがパチンコを打っている。
 煙草の臭いに、鼻が曲がりそうになる。

 その中に、私は父を見つけた。

梓「お父さん……」

父「おお、梓か。見ろ! 今日はこんなに勝ったんだぞ!」

梓「そういう問題じゃないでしょ。もうパチンコはやめるって、お母さんや私と約束したじゃない」

父「しかし、今日は勝てる予感がしたんだ。実際、こんなに儲かったし」

梓「たまに勝ったからって、長い目で見れば損をしているのは、分かってるんでしょ?」

父「しかし――」

梓「私のお金、盗んだでしょ。あれは、合宿の交通費として預金から降ろしておいたお金だったのに」

父「利子をつけて返すさ」

梓「じゃあ、今すぐ帰ろうよ」

 私は父の手を引っ張った。

父「馬鹿! やめろ! せっかく確変がきそうだったのに!」

 父は私の手を強く叩いた。

梓「お父さんは、病気なんだよ。パチンコ依存症っていう、病気。またお医者さんに診てもらおうよ」

父「うるさいなあ。子供は帰れ!」

 やはり、私が言ったくらいでは駄目なのだろうか。
 仕方なく、私は一旦パチンコ屋を出ると、母にメールを送った。
 しばらく待ったが、返信は返ってこなかった。

 私は溜め息をついた。
 きっと、母も、もう諦めているのだろう。

 せっかく進学した高校だったけど、授業料を滞納し続けているので、
 やめないといけないかもしれない。

 唯先輩は私に学園祭を託したけど、その前に、私は夜逃げしているかもしれない。
 どうしてうちは、こんなんなのだろう。

 パチンコにハマっている人間には、何を言っても無駄なのだ。
 例えば、パチンコ店の経営者の七割から九割が在日韓国・朝鮮人だとか、
 公安当局はパチンコが民団や朝鮮総連の資金網と見ていることとかを、
 どれだけ説明しても、無駄なのだ。

梓「はぁ。何か、疲れちゃった」

 私は家に戻ると、大切なギターを手にした。

 私は小学四年生のときから、ジャズバンドをやっていた両親の影響で、ギターを学んでいた。

 本当は、プロになりたかった。
 プロのミュージシャンになって、世界に羽ばたきたかった。
 実際、その夢が叶いそうになったときもあった。
 その夢を潰したのは、父だった。

 父がパチンコで作った多額の借金と、その返済のために、ヤクザと関係を持ってしまったこと。
 プロデビューの直前の素行調査で、そのことを知られ、私は審査対象から外されてしまった。

 私は、パチンコも、ヤクザも、大嫌いだ。
 暴力団の出自の内約は、同和が60パーセント、在日韓国・朝鮮人が30パーセント、
 一般の日本人が10パーセントだと言われている。
 私の父が、その10パーセントの仲間入りをする日も近いかもしれない。

 守りたいものなんか、何もない。

 パチンコばかりやっていて、もうジャズバンドも仕事もやめてしまった父。
 借金取りが会社に押しかけてきたことをきっかけに退職せざるを得なくなり、
 それ以来水商売をやっている母。

 この世は、醜い。

 滅んでしまっても、構わないと思う。

 私の身体が借金のカタに売られる日も近いかもしれない。
 そう思っていたが、どうやら、その前に私は死ぬらしい。

 いっそ、この世界と心中しようか。

 そんな思いも、胸に渦巻いている。

 気が付くと、頬を涙が伝っていた。
 数年前から、よくあることだった。

 大声を上げて泣くことができなくなり、代わりに、
 自分でも気付かないうちに涙を流しているようになったのだ。

 もうすぐ競売にかけられることが決まっている家の天井を、ぼんやりと見上げる。

 もう、疲れた。

 どこか遠くへ行きたい。

 誰も私を知らない、遠い場所へ行って、最初からやり直したい。

 ギター一本を片手に、世界中を旅して回りたい。
 自分の音楽の才能と努力だけで認められる世界に生きたい。
 できないと分かっているからこそ、そんな妄想は輝いて見えた。

 いや――今なら、できる。今だからこそ。

梓「コエムシ?」

コエムシ「何ですか?」

 呼ぶとすぐに現れた。
 このシルクハットのぬいぐるみが可愛く思えてきたことを、意外に感じる。

梓「コエムシは、私をどこへでも移動させることができるんだよね?」

コエムシ「そうですが?」

梓「私以外の人も、移動させられるの?」

コエムシ「できますが……」

梓「だったら、コエムシに、お願いがあるの」

コエムシ「何ですか? はっきりと言ってください」

梓「コエムシは知っているかもしれないけど、私の家、借金地獄なんだ。
  高校を卒業したら、私が地道に少しずつ返していくしかないと思っていたんだけど、
  もうすぐ死ぬみたいだし、そんなわけにもいかなくなっちゃったんだよね。
  だから、手っ取り早くお金が欲しいの」

コエムシ「ああ……何となく分かってきました。
      要するに、私の転送能力を利用して、泥棒したいというわけですね?」

梓「まあ、そうなんだけど、そんなにたくさんはいらないの。
  お金持ちになったって、どうせ、私にはお金を使っている時間なんてないんだし。
  でも、せめて、借金だけでも帳消しにしたいと思って……。
  お父さんがパチンコで作った借金と、サラ金で借りて膨らんだ利子。
  この二つを取り戻すだけでも、うちは救われるの。だからお願い。協力して?」

コエムシ「どうして私が、犯罪の片棒を担がないといけないんですか?」

梓「犯罪っていうけどさ、ギャンブル依存症の人からお金を毟り取ったり、
  絶対に返せるはずのない高利のお金を貸すのも、ある意味では、罪だよね」

コエムシ「道徳の授業をしたいわけではありません。
      あなたの家庭を救って、私に何のメリットがあるのかと尋ねているのです」

梓「お父さんやお母さんが救われるんだったら、私、一生懸命戦うよ。
  コエムシは、私に、勝って欲しくない?」

コエムシ「どうしてそう思うのですか?」

梓「だって、コエムシはゲームのガイドなんでしょ?
  私達が勝ち続けたら、コエムシにだって何かメリットがあるんじゃないの?
  例えば、特別ボーナスがもらえたりとか」

コエムシ「まあ、勝って欲しいか負けて欲しいかと言われれば、そりゃあ勝って欲しいですが……」

梓「それに、コエムシはジェントルマンなんでしょ?
  紳士っていうのは、困っている女の子を助けるものだと思うけど?」

 コエムシの表情そのものは変化がないが、飛び方の微妙な差異から、
 コエムシの心が動いているのを感じ取った。

梓「コエムシ、私の身体に興味ない?」

コエムシ「そりゃあ、私も紳士ですから」

梓「協力してくれたら、好きなだけ裸を見せてあげる」

コエムシ「それでしたら、協力しないわけにはいきませんね。
      既に何度も拝見していますからフヒヒ」

 本当は、私自身をパチンコ店やサラ金の会社に転送してもらって盗むつもりだったのだが、
 コエムシは私が提示した現金だけを私の家に転送してくれた。

 最初は嫌な奴だと思っていたけど、コエムシって、意外にいいところがあるな、と思った。

梓「じゃあ、約束どおり、好きなだけ裸を見せるね」

コエムシ「それでしたら、普段どおりに過ごしていてくれればいいですよ。勝手に覗きますから。
      私の趣味は、あくまでも覗きです。堂々と鑑賞したいとは思わないんですよね」

梓「やっぱり、コエムシって、いい奴だね」

コエムシ「私を恨んでないんですか?」

梓「どうしてコエムシを恨むの?」

コエムシ「あなたをプレーヤーに選んだのは、私のせいで死ぬようなものでしょう?」

梓「違うよ。コエムシは、私達家族を、救ってくれた、救世主なんだよ?もっと自信を持ちなさい!
  ……それに、私、心のどこかでずっと、死にたいって思ってたしね」

コエムシ「梓さん……?」

 次の日の朝、私は生命保険の外交員を呼んだ。
 ただし、日本の場合、自分から外交員を呼ぶ場合は非常に警戒されるので、
 知り合いに勧められて嫌々加入することにした、という筋書きを立てておいた。

梓「お父さん、起きて」

 私は、パチンコに負けて酔いつぶれて帰宅した父の身体を揺さぶった。

父「うるさいなあ……。せっかく、夢の中で大当たりしたのに……」

梓「私、生命保険に加入したいんだけど、保護者の許可が必要だし、
  受取人をお父さんにしたことを知っておいて欲しいの」

父「生命保険だと? どうしてお前がそんなものに加入するんだ。
  だいたい、うちには、保険料を納めるお金なんてないし……」

梓「保険料は、私の貯金で何とかするから。
  お父さんは、契約書を読んで、判子を押してくれるだけでいいの」

 私は父を玄関に引っ張っていき、生命保険に加入した。

父「梓。お前……どうかしたのか?」

 外交員が帰った後、父は珍しく真剣な表情で言った。
 私は無理に笑顔を作った。

梓「え? 別に? 私は元気だよ」



コエムシ「確かに、これで、あなたが死んだ後の両親の生活は安泰でしょうが、
      納得いきませんねえ。どうしてあなたが、あんなクズみたいな父親を助けたいと思うのか」

 父が再びパチンコに出かけていくと、コエムシは不愉快そうに飛び回った。

梓「本当は、別に、助けたいなんて思ってなかったんだけどね。
  でも、後のことを解決してからじゃないと、心置きなく夢を叶えることができないでしょ?」

コエムシ「あなたの夢とは、何ですか?」

梓「プロのミュージシャンになること。それが、子供の頃からの夢だったんだ。馬鹿みたい?」

コエムシ「そんなことはありませんよ」

梓「もう日本でプロデビューするのは無理だけど、外国でなら、チャンスがあるかもしれない」

 私は、昔大切だったギターを手にした。

 私が死んだら、お父さんは、このギターを買ってくれたときのような、
 昔のお父さんに戻ってくれるだろうか。それとも、ずっと、パチンコ依存症のままで、
 在日韓国・朝鮮人にお金を毟り取られていくのだろうか。
 それは、分からない。

 分からないけど、目を覚ましてくれると信じたい。

 生命保険に加入した直後に私が死んだら、いくら鈍いお父さんだって、何かを察するだろう。
 そう信じたい。

梓「じゃあ、コエムシ。行こうか」

 私は、ギターとパスポートと、そして少ない荷物を持ってそう言った。

コエムシ「ちゃんとした入国手続きを取らないと、捕まりますよ?」

梓「そのときは、コエムシが何とかしてよ」

コエムシ「やれやれ。では、どこに行きますか?」

梓「まずは、アメリカとかヨーロッパ。その次は、アジアの国を順番に回りたい。
  最初はストリートでギターを弾いて、少しずつ実力をつけていきたいの」

コエムシ「そんな悠長なことをしていたら、プロデビューの前に戦闘が始まるかもしれませんよ?」

梓「そのときは、そのときだよ。一度は諦めた人生だし、最後の贅沢みたいなもん、かな」

 私は、もう二度と戻ることがないであろう自分の部屋を、もう一度見回した。

梓「お父さん、お母さん。行ってきます。親不孝な娘を、どうか許してください」










一ヵ月後。

澪「梓! 今までどこに行ってたんだ!」

律「心配したんだぞ! コエムシに行方を聞いても教えてもらえなかったし」

梓「お願い。コエムシを悪く言わないで。
  コエムシは、私の我儘をきいてくれただけなんだから」

和「それにしたって……」

唯「あずにゃん、お帰り」

 車椅子に乗った唯先輩だけが、笑顔で迎えてくれた。

梓「ただいま。学祭に参加できなくて、すみません」

律「いや、学祭に参加できないのは、梓が悪いわけじゃないよ。
  実際、こうやって、学祭の前に戦闘が始まっちゃったんだし……」

唯「あずにゃん、日焼けしたね~。どこに行ってたの?」

 唯先輩は、随分と呑気だ。
 果たして、この人は、自分の妹がどうなったのかを知っているのだろうか。
 それとも、まだ知らないのだろうか。

梓「それは話している時間ないので、後でコエムシに聞いてください。
  ――コエムシ。あれが、私の敵なの?」

 私の操縦する人型ロボットの前にいたのは、蝶々の形をしたロボットだった。

 随分と軽そうな機体だ。強い風が吹いたら飛んでいってしまうのではないだろうか。
 あんなもので勝負になるのかと、他人事ながら心配になる。

 しかし、ココペリ戦のハサミや、憂戦のヘビのことを考えると、見た目で判断するのは危険だ。

 きっと、この蝶々も、何か特別な力を持っているに違いない。

 実際、空を飛ぶことができるだけでも、アドバンテージだ。
 どんな攻撃をしてくるか分からないので、私は距離を取った。

しかし、チョウは人型ロボットの上空をしつこく付きまとってくる。

 私は腕を振り回すように念じたが、かなり高い位置を飛んでいるため、届かなかった。

梓「手が届かないなら、レーザーしかないよね」

 空に向かって撃つなら、人や家屋に当たる危険も少ないはずだ。

 私は躊躇せずにレーザーを発射した。

 チョウの装甲が、鏡のようにレーザーを跳ね返す。
 私の放ったレーザーは、近くの町を破壊した。

梓「くっ……」

 その町にいた住人の命の光が消えてしまったのを感じた。

律「梓。少しくらいは仕方ない。気にするな」

澪「そうだ。ここは、私達の住んでる町じゃないし――」

梓「でも、私の演奏を聞いて拍手してくれた人たちがいたんです。
  名前も知らないし、言葉も通じなかったけど、それでも、あの町の人たちは、
  私の演奏を聞いてくれたんです!」

唯「あずにゃん。今は考えてもしょうがないよ。それよりも、反撃する方法を考えないと。
  のどかちゃん、何かいいアイデアはない?」

和「私もさっきから考えてるんだけど、届かない位置にいる敵を攻撃するには……
  何かを投げるか、長い棒のようなものを持って叩いたりつついたりするくらいしか、
  思いつかないわ」

律「でもさあ、このままだと、敵の方だって私達を攻撃することはできないだろ?」

和「コエムシ。もしも何十時間経っても勝負がつかなかったらどうなるの?」

コエムシ「四十八時間以上経過してもお互いに急所を潰すことができなかった場合は、
      負けになります」

和「引き分けじゃなくて?」

コエムシ「はい。あなたがたの世界は滅びます」

澪「敵が動いたぞ!」

 チョウは激しく羽を動かしている。
 すると、急に視界が悪くなった。

和「どうやら、燐粉を飛ばしているみたいね」

澪「まさか、ヘビのときみたいな溶解液か!?」

梓「それはまだ分かりませんが……あ」

澪「どうした?」

梓「何だか、身体が重いです。いえ、重いというか、動きにくくて――これは粘着液みたいですね」

和「このまま燐粉を浴び続けると、危険だわ。
  相手は、こちらが動けなくなってからゆっくりと攻撃するつもりなのよ」

梓「でも、空高くにいる敵を、どうやって攻撃すれば?」

唯「あっ。あの戦闘機、何?」

 唯先輩の指さした方を見ると、無数の戦闘機がこちらへ向かってくるところだった。

梓「あれはきっと、この国の戦闘機ですね」

唯「助かったあ。あの戦闘機に攻撃してもらえば――」

 戦闘機がミサイルを発射した。
 私達の乗っている人型ロボットに向かって。
 相変わらず、コックピットの中には衝撃は来なかったが、さらに視界が悪くなった。

唯「どうして私達を攻撃するの……?」

澪「そりゃあ、遥か上空にいるチョウと、足元にいる人型ロボットなら、人型の方を攻撃するさ。
  軍隊には、敵味方の区別なんてついてないんだから」

律「思いついたんだけど、私達のロボットって、身体の一部を切り離すことはできないのか?」

コエムシ「念じればその通りに分解できますよ」

律「そうやって切り離した破片を投げて、あのチョウに当てればいいんじゃないのか?」

和「二つ問題があるわね。このロボットはあまりにも巨大すぎて、
  投げようとモーションをとった時点で、相手は何をしようとしているのか気付くわ。
  気付くのが早ければ早いほど、避けやすくなる。
  もう一つの問題は、破片が当たったにしろ当たらなかったにしろ、それはいずれ落下してくる。
  その下には、人が住んでいるわ。当たった場合は、敵のロボットも落下してくる」

律「じゃあどうすればいいんだよ!?」

唯「ねえのどかちゃん。蝶々の天敵って、何?」

和「それはやっぱり、虫を食べる動物でしょうね。例えば、鳥とか、蝙蝠とか、猫とか――」

唯「猫!? あずにゃん、それだよ!」

梓「猫がどうかしたんですか?」

唯「あずにゃん、っていうニックネームの由来になった、猫の気持ちになって考えればいいんだよ!」

梓「意味が分からないんですけど……」

唯「鳥や蝙蝠と違って、猫は空を飛べないよね。
  でも、猫は、蝶々とか蝉とか雀とか、空を飛ぶ生き物を捕まえることができる。
  それはどうしてだと思う?」

梓「それは――あ、そういうことですか」

 私は人型ロボットの向きを変え、歩き出した。
 人家を踏まないようにするのに、かなり気を遣う。

律「おい、梓。どこへ行くんだ?」

梓「海です」

律「海に何かあるのか?」

梓「いえ、海そのものには何もありませんが、隠れることができます」

律「隠れる……?」

梓「そうです。いったん、身を隠すんです。そして、敵が疲れて休むのを待つんですよ」

律「ああ、なるほど。猫っていうのは、そういう意味か。
  猫が空を飛ぶ動物を捕まえることができるのは、空を飛んでいないときを狙うから、か。
  まるで、子供の謎々だな」

和「でも、そんなに上手くいく……?」

梓「自信はありませんが、やるしかないです。
  それに、私、このロボットを操縦してみて気付いたんですけど、
  ロボットを動かせるくらい強く念じるのって、凄く疲れるんです。
  地面に立っている私ですらこんなに疲れるんだから、ずっと飛び続けなければならない相手は、
  とてつもない精神エネルギーを浪費し続けているはずです。
  少なくとも、四十八時間ずっと飛び続けるなんて、不可能ですよ」

 そんなことを話しているうちに、海に辿り着いた。

 ココペリのときみたいに、多少の津波は起きてしまうだろうが、仕方がない。

 私は海に潜った。

 都合のいいことに、チョウが飛ばした粘着液も、海で洗い流されていくようだ。
 環境汚染かもしれないが、地球の存亡がかかっているのだから、許して欲しい。

 海の中は、静かで、柔らかい光に満ちていた。

 綺麗だ。
 海って、こんなに綺麗だったんだ。
 その世界があまりにも美しく、私は目に涙が浮かぶのを感じた。

 ――この世は、醜い。滅んでしまっても、構わない。
 そう考えていた、一ヶ月前の自分を思い出す。

 ただ、知らなかっただけなのだ。

 身の回りの小さな醜いものに嫌気がさし、世界中のものの美しさを否定していただけの、
 井の中の蛙だったのだ。

 この一ヶ月の間に、数え切れない人たちと出会い、そして別れた。
 それは生産的ではないかもしれないけど、とても有意義で、幸福な時間だった。

 もう、満足だ。
 私は夢を叶えることができたのだから。
 フランスの小さなレコード会社で、少しだけCDを作った。
 自分のお金で作ったから、本当に少ししか作れなかったけど、
 私のCDを買ってくれる人がたくさんいた。
 嬉しい。本当に嬉しい。
 あのCDを聞いてくれたり、インターネットでダウンロードしたりした人たちの心の中に、
 私は永遠に生き続けるのだ。
 そして、その著作権料は、お父さんやお母さんを助けてくれるだろう。

 この美しい世界を守ることができるのなら、私は――。





唯「あずにゃん、凄く幸せそうな顔をしてるね」

澪「お前の妹の憂だって、とても満足そうな顔をしていたんだぞ。
  最後に、お前と通じ合うことができたからな」

和「できることなら、私も、こんな顔で世界を守りたいわ」

律「梓。今まで、お疲れ様。よく頑張ったな……」






――――――第2話 中野梓 終わり



←ブログ発展のため1クリックお願いします


227 : ◆wx.YD3zRKM :2009/09/26(土) 23:48:13.18 ID:Cq93apyd0
いうわけで、梓のエピソードは終わり。
日付が変わるからトリをつけておく。


次のパイロットもあみだくじで決めるよ。

855550.jpg

1番から5番の好きな数字を選んでね。
早い者勝ち。


228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/26(土) 23:48:39.50 ID:eZ+KlP2C0
サンジュになることを願って
3


229 : ◆wx.YD3zRKM :2009/09/26(土) 23:53:25.93 ID:Cq93apyd0
3番は……

858120.jpg

というわけで、次のパイロットは秋山澪です。

今から第3話を書くけど、途中で寝オチする可能性大。


232 : ◆wx.YD3zRKM :2009/09/27(日) 00:01:59.45 ID:SK7f6ejE0




   第3話 秋山澪




 梓の戦闘が終わった後、私達は軽音部の部室に戻った。

澪「梓、八時間もの長い戦闘を、本当に頑張ったよな」

唯「あずにゃんが逞しくなってたから、びっくりしちゃった」

 唯の言うとおりだ。
 私が知らない間に、梓は強くなっていた。

 それに比べて、私はどうだろう。
 いまだに、色んなものが怖い。
 子供の頃から、まるで成長していない。

 強がって、律の真似をして男の子っぽい口調で話しているけれど、
 メッキが剥がれてしまうことも多い。

 暗いところが怖い。
 痛い話が怖い。
 怪談が怖い。
 人間が怖い。
 学校が怖い。
 こんな私が、普通に学校に通うことができているのは、幼なじみの律のおかげだ。
 死んでも口に出したくはないし、ちょっと鬱陶しいところもあるけど、律には感謝している。

 そんな律が、もうすぐ死んでしまうなんて、信じられない。
 信じたくない。

 次のパイロットは、誰なのだろう。
 律だろうか。
 唯だろうか。
 ムギだろうか。
 のどかだろうか。
 誰にせよ、もうすぐ、私は一人ぼっちになってしまう。

 この、学校という大海原に漂う、一艘のボートになってしまう。
 誰がパイロットになっても、私は悲しい。


                   あ
  き         や               ま
        み             お


澪「誰か、今、私を呼んだ?」

 私は三人の顔を見回した。

律「誰も呼んでないぞ」

澪「そうか……」

和「待って! それって、もしかして、パイロットの……」

律「まさか! だって、澪は契約していないはずだろ!?」



236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/27(日) 00:10:51.39 ID:SK7f6ejE0

ごめんもう無理限界死ぬ寝る。

早起きできたら十時くらいから再開します。

本当にごめんなさい。

落ちてたら潔く諦めます。
自分で言うのもなんだけど、寝落ちする書き手って最低だよね。


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コメント

  1. 名無し―ネームレス― | URL | -

    Re: ぼくらの! 第2話 中野梓

    これ面白いのに続編が無いのは残念だ

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