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仮面ライダーW 魔法少女のM/探偵のララバイ/01

2011年05月22日 19:46

仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/03/19(土) 21:02:38.20 ID:Vpfm+ia40

『仮面ライダーW 魔法少女のM/探偵のララバイ』

/01

 四方における見渡す限りの天蓋は、太陽を包み込むようにして、灰色の砂塵に覆い尽くされていた。

 都市の殆どは、流れ込んできた海水に埋没し、僅かに残った文明の名残である高層建築だけが数える程度に頭を覗かせている。

「彼女なら、最強の魔法少女になるだろうと予測していたけれど、まさかあのワルプルギスの夜を一撃で倒すとはね」

「その結果、どうなるかも見越したうえだったの」

 暁美ほむらの黒髪が、流れるように烈風になびく。その顔は、感情を失くしたように凍り付いていた。

「遅かれ、早かれ結末は一緒だよ。彼女は最強の魔法少女として、最大の敵を倒してしまったんだ。
勿論あとは、最悪の魔女になるしかない。
いまのまどかなら、おそらく十日かそこいらでこの星を壊滅させてしまうんじゃないかな。
ま、あとは君達人類の問題だ。僕らのエネルギー回収ノルマは、おおむね達成できたしね」

 キュゥべえは、さも人事のように呟くと尻尾を左右に振り続けている。

 ほむらは、俯いた顔をもう一度上げ、奥歯を噛み締める。怒りも憎しみも通り越して、最後に残ったのは。

「戦わないのかい?」

「いいえ、私の戦場はここじゃない」

 時間を撒き戻す。ほむらの胸に残ったのは、焼け爛れるように熱く、青白く燃え盛る炎のような使命感だった。

 荒涼たる絶望の中で、それでも溶けきらない記憶がある。

 何度でも、繰り返す。

 何度でも。

 ほむら出来ることは諦めないことだけなのだった。

 希望も無く、出口のない迷路を歩き続ける。狂気に満ちたリングワンダリング。

 もう、誰にも頼らない。

 砂塵の舞う空の向こうには、濁った黒雲が奔馬のように駆け去っていくのが見えた。


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 オレが久しぶりに照井竜と顔を会わせたのは、相棒と再会した次の週の初めだった。
 彼は公僕らしからぬ赤を基調としたライダースファッションに身を包み、ティーカップに口をつけながら、長い脚を持て余すようにして突き出していた。

「左、仕事の依頼だ。受けてくれるな」

「久々だというのに、ご挨拶だな。しかも、相変わらずの超断定的口調。
それとキョロキョロしている所悪いが、フィリップなら風邪でダウンだ。
……おい、無言で帰ろうとするんじゃない!」

「竜くん、竜くん。食後のデザートはいかがかなぁ」

 自称、鳴海探偵事務所所長を名乗る鳴海亜樹子が頬を緩ませながら、小皿に乗せた羊羹をついと突き出すのを見て、照井が立ち止まる。

「いただこう」

「って食うのかよっ!! ってか、それオレの三時のおやつに取っといたのに」

「翔太郎くん、ハードボイルドがセコイこといわないの。今月ピンチなんだから」

「おまえがいうんじゃない。無駄遣いばっかしやがって」

「話を続けていいのか、それともやめるのか」

 オレは亜樹子と顔を見合わせると、幾分かの妥協と、世界の平和と、懐具合という俗物めいた悲しみを深く鑑みて、極めて高度な政治的判断を下した。

「で、当然貰えるものは貰えるんだろうな」

「翔太郎くん、カッコわるー」

 大人の対応といって欲しい。

「公費でな。とりあえず事件が県外にまで及んでいる。俺は早々風都を離れるわけにも行かない」

「んで、小回りの利くオレらを使おう、と。いったい、どんな事件なんだ」

「一昨日起きた集団自殺事件、知っているな」

「ん。ああ、ジンさんから聞いたが。自殺サイトがらみどうとか、あれは解決したんじゃなかったのかよ」

 ちなみにジンさんとは、オレが懇意にしている風都署の刃野幹夫刑事である。
 騙され上手だが、根気強い昔気質のデカだ。

「表向きはな」

「表向き?」

 オレと亜樹子の声がユニゾンする。照井はアイボリーのティーカップを指先で弾くと、眉を顰め話し出した。

「集団飛び降りを図った自殺者達は、表向きはネットの自殺サイトで知り合った、という点に不審は特に見受けられなかった。
警察に提出されたアカウントの履歴やチャットのログに改竄は見られない。だが、これを見てくれ」

 テーブルに放られた写真に視線を落とす。事件現場の一部なのだろうか、夜なので酷く暗い。

 注意深く見ると、ビル屋上部の外柵部分に何かぼんやりと人影のようなモヤが映っているのが見て取れた。

「こっちは拡大したものだ」

「こいつは」

「うーん、なになに。見せて、見せて」

 身を乗り出してくる亜樹子といっしょになって、その写真を見つめると、明らかに人が立ってはいいと思えない場所に映っている少女の姿が確認できた。

「女の子、だよねぇ」

「だな」

 荒い画像であるが、柵の向こう側に女性らしき人物が佇んでいるように見える。

 女性と確認できたのは、服装と長く伸ばした髪からだ。

 夜風に流れるようにしてなびいている。幾分特徴的なウェーブがかかっているようだ。

「しかし、照井よ。警察が一度事件性の無いものと判断したヤマを、普通はほじくりかえしたりしねぇ筈だ。理由があるんだろ」

「……自殺ではない、可能性がある」

「んだとォ!?」

「嘘、だって七人も死んでるんだよ、この事件。私、聞いてない!」

「手がかりがまったく無いわけではない。この風都の隣に位置する見滝原市でも、同様の事件が起きている。
もっとも、向こうの飛び降り自殺は単独なので、ほとんどマスコミですら報道はしていない」

「照井よ、おまえのことだから、もう何かしら掴んでるんだろう」

「ああ。監察医からの情報で幾つかの関連性を発見した。死亡者の誰もが、一様にして、不思議なあざが見つかっている」

「あざ」

「ああ。俺はそれらが、特に引っかかっている」

「ふーん、アザ、ね。実に興味深い」

「フィリップ!! 寝てなくていーのかよ」

 話し込んで気づかなかったが、いつの間にやら相棒のフィリップが、
 背後から割り込むようにして、事務机に並べられた写真を覗き込んでいた。
 つい先程まで寝込んでいたのだろう、髪はボサボサで、目の下には薄っすらと隈が浮いており、口元は大きなマスクで覆われている。

 けれども、見開かれた瞳は、獲物を見つけた猫科の猛獣の如く、貪婪にぎらぎらと輝きを放っていた。

「痣、聖痕。スティグマータ。古代より、人体に浮き上がったこれらに人類は意図的、或いは連想的に何らかの解釈を施し憚らない。
その起源は、イエス・キリストが、ゴルゴタの丘でイスカリオテのユダに裏切りを受け、磔刑にされた物と同種の傷が身体に現れる現象を指している。聖痕の定義には、幾つか諸説がある。この写真、実に興味深い」

「あらー、またはじまっちゃったよぉ」

「こいつが、フィリップのいうように聖痕かどうかはわからないが、ひとつ。あきらかに不審な点があった」

「どういうことだ?」

「この写真に写っている少女の首筋の痣を見てくれ」

 目を細め、注意深くそれを眺めると、凝固した死体には不可思議なほど、その痣はぬらぬらと赤くぬめっているのが見て取れた。

「夜間、しかも光の当たりにくい場所でここまで鮮明に映るとは。
照井竜。この写真は発見されてまもなくのものなのかい?」

「いや、これらの写真は事件が起きてから数時間が経過してからのものだ。
投身自殺自体、風都郊外の営業されていないホテルで起きたものだからな。発見自体時間が経過している」

「ちょっと待てよ、これ事件があったすぐあとに撮ったものじゃないのか?」

「事件が起きた場所が見滝原管内と風都署の境界でな。それで余計に手間取った」

 照井は、顔を歪め吐き捨てる言葉を切ると、眉をしかめ押し黙る。

 深い沈黙の中、我関せず、写真に目を走らせるフィリップが強く咳き込んでいる。

 オレの相棒は、座り込んだまま鼻を噛むと、しわがれた喉で、それでも声だけは弾ませながら、沈黙を破った。

「――検索を行うにも情報が必要だよ、翔太郎」

 フィリップの口元。ふてぶてしい笑みが刻まれた。

 亜樹子が相棒の肩を押しやりベッドへと戻そうとするのを横目に眺め、照井に視線を再び戻した。

「受けてくれるか、左」

 照井の瞳が、鈍い鉱石のような強い光を湛えている。オレが断るなど微塵も思っていないだろう。

 古来より、探偵が警察にさよならをいう方法は見つかっておらず、オレもまたその因習に縛られ続けている。

 もっとも、探偵にたかる蚤が警察だとしたら、その蚤が居なくなってしまえば、

 オレは自分が野良犬だってことも忘れちまうのだろう。

 無言のまま椅子から立ち上がると、帽子掛けからソフトを取り、頭に載せた。

 それが物語のはじまりの合図だった。


仮面ライダーダブル。

それは二人で一人の探偵。

ハードボイルドに憧れる心優しき半人前、左翔太郎と、

脳内に地球(ほし)の本棚と呼ばれる膨大な知識を抱える魔少年フィリップが、

仮面ライダーとなってガイアメモリ犯罪に挑む謎と戦いの物語である。


 むずがるフィリップを無理やり寝かしつけると、看病を亜樹子に頼んで、オレはハードボイルダーを一路見滝原市へと走らせた。

 無闇に聞き込みを行っても大して情報収集が捗るとも思えない。

 特に、オレにとって見滝原は土地勘の無い街だ。風都と比べると、遥かにこの街の方が洗練されている。

 都市のインフラには、実験的に施行された最新の技術が導入されており、まるでSF映画の中に紛れ込んだような気が幾分しないでもない。

 それらを除けば、特に平和であり、ここには悪の匂いもドーパンとの気配も感じられなかった。

 オレはマシンを停車させると、引き伸ばした写真にゆっくりと目を細め視線を落とす。

 手がかりは、見滝原と名も知らぬ写真の少女、そして謎の痣。

 まるで、雲を掴むような話だ。だが、フィリップの検索精度を上げるため、ここはなんとしても、ひとつふたつ手がかりが欲しい。

「どう見ても、学生だよなぁ」

 オレの独り言が聞こえたのか、下校中の女子学生がいぶかしげにこちらを見つめた。

 このような仕事をしていると、ほとんど人目が気にならなくなる。

 ささやくような少女たちの声に眼をやると、気が逸れた。瞬間、風が吹いたのだろう。

 持っていた写真が、ふいと飛んで、少女たちの前に舞い落ちた。

「あのぅ、これ落ちましたけど」

「おう、悪いな」

 クイーンやエリザベスより明らかに幼い顔立ちの二人連れ、特に気の弱そうな少女が写真を拾いおずおずとこちらに差し出している。

「あれ、これマミさんじゃ」

「あ」

 気の強そうなショートカットの子が、ポツリと漏らす。

 髪をリボンでくくったかわいらしい感じの子が、
大きく口を開け押さえるようにして手をやったのを見て、オレは運命の女神にキスをしてやりたくなった。

「ちょっと待った。キミたち、この写真の子知ってるのか?」

「は、はい、えーとですね」

「バカ、まどかっ!」 

 ショートカットの少女が、叫ぶようにして遮ると、まどかと呼ばれた子は、眉を歪め一瞬泣きそうな表情になった。

 二人は距離をとるようにして、オレからじりじりと離れると敵意をむき出しにして睨みつけてくる。

「あー、ちょっと待ってくれ。別にオレは怪しいものじゃないんだ。そう、ちょっと話を聞かせてもらっていいかな」

「――怪しくないって、めちゃくちゃ怪しいことこのうえ無いわ」

「だめだよ、さやかちゃん」

「おーい、ばっちり聞こえてるからなー」

「なんですか」

「さやかちゃん!」

「だいじょうぶ、まどか。ここは任せて」

 さやかと呼ばれた少女が守るようにしてずいと前に出る。

 オレはそこまで危険人物に見えるだろうか。少し悩んだ。

「まず、名乗らせてもらおう。オレは私立探偵の左翔太郎ってモノだ。
ちょっとした依頼でこの子が誰だか調べてる。協力してもらえると感謝するんだが」

「――あらゆる事件をハードボイルドに解決!  探偵 左翔太郎。風都風花町一丁目二番地二号? 隣の町ですね」

 口に出して読み上げるんじゃない。思わず小突きそうになった。

 ……文面変えるか。

「そ。ほら、全然怪しくないだろ」

「そうですねー」

 人様を小馬鹿にしたような上がり調子の返答。
 オレの鋼のハートは、再び強く傷ついた。

「さやかちゃん、だめだよ」

 気の弱そうな少女が、オレの心を代弁するかのようにたしなめてくれた。少しだけ、感情の針が安定方向に向かって復元する。

 この年頃の子は扱いにくい。時の流れを感じた。

「まあ、そう邪険にしてくれるなよ」

「……とりあえず、あたしたちが話せることはないです。この写真もなんか隠し撮りみたいで怪しいですし」

「おい、そりゃないだろう」

 隠し撮りではない。かといって断ったわけでもないだろうが。

 そもそも事件現場でウロウロしているところが、容疑者ないし関係者率を果てしなく高めているのである。

「失礼します。いこっ、まどか!」

「あ、さやかちゃん待ってよ」

「お、おい!」

 手を取り合って駆け出す少女を追いかけようと、右足を伸ばした瞬間。

 オレの視界の天と地が逆転した。

「あり?」

 無様に地べたへ転がったのは、誰かに脚を掛けられたのだと、痛みと同時に気づいた。

 痛みの余り目に浮かんだ涙をごまかしながら立ち上がる。

 気づけば傍らには、去っていった少女たちと同じ制服を着た、髪の長い少女が初めからそこに居たかのように立ちすくんでいた。

 腰まである長い黒髪をつややかに背へと流している。大きな瞳と、整った鼻筋が印象的な、いわゆる人目を引く美少女、というやつだ。

「まさか、今時脚が長すぎたから引っかかった、とかいうんじゃないだろうな」

 少女の瞳がアイスクリームのように冷え切った。

「どこの誰かは知らないけど、彼女たちに近づくのはやめなさい」

「そりゃ、こっちの台詞だろ」

 油断していた、とは思わない。事件の捜査中だし、ひととおりの格闘術は心得たつもりだが、まるで気配を感じなかった。

 ソフトを目深にかぶり直し、視線を沈めた。

 容易ならない、とオレの探偵魂がいっている。

「話があるなら、私が聞くわ。その写真の人物についてもね」

「上等じゃねーか。たっぷり聞かせてもらうぜ、この写真の子のこともアンタ自身のこともな」

 少女は、肩で風を切るようにして前を歩く。
 オレは、後ろ手でフィリップが作成した追跡型操作端末バットショットを開放して逃げ出した二人を追わせると、後ろに従って場所を移動した。

 ちょうど帰宅ラッシュにぶち当たったのか、市内の大通りはどこも家路を急ぐ人々で込み合っている。

 目の前を行く少女は、背中を見せたまま悠然と足を進めている。

 単なる余裕なのか、それとも先程オレを転ばせた方法に何か秘密でもあるのだろうか。

 体格的には小柄であるし、まともに組み合っても負ける要素はどこにもない。

 だが、それらを超越した何かを、コイツは持っているということだ。

 少女の誘導に従って歩くと、次第に人気の離れた小道へと分け入っていく。

 茜色の夕日が落ちきる直前に、ようやく人気の無い寂れた工場の裏手にたどり着いた。

「随分寂しいところを知ってるんだな。ま、ここなら邪魔は入りそうにないな。
さあ、この写真の人物について聞かせてもらおうか。えーと、オレは探偵の左翔太郎だ。君の名前を教えてもらおうか」

「その、必要は無いわ」

「は? ちょっと待てよ。どういう意味だよ」

「あなたが何故その写真の人物を探しているかどうかなんて興味ない。
これ以上首を突っ込まないよう、少々釘を差す為にここまで連れてきただけよ」

 反射的に、唇の端がもつれるようにひきつる。

 オレは苦笑を禁じえなかった。

 少女に脅される探偵! 

 マーロウもリュウ・アーチャーもサム・スペードもきっとオレのことを許さないだろう。

「なにがおかしいの」

「――は」

 ひきつった笑いがそのまま、凍りつく。

 彼女は、いつのまに取り出したのだろうか、ニューナンブM60のリボルバーを右手で構え、黒々とした銃口をこちらに向けていた。

 ちょっと待て!

 一瞬たりとも、目を離してはいなかったし、隙だって無かったはずだ。

 まるで、魔法のように突如として出現した凶器を目の前にして、オレに出来ることといえば、馬鹿みたいに開けた口をゆっくりと閉めることぐらいだった。

「お嬢ちゃん。イタズラもそのくらいにしておかないと、そろそろ怒るぜ」

「――どうぞ、ご自由に」

 無慈悲に撃鉄を引き起こす硬質な音が耳朶を打った。

 やばい、この子の方がオレよりハードボイルドなんじゃ。

「この街を出て、二度と鹿目まどかに近づかないというのであれば、命だけは助けてあげる」

「悪いがそういうわけにはいかないな」

「残念ね」

 鈍い音と共に、銃弾が後方へと流れた。

 少女の瞳。今まで何一つ揺るぎもしなかったそれが、僅かに戸惑いの色を見せたのを見た。

 オレは後方を振り返ると、近づいてくる黒服の一団を見た、四・五・六・七、八人。見間違いようもない。

 頭部全体を覆う、真っ白な肋骨を模したマスク。マスカレイド・ドーパントだ。

「なに、なんなの貴方たちはっ!?」

 前方に気をとられていたせいか、彼女は後ろに回っていた奴らに気づかなかったのだろう。

 少女は、背後から迫っていた二人の男にあっさりと組み伏せられると、地べたへと押し付けられるようにして顔を擦りつけた。

「おい、レディを乱暴に扱うんじゃねーよ」

 オレは黒服たちから一斉に飛び掛られないだけの距離を保ちつつ、様子を伺う。
 
 ところが男たちは、オレを無視した格好で、彼女だけに注意を払っているように見えた。

「暁美 ほむらだな」

 一団の中から、一人の男が進み出ると、少女に呼びかけた。
 返事は期待していなかったのだろう、リーダー格の男は首をしゃくると、ほむらと呼ばれた少女を組み伏せていた男が、彼女の胸元へと腕を入れ何かをまさぐり出す。

「やめなさい、やめっ……やめてっ!!」

 掲げるように男は、小さな卵のような装飾品を取り出すと、地面から顔を上げて抗うほむらの頭を踏みつけた。

「情報通り、身体を拘束すると魔法は使えないようだ」

 男は肩に乗せた白い猫のような生き物に何事かを語りかけている。
 オレが、本当に驚いたのは、その猫が男の言葉に返答をしたからだった。

 人間に言葉で。

「思った以上にスムーズに作業が完了したようだね」

「あなたはっ!!」

 ちょっと、待て。あいつらは、動物と会話している。待て待て、おかしいのはオレなのか? それとも、この世界か?

「暁美 ほむら。君は規格外だ。これ以上勝手にうろつかれても、僕の計画に支障をきたす。
残念だけど、ここで退場してもらうことにしたんだ」

「キュウべえっ!! あなたは、どこまでっ!!」

「そう、怒らないでよ。彼らと僕の利害は一致した。財団Xはグリーフ・シードやソウル・ジェムが研究のために必要。
僕には君の排除を行う人手が必要だった。これは仕方がないことなんだよ」

「お願い、返して。それがないと、私、戻れないっ!」

「ごめん、諦めて。その代わり、僕がちゃんと、鹿目まどかを魔法少女にしてあげるから」

 莞爾と微笑む。

「――あ、あああっ」

 ほむらの理性が爆発したように弾けた。

 頭を左右に振るって、恥も外聞も無く起き上がろうとするが、彼女の両肩を屈強な大の男が二人がかりで押さえつけている。

 脱出は不可能。彼女の四肢は地面に縫い付けられたように微塵も動かない。

 マスカレイド・ドーパントたちは、オレにはまったく興味は無いのか、宝石のようなものを回収し終えると、
ほむらをその場に置いたままゆっくりと遠ざかっていく。

 リーダーらしき男の肩には、彼女が話しかけていたキュウべえという生き物がちょこんと座り込んでいる。
 つい、と振り向いたその生き物と目が合った。

 その赤い目玉は、落ちかける夕日と同じように、濁った血の色をしていた。

「――たす、けて」

 少女の声。最初に会った時感じた、巌のような不動さはなく、それは年相応のはかなく、か弱いものだった。

 長い少女の黒髪。ほつれたその間から覗く、濡れた少女の瞳と視線が交錯した。

「助けて、左翔太郎」

「ようやく、オレの名前を呼んでくれたな――で、もういいか、フィリップ」

『待たせてすまない、翔太郎』

 耳元に当てたスタッグフォンから、相棒の声が聞こえる。

 オレは携帯を閉じると同時に、ほむらを押さえ込んでいた片方の男に回し蹴りを喰らわせ、同時にこちらを向いた男の顔面に拳を突き入れた。

 右手でダブルドライバーを腰に装着すると同時に、ジョーカーメモリを叩き込む。

『サイクロン!!』

『ジョーカー!!』

 無機質な機械音が、辺りに木霊す。

 悪党ども、もう遅いぜ。

「変身!!」

 ――『CYCLONE/JOKER!!』

 烈風が巻き起こると同時に、視界の向こう側が世界ごと変革される。

 みなぎる力が、人間の限界をあっという間に振り切って、オレを瞬間的に無敵の超人へと造り替えた。

 この地球における根源への叡智。

 正義と悪の概念すら断ち切る、規格外のパワー。

 仮面ライダーWだ。

「レディを泣かせるやつは、このオレたちが許さねぇ!!」

 オレは一瞬でトップスピードに乗り切ると、反応の遅れたマスカレイド・ドーパントの一軍に真っ向から切り込んだ。

 一人目の男の腰へと飛び蹴りを叩き込むと、向かい来るもう一人の喉首へと水平に手刀を突き入れた。

 くの字に身体を折りたたむ男の腰を蹴りつけると、背中に殺気を感じる。
 オレはそのまま振り向かずそのまましゃがみこみ、突っ込んでくる男を背中の上で滑らせ、そいつの頭を両手で押さえ込み、勢いを殺さず地面へと卵をへし割るように叩き付けた。

「回収を優先しろ!」

 リーダーらしき男が指示を飛ばしている。
 蜘蛛の子を散らすように駆けていく一群を睨みながら、オレは怒声を浴びせた。

「だから、逃がさねぇって!!」

 銃撃手の記憶を内包したトリガーメモリを交換する。

『CYCLONE/TRIGGER!!』

 逃げ惑うマスカレイド・ドーパントに向けて、トリガーマグナムをまとめてぶっ放す。

 破壊エネルギーの弾をまともに食らった、男たちは、滅びの絶叫をあげながら世界から霧散していった。

「こいつらいったい」

『量産メモリだ。それより、最後の一人は』

 唯一自我を有していたリーダー格らしき男だけは、健気にも立ち向かおうと、猛然と襲い掛かってくる。
 所詮はそれも、蟷螂の斧。

「があああっ!!」

 オレは、敵の正拳突きを左手で払うと、脇腹に右ひざを勢いよくぶち当てた。

 ふらつく上体。右の親指を鳴らすと、空を見上げる。日はほとんど落ちかかっている。
 夜がもう、そこまで忍び寄っていた。 

『詳しい話を聞きたい、メモリブレイクだ。翔太郎』

「いくぜ、フィリップ!」

『CYCLONE/JOKER!!』

 トリガーメモリを外すと、オレはジョーカーメモリをマキシマムスロットにぶち込む。

 ――こいつで終わりだ。

『マキシマム・ドライブ』

 メモリのエネルギーがジョーカーアンクレットを増幅し、オレの身体は上空へと舞い上がる。
 地上には、対象を見失った哀れなドーパント。

 怒りの鉄槌を受けるがいい。

『ジョーカー・エクストリーム!!』

 オレとフィリップの叫びがユニゾンする。
 セントラルパーティーションが交互に分離して、必殺の蹴りがドーパントの身体を打ち砕いた。

 男の身体から、破壊されたガイアメモリが排出される。

 オレは変身を解くと、倒れ伏したままの男が握っていた宝石を拾い上げる。

 それから、膝を突いたまま呆然としている彼女に向かってゆっくりと歩いていった。

「立てるか」

 ほむらは無言のまま座り込んでいる。
 オレは、彼女に宝石を握らせてやると、膝を折って目線を下ろし、じっと目を覗き込んだ。

「な、なに?」

「か弱いレディ、涙を拭いたほうがいいな」

 ハンカチをそっと差し出すと、少女は顔を真っ赤にして俯いた。

「――どうして、助けてくれたの」

「If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive」

「……やさしくなくては生きていく資格が無い? 今時チャンドラーなんて流行らないわ」

「オレは過去の世界に生きてるのさ」

 人差し指でソフト帽を軽く持ち上げる。オレはその時、彼女が少しだけ微笑んだのを見逃さなかった。


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