両儀式「ここが学園都市か……」

2009年11月23日 12:23

両儀式「ここが学園都市か……」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/21(土) 16:03:24.76 ID:6dOd2Xoa0

 学園都市には『窓のないビル』がある。
 その中身については様々な憶測と噂があり、虚数学区・五行機関がコレであるとか、何やらヤバい実験が中で行われているとか、そもそもそんなビルは存在しないとか。

 上条当麻は週末の清々しい朝をバスルーム兼寝室で迎え、ベランダで朝日でも浴びようかと、窓に手をかけた。
 窓の先には、隣のアパートの壁が迫っているはずで、朝日など拝めるはずないのだが。

上条「お先真っ暗~♪」

 居候シスターはベッドの端で熟睡中。

上条「今日も不幸なことが起こりませんように――」

 窓を開けた、その先。ベランダには、

上条「……ありえねえ」

 ――赤い皮のジャンパーに着物の女が、干されていた。


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 反射的に後ろを振り返り、目を背ける。
 ベッドでインデックスが寝ている。
 後ろ手で窓を閉め、深呼吸。

上条「はは、さすがの俺でも、朝一からはキツいのですよ~?」

 ガラリ。もう一度窓を開ける。現実は変わらない。
 ベランダに着物の女が干されている。
 着物は薄汚れていたが、それでも貧乏学生には到底手が出せないほどの高価な物であることがわかる。
 しかしこの状況、激しくデジャビュだ。
 記憶ではなく知識として残った上条当麻の体験だろうか。
 ベランダ、ズレた服装、行き倒れ。様々な言葉が意味もなく頭に流れる。

上条「とりえず、起こしますか。……おーい、生きてますかー?」

 しかし、女はピクリとも動かない。まるで死体のように。

??「……」

上条「あのー」

??「――あぁ」

 呼び動作もなく、女は顔を上げた。

??「悪いな。こんなとこに引っかかってて。驚いただろう」

 予想外の、常識的な反応。かえって言葉に詰まる。

上条「いや、えーとですね」

 整った顔立ち――女にも男にも見える中世的な――と、自分のものとは比べ物にならないほど綺麗な黒髪。

??「流石に死ぬかと思った」

 女はあくまで無表情。

上条「そりゃあ、七階のベランダに引っかかってたら」

??「いや、そっちじゃなくて」

上条「ん?」

??「おなかがへってだよ」

 またしてもデジャビュだった。
 しかし、何時のことだか、思い出すことはできない。

??「悪いな。こんなに振舞ってくれて」

上条「冷蔵庫の中のものを適当に混ぜて焼いただけのモンだから別にいいって」

上条(そうはいっても、今月ピンチなんだが……しょうがないか)

??「食えれば問題ない」

 テーブルの上には山盛りにされた野菜炒めもどき。

禁書目録「……むむむ、とうま、朝ごはんだね!」

 ガバリと匂いに釣られて勢い良く起き上がったインデックス。

禁書目録「あれ? その女の人は? ……またとうまが知らない女の子連れ込んでる!!」

上条「ま、まてインデックスさん! これには深い訳が!!」

禁書目録「どれだけとうまは女の子に手を出せば気が済むのかな? しかも朝から!」

 すでに歯を打ち鳴らし、噛み付きの準備運動を始めている。

上条「ベランダに引っかかってたんだって!」

禁書目録「むむむ?……私のときとおんなじだね」

上条「へ? あ、そうだな! だから仕方が――」

禁書目録「でもそれとこれとは、話が別!!」

 噛み付き一閃。

上条「ギャーー!! インデックスさん、朝一からこれは少々ワタクシもつらいのですが!
    それにお客さんの前だから、ちょっとは羞恥心というものを!」

禁書目録「む、そういえばとうま。この女の人って誰?」

 黒髪の麗人はこちらをちらりと見て、箸を置いた。

式「言うのを忘れてたな。両義式だ」

上条「俺は上条当麻。コイツはインデックス。よろしく、両義」

式「式って呼んでくれ。名字は好きじゃないんだ」

禁書目録「なっ、いきなりたらしこんでるじゃんとうま!」

上条「な、なぜそんな結論にーー!?」

 ガブリ。横目で見ながら、式は野菜炒めを丁寧に食べていた。

禁書目録「っていうか朝ごはん!」

 インデックスは食卓に着き、上条もヒリヒリとした頭をさすりながら、箸を取る。
 この年齢で毛の薄さに気を配らなければならないとは、なんたる不幸か。

上条「それにしても式、どうしてベランダに干されてたんだ?」

式「逃げてる途中で足を滑らせた。三日間食事なし耐久レースは堪えたみたいだ」

上条「よく生きてたなー……。ん? 逃げてる途中?」

 あぁ、と上条は納得した。
 この学園都市に着物を日常的に着ている美人がいる、なんていう話は聞いたことがない。
 いたら間違いなく噂になるほどの見た目を彼女はしている。
 もちろん、日常的に着物を着ているわけではないのかもしれないが、ここ数日に祭りがあったなんてことはないし、あえて着物を着て刺客から逃げる、というのはおかしい。――つまりは、

式「俺は外部から来た。
  依頼が都市側にばれていたらしくて、進入してきたところを追い掛け回されて……散々だ。
  こんな依頼、受けなければよかった」

上条「そりゃ、お疲れさん」

禁書目録「依頼ってなに?」

式「暗殺」

 箸が、止まった。

上条「……ハハ、式さんは面白いヒトだなぁー。オウ、イッツジョーキング」

禁書目録「誰を殺しちゃうの?」

上条「って、聞くのかよ!」

式「クロウリー。アレイスター=クロウリー」

 学園都市総括理事長、アレイスター=クロウリー。

上条「って、言うのかよ!? いいの!? 暗殺者って、秘密主義なんじゃないの!?
    コードネームで呼び合ったり、振込先はスイス銀行じゃないの!?」

式「振込先は郵便局だぜ」

上条「庶民的! びっくりだよ、もう上条さん色々とびっくり!」

禁書目録「どしたの、とうま? もどってきてー」

 妙にさわやかな朝。あのときに戻りたい。
 起きたら顔を洗って歯を磨いて、窓にはカーテンをしめて朝飯を抜いて出かけたるんだ。
 そうしていつも通り学校に行って、休みなのに学校行って、不幸だーとか言いながら家に帰りたい。

式「ごちそうさま」

 妙に響いた箸を置く音で、現実逃避から帰ってきた。

上条「あ、あぁ、お粗末さま」

式「礼でもしたいんだが、生憎、言葉と金しかない。悪いな」

上条「何言ってんだよ。客から金取る家主はいねえ。気にすんな」

禁書目録「またそうやって……女の子なら誰でもいいんだね」

上条「んなっ! 人をまた遊び人みたいに。今の言葉に口説く要素なかっただろ!?」

禁書目録「とうまだからどう転ぶかわかんないしー」

上条「完全に言いがかりなのに、言い返せない自分が悔しい!
    ……っと、これまた綺麗に食べてくれてんだな」

 卵のかけらすら見つけるのが困難で、ご飯粒は全くない。
 料理人としても、後片付けをするにしても嬉しいことだ。
 さっさと片付けますかー、と呟く。

式「俺も手伝う」

上条「いいっていいって。一応客なんだから茶でも飲んでてくれ」

 式は微妙な表情で、じゃあそうする、と返した。

 皿洗いを終えて、団欒に加わると、式の視線が上条の右手に止まっている。

式「手、見せてみろ」

上条「ん? ほい」

 手相でも見るのかと思いきや、腕を撫で回す。
 ぺたぺた、すべすべとくすぐったい。
 それを見て、インデックスの機嫌が加速度的に悪くなっていく。

上条「あのー」

式「足も」

上条「あ、はい」

 足も撫で回される。

 そして一言。

式「良い体をしているな」

上条「セクハラっ!?あっちこっち撫で回した挙句それかよ!」

禁書目録「とうま、その発言もセクハラチックだよ」

式「何かスポーツか格闘技でもやってるのか?」

 あぁそっちかよ、と心の中でツッコむ。

上条「いや、特に何も」

式「その右手、少し皮が厚いし、肌に少し不自然に傷が多い。
  何も格闘技をやっていないとすると、路地裏にたまってる人たちか?」

 とてもそうは見えないけど、と付け足す式。
 そういえば色々あったもんなー。不自然だよなーこんなにケガするの。
 月イチペースで事件の渦中にいたら嫌でも体力つくよなー。

上条「まぁ、イロイロとあるのですよ……」

禁書目録「ねぇとうま、今日の約束覚えてる?」

上条「約束……? あー、街に遊びに行くんだっけか」

禁書目録「でね、シキもどうかなーって」

上条「全然良いけど、式本人はどうなんだ?」

式「いいぜ、まだろくに観光も出来てないんだ」

上条「ははは。でも、着物は目立つんじゃないか?」

 式は横目でインデックスを見た。あぁ、なるほど。
 修道服って、目立つにも程があるよな。

上条「コイツが目立たないってわけでもないんですのよ?むしろバリバリ目立つ。
    逃げてる身なんだからちょっとは用心したほうがいいんじゃないか?」

禁書目録「コイツって言われた……」

式「そこまで言うならしょうがないな。
  服を変えたくらいで、この街の探索網から逃れられるとは思えないけど」

上条「んじゃ、まずは服屋か。そのあとゲーセンでもいくか?」

 そう言って上条が起き上がったとき、玄関先で物音がした。

『ピンポーン』

 呼び鈴とノック。

「カミやーん」

 そして土御門の声。ドアを開けると、自分の家のようにズカズカと入ってくる。

上条「土御門、何か用か?」

土御門「用ならたっぷりあるんだぜい」

上条「嫌な予感しかしないのが凄い」

 急いで窓を開ける音、そして衣擦れ。規則的な音が連続する。
 土御門が走って部屋に入ったときには、

土御門「チィっ!気付かれたか、勘のいい奴だ」

 さっきまでいた式がいない。
 開かれた窓、ヒラヒラ踊るカーテン。
 下を見ると、アパートとアパートの間の路地を走る両義式の姿が見える。
 七階のベランダを飛び降りた。――いや違う、向かいのアパートの壁を蹴り、こちらのアパートのベランダに移りながら降りた?
 簡単に言えば、三角跳びをしながら降りていったってとこか。

上条「どんな身体能力だよ……」

土御門「全くだぜい。どこかの国の雑技団にでも入るべきだにゃー」

土御門「それにしてもカミやん、どう過ごしたら美人侵入者と朝ごはんを共に出来るのか、
     ご教授願いたいんだぜい」

上条「知らねえよ。美人がベランダに引っかかってることを祈るだけじゃねえか?」

土御門「空から降ってきた美少女、なーんて、イマドキ流行んないぜい?」

上条「それこそ俺の知るところじゃねえ。
    というか、お前が追ってるってことは、また魔術サイド絡みなのか?」

土御門「そうとも言えるし、そうとも言えない。微妙なんだにゃー」

上条「なんだよ、ソレ」

土御門「イマイチ目的に、依頼があったことすら信憑性がないんだにゃー
     依頼内容がどう考えてもたった一人の個人の能力で出来る範囲を大きく超えてるんだぜい?
     たった一人で攻城戦をするようなもんだにゃー」

上条「ほー。ってことは、何か別に目的があるってことか?」

土御門「別にそんなにソイツに興味はねえけどな。イマイチ緊張感がないんだにゃー
    『みーんな』にやる気がないんだぜい」



式「――あーあ、観光しそこねた。」

 親切な人間のいたアパートの方を見ながら、
 どこかの薄汚れた路地裏で息を吐く。
 追っている気配はもうない、というか、追跡にやる気が感じられなかった。

式「これだったら警察のほうがまだマシだ」

 ナメられてる、とも思うし、仕方ない、とも思う。
 私にだって、やる気がないのだから。

式「なんだってこんな依頼を――」

 今から一週間前のことを思い出す。
 珍しくトウコの機嫌がすこぶる良かった――
 思い出すと本当に異常なほどの機嫌のよさだった――日のことだ。
 事務所へ入ると、コクトーは机で仕事をしていて、メガネを掛けたトウコは一枚の紙を見ながらハミングをしていた。
 その様子をみてコクトーは愛想笑いとも苦笑ともつかない、微妙な笑みを浮かべていた。
 困ったような笑み。

橙子「式、やっと来たのか」

式「どうしたんだよトウコ。良いクスリでも手に入ったのか?」

橙子「私の機嫌がいいのが、顔を引きつらせるほど珍しいのか?」

式「ビデオに取って三日後に見せてやろうか?」

橙子「遠慮しておこう」

 そう言って私に持っていた紙を突き出してきた。

式「これは?」

橙子「依頼さ」

黒桐「また変なことじゃないでしょうね」

橙子「式にピッタリな仕事さ」

 意地の悪い笑みに、コクトーはムッとした顔になる。紙に目を移すと、そこには――

橙子「どうだ?」

式「――おいおい、こんな依頼は、」

橙子「前金はもらってある。行くだけ行って、出来なかったらすぐ帰ってきていいぞ。
    それに、あそこには『超能力者』が沢山いるらしいじゃないか。
    お前の個人的欲求の為にもなるんじゃないのか?」

黒桐「橙子さん! 『超能力者』って、学園都市ですか!?なんだってそんなところに」

橙子「さぁな。依頼主の正体も、目的も良くわからない。
   『式』を直接に指名されてる以上、式の判断に任せるだけだ」

橙子「恐らく、依頼主は都市内部の人間で、それなりの地位にいる。
    黒桐、仕事だ。依頼主について調べてくれ」

黒桐「それは構いませんが。式、どうするの?」

式「行くだけは行ってみる。それなりに楽しんだら帰ってくるさ。これでいいんだろう、トウコ?」

橙子「あぁ、お前に任せるよ、式」

 なんて言って、トウコは気持ちの悪いハミングを再開した。
 私とコクトーは顔を見合わせて、苦笑した。


 そういうわけで、式は依頼主の用意したルートで進入し、三日三晩逃亡生活を続けて、やっと撒いたと思って油断して足を滑らせた。
 起きたらあのベランダの上。運がよかった。流石に八階から落ちたら死ぬ。
 おもしろいヤツらではあった。特にツンツンした黒髪の男の方、上条当麻だっけ。

式「あの右手――」

 不自然だった。
 そういう人間もいるのかもしれないが、あれは不自然だ。

式「手首の上から、線が無かった」

 やはり面白い。来て良かったと私は思う。
 やることも今は特に無い。とりあえずはアイツを探すことにしよう。



一方通行「逃がしたァ?」

 移動用のゴミ収集車に偽装した車の中。
 『グループ』の四人が自由な体勢でくつろいでいる。

海原「土御門さんあんまりやる気ないですからね」

土御門「気の乗らない仕事って多いもんだ。というよりも、仕事したくない」

結標「何馬鹿なこと言ってんのよ。
    あんたがすぐに連絡しないから逃げられて仕事が増えたんじゃない」

土御門「そもそもこの侵入者の始末が俺たち『グループ』を動かすほどの事態とは思えない。
     何かあるかもしれん」

結標「何かって、何よ」

土御門「わからんから先延ばしにした、ってわけだ」

海原「わざと逃がした、と?」

土御門「――あぁ。おかしいのは魔力を感じなかったことだ」

海原「なるほど、それはおかしいですね。上からの情報では、魔術サイドの刺客のはず」

一方通行「……きな臭エことになってきやがった」

結標「で、どうするのよ?」

土御門「手がかりがない。俺と海原は目標を尾行する。一方通行と結標は情報収集を頼む」

海原「居場所はわかるんですか?」

土御門「そいつを今から探しに行くわけだ」

海原「……ですよね」

一方通行「女をとっ捕まえて吐かせりゃ楽なんじゃねェの?」

土御門「強攻策を取るにはまだ早い」

一方通行「泳がせた方がイイ情報が取れるってかァ?」

 面倒臭エ、と一方通行は吐き捨てた。



 御坂美琴は最高にハイだった。

御坂(あぁんもうゲコ太愛してるーっ!!)

 スケール1/1、等身大ゲコ太の入った袋を抱きしめて、顔には笑みが張り付いている。
 時折袋からゲコ太の顔を出して破顔する、という異常行動を続けている。
 ――御坂美琴は、最高にハイだった。
 だからだろう。
 着物に革ジャンを着た、いかにも怪しい人物に声をかけてしまったのは。
 その怪しい人物は困ったような表情(に美琴には見えた)をしていた。

美琴「どうしたんですか? お困りですか~?」

 ニコニコと、普段の彼女ではありえない無邪気な笑顔で話し掛ける。

式「あぁ、少し困ってる。人を探していてな」

美琴「どんな人ですか?」

式「髪が黒くて、ツンツンしてる」

美琴(……ん?)

式「名前は確か、上条当麻」

美琴「え? なんでアイツを?」

 予想外の名前が彼女を逆に冷静にさせた。
 よく見ると(どう見ても)、怪しい人物だし、アイツの名前を知っている。
 そして日常的に、非日常に巻き込まれがちなアイツ。
 この人物は、非日常?

式「なんだ、知ってるのか?」

美琴「……えぇ、一応」

式「カミジョーには飯を奢って貰ったんだが、礼が済んでいないんだ。
   借りを作ったままというのは、精神衛生上よくないだろ?」

美琴「まぁ、そうですね」

 薄汚れた着物と赤いジャンパー。
 そういえば、最近不法侵入者がいたらしい。
 そして捕まったというニュースは聞いていない。

式「あぁ、疑ってるな。仕方ないか。いいぜ、何でも聞けよ。立ち話もなんだし、どっか店に入ろう」

 あそこがいいかな、なんて言うとさっさと一人で歩いていく。

式「どうした? 早く来いよ」

 美琴と式は喫茶店の中に入った。
 中は洋風。アンティークな雰囲気の漂う、静かな店。
 10時前なので、客はまばらにいるだけである。
 店員は大きな袋に視線を向けつつ、お二人様ですか、なんて決まりのやり取りをして席に着く。
 美琴はミルクティー、式はコーヒーを注文した。

美琴「アンタ、名前は? 不法侵入者ってアンタ? 何しに来たの?」

式「両義式。三日前に不法侵入した。暗殺目的。標的はアレイスター=クロウリー」

美琴「不法侵入者が何でアイツと接点あるのよ」

式「建物の屋上を飛び回ってたら、足滑らせて落ちたのが、カミジョーの部屋のベランダだったんだ」

美琴「(どんな確立で起きるのよそれ)それで?」

式「はらへったって言ったら飯をご馳走してくれた。
 不自然なくらいにイイヤツだったぜ」

美琴「メシ奢ってくれたらイイヒトかよ……。
    っていうか、アイツだったら『礼はいい』とか言うんじゃないの?」

式「言われたよ。でもここを出たら二度と会わないんだぜ?そんな人間に借りは作れない」

美琴「なるほどねえ。アンタ本当に暗殺者?」

式「運が悪かったら暗殺者だ。まだ殺してないからな」

美琴「そりゃそうだわ。でも、両義さんは――」

式「呼ぶときは式で頼む。呼び捨てでいい」

美琴「式は、どうやってアイツに借りを返すのよ」

 失礼します、とウェイトレスが飲み物を持ってきて、以上でよろしいでしょうか、という決まりのやりとりをして下がっていった。

 式は無言のまま、考え込んでいる。

式「……どうしよう、無理だ」

美琴「アンタねぇ……。私が思うに、式は借りを返せない。
    アイツはそもそもそのことを『貸し』なんて思ってないわ」

式「借りの返しを無理矢理押し付けたら、そのこと事態が借りになる。
  でも借りは返さなくちゃならない。堂々巡りってヤツか」

美琴「別に返さないっていう手もあるわよ。結局は式、アンタ本人の問題でしょ?」

式「そうだな……とりあえずは保留だ。そういえばアンタの名前、聞いてない」

美琴「御坂美琴よ」

式「御坂……美琴……?レベル5、『超電磁砲-レールガン-』の御坂美琴?」

美琴「そうよ」

 式の顔が、心底残念そうな表情になる。

式「そうか……」

美琴「何よ、いきなりそんな顔して」

式「失礼だったな。悪い。実際、イメージとは違ってな。『期待』なんて、するもんじゃないぜ」

美琴「『超能力者』なんて聞いて、どんな化け物だろうって思ってたら、
    こんな普通の女子中学生でしたー、ってこと?」

式「あぁ、どれだけ『人間から外れているか』気になってたんだが、
  むしろ普通の、善良な『人間』だったもんだからな」

美琴「??」

式「オレ個人の目的だよ。
  学園都市の文句なしの『超能力者』はどんな人間だろうか知りたいっていう。
  まぁそれはいい。些細なことだ。カミジョーに会わせてくれるのか?」

美琴「うーん……」

 腕を組んで顎を上げる。お洒落な照明が目に入った。

美琴(意外にマトモっぽいし、会わせてあげたいんだけど、どうにも嫌な予感がするのよねぇ……)

式「ぶっちゃけるとあんまり暗殺とかする気ないんだぜ?」

美琴「……ハァ!?」

式「前金貰ってるし、元々テキトーに観光したら帰るつもりだったんだ。
   レベル5にも会えたし、個人的な目標は達成してるしな」

美琴「いいのかよ! プロの矜持とか無いの!?」

式「プロなら一人で乗り込んだりしない。
  追ってきてる奴らもそれを感じてるから、あんまりやる気出してないんだ。
  じゃないと流石に捕まってるぜ」

美琴「よくわかんないけど……それならいいわ。会わせてあげる。
    でも一応私もついていく。いやーな予感がするからね」

式「ありがたい。でもその前に服をなんとかしたい。三日間同じ服はちょっとな」

美琴「じゃあ店出るか」

 ああ、と呟いて伝票を取る式。

美琴「自分の分は払うわよ」

式「借りは作らない性分なんだ」

 美琴はため息をついた。


 初春飾利は機材に囲まれた部屋の中で、孤軍奮闘していた。
 正体不明の外部のハッカーが学園都市内部ネットに侵入しようとしているのを防いでいるのだ。

初春「なかなかやりますね……」

 学園都市内部と外部には20年~30年の科学技術の開きがある。
 にもかかわらず、そして、『守護神-ゴールキーパー-』と呼ばれる学園都市最高峰のハッカーである自身と互角渡り合うという外部の相手は誰なのか。
 今のところ進入に気づいているのは初春だけ。
 応援を呼ぶ、というのは初春の矜持が許さなかった。
 それにいざという時は、ターミナルにある外部接続ケーブルを切ってしまえばいい。

初春「ふふ……ふふふ……」

 薄暗い部屋、モニターの光で照らされた初春は、間違いなく笑っていた。
 その感情の波に呼応するように、頭の花が揺れる。

 唐突に、勢い良く扉が開いた。

佐天「うーいーはーるぅー♪ 今日のパンツは――」

初春「今いいところなんですよ……ふふふ……ちょっと待っててくださいね」

 異常な初春の様子に気づいた佐天。

佐天「お、おーう。おねえさんちょっと用事思い出したよー。ばいばーい」

初春「ふふ……」

 ――都内、ネットカフェ。
 黒桐幹也は苦戦していた。後一歩のところで、届かない。

黒桐「さすが学園都市……そこらの会社とはわけが違うってことか」

 彼こそが、学園都市に攻勢をかけているハッカーである。
 『物を探す』一点において、類稀なる才能を発揮する幹也。
 彼は調べごとの度に、関連会社のデータをハッキングしている。
 しかし今回は元々、都市内部にまで踏み入るつもりはなく、外部の情報を集めて探るつもりだったのだが、その程度の情報深度では満足できなかったらしい。

黒桐「早くしないとケーブルが切られる……っ」

 一歩でも中に入れば、作ったウィルスをばら撒いて、都市内部のマシンスペックと回線速度に任せた情報収集が自動で行われるようになっている。
 だから、あと少し。
 もはや情報を収集するという目的ではなく、自分の侵入を食い止めている相手を打ち負かしたいという気持ちの方が強くなっている。

 ――勝敗は、どちらに挙がるのだろうか。


<<はなてこころにきざんだゆめをーピッ>>

上条「どうしたビリビリ、電話なんて珍しいな」

 禁書目録と昼飯のため家に帰ってきたところに、電話がかかってきた。

美琴<<ビリビリ言うな! ……アンタ、両義式って人と知り合いなの?>>

上条「あぁ、そうだけど」

美琴<<その人がアンタに会いたいって言ってるんだけど>>

上条「なんでまた? 逃げるのに忙しいんじゃないのか?」

美琴<<なんか一飯の恩があるとかで>>

上条「義理堅いんだなぁ」

美琴<<みたいね>>

上条「インデックスの腹が限界で今から飯なんだわ。
    だからこっちから行くのはちょっと時間がかかる。
    それでもいいならどっかで待ち合わせ、ダメなら俺んちに来てくれ」

美琴<<会うってことね? 了解、そっちに行くわ>>

 そう言って電話は切れた。

禁書目録「とうま、いまの電話なんだったの?」

上条「式がここに来るってさ」

禁書目録「へえー。それよりもごはん」

上条「はいはい」



式「どうしたんだミコト。いきなり髪型を気にしだして」

美琴「な、なな、なんでもないわよ」

 美琴が上条宅を訪れるのは初めてである。
 そっちに行くわ、なんて軽く言ったのだが、電話を切ってからその事実に気付いた。

美琴(ど、どうしよう、髪大丈夫かな、服の埃大丈夫かな)

式「急に面白くなったな、お前」

美琴「うるさい。よ、よし。式、さっさと行くわよ」

式「あぁ」

 彼女の頬は紅いまま。式はその様子を不思議そうに見ていた。

式(なんか鮮花に似てるなぁ)



土御門「なぁ、どう思う?」

海原「どうって、何がですか?」

土御門「このままアイツを尾行して、手がかりを得られると思うか?」

海原「見つけたときには御坂さんと喫茶店でしたからね。
    何故彼女たちが一緒にいるのかも分かりませんし。
    でも他に手がかりが無い以上、仕方ないのでは?」

土御門「だよなぁ。っと、動いたか。情報収集係は進展あるのかねえ」

海原「無いと思いますよ。こっち以上に手がかりが少ないですからね」

 土御門のズボンのポケットがブルブル震え出した。
 ケータイが鳴っている。

土御門「どうした」

結標<<外部ハッカーが珍しくハッキングに成功したらしいわ>>

土御門「なんだと?」

結標<<ハッキング元は都内にあるネットカフェ。
    抑えようと飛び込んだときにはもう痕跡も残ってなかったらしい>>

土御門「学園都市も落ちたもんだ」

結標<<本当ね。持ち去られた情報は表層部分を手広く。それでも高く売れるはずよ。
     腕がいいんでしょうね、自前のウィルスを使って一瞬で情報をかき集めた後、
     すぐにその場を立ち去っているわ>>

土御門「今追いかけている女の侵入との接点は?」

結標<<今のところはないけど、『猟犬部隊』の装備を使っても追いきれていないのよ>>

土御門「そいつは妙だな」

結標<<ええ。いつのまにか足取りを見失ってるの。その、魔術がらみなんじゃないかって思って>>

土御門「たしかにその線は高い。腕のいい魔術師ならそういう結界も作れる」

結標<<そういうこと。もう少しこっちで詳しく調べるわ。報告はしたわよ>>

土御門「ああ」

 パタン、とケータイを閉じる。

海原「進展ですか?」

土御門「まだ分からん。追加の報告待ちってとこだな」



 美琴の手には、もう等身大ゲコ太の入った袋はない。
 コインロッカー代わりにホテルを借りて預けて、そのついでに式はシャワーを借りて、三日分の汗を流した。
 そして今、美琴は上条当麻の住むアパートの前にいる。

美琴(こ、こここここがアイツの……)

式「何をさっきからソワソワしてるんだ?」

美琴「だ、だからなんでもないわよっ」

式「まあいいか。いくぞ」

美琴(こ、心の準備がっ! あーもう!)

 先に行った式を小走りに追いかける。

美琴(それにしても、結局どうやって恩返しするんだろう)

 上るエレベーターの中で美琴は思った。

美琴(お、お、押すわよー。押すわよー)

式「さっさと押せよ」

 美琴の手をつかんでそのまま呼び鈴を押させる。

上条「おー、開いてるから入ってくれ」

 式は分かった、と返して、ドアを開けた。

上条「いらっしゃい、ってビリビリもいるのか?」

美琴「ビリビリ言うなっ!」

式「邪魔するぜ」

禁書目録「この焼きビーフンは譲らないんだよっ!」

上条「誰も横取りしねーよ」

美琴(案外片付いてる……いや、微妙ね)

 ぱっと見は片付いているように見えるが、急いで片付けたのがすぐ分かる。

上条「もう追手はいいのか?」

式「問題ない。尾行はいるけど、あいつら捕まえる気がないぜ」

上条「ほー」

美琴「え、尾行いたの? 気付かなかった」

式「あぁ、敵意は感じなかったから教えなかった。ミコトは顔に出そうだからな」

禁書目録「服、変えたんだね。あっちのほうがかわいかったよ」

式「普通の服は着慣れないからな、違和感がある」

上条「それでも普通に似合ってるぜ」

式「……なんだ、カミジョー。口説いてるのか?」

上条「なんでそういう風に取られるんだよっ!
    そんなこと言ったら上条さんに対する世間の風当たりが強くっ!」

禁書目録「やっぱり女の子なら誰でも……」

美琴「はぁ……(いわれてみたいなぁ、『似合ってるぜキリッ』なんて……)」

上条「そういえば何しに来たんだ? 朝飯のことなら気にしなくていいのに」

式「こっちが勝手に気にしてるだけだが、まだ方法が見つかってない。
  とりあえず観光に連れてってくれ。遊ぼうぜ」

上条「了解。インデックスと御坂はどうすんだ?」

美琴「つ、ついてく」

禁書目録「いいよー、一緒に遊ぼう」

上条「じゃあ、インデックスが食い終わったら出かけよう」

 美琴は山盛りの焼きビーフンを見た。

美琴「どんだけ食うのよ、この子……」



土御門「――らしいぜい」

海原「学園都市侵入の目的が観光ですか……」

土御門「ったく、ナメてやがる」

 二人は隣の土御門の部屋で、壁に耳を当てて会話を聞いていた。
 滑稽な光景だが、会話は今ある一番の情報源だ。
 侵入者が何を考えているのか、何を目的としているのか。
 それが分からない今は何でもいいから情報を集めるしかない。

土御門「まぁ、目的がアレイスター暗殺、よりは随分現実的だな」

海原「そうですが……」



式「なぁカミジョー。お前って右手に仏舎利埋め込んでたりしないよな?」

上条「はぁ? そんなことは無いと思うけど……。っていうか仏舎利って、あの仏陀の遺骨か?」

式「あぁ、でも埋まっているにしても、完全に『視えない』のは変……か」

美琴「そうそう、こいつの電気線とか右手だけ全然見えないのよ」

上条「なんだ、そういうことか。俺の右手には『幻想殺し』っつーよく分からない力があるらしくて、
    異能の力……いるってんなら神様の奇跡だって打ち消せるらしいぜ」

式「『幻想殺し』……か」

美琴「うさんくさいんだけどねー。もしかして式って超能力者だったの? 外部から来たのに」

式「そんなもんだ。俺自身、よくわかってないんだけどな」

禁書目録「でも体に仏舎利埋め込むっていう発想はどこからきたの?」

式「過去に仏舎利を左手に埋め込んだヤツと戦ったことがあってな。
  そいつも『視えなかった』んだ。でも眼を凝らしたら少しは見えた」

禁書目録「ふーん、良くわかんないけど……仏舎利で得られるのは、不死性と仏の特性、
       つまり完成されたものとしての静止。死が止まる。死、視る、死を視る?
       まさか……『直死』?」

式「そうだが、こいつは驚いた。ハハッ! こんだけのヒントで分かるやつがいるなんてなァ」

 珍しく無表情を崩して笑い出す式。

式「あぁ、生きているなら――神様だって殺してみせる」

 ねぇねぇ、と美琴は上条を肘で突っつく。

上条「なんだよ」

美琴「いやいや、意味わかんないでしょこの状況。神様殺すとかさ」

上条「俺だってわかんねぇよ。……まぁ、式がどんな能力もってようと、
    コイツがコイツってことは変わんないんじゃねえの?」

 まぁそうだけどさー、と美琴は上条から離れた。


 壁を隔てた二人の顔に、冷や汗が浮かぶ。

土御門「おいおい、この展開は予想してなかったぜ?」

海原「まさか今世紀に『直死の魔眼』を持つ人間がいたなんて」

土御門「というより、御伽噺の中のモンだと思ってたんだが、まさか」

海原「どうします? 捕獲しますか?」

土御門「いや、あの女の身体能力はバカに高い。それに加えて、一撃で再起不能の能力つき。
     分が悪い。下手をしたら、『一方通行』だって殺されかねないんだぜ?」

海原「死ぬのは御免ですよねえ」

土御門「だが状況は悪くなったと言わざるを得ん。
     上層部がこのことを知っていたなら俺たちに指令が下ったのも一応は納得できる。」

海原「でも、本人にやる気が無さ過ぎるし、そのことを私たちに隠すメリットは無い。
    その情報が与えられていたなら本気で動きました」

土御門「コイツは何をしに来たのか……、それが腑に落ちない。」

上条<<し、式さん? いきなりナイフを取り出して、落ち着いてください>>

式<<盗み聞きとは、関心しないな>>

 二人は急いで顔を壁から離す。途端、壁からナイフが生えた。
 土御門の顔があった場所だ。

海原「ひとまず退きましょう」

 土御門は頷き、

土御門「カミやん! その女には気をつけたほうがいい! 親友からの忠告だぜい」

上条「土御門!?」

 足音、ドアを開ける音。もう追いつけない。

式「……また借りが出来ちまった。弁償させてくれ」

 穴の開いた壁を指差した。

上条「スイマセン、今月ピンチなんでそうしてもらえると嬉しいデス。
    っていうか式さんは常識人だなぁ! 素晴らしい!」

禁書目録「むむ、なんか敵意を感じるんだよ」

上条「ちったぁ仕事しろよ居候!」

 美琴はため息をついた。これだけの状況にいながら、彼は楽観を崩さない。

美琴「アンタ、よく聞きなさい」

上条「ん?」

美琴「式には悪いけど、言わせて貰うわ」

 式はナイフをポケットに仕舞いながら頷いた。

美琴「アンタはまた、ヤバイことに首を突っ込もうとしてる。でも、それを理解しつつもそれをやめない。
    アンタが自分から式を拒絶したら、式だって分かってくれる。
    嫌なんだったら巻き込まないでいようって思うはず」

上条「……」

美琴「それもアンタは理解してる。……やめなさいよ、関わるのを。
    アンタが率先して足を踏み入れていく場所じゃない」

上条「――コイツの目的が暗殺って知ってるか?」

美琴「うん、聞いた。知ってる」

上条「出会って短いけど、俺にはコイツがテメェの欲望のために、金とか、
    そういうもののために人を殺すとは思えない。
    あんまり暗殺する気が無いんじゃないかって、そう思う。観光したいとも言ってたし」

美琴「……そうね。でもそんなの関係なく、不幸なことに巻き込まれるかもしれない」

上条「そんときはそんときだ。俺は式を信用しちまってる。関わっちまってる。
    だから、コイツが人を殺さない限りは、上条当麻は友人として観光案内する」

美琴「……ったく、分かってた。言ってみただけよ。いつもアンタはずるい……」

 ぶつぶつと小さい声で愚痴る。何故か頬が少し赤い。

式「じゃあ頼むぜ、カミジョー。出来るだけ殺さないよ」

上条「ああ」

禁書目録「ごちそうさまー」

上条「お粗末さま。んじゃ行くか。御坂、お前結局どうすんだ?」

美琴「行く! 行くわよ! 心配だからね!」

上条「そんで、式には見て回りたいところとかあるのか?」

式「あぁそうだな――」

 少し考える仕草をして、

式「―――『窓の無いビル』とか」



黒桐「やっぱこれだけじゃ分かんない……か」

 ディスプレイに表示されたデータと散乱する書類を見ながらため息を吐いた。

橙子「さすがの黒桐も、学園都市にはお手上げか」

黒桐「外部からでは流石に。侵入するだけで精一杯でした」

橙子「外部からでも侵入できるところが流石だよ。
    職が無くなったらウチへ来い、凄腕ハッカーとして雇ってやる」

黒桐「元からあなたの社員ですよ」

橙子「そういえばそうだったな」

 軽く笑い、吸っていた煙草の灰を落とす。

橙子「外からでは厳しい――」

黒桐「ええ」

橙子「じゃあ――『中』からではどうなんだ?」



土御門「――っつー能力があるわけだ」

 土御門は海原に尾行を任せ、本部に戻ってきていた。

一方通行「オイオイ、魔術っつーのは何でもありなのかよ」

結標「死を視る、ねぇ。正直良く分からないわ」

土御門「俺も見たことは無いからイメージは沸かない。しかし、危険な能力には違いがない」

一方通行「戦闘時のオレには多分きかねぇよ。『視れた』としても、どうやって攻撃を当てるんだ?」

土御門「殺せるのが生物だけなら、そうだろう。だがアイツは、神様でも殺せると言った」

一方通行「それがどうしたンだよ」

土御門「もし、神という『概念』を殺せるとしたら?」

一方通行「あぁン? もうちょっと分かりやすく言いやがれ」

土御門「『一方通行』という能力を殺せるとしたら、どうなる?」

一方通行「……さァな。とりあえずターゲットは捕獲だ。最悪殺す」

土御門「それが妥当か」

 三人は車へ乗り込み、海原へ連絡を取る。

結標「目標は捕獲、最悪は排除。そっちにいくまで待機してて」

海原<<了解>>



 上条たちはゲームセンターにいた。

美琴「クソッタレー!」

 企業が利益を度外視して作った、試験的なゲームを四人は遊び倒していた。
 もちろん外には流出していない最新のものを。

美琴「ゲーム大好きミコトセンセーが負けるなんてっ!」

上条「んん~? 次は何賭けるんだミコトセンセー?」

美琴「賭けとかはどうでもいいけどコイツに負けるのは超ムカつく!」

式「次はアレ行こうぜ」

 体感型レースゲームを指差した。
 黒い箱が四つ並び、中にあるレースカーに乗って本物のレースを体験することが出来るゲーム。
 加減速に感じるG、ステアリングの重さから、車種によるクセまで再現してある。

上条「よし、次はデコピン賭けてやるぞ!」

美琴「レースゲーこそ私の真骨頂よ!」

禁書目録「ちょっとついていけないんだよ……」

 上条は意気揚々と右から二番目の箱の中に入った。
 車高の低い、狭いコックピットに乗り込む。
 そしてディスプレイとスピーカーの入ったフルフェイスヘルメットを被り、コインを入れた。
 カウントと共にゲームがスタートする。

上条「ん?」

 このゲームにはリアルモードとノーマルモードがあり、
 ノーマルモードでは対戦プレイヤーとの差が秒数で表示される等の、対戦レースゲーらしいオプションがつく。

上条「三人しか、いない?」

 上条、美琴、インデックス、式の四人がレースに参加しているはずだ。
 インデックスが手間取ってエントリーできなかったのかもしれないと思い、

上条「インデックスエントリーできなかったのか?」

禁書目録「ばっちりできたよー」

 と返事が返ってきた。

上条「じゃあ、何で?」

 嫌な予感がした上条は、箱から出て、右隣の式が入ったはずの箱を覗いた。
 案の定――その中には誰もいなかった。
 周りを見渡しても、休日のゲームセンターの人ごみで、よく見えない。

上条「トイレとか……? いや、これは……。ビリビリ、インデックス! 式が居なくなった!」

禁書目録「え?」

美坂「なんですって?」

三人で店を出ると、不自然なほど人の少ない道路に式が居た。

上条「式!」

 式はこちらを見ない。両の手には抜き身のナイフを握って、前を睨んでいる。
 視線の先、土御門元春がそこにいた。

土御門「悪いなぁカミやん」

上条「そいつはアレイスターを殺さない! 何も悪いことはしないんだ!」

土御門「それでも、不法侵入者に代わりは無い」

上条「それはっ!」

式「悪い、カミジョー」

 式はスタンスを広く取り、身構える。それに応じて、土御門の姿勢も低くなる。

式「カミジョーには嘘を吐いた。オレはアレイスターを殺さないが、それだけだ。
  個人的な目的は、オレの殺人衝動を満たせる人間を見つけること。
  ――人殺しのために、ここにいる。だからもう、お前に観光案内はしてもらえない」

 結局借りっぱなしになっちまったか、と式は思った。
 眼前の敵を睨む。この季節にアロハとはふざけているが、整った筋肉が相手の技量の高さを示していた。

 ――そして敵は、一人ではない。

 尾行していたのは二人だったし、今ここにある敵意はそれ以上の数だ。
 さっさと目の前の敵を倒して逃げなければならない。

 踏み込んだ。相手は一歩下がる。嫌な相手だ。それだけで意図が分かる。
 コイツは囮。待機した仲間がライフルか何かで隙を伺っているのだろう。

 繰り出した攻撃は全ていなされ、相手は踏み込んでこない。

式(カミジョーと部屋で魔眼のことを聞かれたんだったな)

 ――それならば、余計に攻撃はしてこない。
 左手でフェイントをかけ、右手のナイフで強引に相手の左腕の線を斬りにいく。

式(と、見せかけて)

 鳩尾に蹴りを入れる。深く、突き刺さった。

土御門「ガァッ!」

 一瞬の硬直、その隙に今度は本当に左腕を刈るためにナイフを奔らせる――

土御門「――今のは、危なかったぜい」

 土御門は薄い笑みを浮かべる。
 式のナイフは空振りし、肉薄していた土御門は何故か5メートル程離れた場所にいた。
 それを見て、笑う。式は笑う。

式「いいぜ、いいぜ!ここは学園都市、超能力者の巣窟だった!」

 結標淡希の『座標移動』が彼の体をテレポートさせたのだった。

 式は踏み込み、5メートルという距離を一瞬でゼロにする。
 しかしナイフはまた空を切る。後ろに気配を感じ、しゃがみ込むと、頭の上を蹴りが通過し、追撃を式は横っ飛びに回避をする。

土御門「甘いぜぃ!」

 回避した先にテレポートした土御門。顔面に目掛けて蹴りを放たれる。
 腕をクロスさせて防御した式が、派手に吹き飛ぶ。

 派手に飛んだのは、式が衝撃を殺すため、自ら後ろへ跳んだからだ。
 体勢を建て直し、土御門のいる方向を見る。

式「――『視えた』」

 敵がいる所から一筋の線。淡く、希薄な紅い線が、自身の右後方へと続いている。
 そして真っ赤な点で線は終わっている。

 そちらへ振り向く。テレポートしてきた土御門の顔が、驚きで歪む。
 咄嗟の防御体制を取るが、防御した腕二本が、飛んだ。

上条「やめろ式ィィイ!」

 蹴りを入れ、相手を突き飛ばす。
 式は近くの路地へと駆け込んだ。

 上条は土御門の側へ駆け寄る。

上条「土御門! 大丈夫か!」

土御門「はは、笑えるほどの化けモンだにゃー」

上条「笑ってる場合か!」

土御門「カミやん、右手で傷口、飛んだほうの腕の傷口も触ってくれ」

上条「そんなことより救急車を――」

土御門「早く! 今ならまだ間に合うかもしれん!」

上条「あ、……ああ! わかった」

上条「これでいいか?」

土御門「あぁ……腕の方向を合わせて傷口と傷口をあわせてくれ……」

 土御門の出血は無視できないレベルになっている。

土御門「えらく綺麗に斬れてるんだぜい? 斬ったんじゃなくて、割ったみたいに」

 既に救急車への連絡は美琴が済ましている。

禁書目録「『直死の魔眼』によって分割された肉片の傷口は『死』んでいる。
       でも『幻想殺し』ならその『死』を打ち消せる……」

土御門「そう……切り口が生きてさえいれば、綺麗な傷口だぜい?治りやすいのさ。
     多分、レベル0の『肉体再生』でも簡単に治るはずだにゃー」

 この通り、と土御門は指先を動かしてみせた。

上条「……はぁ、よかったー!」

土御門「さてと、ん?」

美琴「アロハのおっさん、アンタはこのまま私の呼んだ救急車で搬送されなさい」

土御門「そうはいかないぜい」

美琴「繋がったばっかの手足ひっさげてケンカにいくバカがどこにいんのよ」

上条「そうだった! 式!」

禁書目録「とうま! だめだよ!」

 上条は立ち上がり、式の消えた路地に駆け込み、インデックスも上条の後を追う。

美琴「ちょっと、待ちなさいよ! ってアンタは動いちゃダメ」

 起き上がろうとした土御門を押さえつける。

土御門「熱烈なボディタッチは大歓迎なんだにゃー。でも今はちょっと困るんだぜい!」

美琴「今だから押さえてんのよ! また両手飛ばされるわよ!」

 このままケンカに行った方が体力の消耗が少ないのではないか、と思われるほど激しく二人は組み合う。
 すると美坂の後ろから、声がした。

??「お姉さまは何でアロハのおじさんと戯れてるのか、ミサカはミサカは疑問に思ってみたり」

美琴「打ち止め? どうしてこんなところに」

 打ち止めは立派なアホ毛を揺らしながら答える、

打ち止め「あの子を追ってたらここに来た、ってミサカはミサカは答えてみたり」

美琴「あの子?」

打ち止め「むむっ、あっちか! ってミサカはミサカは勘で言ってみたり」

 ビビビ、とアホ毛が式の去った路地の方を指す。

打ち止め「じゃあね、お姉さま、とミサカはミサカは別れを告げてみる」

 そう言って、打ち止めは土御門と共に路地へ消えていった。

美琴「ん?」

 下を見る。土御門を抑えているはずの両手は、地面についていた。

美琴「やられたわ……」



一方通行「派手にヤっちまって」

 路地から出た先の大通り。
 脇には足の飛んだ海原、腕の飛んだ結標が倒れているのを、一方通行は一瞥した。

式「――その眼。お前なら、殺せそうな気がする」

一方通行「あぁン? 頭狂ってンすかァ?
      どう見てもお前が手足飛ばした連中は失血死するだろォよ。
      何を今更、殺せるだのほざいてンだァ?」

式「カミジョーがなんとかするだろ。あの右手で」

一方通行「他力本願かよ、救えねェ」

 時間が無い、と式は思う。
 外部なら警察がやってきてもいい時間だ。

式「――退け」

一方通行「退く馬鹿が、何処にいるってんだァ?」

 一方通行は隣にあった街灯を殴りつけた。それがもげて、飛んでくる。
 式の体に突き刺さるかのように、鋭利な先端が襲い掛かってくる。
 横へ跳んで回避すると、次々に無視できない質量の飛び道具が飛んでくる。

 いくら死が視えるとはいえ、攻撃手段は近接のみ。
 遠距離に釘付けにすれば、嬲り殺しに出来る。

一方通行「そンまま死んでくれ」

 容赦なく降り注ぐアスファルト。
 いくつかの鋭利な破片を手に取り、投げつけても、一方通行は避けることさえせずに、その攻撃を反射する。
 近づくことは出来ない。遠距離からのダメージも皆無。
 この距離ならば、いかな『直死の魔眼』であろうと、『一方通行』に負けは無い。

 ――その慢心が、致命的であった。

 一方通行の首にある大きな『穴』を、式は視た。
 視ると同時に理解する。あれが相手の能力の死であると。

 地を芋虫の如く転げまわって回避する式を、三日月の笑みが見つめる。
 もはや相手は自分に何も出来ないと、思い込んでいる。
 ――思い込んでいる。

式「――ならその幻想を、殺してみせる」

 いくらかのフェイクを混ぜ、首の『穴』目掛け、ナイフを投擲。
 ナイフは首の『穴』――首のチョーカーに突き刺さった。

 一方通行は平衡感覚を無くし、その場に崩れ落ちる。

 式は弱々しい足取りで、一方通行に背を向け走りだす。

上条「――待てよ」

 式は足を止めて、振り返る。
 大小様々な四人が、そこに立っていた。

式「――『学園都市』も、大したことが無かった。
 もっとギリギリで、もっと笑えると思ってた。駄目だ、全然笑えない」

 式の虚ろな、それでいて寒気のするほどの冷たい眼。
 上条は右の拳を握り締める。

上条「満足か?」

式「オレ自身は。でもまだ依頼が残ってる」

 淡々と答える式。式の視線、上条の背後で打ち止めは一方通行を抱いて、泣いている。

上条「テメェが勝手に傷つけて、テメェが勝手に満足してる、
 そんなテメェでいいのかって聞いてんだよ!」


146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 02:13:55.51 ID:u4WiccjE0
>>145 ミス。すんごい重要なミス。差し替えて脳内で消去よろ。


 一方通行は平衡感覚を無くし、その場に崩れ落ちる。

 式は弱々しい足取りで、一方通行に背を向け走りだす。

上条「――待てよ」

 式は足を止めて、振り返る。
 大小様々な四人が、そこに立っていた。

式「――『学園都市』も、大したことが無かった。もっとギリギリで、もっと笑えると思ってた。
   駄目だ、全然笑えない」

 式の虚ろな、それでいて寒気のするほどの冷たい眼。
 上条は右の拳を握り締める。

上条「満足か?」

式「オレ自身は」

 淡々と答える式。式の視線、上条の背後で打ち止めは一方通行を抱いて、泣いている。

上条「テメェが勝手に傷つけて、テメェが勝手に満足してる、
    そんなテメェでいいのかって聞いてんだよ!」

式「意味が、分からない」

 本当に式には彼が何を言っているのか、理解できなかった。

上条「学園都市へ来て、三日三晩命がけの追いかけっこして、
    本来の目的である暗殺はしたくない?でも人殺しが目的でここへ来た?
    嘘言ってんじゃねえよ!」

 彼が必死なのは見て取れる。不思議と心に響くのも感じる。

式「嘘じゃない。そのために、ここへ来た」

上条「じゃあ何でそんなに、――そんなに泣きそうな顔してんだよ!」

 ――ただ、イミガワカラナイ。

 投げたナイフを持っていた方の手で、顔を触ってみる。
 無表情。いつも通りの、無表情。

上条「分かんねえか? 今お前は何処を見てんだよ。俺じゃねえ。
    後ろで泣いてるアイツんとこ見てるだろ。――後悔してんじゃねえのか?こんな暴れまわって。
    傷つけて。もしかしたら死んじまうかもしれねえ。でもお前は一度も心臓を狙わなかった。
    何で殺そうとしなかった?殺したくねえからに決まってんだろ!
    命の大切さを知ってるんだろ!」

式「オレは――」

上条「いいぜ、お前が自分を偽るっていうんなら――」

上条「――その幻想を、ぶち壊す!」

 上条が走ってくる。
 硬く右手を握り締めて走ってくる。

 ――ちょっとは借りを返しても、いいかもしれない。

 そう式が思った次の瞬間、少し意識が飛んで式は地面に倒れていた。
 上条は上から見下ろしている。顔はよく見えない。

 式の横の路地から、ドン、と何か重いものを置かれた音がした。

橙子「なぁ少年、その辺で勘弁してやってくれないか」

式「トウ……コ?」

 地味なスーツにオレンジのタイがやけに目立つ。
 傍らには、大きすぎる、もはや立方体に近い鞄が置かれている。

橙子「仕事は終わりだ」

 いかにもつまらない、という風体で煙草を吸って、吐いた。

橙子「――アレイスター=クロウリーは殺してきた」



――インデックスが昼飯を食べ終えた後、四人は窓の無いビルの前にいた。

式「驚いた。本当に窓が無いんだな」

上条「一体何のためのビルなんだか」

美琴「ん? 何してるのよ」

式「これも依頼」

 式は、ビルの壁面にナイフを刺していた。

式「これは一つの目的の為に作られた、一種の完成品。もはや一つの概念と化している――」

禁書目録「殺せる、ってこと?」

式「ああ。これでもう、難攻不落の城壁は消え去ったってわけだ」

橙子「その後、私が外壁を破壊して中へ侵入。アレイスターを殺した。
    式の役割は外壁を壊すだけだったってわけだ」

 橙子は種明かしを進める。

橙子「一週間前、『私』宛てに依頼が届いた。依頼というのも変だな。あれは一種の賭けさ。
    アレイスターを殺せれば私の勝ち。殺せなければ依頼主の勝ち。
    私は魔術協会から訳あって追われていてね。ようやくヤツらを撒いて、住み着いた。
    私の賭けの代金はソレだ。賭けを拒否、もしくは負ければ協会に居場所がバレる。
    私は色々と今の事務所を気に入っていてね。賭けに乗るしかなかった。
    とりわけ、分の悪い賭けに。式には私から依頼をした。
    窓の無いビルの守りをぶち壊すことと、アレイスターの暗殺を。
    後者はおまけだし、そうさせないように式に情報を作為的に与えた。
    むしろ前者がおまけであるように。私が殺さないと、賭けの勝ちにはならない」

 橙子は窓の無いビルの壁を破壊し、中へ乗り込んだ。
 黒桐は別行動で、未だに正体不明の依頼主を探している。

??「ようこそ我が城へ、蒼崎橙子」

橙子「これは驚いたね。不思議な液体の中、逆さまになって生活していると聞いていたが」

アレイスター「普段はそうしているが、別に外に出れないわけではない」

橙子「稀代の天才魔術師が、今はこの体たらくか。魔力は何処へ置いてきたんだ?」

アレイスター「君はそう私を見るのだね。魔術師のクロウリーと私は別人だと、そうなっているのだが」

橙子「そうか。それはどうでもいいことだ。
    何故お前は、丸腰で魔力もなく『殺されるため』にそこに立っている?」

アレイスター「こういう見方は出来ないだろうか、『痛んだ赤色-スカー・レッド-』」

橙子「ほう?」

アレイスター「――私が依頼主であると」

橙子「なるほど。依頼主の掛け金には『金と私の命を差し出します』なんて、書いたあったからな。
    私が殺して賭けに勝った後では、もうお前に命は支払えない、というわけだ」

 だが、と橙子は続ける。

橙子「まだお前を殺していない私は、賭けに勝っていないのだが?」

アレイスター「私が負けたと認めれば、それでいいだろう」

橙子「小賢しい小細工を……。何が何でも死にたいらしいな」

アレイスター「『直死の魔眼』、素晴らしい力を持っていたな」

橙子「もういい、私にはお前を殺すという選択肢しかないのだから。
    ――私を『痛んだ赤色』と呼んだからには、殺さざるを得ない」

アレイスター「さて、私の負けだ蒼崎橙子。金は既に振り込んである。
        もう一つの取り分を受け取るが良い」

橙子「くだらん茶番だったな」

 そう言って煙草を投げ捨てる。立方体に近い鞄が開き――

橙子「今はこれで『我慢』しておこうか」

 新しい煙草に火を点ける。

橙子「本当にくだらない茶番だった――」

 鞄を持ち、ビルの外へ出る。

橙子「私が見破れないとでも思ったのか? 人形遣いのこの私に。
    いつか本当の取り分を貰いに行こうか、アレイスター=クロウリー」


 アレイスター=クロウリーは、暗い部屋の中呟いた。


アレイスター「あぁ、いつでも――」



おわり。



後日談。

 上条当麻は自分の部屋のバスルームの中で目を覚ました。
 あのいつもの病院のベッドではない。
 代わりに病院で寝ているのは、土御門とかの、手足を飛ばされた連中。
 お見舞いにでも行こうかと、アパートを出ると御坂美琴が不審者チックにウロウロしていた。

上条「ん、ビリビリ? 何してんだこんなとこで」

美琴「へっ? あ、……な、なんでもない!」

 何でもない割りに、いきなり顔が赤くなったり、急に髪型を気にしだしたりと忙しい。
 そういう病気がはやってるのかもしれない、と上条は解釈した。

上条「いまから土御門――アロハのおっさん? とこにお見舞いに行くけど」

美琴「あぁ、あの両腕飛ばされた……。
    アンタがトチって左右逆に手つけちゃったから大変だったんじゃないの?」

上条「アイツ、『親指が違うじゃねーか!』って素で叫んでたもんなぁ。
    今では反省してるけど、もう二度とあんなことする機会はないと思う」

美琴「そりゃあねー」



 両儀式はアパートの一室で目を覚ました。
 窓を開けると、爽やかで冷たい空気が入り込んでくる。

黒桐「式ー」

 ノックと黒桐の声。こんなタイミングよく目覚めるなんて珍しい。

式「何しに来たんだ?」

黒桐「様子を見に。顔は大丈夫?」

式「あぁ、ヒリヒリする」

 上条の右手の傷などはこういう風に出来たのだと、理解した。

式「あんなことを日常的にやっているなんて、アイツもツイてないな」

黒桐「ん? 何か言った?」

式「いいや、何にも」

 窓の外に視線をやる。その方向は丁度、学園都市のある方向だった。



土御門「おう、カミやん。って彼女連れかよ忌々しい」

上条「彼女って……」

 耳まで顔を赤くしている、そういう病気(と上条は思っている)の美琴を指差し、

上条「コイツが?」

美琴「……アンタ、ねぇ」

上条「なぜお怒りに!? 病院だし電撃はまずいって!」

 その様子を見て、土御門は快活に笑う。

上条「どうなんだ? 両手の調子は」

土御門「カミやんの右腕と同じだにゃー。完璧にくっついてる。さすがは『冥土返し』ってとこだぜい」

上条「あー……」

美琴「何? アンタ右腕がぶっ飛んだことあんの!?」

上条「ええ、まぁ嗜む程度には……」

 何故か後ろめたさを感じ、冗談で濁す。

美琴「……はぁ」

 言葉を飲み込むようにして、肩を落とし、ため息をついた。

土御門「……まぁ生きてただけマシだにゃー。腕も治った、ナースのお姉さんも見れた。
     万々歳だぜい」

上条「――結局アイツは一人も殺さなかった、ってか?」

土御門「まぁそういうこった」

上条「今頃、何してるんだろうなぁ」

美琴「さぁね、もう二度と会うこともないでしょうし」

 隣の病室、海原は壁に耳を押し付けていた。

海原(あぁ御坂さん……)

 ギャグとしか思えない体勢で、涙を流している。

打ち止め「なんで病院に変態さんがいるのか、ミサカはミサカは疑問に思ってみたりー」

一方通行「さァな、そういう病気なんじゃねェのか?」

 一方通行は新しい代理演算を指で触る。

一方通行「……チッ、情けねェ」

 一方通行は守ると決めた少女の前で敗北した。泣かせてしまった。
 しかし、

一方通行(刃先は明らかに俺の気道まで達してたハズなんだが……)

 首には傷一つついていない。

一方通行(どういうコトだァ? さっぱりわかンねェ)

打ち止め「変態さんが崩れ落ちた! とミサカはミサカは実況してみたり」

 打ち止めはピョンピョンと跳ねて嬉しそうにしている。海原のケツでも蹴りそうな勢いだ。

海原「チクショウ、上条当麻……」

 一方通行はため息をついた。

一方通行「どいつもこいつも、バカじゃねェのか……」



橙子「二人揃って出勤とは、仲がいいじゃないか」

黒桐「ええ、まあ」

 式は何も言わず、愛用ソファーへ歩いていく。

橙子「金はある、仕事はない。このまま怠惰な生活を続けたいものだよ」

黒桐「給料が出るなら構いませんよ。いくら貰ったんですか?」

橙子「それが、働く意欲を殺ぐような金額だ。いまいち実感が持てん」

黒桐「はぁ……」

 黒桐はゴソゴソと鞄から書類を取り出した。

式「それは何だ?」

黒桐「僕の仕事。依頼主が誰か、って話」

橙子「あぁ、それはもういいぞ。わかったことだから」

黒桐「どうしてわかったんですか? 必死で突き止めたのに」

橙子「突き止められるほうがすごいよ。本人に聞いた。依頼主はアレイスター本人だろう?」

 黒桐は視線を書類に落とし、黙って橙子に手渡した。

橙子「なんだ? ……はぁ?」

黒桐「依頼主は、ローラ=スチェアート。イギリス清教の最大主教です。
    その依頼をするように依頼をしたのが、アレイスター=クロウリー」

 橙子は呆れ返って少し笑った。

橙子「はは、あいつも面倒なことをする。どうしても私たちの襲撃を魔術サイドにしたいらしい。
    そして科学サイドのトップが暗殺された――」

黒桐「でも、『簡単』に突き止められるのに、そんな茶番に意味はあるんでしょうか?
    それに、イギリス清教と学園都市は協力関係に近かったのでは?」

橙子「それさえも犠牲にして、自分を殺したかったのか、それとも別の目的があったのか――。
    アレイスターは天才魔術師だ。もしかすると「 」に辿り着いているかもしれんし、
    そうだとしたらそんな人間の考えなど、一介の魔術師にはわからんよ」

式「でもいいのか? もう一つの賭け金は貰わなくて」

橙子「もしその話が本当なら、賭け事態が成立しないよ。
    アレイスターは私の居場所を魔術サイドにバラしているんだ。
    魔術協会に伝わる可能性は十分にある。
    ――それにもう、面倒だ。こんなにややこしい舞台の上で踊らされるのはもう御免被りたいね」

 ん? と橙子は疑問の声を上げた。

橙子「おいおい、黒桐。こんなものまで調べるとはな」

黒桐「はい?」

橙子「アレイスター=クロウリーの居場所」

黒桐「それは多分デマですよ。数十箇所の『本当の居場所』の情報がバラ撒かれています」

 笑い、紫煙を吐く。

橙子「なるほどね――それでもいつか、『ぶち殺し』にいかないと気が済まない」


結標「誰も来ない」

 少女は寂しい病室の中、虚ろな目で窓の外を見つめた。


禁書目録「とうまがいない、おなかへった」

 少女は寂しい部屋の中、虚ろな目で食料を求めた。



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164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 03:42:47.09 ID:u4WiccjE0
寝るまで文句等受け付けます。順番にどうぞ。


165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 03:45:47.34 ID:0rxhDvpQ0
この流れだと上条と式はバトらないとダメだと思うんだ
THE不完全燃焼


167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 03:51:28.93 ID:u4WiccjE0
見てくださった方、支援してくださった方、ありがとうございました。
書ききってから投稿するもんだと痛感しました。

禁書目録の場での扱いにくさが異常で、だから空気なんじゃないかとふと思いました。

>>165
バトったら上条死ぬ。
ナイフもって襲い掛かってくるのに説教と丸腰だけじゃ勝てないですよ。


170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 03:57:17.49 ID:gnLPHTR40
アレイスターがいるのは窓のないビルなどではなく・・・!って表現が原作であったんですが


172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 06:00:32.47 ID:/fHCiPXkO
このSSって時期的には空の境界の何章あたりなの?
式が人殺し云々言ってるから第七章と未来福音よりは前の話だよね?


177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 07:50:00.85 ID:iUnmEi6n0
面白かった


ただ19巻を読んでいる人間からしたら一方通行の『慢心』という敗北理由が納得いかないけど
しかし面白かったよ


182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 11:19:28.64 ID:BF++6eJrO
言いたいことは色々あるけど、それらも含めた上で中々面白かったよ
ただ19巻だけは読んでほしいわ
一方のキャラがズレる


185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 12:18:37.35 ID:u4WiccjE0
起きました。若干寝違えた間があります。首遺体。

思ったよりも楽しんでいただけたようで、幸いです。
飯でも食ったらブックオフで19巻あったら買ってこようかと思います。

さすがに一方通行さん2レスキルは自分でもどうかと思いました。


>>170
窓のないビルにいたのはアレイスターが作った「人形」です。
>>172
細かいことはあんまり決めてないですけど、矛盾螺旋~殺人考察下の間ですかね。
殺人衝動に捕らわれていて、アラヤとの戦闘も経験しているので。


188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 12:48:11.97 ID:UUVTmzZCO
思ったんだが、死んだという結果を、異能殺しで無効に出きるもんなのか?
魂的に斬られて死んだ以上、いくらカミヤンの右手でも再生は出来ない気が


189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 12:51:15.88 ID:u4WiccjE0
>>188
自分でも書いてて疑問でしたけど、後でくっつかないとわだかまりできるじゃん、と。
ご都合主義ってやつですかね。


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/21(土) 22:21:56.11 ID:8VKmHP1+0

【両儀式】・・・超能力者(学園都市基準だとレベル4~5?)
物の死を「視る」事が出来る《直視の魔眼》を持つ。
生物的、無機物的、概念的問わず全ての有象無象を殺すことが出来る。
上条当麻との勝負においては殺すのが先か、能力が殺されるのが先か、ここに全てがかかっているだろう。
身体能力的には式が有利に思えるが、型破りな彼を前にどう対応するのか。


【上条当麻】・・・無能力者(レベル0)
超能力、魔術的要素全てをかき消す右手《幻想殺し(イマジンブレイカー)》を持つ。
式の持つ魔眼の能力を消せるかどうかは不明。
しかし作中で、「手首の上から、線が無かった」という発言があったことから、右手自体は線になぞって切ることが出来なさそうだ(まあナイフなら余裕で切れるだろう)。
月姫作中で「能力自体は脳に宿るもの」とされている上、物理的な干渉ではないため今回の能力は打ち消すのが面倒そうだ。
頑張れカミヤン。説教で乗り切るんだ!




おい勝負するかもわかんねーのに気持ち悪い長文書いちゃったじゃねーか!


193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 13:24:54.99 ID:8sagcuduO
全盛期の直死伝説

・十七本の線を切ったら十七分割された。
・混沌だろうと、存在世界そのものを殺してしまうから無効。
・空間の歪みすら殺す。
・点をついたら渡り廊下が一瞬で瓦礫に。
・盲腸もとい虫垂炎も殺せる。
・体内にある毒も殺して無効化。
・確かな形を持ったら未来すら殺してしまう。
・仏舎利も頑張れば殺せる。
・死体も殺せる。
・不死身な先輩も普通に死ぬ。
・使いすぎると志貴が死ぬ。式は死なない。
・存在するのなら神様だって殺してみせる。


194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/22(日) 13:33:55.09 ID:fOF3nVpg0
http://www38.atwiki.jp/saikyouhero/pages/294.html


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コメント

  1. 名無し―ネームレス― | URL | -

    Re: 両儀式「ここが学園都市か……」

    結構クロスさせやすそうなのにめったに見ない型月作品と禁書目録のクロス、とても楽しく見させてもらいました。

  2. 名無し―ネームレス― | URL | -

    Re: 両儀式「ここが学園都市か……」

    十七本の線を切ったら十八本にわかれるんじゃ?

  3. 名無し―ネームレス― | URL | -

    Re: 両儀式「ここが学園都市か……」

    上条さんが触ったら土御門の肉体再生能力も無効化されてまうやん

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