キョン「学園都市?」 その1

2009年12月17日 06:06

キョン「学園都市?」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/05(土) 15:16:04.06 ID:sJ1MFCd90
立ったら多分書く


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/05(土) 15:17:32.76 ID:sJ1MFCd90
 けたたましい携帯の騒ぎ声で俺は深夜も遅くにたたき起こされた。
 着信は、古泉一樹。どうも嫌な予感しかしない。

古泉『やっと出てくれましたか!』

キョン「なんなんだやかましい」

古泉『詳しい話は後です、急いでk』

 つーつー……

 切れやがった。緊急事態なのか……?
 と少し不安になるのもつかの間。ただ、俺の携帯が圏外になっただけだった。

キョン「なんだお騒がせな……」

 俺は安堵し、起き上がって電波のいいところを探そうとするが、ふと気がついた。
 俺の部屋で圏外になることなんてあり得ない。今時、そんなことが起こるのはどこかの山奥くらいだが、生憎俺の家は見事に街中に存在する。

 気付いてみれば、外が異様に暗い。
 今は深夜三時なのだから、暗いのは当然だが、それにしても暗すぎる。
 まるで月や星の光が何かに遮られているような。

 古泉の緊急電話。携帯の圏外。そしてこの異様に暗い外。

キョン「まさか……!」

 そこで、俺の意識までもが暗く染まった。



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 朝。俺は朝日に包まれて気持ちよく目が覚めた。
 まるで長く眠っていたようだ。

キョン「どうやら夢だったみたいだな……」

 けだるい体を起こし、携帯の時計を見る。
 朝8時40分。いつもの時間……じゃない。

キョン「どうして誰も起こしてくれ……」

 急いで起き上がると俺は異常に気がついた。

キョン「部屋が……違う……?」

 部屋に、キッチンがあった。玄関がすぐに見えた。そして、部屋、と言うには少し大きすぎる部屋。
 まるで一人暮らしのアパートのような――

キョン「一体どうなってやがる……ん?」

 ばきっという不吉な音が足音で鳴いた。
 恐る恐る足をどけてみると深夜の目覚ましになりやがった携帯が真っ二つに折れていた。

キョン「こんな時に……」

 最悪だ。
 これで古泉に状況を問い質すことも、長門を頼ることも、朝比奈さんにメールを送ることもできなくなってしまった。

 ということで。俺は携帯を直すために携帯ショップへとまず行くことになったのだが。

キョン「ここは未来都市か何かか?」

 見渡すと道路を勝手に清掃してくれるロボットに、大量に立ち並ぶ明らかに作るのが難しいだろう風力発電施設である風車、そしていかにも未来ですと言うような携帯をいじりながら歩く若い通行人。

 明らかに異常だった。

 そして極めつけはこれだ。

美琴「だーかーらー、無視すんなって言ってんでしょうがー!」

上条「うおおっ!? お願いしますから今日はビリビリしないで見逃してください美琴せんせー!
   単位が、単位がヤバイんです!」

美琴「だからって全速力でスルーするこたぁないでしょ! つーか日曜に単位も糞もあるか!」

上条「不良生徒のレッテルを貼られ気味の上条さんは補習があるんだって!」

美琴「自業自得! 普段から学校行けばいいじゃない!」

上条「それができたら苦労しな――ってだからビリビリすんなってああもう不幸だあああああ」

 見た目中学生くらいの女の子がどんなトリックか知らないが空中で誘電するほどの高圧電流を発射して、しかもそれを俺と同じくらいの男子高校生が受け止めているときた。

 わけわからん。ハルヒに見せてやったら喜びそうなパフォーマンスだ。

青ピ「また中学生といちゃいちゃしてるかみやんは置いといてワイらは行こかー」

 ああそうだな。

土御門「しっかし、少しは人目を憚ってほしいもんだにゃー。
    街中であんなことされたら二重の意味でたまらんぜよ」

 まったくだ。

青ピ「ほな、あんなフラグマンなんか放っておいて、ワイら三人で小萌先生の魅惑の個別レッスンを楽しもうや」

 ああ、行ってらっしゃい。

土御門「何してるんだキョン? さっさと行かないとまた先生に泣かれちまうぜよ」

 ……はい?

キョン「ちょっと待て、なんでお前ら俺のあだ名を知っている」

土御門「それこそ何言ってるんだにゃー。自分で自己紹介の時に思いっきり言ってたじゃないか」

 それ以前に誰だこいつら。

青ピ「ささ、旗男なんか放っておいて学校に行かな補習に遅刻するで」

 ……よくわからんがこいつらは俺のことを知っているらしい。少なくとも目前の指標はできたようだ。
 そしていくつかわかったことがある。
 俺は高校に通っているらしい。この二人は俺の同級生か何からしい。
 あの大道芸をやってる二人はとりあえずは知り合いらしい。


 そして。
 またハルヒの仕業か。


古泉「やあ、遅かったですね」

キョン「学校に行くと気分の重くなるような笑顔が出迎えた。
    にも関わらず、今の俺にはこんなホモ臭くても胡散臭いやつでも救世主に近い」

古泉「いきなりご挨拶ですね……」

キョン「長門や朝比奈さんが出迎えてくれたらこんな微妙な気持ちにはならずに済んだんだがな」

古泉「それについてですが……この後、ちょっと相談がありますのでトイレにでも来てもらえませんかね?」

キョン「俺も相談はある、しかし場所はトイレより屋上にでもしようじゃないか」

古泉「それは残念です」

キョン「やめろ、寒気がする」

青ピ「なんの話しとるん?」

古泉「彼が寒気がするそうですよ。なので早退の相談を」

青ピ「そんなバレバレの仮病で休んだら小萌先生が泣くで?」

 そんなことで泣く先生ってどんな先生だ。
 天才ちびっ子金髪ロリ先生とでも言うのか。

 とそんな妄想に耽っていると教室のドアが開いた。

小萌「はいはーい、騒いでないで悪い子ちゃんたちの補習始めますよー」

キョン「本当に天才ちびっ子ロリ先生!?」

 現れたのはうちの妹くらいであろう小さな女の子。
 惜しむべきは金髪ではなかったことくらいでほとんどまるでベッ○ーだ。

小萌「何をふざけたこと言ってるんですかキョンちゃんー? すけすけ見る見るでもやらされたいですかー?」

 おお、むっとした顔がキューティクル。イカンイカン、新たな属性に目覚めてしまいそうだ。

古泉「ユーモア欠乏症な彼なりの精一杯のギャグです。見逃してあげてください」

小萌「むー、あんまりふざけてると単位あげないですよー?」

 なんだか物凄く失礼なことを言いやがったやつがいるが、その後は何事もなく授業になったからよしとしよう。

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 補習とやらはまったく意味不明だった。
 猫がどうしたのだとか、物理がどうしたとか、明らかに高校生のやる内容ではない。
 ついに今日の補習には来なかったらしい上条というやつにキツイ課題が用意されたことくらいしかわからなかった。

 そして屋上。俺は一緒に二人きりになりたくないやつNo.1の野郎と不本意ながら二人きりになっている。

古泉「まず、状況を整理しましょうか」

キョン「いつになく神妙な顔だな」

古泉「それはそうでしょう。この事態、非常事態なことくらい貴方でもわかりますよね?
   今朝、貴方に電話が繋がらなかったりした時には本当に焦りましたよ」

キョン「ああ、色々あってな」

 ドジで携帯を壊したなどとは言わないぞ、俺は。

古泉「とりあえず、機関は一応ながら存在するようです。連絡が取れることは取れました、が様子が違う。
   まず、彼等はこの異変に気付いていないようです」

キョン「気付いていない? ということは変化したのは俺たちの周りだけか」

古泉「いいえ、違いますよ」

 ズイっと乗り出して来やがる古泉。

キョン「顔を近づけるな」

古泉「この世界そのものが改変されてしまったようなのです」

キョン「どういうことだ? あと顔を離せ」

古泉「僕たちはこの世界が異常だとは気がついていますが、外の、いえ、
   僕たち以外の人間は世界がこのままで最初から存在していたと思っているのです」

キョン「おいおい、待て待て。つまりそれって……」

古泉「ええそうですよ」

古泉「世界のすべてが改変されてしまいました」


 なんてこった。


キョン「そういえば朝比奈さんや長門、あとどうせ原因のハルヒはどうした?」

古泉「機関の情報によると朝比奈さんはどうやら僕たちと同じ学校の生徒になったようです」

キョン「他の二人は?」

古泉「長門さんは少し厄介です。どうやら霧ヶ丘女学院というところの生徒ということになっているらしく、
   今朝に一度コンタクトを取ったきりで一切連絡がつきません」

 わお、女の子の秘密の園か。

古泉「そして一番厄介なのが涼宮さんです。機関の力を以てしても、所在も行動も、一切が判明しません」

キョン「そこがわかってくれれば簡単だったんだろうがな……」

古泉「ともかく、欲しいのは情報です。
   機関の力でも何故かこの街については上手く情報を集めることができないそうで、状況は最悪に近いです」

キョン「そういえばこの街はなんなんだ?
    今朝も大道芸のような人間やら、わけわからん機械やらがありまくってたんだが、まさか未来都市とか?」

古泉「おや、先程の補習を聞いてわからなかったのですか」

キョン「悪いな、生憎俺は文系なんだよ」

古泉「ここは学園都市」

キョン「学園都市?」

古泉「超能力を科学で開発しているなんてとんでもないところのようですよ」


 その後、俺は古泉と別れて帰ることにした。
 学園都市? 超能力を科学で? なんとも胡散臭い街だ。
 しかしどうやら俺はその超能力を見てしまっているらしい。
 信じるしかないな、どうせハルヒの起こしたことだし。


「ハアハア……」

 息切れしながら路地裏を走り回る、いや逃げ回る。いい加減疲れてきたのか、手に持った銃器が重い。

 ここは学園都市。日の当たらない裏の道では非合法なことなど当たり前に行われている。

 しかしそれは表の世界に出してはいけない。当然、これも。

「みーつけた」

「!?」

 いつの間にか周り込まれていたらしい。

「まったく、あんまり手間かけさせないでよね。最初は楽しかったんだけど段々飽きてきちゃったわ」

「あああああああああ」

 ゴーグル越しに標的を定めてトリガーを引く。フルオートに設定された銃器は大量の弾丸を吐き出す。

 本来は人に放つような代物ではない。
 威力、連射性能、どれも学園都市の技術が使われたそれは、人に放つには強すぎるのだ。

「危ないでしょー、ホント。制服が汚れたらどうすんのよ」

 しかし、それは無傷。何事もなかったかのように歩み寄ってくる。

「さーて、追いかけっこは終わり。実験とやらに協力してもらうわよ」

 詰め寄る恐怖にも関わらず、もう足は動かない。数時間走り続けた足はもう限界で、悲鳴を上げていた。
 圧倒的な力を前に逃げることすらままならない。
 どうせ、この逃げ回ることができたのもただ遊ばれていただけだったのだろう。

 いつかの恐怖が蘇る。必死の抵抗も意味を成さずに、ただ命を蹂躙される恐怖が。

「何やってンだ?」

 その恐怖の記憶が、背後から聞こえた。

「邪魔しないでくれる? この子たちはなんとかっていう実験とかいうのに必要だから捕まえてって言われたのよ」

「コイツらを使って実験だ? 馬鹿共が……潰されても懲りねェようだなァ」

 その気配にはっと息を飲む。まずい、彼は戦う気だ。

「に、逃げてくださいとミサカは警告します!」

「誰に向かって……言ってンだよ!」

 軽く地面を蹴る彼。それだけでコンクリートの塊が物凄い勢いで追跡者に飛んでいく。

「止まれ」

 しかし、それは追跡者の顔面に当たる直前に急激に勢いを無くし、垂直に地面へと音をたてて落ちていった。

「あァ?」

「吹き飛べ」

 そして追跡者が二言目を呟くと、彼はその通りに吹き飛んでいく。
 あらゆるベクトルを操作し、能力を展開すれば常に反射している彼の身体が。

 大きな音を起てて、コンクリートの壁に激突する彼。しかし、彼は当然ながら無傷で立ち上がる。

「なンだァ、その能力は?」

「彼女の能力にベクトルはありませんとミサカは説明します!
 早急な戦線離脱が最も現状に適した選択であるとミサカは提案しま」

「うるさいわねえ、少し黙ってて」

 必死の叫びも、彼女の一言で発することすらできなくなる。
 パクパクと口を開閉させるだけで、どんなに頑張っても声が出ない。

 その様子を彼は一瞥すると、チッと舌打ちし、逃避劇でボロボロの身体を音速を超えるスピードで抱えた。

「あっ、ちょっと待ちなさ――」

 そして、そのまま音速を超えるスピードで彼は彼女が何かを言い切る前に戦線離脱した。



長門「おかえり」

 なんやかんやあって家に着いた俺を迎えてくれたのはなんと長門だった。
 ご飯にする? お風呂にする? それとも、

キョン「長門、お前だ」

長門「……貴方の思考回路が理解不能」

 無機質な目に微妙に軽蔑の色が混じってやがる。心読まれたか。

長門「不本意」

 なんだその便利そうだけど持ったら狂ってしまいそうな読心能力は。

キョン「ところでどうしたんだ、お前は霧なんとか女学院ってところにいるんじゃなかったのか?」

長門「正式名称は霧ヶ丘女学院。現代レベルよりセキュリティは高いけれど、情報操作をすれば抜け出すのは簡単」

 超能力を開発しちゃうような科学都市でも長門にかかればイチコロか。

キョン「まあいい、まずはこの状況について長門の現状と意見を聞きたい」

長門「現状としては大規模な世界改変が行われた模様。他インターフェースとは連絡が途絶。
   別時間平面上の他インターフェースと連絡を取ろうとしても不可能。
   どちらかというと世界改変というより別の世界にいると考えた方が正しい」

キョン「別の世界? 異世界とでも呼ぶのか?」

長門「可能性上の分岐点から存在し得る世界の一つにすぎないけれど、
   貴方の言葉で説明するなら平行世界という言葉の方が近い。情報統合思念体を介しての情報収集の結果、
   世界間に正体不明の大きな隔たりがあることが観測されている
   私たちは涼宮ハルヒの能力でその隔たりすらも飛び越えてこちらの世界に飛ばされた」

キョン「やはりハルヒか……」

長門「その後、こちらの世界で矛盾が出ないように涼宮ハルヒの能力がさらに行使されたのも観測した。
   以上の情報から涼宮ハルヒもこちら側に来ている模様」

キョン「模様、ってハルヒの居場所はわからないのか?」

長門「一切不明。
   他のインターフェースがこちら側の世界に存在しない以上、私の情報収集能力は大幅に制限される」

キョン「制限されるってどのくらいならわかるんだ?」

長門「見て、聞いて、感じる程度」

キョン「つまり、古泉と変わらないわけか」

 しかし困った。頼りの長門がこうも打つ手なしとは……
 もう頼れる人はいないし、しばらくは情報収集に徹するしかないようだ。



「あー! また女の人に手を出したんだね!」

「ちょっと待てインデックス!
 これはそこで偶然風系と雷系の騒動がありましてだな、まてまてまて噛みつくなどうどう」

「問答無用!」

「ぎゃー!」

キョン「なんだ、騒がしい隣人だな」

 いきなりどったんばったんの騒動が始まったみたいだ。ちょっと文句言ってこよう。

長門「待って」

「この味はなんか他にも別の女の人と会ってる味かも!」

キョン「なんだ? さすがにこの騒ぎは文句言うべきだろ」

「どんな味だ! ってかマジで指はやめて痛い痛い痛い!」

長門「私たちは本来はこの世界にない存在。不用意に他の住人と接触を図るのは得策ではない」

「大きい人も小さい人も見境無しなとーまが悪いかも!」

キョン「しかしだな……」

「ふぇー、大きいって――」

長門「騒音ならこれでいい」

 長門がそう言うと急に隣の騒音は嘘みたいに静まった。

キョン「……待て長門。まさか接触せずに隣人を昏倒なんてしてないよな?」

長門「それは必要ない。ただ壁の間などを音を通さない素材に変換しただけ」

 それなら安心だが……

キョン「ところで、お前はこの後どうするんだ?」

長門「霧ヶ丘女学院に通学することにする。そこは特殊な能力に重点をおく学校の模様。
   涼宮ハルヒの能力がもし露見した場合、極めて特殊で有用性のある能力を霧ヶ丘女学院が見逃すはずがない」

キョン「なるほど、便利なところに配置されたもんだ」

長門「貴方は?」

キョン「俺は……そうだな、とりあえずは壊れた携帯を直すのと、朝比奈さんを探してみるってところかな」



 清々しい朝、上条当麻は重々しい気持ちで外に出ていた。

上条「日曜日まで補習とか……不幸だ……」

 何を隠そう、上条当麻は登校日数の少ない不良生徒として有名なのである。
 しかもケガで入院したりする事情があるので、なおさらそういうイメージがつくのである。

「ねえアンタ」

上条「何が悲しくて日曜日まで学校行って勉強しなきゃならないんだかなあ……」

「ね、ねえ……」

上条「不幸だ……インデックスには朝から齧られるし……」

「……だーかーらー」

上条「ん?」

美琴「無視すんなって言ってんでしょうがー!」

上条「うおおっ!?」

 突然、飛来してきた不幸の象徴である高圧電流を右手で受け止める上条。
 見るとそこにはいつも通りにビリビリした中学生が立っているではないか。

 不幸な結果が上条の脳裏に過ぎった。

上条「お願いしますから今日はビリビリしないで見逃してください美琴せんせー!単位が、単位がヤバイんです!」

 右手を差し出したまま、へっぴり腰で女子中学生にお願いする男子高校生。

美琴「だからって全速力でスルーするこたぁないでしょ! つーか日曜に単位も糞もあるか!」

 さらに電撃は飛来する。避雷針の要領で右手に集まった電子の流れは風船が割れるように弾けて消えていった。

上条「不良生徒のレッテルを貼られ気味の上条さんは補習があるんだって!」

美琴「自業自得! 普段から学校行けばいいじゃない!」

上条「それができたら苦労しな――ってだからビリビリすんなってああもう不幸だあああああ」

 かくして、上条当麻のいつも通りに不幸な一日は始まった。

 上条当麻はとにかく走る。
 時間は九時半を回った辺り、遅刻でも補習に行ければなんとかなる可能性が高い。

 どこかのビリビリ中学生には後で埋め合わせする、どこにでも付き合うと言ったらふにゃーとなって逃げ切ることができたのだが、それでもタイムロスは痛かった。

「ふぇー、な、なんですかー」

「ぐへへ、君かわいいね、俺たちと遊ばない?」

「俺たちさあ、ここらではちょっと有名でさあ、素直にしてれば痛くしないからさあ」

 と、そこで女の子のピンチに敏感な上条さんイヤーに気になるものが飛び込んできた。

 急ぐ足を止めて、声の方であるちょっとした路地を見る。
 なんとそこには何とも可憐なロリ顔の巨乳女子高生が明らかに人相の悪い二人組に絡まれているではないか。

上条「おい、何してんだ」

 上条当麻の行動は当然ながら決まっている。
 女の子と男たちの間に割って入って行った。

A「ああ? なんだてめえは」

B「俺たちはさあ、これからこの子と遊ぶんだから邪魔しないでほしいだけどさあ」

上条「遊ぶだぁ? 明らかにこの子は怯えてるじゃねえか! 見ろ、こんなにがたがた震えてキョロキョロしてる!
   俺はただの通りすがりだよ、だけどな、そんなの関係ねえ!
   お前らは男二人してこんな女の子に何するつもりだ!
   お前らが誰だか知らねえが、真っ当な男のすることじゃないだろ!」

A「……なんだこいつ」

B「……やっちまえば早いさあ」

 そういうと、二人は一歩下がる。

「ふぇ? ふぇ?」

 ロリ顔巨乳は未だに戸惑っているようだ。

上条「大丈夫だ、俺が守ってやる」

 そんな女の子の手を握って自分の体を盾のようにして建つ上条。

A「誰だか知らねえが、俺は『遠隔感電』(リモートスタンガン)、こいつは『空刃裁断』(エアロナイフ)。
  二人あわせて『風神雷神』ってこの辺りじゃ呼ばれてるんだぜぇ?」

B「痛い目見ない内に謝った方がいいと思うんだけどさあ」

上条「だが断る!」

遠隔感電「いいぜ、やっちまうか!」

 『遠隔感電』と名乗った男は両手を上条に向ける。
 するとそこから電流が発生し、上条の元へ飛来。

空刃裁断「そうするさあ!」

 さらに『空刃裁断』と名乗った男は両手を素早く何度も振る。
 すると突風が生まれ、コンクリートの壁が鋭い何かで切り裂かれたように傷が掘られていった。

 粉塵が舞い、上条の姿が完全に覆い隠される。

遠隔感電「俺の電撃で痺れて動けなくなったところを、
     こいつの作ったカマイタチの要領の空気の刃が相手の体を切り刻む……
     俺たちのコンビ攻撃を受けて立ってたやつは未だいねえ」

空刃裁断「ってかやりすぎちゃったんだけどさあ。女の子大丈夫かな?」

遠隔感電「いつも通り、俺の能力で動けなくした後、お前の能力で服を切り刻むんだから同じだろ」

空刃裁断「そうだね、あはははははは」

遠隔感電「おっ、だんだんと煙が晴れてきたか」

空刃裁断「どれどれ、俺の成果はどうなったか気になるさ――ぎゃふっ!?」

 徐々に晴れていく土煙の中をのぞき込むように『空刃裁断』が身を乗り出す。

 そこに上条パンチが飛び出してきた。

上条「それで終わりか?」

 上条パンチに吹き飛ぶ『空刃裁断』。

上条「電撃使いのレベル2に空力使いのレベル3ってところか?」

 土煙が晴れる。その中に立っていたのは無傷の上条当麻。

遠隔感電「な、なんでテメエ傷一つ……!? く、くそぉ!」

 予想外の展開に焦った『遠隔感電』は電撃を繰り出す。

上条「生憎だけどな、」

 それを上条は何気なしに差し出した右手でいとも簡単に無効化する。

上条「もっと強い電撃と風を知ってるんでな!」

 そして大きく一歩を踏み出し、

上条「テメエが女の子をひどい目に合わせるっていうなら」

遠隔感電「お、お前はもしかして都市伝説の――」

上条「まずはその幻想をぶち殺す!」

 相手の顎に思いっきり拳を打ち付けた。

 『遠隔感電』と名乗った男は錐揉み状に吹き飛び、コンクリートの壁に思いきり頭を打ち付けると意識を失った。

上条「さてと、大丈夫ですか?」

 それを確認した上条はずっと自分の後ろに隠れてた女の子に優しく話しかけた。



みくる「えっと、私は朝比奈みくるです」

 場面変わってピエロが目印のファーストフード店。そこで上条は助けた女の子と一緒にポテトを食べていた。

上条「朝比奈さん、か。えっと、その制服はうちの学校ですよね?」

 相手の制服を見て、上条はそう判断する。

みくる「え、そうなんですか? それが私にもよくわらなくて……」

 困ったように俯くみくる。

上条「……また訳あり女の子ですか。今日の補習は諦めよう」

 小声で落ち込んだように呟く上条。

みくる「えっ、なんですか?」

上条「いやいやこっちの話」

 不安そうになったみくるに気づいた上条は慌てて何でもない風を装う。

上条「それで、何があったのか教えてくれませんか?」

みくる「それがですね、やっぱり私にもよくわからないんです……」

上条「よくわからない?」

みくる「朝起きたら住んでる家も場所も変わってて、
    あったのは知らない制服くらいで未来への禁則事項も禁則事項も禁則事項だし、
    しかも禁則事項は禁則事項でああもう、どうすればいいのか……ここはどこなんですか?
    私はなんでこんなところに連れてこられたんですか?」

上条「ちょ、ちょっと待って落ち着いて!」

 上条は泣きそうになりながら語りだしたみくるを必死に宥める。

上条「連れてこられた、って自分の意思でここに来た、わけじゃないんですか?」

みくる「そうです、そもそもここがどこだかわからないですよぉ……」

上条「ここは学園都市」

みくる「学園都市?」

上条「科学の最先端で超能力を解明する街です。知りません?」

みくる「初耳です……科学で超能力ですか?」

 うーんと悩むような様子のみくる。

みくる「科学で超能力というと、禁則事項が禁則事項で、ああ、これも禁則事項ですぅ……」

上条「いやいや、訳がわからないんですが」

みくる「ごめんなさい、禁則事項なんです……」

 みくるは困ったようにさらに俯く。

上条(学園都市の人間でない、ということは外の人か。
   禁則事項、っていうとどこかの組織に属してる? 魔術サイドの人かな)

上条「えっと、言いにくいことでしょうが、どこかの組織に属してたりします?」

みくる「な、なぜそのことを!?」

 びっくりしたようにがたんと机を揺らすみくる。

上条「ああ、やっぱりそっち側の人でしたか。いや、俺もちょっとそっち側の人とは交流がありましてね」

 話が見えてきたぞ、と安心してきた様子で上条はうんうんと頷いた。

みくる「え、上条さんもコッチ側だったんですか!?」

 さらに驚いた風のみくる。
 まあ、学園都市に魔術サイドのことを知ってる人間なんてほとんどいないから当然だろう、と納得する上条。

上条「いや、完全にそっち側ってわけじゃないんですが、ちょっといろいろありまして」

みくる「よかったぁ、涼宮さんを見失ったときはどうしようかと思ったんですよね」

 みくるも安心してきたようで、落ち着いた風にため息を漏らす。

みくる「上条さんがどこかの機関の方と知り合いならよかったです。
    古泉一樹、という方に連絡を取れるようになんとかしてもらえませんか?」

上条「古泉一樹、ですか。いや名前だけじゃどうも……」

みくる「能力者ですから、きっとわかりますよ」

上条「……能力者?」

みくる「はい♪ あと、伝言ですね、未来からによるとこちらの時間の六時間程前、
    新たな情報フレアが発生するという連絡を受けたのですが、それ以降、未来との禁則事項が禁則事項で……
    ってこれはダメですね……未来との連絡が取れなくなってしまって、恐らく、
    涼宮さんに大きな変化があったのだと思われます。至急、連絡をください、と」

上条「未来? 情報フレア?」

みくる「……涼宮さんに関する組織の方ですよね?」

上条「……その涼宮さんって誰ですか、ってか魔術サイドの人ですよね?」

みくる「……」
上条「……」

上条「えっと、もう一度、情報を整理してみましょう」



上条「つまりだ、まとめると、朝比奈さんは未来人で、その古泉ってのは超能力者で、長門っていう宇宙人もいて、
   涼宮ハルヒってのが神様に近い存在で、みんなで見守って動向に注意しましょう。
   だけど朝気がついたら知らない場所に飛ばされていて、その未来との連絡も取れなくなってしまった。
   未来からの情報によると涼宮ハルヒがなんかするから気をつけてねって言ってたけどダメだった、
   ってことですか」

みくる「だいたいそんな感じです」

上条「……信じられるかー!」

みくる「えええぇぇぇ!?」

上条「そりゃあ、上条さんは学園都市の暗部に触れて色んな実験潰したり、天使に直接会ったり、
   魔術サイドに出張したり、ローマ正教のお偉いさんと戦ったり、
   イギリスを救った英雄になったりしましたがねえ……無理があり過ぎだよ!
   百歩譲って古泉って人は問題ないです、ここは超能力の街ですから。でもなんですか、未来人、宇宙人って!
   タイムトラベルは物理学上不可能と証明されちゃってますよ!?」

みくる「現代科学ではそうかもしれませんが、そんなに難しいことではないんです。
    時間というのは実は平面上のことで……」

上条「もういいです、頭痛くなってきました。ただし、その宇宙人ってなんですか、そんな非科学的な!」

みくる「正確には対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースです」

上条「ながああああああああああああああああああい! 上条さんの傷ついた脳味噌じゃ覚えられません!」

みくる「ふぇ~、本当なんですよぉ……」

上条「いや、その、すみません、信じますから、泣かないで、注目されちゃうから泣かないで!」

みくる「注目されてる原因は上条さんですよぉ……」

上条「ああもう、わかりました、俺の家に色々非科学的なことには詳しい人いますから、
   とりあえずそこに行きましょう」

 そんなわけで、上条宅にやってきた上条とみくる。

上条「ただいまー」

禁書「やっと帰ってきたかも! おみやげはー?」

上条「補習帰りにそんなもんあるか!」

禁書「えー……」

みくる「お邪魔しまーす」

 上条の後ろに隠れたみくるが恐る恐る挨拶する。

上条「……あれ、インデックスさん、どうしたんですか?」

 それを確認したインデックスがプルプルと何故か震えてることに上条は恐怖を覚えた。

禁書「……あー! また女の人に手を出したんだね!」

 がばっと口を開くインデックス。

上条「ちょっと待てインデックス!
   これはそこで偶然風系と雷系の騒動がありましてだな、まてまてまて噛みつくなどうどう」

 そんな猛獣に上条は宥めようと手を伸ばす。

禁書「問答無用!」

上条「ぎゃー!」

 しかし猛獣使いの手に猛獣のペットは噛み付いた。

禁書「この味はなんか他にも別の女の人と会ってる味かも!」

上条「どんな味だ! ってかマジで指はやめて痛い痛い痛い!」

禁書「大きい人も小さい人も見境無しなとーまが悪いかも!」

みくる「ふぇー、大きいってなんですかぁ!?」

禁書「その無駄な脂肪にも噛み付いてやるかも!」

上条「待て、それなら俺を齧れ!」

禁書「身を挺して庇うなんて……やっぱりとーま!」

上条「なんでそうなるんだよ不幸だああああああああああああああ」



「で、なンなンだ、アイツはよォ」

「数時間前、とある研究所にいきなりレベルを測れという少女が現れましたとミサカはちょっと長いプロローグを開始します。
 能力は『幻想創造』(アクシスワールド)、そしてレベル判定は――8人目の『超能力者』でした」

「ンな!?」

「詳しい能力は不明ですが、なんでも、自分の思い通りに世界を改変できる能力であるそうです、とミサカは心優しく説明します」

「……待て待て、そンなふざけた能力聞いたことねェぞ」

「本当にふざけた能力です、とミサカは同意します」

「しかし、それとお前が襲われてることに何の繋がりがあるンだ?」

「本題はこれからです、とミサカは我慢のできない白髪を丁寧に諭してあげます」

「……オイ」

「能力を測った結果、彼女は学園都市暫定一位とされました。暫定というのは貴方と詳しく比較してみないとわからないのでしょう、とミサカはかわいそうな白髪にきちんとフォローを入れます」

「……コラ」

「そして、何よりの問題は、彼女が『樹形図の設計者』を使うまでもなく、『絶対能力者』(レベル6)に到達可能、ということが明らかにされてしまったことですとミサカは驚愕の事実を明かします」

「なンだと!?」

「そして、彼女の能力を使った新絶対能力進化計画が始動しました。僅か、数時間の協議のみで。
 しかし現在の彼女の演算能力ではレベル6に進化するという程の改変能力はないらしく、そこで私たち妹達を使った代理演算で彼女の演算能力を底上げし、
 一時的にレベル6に達した後、その能力を使って自分をレベル6状態に恒久的に保つ、という実験を行うそうですとミサカは説明します」

「それなら協力してやればいいじゃねェか」

「問題はそこじゃありません。それを行った結果、ミサカたちの脳はその演算によりパンクしてしまい、廃人化する可能性がほぼ100%だということですとミサカは補足説明もします」

「それは……!?」

「そう、貴方も演算能力を失うということですとミサカは教えてあげます」

「俺のことじゃねェ! クソッタレが……ッ!」

「どこに行くのですか? とミサカは質問します」

「その研究所を教えろ。潰しに行く」

「それでは潰れないのはかつて実験に携わった貴方が知ってるでしょう? とミサカはため息を吐きます」

「全部の研究所を潰せば終わることだ」

「お姉様と同じことをするつもりなのですねとミサカは二人の行動原理の同レベルさに呆れます」

「じゃあなンだ、テメエははいはいと脳を差し出して糞尿垂れ流す人形になるつもりなのかよ?」

「そんなことするわけありません。あの人に救ってもらった命、絶対に粗末にはできませんとミサカは強い意思で下品な白髪を睨みつけます」

「それならどうするつもりだ?」

「そんな簡単なこともわからないのですかとミサカは短絡な白髪に呆れます」


「逃げ続ければいいだけです、とミサカは簡単なことを教えてあげます」



 翌日、俺は清々しい気持ちで目が覚めた。
 住めば都、と言うが、一人暮らしも中々悪くない。
 長門がカレーを作ってくれたお陰で飯にも困らない。

 うむ、一人暮らしもいいものだ。

キョン「もうこんな時間か」

 時計を見ればもう登校時間である。
 気怠い月曜日の始まりだ。

 坂のない平坦な通学路を俺は歩いて行く。
 あの坂がどんなに辛いものだったか、俺は改めて理解した。

 と、そんな微妙にウキウキ気分で通学中の俺は麗しの姿を視界に認めた。

キョン「おはようございます、朝比奈さん」

 清々しい気分で俺はエンジェゥに声を掛ける。

みくる「ふぇ? ……キョンくぅ~ん」

キョン「うおっ!?」

 すると麗しき天使はなんと瞳を潤ませて俺の胸に飛び込んで来たではないか。

キョン「ど、どうしたんですか?」

 心地よい双丘、いや双山の感触が素晴らしい。

A「あ? 別の男か?」
B「とんだビッチでさあ」

 ……誰だコイツら。

 見るからに不良然とした出で立ちの野郎共二人。
 おのれ貴様ら我らが朝比奈さんに何をしやがった。

A「なんだその目は?」

 おっと、知らず知らずの内に睨んでいたようだ。

 しかしこれは不味い。俺は喧嘩なんかできないぞ。

みくる「あ、キョンくん逃げてください!」

キョン「ですね!」

 こういう時は逃げるが勝ちだ。
 俺は朝比奈さんの手を引っ張り、走り出す。

B「そうはいかないさあ」

キョン「んなっ!?」

 何が起きたかわからんが、道路に立っていた標識の柱が折れ、鉄の塊が俺たちの前に倒れ込む。

キョン「これが……超能力か!」

A「その通り」

 目の前の障害物に足を止めてる間に周り込まれてしまった。

 これはヤバイ。本格的にヤバイ。
 こちとら一般人と麗しきただの未来人だ。どうやって対抗すりゃいいんだ。

B「さて、じゃあまずはそっちの男から切り刻むさあ」

 切り刻むだと!? 冗談じゃない!

 焦る俺をニヤニヤと笑いながら腕をゆっくりと交差させていく不良男B。

キョン「ちょまっ――」

 長門、いやこの際古泉でも最悪谷口でもいい、誰か助けてくれたりしてくれ……!

B「ぴぎゃ!?」

 その瞬間、俺の祈りは神様かなんかに届いたのか、不良男Bの身体が激しく跳ね、黒こげになった。

 まるで雷に打たれたかのように。いや雷に打たれた人間なんか見たことないが。

美琴「まったく、白昼堂々こんな道路の真ん中で何やってんのよ」

 不良男Bが倒れる。

 その後ろから現れたのは――昨日のなんかビリビリやってた女子中学生だった。

A「なんだてめえは!?」

美琴「通りすがりの電気使いよ、覚えときなさい」

 いかにも悪役らしい声で怒鳴る不良男Aにヒーローらしく答える中学生。

A「くっ……!」

 そんなすぐにやられそうな悪役クンが両手を前に突き出すと、なんと摩訶不思議、電流が発生したではないか。

 その電流は真っ直ぐ女の子の元へ。

キョン「危ない!」

 身体は勝手に動いちまってた。

美琴「は?」

 あんなもの食らったら相当痛いだろう。
 そんなのを女の子に味あわせるわけにはいかない、常識的に考えて。

キョン「がっ!」

 中学生と不良男Aの間に躍り出た俺の身体を電撃が直撃する。
 やべえ、痛い。

みくる「キョンくん!?」

美琴「ちょ……何やってんのよ!」

 助けたのに怒られた。理不尽だ。
 そんなことを言おうとしたら足の力が抜けて崩れ落ちる俺。

 情けないな、オイ。

 俺が倒れると不良男Aはまた充電を開始する。

 しかし女の子は仁王立ちしたまま逃げる素振りをまったくしない。

 畜生何やってんだ、早く逃げやがれ。

 不良男Aの両腕で電気がバチバチと音を起てる。

美琴「はぁ……もう何やってんだか」

 女の子は逃げない。本当に何やってんだ、俺の助けが無駄じゃねえか。

A「さて次に痺れるのは……」

美琴「アンタよ!」

 俺は目の前の光景を疑った。
 ヤツは何やら充電とかのモーションを必要としていたのに、目の前の女の子はいきなり電流を発生させたではないか。

 しかも、俺を打った電撃よりも遥かに高電圧。あまりの威力に衝撃波まで発生してやがる。

A「ぎゃあっ!」

 短い悲鳴を上げてカエルのように不良男Aの身体が跳ねる。
 シューという嫌な音を起て、湯気を上げながら男の身体が崩れ落ちた。

 衝撃波で捲れたスカート。見えたのは短パン。
 俺の意識が続いたのはそこまでだった。



キョン「ん……?」

 次に目が覚めたのは公園のベンチだった。
 そういえばさっきの騒動の場所は公園の近くだった気がする。

みくる「あ、気がつきました?」

キョン「あ、はい」

 起きて最初に目に入ったのは麗しき朝比奈さんという女神の微笑み。素晴らしい目覚めだ。
 頭の後ろも柔らかい感触が……ってこれは膝枕!?

美琴「おー、目が覚めたみたいねー」

 横から声が聞こえてきた。首だけ動かして見るとジュースを抱えたあの中学生がやってきてようだ。

美琴「まったく、アンタは何やってんのよ。どっかの馬鹿並の馬鹿よ」

 朝比奈さんの膝枕は名残惜しいが、起きた以上はいつまでもこうしてるわけにはいくまい。
 身体を起こしてビリビリ中学生に答えてやる。

キョン「助けてやったのに酷い言いようだな」

美琴「助けてって……私の話聞いてなかったの?
   電気使いなんだからあんな攻撃なんか効かないわよ」

キョン「俺の助けは本当に無駄だったのか……」

 がっくりとうなだれる。あれだけ身体張っておいてただの骨折り損とはさすがに堪えるな。

みくる「で、でもキョンくんかっこよかったですよぉ」

 心優しい朝比奈さんがフォローを入れてくれた。
 ありがとうございます。それだけで俺は生きていけそうです。

キョン「で、なんでこんな公園なんかに屯してるんだ?」

美琴「あー、なんかアンタたち訳ありみたいじゃない」

 ジュースをごくごくと飲みながらため口で言ってきやがる生意気な中学生。
 訳ありなのは訳ありなんだが……どういうことだ?

みくる(あ、すみません。
    なんか学校に通ってることになってるみたいなんですけど、その学校の場所がわからなくて……)

キョン(なるほど、そういうことでしたか。大体わかりました)

 俺は運良く変人二人組に会えたが、朝比奈さんはそうもいかなかったらしい。

 古泉のやつめ、教えてやればいいのに。

美琴「何こそこそ話してんのよ、はい」

キョン「あ、いやなんでも」

 そう言いながら中学生はジュースを差し出してきた。

 冷たいお汁粉? どんなチョイスだ……

キョン「それであの二人はどうなった?」

美琴「アイツらは最初に電撃食らわした方が起きてもう片方を抱えて逃げていったわ」

キョン「……そういえば二人目は大丈夫なのか? かなりの高圧電流だったみたいだが」

美琴「言ったでしょ、電気使いならある程度の電撃は大丈夫って。
   二人目のやつも電気使いみたいだからちょっと強めに打っただけよ」

 なんて街だ、ここは。

キョン「というかなんでお前はここまで付き合ってくれてるんだ?
   お前だって学校あるだろ?」

美琴「あ、そうだ、忘れてたわ」

 そう言うと鞄の中をごそごそ漁り、傷だらけの携帯電話を取りだした。

美琴「その制服、アイツ……じゃなくて上条当麻ってやつと同じ学校よね?
   昨日、アイツったら落として行っちゃってさ、ちょっとこれをそいつに渡して欲しいんだけど……」

キョン「それだけのためにわざわざここまで付き合ってくれたのか?」

美琴「べ、別にいいじゃない!
   アイツが携帯なくて困ったりしてないかなーとかなんて別に私にはどうでもいいんだけどさ、
   なんか私のせいでなんかあったらなんか嫌じゃない!」

 意外そうな顔をすると突然、赤くなったりする女子中学生。
 なんだかハルヒに似たやつだな。

キョン「しかし上条か、どっかで聞いたような……」

みくる「あ、昨日私を助けてくれた人ですね」

 なんですと!?

美琴「アイツはまた……! …………やっぱり大きい方がいいのかしら」

みくる「はい?」

美琴「な、なんでもないです」

 おーおー、朝比奈さんには敬語なのか。

美琴「とにかく知ってるなら話が早いわ、よろしく頼むわね」

 そう言って俺に携帯を渡すと一気にジュースを飲み干して立ち上がるビリビリ中学生。

美琴「いやー、
   新しいレベル5が出たらしくて私の能力測定とかしなくちゃいけなくて今日は空けられなかったのよね。
   よかったよかった、これで安心してテストに行けるわ」

みくる「新しいレベル5……?」

キョン「ちょっと待て、名前も何も聞いてないんだが」

美琴「私は御坂美琴」


美琴「常盤台中学のレベル5、『超電磁砲』って言った方がわかりやすいかしら?」



空刃裁断「くそ……なんなんだあの電気使いは……」

 重い相棒の身体を背負って裏路地を進む不良男。

空刃裁断「レベルはともかく、相棒より強い電気使いなんて初めて見たさあ……」

 ふぅ、と一息吐いて路地に相棒の身体を降ろして一休み。
 ついでに携帯を取り出して、メモリーから呼び出した電話番号に電話をかける。

空刃裁断「あ、アニキですか? ちょっとムカつくやつがいましてね……」

 その男の顔に小物らしい笑顔が浮かんだ。



 当然遅刻だ畜生。

小萌「まったく、昼前に学校に来るってどういう不良生徒ですか~?」

キ・み『すみません……』

 明らかに児童ポルノ法に抵触しそうな教師からの叱責を受ける俺と朝比奈さん。

小萌「キョンちゃんはともかく、みくるちゃんは真面目な生徒だと思っていたのですけど、先生は残念です」

キ・み『すみません……』

 すみません、遅刻したのは俺のせいですから朝比奈さんは叱らないでください。

小萌「はぁ……次からはちゃんと来るですよ?」

 その言葉を最後になんとか解放される俺と朝比奈さん。

古泉「ちょっといいですか?」

キョン「そして職員室を出たところで俺と朝比奈さんを出迎えたのは朝からトンカツだった時のような笑顔だった」

古泉「……いい加減怒りますよ?」



古泉「へぇ……そんなことがあったのですか」

キョン「屋上で事のあらましを語ると気持ち悪い笑顔を貼り付けたまま聞きやがる古泉」

古泉「一体誰に言ってるのですか」

キョン「気にするな」

 そう言いながら俺はコンビニで買ってきたおにぎりを口に含む。

古泉「しかし新しいレベル5ですか、気になりますね……」

みくる「時期的に考えて、涼宮さんでしょうか……」

古泉「十中八九、そうでしょうね。
   この街にはなんとか能力を測定する方法があるようです。
   彼女の能力を測定できたとしたら最高位に属するのは当然でしょう」

キョン「ともかくだ、まったく情報無しの状態からなんとか進展したな」

古泉「小さな一歩かもしれませんが、我々にとっては大きな一歩ですね。
   さて、この情報をなんとか長門さんにも伝えたいものですが……」

みくる「こちらから連絡を取る手段はないんですか?」

古泉「残念ながら皆無です。
   セキュリティが予想以上に堅く、機関の手も及ばないところにいるみたいですから」

 次はなんとか長門との確実なコンタクト方法か。まあ、これだけの情報じゃどうしようもないからな。



「面倒なヤツに狙われたもンだな」

 傷だらけの少女と彼は身体を抱えたまま、とある裏路地に身を潜める。

「電池は大丈夫ですかとミサカは一番の不安要項を心配します」

「俺の心配なンかいいンだよ。電池の容量もお前が知ってるのより上がってるしな」

 ふぅ、と息を吐くと彼は首のチョーカーのスイッチをいじり、能力使用モードから通常モードに切り替える。

「で、アイツについての詳しい情報を教えてもらおうか」

「それが、詳しい情報は実験に関わってる人間も一切わからないのですとミサカは明かします」

「わからないだァ?」

「彼女は確かに学園都市の人間として登録はされていました。しかし、今まで能力を測定した記録どころか、開発を行った記録すらないのです。
 『原石』タイプの能力者ということはわかってますが、記録はあるのに、誰の記憶にも彼女は存在していない。
 まるで、急に彼女が現れて、それに適合するように世界が改変されたかのような状況なのです、とミサカは説明します」

「……なンだそりゃ、まるっきり出来の悪い三流ホラーじゃねェか」

「わかっているのは彼女の能力と、レベルと、名前程度。
 詳しい理論もまだまったく不明の状態ですとミサカは現状を示します。
 そもそも、彼女が存在するのはおかしいのですとミサカは付け加えます」

「まァ、最大の『原石』って言ったらヤツだしなァ。
 それ以上の『原石』が昔から存在してるってのは矛盾がありやがる」

「そもそも、アイツの名前は何なンだ? それを聞いたことすらないンじゃさすがにおかしいぞ」

「それもそうですねとミサカは納得します。

 彼女の名前は――」

 その時、コツ、コツと足音が裏路地に響いた。

「チッ……もう追いつきやがったか」

 少女の身体を抱えて、再びスイッチを能力使用モードに切り替え、足音とは反対方向に進み、曲がり角を曲がる。


「飛んで火に入る夏の虫、ってね」

「なッ!?」

 しかし、そこに彼女はいた。

「クソッ……!」

 急いで方向転換。逆方向に進む。

 ベクトル操作で集められた力は二人の身体を高速で運んでいく。

「もう逃がさないわよ」

 しかし、彼女は走るだけでその速度に追いつく。
 明らかに人間の身体能力を超えていた。

 見る見るうちに両者の間が狭まっていく。

(追いつかれるのも時間の問題か……!)

 少女だけはなんとか逃がして、どうにか戦う方法を思案する。
 しかし名案は思い浮かばない。

(俺が立ちふさがろうとしてもアイツは無視してコイツを追うだろうしなァ……)

 そんなことを考えながら曲がりくねった裏路地を進んでいくと――

「うぉ!?」

 曲がったところに一般人らしき男子高校生がいた。

「チィ!」

 ベクトル操作で急ブレーキをかける。

「な、な……」

 高速でやってきたことに腰を抜かしているのか、尻餅をついたままの男子高校生。

「さーて、追いつい――」

 ブレーキの一瞬に、彼女は追いつく。
 しかし、固まったのは、彼女だった。

「なっ……!」

 それに対して男子高校生も驚いた様子でいる。
 後ずさる彼女。

「お、おい……」

「……ッ!」

 その男子高校生が彼女に声をかけて手を伸ばす。
 すると彼女は驚いた風にびくっとすると、なんと逃げ出して行った。

「ま、待て――

 ハルヒ!」

 男子高校生が起き上がるが、彼女は既に目にも止まらぬ高速で逃げ出した後だった。



 どういうことだこれは。

 下校中、ちょっとジュースを買おうと小銭を取り出したら十円玉を落とし、追いかけて裏路地に入ってみれば、高速で白髪の男が飛び出してきたかと思えば、ハルヒもやってきた。

 しかも、その白髪が抱えているのは――朝に会った御坂美琴ではないか。しかも何故か傷だらけ。

キョン「なんなんだよ、これ、どういうことなんだよこれは!?」

 俺は傷だらけの御坂美琴を見て激しく問い質す。

「テメェには関係ねェことだ」

キョン「ま、待て!」

 白髪の男だか女だかわからないやつはそれだけ言うと、また高速でハルヒとは逆の方向に飛び去って行った。

 見えたのは――御坂美琴の、縞パン。

 ともかくだ、ハルヒを見つけた。
 間違いない、ハルヒが新しいレベル5とやらだ。

 まずは古泉たちに連絡を――と思ったが、考えてみれば俺は携帯がない。
 しかも、この世界でのみんなの住所も知らない。

 誰とも自分からはコンタクトが取れないじゃないか。

キョン「こんなときに……!」

 腐っても仕方がないので、落として散らばった鞄の中身を集める。

 そこで、目に止まったものがある。

 学校で渡すのを忘れていた、朝比奈さんを助けたという、上条当麻の携帯電話。



 ぴんぽーん、とインターフォンを鳴らす。

 プライバシーの侵害かもしれないが、緊急事態なので携帯の住所を確認させてもらったところ、なんと俺のお隣さんではないか。
 よく入り口のポストを見れば、確かに上条と名前があるし……気付かなかったとは迂闊だった。

上条「はいはーい」

 上条当麻、とやらがドアを開けて顔を出した。
 よく見れば、昨日、御坂美琴と大道芸を繰り広げてた高校生ではないか。

 うーむ、世界は狭いな。

キョン「よぉ」

上条「……どちら様?」

キョン「俺だよ俺」

上条「オレオレ詐欺は間に合ってます」

 あれ、矛盾のないように世界は改変されてるんじゃなかったのか?

キョン「クラスメイトの俺だよ、忘れたのか?」

上条「……いやいや、冗談だって!」

 なんだか必死に否定してる上条さん。そんなに怒ってる風に見えたのか?

上条「それで、どうしたんだ?」

キョン「御坂美琴ってやつから、これを渡してくれって頼まれてな」

 鞄から携帯を取り出して元の持ち主に渡す。

上条「おお、どこかに無くしてた俺の相棒! ありがとうな」

 長らくの相棒のように扱う上条さん。思い入れでもあるのか。

キョン「それでだ、御坂美琴の知り合いなんだろ?」

上条「確かにそうだけど……紹介してくれとか、やめといた方がいいぞ?」

キョン「違うわ! 緊急事態だ」

 上条さん宅に上がると、シスターさんがいた。

禁書「あー、とーままた……って男の人か。珍しいかも」

上条「珍しいってなんだ!? 上条さんは友情にも熱い男ですよ!」

キョン「……つかぬ事をお聞きしますが、お二人はどういった関係で?」

上条「あー、それは話せば長くなるというか、なんというか……
   とりあえず、緊急事態なんだろ?」

キョン「そうだった! まず、お前が昨日助けたっていう朝比奈さんって人に連絡取れないか?」

上条「……訳ありの人ですか、やっぱり」

禁書「また厄介を持ってきたんだね」

 なんだか溜息を吐く二人。なんだ、俺が悪いのか?

上条「朝比奈さんだったな、昨日は携帯なかったからどっかに番号を聞いたメモが……」

 お菓子やら何やらでゴミ屋敷状態の床を漁る上条さん。
 ……今、お菓子を多べているのはシスターさんだが、これ全部この子が食べたんだろうか。

上条「あー! スフィンクス何してやがる!」

 見ると猫が何やら紙切れで遊んでいた。というかペット飼っていいのか?

上条「もしかして……これなんじゃ……」

 恐る恐るその紙切れを拾う上条さん。うむ、この可愛らしい字には見覚えがある。

キョン「朝比奈さんの字だな、それ」

上条「なんてこった……」

キョン「俺は携帯壊れてるし、最終手段だったのに……」

 がっくりと俺は項垂れる。

禁書「私、それに書いてあったこと覚えてるよ?」

 そこでシスターさんが小動物っぽく提案してみる。うむ、この子も可愛らしいな。

キョン「本当か!?」

上条「そうか、インデックスはそういうことできたな、忘れてた」

禁書「とーま酷いかも!」

 がぶりと上条さんの頭に噛みつくシスターさん。すごく大きな口です。

 ともかく、首の皮一つで繋がった。

 朝比奈さんに連絡したところ、目印となるのが上条さん宅だということで、古泉にも連絡取って上条さん宅に全員集合。
 別に八時というわけではない。

古泉「なるほど、涼宮さんが自由に能力を使っていた、というわけですか……これは確かに緊急事態ですね」

みくる「キョンくんを見て逃げたのも気になりますね……何か見られちゃいけないことでもしているのでしょうか」

キョン「明らかに状況はまともじゃなかったからな。
    今朝、俺たちを助けてくれた御坂美琴ってやつは傷だらけだったしな」

上条「御坂がどうかしたのか!?」

 俺がそれを話すと上条さんががたっと音を起てるほど反応した。こっちが驚きだ。

キョン「まだわからん。
    だがしかし、やけにぐったりした様子で男だか女だかよくわからないやつに抱えられてたのは確かだ」

上条「くそ……!」

 上条さんは先程俺が返してあげた携帯を取り出すと何やらかちかちと操作。
 どうやらその御坂美琴に連絡するらしい。

美琴『も、もしもし……』

上条「御坂か!? お前大丈夫か!」

美琴『えっ?』

上条「えっ?」

美琴『何それ怖い……じゃなくてどうしたのよ?』

上条「……どうもしてないのか?」

美琴『どうもしてないわ。強いてあげれば黒子がいつも通りだったことくらいね』

上条「どうもしてないらしいぞ?」

キョン「どういうことだ……?」

 本当にわけがわからん。俺が見たのは確かに御坂美琴だったはずだが。

美琴『ねえちょっと……何かあったの?』

上条「いや、俺にもよくわからないんだよなあ……ともかく、お前が無事ならよかった」

美琴『ななな……』

上条「じゃあな、また何かあったら電話する」

 それだけ言うとピッと電話を切る上条さん。
 酷い天然ジゴロだな。

古泉「うーむ、涼宮さんの能力か何か、でしょうか」

キョン「それにしても脈絡がない。まさか双子の妹でしたなんてオチがあるわけでもないし……」

上条「それだ!」

 俺が何気なしに言うと、上条さんはまた大きく反応した。
 いちいちリアクションの大きい人だな。

 上条さんはどこか別のところに電話をかけてるみたいだ。
 しかし今度は聞かれたら困るのか、奥に引っ込んでしまった。

キョン「そういえば長門には連絡つかなかったのか?」

古泉「携帯電話もずっと電源が切れたまま。一切繋がりませんでしたよ」

キョン「やっぱり、どうにかして長門にコンタクトを取らないとだな……」

 悩んでいると、上条さんがひょっこり戻ってくる。

上条「双子の妹の線もどうやら違うみたいだぞ」

 本当に双子の妹がいたのか。なんでもありだな。

古泉「今日はこれくらいですかね」

 古泉が腕時計を見ながら言う。気付けばもう夕方も遅くなってるのか。

上条「ああ、学園都市の終電は早いからな。学園都市を走って横断するのは疲れるぞ」

 なんだか何度も経験したかのような口ぶりの上条さん。
 いやいや、こんな広い都市を走ってとか、冗談じゃない。

 それに俺はお隣さんだからいいが、朝比奈さんに夜のこの街は危なすぎる気がする。
 不本意だが、古泉に送ってもらうしかないな。

 と、そこで気がついた。古泉の能力はどうなってるんだ?

古泉「んふ、僕の能力が気になるようですね」

キョン「こいつも読心術でも使えるのか。しかし、古泉の場合に限っては気持ち悪い」

古泉「酷いですね」

キョン「だが、これだけは確認しておくべきだろう。ハルヒが能力を持って戦ってる以上、みんなの能力も把握しておかないとな」

 割と真剣に言ってみる。

みくる「私は今はキョンくんと変わらないですぅ……」

 ああ、すみません、責めてるつもりはないんです。だからそんな申し訳なさそうな声しないでください朝比奈さん。

古泉「僕はこんな感じですかね」

 何気なしに古泉が手をかざすと、そこに小さな赤い玉が生まれる。

古泉「ここはちょっとした閉鎖空間なのでしょうか、ある程度の能力は使えるようです。
   しかし、場所によってその強弱にムラがあり、まだまだ安定して使えるわけではありませんがね」

 おお、俺と朝比奈さんが一般人な以上、これは頼もしい。
 間違っても口には出さんが。

古泉「頼りにしてもらって光栄です」

キョン「顔を離せ気色悪い」

禁書「とーまもすごいんだよ!」

 突然、今まで完全に空気と同化してたシスターさんが提案した。
 手をばたばたさせてる動作が小動物チックで可愛らしい。

キョン「って上条さんも何か力があるのか?」

上条「ああ一応な」

 上条さんはそう言うと右腕を捲って見せる。

上条「この右手は『幻想殺し』って言ってな、超能力だろうが魔術だろうが、
   例え神の力だろうが異能ならなんでも打ち消せるんだ」

 ほぉ、便利な能力があったもんだ。
 ん? じゃあこの人はハルヒの改変の影響を受けないんじゃ……

古泉「というか、貴方も協力してくれるんですか?」

キョン「確かに、これは俺たちの問題だ。無理に協力してもらう必要はない」

 俺がそう言うと、上条さんは大きく息を吸い込んだ。

上条「御坂が関係してるかもしれないんだろ? それなら俺の問題でもあるし、何よりお前ら困ってるんだろ?
   上条さんは友情に熱い男ですよ、友達を見捨てるわけがないじゃないですか。
   それにな、人を助けるのに理由なんかいらねえ。助けたいから助ける、それで十分だろ?」

 すごいお節介焼きだな。こいつに惚れた女の子は可哀想だ。

古泉「ではまた明日」

みくる「学校で会いましょうね」

 そう言って、古泉と朝比奈さんは帰って行く。
 朝比奈さんも一応は能力者であるらしい古泉と一緒ならまあまあ安心できるだろう。

上条「さーて、そろそろ夕飯にしますか」

禁書「やったー! 今日の夕飯は何かな!?」

上条「うーむ、そうだな……卵が残ってたはずだが……」

 冷蔵庫をがさごそを漁る上条さん。
 うむ、微笑ましい光景だ。

上条「げっ……消費期限過ぎてやがる……不幸だ……」

禁書「え……」

 シスターさんが絶望したような顔になる。それほどまで夕飯が楽しみだったのか。

キョン「……うちに大量にカレーが余ってるんだが食べるか?」

 いたたまれなくなって、提案してみた。

上条「本当か!?」

禁書「本当!?」

キョン「あ、ああ本当だ」

 二人のあまりの食いつきの良さに驚く。
 どんだけ飢えてるんだ。

上条「よっしゃ、今日はカレーパーティーだぞインデックス!」

禁書「カレー♪ カレー♪」

 しかしシスターさんが可愛いからよしとしよう。


 ……何か忘れているような。




ハルヒ「キョン……」

 廃ビルの中で独りごちる。

 見られた。あんなことしてるのはキョンだけには見られたくなかったのに。

 ……嫌われたらどうしよう。いや、キョンに嫌われるようなことなんてどうでも……

ハルヒ「どうでも……よくない……」

 ……どうしよう。
 いや、どうすればいいかなんてわかってる。

 私がレベル6になれば、どうとでもできるのだから。

ハルヒ「頑張るしかない、か……」

 そう言って私は立ち上がる。しかし、ふらっと軽く目眩がした。

ハルヒ「そういえばあれから寝てなかったっけ」

 このままでは私の能力は満足に発揮できない。

 仕方ないので私はまた座り込んでしばらく寝ることにした。




 長門が大量に作ってくれたはずのカレーが、一晩にして空鍋と化した。
 食べたのはほとんどシスターさん。あの胃袋はどうなってやがる。

 そして、今夜の晩飯はどうしようかと思案しながら、学校で作戦会議である。

上条「そういえば、もう一人、対有機ちゃんだかなんだかって人がいるらしいな」

キョン「長門のことか。
   アイツにさえ連絡が自由に取れればこの案件もすぐに終わるんだろうが……」

古泉「しかしこの学園都市、というのは予想以上に厄介でしてね……機関が入り込めない場所が多いのですよ」

上条「長門っていうのはそんなにすごいやつなのか?」

キョン「ああ、すごいったらすごい。俺たちの切り札みたいなもんだ。
   この街のレベルで言ったらレベル5は余裕なんじゃないかってくらいだ」

上条「おいおい、レベル5って生身一つで軍隊に立ち向かえる化け物だぜ?」

キョン「軍どころか世界を敵に回しても平気なやつだ」

上条「そりゃ頼もしいな」

古泉「でも今回は彼女も上手く動けないようですね。
   機関の力を以てしても彼女がいるところは一切のデータが手に入らないのですよ」

上条「機関ってのはよくわからないが、セキュリティが堅いところにいるのか」

キョン「なんでも、長門曰く特殊な学校だそうだ」

古泉「霧ヶ丘女学院、というところです。まあ、僕たちのように無粋な男の近寄れる雰囲気じゃありませんね」

  「!」

上条「霧ヶ丘女学院? うーむ、どこか身近で聞いたことがあるような……」

 こいつの情報網はどこまですごいんだ。
 そういえばお嬢様学校のレベル5にも連絡してたし、あのシスターさんの言いぶりもあるし、かなりの女誑しなんじゃないだろうか。

  「……。」

古泉「本当ですか? 我々は僅かな情報でも欲しいところです。なんとか思い出してもらえませんか」

  「……。」

上条「いつだっけな……最初は強烈な印象が合った気がするんだが……」

  「……。」

 うーん、と悩み込む上条。
 かなりの記憶の奥底に眠っているらしい。

  「……。」

上条「うーん、霧ヶ丘、霧ヶ丘……あ、思い出した!」

  「!!」

 俯いて悩んでいた上条さんは顔を上げて輝かしい笑顔を作る。

上条「風斬氷華ってやつが通ってる学校だ!」

  「!?」

 やはり女の子か。なんだかこの人の周りがわかってきた気がするぞ。

古泉「おお、知り合いがいるのですか。早速その方に連絡を取りましょう」

  「……!」

上条「それがだなあ……なんというか、ちょっと特殊なやつで、そういうのは難しいんだよなあ……」

 そしてやはり訳ありか。

古泉「そうですか、残念です」

 やれやれ、と言った風の古泉。

 しかし、頼みの上条さんもダメならどうしたもんかね。

小萌「霧ヶ丘女学院ですかー?」

  「……!!」

 すると横から小学生のような女の子が話に飛び込んで来た。我らが合法ロリ先生、小萌先生だ。

小萌「霧ヶ丘女学院と言えば……」

  「……! ……!」

小萌「うちに居候してる結標ちゃんのいるところですねー」

  「……!?」

上条「また先生は誰か拾ってきたんですか……」

 拾うってなんだ、ペットみたいに家出少女でも世話してるのか。

古泉「ともかく、霧ヶ丘女学院に近い人がいるならよかったです。その人を紹介してもらえませんか?」

  「……。……。」

小萌「でもそんなのこのクラスにもっと適任がいますよー?」

  「……?」

上条「そんな人いましたっけ?」

小萌「何言ってるんですか、上条ちゃん。姫神ちゃんがいるじゃないですかー」

姫神「……!!!」

上条「えっと……ああ、そういえば姫神のやつも霧ヶ丘にいたんだっけ?」

 これは酷い。

上条「なあ姫神、霧ヶ丘女学院にいる長門ってやつと連絡取りたいんだけどできるか?」

 すたすたととある女子生徒に話しかける上条さん。
 というかそんなところに人がいたのか。

姫神「それは。人に物を頼む態度じゃない。それに今のえっとは何。その間は何。」

上条「あれ、姫神サン、何か怒ってらっしゃいます?」

吹寄「……やってよし」


姫神「イッペン。死ンデミル?」




 そして放課後。
 あの後、上条さんは思い切りボディブローを食らって吹っ飛んだ。自業自得である。

 結局、姫神さんは協力してくれた。つつがなく長門を連れ出してきて、久々にみんな揃ったところだ。

 しかし姫神さんは、電話で小萌先生に、
『シスターちゃんと結標ちゃんとで鍋パーティをするので姫神ちゃんも来ませんかー?』
 と呼び出され、
「私の出番はもう終わり。ふふふ……。」
 と呟きながら小萌先生の家に向かっていった。

 そしてファミレスで会議、というか情報交換。

 しかし長門の方は情報を得ていなかったらしく、こちらが一方的に情報提供するだけの形となった。

 そこで目下の目的である、長門との直接的なコンタクトなのだが……

長門「各自の携帯端末の情報を操作し、私の脳内に直接情報を送信できるようにした」

 と言われたものの、生憎俺は携帯を壊しちまってる。

 ということで、長門、朝比奈さん、上条さん、俺、古泉のメンバーで携帯ショップへ向かっているところである。

キョン「なんだこりゃ……」

 見れば見るほど奇っ怪な機械ども。
 ヘッドセットにしか見えないものや、まるで鉄鋼の塊のようなもの、果てはカエルの形をしたものまである。

 これが携帯電話だというのだから驚きだ。

上条「あー、外の人間には確かに携帯には見えないだろうなあ」

キョン「携帯には見えないというか、携帯に必要のない機能までついてるものもあるぞ」

上条「携帯に詰め込むには技術が余ってる状態だからなー。これなんかシンプルでいいんじゃないか?」

 店の外に陳列されてるモックの一つを手に取る上条さん。

キョン「何々……耐火耐熱耐圧耐水耐衝撃携帯?
    大気圏突破しても平気ですって携帯をそこに持って行って意味あるのか……」

 なんだこの技術の無駄遣いは。誰が欲しがるんだこんなもの。

「なー」

 と、携帯を選んで悩んでる俺たちの、正確には上条さんの足下へ小さな黒猫が擦り寄ってきた。




「あれから追いかけて来なくなったなァ」

 傷だらけの少女の身体を降ろして身を隠し、そのまま一晩が明けた。

 今はコンビニで買ってきたコーヒーを順調に消化しているところである。

「しっかし、これだけ騒ぎが起きてるのに警備員や風紀委員どころか一般人すら騒がないのはどういうことだ?」

「箝口令が敷かれているのです、とミサカは説明します」

 もぞり、と少女が動く。

「起きてたのか」

「それに加えて、私からもできる限りの情報を漏らすまい、としているのですから騒がれてもらっては困りますとミサカは追加説明もします」

「混乱が起きてた方が逃げやすいンじゃねェのか?」

「確かにそうかもしれませんが、それでは巻き込まれる人が出てくるのですよとミサカは短絡的な思考に呆れます」

「善人様ですねェ。まァ、カタギのやつらを巻き込むのは俺も本意じゃねェな」

「それに、巻き込みたくない人もいるのですとミサカは本心も言ってみます」

「巻き込みたくない人だ?」

「自分の身を顧みず、一度会っただけの他人のためにも全力で命を張るお節介さんが、困ったことにいるのですよとミサカは溜息混じりに話してみます」

「そいつはとンだ善人様だなァ。そいつだけは巻き込みたくないってか」

 そう言うと彼はコーヒーを一気に飲み干す。

「昨日、俺にお前のお姉様とやらと同じ思考って言ったけどな、お前のその思考こそソックリだよ」

「私は素直になれないお姉様とは違いますとミサカは少し憤慨してみます」

「ハッ……本当にソックリだよお前らは」

 すると突然、少女は起き上がった。

「涼宮ハルヒが動きましたとミサカは切迫した状況を伝えます!」

「ついに来やがったか」

 彼はアキカン!を投げ捨てる。廃ビルにカコーン、と静寂には大きな音が響いた。

「彼女が来たのはこちらではありませんとミサカは情報伝達の齟齬を訂正します!」

「チッ……別の『妹達』は『冥土返し』のところにいるンだっけか。そっちを狙われたか」

「違います!」


「彼女が狙ってるのは――クソ上司の方ですとミサカは衝撃の事実を明かします!」




上条「お前は……」

 上条さんが足下に擦り寄ってきた猫を抱き上げる。
 本当に猫に縁のある人だな、いつか猫の地蔵の呪いにでもかかりそうだ。

みくる「上条さんのペットですか?」

上条「いや……こいつはイヌだ」

キョン「いやどう見ても猫だ」

上条「そうじゃなくて、こいつの名前らしきものだよ」

長門「猫なのにイヌ……」

 無表情の長門だが、少し笑ったような気がする。こういうのがツボなのか。

上条「ちゃんとした名前はなんだっけなあ……
   ともかく、昨日話した御坂美琴の、まあ妹みたいな感じのやつのペットだ」

 妹みたいな感じってわけわからん。妹じゃないのか。

上条「とすると……御坂妹のやつが近くにいるのか?」

キョン「いやいや、猫と散歩なんか普通はできないぞ。
    それこそ、何かの呪いにでもかかって猫の言葉がわかるようにならない限りは」

上条「でもこいつは普段アイツの病室にいるしなあ……痛っ」

 いつまでも抱いていた上条さんにイラついたのか噛みつくイヌ(仮)。
 というか病院で猫を飼っていいのか。

「なー」

 とたっと地面に音もなく降り立つと、裏路地の入り口まで走っていき、そこで立ち止まる。

上条「……連いて来い、って言ってるのか?」

 すごいな上条さん。猫の言葉がわかるのか。

 上条さんを先頭にイヌ(仮)を追いかけて裏路地を進む俺たち一行。
 イヌ(仮)はすいすいと進んでいき、廃ビルの前でまた立ち止まる。

上条「なるほど、この中か」

 何がなるほどなのか通訳してもらえませんかねえ。

 上条さんの言葉を理解したかのようにイヌ(仮)は廃ビルの中へ突入。
 続いて俺たちも突入しようとする。

 するとそこでカコーン、と音がした。

古泉「……誰かいます、気をつけてください」

 すると古泉が小声で俺たちに言った。
 一同に緊張が走る。

 警戒しながら中へ突入する。

 イヌ(仮)はそんな空気などおかまいなしに、俺たちが連いてきたことを確認すると、さっさと二階に消えてしまった。

 みんなで顔を見合わせて、確認を取る。
 意見は一致、GOだ。

 足音を殺して、ゆっくりと二階に上がる。

 階段を上りきると、踊り場から部屋へのドアがなくなっていて、外からの光が薄暗い階段を照らしていた。

 すぐに踊り場に躍り出るようなことはしない。ゆっくりと、慎重に、上条さんが壁を這うようにして進み、部屋の中を覗き込む。

上条「どうした御坂妹!?」

キョン「お、おい!」

 すると上条さんは血相を変えて部屋の中に飛び込んでいった。
 慌てて俺たちも上条さんの後を追う。

 部屋の中には、散乱したガラスと、壊れたペット用のゲージと、イヌ(仮)と、

 ゴーグルをしたまま銃を抱えた、傷だらけの御坂美琴がいた。

御坂妹「どうしてここに、とミサカは驚きながら質問します」

 驚いて、銃を降ろす御坂美琴。というかなんだそのウザい喋り方は。

上条「こいつが俺たちを案内してな……というかお前こそどうしたんだよ!」

 上条さんは御坂美琴から離れた位置で毛繕いをしている黒猫を親指で指す。

御坂妹「どうもしてません、とミサカは回答します」

上条「こんな傷だらけでどうもしてないわけないだろ!
   あの医者に確認したらなんともない、って言ってたのに、どうしてこんな……」

御坂妹「……」

 上条さんの言葉を聞くと御坂美琴はばつの悪そうに目を伏せる。

キョン「なあ御坂さん、何があったかくらいは、話してくれないか?」

 俺たちは腰を下ろし、長門風に言えば会話モードに移行した。

御坂妹「まず、その人たちは誰ですかとミサカは疑問を投げかけます」

上条「ああ、こいつらはちょっと色々厄介ごとがあってな。協力してなんとかしてるってところだ」

御坂妹「……全然説明になってませんとミサカは貴方の説明力のなさに呆れてみます」

上条「だって、こいつらの言うこと難しくてよくわからないんだもん!」

 同意見だ。

古泉「まあ、まずは自己紹介をしておきましょうか。
   僕は古泉一樹、この街では特に珍しくもない超能力者です」

キョン「それでこいつが長門、まあ、宇宙人だ。まあ俺と朝比奈さんはいいよな」

御坂妹「よくありません、誰ですか、
    というか宇宙人って意味が分かりませんとミサカは矢継ぎ早に質問をぶつけてみます」

キョン「誰ですか……ってなんか変なやつらから助けてくれたじゃんか」

御坂妹「……お姉様と勘違いしていませんかとミサカは間違いを予想してみます」

キョン「お姉様?」

上条「ああ、言ってなかったな。こいつは御坂妹。
   言うなれば、まあ、御坂美琴の双子の妹だ」

 本当にいたのかよ。

御坂妹「つまりまとめると、超能力者、未来人、宇宙人、
    そして特に面白味もない普遍的な貧弱一般人が涼宮ハルヒの周りに集まって
    世界を大いに盛り上げようとしているわけですねとミサカは要約してみます」

キョン「ちょっと待て、なんか物凄く失礼なことを言いやがっただろ」

古泉「それはまあ置いておいて、そんなところですね」

上条「えー、これ一発で信じられるの……?」

 上条さんが少し不気味気な表情をする。

 すると御坂妹さんはふぅ、と軽く息を吐くとこう言いやがった。

御坂妹「出来の悪い三流SFですね。
    まるでK川辺りが大賞にでも選びそうですとミサカは電撃使いとしての目線から語ります」

 畜生、やっぱり信じてなかったか。

御坂妹「そのSOS団のくだりはどうでもいいですとミサカは話題を変えます」

 しかもどうでもいいと流しやがった。

御坂妹「涼宮ハルヒ、ですか……
   やはり貴方は関わってしまったのですねとミサカは自分の努力が徒労に終わったことにショックを感じます」

古泉「……やはり、貴方も涼宮さん絡みですか」

御坂妹「そうですよ。
    よくもこの人も巻き込んでくださりやがりましたねとミサカは怨念を籠めながら呪詛を呟きます」

 なんだ、みんな上条さん大好きなんだな。

上条「もうここまで来たら俺は引き返せない」

 上条さんの言葉で空気が一変して真剣なものになる。
 何このイケメン。

上条「だから、何があったか、教えてくれるか?」

御坂妹「……仕方ありませんねとミサカは諦めます」




打止「ケーキ♪ ケーキ♪ ってミサカはミサカは即興詩を紡いでみる」

 嬉しそうに炊飯器を眺める10歳ほどの少女。
 説明するまでもなく、炊飯器とは万能調理器具なのである。

黄泉川「そんな眺めてても残り時間は変わらないじゃんよ」

打止「こうやって眺めてるのが幸せなのってミサカはミサカは説明してみたり」

黄泉川「あんまり近づいて火傷したら危ないじゃんよ……」

 そんな保護者の心配を余所に打ち止めは楽しそうに炊飯器の液晶画面を眺め続ける。

 と、そこへピンポーンとインターフォンが鳴った。

黄泉川「お、桔梗のやつ帰ってきたかな」

 そうして黄泉川は何の疑いもなく玄関を開ける。

黄泉川「おかえりじゃん……ってあれ?」

 しかし、そこに予想していた人物はいなかった。
 代わりにいたのは。


ハルヒ「こんにちは。打ち止めって子、いますか?」


打止「フルーツの到着かなってミサカはミサカは楽しみにしてみる」

 黄泉川が来訪者を迎えに行ったのを見て、打ち止めは期待を籠めた視線を玄関の辺りに送ってみる。

 『妹達』は今、危機に瀕してはいるが、その危機が去るのも実は時間の問題なのだ。
 それまで耐え抜けばいいだけで、耐え抜いたら10032号と一緒にいるはずの彼と接触が取れるのだ。

 打ち止めはそれが楽しみで楽しみで仕方がない。

 そして、そのためのケーキなのである。

打止「少し作るのが早すぎたかなってミサカはミサカはちょっと不安になってみる」

 一瞬、不安げな表情をするが、思い直す。

打止「でも、あの人に任せておけば大丈夫だよねってミサカはミサカは再確認してみたり」

 そして、再び笑顔。

打止「え――」

 だが、その笑顔は、次の瞬間に固まる。

 居間まで一直線に吹っ飛んできた緑色のジャージ姿の保護者を見て。

 どがっしゃーん、という凄まじい音を起てて壁に激突する黄泉川。

黄泉川「いきなりやってくれるじゃん……」

 しかし黄泉川は玄関に立てかけてあったはずの警備員用の盾を手にふらふらと立ち上がる。

ハルヒ「そっちこそいきなり強烈に拒否してくれるじゃないですか。
    だから『退いて』もらっただけですよ」

 そこに土足で入り込んできた女子高生。彼女は打ち止めの見たことのない制服を着ていた。

黄泉川「逃げろ打ち止め! なんか知らないがお前を狙ってるみたいじゃん!」

打止「な、なんで――」

 しかし、打ち止めは固まったまま動かない。

 なぜ、彼女はこちらに来たのか、理由がない。

 彼女の能力を以てすれば、上位個体である打ち止めを介さずに、ミサカネットワークを掌握することが可能であり、わざわざ打ち止めを狙う必要がないのだ。

ハルヒ「おいで」

 彼女がそう呟くと、打ち止めは自分の身体が引っ張られるのを感じた。

 次に、打ち止めの小さな身体は宙を浮き、彼女の元へと真っ直ぐに飛んでいく。

打止(いけない! ミサカが捕まったらあの人は――)

 思考は最後まで続かなかった。
 横からの衝撃がそれを中断させたからだ。

黄泉川「逃げろって言ってるじゃんよ!」

 見れば黄泉川が打ち止めの身体を押し倒すようにして守っていた。
 壁からここまで来たのだとしたら物凄い身体能力だなあとか打ち止めはあまりの衝撃で呑気になった思考で考える。

ハルヒ「……すごいですね。
    能力者じゃないのにあそこから盾を持ったまま一瞬でここまで来るなんて」

黄泉川「こちとら体育教師でね。身体を動かすのは得意じゃんよ」

 そう言って黄泉川は身体の後ろに打ち止めを隠す。

ハルヒ「でも、私には勝てませんよ。今の内にその子を渡してくれませんか?」

黄泉川「そんなの……お断りじゃんよ!」

 黄泉川は盾を構えて突撃する。
 学園都市の技術で作られた盾はまさに鉄壁であり、例え大能力者の物理攻撃ですらなかなか壊せない硬さを誇る。

 当然、あらゆる技術が駆使されていて、能力を上手く使えないように思考を乱すデザインや、その他諸々の機能があるのだが。

ハルヒ「来ないで」

黄泉川「ッ!?」

 彼女の前では無意味だった。

 彼女がたった一言呟くだけで、黄泉川はまた背中側へと吹き飛ばされる。
 だが、同じ攻撃を二度も受けていては学園都市の警備員は務まらない。

黄泉川「こなくそっ!」

 盾を思い切りフローリングに突き刺し、ブレーキをかける。
 フローリングの床がめきめきと捲れていくが、気にしない。

 さらに足を床に付けて減速、反発させ、停止どころか再び彼女に対して突撃を敢行した。

ハルヒ「なっ!」

 さすがの彼女もこの人間離れした業には驚いたらしく、一瞬思考が止まる。

 そこへ、黄泉川のチャージが襲いかかった。

ハルヒ「に゙ゃっ!」

 彼女が黄泉川と盾の重量に押し潰される。

黄泉川「犯人確保、暴行罪の現行犯で逮捕じゃんよ」

 さらに盾のスキマから電子手錠を彼女の手にかける。

ハルヒ「っ……やってくれるわね……」

黄泉川「どんな能力か知らないが、能力ってのは考えなくちゃ使えないものじゃん。
    だから驚かせて、能力を自由に行使できない状況を作って捕まえる、警備員の基本戦法じゃんよ」

 さらにもう片手も手錠にかける。

黄泉川「このタイプの手錠はあの『原子崩し』でも中々壊せないものだし、観念しな。
    そうすりゃ初犯ってことで見逃してあげないこともないじゃんよ」

 その言葉を聞くと彼女は意外そうな顔をした。
 先生の優しさに驚いちゃったかななんて黄泉川は自惚れたが、そんなことはなかった。

ハルヒ「へぇ……

    第四位くらいでも壊せるんだ」

 次の瞬間、黄泉川の意識が一瞬飛んだ。

 何かが光ったのはわかったが、何が起こったのかはわからなかった。

 目を開けてみると、窓ガラスは割れ、部屋は滅茶苦茶になり、手錠も盾も粉々に砕けて散らばっていた惨状が真っ先に視界に入ってきた。

 そして、倒れてる自分と、打ち止め。何事もなかったかのように立っている彼女。

 彼女は無言で打ち止めに近づこうとする。


378 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日) 22:37:51.94 ID:MtnwncJS0
黄泉川「くそっ……!」

 だがそうはさせまいと、黄泉川がその間に割って入る。
 すると彼女はまた驚いた表情をした。

ハルヒ「あんな至近距離で受けたのにまだ動けるの?」

黄泉川「伊達に鍛えてないじゃんよ……」

ハルヒ「……アンタ、すごいわね。名前ななて言うの?」

黄泉川「……黄泉川愛穂」

 答えると、彼女は笑顔を作った。

ハルヒ「いい名前ね。私がレベル6になったら真っ先に生き返らせてあげるわ」

黄泉川「そりゃ……光栄じゃん……」

 そして彼女は手を振り上げ――

「調子乗ってンじゃねェぞ」

 人の形をした砲弾がベランダから飛び込んで来た。





御坂妹「――ということなのですとミサカは大人の事情で説明を簡潔に済ませます」

 御坂妹さんは物凄くわかりやすく教えてくれた。

上条「なんだよそれ……」

キョン「何やってんだよハルヒのやつは……」

みくる「は、廃人って……」

古泉「これは……予想以上に厄介ですね……」

長門「……」

 それに対して俺たちは各々のリアクションを取る。

上条「畜生……こいつらだって生きてるんだ! なのに……人の命をなんだと思ってやがる!」

 しかしやっぱり上条さんのリアクションは大きいな。

御坂妹「しかし安心してください、とミサカは追加説明を始めます」

キョン「今の話を聞いておいて安心しろというのは無理があるぞ」

御坂妹「これからの話を聞けば安心しますよとミサカは心配性な貧弱一般人を宥めてあげます」

 こいついい性格してんな。

御坂妹「確かに、私たちは危機的状況ではありますが、
    実はこれは時間経過と共に解消されるのですとミサカはいつも一つの真実を明かします」

上条「時間経過?」

御坂妹「そうです。考えてもみてください、彼女の力は強大です。
    今現在は、私たちに代理演算させるという方法しか提示されていませんが、
    これほどの能力なら他にいくらでも方法が考えられるのです
    とミサカは希望の光を示します」

キョン「でも、そんなの誰も探してないかもしれないじゃないか」

御坂妹「いいえ、探している人はいますよ。しかも凄腕の人がとミサカは倒置法でさらなる事実を述べます」

上条「それって……」

御坂妹「そうです、貴方のほとんど主治医になってる人ですとミサカは言葉を継ぎ足します」

キョン「だがな、その方法が見つかるとも限らんだろ」

御坂妹「それなら問題ありませんよとミサカは一般人らしい杞憂を取り払います。
    なぜならあの人は――」

上条「患者の必要としているものなら何でも用意するから、だろ?」

御坂妹「その通りですとミサカはセリフを奪われて(´・ω・`)とします」

 そんな無茶苦茶な……
 だが、この二人の口ぶりからすると、今までそれを叶えてきていたのだろう。信頼して任せるしかない、のか。

長門「……」

古泉「しかし、その話を聞く限りではおかしいですね」

キョン「何がだ?」

古泉「考えてもみてください、この話を聞く限りでは、まるで涼宮さんの能力に制限があるみたいではないですか」

みくる「確かに、それはおかしいですね……」

古泉「涼宮さんは今まで、様々な物理的制約、常識を越えて能力を発揮していました。
   それなのにこれではまるで涼宮さんにできないことがあるかのようです」

上条「いや何事にも限界はあるものだろ?」

 こっち側の常識を知らない上条さんらしい意見だ。

キョン「ハルヒはな、なんでもありなんだよ」

 そんな上条さんに俺は常識を伝えてやる。

上条「そんな無茶苦茶な……」

キョン「その無茶苦茶を体現するのが涼宮ハルヒという人間なんだ」

 ともかく、これでハルヒの狙いも、意図もわかった。
 今度はこちらから先手を打てそうだ。

長門「……」

キョン「ん、どうした長門?」

長門「……なんでもない。情報を送信していただけ」

キョン「そういえば、お前のところの大将はなんて言ってるんだ?」

長門「今は情報を送信したところ。この世界では情報をやりとりするのに時間がかかる模様。
   まだ回答は返ってきていない」

 長門にも制約があるのか。大事に繋がらなきゃいいが。

長門「……そろそろ時間」

 そう言って長門は立ち上がる。

キョン「何の時間だ?」

長門「学校の寮に戻らなければならない。門限は厳しい」

キョン「そんなもん無視すりゃいいだろうに」

古泉「そういうわけにもいかないでしょう。
   長門さんにはいざという時にはいつでも動いてもらえるようにしていただかないと。
   いつでも力押しで無理矢理なんて余計な被害を生むだけですよ?」

 呆れたように言いやがる古泉。

キョン「言ってみただけだ」

長門「……」

 ということで、長門は霧ヶ丘女学院へと帰っていった。





黄泉川「一方……通行……」

 黄泉川は途切れ途切れに突然舞い降りた白髪の悪党(ヒーロー)の名前を呟きながら見上げる。

一方「よォ。ご自慢の炊飯ジャーは全滅みてェだな」

 一方通行はつまらなそうに部屋を一瞥する。

ハルヒ「へぇ……アンタが『一方通行』だったのね」

 それと対照的にハルヒは面白そうな顔をして一方通行の顔を見る。

一方「何だ、知らなかったのか? 暫定一位の『幻想創造』様も知識には疎いみたいだなァ」

ハルヒ「仕方ないじゃない、こっちの世界に来てから数日も経ってないんだから」

 不機嫌そうにむくれるハルヒ。

一方「こっちの世界? 何わけのわからねェこと言ってやがる」

ハルヒ「アンタには関係ないことよ」

一方「そォかい」

 それだけ言葉を交わすと、二人は黙ったまま見つめ合う。

 マンションは戦場になろうとしていた。

一方「なァ、今、このマンションの住人はどこにいるか知ってるか?」

ハルヒ「はぁ? そんなの知らないわよ」

一方「何でもなァ、爆破テロの可能性があるってされて、住民は全員退避中らしい」

ハルヒ「そうだったの。他の部屋に影響出ないよう、能力調節してたのに意味なかったのね」

一方「そういうことだ。だから、どんなことしても、誰も困りはしねェ」

ハルヒ「それで、全力で戦おう、ってわけ?」

一方「違ェよ」

 ふっと、一方通行が片手を振った。
 すると何らかの力が発生したのか、キッチンがぐしゃりと音を起てて潰れる。

一方「こういうことだ」

 そして、もう片手でいつの間にか持っていた銃の引き金を引く。
 銃弾はしゅーと音を起てながら潰れているキッチンへ。

ハルヒ「アンタ――」

 火花。

 そして爆発。

ハルヒ「きゃあっ!」

 真っ赤な炎が一方通行、打ち止め、黄泉川、そしてハルヒの全員を覆う。

ハルヒ「っ……収まれ!」

 それでも、そんなものでどうこうなるレベル5ではない。
 ハルヒの一言で爆発は瞬時に収まる。

 だが、爆発が収まったそこには――ハルヒ一人しかいなかった。

ハルヒ「アイツ……!」

 そこでハルヒは理解する。
 あの派手な登場も、自分の注意を引きつける挑発も、全ては全員無事に逃げ出すためだったと。

 どんな能力を使ったかは知らないが、おそらく、ダメージを負うようなヘマはしていないだろう。

 まんまと一杯食わされた、というわけだ。

ハルヒ「あったまきた!」

 逃げ道はベランダからしかない。
 だが、相当な速度で逃げていたのだろう。既に視界には映らない。

 それでもハルヒは激情に駆られ、一直線に飛び出した。


 結論から言うと、一方通行たちは遠くには逃げていなかった。
 いるのは隣の部屋。わざわざマンションを爆破したのは隣の部屋まで破壊し、侵入の痕跡を消すためだ。

黄泉川「げほっげほっ……かなり無茶するじゃん……」

一方「二人も抱えて追いかけっこなンかできるか。戦うのなンざ論外だ」

黄泉川「だからってマンションごと爆破させることはないでしょ。
    桔梗が帰ってきてマンションがなくなってたら驚くじゃんよ」

一方「学園都市のマンションがガス爆発ごときで倒壊するかよ」


一方「さァて、時間切れまでかくれンぼだ。どっちが頭がイイかはっきりさせようじゃねェか」





キョン「それでだ、今後はどうするかについてだが」

古泉「やはり、彼女たちの作戦の効率化を図るために、病院という拠点を構えて籠城戦、でしょうか」

キョン「そうだな。今なら御坂妹さんを病院に送り届けられそうだしな」

上条「それについてなんだけど、俺に一つ提案がある」

 と、そこへ上条さんが自信たっぷりに言い出した。

上条「涼宮ハルヒを先に倒しちまうってのはどうだ?」

キ・古・み・御『…………』

上条「な、なんですかその目は!?
   いやだって、そのハルヒってやつをレベル0の俺が倒せば、
   一方通行よりも強くて学園最強っていう前提が崩れるんだから、実験潰れるだろ?」

キョン「……あのな、それができたら苦労しないんだよ」

古泉「そもそも、涼宮さんの居場所なんてどうやって調べるんですか」

上条「いや、実験とやらのためにどこか研究所に世話になってるんだろ?」

古泉「だからどうしたって言うんですか。機関の力を以てしても調べることは不可能なんですよ?」

上条「大丈夫だ、俺にもこういう時の切り札がある」

 prrrrr……

美琴『も、もしもし?』

上条「御坂か? ちょっと頼みたいことがあるんだが……」

美琴『た、頼み事? し、仕方ないわね……』

上条「おお、聞いてくれるのか! ありがとう御坂!」

美琴『べ、別に頼み事を無碍に断るような人間じゃないわよ私は!』

上条「さんきゅー! 後でなんでもお礼するぜ」

美琴『なんでも!?』

上条「ん? どうした御坂」

美琴『ななななんでもないわよ!』

 上条さん、あんたは酷い男だな。

美琴『――うんうん、それで涼宮ハルヒって子の居場所と行動と今後予測されるルートを調べればいいのね?』

上条「ああそうだ、できるか?」

美琴『……アンタ、ストーカー?』

上条「違うわ!」

美琴『やってることはまんまストーカーじゃない』

上条「ただの緊急事態だっての!」

美琴『はぁ……まーた何か変なことに首突っ込んでるんでしょ……そういうのはほどほどにしときなさいよ』

上条「ともかく頼む!」

美琴『仕方ないわね……ちょっと待ってて』

上条「わかっ」

美琴『調べたわよ』

上条「はやっ!?」


古泉「……機関の力を以てしても、一切不明だったのに……」

みくる「恋する女の子は強いんですよ」


美琴『涼宮ハルヒ……ね。例のレベル5のことだったの』

 上条さんは電話をスピーカーフォンに切り替えて、俺たちにも聞こえるようにしてくれる。
 カリカリとマウスをスクロールさせる音がするので、おそらくもう情報を手に入れて読んでいるところなんだろう。

美琴『それで居場所は……は? これ、どういうこと……?』

上条「どうした?」

美琴『「妹達」の上位個体、20001号最終信号・打ち止めを引き取りに? 新絶対能力進化計画?
   何コレどういうことよ!?』

上条「あ……」

 御坂美琴の声が大きく音割れしながらスピーカーから響く。
 上条さんはしまった、という風な表情。

 ……まさか計画が広まるのは予想だにしてなかった、とかなのか?

上条「まあ、その、あれだ。それが緊急事態」

 なんとも歯切れの悪い調子で答える上条さん。
 この人はもしかして、相当な馬鹿なんじゃないだろうか。

美琴『冗談じゃないわよ! 私も今からそこに行くわ!』

 がちゃがちゃと何やら慌ただしい音が聞こえる。
 面倒なことになってきたんじゃないか、これは。

上条「待て美琴、大丈夫だから落ち着け!
   これからそのハルヒってやつをなんとかしに行くから何も問題ないんだってば」

 上条さんは結構無茶苦茶なことを言う。
 まあ、最悪、ハルヒと接触さえできれば長門がどうとでもしてくれるだろうし、なんとかなるだろうけど。

美琴『なんとかするってアンタバカァ!? 
   相手はレベル5、しかもあの一方通行を飛び越えて暫定一位になるような相手よ!?』

上条「それでも大丈夫だ、俺を信じてくれ」

美琴『うっ……』

 はっきりと言う上条さん。おーおーイケメンですねえ。
 仕方ない、俺も助け船を出してやるか。

キョン「それに、誰かナビゲートしてくれる役のやつがいないとそもそもハルヒの元にまでたどり着けないだろ?
    ハルヒはこっちの身内だ、俺たちに任せてくれ」

美琴『確かに、それはそうだけど……うーん……』

 なんだか激しく悩んでる様子が電話を通して伝わってくる。
 これだけ思われるなんて上条さんは幸せ者だなあ。

 やがて、小さく溜息を吐く音がスピーカーから聞こえた。

美琴『……わかったわよ。その代わり、無茶するんじゃないわよ?』

上条「スマン御坂、恩に着る」

美琴『どうせ私が何を言ってもアンタは聞かないんでしょ? 長い付き合いなんだからそんなのわかってるわよ』

 うむ、これがツンデレというやつか。ハルヒもこれくらいの可愛げがあればいいんだがなあ。

美琴『ちょっとだけ待ってなさい』

 がちゃりと何かドアを開ける音がし、すたすたと移動しているような足音が聞こえる。
 そしてどすんと座る音がしたと思ったら、ガチャガチャガチャと物凄い打鍵音が聞こえてきた。

上条「何してるんだ?」

美琴『緊急事態なんでしょ? 全力で協力してあげるだけ。すぐにメール送るから確認しなさい』

上条「あ、ああ……?」

美琴『じゃあ一回電話切るわよ』

 一体何をしているのやら。
 よくわからないまま、電話は一度切れた。

古泉「しかし、よかったのですか?」

上条「何がだ?」

古泉「この電話の相手は、あのレベル5の『超電磁砲』なのでしょう?彼女は強力な戦力になったのでは」

上条「確かに御坂は強い。だけどな、こんなことに女の子を巻き込めるかよ」

キョン「同意見だ。それに長門がいれば戦力ならどうとでもなるだろ」

古泉「まったく貴方たちは……酷い人たちですね」

キ・上『何がだ?』

 やれやれ、と言った風なポーズの古泉。そりゃこっちのセリフだ。
 お前は中学生まで巻き込もうと思うのか。

 と、そこで上条さんの携帯電話が鳴る。
 知らないアドレスだ。

上条「御坂の、アドレスじゃない?」

 すると今度は古泉の携帯が鳴った。

古泉「はい、もしもし」

美琴『もしもーし、上条さんと一緒にいる古泉さんの電話ですかー?』

古泉「御坂さん? 確かにそうですが……」

 なんと電話相手はあの御坂美琴のようだ。
 古泉はすぐさまスピーカーフォンに切り替える。

美琴『ごめんなさい、緊急事態だし勝手に調べさせてもらっちゃいました』

古泉「……機関員の個人情報は機密情報なはずですが……」

キョン「まあ、その、元気出せ」

美琴『ってことで、細かい説明省くわ。
   メール開くと、私がさっき即興で作ったソフトが起動するからそれを使いなさい、以上』

上条「は? えーと……」

 言われて上条さんはさっきのメールを開く。
 するとその瞬間、電源が落ち、すぐに再起動。

 出てきたのは簡素な地図アプリのようなものだった。

美琴『赤い点が涼宮ハルヒの居場所、青い線が予測されるルート、黄色の範囲が涼宮ハルヒの行動可能範囲、
   そして緑の点が現在位置よ』

 おいおい、こんなソフトを今の一瞬で作り上げたのか?
 長門のようなことをしやがるな……なんて街だ。

上条「これはわかりやすい、サンキュー!」

美琴『どういたしまして。
   でもそれは私の能力で無理矢理動かしてるようなものだから、早く決着着けないと携帯壊れるわよ?』

上条「……マジですか」

美琴『じゃあ私は情報収集に専念するから頑張りなさい』

 そう言うとまた電話は切れる。

上条「さてと、反撃開始だな」

キョン「さて、こっちの切り札にも連絡いれるとするか」

 と、そこで俺は気付く。まだ携帯買ってないじゃん。

古泉「はいどうぞ」

 間髪入れず、古泉が携帯を差し出して来やがる。

キョン「だから心を読むな気色悪い」

 だが、背に腹は代えられん。スピーカーフォン設定で長門に電話をかける。

長門『もしもし』

 一切の呼び出し音もせずに長門は電話に出た。さすが直通。

キョン「ハルヒの居場所がわかった、今から突撃するが動けるか?」

長門『……不可能』

キョン「そうかわかった、場所はだなって何!?」

長門『……』

古泉「何か……ありましたか?」

長門『情報統合思念体からの答えが返ってきた』

 おいおい、何やら嫌な予感がするぞ。

長門『自律進化の可能性のため、情報統合思念体は涼宮ハルヒの新絶対能力進化計画の成功を望んでいる』

上条「なんだと!?」

 上条さんがいきり立って俺から携帯を取り上げた。

上条「その実験成功のために、御坂妹たちがほとんど死んだような状態になってもいいのかよ!」

長門『……』

上条「情報父ちゃんだかなんだか知らないが、そいつに話をさせろ!」

キョン「落ち着け」

 上条さんは拳を強く握りしめている。このままでは携帯が握りつぶされてしまいそうなので宥めてみる。

上条「でもな……!」

キョン「こいつの親玉はそういう簡単な話じゃないんだよ……」

 そう言って俺は携帯を取り返す。

長門『……』

キョン「……なあ長門、お前の親玉の方針はわかった。でもな、お前の意思はどうなんだ?」

長門『……私は、応援することしかできない』

 それだけ言うと、電話は切れてしまった。

 ツーツー、とスピーカーからの虚しい音が嫌に耳に響く。

 ……なんてこった。

古泉「これは、困ったことになりましたね」

キョン「まさか唯一の頼りの長門が、か」

古泉「おや、僕も頼りにされていたのでは?」

キョン「うるさい黙れ」

古泉「……酷いです」

 しかし、これは本当にどうしたものか。
 長門の協力がないのはかなり痛いぞ。

上条「いや、いい」

 静かに上条さんは言う。

上条「俺がハルヒを倒せば全部丸く収まることだ」
キョン「そんなこと言ってもな、現実的に考えて、どうやって倒す?
    あいつが力を自在に使えるなら、もうそりゃほとんど神様だぞ」

上条「忘れたのか? 俺の右手は神様の奇跡だろうが打ち消す『幻想殺し』だ。
   もし、その神様が無敵だと思ってるならまずはその幻想をぶち殺す」

 ここに来て、完全に俺たちにできることはなくなったのか。


古泉「まあ、なんとかなるでしょう」

キョン「根拠もなく言うな」

古泉「根拠はありますよ。鍵となる、貴方がいるじゃないですか」

 無茶言いやがる。




 お姉様の様子がおかしい。昨日から携帯が鳴るとトイレに籠もって行ってしまう。
 今日なんてトイレにノートパソコンを持ち込んで行ってしまった。

 今もそのトイレから大声が聞こえて、トイレから出てきたと思えば、ニヤニヤしながら、猛烈に何かを打ち始めている。

 しかも、あの笑みを貼り付けたままでだ。

 全力で協力って何を協力してるんですかお姉様。黒子は心配です。

美琴「もしもーし、上条さんと一緒にいる古泉さんの電話ですかー?」

 するとお姉様はどこかに電話をかける。

 ん?

 上 条 さ ん ?

 ま た あ の 類 人 猿 で す の !?

 というか古泉さんって誰ですの!? 私の知らないところでお姉様にまた変な虫が!?

美琴「ごめんなさい、緊急事態だし勝手に調べさせてもらっちゃいました」

 お姉様に個人情報を調べられた!? 黒子はスリーサイズも調べてもらったことなどないのに!

美琴「ってことで、細かい説明省くわ。
   メール開くと、私がさっき即興で作ったソフトが起動するからそれを使いなさい、以上」

 即興で作ったソフト!? なんですのソフトって、私はハードもソフトもいけますけど……

美琴「赤い点が涼宮ハルヒの居場所、青い線が予測されるルート、黄色の範囲が涼宮ハルヒの行動可能範囲、
   そして緑の点が現在位置よ」

 また新しい名前が! しかもなんだかホストにでもいそうな名前ですの!?

美琴「どういたしまして。
   でもそれは私の能力で無理矢理動かしてるようなものだから、早く決着着けないと携帯壊れるわよ?」

 お姉様の能力で動かしてもらう!? 何をですの何をですの何をですの!?!?

美琴「じゃあ私は情報収集に専念するから頑張りなさい」

 誰の情報なんですのおおおおおおおおおおおおお!?

美琴「……何してんのよ黒子」

黒子「はっ! な、なんでもありませんわお姉様」

 ハンカチを囓っていた私をジト目で見つめるお姉様。嗚呼、そういう目で見られるのもいいかも……

美琴「また変なことでも考えてるんじゃないでしょうね……」

黒子「滅相もありません!」

 私はただお姉様の心配をしているだけですもの。

美琴「まあ、いいわ」

 嗚呼、溜息を吐くお姉様もお美しい。

美琴「ちょっと頼みたいけど、いいかしら?」

 なんでも聞きますとも!





 ということで、俺たちはハルヒの元へと急行する。

 いくらなんでも楽観的すぎやしないかと少し心配だが、まあ、さすがにハルヒが俺たちに危害を加えるようなことはしないだろう。

 とりあえず御坂妹さんは病院に行ってもらった。
 ハルヒの行動は丸わかりなので、安全に届けるのも簡単だった。

空刃裁断「やっと見つけたさあ!」

遠隔感電「ちょこまかと逃げ回りやがって……」

 そこへいつか見た馬鹿っぽい不良二人が走ってる俺たちの前に立ちはだかりやがった。
 というか逃げた記憶なんかないんだが。

みくる「ふぇええぇ……」

上条「お前らは……」

 おや、上条さんも面識があったのか。そういや朝比奈さんを助けたとかなんとか言ってたな。

古泉「誰ですか?」

キョン「なんか朝比奈さんに絡んでくるやつらだ。気をつけろ、二人とも能力者だ」

 やれやれ、こんな時に面倒なやつに会ったもんだ。

遠隔感電「ぐへへ……今日という今日はキッチリ落とし前つけてもらうぜぇ」

上条「俺たちは急いでるんだ。退かないなら力尽くでも退いてもらうぞ」

空刃裁断「やれるもんならやってみるさあ」

 ニヤニヤと笑みを貼り付けたままの二人。
 朝比奈さんの話じゃ上条さん一人にやられたはずだが、なんだこの自信は……

古泉「仕方ありませんね……ちゃちゃっと片付けちゃいますか」

上条「そうだな」

 上条さんと古泉が臨戦態勢を取る。

空刃裁断「おおっと待った、戦うのは俺たちじゃないさあ」

上条「はい?」

遠隔感電「ということでアニキ……よろしくお願いします!」

 それは、ゴツかった。
 筋骨隆々、ラグビー部にでもいそうな大男。
 殴り合ったら勝てる自信などコンピューター研究部の文句をハルヒが認めるくらいありえない。

 しかし、そいつの顔面は不可思議で、肌は白く、唇は赤かった。
 そして服装はもっと不可思議で、なんとタンクトップにスカートだった。

「私のお友達を可愛がってくれたようじゃなぁい」

 そいつはごついテノール声で喋る。中○譲治のような声をしてやがる。

上条「うげっ……」
みくる「うわあ……」
古泉「ウホッ……」


 ――オカマだった。


空刃裁断「ささ、アニキ、やっちまってくだせえ!」

 不良二人はそのオカマの影に隠れる。
 なんだこのふざけた野郎は。

上条「……あー、あれだな、涼宮ハルヒはこの先だよな」

みくる「はいそうですね、ああ、そこ曲がった方が近道です」

「なぁにスルーしてんのよぉ!」

 すたすたと通り過ぎようとしたところをオカマとその金魚のフンは回り込んできた。
 ……周囲の人々の視線が痛い。

上条「うわああああああああこの人は関係ない人です俺たちは一般人なんです!」

 上条さんが必死に周囲に弁解する。しかし世間様は冷たかった。

「さぁてお楽しみの時間よぉ?」

上条「ああもう上条さんはわかりますよー、なんか色々飛び火してあらぬ誤解に膨らむのが目に見えますよー。
   経験則からそういうことになるって相場が決まってるもん!」

 この世の終わりのように嘆く上条さん。うむ、俺も嘆きたい。

古泉「ふんもっふ!」

 そこへいきなり古泉の赤い球が炸裂した。

空・遠『ぎゃっ!』

 爆発はオカマを飲み込み、金魚のフンを吹き飛ばす。
 そして、きゃーという騒ぎにハッテンした。

キョン「おまっ……何やってんだ!」

古泉「こんなところで油売ってる場合ではないでしょう?」

キョン「確かにそうだが……やりようってのがあるだろ!」

古泉「大丈夫です、威力は抑えてありますから」

 いやそういう意味じゃなくてな。

「いきなりやってくれるじゃなぁい」

 しかし、煙の中から声が響いた。

上条「!?」

 いち早く反応したのは上条さん。
 右手を前にして俺たちの前に躍り出る。

キョン「んな!?」

 そこへ俺たちどころか道路ごと飲み込む勢いの、大火力の炎が襲いかかってきた。
 しかし、上条さんの右手に触れた瞬間、その炎は一瞬にして霧散する。

 その先に見えたのは――無傷のオカマだった。

古泉「手加減したとはいえ……あれが無傷とは……」

 古泉が驚いた風な声をする。

上条「気をつけろ……こいつ、かなりの能力者だぞ……!」

「ウフフ……そりゃぁそうよぉ、私はレベル4の発火能力者だもの」

キョン「レベル4!?」

 レベル4ってかなり頭が良いってことなんじゃ。人は見かけによらないな。

「そしてぇ……人呼んで――『情熱女王』(パイロクイーン)様よぉ!」

 いやお前は女じゃないだろ。

古泉「面倒なことになりましたね……」

 珍しく真剣な目つきの古泉。
 こんな珍事によくそんな目つきできるな。

情熱女王「んふふ……でも安心なさぁい。
     用があるのは私らに最初に喧嘩を売ったそこの牛女とツンツン頭だけよぉ!」

みくる「ふぇ!?」

上条「俺たち!?」

 情熱女王はビシィっと朝比奈さんと上条さんを指さして指名する。

情熱女王「なぁんか急いでるんでしょう? 私はそれを無碍にする程鬼じゃぁないわよぉ」

 ……なんか意外に優しい人だ。

上条「……くそ、わかった。キョン、古泉、先に行っててくれ」

 そう言って上条さんは携帯電話を手渡そうとする。

キョン「いやしかし、お前がよくても朝比奈さんがな……」

みくる「私のことは気にせず先にお願いします」

 朝比奈さんはきりっと決意を秘めたような表情で言う。

みくる「それに、私が行ってもできることなんてありませんから……」

 だけど次の言葉は申し訳なさそうに。朝比奈さん、貴方の笑顔さえあれば俺は元気が出ますってば。

古泉「仕方がありません、行きましょう」

キョン「だけどな……」

古泉「ここで時間を食っていたら涼宮さんに追いつけないかもしれません」

みくる「必ず後で追いつきますから」

上条「朝比奈さんは俺が守るから頼む」

 何気にフラグ建てようとするんじゃない。

キョン「仕方ない……朝比奈さんに怪我させたらただじゃおかないぞ」

 二人の決意をくみ取った俺は上条さんから携帯電話を受け取った。

上条「わかってる」

 そう言い残して俺と古泉は先に進むことにした。

上条「そういえばいいのか? 古泉もお前に攻撃してたみたいだが」

 思い出した風に上条は言う。

情熱女王「あの子はい・い・の。なぁんだか似た匂いを感じるのよねぇ」

上条「……」

みくる「……」





一方「そういや時間切れはどうやって知るンだ?」

 息絶え絶えの黄泉川の身体を、ベクトル操作とトイレットペーパーで応急処置を終えた一方通行はそこで気がついた。
 考えてみれば、マンションを爆破してしまったせいで、一切の連絡網が途絶してしまったのだ。

打止「その時は他のミサカが教えてくれるから大丈夫ってミサカはミサカは教えてみたり」

 すると、むくりと打ち止めが起き上がった。

一方「お前、あの爆発を食らって起きて大丈夫なのか?」

打止「大丈夫っぽいってミサカはミサカは自分の怪我の状況を確認してみたり。
   なんか私には煤が付いてるだけみたいってミサカはミサカは報告してみる」

一方「あの爆発で無傷だァ?」

 黄泉川が身を挺して守ったのか、と考えたが、警備員といえど黄泉川はあくまで一般人。
 あの爆発でそんなことができるはずもない。

一方(……どういうことだ?)

 打ち止めは二度も爆発を受けている。
 二度目こそは自分が能力で風のドームを作り、守ったから問題ないのだが、一度目に関しては黄泉川と同じく直撃のはずだ。

打止「そんなことより」

 そんなことを考えていると、打ち止めはとたとたと一方通行に寄ってくる。

打止「お願い、聞いてもらえないかな、ってミサカはミサカは上目遣いで見つめてみる」





 走る走る走る。ずっと走ってきたためにそろそろ疲れてきた。

 古泉のやつはまだまだ余裕そうだ。
 鍛え方が違うんだろうが、こちとら一般人だ。少し速度を落として欲しいもんだ。

 ってか、マジでそろそろ限界。

キョン「ぜぇ……ぜぇ……な、なあ古泉、少し休――うおっ!」

 古泉のやつに休憩を提案しようとした瞬間、やつは急に立ち止まりやがった。

 俺は走ったスピードのまま、古泉の背中に突っ込む。
 しかし古泉は鍛えてあるのか、俺のタックルを食らおうがビクともしなかった。

キョン「いきなり止まるな!」

 至極まっとうな文句を言わせてもらう。

古泉「……」

キョン「……?」

 しかしおかしい。いつもならここで何らかのリアクションがあるものだが、古泉のやつは無言で答えない。

キョン「どうした古いず――!?」

 だが、顔を上げた瞬間、俺にもその理由がわかった。

 それは、自動車だった。

 学園都市らしく、電気がエネルギーのモーター車らしく、俺たちの世界のものとはデザインが明らかに違う。

 だが、それでもわかる。それは自動車だ。

 だからこそ、目の前の光景が俺には信じられなかった。

「超止まってもらいますよ」

 中学生ほどの女の子が、それを持ち上げていたからだ。
 しかも次の瞬間、なんとそれは俺たちに投げつけられた。

古泉「……ッ!」

 それに古泉が反応する。
 手を前にかざすと赤い球が瞬時に形成され、電気自動車へと吸い込まれるように飛んでいく。

 そしてトン単位の質量のある精密機械は派手に爆発した。

キョン「うおっ!?」

 あまりの爆風に俺は思わず腕で顔を覆う。

「あれ、超おかしいですね。資料では無能力者の集団とあったのですが」

 しかし、至近距離で爆発を食らったはずの少女は何ともなかったかのように爆発の中から歩いてくる。

 そのギャップに俺はゾッとした。こいつは、真っ当な世界の人間じゃない。

古泉「はっ!」

 それに対して古泉は赤球を数発叩き込むことで答える。
 女の子の小さな身体が爆発に巻き込まれた。

 相手は小さな女の子だった気がするが。

キョン「おいおい、いくらなんでもやりすぎじゃ――」

 だが、俺の心配は最後まで続かない。

「じゃあ、弱そうなこっちから超さっさと終わらせますか」

 その女の子が目の前に無傷で現れたからだ。
 するとその女の子は拳を振り上げる。

古泉「避けてください!」

キョン「がっ!」

 そこで古泉が俺の身体を押し倒しやがった。
 女の子の拳は虚しく空を切る。

キョン「何しやがる!」

古泉「油断しないでください、この子もおそらく能力者です」

 俺は文句を言うが古泉の真剣な表情が目の前にあった。

キョン「というかまず顔を離せ!」

 思わず俺は古泉を押しのける。
 ――と、そこへ女の子の拳が古泉の顔面に突き刺さった。

古泉「がぁ――っ!?」

 俺は目の前の光景を再び疑った。

 服の上からでもわかる細腕で、俺が力を入れれば折れてしまいそうなほど華奢な腕で殴られたというのに、
 古泉の身体はまるで玩具の人形のように宙を舞って吹き飛んだ。

キョン「古泉ぃ!?」

 思わず素っ頓狂な声を上げる俺。あんな風に吹っ飛ぶ人間なんて初めて見たぞ。

「おや、超ラッキーですね。厄介そうな方から倒せるなんて」

 それを見ながら女の子は冷静に言いやがる。
 冗談じゃないぞ。

キョン「なんなんだお前……」

 尻餅をついたままの俺に対し、女の子は拳を振り上げる。
 人間を軽々吹っ飛ばす威力を持った凶器の拳を。

絹旗「私は絹旗最愛。今さっき、涼宮ハルヒという人物を護衛するように依頼を受けた超臨時のバイトさんです」

 そこで、拳が振り下ろされる。

 ――南無三!

キョン「がっ――」

 だが、俺の身体を叩いたのはその絹旗の拳ではなかった。

 突然発生した横からの爆風が俺の身体を吹っ飛ばす。お陰で俺の身体がスクラップになることは避けられた。

古泉「そのまま逃げてくださいっ!」

キョン「っ!?」

 どこからか古泉の声が響く。よかった、無事だったのか。

絹旗「逃がすわけ、超ないじゃないですか!」

 そうして安心なんてしてると、古泉の願い虚しく、目の前にまた絹旗が。
 今度は御御足を振り上げてらっしゃる。パンツが見えそうで見えない。

古泉「何をしてるんです!」

 そこへ赤い何かをオーラのように纏った古泉が、明らかに人間の身体能力を超えた動きで現れた。
 古泉は腕をクロスさせて俺たちの間に入ると、絹旗の踵落としを受け止める。
 相当な威力ならしく、古泉の足が固まったコンクリートを砕いて沈むが、なんと古泉はそれを受けきった。

古泉「早く、涼宮さんの元へ!」

キョン「いやしかし――」

 俺だけが行ってどうなる、とまでは言い切れなかった。
 先に古泉が言葉を被せたからだ。

古泉「貴方は鍵です! 最悪、貴方だけでも涼宮さんの元へ行ってくれればいいのですよ!」

 無茶言いやがる、とは言えなかった。

キョン「畜生……わかったよ!」

 俺は爆発で痛めた身体に鞭を打って立ち上がる。

絹旗「行かせると、思いますか?」

 しかし、走りだそうとした瞬間、絹旗が俺の前に回り込んで来やがった。

古泉「僕が行かせますよ、なんとしてもね!」

 だが、その絹旗の腹部に古泉の拳が物凄い勢いで突き刺さった。
 さらに赤い爆発付きだ。

 今度は絹旗の身体が玩具のように吹き飛んでいく。

古泉「今の内に!」

相当な力で吹き飛んだにも関わらず、絹旗は足からきちんと着地し、勢いを殺して停止した。

 すぐにでもまた攻撃してきそうだ。迷ってる時間はない。

キョン「ああ!」

 俺は覚悟を決めて、上条さんから受け取った携帯を握りしめながらこの戦場から逃げ出す。

 途中、絹旗が追おうとしていたのが横目に見えたが、古泉がそれを受け止めたようだ。

 古泉に背中を任せて、俺は一直線に走っていった。

絹旗「身体を念動力のような力で超覆って、身体能力を上げるですか……お互い超似たような能力のようですね」

 古泉と絹旗はお互いに腕と腕をつかみ合い、押し合う。
 あまりの力に足場であるコンクリートが耐えられないらしく、どんどんヒビが広がっていく。

古泉「本当はもっと応用が利くんですがね……今は全力が出せないもので、ね!」

 足場が限界であると悟った二人は一度取っ組み合いを解除し、距離を取る。

絹旗「へぇ……本当は超強いんですか」

古泉「それほどでも。これでも七割くらい出せてます」

絹旗「今の約五割増しって超違うじゃないですか。私はレベル4でも超強い方なのに」

古泉「へぇ、貴方もレベル4なんですか」

絹旗「『窒素装甲』(オフェンスアーマー)です。超強いですよ。
   というかその能力は見たことないんですが、超なんなんですか?」

古泉「そうですね……この街の流儀に従うなら――

   『限定能力』(ミラクルギフト)、と言ったところでしょうか?」

とにかく走る。体力の限界はとうに超えてるが、知ったことか。

 俺の手には朝比奈さんと上条さんの決意の入った携帯が。
 俺の身体には古泉の必死の願いのこもった傷が。
 そして携帯の画面には、妹の身を心配する優しい姉の想いが映ってる。

 これを決して無碍にしてなるものか。

 そんなことを考えながら俺は走るが、その足を目の前の光景が止めた。

キョン「お前……」

 よく見知った、同じ世界から来た女の子がそこにいた。

 放課後は部室に集まり、場合によっては休日にも集まり、最近は気心も知れたとも思える仲になってきた仲間がいた。

 だが、そいつのやっている行為を見て、俺は絶句する。

 思わず足を止めて、そいつの表情をじっと見つめてしまう。


 視線が真っ直ぐ、かち合った。


 ――そいつは両手を広げていた。

 ――そいつはぴくりとも動こうとしなかった。

 ――そいつはまっすぐ俺を見つめたままだった。

 ――そいつは――


キョン「――長門……」


 ――身体を張って通せん坊をしていた。


キョン「……どういうつもりだ?」

 俺はわかっていながら、そいつに問いかける。

長門「……」

 無機質な真っ直ぐの瞳は何も答えない。

キョン「……俺はこの先に行かなくちゃいけない、わかるな?」

長門「……」

 機械的に閉じられた唇が僅かに震える。

キョン「……これは俺だけじゃない、他のやつらの願いでもあるんだ」

長門「……」

 そいつは何も答えない。

キョン「長門……」

 そこでやっとそいつは口を開いた。

長門「……情報統合思念体は涼宮ハルヒの絶対能力進化を望んでいる。
   この実験により、涼宮ハルヒの能力のさらなる進化が予想された
   ……貴方の介入はあってはならない」

キョン「そんなことを聞きたいんじゃない」

長門「……今回の実験により、彼女の能力は新たな発見を迎える可能性が高いと判断された」

キョン「そんなことを聞きたいんじゃない!」

長門「……これは自律進化について非常に有益な情報」

キョン「そんなこと、どうでもいいだろ」

長門「……もし、貴方がこの先に進むのなら――」

キョン「なあ、長門……!」


長門「――私は貴方の存在を抹消してでも、止めなければならない」


 ――最悪だ。




黒子「初春ー?」

 白井黒子は同僚の名前を呼びかけながら風紀委員詰め所の扉を開ける。

初春「あれ、白井さんどうしたんですか? 今日は非番のはずじゃ……」

 目的の同僚、初春飾利はそこにいた。
 いつも通りに頭に花を乗せて、パソコンの前で情報処理をしている。

黒子「ちょっと頼まれてほしいことがあるそうですの」

初春「頼まれて、欲しいことですか?」

 初春が首をかしげるとかさりと頭の花が音を起てる。

美琴「すごく私的なことなんだけど、緊急事態なの」

 そこへ、白井黒子の憧れのお姉様、御坂美琴が続いて入ってきた。

初春「御坂さんまでどうしたんです? ま、まさか何か事件ですかっ」

御坂「いや、なんていうか、事件というか実験というか……
   とにかく、詳しい内容は話せないけど、協力してもらえないかな?」

 初春は驚いた。あの御坂美琴がお願いなんてただ事ではない。

初春「で、でも、私ができることなんてコンピューター関連ですよ?」

美琴「そのコンピューター関連のお願いなのよ」

初春「えっ……私にですか?」

 それこそ初春は驚いた。

 御坂美琴は電気使いのレベル5である。
 確かにハッキングの技術に関しては初春の方が上かもしれないが、電脳世界で美琴にできないことなどほとんどないのだから。

初春「でも、御坂さんにできないことなら多分私にもできないですよ……」

 頭の花が萎れそうな勢いで申し訳なさそうに初春は言う。

美琴「いやいや、そんな難しいことじゃないの。
   ちょっととある人のことを調べてもらって、その動きをナビゲートしてもらいたいだけ」

初春「動きをナビゲート、ですか?」

美琴「そう。
   ちょちょいっと人工衛星にハッキングして、あとできる限りの個人情報を集めて動きを予測して欲しいのよ」

初春「ってそれまるっきり犯罪じゃないですかっ!」

 何気なしに言った美琴にツッコミを入れる初春。

美琴「ダメカナ?」

初春「ダメですよっ!」

黒子「初春、本当に切迫した状況だそうですの、どうにか協力していただけませんか?」

初春「そんなこと言っても……というか、それなら御坂さんでもできるんじゃ?」

美琴「私はちょっとそいつに用があるから出向かなきゃいけないのよ」

 ばつの悪そうに美琴は言う。

美琴「自分勝手なお願いなのはわかってるけど、本当にお願い! お礼はなんでもするから!」

 そしてあの御坂美琴が手のひらを合わせて頭を下げている。
 あまりの事態に黒子はその様子を見て白くなってしまっている。

初春「うーん……わかりましたよぉ……」

美琴「ホント!?」

 御坂美琴直々に出て行かなければならないということは、やはり相当の事態なんだろう、と初春は判断した。
 しかも、ここまで頼まれてしまっては、友達として断るわけにもいかない。

初春「それで、誰のことを調べればいいんですか?」

美琴「えっとね、涼宮ハルヒって言うやつのことなんだけど――」

 と、そこで詰め所の電話がけたたましく一斉に鳴り出した。

 美琴は何事かと驚いたが、黒子と初春は意味が分かっている。

 事件発生の緊急電話だ。

初春「はい、こちら風紀委員第一七七支部!」

 初春と黒子は急いで電話を取る。

固法『事件発生よ! 推定レベル4の発火能力者が暴れてるわ!』

初春「事件ですかっ……!」

 初春は無言で御坂美琴を見上げる。

美琴「こんな時に……!」

 あまりのタイミングの悪さに美琴は親指の爪を噛む。

黒子「……私にお任せを!」

固法『あれ、貴方今日は非番じゃ……』

黒子「たまたま来ていたところですわ。今から至急、そちらへ向かいます」

 それだけ言うと、黒子は電話を切ってしまう。

黒子「私がさっさと片付けてきますわ。初春はお姉様のお願いを聞いてなさい」

初春「でも白井さん! 相手はレベル4の発火能力者ですよ!?」

黒子「例え初春のサポート無しでも、この私がただの発火能力者に後れを取るとでもお思いで?」

美琴「黒子……!」

 美琴は心配そうに黒子を見つめるが、状況が状況だ。黒子に頼るしかない。

黒子「安心してください、お姉様。私はお姉様の相棒ですのよ? もっと信頼なさってくださいな」

 そう言って黒子はウィンクする。

美琴「……っ頼んだわよ」

初春「御坂さん!?」

黒子「頼まれましたわ」

 それだけ言うと黒子は空間移動してどこかに消えてしまう。

初春「白井さん!」

美琴「初春さんお願い、黒子に任せてあげてくれないかな?」

 思わず追いかけようとする初春を美琴は抑えて、見つめる。

初春「……ああもう、わかりましたっ! 後で白井さんのお願いも聞いてあげてくださいねっ」

 そしてそんな美琴の、黒子への信頼に満ちた真っ直ぐな瞳に初春は屈服した。





 上条当麻は、善戦していた。

情熱女王「あぁ、もうなぁんなのよぉ、その右手はぁ!」

 『情熱女王』は両手を前に突き出すと、そこから火の玉を生み出し、上条の元へと飛ばしていく。
 何かに着弾すれば即爆発の超危険な砲撃である。

上条「『幻想殺し』って言ってな!」

 だが、上条にはそんなものは通用しない。
 それぞれの火の玉に触れるだけで、それらはガラスが割れるような音と共に消えていってしまう。

上条「異能の力ならなんだろうが打ち消してくれる不幸の源だ!」

 そして一気に『情熱女王』の元まで踏み込んだ上条は右手で思い切り殴りつける。

情熱女王「何それぇ! ふぅざけてるわぁ!」

 しかしそれは届かない。
 上条が自分の能力を打ち破ってくることを予見していた『情熱女王』は既にバックステップで退避していたからだ。

情熱女王「もぉ……仕方なぁいわねぇ……本気を出すわよぉ!」

 すると突然、『情熱女王』はタンクトップを脱ぎだした。

みくる「きゃあああ!」

 それを見たみくるは思わず両手で顔を覆うが、もう遅い。
 彼女の脳内にはあの筋骨隆々な逞しい姿が焼き付いてしまった。

上条「なっ……!」

 その次の瞬間、上条は息を飲む。
 『情熱女王』の全身が燃え上がったからだ。

情熱女王「ただの発火能力で『情熱女王』なぁんて名乗ると思ったのかしらぁ?」

 炎は見る見る内に燃え上がり、体積を広げていく。

情熱女王「これが私の能力、『情熱女王』よぉ」

 そしてそれは大きな炎の人型と化した。

上条「なん……だと……?」

 上条の脳裏に、知り合いの魔術師の使う『魔女狩りの王』という魔術が浮かぶ。
 だが、それは『魔女狩りの王』とは全く別物だった。

上条「ぐあっ!?」

 『情熱女王』は速かった。
 一瞬で上条との距離を詰めると、じゅあっという肉の焼ける嫌な音と共に上条を殴り飛ばす。

 元々、『情熱女王』は筋骨隆々の大男ではあったが、それでもこの身体能力は異常だった。

情熱女王「人の筋肉は激しく動くと発熱するの。そう、熱よぉ。
     だから熱を支配する私たち発火能力者の力を応用すればねぇ……」

 『情熱女王』は喋りながら、殴り飛ばした上条にさらに近づく。

情熱女王「こぉんなこともできるのよぉ!」

 そして、高速で連打連打連打。
 普通の人間の身体能力の限界を超えた動きで『情熱女王』は上条をたこ殴りにする。

上条「く、くそっ……!」

情熱女王「遅い遅い遅ぉいぃ!」

 それに対し、上条はカウンターを数発放とうとするが、全て空振り。

情熱女王「あなたに足りない物ぉ、それはぁ、情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さぁ――そして何よりも――」

上条「――ッ!」

情熱女王「速さが足りなぁいのよぉ!」

 そして『情熱女王』は思い切り上条当麻を右ストレートで殴り飛ばす。

 最悪だ、と上条は思った。

 上条の右手は確かに異能ならばなんでも無効化する、ある意味ジョーカーのような右手だ。
 だがしかし、上条当麻は、それ以外は至って普通の人間なのだ。

 上条当麻が高位の能力者に勝つ方法は一つしかない。
 相手が傲り、侮り、油断しているところを突くのである。

 だからこそ、自分の身体能力の一切通用しない、しかも傲りも侮りも油断もない相手には相性が悪い。

 最悪、路地裏の喧嘩でも負けることがあるのだ。

 そして、この相手は、その最悪の相手だった。

上条「がはっ――」

 殴り飛ばされて、上条は背中から地面に着地する。
 肺の空気が根こそぎ持って行かれる感覚がした。

上条「畜生……」

情熱女王「へぇー……やるわねぇ」

 それでも上条は起き上がる。上条に敗北は許されないのだ。

情熱女王「そのガッツは認めてあげるわぁ。でもやめときなさぁい。
     貴方の身体は限界よぉ。もぉふらふらじゃなぁい」

上条「関係……あるか……」

 上条は息絶え絶えに言う。

上条「俺が倒れたら……お前は次に朝比奈さんを襲うんだろ?
   俺はキョンのやつに頼まれたんだよ、朝比奈さんを守ってくれってな。
   代わりに、キョンのやつには、重い物を背負わせた。御坂妹たちの命だ。
   そんなもの背負わせたのに、俺だけ寝てるなんて許されるはずないだろ!」

 息絶え絶えに、言う。

情熱女王「色男ねぇ……惚れちゃいそうだわぁ」

上条「それにな、あんたは強ぇよ。本当に強い。
   だけどな、なんでその力をこんなことに使うんだよ!
   あんたの力があれば、もっとたくさんの人が救えるだろ!
   もっと色んなことができるだろ! なのになんでこんなつまらないことに使うんだよ!
   俺はあんたによく似た力を使うやつを知ってるよ。でもなそいつの力はこんなことに使うものじゃねぇ!
   大事な人を守る力だ! あんたはせっかくの力なのに完全に使い方を間違っちまってんだよ!」

 息絶え絶えに……言う。

上条「あんたがその力をまだ間違った方向に向け続けるっていうなら――


    ――まずはその幻想をぶち殺す!」


情熱女王「……言いたいことはそれだけか?」

上条「っ!?」

 すると『情熱女王』が低い声で言った。
 上条の本能は身構えるように命令する。

みくる「ま、待ってくださぁい!」

上条「朝比奈さん!?」

 だが、そこに場違いな甘ったるい声が響く。朝比奈みくるのものだ。

情熱女王「おとなしくしてな。気が変わった、俺はお前の相手よりもこいつの相手を本気でする」

みくる「そ、そうはいきませんよぉ! か、上条さんに何かしたらゆ、許しませんからぁ!」

 がくがく足が震えたまま、だがしかし、みくるは勇気を振り絞って声を張り上げる。

情熱女王「お前に何ができるんだ? こいつのような、根性も、勇気も、力もない、お前が」

みくる「で、できますよぉ!」

 上条は下がっていて、と言いたかったが、膝が崩れ落ち、言うことができない。

上条(くそっ……くそっ……約束なのに、守らなくちゃいけないのに……!)

 上条の思い虚しく、『情熱女王』はみくるに注意を向け始める。

情熱女王「じゃあ、見せてみろ」

 そう言って、情熱女王は上条に炎で包まれた右腕を向ける。
 手に形成されていく、炎の塊。

みくる「ビ、ビーム撃ちますよっ!?」

 その言葉を聞くと、『情熱女王』は酷く残念そうに、

情熱女王「そうか」

 と呟いて、上条に炎弾を放つ。





 斜陽の差してきた学園都市に二つの影が高速で舞う。
 古泉と絹旗だ。

絹旗「はぁっ!」

 何度目かの接触。
 しかし、単純なパワーは絹旗に分があるらしく、接触の度に古泉は疲弊していく。

 そうしてこの接触で、古泉はついに押し負けた。

古泉「くっ!」

 古泉が腕をクロスしてガードを固めたところに、絹旗の細腕が突き刺さる。

 踏ん張っていたはずの古泉の身体はその威力で宙を舞った。

古泉(力比べでは不利、ですね……!)

 それでも、能力で固めた防御により、ダメージは薄い。

 恐らく似たような能力の絹旗もそれはわかっているのだろう。
 絹旗はすぐに追撃を仕掛けるべく、古泉の身体の描く放物線をなぞるように追いかける。

古泉「っふん!」

 だが、素直にやられたままの古泉ではない。
 追いかけてくる絹旗に赤い球をお見舞いする。

 赤い球は高速で迫ってきた絹旗に直撃。爆煙が彼女を包み込む。

絹旗「そんな癇癪玉が通用すると思ったら超大間違いです」

 だが、それでも絹旗は無傷。煙の中から何事もなかったかのように飛び出してくる。

古泉(やはりこの程度の力では通用、しませんか!)

 両手を握って頭上に振り上げる絹旗。
 反撃を諦めた古泉は、そこで最大まで防御を固める。

 そこに絹旗のダブルスレッジハンマーが降り注いだ。

古泉「がっ――」

 重力と能力の二重が合わさった攻撃で、古泉の身体は激しく地面に叩き付けられた。
 それを背に、絹旗はすたっと地面に着地する。

古泉「さすがに……これは効きましたよ」

 砕けたコンクリートから古泉はなんとか這い出てくる。

絹旗「頑丈ですね、超しつこいです」

古泉「貴方ほどではありませんよ」

 それを見て、絹旗は構える。古泉の確認する限り、彼女にはまだ目立った傷は一つもない。

古泉「しかし……大体わかったことがあります」

絹旗「わかったこと、ですか?」

 絹旗は可愛らしく首をかしげる。絹旗は可愛い。

古泉「んっふ、そうです」

 それに対し、古泉は気持ち悪く解説を始めた。

古泉「貴方の能力は自分自身の身体能力を単純に強化する物ではありませんね?
   僕の見立てでは、恐らく、何かが貴方を覆って守ったり、その何かが怪力を発生させているのでしょう」

絹旗「そりゃあ、超アーマーですからね」

古泉「問題はその何かです。最初は超能力らしく貴方の言う、『念動力』か何かの不思議な力かと思っていました。
   だが、それはどうも違うようです。最初に貴方を殴った時に確信しました」

絹旗「……?」

古泉「僕は能力を使って爆発を起こすことができます。その爆発の瞬間、僕は拳がめり込む感触がしたんですよ。
   そこで僕は思いました、これは、空気の塊だと」

絹旗「へぇ……超よくわかりましたね。80点、ってところでしょうか」


古泉「まだまだもっとわかってますよ。爆発は酸素がなくなります。
   なので、その分、装甲が薄くなったのかと思いました。
   だけど、考えてみればそれはおかしい。
   それならば全て燃焼したとしても、代わりに二酸化炭素が発生します。
   空気の装甲なら、それを操られてしまえば終わりですし、
   そんなもので身体を覆っていれば窒息してしまいます。
   何より、酸素を伝って爆発が内部まで及ぶはずですので、無傷のはずがありません」

 そこで古泉はピッと人差し指を立てた。

古泉「だからこそ、僕は確信しました。貴方の周りを覆っているのはただの空気ではない、と。
   そして、僕の爆発で酸素を奪われないように遮断することもできるので、酸素で固めてるわけでもない。
   そこまでわかれば後は簡単です。
   ただの空気ではなく、そして空気中に多量にある酸素以外の気体と言えば一つしかありません。

   ――貴方の能力は窒素を操ることですね?」

 絹旗の愛らしい表情が僅かに驚きに染まる。

絹旗「……超すごいですね、100点満点です」

古泉「爆発で薄くなったのは、爆発で瞬間的にできた真空のため。
   燃焼が伝わらずに貴方の周囲の酸素が急激に消費されないのは、窒素が遮断しているため」

 その絹旗を見て、古泉は怪しい笑みをさらに深める。

絹旗「でもそれが超どうしたんですか?
   酸素でないから爆発ではどうこうできませんし、真空ができたからといって、
   そこに攻撃を叩き込むのは超不可能ですよ?」

古泉「それが、そうでもないんですよ」

 すると古泉はまた赤い力を生み出した。

 ただし、それはいつものような球体ではない。
 まるで円を引き延ばしたような、そう楕円形だった。

古泉「ふっんもっふ!」

 それを古泉は振りかぶって、投げつけるように発射。
 絹旗は当然、そんなものなど気にしない。

絹旗「だからそんな超ちんけな癇癪玉じゃ――」

 だがその瞬間、絹旗の脳裏にとあるサイヤ人の王子の言葉が過ぎった。

絹旗「ッ!」

 間一髪のところで絹旗はそれを避ける。

 するとそれは絹旗の装甲に激突したにも関わらず、彼女のすぐ横を過ぎ去った。
 絹旗の可愛い顔に傷が付いてしまう。頬に一筋の赤い線が通る。

絹旗「これは……!?」

 そこに拳を構えた古泉が接近。

 本来ならばなんてことのない攻撃のはずだが、危機感を感じた絹旗は思い切りバックステップをして背後に避ける。

古泉「どういう技か見切られちゃいましたか」

 その絹旗をストーカーのごとく古泉は追いかける。

絹旗「くっ……!」

 それに対して絹旗はさらに距離を取る。
 絹旗の選択肢は近接戦闘しかないのだが、今はその選択肢が選べない。

絹旗(なぜあんな超弱い攻撃が私の装甲を……?)

古泉「どんどん行きますよ!」

 だが、距離を取れば取るほど古泉の思う壺だということにそこで気がついた。

 古泉は楕円形の赤球をいくつも作りだし、遠距離攻撃を続ける。

 装甲を貫通されては絹旗はただのか弱い可憐な女の子だ。
 あんなものを食らったらひとたまりもない。

 絹旗はそうして避けるためにさらに距離を取る。

 距離を取れば取るほど、状況は一方的になるのはわかっていても、為す術がなかった。

古泉「不思議そうですね」

 余裕を手に入れた古泉は饒舌だ。

絹旗「そういう貴方は超余裕そうですねっ!」

 そんな古泉に苛立ちを感じながらも、絹旗は攻撃を避け続ける。

古泉「降参していただければ、優しく解説してあげますよ?」

 さらに球の数を増やす古泉。
 絹旗の逃げ道はだんだんとなくなっていく。

絹旗「超結構です!」

 つまりそれは未だ手加減されている、ということで、絹旗はそれが癪に障った。

 だが、逆にチャンスでもある。
 逃げ道のなくなるほどの球を出せるのに出さない、ということは、相手は自分を殺すつもりはまだない、ということだ。

 逆にこっちは仕事なのだから、あの気持ち悪い笑みを殺して壊すことも厭わない。

絹旗(今の内にあれの正体を超確かめないと……!)

古泉「――降参、しないのですね?」

 そこで、古泉の表情が真剣なものとなった。

絹旗「……!」

 眼前に生み出される数えるのが億劫なほどに多数の赤い楕円形。

古泉「残念です」

 逃げ道など、なかった。

絹旗「なっ――」

 そしてそれは放たれる。

絹旗(ここまでですか……!)

 苦し紛れに、絹旗はすぐ横にあった電気自動車を投げつける。

 しかし楕円形の赤い雨は、その自動車ごと絹旗に降り注いだ。

 超爆発。

絹旗「……?」

 しかし、絹旗は無事だった。

 尻餅を着いて、爆煙がなければ素晴らしい白の絶景が丸見えだが、
 それでも頬を走る傷以外、まだ無傷である。

絹旗(あの車が傘に……? いやそんなはずはない)

 これに驚いたのはむしろ絹旗の方だ。

絹旗(私の装甲を貫通する超威力のものが、車を貫通できないわけがないですし……
   あの量で当たらなかったというはずも超ないです……もしかして!)

 そこで気がついた。

絹旗(あれが貫通できるのは私の装甲のみ? いや、超そもそも、私の装甲は貫通されていない?)

絹旗「……超そういうことですか」

 絹旗は立ち上がる。

古泉「おや……」

 煙が晴れて、無傷の絹旗を見て僅かに驚く古泉。

絹旗「わかりましたよ、その超くだらないトリックが」

古泉「トリックですか?」

絹旗「超とぼけないでください。その球、常に爆発してるだけなんでしょう?」

古泉「……!」

 今度こそ古泉は驚いた。

絹旗「楕円形なのは回転して遠心力が働いてるため。
   なぜ回転しているかと言うと、常に爆発し続けるために変わる形状を別の力で調節させるため」

 そう言って、絹旗はどこからともなくヘアスプレーのような缶を取り出す。
 何やらプリントされているようだが、古泉には判断できなかった。

絹旗「そしてその爆発で超常に周りが真空になり、装甲の邪魔が超入らないだけ、ですね?」

古泉「……すごいですね、貴方も100点満点ですよ」

 話を聞いていた古泉はぱちぱちと拍手をする。

古泉「しかし、わかったところで貴方の能力では、これに対抗する術はないでしょう?」

絹旗「確かに、私の能力だけではそうですね」
絹旗「でも、対抗策くらい、ありますよ!」

 そう言って絹旗は大地を蹴る。

古泉「いいでしょう、付き合ってあげますよ」

 同じく、古泉も接近。

 速度は合成され、時間にして一瞬で二人は再び近接戦闘へと移行した。

 だが、状況は先程と違う。
 先程と同じく確かにダメージは与えられるものの、微々たるものしか与えられない絹旗。
 それに対し、拳の周りを常に爆発させることで装甲を貫通し、常に一撃必殺となった古泉。

 古泉は、勝てる、と踏んでいた。

古泉「はっ!」

 眼前まで絹旗が接近したことを確認し、必殺の正拳突きを放つ古泉。
 その攻撃で、終わるはずだった。

絹旗「超なよっちい攻撃ですね」

 だがそれは、絹旗に受け止められた。

間のスプレー缶のようなものが凄まじい音で破裂するが、お互いに能力を強化した二人にはそんなものは障害にならない。

絹旗「っ!」
古泉「ぐ!?」

 だが、古泉は拳に焼けるように強烈な痛みを感じた。
 絹旗も同じくそれを感じたようで、顔をしかめてる。

絹旗「このっ!」

 そしてそのまま絹旗は古泉を押し倒し、馬乗りになった。
 単純な身体能力では負けている古泉はそれを防げない。

古泉「なっ――」

 そして驚きで思わず口を開けた古泉の口に、先程のスプレー缶のようなものが突っ込まれた。

 その文字を見て、彼は驚く。

絹旗「チェックメイトです」

 文字はN2。

 缶の正体は、液体窒素である。






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152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日) 00:22:00.86 ID:8OAneMda0
幻想殺しで上条さんには世界改変の影響はないからキョンのことは当然知らない
しかし、記憶がないので「俺はクラスメイトだ」と強気に出られると
「そうなんだ」という形で話をあわせるしかない
ということか


153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日) 00:24:14.79 ID:MtnwncJS0
>>150
その通りでごわす


なぜ古泉が絹旗のバリアを抜けたか

917 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/08(火) 23:27:04.05 ID:Pj8vYZNWO
ごめん、意味が分からない


918 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/08(火) 23:28:24.41 ID:FP+is0L+P
ほら、爆発して窒素飛ばしてるんだよ、よくわかんないけど


921 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/08(火) 23:35:02.43 ID:YZMUr7p80
>>917
爆発すると温度上昇でほぼ真空になります→空気が入り込んできてもさらに連続で爆発させ続ければ真空を維持できます→絹旗の能力では攻撃に介入できなくなってそのままそいつが突っ切ります→ふんもっふ



174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日) 01:53:17.60 ID:MtnwncJS0
スマン、キリのいいところまで書きたかったがそろそろ美琴せんせーの活躍が始まるみたいだ
アッー!ンパアッー!ンマアッー!ンの後にパティシエールまでまた書く


175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日) 01:54:51.66 ID:MtnwncJS0
誤変換した
アンパンマンだ


512 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/07(月) 13:07:57.89 ID:wljBWofXO
キョン「戦闘に入る前に古泉と家族の話をしていてよかったぜ・・・
    どんなフラグでもへし折る、それが俺の能力『絶対旗折』
    なかなか優秀な能力じゃないか、なぁ古泉」


キョン「古泉・・・?」







キョン「し・・・死んでる!」


566 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/07(月) 17:37:42.40 ID:IzuBx4dl0

 ということで、俺たちはハルヒの元へと急行する。

 いくらなんでも楽観的すぎやしないかと少し心配だが、まあ、さすがにハルヒが俺たちに危害を加えるようなことはしないだろう。

 とりあえず御坂妹さんは病院に行ってもらった。
 ハルヒの行動は丸わかりなので、安全に届けるのも簡単だった。

空刃裁断「やっと見つけたさあ!」
遠隔感電「ちょこまかと逃げ回りやがって……」

 そこへいつか見た馬鹿っぽい不良二人が走ってる俺たちの前に立ちはだかりやがった。
 というか逃げた記憶なんかないんだが。

みくる「ふぇええぇ……」

上条「お前らは……」

 おや、上条さんも面識があったのか。そういや朝比奈さんを助けたとかなんとか言ってたな。

古泉「誰ですか?」

キョン「なんか朝比奈さんに絡んでくるやつらだ。気をつけろ、二人とも能力者だ」

 やれやれ、こんな時に面倒なやつに会ったもんだ。

遠隔感電「ぐへへ……今日という今日はキッチリ落とし前つけてもらうぜぇ」

上条「俺たちは急いでるんだ。退かないなら力尽くでも退いてもらうぞ」

空刃裁断「やれるもんならやってみるさあ」

 ニヤニヤと笑みを貼り付けたままの二人。
 朝比奈さんの話じゃ上条さん一人にやられたはずだが、なんだこの自信は……

古泉「仕方ありませんね……ちゃちゃっと片付けちゃいますか」

上条「そうだな」

 上条さんと古泉が臨戦態勢を取る。

空刃裁断「おおっと待った、戦うのは俺たちじゃないさあ」

上条「はい?」

遠隔感電「ということでアニキ……よろしくお願いします!」



573 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/07(月) 17:48:20.78 ID:U/Ad47+s0
アニキ「この世の理はすなわち速さだと思いませんか、物事を速くなしとげればそのぶん時間が
 有効に使えます、遅いことなら誰でも出来る、20年かければバカでも傑作小説が書ける!
 有能なのは月刊漫画家より週刊漫画家、週刊よりも日刊です、つまり速さこそ有能なのが、
 文化の基本法則!そして俺の持論でさ-------ァ!」
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