上条「……サイレン?」

2010年03月02日 21:33

上条「……サイレン?」

※注意

PSYREN×とある魔術の禁書目録ssです。両方のネタバレを大いに含みます
設定が少なからず矛盾している箇所もあるのでパラレルワールドと考えてください

このssの時系列としては15巻(10月9日)直後辺りを想定しています。
しかし、これ以後19巻の内容との矛盾、というか基本的な部分での矛盾が生じます。
パラレルワールドと考えていただくか、無理矢理矛盾を解消してください

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 13:29:11.06 ID:OG+suAMc0

とある休日。昼前の事だった。
例によって補習を終わらせた上条当麻は第七学区の通りを歩いていた。

「さーて、お腹をすかしているシスターさんもいることだし、さっさと帰って昼飯でも作りますか」


「やめなさい、って言っているでしょ」

「おいおい、連れねーな。少しぐらいいいだろ?」


「アレは……」

常盤台の制服を着た少女が不良に絡まれていた。
上条にとって、不良に絡まれる女子を見ること自体は珍しくない。
そして、そんな場面に遭遇すると彼は決まって同じ行動をとっている。

「見捨てる訳にはいかない、よな」



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「あー、悪い悪い。待たせちゃったな。さ、行こうぜ」

そういいながら上条は不良と常盤台生徒の間に入り、常盤台生徒の手を握る。

「いやー、待ち合わせ場所にいないから探しちゃったよ」

少女の耳元で小さく「話をあわせて」と呟くと、少女は、

「……気安く触らないで。ていうかアンタ誰よ?」

上条の手を振り払いキツイ口調で言った。

「……え?」

「え? じゃないわよ。いきなり人の手握って。恋人のふり? バカじゃないの」

今まで上条はこの手で何人かの女の子を不良から助けたことがある。
大抵は大人しく上条のいう事を聞いて、その場から離れるのだが……

「あ、あのですね……俺はアナタが困ってるから助けようと……」

申し訳なさそうに上条が言うと、少女は見下すかのように言う。

「困ってる? 私が? いつ、どこで?」

「えっと、その余計なお世話……でしたかね?」

「大正解。……バカじゃあ無いのね」

「ということで。アナタの助けとかは特にいらないから。じゃあね、ヒーロー気取りの誰かさん」

初めての経験に戸惑う上条。そんな上条を冷ややかで、バカにするかの様な目線で見る少女。
……二人のやり取りに痺れを切らした不良。

「……黙って聞いてればテメェら。ふざけてんじゃねぇぞ!」

「ほ、ほら! 言わんこっちゃない!」

不良が怒号を上げ、上条は少女を庇うように前へ踏み出る。
しかし、その上条を押しのけるかのように少女が前に踏み出て、掌を不良に向ける。

「うるさいわ。―――有線トランス」

少女の掌がポッと光ったかと思うと、そこから簪に線をつないだようなコードが飛び出した。
淡く光を放つコードの先端、簪のような部分、は不良の頭に突き刺さる。

けれども、不良が振りかざした拳は止まらない。
上条は少女を再び庇おうと前にでようとするが、その瞬間、

「おやすみなさい」

少女の声がして、拳が空中で停止した。まるで映像の停止ボタンを押したかのように。

「な……は、がぁっ!? ぐぎゃがががが……ぐぼぇあぅぶ……」

不良が発しようとした言葉は意味不明な雑音に変わり、体中の力が抜けたかの様にその場に崩れ落ちる。
倒れる不良を支える物など何も無く、不良はコンクリートの地面に叩きつけられた。
見ると不良は白目をむき、口からはだらしなく涎をたらしている。そんな無様な不良の姿を少女は見下し、

「ほら、ね。簡単でしょ?」

今日一番の笑顔で言い放った。

常盤台の少女が不良に絡まれていて、助けようとしたけど失敗して。
色々やっているうちに不良が切れて、そしたら少女が何かをして、不良が白目むいてぶっ倒れた。
助けようとした少女はぶっ倒れた不良を見下して万遍の笑顔。

「こ、これは……何を?」

事態を把握しきれなくなった上条は素朴な疑問を口にする。

「まあ一種の精神攻撃ね。まあ半日ぐらいでおきるだろうし。放っておいても大丈夫よ」

淡々と答える少女。上条は少なからず倒れている不良が不憫に思えてきた。

「それって……能力か? ああ、なら……こうすればいいんだ」

倒れてる不良を見て、上条は彼の頭に近づける。

「? 何やってんの? そういう趣味でもあるわけ?」

上条の意味不明な行動に少女は質問を投げかける。

「まあ見てろって。俺の右手は特別なんだ」

そういって不良の頭に自らの右手で触れる。何かが壊れる音がした。

「っにしやがん―――……え?」

「おはよう」

突然目を覚まして、声を上げた不良に上条はいった。
不良は戸惑った様子で辺りを見回し、少女が彼の視界に入ると、

「う、うわぁぁ!?」


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 14:11:32.84 ID:pXogBIOj0
                                                            


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 14:13:18.36 ID:OG+suAMc0
「もう悪さするなよー……まあ俺が言えた事じゃねーけどな」

走り去る不良の背中を見ながら上条は言った。

「……アンタ、何者なの?」

少女が問う。彼女自身、自分が不良に何をしていたかはわかっていた。
有線トランスによる精神侵入。軽く精神に衝撃を与えて行動を不能にする、というものだった。

「何者って……とある高校に通う上条当麻っていう者でして……」

「そう。私は雨宮桜子。常盤台中学校三年」

「やっぱり年下か。ビリビリといい……常盤台の奴は年上を敬えないのか?」

「そうみたいね。面倒だし、いいんじゃないの?」

「そうですかい。じゃあ、気をつけろよ。雨宮さん」

「そちらこそ」

雨宮と別れた上条はハラペコシスターの噛み付きからわが身を守るため、スーパーへ向かう。

「散々な目に合ったぜ……雨宮桜子、か」

思い浮かぶのは数分前の光景。

「精神攻撃っていうぐらいだから……精神系の能力者か」

「常盤台の奴だったし、最低でもレベル3か」

「まあ、いっか。さて、お買い物……っと」

「何……だと……?」

何がいけなかったのだろうか。
補習があったこと? ……違う。間に合う様に補習を終わらせたのだから。
答えはそう。わかっている。……誰かを責められる訳でも無いのだが。
それは上条当麻の日常である"不幸"だった。

目の前には"売り切れ"の文字。
その通りにワゴンは空となっていて数分前まであったであろう卵は無くなっていた。
ハラペコシスターさんの、延いては自分の貴重なタンパク質となる卵は……無い。


「だァァァァァ! 不幸だァァァァ!」

店を出て、そこから数秒もしないうちに上条は叫んだ。
道行く人が振り返るが気にしない。それほどに上条は不幸だった。


「卵がぁ……タンパク質がぁ……」

地面を見つめ、ただひたすら、呪文の様に言葉を呟く上条。
そんな彼をどう思ったのだろうか、一人の少年が彼に近づく。

「おいおい、どうしたんだ? そんなに騒いで」

「はい?」

そこに立っていたのは制服を着た上条と同い年ぐらいの少年。
上条と同じぐらいの身長で、右手には先ほどまで上条がいたスーパーの袋を持っている。

「卵がどうとか聞こえたんだけど……もしかして買い逃したとか?」

「……そうですけど……」

「あー、そっか。それじゃあさ、俺の分やるよ。必要なくなったし」

少年はそういうとスーパーの袋から卵を2パック取り出して上条に差し出す。

「こ……これは……!?」

「ほら、やるよ。知り合いに呼び出されてさ、早く行かなくちゃならねえんだ」
「今から家に戻ってる暇もねえし。ほら、早く」

「は、はい……」

上条はやや戸惑いながらも少年の差し出す卵を受け取った。

「あ、ありがとうございます! えーっと……」

「夜科。夜科アゲハ。よろしくな」

「上条当麻です。よろしくお願いします。本ッ当にありがとうございます!」

「いいって。じゃあな」

夜科と分かれた上条は第七学区の通りを上機嫌で歩いていた。

「たまごっ♪ たまごっ♪ たまっご~♪」

スキップ交じりに道を行く彼の姿は結構目立ち、少し離れた場所にいる御坂美琴の目にも映っていた。

「あ、見つけたわよ! アンタ、私と勝負しなさい!」

「何だお前か。ビリビリ。悪いが今、上条さんはとてつもなく忙しい。じゃあな」

「ビリビリ言うな! アンタの都合なんてどうでもいいのよ!」

「勘弁してくれよ美琴ちゃん」

「なっ……美琴言うなァァァァァァァ!」

上条の言葉に顔を真赤にした美琴は電撃を放つ。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 14:55:35.24 ID:onpCJXGR0
http://beebee2see.appspot.com/i/agpiZWViZWUyc2VlchQLEgxJbWFnZUFuZFRleHQY8KseDA.jpg
一応拾ったの貼っておく


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/25(木) 15:01:16.48 ID:OG+suAMc0
これは慣れだろうか。美琴の電撃に右手を突き出す癖が付いているのは。
……嫌な事になれたものだ。そう思いながらも上条は電撃を右手で受け止める。
数億ボルトを誇る学園都市第三位が放った電撃は上条の右手に触れた瞬間、四方に飛び散る。

―――多大なる犠牲と共に。

「な……あ……あぁ……た、卵ォォォォ!!」

スーパーの袋を右手に下げたまま電撃を防いだのだ。
中身が揺れるのは当然の上、電撃の衝撃。基本的に脆いとされる卵が無事であるハズが無かった。

「嗚呼……卵がぁ……」

グシャグシャになった卵の入った袋を抱えて上条は嘆く。

「わ、悪かったわね……そんなに嘆かなくたって……」

「お前は何一つわかっちゃいねぇ。この卵はな……夜科さんから頂いた大事な大事な……!」

「夜科? 夜科アゲハ?」

美琴がその名前を出したのは意外だった。
男には興味なさそうな奴だし、何よりもアイツに近づこうものなら白井が黙ってはいない。

「へ? お前、夜科さんのこと知ってんのかよ?」

「……勿論よ。ていうかアンタは何か知ってるの?」

「何って……普通にいい人じゃねーか?」

「そうよね。まあ危ない噂も聞かないし。……知らないみたいだから教えてあげる」

一度、美琴は言葉を区切り、

「夜科アゲハ。学園都市最強のレベル5第六位『漆黒暴王(メルゼズドア)』」

場所を移して、喫茶店に美琴と上条はいた。

「へー。レベル5ねえ。人は見かけによらないなぁ……あんな人がレベル5だなんて」
「第六位って言うと……お前、夜科さんより強いのかよ?」

「能力未詳の第七位を除けば、第三位から第六位の実力はダンゴ状態なのよ。第二位以降がぶっ飛んでるだけで」
「夜科アゲハの能力は特殊でね。……多分、私がアイツと戦えば負けるわ。レベル5の順位なんか関係なしに」
「でも、事実、夜科アゲハは第七位を除けばレベル5の中では最弱。私よりも強いのに、よ」
「レベル5って、一人で軍隊と戦える、っていうのが目安らしいのよ。あくまで目安だけどね」
「だけど、夜科アゲハはそれが出来ない。アイツの能力は相手が能力者でなければ殆ど力を発揮できないの」

「能力者専用の能力ってことか?」

「詳しくは知らないわ。噂では第二位と似た性質の能力っていうのも聞いたんだけど……まあ噂は噂ね」

一通りの説明を終え、美琴はアイスティーに口をつける。
上条はハッ、と思い出したかのようにとある少女の名前を言った。

「なあ、御坂。雨宮桜子って知っているか?」

ブボッ。名前を言った途端だった。
目の前にいる常盤台のお嬢様が口に含んだアイスティーを噴出したのは。

「げ、げほ……はぁ……はぁ……」

そんな姿の学園都市第三位『超電磁砲』を心配そうな目で見つめる上条。
紅茶で濡れる美琴を見て、上条はテーブルに置かれたおしぼりをとって、

「おいおい、びしょぬれじゃねーか。ちょっと動くなよ。吹いてやるから」

そう言って美琴の顔におしぼりを近づける。

「い、いいから! だ、大丈夫!」

美琴はそれを顔を真赤にして拒否した。
思わず電撃が漏れ、隣の人の携帯電話の調子がおかしくなったのは別の話。

「アンタって本当……本当に面白いわね。で? 雨宮桜子と何かあったの?」

「まあな。ちょっとだけ。やっぱ知ってるのか。友達?」

友達、という言葉に美琴はイラっときたのか、声を大きくして、

「そんなわけないじゃないの!」

ドンッとテーブルに手を叩きつける。危うくコップの水が零れそうになった。

「ま、まあ。落ち着けって……じゃあアイツは何者なんだよ?」

上条の質問に半ば呆れながらも美琴は不機嫌そうな顔で答える。

「……雨宮桜子。常盤台最大派閥の女王サマ。レベル5第五位『心理掌握』」

「あ、アイツもレベル5なのかよ!?」

先ほど、夜科アゲハの話を聞いたばかりの上条にとっては衝撃の事実だった。
驚きを隠せない上条を尻目に美琴はつまらなそうな顔で話を続ける。

「……性格の悪い女よ。下の奴らが騒ぎ立てているのをいい事に調子に乗って……」
「本人はあんまり興味ないみたいだけどね」

「あんまり仲はよろしくないようで?」

「当たり前じゃないの。私、ああいうの嫌いなの」

「あー。本当にむかつくわ。あの女……。あのえらそうな態度!」

上条がここまで機嫌が悪い美琴を見るのは久しぶりだった。
前髪がピリピリと音を鳴らし、そこから出る青い火花から上条は目を逸らす。

「で、でもさ。結構いい奴っぽかったぜ?」

「外面はいいのよ」

怒りを静めようとした言葉は撃沈。

「だよな……なんか言葉遣いもよくなかったし……」

「そうね。アンタもあんまり関わらないほうがいいわよ」
「最近じゃあ暗部の組織に関わっているとか……」

「そっか。気をつけるよ、美琴ちゃん」

上条が笑ってそういうと美琴は顔を真赤にして、

「美琴ちゃん禁止!」



夜科アゲハは学舎の園の前にいた。携帯電話の画面に表示されるメールが一通。
雨宮桜子からの一緒に遊びに行こう、という内容のメールだった。

「遅いな……」

メールが届いたのが11時頃。
待ち合わせの時間がすぐだったので、家に帰って食材を置いてくるなんていう暇は無かった。
結果的に上条当麻という人物に分け与えて、その後大急ぎで来た訳だが……

「何でいねぇんだよ……」

再び携帯の待ちうけを見る。待ち合わせの時間から既に20分は経過していた。

「ごめーん、待った?」

そこに雨宮桜子はやってきた。

「いや、別に」

20分待ったことは言わなかった。怒られるのは嫌だし。以前は数時間待った事もあるのだから。

「あのさ、夜科。ちょっと聞きたい事があるんだけど……」



「能力を打ち消す能力、ねぇ……」

雨宮が話したのはほんの少し前の事。
不良に絡まれ、雨宮が撃退した。これにいたっては普通のことなのだが。

「ソイツは雨宮の精神操作を打ち消したのか?」

確認するかの様に問う。雨宮は首を縦に振った。

「私の精神操作を打ち消すには基本的にそれ以上の能力が必要なの」
「でも、私以上の精神操作は存在しない。……ってなるとやっぱり打ち消した、っていうのが正しいのかもね」

「だよな。そういえば前無かったか? そういう都市伝説」

夏休みに入ってすぐの事だった。
"全ての能力を打ち消す能力"という都市伝説が流行っていたのは。

「あとで書庫なりで調べてみようかしら……えっと、名前は上条当麻、だったっけ」

上条当麻、という人物に夜科が反応する。

「上条? ツンツン頭で俺と同じぐらいの身長の?」

すると雨宮は驚いた様子で答える。

「ええ。多分、その人ね。……知り合い?」

「ううん。ちょっと、な」

「ふうん。面白い事もあるのね」



第十九学区。廃れた学区のとあるビルの一室。
元は事務所としての役割を果たしていたであろうスペース。
今では机は壊れ、窓ガラスは粉々になり、床や壁は血で真赤に染められている。

「おィおィ。だらしねェな。こンなもンかよ?」

無数の死体が転がった部屋に一方通行はいた。
周りに転がっている死体は数分前まで威勢良く動き回っていた人間。
けれども彼の前では普通の武器など意味が無かった。結局、一方通行が能力を使ったのは数秒だけだった。
後はほぼ無力化した者たちを銃で一人一人撃ち抜いていくだけ。

「お前で最後かァ?」

最後の一人、脚が一本千切れて血まみれになっている男、の口に一方通行は銃身を突っ込んだ。

「ガキの人身売買たァ……ロクでもねェことを」

「……じゃァな。小悪党」

引き金を引く。乾いた音が響き、部屋の中に立つ人間は一方通行だけとなった。
他の敵がいないのを確認した一方通行は机の引き出しを強引に開け、中身を探る。

「……コレかァ?」

手に取ったのは数枚の書類が纏められたファイル。
その中の一枚を見ると人物の年齢、身長、体重、顔写真などが記載されていた。けれども、そこに名前は無い。

「……人身売買のカタログってトコロか」
「商品に名前は必要ねェってか……下らねェよ

しばらくして、一方通行は携帯電話を取り出して操作を始める。
コール音がなり、三つ目のコールで相手が出る音がした。

「おィ。土御門、ガキ共の名簿を手に入れた」

電話の相手、土御門元春は応える。

『了解ぜよ。次は子供達が閉じ込められてる倉庫に向かうにゃー。倉庫番がいるから気をつけるにゃー』

「誰に忠告してンだ? 切るぞ」

土御門の返答を待たずに一方通行は通話を終了させ携帯電話をしまう。
一度、名簿に目を通すと近くにあるであろう今は使われていない倉庫に向かう。

「……おかしくねェか?」

GPSに表示された倉庫。
その前の角で立ち止まり、角から倉庫を見た一方通行は一人、呟いた。

「……見張りが一人もいやしねェ。どうなってやがンだ?」

「待ってても仕方ねェな。行くか……」

倉庫の扉は堅く閉ざされていた。無論、破壊された形跡などは無い。
一方通行は首のチョーカーに付けられた電極のスイッチを入れ、扉に触れる。
ぐにゃり、と鉄製の扉がまるでゴムか何かのように曲がり破壊された。

「生きてるかァ?」

「ひ、ひぃ……」

突然破壊された扉。そこから現れた形相の悪い男。
中にいた子供達が恐れるのには十分すぎた。

「怯えンな。こっちはテメェらを助けてに来たンだよ」

「あ、あなたは……誰? ヒーローさん?」

一人の少女が怯えた表情で言う。一方通行は少し黙って、

「違ェよ。ヒーローは俺じゃねェ。俺は……悪党だ」

「おィ、テメェら。そこ並べ」

一方通行を味方と認識したのか、そこにいた十数人の子供達は一列に並ぶ。
その子供達の顔と先程手にいれた名簿の顔写真を一人一人確認していく。

「……あァ?」

最後の一人を確認し終えて、一方通行は不思議に思った。

「おィ。一人足ンねェぞ? どっかに隠れてンなら出て来い」
「……テメェら何か知らねェのか? 額にキズのある四歳ぐれェのガキだ」

「……その子なら」

先程一方通行に話しかけた少女が呟く。

「あァ?」

「その子は連れて行かれちゃった……」

「連れて行かれたァ? ここには鍵がかかってンだろ?」

「で、でも……誰かがきて、それでリコちゃんを……!」

リコ、というのは連れ去られた少女の名前だろう、と一方通行は解釈する。
よく考えれば連れ去る方法など幾らでもある。ここは能力者の街、学園都市なのだから。
現に一方通行と同じ組織には空間移動系能力者が存在する。彼らの力を持ってすれば非常に容易いことだろう。

(しかし、何故ガキを連れ去った……?)
(四歳ならまだ能力開発もしてねェだろ……ンなガキを連れ去る必要があンのか)

「訳わかンねェ……」



「どうなってやがンだ。土御門」

「こっちでも絶賛調査中ぜよ。……っと、出た出た」

土御門が弄るノートパソコンの画面を一方通行は覗き込む。
そこに表示されているのは見覚えのある、額にキズを持った少女のデータ。

「本名、八星理子。生年月日不明。推定四歳。赤ん坊の時点で置き去りとなって今現在は孤児院生活」

「赤ん坊? 学園都市に入れンのは小学生以降じゃねェか」

土御門の言葉に一方通行が反応する。学園都市のカリキュラムにより、能力開発が行えるのは小学生以降。
その上、置き去り、というのは入学金のみを支払い親に捨てられた子供を指すのだ。

「特別な事情があるぜよ。……コイツは赤ん坊の時点で置き去りにゃー」
「大方、学生同士で子供が産まれたんだけど世話できずに……って感じぜよ」

「それでか。ふざけやがってなァ……」

一方通行は吐き捨てるように言った。

「で、どうするンだ?」

「俺らの任務は"子供の全員解放"ぜよ。まだ達成じゃねーぜよ」

「……仕方ねェな。はるかぜ学園、とやらに行くぞ」



時を同じくして、とある場所で。二人の男がいた。

「マズイな。邪魔が入ったかもしれない……」

「邪魔? 創造主はシャイナによって手に入れた。他に何かあるのか?」

「ああ。創造主を誘拐していた組織があっただろう。それが潰された」
「このままだと確実にアシがつく。……はるかぜ学園の証拠隠滅を早めよう。頼めるか? ジュナス」

「……任しておけ」



「さーて、夜科。遊びに行きましょうか」

「そうだな。何処行くか―――

リリリリリン… リリリリリン リリリリン リリリリリリリリリリン……!!

携帯電話に施された専用の着信音。
特定の番号からのみこn着信音が鳴るが、その電話には出られない。
かと言ってこちら側からかけなおす事も出来ない、一方的な召集の合図だった。

「……ッ! ……空気の読めない女ね。デートはお預けね。行きましょう、夜科」

携帯のボタンを押し、ベルを止めると雨宮は不機嫌そうに言った。

「そうだな。ヒリュー達もいるはずだ。急ごう」

第七学区に存在するとある私立病院。
その地下に『サイレン』の本拠地は存在した。

―――学園都市暗部に存在する組織『サイレン』
直属の上司である『ネメシス』の手足として学園都市を暗躍する。
系統や機密としては『グループ』『アイテム』『ブロック』などと同程度の組織。

「よぉ。夜科、雨宮」

本拠地につくと、そこには既に『サイレン』の一員である朝河飛龍、望月朧、霧崎兜がいた。
勿論、夜科アゲハと雨宮桜子も『サイレン』の一員であり、重要な戦力となっている。

『揃ったか』

全員が揃ったのを見計らったかのようにスピーカーから声がする。
『サイレン』を統括する謎の人物『ネメシス』の声だった。

「召集された理由ぐらいはわかるだろう。……任務だ」
「……『ワイズ』が動き出した」

「『ワイズ』……?」

『学園都市に存在する組織だ。……とは言っても直属の上司は存在しない』
『アマギミロクと呼ばれる男をリーダーとして動く。その目的は第三次世界大戦の勃発辺りだろうかな』
『敵は相当の戦力を持っているため、警備員や風紀委員では太刀打ちできないだろう』

『……けれども奴らは表立った事件を起こさずに潜んでいたのだが、ついに動きを見せた』

『ネメシス』は人身売買組織のことや、そこから子供が足りなくなったことを話す。

『……はるかぜ学園だな。誘拐された八星理子がいた場所だ』
『奴らはおそらく証拠隠滅にかかる。はるかぜ学園に来た所を捕獲、調査だ』

『……それと、『ワイズ』に関係する手がかりもある』
『『グリゴリ』と『ホーム』その二つの施設も調査してくれ』

最後にそう言って、ネメシスの声は途絶えた。静まり返った室内で、飛龍が口を開く。

「……ワイズ。はるかぜ学園に、グリゴリ、ホーム、か。面白くなってきた」

ついで朧。

「面白いね。敵が強ければ強い程面白い……!」

「お前ら絶対に命が幾つあっても足らないぜ!?」

最後にカブトが声をあげた。



「つーことではるかぜ学園には俺らが行くぜよ」

一通りの準備を済ませた土御門は後ろに海原を従えて言った。

「はァ? ンで俺が待ってなきゃァいけねェンだ?」

「あくまで調査にゃー。俺と海原が丁度いい。……それに」

土御門はチラッと海原と一方通行の顔を見比べ、

「こっちの方が一般人受けがいいぜよ。……つーかお前がいると園児が泣くにゃー」

「ふ、ふざけンなァ!」

怒号が飛ぶ。相変わらず土御門はヘラヘラ、海原はニコニコと笑みを浮かべて、

「そう怒らずに。アナタにも近辺で待機していただきます。もしもの時は来て下さいね」

「……チッ。勝手に死ぬンじゃねェぞ」

「あら、残念そうね」

不機嫌そうな顔をしている一方通行に結標が声をかける

「あァ? ンだ?」

「幼女を助けられなくてご不満かしら?」

「よく言うな。ショタコン露出狂が」

面倒そうに一方通行が言うと結標は、

「あら、レディーに対してそれは無いんじゃないの?」

という。一方通行は不思議そうな顔で言った。

「グループに女なンていねェだろォが。あァ、海原なら女に化けられるかもなァ……」



はるかぜ学園は異様な雰囲気に包まれていた。
本日は休日のため、本来は園児たちが外で遊んでいるはずである。
現にここに来るまでに通った幾つかの保育施設でも園児が外で遊んでいた。

「……誰もいませんね」

海原が疑問を口にする。

「ああ。……全員揃って旅行にでも行っているといいんだが」

そういいながらも二人は校庭を横切り、建物へと向かう。

その二人を建物の中から見つめる人物がいた。

「邪魔が入った。……素人ではなさそうだ」

『……面倒だな。隠滅に時間はどれくらいかかる?』

「少なくとも奴らが来る前には終わらない」

『そうか。仕方ない。殺せ』

ピンポーン。
家の中にインターホンの音だけが響く。応える者はいない。

「留守、でしょうか?」

「んー……」

土御門は何の気なしにドアノブをひねる。
するとガチャ、という音と共にドアノブが周りドアが開いた。

「……カギを開けっ放しで遠出するとは思えませんが」

「だにゃー。……気ィ引き締めていかないと危ないぜよ」

「……ハイ」

一つ目の部屋。おそらく職員用であろう事務室には誰もいなかった。
ただ付けっぱなしのディスプレイの画面が薄暗い部屋を不気味に照らす。

「……パソコンか。ちょうどいい。ちっと調べるぜよ」

土御門はそういうとパソコンの前に立ち、なにやら操作を始めた。
それを見て海原は、

「お願いします。……僕は他のところを見てきますので」

そう言い、土御門と別れて別の部屋を見る。
次の部屋にも誰もいなかった。その次も、そのまた次も。

「……残るは食堂、でしょうか。行きましょうかね」

地獄とはこのような場所なのだろうか

「……ッ!?」

海原は目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
本来、園児と職員が仲良く食卓を囲むであろうこの一室に園児を含む職員は集まっていた。
……全員が血まみれになり、誰一人たりとも動かない状態で。

「これは……!」

海原は事態の報告のために慌てて携帯電話を取り出す。
しかし、

「穏便はやめ、だ」

後ろから声がして。海原の手に握られた携帯電話が粉々に砕け散った。

「―――毘沙門・礫」

何かが投げられた音がした。
咄嗟に海原が振り向くと、そこには獣の様に凶暴な目付きをした、ジュナスと呼ばれた男が立っていた。
次の瞬間、自らを襲う二つの衝撃。腹部に熱を感じ、見ると腹部に刃が刺さっていた。

「が……ッ!?」

思わず傷口を押さえ前のめりになる海原をジュナスは逃さない。
人間の限界を超えたスピードで海原に迫り拳を海原の腹にめり込ませる。

「ぐが……あ」

気持ちの悪い音がして海原の意識が一瞬飛んだ。
そのまま海原は数メートル吹っ飛んで壁に激突する。

「何者だ?」

ジュナスは倒れる海原に対して言う。
その手に握られているナイフはいつでも止めを刺せる、というメッセージでもあった。

「……あなた、達こそ……」

「……俺達は『ワイズ』。世界の再創造を目指す」

「させま、せん……」

腹部からの出血は悪化するばかり。
海原には土御門のような回復能力もなければ、本物の自分のような能力も無い。
けれども。それでも。海原、いやエツァリには守らなければならないモノがある。

「負けられませんよ……こんな所で……ッ!」

海原は黒曜石のナイフを取り出し、ジュナスに切っ先を向ける。
金星の光を反射して放つ術式、トラウィスパンクウトリの槍。全てを分解する光線。

「……なっ!?」

ジュナスは大きく横へ跳ぶ。
光線を避けたジュナスは壁に足をつけ、体制を建て直し再び海原を狙う。

「やはり避けますか……」

海原は笑っていた。その目線の先にあるのは建物の天井。

「これは……!」

天井、いや建物全体に刻まれた文様。
この意味を知るのは海原と、土御門のみ。

大きな音をたてて建物が崩壊した。

一方、サイレンの本拠地では。
明らかになった目的地。はるかぜ学園、グリゴリ、ホーム。

「五人で一つ一つ行くのはムダだな。三つに分けよう」

飛龍が言う。

「ああ。そうだな……どう分ける? 雨宮?」

アゲハの問いに、雨宮は少し考えて、

「戦力で分けましょう。私と夜科が一人づつ、朝河君、朧さん、霧崎で一つ、ね」

「わかった。気をつけてくれよ、雨宮さん、夜科君」

「任しておけ。……それじゃあ、俺がはるかぜ学園に行く」

土御門からの連絡が来たのが3分前。
一方通行の能力を持って擦れば数百メートルの距離などほぼゼロに等しい。

「おィおィ、何ですかァ?」

崩れた建物。瓦礫の上に立っているのはジュナスただ一人。
ジュナスは新たに現れた一方通行に対して敵意を剥き出しにする。

「土御門と海原のヤロウはどこ消えやがったンだァ?」

辺りを見回してもあるのは瓦礫だけ。他の人間は見当たらない。

「まァ、構わねェ。テメェを殺してから探せばいいンだからなァ!」

「新手、か……」

一方通行を見据え、ジュナスは両手にナイフを握る。
対する一方通行もジュナスをにらみチョーカーの電極スイッチを入れた。

「―――毘沙門・礫」

弾丸の如く放たれた刃は真直ぐ一方通行へ向かう。

「ンだァ!?」

怒号。同時に刃はジュナスの身体に突き刺さっていた。
自らの攻撃で後ろに吹き飛ぶジュナス。一方通行は更に攻撃を続ける。

「もっと楽しませてくれよォ!」

地面を自らの足で蹴ると、石が弾丸となってジュナスの身体にのめりこむ。

「ハッハァ! ……つまンねェなァ。飽きた、死ね」

狙いを定め、地面を蹴り自らを音速で飛ばす。油断は無い。相手は人間。
一瞬でも触れれば生体電気や血流の流れを操作して肉片と化すのだから。

「いいね、いいねェ!」

距離が縮まっていく。一瞬で十数メートルの距離が縮まった。
一方通行は確信した。勝った、と。……その瞬間、

「そこまでですよ」

声がして、ジュナスが消えた。

「ンだァ!?」

怒号をあげる一方通行。見ると、少し離れた場所にジュナスと青年がいた。
その能力を一方通行は知っている。瞬間移動。11次元ベクトルを用いて、物体を転送する能力。

「空間転移……。あァ、ガキを連れ去ったンもテメェか」

「シャイナです。以後よろしく」

「興味ねェよ。で? テメェも俺と戦うのか?」

「まさか。ジュナスさんがやられた相手に挑むなんて、ありえませんよ。……それでは」

そういい残し、シャイナとジュナスは消えた。
一方通行は先程まで二人のいた空間をにらみ、電極のスイッチを切る。

とある病室で。二人の少女と少年がいた。
一人の少女はベットで寝ているのは無表情の天然少女、滝壺理后。
もう一人はふわふわニットのワンピースを着た大人しそうな少女、絹旗最愛。
そして、滝壺と話す柄の悪そうな少年、浜面仕上。

三人が話す中、絹旗の携帯電話が揺れる。

「超電話です。すこし外に行ってきます。あ、私がいないからといって滝壺さんと超イチャイチャしないで下さいよ」

絹旗は電話に出ながら病室を後にする。
残ったのは非常に気まずい空気になった二人。

「……大丈夫だよ。私ははまづらがそんな事しないって知ってる」

滝壺は浜面を励ますようにそう言った。

休憩室で絹旗は電話を続ける。

「……はい。超わかりました。要するにソイツらをぶっ潰せばいいんでしょう?」

「超問題ありません。……ホーム、ですか。はい。超わかりました」

しばらくして、病室に戻った絹旗は浜面たちに向かって申し訳なさそうに、

「すいません、超用事が入りました。少し出かけて来ます」

「用事? ……また暗部絡みか?」

浜面が言うと絹旗は不都合そうな顔をして、

「そうです。こういうときだけ超勘が鋭いんですね。流石、超浜面です」

「俺も行かなくて大丈夫なのか……?」

「何を。超問題ありません。むしろいないほうが超いいです。アナタはここで滝壺さんでも守っていて下さい。超浜面でもそれぐらいは出来るでしょう?」

三つに分かれた『サイレン』のうち三人、朧、飛龍、カブトはホームへ向かっていた。
ワイズのメンバーがかつて所属していた研究組織で何らかの資料がある、との事であった。

三人は車に乗り、第二十三学区に属するホームを目指す。

「あとどれくらいで付きそうか?」

助手席に座るヒリューが運転する朧に聞く。

「……あと十分ぐらいかな。スピード違反で捕まったら最悪だからね、すまない」

「ったくさー。お前らそんなに急いだってさぁ……向こうで危ない事あるかもしれねーんだぜ?」

後部座席に座るカブトがつまらなそうに言った。するとヒリューは

「その為にお前がいるんだ。『脅威幻視(メナスヴィジョン)』レベル3」

「わかってるけどさー。後で何か奢れよ、お前ら」


「……アレですね。強襲で超一発です」

ビルの上から車道を見下ろす少女はえいっ、と声を出してビルから飛び降りた。


「あー、クソ。お前ら絶対に俺を守れよ! 絶対だからな!」

カブトが毎度の事ながら騒ぎ立てる。それにヒリューはハイハイ、と面倒そうにうなづいた。

「ったく……え?」

「どうした霧崎?」

ヒリューが問う。すると、カブトは慌てて、

「車を停めて逃げろ! やられるッ……!」

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

叫び声を上げてカブトたちが車から降りた直後。
上空から絹旗が落下し数秒前までカブト達の乗っていた車が粉々に粉砕された。

「……おや? 超おかしいですね。予定だと一発で超グシャグシャのはずなんですけど」

「生憎だね……。それで、僕達に何の用かな?」

朧が問う。絹旗は何の迷いもなく、

「粛清……っていうかアナタ方を超殺します。超ご愁傷様です」

「ちょ、コイツやばいって!」

カブトは声をあげて、朧の後ろに隠れた。

「……さ、超やられちゃってください。とおっ!」

可愛らしい声をあげて絹旗が持ち上げたのはグシャグシャになった車。
既に車としての原型は止めておらず金属の塊、と言ったほうがよいのかもしれないが。

「お、おい! 朧! お前の『身体烈破(ライズ&キュア)』でどうにかしろよ!」

「済まない。アレは身体能力を上げる能力だけど、自動車を受け止める力は無いよ」

簡潔に言う。カブトの表情に焦りが見え隠れする。

「ということで、さようなら」

絹旗は自動車を持ち大きく振りかぶって、

「……そういう事かよ。なるほどな……! 朧、安心しろ。俺達は死なねぇ」

カブトは空を見上げて小さく笑った。

「ヒーローは遅れて空からやってくるってなぁ!」

「超意味がわかりません、ねッ!」

自動車は投げられた。数トンの金属の塊がものすごいスピードでカブトに迫る。
しかし、その自動車はカブトに届くことは無かった。

「……よぉ。今日はいい天気だな」

見えない何かに押しつぶされた自動車は地面にのめりこみ、大爆発を起こす。
砂埃が待って辺りが見えなくなる中、絹旗に一歩づつ歩みよる大きな影がひとつ。

「……ッ! 超最悪の土砂降りですね……!」

「朧、霧崎。先に行け。ここは俺が食い止める」

「……すまないな。頼んだよ。行こう、霧崎」

朧はそういうと、霧崎を連れて走り去っていった。

「さあ、始めるか。……行くぞ」

「ハァァッ!」

砂埃の中、絹旗の目に何かが映る。
それはファンタジー映画で現れる圧倒的な力を持った存在の象徴的な、

(龍の……翼!?)

轟音と共にものすごい風が吹き抜ける。
砂煙を吹き飛ばすだけではない。道路のコンクリートが捲りあがり、標識は倒れる。
それはまさに龍の飛翔の如く。たった一度の羽ばたきで全てをなぎ倒す圧倒的な存在。

「……ッあ!」

窒素装甲を纏い圧倒的な防御力を持った絹旗でさえも後ろへ退かざるを得ない。

「超面白いですね……あなた、何者ですか?」

絹旗が問うと、朝河は何の迷いもなく応える。

「ドラゴン」

絹旗は一度、距離をとって様子を見る。
敵の攻撃が先程の翼だけならば攻撃範囲には限りがあるのだから。

「こっちは幾らでも投げられるんです……! まだ超諦めませんよ!」

「おいおい、俺が物を投げられないって何時言ったんだ?」

「……!? アレは……!」

朝河の腕から延びる淡く光る物。
先程のを翼と例えるならば、尻尾。全てを薙ぎ払う龍の尻尾(ドラゴンテイル)。
その尻尾が蒔き付くのは自動車。

「超ふざけてます……! そんな事も出来るんですか……! でも……!」

絹旗は思いっきり地面を蹴る。その反動で一気に朝河に接近し、窒素装甲を纏った拳を突き出した。

絹旗最愛の能力、窒素装甲は圧倒的な強度を誇る。
それは電磁狙撃砲が放ったスチール弾でさえはじき消す程のものである。
その超堅牢な装甲を纏った拳は自動車を一撃で破壊し、ビルでさえも崩す事が出来るだろう。

(手ごたえが……無い? まるでドラム缶に生身で打ち込んだみたいに……!)

「『堅牢装甲(ライズスキン)』。念動力の亜種みたいな能力だ。お前に俺は貫けない」

「超悪夢です……! 完全に私の上位能力じゃないですか……!」
「それにこの力……! レベル4でも相当上位……! 下手したらレベル5に分類され兼ねませんね……!」

「まだやるか? ……お前じゃ俺に勝てねぇよ」

「……まだやるのか。仕方ないな……! ハァッ!」

朝河は本気で拳を振るう。
その衝撃は窒素装甲を擦り抜けて、絹旗本人の身体にまで及んだ。

「かっ……はぁ……」

呼吸が苦しくなり絹旗の息が荒れる。四つんばいになって既に能力も解かれていた。
既に完全無防備となった絹旗に朝河が一歩づつ近づく。今の状態の絹旗は中学生並みの身体能力しかない。
能力など使わずとも殺せてしまうほど、少女は弱っていた。

「やるなら……止めを刺すものでしょう……?」

「……安心しろ。お前を殺したりはしないさ。俺の役目はあくまでアイツらを送り届ける事だからな」

「……超甘いですね。そんな性格で暗部を生き抜けるんですか?」

「……さあな」

場所を移し、とある公園。
先程まで彼らが大暴れしていた道路は封鎖され警備員による操作が行われている。

「っていうか、アナタは超なにしてるんですか?」

ベンチに座る絹旗は図々しくも自分の隣に座り、購入したコロッケパンを食べる朝河に言う。

「何って……休憩だ。俺の能力は非常に高度な演算行うからな。多様は出来ない」

「はぁ……アナタ、っていうかアナタたちって超暗部の自覚が超足りてませんよ」

「まあまあ、落ち着けって。あ、そうだ。お前もどうだ?」

脇に置いたコンビニのレジ袋を探り、朝河が絹旗にムサシノ牛乳を手渡す。

「わー、超ありがとうございます……ってなんですか、コレは」

「ん。とりあえず飲んどけ。背でかくなるぜ。……その後はしっかりと話してもらうからな」

朝河の言葉に絹旗は牛乳を飲みながら、

「超わかってますよ。洗いざらい超話してあげます」



「『ホーム』に侵入を試みる敵対組織を倒せ、ね」

絹旗が話した内容を朝河が復唱する。

「ええ。っていうか私は精々超足止め程度にしか考えられていなかったっぽいです」
「推測ですけど『ホーム』には私よりも超強い人物がいるんでしょう」

「そうか……ヤバイな……」

「あなたも行くんですか?」

「しかし……アシが無い」

朝河のその言葉を聞いた途端、絹旗の脳裏にとある人物が浮かんだ。

「ああ、運転手なら超いますよ。車の調達から運転までやってのける人がね」



「はぁ!? 運転手!?」

「病院で大きな声だしちゃダメだよ。はまづら」

突然帰ってきた絹旗。その後ろにいた謎の男。
病室のドアを開けた途端、絹旗は「超命令です。浜面、あなたは今から超運転手です」と言った。

「ていうか浜面、あなたに拒否権は超ありません。さあ、早く行きましょう」

慌てる浜面を見て、隣でベットに横たわる滝壺は浜面に優しく言葉を投げかける。

「大丈夫だよ。私はそんなはまづらを応援してる。はまづらなら頑張れるよ」

その言葉に少し困った様な顔をして、浜面は荷物をまとめると、

「仕方ねぇな……! 言っておくが送っていくだけだからな!」



「……任しとけ」

路面駐車してあった自家用車のキー穴に針金やら工具やらを突っ込み、ガチャガチャと音を立てる。
暫く弄っていると、カチャという音がしてドアが開く。
運転席に乗り込んだ浜面は運転用のキー穴にも同じ細工をする。
スキルアウト時代に磨いたカギ開けの技術に関して浜面の右に出る者は殆どいない。
こうしてアシを手に入れた朝河たちは自動車に乗り込む。

「っていうか、アンタ、免許あるのかよ? 同い年ぐらいにしか……」

何の躊躇いも無く運転席に乗り込む浜面に朝河が後ろから声をかける。
浜面はニィっと笑い車のアクセルを踏みながら、

「必要なのはカードじゃない。技術だ」

「超大急ぎでお願いしますね、というかさっさといってください浜面」

「任しときな」

アクセルを一層強く踏みしめ、車はスピードをあげる。
……目指すは第二十三学区に存在する研究施設『ホーム』

一方通行は瓦礫に埋もれた建物の上にいた。

「おィ、土御門。海原。生きてンのかァ?」

一応の確認をして、一方通行は携帯電話を取り出し海原に電話をかける。
ツーツーと音が鳴る。次いで土御門に電話をかけるとプルルプルルとコール音がなった。

「あ、一方通行かにゃー?」

意外にも土御門は陽気な声だった。まるで既に脱出しているかのように。

「ンだ? テメェは生きてンのか。何処にいる?」

「何処って……瓦礫の中ぜよ。幸いスペースが出来てるからそこに潜りこんだぜよ」

「……あァ、そうかい。海原のヤロウは? コレをやったのは海原だろうが」

「わかんねーぜよ。アイツも多分、埋まってるぜよ」

「そうか。ちっと待ってやがれ」

「……面倒くせェ」

呟きながらも、一方通行は電極のスイッチを入れる。

(―――空気のベクトルを観測。体温による生物の察知)
(……一つ。動き回ってンのは土御門か。……動かないのが海原、か?)

反応のあった場所を確認すると一方通行は瓦礫に手で触れて、ベクトルを操作した。
それから瓦礫が完全に撤去されるまで一分も時間が掛からなかった。瓦礫は庭に積み上げられている。

「いやー、助かったにゃ」

「ハッ……で、海原のヤロウは重症か?」

「にゃー。まあ十分頑張ってたぜよ」

「知らねェな。情報は手に入ったのか?」

「……面白い情報があったぜい」


数分前に聞こえた爆音。
夜科アゲハが向かうはるかぜ学園のある方向。
アゲハは走るスピードをあげる。一刻も早くはるかぜ学園にたどり着くため。


土御門の手に握られているのは一つのフラッシュメモリ。

「ンだ? それは?」

「とあるデータにゃー。ま、さっさと戻ってみるぜよ」


はるかぜ学園にたどり着いたアゲハは言葉を失った。
崩れ果てた建物。瓦礫で埋まった校庭。崩れた建物の中に見える幾つもの死体。
その近くで何事も無かったかのように話す二人組。


「お前ら……! 何やってんだよ!?」

大声を上げる。一方通行と土御門が振り向いた。

「ンだ? また俺達の邪魔をすンのか。……飽きねェなァ、オイ」

「テメェが……テメェらが殺ったのか!?」

アゲハの言葉に一方通行は少なからず疑問を覚えて、

「はァ? 何言ってンだ?」

「いいぜ、殺してやるよ……ッ!」

一方通行をにらみつけ、アゲハは構えを取る。
土御門を後ろに下がらせると一方通行は前へ出て、アゲハと直面した。

「……『漆黒暴王』遠距離狙撃形態、『暴王の流星』」

黒い黒弾がアゲハの手から放たれ、空中を直線軌道を描きながら高速で飛ぶ。

(能力か……? アレは……)

「……プログラム、15mでホーミング開始」

アゲハから放たれ15mの地点で停止した黒弾は、一方通行を目掛け超高速で飛ぶ。

(何かおかしい……ベクトルが存在しねェ……!?)
(違ェ……。物質を消滅させてやがンのか……! アレは反射できね―――)

一方通行の脳裏によみがえったのは対未現物質戦の事だった。
木原数多の反射を利用した攻撃や、上条当麻の能力自体の無効化でもない。
本当に単純な能力だけで一方通行にダメージを与えた唯一の人物……。

「ガッは……!」

「危ねェ……!」

黒弾が貫いたのは一方通行の服の端。
一方通行は黒弾が当たる瞬間、重力のベクトルを操って自らの身体を強引に動かし、黒弾を回避していた。
かすった部分はそこだけ何も無かったかのように消滅して、その黒弾の威力を物語っている。

「ホーミングが甘い……!」

「イイね、イイねェ……! 最ッ高に面白ェよ、オマエ!」
「残念だろォが、ここで終わりだ。まァ、テメェも誇れよ。俺に攻撃食らわせた奴なンざ数える程だぜ?」
「……地獄でなァ!」

瞬間、一方通行は地面を蹴った。
ベクトルを操った超加速。一気にアゲハとの距離を詰めてアゲハに触れる。それだけで勝利が確定するのだ。
けれども、アゲハは迫り来る一方通行に何一つ反応を見せない。まるで、勝負が既に決まっているかの如く。

「……プログラム、ホーミングは二段階」

ホーミングを始めた弾を一方通行は一目見ただけだった。
防ぐ事の出来ない絶対的な攻撃。絶対的な自らの防御でさえも突き破る攻撃に対して、
一方通行は防ぐ事を諦めた。

「……調子こいてンじゃねェぞォ!」

更に強く、大きく地面を蹴る。強大なベクトルが一方通行を押し出した。

単純な答え。

防御不可の攻撃ならば当たらなければ良いのだ。
超高速の攻撃ならばそれ以上の速度で動けば良いのだ。

黒弾は一方通行の背中をギリギリかすめずに虚空に黒い軌跡を残す。

「超高速の暴王の流星を避け、た……!?」

今までどんな能力者でも葬ってきた絶対的な力。
それを破られ、アゲハは驚きを隠せない。そんなアゲハに対し一方通行が言う。

「コレが学園都市最強の力だ。覚えとけ」

「まァ、オマエは頑張ったほうだな。じゃァな」

「ふざけるな……!」

「あァ?」

「こんな所でやられる訳には行かねえんだよ!」

一方通行が思わず一歩後ろに下がった。その時、アゲハの両手に黒い円刃が展開される。
それを見て、一方通行はニヤッと嬉しそうに笑った。

「なンだよ……そこまで応用できンのか。絶対的な破壊力に柔軟な応用性……」
「面白ェ、面白ェよ、テメェ。いいね。最ッ高だよ……!」

「やめろ! 一歩通行!」

土御門が怒鳴り、一方通行とアゲハの両者が止まった。

「ソイツはワイズじゃねえぜよ。……学園都市レベル5第六位、夜科アゲハ」


Side.雨宮桜子

学園都市特別能力発育機関『グリゴリ』
他の暗部研究組織同様、とても表向きに発表できない実験を行う組織。
その実験内容は、

「人為的にレベル5を作り出す、ね……」

外部を警備していた警備員を幻覚ですり抜け、雨宮桜子は施設内部の小部屋にいた。
特に何も置かれていない空き部屋で、この部屋には監視カメラが設置されていない。

「……とりあえず内部の捜索かしら。―――ピーピング・ラヴァー」

雨宮の身体から線でつながれた無数の小型カメラが現れる。
それらは扉の隙間を掻い潜って、施設の中へと迫る。

「モニター表示。内部の様子は……」

雨宮の目の前に直方体のモニターが無数に展開される。
それらのモニターに映っている映像は先程放ったカメラが捕らえているもの。

「……情報は最下層。ルートは……こうかしら。監視員はどうにかできるにしても」

モニターに映し出される情報を元に計画を練る雨宮。

「これでいいわね。行きましょうか……!」


グリゴリ最深部。とある一室にて。そこにいた彼女は面白そうに言った。

「……侵入者? へぇ。面白いじゃないの」
「まあ復帰直後の初陣だし、手軽に行くわよ」


「こっちだ! 急げ!」

ドタバタと聞こえる足音。それに雨宮は反応し、鞄からトンファーを取り出して組み立てを始めた。

(居場所がバレた……!? 面倒くさい!)

一人の銃を構えた隊員が雨宮のいる部屋へと押し入る。
瞬間、隊員はガクンと膝から崩れ落ち、その顔面に雨宮の膝蹴りがのめりこんだ。

「面倒……ねッ!」

更にそれでは終わらない。雨宮は隊員の腕に足を絡める、思いっきり力を入れた。
ゴキッと鈍い音がして、隊員の腕が普通ではあり得ない方向に曲がる。

「……なんで早速! こうなったら急ぐしか……!」

隊員の服を探り、拳銃と無線機を奪い取ると雨宮は部屋から飛び出した。


モニターに映る施設内の監視カメラの映像を見て、彼女は言う。

「コイツ……雨宮桜子?」

映し出されているのは警備隊員と戦闘を繰り広げる雨宮桜子。
訓練を積んだ特別な警備隊員達でも相手がレベル5となれば無力に等しい。
そんな雨宮を見て、彼女の笑みがより一層増し、彼女はある事を思いつく。

「……いいわね。コイツなら利用できるかしら」


無線機で情報のかく乱を行い、混乱した敵を拳銃で撃ちぬき、
一人の警備隊員を操って集団の中で機関銃を乱射させたり、爆弾のある地点へと誘導させたり。
考えられるあらゆる方法で次々と現れる警備隊員をなぎ倒しながら雨宮は施設の最深部へと向かう。

「ここが……最深部?」

最深部へ続く電子扉を爆弾で破壊する。
轟音が鳴り響き、警報音が施設中に鳴り響くが雨宮は気にしない。

「……雨宮桜子ね」

声がした。瞬間、衝撃と同時に雨宮の横にあった大型コンピュータが爆発する。

「な……!?」

思わず拳銃を構える雨宮。物陰から出て来たのは微かに見覚えのある人物。
けれども違う。雨宮の知るこの人物の眼はケロイド状の不気味な素材で出来ていない。
腕はキチンとあった。ビームの様な形の定まらない腕ではない。

「忘れちゃったのかしら?」

それでも、そこに変わり果てた姿の麦野沈利は立っていた。

「麦野……沈利……!」

学園都市レベル5第四位『原子崩し』の能力者。
前日の戦いでとある無能力者に倒されたはずの彼女は、何故かここに立っていた。

「……随分な格好ね」

「好きでなる訳無いじゃないの」

「そう。で、アナタは何をするのかしら? 私の邪魔?」

「……最初はそうだったんだけど、相手がアナタなら少し話が違ってくるわ」

その言葉に雨宮は不思議そうな顔をする。麦野は続けた。

「私と、手を組まない? ……雨宮桜子」

「手を、組む?」

突然の麦野の提案に戸惑う雨宮。

「ええ。そう。手を組むの。私はとある奴、私をこんなのにした奴に復讐をしたい」
「アナタは……どうにかしたい相手がいるんじゃないの? 例えば、常盤台のエースさん、とか」

常盤台のエース。学園都市レベル5第三位、超電磁砲の御坂美琴。
確かに同じレベル5であり、常盤台中学に通う雨宮にとって美琴の存在は良い物ではない。
そして御坂が消えれば自らが受ける恩恵も少なからずはあるはずだった。けれども、

「嫌よ。自分でやりたいことは自分でやるわ。それにアナタみたいのに手を貸す理由は無いわ」
「第一、アナタ、無能力者に負けたんですって? ふふ、最強のレベル5が笑えちゃうわね」

「そう。残念ね」

麦野は少し下を向いた。そして再び顔を上げる。
それはまるで鬼のような形相になり、雨宮をにらみつけた。

「ぶ・ち・こ・ろ・し・か・く・て・い、ね」

瞬間、麦野から無数のビームが放たれて施設内をメチャクチャに破壊する。
所々で機材が破壊され爆発が起こる。雨宮は巨大なコンピューターの陰に隠れて様子を伺った。

「ほらほら! 逃げないと捕まえるわよ!」
「捕まえたら罰ゲームが必要ね……。××××に焼きゴテの刑、ってのはどうかしら?」
「黒コゲになってもイケるモノはイケるのかしらねぇ!」

雨宮桜子はレベル5第五位。対して麦野は第四位。
精神系能力と直接的な攻撃という違いはあるが、それでも麦野は雨宮にとっての格上だった。

(下手に動けば殺される……!)

「ほらほら! 生き埋めになって手足がもげちゃってもいいの!?」
「それでも一応、穴は残ってるかしら。そうすればイケるかもね」

(有線ジャックでケリをつける……!)

隠れていた大型コンピューターに麦野のビームが突き刺さった瞬間、雨宮は走り出した。
フロアを駆け、麦野になるべく接近すると掌から有線トランスを放つ。

「そんなのが通じると思ってるの!?」

麦野が放ったビームが有線トランスに集中し、有線トランスが破壊された。

「アンタの精神攻撃、有線にすれば効果が強まるんでしょ?」
「でも有線自体は外部からの衝撃に弱い。ハハハハ! こんなので勝てると思ったの!?」
「前までの私になら通じたかもしれないわね。残念ね。前とは違うのよ!」

その言葉に雨宮は疑問を感じた。

(前……? 何か、おかしい……)
(『原子崩し』の弱点はその制御。ビームをやたら打てば能力者自身にも反動が……)
(全体的な出力も上昇してる……? これじゃあ『超電磁砲』以上……!)

(何か……何かカラクリがあるハズ……!)

「ほらほらぁ! さっさと逃げなさい! メス豚!」

麦野は容赦なくビームを連発する。
ビームは天井にも当たり、雨宮の頭上で大爆発が起きて、

「きゃ……っ!」

天井が崩れ落ち雨宮に容赦なく降り注ぐ。
無数に降り注ぐ瓦礫の雨を全て避けきることなど不可能に近かった。

「あー、どうしよう。グチャグチャになってたら何処が穴だかわかんないじゃないの」

積みあがった瓦礫を見て、麦野が残念そうに呟いた。

「まぁ、いっか。前と後ろ、どっちかは残ってるでしょうし」

麦野が更に瓦礫の山に近寄る。その時だった。

(―――有線トランス)

極細い、注意して見なければ視認すら出来ないであろう有線トランスが麦野に伸びる。
有線トランスの先端が麦野の頭に届きかけた瞬間、大爆発が起きた。

「こんなのでいけると思ったのぉ!?」

有線トランスは粉々になった。瓦礫の山から雨宮が飛び出して、笑顔で言った。

「残念ね。これじゃあ記憶を読み取る程度しか出来ないわ……トランス接続完了」

「なっ……!」

麦野が頭を抑えるが遅かった。麦野の記憶が雨宮に流れ込む。

(麦野沈利の記憶……!)

ぼやけた世界。虚ろな瞳の先には一人の男が立っていた。

「……力が欲しいか?」

「欲しければくれてやろう。お前の力を圧倒的なまでに引き上げる」

「代償はある。……下手をすれば適応時に異形化し今の状態を保てなくなるだろう」

「それでも、やるか?」

「……そうか。ならばいいだろう」

「? コレの名前? ああ、"イルミナ"だ」

(能力の……引き上げ!?)
(こんな物が存在するなんて……!)

「あー、記憶ね。全部見られちゃったんだ。私の恥ずかしいトコロも全部」

「……ええ。いいお話じゃないの」
「まさに化物ね。それは異形化ってやつかしら? まさに化物ね」

「黙っていなさい。もうイラついたわ。……もういいわ。鬼ごっこは終わらせる」

麦野は掌を雨宮にかざす。瞬間、放たれたビームを雨宮は避ける事が出来なかった。
直線に飛ぶビームは雨宮の右足をかすめ、その皮膚を黒く焼ききる。

「がっ……!」

あまりの激痛に雨宮は地面に崩れ落ちた。
麦野はそのまま倒れている雨宮に近づくと、雨宮を見下し

「さーて、罰ゲームの時間ね」

「××××に焼きゴテの刑って言ったけど……それだけじゃつまんないわよね」
「こんなのはどうかしらっ!」

狙いすまして放たれたビームは寸分の狂いを無く雨宮の右足の太ももを貫通する。
あまりにも高熱のビームにより血は出ないが、今まで経験したことの無いような激痛が雨宮を襲った。

「あ……がっ……」

苦しむ雨宮を楽しそうな顔で覗き込む麦野は新たな事を思いつく。

「とりあえず手足を一本づつぶっちぎってあげるわ。……ほら、さっきまでの威勢はどうしたの!?」

無抵抗の雨宮の腹部に麦野のヒールがのめりこむ。
あぎゃ、と口から無意識に息が漏れ、圧迫された胃から大量の内容物が吐き出された。

「ハハハハハハ! 汚らしい! メス豚が!」

「お、うっ……あ、ああ……ごほ、うぶ……」

雨宮は既に虚ろな目で潤んだ世界を見つめていた。
それでも麦野は雨宮への一方的な陵辱をやめることは無かった。

「次は……右腕っ!」

ビームが放たれ、右肩から下が消滅する。
雨宮の口から漏れる音は最早言葉として機能しておらず、単なる空気となっていた。
自らの吐瀉物にまみれ、涎をだらしなく垂らす雨宮の顔を見て麦野は言う。

「あらあら、可愛くなっちゃって。大丈夫よ。顔は傷つけないから」

「い、やぁ……あ、あぁ……よ、しなぁ……」

「夜科ぁ? ああ、『漆黒暴王』ね。……来る訳ないじゃないの!」
「いつまで待ってても来ないわよ! アンタはね、今! ここで! 私に殺されるのよ!」

「あ……あ、あ……」

もはや正常な意識など保てない雨宮に麦野は容赦なく陵辱を続ける。

「そのぐらいでバテてどうすんの!? ほら、しっかりしなさいよ!」

ビームが雨宮の腹部を左足の付け根部分を貫く。
雨宮の身体がビクン、と小さく跳ね、ああ、と空気が口から漏れた。
更に雨宮の身体が痙攣をはじめ、足の間からは液体が漏れる。

「お漏らししちゃったのぉ!? ハッハッハ!! 赤ん坊みたいね!」
「悪い子にはオシオキね。さーて、本番行くわよぉ!」

「どんな反応みせるのかしらね?」

麦野はビーム状となった自らの腕を細め、小さな棒のような形に変える。
それを少しづつ雨宮に近づけ、

「そろそろ満足したかしら?」

手が止まる。両足と右腕を失った雨宮が左手一本の力で立っていたのだから。
麦野が思わず頭に手をやる。直前の出来事が鮮明に思い出され、

ぱんぱんと二発、乾いた音が部屋に木霊した。

胸と腹部に熱いモノを感じ、麦野が自らの胸に手を当てて、その掌を見ると、

「な、何よ、これ……?」

掌は真赤に染まっていた。

「大丈夫かしら? 凄い出血よ?」

後ろで聞こえた雨宮の声に麦野が振り向く。
そこには傷一つ無い姿の雨宮桜子が平然とした顔で立っていた。

「い、いつから……? 幻覚を……?」

「私の有線トランスが記憶を見るだけで済むと思ったのかしら?」
「甘いのよ。私を誰だと思ってるのかしら? 学園都市最強のレベル5『心理掌握』よ」

「そ、ん……な……!」

「あなたは熱くなると周りが見えない性格だし。結構、簡単に幻覚を視せられたわ」

そう言うと、雨宮は持っていた拳銃を構え、狙いを定める。

「サヨウナラ。麦野沈利」

引き金を引く。乾いた音が響き、麦野は自らの血の海に身を沈めた。

先程までの戦闘、麦野の攻撃によりフロアは全域がほぼ崩壊している。
そんな中で、雨宮は片っ端から資料らしきもの、コンピューターなどの機材の調査を始めた。

「これじゃない……」

散らばった書類を拾っては破り捨て、コンピューター内のデータを探しては電源を切る。

「どこにあるのかしら……」

雨宮が探すのは麦野の記憶に出て来た"イルミナ"と呼ばれる物体。
倒れていた麦野の身体を調べたところ、麦野の胸には謎の球体が埋め込まれていた。
材質などは一切不明。実際、雨宮にはそれが"イルミナ"なのかもわからなかった。

「でも、探せば手がかりぐらいはあるはず、よね」


Side.夜科アゲハ 一方通行 土御門元春 結標淡希

「―――なるほどな。テメェらも『ワイズ』ってヤツらを追ってンのか」

グループの移動、輸送に使われるゴミ収集車に偽装した特殊車両。
その中にアゲハは一方通行ら『グループ』のメンバーといた。

「ああ。それで八星理子っていう子供を追って……」

「そういう訳か……。で、テメェら『サイレン』のほかの構成員はどうしたンだ?」

「分断して行動している。今は連絡が付かない状態で……」

二人が話しているとノートパソコンで先程手に入れたデータを見ていた土御門が二人を呼ぶ。
アゲハと一方通行が覗き込んだ画面に表示されていたのははるかぜ学園の日記だった。

「日記?」

表示されている文章データを見て一方通行は顔をしかめる。
画面に表示されているのは紛れも無い日記。単なる日常を綴った他愛も無い文章。

「この中に暗号でも隠されてンのか?」

一方通行が問うが、土御門は首を横に振った。

「違うぜよ。これは単なる日記にゃー。つーか普通の孤児院の職員が日記に暗号隠すわけねーぜよ」
「まあ見てろって。こっからが重要なポイントだぜい」

そう言うと土御門は画面に視線を戻して、文章をスクロールさせていく。
暫くそれを続け、スクロールが止まったのは今から約1年前の日付の日記だった。


20XX年9月23日
八星理子ちゃんの様子がおかしい
まだ能力開発は受けていないはずなのに・・・


20XX年10月02日
園内に突然、意味不明の生物が現れた。
八星理子ちゃんに襲いかかろうとした瞬間、消えた。


20XX年11月13日
彼女が不気味に見えてきた


「ンだ? こりゃあ……あの八星理子ってガキがまるで能力使えるみてェじゃねェか」

「その通りぜよ。この八星理子は能力を使えた」

「……原石、ってやつかしら」

土御門の言葉に結標が言う。土御門は続けて、

「ああ。生まれつき超能力を持った人間。世界に約50人しかいない特別中の特別」

「……聞いた事はあンな。確かレベル5第七位も……」

「特別な力を持っていて……それでこの子は狙われたのか?」

「多分そうぜよ。『ワイズ』にはこの子が必要だった。……それだけにゃー」


Side.朝河飛龍 浜面仕上 絹旗最愛

「ついたぜ。じゃあな、俺は戻るぜ。絹旗、朝河」

『ホーム』施設前に車を停め、浜面は言った。しかし絹旗は納得のいかないような顔で、

「何を言っているんですか? アナタはここで超待機に決まってるじゃないですか」

「なっ!? こんな場所で? 俺が!?」

絹旗は当然の如く

「ええ。私達が帰る時どうするんですか。ということで超浜面は超待機です」
「行きましょう、朝河さん」

「ああ。待ってろよ、霧崎、朧」

朝河は朧とカブトが待つ『ホーム』へと向かう。


Side.望月朧 霧崎カブト

謎の少女、絹旗の襲撃を受け車を失った二人は徒歩でホームへとたどり着く。
朝河がどうなったのか、二人は知らない。けれども、自らのやるべきことは解っていた。

「……『ワイズ』の構成員が一時在籍していた研究所、か」

監視を掻い潜り、研究所内部に侵入した朧が呟いた。

「どうせ人権など無視した実験が続けられていたんだろうね」
「それ自体を悪いとは思わないさ。どんなリスクを負ってでも手に入れたい絶対的な力……!」

「ほら、さっさと行くぞ。危なくなったら俺が言う。さ、進め、進め」

常に朧の後ろに立つカブトが言う。

「脅威というのは恐れるモノじゃない。乗り越えるモノなんだ」

得意げに言う朧にカブトは、

「それはオマエだけだろ」

「……霧崎、この先は?」

曲がり角で朧は立ち止まり、カブトの指示を求める。
そっと、カブトが曲がり角から頭を出してその先にある景色を確認すると、

「大丈夫だ。この先には視えない」

カブトの言葉をきいて、朧が曲がり角から飛び出る。
その言葉の通り、朧達を襲う者はおろか発見する者すら現れない。

「やっぱり君の能力は面白いね。……脅威を避けるとは。まさに運命を捻じ曲げる力だ……!」

「何言ってんだ。避けれるモノは避けてすすまねーと損だろ。あ、そこ、右は危ないぞ」

「ここ、か」

厳重に閉ざされた扉の前で朧とカブトは立ち止まる。
扉の横にあるプレートには"資料室"と刻まれていた。

「霧崎、この先はどうだ?」

「あー、大丈夫だ。部屋の中には何に……ッ!?」

途端、カブトが後ろを振り向く。一瞬、何かの人影が見えて、

「今すぐ離れろ!」

大声を上げた。咄嗟に朧がカブトを抱きかかえて、その場から大きく離れる。
次の瞬間。朧とカブトが立っていた扉の前で激しい爆発が巻き起こった。

「敵……! 能力者か……!」

先程まで自分がいた地点をにらみ、朧が言う。
粉々になった壁。爆風の余波で辺り一体が黒焦げになっていた。

「や、ヤバイ……! 逃げろ、朧!」

カブトが青い顔をして言い放つ。朧は後ろを振り向かずに走り出した。
再びの爆発が朧の背中に熱風を叩きつける。

「くっ……! 座標指定の爆撃……!? 狭い場所じゃ不利だ……!」

「外、外に行くぞ! こっちだ!」

カブトは朧の前を走り、朧はカブトの後ろを行く。
能力者はその二人を見据え、

「クソ共が……! 糞をクソほど浴びて死ね!」

霧崎カブトは脅威をなるべく避けて生きていこうと思う人間だった。
その信念が彼の能力、自らに迫る脅威を視る『脅威幻視(メナスヴィジョン)』にも現れている。
対して望月朧は自ら進んで脅威に立ち向かっていく人間だった。脅威が何だろうと、自らが面白いと感じればよいと。
彼の能力は『身体向上(ライズ&キュア)』。身体能力を飛躍的に向上させ、その応用で他人の回復をも行える。

危険を避ける者と、危険に立ち向かう者。

「……右ッ!」

カブトがいい、朧がカブトを強引に引き連れて右に回る。
瞬間、爆撃がカブトの背中の数センチ後ろを包む。冷や汗を流しながら、カブトは言う。

「……とにかくアレは室内で戦っちゃダメだ。勝ち目が無い」

一方、能力者は標的が確実に出口へと近づいていることなど知らずに爆撃を続ける。
彼は圧倒的な力で一方的な破壊を望む者。これもカブトや朧とは違った理念だった。


Side.朝河飛龍 浜面仕上 絹旗最愛

「こんな大層な研究所に何か用でもあんのかよ?」

渋々絹旗の待機命令を承諾した浜面が面倒そうに呟く。

「超うるさいです超浜面。とりあえず待機していてくださ―――」

絹旗が言葉を止める。というよりも爆音が絹旗の言葉を遮った。
響き渡る轟音。砕け散る研究所の外壁。

「お、おい! う、うわぁぁ!?」

浜面が叫び声をあげる。ふと、絹旗が上を見上げると爆撃によって飛んできた瓦礫が宙を舞っていた。
総重量数十キロの瓦礫の塊。人間に激突すれば一瞬でグチャグチャになるであろうそれと浜面の距離、約1m。

「油断するな。ここにいる以上、オマエも標的になる可能性がある」

朝河の放ったドラゴンテイルは浜面に迫る瓦礫を強引に叩き潰す。
瓦礫が地面にぶつかり、砕け散り車のボディにのめりこむ。車は使い物にならなくなった。

「わ、悪い……。って、あァ!? 車が……!」

エンジンすら掛からなくなった車を見て浜面が嘆く。
絹旗は後戻りできなくなったですね、と少し嬉しそうな顔で言った。

「さて、超ヤバそうですね。朝河さん、お仲間に連絡は?」

「……ああ」

朝河は短く答えると、携帯電話を取り出して霧崎カブトの番号を押す。


Side.望月朧 霧崎カブト

入り組んだ迷路のような研究施設を朧とカブトは駆ける。
単純に最短ルートで外を目指すのではない。そんな事をすれば途端に爆撃の餌食となる。
その為、爆撃から逃れながらの最短ルートを模索する必要があったのだ。

「次、左っ!」

普通ならば余程の訓練を積み、敵の情報を熟知していない限り不可能な逃走。
しかし霧崎カブトの能力『脅威幻視』によってその行動は可能となる。

「……止まって、少したったら右!」

遠回りをしながらも、確実に外への距離は狭まっている。
地下1階にいた二人は階段を駆け上り1階に飛び出る。そして灰色の通路をひた走る。
そんな中、カブトのポケットにしまわれた携帯電話が軽快なメロディーを奏でた。

「このクソ忙しい時に……!」

慌てて携帯電話を落としそうになりながらも、カブトは画面を確認する。
液晶画面に表示された"朝河飛龍"の文字。カブトは通話ボタンを押すと、

「なんだよ!? 今、すっげーヤバイんだって!」

「どうした!? 今、ホームの前にいるんだが……爆発は……!」

「ああ、そうだよ! って、朧、右! ……絶賛追われ中だ! つーかお前、外にいるのか!?」

「ああ。そうだ、お前らはどうなって……!」

「いいからそこで待ってろ!」

カブトは一方的に怒鳴り電話を切った。


Side.上条当麻

上条当麻は不幸だ。
科学の街、学園都市ではオカルトの類は殆ど信じられていない。
けれども彼の不幸具合を見て人が「ああ、やっぱり運っていうのはあるんだな」と思えるほどに。

「はぁ……不幸だ」

ひょんな事から一緒にいた美琴をデリカシーの無い一言で怒らしてしまった上条。
その後、いつも通りの一方的な追いかけっこに発展し美琴から逃れたと思えば知らない場所にいた。
携帯電話の付属アプリ、GPSで自らの居場所を探す。なんとそこは上条の住む第七学区から大きく離れた場所だった。

「第二十三学区の近くじゃねーか……」

辺りを見回しても何も無い。もうこの付近は人が住む場所ではないのだから。
一度、大きなため息をついて、上条は空を見上げる。大きく息を吸い込みお決まりの台詞、

「不幸だァァァァ!」

気づけばよく知らない場所にいた。更に上条の不幸は続く。
バスや電車などの公共交通機関を利用して家に帰ろうとズボンのポケットを探す。

「え……?」

無い。現金をいれた財布が無い。
更にポケットを探ると底に穴が開いていた。丁度、財布が通れるぐらいの。
幸い財布に入っていたのは二千円ほど。クレジットカードの類はすぐに電話をすればよい。

「……忘れてたぜ。おサイフケータイっていうシステムが……」

携帯の説明書の端っこに書いてあったシステムを上条は思い出す。
ハッ、と携帯電話を取り出してみると、待ち受け画面に表示された"バテッリーを充電してください"の文字。
ピーピーと音を立てた後、携帯電話の画面は真っ暗になってしまう。

「だぁぁぁぁ!!!」

あまりの不幸に上条は叫び声を上げる。
その時だった。遠くで爆音が鳴り、上条の耳に届く。

「……?」

爆発音に恐怖を覚えなくなった自分が怖い。
トラブルに慣れてきた自分に呆れながらも、上条は音のした方向を向く。
第二十三学区の方向。みると黒煙があがっているのも確認できた。

「……無視するわけには、いかないよな、いかねぇよ」

一人で呟く。
爆発。普通の一般生活では起こり得ない事態。
そこに困っている人がいるなら。困っているであろう人がいるなら。困っている人がいる可能性が少しでもあるなら。
上条はそこがどんな地獄だろうと突き進んでいく。ただ、自らの右手に宿る力を信じて。


Side.朝河飛龍 絹旗最愛 浜面仕上

「……アイツらは中にいる。敵に追われていて、外に来るらしい」

通話を一方的に切られ、朝河は携帯電話をしまう。

「そうですか。ということは出てくる敵を超叩けばいいんですね?」

絹旗が言う。朝河はうなづき、

「一応はそうしたいが……絹旗、オマエは俺らと一緒に戦っていいのか?」

朝河と絹旗は敵同士。仮にも十数分前に激闘を繰り広げた仲である。
それにこれは二人個人の問題ではない。絹旗も朝河も学園都市暗部に所属し、直属の上司がいるのだ。
下手をすれば『サイレン』の全員と敵対しなければならない状況になるのだが、絹旗は気楽に、

「超大丈夫ですよ。……そんな組織の命令とか、関係なしに超ヤバイ状況ですし」

「来た、か」

「来ましたね」

朝河と絹旗が一歩前に出て、浜面は車の陰に隠れる。
施設の正面入り口から朧とカブトが飛び出した瞬間、施設の正面ロビーが爆発に包まれた。

「あぁ! 朝河ぁ!」

カブトが叫んで、朝河の後ろに隠れる。朧は立ち止まり、振り向いて爆発した建物をにらんだ。

「って、えぇ!? お、オイ。コイツ、さっき俺らを……!」

「詳しい話は後だ! 戦う気が無いなら下がってろ!」

「来たよ。アイツだ」

爆風を背に、一人の男が現れる。
銀色の長い髪にバイザーをつけた目つきの悪い男。

「……なんだ? 獲物が増えているな」

浜面は車の陰からチラッと顔を出して敵を見据える。
明らかに強そうな外見。先程の攻撃を見る限り見掛け倒し、という訳ではなさそうだった。

(な、何だよアイツ……ヤベェって! 絹旗たちには悪いがここは逃げ……)

「五人、か。なに、全員残らず地獄へ連れて行ってやるさ」

(バレてるぅぅ!? 人数カウントされちまってる!?)

「面白いね。出来る物ならやってみてくれないか? 君は僕を楽しませてくれるのか?」

朧が一歩前に出て言い放つ。銀髪の男はニィっと笑い、

「ああ、楽しめる余裕があるかは保障できないがな。覚えておけ。ここでお前達を殺す男の名は……」
「『ワイズ』の構成員、ドルキだ」

「挨拶代わり、だ。……死ね」

ドルキが手を軽く振る。

「や、ば……! 来るぞッ―――

自らに迫る脅威を感じ取ったカブトが叫んだ。
次の瞬間、大きな爆音が響き、辺り一体が爆発に包まれる。
絶大な威力を誇る爆撃は、コンクリートを砕き、車を吹き飛ばし、黒煙をあげる。

「我が力『爆塵者(イクスプロジア)』。全てを破壊しつくすバースト波動の極地ッ!」

爆発により車のガソリンが引火し、炎があがる。

「……これで本気か?」

一陣の突風が吹き荒れる。砕けたコンクリートの欠片を、車の破片を吹き飛ばし、煙を晴らす。
晴れていく煙の中に立っている五人。そのうちの一人、朝河飛龍の手には巨大な龍の翼。

「ほう。面白い。俺の爆塵者を防ぐか……」

「なんですかこの爆撃。超温いですね」

「お返しだ。特大のプレゼントをやる、よッ!」

朝河の手から延びるドラゴンテイルが燃え盛る車に蒔きつき持ち上げる。
更に、大きなモーションをとって、朝河はそれをドルキに向かって投げつけた。

「そんなモノで俺を倒せると思ったか虫ケラ共がァ!」

ドルキは迫り来る車に臆することなく爆撃を放つ。
燃え盛っていた車は爆撃を受け、より一層強い炎を噴き粉々に砕け散った。

「下らねぇなァ! おいおい!」

「……そうかい? 敵は彼一人じゃないんだよ?」
「一人に集中するとかあなたって実は超バカじゃないんですか?」

二人分の声。
声の主は炎に包まれた車の破片の間から猛スピードで飛び出した。
咄嗟にドルキが爆撃を放つが、絹旗の窒素装甲に防がれる。絹旗は朧の足の裏に拳を当て、

「超人間大砲、ってね」

勢い良く打ち出した。身体向上により強化された朧のスピードが更に上昇する。
朧は勢いよく拳を突き出し、拳はドルキにのめり込んで、ドルキが数メートル吹き飛んだ。

勢い良く地面に叩きつけられドルキは地面を転がる。
今まで能力だけで戦ってきたドルキにとって殴られ地面を転がることなど無かった。
それは今までに味わったことの無い屈辱。起き上がったドルキは朧らをにらみつけ、

「クククク……カカカカ……ハハハハハハ!!」
「あくまで俺に抗うか……! いいだろう。ここで死ねなかったことを後悔させてやる!」
「我が爆塵者の終焉を味わえ……!」

爆発が一点に集中していく。
それはまるで視えない力が漂う塵を集めるかのように。

「アレは……惑星……?」

その形を見て朧が言う。ドルキは自らの究極の技の名前を言った。

「爆塵者・星船形態……!」

「……全方位を補足する攻撃要塞。星船形態から逃れる事は出来ない」

爆音と同時に星船から爆撃が放たれる。
ほぼ同時にカブトが脅威を視て声をあげるが、それはほぼ無意味だった。
無数に放たれる爆撃。まさに雨の如く頭上から容赦なく降り注ぐ爆撃を避ける事などできなかった。

「くっ……!」

朝河は自らの身体に堅牢装甲最大出力を纏い爆撃を防ごうと試みる。
―――けれども。

「がっ……!?」

朝河に集中した無数の爆撃は堅牢装甲をも突き破り朝河に直接命中した。

(俺の堅牢装甲が……破られた……ッ!?)

生身に直接爆撃を受けた朝河は体に火傷を負い、その場に倒れる。

「所詮はその程度だ。……お前らの様な普通の能力者が俺に勝てる訳が無い」

「まるで自らが進化したみたいな言い方だね」

倒れる飛龍に止めを刺そうとしたドルキの前に朧は立ちふさがる。
朧はそっと倒れてる飛龍に触れると自らの能力の応用、生命エネルギーを流し込み飛龍の傷を少しだけ癒した。

「……少しは痛みが和らいだだろう。君は休んでいてくれ。後は僕達がやる」

(……身体烈破。ライズモード。身体能力を限界まで向上)

「身体能力の向上、か。なるほど」

朧は一度、姿勢を低くすると瞬間、ドルキの視界から消えた。
それでもドルキは慌てることなど無く腕を軽く振るう。

「それがどうした?」

ドルキの前方右斜めの方向へ向かって爆塵者から爆撃が放たれる。
その爆撃は高速でドルキに迫る朧を的確に捉え、爆撃が朧を包み込む様に集中する。
朧の進む足は止まり、膝からガクンと崩れ落ちる。

「まともに戦えるのはお前だけか……?」

黒コゲになって倒れた朧を見下した後、ドルキは絹旗に狙いを定めた。

ドルキは絹旗に一歩づつ歩み寄る。その時。

「くが……ッ!?」

ぱん。乾いた音がしてドルキの腹部に衝撃が走る。
ドルキが自らのわき腹を見ると、そこには銃弾がのめり込んでいた。

「絹旗に手出してんじゃねーよ。この銀髪クソバイザー野郎……!」

「は、浜面! やめ―――」

絹旗の言葉はドルキの爆撃に掻き消される。

「ふん。今更英雄気取りか? 能力も使えない負け犬が」

「……ああ、そうだな。確かに俺は負け犬だよ」

煙の中で立ち上がる人影。

「でもな、負け犬だって頑張らなきゃいけねえ時もあんだよ」
「大事な奴を傷つけられて黙っていられるほど俺は出来た人間じゃねーんだ」

「……咄嗟で爆撃をかわしたか」

「さあ、始めようぜ。爆塵者。テメェのチンケな爆竹花火なんざあ、俺には効きやしねぇよ!」

「……面白い。面白い! 威勢に乗るのもいい加減にしろ! 負け犬がァ!」

「ったく。何お前だけかっこつけてんだ?」

「アンタは……!」

ドルキ相手に啖呵を切る浜面を見てカブトは浜面に歩み寄る。

「俺にも少しカッコつけさせろよ。リトルバニーが待ってるからさ」

「お前……」

「お前じゃない。霧崎カブト。さーて、この銀髪クソバイザー野郎をさっさと片付けちまおうぜ」

二人を見てドルキが不機嫌そうに言う。

「面倒くせェ。雑魚が二匹合わさったところで何にもなりゃしねェんだよォ!」

「絹旗。早く逃げろ。お前はもう任務終わってんだろうが」

浜面が絹旗の前に立ち、そういった。絹旗は声を大きくして、

「な、何を言っているんですか!? 相手が誰だかわかってるんですか!?」

そんなのはわかっていた。今、目の前にいる相手は強い。
けれども俺は戦わなければならない。浜面はそう思っていた。

「大丈夫だ。俺を誰だと思ってやがる。あのレベル5を倒した男だぜ?」

浜面は笑いながらそう言うと絹旗は「死んだら超許しませんよ」と言い残し、その場を後にした。
そこに残り、立っているのはレベル0浜面仕上と戦闘能力0の霧崎カブトのみ。
対するは朝河飛龍、望月朧を退けた能力者、ドルキ。

「おい、あの子って能力者じゃないのか?」

走り去る絹旗の背中を見ながらカブトは残念そうに言った。

「ああ。お前も逃げたきゃ逃げていいぜ?」

そんなカブトに対して浜面は言う。カブトは首を横に振って、

「俺も暗部の人間だし。逃げるわけにはいかねーな。それに、女の子に格好悪いとこみせられっか」

「そうかい。じゃあ、行くぜ、霧崎」

浜面はあのレベル5を倒したレディース用拳銃を強く握り締める。

「ああ、浜面」

「仲良しごっこは終わったか? 死ね」

痺れを切らしたドルキが爆塵者から無数の爆撃を放つ。
カブトはその一つ一つの脅威を見切り、浜面に言葉を伝える。

「右だ!」

浜面はカブトの言葉を受けて思いっきり右にはねる。
爆撃は浜面の先程までいた場所を襲い、爆風で浜面の身体がよろめいた。

「行くぜ……!」

地面に着地した浜面は体勢を低くしてドルキから離れるように走り出す。
ドルキが浜面を爆撃で追うが、カブトの支持がある上、距離が遠ければ遠いほど爆撃の精度は落ちていた。

「……喰らいやがれッ!」

浜面が爆撃の隙に拳銃の引き金を引く。
ぱん、と乾いた音と共に弾丸が発射され、ドルキに迫る。

「……ッ!?」

迫る弾丸をドルキは自らの腕で受けとめる。
弾丸はドルキの腕にのめり込むとそのスピードを緩めた。

(弾丸を……防いだ? アイツの防御力ならこの程度……?)
(違う。何かを庇った、のか……?)

浜面は何かを思いついたかの様に駆け出した。
駐車場に紛れ込み、幾つも停められている自動車の陰に隠れる。ドルキは浜面を見失った。
見失った浜面の代わりに爆撃の矛先はカブトに向く。無数の爆撃がほぼ同時にカブトを襲う。
けれども爆撃はカブトに掠りもしなかった。煙の中から現れたカブトは言う。

「お前の攻撃は見えてるぜ」

「クソがァァッ!!」

怒りに身を任せるドルキは標準を定めずに爆撃を撃つ。
普通の人間が相手ならば周囲の爆撃に動揺し自ら動いてしまうのだが、カブトは違う。
その眼は迫る死の脅威を視ることが出来る。避けるべき爆撃も、避けなくていい爆撃もカブトには手に取るようにわかる。

「あァァァァァ!!」

怒号が飛ぶ。一層激しい爆撃が辺りを火の海に変える。
けれどもカブトが臆する事は無かった。彼は浜面を信じていたから。

「待たせたな、相棒」

その声を聞いて、カブトの口元が緩み小さな笑顔を作る。
今までドルキに視えていた脅威を表す白い光が完全に消えたのだ。

「テメェがどんな能力者だろうと中身は人間だろうが!」

浜面は白いポリタンクを空中から投げた。
蓋のはずされたポリタンクは中身の液体を辺りに撒き散らしながら宙を舞う。

「ふ、ざけるなァァァァ!!」

ドルキは振り返った。爆撃がポリタンクに集中し、勢い良く炎が燃え盛る。
浜面の投げたポリタンクはドルキに命中する事は無かった。

「死ねェェェェ!!」

ドルキが勢い良く腕を振り上げ爆撃を放とうとしたときだった。

「楽勝だ、爆塵者」

発砲音がしてパリン、と何かが砕ける音がした。

「な……?」

ドルキが振り向くと、そこには拳銃を持ったカブトがいた。
それは先程まで浜面が手にしていたレディース用の拳銃。
ポリタンクとほぼ同時に浜面が投げ、カブトに手渡された物だった。

「お前、胸が弱点なんだろ? だよな、さっき浜面の銃撃から胸だけは異様に守ってたもんな」
「胸だけ強化出来なかったのか、それとも弱点となる何かを埋め込んでるのか」
「まあ、その反応を見れば、平気っていう訳でもなさそうだ」

カブトはそう言って拳銃を持ち主に返し、受け取った浜面は言う。

「お前も麦野と同じで熱くなると周りが見えない奴だからな」

「く、そが……!」

そして、更にもう一発の弾丸を胸に撃ち込み、ドルキは膝から崩れ落ちた。

「あ……がが……あァァァァァァァァァッァ!!!」

カブトが浮かべていた安堵の表情が一気に曇る。
彼の眼に映るのは真っ白な光に包まれたドルキの姿。脅威の塊。

「ヤバ……! コイツ、自爆を……!」

「俺、も、ろとも……道ずれだ……アァァァァ!!」

浜面やカブトに倒れている飛龍と朧を守る力は無い。
更にカブトの眼に映る真っ白い世界が自分達が逃げる場所すらない事を物語っていた。

「俺はッ……! ドルキ、だ!」

真っ白い光に包まれた世界が紅い炎に包まれた。

「下がってろ!」

誰かの声がして、浜面とカブトの目の前に一人の少年が現れた。
少年は自らの右手を爆発寸前のドルキに突き出した。

「おい、おま……!」

同時に爆音。とてつもない衝撃が辺りを破壊しつくした。
けれどもカブトと浜面、飛龍や朧に爆発が及ぶことは無かった。
あまりの衝撃に目を瞑っていたカブトは目を見開いて目の前の少年を見る。

「え……?」

そこに脅威などは無かった。
少年の突き出した右手が爆発を完全に打ち消している光景だけがカブトの眼に映る。


Side.上条当麻

上条当麻は第二十三学区を走っていた。
爆発音は少しづつ近く、そして数が多くなっていた。
そして、上条はとある研究所の前で脚を止める。そこで爆発が起こっていたのだ。

「アレは……!」

銀髪の男と二人の少年が戦っていた。
二人の少年のうち、一人に上条は見覚えがあった。御坂美鈴を襲ったスキルアウトの一人。
上条が更に近づこうとすると、銀髪の男が倒れていた。

「……終わった、のか?」

上条は戦いを終えた二人に歩み寄る。すると、突然耳に入ってきた言葉。

「ヤバ……! コイツ、自爆を……!」

殆ど条件反射で上条は走り出していた。


Side.上条当麻 浜面仕上 霧崎カブト

「大丈夫だったか?」

絹旗が呼んだのだろうか、救急車とはとても言えない怪しい車がやってきて朧と飛龍を回収していった。
カブトが言うには『サイレン』の関係車両らしい。行き先は恐らく第七学区のとある病院だと上条は考える。

「ああ。お陰様でな……」

「いやー、ビビったぜ。近くを通りかかったら爆発がして……何があったんだ?」

上条当麻は様々な事件に巻き込まれてきた。
三沢塾、絶対能力者進化計画、大星覇祭、ヴェント襲来、ヒューズ=カザキリの現出。
経歴だけを見ると上条当麻を一般人とするには少なからず抵抗があるが、それでも彼は表の世界に住む人間である。
それでもこの状況。理由を話さない訳には行かなかった。その役目を負うのはカブト。

「実は……、」

「悪いけど、これにお前を巻き込む気は無い」
「それにお前がこの件に首を突っ込もうっていうんならお前と戦ってもいい」

浜面が拳銃を片手に言う。上条は渋々うなずいた。

「わかったらここで大人しくしていてくれ。もうじき迎えが来る」

そういって浜面は陽気に電話をするカブトを指した。

「はァーい、リトルバニー。俺も結構できちゃうんだよ? 見直した?」

『うるさいわ。……迎え、ね。わかったわ。今からよこすから腹筋でもしながら待っていなさい』

カブトの陽気な声とは裏腹に電話の相手は冷たい。
そして、カブトは電話の相手の言葉通り、電話を切ると腹筋を始めた。

(コイツ……アホだ)

徐に腹筋をするカブトを見て上条は思った。
横を見ると浜面も必死で腹筋をするカブトを哀れみの目で見ていた。
しらばくして、上条たちの前にゴミ収集車が止まった。そのドアが開き中から出てきたのは、

「な……!? て、テメェがなンでここにいやがる!?」

両者が固まる。仕方の無いことだった。
上条の目の前にいるのは、かつて死闘を繰り広げた学園都市最強の男、一方通行なのだから。

「あ、一方通行!? お前が何で……!?」

「おいおい、どうしたぜよ? つーか、この声……ありゃ? カミやん?」

「? 何かいんのか? 土御門? ……って、上条当麻?」

二人の会話を聞き、車から降りてきたのは土御門元春と夜科アゲハだった。

「土御門に……夜科さんも!? 何でこんな所に……!」

「はぁ。カミやんはトラブルあれば自動でよってくる主義かにゃ?」
「ま、今回の件には関わらねーって約束してくれたらしいぜよ」

「って、お前が関わってるなら話は別じゃねーか! またインデックス関係の―――

「違うぜよ。今回はこっち側、科学サイド、学園都市内部の問題だぜい」
「まー色々と面倒なんだけど、ま。カミやんは黙ってくれて結構ぜよ」

「じゃ、家まで俺らが送るから」


Side.上条当麻 夜科アゲハ 霧崎カブト 一方通行 土御門元春 結標淡希

(うう……気まずい)

ゴミ収集車に偽装されたグループ専用の移動車両。
海原を除くグループと、サイレンのアゲハとカブト。そして上条当麻。
暗部に直接関係の無い上条にとってこの独特の雰囲気は耐え難い物だった。

(な、何か喋ろう……)

「な、なぁ。一方通行。お前、なんでこんな事やってんだ……?」

上条の必死でひねり出した問いに対して一方通行は青筋を浮かべる。

「あァ。誰かさンのお陰でなァ……。ったく下らねェよ」

「す、すいません……」

会話など成立しない。

「ありがとな、土御門」

「じゃ、カミやん。また明日。学校でにゃー」

土御門はいつもと変わらぬ顔でそう言うと車のドアを閉めた。
ゴミ収集車に偽造されたグループの専用車両はビルの森へと消えていく。

「はぁ……なんか大変な目にあったぜ……」

上条は大きなため息をついて走り去る車を眺めていた。

「ま、いっか。さーて家に帰って……ってあぁぁ!?」

なにやら重要な事に気づく。そう、我が家で腹をすかしているであろうシスター。
銀髪に緑の瞳の少女の姿が上条の脳裏に浮かぶ。その彼女は頬を膨らませて怒っているのだが。

重い足取りで自室へと向かう。
上条は自分の部屋の前で脚を停めてしまった。

「怒ってる、よなぁ……もう二時だし」

今日は早く帰るからな、と朝言ったばかりだった。
シスターさんは彼の帰りを心待ちにしていたのだろう。仕方ない事情があるにしても上条に罪悪感が残る。

「ごめん、インデックス……!」

目を瞑りながらドアノブを捻る。

「おかえり、とーま。帰るのがおそかったけど何があったの?」

「へ?」

そこにいたのはいたって普通、怒っていないインデックスだった。

「怒ってない……のか?」

恐る恐る上条が聞くと、インデックスは答える。

「怒る? なんでなのかな? 私はイギリス正教のシスターなんだよ」
「普通シスターさんは禁欲なんだから。ご飯食べられないぐらいで怒らないんだよ」

いや、ソレは違うだろ。と上条は心の中で突っ込みをいれる。

「それにね、お昼ごろお腹が空いたから外歩いてたらあいさとせいりにあったの」

「姫神と吹寄にか?」

「うん。そしたら二人がご飯作ってくれたんだよ。とっても美味しかったんだよ」
「でね、とうまの分も作ってくれたって。冷蔵庫に入ってたんだけど……」

かなりの運動を行った上条は冷蔵庫へと向かう。しかし、

「でもさっきお腹が空いて私が食べちゃった。ごめんね」

「そっか。まあ、待たしちゃった俺も悪いしな……」
「ちょっとコンビニでかけてくるよ」

「いってらっしゃいなんだよ!」

第七学区のコンビニにて。
ATMから金を降ろし、パンなどの食料品を上条が眺めているとふと漫画コーナーに立つ少女に目が行く。
茶色い髪に頭の頂点から生えるアホ毛。水色のワンピースの上に男物のワイシャツを羽織る子供。

「打ち止め、か? あーゆー所はオリジナルに似るのか……」

上条は打ち止めを眺めつつも買い物を続ける。すると、打ち止めの声が上条に聞こえて来た。

「むー。ミサカのお小遣いは1274円。このマンガは500円。これを買っちゃうとお小遣いがなくなっちゃうってミサカはミサカは心配してみたり……」

「よお、打ち止め」

買い物を終えた上条は未だに漫画コーナーで悩む打ち止めに声をかけた。
後ろから声をかけられた打ち止めはかなり驚き慌てた口調で答える。

「あ、あなたは上条当麻!? ってミサカはミサカは突然の登場に驚きを隠せない!」

「マンガが欲しいのか。何だかんだいってお前は御坂と同じなんだな」

「御坂っていうのはお姉様の事? っていうかお姉様がマンガ好きとは思わなかったってミサカはミサカは衝撃の事実に驚いてみたり!」

「ははは。幻滅してんなー。まあ、アイツほどお嬢様っぽくない常盤台の生徒なんて……」

「あーら、何か言ったかしらねぇ?」

聞き覚えのある声がして、上条が恐る恐る後ろを振り向いた。

御坂美琴がそこにいた。

「あ、お姉様だー!ってミサカはミサカはお姉様にハグしてみたり!」

打ち止めは嬉しそうにはしゃぐが、上条は全く喜べない。
ほんの一時間ほど前、上条は美琴との必死の追いかけっこをしていたばかりなのだから。

「で、何やってんのよアンタは。打ち止めと」

「何って……打ち止めがさ、マンガ欲しいって言ってるんだけど、買ってやってくれないか?」

「マンガ? ああ、コレね。いいわよ。買ってあげる」

「え? いいの!」

「勿論よ。その代わり、私にも読ましてくれるかしら?」

「もちろんだよ!ってミサカはミサカは喜びを露にしてみたり!」

喜ぶ打ち止めに、マンガを買い与える美琴。
以前に美琴と御坂妹の会話を見た事がある上条にとって、こちらの方が余程姉妹らしいと感じられた。

「それでは、俺はここで……」

「あっそ。じゃあね」

「打ち止めと仲良くな」

「ええ。もちろんよ」

美琴達と別れ上条は寮へと戻る。
出迎えてくれたインデックスはコンビニ袋の中身を半分ほど平らげて満足したのか真昼間から寝てしまった。


Side.ワイズ

「……ドルキと麦野沈利がやられた、か」

「ジュナスさんも現在深手を負っています」

「……情報を守るのに人員を裂きすぎたか。今動けるのは誰がいる?」

「俺がいるぜ、アマギミロク。相手には一方通行もいるんだろ?」

「ああ。ジュナスも奴にやられた。相当な力を持っている」

「俺が行く。アイツが一番の邪魔モノだろう?」

「……わかった。行け。頼んだぞ」

「任せとけ。今度こそ、アイツを殺してやるさ」


Side.一方通行

結局、今回の調査は中断。各自解散となってしまった。
けれども『ワイズ』に関してつかめた情報は少なくは無い。
第一に『イルミナ』と呼ばれる超能力を底上げする物体の存在が大きかった。

(能力の底上げ……幻想御手っつーのがあったが、アレとは仕組みが違ェよな……)
(アレは妹達のネットワークと似たシステムだろォし、大勢の使用者がいねェと大した意味はねェ)
(それに麦野沈利の強化……か。レベル5の能力ですら底上げしちまうたァ、大層なモンだなァ……)

一方通行は立ち止まって時計を見る。
時刻はまだ午前2時。少し考えて一方通行は携帯電話を取り出して幾つかの操作を行い、

「おィ、クソガキ。元気にしてっかァ?」


Side.打ち止め 御坂美琴

コンビニ近くの公園。ベンチに座りマンガを読む打ち止めの隣に美琴はいた。
打ち止めが読んでいるのは美琴も続きが楽しみなマンガで、打ち止めが読み終わるのを今か今かと待ち侘びていた。

「はい、読み終わったよ。ってミサカはミサカはアナタに本を手渡してみたり」

美琴は打ち止めから本を受け取ると無我夢中で読み始める。
少し遅れて打ち止めの携帯電話が鳴る。画面に表示された登録名を見て打ち止めは嬉しそうに電話に出た。

「アナタから電話をかけてくるなんて珍しいね、ってミサカはミサカは久しぶりの電話に喜んでみたり」

「おィ、クソガキ。元気にしてっかァ?」

「うん、私は元気だよってミサカはミサカは現状報告してみたり」

『よかったな。で、テメェは今何処にいンだ?』

「えーっと、ね、第七学区の公園、って言えばわかるかな?」

『あァ。あそこか。今から俺が行ってもいいか? 今日は久しぶりにテメェン所で飯食おうと思ってな』

「何言ってるの。あそこがアナタの家なんだよ。あ、ちょっと待ってね」

打ち止めは一度、会話を終わらせると隣にいる美琴に話しかける。

「あのね、今から私の保護者?が来るんだけど大丈夫かな?ってミサカはミサカは確認をしてみたり」

「え? ああ、いいわよ……」

美琴はマンガに目を向けたまま適当に答える。

「あ、いいって! それじゃあ待ってるからね!」


Side.一方通行

「おォ、いたいた。よォ、打ち止め……ってはァ!?」

ベンチに座っている打ち止めを見つけた一秒後。
一方通行の目に飛び込んできたのは打ち止めの隣でマンガを読み耽る御坂美琴だった。

「……えぇぇぇ!? あ、アンタ……! 一方通行ァ!?」
「何でアンタが……! もしかして、この子を狙いに……!」

美琴は慌てて打ち止めの前に立ち、コインを取り出す。

「はァ? 何やってンだ? 俺がこのガキを狙う? バッカじゃねェのか」

「な……何がどうなってるのよ……?」



「……という訳なんだよ。ってミサカはミサカは簡潔な説明でスペースを省略してみたり」

「へぇ。大変ね……アンタも」

「ンだ? テメェ。人を変な目で見てンじゃねーぞォ!?」

「別に見てないわよ。さーて、私は帰るから。あとはその子、よろしくね」

そう言うと美琴はベンチから立ち上がり、打ち止めに軽く手を振ると公園から消えていく。

「お姉様っていい人だよね、ってミサカはミサカは感激してみたり」

「へェ、そうかィ」

一方通行は興味がなさそうに答えた。

「っていうかアナタの服が少し破けてるよ」

「あァ、これかァ?」

一方通行は端の破けた服を見る。
対夜科アゲハ戦でついた跡なのだが、破けたのではない。消滅したのだ。
その後、夜科アゲハから自身の能力『漆黒暴王』についての説明を受けた一方通行はとある事を思い浮かべた。

「……アイツの能力も似た様なモンなのかァ?」

それは数日前に戦い、一方通行が虐殺したであろう人物。
学園都市で最も一方通行に近く、夜科アゲハが現れるまで、単純な能力だけで彼にダメージを与えた人物。

「それは、俺の事か? 一方通行?」

「他人の話を盗み聞くのは関心しねェなァ……」

振り向きざまに一方通行は言う。
そこに居たのは学園都市レベル5第二位『未現物質』、先日一方通行によって虐殺されたはずの人物。
彼は驚いた様子の一方通行をみてニヤ、と怪しい笑みを浮かべる。その男の名は、

「なンでテメェがここにいやがる? 垣根帝督……!」

そこに垣根帝督は立っていた。数日前となんら変わらぬ姿で。

「よぉ、一方通行。テメェを殺したいが為に地獄から這い上がってきてやったぜ」

「……そうかィ。おい、クソガキ。下がってろ」

垣根をにらみ、一方通行は打ち止めを一歩下がらせる。
一方通行はチョーカーの電極スイッチを上げた。学園都市最強の戦いが始まる。

「いいね。最高にカッコいいぜ、一方通行」
「か弱きヒロインを守るダークヒーローってかぁ!?」

垣根は両腕を大きく広げ叫ぶ。
大きな衝撃と共に垣根の周囲の地面がへこみ、垣根の背中に純白の翼が現れた。
展開された翼は左右対称に並ぶ。純白の翼を背負う姿はまるで天使。それを見て一方通行が言う。

「オイオイ、なンですかァ? 前より随分と豪華な翼じゃねェか」

垣根が背負う純白の翼。それぞれの長さは約2mほどで統一され数は左右に4つずつ、計8つ。

「一方通行。テメェが人類最強っていうんなら、俺は人間の上にいる存在になる」

「面白ェなァ! 面白ェよ、オマエ!」

「俺は力を得た……! 人智を超えた圧倒的な力を!」
「代償は大きい。それでも! テメェを殺さずにはいられねえんだよ!」

純白の翼が大きく振るわれる。
それは風を打ったのか、空間を切り裂いたのか。轟音と同時に衝撃がはしる。

(アレは……未現物質で物理法則を塗り替えて……!)

垣根帝督の能力、未現物質。この世の物理法則を捻じ曲げる力。
それは絶対的な防御を誇っていた一方通行の反射すらも擦りぬけた異世界の力。
しかし前回、一方通行は未現物質独自の物理法則を解析して反射のプログラムに組み込んでいた。

「ンな物、二度と喰らう訳ねェだろォがァ!」

謎の衝撃が一方通行の身体に触れようとした瞬間、その向きが反転する。
変わらぬ速度で垣根に迫る謎の衝撃に対し、垣根は自らの翼でそれを打ち砕いた。

「だよなぁ……オマエの反射は俺の未現物質を解析してんだろ?」
「でも、どうだ? 俺が未現物質の自分だけの現実に新たなプログラムを代入したとしたら」

「テメェがどうなろうが関係ねェよ。ここで殺されるテメェにはなァ!」

一方通行が吐き捨てる様に言った。瞬間、掌が天を衝く。
体に触れるベクトルを観測、操作。空間に流れる風を集めて、一方通行は風の塊を作り出す。
周囲の風を集めた塊を垣根帝督に向けて放つ。同時に一方通行自身も地面を蹴って超加速をした。

「チンケな風だなぁ、オイ!」

垣根が純白の翼を振り回し風の塊を打ち砕く。
しかし、一方通行の攻撃は終わらない。風を打ち破った先に一方通行は手を伸ばしながら垣根に迫る。

彼は人を殺すのを躊躇わない。
それが打ち止めを、彼女の瞳に映る世界を守る為ならばどんな善人だろうと迷いはしない。
結果、彼自身が打ち止めに拒絶されたとしても彼は打ち止めを守り抜く。

「テメェがどうなろうが関係ねェ。このガキを守る……これが俺の答えなンだよォ!」

手を伸ばす。垣根の身体に伸ばした右手が触れれば最後。
身体電流や血流を操り、その瞬間、垣根は単なる意味も無い肉片へと変わる。
宙に浮く垣根はその攻撃を避けようとはしなかった。彼の背負う純白の翼がふわり、と舞う。

「甘いんだよ。テメェは……!」

純白の翼が振るわれる。その翼は一方通行の体に触れた途端、大きな衝撃を生み出した。
垣根の身体が勢い良く吹き飛ぶ。

「がっ……!?」

ほぼ同時に一方通行の身体も吹き飛び、地面に叩きつけられた。

地面に打ち付けられた一方通行は理解が出来なかった。
確かに自分の右手は垣根の放つ純白の翼に触れた。その時点で反射は開始されたのだ。
その証拠に垣根帝督は大きく吹き飛び、公園の植木にのめりこんでいる。
本来ならば未現物質本体の放ったベクトルは全て垣根に反射される。一方通行にダメージは無い。

(どうなってやがンだ……!?)

けれども。一方通行は現にこうして地面に転がっていた。
謎の衝撃。いや、アレが衝撃かも一方通行には解らなかった。
それ程の謎の力。ベクトル云々の問題ではない。それ以前に理解すら出来ない力が働いていた。

「は、ハハハ……!」

一方通行と同じく盛大に吹き飛んだ垣根は口から血を吐きながらも立ち上がる。

「……そういう事か。一方通行!」

「なァに調子のってンだァ……!?」

「オマエも解ってるだろう? テメエの反射は完璧じゃねーことぐらい」
「いや、弱体化するまでは、か? 残念だったな。以前のオマエだったら反射できたかもしれねぇのによ」
「ベクトルの変換。最強に最凶だよ、テメエの能力は。そりゃあ弱体化しても学園都市第一位だわな……」

垣根は再び八つの純白の翼を展開させる。

「でもな、物事には限界っつー物があるんだよ。……テメェの反射にも、な」
「反射できる限界以上のベクトルを与えたらどうなるか……わかるよな?」
「処理しきれないベクトルは当然、反射を強引に擦り抜ける」

「カカカ……! そこまで見抜いてンのかァ? 大したモンだなァ!」

「限界を超える量のベクトルをぶつける為の代償で寿命が縮まったがな……」

そう言う垣根に一方通行は狂気の笑みを浮かべる。

「関係ねェ。テメェの寿命はあと数分だからなァ!」

「限界なんて超えるためにあるんだ……!」

垣根は今一度、宙に舞い空から一方通行を見下ろす。

(テメエも、そうだろ―――?)

「限界なんざ知らねェなァ。ンなモノは雑魚共の言い訳じゃねェか」

「……そうか。ならその限界を超えてみせろ」

垣根の翼が舞う。空間が切り裂かれ、謎の衝撃が放たれた。
その衝撃は一方通行の横をすり抜けていく。一方通行は思わず、目で衝撃を追った。

「て、メェ……! 避けろッ―――」

「きゃあっ……!」

幼い声は轟音に散る。辺りの草木が一気に吹き飛んだ。
一方通行の目に映るのは衝撃はによって宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられる打ち止めの姿。
その瞬間、一方通行の中で何かが壊れた。

「……grw殺yrcす」

狂気に満ちた瞳が垣根を捕らえる。
轟と爆音と共に一方通行の背中から一対の黒い翼が噴出した。

「黒い翼……! いいぜ、一方通行! やっぱりテメェは最凶だよ……!」

垣根が嬉しそうに言う。

「rmgふざlwjる……な」

「rtm……死rghね」

垣根は油断などしていなかった。前回、一方通行の黒い翼にやられたのだから。
勝てる自身はあった。一方通行の演算処理限界を超えたベクトルを放出する為に強化した能力。
けれども、垣根は思った。

(コイツは……)

瞬間、垣根は見えない力に押さえつけられ地面にのめり込む。
反応すら出来なかった。自らが背負う純白の翼は気づいた時には糸も簡単に打ち消されていた。

「rty終mws……!」

再びの見えない力が垣根を襲う。
一瞬だけ感じた激痛の後に、垣根の下半身が消し飛んだ。

三度、見えない力が垣根を襲い右腕を引きちぎる。
垣根の意識はそこで途絶え、垣根が肉片と化すまで時間は掛からなかった。

「はァ……はァ……」

黒い翼を収めた一方通行はふらつきながらも打ち止めの元へ向かう。
植え込みがクッションになったのか、芝生の上で打ち止めは気絶していた。

「……ふ、ざけやがって」

一方通行は呟きながらも杖を片手に打ち止めを担ぐ。

「帰るぞ、クソガキ」

「垣根帝督……学園都市レベル5第二位も一位の化物には適わず、か」

後ろで聞こえた青年の声に一方通行は振り向く。

「ンだ? テメェは……?」

「俺か? 俺は天城弥勒。『ワイズ』のリーダーだ。始めまして、一方通行」

「……テメェが『ワイズ』の……!」

「ああ。そうだ、一方通行。俺と共に来ないか? オマエの圧倒的な力を持ってすれば世界をその手におさめられる」

「……生憎だな。俺の望む世界なんざねェよ。……仮にあったとしても、それはコイツの望む世界だ」

一方通行は背負う打ち止めを見る。

「そうか、残念だ」

弥勒は構えを取ると、残念そうに言った。

「……ならばお前に用はない」

弥勒の手から白く光る種が現れ、地面に落とされる。

「生命の樹"峻厳"」

種は地面に落ちた途端、急速に芽吹きその形を変えていく。
一本の幹が地面を突き破り、そこから無数の枝が派生して巨大な光る樹が作り出される。
光る樹は恐るべき勢いで成長を続け、無数に作り出された枝が一方通行を狙う。

「くッ……!」

避けられない訳ではなかった。
今すぐ打ち止めを放り出し、電極のスイッチをいれればよかったのだ。
けれども一方通行はそれをしない。咄嗟に身体をひねって自らの身体を盾にして打ち止めを庇う。

一方通行の身体を光る枝が貫いた。

倒れる一方通行。打ち止めは彼の腕から離れ、地面に落ちる。
這い蹲りながらも打ち止めに近づこうとする一方通行の前に弥勒が立ちふさがる。

「……この子はもらっていくよ」

冷徹に一方通行を見下しながら弥勒は言った。
倒れている打ち止めに近づき、弥勒は荷物の様に打ち止めを持つ。

「さようなら、一方通行」

そういい残して弥勒はその場を立ち去ろうとする。

「ま、ち、やが……れ」

微かな声は誰にも届かない。一方通行の意識が途絶える。


Side.上条当麻 インデックス

翌朝。風呂場で目覚ましの音が鳴り響き、上条は目を覚ます。
眠い目を擦りながらも上条は起きた。昨晩は殆ど眠れなかったのだが。

「ふあぁ……さーて、飯作るかな」

冷蔵庫を漁り、野菜とバラ肉を取り出して簡単な野菜炒めを作る。
醤油やらをフライパンに投入しているうちにいい臭いが部屋に漂いインデックスが目を覚ました。
臭いに釣られてインデックスは着替えもせずにキッチンへと向かう。

「おはよ。とうま。元気なさそうだけど、どうしたの?」

眠たそうな顔で朝食を用意する上条を不思議に思ったインデックスは心配そうに声をかける。
上条はインデックスは心配させまいと笑顔で答える。

「なんでもないさ、さ、飯できたぞ」

「とうま、困った事があったら私に話してくれていいんだよ」
「とうまが一人で全部抱え込む必要なんて無いんだから」

疲れ気味に家を後にする上条をインデックスは玄関に立ち笑顔で見送る。

「そっか。ありがとな、インデックス」

上条はそのまま自らの通う高校へ向かう。
いつも通りの光景。昨日、土御門から聞いた事が全て嘘の様な日々。

「土御門はいないの、か」

授業が始まっても誰も座っていない土御門の席を見て上条は一人呟く。
姫神や小萌が元気の無い上条を心配するが、上条はそれを軽くあしらう。
ただ、時間だけが過ぎていった。

午後の授業も時間だけが過ぎていった。上条は自分の無力さに嫌気がさしていた。
身近な場所で学園都市の存亡が掛かった争いが繰り広げられていて、自分はそれを知っている。
なのに、自分はそれに関わることすら出来ない。そんな自分の無力さに。

「大丈夫。君は。弱くないから」

五時間目が終わり、姫神はまたも上条に寄ってきていた。
あまりにも自分を心配する姫神に上条は「自分は無力だ」と漏らしたのだ。

「君は。私を助けてくれた。……それだけで。もう。君は他の誰よりも強い」
「それに君はいつでも諦めない。諦めないから強い。だから。もうちょっとだけ頑張ってみて」
「……もし。それでもダメなら誰かを頼るの。きっと。君を助けてくれるから」

姫神は真剣な目付きで言う。上条は小さくうなずいて、

「ありがとな、姫神。ちょっとだけ問題が解決したよ」


Side.ワイズ

「垣根もやられ……残りが五人だけ、か」

「けれども目的の一つ、妹達上位固体打ち止めは手に入れた……」

「残るのは何だ?」

「……"制御の鍵"と"知識の設計図"。それら三つが手に入れば……!」

「そうか。それなら僕は"制御の鍵"を。ジュナスさん達は"知識の設計図"を」

「ああ。わかった。……行くぞ、カプリコ」


Side.上条当麻

「上条当麻か」

帰り道。呼び止められた上条は後ろを振り向く。
そこにいたのは全身を黒い服で覆った細身の男性。その手に握られているのは刀。
上条の危険度察知メーターが限界値を振り切った。相手の問いなど無視して全力で駆ける。

(何だよ、アイツ!? 日本刀持ってる奴なんてロクな人間じゃねえ!)

裏路地を勢い良く駆ける上条をジュナスは人間を超えた身体能力で追い詰める。
繰り出された斬撃を咄嗟の判断で回避した上条は裏路地に置かれるドラム缶を蹴り転がした。

「ムダな……!」

ジュナスはドラム缶を日本刀で両断する。
一瞬、ジュナスの視界がまぎれ上条はその隙をみて逃走した。

「まだ追ってきやがる……!」

上条は走りながら後ろを見る。ドラム缶の妨害など意味が無く、ジュナスは上条に迫る。
単純なスピードでは向こうが圧倒的に上。直線ならば勝負にすらならない。

(なら……こういうのはどうだ……ッ!)

上条はビルの合間を縫うようにジグザグに走る。ジュナスは翻弄され、上条を見失った。

(よし、まいたか……? これで外に出て……!)

ビルの合間から大通りに出た次の瞬間だった。
大通りを歩いていた少女と激突し、その少女が「イテテテ」と声を上げる。

「み、御坂?」

「アンタ……! ま、全く足元の覚束ない奴ね……」

「見つけたぞ……!」

上条が咄嗟に御坂を押し倒す。
シャキン、と金属の擦れる音がして御坂の後ろにあった道路標識が真っ二つに割れた。

「なっ、何よコイツ!?」

路地裏に佇むジュナスを見て御坂は言う。
ジュナスは容赦なく刀を構えると、再び振りぬいた。
斬撃が空を飛ぶ。上条は思わず右手を突き出すと、斬撃は空中で分散した。

「……アンタ、何やってんのよ?」

「な、何って……。追われてんだろ!?」

「……し、仕方ないわね。私がコイツを片付けてやるから。さっさと逃げなさいよ!」
「言っておくけどアンタのためじゃないからね! 放っておくと被害が出るからなんだから!」

「邪魔をするな……消すぞ」

ジュナスは刀を抜き構える。その眼に迷いは無く美琴を見据える。

「消す? ……誰に物を言ってるのかしら。私は常盤台のエース、超電磁砲の御坂美琴よ」

「御坂美琴……。誰だろうと邪魔する奴は消す。―――阿修羅・解」

ジュナスは刀を強く握り構えを取る。周囲の空間が微かにゆがんだのを美琴は見逃さなかった。

(刀にエネルギーが……? 素粒子の振動……!?)

「死ね」

「舐めてんじゃないわ……よッ!」

美琴の放つ電撃の槍がジュナスがジュナスを貫く。
まさに光速の攻撃を避けることなど不可能だった。電撃をマトモに喰らったジュナスは大きく吹き飛ぶ。
地面で幾度かバウンドしてジュナスは止まる。美琴はコインを一握り取り出して空中に放る。

「超電磁砲、って知ってるかしら?」

ニコ、と笑いながら美琴はジュナスに狙いを定める。
宙に舞う無数のコインが放物線を描き、落ちてくるコインが美琴の指に触れ、
爆音と同時に打ち出される。それも一つや二つではない。美琴の放ったコインは全部で7枚。
その全てが音速の数倍で撃ち出されジュナスを狙っていた。

「さーて、これで生きてれば……」

辺りを包んでいた土煙が晴れ、超電磁砲の本気の戦いの余波が現れる。
道路に刻まれた七つの線。黒コゲになった地面は、そこだけ爆弾が投下されたような状態だった。
けれども、そこにジュナスの姿は無い。

「逃げたのかしら……? まあ、相当深手を負ったでしょうし」
「後は警備員に任せとけばいいかしら……っていうかやりすぎたかも」

美琴は派手に破壊された公共道路を見て思う。
恐らく数日は使えないであろう道。損害請求は相手にしてもらおう。


Side.インデックス

公園にいたインデックスの前に突如現れた巨大な生物。
人が白い毛布を被ったような形をして、そこには無数の目がつく化物。
10万3000冊の魔道書を保管する禁書目録、インデックスはそれが何であるか察しは着いていた。

「魔術的な……でも超能力?」

「大きいまじん!」

遠くでカプリコが声を上げる。まじんは腕を大きく振り上げ、それを振り下ろした。
振り下ろした腕は木をなぎ倒し、地面を叩き割る。衝撃は少し離れた場所にいるインデックスにも及んだ。

「きゃぁっ……!」

やや体制を崩しながらもインデックスは目の前に現れたまじんを見る。
まじんの特徴、行動などを自らの知識と照らし合わせそれの対抗策を練っていた。

「インデックス! 大丈夫か!?」

遠くで暴れるまじんを見つけた上条は公園へ向かっていた。

「とうま!」

「よかった、無事みたいだな……。ゴメンな。後は俺がやるから」

上条はインデックスの前に手をやり、自らが前に踏み出る。
その手をインデックスは押しのけ更に上条の前に出た。その行動に上条は、

「おい、危ないから下がってろ!」

心配そうに言う。けれどもインデックスは退かない。

「ダメなんだよ! 私も、私もとうまと一緒に戦うんだよ!」
「私にだってやればできるんだよ。……じゃないと、ダメなんだから」

「いけー!まじん!」

カプリコが言う。まじんは腕を大きく振り上げた。

「アレって幻想殺しで防げるのか!?」

上条がインデックスに問う。すると、インデックスは首を振り、

「ムリなんだよ。多分、すぐに復活しちゃう。元を断たなきゃダメなんだよ」

「魔女狩りの王と同じか……! なら、どうやってアレを……!」

「大丈夫。想いは人に伝わる。それを私に教えてくれたのはとうまなんだから!」

まじんの腕が頂点に達し、いきおいよく薙ぎ払われた。

「右椀部を停止。両足を交差し全体を旋回せよ」

インデックスが叫ぶ。途端、まじんの動きが止まり、両足を交差してまじんはバランスを崩した。
上条は驚きながらも記憶を探る。元ロシア正教アニェーゼ部隊のシスターと戦った時の事だった。
強制詠唱。脳内に10万3000冊の魔道書を持つインデックスだからこそ可能となった対魔術専用の技。

「あのデカイのは私がなんとかするから! とうまは速く本体を!」

インデックスは叫ぶ。まじんは再び立ち上がり、腕をメチャクチャに振り回した。

「腕を背中で交差」

背中からインデックスの声が聞こえる度にまじんの動きは止まる。
その隙を縫って上条は少しづつカプリコに近づいていった。

「これが、お前らのやり方か……!」

「いいぜ、『ワイズ』……!」

「テメェらが俺達の日常をぶち壊すってんなら容赦はしねぇ」

「そのふざけた幻想をぶち殺すッ!」

伸ばした手はカプリコのスケッチブックに触れる。
パキン、と音がしてスケッチブックがビリビリに破かれた。


Side.一方通行

「……ここは」

眼を開けるとカエル顔の医者が自分の顔を覗き込んでいた。

「やあ。災難だったね……」

一方通行はカエル医者の言葉に耳も貸さず、自らの身体につながるチューブを引きちぎる。

「な、何を……!」

「見てわかンねェのか? 退院だ。世話になったな」

「……彼女を、打ち止めを助けにいくんだね?」

「あァ。それ以外、やることなんてねェだろォが。アイツは俺の全てだ」

「そうか。なら止める訳には行かないな。彼女も僕の患者の一人だ」
「ただ、一つだけ約束をして欲しいな。……君も彼女も必ず無事で戻ってきてくれ」

カエル医者の言葉に一方通行は立ち止まる。

「……任せとけ。俺を誰だと思ってやがるンだ?」

病院を出た一方通行は携帯電話を取り出し土御門へ連絡をする。
電話に出た土御門はひどく慌てている状態だった。

「一方通行か? 『ワイズ』の一員、先日お前が撃退したジュナスが第七学区付近を逃走中だ」

ジュナス。一方通行の頭に思い浮かんだ人物。

「わかった。ソイツを捕まえればいいンだろ?」

「頼んだぜい……!」

電話が切れて、一方通行はニヤァと笑った。
その笑みは狂気に満ちていて、とても嬉しそうにみえる。

「ワイズ共が……皆殺しの始まりってなァ!」



フラフラになりながらもジュナスは路地裏をさまよう。
最後の力を振り絞り美琴から逃げたジュナスに体力は殆ど残っていない。

「よォ。ジュナスくン、だっけかァ?」

カツン、カツン、と地面を杖で衝く音が聞こえ、
曲がり角の先から白い悪魔が現れた。ジュナスは思わず後ずさりをする。

「こンな場所で俺に会っちまうたァ、よっぽど普段の行いが悪ィみてェだな」
「まァ、残念だが、ここから先は一方通行だ。……地獄へのなァ!」

ぱん、ぱんと乾いた音が路地裏に響く。
ジュナスの服が血まみれになり、どさっ、とアスファルトの地面に打ち付けられる。
一方通行は銃をしまうと、電極スイッチをいれ、ジュナスの首に触れる。

「それではサヨウナラ」

ぐしゃ、と音がして一人の人間が単なる肉片に変貌した。



学園都市は秘密裏に、けれども本格的に『ワイズ』との戦いを始める。
幾つ物暗部組織が動き『ワイズ』の動向を探る。情報が入ってくるのも時間の問題だった。

「一匹片付けた。次は誰だ?」

簡潔に用件だけを土御門に電話で伝える。

「今、『ワイズ』の構成員の情報がほぼ明らかになったぜよ」
「残るは三人。生命の樹アマギミロクと、瞬間移動シャイナ、天修羅グラナ」

「……ドレから殺せばいいンだ?」

「まだ見つかってない。見つけたら真っ先に連絡が来るぜよ」
「もちろん『サイレン』の連中も一緒に探してるにゃー」


Side.上条当麻 インデックス

上条当麻は怒っていた。
目の前の少女はなれない力の多用により倒れている。

まだ善悪もつかない幼い子供を使ってまで達成したい目的とは何なのか。

「ふざけるな……!」

右手を強く握り締めた上条は言う。

「ふざけてるつもりはないさ。……目的の達成の為に手段を選ばないだけだよ」

倒れているカプリコに目もくれず天城弥勒は現れ上条の前に立つ。

「テメェは……?」

「天城弥勒。……『ワイズ』のリーダーといえばわかるかな」
「俺達の目的はこの世界を壊し、新たな秩序を創り出す。いわば世界の再創造」

「そんなふざけた幻想は……俺が打ち砕いてやる!」

上条の言葉に弥勒は少し黙って、

「幻想……? 何を言っている。これは紛れも無い真実。現実だ」
「仮にお前が俺の幻想を打ち砕くというなら……その力を見せてくれ」

弥勒から放たれた光る種が樹へと変貌していく。

「生命の樹"峻厳"」

大きな光る樹から無数の枝が上条に向かって襲い掛かる。
さっ、と上条は右手を突き出した。光る枝は右手に触れた途端、パリンと崩れ落ちる。

「……! 面白い……!」

「どうした? お前の言う現実ってのはこんなものか?」

「まさか。お前に現実を突きつけてやろう……!」

弥勒が掌に無数のエネルギーを集合させた玉を創り出す。
魔方陣が現れ、弥勒は創り出した玉を魔方陣の中心に設置し、

「"生命の門"開門」

魔方陣が開かれ、まばゆい光と共に、無数の粒子で創り出された光線が放たれた。
咄嗟に上条が右手を突き出すが、あふれ出る力は幻想殺しの処理を超えていく。

(クソ、粒子自体の大きさがバラバラで処理しきれねェ……!)

上条の絶対的な防御を誇っていた右手に傷が出来る。
更には圧力を受け、上条の身体は少しづつ後ろへと下がっていた。

上条は負けない。負けてしまえば全てが終わってしまうのだから。

「うぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉおぉおお!!!」

雄たけびを上げながら一歩、また一歩と右手突き出しながら進む。
今まで押し返されていた光線に対して上条は、それを自らの力だけで押し返そうとしていた。

「なっ……! "生命の門"の攻撃を……ッ!」

バリン、と音がして光線を創り出していた光の粒子が四方に散る。
上条は前のめりに倒れかけながらも体制を立て直して弥勒へと向かって走る。

その神の奇跡をも打ち砕く右腕を振りかざして、

「何をやってるんだ、お前は」

ドコォと激しい衝撃が上条を襲った。
一瞬で世界が飛んで、背中に堅い物が当たる衝撃を喰らい視界が安定する。
直前まで天城弥勒との距離は1メートルのなかったはずなのだが、今では弥勒が遥かに遠い。

「これからが面白いところだったんだがな……」

弥勒は隣にいる男、天修羅グラナと話す。

「お前がいなくなれば計画はゼロになる。……早くアレを回収しねえといけないんだろ?」

「ああ。そうだな……上条当麻。悪いが、禁書目録はもらっていくよ。この知識は必要だ」

弥勒の言葉に上条は足掻く。けれども届かない。
インデックスは念動力で持ち上げられて。弥勒とグラナはその場を去ってしまった。

「ふ、ざけんな……」

上条の言葉だけがその場に残る。

「おい、カミやん!? ……カミやん!?」

土御門の声が聞こえた。遠のく意識を無理矢理引き戻して上条は起き上がる。

「土御門……」

「どうしたぜよ!?」

「インデックスが……ワイズに……」

その言葉を聞き、土御門の顔が曇る。

「やっぱり……カミやん。ちょっとオレらと一緒に来てくれ」


Side.夜科アゲハ 雨宮桜子 霧崎カブト

夜科の黒い流星が空を裂いた。シャイナはそれを軽々と回避する。

「……ッそ。相性が悪い……!」

「おい、アゲハ! 右ッ!」

カブトが言う。アゲハはすぐさま右方向に円盤型メルゼズを繰り出した。
そこに現れたのは巨大な岩。メルゼズはそれを全て喰い尽す。そして、

「皆! 離れろッ……!」

アゲハの手にあるメルゼズが膨張し、そこから無数の触手が現れる。

「あなたの能力は非常に強力ですが、特製さえ解れば大した事がありません」

(このままじゃ雨宮たちも……! 強制終了!)

アゲハを激しい頭痛が襲う。
シャイナを追うメルゼズの触手は砕け、破片が塵となって消えた。

「はぁ……はぁ……」

多大な演算を行い息切れをする夜科を見て雨宮は思う。

(このままだとマズイ……! 私達でどうにかしなきゃ……!)
「霧崎! 行くわよ!」

雨宮が声をあげて言う。霧崎は眼で消えいくシャイナを追って、

「そこだっ! 左!」

カブトが叫ぶ。

(左……? ついに脅威幻視も限界、か)

シャイナはカブトの口にした正反対の方向へ瞬間移動する。
既にカブトとアゲハは戦えない。あとはいかにして残りを倒すかを考えていた。
そして、

「首一本もーらった」

ゴキィ、と鈍い音がした。自らの視界が真っ黒に染まる。
眼を開けると、そこには雨宮がいた。そして、雨宮とカブトを繋ぐ有線トランス。

「ま、さか……!」

「ええ。大当たりよ。霧崎が言ったのは嘘。あなたはまんまと騙された訳ね」
「まあ、私の能力で前以ってアナタの思考は読めてたんだけど……捕らえるまではムリだったから」
「霧崎のお陰ね。……一応は感謝しなきゃ」

雨宮はそういうと、空中に浮かぶシャイナを地上に叩き落した。

倒れるシャイナに雨宮は容赦なく銃撃を浴びせる。
その数は十数発。限界まで弾を撃ち出すと雨宮は拳銃を放り投げた。

「これで大丈夫ね。……ふぅ。流石に私も疲れたわ」

雨宮は腰を下ろして休む。カブトも疲れた様子で地面に寝転がっていた。
疲れているアゲハの隣に座ると、雨宮はアゲハに話しかける。

「……そういえば、ワイズの目的って何なのかしらね」

「世界の創造と再生、か。……何をしようってんだ……!」

「……今から俺達がそれを見せてやるよ」

「リトルバニー! 下だ!」

「脅威幻視も反応スピードが遅くなってきたな……」

カブトの声を聞き雨宮は咄嗟にその場所を離れようとするが遅かった。
地面から突き出た無数の光る樹は瞬く間に雨宮の身体を包み込み、雨宮を拘束する。

「テメェ……! 雨宮を離しやがれ!」

夜科が立ち上がり、暴王の流星を構える。けれども弥勒とグラナは臆すことは無かった。

「いいさ。やってみろ。ただ、この光る樹を狙えば同時に彼女も串刺しだ」

「くっ……!」

アゲハは思わず暴王の流星を解除する。

「グラナ、やれ」

「……ああ。日輪"天墜"」

カブトが空を見上げる。空間が黒く塗りつぶされていた。
光を捻じ曲げる最強のテレキネス。カブトは完全な死の脅威を感じ取った。

アゲハは天へ手を衝き出す。

(ディスクじゃ耐えられない……! ここは……!)

現れたのは巨大な漆黒の球体。これこそが『漆黒暴王』の原型。
最も大きな威力とホーミング制を持ち、そして最も使用者に負担をかける物だった。
圧倒的な吸収力を誇る原型に打ち勝った者は今までにいない。

そして遥か上空から光が撃ち堕とされた。

漆黒の暴王と純白の光がぶつかり合う。
激しい衝撃と光が生まれあたりの建物をなぎ倒す。

「あ、ああ……」

「これでいいのか?」

「目的は達せられた。禁書目録の知識、雨宮桜子の制御、妹達による召喚」
「世界は……破滅を迎える」

舞い上がった砂埃が晴れる頃には、雨宮桜子は消えていた。


Side.夜科アゲハ 上条当麻 一方通行 土御門元春

「……禁書目録の知識、雨宮桜子の制御、妹達による召喚」

弥勒の言葉を復唱する土御門。

(妹達と雨宮はわかる。何故、禁書目録の存在をアイツは知っている……?)
(科学サイドでそれを知るのは俺かアレイスターぐらいだが……)

暫く考えて、土御門は彼なりの結論を導き出す。

「なるほど。そういうことぜよ……」
「よく考えたら生命の樹なんてモロ怪しいんだにゃー」

「天城弥勒は魔術師だ」

「アイツの力なンざ関係ねェよ。アイツは打ち止めを使って何をやろうとしてンだ?」

「……恐らくだが、ヒューズ=カザキリのような存在を創り出し完璧に操るつもりぜよ」

ヒューズ=カザキリ。0930事件で学園都市に来襲した魔術師を撃退する為に作られた人工天使。
それ自体は不完全な存在で、結果的には打ち止めの知識を得たインデックスの詠唱で破壊された。
けれども上条は知っている。それがどんな力を秘めているかも。弥勒たちが創り出そうとしているのは更にその上。
そんな状況になれば誰一人太刀打ちする事が出来なくなってしまう。

「……完全なる神の召喚、っつー訳か」

「止める手立ては……何か無いのか?」

「あるにはある……ただ……」

「            」

土御門の言葉に一方通行は怒り、机に拳を叩きつける。
一方、上条は土御門の胸倉に掴みかかり、怒鳴り散らした。
アゲハは何一つ動じない。彼は数々の戦いの中で犠牲は仕方ないと思えた人間。

「こ、これ以外方法は……! この中に天城弥勒に勝てる奴なんていねーぜよ!」
「とりあえず今を凌げば必要悪の教会も動く。だから……!」

「テメェ……ふざけてんじゃねぇよ! 土御門!」
「だからと言って……インデックス達を殺す!? ふざけんな!」

上条は怒りに身を任せて怒鳴りつける。

「冷静になれ。上条当麻。これはお遊びじゃないんだ。……たった三人の命と全世界の命」
「んな物は比べるまでも無いんだにゃー」 

「もゥ、いィンだよ! 黙ってろ!」

一方通行が怒鳴り散らすと、土御門と上条は言葉を止める。

「……こうなってンのも、そもそも打ち止めがいるのも俺の責任だろうが」
「……最低、アイツだけ止めればいいンだろ? ……もういィンだよ。俺がやる」

「なっ、テメェ……! 何言ってるのかわかってんのかよ!?」

「わかってるに決まってンだろォ!? ああ、そうだ! わかってるから、こンなふざけた事が言えンだろ!」
「もしアイツを使ってアマギミロクが何かしてみろ。どっちにしろアイツは廃人になっちまうンだよ!」
「だったら……! だったらせめて今のうちに……!」

そう言う一方通行は自らの非力を悔やみ、拳を強く握っていた。
夜科も土御門も何も言えない。この決意を止めることは誰にも出来なかった。

「お前らは本当にそれでいいのかよ?」

「なあ、一方通行。お前が導き出したのは、そんな悲しい答えなのかよ?」

「打ち止めと話す機会があったんだ。その時アイツさ、お前の話ばかりするんだ」

「お前は打ち止めに信頼されてんだよ。お前もそうだろ? なら、なんでこんな残酷な方法しか選べないんだ!」

上条の言葉に一方通行は、

「ふざけンな! コレはRPGゲームじゃねェンだよ! そんなハッピーエンドなンてある訳ねェだろォが!」

「なら! テメェで作ってみせろ!」

「誰もが望む最高のハッピーエンドって奴を! テメェなら出来るだろ!?」

「学園都市第一位に第六位、超一流の魔術師。お前らはどうして力を手に入れたんだよ!?」

「んなモン決まってんだろうが! お前らは! 誰かを、何かを守る為にその力を手に入れたんじゃねーのかよ!」

「それに……アイツらだってお前らを信頼して、お前らを待ってんだ!」

「魔王に囚われたヒロインを、救い出してやるのが主人公の役目じゃねぇのかよ!?」

「少なくとも、お前らには主人公になれるほどの力があるじゃねぇか! 誰も持たない最高の力が!」

「解ったら立ち上がれ! 戦うなら拳を握れ! バッドエンドじゃあ終わらせねぇ……」

「最高のハッピーエンドをこの手で切り開いて行こうじゃねーか、ヒーロー!」

「ハッ……ふざけてンなァ、テメェはよォ」

「全くだ。上条。……なんかさ、お前となら何とか出来そうな気がするよ」

「これがカミやんの凄いところぜよ。ったく」

三人は立ち上がる。それぞれ守るべきものの為に。
一方通行は外へ出るため扉へ向かう。上条とすれ違いザマに

「……ンじゃァ、さっさと行くぞ。ヒーロー」

上条が振り返ると、一方通行は笑っていたような気がした。

「来た、か。今更どうするつもりだ」

「テメェらをぶっ潰す。それ以外にはありゃしねえよ」

「面白い……! やってみろ!」








結局。
学園都市が壊滅する事はなかった。
『ワイズ』の野望はとある四人の主人公達によって阻止された。

……後日談?

「おはよう、とうま」

風呂場から出てくると、珍しくインデックスが起きていた。
テレビに映るのは魔法少女カナミンの再放送。ということはこれを観る為に起きていたのか、と上条は少し呆れる。
冷蔵庫中の蓋を開けて、中から大きな鍋を取り出した。先日、姫神と吹寄が作ってくれたカレーの余り。

「む、この臭いはカレーなんだね」

鍋から漏れる臭いを嗅ぎ付けてインデックスが言う。
上条は「待ってろよ」というと鍋を火にかける。カレーのいい臭いが部屋中に漂う。
しばらくしてカレーが温まり、よそったご飯にカレーをかける。二人(+一匹)分を用意して、「頂きます」。

「とうま。ありがとね」

カレーの皿が空になってインデックスが三回目のおかわりをした所でふと、上条に言った。

「ん? どうしたんだ?」

「ううん。なんでもない」

上条の学園生活も今までどおりに戻っていた。
土御門は学校にちゃんと来ていて、青髪ピアス達とバカ騒ぎをしている。

「あなたは。元気に。なったのかな」

姫神が言う。上条はうなずいて、

「ああ、お陰でな。ありがとな、姫神」

上条の言葉に姫神は少し顔を紅くするが、上条はそんな事に気づきはしない。
吹寄も上条を心配していたようでブツブツと文句を言っていた。

「御坂にも迷惑かけちゃったし、何処か誘ってみようかな」

上条はそう言うと携帯電話を取り出し御坂にメールを送る。
メールの返事はすぐに返って来た。放課後、いつもの公園で待っているそうだ。

放課後、公園にいくと美琴は律儀にベンチに座って上条を待っていた。

「よお、御坂」

上条の呼びかけに美琴は顔を紅くして答える。

「え、ええ! で、きょ、今日は何かしら……?」

「いや、別に。美琴にお礼が言いたくてさ。ありがとな」

「べ、べつにアンタの為なんかじゃ……」

美琴が顔を真っ赤にして言う。
「で、でも頼まれたらやってあげないことも……」と最後にゴニョゴニョと言った言葉は上条に届かない。
結局、二人はとある喫茶店へ行く事となった。


「あ、あなたの珈琲おいしそうだね、ってミサカはミサカはカップを奪って飲んでみたり」

「て、テメェ! 舌火傷したら危ねェだろォが!」

「へへへ。ってミサカはミサカは舌を出して可愛い子っぷりを発揮させてみたり」


喫茶店に入ると『サイレン』のメンバー、夜科アゲハ、雨宮桜子、霧崎カブト、望月朧がいた。
雨宮桜子を見た美琴は少し嫌そうな顔もしていたが、向こうはそうでもなかったようだ。
そして数分後には雨宮にしつこく迫るカブトに美琴が電撃による制裁を与える、というほほえましい光景が見られることとなる。

「やっぱり今後も『サイレン』の活動は続けるよ」
「上条が表から学園都市を守るんなら、俺達は裏から、ってな」

「そうか、頑張れよ」

「ああ。任しとけ」
「アレ? ……そういえば朝河の奴は?」

そういえば『サイレン』のメンバーが一人足りない事に上条は気づく。
すると、望月朧と霧崎カブトはニヤニヤしながら喫茶店の外を眺める。

「ヒーローは遅れてやってくる、ってね」

「今日はいい天気だな」



928 : ◆OxJHzKNBv2 :2010/02/28(日) 21:03:16.33 ID:vj+5ednM0

PSYREN×とある魔術の禁書目録

PSYRENは連載当初から、とある~は数ヶ月ほど前から
それぞれ好きな作品を取り扱ったクロスssを書かせてもらうことが出来ました。
今回のssでは何よりも登場人物が多かったので、それぞれを動かすのがムリでした。実際、結標は消えてます。
更に後半の無理矢理具合(特にラスト)なんかが酷かったような気がしますが、とりあえず完結はできてよかったです。
全てを台本書き以外で描写?したのは今回が初めてで、とっても見難い文章だったと思います。スイマセン。
恋愛モノの場合だと基本的に上条(一方通行)とヒロインだけで会話が進むのでとても楽だと思いました。

今日はいい天気だな。明日もいい天気でありますように。


とある魔術の禁書目録最新20巻は3月10日発売!
PSYREN-サイレン-は週刊少年少年ジャンプで大好評連載中! 単行本最新10巻は3月4日発売!


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