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億泰「学園都市つってもよォ~」

2010年10月15日 20:07

億泰「学園都市つってもよォ~」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/06(水) 18:35:07.90 ID:eM880pzN0
立つのだろうか?


2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/06(水) 18:36:06.19 ID:eM880pzN0

総人口約230万を誇る超巨大都市。
最先端の科学技術、独自に運営されている行政・立法・司法はもはや国家と言っても間違いではない。
そして…学園都市にはそれとは別に隠している側面があった。
それは『超能力』を開発している機関だということ。

その事実を知った『とある』財団は、事態を重要視。
幹部による会議を重ねるうち、財団の重要幹部である一人の学者がひとつの解決策を提示した。

それは…学園都市に学生を一人送り込み、どこまでが真実なのか確かめてもらうという単純でありながらも効果的な妙手。

かくして、その学者がもつ独自の交友関係から選ばれた一人の男が学園都市に訪れる。
到着早々巻き込まれた爆弾事件に首を突っ込み、爆発寸前の爆弾を『削りとり』、そのまま犯人を一蹴。
駆けつけてきたジャッジメントにその場を任せ夜の闇に消えていった謎の男。


学園都市にあらわれたその男の名は虹村億泰といった…



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■学園都市・風紀委員第一七七支部

空調が適度に効いたジャッジメント支部。
静かな空間に響くカタカタという小気味良いタイピングの音。
しかし、やがてキーボードを弾く音はまばらになり…そのうちピタリと静かになった。

黒子「うむむむむ~」

同時に聞こえる唸り声
その声の主は白井黒子だった。
そんな黒子の後ろからほんわかとした声がかかる。

初春「どうしたんですか白井さん? あれー? それって?」

黒子「えぇ。 例のグラビトン事件の報告書を作成してるんですの」

初春「あぁー…あれはビックリしましたー。 
   でもさすが白井さんですよねー いつの間に犯人を突き止めたんですかぁー?」

黒子「…」

初春「それに私達、御坂さんもにも助けてもらっちゃって… やっぱりレベル5って凄いんだなぁ~…」

黒子(…違いますわ)

ホワホワと呟く初春を見ながら白井黒子が心中で呟く。
連続虚空爆破事件、通称グラビトン。
先日、セブンスミストの爆破『未遂』事件を引き起こした犯人である介旅初矢は白井黒子によって確保された。
だが実は幾つもの疑問が残っていた。


■学園都市・路上(セブンスミスト爆破『未遂』事件・翌日)

黒子「おっねえっさまぁー!」

ビヨーンと飛びかかる黒子を慣れた手つきで弾いたのは学園都市第3位、『超電磁砲』の異名をもつ超能力者、御坂美琴。

御坂「あいっかわらず元気ねー」

黒子「それはもう! お姉様への愛の前にはマグマだろうと氷河だろうと障害には蹴散らしてみせますわぁ!」

しゃにむに頬をスリつけようとしてくる白井黒子をあしらいながら苦笑いを浮かべる御坂。

御坂「ね、ちょっと聞きたいんだけどさ… 昨日の連続爆破事件…あれってちゃんと解決したのかな?」

黒子「あら? あらあらあらぁ? 嫌ですわお姉様ー! 
   爆破事件を事前に食い止めたお姉様こそが一番の功労者に決まってるじゃありませんの!」

御坂「…違うの」

黒子「またまた~ お姉様に謙遜なんて似合いませんのよー」

御坂「…ホントに違うのよ黒子」

御坂の声のトーンから真剣に聞かれているということに気付き、ようやく佇まいを整える黒子。

黒子「ゴホン……どういうことですの?」

御坂「あのとき…私のレールガンは間に合わなかった」

黒子「えっ?」

御坂「考えてみてよ? 
   そもそも私がレールガンを撃ってたら、セブンスミストの壁の一枚二枚は楽に吹き飛んでるはずでしょ?」

黒子「そういえば…そうですわね… でもだとしたら誰が?」

御坂「…判んない。 私は最初…『アイツ』だと思った」

御坂「でも…違うのかもしれない」

黒子「?」

御坂「ねぇ黒子? セブンスミストの被害は?」

黒子「被害? 何を仰いますの? 爆破『未遂』事件ですのよ?」

御坂「うん…そう。 そうよね…」

黒子「お姉様…いったい何を悩んでらっしゃるのです? わたくし、相談に乗りますわよ?」

御坂「…ねぇ黒子。 例えば…例えばよ? 超能力を強制的にゼロに戻す能力があるとするじゃない?」

黒子「はい? …いきなり何を?」

御坂「いいから聞いて。 それでさ、私って磁力で砂鉄のブレードつくれるんだけど…
   その磁力をゼロに戻したらどうなると思う?」

黒子「えーと…磁力で砂鉄を操ってるのですから…ただの砂鉄に戻る?」

御坂「うん。 そのとおり。 能力がキャンセルされれば、元の形に戻っちゃう。 ま、当然の話よね」

黒子「…お姉様? わたくしさっぱり話が見えないのですけれども…」

御坂「あの時…重力子の加速が確認されたって言ってたわよね?」

黒子「え? えぇそうですわ。 
   グラビトン事件は重力子の数ではなく速度の加速による爆発させる能力によるものですから」

御坂「…だけど爆破は『未遂』だった」

黒子「もうお姉様ぁ~ そろそろイジワルはやめて欲しいですのよ? いったい何を仰りたいのです?」

御坂「ねぇ…爆弾の本体って『どこ』にいったのかな?」

黒子「…え?」

御坂「私だけじゃない。 初春さんも佐天さんも見てたはずなの。 ゲ
   コ太の偽物みたいなぬいぐるみが潰れて小さくなっていくのを」

御坂「だけど爆弾は爆発しなかった。 おかしいと思わない?」

御坂「肝心の爆弾は『どこ』へ消えたの?」

黒子「……あっ!」

御坂「もし…もしもよ? 『アイツ』が爆弾が爆発する前に強制的にゼロに戻せたとしても…そ
   れでも爆弾は消えてなくなったりはしないはず」

黒子「…確かにそうですわね。 爆弾が爆発していないのならばそれは不発弾。 
   ならば現場に残っているはずですわ」

御坂「でも…現場には何も残ってはいなかった。 まるでこの世界から『消えた』みたいに」

黒子「…」

黒子「言われてみると…不審な点が浮かび上がってきますわね…」

御坂「でしょ? だからさ…私聞いてみたのよ」ギリッ

突如、歯噛みをする御坂。
静電気で髪が逆立つのを感じ、ギョッとする黒子。

黒子「…お、お姉様?」

御坂「わざわざ…わざわざアイツを待ち伏せしてさ。 このあたしがよ!?」ギリギリ

黒子「お姉様? お、お気を確かに…」

御坂「そしたらさぁ…! あんのツンツン頭…問いただしてもはぐらかすばっかだし…」ビリッ

御坂「なぁーにが『誰が助けたかなんて関係ないだろ』よっ! 『みんなが無事でよかったよなぁ』よっ!」ビリィッ!

黒子「おねえさま…? 電気…漏れてますわよ?」

御坂「あーもー! ムッカつくー!!!」ビリビリィ!

黒子「おっおねえええっさまあああ! 電気が漏れて痺れてシビシビですのぉぉ!」


■学園都市・風紀委員第一七七支部


初春「…‥さん? 白井…ん? 白井さん?」

黒子「ハッ! いけないいけない! 
   思わずお姉様がくださった稲妻のような愛の衝撃に思わずトリップしてましたわ!」

初春「アハハ…それってきっと稲妻ですよー? そうだ! コーヒーでも淹れますかー? 
   頭スッキリするかもですよー?」

黒子「ええ…確かにリフレッシュしたいですわねー。 お願いしてもいいですの?」

初春「はーい ちょっと待っててくださいねー」

コーヒーメーカーに向かう初春の後ろ姿をぼんやりと見つめながら黒子はさらに思索にふける。


黒子(それにもう一つ…あの怪しげな殿方も問題ですわね)

黒子(あの殿方がどうやって犯人を特定したかは置いておくとして…能力の見当がまるでつかないですの)

黒子(犯人の指を瞬時に潰したのはテレキネシスでなんとか説明は可能ですけども…)

黒子(瞬時に私と爆弾の間に入り込んだことはさっぱりですわ)

黒子(挙句にこっちが犯人を拘束しているうちに逃がしてしまいますし…
   今度会ったらキッチリ取っ捕まえてやるですの!)

初春「コーヒーできましたよー て、どうしたんですかー? 
   そんなにオデコにシワを寄せてたらおばあちゃんになっちゃいますよー?」

黒子「…初春ぅー?」

初春「はいー?」

黒子「だ れ が バ バ ア 声 で す っ て ー?」

初春「えええ!…そんなこと言ってないですよー」

黒子「いーえ! 言ってましたわ! 心の声が届きましたもの!」

初春「あうあう…やめれくらさいー」

ムニムニと初春のほっぺたを引っ張る黒子。
と、その時シュカンッ!と音を立ててロックのかかっていた筈の扉が開いた。

御坂「おっすー!」

ビシリと腕をあげながら入ってきたのは、御坂美琴。

黒子「お姉様ぁ~ 能力でセキュリティ解除するのはよしてくださいなって言ってるじゃないですの」

御坂「いやーメンゴメンゴ! でもほら、私もさーちょっとはこの事件に関わったことだしー」

黒子「それはそれ、これはこれですの…ってまた今日は随分とご機嫌ですのね?」

御坂「んー? まぁ昨日はあのあと一晩中アイツと追いかけっこしたからかなー? 
   ストレス解消になったのかも」

ヘヘヘッと笑う御坂の後ろから、ピョコンともう一つの顔が飛び出てきた。
それを見た初春が驚いたような声をあげる。

初春「あー! 佐天さんじゃないですか!」

佐天「やっほ! 偶然そこで御坂さんにあっちゃってさー」

ヒラヒラと手を振りながら空いている椅子に腰掛ける佐天。

佐天「まっ。 今日は暇だし? どうせなら初春の仕事っぷりを監視してやろうと思ってねー」

フッフッフッと笑いながら手をワキワキと動かす佐天。

初春「そっ、その手はなんですー!?」

佐天「気にしない気にしないー …隙ありぃ!」

初春「やっぱりめくるんじゃないですか! やっぱりめくるんじゃないですかぁぁ」

黒子「むむむ…お姉様! 見せつけられて黙ってるわけにもいきませんわ! 
   いざワタクシとめくるめく愛の世界へ!」

御坂「あ・ん・た・は! いい加減懲りろー!」ビリビリィ

キャイキャイと仲睦まじくはしゃぎだす少女達。

初春「もう! 佐天さん! わたしおこっちゃいますよー?」

僅か数分でスカートを7回めくられた初春がプンプンとほっぺたを膨らませる。
ちなみにその時黒子は御坂に低電圧の電流をしこたまたっぷりと流され部屋の隅で悶絶していた。

佐天「ムフフ~ ほっぺた膨らませた初春も可愛いなぁ~」

初春「いいんですかー? 言っちゃいますよー?」

佐天「ほほう…何を言うつもりかなぁー初春は? 今日のあたしのパンツの柄なら今見せてあげよっか?」

初春「ち、ちちち違います! 佐天さんがお色気ポーズを披露したときのことですぅ!」

佐天「なっ!?」

黒子「お色気?」

御坂「披露?」

初春の言葉にそれぞれピクリと反応する御坂と黒子。
そして佐天はといえばじんわりと頬が赤くなっていた。

脳裏に鮮明に映し出される数日前の記憶。
それはセブンスミストで初春達と洋服を見に行ったときのことだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「うひゃあ! 見て見て初春ー! このビキニ、ギリギリすぎー!」~
「え? あたし? あたしじゃあ似合い過ぎだよ~ なんてね♪」~
「ん? 後ろ? 御坂さんでしょー? 女同士なら恥ずかしくないって! どーです御坂さーん? これ似合いますぅ?」
ウフ~ン♥という擬音が似合いそうなセクシーポーズのまま振り返った佐天の目の前にはポカンとした顔の大男
「…あ~。 そのよぉ~。 何ッつーかよぉ~……ちーっとばかしオメーには早えんじゃあねぇーかぁ~?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ボフンと頭の上から白い湯気が出しながら顔を真っ赤に染める佐天涙子。

佐天「まっ待ってぇ! あれは無しっ! 無しの方向でぇぇっ!!!」

椅子の座面に顔をうずめて足をバタバタさせる。

御坂「うわあ…耳真っ赤だよ? 大丈夫?」

黒子「? いったいどういうことですの?」

初春「えーとですねー…実は…」

佐天「やぁぁぁめぇぇぇてぇぇぇ!!!」

初春「フッフッフッ…佐天さん、貸しひとつですよー?」

佐天「わかった! わかったから言わないでぇぇ!!」

腰に手をあて不敵にウフフと笑う初春飾利。
それは記念すべき対佐天涙子戦の初勝利でもあった。

佐天「うー…ヒドイ目にあった。 おのれ初春ぅ…」

初春「そんなぁ… それもこれも佐天さんがスカートめくらなければ済む話なんですってばぁ…」

ぼやく佐天に苦笑いをかえす初春。
その時、小さなブザー音が鳴った。

黒子「あらま、どなたかしら? 固法さんは今日は非番のはずですし…」

そう言いながらドアカメラのスイッチを押す黒子。
モニターの向こうには緑のジャージに身を包んだ女性が立っていた。

黄泉川「アンチスキルの黄泉川じゃん! 開けてほしいじゃーん!」

そう言ってドアカメラに向かい身分証を突きつける黄泉川。

黒子「アンチスキル? 緊急といった雰囲気でもないようですけど…ま、考えても仕方ないですわね」

そう納得しながら開錠のボタンを押す黒子。
プシューと独特の音をたてながらスライド式のドアが開いた。

黄泉川「やぁやぁ邪魔するじゃーん!」

ニコニコと笑いながら部屋に入ってくる黄泉川。

黒子「ごきげんよう…ですの。 ところでいったいアンチスキルの方がどんなご要件ですの?」

黄泉川「そう慌てることはないじゃん? ほらほらさっさと入ってくるじゃーん」

そう言ってドアの向こうに声をかける黄泉川。
感知式のドアが閉まりかけ…また開いた。

?「ここちょっと4・2・0(シ・ツ・レイ)~ってなぁ~… ン?」

入ってきた人物を見て少女たちは一様に目を見開き、驚きの声をあげる。

初春「あっ!」
黒子「ああっ!」
御坂「あああっ!」
佐天「ああああっ!」

億泰「なっなんだァ~?」



黄泉川「…と、まぁこういう訳じゃん」

体育教師なのがもったいないほど要領よく概要を説明し終えた黄泉川が、パサリと束まれた書面を黒子に手渡して話を締めくくる。
あまりにも突飛なことを言われ、思考が追いつかないジャッジメントの少女たち。
やがて、おずおずと初春が黄泉川に質問をする。

初春「…え、えーっと。 つまり…あちらの…
   ニジムラオクヤスさんを私達ジャッジメントで監視するってことですか?」

黄泉川「んー。 そういうことでもないじゃん。 ただ厄介事に巻き込まれないよう気を配るだけでいいじゃん」

黒子「…理解に苦しみますわね」

ポツリと黒子が呟いた。
その目は黄泉川から手渡された書面を真剣に追っている。

黄泉川「疑問があるなら言ってみればいいじゃん? 答えられる範囲なら答えてみせるじゃーん」

ふざけた語尾に似付かわしくない瞳で黄泉川が黒子の問を待つ。

黒子「それでは…遠慮無く」

ゴホンと咳払いをする白井黒子。

黒子「わたくしたちジャッジメント、それにアンチスキルも結局は学園都市の治安維持機関にすぎませんわ」

黄泉川「そのとおりじゃん。 校内外へそれぞれ適時適切な場所に人員を配置した結果。
    それが今のジャッジメントとアンチスキルじゃんよ」

黒子「そこですの…昨今の事情を鑑みるに、特定の個人にまで手を回す余裕はない筈ですわ」

初春「そう…ですよねー 最近能力を強化する薬が出回ってるだなんて噂も流れてますし…」

黄泉川「その疑問はもっともじゃん。 私もそこが気になって上司に問いただしてみたじゃんよ」

黒子「…そ、それで何と?」

食いついた黒子を焦らすかのように大袈裟なジェスチャーで肩をすくめる黄泉川。

黄泉川「一応は小隊長の私が取り付く島もなかったじゃん。 
    大きな声じゃ言えないけど…この命令系統は相当上位の人物が握ってると判断するのが妥当じゃん」

初春「アンチスキルの小隊長さんが取り付く島もないって…もしかして…」

黄泉川「…学園都市統括理事会。 場合によっちゃあ…」

そこまで言って口を濁す黄泉川。
彼女がなにを言いたいのかは、それで察しがつく黒子と初春。

黒子「……あちらの殿方が?  悪い冗談っていう訳じゃあ…ないんですわよね?」

そう言ってチラリと流した視線の先には虹村億泰と佐天涙子がいた。

億泰「…オイ…なぁーにジロジロ見てんだぁ~?」

佐天「はぁ? なに言ってんの!? 見てんのはあんたでしょ!」

億泰「テメェー…人が年下だと思って優しく接してやったら調子のりやがってんなぁ~?」

佐天「ハァ~ッ? あれで優しく接したなら今頃あたしは女神さまだっての!」

億泰「ンだとぉ~このガキィッ!」

佐天「な、なによっ! チョコチップのアイス舐めるヤンキーが凄んだって怖くもなんともないっての!」

億泰「ア、アイス舐めながら登校すんのはよぉ~ 
   オレの月曜の唯一の心のなぐさめなんだから馬鹿にすんじゃあねぇ~!」

佐天「だからってピンポイントであたしの大好物もってくなんて嫌がらせじゃない!」

億泰「ンなこたぁオレが知るわきゃねーだろぉーがよぉ~!」

ギャーギャーと子供の喧嘩のようなレベルの低い口論をする億泰と佐天を横目で見て問う黒子。

黒子「……『アレ』が?」

黄泉川「……『アレ』じゃん」

神妙な顔で問いかけてきた黒子にコクリと頷く黄泉川。

呆れた顔をする黒子の後方、壁に寄りかかったまま鋭い目で億泰を見ていた御坂美琴が口を開いた。

御坂「…ねぇアンタ」

冷たい口調にピシリと空気が凍る。

黒子「お、お姉様?」

御坂「黒子は黙ってて」

ゴングがなれば即座に戦闘態勢に移行しそうな空気の中、美琴が告げる。

御坂「私の顔…覚えてるわよね…?」

ゴクリと誰かが唾を飲み込む音が静まり返った部屋に響く。
佐天と口喧嘩をしたままの態勢から、首だけを動かして億泰が美琴を見つめ…そしてこう言った。


億泰「あぁ? あぁ~…オマエは確か…上条と『イチャイチャ』してたやつだよなぁ~?」


それは御坂美琴限定に多大な効果がある、とんでもない爆弾発言だった。


御坂「…へ? え? イチャ…イチャ?」

黒子「まっ! まさかっ!? おねえさまぁに限ってそんなことはっ!?」

ゆでダコのように顔を真赤にした御坂美琴がブンブンと腕を振り回す。
その腕はショックのあまりフラフラと美琴の胸に飛び込もうとする黒子を自動的にペチポコと迎撃していた。

御坂「な、ななななに言ってんの!? わっ! わたしがいつあ、あのド馬鹿と…
   イ、イチャイチャしたって!?」

億泰「いつもなにもよぉ~ あのデパートで夫婦みてーに話してたじゃあねえかよぉ~?」

まるっきり空気を読まない億泰の一言。
それは、さきほどの一撃よりも効果のある凄まじい威力のある一言だった。

黒子「きっ聞こえませんのっ! 今の黒子は置物! そう聞か猿ですのぉぉ!!」

御坂「ふっ! ふーふ!? ふーふっ!? 私が? アイツと!?」

アワワワワーと耳を両手で叩きながら現実逃避する黒子。
そして笑っているのか泣いているのか判らない顔でプルプル震える美琴。
そんな二人に至極真面目な顔でトドメの一撃。

億泰「まぁ~上条が尻に敷かれてたっつーのが正しいのかもしんねえけどなぁ~」

御坂「まさっ…まさくぁっ…」

億泰「まさくぁ? オメー…クワガタ好きとか言うんじゃあねぇーだろうなぁ~?」

御坂「まっ…まっさかあ!この私がう、うれ嬉しいわけないじゃんきっとこれはなんか病気!
   そう持病の癪なんだわきっとアハハハハハハ!!!!」

プルプルと身体を震わせながら支離滅裂な呟きをもらす御坂美琴。

佐天「あ、あの…御坂さん? 首筋まで真っ赤ですけど…ダイジョブですか?」

佐天に声をかけられ、きしむような音をたてながらゆっくりと首を動かす美琴。
その顔は真っ赤に染まり、目じりにはうっすらと涙をため、そして口元には隠しきれないニヤケが浮かぶという奇天烈な顔だった。

御坂「ごっごめんっ! わっわたしっ!!! 今日先帰るっ!」

それはまさに電光石火。
言葉よりも先に鞄をひっつかみ駆け出す御坂。
数秒後、かけ出した勢いを物語るかのように事務椅子の座面がクルクルと惰性で廻っている。
呆気にとられ、その椅子を眺めることしかできない億泰達。

そんな空気を最初に破るかのように立ち上がったのは緑のジャージ姿だった。

黄泉川「さーてとぉ! 私もそろそろ仕事の時間じゃんよ そういう訳で後は任せたじゃん!」

もはやここにとどまる意味はなしと言わんばかりにさっさとドアに向かっていく黄泉川だったが、億泰に声をかけられ立ち止まる。

億泰「おっおいセンセェーよぉ~ オレァいったいどーすりゃいいんだぁ~?」

黄泉川「え~? さっき来るとき説明したじゃんかよ。 
    これから一日一回はここに顔出すようにすればいいじゃん」

黄泉川「正直、厄介ごとに首突っ込むかなんて本人次第で何ともいえないじゃんよ。 
    まぁ問題あったら連絡くれじゃん! すぐに駆けつけてやるじゃん」

その言葉を最後にヒラヒラと後ろ手を振りながら黄泉川が部屋を出て行く。

残されたのは黒子、初春、佐天、億泰の4人。
特に黒子を襲った衝撃は大きく、部屋の端っこで体育座りをしながら前後に揺れている有様だった。
なんともいえない気マズイ沈黙が部屋を包む。

初春「あっ、あのっ!」

そんな沈黙を最初に切り開いたのは初春飾利だった。

初春「…ニ、ニジムラサン?」

億泰「ん~?」

初春「コ…コーヒーでも飲みません…か?」

こわごわと億泰とのコンタクトを試みる初春だったが、その気遣いに返ってきたのは初春の想像を遥かに超えた軽い返事だった。

億泰「おっ! いいンかよ! あ、でもオレよぉ~ コーヒーよりは紅茶のほうがいいんだよなぁ~ 
   ある? ミルクティー?」

初春「…えっ? あっ、はい! ミルクティーですね? ちょっーと待っててください」

億泰「んじゃぁー頼むわぁ~ あ、そうそう。 オレどっちかっていうと甘党だからよぉ~ 
   砂糖壺も一緒に持ってきてくれなぁ~」

初春「はっ、はーい!」

そう言ってパタパタとお茶の準備をしだす初春。

初春「えーとティーパックティーパックは確かこっちの棚で… 牛乳は…ムサシノ牛乳があって…」

せわしなく動き出した初春を横目で見ながらボソリと佐天が呟いた。

佐天「……アンタさー…ちょっとは遠慮しなさいよね…」

むくれた顔で億泰に悪態をつく佐天。

億泰「はぁ~? くれるっつーモンもらってなにが悪ぃーんだぁ?」

佐天「だーかーらー! そう言われても遠慮するのが大人ってもんでしょ!」

またもよ終わりのない口喧嘩が始まるかにみえたが…

黒子「ハイハイ…もう益体もない口喧嘩は結構ですの」

パンパンと手を叩いてヒートアップしだした佐天と億泰の間に割って入る黒子。

佐天(あれ? 復活してる?)

黒子「わたくしとしたことが居眠りをしていたみたいですわ」

佐天(えええ…聞かなかったことにしたの!?)

黒子「まずは…自己紹介からですわね。 
   わたくしは白井黒子、あっちの頭お花畑が初春飾利、そしてこちらが…」

佐天「…佐天涙子よ」

億泰「…あぁ オレァ虹村億泰だ」

黒子「存じておりますわ。 それに大体の事情は黄泉川教諭のお話で判りました 
   …ですがまだ聞きたいことがありますの」

億泰「あぁ? なんだぁ~?」

黒子「ズバリ聞かせてもらいますわ。 虹村さん、貴方の『能力』は? 『レベル』はいくつなんですの?」

佐天「えっ!? なに!? アンタこんなスキルアウトみたいな格好してて能力者なの?」

億泰「…能力~? あぁ…もしかして『コレ』のことかぁ~?」

そう言ってゴソゴソと学ランの内ポケットから小さく折り畳まれた紙をとりだす億泰。

億泰「オレこーゆー訳わかんねぇ単語並んでっとよぉ~頭痛くなんだよなぁ~」

そう言ってその紙を無造作に黒子に投げ渡す億泰。
受け取った紙の端に印字されている文字を見て黒子と佐天の目が見開いた。

黒子「これは…」

佐天「ちょ、ちょっと! これシステムスキャンの結果表じゃない!?」

億泰「なんかよぉ~… こっち来た初日にいろんなことやらされてよぉ~ 
   イーエスピーカード?とやらはもう見るのも嫌になったぜぇ~」

そう言って興味なさ気に椅子に腰掛けて頬杖をつく億泰。

黒子「…私達が見てもいいんですの? これはいわば人体の通知表のようなものなのですわよ?」

億泰「いいぜぇ~ 別にオレァあんま興味ねぇーしなぁ~」

黒子「…そうですか。 それでは遠慮無く拝見させてもらいますわ」

黒子の手の中でパタンパタンと広げられていく小さな紙。

佐天「な、なんか緊張してきちゃった」

黒子「別に気負うこともないですの。 中からサソリや拳銃が出てくるわけでもないでしょうに…」

そして、黒子と佐天は目の前の男の結果表を目の当たりにした。

黒子・佐天「こっ…これはっ!!!」

黒子「…これは…どっからどう見てもレベルゼロ…ですわね」

佐天「うん… ていうか…あたしこんな酷い点初めて見たよ…」

億泰「あぁ~? 何だ何だぁ~? なぁに哀しそうな目ェしてオレのこと見てんだぁ~?」

佐天「えっと……まぁ…ドンマイッ!」

ポンポンと億泰の肩を叩く佐天。
しかし黒子は深く考え込んだしていた。

黒子(レベルゼロ? なら…あの時の現象はいったい?)

爆弾魔、介旅を再起不能寸前まで痛めつけた目の前の男。
対峙したときに感じた恐ろしさを覚えるほどの『凄み』


静かになった部屋に紅茶の香ばしい匂いが漂いはじめた。


初春「お茶が入りましたよぉー」

億泰「おっ! 待ってたぜぇ~! サンキューなぁ~ 初春ゥ~」

初春「え? ええっ?」

突然億泰に呼ばれ動転する初春飾利。
カチャカチャと盆の上のコーヒーカップが音をたてた。

億泰「…なんだぁ~? もしかして名前間違えてたかよぉ~?」

初春「いえ…あの…そういう訳じゃ…ない…ですけど…」

オドオドと初春が億泰の表情を伺うもの億泰は至極平然としていた。

億泰「…ふーん。 まっいッかァ~」

初春の変わり様にも興味をしめそうとせず、ミルクティーをすする億泰。

億泰「あっ! 苦っ! おい初春っ! 砂糖壺くれっ!」

初春「え? あ、はい! びっくりして忘れてましたー 今持ってきますねー」

パタパタと砂糖壺をとりにいく初春飾利。
その足元が若干いつもとリズムが違うことに気付いたのは佐天だけだった。

佐天(…なんだろ…なーんか気に入らないなぁー)

ブスっと頬を膨らませた佐天、深く何かを考えたままの黒子、砂糖壺を億泰に手渡す初春、砂糖をこんもりとミルクティーにいれて至福の億泰。
それぞれの思惑は明かされること無く一日が過ぎていった。


■翌日 学園都市・繁華街沿い

授業が終わり、繁華街を連れ添ってあるく佐天と初春。

佐天「んーっ! 終わったー! さーて、今日も元気に買い食いしよっかー!」

初春「いいですねー 昨日の夜食はたい焼きでしたし…洋風系のお菓子とか…いいですねー」

伸びをしながら佐天が提案し、それにホワホワと初春が同意する。

佐天「うーん…それじゃあ、あそこの角にあるケーキ屋さんは? 
   確か今日ってレディースデイだったはずよね?」

初春「えーとちょっと待ってくださいねー」

その言葉と共に携帯電話を取り出し確認をとる初春。

初春「あ! ほんとですー さすが佐天さんですねー!」

佐天「フフフ…私はお得なものにはハナが効くのだよ初春クン」

初春「またまた佐天さんったら~」

他愛のない掛け合いをしながら目的のケーキ屋に向かってあるく佐天と初春。
段々と人が多くなっていく大通り。
なんだろ?何かのイベントでもやってんのかねー?と首をひねりながら人の波をかき分けかき分け、目的のケーキ屋にたどり着いた佐天と初春。

そして目の前に広がる光景を見て…絶句した。

ケーキ屋というメルヘンでファンタジーな女の子の聖域。
そこにまるで場にそぐわない輩が座り込んでいたのだ。
ムムムと唸りながらダミーのケーキモデルと看板を見比べながら顎をさするのはスキルアウト顔負けの風貌をした大男。
一般の学生がその横を通るのは度胸試しか命知らずとしか思えない格好のそれに…

佐天と初春は見覚えがありすぎた。

佐天「ゲッ!」

思わず声を出してしまう佐天。
耳聡くその声を聞きつけ、振り向くヤンキー。

億泰「おっ! ちょーどいいとこに!」

そこには…ブンブンとこちらに向かって腕をふる億泰がいた。

そそくさと自分たちを大きく迂回していく一般の学生達の好奇の目に耐え切れず首をすくめる佐天。

初春「あっ 虹村さんじゃないですか」

興味津々の周囲の視線を気にせず普通に億泰に近づいていく初春。

億泰「よぉ~ 今帰りかぁ~?」

初春「あ、私たちはこれからちょっとお茶しようかなーと。 
   虹村さんはこれからジャッジメントに向かわれるんですかぁ?」

億泰「あ~…そうするっきゃねーなぁーと思ってたンだけどよぉ~…」

億泰「けど、おまえら…に会えたんなら話は別だわなぁ~」

初春「は…はぁ?」

億泰の言いたいことが判らず生返事を返す初春。
そんな佐天と初春に向かい億泰はこう告げた。

億泰「なぁ…今暇ならよぉ~…ちーっと付き合ってくんねえかぁ~?」

佐天「は…はぁーーっ!?」


■学園都市・ケーキショップ「クリームブリュレ」

店員「お待たせしましたー。 ジャンボチョコレートプリンパフェとクリームあんみつ、メロンソーダでーす」

億泰「うっひょお! キタキタァ~!」

ウッヒョルンルン♪といった仕草でスプーンを握り締める億泰。

佐天「何かと思えば…」

初春「まさか…レディース限定のスイーツを食べたいなんて言われるとは思いもよりませんでしたねー」

呆れ顔でため息をつく佐天と困ったように笑う初春。

億泰「ンマァーイッ! さすがにトニオさんとこにゃあ敵わねえがっ!
   それでもこいつァ…極上のウマさだぁ~っ!」

佐天「いやもう…ほんと詐欺よね…」

バクバクとチョコプリンパフェを食べている億泰をジト目で見ながら笑う佐天。

億泰「あ~ん?」

スプーンを加えたまま呆けた返事を返す億泰。

佐天「だってさ…こーんな不良がプリンパフェなんて可愛らしいもん食べてるだなんて…
   誰も想像しないじゃない?」

億泰をからかおうとする佐天だったが…

億泰「…オレもよぉ…昔はそう思ってたよ…プリンなんざ女子供の喰うもんだってなぁ~…」

佐天「え?」

不意に遠い目をして語りだす億泰。
いきなり口調が真剣になり、軽口を挟めなくなる佐天。

億泰「なぁ…オメーだって知ってるはずだぜぇ~? プリンはよ…あまくてよぉ…ウメェよなぁ?」

佐天「え?…う、うん。 そう…だけど?」

億泰「だったらよぉ~ …別にオレが好きでも何の問題もねぇーだろがよぉー?」

その言葉と共にまたチョコプリンパフェにとりかかる億泰。
真剣にプリンの美味しさを力説され脱力する佐天。

佐天「はぁ…もう好きにしなさいよ」

ため息を吐きながらクリームあんみつをつつく佐天。
そんな佐天を見て隣に座る小さな少女が頭の花飾りを揺らしながらクスクスとおかしそうに笑っていた。

佐天「な、なによう初春ー?」

初春「…だって…おかしくって…」クスクス

佐天「な、なにがおかしいのよ?」

億泰「ん~?」

初春「だって…佐天さんもここのチョコプリンパフェ大好きですよね~?」

佐天「なっ!?」

億泰「ほぉ~ …中々見る目あんなぁオメェ~」

感心したように頷く億泰、ガタリと立ち上がる佐天。

佐天「ちょっ! 初春っ!?」

初春「いつも言ってたじゃないですかー
  『やっぱりこの店はチョコプリンパフェかクリームあんみつの二択だねっ!』って」

佐天「そ、そりゃ言ってたかもしれないけど… 今言わなくてもいいじゃないのー!」

初春「仕返しですよ佐天さん。 私なんかこの店だけで30回近くスカートめくられてますし!」

エヘンと恥ずかしい経歴を胸をはって堂々と告げる初春。
どちらかといえばそんなことを告白したほうが恥ずかしい筈なのだが、初春にとってそれは些細な問題だった。
骨を切らせて皮を突付く。
初春飾利の恐ろしい自爆技に為す術も無く佐天は巻き込まれていく。

佐天「あーもー…」

冷静に考えれば別段恥ずかしがる必要もないのだが、何故かそれが恥ずかしくて悶える佐天。
そんな佐天に興味津々な声がかかる。

億泰「…クリームあんみつってよぉ~…それだよなぁ~?」

佐天「え? う、うん…」

億泰「おいマジかよぉ~ 俺も最初そっちにすっか悩んだんだよなぁ~ 
   …ちょっとクリームあんみつ気になっからよぉ~ちょっぴりかじらせてくれよぉ~」

佐天「えっ? ええっ?」

億泰「んじゃ貰うぜぇ~っ」

ヒョイパク

止める間もなく億泰の手が動き、佐天の食べかけのクリームあんみつから一口奪う億泰。

佐天「あっ! あーっ! あーっ!」

間接キス。
そんな単語が佐天の頭を駆け巡り、思わず大きな声をあげる佐天。

億泰「…こっこれはああ~~! この味はぁ~~!!!」

驚きのあまりカランとスプーンを手から落としてしまう億泰。
だがっ!

ヒョイパク!

億泰は慌てることなく『クリームあんみつにもともと刺さっていた』スプーンを使いさらにもう一口味わったっ!

佐天「ちょっ! それあたしのスプーンッ!」

億泰「モチモチの白玉とっ! 極上の黒糖がっ! お互いを引き立てあってるぅ! 
   こ、これぞクリームあんみつのベストなバランスじゃあねえかっ!」

佐天「なっ! なにしてんの! なにあたしの食べてんのぉ!?」

立ち上がったままプンプンと億泰に抗議する佐天。

億泰「…んだぁ~? いーじゃねーかよ一口くらい…ったく…ケチくせぇーヤロォーだなぁ~」

佐天「野郎じゃないし! そもそも一口じゃないし! 二口食べた! しかもそれあたしのスプーンッ!」

ヒートアップして文句を並べだす佐天。

佐天「だっ大体! 勝手に人のクリームあんみつ持って行ってそんな言い草ってモガァ!?」

ピタリと。
佐天の抗議が途中で止まった。

億泰「うるせェなぁ~ ったくよぉ… 一口だけだかんなぁ~?」

舌の上で弾けるのは幾度となく食べたことのあるチョコプリンパフェとクリームあんみつが混ざり合った摩訶不思議な味。
それがなんなのか気づいた瞬間、佐天涙子の時は止まった。

【一秒経過】

佐天の口に突っ込まれたスプーン。
このスプーンは誰のものか?

【二秒経過】

元々は自分が使っていたものだった。

【三秒経過】

だがしかし…これはすでに目の前の男が使ったスプーンでもある。
さらに。 今このスプーンを持っているのは自分ではない。

【四秒経過】

冷静に。 素数を数えて落ち着いた心で佐天涙子は結論を出した。

【五秒経過】

今…自分は億泰が使ったスプーンで億泰の食べていたチョコプリンパフェを『食べさせてもらっている』ということに…





初春「…そして……時は動き出す」ボソリ


佐天「――ッ!?―――ッ!?」

我にかえり、ガタガタと暴れだす佐天。
しかし、いまだ顔面は硬直したまま。
スプーンを口から離すことも忘れ、あたふたとするだけであった。

億泰「おっ!? なんだぁ~!?」

噛み締められたスプーンにつられてガクガクと腕を揺さぶられる億泰。
事情を知らないものから見ればそれはまるで「はいアーン♥」された似合わないカップルがふざけてるだけのシーンに見えただろう。

初春「あわわっ! あわわわ!」

初春は初春でメロンソーダをボコボコと噴火させながら状況を全力で見守っていた。

勝手に人のオーダーしたデザートを二口食べておきながら一口だけ食べさせるという無茶苦茶な億泰。
顔を真っ赤にしたまま億泰のスプーンを口に突っ込まれている佐天。
テーブルにマグマのようにメロンソーダを噴き出しながら一瞬足りとも見逃すまいと目を丸くする初春。

ケーキショップ「クリームブリュレ」の店員は注意することも忘れ、その奇妙な儀式が収まるまで見守っていた。


■柵川中学学生寮・初春飾利の部屋

夕日が水平線の向こうに沈んだころ、カチャリと音を立てて学生寮の一室に転がり込むひとつの影。
そのままゴロゴロと床を転がりながらムニャムニャと何かを呟いたのは黒髪の少女。

佐天「うー…酷い目にあった…」

初春「佐天さんー 床に寝そべると髪が汚れちゃいますよー」

床に大の字になった佐天を踏まないように気をつけながら、電化製品のスイッチをつけていく初春飾利。

初春「でも…面白かったですよ…あんなに慌ててる佐天さん、初めて見ちゃいましたー」

佐天「うーいーはーるぅー! このウラギリものぉー!」

初春「わっ! やめてくださいってばぁ!」

ムクリと起き上がり初春に飛びつく佐天。
キャイキャイと少女たちはしばしフザケてじゃれあう。
そして気がつけば…どちらともなく床に寝転がり静かに天井を見つめていた。

佐天「…ねぇ 初春?」

初春「なんですか佐天さん?」

ポツリと漏れた呟きは天井に吸い込まれていく。

佐天「初春はさー …高能力者になりたいと思う?」

初春「へ?」

佐天「あたしはね…なりたい。 …ううん。 知りたいんだ。 自分にどんな力が秘められているのかって…」

初春「…佐天さん?」

佐天「だってさ。 今のあたしって無能力者じゃない? それってさ…学園都市にいる意味がないと思うんだ」

初春「……佐天さん」

佐天「あーあ… 欲しいなぁ。 力。 自分に自信をもてるような力が…」

初春「っ! 佐天さんっ!」

そう呟いた佐天に初春が覆いかぶさる。

佐天「…初春? どしたの?」

キョトンとした佐天の問に答えず…その薄い胸板に顔をうずめたまま初春飾利が呟いた。

初春「そんな…そんな悲しいこといわないでください」

佐天「え?」

初春「力があったってなくたって…佐天さんは私のいちばん大事な親友なんです」

佐天「…初春」

初春「私だって能力のレベルは大した事無いですけど…でも学園都市に来た意味はあると… そう思ってます」

それ以上何もいわず佐天の返事を待つようにジッとしたままの初春。
その頭の花飾りをしばし見つめ、それからニヤリと笑う佐天。

佐天「うーいーはーるぅー!」

初春「ひゃっ、ひゃあ!」

ガバァッっと抱きつかれ悲鳴をあげる初春。

佐天「あーもぉー! 可愛い事言ってくれちゃってぇ!」

そのまま初春を抱きしめゴロゴロと床を転がる佐天。

初春「キャーッ! 佐天さん佐天さん! お花が! お花が散っちゃう!」

佐天「なにぉ? この佐天さんの前で咲き乱れるだなんて挑発的なー!」

そう言いながら先程の湿った空気を吹き飛ばすようにはしゃぐ佐天涙子。

だがしかし。
彼女のその胸の奥には彼女本人が意識することもできない小さなしこりのような感情が残っていた。


■学園都市・柵川中学校前

ギラギラと照りつける眩しい太陽を恨めし気に睨み上げながらため息をつく佐天。

佐天「…はぁ~」

初春「だ、大丈夫ですか?」

佐天「ダイジョブじゃないよまったく…」

昨夜は、初春の部屋の床でふざけながらいつの間にか眠りこんでしまった佐天と初春。
硬い床の上で眠ってしまったせいか、身体中が軋み悲鳴をあげていた。

佐天「あぁ~ 背中痛いぃ~ 暑いぃ~」

そうブツブツと文句を言いながらストレッチのような体操をして前を歩く佐天の鞄から何かがポトリと落ちた。

初春「あれ? 佐天さん? 何か落ちましたよ?」

佐天「え? あっ!」

ヒョイと初春が拾い、マジマジとそれを見つめる。

初春「これ…お守りですか? 随分と年季の入ったお守りですね~」

佐天「あ、うん…これあたしのお母さんがくれたお守りなんだよね…」

初春「いいお母さんじゃないですかー」

佐天「えー? 口うるさいし非科学的なことばっか言うんだよー?」

初春「だって。 佐天さん、お守り大事にしてるじゃないですか」

佐天「……そ、そっかな? と、でも紐切れちゃったのかー」

そういってなんとなくお守りを掲げる佐天。
ふらりとたよりなく風に吹かれるそれを見る佐天の眼は何処か遠くを見ているようだった。

初春「佐天さん? それ…どうするんですか?」

佐天「んー? どうしよっかなー あたし家庭科の成績あんま良くなかったしー」

初春「…あの、もしよかったら私がそのお守り…直しておきましょうか?」

佐天「え? いいの?」

初春「任せてくださいー! こう見えて私家庭科は5でしたから! と、そういえば知ってますか? 
   お守りって一針一針想いを込めて創るものなんですよー」

佐天「へー じゃあ初春もたーっぷり想いをこめてよねー なんちゃって」

そういってふざける佐天だったが予想外の答えが返ってきた。

初春「あったりまえじゃないですか!」

トンッと音を立てて胸を叩く初春。

佐天「え? いやいや、冗談だよ?」

アハハと茶化す佐天。 
しかし初春は真剣だった。

初春「佐天さんは私の一番の親友なんですよ! もう込めまくっちゃいますから!」

佐天「プッ もぉー! 大袈裟だよ初春ー」

胸をはったままの初春。 
そんな初春の姿を見て笑う佐天につられ初春も笑い出す。


しかし、少女たちは気づいていなかった。
照りつける太陽がゆっくりと黒いアスファルトを溶かし、ドロドロとしたコールタールのような悪意が足元を覆おうとしていることに。


■風紀委員第一七七支部

億泰「ちーっす」

自動ドアを開け部屋に入ってきた億泰の視界に飛び込んできたのは一心不乱にキーボードに向かう初春と書類にペンを走らせている黒子の二人だった。

初春「あ、虹村さん。 こんにちはー」

黒子「ああもう! 風が吹きこんで書類が飛んでいくじゃないですの! さっさと入ってくださいの!」

凄まじい速度でタイピングを続けたまま挨拶をする初春、鼻と口でペンを挟みながら唸りだす黒子。

億泰「…なんだかよぉ~ …ズイブンと忙しそうじゃあねぇーかよぉ~?」

事情が飲み込めずに、すぐそばにあった椅子に座りながらそう問いかける億泰。
気怠げに話す億泰の口調にイライラしたのか少しばかり刺のある言葉をぶつける黒子だったが億泰はさして気にする様子もなく。

億泰「ふぅ~ん。 まぁいいけどよぉ~… っと。 なんだぁ~コレ?」

そう言って机の上に置かれていた小さな袋をつまみ上げる。

初春「あっ それ佐天さんのお守りなんです。 
   空いてる時間で繕おうと思ったんですけど…忙しくて中々とりかかれないんですよー」

そう言ってテヘヘと笑う初春。

億泰「あ~…お守りかぁ~ そういやあったなぁ~ ンなのものもよぉ~」

ボーっとそれを眺めはするもののそれ以上特に興味を示さず、そのままお守りを机の上に戻す億泰。

その時、支部に備え付けられていた電話が鳴り響いた。

黒子「はい 第一七七支部、白井黒子ですの…え? 爆弾魔が!? 判りました、直ちに急行しますですの!」

その言葉と共に勢い良くと立ち上がる白井黒子。

黒子「初春! 『例』の件で出ますわ! あとは適当におまかせですの!」

初春「はっはい! わかりました!」


■学園都市・第7学区常盤台中学側

御坂「熱っー…」

ジワジワと照り返される太陽光に辟易したかのように呟く御坂。
人通りの少ない道を歩いていると、突如頭上から声が降ってきた。

黒子「やーっと見つけましたわ! お姉様」

シュンっと音を立てながら宙より白井黒子が降ってきた。

御坂「黒子? 私さ今日はもう帰ってシャワー浴びて寝たいんだけど…」

黒子「それが…問題が発生しましたの…例の爆弾魔が意識不明で倒れたとの報告が」

御坂「へ?」

呆気にとられた御坂の腕を掴んだとほぼ同時に演算を行う白井黒子。
目指す先は爆弾魔の介旅初矢が収容されている水穂機構病院。
空間跳躍により、次の瞬間には二人の少女は忽然とその姿を消していた。


■柵川中学校学生寮・佐天涙子の自室

佐天「レ・ベ・ル・ア・ッ・パ・ーと。 …ま、見つかるわけないよねー」

なんとなく学校で聞いた噂。
ただそれを確かめたかっただけだった。
当然ウェブページなどで検索したところで『それ』があるはずもなく。

佐天「あーあ。  やっぱ噂は噂かー」

ため息をつきながら背伸びをしたその瞬間モニターの画面がパッと切り替わった。

佐天「…ん? 何だコリャ? …隠しページ?」

背伸びをした拍子にマウスのサブキーを押したのだろう。
しかし、佐天涙子はそこに表示されている味気ない只の文字列をマジマジと見つめていた。

 ┌─────────┐
 │TILTLE:LeveL UppeR│
 │ARTIST:UNKNOWN  │
 │ DownloaD NoW?   │
 └─────────┘

佐天「…こ、これって」

震える指でマウスをクリックしながら携帯電話を取り出す佐天涙子。
連絡先は言うまでもなく一番の親友に向けてだった。


■学園都市・水穂機構病院

むわりとした熱気に包まれたリノリウムの白い廊下をカツカツと音を立ててあるく小柄な女性。
目の下に濃いクマを貼り付かせたその女性は額に浮かび上がる汗を無造作に袖口で拭きながら名乗る。

木山「お待たせしました…水穂機構病院院長から招聘を受けました木山春生です。」

黒子「ご丁寧にありがとうございますの わたくしはジャッジメント第一七七支部の白井黒子、そしてこちらが」

御坂「えーっと…付き添いの御坂美琴です…」

木山「そうか……ところで突然済まないのだが」

黒子「はい?」

木山「私は暑いのが苦手でな…場所を変えて話したいのだが…」


■学園都市・ファミリーレストランJONES

木山「…なるほど。 君達の話は判った。 つまりレベルアッパーが見つかったら私に調査してもらいたい…と」

黒子「えぇ…現段階では公表を見送り調査に専念するべしというのがわたくしたちの共通見解ですの」

木山「ふむ…確かに今の状況ではそれが最も妥当な判断だろうな。 判った。 その話引き受けよう。」

黒子「はい…お願いしますの」

木山「なに、構わんよ。 …ところで。 さっきから気になっていたんだが…」

黒子「はい?」

木山「窓の外に張り付いているあの子たちは知り合いかね?」

御坂「あっ… 初春さんに佐天さんじゃない」

初春「へー 脳の学者さんなんですかー」

黒子「えぇ…最近話題になってるレベルアッパーの件でご相談を…」

初春「えっと…それでどうなったんですか?」

佐天「ん? レベルアッパー? それなら私」

ポケットに手を突っ込み音楽プレーヤーを取り出そうとした佐天だったが…

黒子「レベルアッパーの所有者は例外なく捜索し保護するべきという結論になりましたわ。 なぜなら…」

訥々と続く黒子の言葉を聞いてピクリと固まってしまう佐天。

佐天「…」

初春「はぁー… ? どうしました佐天さん?」

佐天「…えっ? や、別に?」

慌てて誤魔化そうとするも、青くなった顔色は隠せるわけもなく。

御坂「佐天さん大丈夫? なんか顔色悪いんじゃない?」

佐天「アハッアハハッ! ちょーっと熱中症かなー? うん、なんか調子悪いみたいだし…あたし帰るねっ!」

心配されるも無理やり笑い飛ばして席を立とうとする佐天だったが、その背中に声がかかった。

初春「あっ! 待ってください佐天さん!」

佐天「…な、なに?」

初春「直りましたよ! これ!」

そう言って初春が差し出された手には見違えるほど綺麗になったお守りが乗っていた。

佐天「あ…ありがとう…初春」

初春「いえいえー お安い御用ですよー!」

佐天「そっそれじゃゴメンッ! あたしもう行くねっ!」

パタパタと足音を立てて店から出て行く佐天。

木山「…熱中症ならば走ったりなんかしてはダメだろうに」

黒子「…」

そう呟く木山の言葉を聞きながら黒子は遠ざかっていく佐天の背中から目を離そうとはしなかった。

木山「さて…話はこれくらいでいいかな? 私も帰って研究の続きをしようと思うんだが」

そう言って立ち上がる木山。

黒子「えっ? あ、はい。お忙しい中ありがとうございましたですの」

木山「なに。 私も楽しかったよ。 …昔を思い出した」

そう言って淋しげな笑顔を浮かべると学園都市の夕暮れに消えていく木山春生。
その後姿を眺めながらぽつりと初春が呟く。

初春「なんだか…変わった感じの人でしたねー」

御坂「そうねー。 美人なのに…なんていうかちょっと残念って感じの人。 ね? 黒子もそう思わない?」

しかし、黒子がそれに返事を返すことはなかった。
下唇を噛みながら何事かを考えている黒子。

御坂「黒子?」

黒子「…」

初春「白井さん? どうしたんですか?」

黒子「…なんだか嫌な予感がしますの」

初春「予感…ですか?」

そう問い返した初春だったが答えは返ってくることはなく。

黒子「初春。 あなたはこのまま支部に直行。 連絡その他の中継をお願いしますの」

ただテキパキとした指示が返ってきた。

初春「え? ええ?」

黒子「それじゃあ頼みましたわよ!」

そう言って微かな音を立てて消える黒子。
ビルの上、電柱の上へと瞬時にテレポートを繰り返しながら黒子は探す。

今の黒子が目指すのは場所ではなく人だった。
『彼女』の引きつった笑い顔には覚えがあった。
その笑みを浮かべたのは他ならぬ幼い頃の自分。
目の前に立ち塞がる巨大な壁に絶望したときにこぼれた自暴自棄な笑みと同じもの。


黒子(思い違いならばそれでいいんですの… 佐天さん…貴方は今どこにいるんですの?)

■学園都市・裏通り

佐天涙子はぼんやりと歩いていた。
手の上で鈍く光る音楽プレーヤーの中にはレベルアッパーがインストールされている。
しかし、今の佐天はそれを素直に試してみる気にはなれなかった。

佐天(みんなが頑張ってるのにズルして能力を手に入れるのは悪いこと…そんなのわかってる)

佐天(でもこれを聞いたら…力が手に入るかもしれない……レベルゼロじゃなくなるかもしれないんだ…)

揺れる心のままフラフラと歩いていく佐天の足を止めたのは甲高い悲鳴と乱暴な音を立てる廃材だった。

少年「痛っ! か、かんべんしてくれっー」

不良B「あー? ガタガタうっせーなー!」

不良C「10万ポッチでレベルアッパーが手に入ると思ったんかブタァ!」

ほんの数十メートル向こうで地味な服装をした小太りの少年が殴られ、蹴られ、叩かれていた。
小突き回しながら下品な笑い声をあげているのはスキルアウトとおぼしき不良ども。

佐天「…うわ最悪 なんだってこんなところに出くわすのよ…」

ジャッジメントかアンチスキルに連絡をとろうとするも、運悪く携帯電話は電池切れ。

佐天(……しょーがないよね。 相手はいかにもな三人組だし)

足音を立てないようにこっそりと後ろに退がりながら自分に言い聞かせる。

佐天(この間までランドセルを背負ってたあたしが。 
   レベルゼロのただの中学生が。 何とかできるわけないしね)

曲がり角のところまで来てピタリと足が止まった。
ここを駆け抜ければ何事も無く日常に戻ることができる。
途中にあるアンチスキルの詰所に連絡をいれておけば、あの少年も酷いことにはならないだろう。
だが、何故か佐天の足はそれ以上動こうとはしなかった。

佐天(でも…でも…)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「だってさ…こーんな不良がプリンパフェなんて可愛らしいもん食べてるだなんて…誰も想像しないじゃない?」
「なぁ…オメーだって知ってるはずだぜぇ~? プリンはよ…あまくてよぉ…ウメェよなぁ?」
「え?…う、うん。 そう…だけど?」
「だったらよぉ~ …別にオレが好きでも何の問題もねぇーだろがよぉー?」
「はぁ…もう好きにしなさいよ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

佐天の脳裏をよぎるのは最近知り合ったおかしな男。
威圧的な外見に間延びした喋り方、甘いモノが大好きでケチ臭くて空気を読もうともしない失礼なヤツ。

佐天(あんな『バカ』もいるんだし。 もしかしたら…もしかしたら話せば判ってくれるかもしれない…)

気がつけば佐天は震えながらも来た道を引き返していた。
哂いながら見知らぬ少年を嬲るスキルアウトたち。
佐天涙子は精一杯の勇気を振り絞る。

佐天「もっもうやめなさいよっ!」

だがしかし。
佐天の制止はまったくこれっぽっちも意味をなすことはなかった。

不良B「あー? なんだよ? 文句あんのか? コラァ!」

ガッシャーン!

怒声と共に蹴りあげられる立て掛けられた廃材が騒がしい音をあげる。

佐天「ヒッ!」

目の前でいとも容易く行われる破壊行動に肩がすくむ佐天。

怯える佐天の顎を掴み品定めをするように眺めるチーマーのような格好をしたチンピラ。

不良C「へ… そこそこいいツラしてるじゃん」

その瞬間、自分が勘違いをしていたことに気づく佐天。
あの男…虹村億泰と言葉を交わしすぎたのかもしれない。
道いく通行人が避けて通っていくような格好をした億泰と口喧嘩できる自分はどこか特別だと思っていたのかもしれない。

蛇に睨まれた蛙のように動くこともできない佐天の頭を乱暴に掴むオールバックの男。

リーダー「はっ! 何の力もねえガキがゴチャゴチャ俺らに指図する権利があると思ってんのかぁ?」

その理不尽な主張に怯えきった佐天が答えられるはずもない。
そのとき、第三者の静かな声が響いた。

?「力があれば指図できるのということですわね? ならばわたくしが貴方達に指図しますわ。 
  彼女をお離しなさい」

聞き覚えのあるその声。
カラカラになった喉で佐天はその声の主の名を呟いた。

佐天「…し、白井…さん」

不良B「んっだテメエ!」

黒子「ジャッジメントですの!」

腕章を見せるようにポーズをとった黒子に飛びかかっていく男たち。

不良B「うっせーよバーカ!」

不良C「その高慢ちきなツラをボッコボコにしてやらぁ!」

黒子「…あなたがたのようなクズは、抵抗してくれたほうがいいですわね」

襟首を掴まれながらも余裕たっぷりでそう呟き、次の瞬間には姿をかき消えていた。

不良C「なっ?」

驚くスキルアウトの頭上から声が降ってきた。

黒子「こうやって思い切りブチのめせるのですから」

不良たちの背後に跳び、あっという間に二人のスキルアウトを叩きのめす黒子。

リーダー「カカカカッ おもしれー能力だな」

悶絶して地に伏せる仲間を見て、男は笑っていた。

黒子「…他人事のようにおっしゃいますけど…次は貴方の番ですのよ?」

そう淡々と告げる黒子。
数瞬の睨みあいの後、相手の方に一歩足を踏み出したのはリーダー格のスキルアウトだった。

リーダー「俺達はよ 
    てめえらウザってージャッジメントをいっつもギタギタにしてやりてーって思ってたんだぜ?」

その言葉と共に黒子に飛びかかる。
その手にはいつの間にか取り出した大きな折り畳みナイフがあった。

黒子(言葉が通じない相手のようですし…肩にでも金属矢を打ち込ませて戦意を撃ちこ)

ドカッッ!

黒子「ギッ!?」

男の蹴りが脇腹に直撃し、苦痛の声をあげる白井黒子。
放たれた金属の矢がカランと後方で小さな音をたて、壁に突き刺さる。

黒子(そんなっ!? この距離で座標指定をしくじる? おかしいですの!)

リーダー「おい なーに余所見してんだぁ?」

黒子(来たっ! まず…鞄でガードしてこの違和感を確かめなくてはっ!)

蹴りあげられる進行上に鞄を用意し、目を凝らす黒子。
だが身を守るために盾として用いた鞄はなんの意味も持たなかった。

黒子「がっ!?」

男の蹴りはまるで鞄をすり抜けるように黒子の脇腹に直撃。
吹き飛ばされた黒子はガラスを突き破り廃ビルの中で脇腹の痛みに顔をしかめる。

佐天「白井さんっっ!!」

派手に吹き飛んだ黒子が心配になり大声をあげる佐天。

黒子(足が曲がっているように… もしや…自分の周囲の光を捩じ曲げる能力!?)

相手の能力を分析しながらフラフラと立ち上がる黒子。
そんな黒子の様子を見ながらニヤニヤと笑う歯抜けの男。

リーダー「カカカッ 今のはいーい感触だったわぁ アバラ何本かイッた感じだなぁ!」

黒子(…金属矢は最後の一本。 ですが私の推測が正しければっ!)

振り返りざま金属矢を投擲するが、それは黒子の『予想通り』あさってのほうに飛んでいった。

リーダー「おいおい何だぁ? まさかもうテレポートできねえってんじゃねーだろーなー?」

黒子(…っ! こうなったら仕方ありませんの!)

ゆっくりと後ずさり、そのままビルの奥に走りだす黒子。

リーダー「逃げ…た?」

ニヤリと哂うスキルアウトのリーダー。

黒子が飛び込んでいった廃ビルの奥に向かい大きな声を張り上げる。

リーダー「次は鬼ごっこかぁ? いいぜぇー 10秒だけ待ってやるよぉ!」

リーダー「けど『ゲーム』には『ルール』が必要だよなー?」

リーダー「てめぇが逃げまわっていいのはこのビルの中だけだ」

リーダー「このビルから逃げたら外の女とデブ、両方やっちまうからなぁー?」

そう宣言しながらビルの中に足を進める男。

カチカチとナイフを振り回しながら空いた手でポケットを探り、目的のものを取り出す。
その手に握られているもの。
それは『携帯電話』が握られていた。


■廃ビル前

そびえたつ無機質な灰色のコンクリートを心配そうに見上げる佐天。
そんな佐天にオドオドとした声がかかった。

少年「ね、ねえ君」

声の主は先程までスキルアウトに絡まれていた小太りな少年。
殴られ蹴られ、腫れ上がった顔のまま少年は続ける。

少年「…今のうちに逃げよう」

佐天「そんな! 白井さんがまだ!」

予想外のことを言われ言い返す佐天。 
だが。

少年「…ぼ、僕達がいてもどうにもならないじゃないか」

佐天「――っ」

少年「君もレベル0なんだろ? だったら判るはずだよ。 僕達に出来ることなんて何も無いんだ…」

少年「そうさ。 僕達レベル0は足手まといなんだ。 
   危ない闘いはジャッジメントやアンチスキルに任せればいいっ!」

少年「さあっ! 一緒に逃げようっ!」

そう言って佐天に差し伸ばされる右手。
少年の言葉は隠してきた自分の本心をズバリ言い当てていた。
嫉妬や羨望の感情を他人に代弁され、呆然とする佐天涙子。

確かに、今の自分が出来ることは何も無い。
少年の言うとおり逃げるのが最も賢い選択だということは分かっていた。

けれど。

目の前に差し出された少年の右手を握ったその瞬間…取り返しの付かないナニカを捨ててしまうような。
そんな気がして躊躇う佐天。
そして…幸か不幸か佐天涙子が決断をする前に予想外のことが目の前でおきた。

バキィッ!

少年「ブフッ!」

突然殴り飛ばされる少年。
その拳の先を見て佐天は絶句する。

不良B「おいおい。 誰が逃げていいって言ったぁ?」

そこに立っていたのは先程黒子に叩きのめされた不良の男達だった。

不良C「痛っててて… クソッあのアマァ!」

佐天「そっ…そんな」

不良B「『そっそんなぁ』じゃねえよブス! おらこっち来い!」

不良C「てめえもだデブ! 手間かけさせんじゃねーよ!」

佐天「痛っ! やめてっ! やめてくださいっ!」

少年「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」

必死に抵抗するも、少女の細腕で男の腕力に適うはずもなかった。
無造作に髪を掴まれビルの中に引きずり込まれていく佐天と少年。

不良B「もしもーし? こっちは問題無いっすよリーダァー」

そう『携帯電話』に何事かを報告しながらビルの中に入っていくスキルアウトと佐天達。


■廃ビル内

黒子「がっ!? …痛っ」

顔を殴られ床に転がる黒子。

黒子「な、何故…?」

1階から2階へ空間跳躍し、『ゲーム』の『ルール』の裏をかいたはずの黒子の目の前にスキルアウトの男がいたのだ。

リーダー「言い忘れたけどよ」

ナイフを弄びながら笑う男。

リーダー「この廃ビルは俺らの溜まり場でなー。 中のことは隅から隅まで熟知してるんだわ」

黒子(くっ……最終手段をとるしかありませんわね)

再び空間跳躍を行ない姿を消す黒子。

リーダー「ほぉー まだ逃げる力が残ってんのか…」

黒子が飛んだ先から漏れる足音を聞いてほくそ笑む。

リーダー「せいぜい逃げ回れや… 跳べなくなったときが終わりなんだからなぁ」

階段へと向かうその顔には凄惨な笑みが浮かんでいた。


■廃ビル内・最上階

リーダー「オラァ! もう隠れる場所なんてねーだろが! さっさと出てこいよぉ!」

空間跳躍を繰り返し、最上階の柱に隠れた黒子。
フロアの出入口には男がよりかかり笑いながら吠えていた。

黒子(出ろと言われてノコノコ出ていくオマヌケが何処にいるんですの?)

リーダー「カカカッ… まぁ別に構わないけどよ? 
   テメエが出てこないってんならこの女とデブで遊ばさせてもらうだけだからなぁ!」

黒子(なっ!?)

想像だにしなかった言葉を聞き、目を見開く黒子。
そして…最も聞きたくない悲鳴が聞こえてきた。

佐天「やっやめてよぉ…」

不良B「ヘヘヘッ」

不良C「おらぁ! とっとと歩けや!」

デブ「痛っ! 痛いっ!」

怯えきった弱々しい声と複数の足音。

黒子(そんな…これじゃあビルの支柱を切断してビルを潰す計画がっ…)

必死に考えを巡らすも、解決策は見当たらなかった。

リーダー「さーて…どーすんだぁ? このまま外にテレポートして逃げるかー? 別にそれでもいいぜー?」

黒子「…」

数秒後歯噛みをしながら黒子が柱の陰から姿を現した。

リーダー「カカカッ 手こずらせやがって… よーやく観念したかぁ?」

ニヤニヤと笑いながらリーダー格の男が黒子の顎を掴む。
汚らわしい感触に眉をしかめながらも気丈に言い返す黒子。

黒子「『ゲーム』には『ルール』が必要…そう言ってましたわよね?」

リーダー「あぁー? オレは飽きっぽくてなぁー 忘れちまったわ」

ヘラヘラと馬鹿にしきった顔でおどける男。

リーダー「それよりもだ…てめぇは放っておくほどオレは『馬鹿』じゃあねえ」

言うが早いか懐より取り出した小瓶を黒子の眼前に突きつけた。
酷い刺激臭が黒子を襲う。

黒子「ゴホッ!? なっ、らにを!?」

途端、腰が抜けたようにガクリと足元から崩れ落ちる黒子。

リーダー「ひゅう~ スゲエなおまえ 意識あんのかよ?」

小瓶を懐にしまい込みながら口笛を吹く男。

リーダー「いいぜ、説明してやる。 オレたちが取り扱ってるブツはな、レベルアッパーだけじゃねえんだ」

リーダー「今、おめえに嗅がせたのは揮発性の麻酔薬みたいなもんでよ」

ガクガクと震える手足でなんとか上半身を奮い立たせる黒子。

黒子「…ま、まふいやく?」

リーダー「おおともよ! 能力者ってのはよー脳で演算してることぐらいテメエも知ってんだろ? こいつはな。 一時的に脳の思考回路を掻き乱すんだよ」

衝撃的な言葉を聞き、反射的に演算をするが…

黒子(…っ! ダメですわ…本当に跳べなくなっている!?)

呆然と自分の両手を見つめる黒子。
そんな黒子に無慈悲な声がかかった。

リーダー「さてと…よくもまぁ好き勝手に強がってくれたなぁ?」

黒子「グフッ」

言うが早いか、黒子の頬が張り手で叩きとばされる。
脱力してしまった小柄な少女がその威力に耐え切れるわけもなく、部屋の片隅まで転がっていく。

佐天「白井さんっ!」

悲痛な叫び声をあげる佐天。
黒子を殴り飛ばし、佐天の悲鳴をあげさせた男がニンマリと笑っていた。

リーダー「カカカッ いいなぁテメエ。 打てば響くってのはこのことだわ。 あー…なんか興奮してきたぜぇ」

ベロリとヨダレにまみれた舌で自らの唇を舐める男。
その瞳には嗜虐と愉悦の色が浮かんでいた。

リーダー「おい…おまえらにはその女やるわ…オレは今からよ…この女をヤっから」

黒子「なっ!?」

ジリジリと両手を広げて近づいてくる男。
逃げようとするも薬により弛緩した手足では這いずることが精一杯の黒子。
それはまるで蜘蛛の網にかかった無力な蝶のようだった…


■裏通り

先程の争いの後は影も形もなく。
廃ビルは静けさを取り戻し、そこにそびえ立っている。

――否。 ひとつ。 僅かな違いがあった。

道の真ん中で頼りなく風に吹かれている小さな小さな布の袋。
『それ』はビルに連れ込まれる際に抵抗し、揉みあった時に佐天のポケットからこぼれ落ちた。

――大きなビル風が吹く。
風に吹かれ軽い音をたてながら『それ』は地を転がっていく。
だが…それもビル風が吹いているほんの少しの間のみ。
突風が収まるとともにパサリと音を立て、それきり動かなくなる。

しかし。

『それ』に生命があったのならば、それは正しく自らに込められた思いを、使命を実行した。


足元に転がった小さな布の袋を拾い上げる手。
丁寧にゆっくりと埃を払い、ポケットにしまいこむ。
顔をあげたその先には、まるで彼が進むべき道を示すかのように金属の矢が鈍く光を放っていた…


■廃ビル内・最上階


黒子を脅すようにわざとゆっくりと逃げ道を塞いでいくリーダー格の男を見て苦笑いをこぼす男たち。

不良B「あーあー リーダーの悪いクセが出たよ… ところで、コイツらどうすっか?」

佐天「ヒッ!」

身体を舐め回されるような視線に怯え身を縮こまらせる佐天。

その佐天の悲鳴を聞き、黒子が懸命に声を張り上げる。

黒子「やっ! やめらさいっ…そのかたたちは無関係れすのっ」

リーダー「カカカッ ろくに呂律も回んない状態でよく言うよなぁ!」

部屋の片隅に追い詰めながら哂うスキルアウトの男達。


230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/07(木) 18:44:09.19 ID:lSxHUMjE0
なんか黒子エロいな


231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/07(木) 18:45:27.29 ID:p+o8WyD10
不良C「そーだなー…女一人だしなぁ。 俺3P嫌いだし」

不良B「俺だってテメーの汚ねえチンコなんざ見たくねーっての」

ギャハハと下品な笑い声をあげる二人の男。
そして、不意に一人が手をポンと叩いた。

不良B「おっ! 俺いーいこと思いついたわぁー。 おいデブ…テメエこっちこいよ」

少年「はっはい!」

怒声に逆らう気もなく言われるがままに動く少年。

不良B「おいテメーもだよメスガキッ」

そう言って男は佐天を引きずり起こし。
そのまま胸元の服を掴み。
力任せに。
一気に引き下ろした。

バリィィィィッ!

パステルカラーのワンピースが無惨に引き裂かれ音を立てる。

佐天「……い…いやぁぁぁぁぁ!!!」

無理やり服を剥がれペタリと座り込む佐天。

不良B「ヒハハハ んだよ! 悪くねえ身体してんじゃねえか」

下卑た笑い声をあげる男。
腐った思考を持つもの同士、もう一人の男は何をしようとしているのか察する。

不良C「おいデブー? テメーもだよ …とっとと服脱げ」

少年「…えっ?」

不良C「えっ? じゃねーだろ! 死にたくねーならさっさと脱げよ!」

少年「は、はい」

ゴソゴソと震える手で服を脱いでいく少年。
ブリーフ一枚にまでなった少年を見て男たちが下品な笑い声をあげた。

不良B「…プッ ギャハハハ! きったねーなおい! ブヨブヨの白豚じゃねーか!」

少年「…う、うう…こ、これでいいでしょうか?」

震えながら憐れみを誘うように卑屈な声で許しをこう少年。

しかし、少年の言葉はいとも容易く笑い飛ばされる。

不良C「はぁー? こっからだろ? どうせテメエ童貞だろ? 俺らに感謝しろよぉ? そこのメスガキでよ…」


不良C「テメーの童貞卒業させてやる」


少年「なっ!?」

佐天「ヤダッ! そんなの絶対ヤダッ!」

恐ろしすぎる言葉を聞き怯える佐天。
なんとか腕で露出した身体を隠そうとするも二本の細い腕だけでは不可能だった。
白く美しい肌を薄暗いビルの光に晒しながら佐天が必死に拒絶する。
しかし…

不良B「おいおいデブ! てめえなーにチンコ縮こまらせてんだよ」

少年「お、お願いします…や、やめてあげてください…」

不良B「テメエに決定権なんざねーよバーカ」

ガタガタと震えながら懇願する少年だが、その言葉が届くはずもなく。
さらに絶望的な言葉が男の口から放たれた。

不良C「ったくしょうがねえな…おいガキ。 …しゃぶれ」

佐天涙子に向かって放たれた言葉は残酷な命令だった。

佐天「嫌…やだよぅ…嫌だよぉ…」

半狂乱になって、否定の言葉を口にする佐天。
だがそれを見た男はサディスティックに哂いながら恐ろしい言葉を口にした。

不良C「嫌でもやってもらうぜー? おまえが拒むならよ、このデブ…殺しちゃうかもなぁ?」

佐天「…え?」

少年「痛っ!?」

その言葉と共にチクリと不良の持ったナイフが少年の喉を突付いた。
赤く細い液体が少年の白い身体を伝っていく。

不良B「おらおらどうすんだぁ? あと三秒で決めろよなぁ? おらぁ! さぁーん! にぃー!」

佐天の視線の先には白い肥満した身体をした少年。
首筋から垂れた赤い糸のような血が白いブリーフに吸い込まれ赤い染みをつくる。

不良B「いーちぃ!」

そう言ってナイフを振り上げる男。
だが、その動きは佐天の小さな呟きでピタリと止まった。

佐天「ま…待ってくだ…さい…」

不良C「あぁー?」

佐天「…」

不良B「コラァ! 何か言いてえならはっきり言えよクソが!」

ガシャンと壁を蹴られ、ビクリと震える佐天。
震える喉を無理やり動かしてボソボソと言葉を吐き出す。

佐天「あ、あの……殺さないで…お願い…やめて…やめてください…」

目を合わせることも出来ず視線は地に伏せたまま佐天がそう答えた。

不良C「ほぉー… てえことはこのブタのチンコしゃぶって童貞卒業させてやるってことだよなぁ?」

佐天「…」

不良C「おら! 黙ってちゃあ判んねえだろ! デブのきったねー包茎チンポ咥えて腰振るんだよなぁ!」

さらにバシンと壁を蹴られ縮こまりながらも…コクリと頷く佐天。
それを見た男たちが嫌味に声をかける。

不良B「テメエの穴に突っ込まれるチンコだ。 愛情こめてしゃぶってやれよなぁ?」

不良C「よかったなぁデブ? ようこそ男の世界へ…なんちってなぁ!」

ギャハハハと下卑た笑い声をあげながら少年を殴る男たち。

リーダー「おーおーあっちも随分と盛り上がってんなぁー」

カチャカチャとバックルの音を鳴らしながら哂う男。
視線の先には盛大に笑い声をあげながら少年を殴りとばしている仲間達がいた。

黒子「あ、あにゃたたち…こんなころをして…只で…すむらなんて思わないことれすわよ…」

力の入らない身体で一生懸命距離をとろうとしながらも黒子が脅す。
しかし、そんな脅しの効果はまったく意味を成さなかった。

リーダー「カカカッ なーに言ってんだ? もうおまえらはな…終わりだよ。」

黒子「なっ…らにを?」

鈍った思考回路では目の前の男が何を言ったのか理解できず聞き返す黒子。

リーダー「俺らが扱ってる薬はレベルアッパーだけじゃねえって言っただろ?」

リーダー「この後はオメエらメスガキは俺らのアジトの第十学区へご招待だ」

黒子「そっ! そんなころっ!」

恐怖のあまり後ずさるが、無情にも黒子の背中を壁が押し返した。
黒子の目の前に立ち、そのまま力が入らない黒子の手を片手で掴み耳元で囁くリーダー。

リーダー「なんせヤク中で狂ったオッサンの汚ねえ尻からひり出された糞を喜んで喰えるようになるまでぶっ壊れるんだ」

リーダー「案外…幸せかもしんねぇなぁ~?」

そう言いながら覆いかぶさろうとする男の身体。

黒子「やっ…やめらさいっ!」

必死に押し返そうとするも、無力な少女の細腕では些細な抵抗にしかならない。

リーダー「キキッ! いいねぇー。 そうやって抵抗されたほうが興奮するぜぇ!」

リーダー「おら! 泣け! 喚け! 許しを請え! 許しゃしねえけどよ!」

黒子「い、いや…おねえはま…おねえさまぁっ!」

黒子の悲鳴を聞き、ニヤリと笑う。

リーダー「ま、どーしてもって言うならその状態で解放してやっても構わないぜぇ~?」

黒子「!?」

リーダー「そのお姉さまとやらは…糞まみれになって恍惚となったテメエを見てどう思うかなぁ?」

黒子「なッ…」

それは単なる思いつきの言葉であったが、白井黒子を絶望させるには充分な一言だった。

リーダー「ヒッ! ヒヒヒッ! たまんねえ!」

リーダー「ジャッジメントだぁ? アンチスキルだぁ? カカカッ! おまえらとはなぁ! 
    ココが違うんだよぉ!」

コンコンと指の先で自らの頭を叩く。
勝ち誇った哂い声が部屋に響く。

リーダー「テメエら『馬鹿』とは頭のデキが違うんだ! 頭のデキがなぁっ!」


その言葉に答えが返ってきた。
低く静かな声。


 「オレもよぉ~…『馬鹿』だからよぉ~…難しいこたぁ判んねぇんだよなぁ~…」


不良B「あぁー? なんだテメエ?」


ゆっくりと部屋の中に入ってきたのは一人の男だった。


大胆に改造された短ランとボンタン。

右の肩には「億」、左の方には「BILLION」

独創的なツーブロック、切り揃えられた細く短い眉毛。

ガッシリとした長身から発せられる威圧感。

ひと際目を惹くのは胸元につけられた大きく光る『$』の一文字。

不良B「どうやら…ジャッジメントやスキルアウトじゃあねえみたいだなぁ?」

突然の侵入者に驚くも、その風貌から自分たちと同類だと判断するスキルアウト達。
肩をいからせ、舌を巻きながら脅しをかける。

不良B「その肩の文字はなんだぁ? チーム名か? び…BILLION? はっ! 聞いたことねえよ」

不良C「どこの弱小チームだか知らねえけどよ、悪いが取り込み中だ。 ボコられたくないならとっとと帰んな」

身長差のせいで見上げながら脅しをかける男たち。


  「けどよぉ…そんなオレにも判ったことがあってなぁ~…」


不良C「おいっ! テメエ! 『無視』してんじゃあねえっ!」 

脅し文句を気にすることも無く悠然と歩くその男の胸倉を掴んだその瞬間。

バキンッ!

小気味いい音とともに崩れる男。
ぐるんと白目を剥き泡を吹きながら倒れた一人の顎が粉々に砕けていた。

 「テメエらがよぉっ~ 吐き気がするほどゲスだっつーことは間違いようねぇーっつーことだよぉッ!!!」

そう…『虹村億泰』が吠えた。

そのままズンズンと大股で佐天の側にいる男に歩んでいく。

不良B「なっ! テメェ! 近寄るなっ! 俺に近寄るんじゃあねえっ!」

悲鳴めいた声をあげながら佐天を盾にしようとする男だったが…

ドグシャアッ!!!!

不良B「ぶぎゃあっっ!!」

見えない砲弾が直撃したかのように吹き飛んだ。
操り糸を断ち切られた人形のように転がり、柱に衝突。
佐天の後ろに隠れようとした男の顔面には大きな拳の痕がくっきりと映っていた。

目の前で何が起こっているのかまるで理解できず呆然とする佐天。
気がつけば佐天の肩に暖かい何かがかかっていた。

佐天「…え?」

その感触に目をやる。
佐天の細く小さな肩にかかっていたのは見覚えのある学ラン。

ゆっくりと首を動かす。

涙でグシャグシャに歪んだ視界の先には立っているのは見間違いようのないあの男だった。
ガラの悪い格好をしている癖に甘党で。
間延びした口調で話すデリカシーの無い奴。
虹村億泰がそこに立っていた。

億泰「よぉ~… 平気かよ? そうそう、これってオメェ~んだよなぁ? もう落とすんじゃあねぇーぜぇ~」

そう言ってヘラヘラと笑いながら佐天の腕をとる億泰。
ポトリと音を立てて佐天涙子の掌の上に落とされたのは母の祈りと…初春の想いがこもった小さなお守りだった。

佐天「……うん。 ……うん」

お守りを握り締めたままコクコクと頷く佐天。
ボロボロと大粒のナミダを流しだす。
肩を大きくしゃくりあげながら泣き出した佐天を見て困ったように頭をかく億泰。

ポンッと。
頭に大きく分厚いナニカが置かれたような…そんな感触を佐天は感じた。
そのままガシガシと乱暴に頭を撫でられたような気がして顔をあげる佐天。

しかし目の前に立っている億泰は『両の腕』をズボンのポケットに『入れたまま』そこに立っているだけだった。

佐天「え?」

不思議な現象に思わず呆けた声をあげる佐天。
そんな佐天を見て億泰は何も言わず背を向ける。

その瞬間。
佐天は感じた。

背を向けた億泰から発せられてる恐ろしいまでの気迫と怒りが入り交じった『凄み』を。

瞬く間に仲間が再起不能になったのを見て、リーダー格の男が緊張した声をかける。

リーダー「テメー…何者だ? 俺らが『トリック』って知らねえわけじゃあねーよな?」

億泰「……『トリック』だぁ~? 随分と『チープ』で安っぽい『トリック』だなぁ~?」

リーダー「なっ!?」

スキルアウトならば知らぬ者はいないはずのチーム名を小馬鹿にされ絶句する男。

億泰「ンなこたぁよぉ~…オレァ知ったこっちゃあねぇーんだよぉ~」

恐れる様子もなく近づこうとする億泰。
しかし、その歩みがピタリと止まる。

リーダー「テメェ…動くんじゃあねぇ」

億泰の歩みを止めた原因。
それは動けない黒子の首筋にあてがわれた大きなナイフだった。

リーダー「そうだ… そのままを動くんじゃねえぞ? 動いたら…このガキを殺す」

黒子の身体を盾にした状態のまま空いた方の手で新たなナイフを取り出す。

ナイフを振りかぶり、投擲しようとするのは誰が見ても明らかだった。

しかし…それが意味のあるものだと黒子には思えなかった。

黒子(今更何を…? 今までの結果から見てナイフ一本じゃあ当たるわけが…!?)

能力がいまだ不明とはいえ、大の大人を吹き飛ばす億泰に効果があるとは思えない。

しかし次の瞬間、黒子の頭に恐ろしい確信がはしった。
ただナイフを投擲するだけでは意味がない。
だがこの男のもつ能力、それが問題なのだ。

黒子「よけれっ! にじむらはんっ!」

突きつけられたナイフを気にすること無く叫ぶ黒子。

リーダー「チィッ!」

黒子の叫びにより狙いがそれたのだろう。
投げられたナイフは億泰の肩の肉を裂くだけに留まった。

億泰「なっ! なにぃっ!?」

驚愕する億泰。
それもそのはず、億泰は『確実に』飛んでくるナイフを削り飛ばしたはず…だったのだ。

目測を見誤った原因。
それは男のもつ能力に起因する。
偏光能力(トリックアート)。
虚像をつくり距離感と方向感覚を狂わせる能力。

投擲物にその能力を利用すれば目視回避は不可能になるのだ。

リーダー「テメェ! 誰がしゃべっていいって言った! 殺すぞクソガキ!」

狙いが外れたことに苛立ち、黒子を締め上げる男。
しかし、それでも黒子はしゃべることを止めなかった。

黒子「お、おくらすさん…佐天さんを連れて…逃げれくらさい…わらくしはジャッヒメント…
   覚悟はできてますろ…」

一度はへし折られた心、しかし状況が変わった。
この男は『今』、自分を殺すことはできない。
ならば自分を見捨てることさえ出来れば、少なくとも佐天涙子と虹村億泰、そして見知らぬ少年の明日は守ることができる。

黒子(己の信念に従い、正しいと感じた行動をとるべし…でしたわよね)

幼い頃に遭遇した事件を思い出す。
独走した結果、先輩と友人を危険に晒した苦い思い出。

しかし。

億泰「…」

億泰はその黒子の言葉を聞いているようには見えなかった。

億泰「なぁ~… さっきよぉ~… アンタ…『トリック』…とか言ってたよなぁ~?」

ズシャア!

そう言いながら更に一歩足を踏み出す億泰。
焦りの感情が消えている億泰に怯えるようにしてナイフを振りかざし叫ぶ男。

リーダー「動くなっつってんだろーがああああ!」 

その言葉と同時にピタリと立ち止まり、腕を組みながら頬を掻く億泰。

億泰「いいぜぇ~… もう一歩も動かねえ……で、さっきの続きだけどよぉ~…」

リーダー「なっ! なに意味わかんねーこと言ってんだっ!」

億泰「…オレのはよぉ~『トリック』じゃあねえ… 『タネ』も『仕掛け』もねえぜぇ~?」

リーダー「なに調子こいてんだテメエっ! 動くんじゃあねえっつってんだろが! 立場ぁ忘れてんじゃあねえっ! 俺が上っ! テメエは下だっ!」

億泰「…あぁそうだなぁ~…だってよぉ…」


億泰「動くのは『おまえ』だもんなぁ~?」


 ガ オ ン !


猛獣が吠えるような不思議な音。
それと同時に億泰の目の前に男がたっていた。

リーダー「…へっ!?」

ガシィィッ!

リーダー「ぎゃぶッ!」

『まるで』首を掴まれたかのように宙に浮く男。


億泰「捕らえたぜぇ~ダボがァ~~ッ!!!」


リーダー「ギッ! な、なんだっ!」

ジタバタともがくが空中に磔にされたかのようにびくともしない。

リーダー「テッテメー! 離せっ! 離しやがれっ!」

恥も外聞もなく口走る男。
そんな男のセリフにピクリと億泰が反応した。

億泰「離せだぁ~? 確かにそーだなぁ… このまま『片手』じゃあちっーとばかし殴りたりねえもんなぁ~」

リーダー「なっ! 何ワケわかんねーこと言ってやがるっ!」

男が毒づいたと同時に、フッと重力戻り、宙に浮いていた男の両足が地面についた。

男「…へっ?」

思わず気の抜けた声を漏らすトリックのリーダー。
目の前にたつのは凄まじい迫力をだす億泰が立っていた。

億泰「テメェらはよぉ~… オレを『怒らせ』やがったんだからよぉ~」

じっとりと男の全身に冷や汗が噴き出る。
それは圧倒的な悪寒だった。

リーダー「ひ…ひぃッ!!!」

追い詰められた男はヤケになったままナイフを振り上げる。
しかし。

億泰「オオオオオラアアァァァァァァッッッッ!!!!!」

ドゴバキボゴグシャバギィッ!!!!!

リーダー「げぶッ! ごッ! がぶッ! みぎゃッ!」

億泰の吠え声とともに、何も無い場所から叩き込まれる連撃の嵐。
『殴られる』ようにひしゃげ、砕け、折れていく身体。

億泰「ンダラアッッ!!」

そして、気合の入ったその叫びと共にゴミクズのようにボロボロになり吹き飛ぶ男。

べチャリと情けない音を立てて部屋の隅に転がりビクビクと痙攣する男。
もはや原型をとどめている場所など何処にもないようだが、かろうじて息はあるようだった。

そんな男を冷たい目で見下ろしながら、誰に向けたわけでもなく呟く億泰。


億泰「『罪』ってのはよぉ~… そうなるようなことをしてりゃあよぉ~ 
   …どっかから廻り廻って『罰』がやってくるんだ…」

億泰「おれの兄貴もよぉ~… そうだった…」

億泰「だからよぉ… 殺しはしてねえ… 命だきゃあ助けてやったぜ」


そう言い捨てて踵を返す億泰。
億泰の向かう先には今だ立ち上がることも出来ない黒子がいた。

億泰「よぉ~ 大丈夫かぁ~?」

黒子の目の前でヤンキー座りをしながら間延びした声で問いかける億泰。

黒子「…に、にひむらはん… あならは…いっらい?」

億泰「あぁ~? 何言ってっかわかんねぇーぜぇ~? とりあえず…ホレ立てっかよ?」

そう言って倒れたままの黒子を立ち上がらせようと手を伸ばす億泰。

佐天涙子は言葉もなく億泰の背中を見つめていた。
システムスキャンではレベルゼロだったはずの億泰がふるったとてつもない力。

佐天(なんだ…結局… あたしだけ欠陥品だったってことか…)

チラリと横を見ればそこには蹲っている少年がいた。
ブルブルと醜い脂肪を揺らしながらその姿がまるで自分のように見えて目を逸らした佐天。

その視界の中に飛び込んできたものを見て佐天は声を失った。

佐天「!?」

億泰の背後にゆらりと立ち上がる影。
グシャグシャにされた顎をブラブラと揺らせながら立ち上がっている男。
出会い頭に億泰に吹き飛ばされたスキルアウトの一人だった。
その男は先程投擲されたナイフを拾い、億泰の背後に忍び寄っていた。

佐天「ぁ……」

億泰は黒子のそばにしゃがみこみ手を伸ばしている。
ジリジリと間を詰めるスキルアウトの男に気付いた様子もない。

なんとかして声を振り絞り、それを伝えようとするがカラカラに乾いた喉はろくに動かない。
億泰の背後でナイフを振りかざす男。
そして。
勢い良く振り落とした。


不良C「とったぁぁっ! 死ねぇっっ!!!」


黒子「にっにひむらはんっ!!」

億泰「なっ!? なんだとぉぉぉ~!?」

億泰が気付くより僅かに早く男の姿を見て黒子が叫び声をあげる。
それは完全な不意打ち。
全く反応が出来ないまま硬直する億泰。

億泰「やべえっ! 『間に合わねえっっ』!!!」

コマ送りのようにゆっくりと億泰の首めがけて吸い込まれるように落ちていく兇器。
その一部始終を佐天は見つめていた。

佐天(……ダメ)

数瞬後、そこには延髄を断ち切られた億泰がガクリと崩れ落ちる。

佐天(………ダメだよ)

それはもはや確定されているであろう未来。
肩にかかった学ランの温かさ。

それら全てが認めたくなく、佐天は大きく息を吸い込み。

そして叫んだ。

佐天「おくやすーっ!!!」

必死になって伸ばされた手からポトリとお守りがこぼれおちる。


――超能力の発現には根本の法則がある

――それは自分だけの現実

――パーソナルリアリティとも呼ばれるそれは能力者が個々に持つ感覚のこと

――現実や常識から切り離された独自の認識や感覚、土台となる自分だけの世界観

――可能性として存在する本来はありえない現象を実現する力

佐天涙子は嫌だった。
目の前の男が死ぬような未来を否定したかった。
しかし…現実は無情にも彼女の願いを踏みにじっている。
10数年間という生涯の中で、もっとも大きな感情が佐天涙子の胸を焦がしていた。

そして。

ふわりと柔らかな風が吹き、『それ』が空を舞い、宙に浮いた。
じんわりと指先に血行が集中し熱くなった手のひら。

佐天「…え?」


『それ』は母の願いが込められたちいさな布の袋。

一番の親友である初春飾利が想いをこめて繕ってくれた大事なもの。

窮地に陥った自分たちを救ってくれた虹村億泰から手渡された宝物。

手からこぼれおちた『それ』は重力に抗い、風に舞い、一直線にナイフを振り落とさんとする男の顔にぺちりと頼りない音をたてて貼り付いた。


不良C「がっ!」

突如視界を奪われ、思わず顔に手をやる男。
貼り付いた『それ』を苛立ち任せに地面に投げ捨て…そこで気づいた。

目の前にいる恐ろしい男の存在に。

不良C「…ヒッ!?」

億泰「どーやらよぉ…テメエにはよぉ… オレが言いてえことが判んなかったようだなぁ~」

ミシリと足音を鳴らし近づく億泰。

億泰「判りやすく言ってやるぜぇ~っ! この虹村億泰がよぉ~ッ! テメーらの『罰』っつーことだっ!!!」

ズバァン!

まるで砲弾が至近距離で直撃したように吹き飛んでいくスキルアウト。

雑巾のようにボロボロになって泡を吐く男。

億泰「けっ! ビョーインのベッドの上で反省しやがれってんだ!」

自業自得な行動をとったスキルアウトに向かい毒づく億泰。
とはいえ渾身の一撃を顔面に喰らった男が返事を返せるわけもなかった。

完全にノビた不良たちを確認した黒子が億泰に声をかける。

黒子「あの…にじむらひゃん?」

億泰「ん~ なんだぁ~?」

黒子「もうしわけないのれすけど…わたくしのポケットから携帯電話を取り出してくらさいません?」

そう言って自分のスカートを目で指し示す黒子。

億泰「…あぁ~?」

黒子「ほんらいなら…おねえはま以外に身体をまさぐられるのなんれゴメンですけれろ…」

プルプルと震える腕をなんとか動かそうとするも力が入らず地面にペタリと伏せてしまう黒子。

黒子「ご…ごらんのとおり…今のわらくしじゃあ…ろくに動くこともできないみたいれすし…」

そう言って諦めた苦笑の表情のまま続ける黒子。

黒子「いまは貴方に頼むしかないんれすのよ…」

億泰「ん~… なんだか判んねえけどよぉ~ ポケットから携帯電話を出しゃあいいんだよなぁ~?」

そう言って億泰は黒子の側にしゃがみ込み、無造作にスカートのポケットの中に手を突っ込んだ。

ズボォッ!

とたんに真っ赤になって黒子がわめく。

黒子「ちょっ! そっちじゃなくて! 逆! 逆れすの!」

億泰「あぁ~? …ンだよ、なら最初っからそう言えよなぁ~?」

ぼやきながら反対側のポケットの中に手を突っ込む億泰。

黒子「なっ! どこを触ってるんれすのよ! あっ! あなたには! デリカシーの欠片もないのれふか!!」

ギャーギャーと騒ぐ黒子に辟易しながらポケットの中をまさぐる億泰。

億泰「…うるせェなぁ~… と、コレか?」

ズボっと黒子のスカートの中から携帯電話を取り出す億泰。

黒子「まったく…この件はのちほどたっぷりと苦言を呈させれもらいますわ…」

ブツブツと文句を言い続ける黒子。

黒子「とにかく…その携帯電話のサイドにあるボタン…そうそう、そこれすの。 そこを押してくらさいまし」

億泰「ボタンー? あぁこれか? …押してもいいのかよぉ~?」

黒子「えぇ…押してくらさいな。 ボタンを押すのは今ですわ」

億泰「…わかったよぉ~ 押すぜぇ?」

そう言いながらカチリと携帯電話のサイドキーを押し込む億泰。


■廃ビル最上階・数分後

億泰がボタンを押して5分もたたずに、けたたましいサイレンの音が部屋の空気を震わせた。

警備員「君達っ! 大丈夫かっ!」

部屋の中になだれ込んでくるのは武装したアンチスキル。

億泰「なっ…なんだぁ~!?」

大挙して現れたアンチスキルに驚いて目を丸くする億泰。
その横でフラフラと黒子が立ち上がった。

黒子「いろいろありましたけろ…どうひゃら…一件落着のようれすわね…」

いまだ呂律は回らないままではあるが、黒子の足元は先程よりも随分としっかりしていた。


黒子「さすがはういはるれすわ…もしやと思い…支部に待機させていた甲斐がありまひたわ…」


佐天を追う前、黒子が初春に下した指示。
それは支部に待機し情報の中継を一任するという無茶といえなくもない大雑把な命令。
そんな黒子の指示を素直に守ったのが初春飾利だった。

黒子の携帯から発せられたエマージェンシーコール。
それに気付いた初春が驚くほどのスピードで現場を逆探知、最寄のアンチスキルの詰所に出動依頼をしたのだ。

アンチスキルの異例ともいえる迅速な行動は初春の見事な手腕がなければありえなかっただろう。

警備員「まさか我々アンチスキルの回線が割り込こまれるとは思いもよらなかったが…」

そう言って周囲を見渡すアンチスキル。

警備員「どうやら…事はもうすんでいるようだな」

部屋の隅に転がっているスキルアウトの男たちを見てそう呟くアンチスキルの隊長。
拘束されていくスキルアウトの男たちは気絶。
まったくの無抵抗のまま廃ビルより連行されていっ。

黒子「ええ…おかげさまれ。 困ったときには頼りになる仲間れすのよ……っ?」

そう答えた黒子の膝からガクンと力が抜ける。
そのまま倒れこみそうになった黒子の肩に回されたのはがっしりとした手。

億泰「オメェーもよぉ~ フラフラなんだからよぉ~ 強がってんじゃあねぇぜぇ~?」

黒子「…に、虹村はん?」

そう言ってアンチスキルに向かい黒子を放り投げるようにして渡す億泰。

黒子「ちょ、ちょっろ! か弱き乙女になんれ扱いをするんれすか!」

アンチスキルの隊員が用意した担架に横になりながらもジタバタと暴れようとする黒子。

黒子「お、覚えれらさいれすのよー!」

舌足らずな捨て台詞を残しながら黒子が運ばれていく。

警備員「さぁ、君もだ。 立てるかい?」

そう言って伸ばされたアンチスキルの手。
しかし佐天はその手を掴もうとはしなかった。

佐天「あ…大丈夫です! あたし一人で立てますから!」

そう言って立ち上がろうとする佐天。
しかし足は言うことを聞かずペタンと座り込んでしまう。

佐天「あ、あれ?」

おかしな表情で呟く佐天。
そんな佐天を見た億泰が口を開く。

億泰「オメェーも無理してんなよなぁ~ 腰抜けてんだろぉ~? 
   強がらずに『白井』みたいに運んでもらえよなぁ~」

佐天の胸にチクリと。
ナニカが刺さった。
その感情を理解できぬまま佐天は自分でも信じられない行動をとっていた。

佐天「…ん」

億泰「……何のつもりだぁ? そいつぁよぉ~?」

佐天のとった行動の意味が理解できず眉をひそめる億泰。
億泰に向かい伸ばされているもの。
それは佐天の両腕だった。

佐天「……こ、腰が抜けてさ…あ、歩けない」

そう言って顔を赤く染める佐天。
だが。

億泰「んなのはよぉ~ 見りゃあ判るけどよぉ~」

全くもってこちらの行動を理解しようとしない億泰だった。
なんとも言えない間があたりを包み…しょうがなく、小さく佐天は呟いた。

佐天「………ぶ」

億泰「あぁ~? だから何だってぇ~? 声が小さくて聞こえねえよぉ~?」

悪意なくそう言いながら佐天の口元に耳を寄せる億泰。
その億泰を見てプツンと。
佐天の中のナニカが変な音を立てて切れた。

スウと息を吸い込み、あらん限りの声を出す。

佐天「おーんーぶっ!!!」

グワーッと凄まじい大声が億泰の耳を襲う。

億泰「うおおおおっっ!!」

大音量の声に思わず耳を抑える億泰。

佐天「おんぶしてって言ってんの!! 女の子が歩けないって言ったらそれぐらい常識でしょ!」

一気にそうまくしたてる佐天。
続く言葉は耳を抑えている億泰に届いているかどうかは不明ではあったが。

佐天「しっ! し信じらんない! フツーここまで言わせるぅ!?」

フーフーと真っ赤な顔のまま鼻息を荒くする佐天。

億泰「おおおぉ… ビックリしたぁ~…」

そう言いながら頭を振る億泰。
感情を爆発し終えた佐天は、ようやく自分が言ったことの意味に気付く。
気恥ずかしさのあまり目をつぶり、真っ赤になってうつむく佐天。

このまま消えてしまいたい、そう思った佐天に何でもないような声がかかる。

億泰「ったくよぉ~… おんぶして欲しいなら最初っからそー言えよなぁ~?」

佐天「え?」

目を開いた佐天の前には億泰がしゃがみこみ背中をむけていた。

言ったはいいものの、いざ目の前に背中があると緊張し動くことが出来ない佐天。

億泰「? どーすんだぁ? 乗らねぇのかぁ~?」

硬直した佐天に首だけ振り返りそういう億泰。
このままでは億泰は立ち上がってしまうのではないか?

佐天「…ぁ」

喉の奥から小さな声が漏れ、気がつけば佐天は億泰の背中に飛びついていた。

大きい背中に触れて赤面する佐天。

億泰「あぁ~ビビったぜぇ~ 今思うとよぉ~康一の『あれ』はおっそろろしいもんなんだなぁ~…」

ブツブツと何事かを呟きながら立ち上がる億泰。

佐天「わ!」

グンと佐天の視界が上に引っ張られ、思わず億泰の首にしがみつく。

億泰「さてと… ここにゃあもう用はねぇことだしよぉ~… 帰るとすっかぁ~」

そう言って背中に佐天をぶら下げたまま軽々と歩き出す億泰。

佐天「わ! わわ!」

おんぶなどと言ったものの、幼い頃を別にすれば背負われるなど初めての経験。
慣れない動きに思わず腕に力を込める佐天。
それはピンポイントで億泰の首をしめることとなった。


億泰「ガフッ… おいテメェ~ オレを窒息死させる気かぁ~?」


佐天「え? あ、違っ! ごめん!」

そう言って手を離そうとする佐天。
グラリとバランスが崩れ、床に落ちそうになるも。

億泰「こぉーのスカタンがぁ! 手ぇ離したら落ちるだろぉーがっ!」

毒づきながらグイッと佐天を支える億泰。

佐天「…え?」

自分を押し上げるような感触。
確かに伝わるズッシリとした腕。
それを佐天涙子の小さなおしりは確かに感じ取っていた。

佐天「――っ! ――っ!」

真っ赤になってジタバタと億泰の上で暴れる佐天。

億泰「おっおい! 暴れんじゃあねぇ~!」

佐天が急に暴れだした原因が理解できない億泰。

佐天「あっ! あ、あの! 足! 足のほう持って!」

声にならない悲鳴を飲み込んで必死に億泰にそれだけ伝える佐天。

億泰「? はぁ~? まぁ別に『オマエ』がそう言うならそれでもいいけどよぉ~」

なぜ佐天が暴れたのか気にすることもなく背負い直す億泰。

ようやく態勢が落ち着き一息つく佐天。


■廃ビル内・階段

カツカツと足音が響く。
無言のまま階段を降りていく億泰と背負われたままの佐天。

静かな緊張に耐え切れず、佐天がポツリと呟く。

佐天「あ、あの…あたしさ…重く…ない?」

億泰「別にぃ~? 『テメエ』の背丈なら、まぁこんなもんじゃあねぇのぉ~?」

そう答えを返し、また静かになり階段を降りていく億泰。
またチクリと小さなトゲが佐天の胸に刺さる。
気がつけば佐天は更に口を開いていた。

佐天「…ねぇ」

億泰「あぁ?」

佐天「なんで…お、『億泰』はあたしのことだけ『オマエ』とか『テメエ』って言うの?」

恐る恐るそう問う佐天。
しかし返ってきたのは理解できないといいたげな億泰の声だった。

億泰「…はぁぁ~?」

ズキリと佐天の胸がまた痛む。

佐天「そっそりゃ…あたしは初春みたいに清楚じゃないし…白井さんみたいにオシャレでもないけど…」

佐天「でっでも…あたしだってさ…ほら一応はさ…オンナノコ…なんだしさ…」

言いきることができずに最後はムニャムニャと口の中で呟く佐天。

しかし、そんな佐天の決心は大きな億泰の笑い声で吹きとばされた。

億泰「ブハハハハッ! なぁーに言ってんだぁテメエ?」

佐天「…‥え?」

億泰「オメェーがナイスバディのおねーちゃんなら話は別だけどよぉ~」

佐天「…はぁ?」

億泰「女も何もそれ以前によぉ~ そもそもオマエラ全員『ガキンチョ』だっつーの!」

そう言っておかしそうに笑う億泰。

佐天「……はい?」

プククと笑い続ける億泰の背中で揺られながら呆けた声を返す佐天。

佐天「…え、待って待って。 じゃあなんであたしのこと『テメエ』とか言うの?」

億泰「? あぁ~ そいつはよぉ~」

そう言って億泰が理由を語ろうとする。
ガキンチョだからという理由はいまだ腑に落ちないものの、それでもゴクリと喉を鳴らして億泰の返事を待つ佐天。
しかし。

億泰「テメェが『ん』だからなぁ~」

佐天「…ん?」

意味が分からない億泰の答え。

億泰「あぁ。 『ん』って呼びづれぇーんだよなぁ~」

佐天「……」

ぼんやりと佐天の中に答えが浮かび上がってきた。

――――――――――――――――――――――――――――

「お茶が入りましたよぉー」
「おっ! 待ってたぜぇ~! サンキューなぁ~ 『初春』ゥ~」
「強がらずに『白井』みたいに運んでもらえよなぁ~」

――――――――――――――――――――――――――――

初春…ういはる…ういはる『ぅ~』
白井…しらい…しらい『ぃ~』
佐天…さてん…さてん


佐天「えっと…もしかしてさ……まさかだけど………」

あまりにも馬鹿らしいことを言ってるんじゃないかと不安になるも聞かずにはいられなかった。

佐天「…………語尾?」

億泰「あぁ~ そうそうそれだわ。 語尾がよぉ~ なんだかしっくりこねぇんだよなぁ~」

だが返ってきた答えはまさかの大当たり。
億泰の背中で揺られながらがっくりと脱力しきる佐天。

佐天「……そ、そんな理由で」

億泰「ンだぁ~? しっかり掴まんないと頭から落ちっぞぉ~?」

ぐらぐらと背中で揺れる佐天の異常に気づかずそう答える億泰。
しかし次の瞬間、億泰の首に回された腕におもいっきり力がこもった。

億泰「ゲホッ! おいコラァ『テメェ』! 今度は掴みすぎだってのぉ!」

文句をいう億泰だったが、佐天は聞いていなかった。

佐天「だっ、だとしてもさぁ! あたし…ほ、本名ぜんぶ名乗ったよね!?」

ガクガクと億泰の首を揺すりながら続ける佐天。

佐天「さ、『佐天』って呼びにくいなら…さ…その……ほら…」

モゴモゴと口の中で何かを呟く佐天。

佐天「る……る、るるる…」

億泰「あぁ? 電話かぁ~?」

真っ赤にどもる佐天の呟きを聞いて何を勘違いしたのかあたりを見回す億泰。

佐天「ちっちがうって!」

億泰の首を揺すりながらイチかバチかのまま次の言葉を口にする。


佐天「る、るいこ……ってさ…呼んでもさ…いい…じゃん」


そう…呟いた。

億泰の学ランに包まれ、億泰に背負われ、億泰に名前で呼ぶように促している。
こんな恋愛ドラマを普段の自分が見たのならば笑い飛ばしているはずだった。
だが耳まで赤く染めた今の佐天は、まるで答えを待っている恋愛ドラマのヒロインのように緊張していた。

けれど、億泰ならば…
ガキンチョと言って笑い飛ばすこの男ならば…
さして抵抗なく自分の名前を呼んでくれる…

そう佐天涙子は思って『いた』。


億泰「あぁ~… 悪ぃーんだけどよぉ~ 女をよぉ~ …名前で呼び捨てるのはちょっとなぁ~」


佐天「…え?」


思いもよらない答え。
絶句し、真っ青になる佐天。

調子づいてしまった。
白井さんのように…今すぐにでもこの場から消えてしまいたい。

想像以上の絶望と悲しみの感情が佐天の小さな胸をかき乱す。

そんな佐天の揺れ動く心情をまるっきり無視して言葉を続ける億泰。

億泰「最近よぉ~ 康一…あぁ、オレのダチなんだけどなぁ」

億泰「彼女の名前を呼び捨てにするとよぉ~ …なんか怖い目で睨んでくるんだよなぁ~」

億泰「だからオレァよぉ 女の名前を呼び捨てんのはやめたんだよなぁ~」



佐天「は………はぁぁぁぁ!!??」



億泰「っつーわけだからよぉ~ 名前の呼び捨ては…」

そう続ける億泰に佐天の大きな叫び声がかぶさった。

佐天「ちょっ! ちょっと待って! 億泰! あんたバカじゃないの!?」

突如億泰の背中で暴れだす佐天。

億泰「おっとと… なんだぁ~ いきなり人をバカ呼ばわりたぁ~感心しねぇなぁ~?」

億泰「それによぉ~ オレァは年上だぜぇ~? 少なくともテメーよりは頭いいだろーしなぁ~」

佐天「いーやっ! バカだって! それ関係ないじゃんっ!」

億泰「…はぁ~?」

佐天「あーもー! その人は自分の彼女の名前を呼び捨てにされるのが嫌だったの!」

億泰「…どういうことだよ?」

まるで理解した様子を見せない億泰。
そんな億泰に怒鳴るようにして言葉をぶつける佐天。


佐天「だーかーらっ! この場合はいいのっ! あたしがいいって言ってるんだからっ!」


億泰「…えーっと…つまり?」

佐天「あ、あたしの名前で……る、るいこって …そ、そう呼んでもいいってこと!」

真っ赤になったまま勢いでそう叫ぶのが限界だった。
億泰の広い背中に顔をうずめる佐天。

億泰「…」

そんな佐天の言葉を聞くも…答えようとしない億泰。

コツ…コツ…コツ…

階段をゆっくりと降りていく億泰の足音が廃ビルに響く。
まるで死刑執行を待つ囚人のように硬直したまま億泰の言葉を待っている佐天。

そして。

億泰「…なんだか…釈然としねぇけどよぉ」

億泰「そう呼ばれたいってなら遠慮無く名前で呼ばせてもらうぜぇ~?」

億泰「それでいいんだよなぁ? 『涙子』ぉ~?」

その言葉と共に廃ビルから足を踏み出す億泰。
思わず顔をあげた佐天の頬を静かな風が撫でた。


■廃ビル前

『涙子』
今…たしかに億泰にそう名を呼ばれた。
揺れる佐天の思考。
返事を返さなけれとは思うものの、グルグルと頭の中を駆け巡る感情を言葉にすることができず…

佐天「う、うん……それで…いい」

ボソリとそう呟くことしかできなかった。

立ち止まった億泰と佐天の目の前には専用特殊車両と忙しそうに駆け回るアンチスキルの大人たち。

しばらく、ぼんやりとただなんとなくそれを眺めるだけの億泰と佐天。

吹き抜ける柔らかな風がゆっくり佐天の火照った頬と頭を冷やしたせいだろう。
なんとなく気になっていたことを佐天は口にした。


595 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/08(金) 19:29:00.76 ID:Z3ARa3wn0
待ってた


596 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/08(金) 19:29:56.79 ID:6H8Ev7q10
佐天「…ね、億泰?」

億泰「あん? まだなんかあんのかぁ~?」

佐天「あのさ…アンタってレベルゼロ…無能力者だったんじゃないの?」

佐天の脳裏に蘇るのはスキルアウトの不良どもが吹き飛ばされるシーン。
圧倒的なまでのそのチカラを振るったのは間違いなく億泰だったはず。
しかし、以前見たシステムスキャンの結果表には確かにレベルゼロと記載されていたのだ。

そんな佐天の疑問に珍しく億泰が言いづらそうに答える。

億泰「…あれはなんつーかよぉ… オメーらが言う『超能力』ってぇヤツじゃあねぇんだけどよぉ~…」


597 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/08(金) 19:31:25.72 ID:6H8Ev7q10
困ったように言葉を選ぼうとしている億泰を見て佐天は事情が判らないまま察した。

佐天「……やっぱいいや」

億泰が言いたくないことをわざわざ聞き出す必要もない。
そう佐天は思い質問を無理やり打ち切る。

億泰「お、そっかぁ? 助かるぜぇ~ 説明すんのメンドクセーんだよなぁ~」

佐天のそんな気遣いに気づかずカラカラと笑う億泰だったが、ふと何かを思い出したように佐天に話しかけた。

億泰「そぉーいえばよぉ~ オメーも『超能力』ってやつ使えたんだなぁ~ そうならそうと言えよなぁ~」

そう言いながらしみじみと頷く億泰だったが、それを聞いてポカンと口を開ける佐天。

佐天「…えっ?」

億泰「んだよ、もう忘れちまったんかぁ~? オメーが『お守り』をよぉ飛ばしたんだろぉ~?」

億泰に言われ佐天はじっと自分の手のひらを見つめた。

佐天「…あたしが?」

その瞬間は途切れ途切れにしか思い出せなかったが。
それでも確かに覚えていた。

億泰を助けたいと願い伸ばした手。
その時、確かに指の先がぼんやりと熱くなったことを。

不思議な感触を思い出しながら佐天は独りごちる。

佐天「…そ、そうなのかな?」

自分に言い聞かせるようにそう口にした佐天に億泰が何でもないことのように答える。

億泰「? じゃねえのぉ~? あんなビルん中で都合よく風なんて吹くわきゃねぇーだろフツ~?」

佐天「…あたしに…チカラが?」

そう呟きながら小さな自分の手のひらを見つめ、意識を集中する。
だが手のひらに熱を感じることも、風がそよぐこともなく。

何も。
何も起きなかった。

佐天「……ううん。 きっと億泰の勘違いだよ… だって…あたしはさ…正真正銘のレベルゼロだもん…」

ため息をつきながらそう言って自嘲気味に笑う佐天。
しかし。
そんな佐天の呟きはいとも容易く億泰が否定した。

億泰「…そぉかぁ~? オレはそう思わねぇけどなぁ~?」

そう佐天に言い聞かせるように呟く億泰。

佐天「…ど、どーいうこと?」

『能力』を持っていないという億泰に否定され、混乱する佐天。
そんな佐天の動揺を知ってか知らずか続ける億泰。

億泰「『オレ達』の『能力』っつーのはよぉ……最初は『自分』の身を守りてぇ!
   とか、あいつをトッチめてやるっ!って思ったときに出てくるんだ」

佐天「う、うん…」

億泰「だからよぉ~ 諦めんなぁまだ早えと思うぜぇ~? 
   ま、オレァ『超能力』っつーのはよくワカンネぇんだけどなぁ~」

佐天「……」

そう言いながら歩き出す億泰。
億泰の背の上で揺られながら佐天の胸の内でじんわりと暖かいナニカが広がった。

佐天「ね。 それってさ……もしかして励ましてくれてるの?」

億泰「あぁ~? 励ますぅ~? オレがただそう思っただけっつーことなんだけどよぉ~」

佐天「…プッ」

相も変わらぬ億泰の間延びした声を聞き、何故か吹き出してしまう佐天。

億泰「? なぁーに笑ってんだオメェ~?」

佐天が急に笑い出した理由が判らずに問いかけてくる億泰。

佐天「ふふっ…なんでもなーい!」

ギュウ

そう言って力を入れすぎないように気をつけながら億泰の首にしがみつく。

佐天(そうだよね…御坂さんだって努力したっていうし…あたしも頑張れば…きっと!)

気がつけば…佐天涙子の心の中に一陣の爽やかな風が吹いていた。

億泰「さぁーてと…オメーの家はどこだよ? メンドクセーしよぉ… オレもとっとと帰りてぇーんだよなぁ~」

そうぼやきながら大通りに足を進める億泰。

佐天「え? あ、あたしのとこの寮はあそこを右に曲がって…」

言われるがままに指をさした佐天だったが、ふと大事なことに気がつく。

佐天「あ! ああぁ!!」

億泰「うおっ! うるっせぇーなぁ~? オメェはオレの耳の鼓膜を破りたいっつーのかぁ~?」

またもや耳元で大声をだされ、そう毒づく億泰。
しかし佐天はそんな億泰の文句など全然気にすることもなかった。

佐天「そういえば億泰! ア、アンタさぁ! さっきから何回もあたしのこと『オメー』って言ってない!?」

億泰「あぁ~? 『重ぇ』? 確かにそう言われるとなぁ… 
   だんだん重くなってきた気がしなくもねぇなぁ~…」

佐天「ちっ! 違うって! そういう意味の『オメェ』じゃなくって!」

億泰「はぁ? 『重ぇ』以外になにがあるっつーんだぁ~?」

佐天「なっ! 重い重い連呼すんなぁ~! ってそうじゃなくって! …あーもー!」

ガクガクと億泰の首を揺する佐天。

億泰「ゲフッ! おいオメェ!首しめるんじゃねえって何回言やぁわかるんだよぉ!」

佐天「うっうるさーい! アッアンタもさぁ! ちょっとくらいドギマギするべきなんじゃないのぉー!?」

ペチポコと億泰の頭を叩こうとする佐天、うっとおしそうにそれを避ける億泰。
学園都市の街中に響きはじめる佐天と億泰の口喧嘩。

佐天涙子の腕に通された小さな『お守り』が静かに風に吹かれた。


■柵川中学学生寮・佐天涙子の部屋

億泰に背負われたまま、自室まで送ってもらった佐天。
こちらが満足に礼を言う暇も与えずに学園都市の人ごみに消えていった億泰の後ろ姿をぼんやりと思い返しながら学ランを脱ぐ。
結果的に預かることとなった学ランをハンガーを通し、壁にかけ、洋服に着替えベッドに倒れ込む佐天。

枕に顔をうずめたままポツリと呟いた。

佐天「……『涙子』だってさ」

…パタリと足が布団の上で動いた。

佐天「……ヌフフ」

ニヤニヤと笑いながらベッドの上でパタパタと足を動かす佐天。
その時、佐天の耳にガチャリと自室のドアが開く音が飛び込んできた。

初春「さっ佐天さん! だっ大丈夫ですかっ!?」

佐天「初春…」

転がるように佐天の部屋に飛び込んできたのは初春飾利。
ジャッジメント支部でアンチスキルに出動を依頼し、ジリジリとモニターの前でその後の連絡を待っていた。
その後、病院から黒子の連絡をうけスキルアウトが全員拘束されたと知った初春は居ても立ってもいられず支部を飛び出したのだ。

ゼェゼェと息を切らし、もはや足元がフラフラの初春飾利。
そんな初春を見た佐天がゆらりと立ち上がり…そして初春の胸に向かって飛び込んだ。

佐天「ういはるぅー!!」

力いっぱい初春を抱きしめる佐天。

初春「わわ!! どっどうしたんですか佐天さん?」

突然胸の中に飛び込んできた佐天の行動に戸惑いながらもそう問う初春。
そんな初春に佐天は心の底から懺悔する。

佐天「ゴメン初春… あたし泣き言いってたよね…」

初春「えっと… 昨夜のこと…ですか?」

昨晩、初春の部屋で佐天が口にした言葉。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「今のあたしって無能力者じゃない?」
「それってさ…学園都市にいる意味がないと思うんだ」
「欲しいなぁ。 力。 自分に自信をもてるような力が…」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

佐天涙子は確かにそう口にした。
誰も解決できない自分だけの問題を一番の親友に愚痴ったのだ。

佐天「ゴメン。 あたしね…間違えるとこだった」

初春「佐天さん?」

佐天「つまんないことにこだわって…ズルしてチカラを…手に入れようとしてたんだ」

佐天の脳裏に蘇るあの男の言葉。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【『罪』ってのはよぉ~… そうなるようなことをしてりゃあよぉ~ …どっかから廻り廻って『罰』がやってくるんだ…】

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


佐天「あたし…もう少しでさ。 能力なんかより大切なモノを…無くしてたかもしれなかったんだ」

佐天「だから… だからさ… ほんとーにありがとね」

そう言って初春を抱きしめる佐天。

初春「えっと…よく判んないですけど… でも…佐天さんが元気になったのならなによりですよ」

そう言って柔らかく笑う初春飾利。

佐天「うぅ…初春はほんとにいい女だよぉ~」

グリグリと初春に頬を摺り寄せながらそう呟く佐天。

そんな佐天の言葉を聞いて突然初春が吹き出した。

初春「フフッ」

佐天「ん? どしたの?」

初春「いえ…今の口調がなんだか虹村さんみたいでおかしくて」

そう言ってクスクスと笑う初春。

佐天「え? い、いやそれはっ! えっとあの…」

思わぬことを初春に指摘されてアタフタとする佐天。
そんな佐天をおかしそうに見ていた初春がふと気付いた。

初春「佐天さん…アレって?」

初春の視線の先には壁にかかっている億泰の学ラン。

佐天「あ、あれは…」

ゴニョゴニョと恥ずかしげに呟く佐天を尻目に、真剣な顔をした初春がその学ランを手にとる。

初春「…これ虹村さんの制服…ですよね?」

佐天「う、初春?」

真面目な初春を見て佐天がおそるおそる親友の名前を呼ぶ。

初春「佐天さんっ!」

佐天「わっ! なっなに? 初春?」

初春「ほんっとぉーにっ! 何処にも怪我は無いんですか!?」

泣きそうな顔でそう佐天に問い詰める初春飾利。

佐天「怪我? いや、あたしは全然? っていうかどうしたの?」

訳がわからず怪訝な顔をする佐天に向かい、初春が学ランを握っていた手をひろげた。

佐天「!?」

初春の手にベットリとこびりついているのは赤黒い液体。

初春「じゃ、じゃあ! この血は!?」

佐天「……嘘」

ボソリと呟く佐天。

…何故気づかなかったのだろうか?
スキルアウトの一人が投げたナイフが億泰の肩を切り裂いたのを佐天はその目で見ていたはずだった。

だというのに。
自分はそんな怪我を負っている億泰におんぶをせがみ、背中の上で暴れた。

想像を絶する体験をした佐天がそのことに気づかなかったのも無理はない。
薄暗いビルの中だったというのもあっただろう。

しかし、佐天は億泰が負った傷に最後まで気付くことが出来なかった。

佐天「……だって 全然痛がってる素振りもなくて…」

うつろな目をした佐天の頬がペチンと音をたてた。

佐天「…いひゃい」

佐天の頬を両手で挟み込んだのは真剣な顔をした初春飾利だった。

初春「佐天さん! 悩んでたってしょうがないです!」

佐天「ういはる…!?」

初春「今の私達にできることは何も無いかもしれません! でもっ!」

初春「明日があるんです! 私達だけじゃなくて! 白井さんだって! 虹村さんだって!」

佐天「…初春」

初春「明日一緒にジャッジメントの支部に行きましょう! もし明日虹村さんが来ないなら…」

初春「私が書庫(バンク)から情報抜き取っちゃいます! そして一緒にお見舞いに行きましょう!」

佐天「…」

初春「今の私達に出来ることはそれしかない…違いますか? 佐天さん!」

初春の言葉を聞き、佐天がゆっくりと顔をあげた。

佐天「…そう…だよね。 グジグジしててもはじまらないよね…」

初春「そうですよ! いじけちゃった佐天さんなんて佐天さんらしくないです!」

断言する初春飾利を見て佐天が安心したように呟く。

佐天「…言うじゃない 初春の癖に」

初春「エヘヘ…何たって佐天さんの親友ですからね!」

薄い胸を張りながら佐天の呟きに答える初春。

初春「そうと決まったなら…私達がすることは一つですよ佐天さん!」

佐天「…そだね。 私達まで辛そうな顔してたら…白井さんや億…アイツだって困っちゃうもんね!」

初春「そうです! この学生服は私がクリーニングに出しておきますから…
   佐天さんは早く休んじゃってください!」

佐天「うん…よーっし! 寝るぞー!」


■翌日・風紀委員第一七七支部

佐天「……来ない」

初春「来ませんねー」

椅子にまたがりブラブラと足を揺らしながらドアを見つめる佐天と初春。

  「……お二方?」

背後から険しい声がかかる。
だが。

佐天「やっぱ休んでる…のかな?」

初春「かもしれません… 昨夜男性の学生を収容した病院は無いみたいなので…」

佐天と初春はその声を完全に無視していた。

黒子「まったくいつまでボンヤリしてるんですの! 佐天さんはともかく初春! 
   あなたは仕事が山ほどあるはずですわよ!」

堪忍袋の緒が切れたように白井黒子が二人を叱りつけた。

初春「はっはいぃ!」

条件反射的に背筋を伸ばしキーボードに向かう初春。

黒子「ボヤボヤしてたら何時まで経ってもこの事件は解決しませんですわよ? まったくもう…」

ブツブツ言いながら書類をめくる黒子を見て、佐天が呆れたように呟いた。

佐天「白井さんって……タフですよねー」

ペラリと書類をめくりながら黒子が答える。

黒子「わたくし、麻痺には慣れてますもの」

佐天「そ、そんな問題!?」

黒子「…冗談ですわ。 今、こうしてここにいられるのは…
   あの男たちが使った薬品が即効性を重視したものだったからに過ぎませんわ」

そう言いながら更にページを捲る黒子。

黒子「レベルアッパーもですが…
   スキルアウトの無法な暴力の取締りも改めなければならないことを痛感しましたわ…」

トントンと書類の端を机で揃えながら続ける黒子。

黒子「……ところで。 さっきからなにをそんなにドアを気にしてるんですの?」

黒子「……虹村さんが? 重傷?」

目を丸くする黒子。

佐天「えっと…重傷かどうかはまだ判らないんですけど…」

初春「虹村さんが来なかったらお見舞いに行こうって昨夜二人で話してですね…」

そう口々に説明する初春と佐天だったが、ピシャリとした黒子の一言で遮られる。

黒子「何を言ってるんですの!」

佐天「だっだって…」

初春「そんな…放っておけって言うんですか?」

思わず反論しようとする佐天と初春。
だが。

黒子「何を悠長に待ってるんですの! 初春! 
   さっさと書庫(バンク)にアクセスして情報をプリントなさい! 『三人分』ですのよ!」

返ってきたのは予想を超えた黒子の指示だった。

呆気にとられた初春が思わず黒子に質問をする。

初春「…い、いいんですか? 風紀委員でも個人情報を検索するには許可が必要だって…」

黒子「非常事態になりかねませんのよ! そんなこと言ってる場合ではありません! さっさとなさい!」

初春「はっはいっ!」

パソコンに向かい豪雨のような音を鳴らしながらいくつものコンソールを操作しだす初春。

黒子「佐天さん!」

佐天「…はっはい!」

思わず背筋を伸ばし返事をする佐天。

黒子「虹村さんへのお見舞い品などは用意してますの?」

佐天「えっ? いえ、お見舞いっていうか…借りた学生服をクリーニングしただけですけど…」

黒子「わかりましたわ! すぐにでも出発するつもりですし、忘れないようにしてくださいですの!」

初春「プリント、終わりました!」

黒子の大きな声に負けじと叫ぶ初春の声。

手渡されたのは排出されたときの熱を保ったままのコピー用紙。

黒子「さぁ! 行きますわよ!」


■第7学区・とある学生寮

黒子「ここで…間違いはないのですわね」

目の前のドアを見て黒子がそう問いかける。

初春「はい! 虹村さんの住居は間違いなくここです!」

佐天「…」ゴクリ

思わず唾を飲み込む佐天。
三人の少女たちの前には物言わぬ無機質な金属のドアが立ちふさがっていた。

黒子「………『押し』ます…わよ?」

インターホンに手を伸ばしたまま、そう確認をとる黒子。

初春「は、はい……『押しちゃって』…ください…」

佐天「お、お願い……します…」

不思議な緊張感が場を支配し、震える指で黒子はインターホンを…

押した。

ドアの向こうで鳴り響くチャイム音の残滓。

立ちすくむ三人の少女。
誰も口を開くこともなく、静まり返った数十秒が経過した。

佐天「出て…」

初春「きませんね…」

心配そうに呟く佐天と初春。
しかし。

黒子「…もう! 何をモタモタしてるんですの!」

逆に白井黒子はヒートアップ。 ドアホンをカチカチと連打しはじめた。

黒子「意識不明なら意識不明ってちゃんと言ってから倒れるべきじゃないですの!」

なんとも無茶苦茶なことを言いながら連打する黒子。

そんな黒子に自業自得ともいえる不幸が訪れた。

  「さっきからピンポンピンポンウルっせぇんだよぉ~!!!」

内側から蹴り破られるようにして開く金属のドア。
ドアに備え付けられているチャイムを連打していた黒子がそれを避けられるはずもなく。

黒子「プギャッ!」

盛大な音を立てて黒子の顔面にドアが直撃した。

億泰「ったくよぉ~! 人がグッスリ眠ってるのを邪魔しやがってよぉ~! 覚悟はできてんだろぉ~なぁ~!?」

声を荒らげる億泰だったが。

億泰「…あぁ? なんだぁ? なんでオメーらがいんだぁ~?」

目の前にいるのが見覚えのある少女だということに気付き不思議そうに首をひねった。


■とある学生寮・虹村億泰の部屋

見舞いに来たと告げる三人の少女を一瞥する億泰。

億泰「ふぅ~ん… まぁ、なんにもねぇ~とこだけどよぉ~ あがりたいならあがれよなぁ~」

そう言いながら一人自室の奥へと引っ込む億泰。

佐天「おっ…お邪魔しまーす」

初春「しっ白井さんっ? 大丈夫ですか?」

黒子「アイタタ…も、問題ありませんわ」

キョロキョロとあたりを見回しながら部屋の中に入っていく佐天。
涙目で顔をおさえる黒子を支えながら初春も佐天の後に続く。

たった数歩で踏破してしまう短い廊下を抜けた少女たちの目に飛び込んできたもの。

佐天「うわぁ…なんにも無い」

初春「…見事なほどに殺風景な部屋ですねー」

黒子「ゴミに埋もれてるよりはまだマシといったレベルですの」

目の前に広がるのは元から部屋に備え付けられている僅かな家具のみだった。
生活味の無い部屋に思わず呟く三人の少女たち。

億泰「あぁ~? 仕方ねぇ~だろぉ~? 突然こっちぃ来るよう言われたんだしよぉ~」

そうボヤきながらガシガシと頭をかく億泰。

男の一人暮らしの部屋ということで些か緊張し、胸を踊らせていた佐天と初春は肩すかしをうけたようにガックリと気落ちする。

億泰「…ンでよぉ~ いったい何の用なんだよぉ~?」

しかし気落ちしていたのも束の間、訝しげな億泰の声に自分たちが来た目的を思い出す。

佐天「そっそうだっ!」

初春「虹村さん! 服を脱いでください!」

まずは説明をしようとする佐天と、説明をスッ飛ばして事実の確認をしようとする初春。

億泰「はぁ~? …熱でもあんのかぁ~?」

いきなり服を脱げと言われ怪訝そうな顔をする億泰。

そんな億泰の背後に立つのは揺れるツインテール。
ひたりと億泰のシャツの上に手を置くやいなや

黒子「つべこべつべこべうるさいですの! 傷がどの程度か確認するだけですのよ!」

黒子が怒鳴った。

空間移動、テレポートと呼ばれるそれは触れたものを転移させることができる極めて得意な能力である。
白井黒子がその能力を発動した瞬間、億泰のシャツが空中に舞った。

億泰「おおっ!?」

瞬間、自身の身体にひやりと外気が触れ、驚きの声をあげる億泰。
しかし、服を剥がれ上半身が裸になった億泰よりも、さらに驚いたのは三人の少女たちだった。

佐天「…なっ何それ!?」

初春「何考えてるんですか虹村さんっ!」

黒子「どこからどう見てもガムテープじゃないですの!」

引き締まった上半身の肩口には適当に切ったであろうガムテープがベタベタと不細工に貼りつけられていたのだ。

億泰「なっ何だ何だぁ~?」

大声をあげた少女たちに反応して後ずさる億泰だったが…その肩をガシッと掴まれた。

黒子「『何だぁ~』じゃありませんのよ!」

億泰の肩を掴んだのは背後にいた黒子。
そのままベリィッとガムテープを剥ぎ取る。

億泰「おっおい! 何だかワカンネェーがもうちょい丁寧にやってくれよなぁ~!?」

億泰「オレァこう見えてデリケートでよぉ~!」

そう主張する億泰だったが、その主張が聞き入れられることはなかった。

黒子「こんなズサンな治療をしている貴方に丁寧なんて言葉はいりませんの! 初春っ!」

億泰が動かないようにしっかりと肩を掴んだまま頼れる仲間に声を飛ばす。

初春「はいっ!」

黒子の答えに間髪入れず返事を返す初春。

初春「……よかったぁー 只の浅い裂傷ですねー」

傷口を検分した初春がホッとした声をあげる。
そして、ニュルンとチューブから塗り薬を手に取り…そのまま億泰の肩に手を当てた。

億泰「オッ! オオッ!? オオオッ!?」

ビクビクと悶える億泰。

初春「ハ―――イ ちょっと沁みますけど動いちゃダメですよー」

ホンワカとした口調とは正反対の力強さで億泰の傷口に薬を塗りこみはじめる初春。

億泰「オオウッ! ダメッ! 沁みるっ! 沁みすぎるぅ~ッ!!」

初春「ダイジョブですよー すぐに終わりますからねー」

数分後、そこにはグッタリとした億泰の姿が!

佐天「なんで悶えるのよ……気持ち悪ぅ~」

ゲーと舌を出しながら億泰に文句を言う佐天。
だが。

初春「あ、あれ? 腕が… すいません佐天さん~。 ちょっと手伝ってくださいー」

初春の協力を求める声に気付き硬直した。

佐天「…え」

佐天の目に飛び込んできたのは億泰の両脇の下から飛び出ている初春の手。

初春「ほ、包帯を巻こうとしたんですけど…むぎゅ」

億泰が少し身動きをしただけで背中に顔を潰され鼻声をあげる初春。

佐天「…ど、どうやって?」

初春「ど、どうやってもなにも… ぷぎゅ 私が持っている包帯を私の反対側に渡してくれれば… ふぎゅ」

何とかして億泰の胴に手を回そうとする初春だったが、それは億泰の背中に顔を押し付けるだけに留まっていた。

佐天「え、えええ!?」

初春が求めている自分の取るべき行動を察して真っ赤になる佐天。

佐天「そ、それって…」

上半身裸になった億泰の前で初春と一緒に包帯を巻くということ。

佐天「いや…いやいやいや!」

ブンブンと顔を振り、助けを求めるように黒子を仰ぎ見る佐天。

佐天「し、白井さん!」

だが、そんな佐天の助けを求める声は無情にも拒否された。

黒子「お、お断りですの!」

無理やり立ち上がろうとする億泰を全力で押しとどめながら黒子が鼻息荒く答える。

黒子「今わたくしが手を離せばもう治療は不可能ですの!」

プルプルと震える腕を隠そうともせずに黒子が続ける。

黒子「だいたい殿方の裸に触れているというだけでお姉様への愛に対する重大な裏切り行為ですの!」

ヨヨヨと泣き崩れるような顔をしながら畳み掛けるように続ける黒子。

黒子「佐天さん! わたくしを助けると思って早くしてくださいですの!」

佐天「そ、そんなぁ…」

泣き笑いのような顔をする佐天に、初春の声がかかる。

初春「佐天さん! むぎゅ 昨日言いましたよね! ぷぎゅ 私達には明日があるって!」

佐天「う、初春ぅ…」

億泰の背中に顔をうずめながらも初春が叫ぶ。

初春「今です佐天さん! ふぎゅ 『明日って今さ!』」



後に白井黒子はこっそりとこう語った。

「真っ赤な顔のまま虹村さんの前に正座して、粛々と包帯を巻いていた佐天さんの恥じらった顔は見物でしたの」

「あぁ、一度でいいからわたくしもあのように恥じらうお姉様を拝みたいものですわ」

――と。


億泰「お? おお! おおおっ!」

グルグルと肩を回しながら億泰が驚く。

億泰「ほぉ~っ! こいつぁズイブンと楽になるもんなんだなぁ~! ありがとよぉ~」

笑いながらそう礼を言う億泰だったが…

佐天「…い、いいからさ。 その…服…着てよ…」

真っ赤になって俯く佐天。

初春「あうう… 白井さーん… 私の鼻低くなってませんかー?」

鼻を抑えながら泣き言をこぼす初春。

黒子「…や、病み上がりにはキツすぎですの… いろんな意味で…」

だらりと脱力しベッドの上で横になっている黒子。

三者三様の疲弊しきった少女たちは返事をする気力すら無かった。

少女たちが一息をつくのを見計らって億泰が口を開く。

億泰「…ところでよぉ~ 昨日の奴らのことなんだけどなぁ~」

先ほどとは打って変わって真剣な億泰の口調に緊張する少女たち。

億泰「…あいつらぁ一体よぉ… なんなんだぁ~?」

そう問いかける億泰に返事を返したのは黒子だった。

黒子「…彼等はスキルアウトと呼ばれてますわ。 
   いわば…無能力者の落ちこぼれ達が武装した不良集団といったところですの」

淡々と事実を口にする黒子。

億泰「……そいつぁわかった。 けどよぉ…」

そう言って口ごもる億泰。

黒子「どうしてあのような場所にわたくしたちがいたか? ですの?」

億泰「そうそう。 それだよ。 オレにゃあどぉーにもそこんところが判らなくてなぁ~」

そう言って首をひねる億泰。

黒子「それは…言葉にしづらいのですが…」

チラリと気遣うように佐天を見る黒子。
ただ嫌な予感を感じたとしか言えないのだ。
そんな黒子をフォローするように佐天が口を開いた。

佐天「えっと…あたしがさ…トラブルに首を突っ込んじゃったせい…なんだよね」

そう言ってテヘヘと笑ってみせる佐天。

そんな佐天の顔を見て、何かを考え込む億泰。
静かになってしまった空気をなんとか払拭しようと黒子が慌てたように言葉を紡ぐ。

黒子「ですが虹村さん? 貴方がなさってくれた協力は…本当の本当に感謝していますの」

黒子「そして…無関係の貴方を巻き込んでしまい、申し訳ないとも思っていますの」

そう粛々と告げる黒子。
しかし、その黒子の言葉も事もなげに流さしてしまう億泰。

億泰「あ? いや…そいつは別にイイんだけどなぁ~」

そんな億泰の態度に少しムットしたまま黒子が問い返す。

黒子「では…さっきから何を考え込んでらっしゃいますの?」

億泰「いや…なんつーかよぉ~」

そう言ってゆっくりと言葉を選ぶ億泰。

億泰「学園都市つってもよォ~… 思ったよりかはアブねえんだなぁ~… ってなぁ~」

そう億泰が呟き、痛いところを突かれたかのように黒子と初春の顔がゆがむ。

黒子「それは…」

初春「たっ確かに! 虹村さんの言いたいこともわかりますけど!」

億泰の言葉に何故かムキになって反論をする初春。
理由は判らない。
しかし億泰に自分たちジャッジメントの頑張りを不当に低く評価されるのは嫌だった。

初春「私達だって一生懸命事件の捜査をしてるんですよ? レベルアッパーや第十学区の件だってあと少しで!」

黒子「…初春」

ジャッジメントの捜査内容を漏らしそうになった初春を静かに諌める黒子。

初春「あっ… と、とにかく…今よりももっと安全な街にするために私達だって頑張ってるんです」

そう胸の内を吐露して下を見つめてしまう初春。
そして…初春の告白を聞いた佐天が何か決心したような目をしてポケットの中をまさぐった。

コトリと小さな音をたてて床の上置かれたのは小さな音楽プレイヤー。

佐天「……これ…レベルアッパー…です」

その佐天の告白を聞いて、初春と黒子が飛び上がるようにして驚いた。

初春「えっ!?」

黒子「現物…ですの!?」

黒子の言葉にコクリと頷く佐天。

佐天「手に入れたのはつい最近で…だからあたしのパソコンのキャッシュの中にはきっとまだそのDLしたサイトのアドレスも残っているはずです」

そう言って黒子に音楽プレイヤーを差し出す佐天だったが…

黒子「…さ、佐天さん?」

プルプルと拳を震わせる黒子はそれを受け取ろうとはしなかった。

佐天「……はい。 覚悟は…できてます」

怒られると思い、下を向き、唇を噛み締めた佐天の両手がものすごい勢いで掴まれた。

佐天「え?」

黒子「お手柄ですわ! 大手柄ですわ! よくもまぁ教えてくださったですの!!!」

ブンブンと上下に振られる腕。

佐天「え、ええ!?」

てっきり怒られると思っていた佐天は目の前で満面の笑みを浮かべる黒子の変わり様についていけなかった。
目を丸くした佐天に初春が補足する。

初春「レベルアッパーについては…正直お手上げ状態だったんですよー」

初春「ネットの書き込みではまことしやかに囁かれてはいたものの…真偽がつかめなくてですねー」

初春「それこそ違法な取引をしているスキルアウトに乗り込もう! 
   って白井さんが言ってたくらいだったんですー」

そう言って嬉しそうに笑う初春。

黒子「し・か・も! 唯一レベルアッパーを取り扱っていると謳っていたスキルアウトは
  『昨日』全員再起不能の重傷になりまして!」

黒子「あのような外道には当然の報いなのですけども困っていたのも事実ですの!」

初春の言葉に続けてそう喜ぶ黒子。

佐天「へ? 昨日?」

呆気にとられる佐天。

黒子「ええ! これこそ天の恵みですの! さっそくこのプレイヤーからデータを解析して木山先生に調査を依頼してホームページから配布先を特定して…あぁもうやることが山積みで嫌になりますの!」

そう毒づきながらも嬉しそうな黒子。

佐天「えっと……お咎め…なし?」

おそるおそるそう尋ねる佐天だったが。

黒子「お咎めも何も! むしろ二階級特進ですのよ!」

初春「白井さーん それじゃあ死んじゃってますよー」

そう困ったように笑う初春。
喜ぶ黒子と初春を見て、ふっと佐天の頬に笑みが浮かぶ。

佐天(…なんだ…一緒だったんだ)

佐天(…あたしと同じ中学生で…あたしと同じ年齢で…あたしと同じ女の子だったんだ)

佐天(違う世界に住んでる筈がない… 同じ世界に住んでいたんだ…)

そう独りごちる佐天に億泰の声がかかった。

億泰「何だか知らねぇけどよぉ……良かったんじゃあねぇかぁ~?」

そう億泰に問われ、静かに頷く佐天。
億泰の目を見つめながら素直に答えることができた。

佐天「…うん きっとこれが正解だったんだと…あたしもそう思う」

そう静かに言い切った佐天を見た黒子と初春の動きが止まる。

黒子「…佐天さん? …貴方…もしやとは思いますけども…」

初春「さ、佐天さん? ……なんですか? 今の雰囲気?」

佐天「へ?」

黒子「こう…心と心が通じ合ってるといいますか…」

初春「熟練のサッカー選手みたいにアイコンタクトで会話をしたというか…」

佐天「え、えええええ!?」

言いたいことを察した佐天の頬が真っ赤に染まる。
そんな佐天を見た億泰のデリカシーのない一言。

億泰「…おめぇーはよぉ~ …オレの前だけじゃあなくて白井や初春の前でも真っ赤になるけどよぉ~ 
   そいつぁ癖かなんかかぁ? 『涙子』ぉ~?」

佐天「な゛っ!」

黒子「んまっ!」

初春「わわっ!」


硬直する佐天、ニンマリと笑う黒子、ポカンと口をあけて驚く初春。
次の瞬間にはキャーキャーという甲高い叫び声が学生寮に響きわたり、近隣の住人に多大な迷惑をかけたのは言うまでもない。


そして


ジャッジメント・白井黒子の手元には二枚のカードが残ることとなった。
一枚のカードは幻想御手・通称「レベルアッパー」

そして残ったもう一枚のカード。
それは億泰が叩きのめしたスキルアウトが口にした第10学区エリアG・通称「ストレンジ」

二枚のカードはフラフラと風に吹かれ、不安定に揺れている。
表が出るのはどちらのカードか。
それはまだ謎のままである


☞To Be Continued?



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コメント

  1. 名無し―ネームレス― | URL | -

    Re: 億泰「学園都市つってもよォ~」

    す・・・すげええええええええええ

  2. 名無し―ネームレス― | URL | -

    Re: 億泰「学園都市つってもよォ~」

    おもしろい。続編期待。

  3. 名無し―ネームレス― | URL | -

    Re: 億泰「学園都市つってもよォ~」

    続編期待。ジョジョと禁書とクロスオーバーssが好きな俺にとってコイツは最高だ。

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