2010年11月14日 20:36
唯「サイレントヒル・・・ここに憂がいるんだね・・・」
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 20:20:56.06 ID:JUQo+BpI0
誰か書いてん
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 20:46:44.33 ID:OPI5StuLO
だれか
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 20:49:04.86 ID:p0ZXwQjoO
唯「UFOだ!」
ビヨヨヨヨヨ
唯「うわああ!」
~完~
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 20:59:29.37 ID:w9JFhxSQO
律「いや静岡にきてるだけだろ…」
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:12:25.97 ID:K76l+bCuO
唯「でも、憂はなんで静岡にいるんだろうね」
律「さあな、理由は本人に直接聞いてみるしかない」
唯「あっ、目的地に着いたよ」
律「この高校に、憂ちゃんが通ってるのか」
唯「そう。ムギちゃんの情報が正しければ、憂はここにいる」
律「沼津北高校、通称ぬまっき、か……」
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:13:36.77 ID:jfcuflzx0
ビバリーの丘に行くデブの忍者の話なら知ってる
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:17:14.51 ID:P6HZ/8nWO
サイレントヒルのうたー
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:31:18.49 ID:A+cLKOtAQ
>>1
味をしめて調子に乗ったな
私の名前は平沢憂です。
今車でアメリカの道路を走っています。
お姉ちゃんの治療のために来ました。行き先はサイレントヒル。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:31:46.17 ID:IwY/2KjB0
病気・・・だろうか。
異常が見られたのは9歳の頃から。
周辺の事はハッキリとは覚えていないが、
夜中の暗いリビングの机の傍、狂気の形相で絵を殴り描いていた彼女・・・。
あれは畏怖。
私はあの時のお姉ちゃんを生涯忘れる事はないだろう。
その時からだ、夢遊病の症状が出始めたのは。
そして夢遊病のお姉ちゃんは事あるごとに言う、
「サイレントヒル」と。
お姉ちゃんはその時の事を何も覚えていないと言う。
当人が描いた不気味な絵を見せても否定し、気味悪がるだけであった。
両親にも全て話したが解決には至らなかった。クスリも効かない。
ある時、軽音部で合宿をやると言う事を聞いて部員の皆にも全てを話したが、
何事もなかったようだ。
そして最近になった症状が酷くなってきた。
夜中に起きては猟奇的な絵を殴り描き、例の単語を大声で繰り返す、
ついには外に出歩いてトラックに轢かれかけたりもした(私がギリギリで止めた)。
見かねた私は、何故今までそうしなかったのだろうか、その単語の意味について調べた。
恐らく私も知るのが怖かったのだろう、不安だった。
__サイレントヒル
30年前、謎の大火災が発生、住人の4割が死亡し、
今は封鎖されているゴーストタウン。
地下では今も尚炭鉱が燃え続けていると云われている。
憂「お姉ちゃん、お腹空いた?」
唯「うーん・・・いや、空いてないや」
憂「そっか、でもガソリン入れないと、ちょっと待っててね」
憂はそう言うと車から出てガソリンを補充した後
道を聞くため店の中へと入る
憂「すみません、ちょっとサイレントヒルへの道をお聞きしたいのですが、地図にのってなくて・・・」
レジ「・・・あんた、あそこへ何の用だい・・・やめときな」
そう言うと怪訝そうな顔をしてさっさと出て行けと促した。
憂「・・・・」
ここから近い事には間違いない。きっとそこへ行けばお姉ちゃんの病気も・・・。
すぐに憂は車に戻り、徹夜の事など気にせず運転を続行した。
15分程走っただろうか、
急に後ろから白バイがサイレンを鳴らしながら近づいてきた。
仕方なく車を止める。
唯「私たち、何も悪いことしてないよね?」
憂「・・・」
その時私は目にした、サイレントヒルの看板を。
左へ曲がって4km、すぐそこだ。
憂は近づいてくる女警官など構わずアクセルを踏んだ。
唯「えっ!ちょっと!憂!?」
女警官「ちょっと!待ちなさい!!!」
この先へ行けばお姉ちゃんの病気が治る、それだけだ。
他の事なんか知らない。
前方に鉄柵が見えた。封鎖されているのだ。構うものか。
唯「ちょ、ちょっと!憂!!」
憂「つかまってて!お姉ちゃん!」
鉄柵をぶち破った。
そのまま2人はサイレントヒルへと続く山道へ進んで行く。
彼女はまだ気付いていない、自分も其処へ呼ばれているということを・・・。
梓「・・・」
梓「何で!!どうしよう・・・憂の馬鹿・・・」
梓「履歴に残ってるよ・・・急がなきゃ、まだ地下で火災が続いてるだなんて、危険すぎです!」
ピッピッピ・・・プルルルル・・・・・・
梓「駄目だ、流石に出ないか・・・とにかく急がなきゃ」
梓「こういう時に頼れるのは、ムギ先輩しかいないです・・!」
しばらくして姉妹はサイレントヒルの入り口に着いた。
緑色の寂れた看板が告げている、「WELCOME TO SILENT HILL」。
憂はそのまま車を進めた。
憂「お姉ちゃん、起きて」
憂「お姉ちゃん!着いたよ」
唯「・・ん、んー、ういー」
憂「あ、念のために連絡しといたほうがいいよね、梓ちゃんと約束してたんだった・・」ピッピ
その時だった、突然携帯から電波が途絶え、ラジオがノイズを発し始めた。
ガガ・・ピィーザザザザ・・ブツブツ・・ピーガガ・・ザザ
唯「! うわ、憂!怖いよ!怖い!」
憂「・・・あ・・・わ、待ってね!今止めるから」
唯「怖いよぉ!早く止めて!憂!」
憂「うん・・え、えーと・・・あれ?・・・うわ!」
突然、前に人が現れた。
下を向きながら廃人のように歩いている・・・少女・・・?
憂は瞬時に全神経をブレーキに回したが間に合わなかった。
車は制御出来なくなった・・・が、止まった。エアバックは何故か発動せず、
憂はハンドルに頭部をぶつけ気を失った。
紬「それは本当!?・・・分かったわ!すぐ飛行機を手配させる!」
紬「えぇ、私の家は知っているでしょう?すぐ来て!」ブツ・・・
紬(まさか憂ちゃんが・・・せめて皆に相談してから行くと思ってたんだけど・・・)
(不覚だったわ・・・何事もなければいいのだけど・・・)。
頭が痛い、血が出ている。
意識がはっきりとしてくる・・・。私は生きている、無事だ。
先程までの焦りと頭痛に少しイラつきながらも憂は起き上がった。
憂「うぅ・・・大丈夫?お姉ちゃ・・」
憂「・・・・いない・・・そんな・・!!」ガタッ
憂「お姉ちゃん!!どこ!? お姉ちゃん!!」
憂「・・・嘘でしょ・・・あぁ・・一人で・・行ったんだ・・・サイレントヒルに・・」
外は霧で覆われている。濃霧と言っていいだろう、前がほとんど見えない。
上からは大粒の雪が降り注いでいる。この明るさ、今は夜ではない。
大変だ!一晩中気絶してた・・・。早く追わなければ・・・!
憂は町へと駆け出した。
憂「・・・これは雪じゃない。 灰?・・・」
憂「・・・ここがサイレントヒル・・・」
憂「誰もいないじゃない・・・当然か・・・」
憂「お姉ちゃーん!! お姉ちゃーん!!!」
憂「お姉ちゃーん!!!! ・・・駄目・・広すぎる・・・」
憂「・・・っ!! お姉ちゃんっ!??」
彼女は微かに見た、唯と思われる人影を必死に追った。
それは路地へ入り、角を曲がり、道を走り、憂から逃げて行く。
憂「ハァッ・・・ハァッ・・ま、待って!! お姉ちゃん!」
人影は角を曲がって地下へと入って行く。
憂「待ってよ!ねえ!お姉ちゃん!?」
憂(!!・・・何ここ・・怖い・・凄く暗いし・・・)
(お姉ちゃんがこんなとこ入れるわけ・・・でも夢遊病だったら・・・とにかく行かなきゃ!!)
彼女は地下へと続く不気味な階段を下って行った。
その直後、薄暗い階段にも聞こえる大きなサイレンが響いた。
憂「一体何なのよぉ・・・」
暗闇と響くサイレンに怯えながら歩を進める。
左・・・右・・・。
前の鉄格子が開いている。 きっとここを通ったのだ。
ガタッ!
憂「きゃっ・・・・ドラム缶か・・・」
!
憂「お姉ちゃん!!お願い!!待って!!」
またも人影は奥へと走って行く。
どうして私から逃げるのだろうか。
いや・・・・・誘っているのか・・・?
憂は必死に後を追う。
その時だった。
辺りの、周りの、景色が変わった。
何もかもが錆びていく・・・。物凄い速さで。
フェンスが、バケツが、塗料が、全て赤黒く錆びていく。
世界が変貌した。豹変した。
これは何・・・・?
赤黒い不気味な景色。何ここは、現実・・・?
彼女は本能的に感じた、ここに居ては不味い。速く逃げないと・・・。
後ろを向いた。
何かがいる。5m程先。
人ではない。異形。
赤ん坊?・・・ではない、不気味すぎる。
黒コゲの死体・・?・・がまだ熱を持っている・・・。
それはギィギィと呻きながら私に近づいてきた。
憂「いやああぁあ!」
憂「来ないで!!何なのよおぉ!」
逃げようとした、が、その異形は1つだけではない。
20はいる・・いつの間に!?囲まれてる!
憂「うっ・・・何!?・・・助けて・・」
憂「ハァッ!ハァッ! いや!放して!」
異形の手を振りほどき急いで近くのドアを開け中に入った。
扉を閉める暇もなく異形はなだれ込んで来る。
それは憂の足を掴み引きずっていく。
憂「ぃや!放して!放して!放してぇ!!!!」
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 23:38:06.06 ID:IwY/2KjB0
何だろう、自分でもつまんないと思って書いてる。
やめよう。ちなみにサイレントヒルはゲームやったことありません。
無駄に期待させてごめんなさい。
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1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 20:20:56.06 ID:JUQo+BpI0
誰か書いてん
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 20:46:44.33 ID:OPI5StuLO
だれか
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 20:49:04.86 ID:p0ZXwQjoO
唯「UFOだ!」
ビヨヨヨヨヨ
唯「うわああ!」
~完~
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 20:59:29.37 ID:w9JFhxSQO
律「いや静岡にきてるだけだろ…」
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:12:25.97 ID:K76l+bCuO
唯「でも、憂はなんで静岡にいるんだろうね」
律「さあな、理由は本人に直接聞いてみるしかない」
唯「あっ、目的地に着いたよ」
律「この高校に、憂ちゃんが通ってるのか」
唯「そう。ムギちゃんの情報が正しければ、憂はここにいる」
律「沼津北高校、通称ぬまっき、か……」
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:13:36.77 ID:jfcuflzx0
ビバリーの丘に行くデブの忍者の話なら知ってる
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:17:14.51 ID:P6HZ/8nWO
サイレントヒルのうたー
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:31:18.49 ID:A+cLKOtAQ
>>1
味をしめて調子に乗ったな
私の名前は平沢憂です。
今車でアメリカの道路を走っています。
お姉ちゃんの治療のために来ました。行き先はサイレントヒル。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 21:31:46.17 ID:IwY/2KjB0
病気・・・だろうか。
異常が見られたのは9歳の頃から。
周辺の事はハッキリとは覚えていないが、
夜中の暗いリビングの机の傍、狂気の形相で絵を殴り描いていた彼女・・・。
あれは畏怖。
私はあの時のお姉ちゃんを生涯忘れる事はないだろう。
その時からだ、夢遊病の症状が出始めたのは。
そして夢遊病のお姉ちゃんは事あるごとに言う、
「サイレントヒル」と。
お姉ちゃんはその時の事を何も覚えていないと言う。
当人が描いた不気味な絵を見せても否定し、気味悪がるだけであった。
両親にも全て話したが解決には至らなかった。クスリも効かない。
ある時、軽音部で合宿をやると言う事を聞いて部員の皆にも全てを話したが、
何事もなかったようだ。
そして最近になった症状が酷くなってきた。
夜中に起きては猟奇的な絵を殴り描き、例の単語を大声で繰り返す、
ついには外に出歩いてトラックに轢かれかけたりもした(私がギリギリで止めた)。
見かねた私は、何故今までそうしなかったのだろうか、その単語の意味について調べた。
恐らく私も知るのが怖かったのだろう、不安だった。
__サイレントヒル
30年前、謎の大火災が発生、住人の4割が死亡し、
今は封鎖されているゴーストタウン。
地下では今も尚炭鉱が燃え続けていると云われている。
憂「お姉ちゃん、お腹空いた?」
唯「うーん・・・いや、空いてないや」
憂「そっか、でもガソリン入れないと、ちょっと待っててね」
憂はそう言うと車から出てガソリンを補充した後
道を聞くため店の中へと入る
憂「すみません、ちょっとサイレントヒルへの道をお聞きしたいのですが、地図にのってなくて・・・」
レジ「・・・あんた、あそこへ何の用だい・・・やめときな」
そう言うと怪訝そうな顔をしてさっさと出て行けと促した。
憂「・・・・」
ここから近い事には間違いない。きっとそこへ行けばお姉ちゃんの病気も・・・。
すぐに憂は車に戻り、徹夜の事など気にせず運転を続行した。
15分程走っただろうか、
急に後ろから白バイがサイレンを鳴らしながら近づいてきた。
仕方なく車を止める。
唯「私たち、何も悪いことしてないよね?」
憂「・・・」
その時私は目にした、サイレントヒルの看板を。
左へ曲がって4km、すぐそこだ。
憂は近づいてくる女警官など構わずアクセルを踏んだ。
唯「えっ!ちょっと!憂!?」
女警官「ちょっと!待ちなさい!!!」
この先へ行けばお姉ちゃんの病気が治る、それだけだ。
他の事なんか知らない。
前方に鉄柵が見えた。封鎖されているのだ。構うものか。
唯「ちょ、ちょっと!憂!!」
憂「つかまってて!お姉ちゃん!」
鉄柵をぶち破った。
そのまま2人はサイレントヒルへと続く山道へ進んで行く。
彼女はまだ気付いていない、自分も其処へ呼ばれているということを・・・。
梓「・・・」
梓「何で!!どうしよう・・・憂の馬鹿・・・」
梓「履歴に残ってるよ・・・急がなきゃ、まだ地下で火災が続いてるだなんて、危険すぎです!」
ピッピッピ・・・プルルルル・・・・・・
梓「駄目だ、流石に出ないか・・・とにかく急がなきゃ」
梓「こういう時に頼れるのは、ムギ先輩しかいないです・・!」
しばらくして姉妹はサイレントヒルの入り口に着いた。
緑色の寂れた看板が告げている、「WELCOME TO SILENT HILL」。
憂はそのまま車を進めた。
憂「お姉ちゃん、起きて」
憂「お姉ちゃん!着いたよ」
唯「・・ん、んー、ういー」
憂「あ、念のために連絡しといたほうがいいよね、梓ちゃんと約束してたんだった・・」ピッピ
その時だった、突然携帯から電波が途絶え、ラジオがノイズを発し始めた。
ガガ・・ピィーザザザザ・・ブツブツ・・ピーガガ・・ザザ
唯「! うわ、憂!怖いよ!怖い!」
憂「・・・あ・・・わ、待ってね!今止めるから」
唯「怖いよぉ!早く止めて!憂!」
憂「うん・・え、えーと・・・あれ?・・・うわ!」
突然、前に人が現れた。
下を向きながら廃人のように歩いている・・・少女・・・?
憂は瞬時に全神経をブレーキに回したが間に合わなかった。
車は制御出来なくなった・・・が、止まった。エアバックは何故か発動せず、
憂はハンドルに頭部をぶつけ気を失った。
紬「それは本当!?・・・分かったわ!すぐ飛行機を手配させる!」
紬「えぇ、私の家は知っているでしょう?すぐ来て!」ブツ・・・
紬(まさか憂ちゃんが・・・せめて皆に相談してから行くと思ってたんだけど・・・)
(不覚だったわ・・・何事もなければいいのだけど・・・)。
頭が痛い、血が出ている。
意識がはっきりとしてくる・・・。私は生きている、無事だ。
先程までの焦りと頭痛に少しイラつきながらも憂は起き上がった。
憂「うぅ・・・大丈夫?お姉ちゃ・・」
憂「・・・・いない・・・そんな・・!!」ガタッ
憂「お姉ちゃん!!どこ!? お姉ちゃん!!」
憂「・・・嘘でしょ・・・あぁ・・一人で・・行ったんだ・・・サイレントヒルに・・」
外は霧で覆われている。濃霧と言っていいだろう、前がほとんど見えない。
上からは大粒の雪が降り注いでいる。この明るさ、今は夜ではない。
大変だ!一晩中気絶してた・・・。早く追わなければ・・・!
憂は町へと駆け出した。
憂「・・・これは雪じゃない。 灰?・・・」
憂「・・・ここがサイレントヒル・・・」
憂「誰もいないじゃない・・・当然か・・・」
憂「お姉ちゃーん!! お姉ちゃーん!!!」
憂「お姉ちゃーん!!!! ・・・駄目・・広すぎる・・・」
憂「・・・っ!! お姉ちゃんっ!??」
彼女は微かに見た、唯と思われる人影を必死に追った。
それは路地へ入り、角を曲がり、道を走り、憂から逃げて行く。
憂「ハァッ・・・ハァッ・・ま、待って!! お姉ちゃん!」
人影は角を曲がって地下へと入って行く。
憂「待ってよ!ねえ!お姉ちゃん!?」
憂(!!・・・何ここ・・怖い・・凄く暗いし・・・)
(お姉ちゃんがこんなとこ入れるわけ・・・でも夢遊病だったら・・・とにかく行かなきゃ!!)
彼女は地下へと続く不気味な階段を下って行った。
その直後、薄暗い階段にも聞こえる大きなサイレンが響いた。
憂「一体何なのよぉ・・・」
暗闇と響くサイレンに怯えながら歩を進める。
左・・・右・・・。
前の鉄格子が開いている。 きっとここを通ったのだ。
ガタッ!
憂「きゃっ・・・・ドラム缶か・・・」
!
憂「お姉ちゃん!!お願い!!待って!!」
またも人影は奥へと走って行く。
どうして私から逃げるのだろうか。
いや・・・・・誘っているのか・・・?
憂は必死に後を追う。
その時だった。
辺りの、周りの、景色が変わった。
何もかもが錆びていく・・・。物凄い速さで。
フェンスが、バケツが、塗料が、全て赤黒く錆びていく。
世界が変貌した。豹変した。
これは何・・・・?
赤黒い不気味な景色。何ここは、現実・・・?
彼女は本能的に感じた、ここに居ては不味い。速く逃げないと・・・。
後ろを向いた。
何かがいる。5m程先。
人ではない。異形。
赤ん坊?・・・ではない、不気味すぎる。
黒コゲの死体・・?・・がまだ熱を持っている・・・。
それはギィギィと呻きながら私に近づいてきた。
憂「いやああぁあ!」
憂「来ないで!!何なのよおぉ!」
逃げようとした、が、その異形は1つだけではない。
20はいる・・いつの間に!?囲まれてる!
憂「うっ・・・何!?・・・助けて・・」
憂「ハァッ!ハァッ! いや!放して!」
異形の手を振りほどき急いで近くのドアを開け中に入った。
扉を閉める暇もなく異形はなだれ込んで来る。
それは憂の足を掴み引きずっていく。
憂「ぃや!放して!放して!放してぇ!!!!」
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/19(火) 23:38:06.06 ID:IwY/2KjB0
何だろう、自分でもつまんないと思って書いてる。
やめよう。ちなみにサイレントヒルはゲームやったことありません。
無駄に期待させてごめんなさい。

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 00:26:51.94 ID:nic/5ltUO
唯「サイレントヒル…ここに憂がいるんだね…」
丘にある公園で私たちは話していた
ここはサイレントヒル
アメリカにある小さな街…の廃墟だ
紬ちゃんの誘いでアメリカに旅行に来た私たちだが、旅行3日目の朝、一緒に来た憂が手紙を残して姿を消しているのに気付いた
手紙には『サイレントヒルに行ってきます』
とだけ書かれていた
梓「憂…なんでわざわざこんな気味の悪いところに来たんだろ…?」
手紙を見つけた私は紬ちゃんにサイレントヒルについて訊いてみた
昔、大きな火事があって放置されているゴーストタウン…廃墟らしい
しかもゴーストタウンの意味は二重みたいで、本当にお化けがでるとかなんとか…
そんなところに憂が一人で行くなんて信じられなかった私は、みんなにお願いして探しに来させてもらった
唯「分からないけど…でも手紙にはここが書いてあったんだし、ここに来たかったんじゃないかな?」
丘の上の公園からはサイレントヒルを見渡せる
大きな湖の隣に作られた、寂れたアメリカの街、それが私にとっての第一印象だった
紬「でもここ、結構広いみたいですよ?闇雲に探しても見つからないんじゃ…」
紬ちゃんの言うとおり、この街はかなり広いみたいだ
見えるだけでも広いし、霧があるから遠くまで見えない
探すのは大変そうだ
律「じゃあ手分けして探すか?集合場所と時間決めておけば私達の入れ違いはないだろ?」
律ちゃんが提案してくれた方法を使って探す事にした
澪ちゃんは怖がって紬ちゃんの別荘に戻って憂からの連絡や…戻って来た時の連絡をする係に決まった
そして、みんなバラバラにこの街を探索し始めた…
律「じゃあ唯はここら辺を探すんだな?」
唯「うん」
車から降りた私は窓から顔を出す律ちゃんにそう応えた
律「唯、顔色なんかおかしいけど大丈夫か…?」
顔色がおかしい?
それは多分…
唯「憂が心配で…」
律ちゃんの顔色が曇る
律ちゃんは明るいだけじゃなくてこういう優しいところもあるから好きだな
きっとこの後は…
律「…元気出せよ!憂はすぐに見つかるって!私達も探すんだから!」
やっぱり、励ましてくれた
車の中のみんなも頷いてくれる
みんな、ありがとう
車が去って行くのを見つめ、霧にその姿が隠された頃、私は周りを見渡した
霧で道路越しの景色すら怪しいけれど、周りの様子は一応わかる
ここは交差点
渡された地図を見ると、ちょうど東西南北に大きな道が伸びているようだ
唯「うーん…どっちから探そうかな?」
私はとりあえず、西側に向かうことにした
霧で遠くが見えないから車道の真ん中を歩いて、両側の歩道に注意を向けて歩いていった
しばらく歩くと、突然白い壁が道路を塞いでいた
唯「外国の道路ってこんな風になってたりもするんだー」
私は興味を抱き、壁に近づいた
すると、壁に何か書いてある事に気が付いた
唯「…?なんて書いてあるんだろ?英語読めないや」
苦笑しながら私はその文章を読んでみた
唯「いふ…ゆー、うぃる…せあち?さーち?かな?しれんとひっる…?うーん…うぇぽん?…と…もんすたー?わかんないや…」
分かったのは、武器とお化けがどうした、って書いてあることだけだった
後ろで音がした
何かが軋むような音
私は、憂かと期待を込めて振り向いた
唯「憂!?」
しかし、そこには誰もいなかった
そう、誰もいなかった
だが、そこに、マネキンなんて、落ちて、いた…?
マネキンに近付く
こんなマネキンは、通った時に落ちていだだろうか?
見落としていたのだろうか?
足元にある関節の砕けたマネキン
その手に、見覚えのあるものが引っかかっていた
唯「これ…」
それの紐を掴み、持ち上げてみた
唯「憂の…」
見覚えがあった
そこから財布や、携帯電話を取り出す姿を見ていた
唯「ポーチ」
ポーチの中身を見てみる
だが、何も入っていない
唯「空っぽ…憂…!」
よくない想像が頭を過ぎる
日本にいたときによく聞いた話だった
強盗
唯「…ううん!憂なら大丈夫だよ!賢いし、頭もいいし、かわいいし!」
私は動揺しながらも憂は大丈夫と安心したくて、とりあえず憂を誉めた
こんなによくできた妹が強盗なんかに捕まるわけが…
瞬間、血を吐いて倒れる憂の姿が脳裏に浮かぶ
唯「…憂ーーーーーッ!」
叫びは、街に吸い込まれて消えてしまった
唯「…あ、焦っても…し、しょうが…ないよね…」
そう言いながらリュックからペットボトルを取り出して、水を飲む
少し、落ち着く
唯「ようし、憂の手掛かりはっけーん!この近くにいるのかな?」
そう元気を出すように声を搾り出しながら辺りを見渡す
その時に気付いた
左手―地図を頭に浮かべて確認すると、北だった―にある建物の扉が開いていた
唯「…扉の開いた建物の前にポーチが落ちている…怪しいな、ワトソン君?」
私はそんな冗談を言いながら建物に近づいた
唯「まん…しおん?マンション!」
私はかろうじてそう読めた建物の表札(なのかな?)を確認して、暗い建物の中に入っていった
入り口に掛けられた見取り図をメモ帳に書き写していざ、探検!
という時に気付いた
建物の中が真っ暗で、遠くどころか近くでさえ見えない
唯「ありゃ…どうしよう…ライトなんてないよね…」
そう言いながらリュックの中を見てみる
携帯電話の充電器、カロリーメイトが2つ、ピックが3つ、水の入ったペットボトル、そして、憂の手紙とポーチ…
唯「うーん…なんにもないや…そうだ!携帯のライト機能があるじゃん!」
私の頭の機転を誉めながらポケットから携帯電話を取り出す
でも…
唯「あ、そっか…充電出来なくて電池が切れちゃったんだっけ…」
アメリカのコンセントと日本のコンセントは形が違って使えない、という事を知らなかった私達は、携帯電話の充電が出来なくてみんな切れてしまっていたのだった…
唯「どうしよう…」
そう言ってふと横を見ると、受付の窓の内側に大きなハンドライトがあるのを見つけた
受付の扉は幸い、入り口に近かったから外の光で中までしっかり見える
内開きの扉のノブを回してみると、よかった、開いていた
後はハンドライトの灯りが点いてくれれば…
そう思い、後ろ手に扉を閉めた瞬間の事だった
唯「…ッ!?…あ…つぅ…」
酷い、頭の内側を殴りつけられているような頭痛と、強烈なサイレンのような音が響いた…
あまりの激痛と騒音に頭を抱え、しゃがみ込む
目を瞑り、早く収まってと祈りながら、しばらくの時間固まっていた
どれほどの時間を耐えていたのだろうか?
気が付いてみると、頭痛も騒音も鎮まっていた
手をカウンターに置き立ち上がろうとした時に、ようやく異常に気が付いた
カウンターがザラザラとしたもので覆われている
それにひんやりとした金属のような感触…
外から見た時は木で出来ていたはずなのに
唯(…おかしいな?気のせいなのかな?)
立ち上がり、ライトを手にして、電源を入れる
すると、大きさに比べて少し頼りない灯りがマンションの狭いエントランスを小窓越しに照らした
唯「なんだ…ちゃんと…点」
何かが小窓の前をすごいスピードで通り過ぎた
唯「…」
唯「」
唯「」
唯「」
扉…ガタガタしてる…
…いや…呆然としてる場合じゃ…ない!?
どうしよう!今一瞬何か見えた気がするけど何かよくない何かだったと思う!
とにかく鍵を…
唯「そうだ、内鍵をかけよう!」
扉の前に立ち、ドアノブに付いた鍵を回そうとする
錆び付いているのか、手が震えているのか、二度、三度と失敗しながらなんとか鍵を掛け終わる
そして見てしまった
先ほどまで普通の扉だったはずが…
いつの間にか格子戸に変わっていた
そして、その向こうの
顔が潰れてしまったマネキンの上半身が2つくっ付いたナニカが、格子をつかんで、揺らしていた
思わず腰が抜け、へたり込んでいた
目の前には潰れた顔でこちらを見つめる2対の目
恐怖に竦んでしまった体は悲鳴を上げることすらできない
ただ、座り込み、喉がひくつくのを感じながら気絶した
目を覚ました時、真っ暗な視界に混乱したが、手に掴んでいたハンドライトを点けると少し落ち着いた
そして気絶する寸前の光景を思い出し、辺りを慌てて照らし出す
右
誰もいない
左
何もいない
後ろ
なんの気配もない
何もいない事を確認すると、口から溜め息が漏れた
アレは…なんだったんだろう…?
思い出すのは怖かったが、思い出さずにいられるほど衝撃は小さくはなかった
ふと、白い壁に書き込まれた英語を思い出す
唯「モンスターって…あれの事なのかな…だよね…?」
リュックから憂のポーチを取り出して、抱きしめる
唯「憂…どこにいるの…?」
目尻から、雫がこぼれた
すると、手の中のポーチに固い何かが入っているのに気付いた
慌てて中を見るが、何も入っていない
そして気付いた
ポーチに、サイドポケットがある事に
そこに
唯「鍵…とメモ…?手紙…?」
涙に揺れる視界の中で震える手を必死に使い、折られたメモを広げた
『コレを見ている誰かへ
お願いがあります。この手紙を私の大切なお姉ちゃんに届けてください
お姉ちゃんへ
私は、たとえ お姉ちゃんの事が大好きです
それだけはどうしても伝えたかったんです
だから、どうか私のこ』
読んでいる最中だった
手紙が下の方から少しずつ燃えて灰になっていく
火の確かな熱さを感じて思わず憂からの手紙を落としてしまった
唯「あ…ああぁ…!」
気付いて火を消そうと踏みつけ始めた時には遅かった
もう手紙は読めないほどに燃え尽きてしまっていた
呆然としてしまう
唯「憂…まるで…死ぬみたいな…」
頭を振り、最悪の想像を振り払う
慌てて立ち上がり、改めて周囲を見渡す
唯「さっきみたいなお化けがいたら…戦わなくちゃ…!」
そして見渡して気付いた
唯「あれ…ここ…どこ?」
気絶する前にいた受付ではない
どこかの別の部屋のようだ
倒れたタンス、ガラスの割れたサイドボードや食器棚、端に寄せられたテーブル…
唯「誰かの部屋?」
だが、使われなくなって長いのだろう
周囲は散乱し、とても生活感は感じられない
割れたガラスを踏みつけながら部屋を探し回っていると、奥に別の部屋に繋がっているのだろう扉があった
おそるおそる開き、ライトを隙間から差し込み、中を覗いてみる
どうやらなにもいないようだ
そして、その部屋で木製のバットを見つけた
以前はいたであろう住人のものだろうか?
手にして床を思い切り叩いてみる
鈍い音と固い衝撃を感じる
どうやら武器として使えそうだ
唯「…あれ?」
ベッドの上に不思議な…蒼光りする石が落ちていた
綺麗なのでなんとなく持って行ってみよう
唯「綺麗な石だから憂も見たら喜んでくれるかな?」
久しぶりに感じる口元の笑みを手で抑え、目覚めた部屋から出て行った
廊下に出た私は、注意深く周囲を照らした
さすがに霧は入ってきてはいないけど、ライトの灯りでは周りを完全には見渡せない
唯「どこかで電気をつけれたら、明るくなるんだろうけど…」
そう言いながら左に進んでいった
確か、壁に左手をあてながら進めば迷わない、と誰かが言っていた気がする
曖昧な記憶の助言を頼りに、探検を開始した
だが、ほとんどの部屋に鍵を掛けられていたので調べられなかった
憂のポーチから見つかった鍵には何も書いていなかったからどこで使うものなのかも分からない
閉まっていた扉に毎回差しこもうとはしてみたけど、どの扉にも合わなかった
唯「憂~!どこ~?」
大声を出して憂を呼んでみる
あんなお化けのいる場所に憂がいるなんて心配で仕方なかった
結局、精一杯探し回ってみたけど、マンションの二階は結局何もなかった
途中で見つけた階段を下りる事にした
唯「…?」
階段の踊場に着いた時だった
テレビの砂嵐のような音が聞こえるのに気付いた
どこから聞こえるんだろう?
唯「…あ、ラジオだ」
足元、階段の手すりの影にラジオが置いてあった
砂嵐のような音はこれから聞こえている
唯「なんだろ、これ…」
しゃがみ込み、ラジオの取っ手を掴み上げてみる
砂嵐の音が徐々に大きくなっている気がした
その時、階段の下に気配を感じて急いでラジオを置き、バットを持つと、ライトを気配の方に向けた
唯「…誰?誰か…いるの?憂?」
声と同じように震える足をそっと階段に踏み出させる
階段の下にはバケツが落ちていた
朽ちてはいるけど、錆びてはいない金属製のバケツ
それを、誰かが蹴った
唯「…ッ…!」
今度は腰は抜けなかった
でも、恐怖に竦んではいた
今すぐ後ろを向いて走って逃げたかった
だけど
唯「憂を…探すんだから…私が憂のお姉ちゃんなんだから…」
ゆっくり、足元を確かめるように階段を下りていく
今度はただの頭のないマネキンのようだった
まるで糸で操られているマネキンの映像を、早送りしているみたいな違和感のある動き方で近づいてくる
唯「き…気持ち悪い…!」
そう口に出し、目を瞑りながら嫌悪感を力に変えるようにバットを振り下ろした
固いものを叩いた確かな感触が手に伝わる
ゆっくりと、目を開いてみる
マネキンは、腕を上げてバットから体を守っていた
壊れてしまった右手をだらりと下ろし、左手でこちらの二の腕を掴んできた
「」
マネキンは左手でこちらを掴みながら頭のあったであろう場所を近付けてくる
唯「い…嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
気持ち悪い、怖い、いろんな気持ちが混ざり合って私を襲う
体を必死に捩らせてマネキンの手を振りほどく
そして手に持ったバットを力一杯振り下ろす
振り下ろす
振り下ろす
…
どのくらい経ったのだろうか
気が付けば目の前には砕けたマネキン『だったモノ』が落ちている
肩で息をしている私と、動かなくなったマネキンだけが、この廊下にいる
静かだった
落ち着いてくると自分の呼吸の音も聞こえるようになった
だが、なにかがおかしい気がする
唯「ハァ…ハァ…ッ…ハァ…?」
階段に振り返る
砂嵐の音が聞こえなくなっている
私は胸の動悸に手をあてつつ、階段を上ってみた
…あった
ラジオだ
だが、さっきとは打って変わって、全くの無音だった
電池が切れたのだろうか?
そう思い、ラジオのバッテリーの蓋を開けてみた
空っぽだった
私は、不思議なラジオを持って行く事にした
階段を改めて下りて回りを見回す
窓からは道路がとマンションを挟む柵が見える
先ほどと同じように左に曲がる
一つ目の扉
開いた
ライトをゆっくり差し入れ、中を覗く
ハイジのお爺さんが座っていそうな椅子が倒れている
中に入ってみる
中は最初にいた部屋と同じような間取りだった
部屋の奥に進むといろいろな物が落ちていた
小さな瓶詰めのドリンク…栄養ドリンクだろうか?
赤錆た鍵も見つけた
なにより驚いたのは赤と白の小さな紙箱だった
唯「わ!弾だ!鉄砲の弾!」
金属でできた座薬みたいな形の塊がたくさん入っていた
お化けがいる場所だから何かに使えるかもしれない
鍵と弾を持って行く事にした
ドリンク?賞味期間が怖いから置いていった
部屋を出て、二つ目の扉に向かう
すると、二つ目の扉のすぐ近くの床に大きな穴が開いていた
大体4mくらいだろうか…これじゃあ三つ目より向こうの扉が開けられない
少し落胆し、同時に安心もしながら横を向く
二つ目の扉のノブを掴む
回らない
鍵が掛かっているようだ
憂の鍵を試してみる
開かない
さっき拾った鍵を使ってみる
カチリ、と、小気味よい感触と音が返ってきた
唯「開いちゃった…開かなければよかったのに…」
弱音を吐きながら扉を開く
馴れてきたんだろうか?おそるおそる開くんじゃなく、普通に開いてしまった自分に自分自身で驚いてしまう
今回の部屋は落胆ばかりだった
散乱する怖い栄養ドリンク、右手側の壁に開かれた大穴、そしてそれ以外家具の影すら見当たらない殺風景な景色…
唯「…お化けがいないだけよかったよね!よ~し!このまま頑張って探検しちゃうぞ!」
そう意気込んだ時だった
「…誰かいるのか?」
壁の穴の方から女の子の声が聞こえた
正確には、穴の向こう…隣の部屋からだ
そして、この声には聞き覚えがある!
唯「その声!律ちゃん!」
思わず頬が緩んでしまう
懐かしい声に涙も浮かびそうだ
律「お、唯か!無事だったのか、心配したんだぞ!」
律ちゃんの心配しながらも元気づけてくれる声に安心して穴に近づく
穴からお互いに顔を合わせる
何故だろう、まだ1日も経ってないのに妙に懐かしく思える
律「唯!お前、変なもの見なかったか!?」
律ちゃんは開口一番そう尋ねてきた
私はただ頷いて答える
律ちゃんの言っている変なのは、多分…私も見たアレだろうから
律「やっぱりか…見間違いや幻じゃなかったんだな…壁に書いてあった通りだ…」
唯「壁?」
壁というと…あの白い壁だろうか?
律「ああ、英語で『この街を探検するなら武器を用意しておけ、でないと化け物に襲われるぞ』
って書いてあっただろ?見なかったのか?」
唯「…律ちゃんが頭がいいのが信じられないよ…」
落胆して言うと、律ちゃんは、なんだとー!と怒ったフリをする
懐かしい日常を思い出す…
律「お前、アレからどうやって逃げたんだ?」
私は右手のバットをライトで照らした
律「バットか…じゃあ、私こんなの見つけたからやるよ!」
そう言って手渡されたのは鉄砲だった
片手で撃てる小さなやつで、弾を込めるところが厚切りのレンコンさんのようなやつだ
律「私はもう一つ持ってるからさ!」
そう言って見せてもらった鉄砲は映画でよく見る小さな箱を入れ替えて弾を込める銃だった
唯「ありがとう!でも…使い方が分からないんだけど…」
律ちゃんは「だと思った」と笑いながら弾の込め方を教えてくれた
律「あとは引き金を引くと弾が出るからな。間違えても人に向けたり自分に向けちゃだめだぞ!」
唯「分かってるよ!」
そう、笑顔で返した
律「この後はどうする?化け物がいるんなら私達だけじゃ危ないし、一旦戻るか?」
その言葉に私は首を横に振った
そう、ここにはお化けが出るんだ…だったら…
唯「憂を残しては戻れないよ…私、見つけるまでこの街を探してみる」
次第に小さくなる声でそう答えた
律「そうか…そうだよな!お姉ちゃんなんだ!あんなによくできた妹をほって帰るなんて出来ないよな!」
その言葉にチクリとした痛みを胸に感じながら頷いた
律「じゃあせめて一緒に探さないか?二人だったら一人で探すより確実だし、安心だろ?」
しかし、その言葉にも、首を振って返した
唯「律ちゃんも別々に探して…早く憂を見つけて上げないと…」
そう言いながら、俯いていく
律「そうか…そうだな!早く探して早く帰った方がいいな!じゃあ善は急げだ!
このマンションの探索は任せたぜ!私は街なかを探してみる!」
そう言うと律ちゃんは向こうの部屋の扉に手を掛ける
そして出て行く寸前に「頑張ろうな、お互い」と言って出て行った
静かになってしまった部屋を出る
さっきの壁の穴を使って隣の部屋に移れば地面の穴の向こうに行けそうだけど、律ちゃんは「出て行く」と言って向こうに行ってしまった
なら、向こうが出口なんだから、階段の右側を調べてからじゃないといけない
もらった鉄砲が、早速汗で滑りそうになっているのに気づいて、手の汗をパンツで拭いた
よし、と声を上げて階段に戻ってきた瞬間、心臓が止まりそうになった
リュックの中から砂嵐の音が聞こえてきたのだ
嫌な予感がする…
私は、鉄砲を構えて辺りを照らしてみた
正面からマネキンが一つ、ゆっくり近付いてきていた
よく狙って…引き金を引く!
当たらない!
慌ててもう一度撃ってみた
外れた!
そうしている間にも、頭の壊れてしまっているマネキンが、色のない目でこちらを見ながら迫ってきていた
唯「当たってよぉー!」
叫びながら、目を瞑り、引き金を引いた
炸裂音と一緒に、何かが砕ける音を聞いた気がした
おそるおそる、目を開いてみる
マネキンは、止まっていた
マネキンのお腹が少しだけ割れていた
当たったんだ!
もう一度、今度は落ち着いて撃った
すると今度は胸に当たった
マネキンが胸から砕けて倒れたのを見て、ホッと溜め息が漏れた
唯「…あ…当たった…」
思わず床にへたれ込む
心臓がさっきから暴れっぱなしだ
心なしか胸が痛い気がするくらい
座りこんでいても仕方ない
憂も怖い思いをしているに違いないんだ
そう思い、壁に手をつき、立ち上がる
そして、落としていたハンドライトを掴んだ瞬間、私の手を何かが掴んだ
唯「ヒィッ…あ…ハ…」
視線を掴んだ手の先に向ける
さっき撃ったマネキンが上半身だけで近付いてきていた
気絶しそうになりながら武器になりそうなものを探す
鉄砲…今のでビックリして落としちゃった…バット…どこに置いたっけ…
慌てているうちにマネキンの手が私の首に掛かってきた
苦しい、というより痛い、という感覚が全身を疾る
マネキンの潰れてしまっている顔が目の前にある
割れてしまっているところから中の空洞が見える
空っぽだ…と遠くなった思考で考えている
いつの間にか倒れてしまったのだろう、マネキンの後ろに天井の闇が見えた
その闇が少しずつ、近付いてくるように感じる
唯(憂…)
体から力が抜け始めた
そのとき、ゆびさきにきんぞくしつなかんしょくをかんじた
ゆびさきにいしきをしゅうちゅうしてそのきんぞくをにぎりしめる
てにもったそれをめのまえのあたまにおしあてた
めのまえで、あたまがバラバラになった
唯「…え…ホッ…ガァ…ゴフッゴッホ…」
吐き気と苦しさが頭に戻ってきた
思わず胃から何かを戻しそうだったけど、なんとか押さえ込んだ
ギリギリで鉄砲を掴めてよかった
お化けに殺されるのがこんなに苦しいなんて思いもしなかった
銃は強いけど慣れないとこうなっちゃうんだね…
涙で揺れた視界でゆっくり立ち上がった
荒れた息を整えて、歩き出す
一階の部屋は残り4つ
メモを見てそれを確認すると、扉を一つずつあらためていった
結局、あとの扉は一つも開かなかった
あの壁の穴を超えて、マンションを出るときに、私は思った
唯「結局、手掛かりなかったなぁ…」
マンションを出た私はとりあえず腕時計で時間を確認した
まだ集合時間には余裕があった
もう少しどこかを探索してもいいかもしれない
そう思って顔を上げた瞬間だった
「ぇ…ゃ…ん」
誰かの声が聞こえた気がした
思わず回りを見回す
ハンドライトを片付けたので空いている片手を癖のように視界の方向に向けてしまうことに気付いて苦笑するが、その笑いはすぐに消えてしまった
「お姉ちゃーん…!」
今度ははっきり聞こえたその言葉、声…
私は頭が真っ白になりながら走り出す
唯「憂ー!」
声の聞こえた方に叫び、駆けていく
途中、マネキンのようなものが見えた気もするが、気にしている暇はなかった
そして、その光景を目にした
憂「お姉ちゃん!」
唯「憂!」
憂は見つかった
だが、回りをマネキンが四体囲んでいた
これでは憂を助けられない
憂をマネキンの一体が抱え上げると、どこかに歩いていく
その他のマネキンは一体が憂を抱えたマネキンについて行き、二体はこちらに向き直った
唯「憂…!」
憂のことが頭でいっぱいな私でも、このマネキン達を放って先に行くことが出来ないことは理解できた
鉄砲を構える
今度はライトがないから両手で構えられる
明るいし、距離だってあるから近付かれるより前に撃てる
落ち着いて、マネキンを見据えた
「…」
今度はマネキンの顔が壊れていなかった
代わりなのかは分からないけれど、体に赤い飛沫の後があって、不気味さは衰えていない
そんなマネキンの顔が、笑っているように見えて、私の心臓が強く胸を打った
マネキンが動き出す
落ち着いて一発
しっかり当たってくれた
肩が砕けたマネキンがのけぞって後退る
急いでもう一体に狙いを変えた
息を吸い込み、撃つ
命中
唯「当たる…これならお化けなんて…」
そう喜んだ瞬間だった
マネキンの手に光る何かを見つけた
ナイフだ
折り畳み式のナイフがマネキンの手に握られている
一瞬、何かが頭の中を走った気がした
だが、気にしないでマネキン達を撃っていく
一体が倒れる
もう一体も
だが、私は分かっている
倒れたとしても、生きているかも知れないのだ
唯(お化けが生きている、っていうのも、変かな?)
そう思いながら、リュックから飛び出たバットの柄を掴み、取り出す
唯「えいっ!」
倒れているマネキンにバットを叩きつける
やはり、生きていたようだ
一瞬仰け反るように動いたが、今度こそ完全に動きを止めたようだ
唯「憂…!」
だが、そんな事より今は憂の事が心配だ
憂が連れ去られた方へ走り出す
そして、それを見つけた
やはり、ここなのだろう
マンションと同じように開かれた扉を確認すると、その上に書かれた英語を読む
唯「ほ…すぴた…る…」
走りつづけてもつれそうになる足をゆっくり病院へと向けた
病院の中はやはり暗かった
マンションよりも暗く感じるのは、窓が見当たらないからだろう
正面には両開きの扉
その脇にカウンターがあって、後は左右に道がのびている
私はマンションと同じように地図がないかを探したが、カウンターの奥にあった額にあったであろう見取り図は、空っぽになっていた
もしかしたら、誰かが入った後なのだろうか?
周囲を照らしてみるが、人がいそうな気配はなかった
唯「病院ってなんか…怖い感じがするよね…」
そう独り言を呟きながら入り口から向かって左側に進む事にした
すぐに左手に扉が見えてきたので、早速扉をあけてみる
ノブが回る、その瞬間にリュックの中から砂嵐の音が大きく鳴った
目の前に、看護婦さんが立っていた
だが、看護婦さんの顔が…顔が…焼けただれたようになっている
溶けたように浅黒く変色し、垂れた皮膚
黒一色の眼
埃にまみれた白いナース服…
唯「ヒッ…」
変な息を吸うような声を挙げ、一歩退く
看護婦さんも驚いたように動いていない
我にかえり、鉄砲を掴み、構える
看護婦さんも同時に動き出した
ポケットからメスを取り出し、振りかぶった
メスが振り下ろされる、その寸前、鉄砲から炸裂音が響いた近かった事が幸いして頭に当たってくれた
おかげで看護婦さんはピクリとも動かない
ラジオも何も鳴らない事を確かめて、鉄砲に弾を込めようとリュックのサイドポケットから紙箱を取り出した
だが…
唯「…あ…」
もう弾がないことに気が付いた
残っているのは紙箱から取り出した一発と、鉄砲に込められている五発だけ…
目眩をしそうになりながら鉄砲に一発を込める
左手に持った空っぽの紙箱がむなしい…私はそれを投げ捨てた
そうして改めて室内を見渡してみた
どうやら診察室のようだ
お医者さんが座っているような椅子と机、レントゲンが貼り付けられる白い電灯みたいな板
それに白くて固いベッド…
何かないかな、と引き出しを開けていると、後ろの扉が開かれた
悲鳴を挙げ、鉄砲を掴み、弾が少ない事を思い出してバットを取り出す
だが、扉から入ってきたのは私の友達
紬「あら?唯ちゃん?」
紬ちゃんだった
紬ちゃんは近付いてくると思いきり私を抱き締めてきた
紬「よかった…唯ちゃんが無事で…」
唯「紬ちゃんこそ…よかった…」
友達の無事に、私達は抱きあいながらお互いの肩を濡らしあった
紬「憂ちゃんは見つかった?…って、見つかってたら一緒にいるよね…」
紬ちゃんの疑問に私は少し躊躇いながら首を振った
唯「ううん…見つかったの…でも…お化けに連れて行かれて…」
紬ちゃんの目が見開かれる
紬「え…ここに連れてこられてるの?」
唯「それは分からないけれど…でも、連れて行かれた先に扉が開いたここがあったから、ここかな?って…」
紬ちゃんはそれを聞くと顎に手をあてて考え始めた
私は内心、考える前に憂を探そうよ!と言いたくて仕方なかったが、紬ちゃんが何かを言ってくれるのを待った
そうしてしばらく待っていると、紬ちゃんは落ち着いた様子で言った
紬「ねぇ唯ちゃん、一旦みんなで集まってみんなでこの病院を探索しない?」
一瞬、何を言っているのか分からなくなった
憂が…憂がいなくなったんだよ!?
しかもマネキンに連れ去られて…
唯「そんな…ちょっとでも早く憂を助けてあげないと…」
紬「でも、助ける前に私達だけじゃお化けに負けちゃうかも知れないし…」
紬ちゃんの言っていることは分かるけど、私にはそんな余裕なんてなかった
唯「じゃあ紬ちゃんはみんなを集めてきて!私は一人で先に憂を探してるから!」
紬「唯ちゃん!」
後ろから紬ちゃんの呼び止める声が聞こえたが、私は診察室を後にした
左の廊下の扉は診察室のもの以外は鍵が掛かっていた
だが、異様な鍵が一つ気になった
廊下の突き当たり、そこにあるノブも取っ手もない両開きの扉
横に三角形の絵が書かれたボタンが付いているところからエレベーターだとは思う
でも、その扉はどうやったのか、鎖で雁字搦めにされて開かなくなっていた
エレベーター自体は動いているようなのにコレでは使えない
溜め息を吐いて戻ろうとした瞬間、私の頭に異変が起きた
また頭痛と、サイレンのような幻聴だ
二度目で少しだけ余裕のあったらしい私の目は、それを見た
周囲の光景が変わっていく
壁は赤錆が浮き出し、扉はまるで腐ったかのように崩れ、その下から鉄製の重々しい扉が現れる
地面も同じように、網のようになっていった
そうして頭痛と幻聴が収まる頃には病院の光景は一変していた
天井も網のようになっていて、ずっと上の方からうっすらと光が見える
おかげで、ハンドライトは必要なくなってきた
唯「れんごく…?」
ふと、そんな言葉が頭に流れ込んできた気がした
そして私は、この光景をさっきも見たことがあったのを思い出した
マンションの受付で見たあの光景が頭に蘇る
あの時の恐怖を思い出して、吐き気を催したが、唾を飲み込んで我慢する
そして、ゆっくり歩き出した
目指すのは、診察室
まずは紬ちゃんが無事なのかどうかを確かめないと…
そう思い、廊下を金属の軋む音と一緒に進んでいく
そして、診察室の扉に手を掛けた
そしてノブを回し…しかし、扉は開かない
さっきとは光景が違うから扉を間違えたのだろうか?
私はそう思い、一旦玄関に戻ってきた
その時、玄関の扉がトゲトゲの鉄の紐のようなもので閉ざされているのが見えたが、むしろ都合がいいように思えた
もしこれが幻覚なら、私に逃げ場がないから憂を探すしかなくなるし、現実なら、お化けも憂をここから連れ出せないのだ
そんな事を考えながら改めて診察室を目指す
唯「…やっぱり開かない」
紬ちゃんは無事だろうか?
さっきあんな別れをしたばかりなのに心配になってきた
だが、心配するくらいならここをよく歩こう
まず憂を探さなくてはいけないし、紬ちゃんも見つかるかも知れない
そう思いながら、無意識に先ほど開かなかった扉を開こうとしている自分に気付いた
唯「あれ?さっきここは確かめたのに…私何やって…」
るんだろう、とは続かなかった
扉が開いていた
扉の中は牢屋のようだった
小さな机と赤い色の付いた洗面台、毛布すらない代わりに、手錠と鎖の付いたベッド…
唯「…うわぁ…」
狭いだけじゃなく、雰囲気で既に気が滅入ってきている
ベッドの上に救急箱があったので、包帯と絆創膏だけ貰うことにした
薬だって賞味期間みたいなものがある、と昔テレビでやっていて知っていたからだ
危ない薬品は使わないようにしないとね
他にはなにもなかったので、さっさと部屋から出て行く事にした
他の部屋も入れるようになっていたので見ていくと、奇妙な板があったのでなんとなく持って行く事にした
板には頭を抱えてうずくまる男の人が彫り込まれていた
そして、さっき閉じられていたエレベーターは、さっきと同じように鎖で閉じられていた
錆の浮いた鎖なら壊せそうに見えたが、実際に壊そうとすると全然駄目だった
唯「あとは…向こうだね」
そう呟き、後ろを振り返る
向こうの突き当たりでは大きなプロペラが回っていた
そうして逆側の部屋も調べて回ったが、大体同じような部屋ばかりだった
何かが落ちているわけでもなく、かといってお化けに会うようなこともなかった
そして、最後の扉を開くと
唯「あ、階段だ」
ここだけは薄暗く、階段だというのも、かろうじて扉から漏れた光でそうだと判断できたからに過ぎない
私はリュックから片付けたばかりのハンドライトを取り出して、電源をつけた
そして、なにも考えずに階段を上っていく
踊場に足を掛けた時に気付いた
目の前に、奇妙なものがあった
簡単に例えるなら、『気味の悪い風船』だと思う
上に楕円形のモノがプカプカ浮いていて、それと地面との間には肉っぽい紐が張りつめていた
何も考えずにバットで潰して先に進んだ
階段を上り、二階の扉を開いた
おそらく患者さんの入院用の部屋が並んでいた階層なんだろう、一直線に廊下があり、そこに等間隔に扉があった
一つ一つ確認していく
何もない
何もない
何もない
もしかしたらこの階層にはなにも置かれてないんじゃないだろうか?
本当に憂は病院にいるんだろうか?
不安になりながら扉を開けていくと、またさっきと同じような板があった
今度は一人の男の人がもう一人の男の人を跪いて見上げている絵が彫られていた
私はそれも拾い上げ、また探索を開始した
看護婦さんが倒れる
もうバットを使って殺すことに慣れてきている事に、自分のことだけど怖く思う
躊躇わずに振り下ろし、叩き付け、踏みつけて、殺す
体が勝手に殺して、それを見ている私はなんの感動も恐怖もない
それ自体が怖かった
でも
それを見た瞬間、私は怖さで何も考えられなくなった
網の上を、引きずられる巨大な鉈が鈍い音をたてている
上半身を覆う巨大な鉄の塊、赤く染まったそれは、錆なのか血なのか判別がつかない
そして…その手に持ったボール
ボール?
本当に?
あれは、私を慕ってくれた、可愛い ト モ ダ チ じゃなかっただろうか?
なぜ彼女がここにいるんだろう?
なぜ
首だけになってるんだろう?
私がそれを見付けてしまったのは、二階の最後の部屋を調べ終え、扉をしめた時だった
階段に向かうために右を向いた私の背後に、ナニカが立っている予感がしてしまったのだ
部屋を出る直前に感じた自分への恐怖より遥かに圧倒的な死の予感への恐怖だった
振り向いて、まず最初に気付いたのは振り上げられた巨大な鉈
あまりの恐怖に倒れてしまったのが幸いした
頭のあった場所を振り抜き、鉈は床の金網を突き破った
私は鉈を振り下ろした相手を確かめるために頭を上げ、目が合ってしまった
唯「あず…にゃん?」
驚きの表情のまま固まってしまった、首だけの友達と
呆然としている間に鉈のお化けが鉈を床から抜こうとしていた
私がお化けの頭がある辺りを見ていると、お化けはまた鉈を振り上げた
私は慌てて立ち上がり、後退する
下がりながらも鉄砲を撃った
だが、金属の塊に当たって弾が弾かれている
撃つ、弾かれる
撃つ、弾かれる
撃つ、弾かれる
撃つ、弾かれる
撃つ、弾かれる
カチリ
絶望的な音がした
鉈を引き摺ってお化けが近付いてくる
いつの間にか階段に繋がる扉を追い越して、壁を背負っていた
唯「あ…」
私は殺されるんだ
そう思い、私は座り込んだ
直後、頭痛と幻聴が頭を揺らした
世界が変わってしまった時の逆再生するように世界が戻っていく
お化けはそれを眺めるように上を向き、周りを見回すと、階段に続く扉を開け、走るように去っていった
私は何も考えられずに座り込んだままだった
頭の中では、あずにゃんとの思い出が再生されていた
…どのくらい経っただろうか
意識をはっきり取り戻したときには、さっきの事は夢だったんじゃないだろうか、と思ってしまうくらい時間が経っているような気がした
腕時計を見た時、一瞬時計が狂っているのではないかと疑ってしまった
どうせ病院も探索が終わってしまっているので外に出て確かめることにした
外には、月が浮かんでいた
集合時間は夕方の6時だったのに、今は9時だった
みんな心配してまた解散して探してくれているかもしれないけど一応集合場所に戻ってみる事にした
集合場所は…遊園地の入り口
どれくらい歩いただろうか
遊園地の門が見えるまで30分は歩いた
そこに私はおかしなものを見つけてしまった
階段だった
入り口の前に、四角い穴があり、そこにずっと階段が続いている
唯「なんだろ、これ…」
とりあえず降りてみることにした
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
唯「…長い…疲れた…ハァ…」
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
中略
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン…
唯「つ…着いた…長すぎる…」
ようやく階段の一番下にたどり着き、荒れた息を整えている私の前には、木で出来た簡素な扉があった
唯「この扉…どこに繋がってるんだろ…デ○ズニーランドの地下みたいなものなのかな?」
そう言いながら扉を開こうとするが、扉はまるで張り付けてあるように動かない
『開かない』ではなく、『動かない』のだ
鍵が掛かっているだけならガタガタと揺らす事も出来るのに、それさえ出来ない
唯「あれ…?」
念のために鍵を試したいが、鍵はほとんど拾った場所ですぐに使って…
唯「…あ」
ふと、パンツのポケットに手を入れてみる
金属の固い感触を握りしめ、取り出す
唯「憂のポーチの鍵…」
普通なら開かないだろう
サイレントヒルの探索を始めてすぐに拾った憂のポーチ、それに入っていた鍵がこんな地下の深くにある扉を開くなんて思えない
でも、確かな予感がした
震える手で鍵穴に差し入れる
カチリ
憂の鍵で、扉が開かれていく
その瞬間、私は何か大切な事を忘れている事を思い出した
何を忘れているのかはわからない
だが、私は確かに何かを忘れているんだ
唯「ここは…」
学校のような雰囲気はあった
いや、学校なのだろう
ここは、私が…私達が過ごした学校だった
唯「桜が丘…」
だが、私が知っている桜が丘ではなかった
窓には鉄格子が掛けられ、扉は物々しい金属製になっている
地面には埃が溜まり、周囲は錆で赤い雰囲気を纏っている
唯「なんだか…嫌な感じ…」
だが、私の足は躊躇うことなくある場所に向かっていた
軽音の部室だ
不思議だった
軽音部室の扉だけは、この不気味に変わってしまった学校で、全然変わっていなかったのだ
懐かしさに目と頭が熱くなってきた
だが、私はまだこの気持ちに流されるわけにはいかない
憂を探さなくてはいけないのだ
そう決心し、一気に扉を開け放った
だが、目に入ってきた光景は、全くの不意打ちで、信じられない、状態で、眺めているのが夢のように感じてしまった
目を引いたのは、壁に咲いた花だった
真っ赤なお花
そして、それを咲かせているのは、おっきなナイフのような、あのお化けが持っていた鉈
そして、それが壁に張り付けている
唯「…澪…ちゃん…?」
私は、よろけるように一歩、部室に足を踏み入れた
その足音が響いたと同時に、扉のガラスが割れたような音をたてた
いや、実際割れたのだ
ある、一つの金属の塊が、凄いスピードでぶつかって
「なんで…だよ…」
気付いた
もう自力では座ることも出来なくなってしまった澪ちゃんの足元に、座り込んでいた彼女に
「なんで…いきなり………たんだよ…」
いつも元気で、優しかった彼女が、見たこともない怖い顔で、私を睨んでいる
律ちゃんの手で、鉄砲が向けられていた
律「なんでだよ…唯…お前…友達じゃ…なかったのかよ…!」
律ちゃんは私に鉄砲を向けながら立ち上がった
手をついた壁に、赤い手形がべったりと付いている
唯「え…律…ちゃ」
律「呼ぶなッ!」
言葉が遮られた
何がなんだかわからない…なんで澪ちゃんがこんな事に?い
や、どうして澪ちゃんがここに?なぜ律ちゃんは怒ってるの?
私が何かしたんだろうか?鉄砲で撃たれてしまうようなことを?何をしたの?
考えている間に律ちゃんは落ち着いて来たようだった
律「あぁ…そうか…お前…澪に何か恨みでもってあったんだな?
でも…どんな恨みでも…ここまでしなくてもよかっただろ!」
え…
唯「澪ちゃんを、こうしたのが…私?」
私が澪ちゃんをこんな風にした?
唯「ち、違う!私こんなことしてないよ!」
必死に声をあげて訴える
私は友達にこんなことしない!
大事な、大事な友達なのに!
律「嘘吐くなよ!私の目の前で刺したくせに!…唯なんか…」
一瞬、律ちゃんの顔が伏せられ、すぐに上げられた
律「…コロシテヤル…」
そう言われた直後、私の左手が押されたように感じた
そして、そのすぐ後に熱いような感じが肘の少し下に広がってきた
撃たれたんだ
それを理解した瞬間
私は律ちゃんから背中を向けて逃げ出した
澪ちゃんから背中を向けて逃げ出した
思い出で一杯の、優しい部屋から、
逃げ出した
部屋から走って逃げ出したが、それでも律ちゃんは追いかけてきた
律ちゃんの足は速い
私と律ちゃんの距離が、少しずつ縮まっていく
私は手近な扉を開けると、中に飛び込んだ
教室だったのだろう部屋は、奇妙な光景になっていた
机や椅子があった所に、大きな柱が乱立している
この部屋なら、律ちゃんを混乱させて逃げられるかも知れない
私は柱と柱の間を走って奥に隠れた
そして、律ちゃんの息遣いが教室に入ってくるのを感じた
律「ハァ…ハァ…ッ…ハァ…」
足音がゆっくり進んでくる
私は足を忍ばせながらゆっくり柱の影を移動する
今の律ちゃんは危険だ
私を殺すことに躊躇いなんてないだろう
だったら、戦えなくするか、逃げ切るかしか私には出来ないのだ
ゆっくり、律ちゃんの息遣いから離れる
だが、息遣いは本当に離れているんだろうか?
落ち着いてきて、息が整ったせいで聞き取りにくくなっているだけじゃあないか?
私はそんな不安を抑えながらやっと教室から抜け出た
そして、私の視界は回転した
転んだのだ
足が何かを踏んだ感触を思い、踏んだものを探す
それはすぐに見つかった
弾だった
周りに弾がばらまかれていた
これは…
律「唯…逃げるな…」
後ろから聞こえてきた声が答えだった
逃げればすぐに分かるように、罠が仕掛けられていたんだ…
私は踏んづけてしまった弾を掴み、立ち上がった
逃げなきゃ…
律ちゃんを殺すことなんて出来ない
でも、弾をばらまけるくらい持っている律ちゃんから逃げたり弾切れを起こさせるなんて無理だ…
唯「どうしよう…」
私はまた別の教室に入った
息が止まるかと思った
前の教室は机が柱になっていたが、この教室は、マネキンが首を吊られていた
しかも、不気味なことに、その背中にナイフが突き立てられていた
一瞬吐き気を催したが、ここでまた隠れる事にした
だが、もう、これ以上逃げられはしないだろう
息切れより、疲れより、体が重い…
左手を見る
もう血で真っ赤に染まりきってしまっていた
もう、私にはこれしかないのだろう
そう思い、私はリュックを肩から降ろし、中を漁った
準備を終えた時、教室には律ちゃんの呼吸が入ってきていた
マネキンは吊られているので足元が見える
私は律ちゃんの位置が分かるし、律ちゃんも当然、私の位置を分かっているだろう
体が震えてきている
律ちゃんが怖い
血の抜けた体が寒い
それと、もう一つ、緊張で震えていた
律「唯…覚悟はできたか?」
マネキンの向こうから律ちゃんの声が聞こえてきた
どうやら、マネキンとマネキンの間を通り、教室の一番奥の私のところまで一直線に向かってきているようだ
良かった…これならお互いが見えるときにはすぐ近くだ…
お互いの顔がよく見えるくらい…
そう思い、笑いを浮かべた
律「最後にもう一回だけ訊いてやる…なんで澪を殺したんだ…?」
律ちゃんがまた、そう訊いてきた
唯「私は、澪ちゃ、んを殺し、てなんか、ないよ…」
そう答えるしかない
私は、本当に殺してなんかいないのだから
律「まだそんな…もういいよ、唯…もう、終わりにしような…」
そう言いながら律ちゃんが近づいてきた
私達を遮るマネキンは残り一つ
律ちゃんがそれを押しのけてこちらに銃口を
向ける前に、私が引き金を引いた
けど…
律「っと…」
律ちゃんはそれを簡単に避けた
いや、避けたというより、予測していたんだろう
マネキンを押しのけた後、自分もマネキンと同じ方向に動いていた
だから、本来律ちゃんがいた場所を撃っても当たらないんだ
律「そうだよな…唯はこう、まっすぐな奴だからな…そうすると思」
唯「ウアアアァァァァァァァァァァァッ!」
私は、右手に持った鉄砲を捨てると、左手にかろうじて持たせていたバットを掴み、マネキン越しに律ちゃんを殴った
律ちゃんが倒れるのが見えた
私はそのまま律ちゃんにのしかかり、バットの柄で頭を殴り続けた
そして、どのくらい律ちゃんを殴ったか分からなくなった時、私の視界は暗転した
――――――――――
夢を見ていた
憂と一緒に過ごしていた頃の夢だ
憂はいつも誉められていた
料理が出来た
掃除が上手だった
頭だって良かったし
お姉ちゃんから見たって可愛かった
いや、お姉ちゃんでなかったとしても、かな?
とにかく、私の自慢の、可愛い妹だった
全てが、私より出来た、妹だった
場面が変わった
澪ちゃんが刺されていたあの光景だった
…澪ちゃん?
違う
刺されているのは澪ちゃんじゃなかった
…憂…
口から血を吐き出しながら眉を寄せて苦しそうにしている
こんな光景、私は…知らないよ?
――――――――――
ゆっくりと、視界が戻ってくるような気がする
遠くから、自分の視界が近づいている、の方が感覚としては近いかもしれない
私は、生きているのかな?
天国だったらいいんだけど…律ちゃんをあんなに殴っちゃったし、地獄なのかな…
視界の先は赤黒い壁…いや、天井だった
どこかに寝かされているみたい
「目が覚めた?」
声が聞こえた
声の聞こえた方に頭を向ける
紬ちゃんがいた
優しい笑顔を向けていてくれる
律ちゃんの形相と殺意を思い出して、体が震えたが、紬ちゃんが手を握ってくれたからすぐに収まった
紬ちゃんは私を殺そうとしないだろうか?
一瞬不安に思ったが、次の言葉で安心させられた
紬「辛かったわね、唯ちゃん」
紬「助けてあげられなくて、ごめんなさい」
そう言って頭を下げた紬ちゃんに、私は慌てて言葉を返した
唯「ううん、大丈夫だよ、紬ちゃん。私こそ、心配かけてごめんね?」
私はそう言い体を起こした
左手に鋭い痛みが走り、思わず右手で押さえるが、腕の痛みは引かなかった
紬「大丈夫?一応消毒と包帯を巻く事はしたんだけど…」
紬ちゃんに頷いて大丈夫という事を知らせる
声を出すと、痛みか悲しみで声が震えてしまいそうだったから
紬「…大丈夫ならいいけど…」
しばらく、静かな時間が続いた
周りを見てみると、どうやらここは保健室だったところらしい
ベッドやカーテンも赤黒く変色してしまっているけど、教室と比べるとまともに見えた
紬「ねぇ、唯ちゃん…」
唯「なぁに?紬ちゃん」
急に紬ちゃんが話しかけて来たので驚きながら応える
その時に見た紬ちゃんの顔は、不安になるほど青ざめて見えた
紬ちゃん「…律ちゃんと、なにかあったの?」
私は迷ってしまった
本当のことを包み隠さず言うべきか
それとも、嘘を吐くべきか
だけど…
紬「大丈夫…本当のことを、話して?」
私は、紬ちゃんの目を一度見た
紬ちゃんも私の目をしっかり見てくれた
私は、軽音部室であった事から、律ちゃんから逃げた事、そして…
唯「そうだ…紬ちゃん、律ちゃんはどうしたの?」
紬「…その…」
唯「あ…」
私はその反応で分かってしまった
最後に見た律ちゃんの頭が変に歪んで見えていたのは私の視界がおかしかったんじゃなく、ただ、本当に歪んでいたんだと、分かった
唯「あ、ううん…あとは、私は気絶しちゃって…ムギちゃんが助けてくれたんだよね?」
ムギちゃんはゆっくり頷いた
また、静かになってしまった
私達は、どうしてこうなってしまったんだろう…
ゆっくりベッドから立ち上がり、保健室の中をゆっくり歩いてみた
普通に歩ける
これなら、また憂を探しにいけるだろう
そう思った時、後ろから、何かが割れたような、でもどこか鈍い音がした
私は嫌な予感を抱きながら、ゆっくり振り返って、それを、見た
ムギちゃんが、眠っていた
右手には、私が今まで使っていた鉄砲があった
私は、ゆっくりムギちゃんに近づくと、起こさないように、気を付けて、鉄砲を返してもらった
そして、多分律ちゃんが持っていたと思う銀色に光る弾が机の上に置かれているのを見て、それを拾うと、そっと、保健室を後にした
階段を上り、また、私は戻ってきた
目の前には、軽音部室の扉がある
さっき、律ちゃんが割ったはずのガラスが、今は綺麗になっていた
私の頭には、さっきから幻聴が響いている
最初は、サイレンのように聞こえていた
でも、今は違った
これは…私達の、音楽
私達の会話
私達の日常だった
扉を開く
中は、真っ白な部屋に、真っ白な椅子が置いてあるだけだった
部屋とは思ったが、これは、本当は部屋ではないのかもしれない
だって…壁が、どこまでいっても見あたらないから
私は、椅子に座った
――――――――――
映画のようだった
いや…映画なんだ
これは、私の人生の映画
いつもと同じ風景
いつもと同じ会話
いつもと同じ笑顔
だが、その日が来て、一変した
唯「みんな…!」
私は軽音部室に駆け込んだ
この日は、私は憂と約束があったから先に家に帰っていたから、学校なのに私服だったんだ
律「あれ?どうしたんだ唯?」
澪「憂と買い物に行くんじゃなかったのか?」
紬「なんだか急いでいるみたいだけど…」
梓「唯先輩、なんか顔色が変ですよ?大丈夫ですか?」
そして、私は思い出した
唯「憂が…誘拐されちゃった…」
そこから先は早送りされているようにすぐに過ぎていった
みんなは警察に通報するように言ったが、私は通報したら殺す、という決まり文句にすっかり怯えてしまっていた
そして、ムギちゃんから一生を賭けて返すと約束して、お金を借りて、誘拐犯にお金を引き渡した
だが、ムギちゃんにも、そんな急に大金が用意できるはずもなく、中身はほとんどが新聞紙を切っただけの紙切れだった
でも、それを入れた鞄に、発信機を入れてくれていたから、追い掛けて憂を助けようとしたんだ…
――――――――――
白かった部屋は、いつの間にか、真っ黒になっていた
そして、座っている私の正面には、あの鉈のお化けが立っていた
「―――」
唯「それで…そうだ、憂が人質にとられたんだ」
「―――」
唯「でも、まだ私だけは…犯人の後ろにいた私だけは助けられたんだ…」
「―――」
唯「でも、助けようと思ったときに、思い出しちゃったんだ…」
憂ばかりが誉められた
憂ばかりが可愛がられた
いつも比較されていた
私は
憂を
見殺しにした
病院についた時、私は後悔や、自己嫌悪でいっぱいだった
みんなは私を慰めてくれたけど、私には気休めにすらならなかった
しばらく経って、警察の人が私に手紙を持ってきた
憂は、誘拐犯に捕まっていた時も、手紙を書くくらいの身動きは出来たみたいで、書き残してくれていたらしい
手紙を見ている人へ
私が無事に解放されていたらこの手紙は捨ててください
お姉ちゃんへ
この手紙を見ているとき私は死んでいるのかもしれません
でも私はお姉ちゃんのことを恨んでなんかいません
私はたとえ何があってもお姉ちゃんのことが大好きです
それだけはどうしても伝えたかったんです
だからどうか助けられなかったことを後悔しないでください
私はお姉ちゃんに後悔なんてしてほしくありません
だから代わりに誇りに思ってください
私は妹のために必死になれる優しいお姉ちゃんなんだって
でももしかしたら伝える機会がもうないかもしれないので念のために手紙にしておきます
でも手紙じゃなくて自分で伝えられたらいいな
お姉ちゃん
私はずっとお姉ちゃんの妹だったことをうれしく思っています
もし生まれ変われるとしても私はお姉ちゃんの妹がいいな
「―――」
唯「………」
立ち上がる
私は、このお化けを殺さなければいけない
これは、私の劣等感と、罪悪感、嫉妬の形だから
私は、このれんごくの処刑人を殺さなければいけない
「―――ッ!」
唯「―――ッ!」
私達は叫んだ
鉄砲を取り出しながら走って距離をとった
さっきまではなかった壁が出来ていた
駆け寄った壁の反対には壇があった
多分、あれが処刑台なんだろう
そう思いながら、私はお化けに鉄砲を撃った
鈍い金属音がする
やっぱり、これじゃ勝てないや
そう考え、でもこの場所のことを考えていた私には、ある戦い方が浮かんでいた
そして、私はお化けに回り込むように走り出す
そして、私はお化けが近付くのを待った
まだだね
まだだよ
もう少し…
今だ!
鉄砲から飛び出した弾はお化けに向かう
でも、狙っているのは頭や体じゃない
足だ
でも、私は知っている
お化けは、マネキンもそうだったし、きっととっても我慢強い
足が撃たれても、歩いてくる
でも
お化けは倒れた
処刑台に足を引っかけたんだ
普通なら乗り越えて来たんだろうけど、怪我をした足じゃ躓いちゃうみたいだね
でも、これだけじゃ殺せない
だから…
唯「えい!」
鉈を持った手を撃った
お化けの手から鉈が離れた
私はそれに飛び付いた
重かった
こんなのを持って歩けるなんて、お化けはすごいって、素直に思った
でも、お化けに持てたんなら私にだって持てるはず
そう思い、必死に持ち上げた
お化けの方を見てみると、頭の金属の塊が重いのか、立ち上がるのに苦労していた
私はゆっくりと処刑台に上り、鉈を…
振り下ろした
錆びた金属同士がぶつかり合って鳥肌が立つような音が処刑場に響いた
そして…
金属の塊が、割れた
お化けの顔は見なくても分かっていた
だって、私の劣等感や罪悪感、嫉妬なんだもん
私自身じゃないと、おかしいよね?
動かなくなった『お化け』(私)の胸に、鉈を突き刺した
これは、この鉈は、誘拐犯が持っていたナイフだから、憂みたいに、刺されないと駄目なんだよね
そう思っていると、『お化け』(私)が板を差し出してきた
血に濡れて、真っ赤になっちゃった板
私はそれを受け取ると、処刑台に座り込んだ
あぁ…疲れた…
気が付くと、私はサイレントヒルの街中…車から降りて、最初に探索を始めた場所に立っていた
最初と違うのは、空には太陽の光の代わりに月の光があることだけだった
腕の中には三枚の板
目の前には…憂
憂「お姉ちゃん」
唯「うん…」
憂「帰ろっか」
唯「うん…」
憂「帰り方、分かる?」
唯「うん…」
頷き、憂に背を向ける
板を地面に重ねて置く
握った鉄砲には、銀色に光る弾が一発だけ
唯「憂」
憂「…うん」
唯「大好き」
引き金を引く
板の真ん中に穴が開き、そこから少しずつ、燃えてもいないのに炭になって、灰になっていく
強い風が吹いた
思わず目を瞑る
目を開いた時には、もう何も遺っていなかった
後ろ、道の先からサイレンが聞こえてきた
今度は、幻聴じゃない
迎えの、音だ
END
335 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 04:34:54.40 ID:+gAFgrosOふ
む…終わったな…
いろいろ説明してない部分あるからわからないところは訊いてくれれば応えるよ
まぁ、説明聞かずに推測して楽しむってやり方もあるけどな
336 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 04:39:09.41 ID:JrMWE3kSO
乙
唯が罪悪感から裏世界に呼ばれたのは分かるが
なんで唯は澪と紬を殺した?必要がなかったように思うんだが
337 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 04:41:17.61 ID:JrMWE3kSO
あと板は何なんや
339 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 04:42:09.53 ID:+gAFgrosOけ
いおん部皆殺しは部員に対する劣等感からの嫉妬により殺された
まぁ、実際には誰一人死人は出てないけどな
頭を抱える男→罪悪感
跪き、男を見上げる男→嫉妬
真っ赤に濡れた板(何が彫られていたかは不明)→劣等感
あと、実は俺、サイレントヒル未プレイなんだよな…
340 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 05:08:07.80 ID:JrMWE3kSO
>>339
なるほど
そう考えるときれいな終わり方だね
てか誰も死んでないのかw
全員幻覚かい
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72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 03:18:39.52 ID:nic/5ltUO
唯「…あれ?」
ベッドの上に不思議な…蒼光りする石が落ちていた
綺麗なのでなんとなく持って行ってみよう
唯「綺麗な石だから憂も見たら喜んでくれるかな?」
久しぶりに感じる口元の笑みを手で抑え、目覚めた部屋から出て行った
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 03:36:42.33 ID:nic/5ltUO
蒼光りする石をふと、掲げてみた
廊下にポツポツとある窓から入る光が反射してとても綺麗だ…
唯「…帰りたいな…」
ふと、そう漏らした時、石が輝きだした!
あまりの目映さに目が眩む!
光が落ち着き、正面を見てみると、外国人風の男と、テレビでよく見た目が大きく、体が華奢で小さな宇宙人が立っていた!
男「君かね?ここから出たいと思ったのは?」
唯「は、はい…」
男「やってくれ」
そう男の人が言った瞬間、宇宙人の光線銃が私をビビビと撃ち抜いた!
宇宙人に連れ去られた唯の行方は、誰も分からなかった…
という冗句
222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 02:01:35.52 ID:9h5gTQN9O
…どのくらい経っただろうか
意識をはっきり取り戻したときには、さっきの事は夢だったんじゃないだろうか、と思ってしまうくらい時間が経っているような気がした
腕時計を見た時、一瞬時計が狂っているのではないかと疑ってしまった
どうせ病院も探索が終わってしまっているので外に出て確かめることにした
外には、月が浮かんでいた
239 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 03:06:07.43 ID:9h5gTQN9O
>>222から分岐
ふと、玄関の正面にある両開きの扉を調べていない事に気付いた
唯「これは…なんなんだろ?」
その時、リュックから蒼い光が漏れ出している事に気付いた
何事かと思い、リュックを調べてみると、マンションで拾った蒼い石が発光していた
唯「わぁ…綺麗…」
その瞬間、目の前の扉が一気に開けられた
眩しい!
扉の向こうは強烈な光で一杯で、とても目を開けていられない…!
そこに、男の人の声で何か話しかけられた
「君、この街で小さな女の子を見なかったかい?」
訊きたいのはこちらだったが、おとなしく首を振って否定した
「そうか…だったら構わない…」
VIVIVIVIVIー!
その瞬間、全身を熱いものが駆け巡った!
それを感じた瞬間、私は気を失った…
その日、サイレントヒルで未確認飛行物体が観測されたが、同時に、ある少女が行方不明になった事は知られていない…
END
273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 22:28:18.41 ID:9h5gTQN9O
仕事中思いついたくだらないノリ
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
メン…
唯「ッ!?」
274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 22:33:09.43 ID:9h5gTQN9O
TAKE2
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
ウン、タン…♪
唯「ッ!?…ッ!?」
唯「サイレントヒル…ここに憂がいるんだね…」
丘にある公園で私たちは話していた
ここはサイレントヒル
アメリカにある小さな街…の廃墟だ
紬ちゃんの誘いでアメリカに旅行に来た私たちだが、旅行3日目の朝、一緒に来た憂が手紙を残して姿を消しているのに気付いた
手紙には『サイレントヒルに行ってきます』
とだけ書かれていた
梓「憂…なんでわざわざこんな気味の悪いところに来たんだろ…?」
手紙を見つけた私は紬ちゃんにサイレントヒルについて訊いてみた
昔、大きな火事があって放置されているゴーストタウン…廃墟らしい
しかもゴーストタウンの意味は二重みたいで、本当にお化けがでるとかなんとか…
そんなところに憂が一人で行くなんて信じられなかった私は、みんなにお願いして探しに来させてもらった
唯「分からないけど…でも手紙にはここが書いてあったんだし、ここに来たかったんじゃないかな?」
丘の上の公園からはサイレントヒルを見渡せる
大きな湖の隣に作られた、寂れたアメリカの街、それが私にとっての第一印象だった
紬「でもここ、結構広いみたいですよ?闇雲に探しても見つからないんじゃ…」
紬ちゃんの言うとおり、この街はかなり広いみたいだ
見えるだけでも広いし、霧があるから遠くまで見えない
探すのは大変そうだ
律「じゃあ手分けして探すか?集合場所と時間決めておけば私達の入れ違いはないだろ?」
律ちゃんが提案してくれた方法を使って探す事にした
澪ちゃんは怖がって紬ちゃんの別荘に戻って憂からの連絡や…戻って来た時の連絡をする係に決まった
そして、みんなバラバラにこの街を探索し始めた…
律「じゃあ唯はここら辺を探すんだな?」
唯「うん」
車から降りた私は窓から顔を出す律ちゃんにそう応えた
律「唯、顔色なんかおかしいけど大丈夫か…?」
顔色がおかしい?
それは多分…
唯「憂が心配で…」
律ちゃんの顔色が曇る
律ちゃんは明るいだけじゃなくてこういう優しいところもあるから好きだな
きっとこの後は…
律「…元気出せよ!憂はすぐに見つかるって!私達も探すんだから!」
やっぱり、励ましてくれた
車の中のみんなも頷いてくれる
みんな、ありがとう
車が去って行くのを見つめ、霧にその姿が隠された頃、私は周りを見渡した
霧で道路越しの景色すら怪しいけれど、周りの様子は一応わかる
ここは交差点
渡された地図を見ると、ちょうど東西南北に大きな道が伸びているようだ
唯「うーん…どっちから探そうかな?」
私はとりあえず、西側に向かうことにした
霧で遠くが見えないから車道の真ん中を歩いて、両側の歩道に注意を向けて歩いていった
しばらく歩くと、突然白い壁が道路を塞いでいた
唯「外国の道路ってこんな風になってたりもするんだー」
私は興味を抱き、壁に近づいた
すると、壁に何か書いてある事に気が付いた
唯「…?なんて書いてあるんだろ?英語読めないや」
苦笑しながら私はその文章を読んでみた
唯「いふ…ゆー、うぃる…せあち?さーち?かな?しれんとひっる…?うーん…うぇぽん?…と…もんすたー?わかんないや…」
分かったのは、武器とお化けがどうした、って書いてあることだけだった
後ろで音がした
何かが軋むような音
私は、憂かと期待を込めて振り向いた
唯「憂!?」
しかし、そこには誰もいなかった
そう、誰もいなかった
だが、そこに、マネキンなんて、落ちて、いた…?
マネキンに近付く
こんなマネキンは、通った時に落ちていだだろうか?
見落としていたのだろうか?
足元にある関節の砕けたマネキン
その手に、見覚えのあるものが引っかかっていた
唯「これ…」
それの紐を掴み、持ち上げてみた
唯「憂の…」
見覚えがあった
そこから財布や、携帯電話を取り出す姿を見ていた
唯「ポーチ」
ポーチの中身を見てみる
だが、何も入っていない
唯「空っぽ…憂…!」
よくない想像が頭を過ぎる
日本にいたときによく聞いた話だった
強盗
唯「…ううん!憂なら大丈夫だよ!賢いし、頭もいいし、かわいいし!」
私は動揺しながらも憂は大丈夫と安心したくて、とりあえず憂を誉めた
こんなによくできた妹が強盗なんかに捕まるわけが…
瞬間、血を吐いて倒れる憂の姿が脳裏に浮かぶ
唯「…憂ーーーーーッ!」
叫びは、街に吸い込まれて消えてしまった
唯「…あ、焦っても…し、しょうが…ないよね…」
そう言いながらリュックからペットボトルを取り出して、水を飲む
少し、落ち着く
唯「ようし、憂の手掛かりはっけーん!この近くにいるのかな?」
そう元気を出すように声を搾り出しながら辺りを見渡す
その時に気付いた
左手―地図を頭に浮かべて確認すると、北だった―にある建物の扉が開いていた
唯「…扉の開いた建物の前にポーチが落ちている…怪しいな、ワトソン君?」
私はそんな冗談を言いながら建物に近づいた
唯「まん…しおん?マンション!」
私はかろうじてそう読めた建物の表札(なのかな?)を確認して、暗い建物の中に入っていった
入り口に掛けられた見取り図をメモ帳に書き写していざ、探検!
という時に気付いた
建物の中が真っ暗で、遠くどころか近くでさえ見えない
唯「ありゃ…どうしよう…ライトなんてないよね…」
そう言いながらリュックの中を見てみる
携帯電話の充電器、カロリーメイトが2つ、ピックが3つ、水の入ったペットボトル、そして、憂の手紙とポーチ…
唯「うーん…なんにもないや…そうだ!携帯のライト機能があるじゃん!」
私の頭の機転を誉めながらポケットから携帯電話を取り出す
でも…
唯「あ、そっか…充電出来なくて電池が切れちゃったんだっけ…」
アメリカのコンセントと日本のコンセントは形が違って使えない、という事を知らなかった私達は、携帯電話の充電が出来なくてみんな切れてしまっていたのだった…
唯「どうしよう…」
そう言ってふと横を見ると、受付の窓の内側に大きなハンドライトがあるのを見つけた
受付の扉は幸い、入り口に近かったから外の光で中までしっかり見える
内開きの扉のノブを回してみると、よかった、開いていた
後はハンドライトの灯りが点いてくれれば…
そう思い、後ろ手に扉を閉めた瞬間の事だった
唯「…ッ!?…あ…つぅ…」
酷い、頭の内側を殴りつけられているような頭痛と、強烈なサイレンのような音が響いた…
あまりの激痛と騒音に頭を抱え、しゃがみ込む
目を瞑り、早く収まってと祈りながら、しばらくの時間固まっていた
どれほどの時間を耐えていたのだろうか?
気が付いてみると、頭痛も騒音も鎮まっていた
手をカウンターに置き立ち上がろうとした時に、ようやく異常に気が付いた
カウンターがザラザラとしたもので覆われている
それにひんやりとした金属のような感触…
外から見た時は木で出来ていたはずなのに
唯(…おかしいな?気のせいなのかな?)
立ち上がり、ライトを手にして、電源を入れる
すると、大きさに比べて少し頼りない灯りがマンションの狭いエントランスを小窓越しに照らした
唯「なんだ…ちゃんと…点」
何かが小窓の前をすごいスピードで通り過ぎた
唯「…」
唯「」
唯「」
唯「」
扉…ガタガタしてる…
…いや…呆然としてる場合じゃ…ない!?
どうしよう!今一瞬何か見えた気がするけど何かよくない何かだったと思う!
とにかく鍵を…
唯「そうだ、内鍵をかけよう!」
扉の前に立ち、ドアノブに付いた鍵を回そうとする
錆び付いているのか、手が震えているのか、二度、三度と失敗しながらなんとか鍵を掛け終わる
そして見てしまった
先ほどまで普通の扉だったはずが…
いつの間にか格子戸に変わっていた
そして、その向こうの
顔が潰れてしまったマネキンの上半身が2つくっ付いたナニカが、格子をつかんで、揺らしていた
思わず腰が抜け、へたり込んでいた
目の前には潰れた顔でこちらを見つめる2対の目
恐怖に竦んでしまった体は悲鳴を上げることすらできない
ただ、座り込み、喉がひくつくのを感じながら気絶した
目を覚ました時、真っ暗な視界に混乱したが、手に掴んでいたハンドライトを点けると少し落ち着いた
そして気絶する寸前の光景を思い出し、辺りを慌てて照らし出す
右
誰もいない
左
何もいない
後ろ
なんの気配もない
何もいない事を確認すると、口から溜め息が漏れた
アレは…なんだったんだろう…?
思い出すのは怖かったが、思い出さずにいられるほど衝撃は小さくはなかった
ふと、白い壁に書き込まれた英語を思い出す
唯「モンスターって…あれの事なのかな…だよね…?」
リュックから憂のポーチを取り出して、抱きしめる
唯「憂…どこにいるの…?」
目尻から、雫がこぼれた
すると、手の中のポーチに固い何かが入っているのに気付いた
慌てて中を見るが、何も入っていない
そして気付いた
ポーチに、サイドポケットがある事に
そこに
唯「鍵…とメモ…?手紙…?」
涙に揺れる視界の中で震える手を必死に使い、折られたメモを広げた
『コレを見ている誰かへ
お願いがあります。この手紙を私の大切なお姉ちゃんに届けてください
お姉ちゃんへ
私は、たとえ お姉ちゃんの事が大好きです
それだけはどうしても伝えたかったんです
だから、どうか私のこ』
読んでいる最中だった
手紙が下の方から少しずつ燃えて灰になっていく
火の確かな熱さを感じて思わず憂からの手紙を落としてしまった
唯「あ…ああぁ…!」
気付いて火を消そうと踏みつけ始めた時には遅かった
もう手紙は読めないほどに燃え尽きてしまっていた
呆然としてしまう
唯「憂…まるで…死ぬみたいな…」
頭を振り、最悪の想像を振り払う
慌てて立ち上がり、改めて周囲を見渡す
唯「さっきみたいなお化けがいたら…戦わなくちゃ…!」
そして見渡して気付いた
唯「あれ…ここ…どこ?」
気絶する前にいた受付ではない
どこかの別の部屋のようだ
倒れたタンス、ガラスの割れたサイドボードや食器棚、端に寄せられたテーブル…
唯「誰かの部屋?」
だが、使われなくなって長いのだろう
周囲は散乱し、とても生活感は感じられない
割れたガラスを踏みつけながら部屋を探し回っていると、奥に別の部屋に繋がっているのだろう扉があった
おそるおそる開き、ライトを隙間から差し込み、中を覗いてみる
どうやらなにもいないようだ
そして、その部屋で木製のバットを見つけた
以前はいたであろう住人のものだろうか?
手にして床を思い切り叩いてみる
鈍い音と固い衝撃を感じる
どうやら武器として使えそうだ
唯「…あれ?」
ベッドの上に不思議な…蒼光りする石が落ちていた
綺麗なのでなんとなく持って行ってみよう
唯「綺麗な石だから憂も見たら喜んでくれるかな?」
久しぶりに感じる口元の笑みを手で抑え、目覚めた部屋から出て行った
廊下に出た私は、注意深く周囲を照らした
さすがに霧は入ってきてはいないけど、ライトの灯りでは周りを完全には見渡せない
唯「どこかで電気をつけれたら、明るくなるんだろうけど…」
そう言いながら左に進んでいった
確か、壁に左手をあてながら進めば迷わない、と誰かが言っていた気がする
曖昧な記憶の助言を頼りに、探検を開始した
だが、ほとんどの部屋に鍵を掛けられていたので調べられなかった
憂のポーチから見つかった鍵には何も書いていなかったからどこで使うものなのかも分からない
閉まっていた扉に毎回差しこもうとはしてみたけど、どの扉にも合わなかった
唯「憂~!どこ~?」
大声を出して憂を呼んでみる
あんなお化けのいる場所に憂がいるなんて心配で仕方なかった
結局、精一杯探し回ってみたけど、マンションの二階は結局何もなかった
途中で見つけた階段を下りる事にした
唯「…?」
階段の踊場に着いた時だった
テレビの砂嵐のような音が聞こえるのに気付いた
どこから聞こえるんだろう?
唯「…あ、ラジオだ」
足元、階段の手すりの影にラジオが置いてあった
砂嵐のような音はこれから聞こえている
唯「なんだろ、これ…」
しゃがみ込み、ラジオの取っ手を掴み上げてみる
砂嵐の音が徐々に大きくなっている気がした
その時、階段の下に気配を感じて急いでラジオを置き、バットを持つと、ライトを気配の方に向けた
唯「…誰?誰か…いるの?憂?」
声と同じように震える足をそっと階段に踏み出させる
階段の下にはバケツが落ちていた
朽ちてはいるけど、錆びてはいない金属製のバケツ
それを、誰かが蹴った
唯「…ッ…!」
今度は腰は抜けなかった
でも、恐怖に竦んではいた
今すぐ後ろを向いて走って逃げたかった
だけど
唯「憂を…探すんだから…私が憂のお姉ちゃんなんだから…」
ゆっくり、足元を確かめるように階段を下りていく
今度はただの頭のないマネキンのようだった
まるで糸で操られているマネキンの映像を、早送りしているみたいな違和感のある動き方で近づいてくる
唯「き…気持ち悪い…!」
そう口に出し、目を瞑りながら嫌悪感を力に変えるようにバットを振り下ろした
固いものを叩いた確かな感触が手に伝わる
ゆっくりと、目を開いてみる
マネキンは、腕を上げてバットから体を守っていた
壊れてしまった右手をだらりと下ろし、左手でこちらの二の腕を掴んできた
「」
マネキンは左手でこちらを掴みながら頭のあったであろう場所を近付けてくる
唯「い…嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
気持ち悪い、怖い、いろんな気持ちが混ざり合って私を襲う
体を必死に捩らせてマネキンの手を振りほどく
そして手に持ったバットを力一杯振り下ろす
振り下ろす
振り下ろす
…
どのくらい経ったのだろうか
気が付けば目の前には砕けたマネキン『だったモノ』が落ちている
肩で息をしている私と、動かなくなったマネキンだけが、この廊下にいる
静かだった
落ち着いてくると自分の呼吸の音も聞こえるようになった
だが、なにかがおかしい気がする
唯「ハァ…ハァ…ッ…ハァ…?」
階段に振り返る
砂嵐の音が聞こえなくなっている
私は胸の動悸に手をあてつつ、階段を上ってみた
…あった
ラジオだ
だが、さっきとは打って変わって、全くの無音だった
電池が切れたのだろうか?
そう思い、ラジオのバッテリーの蓋を開けてみた
空っぽだった
私は、不思議なラジオを持って行く事にした
階段を改めて下りて回りを見回す
窓からは道路がとマンションを挟む柵が見える
先ほどと同じように左に曲がる
一つ目の扉
開いた
ライトをゆっくり差し入れ、中を覗く
ハイジのお爺さんが座っていそうな椅子が倒れている
中に入ってみる
中は最初にいた部屋と同じような間取りだった
部屋の奥に進むといろいろな物が落ちていた
小さな瓶詰めのドリンク…栄養ドリンクだろうか?
赤錆た鍵も見つけた
なにより驚いたのは赤と白の小さな紙箱だった
唯「わ!弾だ!鉄砲の弾!」
金属でできた座薬みたいな形の塊がたくさん入っていた
お化けがいる場所だから何かに使えるかもしれない
鍵と弾を持って行く事にした
ドリンク?賞味期間が怖いから置いていった
部屋を出て、二つ目の扉に向かう
すると、二つ目の扉のすぐ近くの床に大きな穴が開いていた
大体4mくらいだろうか…これじゃあ三つ目より向こうの扉が開けられない
少し落胆し、同時に安心もしながら横を向く
二つ目の扉のノブを掴む
回らない
鍵が掛かっているようだ
憂の鍵を試してみる
開かない
さっき拾った鍵を使ってみる
カチリ、と、小気味よい感触と音が返ってきた
唯「開いちゃった…開かなければよかったのに…」
弱音を吐きながら扉を開く
馴れてきたんだろうか?おそるおそる開くんじゃなく、普通に開いてしまった自分に自分自身で驚いてしまう
今回の部屋は落胆ばかりだった
散乱する怖い栄養ドリンク、右手側の壁に開かれた大穴、そしてそれ以外家具の影すら見当たらない殺風景な景色…
唯「…お化けがいないだけよかったよね!よ~し!このまま頑張って探検しちゃうぞ!」
そう意気込んだ時だった
「…誰かいるのか?」
壁の穴の方から女の子の声が聞こえた
正確には、穴の向こう…隣の部屋からだ
そして、この声には聞き覚えがある!
唯「その声!律ちゃん!」
思わず頬が緩んでしまう
懐かしい声に涙も浮かびそうだ
律「お、唯か!無事だったのか、心配したんだぞ!」
律ちゃんの心配しながらも元気づけてくれる声に安心して穴に近づく
穴からお互いに顔を合わせる
何故だろう、まだ1日も経ってないのに妙に懐かしく思える
律「唯!お前、変なもの見なかったか!?」
律ちゃんは開口一番そう尋ねてきた
私はただ頷いて答える
律ちゃんの言っている変なのは、多分…私も見たアレだろうから
律「やっぱりか…見間違いや幻じゃなかったんだな…壁に書いてあった通りだ…」
唯「壁?」
壁というと…あの白い壁だろうか?
律「ああ、英語で『この街を探検するなら武器を用意しておけ、でないと化け物に襲われるぞ』
って書いてあっただろ?見なかったのか?」
唯「…律ちゃんが頭がいいのが信じられないよ…」
落胆して言うと、律ちゃんは、なんだとー!と怒ったフリをする
懐かしい日常を思い出す…
律「お前、アレからどうやって逃げたんだ?」
私は右手のバットをライトで照らした
律「バットか…じゃあ、私こんなの見つけたからやるよ!」
そう言って手渡されたのは鉄砲だった
片手で撃てる小さなやつで、弾を込めるところが厚切りのレンコンさんのようなやつだ
律「私はもう一つ持ってるからさ!」
そう言って見せてもらった鉄砲は映画でよく見る小さな箱を入れ替えて弾を込める銃だった
唯「ありがとう!でも…使い方が分からないんだけど…」
律ちゃんは「だと思った」と笑いながら弾の込め方を教えてくれた
律「あとは引き金を引くと弾が出るからな。間違えても人に向けたり自分に向けちゃだめだぞ!」
唯「分かってるよ!」
そう、笑顔で返した
律「この後はどうする?化け物がいるんなら私達だけじゃ危ないし、一旦戻るか?」
その言葉に私は首を横に振った
そう、ここにはお化けが出るんだ…だったら…
唯「憂を残しては戻れないよ…私、見つけるまでこの街を探してみる」
次第に小さくなる声でそう答えた
律「そうか…そうだよな!お姉ちゃんなんだ!あんなによくできた妹をほって帰るなんて出来ないよな!」
その言葉にチクリとした痛みを胸に感じながら頷いた
律「じゃあせめて一緒に探さないか?二人だったら一人で探すより確実だし、安心だろ?」
しかし、その言葉にも、首を振って返した
唯「律ちゃんも別々に探して…早く憂を見つけて上げないと…」
そう言いながら、俯いていく
律「そうか…そうだな!早く探して早く帰った方がいいな!じゃあ善は急げだ!
このマンションの探索は任せたぜ!私は街なかを探してみる!」
そう言うと律ちゃんは向こうの部屋の扉に手を掛ける
そして出て行く寸前に「頑張ろうな、お互い」と言って出て行った
静かになってしまった部屋を出る
さっきの壁の穴を使って隣の部屋に移れば地面の穴の向こうに行けそうだけど、律ちゃんは「出て行く」と言って向こうに行ってしまった
なら、向こうが出口なんだから、階段の右側を調べてからじゃないといけない
もらった鉄砲が、早速汗で滑りそうになっているのに気づいて、手の汗をパンツで拭いた
よし、と声を上げて階段に戻ってきた瞬間、心臓が止まりそうになった
リュックの中から砂嵐の音が聞こえてきたのだ
嫌な予感がする…
私は、鉄砲を構えて辺りを照らしてみた
正面からマネキンが一つ、ゆっくり近付いてきていた
よく狙って…引き金を引く!
当たらない!
慌ててもう一度撃ってみた
外れた!
そうしている間にも、頭の壊れてしまっているマネキンが、色のない目でこちらを見ながら迫ってきていた
唯「当たってよぉー!」
叫びながら、目を瞑り、引き金を引いた
炸裂音と一緒に、何かが砕ける音を聞いた気がした
おそるおそる、目を開いてみる
マネキンは、止まっていた
マネキンのお腹が少しだけ割れていた
当たったんだ!
もう一度、今度は落ち着いて撃った
すると今度は胸に当たった
マネキンが胸から砕けて倒れたのを見て、ホッと溜め息が漏れた
唯「…あ…当たった…」
思わず床にへたれ込む
心臓がさっきから暴れっぱなしだ
心なしか胸が痛い気がするくらい
座りこんでいても仕方ない
憂も怖い思いをしているに違いないんだ
そう思い、壁に手をつき、立ち上がる
そして、落としていたハンドライトを掴んだ瞬間、私の手を何かが掴んだ
唯「ヒィッ…あ…ハ…」
視線を掴んだ手の先に向ける
さっき撃ったマネキンが上半身だけで近付いてきていた
気絶しそうになりながら武器になりそうなものを探す
鉄砲…今のでビックリして落としちゃった…バット…どこに置いたっけ…
慌てているうちにマネキンの手が私の首に掛かってきた
苦しい、というより痛い、という感覚が全身を疾る
マネキンの潰れてしまっている顔が目の前にある
割れてしまっているところから中の空洞が見える
空っぽだ…と遠くなった思考で考えている
いつの間にか倒れてしまったのだろう、マネキンの後ろに天井の闇が見えた
その闇が少しずつ、近付いてくるように感じる
唯(憂…)
体から力が抜け始めた
そのとき、ゆびさきにきんぞくしつなかんしょくをかんじた
ゆびさきにいしきをしゅうちゅうしてそのきんぞくをにぎりしめる
てにもったそれをめのまえのあたまにおしあてた
めのまえで、あたまがバラバラになった
唯「…え…ホッ…ガァ…ゴフッゴッホ…」
吐き気と苦しさが頭に戻ってきた
思わず胃から何かを戻しそうだったけど、なんとか押さえ込んだ
ギリギリで鉄砲を掴めてよかった
お化けに殺されるのがこんなに苦しいなんて思いもしなかった
銃は強いけど慣れないとこうなっちゃうんだね…
涙で揺れた視界でゆっくり立ち上がった
荒れた息を整えて、歩き出す
一階の部屋は残り4つ
メモを見てそれを確認すると、扉を一つずつあらためていった
結局、あとの扉は一つも開かなかった
あの壁の穴を超えて、マンションを出るときに、私は思った
唯「結局、手掛かりなかったなぁ…」
マンションを出た私はとりあえず腕時計で時間を確認した
まだ集合時間には余裕があった
もう少しどこかを探索してもいいかもしれない
そう思って顔を上げた瞬間だった
「ぇ…ゃ…ん」
誰かの声が聞こえた気がした
思わず回りを見回す
ハンドライトを片付けたので空いている片手を癖のように視界の方向に向けてしまうことに気付いて苦笑するが、その笑いはすぐに消えてしまった
「お姉ちゃーん…!」
今度ははっきり聞こえたその言葉、声…
私は頭が真っ白になりながら走り出す
唯「憂ー!」
声の聞こえた方に叫び、駆けていく
途中、マネキンのようなものが見えた気もするが、気にしている暇はなかった
そして、その光景を目にした
憂「お姉ちゃん!」
唯「憂!」
憂は見つかった
だが、回りをマネキンが四体囲んでいた
これでは憂を助けられない
憂をマネキンの一体が抱え上げると、どこかに歩いていく
その他のマネキンは一体が憂を抱えたマネキンについて行き、二体はこちらに向き直った
唯「憂…!」
憂のことが頭でいっぱいな私でも、このマネキン達を放って先に行くことが出来ないことは理解できた
鉄砲を構える
今度はライトがないから両手で構えられる
明るいし、距離だってあるから近付かれるより前に撃てる
落ち着いて、マネキンを見据えた
「…」
今度はマネキンの顔が壊れていなかった
代わりなのかは分からないけれど、体に赤い飛沫の後があって、不気味さは衰えていない
そんなマネキンの顔が、笑っているように見えて、私の心臓が強く胸を打った
マネキンが動き出す
落ち着いて一発
しっかり当たってくれた
肩が砕けたマネキンがのけぞって後退る
急いでもう一体に狙いを変えた
息を吸い込み、撃つ
命中
唯「当たる…これならお化けなんて…」
そう喜んだ瞬間だった
マネキンの手に光る何かを見つけた
ナイフだ
折り畳み式のナイフがマネキンの手に握られている
一瞬、何かが頭の中を走った気がした
だが、気にしないでマネキン達を撃っていく
一体が倒れる
もう一体も
だが、私は分かっている
倒れたとしても、生きているかも知れないのだ
唯(お化けが生きている、っていうのも、変かな?)
そう思いながら、リュックから飛び出たバットの柄を掴み、取り出す
唯「えいっ!」
倒れているマネキンにバットを叩きつける
やはり、生きていたようだ
一瞬仰け反るように動いたが、今度こそ完全に動きを止めたようだ
唯「憂…!」
だが、そんな事より今は憂の事が心配だ
憂が連れ去られた方へ走り出す
そして、それを見つけた
やはり、ここなのだろう
マンションと同じように開かれた扉を確認すると、その上に書かれた英語を読む
唯「ほ…すぴた…る…」
走りつづけてもつれそうになる足をゆっくり病院へと向けた
病院の中はやはり暗かった
マンションよりも暗く感じるのは、窓が見当たらないからだろう
正面には両開きの扉
その脇にカウンターがあって、後は左右に道がのびている
私はマンションと同じように地図がないかを探したが、カウンターの奥にあった額にあったであろう見取り図は、空っぽになっていた
もしかしたら、誰かが入った後なのだろうか?
周囲を照らしてみるが、人がいそうな気配はなかった
唯「病院ってなんか…怖い感じがするよね…」
そう独り言を呟きながら入り口から向かって左側に進む事にした
すぐに左手に扉が見えてきたので、早速扉をあけてみる
ノブが回る、その瞬間にリュックの中から砂嵐の音が大きく鳴った
目の前に、看護婦さんが立っていた
だが、看護婦さんの顔が…顔が…焼けただれたようになっている
溶けたように浅黒く変色し、垂れた皮膚
黒一色の眼
埃にまみれた白いナース服…
唯「ヒッ…」
変な息を吸うような声を挙げ、一歩退く
看護婦さんも驚いたように動いていない
我にかえり、鉄砲を掴み、構える
看護婦さんも同時に動き出した
ポケットからメスを取り出し、振りかぶった
メスが振り下ろされる、その寸前、鉄砲から炸裂音が響いた近かった事が幸いして頭に当たってくれた
おかげで看護婦さんはピクリとも動かない
ラジオも何も鳴らない事を確かめて、鉄砲に弾を込めようとリュックのサイドポケットから紙箱を取り出した
だが…
唯「…あ…」
もう弾がないことに気が付いた
残っているのは紙箱から取り出した一発と、鉄砲に込められている五発だけ…
目眩をしそうになりながら鉄砲に一発を込める
左手に持った空っぽの紙箱がむなしい…私はそれを投げ捨てた
そうして改めて室内を見渡してみた
どうやら診察室のようだ
お医者さんが座っているような椅子と机、レントゲンが貼り付けられる白い電灯みたいな板
それに白くて固いベッド…
何かないかな、と引き出しを開けていると、後ろの扉が開かれた
悲鳴を挙げ、鉄砲を掴み、弾が少ない事を思い出してバットを取り出す
だが、扉から入ってきたのは私の友達
紬「あら?唯ちゃん?」
紬ちゃんだった
紬ちゃんは近付いてくると思いきり私を抱き締めてきた
紬「よかった…唯ちゃんが無事で…」
唯「紬ちゃんこそ…よかった…」
友達の無事に、私達は抱きあいながらお互いの肩を濡らしあった
紬「憂ちゃんは見つかった?…って、見つかってたら一緒にいるよね…」
紬ちゃんの疑問に私は少し躊躇いながら首を振った
唯「ううん…見つかったの…でも…お化けに連れて行かれて…」
紬ちゃんの目が見開かれる
紬「え…ここに連れてこられてるの?」
唯「それは分からないけれど…でも、連れて行かれた先に扉が開いたここがあったから、ここかな?って…」
紬ちゃんはそれを聞くと顎に手をあてて考え始めた
私は内心、考える前に憂を探そうよ!と言いたくて仕方なかったが、紬ちゃんが何かを言ってくれるのを待った
そうしてしばらく待っていると、紬ちゃんは落ち着いた様子で言った
紬「ねぇ唯ちゃん、一旦みんなで集まってみんなでこの病院を探索しない?」
一瞬、何を言っているのか分からなくなった
憂が…憂がいなくなったんだよ!?
しかもマネキンに連れ去られて…
唯「そんな…ちょっとでも早く憂を助けてあげないと…」
紬「でも、助ける前に私達だけじゃお化けに負けちゃうかも知れないし…」
紬ちゃんの言っていることは分かるけど、私にはそんな余裕なんてなかった
唯「じゃあ紬ちゃんはみんなを集めてきて!私は一人で先に憂を探してるから!」
紬「唯ちゃん!」
後ろから紬ちゃんの呼び止める声が聞こえたが、私は診察室を後にした
左の廊下の扉は診察室のもの以外は鍵が掛かっていた
だが、異様な鍵が一つ気になった
廊下の突き当たり、そこにあるノブも取っ手もない両開きの扉
横に三角形の絵が書かれたボタンが付いているところからエレベーターだとは思う
でも、その扉はどうやったのか、鎖で雁字搦めにされて開かなくなっていた
エレベーター自体は動いているようなのにコレでは使えない
溜め息を吐いて戻ろうとした瞬間、私の頭に異変が起きた
また頭痛と、サイレンのような幻聴だ
二度目で少しだけ余裕のあったらしい私の目は、それを見た
周囲の光景が変わっていく
壁は赤錆が浮き出し、扉はまるで腐ったかのように崩れ、その下から鉄製の重々しい扉が現れる
地面も同じように、網のようになっていった
そうして頭痛と幻聴が収まる頃には病院の光景は一変していた
天井も網のようになっていて、ずっと上の方からうっすらと光が見える
おかげで、ハンドライトは必要なくなってきた
唯「れんごく…?」
ふと、そんな言葉が頭に流れ込んできた気がした
そして私は、この光景をさっきも見たことがあったのを思い出した
マンションの受付で見たあの光景が頭に蘇る
あの時の恐怖を思い出して、吐き気を催したが、唾を飲み込んで我慢する
そして、ゆっくり歩き出した
目指すのは、診察室
まずは紬ちゃんが無事なのかどうかを確かめないと…
そう思い、廊下を金属の軋む音と一緒に進んでいく
そして、診察室の扉に手を掛けた
そしてノブを回し…しかし、扉は開かない
さっきとは光景が違うから扉を間違えたのだろうか?
私はそう思い、一旦玄関に戻ってきた
その時、玄関の扉がトゲトゲの鉄の紐のようなもので閉ざされているのが見えたが、むしろ都合がいいように思えた
もしこれが幻覚なら、私に逃げ場がないから憂を探すしかなくなるし、現実なら、お化けも憂をここから連れ出せないのだ
そんな事を考えながら改めて診察室を目指す
唯「…やっぱり開かない」
紬ちゃんは無事だろうか?
さっきあんな別れをしたばかりなのに心配になってきた
だが、心配するくらいならここをよく歩こう
まず憂を探さなくてはいけないし、紬ちゃんも見つかるかも知れない
そう思いながら、無意識に先ほど開かなかった扉を開こうとしている自分に気付いた
唯「あれ?さっきここは確かめたのに…私何やって…」
るんだろう、とは続かなかった
扉が開いていた
扉の中は牢屋のようだった
小さな机と赤い色の付いた洗面台、毛布すらない代わりに、手錠と鎖の付いたベッド…
唯「…うわぁ…」
狭いだけじゃなく、雰囲気で既に気が滅入ってきている
ベッドの上に救急箱があったので、包帯と絆創膏だけ貰うことにした
薬だって賞味期間みたいなものがある、と昔テレビでやっていて知っていたからだ
危ない薬品は使わないようにしないとね
他にはなにもなかったので、さっさと部屋から出て行く事にした
他の部屋も入れるようになっていたので見ていくと、奇妙な板があったのでなんとなく持って行く事にした
板には頭を抱えてうずくまる男の人が彫り込まれていた
そして、さっき閉じられていたエレベーターは、さっきと同じように鎖で閉じられていた
錆の浮いた鎖なら壊せそうに見えたが、実際に壊そうとすると全然駄目だった
唯「あとは…向こうだね」
そう呟き、後ろを振り返る
向こうの突き当たりでは大きなプロペラが回っていた
そうして逆側の部屋も調べて回ったが、大体同じような部屋ばかりだった
何かが落ちているわけでもなく、かといってお化けに会うようなこともなかった
そして、最後の扉を開くと
唯「あ、階段だ」
ここだけは薄暗く、階段だというのも、かろうじて扉から漏れた光でそうだと判断できたからに過ぎない
私はリュックから片付けたばかりのハンドライトを取り出して、電源をつけた
そして、なにも考えずに階段を上っていく
踊場に足を掛けた時に気付いた
目の前に、奇妙なものがあった
簡単に例えるなら、『気味の悪い風船』だと思う
上に楕円形のモノがプカプカ浮いていて、それと地面との間には肉っぽい紐が張りつめていた
何も考えずにバットで潰して先に進んだ
階段を上り、二階の扉を開いた
おそらく患者さんの入院用の部屋が並んでいた階層なんだろう、一直線に廊下があり、そこに等間隔に扉があった
一つ一つ確認していく
何もない
何もない
何もない
もしかしたらこの階層にはなにも置かれてないんじゃないだろうか?
本当に憂は病院にいるんだろうか?
不安になりながら扉を開けていくと、またさっきと同じような板があった
今度は一人の男の人がもう一人の男の人を跪いて見上げている絵が彫られていた
私はそれも拾い上げ、また探索を開始した
看護婦さんが倒れる
もうバットを使って殺すことに慣れてきている事に、自分のことだけど怖く思う
躊躇わずに振り下ろし、叩き付け、踏みつけて、殺す
体が勝手に殺して、それを見ている私はなんの感動も恐怖もない
それ自体が怖かった
でも
それを見た瞬間、私は怖さで何も考えられなくなった
網の上を、引きずられる巨大な鉈が鈍い音をたてている
上半身を覆う巨大な鉄の塊、赤く染まったそれは、錆なのか血なのか判別がつかない
そして…その手に持ったボール
ボール?
本当に?
あれは、私を慕ってくれた、可愛い ト モ ダ チ じゃなかっただろうか?
なぜ彼女がここにいるんだろう?
なぜ
首だけになってるんだろう?
私がそれを見付けてしまったのは、二階の最後の部屋を調べ終え、扉をしめた時だった
階段に向かうために右を向いた私の背後に、ナニカが立っている予感がしてしまったのだ
部屋を出る直前に感じた自分への恐怖より遥かに圧倒的な死の予感への恐怖だった
振り向いて、まず最初に気付いたのは振り上げられた巨大な鉈
あまりの恐怖に倒れてしまったのが幸いした
頭のあった場所を振り抜き、鉈は床の金網を突き破った
私は鉈を振り下ろした相手を確かめるために頭を上げ、目が合ってしまった
唯「あず…にゃん?」
驚きの表情のまま固まってしまった、首だけの友達と
呆然としている間に鉈のお化けが鉈を床から抜こうとしていた
私がお化けの頭がある辺りを見ていると、お化けはまた鉈を振り上げた
私は慌てて立ち上がり、後退する
下がりながらも鉄砲を撃った
だが、金属の塊に当たって弾が弾かれている
撃つ、弾かれる
撃つ、弾かれる
撃つ、弾かれる
撃つ、弾かれる
撃つ、弾かれる
カチリ
絶望的な音がした
鉈を引き摺ってお化けが近付いてくる
いつの間にか階段に繋がる扉を追い越して、壁を背負っていた
唯「あ…」
私は殺されるんだ
そう思い、私は座り込んだ
直後、頭痛と幻聴が頭を揺らした
世界が変わってしまった時の逆再生するように世界が戻っていく
お化けはそれを眺めるように上を向き、周りを見回すと、階段に続く扉を開け、走るように去っていった
私は何も考えられずに座り込んだままだった
頭の中では、あずにゃんとの思い出が再生されていた
…どのくらい経っただろうか
意識をはっきり取り戻したときには、さっきの事は夢だったんじゃないだろうか、と思ってしまうくらい時間が経っているような気がした
腕時計を見た時、一瞬時計が狂っているのではないかと疑ってしまった
どうせ病院も探索が終わってしまっているので外に出て確かめることにした
外には、月が浮かんでいた
集合時間は夕方の6時だったのに、今は9時だった
みんな心配してまた解散して探してくれているかもしれないけど一応集合場所に戻ってみる事にした
集合場所は…遊園地の入り口
どれくらい歩いただろうか
遊園地の門が見えるまで30分は歩いた
そこに私はおかしなものを見つけてしまった
階段だった
入り口の前に、四角い穴があり、そこにずっと階段が続いている
唯「なんだろ、これ…」
とりあえず降りてみることにした
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
唯「…長い…疲れた…ハァ…」
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
中略
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン…
唯「つ…着いた…長すぎる…」
ようやく階段の一番下にたどり着き、荒れた息を整えている私の前には、木で出来た簡素な扉があった
唯「この扉…どこに繋がってるんだろ…デ○ズニーランドの地下みたいなものなのかな?」
そう言いながら扉を開こうとするが、扉はまるで張り付けてあるように動かない
『開かない』ではなく、『動かない』のだ
鍵が掛かっているだけならガタガタと揺らす事も出来るのに、それさえ出来ない
唯「あれ…?」
念のために鍵を試したいが、鍵はほとんど拾った場所ですぐに使って…
唯「…あ」
ふと、パンツのポケットに手を入れてみる
金属の固い感触を握りしめ、取り出す
唯「憂のポーチの鍵…」
普通なら開かないだろう
サイレントヒルの探索を始めてすぐに拾った憂のポーチ、それに入っていた鍵がこんな地下の深くにある扉を開くなんて思えない
でも、確かな予感がした
震える手で鍵穴に差し入れる
カチリ
憂の鍵で、扉が開かれていく
その瞬間、私は何か大切な事を忘れている事を思い出した
何を忘れているのかはわからない
だが、私は確かに何かを忘れているんだ
唯「ここは…」
学校のような雰囲気はあった
いや、学校なのだろう
ここは、私が…私達が過ごした学校だった
唯「桜が丘…」
だが、私が知っている桜が丘ではなかった
窓には鉄格子が掛けられ、扉は物々しい金属製になっている
地面には埃が溜まり、周囲は錆で赤い雰囲気を纏っている
唯「なんだか…嫌な感じ…」
だが、私の足は躊躇うことなくある場所に向かっていた
軽音の部室だ
不思議だった
軽音部室の扉だけは、この不気味に変わってしまった学校で、全然変わっていなかったのだ
懐かしさに目と頭が熱くなってきた
だが、私はまだこの気持ちに流されるわけにはいかない
憂を探さなくてはいけないのだ
そう決心し、一気に扉を開け放った
だが、目に入ってきた光景は、全くの不意打ちで、信じられない、状態で、眺めているのが夢のように感じてしまった
目を引いたのは、壁に咲いた花だった
真っ赤なお花
そして、それを咲かせているのは、おっきなナイフのような、あのお化けが持っていた鉈
そして、それが壁に張り付けている
唯「…澪…ちゃん…?」
私は、よろけるように一歩、部室に足を踏み入れた
その足音が響いたと同時に、扉のガラスが割れたような音をたてた
いや、実際割れたのだ
ある、一つの金属の塊が、凄いスピードでぶつかって
「なんで…だよ…」
気付いた
もう自力では座ることも出来なくなってしまった澪ちゃんの足元に、座り込んでいた彼女に
「なんで…いきなり………たんだよ…」
いつも元気で、優しかった彼女が、見たこともない怖い顔で、私を睨んでいる
律ちゃんの手で、鉄砲が向けられていた
律「なんでだよ…唯…お前…友達じゃ…なかったのかよ…!」
律ちゃんは私に鉄砲を向けながら立ち上がった
手をついた壁に、赤い手形がべったりと付いている
唯「え…律…ちゃ」
律「呼ぶなッ!」
言葉が遮られた
何がなんだかわからない…なんで澪ちゃんがこんな事に?い
や、どうして澪ちゃんがここに?なぜ律ちゃんは怒ってるの?
私が何かしたんだろうか?鉄砲で撃たれてしまうようなことを?何をしたの?
考えている間に律ちゃんは落ち着いて来たようだった
律「あぁ…そうか…お前…澪に何か恨みでもってあったんだな?
でも…どんな恨みでも…ここまでしなくてもよかっただろ!」
え…
唯「澪ちゃんを、こうしたのが…私?」
私が澪ちゃんをこんな風にした?
唯「ち、違う!私こんなことしてないよ!」
必死に声をあげて訴える
私は友達にこんなことしない!
大事な、大事な友達なのに!
律「嘘吐くなよ!私の目の前で刺したくせに!…唯なんか…」
一瞬、律ちゃんの顔が伏せられ、すぐに上げられた
律「…コロシテヤル…」
そう言われた直後、私の左手が押されたように感じた
そして、そのすぐ後に熱いような感じが肘の少し下に広がってきた
撃たれたんだ
それを理解した瞬間
私は律ちゃんから背中を向けて逃げ出した
澪ちゃんから背中を向けて逃げ出した
思い出で一杯の、優しい部屋から、
逃げ出した
部屋から走って逃げ出したが、それでも律ちゃんは追いかけてきた
律ちゃんの足は速い
私と律ちゃんの距離が、少しずつ縮まっていく
私は手近な扉を開けると、中に飛び込んだ
教室だったのだろう部屋は、奇妙な光景になっていた
机や椅子があった所に、大きな柱が乱立している
この部屋なら、律ちゃんを混乱させて逃げられるかも知れない
私は柱と柱の間を走って奥に隠れた
そして、律ちゃんの息遣いが教室に入ってくるのを感じた
律「ハァ…ハァ…ッ…ハァ…」
足音がゆっくり進んでくる
私は足を忍ばせながらゆっくり柱の影を移動する
今の律ちゃんは危険だ
私を殺すことに躊躇いなんてないだろう
だったら、戦えなくするか、逃げ切るかしか私には出来ないのだ
ゆっくり、律ちゃんの息遣いから離れる
だが、息遣いは本当に離れているんだろうか?
落ち着いてきて、息が整ったせいで聞き取りにくくなっているだけじゃあないか?
私はそんな不安を抑えながらやっと教室から抜け出た
そして、私の視界は回転した
転んだのだ
足が何かを踏んだ感触を思い、踏んだものを探す
それはすぐに見つかった
弾だった
周りに弾がばらまかれていた
これは…
律「唯…逃げるな…」
後ろから聞こえてきた声が答えだった
逃げればすぐに分かるように、罠が仕掛けられていたんだ…
私は踏んづけてしまった弾を掴み、立ち上がった
逃げなきゃ…
律ちゃんを殺すことなんて出来ない
でも、弾をばらまけるくらい持っている律ちゃんから逃げたり弾切れを起こさせるなんて無理だ…
唯「どうしよう…」
私はまた別の教室に入った
息が止まるかと思った
前の教室は机が柱になっていたが、この教室は、マネキンが首を吊られていた
しかも、不気味なことに、その背中にナイフが突き立てられていた
一瞬吐き気を催したが、ここでまた隠れる事にした
だが、もう、これ以上逃げられはしないだろう
息切れより、疲れより、体が重い…
左手を見る
もう血で真っ赤に染まりきってしまっていた
もう、私にはこれしかないのだろう
そう思い、私はリュックを肩から降ろし、中を漁った
準備を終えた時、教室には律ちゃんの呼吸が入ってきていた
マネキンは吊られているので足元が見える
私は律ちゃんの位置が分かるし、律ちゃんも当然、私の位置を分かっているだろう
体が震えてきている
律ちゃんが怖い
血の抜けた体が寒い
それと、もう一つ、緊張で震えていた
律「唯…覚悟はできたか?」
マネキンの向こうから律ちゃんの声が聞こえてきた
どうやら、マネキンとマネキンの間を通り、教室の一番奥の私のところまで一直線に向かってきているようだ
良かった…これならお互いが見えるときにはすぐ近くだ…
お互いの顔がよく見えるくらい…
そう思い、笑いを浮かべた
律「最後にもう一回だけ訊いてやる…なんで澪を殺したんだ…?」
律ちゃんがまた、そう訊いてきた
唯「私は、澪ちゃ、んを殺し、てなんか、ないよ…」
そう答えるしかない
私は、本当に殺してなんかいないのだから
律「まだそんな…もういいよ、唯…もう、終わりにしような…」
そう言いながら律ちゃんが近づいてきた
私達を遮るマネキンは残り一つ
律ちゃんがそれを押しのけてこちらに銃口を
向ける前に、私が引き金を引いた
けど…
律「っと…」
律ちゃんはそれを簡単に避けた
いや、避けたというより、予測していたんだろう
マネキンを押しのけた後、自分もマネキンと同じ方向に動いていた
だから、本来律ちゃんがいた場所を撃っても当たらないんだ
律「そうだよな…唯はこう、まっすぐな奴だからな…そうすると思」
唯「ウアアアァァァァァァァァァァァッ!」
私は、右手に持った鉄砲を捨てると、左手にかろうじて持たせていたバットを掴み、マネキン越しに律ちゃんを殴った
律ちゃんが倒れるのが見えた
私はそのまま律ちゃんにのしかかり、バットの柄で頭を殴り続けた
そして、どのくらい律ちゃんを殴ったか分からなくなった時、私の視界は暗転した
――――――――――
夢を見ていた
憂と一緒に過ごしていた頃の夢だ
憂はいつも誉められていた
料理が出来た
掃除が上手だった
頭だって良かったし
お姉ちゃんから見たって可愛かった
いや、お姉ちゃんでなかったとしても、かな?
とにかく、私の自慢の、可愛い妹だった
全てが、私より出来た、妹だった
場面が変わった
澪ちゃんが刺されていたあの光景だった
…澪ちゃん?
違う
刺されているのは澪ちゃんじゃなかった
…憂…
口から血を吐き出しながら眉を寄せて苦しそうにしている
こんな光景、私は…知らないよ?
――――――――――
ゆっくりと、視界が戻ってくるような気がする
遠くから、自分の視界が近づいている、の方が感覚としては近いかもしれない
私は、生きているのかな?
天国だったらいいんだけど…律ちゃんをあんなに殴っちゃったし、地獄なのかな…
視界の先は赤黒い壁…いや、天井だった
どこかに寝かされているみたい
「目が覚めた?」
声が聞こえた
声の聞こえた方に頭を向ける
紬ちゃんがいた
優しい笑顔を向けていてくれる
律ちゃんの形相と殺意を思い出して、体が震えたが、紬ちゃんが手を握ってくれたからすぐに収まった
紬ちゃんは私を殺そうとしないだろうか?
一瞬不安に思ったが、次の言葉で安心させられた
紬「辛かったわね、唯ちゃん」
紬「助けてあげられなくて、ごめんなさい」
そう言って頭を下げた紬ちゃんに、私は慌てて言葉を返した
唯「ううん、大丈夫だよ、紬ちゃん。私こそ、心配かけてごめんね?」
私はそう言い体を起こした
左手に鋭い痛みが走り、思わず右手で押さえるが、腕の痛みは引かなかった
紬「大丈夫?一応消毒と包帯を巻く事はしたんだけど…」
紬ちゃんに頷いて大丈夫という事を知らせる
声を出すと、痛みか悲しみで声が震えてしまいそうだったから
紬「…大丈夫ならいいけど…」
しばらく、静かな時間が続いた
周りを見てみると、どうやらここは保健室だったところらしい
ベッドやカーテンも赤黒く変色してしまっているけど、教室と比べるとまともに見えた
紬「ねぇ、唯ちゃん…」
唯「なぁに?紬ちゃん」
急に紬ちゃんが話しかけて来たので驚きながら応える
その時に見た紬ちゃんの顔は、不安になるほど青ざめて見えた
紬ちゃん「…律ちゃんと、なにかあったの?」
私は迷ってしまった
本当のことを包み隠さず言うべきか
それとも、嘘を吐くべきか
だけど…
紬「大丈夫…本当のことを、話して?」
私は、紬ちゃんの目を一度見た
紬ちゃんも私の目をしっかり見てくれた
私は、軽音部室であった事から、律ちゃんから逃げた事、そして…
唯「そうだ…紬ちゃん、律ちゃんはどうしたの?」
紬「…その…」
唯「あ…」
私はその反応で分かってしまった
最後に見た律ちゃんの頭が変に歪んで見えていたのは私の視界がおかしかったんじゃなく、ただ、本当に歪んでいたんだと、分かった
唯「あ、ううん…あとは、私は気絶しちゃって…ムギちゃんが助けてくれたんだよね?」
ムギちゃんはゆっくり頷いた
また、静かになってしまった
私達は、どうしてこうなってしまったんだろう…
ゆっくりベッドから立ち上がり、保健室の中をゆっくり歩いてみた
普通に歩ける
これなら、また憂を探しにいけるだろう
そう思った時、後ろから、何かが割れたような、でもどこか鈍い音がした
私は嫌な予感を抱きながら、ゆっくり振り返って、それを、見た
ムギちゃんが、眠っていた
右手には、私が今まで使っていた鉄砲があった
私は、ゆっくりムギちゃんに近づくと、起こさないように、気を付けて、鉄砲を返してもらった
そして、多分律ちゃんが持っていたと思う銀色に光る弾が机の上に置かれているのを見て、それを拾うと、そっと、保健室を後にした
階段を上り、また、私は戻ってきた
目の前には、軽音部室の扉がある
さっき、律ちゃんが割ったはずのガラスが、今は綺麗になっていた
私の頭には、さっきから幻聴が響いている
最初は、サイレンのように聞こえていた
でも、今は違った
これは…私達の、音楽
私達の会話
私達の日常だった
扉を開く
中は、真っ白な部屋に、真っ白な椅子が置いてあるだけだった
部屋とは思ったが、これは、本当は部屋ではないのかもしれない
だって…壁が、どこまでいっても見あたらないから
私は、椅子に座った
――――――――――
映画のようだった
いや…映画なんだ
これは、私の人生の映画
いつもと同じ風景
いつもと同じ会話
いつもと同じ笑顔
だが、その日が来て、一変した
唯「みんな…!」
私は軽音部室に駆け込んだ
この日は、私は憂と約束があったから先に家に帰っていたから、学校なのに私服だったんだ
律「あれ?どうしたんだ唯?」
澪「憂と買い物に行くんじゃなかったのか?」
紬「なんだか急いでいるみたいだけど…」
梓「唯先輩、なんか顔色が変ですよ?大丈夫ですか?」
そして、私は思い出した
唯「憂が…誘拐されちゃった…」
そこから先は早送りされているようにすぐに過ぎていった
みんなは警察に通報するように言ったが、私は通報したら殺す、という決まり文句にすっかり怯えてしまっていた
そして、ムギちゃんから一生を賭けて返すと約束して、お金を借りて、誘拐犯にお金を引き渡した
だが、ムギちゃんにも、そんな急に大金が用意できるはずもなく、中身はほとんどが新聞紙を切っただけの紙切れだった
でも、それを入れた鞄に、発信機を入れてくれていたから、追い掛けて憂を助けようとしたんだ…
――――――――――
白かった部屋は、いつの間にか、真っ黒になっていた
そして、座っている私の正面には、あの鉈のお化けが立っていた
「―――」
唯「それで…そうだ、憂が人質にとられたんだ」
「―――」
唯「でも、まだ私だけは…犯人の後ろにいた私だけは助けられたんだ…」
「―――」
唯「でも、助けようと思ったときに、思い出しちゃったんだ…」
憂ばかりが誉められた
憂ばかりが可愛がられた
いつも比較されていた
私は
憂を
見殺しにした
病院についた時、私は後悔や、自己嫌悪でいっぱいだった
みんなは私を慰めてくれたけど、私には気休めにすらならなかった
しばらく経って、警察の人が私に手紙を持ってきた
憂は、誘拐犯に捕まっていた時も、手紙を書くくらいの身動きは出来たみたいで、書き残してくれていたらしい
手紙を見ている人へ
私が無事に解放されていたらこの手紙は捨ててください
お姉ちゃんへ
この手紙を見ているとき私は死んでいるのかもしれません
でも私はお姉ちゃんのことを恨んでなんかいません
私はたとえ何があってもお姉ちゃんのことが大好きです
それだけはどうしても伝えたかったんです
だからどうか助けられなかったことを後悔しないでください
私はお姉ちゃんに後悔なんてしてほしくありません
だから代わりに誇りに思ってください
私は妹のために必死になれる優しいお姉ちゃんなんだって
でももしかしたら伝える機会がもうないかもしれないので念のために手紙にしておきます
でも手紙じゃなくて自分で伝えられたらいいな
お姉ちゃん
私はずっとお姉ちゃんの妹だったことをうれしく思っています
もし生まれ変われるとしても私はお姉ちゃんの妹がいいな
「―――」
唯「………」
立ち上がる
私は、このお化けを殺さなければいけない
これは、私の劣等感と、罪悪感、嫉妬の形だから
私は、このれんごくの処刑人を殺さなければいけない
「―――ッ!」
唯「―――ッ!」
私達は叫んだ
鉄砲を取り出しながら走って距離をとった
さっきまではなかった壁が出来ていた
駆け寄った壁の反対には壇があった
多分、あれが処刑台なんだろう
そう思いながら、私はお化けに鉄砲を撃った
鈍い金属音がする
やっぱり、これじゃ勝てないや
そう考え、でもこの場所のことを考えていた私には、ある戦い方が浮かんでいた
そして、私はお化けに回り込むように走り出す
そして、私はお化けが近付くのを待った
まだだね
まだだよ
もう少し…
今だ!
鉄砲から飛び出した弾はお化けに向かう
でも、狙っているのは頭や体じゃない
足だ
でも、私は知っている
お化けは、マネキンもそうだったし、きっととっても我慢強い
足が撃たれても、歩いてくる
でも
お化けは倒れた
処刑台に足を引っかけたんだ
普通なら乗り越えて来たんだろうけど、怪我をした足じゃ躓いちゃうみたいだね
でも、これだけじゃ殺せない
だから…
唯「えい!」
鉈を持った手を撃った
お化けの手から鉈が離れた
私はそれに飛び付いた
重かった
こんなのを持って歩けるなんて、お化けはすごいって、素直に思った
でも、お化けに持てたんなら私にだって持てるはず
そう思い、必死に持ち上げた
お化けの方を見てみると、頭の金属の塊が重いのか、立ち上がるのに苦労していた
私はゆっくりと処刑台に上り、鉈を…
振り下ろした
錆びた金属同士がぶつかり合って鳥肌が立つような音が処刑場に響いた
そして…
金属の塊が、割れた
お化けの顔は見なくても分かっていた
だって、私の劣等感や罪悪感、嫉妬なんだもん
私自身じゃないと、おかしいよね?
動かなくなった『お化け』(私)の胸に、鉈を突き刺した
これは、この鉈は、誘拐犯が持っていたナイフだから、憂みたいに、刺されないと駄目なんだよね
そう思っていると、『お化け』(私)が板を差し出してきた
血に濡れて、真っ赤になっちゃった板
私はそれを受け取ると、処刑台に座り込んだ
あぁ…疲れた…
気が付くと、私はサイレントヒルの街中…車から降りて、最初に探索を始めた場所に立っていた
最初と違うのは、空には太陽の光の代わりに月の光があることだけだった
腕の中には三枚の板
目の前には…憂
憂「お姉ちゃん」
唯「うん…」
憂「帰ろっか」
唯「うん…」
憂「帰り方、分かる?」
唯「うん…」
頷き、憂に背を向ける
板を地面に重ねて置く
握った鉄砲には、銀色に光る弾が一発だけ
唯「憂」
憂「…うん」
唯「大好き」
引き金を引く
板の真ん中に穴が開き、そこから少しずつ、燃えてもいないのに炭になって、灰になっていく
強い風が吹いた
思わず目を瞑る
目を開いた時には、もう何も遺っていなかった
後ろ、道の先からサイレンが聞こえてきた
今度は、幻聴じゃない
迎えの、音だ
END
335 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 04:34:54.40 ID:+gAFgrosOふ
む…終わったな…
いろいろ説明してない部分あるからわからないところは訊いてくれれば応えるよ
まぁ、説明聞かずに推測して楽しむってやり方もあるけどな
336 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 04:39:09.41 ID:JrMWE3kSO
乙
唯が罪悪感から裏世界に呼ばれたのは分かるが
なんで唯は澪と紬を殺した?必要がなかったように思うんだが
337 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 04:41:17.61 ID:JrMWE3kSO
あと板は何なんや
339 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 04:42:09.53 ID:+gAFgrosOけ
いおん部皆殺しは部員に対する劣等感からの嫉妬により殺された
まぁ、実際には誰一人死人は出てないけどな
頭を抱える男→罪悪感
跪き、男を見上げる男→嫉妬
真っ赤に濡れた板(何が彫られていたかは不明)→劣等感
あと、実は俺、サイレントヒル未プレイなんだよな…
340 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 05:08:07.80 ID:JrMWE3kSO
>>339
なるほど
そう考えるときれいな終わり方だね
てか誰も死んでないのかw
全員幻覚かい

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 03:18:39.52 ID:nic/5ltUO
唯「…あれ?」
ベッドの上に不思議な…蒼光りする石が落ちていた
綺麗なのでなんとなく持って行ってみよう
唯「綺麗な石だから憂も見たら喜んでくれるかな?」
久しぶりに感じる口元の笑みを手で抑え、目覚めた部屋から出て行った
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 03:36:42.33 ID:nic/5ltUO
蒼光りする石をふと、掲げてみた
廊下にポツポツとある窓から入る光が反射してとても綺麗だ…
唯「…帰りたいな…」
ふと、そう漏らした時、石が輝きだした!
あまりの目映さに目が眩む!
光が落ち着き、正面を見てみると、外国人風の男と、テレビでよく見た目が大きく、体が華奢で小さな宇宙人が立っていた!
男「君かね?ここから出たいと思ったのは?」
唯「は、はい…」
男「やってくれ」
そう男の人が言った瞬間、宇宙人の光線銃が私をビビビと撃ち抜いた!
宇宙人に連れ去られた唯の行方は、誰も分からなかった…
という冗句
222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 02:01:35.52 ID:9h5gTQN9O
…どのくらい経っただろうか
意識をはっきり取り戻したときには、さっきの事は夢だったんじゃないだろうか、と思ってしまうくらい時間が経っているような気がした
腕時計を見た時、一瞬時計が狂っているのではないかと疑ってしまった
どうせ病院も探索が終わってしまっているので外に出て確かめることにした
外には、月が浮かんでいた
239 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 03:06:07.43 ID:9h5gTQN9O
>>222から分岐
ふと、玄関の正面にある両開きの扉を調べていない事に気付いた
唯「これは…なんなんだろ?」
その時、リュックから蒼い光が漏れ出している事に気付いた
何事かと思い、リュックを調べてみると、マンションで拾った蒼い石が発光していた
唯「わぁ…綺麗…」
その瞬間、目の前の扉が一気に開けられた
眩しい!
扉の向こうは強烈な光で一杯で、とても目を開けていられない…!
そこに、男の人の声で何か話しかけられた
「君、この街で小さな女の子を見なかったかい?」
訊きたいのはこちらだったが、おとなしく首を振って否定した
「そうか…だったら構わない…」
VIVIVIVIVIー!
その瞬間、全身を熱いものが駆け巡った!
それを感じた瞬間、私は気を失った…
その日、サイレントヒルで未確認飛行物体が観測されたが、同時に、ある少女が行方不明になった事は知られていない…
END
273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 22:28:18.41 ID:9h5gTQN9O
仕事中思いついたくだらないノリ
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
メン…
唯「ッ!?」
274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 22:33:09.43 ID:9h5gTQN9O
TAKE2
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
タン、タン…
ウン、タン…♪
唯「ッ!?…ッ!?」
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