桐乃「あたしのアニキが東方仗助なはずがない!」 その1

2011年05月27日 19:26

桐乃「あたしのアニキが東方仗助なはずがない!」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 22:03:11.71 ID:DIPXXoHR0

あたしの名前は高坂桐乃。
中学2年生。

自慢じゃないけどあたしはスゴイ。
ティーンズファッション誌の専属モデルだし学力は県内でも指折り。
所属してる陸上部じゃエースだし、学校や仕事先では上品に振舞ってるから慕われてる。

でも、そんなあたしにも裏の顔がある。
実はあたしは超オタクなのだ。

で。
本題はここから。
そんなあたしの家に同居人が転がり込んできた。
義理の従兄弟らしい。
お父さんやお母さんは「お兄さん代わりになってくれ」とか言っていたけど冗談じゃない。


あたしはアイツが嫌いだ。
なんか全然そりが合わない。


そんなことを思いながらふと時計を見て気がついた。

「げ。そろそろ九時じゃん」

ドラマが始まっちゃう。
ツイッターでリアルタイムに呟かないといけない。

きっと居間にはアイツがいるんだろうな…
少し憂鬱。


←ブログ発展のため1クリックお願いします
■居間

でっかい背中が揺れている。
TVには笑いたくなるくらい古臭いレトロなゲーム画面が映っていた。

「ねぇ九時になったんだけど?」

「あと五分!あと五分だけやらせてくれよなぁ~!」

「はぁ?話が違うじゃん!九時からドラマ見るって言ってたし!」

「それがよぉ~!今が最高に盛り上がるトコなんだよぉ~~!」

こっちを振り返ろうともしない。
なんかムカつく。

「あーうっさい!それ犯人ヤスだから!はい終わり!」

それだけ言ってあたしはゲーム機のアダプターを引き抜く。

「うおおおっ! マジかよぉ~っ!?」

真っ黒になったTV画面に向かって嘆いてる。

よーく見ると肩がプルプル震えてた。

「な…なによ?あたし最初っから言ってたじゃん!九時からドラマ見るってさ!」

あたしは自分の正当性を主張したけど、アイツはあたしの言葉に答えもしないで立ち上がった。

ぬぅっと立ち上がると…やっぱデカイ。

何てったってあたしのお父さんよりデカイんだもの。
身長は…185cmくらい?
肩幅も広いし、威圧感もある。

顔だってまぁ…悪くはない。

ただ致命的にセンスが古臭いのが最悪。
だってこのご時世に学ランリーゼントだもん。

でもあたしは見た目については文句をいうつもりはない。
ってゆうか、初対面の時にリーゼントをバカにしたら物凄い剣幕で怒鳴られたし。
あまりの怖さに泣きそうだったのは今でもよく覚えてる。


コイツの名前は東方仗助。


父親が外人らしいけど全然そうは見えない。
そこらへんは何でも複雑な事情があるらしい。
母方の遠い親戚らしいけど、それ以上詳しくはあたしは知らない。

で、あたしは今見下ろされてる。

「な…なによ!?なんか文句あんの?」

見下ろされるとなんだかカチンときて喧嘩腰になるのは何でなんだろ?

わかんないけどなぜかムカツクのは確かだ。

「あたし悪くないじゃん!そっちが悪いんでしょ!」

見上げるだけでなんだかイライラしてもう一言文句をぶつけたけど

「別にぃ~? オレァ何もいうことはねぇーっすよぉ~?」

それだけ言うとあたしのことなど眼中に無いみたいにのんびりとアイツは自分の部屋に消えていった。


あー!

ムカツク!

おかげで楽しみにしていたはずのドラマも半分くらいしか頭の中に入ってこなかった。

最悪。



「仗助ェ~起きてっかぁ~」

朝。

一日の始まり。

だって言うのにすっとぼけた声が響いてイライラする。

携帯とかチャイムとかあるってのに何でわざわざヒトの家の前で大声だすの!?

フツーは遠慮するでしょ?小学生じゃないんだからさ!!

「よぉ~億泰かよぉ~ 今行くからよぉ~もうちっと待っててくれよなぁ~」

…で。

それに大声で返す方もおかしいでしょ!ほんとに!

で、ムカツクことにそれが気になるのはあたしだけらしい。

お父さんもお母さんも文句言うどころか「桐乃も仗助君みたいにいい友達見つけなさい」とか!

マジほんと考えられないし!

リビングでもしゃもしゃとパンを食べてたアイツが薄っぺらい鞄を手に持ってのっそりと立ち上がった。

「んじゃ~高坂さん、ガッコー行ってくるんでお先っス~」

「うん。行ってらっしゃい仗助君。友達によろしくね」

のほほんとお父さんとアイツが会話をしているのを見てあたしのイライラは最高潮。

何だか判らないけど二人はウマが合うらしい。

朝っぱらからあたしのイラつきは最高潮だった。

「邪魔!そのデカイ図体超邪魔だからどいて!」

ムカムカしたまま、リビングをふさいでるアイツの身体を押しのけようとして。


――あたしはやってはならないことをやってしまった。


それはさっき洗面所で身支度を整えてたとき。

バッグのファスナーを閉めてなかったんだ。

両手でアイツの広い背中を押したときにバッグの中がゴチャッ!とぶちまけちゃうはめになった。

リビングに散在するあたしの私物。

教科書、ノート、筆箱、化粧品、財布、ケータイ。

あと…


『星くず☆うぃっちメルル』のDVDケース。


あたしのメルルはスルスルと床を滑って…お父さんの足元にコツンとぶつかった。

「……あ」

時が止まったような感じっていうのはこういう時のことを言うのかもしれない。

お父さんは足元に転がってるメルルをゆっくりとその手にとってジロリとあたしの顔を見た。

「………桐乃」

マズイ。本気でマズイ。
お父さんの声がピリピリと張り詰めてる。
これはマジで怒ってる。

「ちっ!違うの!それはあたしのじゃなくて!」

とっさにそう言い訳をしようとしたけど。

「話は今日の夜だ。私も今から仕事だ。 今この場で話すつもりはない」

有無を言わさない口調でそう話を断ち切ると、お父さんはさっさと立ち上がって家を出て行った。

ヤバイ…これはマジヤバイ…

どうすればいいのか判らなくて頭がグルグルする。

頭が真っ白になったまま立ち尽くすあたし。

「何つーかよぉ~…よく判んねえけど………まぁガンバレよなぁ~」

そんなあたしに間延びした声をかけてアイツも家を出て行った。


でも、そんなこと今はどうでもいい。

どうしよう。どうすればいいんだろう?

床に転がった私物を拾いながらあたしの頭の中はそれだけでいっぱいだった。




結局…学校でひたすら悩んだけど答えは見つからなかった。

あたしずっと真っ青な顔をしていたんだろう。

大丈夫?って友達のあやせが心配してくれたけど、相談なんかできるわけがない。

だってアニメDVDが見つかってどうしようなんてあたしのキャラじゃないし。

で。

散々悩んで、あたし一人じゃあどうしようもないってことが判ったんだ。

だからあたしはイチかバチか賭けに出ることにした。

このままじゃあ埒があかないし、それまでに打てる手は打っておきたい。

お父さんが帰ってくるのはいっつも夜八時くらいだし、お母さんは今日パート。

気に喰わないけど、今のあたしの現状を知っているのはアイツだけだし。

心配そうなあやせの誘いを振りきって、アイツの高校の前で待つことにした。

…遅い。

……超遅い。

イライラしだしてから更に10分たって、ようやくアイツが出てきた。

側には数人の男女がいるけど関係ない。

今はそんなことよりあたしの問題のほうが重要だし。

ズンズンとアイツを中心とした集団に歩み寄る。

「オッ! 仗助ェ~ありゃあオメェーの妹じゃんかよぉ~」

ニジムラ…オクヤス?とかいうヤンキーみたいな男に指さされてイラッとする。

「へぇ~。僕初めて見たよ仗助君の従姉妹。可愛いねー。中学生くらい?」

何かちっちゃい高校生があたしを見て感心したような声をあげる。

「……康一くん?今の台詞…事と場合によっちゃ少しお話を聞かなきゃあ“ならない”みたいね?」

すごい綺麗な女の人がちっちゃい高校生に詰め寄ってる。
何あれ?彼女?全然釣り合ってない。

あーでも今はそんなことはどうでもいいんだ。

アイツに話があるのだ。

あたしの姿を見て弱ったように頭をかく学ランリーゼントのアイツ。

「あー…よぉっ!こんなとこにいるたぁ~珍しいなぁ~? 別にオレに用事があるっつーわけじゃあねえだろぉ~?」

あからさまに苦手そうな口調でそう言われてあたしは言葉に詰まる。

用事があるからここにいるに決まってるじゃん!

だっていうのに、間延びした声でそう問われてあたしの身体は硬直してた。

高校生の集団の前で固まったまま、あたしは大混乱。

猫をかぶるのは得意なはずなのに、なんでか外向きの笑顔が出せなかったんだ。

けど、だからといって諦めるわけにもいかない。

悩みに悩んだっていうのにあたしは結局一番子供っぽい選択肢を選んでしまったみたいだ。

「ねぇ……ちょっとさ。 来て」

そう言ってアイツの袖を掴んで引っ張る。

「よぉ~?オメェは何がしてえんだぁ~?」

引っ張られるまま、アイツがいぶかしげな声をあげる。

何だかすっごい恥ずかしいけど今答えるわけにはいかない。

あたしはアイツを掴んだままグイグイとあたしの家、あたしの部屋にまで引きずっていった。


■家


「なぁ~…いい加減説明しろよなぁ~?」

ブツクサと文句をいうでっかい男を引きずって、あたしは自分の部屋に飛び込む。

そういえば、コイツをあたしの部屋に入れるのは初めてかもしれない。

見ればどこか居心地が悪そうにキョロキョロとあたしの部屋を見回してるけど、まぁそんなこと別にいいや。

ゴクリと唾を飲み込んであたしは生まれて初めて自分の裏の顔を打ち明けるためにお願いをする。

「ちょっと…相談。 そう、人生相談があるの」

でもそんなあたしの一大決心の言葉は

「…はぁ~。 オマエがオレに人生相談ねぇ~…」

ポリポリとつまらなさそうに頬をかきながら気の抜けた声の返事が返ってきた。

なんかもうすっごいイラつくけど、今はそれよりも事実の確認と把握と問題の解決を急がなきゃならない。

「……ね。 アンタさ。 見たよね? あれ……どう思う?」

もう言葉を繕う時間も惜しくて、あたしは直球で聞いた。

妹がアニメのDVDを持っていてどう思うか。

これで笑われたりしたらあたしはもうオシマイだ。

…だって言うのに。

だって言うのに!

「悪ィーけどよぉ。 オマエが何を言ってるのかオレにはさっぱり判んねえんだよなぁ~」

そう言いながらふあぁぁと大きなアクビ。

あたしの一大決心の悩み事がどうでもいいようじゃん!

全然あたしの聞きたいことを推し量ろうともしないその態度ってなんなの!?

あたしはそこで堪忍袋の緒が切れた。

「だーかーらー!今朝よ今朝!見たでしょ!あたしのメルルを!そのことについてどう思うかって聞いてんの!」

思わず声を荒らげて詰問しちゃった。

マズイ…怒ったかもしれない。

不安になりながらどんな表情をしているのか気になってチラリと見上げる。

「はぁ… いやぁ別にどうとも思いはしねぇなぁ~」

コイツ…あたしの怒りなんてまったく全然気にしていなかった。

なんだか腑に落ちないけど、返ってきた答えはあたしにとってはある意味理想的な答えだった。

もう毒を食らわば皿までっていうし。
あたしは決心して立ち上がる。

あたしは本棚に向き合った。
この本棚を押しこめばあたしが今まで隠していた秘密のスペースが目の前に出てくる。

でも、ここを見せるには先に約束をさせないと。

「ねぇ。約束してくれない? 絶対馬鹿にしない。絶対笑わない。絶対秘密にするって」

そう言ってアイツの眼を見る。

少しでも馬鹿にしている感情が浮かんでいたらあたしの裏の顔を見せるつもりはない。

けど。

「…何が何だか判んねえけどよぉ~。 そんな眼されたら笑う気にゃあなんねーなぁ~」

思ったよりも随分真剣な視線が返ってきた。

さっきまでのぼんやりとした印象が何処にもない。

なんか…なんとなくカッコよく見えた。

でもそんな馬鹿げた事は有り得ないって自分に言い聞かせて、すぐに頭を切り替える。

「…約束だからね」

それだけ言ってあたしは本棚を押し込んだ。

ズルズルと音を立てながら本棚が動いて、あたしの秘密のコレクションが披露される。

その間、ずっとあたしの心臓はバクバクしていた。

それも当然じゃない?

だってあたしのコレクションにはギャルゲエロゲから始まってフィギュアやポスターといったいわゆるオタグッズが所狭しと詰め込まれているんだし。

1分くらい、あたしもアイツも黙りこくっていた。

で、ようやくアイツが困ったようにポリポリと頭をかいた。

あたしのコレクションが、あたしの趣味がどんなものかようやく理解できたらしい。

なんて言われるんだろう?

だってここが分水嶺だし。

肯定する言葉が返ってくるか否定する言葉が返ってくるか。

ここで決まる。

で、アイツは呆気にとられたままゆっくりとこう言った。


「こいつぁ……また随分とヘビーでグレートな眺めだなぁおい…」


[グレート【great】]
[多く複合語の形で用い、大きい、偉大な、の意を表す。 ]


…グレート?

今グレートって言った!?

これ、肯定の意味だよね!?

っていうか否定でグレートなんて言葉は普通使わないし!

もうその瞬間あたしは本当にガッツポーズをとりたくなるくらいだった。

「でしょ! でしょでしょ! あんたにも判るんだ! なんか全然そんな感性持ってるとは思ってなかったけど!」

なんか嬉しさのあまり、思わずアイツの鼻先にお気に入りのゲームソフト『妹にこいしよっ♪』を突きつける。

「もうすっごく可愛いよね! このぷにぷに感とかもうやばいよね! 萌えでしょ! 超萌えでしょ!」

グイグイとアイツの顔に『妹にこいしよっ♪』を押し付けてあたしは熱弁する。

「あ、あのよぉ…そんな押し付けられると困るんだけどよぉ…」

思ったよりも乗り気じゃない…どころか困ってるような声が聞こえてハッと気が付いた。

まぁ…そうだよね。

コイツも男だし? あたしみたいな美少女にエロゲーを押し付けられちゃあ困るよね。

でもまぁここで理性を失うほど馬鹿じゃあないと思う。

まずは、それよりもコイツにあたしの趣味をしっかりと理解してもらうのが先だ。

ごほんと咳払いをして話を戻す。

「え、えーっと。 とりあえずね。 これであたしの趣味は判ったでしょ?」

そう言って話を続けようとしたんだけど。

「お、おぅ…そりゃあ判ったけどよぉ…」

なんでか困ったような答えが返ってきた。

え?

何で?

そう思ってはたと気が付いた。

そういえばコイツ、いわゆるレトロゲームしかやらないんだった。

前お父さんとそんなことを話してたのを覚えてる。

最近のゲームはシステムが複雑すぎてついていけないとか何とか言ってたし。

もしかしたら誤解…ううん、食わず嫌いなのかもしれないじゃん!

あたしの趣味は理解できるけどやったことがないのかもしれない。

うわ…それ超もったいなくない!?

「あ、あのね! あんた誤解してるかもしれないけど! これノベルゲーだから超簡単だし、すっごい泣けるんだって!」

思わず布教しだしちゃうあたしだけど、これはしょうがない。

だって、プレイもしないで文句を言うなんてバカらしいにも程があるじゃない。

それにまずはコイツを完璧にこっちに引き込まないとダメじゃん?

とりあえずは足場を固めるのが先決でしょ。

それでようやく本題に入れる。

お父さんからの怒りをどうやって回避するかっていう相談は最後になっちゃうけど、時間はまだまだあるしね。


「あんたレトロゲームしかしてないでしょ? PCゲーは苦手意識あるのかもしれないけど一度やってみたら判るって!」


今から最速でゲームを始めれば序章までならクリアできるはずだし、コイツがはまれば話し相手ができてあたしも嬉し…いや、そんなのどうでもいいし。

とにかくコイツにプレイさせてからだ、と思いながらあたしはパカリと『妹にこいしよっ♪』のケースを開けて………


絶望して真っ白になった。


「…え?」

18禁ゲーム『妹にこいしよっ♪』のケースの中には…何でか判らないけど『星くず☆うぃっちメルル』のDVDが入っていた。

これ…どうゆうこと?

イヤな予感。

予感っていうかそれは確信だった。

――今日あたしはお父さんの目の前でカバンの中をぶちまけて

――『星くず☆うぃっちメルル』が見つかって没収された

――でもでもそれはケースだけの話であって

――中身は『妹にこいしよっ♪』だったってこと…!?


やばい…最悪の事態だこれ。

絶対お父さんはあのケースの中を見ているはず。

まだアニメなら…メルルなら何とかなった。

うまいことコイツにとりなしてもらえば何とかなったかもしれないんだ。

でも…エロゲは無理だ。

あの堅物のお父さんがそれを知ったら絶対マジギレする。

ヤバいヤバいヤバいヤバい。

終わった。マジで終わった。

こんなことならもっと几帳面にしておくべきだった。

一枚のアニメDVDを見終わったらキチッとしまってから次のアニメDVDを見るように?

でも誰だってそーするわけじゃないじゃんか。

とにかく、ヤバイ。どうしよう。

あたしの頭の中はそれだけだった。

言葉もなく思考をフル回転させてるあたしにかかる間延びした声。

「よぉ~? 随分とまぁ量が多いけどよぉ…これおまえどうやって買ったんだぁ?」

無視してもよかったけど、変な誤解されるのもマズイし、とりあえず素直に答える。

「…ギャラから買ってるだけだけど?」

「はぁ~…ギャラねぇ…ギャラ?」

それだけじゃあわからなかったのか眉をひそめながらあたしのコレクションを手に取って、まじまじと見てる。

正直いまのあたしはそれどこじゃないし、ガン無視してたんだけど…

『妹にこいしよっ♪』を手にとって、パッケージの裏面を見た途端いきなりすんごいうるさい声をあげた。

「うおおおおおっ!? ごっ55000円だとォ――ッ!?」

「ちょっとうるさいっ! 考えてんだから静かにしてよ! そんぐらい初回限定仕様なら普通だってば!」


「いやいやオメー何言ってんだぁ!? いくらなんでも“たかがゲーム”に55000円ってのはちーとやりすぎだろーがよぉ!」


……“たかがゲーム”。

それを聞いてあたしはマジでブチギレた。


「はぁ!? “たかがゲーム”って何! アンタやっぱり馬鹿にしてるじゃない!」


うん、今なら認められる。
これはやつあたりだった。
でも、なんかもうその時はあたしの頭の中がグチャグチャだったんだ。

「アンタにとっちゃ“たかがゲーム”かもしれないけどさ! あたしはこのゲームが好きでこのゲームを買うために自分で働いて!
 そんで自分で買ったんだからアンタに文句言われる筋合いも馬鹿にされる筋合いないっ!」

ブチギレたあたしの顔を見てアイツは驚いたような顔をしてるけどそんなの関係ない。

「なんなの! ひどくない!? そうやって“たかがゲーム”とか!“所詮エロゲ”って括りで人を馬鹿にすんの!? 
 もういい! アンタに相談しようとしたあたしが馬鹿だった!」

一息にそこまで言って困ったような顔をしているアイツを睨みつける。

「そこまで言うつもりはねぇんだけどよぉ… 何つーか…気に触ったならスマネー」

怒りを爆発させたあたしを気遣うような声を出して謝ってきたけど、今はコイツの声なんて聞きたくなかった。

「うるさいっ!出てけ!出てけーっ!」

そう言って手元にあったゲームをぶん投げる。

「っとぉ!?」

思いっきり投げたのに、それはいともたやすく避けられてバシン!と壁にぶつかった。

「なぁ~…機嫌なおせよなぁ~?」

「うるさいっ!出てけって言ってるでしょ!出てけーっ!」

そう言って再度手元にあった何かを掴んだあたしを見て、ようやくアイツは引き下がることにしたらしい。

でも、そのまま出て行くわけじゃなかった。

あたしの部屋のドアの前に立つと、振り返ってこう言ったのだ。

「………まぁオメェが言うなら出てくけどよぉ~…人生相談とやらはいいんかよ?」

もう何も聞きたくないし、思いっきり掴んでいた何かをドアに向かってぶん投げた。

で…今度こそアイツは部屋を出て行った。

残されたのは当然あたしひとり。

部屋の真中であたしはもうどうすればいいのか判らなかった。

お父さんもあと一時間はしないで帰ってくるだろうし。

もしかしたら頼りになるかもと思ったアイツは、結局あたしが拒否をして跳ね除けた。

…どうすればいいんだろう

あぁそうだ…とりあえず本棚を元に戻してあたしのコレクションを隠さないと…

ぼんやりとした頭でそう考えて立ち上がろうとしたあたしはその時ようやく気が付いた。

ドアの真下に落ちてるそれ。

歪にゆがんだプラスチックのパッケージ。

あたしが大好きな可愛い萌え萌えしたキャラの絵柄の真ん中にヒビがはしっていた。

そうだ。

あたしはアイツに向けて手元にあった何かをぶん投げたんだった。

あたしの手元にはあたし厳選のゲームとかフィギュアとかがあって。

あたしはそれを掴んで思いっきりぶん投げたんだ。

あたしのベッドの側には最初にアイツに向かって投げつけたフィギュアが転がっている。

職人芸ともいえる精巧なフィギュアは当然無残に壊れてて。

…あぁもう。

ホント…最悪。

何だかあたしは泣きそうになっちゃって、考えるのも嫌になった。

壊れたフィギュアとヒビの入ったゲームソフトを拾って、これ以上壊れないように丁寧に収納スペースに隠して。

あたしはベッドに倒れ込んだ。

夕御飯なんか食べたくないけど…きっとお父さんに呼ばれるだろう。

堅物のお父さんは絶対にエロゲーなんて許してくれない。

きっとあたしの部屋を隅から隅まで探してあたしのコレクション全部を捨てるに決まってる。

それを考えるだけで憂鬱になってあたしは枕に顔をうずめた。

もう…何も考えたくない。

ゆっくりと睡魔にそう訴えながらあたしの意識はゆっくりと遠くなっていく。




ビリビリとした空気の中、張り詰めたお父さんの声が居間に響いた。

「黙っていては判らん。説明しなさい桐乃」

結局、あたしの現実逃避は現実逃避のまま終わった。

目が覚めたら全部夢だった、なんてこともなく。

お父さんのノックの音であたしは現実に引き戻されたんだ。

今、あたしはお父さんに本気で怒られている。

けどだからといってあたしはあたしの趣味を否定されるのが嫌で、口を開かないと決めた。

「桐乃! いい加減にしろ! 俺はこんなくだらんシロモノにこれ以上関わっているつもりなどない!」

バシン!と音を立ててお父さんがリビングのテーブルを叩く。

たったそれだけであたしの口を開かないという反抗心はへし折られた。

怖くて、悔しくて、でもやっぱりそれでも訴えたくて。

あたしは泣きながらお父さんにお願いした。

あたしがこういったゲームが好きなこと。

確かに世間一般じゃあ認められてないけど、それでも好きなんだってこと。

ゲームを買うためにお父さんお母さんからもらったお小遣いは一銭足りとも使ってないこと。

30分くらいずっとあたしはあたしのアイデンティティを守るために主張した。

そして、あたしの必死な懇願をお父さんは黙ったまま聞いてくれた。

そんなお父さんを見てなんとなくだけど判ってくれるのかもしれないってあたしは思った。

「…桐乃。おまえのいいたいことは判った。」

だから、そう言われた瞬間は本当に嬉しかった。

お父さんが理解してくれた、判ってくれたって。

でも違ったんだ。

「俺にはまったくもって理解できん。今の話からするとまだまだこういったくだらん下劣なシロモノがあるんだってことが判った。 今から10分以内にそれを全部もってこい」

「……お父さん?それって…」

「俺の娘がこんな倒錯した趣味にのめり込むとは思いもしなかった。父としてそれは認められん。全部叩き壊せばいっそ諦めもつくだろう」

予想はしてた。

けどそれはやっぱり絶望的な宣告だった。

「や…やだ!絶対やだ!それは絶対嫌!」

必死になってあたしはそう訴えたんだけど。

「桐乃。おまえの意見は聞いていない。10分以内だ。全部もってこい」

お父さんは頑としてそれだけを口にして、それ以上はこっちの意見を聞こうともしなかった。

あたしはカッとなって、お父さんに向かって何かをぶん投げようとしたしたんだけど、それも出来なかった。

「いい加減にしろ桐乃。今すぐ俺がお前の部屋を探しまわってもいいんだぞ?」

ジロリとそう睨まれたら、あたしはもう何も出来ないし何も言い返せなかった。

やっぱりお父さんは怖い。

逆らえない。

ガタガタと震える足でもって自分の部屋に向かう。

コレクションを全部まとめてお父さんに壊してもらうために。

廊下に出たらアイツがいた。

何とも言えない変な顔をしてこっちを見ていたけど。

「………なによ」

そう言ってもアイツは何も言い返すことなく静かにあたしを見つめていたんだ。



5回。

あたしは自分の部屋とリビングを5回往復した。

エロゲ、ギャルゲ、フィギュア、ポスター、トレカ、ねんどろ

とにかくあたしはお父さんの視線に追われるようにコレクションを全部リビングに運びだした。

もちろん最初は嘘をついた。

数点を差し出してこれで全部だと、そうお父さんに言った。

けどすぐにその嘘はバレた。

警察官のお父さんからしたらあたしの嘘なんて一目瞭然だったんだろう。

結局、あたしはあたしのコレクション全部をお父さんの前に引きずり出されることとなったんだ。

目の前に広がるあたしのコレクションを見渡しながらお父さんが深い溜め息をつく。

「…これで全部か?」

その視線にはただ嫌悪の感情だけがあった。

「……はい」

でも、かと言ってどうすることも出来ないあたしはただ小さくなって答えることしか出来ない。

「…まさかこんなにも数が多いとはな。俺の娘がこんなシロモノを持っていただなんてゾッとする」

そう言うとお父さんは私に向かってあるものを差し出した。

「桐乃。これを壊すのは俺ではない。おまえがやれ」

お父さんの手には金槌があった。

……嘘でしょ?

思わずそう聞き返したくなってお父さんを見て、後悔した。

嘘じゃなかった。

お父さんは本当にあたしにあたしのコレクションを壊させるつもりだ。

…そりゃお父さんからしたらここにあるのは只の下劣なシロモノかもしれない。

でもあたしにとっては違う。

あたしはこれを買うためにいっぱい苦労したんだ。

学校の勉強をしっかりやって、部活に全力を打ち込んで、モデルのお仕事だって懸命にこなした。

それを壊す?あたしが?あたし自身の手で?

金額の話じゃない。

お父さんが壊せって言ってるのは今までのあたしだ。

あたしの時間とか、あたしの努力とか、あたしの信念とかそういったものを一切合切全部無視して壊せって。

「どうした桐乃。おまえがやらないのなら俺がやるぞ」

あたしに金槌の取っ手を差し出しながらお父さんがそう宣言する。

でも、あたしはどうすることも出来なくて…

その時だった。


「高坂さ――ん ちょーっと待って欲しいんスけどいいスかねぇー?」


アイツがリビングの入り口に立っていた。

「…仗助君か。すまないが今は君の話を聞く余裕はない。 ちょっと席を外してもらえないか?」

お父さんの苛立ちを含んだ声がアイツに投げつけられる。

現役警察官であるお父さんのドスの利いた声は本当に怖い。

だっていうのにアイツはそれを聞いても全然気にしてる様子がなかった。

「いやぁ…何ツーかオレが口を出すどうかと思ったんスけどねぇ… やーっぱ見てられなかったんスよぉ~」

そう言いながらズンズンとアイツは歩いて、お父さんの真ん前に立った。

「……仗助君。それはいったいどういうつもりだい?」

アイツが立った場所はあたしの真ん前、まるでかばうようにあたしに背中を向けてアイツはこう言った。

「高坂さんの気持ちも判らなくはないんスけど… さすがに本人に壊させるっつーのはどーっスかねぇ?」

そう言って、チラリと金槌に眼を走らせるアイツ。

お父さんはそう言われて少し考える素振りを見せたけど。

「……確かにそう思うかもしれない。だが、これはウチの教育だ。口出ししないでもらおう」

とはいえ、お父さんがそんなことで自分の意見を変えるわけがない。

当然だ。

有言実行のお父さんが一度壊すと言った以上、あたしのコレクションは絶対に全部壊される。

けど、アイツはそれでも全然怯んだ様子はなかった。

「はぁ~確かにそうっスね… でもこの量をカナヅチ一本ってのはちとキツイんじゃあないっスか?」

そう言ってアイツはあたしのコレクションを指し示す。

確かにそれはアイツの言うとおりだった。

リビングルームのテーブルに埋まりきったあたしのコレクションは10や20じゃきかない。

カナヅチなんかじゃそれこそ数時間はかかるだろう。

でも…そんな言葉もお父さんには効果がない。

「…だとしてもだ。俺はこんな下劣なシロモノが我が家に存在していることなど許さん。よって壊すのは決定事項だ」

お父さんは自分の意見を頑として譲らない。

「っつーことは…ぶち壊すってこたぁ……変わらないってことっスかぁ~?」

「そうだ。さっきからいったいどういうつもりだ仗助君?これ以上君の話に付き合ってる暇はない」

そこまで言うとお父さんはゆっくりと金槌を振りあげて、あたしにこう言った。

「桐乃。おまえは壊す気がないようだな。それならそれで構わん」

それだけ言ってお父さんが金槌を勢い良く振り下ろした。

けど。

それは空中でビタリと止まっていた。

「仗助君!何を考えているんだ!その手を放しなさい!」

アイツがお父さんの手を掴んでいたんだ。

お父さんの怒鳴り声を聞いてアイツはニヤリと笑う。

「いやぁ~… そんな金槌じゃあヌルイと思ったんスよねぇ~」

そうアイツが言った途端、空気が変わった。

凄み…って言えばいいんだろうか?

なんかよく判らないけど圧迫感のような威圧感のような空気がその場全体を支配したんだ。

あのお父さんがビクリと身体を震わせるようなその空間で。

「壊すっつーならよぉー…こんぐらいは壊さなきゃあダメじゃあないっスかぁ?」

アイツがそう言った瞬間、誰も触っていないはずのテーブルが凄まじ勢いで跳ね上がった。

…なんなのこれ?

テーブルの上に乗っかっていたあたしのコレクションが宙に舞う。

意味が判らなくて、ただそれを見つめることしか出来ないあたし。

お父さんもそうだったんだろう。

目を真ん丸くしてそれを見ていた。

そして。

「ドララララララララララララァッ!!!!」

雄叫びのような声をアイツが叫んで。

その言葉と共にあたしのコレクションが空中で弾け、ひしゃげ、砕け、バラバラに四散した。


………えっ? 何? どゆこと?


「まっ…こんぐらいグレートにぶち壊しゃあ高坂さんも文句ないっスよねぇ~?」

そう言ってアイツはリーゼントを櫛で梳かしているけど。

あたしもお父さんも全然状況が把握できない。

ほんの数秒。

たったそれだけの短い時間であたしのコレクションは全部がグシャグシャのバラバラになっていたんだ。

「…嘘でしょ」

目の前に散らばるのは無残に破壊されたコレクションの数々。

それを見て、最初に湧き上がったのは怒りだった。

どうやってこれをやったの?とか、なんでお父さんを止めたの?とかそんなことよりも先に。

とにかくコイツがあたしの大事な何かをぶち壊した!

絶対叶うはずはないだろうけど、あたしは殴りかかろうとして。

けどあたしよりも早くバチン!と痛い音が響いた。

「……高坂さん。 痛てース」

親父が思いっきりアイツをビンタしていたんだ。

「…何スか高坂さん? こいつぁ高坂さんの望みどおりの結果じゃあないスかぁ?」

そうアイツが冷たくあたしのお父さんに文句を言った。

そして、アイツを思いっきり引っぱたいたお父さんはそこでようやく自分のしたことに気がついたみたいだった。

「…い、いや。すまない仗助君。ついカッとなってしまった」

お父さんが珍しく困った顔をしていた。

…おかしい。

何でお父さんが怒ったんだろう。

あたしには理解が出来ない。

そして、そんなあたしの疑問はお父さんも同じだったようだ。

「本当にすまなかった仗助君。確かに君の言うとおりこれは俺の望みどおりの結果のはずではある…んだが」

そんなあたしのお父さんを見て何故かアイツがほっとしたような目をする。

「やっぱ…あんたも警官なんスねぇ。 俺のじいちゃんもそうでしたよ」

そうポツリと呟いた。

あたしも…お父さんも何故か口が挟めない。

「街を守る人、家族を守る人、やっぱ変わんないんス。 娘さんが大事だから否定して、けど娘さんの大事なものを壊されたから怒ったんス。
 正反対に見えるかもしれないスけど…高坂さんがしたことはどっちも家族を守ることに繋がってるんスよ」

そう言ってあたしをチラリと流し見る。

「けど…ぶつかるより先に。 まずはお互い会話をして歩み寄って判りあわなきゃあならねー… オレはそう思うんスよねぇ」

なんでだろう。
只の高校生なはずなのに、その言葉はとっても重かった。

「…そうか。 …すまない仗助君。そう言えば君のお祖父さんである良平さんは…もう」

お父さんがそう言ってアイツに声をかけたけど。

「高坂さんもそれに薄々気付いてたんじゃあないっスかぁ? じゃなきゃビンタなんざフツーしないっスよぉ~?」

おどけるようにそういってソイツは自分の頬を指さした。

「歩み寄る……か。 確かに君の言葉は否定はしきれん。 いや本当にすまなかった仗助君」

真剣な顔をして再三謝ろうとしたお父さんだったけど…それをあいつは止めた。

「別にオレはたいしたことしてないスからねぇ~。 それより娘さんに何か言ってやったほうがいいんじゃないスかぁ?」

そう言うとアイツはのっそりとリビングを出て行った、

残ったのは親父とあたしの二人だけ。

お父さんは何も言わなかった。

バラバラグシャグシャになったあたしのコレクションがそこかしこに散らばってるけど、全く気にしてない。

心の奥底を推し量るようにお父さんがあたしを見ていた。

あたしは見つめられて目をそらすようなやましいことをした覚えはないし、ただお父さんを見つめ返す。

で、数秒か数十秒か数分かは判らないけど、お父さんがふぅと大きな息を吐いて…こう言った。

「桐乃。先ほど言ったくだらん下劣な趣味というのは取り消す。 俺は何も知らんし偏見でものを言ったことも認める」

…正直耳を疑った。

だってまさかあのお父さんが自分の意見を曲げるだなんて思いもよらなかったんだ

ていうかそれどこじゃなかった。

「だがそれでも18禁は許せん。 なんせおまえは中学生だろう。 反論はあるか?」

それって…裏をかえせば18禁以外ならOKってことじゃないの!?

「まぁ…とはいえこうまでバラバラだともはや俺には何が何だか見分けがつかんがな」

そう言ってお父さんは困ったように笑った。

足元には粉微塵となったパッケージやフィギュアの手足が散らばっている。

…で。その後あたしとお父さんはギクシャクしながらもリビングに散らばったあたしのコレクションの残骸を二人で拾い集めたのだ。



で、今あたしは自分の部屋にいる。

あたしの秘密スペースは何にも入っていない。

からっぽだ。

もう嫌になるくらいスッキリからっぽ。

だっていうのに、なぜかお父さんに対しての怒りは無かった。

もう燃えないゴミとなっちゃったあたしのコレクションを二人で拾ってる時、お父さんと色々話をした。

実はあたしがモデルをしている雑誌をこっそり買ってスクラップブックにしてるっていう話を聞いた時はホントに驚いた。

けど、お父さんはそれが恥ずかしかったらしい。

それと同じことなのかもしれないな、ってお父さんは苦笑いをしていた。

…なんかすっごい気に入らない。

だけど。

きっとこれはアイツのせいなんだろう。

アイツが有無をいわさず全部ぶち壊したからだ。

それを見たお父さんがあたしのために怒って。

それでようやくお父さんはあたしに秘密を言ってくれたんだ。

あたしとお父さんだけじゃ絶対こうならなかった

うん、それは判っている。

アイツがあたしのコレクション全部を壊したのをお父さんが見なければきっとこうならなかった。

お父さんにあたしの趣味を理解してもらってたのは正直嬉しい。

でも……それとこれとは話が別じゃない?

終わりよければすべてよし、あっぱれあっぱれ…じゃあすまない話もある。

今、あたしの心のなかにはアイツに対する怒りがフツフツと沸き上がっていた。

常識的に考えて有り得ないでしょこれ。

確かに?

アイツがいたからお父さんと判り合えたけど、アイツがいたからあたしのコレクションが全壊することも無かったかもしれない。

正直、馬鹿らしい考えだってのは自分でも判ってるけど。

でもやっぱりあたしは飄々としたアイツが憎たらしかった。

で、そんな時。

あたしのドアがコンコンって音を立てたんだ。

合板のドアのずいぶん高いとこで鳴るノック音……ってことは。

「よぉ~ ちーと話があるんだけどよぉ~?」

ドアの向こうからは間延びした声。

正直…今顔を見たくないし。

追い返すことにしよう。

「なに? 悪いけど今あんたの顔見たら殴りかかりそうだし。 話ならそこでしてよ」

全力で冷たい声を出してアイツを拒否する。

けど、全然あたしの言葉なんてアイツ気にしちゃいなかった。

「話だけですむなら別にそれでも構わないんだけどよぉ~… それじゃあすまねーんだよなぁ~」

そう言いながらガチャガチャとドアノブを回す。

残念でしたー。 鍵ちゃんとかけてるし。

「うるさいなー。 放っといてよ」

それだけ言うとあたしはベッドに寝っ転がる。

顔見たくないし、しばらくすれば諦めるでしょ。

「オレもよぉ…何時までも“コレ”持ち歩いてたくはねーんだよなぁ~」

困ったようなつぶやきと共にガサガサと何かを振る音が聞こえた。

ビニール袋かなんかが振られる音を聞いて、最初に連想したのはコンビニ袋だった。

お父さんに言われてあたしの好物をコンビニかなんかで買ってきたのかもしれないけど。

ドアを開ける気はない。

ってゆうかあたしのコレクション全部ぶち壊しておいて、それは虫が良すぎる話じゃん。

だからあたしは黙ったまま。

で、アイツもドアの向こうで黙ったまま。

我慢比べだ。

とか一人でそう思っていたんだけど…

バギャン!っていう凄い音が聞こえて思わずあたしは寝転がったまま飛び上がった。

何!?今の音!?

金属やら合板やらが砕け散るような音が確かに聞こえた。

で、振り向いてあたしはポカーンとする。

………何でコイツあたしの部屋にいるの?

さっきの破壊音はもしかしてドアぶち破った音?

そう思ってドアに目を走らせたけど何処にも変わったところはなく、無傷のままだった。

いったい何? 意味分かんないし?

なんなの? どゆうこと?

あたしは何だかもう意味が判らず頭がグルグルになってたっぽい。

アイツが手に持ってたのは大きなゴミ袋だった。

で、アイツは手に持ってたゴミ袋を…“中身”をドシャア!と床にぶちまけた。

それを見た途端、あたしはもう本気でむかついた。

アイツがあたしの部屋にぶちまけた“ソレ”はあたしのコレクションの残骸だったのだ。

お父さんとあたしが交わした話まで馬鹿にされたような気がして殴りかかろうとしたんだけど。


「確かによぉ~… 問題だよなぁ? ここまで壊れちまったらこりゃあもう燃えないゴミでしかねえしよぉ~」


そこまで言ってアイツはイタズラっ子のようにニヤリと笑ったんだ。


「けど問題はねーんだ。 判ってるかぁ“桐乃ォ”? 以前問題はねーんだよ」


そう言ってアイツは…ううん、違う。

東方仗助はあたしの目の前でとんでもない芸当をやってのけたんだ。

あたしの部屋一面に転がっている燃えないゴミ。

それがまるで録画したビデオを逆再生するかのような勢いで、動き出したのだ。

それはほんと数瞬だった。

瞬きをしたのかどうかすら判らない僅かな時間。


たったそれだけで、あたしの部屋にぶちまけられていた“燃えないゴミ”はすべて姿を消していて。

代わりに…

あたしの“萌えるコレクション”が勢揃いしてたんだもん。


「嘘……でしょ…?」

思わずそう呟いて、あたしは床に転がっているメルルのDVDケースを拾った。

プラスチックの確かな感触があたしの手を押し返してる。

これ……夢じゃない。

何だか全然判らないけど、ア…アイツがぶち壊した全部が元通りになってたんだ。

嬉しいやら驚いたやらでパニック状態のあたしをア・・・アイツが見てニヤリと笑ってこう言った。

「よぉ? オレは約束したんだしよぉ~ オメェも約束しろよなぁ?」

無くなったとばっかり思ってた大事なものがひょっこり手元に戻ってきたときの嬉しさって誰でも判ってくれると思う。

あたしも思わずニマニマしちゃってて人の話なんて聞いてなかった。

「え? な、なに? ごめんもう一回言って」

そういったあたしを見て、呆れたようにア…アイツが溜息をついたんだ

「おいおいおい勘弁してくれよなぁ? そのコレクションをオレに見せる前に言ってただろーがよぉ~?」

そう言われて、ようやくあたしは思い出した。

【ねぇ。約束してくれない? 絶対馬鹿にしない。絶対笑わない。絶対秘密にするって】

うん。確かにあたしはそんなことを言った。

えっと…つまり、このことは秘密ってこと?

まぁ…そりゃそうだよね。

正直あたしの頭じゃあ何が起きたかなんて全然理解出来ないし。

ってゆーか、とにかくあたしはコレクションが無事だったってことが嬉しくて、頭がまわっていなかったんだと思う。

「わ、判った。 秘密。 絶対誰にも言わない。 これあたしと“アニキ”だけの秘密ね」


そう言ったとたん、アイツが変な顔をして…ようやくあたしも自分が何を言ったのか気が付いたのだ。


「…いや。 知ってると思うけどよぉ~ オレァ従兄弟で…別にテメェの“アニキ”じゃあねーんスけど?」

ちょっと…何それ!?

何で気まずそうに言うのコイツ!?

ほんのちょっとした間違いじゃん!?

別に頼れる家族=アニキって考えはおかしくないし!!

つーかこの美少女ど真ん中のあたしがアニキって呼んだのに何よその迷惑そうな顔!?

そもそもアンタが最初にあたしのことを名前で呼び捨てにしたから、ついあたしもなんとなくそう言っちゃっただけだし!

さすがに呼び捨てってのもなんか気恥ずかしいし、かといって敬称とかもアレだしさ! しょうがない! しょうがないの!

なんか取り留めの無い感情がグジャグジャーって頭の中を縦横無尽に走ってあたしは何も言えなかった。

で、アイツはそんなあたしを見てハァと溜息をついた。

「……なんかずいぶん疲れてるみたいだしよぉ~ 今日は早めに寝たほうがいいぜぇ?」

そんだけ言ってアイツはあたしの部屋を出て行った。

うっわ!なにそれ!すっごいなんかもうアレ!!!

見下されてる!

っていうかなんかもうバカにされてなかった!?

悔しいやら嬉しいやら恥ずかしいやらでもう爆発寸前なあたし。

気がつけば考えるよりも先にあたしの身体は動いていた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

ドアノブに手をかけたアイツにそう声をかける。

「はぁ~? …今度は何だよ?」

めんどくさそうにイーッとした顔を見せられて。

けど、なんとなくその顔が優しく見えちゃうとかホント最悪。

で、結局あたしは呼び止めたのはいいものの。

そっぽを向いてこう言うのが精一杯だった。

「えっと…その…ありがと。 あと人生相談…これからもまだあるから」

仗助アニキってのはなんとなく恥ずかしくて喉の奥に飲み込んだのは秘密。

で、あたしのそんな素直な言葉を聞いてアイツは

「そいつぁ別に構わねーけどよぉ… メンドクセーのは勘弁してくれよなぁ?」

そう言ってゆっくりと笑ってくれた。


<終>



213 :セロテープ ◆CERO.HgHsM :2010/12/20(月) 05:34:33.24 ID:PoG6aPsh0
うわーい!もう面倒くさすぎて寝る!
書き溜めなんてしてない即興だしね!
続きは多分ない。

岸辺露伴とバジーナ
あやせと億泰
黒猫と仗助

とか色々考えてたたけど思っていた以上にめんどっくせえええええええ

オヤスー^q^


←ブログ発展のため1クリックお願いします
スポンサーサイト


コメント

  1. 匿名サァーン | URL | -

    兄貴がジョースケって羨ましいなサム。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://kannki.blog39.fc2.com/tb.php/2648-2da77410
この記事へのトラックバック



アクセスランキング ブログパーツ レンタルCGI
/* AA表示 */ .aa{ font-family:"MS Pゴシック","MS PGothic","Mona","mona-gothic-jisx0208.1990-0",sans-serif; font-size:16px; line-height:18px; }