唯「まじーん、ごー!」 第十四話 宿命! いくつもの出逢いと別れなの

2011年03月19日 19:20

唯「まじーん、ごー!」

358 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 18:56:32.00 ID:mFjspvM0

 第十四話

ギレン「ジオン公国の栄誉たる国民一人ひとりに問いたい!」

 演壇に立った痩躯の男は重いバリトンで吼えた。

ギレン「諸君らの父が、友人が、恋人たちが死してすでに幾月が流れたか、思い起こすことを忘れたわけではないと信ずる。しかし、ルウム戦役以後、諸君らはあまりにも自堕落に時を過ごしてはいないだろうか? 地球連邦軍の物量と強権の前に、屈服も良し、とする心根が芽生えてはいないだろうか? なぜ、そのように思うのか? 選ばれた国民であるはずの、諸君らが、なぜに地球連邦軍の軟弱に屈服しようとするのか?我、ジオンの創業の闘士、ジオン・ズム・ダイクンは、我らに言い残したではないか!」

 右手で固い拳を握る高貴な装いのギレン・ザビの頭上に陰影を落とすのは、つい二日前に訃報が届いた貴公子の肖像だった。

 ガルマ・ザビ――連邦軍と戦い、壮絶な戦死を遂げた彼をジオン公国の首都ズムシティは悲しみに泣いていた。

 五日前に届いたビデオレターで彼はこう言った。

『親の七光りで将軍だ、元帥だと国民に笑われたくはありませんからね。父上もご辛抱ください。必ずや、大きな戦果を私自身の手で収め、将軍として立って見せます』

 ザービ! ザービ! ザァービ! ザーァービ!!

 ガルマの死を、家族の死と重ねたジオン国民のコールを思い出す。ここにいるだけでも二十万。コロニー全体ならば二千万人はいたはずだ。

デギン(この世論があれば、ギレンを倒せたのではないか……?)

 公王として玉座に座るデギン・ソド・ザビが演壇で拳を震わせる背中に鈍く目を光らせた。
 デギンを玉座の奥に追いやり、実質的な独裁政治の頂点に立ったギレンを抑えるには、ガルマの存在は必要不可欠だった。
 国民の人気を一身に受け止め、父想いの彼ならばギレン以上の、いやジオン100年を繁栄させる男になっていたことだろう。

ギレン「宇宙の民が地球を見守り、その地球を人間発祥の地とすべき時代に、地球を離れることを阻む旧世代が、宇宙の民たる我らを管理支配しようとする。宇宙の広大無比なるものは、人類の認識域を拡大して、我らは旧世代との決別を教えられた。その新しき民である我らが、旧世代の管理下におかれて、何を全うしようというのか? 我らこそ、旧世代を排除し、地球を聖地として守り、人類の繁栄を永遠に導かねばならないのだ。銀河辺地にあるこの太陽系にあっても、文明という灯を守り続けなければならない。これが、ジオンの創業の志であったことは、周知である。にもかかわらず、諸君らは、肉親の死と生活の苦しさに、旧世代に屈服しようとしている。ジオン創業の時代を思い起こしたまえ! 地球よりもっとも離れたこの新天地、サイド3こそ、諸君らの父母が選んだ、真に選ばれた人類の発祥の地であることを思い起こせ! ジオン・ズム・ダイクンのあの烈々たる演説『新人類たちへ』を知らない者はいない! 思い起こせよ! 我らジオン公国の国民こそ、人類を永遠に守り伝える真の人類である……!」

 だが、現実としてガルマは死に、聴衆はギレンの演説に心酔している。弟の死は悲しむべきだが、それすらも陰謀と化すギレンは大きく右手で聴衆に手を広げる最中であくまでもさりげなく、デギンを睨んだ。
 ギレンにとって、父デギンはもはや汚物にも等しい存在なのだった。むしろ人間であるからこそ厄介である。聞けばダルシア首相と密談を交わしているという。
 今日がガルマではなく、デギンの葬式であれば、事はもっと容易にギレンの好むほうに転んでいたはずだ。

ギレン「何の洞察力も持たない地球連邦の旧世代に人類の未来を委ねては、人類の存続はあり得ないのである。ただただ絶対民主主義、絶対議会主義による統治が、人類の平和と幸福を生むという不定見! その結果が、凡百の無能者と人口の増大だけを生み出してゆくのである。その帰結する処は何か? 無能な種族の無尽蔵な増加は、自然を破壊し宇宙を汚すだけで、何ら文明の英知を生み出しはしない! 種族の数が巨大になり、自然の体系の中で異常と認められるに至ったときは、鼠であろうと蝗であろうと集団自殺をして自然淘汰に身を任せてゆく本能を持ち合わせている。これは、生物が自然界に対して示すことのできる唯一の美徳である」

キシリア「兄上もよくやる……」

 デギンとギレンの水面下のせめぎあいは知るものにはよく知られていた。
 キシリア・ザビ少将が専用の冠に似たヘルメットを脇に抱えて言うのを聞いて、ドズル・ザビ中将は堪忍袋の緒に鋏を差した。

ドスル「シャナは姉上が引きとると聞いたが……」

 毒づくドズルにキシリアはぬけぬけと返す。

キシリア「シャナは軍籍を剥奪されたのでしょう? なら、その後をどうしようと私の勝手。法的には何の問題もありません」

ドズル「シャナはガルマを守りきれなかった……! 他の部下への見せしめに左遷したのだ。それをないがしろにしてはガルマも報われぬ……!」

キシリア「シャナは有能です。使ってあげたほうが、親友であったガルマのためにもなるでしょう」

 冷たい言葉に200センチを超える巨漢のドズルは溢れる涙を止められなかった。

ドズル「ガルマこそ、将帥となってワシを使うはずの男だったのだ……この口惜しさはわかるまい! 兄上も姉上も政治家だ、陰謀家だ! だが、ガルマは違った……奴は真にジオンの救世主たるに相応しい男だったのだ……!」

キシリア「率直だな。ガルマにいい手向けになる」

 演説は続いていた。ドズルの涙は滾る熱気に蒸発してしまった。
 
ギレン「それがどうだ! 知恵がある故に、人類は自然に対して傲然として傲慢である。自然に対して怠惰である。ジオンは、諸君らの総意をもって、諸君らの深い洞察力ある判断をもって、自らに鉄槌を下したのである。人類が自然に対して示すことのできる贖罪を成したのである。時すでに八ヶ月余り! ここに至って諸君らが、初心を忘れたとはいわせない!」

ギレン『思い起こせよ! 我、ジオンの栄光ある国民よ! 諸君らの肉親の死を追って、我、愛するガルマが死んだ! なぜか!』
 
シャナ「坊やだからさ」

 軍用ジープの中でその嘲笑は、フルボリュームのラジオにかき消されていた。

ギレン『ガルマは、闘いに疲れた我らに鞭うつために死んだのである! 同胞の死を無駄にするなと叫んで死んだのである! 彼は……! 諸君の愛してくれたガルマは、ジオン公国に栄光あれと絶叫して死んだ! なぜか! ジオンの、いや、諸君ら、英知を持った人類による人類の世界こそ、真の人類のあるべき姿と知るからこそ叫べたのである。ジオン公国に栄光あれ、と! 起てよ! 国民! 今こそ、我らの総意をもって地球の軟弱を討つ刻である! ジークジオン!』

 ジークジオン! ジークジオン! ジークジオン! ジークジオン!

 ギレンの憤激を受けたジオン国民が解放した熱にシャナは頭が痛くなった。
 いや、頭痛の原因は耳障りなラジオではない。
 軍籍を失ったシャナを慰労館へ連れて行く部下の気遣いのせいでもない。

アラストール「大丈夫か、シャナ?」

シャナ「またよ……また……」

アラストール「しかし、我にも気がつかぬこととは、誠なのか?」

シャナ「…………」

 天上の劫火の問いにシャナは応えなかった。
 ギレンの演説が終わり、ラジオのスィッチが落とされたからである。

ジオン兵「着きましたぜ、少佐」

 荒野の貧民街の外れにある瀟洒な建物。
 三階建てだが、一階の喧騒に比して二階三階は隙間なくカーテンが閉められている。
 一階の酒屋で指名を受けた娼婦が上の階で客の相手をする典型的な娼館だが、手前上あくまでも慰労館である。

 もちろん、女であるシャナにこんな場所は無意味である。
 なのに、彼女はここに来ることを選んでいた。

 膝までの長い髪を乾いた風になびかせるシャナの前を行くジオン兵がウェスタンドアを開いて酒屋に入る。
 アルコールとタバコと硝煙――それとドラッグの匂い。
 ジオンの高官が来ているというのに、場は怒号と交渉で個々に盛り上がっていた。

シャナ「――ッ!?」

 見られている――いや、このざらついた感覚はそう、見透かされているようだ。

 シャナはその視線を探す。いた。一番端のカウンター。
 浅黒いインド系の肌の女だ。年齢はよく十代であることは確かだが、一にも見えるし九にも見える。

 目が合ったとき、薄く微笑んだ。それは娼婦が客を取るための媚びたものではない。

シャナ「お前、何を見た?」

 まっすぐにその女の許へ行き、シャナが訊ねる。

「あなたたちの後ろにあるもの……奪ったものかしら」

 シャナは驚愕した。この女には、正しいものが見えている。
 女の額でヒンドゥー教徒のビンディーがつぶらに光る。

シャナ「お前……名前は?」

「……ララァ。ララァ・スン」


←ブログ発展のため1クリックお願いします
 北米大陸 テキサス州 ゴラオン

 ジオン軍のガルマ・ザビを撃破したゴラオンは南米大陸のジャブロー基地との連携を取るために、大陸南端部に乗り出してきていた。

マチルダ「ガンダム及びコア・ファイターのパワーアップパーツ及び、オーラバトラーにも搭載が可能と思われる部品とその他の補給物資をお持ちしました。こちらがリストになります」

エレ「お預かりします。ありがとうございます」

マチルダ「報告の参考までにお訊ねしますが、これからエレ女王はどうなされるおつもりでしょうか?」

エレ「そこまでかしこまらなくてもよろしいですよ。我らは異邦の者ですから」

マチルダ「は。了解しました」

エレ「ゴラオンはこのまま南下して、ジャブローにある連邦基地との連絡を交換したいと思っております。必要ならば、エイブ艦長に言って航空地図をお渡ししましょう」

マチルダ「これは……あくまでも私の独り言として受け止めてくださるとありがたいです」

エレ「……なんでしょう?」

マチルダ「ジャブローとは連絡を取らないほうがよろしいかと思います」

エレ「どういうことですか?」

マチルダ「ジャブローは協力を取り付けるどころか、あべこべにゴラオンの戦力を接収しようとするでしょう。そしてそれを拒否したとき、ジオンを倒した後の標的が新たに増える可能性が非常に高いです」

アリサ「なぁに、それ!? ジャブローっていうのはそんなにヤなオヤヂの集まりな訳!?」

 ブリッジに入り込んできたのは、アリサ、すずか、なのはだ。
 声高な少女を見て、マチルダはやや驚いたようだったが、すぐに思い出す。

マチルダ「あなたたちが、ガンダムのパイロットなのね。はじめまして」

すずか「は、はじめまして」

マチルダ「あなたが月村すずかさんね」

すずか「どうして私の名前を……?」

マチルダ「あなたのお姉さんの忍さんとはお知り合いなの。心配していましたよ、あなたがガンダムに乗っていると聞いて」

すずか「ご、ごめんなさい……」

マチルダ「ふふ、伝えておくわ。でも、こうも言っていたわよ。あの子なら、うまく扱えるでしょうって」

すずか「そ、そんなことは……」

アリサ「そーんなことあるんですよ! すずかは本当にガンダムをこの中で一番うまく扱えてるんです! ねぇ、なのは?」

なのは「はいっ! すずかちゃんがいなかったら大変なことがいっぱいです」

 三人の応酬にマチルダは穏やかな笑みを浮かべていた。
 短くまとめられた髪、きゅっと引かれたルージュ、メリハリのきいたボディラインと女性士官の軍服。
 マチルダ・アジャン中尉にすずかたちは大人の女性の美しさを見た。


 ゴラオンの一室

 先の戦闘でオーラ力を爆発させた珠姫は、起き上がりはするものの体調は明らかに落ちていた。
 今も寝台に半臥した状態でチャムが上げてくれるスプーンで食事を摂っている。

チャム「タマキ、まだ指が開かないの……?」

珠姫「そうだね……まるで指だけが別の人のものみたい」

 トッド・ギネスに突きを入れた後の珠姫の指は、ダンバインの操縦桿を握った形のまま解けなくなっていた。
 それは珠姫の意思だけの現象ではなく、チャムが指を持って引いても押しても、関節はぴくりとも動かないのだ。

珠姫「これもオーラ力が強くなったせいなのかな?」

チャム「でも、オーラ力が高まっているときのタマキは、なんだかタマキじゃないみたいで恐いよ」

珠姫「うん……わかるよ。私も恐い……自分が変わっていくのがわかるんだ……」

紀梨乃「タッマちゃーん、やっほー!」

 部屋の扉が乱暴に開かれていつでも明るい紀梨乃が入ってきた。
 びっくりしてチャムはスプーンを落としてしまった。

チャム「きゃぁっ、こぼしちゃった! もう、キリノったらぁ~!」

紀梨乃「ややや、ごめんごめんご。タマちゃんはじっとしてていいからね~」

珠姫「はい、じっとしてます」

チャム「あれ? キリノ、その花……?」

 こぼれたご飯を拭き取る紀梨乃は左手に数輪の花を持っていた。

紀梨乃「これ? 来る途中に生けてあったからもらってきちゃった。キレイっしょ、タマちゃん?」

珠姫「はい、ありがとうございます」

チャム「でも、キリノ……その花って……」

紀梨乃「そう、これバイストン・ウェルの花なんだよね~、こっちに来てもまだ咲いてるのも不思議だよね~」

チャム「その花って、バイストン・ウェルで『結婚の花』って言って、それを誰かに渡すのは『結婚してください』って意味なのよ?」

紀梨乃「へ……?」

珠姫「…………」

 部屋の中に気まずい空気が流れる。

珠姫「ごめんなさい」

紀梨乃「い、いいのよいいのよ、タマちゃん! 気にしちゃダメダメよ~」

チャム「ふーん、地上って女の子同士でも結婚できるのね」

紀梨乃・珠姫「…………」


 ゴラオン 格納庫

アリサ「へぇー、これが新しい私のコア・ファイターね」

リュウ「お前のものとは決きまっとらんぞ」

アリサ「いいじゃないの! どうせ私たちぐらいしか乗ってないんだから!」

 少し離れたところのすずかとなのははマチルダと一緒の輸送機でやってきた整備兵見習いの少年から説明を受けていた。

すずか「それじゃあ、ガンダムは駆動系を中心にパーツを取り替えていくことになるんですね」

「はい。全体的にマイナーチェンジですけど、アポジモーターは新しく開発されたものなので、運動性は向上しているはずです」

なのは「それで、こっちのパーツがGパーツなんですね?」

「そうです。ガンダムはコア・ファイターとAパーツ、Bパーツの部品が合体して立つわけですけど、Gパーツを使うことで様々な用途に対応して換装させることができるんです。これがマニュアルです」

 まだ14、5の少年から手渡された分厚い紙束がすずかの小さくて柔らかい手にずっしりと乗っかる。
 少年はやや不安げにそれを見て言った。

「あの、今さらですけど、本当にあなたがガンダムのパイロットなんですか?」

すずか「あ、はい。よく言われますけど、そうです」

「失礼しました。僕も乗り方は知っていますけど、実際に動かすなんて、僕には無理そうだなって」

なのは「分かるんですか、ガンダムの動かし方?」

すずか「私が言うのもなんですけど、機密事項のはずじゃあ……」

「僕の父さんも、ガンダムの開発で技術責任者をしていたんです。母さんとケンカして一人で宇宙に上がっていったきり、直接会ったことはないですけど。僕がこの仕事をやれているのも、父さんのコネみたいなものですから」

すずか「そうなんですかぁ。私もお姉ちゃんに会いたいなぁ……」

「会えますよ。きっと」

すずか「ありがとうございます」

 そう言って少年はガンダムから離れていく。
 ナイーブで神経質そうな横顔だが、自分の工具箱を持って歩く様は充分に技術者の後ろ姿だった。

 ドレイク・ルフトの旗艦ウィル・ウィプスは北米大陸の東部で司令官を失ったジオン軍を接収していた。
 残党兵とはいえ、その90%以上の吸収に成功したショット・ウェポンはやはり大した手腕だと、トッド・ギネスは苦笑していた。

トッド「俺も、ヤキが回ったもんだぜ」

 ボストンの広い町並みの上を偵察用飛行型オーラマシンに乗って、トッドは減速した。
 先の戦闘でオーラ力を拡散し続けて、レプラカーンを破壊した彼は主君ドレイクからしばらくの暇を与えられていた。
 トッドは当然断ったが、トッド用の機体――正確には彼についていける機体――がなくなったことは確かであり、新しいオーラバトラーが完成するまではウィル・ウィプスにいても仕方がなかったため、そのねぎらいを受けた。

トッド「新しいオーラバトラーはたしかズワァースとか言ったか……」

 ジオン軍のほうでは、ガルマ・ザビ大佐の弔い合戦を申し出、ドレイクもアレンたち三人を出すことにしたらしい。
 アレンはトッドの軍人時代の先輩にあたる。下手に軍功を立てられては、今の地位はすぐに取り替えられてしまうことだろう。

トッド「やられてくれるなよ、タマキぃ……」

 民家に降り立って、トッドはその家に入っていった。

トッド「ママァ!? ママはいるかい! トッドが帰ってきたぜ!」


 ゴラオン 格納庫

すずか「マチルダさんはどうして補給部隊に入ったんですか?」

マチルダ「そうね。戦争という破壊の中でただひとつ、物を作っていく事ができるから、かしらね」

アリサ「物を作る……」

マチルダ「戦いは破壊だけでも、人間ってそれだけでは生きていられないと私には思えたからよ」

すずか「マチルダさんって、すごい人なんですね」

マチルダ「あら、生意気なことを言ってくれるじゃない」

なのは「にゃははは」

 ヴーッ! ヴーッ!

マチルダ「敵襲!?」

ゴラオン兵「二時の方向よりジオン・ドレイク軍です! ウィル・ウィプスは見えていませんが、二機のレプラカーンにビランビーと見たことのない黒いモビルスーツが三機、先頭に立っています!」

アリサ「黒いモビルスーツ、新型なの!?」

すずか「ガンダムで出撃しないと……」

 ガンダムの許へ走ってすずかは悲鳴のような声をあげた。

すずか「こ、コア・ファイターが入ってない!」

リュウ「す、すまん、月村! Gパーツとの換装組み立てに使っちまってる! ガンダムは出せん!」

すずか「そんな……すぐに戻せないんですか!?」

リュウ「まだ手作業でしか換装ができんから、すぐには無理だ」

すずか「そ、それなら私は二つあるコア・ファイターで……」

アリサ「やめときなさい、すずか。あんたまだちゃんとコア・ファイターで出撃したことないでしょ!」

すずか「で、でも……」

アリサ「たまには、私にいいとこ見せさせなさいよ!」

リュウ「アリサの言う通りでもないが、ガンダムは月村が乗るべきだ。残っていたほうがいい」

すずか「わ、わかりました。お願いします」

リュウ「おう、任せろ!」

 分厚い胸をリュウはどんと叩いた。すずかにはそれがとても頼もしく見えた。

なのは「高町なのは、いきまーす!」

 先に出たなのはを追いかけて、リュウ、アリサのコア・ファイターが続いて発進した。
 すずかはガンダムの換装作業を手伝いに走る。その後ろから大きな声がした。

紀梨乃「タマちゃん、ダメだよぉ! 安静にって言われてるじゃんか!」

チャム「タマキぃ! 降りてきてぇ!」

 ステップの手すりに身を乗り出して嘆願する紀梨乃の横を、ダンバインがオーラの光りを発しながら飛び出していった。


 ゴラオン ブリッジ

エレ「オーラバトラーは各個に防衛網を維持。長期戦に備えなさい」

エイブ「ジオン軍はガルマ・ザビ大佐の弔い合戦の構えです。そうは退かないでしょう」

エレ「逆に、ドレイク軍には価値の薄い戦いといえます。まずはドレイク軍とは戦線を保ちつつ、ジオン軍を抑えましょう」

ゴラオン兵「エレ様! 反対方向、六時の方向からオーラバトラー、多数接近!」

エイブ「なんだと! 挟撃か!?」

エレ「ゴラオンの砲手をそちらに向けなさい! 進攻を許してはなりません!」

『ヘイ! その必要はアリマッセーン!』

エレ「えっ?」

エイブ「えっ?」

ゴラオン兵「えっ?」

 回線に何者かが割り込んでいた

『ゴラオンのバックはミーに任セナサーイ!』

エレ「えっ?」

エイブ「えっ?」

ゴラオン兵「えっ?」

 ドスンッ! ゴラオンの後部に突如、巨大なロボットが降り立った。

 いかつい髑髏のような外観にテンガロンハットとマントのようなレインコートで腰にはベルトで銃が吊ってある。

ジャック・キング『HAHAHA!! グレイトなステイツはテキサスマックが守リマース!』

 FU FU FU……YAH!
 OH カレタクサノカタマリガーカゼニフカレテー
 コーウヤヲコロガッテイクゼーオレハーヒトリサー
 OH アイアンザーップヲキメーター ビリーザキッドモー
 SOH タタカウオトコニニアーウー ユウキガアルーゼー
 OH トコガユメヲオイカケルーシンクノガンマンー
 マッカナチシオノキズナデーマタデアオオウゼー FU……
 yeah yeah yeah……wow wow wow……
 HEY! カゼヲキルヨウナオレーサァー ソレデモーキットー
 オーマエトハイッテイレーバー マタアエルダロウー
 マタアエルダロウー マタアエルダロウー FU……
 yeah yeah yeah……wow wow wow……FU……Ah!

ドレイク兵「なんだ、あのふざけた兵器は!」

ジャック<気合>「ヘイ! カマァーン! カマンカマンカマンカマァーンッ!」

ドレイク兵「うおぉぉぉぉっ!」

 ドウッ! バストールからフレイボムが放たれる!

ジャック<挑発>「そーれがユーのマキシマムですかぁ~!?」

 ザンッ! ズバァッ! テキサスマックがどこからか抜いた剣でフレイボムを叩き落した!

ドレイク兵「くそっ! 一斉にかかるんだ!」

 ドレイク軍のオーラバトラーが編隊を成して襲い掛かる!

ドレイク兵「喰らえっ!」

 ビシュッ! 剣がテキサスマックに迫る! だが、まるで影を踏むかのような動きで素早く避けた!

ジャック<閃き>「HAHAHA!! ハズレッネ!」

メリー「兄さんヌ! 避けてはダメよ! ゴラオンを守らないと!」

ジャック<脱力>「オォーウ! SHIT!」

 テンガロンハットに乗り込んでいる妹のメリー・キングにたしなめられて、ジャックは剣をどこかにしまい、ホルスターから二丁の拳銃を持ち上げた。

ジャック<必中>「オーケェーイ! アメリキャーをこれ以上好きにはサセマセーン! GO TO HELL!!」

 バキュンッ! バキュン! バキュン! バキュン! 二丁のマックリボルバーが交互に発砲しまくる!

ドレイク兵「うわぁ!」

 全高38メートルのテキサスマックが放つ弾丸は一発が1メートルぐらいはある。
 装甲も薄くサイズも小さいオーラバトラーは次々と落ちていった。

ドレイク兵「このおぉぉぉぉ!」

 ブゥン! バキューンッ! 渾身の一撃もあっさりとかわされて、弾丸を叩き込まれてしまう。

ジャック<幸運>「ヘイ! ユーアー・HE・TA・KU・SO!! アンダスタァン?」

ドレイク兵「があぁぁぁぁぁっ!」

 ガキンッ! 最後に残っていた一機のバストールがテキサスマックの髑髏顔に剣を突き刺すことに成功した!

ジャック<根性>「オーゥ! ミーを本気にサセタネー?」

 その反撃で作戦失敗の気が晴れたのか、バストールは全速力でテキサスマックから離脱していく。

ジャック<不屈>「ジーザス! 逃げられてシマイマース!」

メリー「兄さんヌ! まじめにやってよ!」

ジャック<加速>「ヘェイ! GO!」

 ドォンッ! テキサスマックは巨体を爆進させてバストールを追っていく。

 その途中、テキサスマックは二丁のマックリボルバーを両手でごちゃまぜにし、気がついたときには一丁のマックライフルになっていた。

ジャック<狙撃>「チッチッチッチ、なってませんネー」

 ジャキンッ! テキサスマックは長いマックライフルを構え、照準をバストールに合わせた。

ジャック<狙撃必中熱血>「オォーイエーアー! ファイアーッ!」

 ドキュゥンッ! ライフル弾が遠く離れたバストールを貫いた!

ジャック<友情>「HAHAHA!! ミーがいるカッギーリ! アメリキャーは渡シマセーンッ!」

 ほんの数秒の間に、テキサスマックは二十機近いオーラバトラーを落としてしまった。

メリー「ブラボォー! さぁすがぁ! 兄さんヌ!」

ジャック「HAHAHAHA!!」

メリー「でもたぶん、登場は今回限りよ。原作でもそうだったし」

ジャック「フッ……アメリカの故郷が守れるなら俺には出番なんていらねぇのさ」キリッ

 ゴラオンの前方では、リュウのコア・ブースターを追い抜いてダンバインが先に二機のレプラカーンと一機のビランビーに接触しようしていた。

リュウ「おい、川添! お前は体調がよくないはずだろ! 無理をするんじゃない!」

珠姫「できます! 私はオーラ力を制御しなければならないんです!」

 さっきまで動かなかったはずの彼女の指はダンバインの操縦桿に吸い付いているようだった。

珠姫「レプラカーンとビランビー……トッドじゃない、地上人!」

 アレン・ブレディ、フェイ・チェンカ、ジェリル・クチビの三人だ。

珠姫「はあぁぁぁーっ!」

 ダンバインの剣にオーラ力を乗せ、先頭のレプラカーンと打ち合う。

ジェリル「はん! クソガキが!」

珠姫「こんな戦いに何の意味があるというんですか! 同じ地球人同士で争って!」

ジェリル「少なくとも、アタシにはこっちの生活のほうがマシだねぇ! ジャップの甘ったれ嬢ちゃんにはわからないだろうけどさ!」

珠姫「そうやってあなたは人を見下すことしかできないの!?」

ジェリル「聖人君子のつもりかい! 反吐が出るよ!」

 ギャインッ! 大振りなジェリルの剣に体積で劣るダンバインが押し出され、背後にはアレンとフェイが迫っていた。

アレン「もらった!」

フェイ「喰らいな!」

珠姫「やあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ガンッ! ギキィンッ! 振り向き様の鍔でフェイの剣を打ち上げ、刃をアレンと重ねる!

珠姫「あなたは故郷を守るの!? それとも侵略するつもり!?」

アレン「どっちだっていいことさ。俺の親だってロクなもんじゃねぇ」

珠姫「そんなのは答えになっていない!」

アレン「一握りの金で、人間はやっていけるってことさ」

フェイ「どけっ、アレン!」

 ガッ! ガァンッ! フェイ・チェンカのレプラカーンが両手持ちした剣を打ち込んでくるのを、珠姫は弾き返していく。

珠姫「そんな乱れた太刀筋で!」

フェイ「ダンバインだってガタモンだろうよ! ふらふらしてるぜ!」

珠姫「私は剣を迷わせたりはしない!」

フェイ「迷ったことがないだけだろぉが!」

珠姫「なん――ッ!?」

 ほんの僅かに、フェイのオーラ力が珠姫のそれを上回った。

 バァンッ! 二人の剣が触れ合った場所で爆発が起きたみたいに、剣は反発しあって機体ごと吹っ飛ばしあう!

 それを見定めたジェリルが一気に詰め寄る!

ジェリル「終わりさ! ダンバイン!」

リュウ「させるかーっ!」

 バババババババババッ! コア・ファイターで乱入してきたリュウ・ホセイがバルカンを連射しながらレプラカーンに突っ込んでいく!

ジェリル「ちぃっ! 邪魔が入る!」

紀梨乃「タマちゃん!」

 続いて、紀梨乃のボチューンも追いついてやってきた。チャム・ファウも一緒だ。

チャム「タマキぃ! 大丈夫!? 死んじゃってない!?」

珠姫「はぁっ、はぁっ……」

 接触した珠姫は呼吸を荒くしていた。前回と同様、これほど怒気を露わにしている珠姫に紀梨乃も若干の恐れを抱いた。

紀梨乃「タマちゃん、無理しちゃダメだよ! もうダンバインを戻して!」

珠姫「いえ、まだっ……! せめてあの人たちを遠ざけるまで!」

紀梨乃「……わかったよ、タマちゃん」

チャム「キリノ!?」

珠姫「部長……」

紀梨乃「でも、絶対に死んじゃダメだからね」

珠姫「……はいっ!」

アレン「ボサっとしてる余裕があんのかね!」

 グォーン……! コア・ファイターを振り切ったアレンが剣の切っ先をまっすぐ伸ばして突き進んでくる。

 それをダンバインとボチューンはバラけて避けた。

珠姫「やぁぁぁーっ!」

 ガキィンッ! オーラ力を散らしながら、剣はぶつかりあった。

 地上を走るのは、黒い装甲に十字の中のモノアイ、そして腰部からフレア・スカートのような傘がついたモビルスーツだ。

ガイア「アッハハハハ、このドムというやつはすごいな。つい三日前までザクに乗っていたのが嘘みたいだ」

 黒いスカートつきのモビルスーツ・ドムに乗るミゲル・ガイアは三段階のブロックが組まれたアクセルペダルをいっぱいに踏み込んだ。

オルテガ「こんな速度を出しながらザクより揺れないとは、ジオンの技術者も捨てたものではないな」

 後ろから同じドムでついてくるオルテガの言うとおり、ドムは走行中の揺れというものとは無縁の機体だった。
 なぜなら、スカートに隠れたドムの脚部には熱核ジェットエンジンが取り付けられており、地面と接さないホバー走行が可能となっているのだ。

マッシュ「これなら、連邦の巨大戦艦と白いモビルスーツをやれるかもしれんな」

 また、ザクと比べて武装も進化している。
 ザク・マシンガンと呼ばれる120ミリは給弾速度が格段に上がっているし、360ミリの大口径バズーカに対モビルスーツ用に開発された簡易ロケットランチャー・シュツルムファウストとヒート・サーベルはザク以上に取り回しが容易だ。
 試験搭載されたビーム砲も出力は弱いがそれ故に至近距離で目くらましに使用することが出来る。

マッシュ「隊長、敵の戦艦が視界に入ってきましたぜ」

ガイア「慌てるな、マッシュ。俺たちの任務は連邦の白いヤツだ」

オルテガ「迎撃が出てきたぜ! 戦闘機だ!」

ガイア「報告によれば、シャナ元少佐と同じ力を持ったヤツが一緒のはずだ」

 少佐の前に元をつけることでガイアはシャナを侮蔑したつもりでいる。
 三機はフォーメーションを整えた。
 敵の戦闘機をモニターで確認した瞬間に、ガイアはマシンガンのトリガーを引いた。

ガイア「やはりいる! 白いガキ!」

 コア・ファイターには寄り添うように白く光りを放つものがいた。

オルテガ「奴らを落としゃモビルスーツも出てくる!」

 ダダダダダダダダッ! オルテガ、マッシュもガイアの射線を左右でフォローするようにマシンガンを撃つ。

アリサ「そう簡単にっ!」

 操縦桿を引き込んでアリサは上昇し回避する。
 連日のように哨戒に出撃し、リュウというコア・ファイター乗りのライバルがいることで負けず嫌いのアリサもコア・ファイターの操縦をほぼ自分のものにしていた。

なのは「ディバイン・シューター!」

 一方で、アリサと分かれて下へ避けたなのはは黒い新型に近づき、十字の中で蠢くモノアイに畏怖していた。
 黒の中で紫や赤に明滅するドムのモノアイは大きく、少女の背丈とそうは変わらない。
 暗い夜中に幽霊にでも出遭ったかのような気分になるのだ。

ガイア「ガキは相手にするな! ヤツはちょこまかと動くだけだ!」

 何度もの交戦でジオン軍でもなのはのことは有名になっていた。
 同時に、一機も敵を落としていないというデータも既に知れ渡っている。

 ババババババババババッ! 三機のドムはなのはのディバイン・シューターには部屋に紛れ込んだ小さな虫ていどに注意し、執拗にアリサを狙い撃った。

アリサ「ちょっとちょっとぉ! なんで私ばっかり狙うのよ! 人気者は大変ね!」

 機体を回転させながらアリサはそれでもつかず離れずの距離を保ってドムの集中砲火をしのぐ。
 そして、それを見ていたなのは一旦、間を空けて杖を頭上で回す。

なのは「アリサちゃんを狙うなら!」

レイジングハート「Divine buster」

 薄桃色の魔力を伴って構えた杖の先にリングが形成される。
 封印効果を付加させなければ、ディバイン・バスターは比較的速いタイミングで撃つことができる。
 威力も物理的損傷は与えずに衝撃だけを機体に伝えさせる。なのはの思いにレイジングハートが応えた結果だ。

なのは「シュートッ!」

ガイア「来るぞ、散開!」

 ドシューッ! 圧縮された魔力砲が発射される直前に三機のドムは攻撃を中止して各々の方向に逃げた。

なのは「速い! あのスカートの中!」

 なのははドムの回避運動の速さがスカートのジェットエンジンであることに気付いた。

なのは「レイジングハート! あのスカートの動き、ちゃんと覚えておいてね」

レイジングハート「Alllight my muster」

なのは「すずかちゃん、早く来てね……」

マチルダ「ミデアを上げなさい! 輸送船だって、ミサイルぐらいはあるのよ!」

 女性にしては盛り上がる声に部隊の全員は文句一つなく従った。

 旗色は決して悪い訳ではない。
 だが、一番目立つダンバインは三機のオーラバトラーに攻撃され、近づこうとする味方は真っ先に別機により落とされている。
 そこにミデアで割り込んでいくのである。敵の列を乱すことぐらいはできるはずだ。

マチルダ「私たちだって、戦場を飛びまわっているのよ」

 彼女の口癖だった。女性士官<ウェーブ>で輸送部隊。付け入ってくる人間をそうあしらってきたのだ。

珠姫「何か近づいてくる! 輸送船!?」

リュウ「マチルダ中尉!?」

マチルダ「撃ちなさい!」

 ミデアが一機のレプラカーンに機銃を撃つ。

ジェリル「ちぃぃ! 邪魔をするなよ!」

 横槍を入れられたジェリドは激怒して攻撃の対象をミデアに変更した。
 それだけで充分な隙だった。

紀梨乃「やぁーっ!」

 バキィンッ! 直線的な動きのレプラカーンの左肩にボチューンの剣が突き刺さった!

ジェリル「うぐぁ!」

アレン「馬鹿が! 助けんぞ!」

 シンプルな侮辱をしてアレンはフェイと打ち合っているダンバインへと飛んだ。

マチルダ「そこっ!」

 その後ろにぴったりとミデアが張り付いていた。

マチルダ「ミサイル発射!」

 ドシュゥッ! ミデアの備え付けられたミサイルが二基、ビランビーに向かっていく。

アレン「そう来るかい、なら相手してやるぜ!」

 バシュッ! バシュッ! ひらりとミサイルを回避したアレンは返す手のオーラショットでミデアの右翼を折った!

マチルダ「あああああっ! 全員! 備えろ!」

アレン「馬鹿めが、とどめだ!」

 ビランビーが剣を振り上げてミデアに迫る。
 だが、そこにリュウのコア・ファイターがバルカン砲と共に突っ込んでくる。

リュウ「やらせるかーっ!」

アレン「ふん、無駄死にはしないさ」

 ひょいとアレンは停止してリュウをやりすごした。
 煙を上げながらミデアは墜落していく。

アレン「まあ、いい。奴らにくれてやるさ」

 すぐにアレンは本来の目的へと身を翻した。

 ズズズゥーン……! 黒煙を噴きながらミデアは荒野に胴体着陸した。

マチルダ「くっ……損害を知らせなさい! ミデアは動けるか!?」

連邦兵「ダメです! 右翼はおじゃんで左もキレてます!」

マチルダ「各自、白兵戦の用意をし、すぐにミデアを出ろ!」

連邦兵「ちゅ、中尉! 敵が来ます! 黒いモビルスーツ!」

マチルダ「なんですって!?」

 言った通り、割れたミデアのフロント板越しに黒い十字のモノアイが走りながらジャイアントバズを構えているのがわかった。

マチルダ「ここまで……!?」

マッシュ「モビルスーツの前にお宝いただきだ!」

 ドシュゥッ! バズーカ砲が煙を残して弾頭を射出した。火を噴出しているミデアなら一発で終わるだろう。

 なのはが間に入らなければの話だったが――

なのは「やらせないよ!」

レイジングハート「Protection」

 ドガァァッ! なのはの魔法障壁の前で砲弾が炸裂する。風も熱もこないが、巻き起こる粉塵と火の摩擦の火花が網膜に痛かった。

なのは「な、なんとか――っ!?」

 ミデアの防衛に成功し、ほっと息を吐いたなのはだったが、ドムは速度を緩めてはいなかった。

マッシュ「やってやる!」

 直進してバズーカの残りかすを切り裂いたドムはヒートサーベルを握っていた。
 熱は出していないが、障壁があるとはいえ直撃すればなのはの小さな体は充分に痛めつけられるだろう。

マッシュ「死ねぇぇ!」

なのは「だ、ダメぇっ……!」

 避けられない――固く縮こまって悲鳴を上げるなのはをヒートサーベルが叩きつけられる!

リュウ「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

マッシュ「な、なんだと!?」

 ドゴォッ! 精悍な雄叫びと共にドムに追突したのはリュウ・ホセイだった。

なのは「リュウさん!? きゃあぁぁぁっ!」

 コア・ファイターのくちばしがドムのヒートサーベルを持つ右手にぶつかり、なのはは強い風に吹き飛ばされて、止まったときにはリュウのコア・ファイターは三十メートルほど先に不時着していた。

リュウ「ぐっ、う……」

 翼の先端から地面に突っ込んだコア・ファイターはそのまま人間の側方倒立回転のように転がり、中のリュウは頭を左右から連続ではたかれたような気持ち悪さに前後が不自由になる。

 ガンダムが出てこないことに苛立ちを覚えていたドムの三人――黒い三連星はこの闖入者を鬱憤を晴らす矛先に選んでいた。

ガイア「マッシュ、大丈夫か!?」

マッシュ「あぁ! 右腕が飛んだがいける!」

ガイア「あの野郎を叩き潰すぞ!」

オルテガ「おう!」

 三機のドムはそれぞれバズーカ砲を抱えてコア・ファイターへ殺到した。

アリサ「ちょっと! やめなさい!」

ガイア「撃てーっ!!」

 ドドゥッ! ボシュッ! ドシュゥッ! 扇型に囲ったガイア、オルテガ、マッシュは一斉にバズーカをコア・ファイターに、リュウ・ホセイに叩き込んだ。

 ドゴォンッ! ドゴォッ! ドドォッ……!

リュウ「ぐおぉ! うあぁぁっ!」

アリサ「やめてったらぁーっ!」

 悲痛なアリサの声も虚しく、ドムはマシンガンを手に、再び銃火を爆炎の中のコア・ファイターに撃ち続けた。

 バババババッ! ババババババババババッ!

なのは「あ、あぁ……リュウさん!」

レイジングハート「Divine buster」

 主の命を待たずに、杖はリングを形成する。

なのは「レイジングハート……シュートォッ!」

 当たってくれ――願いを込めた収束砲がガイア機の背後を襲う。

ガイア「はははははっ! なめてもらっては困るな!」

 ホバー移動するドムが滑るように横に移動し、ディバインバスターは討つべき敵を見失ってしまう。

 ババババババババババッ! その間にもドムはマシンガンの弾を爆炎の中へ送り続けていた。

アリサ「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ババババババッ! 死んでしまう。死なせてなるものか。堪えきれずにアリサはドムにバルカンを掃射するが、三機は円を描くように横移動を続け、コア・ファイターの装甲を喰らっていく。

リュウ「…………」

 コクピットの中のリュウ・ホセイは弾丸の音と機械が爆ぜる音。 そして、少女たちの声を聞く以外には何もしなかった。

 何もできなかったと言っていい。バズーカ砲の直撃で肉厚な彼の喉はヘルメットとシートの圧迫で潰れていた。

リュウ「俺には何かが残せたのか……?」

 音声器官としての役割を失くした喉で彼は言う。口腔内にどろりとしたものが溢れ、鉄錆の臭いが鼻の中に充満して、胃が蠕動した。
 出撃直前にマチルダ・アジャン中尉が少女たちに語ったことを思い出していた。
 戦場で、何かを生むことが出来るのか……装甲板をノックする音が変化するのを感じながら、リュウ・ホセイが最後に考えたのはそれだった。

 チュドォォォォォォォォッ! 煙と電気はついに一柱の炎となった。

なのは「リュウさぁぁぁぁん!」

アリサ「嘘でしょ……リュウ……違うでしょ!」

 いくら呼んでも、返事はない。
 コア・ファイターだった物はその搭乗者を伴ってまた爆発した。

 ドムは破壊されたコア・ファイターにはそれ以上の興味を示さなかった。
 なぜなら、彼らのレーダー圏内に侵入してきた機体があるからだ。

ガイア「オルテガ、マッシュ! 来たぞ、連邦のモビルスーツだ」

 丘になっている箇所に佇立するガンダムは荒野の風の中、太陽の光りを全面に浴びていた。

すずか「あれが……ジオンの新型……」

なのは「すずかちゃん!」

すずか「なのはちゃん、ごめんね、遅くなっちゃって」

 ガンダムの中にいるすずかは、撃破されたのがリュウだとはまだ知らないようだった。
 なのはは少し悩んだ末、そのことを伝えるのはやめた。

なのは「レイジングハート、すずかちゃんにデータを転送して」

レイジングハート「Alllight my muster」

 記録していた敵機の情報がレイジングハートからガンダムへ送られる。

すずか「ありがとう、これならなんとかできると思う」

なのは「うん……私もサポートするからね……」

 その間にもフォーメーションを組みなおした三機のドムがガンダムとの距離を縮めてきていた。

ガイア「ガンダムをやる! オルテガ、マッシュ! ジェットストリームアタックだ!」

オルテガ「わかった!」

マッシュ「了解!」

 シュイィィィィィ……! 地面を滑るドムはガンダムとの接触距離直前に縦一列に並んだ。

すずか「う、後ろが見えない……!」

ガイア「ジェットストリームアタックだ!」

 ブオッ! ヒートサーベルを手にガイア機がすずかに斬りかかる。

すずか「く、来る!」

 データにはない攻撃と状況に戸惑いながらも、すずかはビームサーベルで最小の動きの突きを繰り出す。
 二つが交差する寸前、ガイアはヒートサーベルを出すことなく、ジェットノズルを噴かして跳んだ。

すずか「上!? いや、前!?」

 ドムの後ろにもう一機のドム――マッシュ機がシュツルムファウストを発射した。
 ドガァァッ! この対モビルスーツ用ミサイル兵器をすずかは辛うじてシールドで防御することに成功する。

すずか「うぅぅっ! まだ来る!」

 マッシュ機が左に避けていく。そしてその奥からオルテガがバズーカ砲を撃つ!

すずか「わぁーっ!」

 シールドを捨ててガンダムはバーニアを全開にして大きくジャンプした。
 弾頭はその足の下を通っていった。

マッシュ「避けた!?」

 ガンダムの性能は充分検討していたが、ここまでの動きは予想外だ。
 三人は一様に驚き、ガンダムが着地すると同時に集結し、隊列を組みなおした。

ガイア「思った以上の動きだ。だが、いけるぞ、もう一度ジェットストリームアタックだ!」

マッシュ「おう!」

オルテガ「いくぞ!」

 シュイィィィィィ……! 再びドムは振り返ったガンダムに対して縦一列に並ぶ。

ガイア「喰らえ!」

すずか「また来る――きゃっ!」

 肩にバズーカを担いだガイアのドムが、胸部のビームを拡散させた。
 目くらましをされたガンダムの動きが鈍るのを確認しながらガイアはバズーカ砲を撃つ!

なのは「そこっ! ディバイーン・バスターッ!」

 バシューッ! ドォン! なのはのディバインバスターがバズーカを吹き飛ばした!

ガイア「なんだと!?」

すずか「わぁぁぁぁぁ!」

 爆煙の中ですずかは学習コンピュータが予測した敵の動きにあわせてペダルを踏み込み、また大きくジャンプした。

 ガシッ! ガンダムの左足がドムの右肩に乗り、ガンダムはさらにそこを蹴って推進する。

ガイア「俺を踏み台にした!?」

マッシュ「おあぁっ!?」

 ガイアとマッシュの声はほぼ同じタイミングだった。
 先頭のドムの肩をステップボードにした白い機体は抜いていたビームサーベルを後ろでシュツルムファウストを構えていたマッシュ機のモノアイに突き刺した!

 ガシュッ! ビームサーベルの右手首ががくんと直角に曲がり、ドムの首を引き裂く!

マッシュ「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 ボンッ! ドムの首から上が爆発した!

オルテガ「このヤロォ!」

 ザシュッ! ヒートサーベルを構えたオルテガがガンダムの肩を袈裟切りにする!

すずか「あぁぁぁっ!」

なのは「シュートッ!」

 ドドゥッ……! 負傷したガンダムが倒れこみ、なのはの魔力収束砲がオルテガ機に当たる。

オルテガ「ぐおぉっ!」

ガイア「オルテガ、マッシュ! 無事か!?」

マッシュ「なんとか脱出した。拾ってくれ」

オルテガ「こっちもなんとか無事だぜ」

ガイア「マッシュのドムがやられ、武器もない。仕方ない、撤退するぞ!」

オルテガ「了解!」

 滑るガイア機がマッシュの脱出ポッドを回収し、オルテガ機がホバーは続けているマッシュ機を牽引して一挙に引き上げていった。

すずか「お、追い払えたんだね……」

なのは「うん……」

すずか「あれ、アリサちゃんは?」

なのは「えっ……あ、あれ?」

 アリサのコア・ファイターが見当たらなくて、なのはが探す。

なのは「あ……」

 すぐに見つけることができたが、そこでなのは声を失ってしまった。

 アリサのいる場所は、あの破壊されたコア・ファイターのすぐ近くだったのだ。

すずか「な、なのはちゃん……あれ、もしかして……」

 アリサはコア・ファイターに積まれている消化剤をありったけぶちまけていた。
 その度にもうもうと立ち込める白い煙にすずかは声を震わせる。

すずか「コア・ファイター……そんな……まさか、リュウさん……」

アリサ「まだ……模擬戦で一度も抜いたことがないのに……どうしてよ……」

すずか「私が……もっと早くガンダムで出ていけたら……」

アリサ「……くぅっ!」

 ガァン! 消化剤の容器を叩きつける音が、銃火の下で響いた。

紀梨乃「やぁーっ!」

 ザシュッ! 上空で戦うボチューンの剣がレプラカーンの翼を穿った!

フェイ「チッ!」

珠姫「――ふっ! そこっ!」

 ガギィンッ! 珠姫の剣もまた、ジェリルの剣を弾き飛ばす!

ジェリル「このっ、つけ上がるんじゃないよ!」

 バァンッ!激情を増加させたジェリルがオーラ力を飛ばし、ダンバインを尻ごみさせた。

珠姫「くっ……憎しみのこもったオーラ力が!」

 負けじと珠姫もオーラ力を高めていく。

珠姫「――うぅっ……!」

 だが、集中するほどに珠姫の額に脂汗が滲み出て、体の骨が少しずつ削ぎ落とされていくような痛みが走る。

アレン「どうしたダンバイン! 動きが鈍いぞ!」

 ガキンッ! ガン! ガキィンッ! アレン、ジェリルが二人がかりでダンバインに攻撃を仕掛ける。

珠姫「うあぁぁぁぁぁぁーっ!」

 対抗する力――珠姫はオーラ力の力場をイメージし、拡大させた!

アレン「ぐっ……!?」

ジェリル「なんだ……!?」

珠姫「落ちろぉ!」

 ザンッ! ズバァッ! 
 強大なオーラ力に圧倒され、動きを止めてしまったレプラカーンとビランビーを、珠姫は一瞬で斬り捨てた!

アレン「馬鹿な……っ!」

ジェリル「ちぃぃっ! 憎たらしいよ!」

紀梨乃「たぁーっ!」

チャム「いっけぇぇぇぇっ!」

 ズシュッ! ボチューンの突きもフェイの右肩に入り込んだ!

フェイ「くっそぉ……!」

 落ち着かない動きで三機は珠姫たちから距離を取る。

珠姫「まだ戦うと言うの!?」

ジェリル「その横柄な態度が崩れるのが見てみたいのさ!」

珠姫「どっちが!」

紀梨乃「タマちゃん、聞いちゃダメ!」

チャム「キリノぉ、やっぱりタマキが変だよ! 怖いよぅ」

アレン「ジェリル、フェイ! ダメージリポートをしろ!」

ジェリル「行けるさ! あのいけ好かない小娘をやらなきゃ帰れないね!」

フェイ「その通りだ!」

珠姫「これ以上、無駄な争いを続けるなら!」

 パァンッ! 剣を構えた珠姫が先ほどと同じように、オーラ力を球状に発した!

珠姫「ウッ――!」

 だが、オーラ力の波がアレンたちに差しかかる寸前、珠姫の頭の中でぴんと張られていた糸がぷつりと切れた気がした。

珠姫「あ……っ」

紀梨乃「タマちゃん!?」

チャム「いやぁ! タマキぃ!」

 度重なるオーラ力の発現は珠姫の体力、精神をすり減らしていた。
 それが、ついに限界を迎えたのだ。
 オーラバトラーのエンジン部であるオーラコンバーターにオーラ力が届かなくなり、ダンバインは揚力を失って降下していく。

アレン「ジェリル、フェイ、やるぞ!」

ジェリル「あぁ!」

フェイ「おう!」

 当然、それをアレンたちが見逃すはずがなかった。
 パワーをなくしたダンバインを彼らは包囲にかかる。

チャム「キリノぉ! 奴らやってくるよぉ!」

紀梨乃「こんなときにーっ!」

珠姫「くっ……そんなこと……」

 霞む視界の中でこちらに来るビランビーを見据えて、珠姫は唇を噛んだ。

珠姫「そんなこと、させないっ!!」

 切れた糸を無理に繋ぐように、珠姫は脳幹を発奮させた。

珠姫「くあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ズァァァァァァァァァッ! ダンバインからオーラ力が放出され、レプラカーンとビランビーに取りついた!

アレン「ぐっ!」

珠姫「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ボシュッ! ボンッ! ドンッ! アレンたちの三機から突如煙が噴き出す!

アレン「な、なんだと!?」

ジェリル「なにが起きてるんだい!?」

フェイ「き、機体が故障した!?」

 誰も知りようの無いことだが、珠姫のオーラ力がアレンたちのオーラバトラーのコンバーターに干渉してオーラ力を増幅させ、その限界点を振り切らせたのだ。
 レプラカーンやビランビーでは、オーラ力に耐えられる限界は14から17程度である。
 これを破壊するためには実に20以上ものオーラ力が計測される必要があるだろう。

 そして、それほどの力が戦場の片隅にまで余波を行き渡らせたとき――

 キィン――!

なのは「!」

 確かな魔力の感触になのはが空を見上げたとき、青色の小さな宝石が光りを放っていた。

なのは「ジュエルシード!?」

 こんなところにも落ちていたのか――急いでレイジングハートをシーリングモードに変形させる。

なのは「いくよ、レイジングハート!」

レイジングハート「Yes.Flier fin」

 まだ発動する前である。
 それならば、直接触れて回収したほうがいい。

なのは「アリサちゃん、すずかちゃん、ごめんね、行かなくちゃ!」

アリサ「うん、わかってるからさっさと行ってきなさい!」

すずか「気をつけてね、なのはちゃん」

 まだリュウのコア・ファイターは燻ぶっている。
 ジュエルシードは願いを叶えてくれるが、死者を蘇らせてはくれない。
 魔法は万能ではないのだ。
 なのに、ジュエルシードのような過去の遺失物というものは人間が神だの悪魔だのを目指して造ったものだから、なまじ願望を叶えようとして力を与えてしまう。

 いつでも、力を求める人間はいる。

レイジングハート「caution.above」

なのは「え――ッ!?」

 進路に捉えたジュエルシードよりも更に上に、もう一人の少女がいた。

レイジングハート「A magic reaction」

なのは「魔力!?」

 陽光の下で目の覚めるような輝きを反射させている金色の髪の少女は手に同じく金色のコアを持つ斧を持っていた。

「いくよ、アルフ」

 その少女が何かを呟いたのをなのはが遠目で気付いたとき、白い袖が左右で引っ張られた。

なのは「な、なに!?」

 動揺している間に両足首も引っ張られ、まるで磔にされたみたいになのはの体は動かなくなってしまった。
 唯一動かせる首をめいっぱい回すと、両手足に赤い鎖のようなものが巻きついていた。

なのは「なんなの、これ!? レイジングハート?」

レイジングハート「Chain bind.This is a magic chain」

なのは「チェ、チェイン・バインド?」

「そうさ、魔法の鎖さ。かかったら最後、すぐに脱出はできないよ」

 レイジングハートの分析に親切な解説をいれたのは、なのはの背後に現れた女だった。
 背が高く、肉付きのいい体をショートパンツに大胆なバストアップのベストにマントを羽織った娘だが、橙色の髪から犬のような耳が生えているのが、なのはの目に残った。

なのは「あ、あなたは……どちら様ですか!?」

「悪いけど、教えてあげる義理はないねぇ。ま、大人しくしていてくれたら、見逃してあげないこともないけど」

 金髪の少女が黒い斧の先に魔力を集めてジュエルシードを近づいていく。
 雷光の煌めきの如く美しく力強い――そして同時に儚さも感じ取れる魔力光だ。

「――Seeling mode get set」

なのは「ジュエルシードを封印!? どうするの! あれはとっても危険なものなんです!」

「さっきも言っただろう。教える義理はないって。おいたがすぎるとガブッ! っと言っちゃうわよ」

 犬歯にしては長すぎる輝きがなのはの真横で音を鳴らした。

「Seeling」

 ジュエルシードは既に少女の斧に回収されてしまった。

「…………」

 回収によるジュエルシードのプログラム書き換えを瞬時に完了させた斧が冷却の煙を吐く。
 金髪の少女はじっとなのはに目を向けた。

 視線を交わした時、なのはは思う。
 真っ暗な瞳――静かで、怖いけれど……とても、寂しそう。

なのは「あ、あなたはいったい……誰なの?」

「……君も魔導師だね。こんなところに魔導師がいるとは思わなかった」

 なのはの質問に少女は答えなかった。
 代わりに、斧の先端に雷の魔力を集めた。

なのは「!?」

「私たちはジュエルシードを集めてる。君もジュエルシードを集めているなら、私たちは敵同士っていうことになる」

なのは「そ、そんな……!」

「Foton luncer」

 黒い斧が低い声で告げる。
 その直後の射手たる少女の呟きを確かになのはは聞いた。

「……ごめんね」

 ズバァッ! 雷の矢がなのはの体を貫く! その一撃だけでなのはの全身には強力な電撃が走り、気絶に追いやった。

「……行こう」

「は~いはい」

 静かな声が先に消え、陽気な返事が後に姿を消した。

 戦いは既に終局していた。
 ガルマ・ザビを弔うジオン公国軍は夥しい数の犠牲を出して、まともな撤退命令も出ないままに個別に戦い、逃げる者は逃げ、果てる者は果てていった。
 玉砕戦ゆえの皮肉だが、ゴラオンはバイストン・ウェルに端を発した開戦以後最大の損害を出した。
 
エレ「この地平に果てた者たちの魂が、海と大地の狭間、命の帰る地バイストン・ウェルで浄化されることを……」

 墓標に祈りを終えた後、ラウの国の女王エレ・ハンムは付き添っていたマチルダ・アジャン中尉と向き合う。

エレ「それでは、ドレイク軍との戦いは私たちが引き受けます。聖戦士たちをどうかお願いします」

マチルダ「了解しました。新たな艦を用意していただき、ありがとうございます」

 敵の先陣を退け、奮迅の働きを見せた少女たちは今や満身創痍だった。
 彼女たちを仲間の元へ――荷物を増やした大きなとんぼ返りをマチルダは引き受ける。

 今、広大な宇宙で最も価値のあるものを運び、疲れた心を補給させる。
 彼女は、この名誉を一生の誇りとすることだろう。


 第十四話 宿命! いくつもの出逢いと別れなの 完



←ブログ発展のため1クリックお願いします
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://kannki.blog39.fc2.com/tb.php/2717-00372a71
    この記事へのトラックバック



    アクセスランキング ブログパーツ レンタルCGI
    /* AA表示 */ .aa{ font-family:"MS Pゴシック","MS PGothic","Mona","mona-gothic-jisx0208.1990-0",sans-serif; font-size:16px; line-height:18px; }