仮面ライダーW 魔法少女のM/探偵のララバイ/03

2011年07月23日 20:02

仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」

110 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/02(土) 00:09:26.87 ID:kDJ2UamJ0

「さあ、いくぜ!!」

 オレは雄叫びを上げて接近するビースト・ドーパントを睨みながら、後ろ足で大地を蹴って迎え撃った。

 振り上げられる大爪。大気を裂いて旋回するそれは、首筋を刈らんが為、半円を描いて旋回する。

 上半身を反らしてかわす。同時に無防備な腹へと蹴りを叩き込んだ。

 ――硬ェ!!

 コイツには一発や二発じゃ利かねェ。

 オレは最初の蹴りでバランスを崩したドーパントに、両拳を全力余すことなく叩きつける。

 鋼鉄もひしゃげとばかりに連打の雨を降らせるが、さすがに硬い装甲だ。

 殴りつける度に、もげそうになる指の衝撃をこらえながら突破口を探す。

 だが、ヤツも黙ってはいない。片手で拳の雨をかいくぐると、再び大振りの一撃を胸元に見舞ってくる。


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 来るっ!

 オレは奥歯を割れんばかりに噛み締め、衝撃に耐えると、咄嗟に反転して距離を取り、遠ざかる意識に手を伸ばして、自我を保った。

 やっぱりこいつ、パワーだけなら半端じゃねぇな。

『翔太郎、こいつの復元力・装甲の硬さは前回の戦いで解析済みだ』

「そうかよ、フィリップ。なら――」
 ジョーカーメモリを抜き取ると、闘志の記憶を内包したメタルメモリをダブルドライバーに換装した。

『メタル!!』

――『CYCLONE/METAL』

 オレ側の半身が銀色の装甲で瞬く間に強化される。

 サイクロンメタルに変身だ。

 同時に専用武器メタルシャフトを装備すると、距離の利を生かして一気に間合いを詰める。

 シャフトを旋回させ、ヤツに向かってぶちかます。

「らあっ!!」

 喉元。鋼鉄の突きを叩き込む。確かな手ごたえ。

 オレは、シャフトを両手で掴もうと手を伸ばす相手に向かって、細かく先端を幻惑するように動かしてから、
もう一度深く踏み込んで敵の水月へと抉りこむように突き入れた。

「ガアアアアアアッ!!」

「おっとォ、おっせーぜ!!」

 ドーパントの突進。ギリギリまで引きつけて、寸前で半身をかわす。丁度、ヤツの後ろに回りこんだ格好となった。

 無防備な敵の背中。

 存分に遠心力を溜めたシャフトの一撃をなぎ払った。鈍い轟音と共に、巨体が前のめりに倒れるのが見えた。

 やったか?

『気をつけるんだ。このドーパントのリペア能力は桁外れだ』

「――忠告サンクス、っとぉ!!」

 ドーパントはいきなり起き上がりながら反転すると、抱きつこうと圧し掛かってくるが、腰の辺りを蹴りつけながら、飛びのいて避けた。

 メタルシャフト。

 オレは、上下に左右へと打ち分けて、ヤツの両肩、両膝へと着実にダメージを与え続けながら、ふと前回戦った時の、重苦しいまでの威圧感を感じないことに気づいた。

「フィリップ、こいつ――」

『ああ、翔太郎。君も気づいたかい。このドーパントはオリジナルよりも遥かに弱体化している。
おそらく財団が複製したメモリは、完全なものではないらしい。
本来の力を全て引き出せていないんだ。何よりも、あの時と違うのは』

「違うのは?」

『僕たちは以前より遥かに強くなっている。時間をかける必要も無い。一気に決めよう』

「ああ、まかしとけよ!!」

 夜気を切り裂いて、頭上の端を列車が通過していく轟音が辺りを包み込んでいく。

 視界の端に、少女が心配そうに見つめているのが映りこんだ。

 ドーパント。間隙を縫って、大爪の攻撃を繰り出してくる。

 咄嗟に両手を交錯させ防ぐが、勢い余ったヤツの左腕は、コンクリで出来た橋脚をまるで溶けたバターをえぐるように、いとも簡単にもぎ取った。

「っの野郎!!」

 オレは再び立ち上がろうと膝を突く。瞬間。

 視界が真っ赤に染まった。

「があっ!」

 衝撃が全身を薙いだ。それから、ようやく顔面に痛烈な一撃を喰らったと気づいた。

 一発で意識を刈り取る人外の膂力。地べたに転がりながら、シャフトを構え追撃をこらえる。

 必殺の闘気が間近に迫る。

 鋼を叩く鈍い音。

 シャフトの向こうに首筋を狙う、悪魔の爪が見えた。

 態勢を変えられない。完全な膠着状態だ。
 オレは両手でシャフトを押しやろうと力を込めるが、棒の中間に叩き込まれた大爪がぐいぐいと寄せてくる。

 満身に力をみなぎらせ、押し合いが始まった。

 敗れれば――死。

『ここが、勝負どころだ!!』

 相棒の声。どこよりも近く、遠くに聞こえる。

 シャフトを握った両腕に、力を一際込めた。

 網膜の裏側に、チカチカと白い稲光が明滅する。

 全身に乳酸が溜まっていくのを感じた。息が苦しい。

 苦痛が意思を奪っていく。

 けれども、倒れそうになればなるほど、ほむらの悲痛な声が、歪んだ顔が脳裏に浮かんではコマ送りのようにスライドしていった。

 ここで負ければ、オレの命はもとより彼女だってただではすまない。

 そんなことは許さない。いや、許されないのだ。

 背筋に力を込める。全身の血管を通るオレの血が、世界の理念に造反し逆流する。

 オレは彼女の依頼を受けた。だから、全身全霊をもってそれに応えなければならない。

 依頼人を守る、それが真の探偵なのだ。

 勝負の潮合が一瞬にして極まった。

 己を奮い立たせる怒号と共に、圧し掛かって首を掻こうしていたドーパントを一瞬にして押し返す。

 敵の巨体。

 眼前から消え失せた。

 茂った草むらを飛び越えて、流れる河の浅瀬へと完全に押しやったのだ。

 水音が一際高く辺りに響く。泡沫が、黒い川底一面に一瞬浮かび、そして消えた。

 強く奥歯を噛みこんで、立ち上がる。

 メタルシャフトを片手で突き出し、怪物に向かって闘気を収束させた。

 ――さあ、今夜はもうお仕舞いにしようぜ、ドーパント!

 川面を眺める。 

 闇夜に染まった水面に、細い月の光がまばらに降り注いでいた。

「さあ、ハードボイルドに決めるぜ!!」

 気合が波頭のように、限界まで押し寄せてくる。

 ヒートメモリとメタルメモリをそれぞれ続けざまに換装。

 ドライバーが地球の記憶を再現する。

『ヒート!!』

『メタル!!』

――『HEAT/METAL』

 メタルシャフトのマキシマムコンバーターのスロットにメタルメモリを挿入。

『マキシマム・ドライブ』

 シャフトの両端からマグマのように烈火が勢いよく噴出。

 オレはシャフトに円回転を加えながら、地を蹴って飛び立った。

 虚空を舞ってドーパントに踊りこむ。敵は浅瀬から半身を突き出し、身構える。

 だが、もう遅い。

 ――テメーがツケを払う時が来た。

 メタルシャフトの剛性に豪火の炎熱特性を加えた一撃。

『メタル・ブランディング!!』

 オレとフィリップのシャウトが重なって響き渡る。

 満身の力を込めて、炎熱のシャフトを叩きつける。
 轟音が風を切り裂き、一瞬でトップスピードに乗る。大気を割って、殺意を練成した気合は終極点に達した。

 必殺の棒術は唸りをあげて、怪物の装甲を完膚なきまでに破壊する。

 ビースト・ドーパントは倒れこむと同時に変身を解いてメモリブレイクした。

 オレは変身を解くと、倒れ伏した男を川辺から引き上げた。

 胸倉を掴んで絞り上げる。男は焦点の定まらない視線を彷徨わせていたが、かまわず顔を引き上げ、責めたてた。

「さあ、まずは聞かせてもらうぜ。財団Xの意図ってヤツをな」

 男は、死相を浮かばせた表情を歪めながら、口元の端を吊り上げると野太い笑みを刻む。

 同時に、首をうなだれると、口元から糸のような細い血を流した。

「毒、か」

 死人の襟元から手を離す。振り返ると、すぐ後ろ側まで寄っていたほむらが、眉を寄せたままじっと耳を澄ませていた。

「なに、この音」

「音って、まさか……!?」

 男の胸元。時計のように規則正しい秒針が刻まれる、硬質なリズムが聞こえた。

 一瞬で汗が引き、腰から背骨まで、電流が走った。少女の腰を抱くと、水面へ躊躇無く飛び込んだ。

 爆音と辺り一面に轟く。

 男の身体に仕掛けられていた爆薬が、辺り一面を薙ぎ払った。

 二人仲良く水面から顔を出すと、ヤツのいた場所が、巨大なスプーンですくい取ったように、綺麗に抉り取られていた。

 これでは、破壊した偽造ガイアメモリも回収することは出来ないだろう。

 舌打ちをすると、濡れ鼠のまま大きく身震いをする。

 それから、ソフトを頭から下ろし、ねじるようにして水を切った。

 今更ながら特筆するのは、彼女はあの疲労と痛みの極限状態の中で最期まで注意力を切らさなかった。

 オレの命が助かったのは、彼女のおかげとしかいいようが無い。

 何故かはよくわからないが、いつもすんでの所で助かってしまう。

 このような時、いつも自分以外の大きな力を働いているのを感じるが、何に感謝すればいいのかわからないので神には祈らない。

 オレは目の前の少女へと素直に感謝の意を形にして伝えた。

「さすがだな、おかげで助かったよ」

 何がさすがなのかは自分でも理解できなかったが、ほとんどノリで声をかけると、
彼女はびっくりしたように目を真ん丸にすると、か細い声を出した。

「え、いえ。私の方こそ――」

 疲労とダメージが大きすぎたのか、彼女は酔ったように両足を細かく痙攣させると前方にバランスを崩した。

 とっさに手を出して肩を抱きかかえると、彼女は困ったように俯いた。

「おっとぉ、気をつけな。倒れこむのはベッドの中だけにしたほうがいい」

「その、……へくちっ」

 何かをいいかけた彼女は、見た目年相応のかわいらしいくしゃみをすると、

 恥ずかしかったのだろうかそっぽを向いた。

 オレはその年頃らしい身振りを見て、なんとなく安堵した。

 無論この異常な状況に対応するため、心が平安を欲していたのかもしれない。

 慣れっこといえば慣れっこなのだが。

 おそらく彼女はこっちのほうが地なのだろう。

 人は、環境や、その時の立場によって自分を変えていかなければ生きてはいけない。

 好む、好まざるにつけ。

 いつまでも濡れ鼠のままでいるわけにもいかない。

 オレは現在の事態を収拾するため、どこか身支度を整える場所に移動することを提案すると、彼女は快く了承し、なおかつ自分の家を使うことを勧めてくれた。

 いくら子供とはいえ、この時間にレディの部屋を訪問することは、いささか礼儀に反するかと思ったが、彼女の真摯な瞳で見詰められているうちに、そうそう断れない雰囲気が辺りに横溢していた。

 オレは彼女の招待を受けると、まだこの時間でもやっている大型雑貨店でタオルを購入し、彼女の家に向かって単車を走らせた。

 途中でコンビニ寄って、カップめんとチョコとスポーツドリンクを購入。

 チョコは、短い時間で高いエネルギーを得ることが出来る高機能食品だ。

 フィリップもよく食べている。

 ダブルに変身し戦った後は、実の所相当な体力と水分を消耗する。

 普通に動いただけでも、一戦交えた後などは、シャツが汗でしぼれるくらいだ。

 このような時、適度に水分を補給しないと明らかに身体に害がある。

 戦いは今日一日ではない。

 これからもずっと続いていくのだ。

 探偵は身体が資本である。

 それから、カップめん。これは……ただ、オレが好きだからだ。

 いかにも身体に悪そうな濃厚なスープは小腹がすいたときに丁度いいし、それ以外でも丁度いい。

 ――と、ここまで彼女に説明したら、とても形容しがたい複雑な表情を浮かべた。

 いいたいことは、直接相手に伝えたほうがいい、と思う。

 招き入れられた彼女の部屋は、年頃の少女のものにしては酷く殺風景に映った。

 私物らしきものはほとんど置いていない。部屋の真ん中に丸テーブルがひとつだけ置かれており、周りの壁にはこの街の俯瞰図、細かい路地裏の通り、書き込まれたデータなどが張り巡らされており、戦争映画の軍司令部を思わせた。

 彼女がシャワーを浴び終え戻ってくる頃には、オレも失礼して予備の服に着替えを完了していた。

 思春期の子にしては、初対面の男に対してやけにさばさばしているなと感じたが、

 ふと目をやると、卓に着いた彼女の顔つきこそほとんど変わりは無かったが、耳が真っ赤になっていた。

 必死に取り繕っているのだろう。よく見れば、表情もこわばりがある。

 オレは、少し気の毒になったが大人なので仮面をかぶったまま話を始めた。

 オレが最初に情報を開示した。ガイアメモリ、ダブルの存在、今まで戦ってきたドーパント達、

 そして恐るべき敵だったミュージアム、それから未だ全貌を見せない財団X。

 再確認すると、我ながらかなり荒唐無稽な話であるが、全て真実だ。

 彼女は、最初から最後まで口を挟まず真摯に話しを聞き、オレも彼女の話に心をかけて耳を傾けた。

 全てが終わった頃は明け方に近かった。

「――と、まあこんなところだ。朝になっちまったな。悪い、今日も学校だろ。休むのか?」

「いえ、まどかのこともありますので、早々休めません。私の話の続きは帰宅してからということでよろしいでしょうか」

「おおっと、いきなり随分口ぶりが変わったな」

「ごめんなさい。今までの非礼は詫びさせてください。
左さんに一方的に話をさせて、申し訳ないとは思っていますが。もう、貴方に頼るしか方法はないのです」

「いいさ。そこのところもまとめて、話してくれると期待してるぜ。
そうそう、今日はオレのもう一人の相棒もここにくるしさ。揃った時に、話してもらえればこっちとしても都合がいいさ」

「その、私の前の依頼の件は」

「――そっちは心配しなくていい。君は自分と、まどかちゃんのことだけ考えていればいいんだ。にしても、魔法少女に魔女ねぇ」

「……信じられませんか」

「いや、ほむらちゃんの能力の一旦はもう何度も見せてもらってる。
それに、オレはそれ以上の信じられないものをごまんと知ってんだ。疑ったりなんかしねぇさ」

「ほむらちゃん、ですか」

「どうしたんだ」

「いえ、別に」

 オレは彼女が家を出て、学校に向かうのを見届けると、ハードボイルダーにまたがり、とりあえずの朝食を取るため街を流した。

 この街は小奇麗であるが、特に目を引くいわゆるオレの好きそうな食い物屋はそうそう見つからなかった。
 ある程度、大通りを通って、唯一やや時代掛かった喫茶店を見つけると、店の脇の駐車場に単車を置く。

 格好を付けて、店の前になど乗り付けない。

 駐禁を取られたり、無許可でチャンプロードに載せられたりするからだ。

 世の中意外と甘くない。

 重たげな木枠のドアを押し開き、店内に入る。

 適度に光源を遮断した暗さが、なんともいえないけだるげな空気を保っている。

 カウンターの向こう側の口ひげを蓄えた四十がらみの男に向かって自然に声をかけた。

「マスター、いつもの」

「あの、お客さん、ウチの店、初めてですよね」

 いってみたかっただけだ。

「なら、アメリカン」

「はぁ……」

「頼むぜ」

「いや、そのですね。ウチ、紅茶専門店なんですわ」

「んだよ、もおお!! じゃあ、アールグレイ!」

 途端に後ろのボックス席で、若い女の吹き出す声が耳に入り、頬が熱くなった。

 遠慮がちに振り返ると、そこにはくすくす笑いをかみ殺す、亜樹子とフィリップがお互いに肩を組んで震えていた。

「居たんなら早くいってくれよ!! おい!!」

「うるさい、このエセハードボイルドもどきが」

「んだと、コラァー!!」

 一瞬で怒りが沸点まで届く。
 掴みかかろうとするが、亜樹子はフィリップの後ろに隠れると、真っ赤な舌を伸ばして、オレの逆上のツボを突きまわす行動に出る。

 許すまじ!

「まあ、翔太郎。今のは不可抗力だ。アキちゃんに代わって謝罪するよ。ぷっ」

「あのな、お前も笑ってただろうーが、なあ」 

 フィリップは真顔に戻ると、咳払いをして、両手を水平に広げ首を傾けた。

「なんのことだい。まったく、君はいつも僕を楽しませてくれる」

「楽しませよーと思って行動したわけじゃ――」

「え、じゃ、なに? 翔太郎くんは素で、いつもあんなこといってるの? 
初めて来た街でも? 初めて入ったお店でも? いやー、まいるわ、ほんと」

 オレは雄叫びをあげて亜樹子を威嚇すると、運ばれてきた紅茶に口を付ける。

「すいませんね、コーヒーショップじゃなくて」

「いや、その……ほんとスンマセン」

 紅茶は旨かったが、いたたまれない気持ちが膨れ上がった。

「コーヒーはないけど、モーニング出来るよ。どうする?」

「……あ、はい。いただきます」

 オレはカウンターから席をボックスに戻すと、相棒のフィリップとそのお供一名と久闊を叙した。

「誰がお供一名だ! わ、た、しは! 鳴海探偵事務所の所長、鳴海亜樹子だ!」

 スリッパがどこからともなく彼女の手に握られると、軽やかな音と共に、頭を引っぱたかれる。

 スリッパには『所長だ!』の三文字がゴシック体で刻まれている。

 前もっていつも用意しているのだろうか、理解に苦しむ。それと地の文を読むな。
 あくまでここはオレの独白なんだからな。

「で、身体のほうはもういいのか?」

「万全さ、活力に満ち溢れているよ」

「ふっ、そうこなくちゃな」

 ニヒルな笑みを返しあう。

「ぷっ、ハードボイルドもどきがハーフボイルドつついとる。厨二病全開で」

 オレは、トーストの隣に添えられたゆで卵からフォークをはなすと、相棒に問いかけた。

「――なあ、フィリップ。こいつぶん殴っていいか?」

「レディに乱暴はいけないな、翔太郎。昨日の自分の発言と矛盾してないかい」

 コイツをレディと認めるわけにはいかない。見解の相違だ。

 オレは意識的に亜樹子から視線を反らすと、蒼い空に浮かぶ雲間を逍遥する鳥達と、深い渓谷に佇んで釣り糸を伸ばす老爺を思い、心を落ち着かせた。

「素晴らしい天気だ」

「それに紅茶の味も素晴らしい。翔太郎、君がコーヒーを好きなのは判るが、ほどほどにしないと、胃を痛めるよ。さて、本題に入らせてもらおうか」

 フィリップがカップを置くと同時に、オレは調査を始めてから今朝までの経緯を相棒に話し始めた。

 暁美ほむらから聞いた、魔法少女を巡る契約。

 願いの代わりに差し出される肉体。

 ソウルジェムとグリーフシード。

 そして、魔女と魔法少女の関係。

 連続自殺事件の真相。彼女の依頼について。今度は、亜樹子も茶々を挟まず真面目に耳を傾けている。

 モーニングタイムの混みようが、おさまりかけたぐらいの時間で簡潔にまとめて話しおえた。

「それにしても、驚きだな」

「なにが驚きなの、翔太郎くん?」

「いや魔法だのなんだの、……正直一笑に付されてもおかしくないと思った」

「そんなことしないよ。翔太郎くん、すごく真面目に話してた。
その、ほむらちゃんって子にも会ったことないけど、
それだけ友達のために一生懸命になれるなら、きっと悪い子じゃないし、嘘なんかつかないよ」

 大きな瞳で覗き込まれ、オレは少しだけ自分を恥じた。世界はまだまだ見捨てたモンじゃないぜ。

「とりあえず、写真の人物から当たってみようと思うんだが……」

「翔太郎、君は今朝まで寝ていないんだろう。体調はもう万全だ。
そっちは、僕とアキちゃんで当たってみる。君はホテルに戻って一眠りするといい。その前に」

 フィリップは、静かに眼を閉じると、両手をゆっくりとテーブルの上で組んだ。

「検索を始めよう。キーワードは、巴マミ。それに、見滝原」

 じっと俯いたままなだけに見えるが、フィリップはこの瞬間にも地球の本棚にアクセスし、必要な情報だけを取捨選択しているのだ。

 検索が終わるのを待っている間に、ふと、ほむらが呟いていた謎の生物の名前を思いした。

 ただの名前なのだろうが、どうもなにか引っかかる。いわゆる、探偵の勘、ってやつだ。

「キーワードをもう一つ追加だ。インキュベーター」

「了解。キーワードを追加する。『インキュベーター』」

 キーワードを追加した瞬間、精密機械のように微動だにしなかったフィリップの表情が一変した。

 眉をしぼるようにひそめて、額には細かい汗がぷつぷつと浮き始める。

「ねえ、フィリップくん、大丈夫なの?」

「わからん。だが、今は任せるしかねぇ」

 オレたちに出来ることは見守ることぐらいだ。

 そっと心の中でエールを送る。

 しばらくすると、フィリップは、肩で荒い息を吐き出しながら検索を終えた。おかしい、今までに無い反応だ。

「おい、フィリップ。どうしたんだよ」

「翔太郎、いや――まだ、キーワードが不足しているみたいだ。
巴マミ、という少女の情報はかなり簡単に得ることが出来たんだが、
問題は、その『インキュベーター』という部分だ。かなり強いロックが掛かっていて、簡単に調べることが出来なかった。
どうやら、直接その暁美 ほむらから細かい部分の情報を取得したほうが手っ取り早い。
彼女とはこの後、また会う約束をしているのだろう。その時に確信の部分を詰めよう」

 フィリップは、椅子を立つと不適に笑った。

「今回の件、いろいろと興味深い点が多い。照井竜に報告する前に、その巴マミについては実地で調べておこう。
自殺事件に関してはその魔女が元凶であるならば、情報を集め対処しなくてはならない。
それに、暁美 ほむらが意図的に隠している部分もありそうだ。不明瞭な点は、出来るだけこちらで把握しておきたい」

「オレも行かなくて大丈夫か」

「なーに、翔太郎くん。フィリップくんには私がついてるからだいじょーぶ。さっさとホテルで休んできなさい」

 だから、心配なんだよ。

「大丈夫だよ、いざとなればファングメモリもある。その場合は君を叩き起こすことになるだろうけどね」

「叩き起こされないことを祈ってるぜ」

「そればかりは。財団Xも動いているし、なんともいえない。お互い細心の注意を払って行動しよう」

「ああ、任せたぜ相棒」

 オレは調査の続きを頼むと―ある意味丸投げともいう―店を出て、予約を入れておいたホテルに向かって、バイクを走らせた。

 一眠りした後目を覚ますと、丁度昼時にあたっていた。

 ホテルを出て、ゆっくりと品の良い街路樹の並木道を進んでいく。

 目的地は特に定めないが、何か腹に入れておきたいところだ。

 生欠伸をかみ殺しながら、携帯の着信履歴を確認すると、フィリップからの事務的なメールが幾通か入っていた。

 オレは歩きながら、目を通そうとするが、思うほか長文で上手く頭に浸透してこない。

 一度、携帯を切ると、食事の後ゆっくり読み直そうと思って、通りの角を曲がった所だった。

「ど、泥棒だ! そのガキ、つかまえてくれぇ!!」

 道路を挟んで、反対側の通りでそれに出会った。 

 怒声を張り上げて、一人の中年男が少女を追い回していた。

 男は白い作業着を着込み、すりこ木のような棒を頭上に掲げて駆けている。

 足取りは重く、すぐにでも倒れこみそうなほど、膝が小刻みに痙攣していた。

 遠目にも判るほど、顔全体から滝のような汗を流しつつ、それでも執念だけで追跡を続けている。

 一方、追われる少女の方は、すばしこい身のこなしで、盗品であろうクロワッサンを咥えながら両手に紙袋を持って、余裕のある走りを見せていた。

「なんだなんだ、いったい」

 少女と中年男は対面の道路を横断しながら、巧みに走行車両を避けつつ見事なまでに、オレの歩く道筋に近づいてい来る。
 寝不足の頭で、ぼんやりそれを眺めていたが、逃げていたと思われる少女はオレの目の前で急停止すると、
ようやく気づいたように、顔を上げた。

「っかしーな。ばれるわきゃねーはずなんだけどなぁ」

 少女は何か納得いかない、といった表情で小首を傾げる。年頃は、十四、五といったところか。

 聞かん気そうな瞳と、俊敏な小動物を思わせる身のこなしを持った印象的な少女だった。

 互いに目と目が合う。彼女は、にっと口元を吊り上げて、紙袋をオレに手渡してきた。

「――食うかい? あんがい悪くないよ」

「は?」

 一瞬の意識の空白。オレは、反射的にずり落ちそうな紙袋を抱えてしまう。たいした重みは無い。

 中身に視線を落とすと、袋には雑多な種類のパンがぎっしりと詰め込まれていた。

 香ばしい匂いが鼻をつく。
 ぐぅ、と腹を鳴らすと、少女は目をまん丸にすると、さもおかしそうにくすくす笑いを漏らした。

「か、か、観念したか、このガキ。あ、あんたそのガキをはやくこっちに引き渡してくれやぁ!」

 少女を追い回していた男からも、紙袋の中身と同じ匂いがした。

 オレが、とりあえず状況を確認しようと声を出しかけた瞬間、少女がなよなよとその場にへたり込み、オレを指差すと、甲高い声で叫んだ。

「あーん、だから嫌だったんだ! でも、兄ちゃんがあたしに盗って来いって脅すからぁ!!」

「は?」

「ほーう、てめぇか。諸悪の根源は。妹に万引きさせるなんて、ひでぇ兄貴だなぁ、おい。ふざけやがって、許さねぇぞおおおおっ!!」

 中年男の顔。負け犬根性が染み付いていた。
 得てして、こういう種類の人間は、獲物を得た途端、普段はありえない獣性を発揮する。オレは経験で知っていた。

「いや、ちょっと待て。オレには何がなんだか……」

「にいちゃんがぁ、にいちゃんがぁ、そうしないとあたしのショーツ、ヤフオクで売るってぇ」

「こいつぅ、自分の妹になんてことを……。売るなら俺に売れぇええええ!! 
いや、違う。この反社会性人間がぁ! 警察に突き出してやる!!」

 どういうことなんだ。オレはただ、昼飯を食おうとこの小春日和の中を散策していただけなのに。
 いきなり、窃盗の主犯にされてしまった。人生は無常だ。

「ちょっと待て、オレにはなんの関係も……。あっ!?」

 オレとパン屋の男が揉みあいになっている隙をついて、少女は車道の向こう側のガードレールの上に移動していた。ありえない動きだ。

 上等だ。

 売られた喧嘩は買ってやるのが人情ってもんだろ。

「あ、あんな所に風の左平次が!!」

「なんだとおぅ!!」

 男が視線を反らした隙をついて、肝臓に膝蹴りをぶち込んだ。

 オレは身体をくの字に折り曲げる男に片手で謝ると、一声掛けた。

「わりぃな、必ずあとで詫び入れに来させるから! ちょっと待っててくれ」

「ぱ、パン、かえせぇ~」

「パンは返すさ。もしくは、代金を必ず取ってきてやるって」

 本当に、と問いかけるような男の瞳に無言で頷くと、帽子を押さえて走り出した。

 ガードレールの上。

 腰掛けていた少女が、まるで見てはいけないものを見たかのように竦んだように感じた。

 躊躇なく、車道を横断。

 運もオレに味方したのか、走っていた車両の群れが一気にスピードを落とし始める。向かいの信号が赤になったのだ。

 彼女も自分の身の危険に気づいたのだろう、長めの髪をなびかせ走り出した。

 腕を大きく振り、足を高く、高く。

 アスファルトを蹴って、大きく差を縮める。

 刹那の瞬間、全身の力を振り絞って、少女に踊りかかった。もつれながら転がる。彼女の腕を取った所で勝敗は決した。

「――ったぁ~、おいはなせよ! パンぐらいで、ここまでムキになるか? 普通?」

「うるせぇ! 人さまのモノに手ぇだしといて反論するんじゃねー!!」

 空腹も手伝ってか、オレの表情は飢えたコヨーテにでも似ていたのだろうか、少女は俯くと唇を突き出して、不満そうな表情を浮かべながらも屈した。

 ハードボイルドは最後に勝利するのだ。不屈の男、左翔太郎。

 オレは歯を剥いて反論しようとする彼女に、この世界は常に有限で、生きとし生けるものは全て奪い合いをしなければいけない罪深くも拭い難い業を背負っている、けれども互いに尊重しあって生きていかなければならない等という類の説法を聞かせた。

 オレ時間ではそれほどでもなかったが、こんこんと説くうちに、ついには彼女も心から悔い改めたのか、

 最後には手を引いて万引きを行った店にまで連れて行くと、放心したように謝罪を行った。

 誠意天に通ず。

 もっとも彼女は途中で真面目に対応するのが面倒くさくなったという万が一の可能性もあるが。

 追記すると、オレは店員の男に持っていためん棒のふくらんだ部分でしこたま即頭部を殴打された。

 どうやらあくまでも主犯はオレであることに変わりはないらしい。

 帰りには、何故か袋詰めにされたパンを持たされた。

 意外と根に持たないさっぱりした男だったのかもしれない。

 経緯はともかく、こうしてようやく遅い昼食にありつくことが出来た。

 くだんの万引き少女を引き連れ、市内のちょっとした公園のベンチに並んで座る。
 分け前を与えると、あんがい素直に受け取った。

 辺りには緑が多く植えており、自然を演出しているのだろうが、逆にそのわざとらしさが目に付いた。

「よく噛んで食べろよ。あんまりがっつくと、喉につまるぞ。ホラ、ミルクも飲め」

「うるっさいなぁ、まったく、食いかたぐらいあたしの好きにさせろっての」

「若いうちからあんなことをしていたらダメだ。いいか――」

「あー、また説教かよ。これだからオッサンは」

「お、オッサンだぁ!? 聞き捨てならねぇ! まだ、オレは――」

 憤懣やるかたなく、年齢を伝えると彼女はきょとんとした後、肩を震わせ小刻みに笑いだす。

「――って、完全にオッサンじゃん。年じゃなくて、その思考が」

「んだとぉ~!!」

 普通これくらいの年頃は年上の説教など聴きたがらないものだが、彼女はなんだかんだ減らず口を叩く割には、人寂しいのだろうかその場をなかなか去らなかった。

 ……根は素直なところがある。

 オレ達はなんとなくウマが合ったが、ずっとこうしているわけにもいかない。

 自分の名前を告げると、その場を去ることにした。

 罵倒に近い言葉をポンポン投げつけながら、置き捨てられた子犬のような瞳が印象的だった。

 彼女は最後まで名を名乗らなかった。オレはこの時は気にも留めなかったが。


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