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仮面ライダーW 魔法少女のM/探偵のララバイ/04

2011年07月24日 19:46

仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」

165 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/09(土) 00:10:58.79 ID:Hu0QOljI0

/04

 時間よとまれ、汝は美しい。

 この言葉を残したのは、ゲーテのファウストだったか。

 私は、教卓の上の時計を見つめながら、まもなくやってくる苦痛の時間を思い、心の中でため息をついた。

 終わる。

 終わってしまう。

 授業が終わってしまう。

「はーい、じゃあ今日はちょっと早いけどここまでにしますねー」

 おい! 

 勝手に切り上げるんじゃないわよ!

 そんなに昼食にしたいの! 時間内いっぱいまで真面目に働きなさいよ、ばか!

 日直が号令を掛けると、クラスメイトの皆は三々五々に散っていく。

 楽しい楽しいランチライムだ。そして、私に声を掛ける人間は誰もいない。何故だろうか。

 当たり前だ。それは、私が特別な人間だから。選ばれた魔法少女は、群れたりなどしない。孤高。

 素晴らしい言葉だ。そう考えて心の均衡を保つ。

 告白します。私は友達が少ない、というか、うん、その選んでるの。そして、私の目に適う崇高な人物がここにはいないだけだった。

 すいません、嘘でした。

 かつて、両親を事故で失った際、私は荒れた。

 自暴自棄になって、心配してくれる人たちの声すら無視し、大業(魔女殺し)に邁進していく内に、やがて気づけば一人になっていた。

 そして、私を一人にしたこの世界を恨んでいくうちに、
ますます人々は私を世界からのけものにしていったので、こっちから縁を切ることにしたのだ。

 後悔はない。でも、世俗の垢に染まった小人たちがどうしてもと、媚びへつらって交誼を結びたいと心の底から望むのであれば、

その辺りは柔軟に対応しようと思っているが、やつらは一向に心を入れ替えようとしない。

 ま、私は心が広いのでそれらを待つくらいの度量は兼ね備えている。いつでも、いいのよ、ホラ。

「ごはん、いこー」 

「あ、ちょっと待ってよー」

 前の席の子達が、連れ立って歩き出した時、視線が絡み合う。

 しばし無言。

 やがて何事もなかったかのように、その場を去り、私の意識は日常に回帰していく。

 たまには誘ってみなさいよ、ばか。

 そのまま椅子と一体化していてもお腹はふくれない。

 極めて現実的な決断として、売店に行き、タマゴサンドとお茶を買い、なるべく人気のなさそうな中庭に向かった。


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 日差しはそれほど強くなく、人影はまばらだった。

 私は、なるべく人の輪から離れたカエデの樹の下の芝生に腰を下ろすと、見ることなく視線を空に流した。

 昨日は、後輩である、まどかとさやかと偶然を装って会い、いっしょに昼食を取った。楽しかった。でも今日は……。

 連日はさすがにマズイ。連日はダメ。集団で行動するという強い誘惑を振り切りながらひとりで採る食事は、いつも以上に味気ない。

 思えば二人は、常に私を賛美してくれる。それが心地よい。たまらなく充足する。

 誰かと繋がっていると実感できる。放課後の魔女退治を思うと胸がワクワクする。

 彼女たちがこのまま上手く契約をしてくれれば。

 私たちは同じ魔法少女で、仲間で、そして生死を共にする友だ。

 それは、生半可な契りではない強固なつながりで、ある意味家族より強いきずなだともいえる。

 絆。素晴らしい響きだ。胸が千切れんばかりに震えてくる。喜びと、多幸感で頭が心地よく、ぴりぴり痺れるようだ。

 私が、これからはじまるであろう彼女たちとの歩みに思いをはせていると、その場にひとつの影が差した。

 濃い闇を流したような黒髪。腰に添えられた手首が余計白く、きゃしゃに感じる。

 すっきりと通った目鼻。頬は何処かぶつけたような擦り傷が見られた。

「そこに立たれると鬱陶しいんだけど。何か用なのかしら」

 目の前の女の氷のように冷たく、黒々とした瞳がすっと細まった。

 暁美ほむらだ。

「少し、話があるの。ここ、いいかしら」

 ちょっとだけ、あっけにとられた。

 いつもならこのように会話の口火を切れば、無視するか棘のある言葉を吐いてぎすぎすしたやり取り以外にはならない筈なのに。

 隣に座り込んで両膝を抱え込んだ、彼女の横顔は微動だにしない。視線は遠くに定められ、深い決意が感じられた。

 彼女が友好的に接してきたことなど一度もない。
 かつて、グリーフシードを分け与えようとしたり、共闘を持ちかけたときも返ってきたのは、なんともわかりやすい拒絶だけだった。

 今では仲良くしようとも思えないし、またその必要もない。

 私にとって彼女は理解できる範疇の埒外であるが、悲しいまでに自分が知っている数少ない同種だった。

「単刀直入にいうわ。巴マミ、彼女たち、鹿目まどかや美樹さやかに近づくのはやめて欲しい」

「大きなお世話。あなたにそんなこといわれる筋合いない。
それに強制的に契約を結ばせるわけじゃない。あくまで決断するのは自分自身の自由意志よ。
私やあなたも含め、それはどうにかできることじゃないわ」

「あなたは自分が何を行っているか理解していない」

「だから、それが余計なの! だいたいなんなの、あなたは。関係ないじゃない、私たちには。放っておいてよ!」

「放っておく? 私が?」

 彼女は、目を大きく見開くと、いかにもおかしそうにくすくす笑いを、小首を曲げながら漏らす。

 驚いた。彼女が笑うなど、想像も出来なかったからだ。

 もっとも、彼女の嘲るような笑い方はいちいち癇に障り、不快以外のなにものでもなかったが。

「なに!? なんなのよ!」

「関係、ない、か。それは、違うわ。ありていにいえば、巴マミ。
無関係なのはあなたのほうよ。とにかく黙って彼女たちから手を引けば、私としては、もうあなたに関わったりしない。
約束する。魔女狩りは、好きなだけ一人で続行すればいい」

「だーかーら!! いきなり横合いから出てきて、なんなの! 
彼女たちは私の後輩で、将来有望なの。世界を守る為には、彼女たちの力が必要なのよ! ……ちゃんと報酬だってあるし」

「ふふふ。報酬? そんな安いものに誰もが釣られるわけじゃないわ。あなたと違って」

 その言葉だけは、許せなかった。

 頭の中が、真っ赤な稲光で塗りつぶされた瞬間、私は彼女の頬を強く張っていた。

「なにが」

 お前に何がわかる。私の何が。

 無意識のうちに、胸に手を当てていた。

 記憶の塞がりきれない瘡蓋に 、無理やり爪を突きたてられ、掻き毟られた。

 動悸が、どんどん早くなっていく。肺に食い込んだフロントガラスの残骸。

 糸の切れた人形のように、垂れ下がっている両親の四肢。

 戦場のように叫んでいる人々の怒声。網膜を焼くほどの痛み。

 ひりつく舌と喉の奥に、鉄錆に似た塊が、間断なく浮き上がり、全てを押し流していく。

 世界は反転し、白と黒のキャンバスが交互に差し替えられていく。ひとり、世界に一人。

 私は、ひとりぼっちだ。

 また。

 また、なのか。

 また取り上げるのか、全てを。

 ならば、こいつは、敵だ。

「正気なの……」

 ほむらは背後に飛び退ると、殺気を横溢させている。構うことはない。場所も、道理も、理性さえも。

「ここでやりあえば、どうなるか理解しているの」

 関係ない。

「私たちに干渉しないで。どうしてもというなら、命を掛けなさい」

「そんなもの、とうに掛けてるわ。どうしても、ひかないというのならば、私だって構わない。あなたには、ここで退場してもらう」

「やめて!!」

 思わず声を呑んだ。同時に振り返ると、そこには鹿目まどかと美樹さやかの二人が並んでこちらに歩み寄ってくるのが見えた。
 正面へと向き直る。そこには、あからさまに狼狽の色を滲ませたほむらの蒼白い顔が見えた。

「ほむらちゃんもマミさんも喧嘩はやめて!」

 まどかは、私たちの間に割り込むと、両手をわたわたと振って仲裁をはじめた。
 さやかは、敵意をまったく隠そうとせずにほむらを睨みつけている。

「二人ともどうして、仲良く出来ないんですか。お互い魔法少女なのに」

 まどかの呟きを聞いた途端、ほむらの口がへの字に曲がる。納得いかないという表情だが、それはお互い様だ。

「鹿目さん、別に私は好んでいがみあっているわけじゃないの。
ただ、彼女は一方的に条件を突きつけて、理由も話さない。理解しようがないわ」

「ほむらちゃん……」

「それは――」

「マミさん、ところでその喧嘩になった発端ってなんです」

 さやかの声。この集団の中では彼女が一番冷静なのかもしれない。
 私は、額に掛かった前髪を軽く払いのけると、一歩前に出る。

「彼女は一方的にあなたたちと縁切りしろと迫ってきたの。そんなこと、承服できるわけないでしょう」

「ほむらちゃん、なんでそんなことマミさんに」

「理由はあるわ。でも――」

「まどかもマミさんも、こんなやつのいうこと聞く必要ない。行きましょ!」

「あ、ちょっ」

 さやかは、私の手を引くとその場を去ろうと歩き出す。
 ほむらは、棒のように立ち尽くしたまま、粘った視線をこちらに投げつけてくる。
 酷く、気分が悪い。彼女の目は、飼い主に置き捨てられた犬のように、悲しみと怒り同量で内包されている。
 私の腹に溜まっていった、怒りの種火が徐々に小さくなっていく。
 それから、自分でも理解できない罪悪感がこみ上げてきた。

「待ってよ、さやかちゃんもマミさんも。ほむらちゃんの話、ちゃんと聞こうよ」

「まどか、転校生なんかほっとけって」

「――そうね、私も聞いておきたい。いいかしら、美樹さん」

「マミさんがいうなら」

 さやかは、そっと掴んでいた手をはなすと、頭の後ろで両手を組んで、口を尖らせた。

「いまから、話すことは全て真実。それを受け入れられるかどうかは、あなた次第でしょうけど」

「続けて」

「私は――」

 いい加減な話をしたら今度こそ許さない。そんな気持ちで身構えながら、彼女の言葉に耳を傾けた瞬間。
 校舎全体を揺るがすような轟音が鼓膜をつんざいた。

「な、なに? いまのは?」

 さやかが両手で耳を押さえながら私に問いかけてきた。

「わからない、けど――」

「話はあとにして、確かめてみましょう。ほら」

「うん、ありがとう。ほむらちゃん」

 轟音に驚き、尻餅をついてしまったまどかに手を差し伸べるほむらが、皆を先導するように駆け出す。

 私も同意して、その後に続いた。ほむらに対する、怒りや疑念が消えたわけではない。

 けれども、それらを凌駕するほどに、胸の奥がざわつく。

 この感覚。魔女と戦う時と、同一のものだ。

「嘘、火事!?」

 音の聞こえてきた方角に進むと、校舎の全面を舐めるような真っ赤な炎が、べらべらと音を立て燃え盛っていた。

 私たちがいた中庭は、校舎の奥まった場所で囲まれており、校庭に出るには渡り廊下から、一旦校舎に入るしかない。

 けれども、そこすら既に火が回っており、火勢が強すぎて近づくことすら出来ない状況だった。

「この火の回り方異常すぎるわ」

 ほむらの声。それは、確かに同意だった。まるで、この一角に私たちを閉じ込めたような。

「ねえ、マミさん。これ、おかしいよ。さっき、あたしとまどかがこのどんづまりまで来た時には、
ちらほらそこらじゅうに人がたくさんいたのに」

 ――隔離された? いったい誰が、どんな意図で?

「うう、怖いよぉ」

 まどかは、声を震わせながらほむらの腕にすがっている。

 異常な状況だ。そもそもが、これほどたくさん人間の集まる場所で、これほどの火事が起きているのに、警報はおろか人の声すら聞こえない。

 使い魔? 魔女? それとも?

「油断しないで、 巴マミ。たぶん、それ以外よ」

「なによ、それ以外って。鹿目さん、美樹さん。私の後ろに隠れて!」

 ほむらは既に魔法少女へと変身を遂げていた。

 私も、続けて魔力を開放し、法衣を纏うと、マスケット銃を具現化させ、辺りを警戒し始める。

 校舎を焦がす熱気で頬が焦がされ、ぷつぷつと全身に細かい汗の粒が湧き出す。

 庭を覆うように点在していた木々に火が移り、焦げる匂いが周辺全てを覆った。

「――来た!!」

 ほむらの声に目を向けると、そこには奇怪な覆面をした男が立っていた。

 まるで、そこに最初から居たように。

 教職員ではない、絶対に!

『アームズ』

 男が首筋を捲くり上げ、首筋に何か小さなものを突き刺す。

 同時に、男の身体が膨れ上がり、まるで別の生き物へと魔法のように変化した。

 こしこしと、目蓋をこする。

 目の錯覚ではない。男の身体は、この距離の目測で明らかに二メートル以上の巨体に変化したのだ。

 鋼を掘り込んだような、鋭角的すぎる顔面。上半身は銀色の鎧を身に纏っている。
 左手から突き出しているものは、どうみても銃器だった。

「――っ!?」

 背筋に悪寒を感じた。マスケットを構え照準を絞る。

 が。

 到底間に合わない。怪物の銃口の方が、はるかに早くこちらを捕らえていた。

 あ、――死んじゃう。

 ぎゅっと、目をつぶる。 

 銃声が轟いた。

 あれ、痛くない。

 おそるおそる目を開けると、私の前には、暁美ほむらが拳銃を構えて白い煙を得物から立ち昇らせているのが見えた。

「ARMS DOPANT……?」

 ドーパント。不純物? 理解不能な言葉が、ほむらの口から漏れた。

 怪物が膝を突いているのが見える。同時に、自我を取り戻すと、激しい羞恥心に襲われた。

「こ、の――!!」

 魔力を開放し、マスケットを多重に召還する。

 構え、狙い、撃つ!

 長大な銃身から発射される銃弾が、怪物の胸部に着弾すると、黄金色の炎を巻き上げる。

 全身から流れるように汗が吹き出てくる。前髪がべったりと頬に巻きつき、いらただしさが倍増された。

 オレンジ色に包まれた校舎の窓枠が熱気によって次々と膨張し、破裂していく。

 私にとって、学舎は楽しいものとは、けしていえなかったが、それでも家族を全て失った今、全ての日常の象徴だった。

 日常が壊れていく。平静を保てない。奥歯を知らず噛み込んでいた。
 撃ち終わったマスケットを投げ捨てると、新規の得物に持ち替える。

 アレは魔女でも、使い魔でもない。

 けれどもきっと、殺すことに躊躇いはない。

 私の日常を壊すものは許さない。ありったけの殺意を銃弾に込めた。

 態勢を崩したまま立ち上がらない怪物に向けて、連続で銃撃を加えていく。

「美樹さん、鹿目さんを連れて、離れて!!」

 私も、ほむらも基本の得物は銃器だ。
 別に相談したわけでもないが、ぐるぐるぐると円を描くように二人で交互に回りながら射撃を続ける。

 時折、反撃のため、ヤツは左手の銃口をこちらに向けるが、その都度、狙ったように射撃を外してくれる。

「所詮、見掛け倒しね! 昨日の使い魔のほうがよっぽど手ごわかったわよ!」

 即頭部、胸、右腕、左足。各部均等に弾丸の雨を降らせる。

 一種、爽快だった。

 怪物の身体が跳ね上がったコマのようにくるくる踊りだす。

 もらった!

 私は、止めをさそうとマスケットを担ぎ疾駆する。

「不用意に近づいてはダメ!」

「え――?」

 ほむらの声が聞こえる。同時に、左腕から肩まで焼けつくような痛みが走った。

 すとん、と倒れこむ。それが幸いしたのか、怪物が放った銃弾の雨は僅かに逸れて、後方の燃え盛る常緑樹を薙ぎ払った。

 怪物がゆっくりと近づいてくる。右手には、半ばから折れたような大剣を盾のようにかざしながら、側面から放ってくるほむらの射撃を全て防いでいた。

 身の厚い刀身だ。あんなもので一撃されれば、私の身体は一瞬で粗引きにされてしまう。

 敵の上半身に火力を集中させたのは、間違いだ。真に狙うべくは。

「ひっ!?」

 雄叫びを上げて、不意に怪物が走り出した。接近戦になれば、確実に負ける。

 ならば、足止めだ。

「このっ――!!」

 半ば銀色の装甲に覆われた上半身に比べ、ヤツの大腿部から膝頭までは無防備だ。

 マスケットを構えて、銃弾を膝頭に叩き込むと、怪物は巨体を前のめりにしてゆっくりと倒れ伏す。

 その隙を見逃す、ほむらではない。
 彼女が、手榴弾を投擲するのを視界の端に捕らえと同時に、爆風を避けるため横へと全力で飛びのいた。

 世界を圧する爆音が轟くと同時に、怪物の上半身が黒煙に包まれる。
 煙が晴れると同時に、ヤツの損傷を受けた巨体が目に入った。

 怪物の腰から上はほとんど原型を留めておらず、頑強そうな装甲も燻したように炭化して、茶色に近い体液が、両の目から流れ出ている。感情を宿さない真っ赤な瞳は熟したナツメのようにらんらんと輝いていた。

 何故かこの時、キュウべぇのことが脳裏に浮かび、強い吐き気を催した。

 関連性など、色以外ないのに。私は、大好きなキュウべぇを貶めてしまったことに深い罪悪感を覚え、強く頭を振った。

「早く、とどめを!!」

 ほむらの声。一瞬で現実に引き戻された。傷ついた左手に無理やり力を込める。

 痛覚が鈍磨しているとはいえ、それは今までにない耐え難いモノだった。

 ブランダーバスを召還すると、ラッパのような銃口を構える。

 建築物が焦げる匂いと、脳髄を焼くような熱気と痛みが、今居る世界から神経を乖離させていく。狙いを定める。

 身じろぎもしない怪物に向け、魔力を込めた。

「ティロ・フィナーレ!!」

 喉が張り裂けそうなほど、力を込めて叫ぶ。

 殺意を収斂させた魔力の弾丸が、尾を引いて怪物に命中する。

 同時に爆散。 

 オレンジ色の炎が鎌首をもたげて、伸び上がると、そこには覆面を被った男が倒れ伏していた。

「……ただの、人間なの?」

 もう危険は去ったと理解したのか、後ろに隠れていたまどかとさやかが、私の背に隠れながら、大の字にのびている男へと視線をおろす。

 暁美ほむらは、男の傍らでしゃがむと、被っていた覆面を引きおろす。
 そこには、特になんてことのない中年男性の顔が露になった。

「ただの、人間よ」

 ほむらは立ち上がると、こちらに何か小さなモノを投げてよこした。

 反射的に手を出して受け取るとそれはどこにでもあるような変哲のないうUSBメモリだった。

「メモリ? その男のモノなの?」

 もう一度確認しようとした瞬間、それは縦にひび割れて、バラバラになった。

「たぶん、ガイアメモリ。この男自体は普通の人間でも、このメモリを使うことによって、常人を超えた力を行使していたのだと思う」

「ねえ、ほむらちゃん。この人誰なの?」

「詳しくはわからないけど、たぶん私たち魔法少女の持つソウルジェムを狙っているらしいわ」

「ちょっと待って。そんなの初耳よ」

「全ての答えを求められても困る。今の私は『解』を持っていないの。
ひとつだけいえることは、私たちは魔法少女に変身していない状態でも、魔女以外のモノ、
財団Xに狙われ続けるようになっただけよ。
もっともこの人たちは、魔女なんかよりももっと能動的に攻撃してくると思う。
家の中でも、シャワーを浴びていても、眠りこけていてもね」

「そんな……」

 私はほむらの説明を聞きながら、自分の持っていた魔法少女の優位性が音を立てて崩れていくような気がした。

 魔女を探すのもこちらの役目なら、攻撃をしかけるのもこちら側。

 常に選択肢はこちらの手の内にあったはずなのに、今やそれは完全にひっくり返された。

 ほむらのいう、財団Xの刺客を倒しても、グリーフシードは落とさない。

 つまり事実上、こちらはジリ貧状態に追い込まれたも同然なのだ。

 突然襲われれば応戦せずにはいられないし、その結果は自分のソウルジェムを単に濁らせるだけの話。

「暁美さん。財団Xが魔女ではなく理性を持った人間なら、何とか折り合いを付けられないの」

「彼らが欲しているのは、ソウルジェムとグリーフシードの両方よ。サンプルは多ければ多いほどいいに決まっている。
こちらの戦力が二人とわかってしまえば、人海戦術で攻めてくるかもしれない。
わかっているの? 私たちは少々魔法に長けているといっても、限りがあるわ。
あなたは眠らずに、食べずに、休まずに、永遠に戦い続けることが出来ると思ってるの? 
そんなこと、不可能よ。出来ると思っているなら、本当の愚か者よ。本当の」

「あ、あの。マミさんも、ほむらちゃんもいいかな?」

「何かしら、鹿目さん」 

「まるで、何も出来ない私がいうのは本当にずうずうしいのかもしれないけど、
その一旦ソウルジェムとグリーフシードを渡しちゃうっていうのはどうかな。後で返してもらうってことにして」

「そんなこと出来ない!!」

 焦ったように、叫ぶほむらに、まどかは目尻に涙を溜めると深く俯き謝罪した。

 それを見たさやかが、堰を切ったように声を上げた。

「転校生! まどかをそんなに怒鳴りつけることないだろ! 
じゃあ、アンタに代替案でもあるっていうのか? ないだろ! 感情的に怒ったってしょうがないじゃない」

「暁美さん。それじゃあ、あなたの意見を聞かせてもらってもいいかしら。さぞ、いい思い付きがあるのでしょうね」

「私に意見なんかないわ。ひとつだけ希望をいわせてもらえれば、初めに話をしたように、その二人を巻き込まないでちょうだい。
魔女狩りに同行させるのも、契約をすること自体も考えさせないで。
そうしてくれれば、財団Xはこっちで何とかするわ。あなたは、今までどおり一人で魔女狩りを続けてちょうだい」

「一方的だな。あたしらの考えは無視かよ」

 さやかは、腕を組んだまま吐き捨てるようにいった。

 私も、同意見だ。魔法少女になるかならないかは、本人の意思によるもの。他人が口を出すことじゃないのだ。

「暁美さん、どう考えても私たちは歩み寄れないようね。残念だわ」

「残念も何も。巴マミ、私はただあの二人をあなたの愛玩動物のように扱うのはやめて、といっているだけよ。
私たちが見ている世界は、彼女たちが見ているものとは、とうに別物なの。
一人で戦って、一人で死んでいく。それが、私たちには似合いのルールよ。地獄に彼女らを引き入れないで」

「私が、悪魔だとでも?」

「それは、あなたの後ろで聞き耳を立てている化け物に聞いてみれば」

 ほむらの視線の先。

「化け物はひどいじゃないか。暁美ほむら」

 燃え盛る炎の壁を背にして、全ての始まりの象徴でもある、キュウべぇがちんまりと座り込んでいた。

「キュウべぇ……いつからそこに?」

 キュウべぇの姿を見た途端、ほっと安堵のため息が漏れた。

 どんな危機にも自分のスタンスを崩さない彼を、私はいつしか頼りにしていたのだろうか。少しだけ、力が抜けた。

「嘘、全然気づかなかったよ。まどかは?」

「さやかちゃんが気づかないのに、私がわかるわけないよ」

「それにしても、暁美ほむら。君は、いつからそんなに財団Xについて詳しくなったんだい。教えて欲しいな」

「うるさい、お前が……訳知り顔をするな」

 反応することも出来なかった。握りこまれた銃口が、キュウべぇに向けられる。

 心臓が、きゅっと縮んだように痛む。

 同時に軽い音が、たん、と鳴った。

「な、んで、よ」

 ほむらの顔。キュウべぇの小さな身体が跳ね上がると、その場に転がった。

 呆然と膝を突く。まどかとさやかがキュウべぇに慌てて駆け寄る。

 まどかの泣き顔が、私の目にはブレて映りこむ。

 彼女が抱き上げたそれは、頭部を半分以上失っていた。

 視界が、涙で滲んだ。

 それはもう、彼が二度と戻る筈がないと自分でも確信していたからだ。

「なんで、撃つのよ」 

 キュウべぇ。私の友達。私と契約して、地獄の底から救ってくれた。

 いっしょに食事をして、お風呂に入って、いっしょの布団で寝た。

 家族を一度に失い、学校でも孤立した私の心を慰めてくれた彼は、たったひとつのかけがえのない宝石そのもののようだったのに。

 一番大切なものを失くして、人との距離感がわからず失敗ばかりだった。

 彼との思い出。刻まれた、新しい寄る辺が、再びぽっかりと穴を開け穿たれた。

 そして、戻らないのだ。もう二度と。

 頭の中を、ぐるぐると感情がうねって渦を巻いている。

 ――ポーズの部分もあったかもしれない。

 それでも、本当は、全てを失ってしまったとき、

 もう一度何かを愛してみたかったのだ。

 もう一度だけ。

 それは、もうない。

「なんで撃ったああああああああっ!!」

 マスケット銃。知らず、握りこんでいた。殺意だけが弾丸に託され、それは穿たれた。
 
 鹿目まどかの胸を。

「え、あ、あ」

 暁美ほむらを殺すために撃たれた弾丸は、彼女を庇うため大きく両手を広げた鹿目まどかの胸元を、芸術的なまでに射抜いていた。

 指先が震える。
 
 ごとり、と鈍い音がして、銃器が私の手から滑り落ちた。


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