魔法少女まどか☆ブレード 第1話 「夢の中で会った、ような……」

2011年08月23日 19:15

「ボルテッカァァァーーー!!」

白い騎士が、最悪の魔女へと一撃を放つ。
――これは、既に終わってしまった物語。
暁美ほむらが諦めた物語。
 
故に、次の話を始めよう。
 
魔を手繰る少女たちと、宇宙を駆ける騎士。
呪われた宿命を背負った者たちの運命が、ここに交差する――

魔法少女まどか☆マギカ×宇宙の騎士テッカマンブレード
クロスオーバーSS
「魔法少女まどか☆ブレード」


仮面の下の涙を拭え。



魔法少女まどか☆ブレード

1 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/08(金) 22:48:04.41 ID:4JaEv9bJ0


魔法少女まどか☆マギカと宇宙の騎士テッカマンブレードのクロスオーバーSSです。

*現状、まどか☆マギカは10話までの設定に基づいております。クライマックスまでのプロットは既に立ててはいますが、本編の展開次第ではリスペクトして若干展開を変えるやもしれません。あらかじめご了承ください。

*テッカマンブレードは、一部のみ設定変更している箇所があります。また、映像を見たのがだいぶ昔なもので忘れてたり設定間違いだったりする点が若干あるかもしれませんが、ご寛恕の程をよろしくお願いします。


「――戦わないのかい?」

 白い生物がこちらに問いかける。
 
「――いいえ」

 元より応える義理なんてなかったけれど。彼女は答えた。

「私の戦場は、ここじゃない」

 全てを見限ったかのように。
 全てに興味を失ったかのように。
 素っ気無く言い捨てると、彼女は左手の盾を起動すると――忽然と消え失せた。
 
「……消えた? どういう仕掛けなんだろうね」

 白い生物は訝しげに首を傾げたが、
 
「……ま、いいか。僕のノルマも達成できたし、そこら辺を気にしてもしょうがないよね」

 きゅっぷぃ、と満足げに息を吐くと、白い生物もこの地球から去ろうとしかけて――
 
 突如の爆発音に驚いて、振り向いた。
 仮に岩を風で断ち割ったならば、このような音がするだろう。
 押し寄せた突風に押し流されないように踏ん張りながらも、その白い生物は音のした方角を見やる。
 そして、目を見張った。といっても、そのような表情をすることはこの生物にはできないが。

 そこに「ある」のは、魔女クリームヒルト=グレートヒェン。
 全ての平和と救済を願った少女から生まれた絶望であり、最強にして最悪の魔女。
 それはあらゆる生命を取り込み、自らの結界で共に幸せな夢を見ながら破滅させる。
 この惑星の科学力では、ロクに対抗できるものなど存在していないはずの「それ」は。
 
 今、大きく傾ぎ、亀裂の入ったその身体に悲鳴を上げていた。
 
 ――否。魔女だけではなかった。魔女が睨む視線の先、人間サイズのモノが空中で静止しながら対峙している。
 それは、一言で言うならば鎧騎士だった。
 白く鋭角的な装甲に身を覆い、凶悪に尖った刃が両端についた槍で武装している。
 魔女に比べるとはるかに小さいはずのそれは、やがて両腕を交差させた。
 それに伴い、肩と腕の装甲がスライドして展開する。
 そして――
 ご、という唸りと共に、大気が振動した。
 空間の歪みすら生じる程のエネルギーの渦に、魔女と騎士の間の空間は純粋な力のみが荒れ狂う力場と化していく。
 
「ボル――」
 
 高揚に雄叫びを上げるように。
 或いは悲痛に泣き叫ぶように。
 白い騎士が吠える。

 それに応えるように、母が泣く子をあやすように、魔女は騎士を抱きかかえるようにその触腕を伸ばし――

 直後。限界まで凝縮されたエネルギーの渦が吠えた。
 騎士の叫びと共に。

「テッカァァァーーーーーッ!!!」

 一瞬という時間を以て、発された力の奔流は。
 弾ける光と共に、魔女と騎士を包み込んだ。
 
 
 
 
 
 ――これは、既に終わってしまった物語。
 暁美ほむらが諦めた物語。
 
 故に、次の話を始めよう。
 
 魔を手繰る少女たちと、宇宙を駆ける騎士。
 呪われた宿命を背負った者たちの運命が、ここに交差する――


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 ああっ、すいません! ちょっと考え事してて……――
 
 ――助けて!――
 
 テックセッタァァァー!!――
 
 まずは、一仕事片付けてからでいいかしら?――

 
 次回、「夢の中で会った、ような……」
 
 仮面の下の涙を拭え。



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 ――夢を見ている。
 わたしは、ただただ焦燥感に駆られながら、暗闇の中を走り続けていた。
 
 ――どうして走っているのか?
 
 答えは得られない。
 だけど、わたしは何かを探していた。何かを求めていた。
 それが何かはもう思い出せないけれど。
 だが、それはとても大切なモノだった。
 だけど、もうそれはわたしには決して届かないモノで。
 
(……もう、いいのかな)

 ふと、そんな言葉が心をよぎる。
 そういえば、随分と長い道を辿った気がする。

 ココロはゆっくりと、タールのようにくろくくろく。ねばねばとヨゴれていって。
 カラダをムシバむケガレはどろどろとニクをひきさき、ホネをくだく。
 タマシイはくずレるスナのようにさらさらとトケテイッテ、ぐるぐるぐるぐるカクハンカクハン。
 
 ……ああ、もういいや。
 
 しあわせなゆめのなかで、みんなといっしょにねむろう。
 みんないっしょなら、きっとだれもさびしくないよね。
 だから、まずはおともだちをつくらないと。
 
 そう思って、たくさんお友達を作っていたら。
 
 それは突然現れた。
 白い鎧に身を覆い、当たったらいかにも痛そうな槍を持った、さながらに御伽噺の騎士さんみたいで――

「……ふえ?」

 そして、鹿目まどかは目を覚ました。
 
「……夢オチぃ?」

 唇の端から筋を引いていた涎の跡を、袖でごしごしと拭うと、もそもそと身を起こす。
 お気に入りのぬいぐるみをぎゅっと胸に抱きしめながら、まどかはぼんやりとした頭で考えた。
 変な夢だ。変な夢を見た。
 とても幸せなような、とても辛いような、そんなあれやこれやがごちゃまぜになった、そんな夢。
 説明するにはたくさんの事がぎゅぅっと濃縮されて雪崩れこんだみたいで、言葉にするどころか考えようとするだけでわけがわからなくなる。
 
 ……まずは起きないと。
 
 寝起きの頭で考えたって答えなんて出るはずも無い。眠い頭で勉強しても頭に入るもんかってママも言ってたし。
 フワフワとヘリウム風船のように浮ついた思考を引っ張り戻すと、まどかはゆっくりとベッドから降りた。

 いつも通りに寝起きの悪いママをちょっと手荒に揺り起こして、いつも通りに着替える。
 パパの作った朝食はいつものように洋風で、いつものように美味しくて。
 そして今日も今までと同じようにさやかちゃんとの待ち合わせ場所に行くのだ。

 それは、ちょっと退屈だけどかけがえのない日常。

 昨日もそうだった。
 だから今日もまた、いつも通りの一日になる。
 そう、思っていた。
 何の根拠もないのに、そう思っていた。

 学校へ続く道。一人で歩くには広くて、自転車で走るにはちょうどいいけど、車だと少し狭い。
 そんな道をまどかは小走りに駆け抜けていた。
 よく整地されたアスファルトに日の光が反射してぴかぴか光る。
 時折瞳を貫くそれに目をしばたたかせつつも、足は止めない。
 待ち合わせ場所はもうすぐだ。ややギリギリの出発だったが、早足ならば十分間に合うだろう。
 だが、まどかはもう一つの事を考えていた。
 
(……なんだったのかなあ? あの夢)

 夢らしく荒唐無稽なストーリーだったが、妙に生々しくてリアルだったような気もする。
 さやかちゃんと仁美ちゃんに相談してみようかな。夢占いとか、そういうの詳しかった気がするし。
 ぼんやりと考えをめぐらせつつ、うん、とまどかは胸中で(ついでに実際にも)大きく頷く。
 だが、そのせいだろう。
 
「――ふぎゃっ!」

 鼻先にボスッと衝撃が走り、視界の中を星が舞う。
 お世辞にもあまり色気のない悲鳴を上げながら、まどかは尻餅をついた。
 
「ああっ、すいません! ちょっと考え事してて……」

 半ば条件反射で謝りつつも、まどかは顔を上げる。
 ちょっぴり涙目になって歪む視界の中、そこに青年が一人立っていた。
 どこかいかめしく、鋭い雰囲気をたたえている、という印象の青年だ。
 赤いジャケットを羽織り、色の薄いズボンといった出で立ち。
 しかし何よりも彼の印象を剣呑にしているのは、顔の生々しい傷跡だろう。
 それは、ちょうど左目を縦に貫くように走っており、まどかにはまるで涙を流しているように見えた。
 
「いや、こちらこそ不注意で悪かった。大丈夫か?」

 すると、青年は膝立ちになってこちらに視線を合わせてくる。
 なんだか急激に気恥ずかしくなって、まどかは慌てて立ち上がった。

「あっ、はい! 大丈夫です、もう全然大丈夫です!」

 ぱたぱたと服についた土埃を払い落とすと、無意味にガッツポーズなどしてみたりする。
 それが可笑しかったのか、青年は頬の力を抜くと口元を笑みの形にした。
 
「そうか。それは良かった」
「あ、あはは……」

 照れ笑いしながらも、とりあえず自分の失礼は取り繕えた事に安堵するまどか。
 と――

「――Dボゥイ!」

 横から響いた声に振り向いた。
 見ると、一人の女性がこちらに小走りに近づいてくる。
 その人物は、白いタートルネックのインナーの上から青年と同じ赤いジャケットを羽織っていた。
 もっとも、青年のジャンパー型とは違ってこちらはチュニック状の形だが。
 
「――ああ、すまないアキ。今行く」

 女性の方に視線を向けて返事を返すと、青年はゆっくりと立ち上がった。
 そして、もう一度こちらに笑みを向けて小さく手を振ると、青年は女性――さっきの発言からするとアキ、という名前なんだろうか――と去っていく。
 ぱちくりとまばたきして、まどかはそれを見送っていた。
 
「――Dボゥイ?」

 さっきの、アキという女性が言った言葉。
 言葉通りに解釈するならば、それはさっきの青年の名前、となるんだろうけど――。
 
「……変わった名前だなぁ」

 見た感じ日本人っぽいのに。もしかしたら愛称か何かなのかもしれない。
 そんな事を考えてると、ふとハッと気づく。
 時間はだいぶ過ぎ去っていた。
 
「いっけない!」

 このままでは、さやかと仁美との待ち合わせどころか学校の門限すら危ういかもしれない。
 小走りから全力疾走にレベルを上げて、まどかは走り出した。

「あーっはっはっはっ!」
「うー、そんなに大笑いすることないじゃない」
「さ、さやかさん。そんなに笑っては悪いですわ」

 三者三様の声が響く。
 ひとつは可笑しくてたまらないといった風な大笑い。
 ひとつはめそめそと落ち込み。
 ひとつはおろおろとおたついている。
 一つ目が美樹さやか、二つ目がまどか、三つ目が志筑仁美のものだ。
 
「だってさー。変な夢見たからどんな夢かと思ったら、暗闇の中を走り抜けてて白い騎士様が助けに来てくれた、だよ?
 今どきそんなピュア夢見るのってまどかくらいっしょ?」
「うー、さやかちゃん、意地悪だよぅ」
「いやいや、とんでもない! あたしはむしろ褒めてるんだよ?」

 首と、ついでに腕をぶんぶんと振って否定すると、さやかはぐぐっとコブシを効かせながら語り始めた。

「心がスレるような出来事ばっかりの現代社会!
 その荒波に揉まれるも、ヨゴレを知らぬ真っ白けのけなまどかの心!
 いやー、あたしは心動かされました。よくやった、感動した!
 さっすがあたしの嫁ぇー!」

 妙な流行語も取り混ぜつつ一息で言い切ると、がばちょ、とさやかはまどかにしなだれかかる。

 わたわたと慌てるまどかに、「まあ、これが禁断の愛ですのね」とうっとりしながらズレた見解を呟く仁美。
 そんなこんなのうちに、学校はもうすぐそこまで迫っていた。

 おおむね晴れている空の下、見滝原は午後半ばの流れへと移り変わっていた。
 整然として、それでいて厳格な都市計画の下で建設されていた建築物の群れの間を、蠢くように人が行き来していく。
 そんな見滝原の、駅前のデパート。
 その中のフードコート内のベンチに、Dボゥイは腰掛けていた。
 ベンチ前の通路を横切る人の群れ。少し向こうのショッピングモールで蠢く人だかり。
 それらをぼんやりと眺めながら。
 と、
 
「Dボゥイ」

 声に振り向くと、アキがこちらに近づいてきている。
 彼女はそのままこちらの隣に腰掛けると、片手ずつに持っていた紙コップの片方をこちらに渡した。
 中に入っているのはコーヒーだ。
 近くのドリンクバーから調達してきたもののようで、温かい湯気と共に香ばしい薫りを放ってくる。
 
「ありがとう」
「どういたしまして」

 礼を言いつつ受け取ると、一口ぶんだけ口をつけた。
 じんわりした熱が、唇から舌、舌から喉、喉から胃へと伝わっていくが、やがてはそれもまた消えていく。
 
「……平和な街ね」

 唐突にぼそりとアキが呟く。
 横へと視線を走らせると、彼女は紙コップの中の真っ黒な水面をじっと見下ろしていた。
 
「ずっとここにいたら、ラダムの事も忘れてしまいそうなくらいに……」
「今の地球に、安全な場所なんかどこにもないさ」

 眉尻を下げた表情で、アキは身体を縮こませた。猫背のまま爪先を立てながら、

「ごめんなさい。私たち、休暇でここに来たんじゃないものね。……本当なら、ここで一息つく暇も無いはずなのに」

 一息。

「本当に、この街にいるのかしらね」
「チーフの分析では、奴がここにいる事は間違いない」
「だけど、どうしてテッカマンがラダム獣の一匹も引き連れずに?」
「わからない」

 アキがこちらに視線を向けてくる。だが、その意味はこちらを咎めるのではなく、後に続く言葉を待っているのだろう。
 だから、Dボゥイはそのまま続けた。
 
「だが、この街には何かがある。そんな気がするんだ」
「何か?」
「ラダムでさえも、慎重にならざるを得ない……そんな、『何か』、が……?」

 言いよどんだ。
 それは、一つの声が聞こえたからだ。

『――けて――』
『――助けて!』

 拡声器か何かで叫ぶような、耳をつんざくほど大きな声ではない。
 むしろ、声の大きさそのものはささやきにも似た微弱なものだ。
 だが、それははっきりと聞こえてきた。

「どうしたの、Dボゥイ?」

 こちらの変化を悟ってだろう。アキが訝しげに尋ねてくる。
 
「……いや」

 首を傾げながら、ゆっくりと周囲を見渡す。

(……気のせいだったのか?)

 だが、その疑念はすぐに否定された。
 
『助けて!』

 がたり、と――
 立ち上がったのは無論、Dボゥイだった。

「ねえ、どうしたの? Dボゥイ」

 さっきよりも不安の色を少しだけ強くにじませて、アキ。
 
「声が聞こえる」
「声?」
「……いや、『感じる』と言った方が近いな」

 耳に当てていた手を離す。先ほど聞いた時から当てていた手だ。
 本来なら聴覚を阻害するはずのそれを、だが全く意に介することなく『声』は変わらずにDボゥイにささやき続けていた。
 
「テレパシー? ひょっとしてラダムの……?」
「いや、そこまではまだわからない。どうも、助けを求めているみたいだったが……」

 そこまで言って、再び声が聞こえた。
 先ほどよりも強い声だ。
 
『助けて! ――まどかっ!』

 反射的に或る方向を睨むと、Dボゥイは走り出した。
 
「こっちだ!」
「わ、わかるの?」
「なんとなく、としか言えないが……!」

 かくして、二人は走り出した。

 Dボゥイとアキが移動を開始する数分前。
 まどかもまた、さやかと共に立ち入り禁止区域の工事現場を走り抜けていた。
 頭の中をぐるぐる巡るのは、たった一つだけだ。
 
 ――どうしてこんな事に!?
 
 学校からの帰り道、さやかちゃんが上条君に送るCDを買うのをいっしょにやってたわけで。
 そして、試聴コーナーで良さそうな曲を聴いてたら『声』が聞こえたわけで。
 声に従って歩いてたら、突然白い獣(?)が落ちてきたわけで。
 それを狙っていたっぽいのが転校生の暁美ほむらちゃんなわけで。
 そんなとき、さやかちゃんが消火器で颯爽と助けに来てくれたわけで。
 それで、こうして全力疾走で逃げてるわけで。
 
 うん、わけがわからないよ!
 
 ある意味現実逃避にも近いセルフツッコミをかましながらも、まどかの足は止まらずにいた。
 いたが、そろそろ限界だ。元より体育はからきしというほどではないがかなり苦手な部類ではある。
 そうでなくとも、中学二年生の女の子が全力疾走で走り抜けられる時間なんてそう長くはない。
 隣のさやかも似たようなものだったようだ。
 こちらがペースを緩めたのを認めると、共に立ち止まってぜいぜいと息を切らしていた。
 
「……ったく。あの転校生、何考えてるんだっての」

 ばくばくと暴れる心臓を宥め賺しながらも、さやかは悪態をついた。
 
「秀才とか天才とかと変人は紙一重だっていうけどさ。コスプレして通り魔なんてのはそんなもんで片付けられないわよ」

 反論するにもこちらはさやかの倍は息が上がっていたので、まともに喉も動きそうになかった。
 なので、代わりに心の中でつぶやく。
 
(……でも、私にはほむらちゃんが悪いことを考えてるようには見えなかったけど)

 思い起こすのは、キッと強い瞳でこちらを見据えるほむらの顔だ。
 鬼気迫るものを感じたのは確かだが、不思議と邪な感じはしなかったのだ。

 と――
 
 カツーン……
 
 足音が響いた。

「…………」

 泣きそうな顔で、まどかはさやかを見る。
 さやかの方は言うと、眉に無理やり力を込めて身構えた。

 宙にゆっくりとジャブを二発。
 ついでにボディーブロー。
 とどめにアッパー。
 
「よ、よーし。来いっ」

 もう何というかとてつもなく色々と駄目そうな雰囲気だったが、敢えてまどかは口に出さずにおいた。
 そのまま数秒。
 息すらも止めて作り出した沈黙の中、変わらずに足音は響く。
 
「……来たくないなら来なくてもいいんだよー……」

 弱気が顔を出したのか、ぼそりと眉尻を下げながらさやかが呟いた。
 暗がりの中、差し込む光の中に現れたのは。
 
「……君は、今朝の?」
「Dボゥイ……さん?」

 今朝に会った、Dボゥイという青年だった。

「しかし、なぜ君たちがここに? ここは危険だぞ」
「ごめんなさい……」

 先頭にDボゥイ、まどかとさやか、そして殿にアキ。
 そんな隊列を組みつつ、四人は人気の無い工事現場の中を歩いていた。
 
「俺に謝らなくてもいいさ。……だが、本当にどうしてこんな所に?」

 自分の声がまどかを威圧しているとでも思ったのか、Dボゥイは幾分か語気を和らげながら口を開いた。
 
「よ、よくわかんないんですけど――」

 呟きつつ、天井を眺める。
 シミの数を数えようかなんて考えが頭をよぎったが、結局のところただの現実逃避だ。
 意を決して、まどかは大きく息を吸った。
 
「この子が、なんだか私を呼んでたみたいで……」
「あ、そういやあたしも聞いてなかったな。まどか、その生き物、なに? 猫とも兎ともつかないけど」

 言われて、腕の中を見る。
 傷だらけのその生き物は、まどかの手でぶるぶると震えながらその身を丸めていた。
 
「……声だって? 君も聞こえたのか?」
「ええと……Dボゥイさん、も?」

『!!』
「ど、どうしたの?」

 突如、びくりと腕の中の生き物が身体をひときわ震わせたのを見て、まどかは慌てて視線を下ろした。

 ――瞬間。
 世界が、崩壊した。
 
 ぐらぐらと身体が揺れる。倒れまいと踏ん張ろうとしたけれど、硬い地面が見つからなかった。
 自分の足がなくなってしまったのか、はたまたわたしの知らない間に地球がなくなってしまったのか。
 ようやく視力が回復すると、まどかは自分が尻餅をついているのだと気づいた。
 目を瞬かせながら、きょろきょろと首を回すと――
 周囲の状況は一変していた。
 
 鉄のフェンスだったモノは圧縮されたようにひしゃげた形に変わり。
 壁は、クレヨンの落書きのように不自然に歪んだ色をしている。
 地面は油の油膜のようにぐにゃぐにゃとした光沢をしていて、触ると絵の具のようにぬめぬめとしていた。
 ……虹の色を、ここまで醜悪に感じたのは、生まれて初めてだった。
 
「な、に……これ」
 
 唾が絡んでまともに動かない喉を、意識を総動員して無理やり動かす。
 結果、気管がひりひりと痛んでしまうことになるが、この状況ではその痛みすらも有難かった。
 そうでもなければ、目の前にいる――もしかしたら「ある」が正しかったのかもしれないけれど――モノに、圧倒されて思考さえ凍りついてしまいそうだったから。
 
 それは化け物だった。そう呼称するだけで全てが事足りる。そんな化け物だった。

 ――カイゼル髭を生やした毛虫。
 
 そんな言葉がまどかの脳裏をよぎる。馬鹿げていた。とびっきりに馬鹿げていた。
 
「な、何よ。何なのよ、これ!」

 隣にいたさやかも似たような調子で、恐慌めいた声で叫ぶ。
 
「Dボゥイ! これって、もしかして……!」
「……いや、おそらく違う。こんな妙な小細工は、『奴ら』はやらない」

 Dボゥイとアキの二人はというと、緊張しながらも落ち着いた様子だ。
 ひょっとしたら、二人はこんな異常事態には慣れっこなんだろうか。
 
「Dボゥイ、さん……」
「下がってくれ、二人とも。……アキ。二人を頼む」
「ええ、でも気をつけて」
「大丈夫だ。遅れは取らない」

 まどかとさやかの手を引きながら後退するアキに、Dボゥイは力強く頷いた。
 
 三人から正面の化け物の群れへと視線を戻すと、ゆっくりとDボゥイは身構えた。
 懐へと手を伸ばす。指先へと伝わる冷たく硬い感触。

 それは、テッククリスタル。
 
 彼らテッカマンの証にして、テックセットするために必要なデバイス。
 だが、その紅いクリスタルはDボゥイ自身のモノではない。
 
(ミユキ……)

 クリスタルの本来の持ち主へと、Dボゥイは想いを馳せた。
 ……時は、十数日前に遡る。

「ペガスは連れて行けない、だって?」
「そうだ」

 聞き返すDボゥイに、彼は頷いた。
 ハインリッヒ・フォン・フリーマン。Dボゥイたちの直属の上司にしてスペースナイツの長である男。
 場所は、テキサス基地。
 スペースナイツの総本部の、そのまた司令室だ。
 
「何故ですかチーフ。ペガスがいないとDボゥイは……」
「落ち着いてくれ、アキ。まずは私の話を聞いて欲しい」
「…………」

 アキが口を閉ざしたことに頷くと、フリーマンは口を開く。
 
「まず、知っておいてもらいたいのは、今回の任務は隠密作戦、ということだ」

 言って、フリーマンはこちらとアキの顔を交互に見やった。
 
「テッカマンエビルが、日本の見滝原へと単独で潜入している――この情報は、間違いの無い事実ではあるが……」

 一息。
 
「この街は、現状ではラダムの危機には晒されていない。我々スペースナイツは、名目上は対ラダム専門のチームである以上、本来はラダム以外の理由を以て動くことができないのだ」
「だから隠密作戦か」
「そうだ」

 再び頷くと、フリーマンは話を続けた。

「そのため、今回はDボゥイとアキに行動してもらう事となる。現状、最近のラダムの活動は沈静化しつつあるが、それでも余談を許さない以上全ての戦力を投入するわけにもいかない。
 ……だが、ペガスは忍び込ませるにはあまりにも無理難題が多い。そのため、今回においては同行を断念せざるを得ないのだ」
「でも、それじゃあ彼は戦えません」

 かつてテッカマンダガーとの戦いで、自らのテッククリスタルを破損したDボゥイは、ペガスのサポートなくしてテックセットを行うことはできない。
 それはつまり、エビルとの交戦は不可能である、ということに等しいのだ。
 
「無論、それに対する対策は打ってある。……Dボゥイ」
「…………」

 いつになく真剣な表情で――この男が真剣でないときなど今までも、そしておそらくはこれからもない気はするが――こちらを見てくるフリーマンに、Dボゥイは何も言わずにその視線を正面から受け止めた。
 
「我々は、テッククリスタルをもう一つ所持している」
「――まさか、チーフ! それって――!」
「俺に、レイピアの……いや」

 アキの言葉を遮って、発せられたDボゥイの声。
 それは、背筋が震えるほど張り詰めた意志の力が込められていた。

「ミユキのクリスタルを使えと、それでテックセットを行えと、そういう事だな? チーフ」
「……そうだ」
「私は反対です!」
 
 だんっ! と机を叩いてアキが身を乗り出す。

「あれは、彼女がたったひとつ、Dボゥイに遺してくれたものです! それを、こんな事で使ってしまっていいわけが――」
「了解した、チーフ」
「ちょっと、Dボゥイ!?」

 再びこちらを遮ったDボゥイに、アキは怒りを込めた視線を向ける。
 それでいいのかと。
 たった一つ残された、妹の形見だというのに。
 そんな事に使ってしまっていいのか、と。
 
「確かにそれ以外に手はなさそうだ。――それに」

 ぐっと拳を握りこむ。手が血の気を失うほどに。
 
「……俺はラダムを滅ぼす。如何なる代償を払おうとだ」

 ――そして、時間は現在へと回帰する。
 
(――ミユキ)

 懐に忍ばせた、今は亡き妹の名を口にしながら独りごちた。
 
(俺はお前を守ることが出来なかった。……だが)

 ぐっと手の中のクリスタルを握りこむ。クリスタルが手指に食い込んで痛みが走るが、そんなことはどうでもよかった。

(だが、今は。今だけは。その力を少しだけ俺に貸してくれ。俺のためだけじゃない)

 かっと目を見開く。化け物の群れは、もうすぐそこまで迫っていた。
 
(俺の後ろにいる人たちを守るために――!)

 もう、迷いは無い。
 懐のクリスタルを素早く掲げると、彼は叫びが、退廃的な空間の中へと響き渡った。
 
「テックセッタァァァーーー!!!」 

 瞬間、Dボゥイの身体は光に包まれた。
 ビキビキと音を立てて、身体がテッカマンである彼の本来の姿――素体へと変貌していく。
 それも一瞬で終わると、今度はクリスタルから発される光によって、光子変換物質で形づくられた強固な装甲が、彼の身を補強する。
 変身は、それで終わり。
 ぐ、と全身に力を込めてからゆっくりと緩めると、彼は叫びを上げる。
 
「テッカマン――ブレードッ!!」
 
 それはさながらに、騎士の口上のように響き渡った。



「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」

 そして。暁美ほむらもまた、走っていた。
 全力疾走なところもまた同じ。だが、その顔に浮かぶ焦りの色はより色濃く。
 
 ――しくじった。
 
 美樹さやかの存在を考慮の外に置いてしまった。
 それ故に、今こうして彼女を見失い、追いかける羽目となってしまったのだ。

 ――魔法を使って追いかけるか?

 いくら見失ったといえど、彼女たちは所詮ただの一般人だ。
 魔法少女である自分ならば、いとも容易く彼女を細くできるだろう。
 だがそれは、あの悪魔に自分の魔法を見られてしまう、ということでもある。
 ヤツに自分の手の内を晒すことは、可能な限り避けたかった。
 それ故に、こうして魔法を使うこともなく工事現場「だった」空間の中を走っている。
 臆病な判断を下した自分が呪わしかった。
 こんな事になるなら、魔法を使ってでもまどかを捕まえておくべきだったのだ。
 
 ――魔女の結界。
 つい先ほど展開したそれは、工事現場一帯をすっぽりと包み込んだ。
 魔女の結界に捉えられた人間は、魔女に食われてエサとなる運命が待ち受けている。
 ……急がなければ、いつ彼女らが毒牙にかかるともしれないのだ。

「――!」

 見えた。
 若い女と一緒にいる、鹿目まどかと美樹さやか。
 そして、使い魔の群れと対峙しているこれまた若い男。
 ただの人間が使い魔、しかも郡体と戦おうなのど無謀でしかないが、逆に好都合だ。
 今なら、まどかだけでも確保して逃がすことができるかもしれない――
 自らの異能を以て、この状況を打破せんと、暁美ほむらはゆっくりと身構え……
 
「テックセッタァァァーーー!!!」

 そこで、ほむらの思考は凍りついた。
 男が上げた叫びに、では無論無い。
 声と共に走った閃光。そこから現れた、鎧騎士に、だ。
 
「テッカマン――ブレード!!」

 完全に出て行くタイミングを逃し、ほむらは呆然と立ち尽くす。
 こうしている間にも、騎士は使い魔の群れに飛び込んでいった。

「アレは……なんなの?」



「はぁぁーっ!」

 迫る使い魔の群れを、Dボゥイ――テッカマンブレードが吹き飛ばす。

 ――テッカマン。
 外宇宙生命体ラダムが、他惑星への侵略を効率的に行うために生み出した生物兵器。
 本来ならば、ラダムの敵である人類へと振るわれるその力は。
 今は、人間を――後ろにいる仲間たちを守るために使われていた。
 
 まず、正面から飛び込んできた使い魔に拳をぶち込む。
 人間の枠を超えた怪力をねじ込まれた使い魔は、吹き飛びながらばらばらに四散した。
 今度は、左右から一匹ずつ。一方は拳に砕かれようとも、もう一方が取り付くという腹積もりか。
 その意図を見抜いたブレードは、左右の肩に手をかざすと再び叫んだ。
 
「テックランサー!!」

 肩の光子変換口から、テッカマンの標準兵装である短槍――テックランサーが射出される。
 二振りのそれらを両手に取ると、ブレードは左右の使い魔に正確な狙いでランサーを突き出した。
 勝利を確信していたであろう使い魔ニ匹は、自分の思惑が叶わずに終わった事にすら気づかないまま、頭を貫かれて消滅する。

「やぁぁーーっ!」

 散ったそれらに一瞥すら投げないまま、ブレードはランサー二つを合体させると、高速で振り回しながら使い魔の群れを薙ぎ払った。それはさながらに白い暴風だ。

「ま、まどか。何あれ。変身……してた、よね?」
「……う、うん」

 まどかとさやかは、突如鎧姿に変身したDボゥイ――たしかテッカマンブレードと名乗っていたが――が、化け物の群れと果敢に戦うその姿を、半ば呆然と見つめていた。

「あの人……なのかな。あの鎧の人」
「たぶん……そうだと思う」

 時折放たれる気合の声。
 それは、間違いなくDボゥイ自身のものだった。
 
「さあ、彼が食い止めてくれている内に一旦下がりましょう」

 二人の肩を優しく抱くと、アキは平静な口調でまどかとさやかに語りかける。

「で、でもあの人をあんな危ないところに一人だけにしちゃ……」

 焦った顔でこちらを見上げてくるさやか。
 だが、アキは泰然と微笑みを返した。
 
「彼なら大丈夫。このくらいの相手なら遅れは取らないわ。さあ、早く」

 そこまで言うと、アキは二人の手をとって後方に引っ張っていく。
 手を引かれながらも、まどかは一度だけ後ろを振り向いた。
 
 ブレードは、変わらずあの化け物を薙ぎ払っている。
 だが、まどかが思っていることはそれとは別のところにあった。
 
(でも、あの人、どこかで……夢の中で会った、ような……)

 理由もなく湧き上がるデジャヴに首を傾げながらも、まどかはアキとさやかに着いて歩き出した。

「ぬんっ!」

 裂帛の気合と共に、ブレードはもはや何十体目だかの使い魔を切り裂く。
 そのまま後ろから襲い掛かろうとしていた一体を振り返らずにランサーで貫くと、周囲を見渡した。
 
(ひとつひとつは、ラダム獣にも及ばない程度の強さでしかない。だが……それ以上に、数が多すぎる!)

 こちらが思考を巡らすのにもお構いなしで跳躍する使い魔を、再びランサーを振り回して薙ぎ払う。
 
(『アレ』を使うか……? だが、既に囲まれたこの状況では……。それに何より、『アレ』を使えばそれ以上にあの三人が危険に晒される)

 ブレードに対抗するだけではと悟ったのか、アキ達の方へも向かおうとする使い魔をランサーを投擲して両断。
 武器を失い、素手になったブレードに、今こそ好機とばかりに殺到する使い魔たち。

(……どうする……!?)

 ブレードの声には、焦りが滲み始めていた。
 
 だが――。
 
 ズドン!
 
 突如別の方向から響く銃声と共に、使い魔のいくらかが吹き飛んだ。

「――!?」

 思いがけない乱入者に、ブレードも使い魔たちも一瞬我を忘れて静まり返る。

「危ないところだったわね。……あなた達も」

 物腰柔らかな声を発しながら陰から現れたのは、少女だった。
 特徴的な、亜麻色にも見える髪を二つおさげにしている。
 くるくるとカールした癖っ毛が、まるでバネか何かのようにも見えた。
 目は柔和に細く、おおよそこの戦場の雰囲気には似つかわしくはなかった。

「……でも、もう大丈夫!」

 自信に満ちた声と共に、にっこりと笑う。
 そして、まどかが抱いている白い獣を見ると、
 
「あら……あなた達が、キュゥべえを助けてくれていたのね。ありがとう」
「え、えっと、わたし…」
「……その子は、私の友達だから」
「あの……わたし、この子に呼ばれて!」

 その言葉に、何か合点が入ったかのように少女は目を細めた。
 
「そうなのね。……まあ、そこの騎士さんとも積もる話はあるけれど、その前に――」

 すぅー…と深く息を吸うと、少女は黄色く輝く卵型の宝珠を取り出した。

「――まずは、一仕事片付けちゃっていいかしら?」

 そして、少女はゆっくりと宝珠を掲げる。奇しくも、それは先ほどのDボゥイとよく似通っていた。
 一際宝珠の輝きが強くなると、彼女の姿が変化していく。
 
(まさか、これは――!)

 一人戦慄したブレードは、腰のテックワイヤーでランサーを引き戻すと、身構えた。
 
(テックセット!?)

 まさか、自分と『奴ら』の他に、新たなテッカマンが誕生していたとでもいうのだろうか。
 そんな事を考えている間にも、彼女の変化は終了する。
 黄色・黒・白を基調としたベレー帽とブラウスと裾の短いスカート、という格好だ。
 腰につけたコルセットのせいで、豊かな胸がなおのこと目立った。
 
(いや、違う……? だが、なんだ? これは……)
 
 どことなく、音楽隊か何かを連想させるその少女は、くるりと踊るように回転。
 すると――
 まるで魔法のように、大量の――少なく見積もっても数百は下らないだろう――マスケット銃を空中に顕現する。
 
「さあ――」

 少女は、オーケストラの指揮者のように、スッと片手を挙げ――。
 
「いくわよ!!」

 振り下ろした。
 すると、同時に銃の群れが一斉に銃声の咆哮を上げて――。
 
 ブレードの周囲の使い魔の群れを、根こそぎ撃ちぬいた。

 もうもうと上がる土煙。
 成長していく生物のように蠢くそれも、やがては周囲に溶けて散っていく。
 周囲には、雨粒の跡のように無数の弾痕が穿たれている。
 だが、あれだけの数を射撃してブレードには傷一つないのは、彼女の腕が成せる技なのだろう。
 直後、軽やかな音を立てて、彼女が着地した。
 油断なく周囲に視線を走らせている彼女に合わせ、ブレードも周囲へと感覚を馳せていると――
 
 ふとした瞬間に、世界は復元された。
 
 あの悪趣味で退廃的な景色は消え去り、元の工事現場へと戻っている。
 彼女が穿った弾痕の跡すらなく、テックセットしたブレードと装束姿のマミがいなければ、今までのことがそっくりそのまま夢ではなかったのかと疑ってしまえるほどに。
 
「元に戻った……のか?」
「ええ。……ありがとう。あなたがいなかったら、私は間に合わなかったところだったわ」

 どう反応していいかわからず無言でいると、あ、と何かに気づいたように口に手を合わせる。
 
「ごめんなさい、名乗りもせずに失礼だったわね。……私は巴マミ。この見滝原を守る魔法少女よ」
「魔法……少女?」
「ええ、そうよ。詳しくはあそこにいる三人も加えてゆっくり説明して――」

 声が途切れる。
 同時に、ブレードとマミは同じ方向へと振り向いた。
 それは、まどか、さやか、アキの三人がいる場所のさらに向こうの、土砂が小高く積もれた小山。
 そこから、小さな物音が聞こえたからだ。
 そこにいたのは――。

「…………」
 
 一人の少女だ。
 紫を基調とした装束に身を包み、長く艶やかな黒髪が美しい。
 その少女は、厳しい目つきでまどかと、その腕の中の獣――マミの話だと確かキュゥべえ、といったか――そして、ブレードを睨んでいた。
 
「て、転校生? アンタまたまどかを狙ってきたのねっ」
「ほむら……ちゃん?」

 眉を逆立てて身構えるさやかと、それとは対照的に怯えた表情を見せるまどか。
 そんな二人をよそに、口を開いたのはマミだった。
 
「魔女なら逃げたわ。今回は譲ってあげるから、追うなら速くしなさい」
「私が用があるのは魔女じゃないわ。そこの――」
「あら、思ったより察しが悪いのね。――見逃してあげるから早く消えなさい、って言ってるのよ」

 変わらない微笑を称えたまま、マミはぴしゃりと少女――暁美ほむらの言葉を遮った。
 両手は空手のままだが、ほむらが何かの素振りを見せれば容赦なくあの銃撃を見舞うだろう。

「…………」

 ほむらはしばらくは我慢強く対峙していたが。
 やがて、ブレードをもう一度強く睨むと、身を翻して通路の陰へと消えた。
 
「へん、何よ。スカしちゃってさ」
「……さあ、説明する前に、まずはキュゥべえの怪我を治さなきゃならないわ。悪いけど、みんなこっちに来てもらえるかしら?」

 治療といっても、彼女の治療は医療キットを使うようなそれではない。
 マミがキュゥべえに手をかざすと、淡い光が漏れてみるみるうちに白い獣の傷がふさがっていく。
 それは、本当に魔法のようだ。
 やがて全ての傷が癒えるとキュゥべえはその四本の足ですっくと立ち上がった。
 
『……ふぅ。ありがとうマミ。助かったよ!』

 頭から漏れるのは少年のような声。
 それは、Dボゥイがデパート内で聞いたそれと同じものだ。

「ふふ、どういたしまして。でも、まずは私よりもこの子達とあの騎士さんにお礼を言うべきじゃないかしら? キュゥべえ」
『おっと、これは失礼したね』

 そして、その白い獣はまどかとさやかに向き直った。

『ありがとう、まどか、さやか』

 最後に、Dボゥイ――既にテックセットは解除している――とアキの方にその紅い瞳を向けると、
 
『……そして、ありがとう。テッカマン』
「…………」

 無言のまま、Dボゥイとキュゥべえは視線を交錯させる。
 なぜ、この獣が自分のことを知っているのか。
 だが、その思考はさやかの素っ頓狂な叫びで中断された。

「え、え!? なんであたし達の名前知ってるの? ていうかあの化け物って何? なんかDボゥイさんは変身するしこっちの人は魔法少女とかなっちゃうしっ!!」
「ええと、落ち着いてね? 一つ一つ説明していくから」

 鼻息荒く詰め寄るさやかをステイステイと落ち着かせながら、マミは続けた。
 
「簡単に言うと、さっきの騎士さんが蹴散らしていた化け物を『使い魔』っていうの。そして、その親玉が『魔女』。
 こいつらは、人の負の思念から生まれてきて、一般人を自殺などの"死"に誘うのよ。
 そして、それを狩ることで人々を守るのが、私たち『魔法少女』」
「でも、魔法少女って……そんなの、聞いたことないわよ。私たち」
「それはそうね。私たちは人知れず活動してるし、魔女や使い魔は基本的に普通の人には見えないから」

 戸惑い気味に声を漏らしたアキにも、頷いてマミは続けた。
 どことなく、少し得意げにも見える。
 そして最後に、マミはまどかとさやかに顔を向けた。
 
「そして、キュゥべえが見えるということは、あなた達にもその才能があるってことよ。鹿目さん、美樹さん」
「そうだね。……ねえ、まどか、さやか。僕は君たちにお願いをしたいんだよ」

 そう言うと、キュゥべえはかくんと可愛らしく小首を傾げる。
 
「僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ!」



「魔女と使い魔。そして……魔法少女、か」

 アキの言葉に、Dボゥイは無言を返す。
 あの後、少女たち三人を家まで送り届けた二人は、夜の見滝原を歩いていた。
 
「ラダムだけでなく、そんなものまでいたなんて、ね」

 ふう、と息をつくと身体の各所に熱い疲労が噴出してくる。
 なんだかんだで、今日はハードだった。思いがけないことだらけでもあったし。
 
「……どうしたの? Dボゥイ。そんな難しい顔をして」
「……いや、なんでもない」
「ふぅん。……ねえ、私が仮に魔法少女になって、あなたと戦えるように、って願ったら……あなた、どうする?」

 悪戯っぽくこちらを覗き込んでくるアキに応えて、Dボゥイは想像力をめぐらせる。
 一番最初に浮かんだのは、魔法少女のアキをまたいで通るラダム獣だった。
 わけがわからない。
 
「想像もつかないな」
「……はっきり言ったわね。しかも即答で」
「う……すまない、アキ」

 眉間に皺を寄せるアキに小さく謝りながら、Dボゥイは空を見上げた。
 スペースナイツの本拠地と、そしてあの宇宙にいた頃と変わることなく、星空は輝いている。
 
(…しかし、……魔法少女、か。エビルの一件は、これに絡んでいるのか……?)

 だが、星たちはDボゥイの疑問には答えずに、ただ瞬きを返すのみだった。


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


 テッカマン。強大な力を持つその存在。
 ブレードを危険視したほむらは、Dボゥイの真意を確かめるべく、行動を開始する。
 一方、マミはまどかとさやかを引き連れて魔法少女体験ツアーを開始する。
 結界の中に潜む魔女。未だ現れないラダムのテッカマン。
 果たして、その中に隠された真実とは!?
 

「あなた、一体何なの?」
「あの子、放っておけないわ」
「ティロ・フィナーレ!!」
「ボルテッカァァァーーー!!!」


次回「やっぱり、気づいてないのね」

仮面の下の涙を拭え。



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コメント

  1. Dボゥイ | URL | -

    Re: 魔法少女まどか☆ブレード 第1話 「夢の中で会った、ような……」

    ブレードを神と崇めるが、まどかは見た事無いってのは俺だけだろうな…

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