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仮面ライダーW 魔法少女のM/探偵のララバイ/07

2011年07月27日 19:09

仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」

284 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/21(木) 00:46:25.13 ID:oBULefdH0

/07

 やってしまった。

 やってしまった。

 鹿目まどかをやってしまった。

「おえぶっ!!」

 ステンレスのシンクに向かって、えずく。

「うぇえええっ!!」

 もう何度目かわからない。

 私は涙目になりながら、黄色い液体を吐き出すと、ふらつく頭を振りながら蛇口をひねりこみ、流水で汚物を流した。

「違うのよぉ、違う、私、そんなつもりじゃなかったのぉ」

 時間を刻む時計の音だけが規則的に聞こえてくる。

「べつに、魔法少女なんかなりたくなかったんだもぉん」

 あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。

 全ては夢。今も、こうやって泣き喚いて、座り込んでいれば、パパとママがやってきて、優しく慰めてくれる。

 そんな幻想を全力で願い、ぎゅっと目を閉じる。

 まだかな。

 ……ねぇ、まだ?

「パパぁ、ママぁ」

 耳を澄ます。何の音も聞こえない。

 誰の気配もしない。

 窓の向こうは既に夕日が落ちきって、夜が訪れていた。

 ドアの向こう側に、こつこつと乾いた靴の足音が聞こえる。

 その足音を聞いていると、いつも無性に寂しくなるのだ。

 汚れた唇を袖口でぬぐうと、なんとか立ち上がった。腰から下が抜け落ちたように力が入らない。
 これからどうすればいいのだろうか。

「ひとごろしだ、私は」

 美樹さやかの鬼のような形相が、脳裏にちらついて離れない。

 頭をぶんぶんと、左右に振って忘れようと努めた。そういえば、彼女はこの家に来たことがある。

 途端に、激しい恐怖心が全身を浸した。

「に、逃げなきゃ」

 美樹さやかが来る。

 私の中で、鹿目まどかを殺した罪悪感と、断罪される恐怖心がせめぎあい、相克する。

 申し訳ないと思う気持ちとは裏腹に、私の足はアパートを飛び出すと、自然と目的地も定まらないまま駆け出していた。


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「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃ」

 人ごみを避けてふらふら歩き続ける。
 一度も通ったことのない住宅街をくねくねと周り、就業時間を過ぎた工業団地を通り抜け、光のない場所、暗い場所へと移動していく。

 時間が欠落していく。

 感情が欠落していく。

 人間性も消えてなくなる。

 ――そうだ。

 私の中にあるのは、申し訳ないという気持ちよりも、もうこれで本当に後戻りできないという悔しさにも似たいやしい気持ちの方がはるかに大きかった。

「鹿目さんが悪い、鹿目さんが悪い、私はわるくないもん、私はわるくないもん」

 彼女の名前を呟く度に、胸が抉られるようにずきずきする。

 呼吸がしづらい。目の奥がちかちか発光するように、鈍く痛んだ。

 気づけば、いつの間にか見滝河堤防の下に辿りついていた。

 高い草と草の間にしゃがむと、私の背丈程度はすっぽりと包まれて遠目には、まったくわからなくなった。

 そのことが、随分と心を落ち着かせた。

 随分と長い間、人の手が入っていないのだろう、橋の下にはお決まりのホームレスの気配すらなかった。

「おなかすいたよぅ」

 きゅうきゅうお腹が悲鳴を上げていた。

 もう出ないと思っていた涙が、ぼろぼろと零れ落ちてくる。

 擦りすぎた目蓋がはれ上がり、視界がぼんやりと、白い膜がかかったように見えなくなっていく。

 川面を撫でる荒涼とした夜風が草叢まで及ぶと、自然に骨身まで寒さが食い込んでくる。

 私は両手で丸めた膝を抱え込むと、ぎゅっと目をつぶって、今までの楽しかったことを思い出そうとしたが、
脳裏をちらつくのは、大きく目を見開いたまま倒れこんでいく、鹿目まどかの顔だけだった。

「うぅううう~、消えて、消えてよう! もう、いいじゃない、いいじゃないのぉ!」

 魔女なんてどうでもいい。

 元の生活に戻りたい。

 パパとママに会いたい。

 会って抱きしめて欲しい。マミはいい子ね、って頭を撫でて欲しい。

 ひとりが嫌だったから、あの二人を誘ったのだ。いや、理由なんかどうでもいい。
 私の気持ちを紛らわせてくれるのなら誰でもよかった。

 それを、手に掛けてしまったのだ。

 私は、自らの手で絶望と孤独を掴み取ってしまった。

 ふと、伸ばした指先に何かが触れた。

 そっと、拾い上げる。

 それは、薄汚れたちいさなくまのヌイグルミだった。

 そっと、取り上げて星明りにかざす。

 わずかな月のあかりを受けて、くまの瞳はきらきらと輝いて見えた。

「くまさん、私もうひとりなの。あなたも? ね、今夜はとっても寒いの。いっしょに寝ましょう」

 彼はなにもいわず、つぶらな瞳でじっとこちらを見つめている。そっと抱きしめると、目をつぶった。

 もう、ひとりじゃないような気がした。

「マミ、起きて、マミ!」

 どのくらいまどろんでいたのだろうか、どこかで呼ぶ声が聞こえる。

 顔を上げて声の主を探す。
 草叢を掻き分けて、堤防を上ると、まだほの暗い橋の欄干に立つそれをようやく見つけることに成功した。

「キュウ、べぇ? ――なん、で?」

「そんな、化け物を見るような目で見ないで欲しいな。僕は僕だよ、マミ」

 そこには、確かに撃たれた筈のキュウべぇが何事もなかったかのように存在していた。

「キュウべぇ!! 私、私!」

「ちょっと、そんなに強く抱きしめないでくれよ、きゅっぷ」

「だって、だって、私、私ぃ!」

 ――嬉しかった。先程まで、もうこの世界でひとりぼっちだったのに。

「うれしくて、うれしくてぇ、ああ」

「大げさだよ、マミ」

 ここに彼がいる。言葉が通じて、手でふれて感じ取れる存在が。

 喜びと、嬉しさで胸がはちきれそうだった。

 先程とは違った涙が溢れてくる。

 夜明けの星星は、私たちを祝福しているように見えた。

「でも、なんで? 確かにあなたは、暁美ほむらに」

 キュウべぇの赤い瞳。

「あのくらいでやられはしない、僕には僕の奥の手があるのさ、マミ」
 
 なんだろうか、彼の瞳を見つめているうちに、疑問だけが掻き消えて、もういちど彼に会えたという喜びだけでいっぱいになった。

 理屈なんてどうでもいい。彼が、ここに居るという事実だけで満足だ。

「――でも、私」

「そう、鹿目まどかのことかい? まさか、あそこで飛び出すなんてね。さすがに今回の彼女は危なかったが」

 急速に現実に引き戻された。再会の嬉しさと安堵感が凍結し、深い罪悪感が胸の奥でじわりじわりと頭をもたげていく。

 胃が反転しそうだ。無意識のうちに唇を噛み切っていたのか、口の中が鉄錆の匂いで溢れた。

「美樹さやかの力で事無きを得たよ。よかったね、マミ」
 
 キュウべぇの話によると、私があの場を走り去った後に、美樹さやかが鹿目まどかの蘇生を条件に魔法少女になる契約を交わして一命は取りとめたそうだ。

「でも、彼女たちは、私のことを、もう許してくれないでしょうね」

「そんなことないよ。君が悪いんじゃない。どちらかと、いえば元凶は。――暁美ほむら、さ」

「――え」

 ぐらり、と世界がねじれた。

「覚えているかい。あの、ドーパントとかいう怪物。
どうやら、暁美ほむらは、あの怪物を送り込んできた組織とどこかつながっているらしいね」

 怪物。

「現に、彼女はあのドーパントを倒せるチャンスは幾度となくあったにも関わらず、止めを君にささせた」

 ――暁美ほむら。

「みんな騙されているのかもしれない。まどかも、さやかも、そしてマミ、君もだ」

 ――だまされている?

「マミは、まどかを撃ってしまったことを悔やんでいるのかもしれないけど、それすら彼女の誘導によるものだったとしたら?」

 ――みんなが?

「確かに撃ってしまったことは事実だ。変えようのない現実かもしれない。
けれども、ちょっとした過ちを恐れて真実に目をつぶることが、僕らにとって本当の意味で進歩に繋がると思うのかい?」

 キュウべぇの声が、一段と深みを増して、響く。

 疑うな。

 疑うな。

 彼を信じよう。

 だって彼は、私を心配してくれた。

 ここまで来てくれたのだ。

 ――疑うなんて、失礼だ。

「でも、美樹さんは私のことを、酷く責めて」

 ――私を、ひとごろしと。

「勇気を出すんだ、マミ。この失敗を糧にして前に進もう。
とどまっていたのでは、なにも始まらない。
行動することが、現実を打開するんだ。壁を突き破って進まなければ、どこにも辿りつけない。
君の力で、もういちど時間の針を推し進めるんだ」

「ねぇ、キュウべぇ、私はまず、何をしたらいいのかしら」

「僕に、いくつか腹案がある。もっともこれを、どのように理解し行動するかは、全てマミの決断しだいだけどね。
僕は厳しいことをいっているのかもしれない。
けど、これはこの街の、いやそんなちっぽけなものじゃなく、この世界全てを安定に導く最良のものなんだよ。
今は理解できないかもしれない。でもいずれは理解できる。君にはそれが可能だと、信じているよ」

「教えて、キュウべぇ。私、やるわ。それが世界の為になるなら」

「これから君の為すことは、とても勇気のいることだ。けれども、ひるんじゃダメだ。マミ、それが魔法少女の宿命なんだから」

「しゅく、めい」

 もお、考えるのが億劫だ。でも、キュウべぇがいる。
 私はひとりじゃない。ひとりぼっちじゃない。怖くない。勇気を出さないと。

 私には優れた知恵はない。

 でも、彼に従っていれば平気だ。彼に間違いはない。

「ねえ、これだけは答えて。キュウべぇ、私たち友達よね? 信じて、いいわね?」

 だって、友達だから。

「マミ、僕はいつでも君のそばに居て、見守っているよ」

 私はひとりじゃない。だから、間違えても、支えてくれる彼が居る。

「――だったら、やれるわ」

 必ず、鹿目まどかと美樹さやかを守ってみせる。


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