魔法少女まどか☆イチロー 第二話

2011年07月30日 19:30

魔法少女まどか☆イチロー

17 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/09(土) 20:38:35.31 ID:y4wKISZKo


   第二話

   あこがれを持ちすぎて、自分の可能性をつぶしてしまう人はたくさんいます。
   自分の持っている能力を活かすことができれば、可能性は広がると思います。   


 元々力のぬけていたマミの身体は、肩腕を失ったことによりバランスを崩し、その場に倒れこんだ。

「マミさん!」

 マミのもとへ駆け寄ろうとするまどかをさやかが止める。

「待ってまどか! あいつが来る」

 先ほど爆発したかと思われた、大きい顔のついた芋虫のような怪物が、再びその姿を現したのだ。

「イチロー!!」

 振り返ると、魔法少女の服装をした暁美ほむらが到着していた。

 彼女の視線の先には、背の高い細身の青年がいる。

「これを」

 ほむらがそう言うと、いつの間にかイチローの手に黒いバットが握られていた。ミズノ製の木製バット。
 イチローがいつも使っているやつだ。

「ふんっ」

 バットを受け取ったイチローはその場で素振りをする。
 すると、その振りで出来た風圧がカマイタチとなり、化け物の身体の一部がまるで鋭利な刃物で斬られたかように、分離してしまった。

「凄い」

 美しい、と言うほかないほど完ぺきなフォームでバットを振るイチロー。

 しかしその美しさとは裏腹に、そこから生み出される風は強力な武器となっていた。

「ふんっ!」

 今度は、鋭利な刃物というよりも強力な鈍器のように大きな風圧が魔女を襲う。
 地面が揺れるほど。

「イチロー、そいつは本体じゃないわ。本体はもっと奥にいる!」

 いつの間にか、イチローのすぐ側に移動していた暁美ほむらは彼にそう告げた。

「わかった。そこの倒れている彼女を頼む。それから球を一つ」

「一つでいいの?」

「十分さ」

 ほむらは、円形の楯のような物の中から、ローリングス製のメジャーリーグ公式球を手渡す。

 それを受け取ったイチローは、狙いを定め、それを投げた。

 バッティングのフォームに勝るとも劣らない無駄のない、それでいて美しいフォームが、一直線で部屋の奥へと進んでいく。

 レーザービーム

 アメリカでそう呼ばれたイチローの送球だ。

 次の瞬間、まるで太陽のような眩しい光が周囲を包んだ。まどかは、あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう。

 一体何があったのか。

 爆発?

 これで死んでしまうの?

 色々な不安がまどかの脳裏を掠める。 

 しかし次に目を開いた時、そこは先ほど見た病院の敷地内の通路であった。

「あれ? ここは……」

「結界は消えたわ」

「あ……」

 彼女の目の前にいたのは、まどかと同じ学校の制服に身を包んだ暁美ほむらの姿だった。

 そして、彼女の後には、さきほど魔女の結界内で見た、私服姿のイチローがいた。

「ほむらちゃん……、それにイチローさんも」

「あれ? あたし、何してたんだ」

まどかと同じように気がついたさやかも、すぐには今の状況が理解できていないらしい。

「わっ、イチロー選手。本当にいるよ。ってことはやっぱり夢じゃ」

「夢……?」

 振りかえると、そこには制服姿の巴マミが横たわっていた。

「マミさん!」

「マミさん、大丈夫!?」

 さやかがマミを抱き起こす。意識はないようだ。

「でも、確か……」

 まどかの記憶では、マミの右腕は千切れていたはずだ。その場面が脳裏に焼き付いている。

「あれ、右腕が……、ある。やっぱりあれは――」

 しかし、今のマミには、しっかりと右腕がある。これはどういうことか。

 やはり、さやかの言うとおり夢だったのか。

「夢じゃないわ」

 まどかのわずかばかりの希望を打ち砕くように冷たく響く暁美ほむらの声。

「夢じゃ、ない?」

「ええ、たしかに魔女の結界の中で巴マミの腕はなくなった。でも、彼女は魔力でその肉体を再生させたの。
彼女が今、意識がないのは、魔女との戦いで魔力を消費した上に、更に肉体再生をやってしまったからね」

「そんな……」

「あなたたちもわかったでしょう?」

「え?」

「魔法少女は、“普通の人間”ではないの。普通の人間でありたいのならば、キュウべえと契約して
魔法少女になろう、なんて思わないことね」

「あ、そういえばキュウべえはどこに行ったんだ?」そう言ってさやかは周囲を見回した。

 しかしキュウべえらしき白い生物は見当たらない。

「さっきまで一緒にいたのに」

「んもう、なんだよ。肝心なときにいなくなって。それよりまどか」

「え?」

「マミさん運ぶの手伝って。丁度ここは病院だし」

「あ、そうか」

 まどかはさやかと協力して、マミを外来病棟まで運ぶことにした。

 しかし、ほむらはそれに付き合うこともなく、踵を返した。

「いいのか? ほむら」とイチローを声をかける。

「いいのよ」そう言ってほむらは歩きはじめた。

 まどかは、そんなほむらの後ろ姿を見つめながら、寂しく感じるのだった。

「ほらまどか、行くよ」促すさやか。

「う、うん」

 夕焼けの中で、ほむらとイチローの会話が微かに聞えた。

「ところで今日の夕食はなんだい?」

「明太子スパゲティーよ」

「……そうか」

「ごめんなさい、お買い物に行く暇がなくて」

「いや、気にしなくていいよ。そこは――」

 それにしてもあの二人の関係は何なのだろうか。まどかはそんなことを考えながら、マミを支えて歩いた。


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  *


 翌日の病院。

「本当にごめんなさいね、心配かけて」

 病院のベッドで巴マミは弱々しくも笑顔を見せる。

「いや、よかったですよ。意識が戻って」

 まどかは、素直に巴マミが生きて、そして意識が戻ったことを喜んでいた。

「そうですよマミさん、やっぱり魔法少女はこうでなくちゃ」

 さやかも、彼女を元気づけるように言う。

 病院にまどかとさやかの手によって病院に運び込まれたマミは、その日のうちに意識を取り戻した。

 医者からは過労によるものだ、と言われたけれども、それが魔力の過剰な消費によるものだということは、まどかにもさやかにもわかっていた。

 そして翌日の学校の帰りに、まどかたちは入院しているマミを見舞う。

「マミさん、その……、手、大丈夫ですか?」

「え? うん。大丈夫よ」

 マミは、結界の中で千切れたはずの自分の右手を閉じたり開いたりして見せる。

「私のせいでマミさんが……」

「気にしないで鹿目さん。むしろ犠牲になったのが私でよかったわ」

「そんな」

「だって、私は魔法少女だからこうして腕も再生することができる」

「……」

「魔法少女って、こうやって一般の人たちを守ることも義務みたいなものだから」

「マミさん……」

「さすがマミさん、素敵です」さやかは少しおどけながら言う。

「もう、遊びじゃないのよ。魔法少女は」

「……はい」

「ああ、まだ少し疲れが残っているみたい」

「え?」

「しばらく、一人で休ませてくれないかしら」

「そ、そうですね」

「それに、そっちの子は他に行きたいところがあるんじゃないかしら」

 マミはさやかのほうを見て悪戯っぽく笑う。

「はい? わたし?」

「ああ、上条くんだね。ここの病院に入院しているもんね」

「いやいや、何を言っているんですかマミさん」

「あら、違ったかしら」

「なんで知っているの?」

「お姉さんの情報網を舐めないでもらいたいわね」

「マミさーん」

「うふふ。それじゃ、行ってきなさい」

「は、はい。それでは、失礼します」顔を真っ赤にしながら、さやかは一礼する。

「マミさん、またきますね」

「ええ」

 まどかとさやかは、マミに別れを告げ、病室を出る。

「ねえ、まどか」

「なに、さやかちゃん」

「マミさん、ああ言っているけど」

「うん、魔力の消費ってことは、普通に休んでいるだけじゃ回復できないよね」

 さやかとまどかは、これまでマミやキュウべえから魔法少女に関する説明を一通り聞いている。

 魔法少女が魔力を消費すると、自身の魔力の源泉であるソウルジェムと呼ばれる宝石のようなものの中に、“穢れ”がたまってしまう。

 その穢れを除去することによって、魔法少女は消費した魔力を回復させるのだ。

 穢れを除去するには、魔女の卵であるグリーフシードが必要となる。
 まだ、魔女が孵化しそうにないグリーフシードの中に、ソウルジェムの中にたまった穢れを移すことで、穢れを除去し、魔力を回復させることができるシステムらしい。

 グリーフシードは魔女の卵であり、魔女本体を倒せば手に入れることができる(ただし、今回のようにグリーフシードが得られないこともある)。

 魔女を倒すには、当然ながら魔力が必要だ。

 しかし、今のマミは多量に魔力を消費しており、とても魔女と戦える状態ではないことは二人にもわかっていた。

「どうしよう、さやかちゃん」

「どうしようって、言われても」

「そうだ、あの子に、ほむらちゃんに頼んでみたら」

「私は反対だよ」

 まどかの提案に、さやかは即座に反対を表明した。

「どうして」

「あの子、どうも信用できないんだよね。素生もよくわからない上に、なんだか知らないけどメジャーリーガー
と一緒に住んでいるんだよ」

「そうだけど……」

「私たちだけで何とかするしかないんじゃないかな」

「さやかちゃん、まさか」

「いや、もちろん私が魔法少女になるって、わけじゃないよ」

「……」

「キュウべえなら何か知ってるはずなんだけど。くそ、あいつ昨日から全然見ないけど、どこいったんだよ」

「それはいいんだけどさやかちゃん」

「ん? どうしたのよ」

「わたし、中庭のほうで待ってるね」

「え、どうして?」

「どうしてって、ほら」

「もう、気を使わなくてもいいのに」

「いやいや、悪いよ」

「そ、そうかな」

「もうすぐ上条くんも退院できそうなんでしょう?」

「あ、うん」

「じゃあ、終わったら呼んでね」

「ああ、わかった」

 ここでまどかは一旦、さやかと別れ病院の中庭へと向かった。


   *


 さやかは少し緊張しつつ、ドアを叩いた。

 しかし、いつも聞えるはずの返事がない。

 もう何十回と行ったであろう幼馴染の見舞い。すっかし見慣れた病室の入り口からは、何かやら不穏な空気が漂っているように思えた。

「恭介? 入るよ」

「……」

 返事がない。寝ている?

 そうではない。上条恭介はベッドから身を起こし、虚ろに窓から外の風景を見ているだけだった。

「どうしたのさ」

「……さやか」

「あのさ、恭介。新しいCD買ってきたんだ。あの、一緒の聞こうよ」

「やめてくれ。今はそんな気分じゃないんだ」

「何があったの?」

「僕の指……、動かなくなった僕のこの手」そう言って恭介は震える手をじっと見つめる。

「……」

「医者から言われたんだ……、今の医学じゃ、治る見込みがないって……」

「恭介、でも諦めなければ」

「もう無理なんだよ! 僕はもう、あの頃みたいにヴァイオリンは弾けない。音楽なんてもう、くそっ、くそっ」

「恭介っ」

「慰めなんていらない」

「でも……」

「もう、治らないんだから、おしまいだよ。奇跡や魔法でもない限り……」

「奇跡……、魔法」

 ふと、さやかが窓の向こうを見ると、外に見覚えのある白い生物が横切ったような気がした。

(あれは……)

 震えながら涙を流す恭介を見ながら、さやかは言う。

「あきらめないで恭介。奇跡も、魔法もあるんだよ!」

「いい加減なことを言うなよ」

「いい加減なんかじゃ、ないよ」

 そう言うと、さやかは踵を返し病室を出た。目に涙が浮かび、前がよく見えない。

 上條恭介がヴァイオリンを弾けなくなる。大好きなヴァイオリン。

 幼馴染のさやかには、彼が音楽にどれほど情熱を傾けているかよくわかっていた。
 
 だからこそ、ヴァイオリンが弾けなくなるということは何よりも辛いことだ。

 絶望する恭介を、さやかはそれ以上見ていることはできなかった。

 病院の廊下を歩きながらさやかは思案する。

 そうだ、私が魔法少女になれば――

 願いごとは、恭介の身体が元の、ヴァイオリンの弾ける身体に戻ること。

 今、さやかの恩人とも言える巴マミは入院しており動けない。魔力の消耗によって、体力も低下している。
 魔力の回復には魔女の持つ卵、グリーフシードが必要だが今のマミにはそんな力は残っていないだろう。

 自分が魔法少女になってマミの代わりに戦えば……。

 恭介も救うこともできるし、マミの力にもなれる。親友のまどかは、あの性格だから戦いには向かないだろう。
 だから、自分がやるしか……。

 さやかは昨日から行方不明のキュウべえを探すことを考えた。

 あいつと契約して、絶望している恭介を助ける。


「どこへ行くんだい?」


 ふと、何者かが声をかけてきた。聞き覚えのある声だ。

「あなたは……」

 そこには長袖のシャツにジーンズ姿のイチローがいた。

「たまたま見かけたものでね」

「あなたには、関係ないことです。あいつ、暁美ほむらはどうしたんですか?」

「今日は別行動だよ。いつも一緒にいるわけじゃない」

「そうですか。では、私はこれで」

 さやかは、イチローと目を合わせないように通り過ぎようとした。

「まさかとは思うけど――」

「……」

「キミは、キュウべえと契約しようとしているのかな?」

「!!」

 さやかの脚が止まる。

「ここの病院に入院している幼馴染の怪我を治すために、とか」

 イチローのその言葉にさやかは振りかえり、彼の顔を鋭く睨みつけた。

 彼は動揺する様子もなく、こちらを悠然と見据えている。
 さやかはまるで、自分の心がすべて見透かされているような気持ちになった。

「だ、だったらどうだっていうんですか?」

「巴マミの様子は知っているだろう?」

「う……」

「魔法少女になるということが、どれだけ過酷な運命迎えるかということも」

「だから、それもあなたには関係ないでしょ」

「……そうだよ」

「だったら」

「確かに僕には関係ない。しかし、キミを大切に思っていてくれる人はどうだい?」

「え?」

「鹿目まどかは、キミが戦いの運命に身を投じることをどう思うだろう」

「それは……」

「美樹さやか。安易に魔法なんて“力”に頼るのはよくない」

「それなら、どうすればいいのさ」

「明日、今日と同じ時間にまた病院に来てくれ」

「はい?」

「キミの幼馴染の、えーと……」

「上条恭介」

「そう、その上条くんという子を励ましてみせるよ」

「励ます? どうやって? まさかあなたが直接行って励ましますか」

 できるわけがない。さやかはそう思った。

 ヴァイオリンという手段を奪われた恭介がいかに絶望しているのか、彼女には痛いほどわかっていたからだ。

「いや、僕にはそれはできない」

「え? じゃあどうやって」

「僕の“尊敬する人”に来てもらうことにするよ。彼ならきっと、奇跡だって起こせるはずだ。
もちろん魔法なんか使わずにね」

「奇跡? そんな」

「魔法少女になるかならないかを決めるのは、それからでも遅くないと思うよ」

「……」

「それじゃ、またいつか」

 そう言うと、イチローはさやかの向かう方向と逆の方向へ歩いて行った。

 さやかは、その姿を茫然と見つめるよりほかなかった。



   つづく




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