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魔法少女まどか☆イチロー 第四話

2011年08月01日 19:02

魔法少女まどか☆イチロー

60 :まど☆イチ ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/11(月) 20:08:56.15 ID:YSX7FtLEo


   魔法少女 まどか ☆ イチロー


          第四話


 いつも、恐怖と不安と重圧を、抱えています。


 江頭2:50が上條恭介のいる病室で暴れていた同じ時刻――

 巴マミはベッドの上で濁りきった自らのソウルジェムを眺めていた。

 数日前まで、キレイな黄金色の輝きを見せていたそれは、今は見る影もない。

 恨み、妬み、悲しみ、恐怖、あらゆる負の感情のが自分の心の中に流れ込んでいるのを感じる。

 さやかやまどかなど、後輩たちの前では元気そうに振舞ってはいたけれども、彼女たちが部屋を出て行った後、イライラがとまらず親指の爪を噛んだりした。

 マミはグッと、ソウルジェムを握りしめ、それを指輪の形に変化させる。

 このままではいけない。事態を打開するための方策をあれこれと考えてはみるけれども、どれも上手くいきそうにない。

 そんな時、不意に人の気配を感じた。

 まどかたちが戻ってきたのだろうか。そう思い顔を上げると、そこには見覚えのある黒髪の少女が立っていた。

「あなた……」

 暁美ほむら。マミと同じ魔法少女の女子中学生だ。

「なんの用?」

 以前のように、感情を覆い隠して優しげに言うことができない。生の感情が声とともに漏れ出すのを抑えられない。

 ほむらは無言で何かをこちらに投げてよこした。

 ぽとり、とシーツの上に球状の物体がころがる。

「グリーフシード……」

 いわゆる“魔女の卵”。
 魔女が孵化する前のグリーフシードには、魔法少女のソウルジェムにたまった“穢れ”を除去する効果がある。

それが、魔法少女にとって失われた魔力を回復させるための唯一の方法。

「どういうこと……?」マミはほむらを睨む。

 仲間ではなく、むしろ敵だと思っていた相手からの施しに彼女の心はいたく傷ついた。

「使いなさい。今のあなたには、新しいグリーフシードを狩るだけの余力はないでしょう?」

「……」

 図星だ。体力自体は回復しつつあるけれども、魔力の消耗はいかんともしがたい。

「このまま魔力を回復しなければ、どうなってしまうか。あなたはもう、わかっているのでは?」

 ほむらのその言葉にマミは奥歯を噛みしめる。

 時間とともに心が黒く染まって行く感覚。

 魔法少女の力が、明るく熱いものであるならば、今のマミの力は暗く冷たいものだ。

「ここの病院で戦った魔女がいるわね」

 唐突に話し始めるほむら。

「それがなにか」

「あなたはあの時、あの魔女と戦った時に、死ぬ運命だった」

「……」

「右手一本で済んだのは、不幸中の幸い、いえ、むしろ不幸中の不幸だったのかもしれない」

「何が言いたいの」

「鹿目まどかに関わるのはやめなさい」

「またその話……」

「魔法少女になった後の、結末は変えられない」

「……」

「あの子を道連れにするつもり?」

「違うっ! 私はっ……」

「……」

「私は、一人でも多くの人を……、護るために……」

 自信が、誇りが、崩れて行く。

 今まで自分は何をやってきたのか。

 それはとても正しいことだと思っていた。

 本当は怖かったのだ。怖くて怖くて、そして寂しくて。

 そこにあの子が現れた。



 鹿目まどか――



 闇に沈みそうになる自分のこころを照らしてくれる太陽のような少女。

 欲しい。あの輝きが欲しい。

「もし、あの子に何かあったら――」

 ほむらは、マミの思考を断ち切るように、一瞬語気を強める。

「その時は私があなたを“始末”する」

 一切の感情を排したその言葉に、マミの背筋が凍る。しかし同時に、そんな冷酷な言葉が心地よくもあった。


 死ね、

 殺す、

 壊す、

 犯す、

 盗む、


 心が負の感情を求めている。

 あれだけ嫌っていた感情を、今は求めずにはいられない。

 もう、自分は自分ではないのか。




 そう思った瞬間、巴マミは壊れた。





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   *


 夜の街で、家を抜けだしたまどかは、同じく家を出たさやかと合流する。

「マミさんはどこ?」

「わからない。携帯も通じないし。とにかく病院にはもういないって」

「そんな……」

「マミさん、あんな身体でどこへ」

「考えても仕方ないよさやかちゃん」

「う、うん。そうだな」

「マミさんを探そう」

「マミさんが行きそうなところ……」

「行きそうなところ」

 二人はマミのことを考える。

 ふと、まどかは気づいた。

 自分はマミのことをどれだけ知っているのだろうかと。魔法少女として戦っていたことは知っている。
 魔法少女に関する知識を色々と教えてもらった。

 しかし、個人としての巴マミはどうだろう。

 実は彼女のことはあまり、というかほとんど知らない。

 紅茶やケーキが好き、というくらいは知っているけれど、それ以外はよくわからない。

 マミと会う時、彼女の服装は常に学校の制服だったし、魔法少女の時の衣装と学校の制服以外、私服姿を見たことがない。

 結局、まどかは魔法少女としての巴マミしか知らないのだ。

 個人としての巴マミは、何が好きで、何が嫌いで、どんな家族構成で、どんな音楽を聞いて……。

「マミさん……」

 結局その日、マミが見つかることはなく、翌日も学校があったため、そのまま家に帰ることになった。

 翌日、まどかは普段あまり行くことのない三年生の教室がある階へと足を運んだ。

 マミを探す手掛かりがなにかるかと思ったからだ。

 しかし――

「巴マミ? あんまり聞かないな」

「巴さん? いたっけ。ああ、休んでるんだ」

「あんまり話をしたことないからなあ」

「なんか上品な感じだけど、近づき難いっていうか……」

「あの髪型はどういう構造なんだろうか」

「……だれ?」

「アンタ、あの子のなんなのさ」

「……、胸が……、いや、何でもない」

「放課後になるとさっさとどっか行って、よくわからないって感じ」

「一人暮らしなんでしょう?」

「うーん」

 正直、同級生からの話ではマミの人となりを把握するのは難しかった。

 入院していたけれど、病院から行方不明になった女子生徒。

 しかしながら、同じ学校の生徒たちの関心は極端に低かった。

 中には、同じクラスの生徒ですら、巴マミの存在を知らない者がいたのだ。

 まるで、巴マミという人間がこの世からいなかったかのように感じさせられる。

 マミは三年生の新学期にこちらに転校してきたようで、転校してからまだ、親しい友人もいなかったようだ。
 
 昼休みの屋上。

「ねえ、さやかちゃん」

 父の作った弁当を食べながら、まどかは隣にいるさやかに話しかける。

「なに」

「人って、なんだろうね」

「どうしたのまどか、ずいぶん哲学的なことを聞くじゃない」

「いや、そんな難しいことじゃないんだけど」

「わたしバカだから、あんまりそんなことはわからないよ」

「三年の人たちにね」

「うん?」

「マミさんのことについて色々聞いてみたの」

「そう……」

「マミさんのこと、ほとんどの人が知らなかった」

「……」

「マミさん、色々がんばっていたのにね」

「そうだよね」

「やっぱり、辛いよね。わかってもらえないと」

「うん」

「さやかちゃん」

「なに」

「探そうよ、マミさんを。まだこの街にいるはずだよ」

「どうしてそう思う?」

「なんだかわからないけど、感じるの。まだ近くにいるような気がして」

「そっか。じゃあ、付き合うよ」

「ありがとう、さやかちゃん」

「マミさんは、私たちの命の恩人だしね」

「うん」


   *


 その日の放課後、まどかたちはマミの行きそうな場所、好きそうな場所などを探し回ってみた。

 しかし、マミらしき人影はおろかその痕跡すら見つからない。

 この日街は、人通りのわりに静かで異常なほど平和だ。

 街中を歩き回りくたくたになった二人は、夕闇に染まる公園のベンチに腰掛ける。

「マミさん、見つからないね」群青色の空にポツリと浮かぶ一番星を眺めながらさやかは言う。

「うん……」一方まどかは俯き、足元を見た。

「やっぱり、どこか別の場所に行ってしまったのかなあ」

「それは……」

 ないと思う。根拠はないけれども、まどかにはそんな確信があった。

「私、もう一度探してみる」

「ねえまどか、そろそろ帰った方がいいんじゃないか? まどかのお父さんも心配してるだろうし」

「それでも、もう少しだけ」

「まどか……」

「行こう、さやかちゃん」

「ん、ああ」

 まどかは折れそうになる自らの心を鼓舞するように立ちあがり、そして一歩ずつ歩きはじめた。

 しかし次の瞬間、二人は全く違う世界に足に踏み入れてしまう。

「ここは……」

「まどか!」

 自分たちは今まで公園内にいたはずだ。しかし今はまったく別の場所にいるような感覚。

 この空間には覚えがある。

 現実であるけれど、その一方で夢の中にいるような感覚の空間。

「魔女の、結界……?」

「大変だまどか!」

 病院の近くで見たような、マミについて行った時に見たような、あの魔女の結界の内部に今、まどかとさやかはいた。

 結界内には魔女の使い魔が侵入者を排除しようと襲ってくる。
 魔法少女であるマミのように、対抗手段を持たないまどかたちにとって、この空間は危険である。

 それこそ、オオカミの群れの中に放り込まれた羊のように。

 不安の表情を隠さないさやか。しかし、それを横目にまどかは別のことを考えていた。

「ねえ、さやかちゃん」

「なんだよ。早く出口を探さないと」

「この空間、どこかで見たことがあるよ」

「え?」

「マミさん……」

「はい?」

 ぐるぐると回る不気味な空間、その中にはティーカップやポット、銀色のマスケット銃、それに黄色い花など、マミを彷彿とさせるようなアイテムがいたるところに散見された。

「奥に行こう、さやかちゃん」

「どうしたんだよまどか。こんなところ……」

「多分、出口はないと思う」

 どこまで進んだのかよくわからない。
 時間も、空間もゆがみきった結界の中でまどかは自分の勘だけを頼りに、ひたすら最深部へと向かった。

 不安がないと言えばうそになるけれど、それ以上に自分でもわからない何かが彼女を突き動かしていた。

 幸い、病院のときのように途中で次々に使い魔が襲ってくる、ということはなかった。

 虫や小さな鳥のような使い魔が寄ってくる程度だ。


 そして、不気味な鉄製のドアが目の前に現れる。


 おそらく、この先に行けば……、マミはいる。


 まどかは、震える手をグッと握り締め、覚悟を決めてからドアノブに手をかけた。

 その先は、結界の最深部らしく、開けていた。

 先には一面に広がる麦畑も見え、天井も明るい黄色を中心とした配色だ。


 空間の中央には、壊れて、ボロボロになった乗用車がひっくり返っていた。。


「あの車って……」さやかがそう言いかけた瞬間、

「……!」

 車からどす黒い泥のようなものが溢れだす。

 そしてその泥は、小さな山のような塊となる。それはまるで、巨大なスライムのようにも見える。

「あれは……」


《あれが巴マミだよ、まどか》


 聞き覚えのある声が耳、ではなく脳裏に響いた。

「キュウべえ!」

 白い身体に大きなシッポ、そんな犬でも猫でもない謎の生物がそこにいた。

「今、あれをマミさんって言ったの?」やや涙声になりながらまどかは聞く。

《もちろん。正真正銘、巴マミ姿さ》

「そんな! だってあれ、あの姿、完全に魔女じゃないか!」

 キュウべえの言葉を聞いたさやかが反論する。

《そうだよ、魔女だよ。マミは魔女になったんだ》

「どういうこと、キュウべえ!」

《魔法少女が魔力を使えばソウルジェムに穢れがたまる。その穢れがどんどんたまっていって、完全に染まれば彼女たちは魔女へと変化する》

「そんな……」悲しみとともに言葉が漏れる。

《魔法少女から魔女へ、狩る者から狩られる者へ。実に自然なサイクルさ》

「そんなのってないよ」

《どうしたのさ。当り前のことじゃないか》

「当り前って……」

《どうしてそんなに驚いているのさ》

「あなた、魔女になるなんて一言もいってないじゃない!」

《キミたちが聞かなかったからだよ》

「ちょっと待って、ふざけないでよ。あれがマミさんっていうの?」さやかも動揺している。

《むしろマミは幸せだと思うよ》

「幸せ……?」

《こうして魔女として再び生きることができるのだから。今度は希望ではなく呪いや絶望をまき散らす側として》

「……!」

 足元が揺れる。

 地震?

 違う。

 先ほどまでこの空間の中央でうねうねと蠢いていたスライムがこちらに向かって、一直線に触手のようなものを伸ばしてきた。

「危ない!」とっさに身を伏せるまどか。

 爆発――

 空気の振動が肌に伝わる。

 気がつくと身体がふわりと浮いているように感じた。爆風で吹き飛ばされたのだろうか。
 それにしては、優しく包み込まれているような。

 まどかは勇気を振り絞って目を開けた。すると目の前に、見覚えのある顔があった。

「ほむら……、ちゃん?」

 桃色のカチューシャをつけた魔法少女姿の暁美ほむらが、まどかを抱いて飛んでいたのだ。

 そして着地。衝撃などない、まるで羽毛のようなやわらかい着地だった。
 すぐ横を見ると、自分と同じようにイチローに抱かれるさやかの姿が見えた。

「どこ触ってんのよ!」

「あいたっ!」

 とりあえず、さやかとイチローとのやりとりは見なかったことにして、まどかはほむらに言う。

「ほむらちゃん、助けてくれてありがとう。それで、あの魔女は……」

「彼女は、巴マミね」

「知ってるの……? だったら」

「無駄よ」

 まだ何も言っていないけれど、ほむらはまどかの考えをすべて見透かしたかのように言った。

「ほむらちゃん……」

「魔女になってしまった魔法少女は、すでに“生前”の記憶は持っていない。だから、何を言っても通じないわ」

「それでも」

「このまま彼女を放置していれば、ほかの魔女と同じように無関係の人間を引きこんで、新たな犠牲が出てしまうから」

「ほむらちゃん、どうするの?」

「ほむら」

 すっと、ほむらの右肩に男性の手が優しく乗せられる。

「イチロー……」ほむらが振り返ると、そこにはイチローがいた。

「大丈夫、美樹さやかだっけ? 彼女なら安全な場所に避難させた」

「頬がちょっと腫れてるけど」

「そこは聞かないでくれ」

「さやかちゃん、無事でよかった」

 イチローと一緒ならまず大丈夫だろう、という気持ちがまどかにはあったので、それほどさやかに対する心配はなかった。

 それよりも気がかりだったのは魔女のほうだ。

「イチロー、あの魔女は私にやらせて」

「どうして?」

「魔法少女のけじめは、魔法少女がつける」

「ほむらちゃんちょっと待って、あれはマミさんだよ」ほむらの冷徹な言葉に、まどかは口を挟む。

「そう、あれは“巴マミだったもの”。今は――」

 その先の言葉はわかっていた。

 いやだ、聞きたくない。まどかがそう思った瞬間、

「待ってくれ、僕に考えがある」

 イチローがほむらの言葉を遮るように言う。

「イチローさん……」

「イチロー、考えってなに。前にも言った通り魔女になったら……」

「わかってるさ。でもやれることはやりたい」

「イチロー……」

「鹿目まどかくん、だったね」ふと、イチローはまどかのほうを向いて話しかける。

「は、はい」

「全てを救うことはできないかもしれない。ただ、ほんの一部だけでも救えるのなら、僕はそれをやろうと思う」

「え……?」

 その時、まどかには、イチローの言っていることがすぐには理解できなかった。

「ほむら、バットを」

「わかったわ」

 そう言うと、ほむらは腕についた円盤からバットを取り出す。

 バットを受け取ったイチローは、魔女の待ち受ける空間の中心部へと向かった。

 一瞬放たれる黒い霧、それと同時に複数の黄色いリボンがイチローの手足に絡まった。

「ぐっ!」

 動きを封じられるイチロー。

「イチローさん!」まどかが叫ぶ。。

 追い討ちをかけるように、イチローに絡まった黄色いリボンがじわじわと黒く染まっていく。

《あれは不味いね》脳裏に響く声。

「生きていたのね、キュウべえ(チッ)」

 ほむらの舌打ちが聞こえた気がしたけれど、まどかは聞かなかったことにした。

 爆発に巻き込まれたのかと思われたキュウべえは、とくに傷を負った様子もなく、四本の足でしっかりと立っている。

《あのリボンから、直接恨みや妬みなどの負の感情が流しこまれる。魔法少女ならともかく、普通の人間があの攻撃をうけて耐えられるはずがないよ》

「そんな……」動揺するまどか。

 しかしほむらは平然としている。

「……甘いわね」

 そしてポツリと、小さく言葉を発した。

「え?」

 ついに、イチローに絡まったリボンがすべて黒くなった。

 ひと目で不味い状況だとわかる。

「うおおおおおおおお!!!」

 イチローが、今まで聞いたことのないような叫び声をあげた。

 これは本格的に不味いのか。不安になるまどか。


しかし次の瞬間、イチローの身体は黄金色に輝きはじめたのだ。


「きゃっ」

 あまりの眩しさにまどかは目をつぶってしまった。

 しかし、眩しさを我慢して目を開いた時、そこには――


 夢で見た、あの背番号51番。


 イチローは私服姿から、野球のユニフォーム姿になっていた。

「メジャーリーガーたるもの、応援だけでなく、相手の恨みや辛みをも自分の力に変えることができなければ、一流とは言えない。敵地でのブーイングはどんな勲章や称賛にも勝る」

 ユニフォーム姿のイチローはオーラが格段に違った。

「さあ、いこうか」

 イチローがバットを構える。

 すると中心部のスライムから、複数のマスケット銃が浮かび上がり、そから多数の魔弾が発射された。

 しかしイチロー素早くバットを振り、風の壁を作って全ての魔弾を落とす。

「こんなものかい?」

 そう言うと、イチローは再び素振りをして、今度は竜巻を起こした。

「きゃあっ!」

 竜巻の風圧は、まどかたちの元にも届く。するとほむらはまどかの前に立ち、風からまどかを守った。

「ほむらちゃん、ありがとう」

「別に、どうってことはないわ」

 まどかは、ほむらの背中越しにイチローの姿を見た。すると、魔女の本体のすぐ側にまで接近した彼の姿があった。

「やめてイチローさん!!」

 ゆっくりとバットを構えるイチロー。

 そして、再び世界は光に包まれた。


   *


「……っか」

「…………どか」

 誰かの呼ぶ声が聞こえる。

「まどか!」

「え?」

 気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた。

 空には無数の星が見える。

 まどかは、自分が公園のベンチに横たわっていることに気がついた。いつの間に寝てしまったのか。

「まどか、よかった」

「さやかちゃん……?」

 まどかはさやかに抱き起こされ、抱きしめられた。ほんのりと彼女の使うシャンプーの香りを感じる。

「私、魔女の結界にいたはずじゃ」

「それがいつの間にか戻っていたんだ。どうやら、あの二人が助けてくれたらしい」

「あ……」

 よく見ると、学校の制服姿の暁美ほむらと、ユニフォームではなく私服姿のイチローが立っていた。

「あの、ほむらちゃん、イチローさん」

「おっと」そう言うとイチローは何かを持って近づいてきた。

「え? あの……」

「はい」そう言って、イチローは手を出す。

 まどかの手には、黄金色に輝く小さな装飾された宝石のようなものが載せられた。

 見覚えがある。これはマミがかつて見せてくれた彼女のソウルジェムだ。

『こんな姿で、ごめんなさいね』

 マミの声が聞こえてきた。それも耳からではなく、頭に直接話しかけられる感覚。キュウべえとの会話に近い。

「え、マミさん?」

『ええ、そうよ』

「マミさんなの? ねえ、私です。わかりますか? 美樹さやかです」さやかは、まどかの持つソウルジェムを覗きこむように言った。

『ええ、とってもよく分かるわ。相変わらず元気ね』

 まどかには、どうしても言いたい言葉があった。それを言うために大きく息を吸う。

「マミさんごめんなさい」

『どうしたの、急に』

「私、マミさんのこともっとわかってあげられたらよかったのに、その……、魔法少女のことばかり気にして」

『別にそんなの気にすることじゃないわ』

「でも、マミさん、ずっと苦しんでいたし」

『そうね、苦しいことはいっぱいあった』

「バビさん……」さやかは既に涙を流していた。鼻が詰まってしまったため、まともに名前も呼べないようだ。

『でもね、とっても嬉しかった』

「え?」

『あなたたちと出会えて、私は一人じゃないって思えて。本当に、嬉しかったの』

「でも私たち、全然マミさんの役には……」

『役に立つとか立たないとかの問題じゃないわ。あなたたちの存在は、私にとって大事なものなの。
一年前の交通事故で死ぬ運命だった私には、贅沢過ぎるほどよ』

「本当ですか?」

『ウソをついてもしょうがないでしょう?』

「……」

『ああ、もう時間がないみたいね』

「マミさん!」

『あなたたちに出会えて、本当に良かった。この言葉はウソじゃない。できれば、魔法少女じゃなくて、普通の女子中学生として出会いたかったけど』

「それは……」

『それから、また助けられたわね。暁美さんとイチローさんには』

「……」

 マミの言葉に、イチローもほむらも無言であった。

『本当にありがとう。色々と失礼な態度をとってごめんなさい』

「気にしてないよ」とイチロー。

「……大したことじゃない。やったのはすべてイチローだから」

『こんな姿になってしまったから、お礼ができないのは残念だけど』


 しばしの無言。 


『それじゃ、もう時間ね。ありがとう。まどかちゃん、それにさやかちゃん――』

「マミさん?」

『さよなら――』

 今までずっと苗字で呼んでいたマミが、下の名前で呼んでくれた。それだけでも嬉しい驚きだった。

 けれども、まどかの手の上で輝いていたマミのソウルジェムは、まるで風に吹かれたロウソクの火のように、ゆらめいて、そして消える。

「マミ……さん……」

 ソウルジェムは乾いた砂のように崩れ、そして風とともにどこかへと流されていった。


   *


《まったく、わけがわからないよ》

 まどかたちの様子を、少し離れた場所で見ていた、ほむらのすぐ側にキュウべえが現れてつぶやいた。

《わざわざ、魔女化した巴マミの中から彼女の意識だけを刈り取って再構成する。あのイチローという男は、なんでこんな無駄なことに多大な労力を使ったのだろう。本当に理解できないね》

「そう……」

《まあ、わけがわからない、という点ではキミも同じだけど》

「キュウべえ……、いえ、インキュベーター」

《なんだい?》

「さっさと消えなさい。次は撃ち抜くわよ」

《…………》

「…………」

《やれやれ、物騒だな。僕の身体を破壊したところで意味なんてないのに。
まあ、撃たれたらまた面倒だから、今日のところは引き上げるよ》

 そう言うと、キュウべえは闇の帳のなかに姿を溶かして行った。

 キュウべえがいなくなったことを確認したほむらは、ぽつりとつぶやく。


「あなたたちには、おそらく永遠に理解はできないでしょうね。私たち、人の気持ちなんて」



   つづく
 



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