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魔法少女まどか☆イチロー 第七話

2011年08月04日 20:01

魔法少女まどか☆イチロー

135 :◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/04/14(木) 20:24:42.49 ID:zE5pNBgpo



                第七話



 苦しいことの先に、あたらしいなにかが見つかると信じています。



 彼女は朝が苦手だった。

 目覚める直前のあのまどろみの中で、彼女は夢を見るのだ。

 あの最悪の日の記憶。何度も何度も彼女は夢で見る。
 自分にとって一番の親友を失ったあの日。崩壊した街の中で空は暗く染まり、悲しみが心を支配する。

 いやだ。

 もうこんな思いはしたくない。

 ぐっと唇をかむ。

 彼女は何度も何度も、数え切れないほどこんな夢を見ている。

 夢の中で誰かが叫んでいる。

 誰だろう。

 彼女は耳をすませた。
 

「はやく起きろ!」


「え?」

 目を開けると、そこにはエプロン姿の佐倉杏子がいた。

「あ……」

「あ、じゃないよ。アンタ今日は学校だろう。早く起きねえと遅刻するぞ」

「……イチローは?」

「別にあいつは学校でもなんでもねえだろう。とにかく、早く起きて顔洗ってこい。
寝ぼけた顔してんじゃねえぞ」

「この顔は元々よ」

 なぜ杏子がここにいるのだろうか。ほむらは少し考えて、数日前のことを思い出す。

 イチローに勝負で負けた杏子は、アンタたちの言うことを聞く、とか言ってほむらの家にそのまま転がり込んだのだ。

 言うことを聞くなら出て行ってくれ、というほむらの要求は無視されてしまったのだが。

 イチローは、別に反対しなかったのでこのまま杏子とほむら、そしてイチローの三人で暮らすことになった。
 冷静になって考えて見れば、なんとも奇妙な共同生活である。

 顔を洗い、制服に着替えるとすでに食卓には朝食が準備されていた。

 こんがりと良い具合に焼きあがった食パンやスクランブルエッグ。

 まるでドラマに出てくるようような朝食だ。

 イチローは、朝起きるのが遅いので、いつも彼女は一人で食事をして出かける。
 もちろん、朝食といってもパンを焼いて食べる程度である。

「さっさと食っちまいな」

 やや乱暴な言葉とは裏腹に、杏子の調理は丁寧だとほむらは思う。


 朝食を終えて学校へ向かう道のり。

 いつもの一緒だ。何も変わらない。春の日差しが少しずつ夏の日差しに変わりつつある。
 しかし、夏は未だにきていない。

 もう、ずっとこないかもしれない。

 そんなことを考えながら歩いていると、不意に声をかけられる。

「おはよう、ほむらちゃん」

 一瞬、息が止まるかと思った。

「おはよう……」

 けれども、動揺は見せない。

 声の主は鹿目まどかだ。彼女のすぐ後ろには、その友人の美樹さやかもいる。

「元気そうだね、ほむらちゃん」

「そうね」

「一緒に学校行こ、ね」

「……」

 ほむらは一緒にいるさやかのほうを見た。
 複雑そうな表情をしているけれど、以前のようにほむらの存在そのものを拒絶しているようには見えない。

「行こうよ」そう言ってややはにかみながら笑顔を見せる。

「ええ、行きましょう」

 そう言ってほむらは二人と歩きはじめた。

 日常――

 それはとても尊いものだ。失って初めてわかる。

 今の自分は彼女たちと違う。わかってはいたけれども、残酷ではあるけれどそれは紛れもない事実。

 この日々があるから、まどかは幸せそうな笑顔を見せる。

 もしも、この日常を失って彼女一人だけ生き残ったとして、まどかは幸せそうに笑うだろうか。

(私は、何か大きな勘違いをしていたのではないか……)

 学校に着いて、退屈な授業を受けながらほむらはそう思う。

 何よりも、鹿目まどかを守ることを最優先させてきたほむら。
しかし、そのための犠牲も大きかった。

 別の時間軸では、まどかの親友、さやかを死に追いやってしまったこともあった。

 結果から見ると、さやかの死は魔法少女になる、という彼女の意志から導き出されたものである。

 それでも、魔法少女になることの意味を知っているほむらならば、そんな悲劇を防ぐこともできたかもしれない。

 今回は、イチローがさやかの魔法少女化を防いでくれた(※第三話参照)。


 一人の人間が魔法少女にならずに済んだのだ。


 ほむらは、まどかを守りたいという一心で魔法少女になった。

 しかしイチローは、もっと大きな考えているはずだ。彼の思考の全てはわからない。
 ただ、自分よりもはるかに周りのことを考えていることは確実だと彼女は思う。

 そしてほむらもまた、この世界を、この日常を守ろうと思うようになった。


 それがイチローという存在と行動をともにすることの義務であると思えたからだ。


 授業が終わると、教室内の空気が緩む。

 昼休みである。

 この学校の昼休みは、皆が思い思いの場所で食事をすることができる。

「ほむらちゃん」

 まどかが呼びかけてきた。

「なに」

「一緒にお昼ご飯食べようよ」

「……わかったわ」

「よかった」

「どうして?」

「今日ね、私サンドイッチを作ってきたんだよ」

「作ってきた?」

「うん、お父さんに手伝ってもらったけどね。ほむらちゃんと一緒に食べようと思って」

 まどかの笑顔に、ほむらは少し嬉しくなった。

「おおいまどか、行こうよ」と、別の場所にいたさやかがまどかたちを呼ぶ。

「うん、ちょっと待って」

「どこへ行くの?」とほむらが聞くと、

「屋上。今日は天気がいいから気持ちいいよ」

「そう。天気……」

 ほむらは、教室から窓の外を見た。

 今日の天気予報では、降水確率0%だったはずだ。

「あれ? なんか暗いね」

「……!」

 しかし、窓の外は、まるで雨雲でもかかっているかのように、暗くなっていた。


 ほむらには、この光景に見覚えがあった。



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   *


 昼の12時過ぎ。

 テレビからみのもんたの声が聞こえる時間に、杏子は昼食の野菜炒めを作っていた。
 ほむらには弁当を持たせてあるので、イチローと自分との二人分である。

 ふと、窓から差し込む光が弱くなっているのに気づく。雲行きが怪しくなったのだろうか、とその時杏子は思った。

「なあ、イチロー! 洗濯物取り込んどいてくれる?」

 この日、朝早くから杏子は洗濯をして、庭の物干し台に干していたのだ。

 しかしイチローからの返事はない。

 さきほどまでイチローは、庭で軽いストレッチをしていたはずなのだが。

「イチロー! 聞えてるのか? 洗濯物を取り込んでくれって言うんだよ。アタシは今、
昼メシを作ってるんだから」

 振り返って大声を出してみる。

「……」

 やはり返事はない。

 意図的に無視している、というわけでもなさそうだ。

 嫌な予感がした杏子は、ガスを止めて庭に向かう。

 庭ではトレーニング用のジャージを着たイチローが無言で空を見上げていた。

「イチロー……?」

 イチローのただならぬ様子に驚いた杏子は、イチローの視線の先を見る。
 するとそこには、巨大で黒い雲のような塊が見える。

 しかし、雲にしては明らかに質量を感じさせるその物体が、この世のものではない魔力を帯びたものであることは、魔法少女である杏子にはわかった。

「イチロー、これって」

「すぐにほむらに連絡してくれ」

「ああ、わかった」

「なんだか、とても悪い予感がする……」

 イチローは、独り言のように呟いた。杏子は、それほどイチローとの付き合いが長いわけではないけれど、先ほど交わしたわずかな言葉の中で、彼が恐怖を感じているように思えた。


   *


 異変を感じたほむらは急いで階段を上り、そして屋上に出る。

 屋上から見える空はすでに青空ではなく、黒と灰色の二色に染まっていた。

「あれは……」

 ほむらには覚えがある。この空は、あの時と同じ。

 災厄の魔女、ワルプルギスの夜。

 しかしなぜ今。彼女の記憶では、まだ一週間以上はあったはずなのだが。

「ほむらちゃん!」

「ほむら!」

 ほむらのあとを追いかけてきたまどかとさやかの二人が屋上に到着する。

「あれは」

「ええ……?」

 二人も空の様子に驚いているようだ。

「ほむらちゃん、あれってもしかして……」まどかが恐る恐る聞いてくる。

 彼女にはワルプルギスの夜の話はしていない。
 けれども、魔法少女になることができる才能のある少女である。なんとなく感覚でわかるのだろう。

「あれは、魔女よ」

 ほむらはごまかすことなく答えた。

「でも魔女って、普段は結界の中とかに隠れているってマミさんが……」さやかは反論する。

「それは狩られる心配のある力の弱い魔女だけ。あの魔女は、強力な魔力を有しているから、
結界を作って隠れる必要もないの」

 世界を破滅に導く可能性のある最大の魔女。

「ほむらちゃん……」

「まどか!」

 心配そうにほむらの名を呼ぶまどかに対し、ほむらはしっかりと彼女の目を見据えて呼びかけた。

「なに、ほむらちゃん」

 不安であることは彼女の目を見れば分かる。

「まどか、あの魔女は“私たち”が必ず倒す。だから、あなたたちは自分の身を守る
ことに全力をかけて」

「ほむらちゃん、私――」

「お願い、私たちを信じて」

 まどかが魔法少女になって戦えば、それこそ大きな戦力となるだろう。

 しかしその代償は、まどか自身をワルプルギスの夜を超える更に強大な魔女へと変えてしまうという大きなものだ。

 割に合わない。

 何より、まどか自身は、マミのように自ら魔女になることを望まないだろう。もちろん、ほむらも望まない。

「私は、あなたたちに無事でいてほしい。全て終わったら、一緒に昼食を食べましょう、
まどか。それに、さやかも」

「おっ、私のことも忘れてなかったんだね」

 少し意外そうな顔をしたさやかはそう言って片目を閉じた。

「必ず私たちが何とかするから。あなたたちは生き延びて。約束」

「わかった。約束だよほむらちゃん」

「うん」

「私の方からも約束、いい?」

「なに?」

「必ず生きて帰ってきてね」

「ええ」

「頑張って、ほむらちゃん」

「ほむら、負けるなよ」

「負けないわ。だって――」





 私たちには、あのイチローがついているのよ――




   *


 その後、ほむらは先生に断ることもせず学校を抜けだす。

 イチローたちとは、街の郊外にある公園で落ち合うことになっていた。
 あそこなら民家も少ないし、多少派手な戦いになっても被害を最小限に食い止めることができる、という考えからだ。

 ほむらは、公園に向かった走った。

 ほむらはまだ中学生だから、車の運転はできない。
 また、学校周辺の道路は大変混雑していてバスやタクシーなどの公共交通機関もあてにならなかった。

 ゆえに頼れるのは自分の足のみ。いくら、魔法で身体を強化してあるからといって、人間の体力には限界がある。

 ほむらは走りながら空を見上げた。

 空を漆黒に染める“それ”は、今までにないほど大きく見えた。まるで、空に浮かぶ島。
 いや、大陸と言ったほうがいいだろうか。とにかく巨大であり、強力である。
 魔女から発せられる魔力がほむらの皮膚をも刺激するようだった。

《どこへ行くんだい? 暁美ほむら》

 聞き覚えのある声に、彼女は足を止める。

 聞き覚えどころか、忘れたくても忘れることのできない声だ。

「インキュベーター……」

 人間の言葉を喋る白い生物、キュゥべえこと、インキュベーターである。。

《空のアレ、見えるだろ? 凄いじゃないか》

「ええ、そうね」

《もっと感動するかと思ったけど》

「どういう意味?」

《アレは半分、キミが作ったようなものだよ》

「私が……、作ったようなもの?」

《最初、僕もよく状況がわからなかったんだけどね。でもあの魔女を見て僕は確信したよ》

「……」
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
《キミはこの世界の時間を巻き戻していた。それも何度も》

「……」

《恐らく、別の時間軸にいる僕が、キミと契約した後に時間を逆行させたんだね。
だから僕の記憶にキミとの契約した場面がない》

「それと、あの魔女とどういう関係があるの」

《やだなあ、もう薄々分かっているんじゃないのかい?》

「わかっている?」

《この世界はね、途中で止まっているんだよ。ある日を境にキミが時間を逆行させてしまうからね。
いうなれば、時間という川の流れをせき止めているような状態だ》

「せき止める……」

《そして、再び流れを元に戻すためには、そのせき止められた水を一気に解放する必要がある》

「もしかして……」

《この世界が受けるべき災厄を、キミは何度も時を巻き戻すことによって、避けていたんだ。
でもね、災厄そのものを無くすることはできない。

 借金の返済日を引きのばせば引き延ばすほど、ダムの放水を先延ばしにすればするほど、帳尻を合わせるために災厄の規模はどんどんと膨らんでいくんだ》

「そんな……」

 ほむらは、イチローの言葉を思い出す。

 彼は、ほむらの能力、つまり時間を操る能力をあまり使わないほうがいいかもしれない、と忠告した。


『いや、何となくなんだけど悪い予感がするんだ――』


 彼の予感は当たった。しかし、遅すぎた。

《ほむら。キミは何度も僕の邪魔をしてくれたね。でも今となってはそれも感謝しているよ。
 あんなにも大きな魔女を生みだしてくれたんだから。
 あれだけの規模なら、この惑星(ほし)だけでなく、太陽系くらいは消してしまうんじゃないかな。
 そして、大宇宙にとってはこの上もない“力”を手に入れることができる。
 暁美ほむら、キミはとても素晴らしい働きをしたね》

「私は……」

 滅びを回避するために、たった一人の親友を守るために、ほむらは何度も時間を逆行させ、あらゆる手を尽くしてきた。

 しかし、その行為が自分で自分の首を絞めていた。

 恐怖から逃げるあまり、この世界そのものを壊してしまうほどに事態を悪化させてしまったのだ。

「うう……」

 今までの行為は全くの無駄だったのか?

 インキュベーターの思い通りになるまいと、必死にもがいていたことが、無意味どころか、より最悪な事態へと発展させてしまった。

《見てごらん、暁美ほむら。あの魔女が孵化したとき、宇宙は新しい時代へと進んで行くのかもしれないね》

「……!」


 あの魔女はまだ、孵化していない。


 影は巨大だ。
 しかしそれは周りに帯びている魔力によるもので、核自体はそれほど大きいものではないのかもしれない。

 後悔とは『後から悔いる』もの。今は進むべき時だ。後悔などしている暇はない。

《これからどうするんだい?》

「無論、戦うわ」ほむらは即答する。

《無駄だと思うよ。あれほどの魔力だ》

「できる。あの人がいるもの」

《いくらイチローだからって、この事態は収拾不可能だね。もちろん、方法はないわけじゃない》

「……」ほむらには、インキュベーターの言う、方法が何であるか、すでに分かっていた。

《鹿目まどかを、魔法少女にすればあるいは――》

 答えを聞く前に、ほむらはインキュベーターの身体を銃で撃ち抜く。

 インキュベーターにとって身体など飾りのようなもの。何度破壊しても無駄であることはわかっていた。
 それでも彼女は、白い生物を撃ち抜かずにはいられなかったのだ。

 そして彼女は走りだす。己の愚かさを噛みしめて、彼らの待つ場所へ。


   *


 丘の上の公園――

 既に、杏子の魔法により人払いのすんだ公園は実に静かである。そこに、イチローと杏子が待っていた。

 ほむらには伝えなければならないことがあった。

 こんな状況になってしまったのは、半分以上自分に非があるということを。

「イチロー、私、その……」

「おっと」

 ほむらが声に出そうとした瞬間、イチローの人差し指を彼女の唇に軽く触れる。

「え? ちょっと」

 いきなりの行為に彼女の脳内は沸騰してしまった。

 傍から見ていた杏子も、赤面しているのが見えた。

「今は過去を振り返っている余裕なんてない。目の前の事態に全力を尽くそう」

「……ええ、わかったわ」頭の中が熱くなったら、ほむらは一周回って逆に冷静になった。

「“お楽しみ”のところ悪い。で、あのデカイのはどう料理するんだ?」杏子が皮肉交じりに聞いてくる。

 しかしほむらは皮肉の部分を無視して話を進めた。

「私が、魔力を込めた信号弾をここから撃つわ。それでおびき寄せる」

「そんなんで来るのか?」

「あの規模の魔女になれば、一般人からいちいち魔力を集めたりなんかしない。
より効率良く魔力を集めるために、多くの魔力を持つ、魔法少女を狙う」

「それじゃあ、私たちは」

「そうよ。狩る者から“狩られる者”になるの」

「へっ、おもしろいじゃん」そう言うと杏子は右手の拳を握り、それを左手の掌に打ちつけた。

「……」

 一方、イチローはじっと空に浮かぶ影を見つめていた。

「イチロー……?」ほむらは静かに、イチローの名を呼ぶ。

「……」イチローは答えない。

 よく見ると、イチローの肩が小刻みに震えているように見える。

 もしかすると、ほむらはそう思って彼の左手を握った。
 彼女の思った通り、イチローの手から微かな震えを感じ取ることができた。

 イチローでも恐れる存在。

 今、ほむらたちはそれを相手にしているのだ。

「イチロー、……怖い?」

「ああ、怖いよ」

 イチローはあっさりと恐怖を認めた。その答えはほむらにとっては意外だった。

 こんな時、男性はもっと意地を張るものだと思っていたからだ。

「ほむらは怖いかい?」

「……ええ、とても怖いわ。でも……、ここで逃げるわけにはいかない」

「そうだね」

 イチローの震えが止まった。

 同時に、ほむらの中にある恐怖心も、和らいだ気がした。

 恐怖を感じないことが勇気ではない。恐怖を感じ、それでも前に進むことが勇気なのだ。

「それじゃ、行きましょう」

 ほむらは、頭につけていた黒のカチューシャを投げ捨て、桃色のカチューシャをつけ直す。
 そして自身のソウルジェムを出現させ、魔法少女へと変身した。

「それじゃ、アタシも行くか」杏子も赤を基調とする魔法少女の姿へと変身する。

「僕も、今回は最初から本気を出さなければならないようだね」

 イチローは力をためる。彼が大きく息を吸うと身体から不思議な光があふれてきた。

「うおっ、眩し!」杏子は目を細める。

 一瞬のうちに、イチローの服装が先ほどまでのトレーニング用ジャージから、純白が眩しいシアトル・マリナーズのホームユニフォームへと変わった。

「さて、はじめようか」

「ええ」ほむらは、腕の円盤から、55式信号拳銃取り出し空に向ける。


 これが最後の戦い。もう後には引けない。これ以上時間を巻き戻せば、どうなるかわからないのだから。


   *


 午後からの授業は全て中止となり、まどかたちは家路につくことになった。

 空に浮かぶ黒い影。見滝原の街を覆う黒い影に、まどかやさやかたち以外は誰も気が付いていないらしい。

 それなのに、なぜ授業がなくなったのだろうか。

 まどかは疑問に思いつつも、家へと向かった。やはり、どこか別の場所に避難したほうがいいのだろうか。

《どこへ逃げても無駄だよ、鹿目まどか》

「え?」

 耳からではなく頭の中に響く。

《やあ、久しぶりだね》

「キュゥべえ……」

 まるで猫のように、住宅の塀の上にちょこんと座っている白い生物がまどかに話かけてきた。

「なんの用?」

《どの道この世界は終わり、そう言おうと思ってね》

「どういうこと?」

《どういうことって、言葉の通りさ。キミも見えているだろう? あの魔女の姿が》

 まどかは空を見上げる。不気味な黒い影は、何度見てもそこにある。

《今まで出てきた中でも最悪の魔女だよ。あの闇は全てを飲み込む。この街どころか、世界中をね》

「酷い……」

《そう思うだろう?》

「でも……」

《……?》

「ほむらちゃんたちが必ず何とかしてくれる。約束したもの」

《もう、魔法少女でどうにかできるレベルじゃないんだけどな》

「どういうこと?」

《戦いは始まっているよ。キミも見るかい?》

「何を言っているの」

《暁美ほむらやイチローが戦っている姿だよ。キミも気になるだろう?》

「それは……」

《ほら》

 キュゥべえの思考がまどかの頭の中に流れ込んでくる。

 見覚えのある光景。丘の上の公園だ。ほむらたちはここにいるのか。

『イチロー!』

 魔法少女姿の暁美ほむらの姿が見えた。何か焦っているようにも見える。

 空中には、見たことのない化け物が飛んでいる。恐らく、魔女の使い魔というやつだろう。
 ほむらとはまた違う、赤い服を着た魔法少女の姿が見えた。
 槍を使って、使い魔たちを叩き落としていた。

 少女がほむらに向かって叫ぶ。

『どうなってんだよ! イチローは!!』

『そんな……』銃を手にしたほむらは明らかに動揺している。

『アタシと戦ったときよりも明らかに弱いぞ! 何があったんだ』

『……』

 彼女たちの視線の先には、空中でバットを振り戦っているイチローの姿が見えた。

 常にクールだった彼に似合わぬ苦悶の表情が遠くからでもはっきりと見て取れる。
 どんな魔女でも一撃で倒せると思っていた彼が苦戦しているのだ。

 それほど、強力な敵なのか。

 まどかの頭の中に流れ込んでくるイチローの姿は、明らかに精彩を欠いた動きをしている。

 呪いの力?

 なぜなのだろう。

《どうも、あのメジャーリーガーも苦戦しているようだね》

「そんな……」

 イチローが苦戦。考えたくもない現実。
 まどかの頭の中にあるイチローは、常にスマートで、どんな困難にもさっそうと対処できると思っていた。

《残念だけども、キミにイチローや暁美ほむらを助ける方法はないよ。ただ一つの例外を除いて》

「例外……」

《わかっているだろう? 僕と契約して魔法少女になるんだ。キミの潜在能力は宇宙うの法則をも変えかねないほどのものがある。もしキミが魔法少女になったら、イチローやほむらも救うことができるかもしれない》

「私は……」

《これが、今のキミにできることだ》

 まどかは、もう一度イチローの姿を頭に思い浮かべる。

 苦戦するイチロー。彼を助けるために、どうするべきか。


「今の、私にできること――」




   つづく





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