魔法少女まどか☆ブレード 第二話 「やっぱり、気づいてないのね」

2011年08月24日 19:25

魔法少女まどか☆ブレード


科学技術はそこそこ未来、程度ですね。
スパロボ型なクロスオーバー形式を意識しているので、あまり深く考えずに見ると作者が喜びますww

また、基本世界設定はブレードに準じてます。
なので、オービタルリングも存在してます。
ただ、見滝原はラダムの攻撃にまったく晒されていなかったため、まどか達にとってはラダムは「なんか実感湧かないなぁ」という感じです。テレビの向こうの紛争地域見てる気分というか。

シンヤ坊もばっちり出ますのでご安心を。
ネタバレ都合上、いつとは言えませんがそう遠い先のことじゃないですよ!

ブレード側の設定としては本編との相違点は、

・レイピア=ミユキは既に死亡済み。
・だがテキサス基地は崩壊しておらず、地球がラダムに占拠されたわけではない。


69 :◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/23(土) 21:44:35.04 ID:pinLwOJt0

 暁美ほむらは、考えていた。
 今いる場所は自室内にこしらえた空間。
 一人での考え事や、調達してきた武器をひとまず隠したりするのに使っている場所だ。
 広い部屋にはたくさんの椅子と机が放射状に規則正しく配置され、まるで時計か何かのようにも見える。
 そして、壁、床、天井は一面白で統一されており、どことなく生活感の無い模型じみた雰囲気を漂わせていた。
 
「…………」

 考えているのは、この前に目にしたあのイレギュラーだ。
 たしか――テッカマンブレード、と名乗っていたか。
 
(あの時使い魔に見せた近接戦闘能力だけでも、私や巴マミはもとより、まだ契約を行っていない『彼女』や、未だここにいない『彼女』を凌駕しかねない実力)

 そして、使い魔の群れがいよいよ押し寄せると、彼はチラリとまどか達の様子を伺いながら戦っていた。
 まどか達に使い魔の攻撃が行かないように――とも考えたが、振り向かずに槍を投擲して使い魔を寸断したことから考えると、それもおそらくは違うだろう。
 となれば考えられる答えは二つ。
 
 じっと息を潜めていたこちらに気づいて、警戒していたか。
 或いは、あの槍の他に、何かそれ以上の切り札を持っているか、だ。
 
(あの逡巡は、私に見せることを迷ったのか、それとも使うのを躊躇ったのかしら?)

 自分の攻撃のように、他人を巻き込む危険の高い広範囲攻撃……となれば、納得はいく。
 いずれにせよ――。
 
「確かめる必要があるわね。あのテッカマンを」


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 日が落ちるのはもう少し先であるはずだが、既に街灯はアスファルトに煌々と光を投げかけている。
 そんな見滝原の夕暮れの中を、Dボゥイとアキは歩いていた。
 Dボゥイが両手に下げているのは、近くのスーパーの買い物用ビニール袋だ。
 中に詰まってるのは、惣菜、カップ麺……と、いわゆるインスタント食品や出来合いの食料がぎっしりと詰まっている。
 それもこれも、二人ともに料理を作るスキルがないためであるのだが、ない物ねだりをした所でしょうがない。
  
「ごめんね、出来合いのものしか出来なくて……」
「いや、気にすることじゃない」

 歩道橋を二人で上りながら、目の端を下げて謝るアキに、Dボゥイは気にするな、と返した。
 と、二人はひとつの異変に気づいた。
 歩道橋の上。階段を上りきったL字カーブ部分に、一人の人影が見えたのだ。
 夕日を背負って、逆光の中に立つ彼女を、二人は知っていた。
 
「君は、この前の……?」
「ほむら」
「………?」

 どう反応すればいいのか考えあぐねていると、彼女は再び口を開いた。
 
「名前よ。私は暁美ほむら」

 一息に喋りきってふう、と吐息すると、彼女――ほむらはこちらをじっと見据えてくる。
 表情は、眉根を寄せた真剣なものだ。
 
「……あなた、一体何なの?」
「…………」
「勘違いしないで。あなた達の事情になんて興味はないわ」

 そこまで言うと、突如彼女の姿が消え失せた。
 
「ただ……まどかを傷つけるつもりなら、私はあなたを許さない」
「!?」

 背後から聞こえた声に、Dボゥイは振り向く。
 彼女は、変わらないまま背後から話しかけていた。
 
「……さあ、答えて」
(瞬間移動……か?)

 お互いがお互いを警戒しながらも、そのまま時間が過ぎていく。
 と――
 
「………!」

 突如、ほむらの顔が跳ね上がる。
 そのまま、ある方向をじっと睨むと、ぼそりと呟いた。
 
「どうやら、答えを聞く暇もないようね」
「何だって?」
「魔女の結界に誰かが侵入してる。おそらく、巴マミね」

 Dボゥイに視線を元に戻しながら、ほむらは口を開く。

「そして、彼女は鹿目まどかと美樹さやかを伴っている」
「なんだと!?」
「そんな……いくらなんでも危険すぎるわ。どうしてそんなことを」
「巴マミは自分の孤独を癒すために戦いに身を投じていた。
 なら、仲間候補である鹿目まどかと美樹さやかを見つけた今、血気に逸って見せ付けているでしょうね。魔法少女の華やかさを」

 目を見開く二人をよそに、冷めたように目を細めて続けるほむら。

「……どうするのかしら? テッカマンブレード」
「……マミの所に案内してくれ。彼女には、言わなければならないことができた」
「そう。なら、案内してあげるわ」

 強い視線をこちらに注いでくるDボゥイに臆することなく、ほむらは髪をかき上げながらその視線を正面から受け止めた。

「だけど、一つだけ誓って。まどかを、魔法少女の運命から守ると」

 そしてゆっくりと半歩下がり、
 
「できないと言うのなら……あなたを、ここで倒す。あなたの力は、不確定なままにしておくには危険すぎるわ」

 じゃき、と彼女が構えたのは――拳銃だ。
 中学生にはとことん似合わないそれを慣れた構えで構え、照準してほむらはこちらを睨む。
 悲壮な決意と、覚悟を、その瞳に宿しながら。

「…………」

 身構える。
 
「私を倒そうというのなら、無駄よ。あなたが変身するのに、あの結晶が必要なことはわかってる」

 だからこそ、ここで仕掛けたのだ。
 ギチリ、と空間が軋みそうなくらいに緊張が二人の間に満ちていく。
 だが、
 
「いいわ。案内して」
「アキ!?」

 沈黙を破ったのは、アキだった。
 驚いて振り向くDボゥイをよそに、アキは口を開く。
 
「ここでお互いに時間を浪費しても仕方ないでしょう?」
「……ついてきて」

 了解と受け取ったほむらは、足早に階段を降りると、路地の隙間へするりと消えていく。

「アキ。……何故あんなことを?」
「先走ってごめんなさい。でも、時間がないのは事実よ」

 それに、と彼女はさらに続ける。
 
「あの子は、きっと悪いことを企んでる子じゃない。そんな気がするの」
「……何故わかるんだ?」

 聞くと、アキはじっとこちらの目を覗き込んできた。
 意図がわからずにぱちくりとまばたきするDボゥイに、アキは大きくため息をつく。

「やっぱり、気づいてないのね」
「………?」
「あの子、最初に会った頃のあなたと同じ目をしていたもの」
「……俺に?」

 ええ、と頷くと、アキは眉尻を下げて微笑んだ。
 
「だから……あの子、放っておけないわ」

 あなたの力になりたいから。
 同じ覚悟を背負った目をしている彼女を、見過ごすことは私にはできない。
 などと話していると――
 
「……ついて来るの? 来ないの?」

 当のほむらが、路地の陰からこちらを覗き込んでいた。
 
「ええ、ごめんなさい。今行くわ」

 足早にほむらへ駆け寄るアキの背中を見ながら、Dボゥイは独りごちた。
 
(俺と同じ目……か)

 ならば、
 
(一体彼女は、どんな宿命を背負ったんだ……?)

 その問いに答えられるものは、未だいない。



 Dボゥイと暁美ほむらの邂逅から時をいくらか遡った、見滝原繁華街の一角にあるファストフード店。
 時計は昼下がりと夕暮れの境界線を示している。
 周囲のテーブルにも学校帰りの学生や、仕事を終えたスーツ姿の客らがひしめき合い、なかなかに忙しい光景だ。
 
「いやー、なんかワクワクしますよね! こういうの」
「さ、さやかちゃん。遠足じゃないんだから……」 

 ウキウキとした調子で身体を揺らすさやかに、それとは対照的にやや気後れした調子でまどかが横から応じる。
 とはいえ、まどか自身も期待感に胸を躍らせているのは同じだったりするのだが。
 それもそのはず、今日は巴マミが魔法少女がどういうものであるかを見せてくれる体験ツアーの日だからだ。
 一人用のテーブルを二つ連結した向こう、つまりまどかの対面に座るマミは、その様子にくすくすと笑っていた。
 
「うふふ。ところで、二人とも何か準備があるって言ってたけど、どんなものを用意してきたのかしら?」
「あたしはコレですね。一応護身用ってコトで」

 さやかは脇に床に置いてあったスポーツバッグを持ち上げると、端から柄を覗かせているバットを示した。
 そして、まどかは。
 
「わたしは……これです」
 
 ごそごそと鞄の中を探ると、一つのものを取り出した。それは、
 
「……ノート?」
「ね、見てもいいかな?」
「うん」
 
 一冊の大学ノートだ。
 灰色の表紙に、蛍光ペンであちこち装飾が描かれたその中身は、
 
「あら、これ私のコスチューム?」
「はいっ。変身した後の姿どうするか迷っちゃったら困るから、今のうちに考えておこうかなーって……」

 マミが興味を示してくれた事に、まどかは笑みを得て、だがしかし。

「…………」
「…………」

 沈黙が降りる。
 
(……しまった!)

 まどかは笑み顔のまま凍りついた。
 自分の空想好きな性分が災いして、こんな風に会話が滑ることは何度かあったから、自分でも気をつけていたつもりなのだけど。

(また、やっちゃった)

 なんというかすぐにでもトリプルアクセルで土下座して全力で逃げ出した気持ちに駆られるが、なんとか(ぎりぎり)堪えて、まどかはじっとりと脂汗を浮かべながら、さやかとマミの顔色を窺っていた。
 視線の先にいる二人は、まどかのノートを覗き込んだまま、無表情のまま無言でいる。

 否、一つの変化はあった。
 二人のだんだんと頬が餅のようにぷくーっと膨らんで来て、
 
「……ぷ」

 あ、漏れた。
 
「あはははは、まどからしいやー!」
「い、一生懸命描いたのに笑うなんて二人ともひどいよう」

 涙目になってまどかは訴えるものの、さやかは慣れた調子で「あはは、ごめんごめん」なんて謝っていた。
 だが、さやかはふと真顔になると、
 
「……でもなんであたしのだけマミさんやあんたと違って鎧姿なの?」
「えっと、だってさやかちゃんってかわいいって言うよりカッコいい感じだから、Dボゥイさんみたいなカッコいい姿になるのかなって」

 男で少女っていうのもなんだか変な話ではあるけれど、と心の底で付け加える。
 
「……おい、それってあたしが女らしくないってことかい」
「あわわわわ、ごめんなさいっ」

 ドスの効いた声で詰め寄るさやかを押さえながら、あわあわと謝るまどか。
 その対面で、でも、とマミが口を開いた。

「でも、あんな姿になる魔法少女なんて私は見たことがないわね。……キュゥべえ、何か知らないかしら?」

 マミが横に視線を向けると、モグモグと一匹フライドポテトを齧っていたキュゥべえが答える。
 
『彼は魔法少女じゃないね。あれはテッカマンといって、魔法少女とは異なる存在なんだ』
「え? でも変身の仕方とかよく似てたよね……うーん?」
「こう、シュバッと掲げてビカーッと光ってグワガシーン!と変身するとことか、確かに似てるよね」

 おおむねその通りだけど、なんでも擬音で表現するのはさやかちゃんの悪い癖だと思うの。
 胸中で我知らずまどかが呟いていると。
 
 ………ポゥ。
 
 マミのソウルジェムが、輝いていた。
 決してムーンウォークではない。
 
「あれ、マミさん、なんだかソウルジェムの光り方が変わったような?」
「ソウルジェムはね、結界を探知するレーダーの役割も兼ねているの」

 目聡くソウルジェムの変化に気づいたさやかに、微笑んで答える。
 ソウルジェム。魔法少女であることの証。
 それは魔法少女そのものであるかのように、キラキラと美しく輝くのだ。
 
「……と、いうことは……」

 まどかの声にも緊張の色が混ざる。

「つまり魔女が近くにいるっていうことね。……ようやく尻尾を掴めたわ。今度こそ仕留めてみせる」
「おおっ、つまり魔法少女体験ツアー、開始ですねっ!」



 ……そして、時間は現在へと回帰する。
 
 暁美ほむらの先導で、Dボゥイとアキの二人は路地裏へと走りこんでいた。
 
「ほむら、この辺りなのか?」
「そのはずよ」

 開発がもたらした弊害である、廃ビルがちらほらと見える路地裏。
 表面から見れば綺麗な見滝原も、少し裏側へ踏み込めばこのような光景はよく目にすることができるのだ。
 と、空間のある一点へと視線を走らせて、アキは小さく息を吐いた。
 一人の人間が、倒れている。
 若い女だ。スーツ姿なのを見ると、仕事帰りのOLといったところか。
 
「待って、あの人――!」

 アキの声でDボゥイとほむらも異変に気づくと、足早にOLへと駆け寄る。
 
「おい、大丈夫か――」
「触らない方がいいわ。このまま放って置いた方が彼女のためよ」

 助け起こそうとしたDボゥイを遮って、ほむらが呟いた。
 
「どういうことだ?」

 問いにはすぐに答えずに、ほむらはOLの首筋に注意深く視線を這わせる。
 やがて、何かを見つけたように目を細めた。
 
「……やっぱり。魔女の口づけね」

 疑問符を浮かべているDボゥイとアキに振り返ると、ほむらは再び口を開く。
 
「巴マミから説明は聞いてるわよね? 魔女は人間を『食う』と」
「ああ」
「彼女はその魔女からエサ候補として目星をつけられたってことよ。その人間にはこの魔女の口づけと呼ばれるマークが浮き出る。大元を断たないと、死に誘われるのは変わらないわ」
「…………」

 無言で腕組みをするDボゥイに、再びほむらが語りかけた。

「急ぎましょう。既に三人は結界の中にいる」
「ああ」

 小さくDボゥイは頷くと、アキに振り返った。
 
「アキ、その人を頼む。目を覚ますような事があったなら、何とか抑えていてくれないか」
「わかったわ。あなた達も気をつけて」
「ああ、わかってる。……行くぞ、ほむら」

 アキをその場に残すと、Dボゥイとほむらは廃ビルの中へと足を踏み入れる。
 その二人の後ろ姿は、やがて闇に溶けて消えた。



 魔女の結界の中を、三人は進んでいた。
 通路の内部は進む者達の嫌悪感を煽るかのようにねじれ、折れ曲がり、原色から原色へと目まぐるしく色を変える。
 そんな道中の三人にも容赦なく使い魔の群れが襲い掛かるが、それらの全てはマミの銃撃によって蹴散らされていった。

 華麗に、優雅に、そして凛々しく。
 
 踊るようにステップを踏みながら魔女の眷属を駆逐していく様は、まるでミュージカルか何かに見えるほどで、ここが命がけの場なんだとうっかり忘れそうなくらいに、まどかとさやかは、『魔法少女の戦い』に見入っていた。

「……ふう」
 
 使い魔の最後の一匹を撃ち抜くと、マミは油断なく周囲に視線を這わせ――本当に周囲に何もいないのを見てとると、ゆっくりと息を吐いた。
 
「奥に進むに連れて使い魔も多くなってきているわね。……二人とも、怪我はないかしら?」
「傷一つないですよ、マミさん! ばっちりバリヤー効いてましたし!」

 こちらに問いかけてきたマミに答えて、さっき見せたバットを掲げる。
 マミの魔法によって強化されたそれは、ファンシーな装飾がされてはいるもののその力は折り紙つきだ。
 
「そう、それはよかったわ。もうすぐ最深部に着くから……」
「そこに、魔女がいるんですか?」
「そうよ」

 マミは、こちらを遮ったまどかにも優しく頷いて答える。
 
「そろそろ正念場になるから、張り切って行かないとね」

 幾重にも重なる扉を潜り抜け、三人は広い空間へと躍り出る。

 そして、そこに――魔女は、いた。

 初めに感じたのは、鼻をくすぐる甘い香り。
 それらは、周囲を何十、何百と埋め尽くす薔薇から発せられているものだ。
 床も、壁も、天井をも埋め尽くすそれらは、見る者を圧倒する神聖じみた凄みを持っていた。
 そして、その何重もの薔薇のヴェールの向こうで、魔女は呆けたように足元の薔薇をじっと注視している。
 それだけならば、薔薇園の中で儚げな美女がアンニュイな午後を過ごしている……とでも思えただろう。
 
 最も、その美女の頭は溶け崩れた粘土細工のようになっているのだが。それも、台から床に叩きつけた有様に、だ。
 崩れた頭から覗く紅い光は、複眼か、はたまたそれもまた薔薇なのか。
 背中から生える蝶の羽は、その醜悪な姿からは毒蛾を連想させた。
 
「うっわ、グロい……」

 この上なく簡潔な感想を漏らすさやかと、
 
「あ、あんなのと戦わなきゃならないんですか……?」

 不安を顔に貼り付けた表情でこちらを見つめるまどか。
 
「大丈夫、私は負けないわよ。だって、」
 
 スッと前に出ると、マミは使い魔を蹴散らしたときのように二人の周りに結界を張る。
 その顔に浮かぶのは、少女にして戦士の微笑みだ。

「――私、こう見えても魔法少女なのよ?」

 そしてそのまま二人を残すと、ふわりと魔女の前に降り立った。

 ――その異形の名は、薔薇園の魔女ゲルドルート。
 その性質は不信。
 力の全てを自らが育てた薔薇のために使い、結界に迷い込んだ人間の生命力を吸い上げて薔薇に分け与える、受動的に人間を捕食する魔女である。
 大きさは……数メートルはあるだろうか。
 
 敵対者の存在を認めた薔薇園の主は、ゆっくりと鈍重な動きでマミへ向き直った。
 そして、背中の蝶の羽を羽ばたかせると、さっきと比べると冗談のように機敏な動きで魔女はマミに肉薄する。
 だが、そのくらいはマミも予測済みだ。
 
「はっ!」

 大きく横っ飛びにステップを踏んで魔女の体当たりをかわすと、崩れたバランスをさらにバク宙で立て直した。
 ズズン、と地面をその身体で抉りながら、五歩ほどの距離をスライディングして魔女も止まる。
 ……直撃しようものならば、ひとたまりもなく一瞬で踏み潰されるだろう。
 
 引きつった肺を落ち着かせるように深呼吸。口の中に溜まった唾を嚥下する。
 アドレナリンの苦味に思わず頬に力が入る。
 だが、それを無理やりに笑みに歪ませると、マミはスカートの端をつまんでちょこんとお辞儀してみせた。
 まるで、ダンスパーティで相手を見つけた少女のように。
 直後、スカートの中から長大なマスケットライフルが落ち、ざくりと銃口を下にして地面に突き刺さる。
 次に脱いだ帽子をぶん、と振るうと、さらに大量のマスケット銃がマミの周囲に顕現した。
 
「さて――」

 場は整った。名乗りの口上のように朗々と言葉をつむぎながら、彼女は足元の銃を引き抜き、構える。
 
「最後まで付き合ってもらうわよ!」

 言い終わると同時、引き金を引く。
 ズドン、と銃声が響き、放たれた銃弾は魔女の身体の表面で爆ぜた。
 続いてもう一撃。これもまた魔女の身体に痕を穿つ。
 さらに銃撃。
 銃撃。銃撃。銃撃。
 銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃!!
 
 最後のひとつの銃を使い切ると、マミは硝煙の中に消えた魔女を油断なく睨む。
 ……だが、それ故に、反応が一瞬だけ遅れた。

「――――ッ!?」
 
 不意に、踵が自分の意に反して持ち上がる感触に、思わずマミは足元に視線を走らせる。
 見ると、足元の地面から次々に使い魔が顔を出し、マミの身体を駆け上がっていく。
 それは、さながらに種の発芽を連想させた。
 
「この……!」

 腕を振るって振り払おうとするも、身体にへばりついた使い魔は少女の力だけでは如何ともし難く。
 
「……ッ!」

 やがて、毛虫のように纏わり着いた使い魔たちは一本の薔薇の蔓へとその姿を変えた。
 それは、ググッと万力のようにマミの身体を縛り上げる。
 ギシギシと骨が軋み、知らず苦鳴が漏れた。
 
「くっ……!」

 そして次の瞬間。
 マミは宙を舞っていた。
 ごうごうという耳鳴りと共に三半規管が悲鳴を上げ、吐き気とも、寒気とも、或いは恍惚ともつかぬ感触がぞわぞわと皮膚を這い回る。
 その刹那の後、拘束されたマミは壁に叩きつけられた。
 
「か―――は」

 視界が白黒に瞬き、肺が痙攣して喉から笛のような音が漏れる。
 呼吸どころか、息を止めることすらできないような苦痛。
 
「ま、マミさん――!」

 遠く響くまどかとさやかの声。
 そうだ。私は独りなんかじゃない。こうして、私を応援してくれる人がいるから、私は戦えるんだ。
 ぼやけた視界の向こうにいるはずの、後輩候補二人へとマミは視線を投げて――
 
 ――そこで、彼女の意識は戦慄と共に凍りついた。
 
 二人を守っていた結界が、解けている。
 あの叩きつけられた時の衝撃で、集中が乱れたせいだ。
 もはや、あの二人を守るものは何もなく。
 今現在の彼女たちは、屠殺場の中にいる子羊となんら変わりない。
 それを裏付けるかのように、使い魔は鋏を手に二人の後ろから飛び掛った。
 
「鹿目さんッ!! 美樹さんッ!!」
「――え?」
「――ん?」

 さっきまでの泰然とした仮面をかなぐり捨てて叫ぶ先輩に、少女二人はゆっくりと後ろを振り向く。
 だが、鋏の切っ先は、もはや眼前まで迫っていて――

「テックランサーッ!!」

 ――そして、二人に届くこともなく寸断された。
 振り向いた二人の視界の中。己と使い魔の群れに割り込むように、その人の背は入り込んでいた。
 次の瞬間。今度は薔薇の蔓に縛られたマミの方へ、手にしていた槍を投じる。
 くるくると回転しながら、緩いカーブを描いて飛ぶそれは、紙を切るようにたやすく蔓を両断した。
 そして、ゆっくりと彼はこちらに振り向く。
 白い鎧姿。仮面の向こうに見える緑色の瞳。マミとは正反対に無骨で、だが力強さを感じるシルエット。
 その人物は、こちらの姿を認めると仮面越しに口を動かした。
 
「三人とも、無事だな?」
「――Dボゥイさん!」

 両断され、黒い煙と化して消える蔓を解きながら、マミはまどかとさやかを後ろに守りながら魔女と対峙する騎士――テッカマンブレードをその視界に捉えていた。
 
「……ありがとう。危ないところだったわ」

 安堵の息をつきながら、マミは礼を言う。
 だが、ブレードの反応は彼女の予想とは違っていた。
 腰からのワイヤーを放って投げた槍を回収した彼は、こちらに首だけ向けると、

「……マミ。君には後で話さなければならないことがある」
「……え?」

 こちらを鼓舞しようとするでもなく。ただ、静かな口調で呟いた。
 でも、それも少しの間だけのこと。
 
「だが、まずは……」

 巻き上げたワイヤーの先端に括りつけられた槍――テックランサーを再び握ると、今度こそブレードは魔女へと向き直る。

「こいつらを片付けてからだ!」
 
 吼えると同時。再び四方八方から飛び掛って来た使い魔の第二波を、ランサーを高速で回転させながらなぎ払った。
 
「――ええ!」

 マミも応じると、まどかとさやかの周囲に再び結界を展開する。
 今度こそは、手抜かりはしない。
 痺れていた肺を、震えていた手指を元通りに動かし、再び少女は銃を取った。
 まどかとさやかが結界で保護されたのを確認すると、ブレードもまた跳躍した。
 背部のスラスターが咆哮を上げ、身体が重力をねじ伏せるだけの推力を得て飛び上がる。
 そのまま、魔女から十メートル程の距離で一旦停止すると、ブレードは目を細めた。
 
(あれが、魔女か――!)

 大きさはラダム獣より一回り大きいくらいだろうか。
 その外見の醜悪さ、そして触手による攻撃、というところもよく似てはいるが――
 そう独りごちる前に、魔女の突撃が来た。
 
「くっ!」

 身を翻して回避する。
 音もなく通り過ぎた魔女を視線で追いながら、ブレードはビリビリと襲い掛かる風圧に戦慄した。
 
(バーニアの類もなく、羽根を動かすことすらもなく飛行するか……!)

 確かに、出鱈目な存在だ。
 加えて――。
 
「ぬんっ!」

 背後から迫り来る使い魔――こちらは地上を這いずる毛虫型とは違い、布オバケに蝶の羽根を生やした個体だ――をランサーでぶち抜いた。
 使い魔の攻勢もまた、止むことはなく。
 現在のブレードは、使い魔と魔女の波状攻撃に晒されていた。
 
(やはり数が多い……まずは雑魚か、大元をどうにかしなければ)

 だが。
 
(これだけの広さを持つ空間ならば……!)

 いける。
 
 再び迫る使い魔を前に、ブレードは叫んだ。
 
「クラッシュ――イントルード!!」

 叫ぶと同時。ブレードに一つの変化が起きる。
 まず頭部横、アンテナ状の角が後ろに倒れた。次に、脇下のフィンが展開。
 そして、全身の装甲が変形し、全バーニアユニットが一つの方向を向いていく。

 クラッシュ・イントルード。それは、テッカマンの超高速機動戦闘形態。
 理論上という前置きがつくものの、その最高速は亜光速にすら匹敵する。
 そのスピードたるや、ただ余剰エネルギーで発される衝撃波だけでラダム獣の群れを粉々に破壊できる程だ。
 
「うおおおーーーっ!!」

 最高速には程遠いものの、音を背後に抜き去るスピードで天駆ける白騎士が乱舞する。
 その身は既に肉眼で捉えられるようなレベルではなく、ただ余剰エネルギーであるフェルミオン粒子の残滓と、それらが現れるたびに粉々に砕け散って消える使い魔たち残骸だけが、何が起きているのかを物語っていた。

 そして。

「……何、これ」
「え、え、何? 何が起こってるの?」

 結界の中からそれらを眺めていたまどか達には、何が起こっているのかも見当もつかなかった。
 それはそうだろう。彼女達からしてみれば、ピカピカと辺りが緑色に光ったかと思うと、勝手に使い魔が砕け散って結界がびりびり震える、ということくらいしか知覚できないのだ。
 既に戒めが解けたマミも、ぽかんと使い魔を蹴散らすブレード(の発する残光)を見つめていた。
 魔法少女としての経験、そして生まれ持った射手の素質である生来の目の良さから、『何をしているか』は何とか理解できたものの、未だ思考はそこから停止したままだ。
 ――あんな馬鹿馬鹿しいを通り越して荒唐無稽な戦い方、魔法少女ができるはずがない。
 キュゥべえが言っていた、『テッカマンとは魔法少女とは違う存在』という言葉が、今はよく理解できた。

 と――。
 
「■■■■■――――!!」

 突然、魔女が掻き毟るように上げた咆哮に、思わずマミは振り向いた。
 異変に気づいたブレードも、空中で一旦停止して油断なく様子を窺う。
 幾重もの銃撃をその身に浴びて、小揺るぎもしなかった魔女が。
 今は、大きくたじろぎ、狼狽していた。
 その目線は、マミでもブレードでも、無論まどかやさやかでもなく、周囲をせわしなく駆け回っている。
 
 その周囲は、クラッシュ・イントルードによって見るも無惨に破壊されていた。
 まるで巨大な獣が暴れたかのように、爪跡のような傷跡が幾重にも走っていた。
 そして、その中にあるのは――。
 
 ――ズタズタに切り裂かれた、幾輪もの薔薇の花。
 
 瞬間、マミの魔法少女としての思考がめまぐるしく回転を始める。
 
 ――使い魔が持っていた剪定鋏。
 ――まるで蝶と茨を組み合わせたかのような形の魔女の口付け。
 ――結界の最深部を埋め尽くす、薔薇の花。
 ――そして今、魔女が狼狽している原因は?

(そういう……ことね!!)

 一つの解答へと行き着いたマミは、ブレードへと振り向いて叫ぶ。
 
「Dボゥイさん! 奴らの弱点は、周囲の薔薇よ! それを破壊すれば、平静を崩せるはず!」

 そう。
 薔薇園の魔女ゲルドルートにとっては薔薇園がすべて。
 大事に結界の奥にしまい、決して色褪せないよう使い魔たちに世話をさせ続けてきたその薔薇は、おそらく魔女にとって命より大切なものなのだろう。
 それが破壊されつくされればどうなるか。想像には難くない。
 
「おうっ!」

 ブレードは頷くと、再びクラッシュ・イントルードへと移行する。
 ただし、今度は壁や地面、天井をかすめるように、魔女を中心としたゆるやかな螺旋の軌道を描きながら、だ。

「■■■■■――――!!!!」

 爛れたように垂れ下がる魔女の顔が、さらに大きく醜く歪んでいく。
 そこから発せられるのは、タールのようにどす黒い殺意と狂気。
 魔女の目に映るのは、自らの領域である薔薇の園をズタズタに破壊しつくし、蹂躙する忌々しい騎士のみだ。
 
 ――そして、それこそが魔女の犯した致命的なミス。
 
「――惜しかったわね?」

 マミが自らの襟に巻いた、細いリボンタイをほどき、引き抜く。そして、
 
「はっ!!」
 
 投擲。
 それは、一瞬で数倍・数十倍にも伸び、マミの意のままに魔女へと殺到した。
 濁流のようなリボンに絡み取られ、ようやく魔女は自分が罠にはまったのだと自覚した。
 だが、時は既に遅し。ぎりぎりと締め上げるリボンによって、魔女の動きは完全に封じられたのだ。
 地面に落ちていたマスケット銃を手に取る。

 そしてそのまま、マミは大きく跳躍した。
 跳躍の軌道が上死点に差し掛かったその瞬間。先ほど拾った銃が、より巨大なものへと変貌する。
 現実世界には古今東西存在するはずのない銃。それを手に取り、ゆっくりと狙いを定める。
 
「Dボゥイさん! 今よ!」
「うおおおおおーーーーっ!!」

 呼応するように、ブレードもクラッシュ・イントルードを解除。
 両手を腰溜めに構えると、全身にあらん限りの力を込める。
 その刹那、ピシリとブレードのショルダーアーマーに線が入る。
 重い音を立てながら展開するショルダーアーマーから顔を覗かせたのは、昆虫の複眼を連想させる、レンズとも宝珠ともつかない緑色の球体。それは、合計で六つあった。
 
 キィィィン、と高い音を立てて緑色の燐光がレンズへと集まっていく。

「ティロ――」
「ボル――」
「フィナーレ!!」
「テッカァァァーーーーーッ!!!」

 そして、マミの巨大な銃から放たれた弾丸が魔女を貫き。
 ブレードの肩から放たれた、緑色の奔流が魔女を跡形もなく消し飛ばした。

 魔女が消滅し、そして解け崩れるようにあの狂った世界も崩壊する。
 そして、世界は再び帰還した。
 
「…………」

 無言のまま、ブレードはテックセットを解除したDボゥイは、
 
 ――カツーン。
 
 と、背後から聞こえた物音に振り向いた。
 そこに落ちていたのは、黒い黒い、卵型の石。
 
「……これも、ソウルジェムか?」
「違うわ。それはグリーフシードよ。魔女が落とすもので、魔法少女のソウルジェムを回復させるものなの」

 黒いソウルジェム――グリーフシードを拾い上げて眺めるDボゥイに、穏やかに教えながらマミが近づく。
 距離にして約三メートル。そこまで近づいて、マミは足を止めた。
 
「それで、話って何かしら?」
「………」

 ゆっくりと振り向くと、Dボゥイもまたマミへと歩み寄る。
 その表情に浮かぶのは、勝利を分かち合う喜びでもなく、戦いが終わった安堵でもなく――
 ただ、むっつりとした苦い顔だ。

「え、えーと……どうしたのかしら?」

 気圧され、魔法少女の変身を解きながらマミは後ずさった。

「……俺が」

 まどかやさやかには聞き取れないくらいの小声で、静かにDボゥイは事実のみを告げる。
 
「俺が後一歩遅れていたら、あの二人は助からなかった」
「…………!」

 びくり、と。
 全身を大きく震わせて、マミはさらに一歩後ずさる。
 もはや彼女の心の中では、勝利の余韻も何もかも木っ端微塵に打ち砕かれていた。

「俺は、魔法少女じゃない。だから、君たち魔法少女と魔女の戦いがどんなものかも知らない」

 一歩。
 マミが後ずさる。

「……だが、それが死と隣り合わせの、文字通り命がけであることはわかる。……それに、君はあの二人を巻き込んだんだ」

 二歩。
 Dボゥイが歩み寄る。

「……だが、それが如何に孤独で辛い戦いであるかも、俺にはわかるよ」
 
 雨に濡れた子犬のように、震えながら俯くマミに、Dボゥイは膝立ちになって目線の高さを合わせた。
 そのまま、逃がさないように力強く、しかし諭すように優しくマミの両肩をつかむ。
 
「だけど……仲間が、友人が欲しいというのなら、やるべき事は違うだろう?」
「あ………」

 初めて、マミがこちらを見た。
 頼りなげに震えるその瞳は、たまった涙が波紋のように震え。
 ひび割れ、くしゃりと歪んだその表情は、さっきまで凛としていた戦士としてのそれではなく。
 ここにいるのは、ただの十五歳の女の子だ。

「わた、私……」
「……すまない、俺も言葉が過ぎた」

 かたや自ら孤独な戦いに身を投じ、しかしスペースナイツの仲間達と共に戦うことができた自分。
 かたや孤独を恐れ、しかしその孤独が癒されることはなく、目の前の蜘蛛の糸にすがってしまった彼女。
 今の自分になら、理解できる。ずっと独りぼっちで戦い続ける辛さを、苦しさを、その悲しさを。
 だからこそ、こんな行為に出てしまった彼女を咎めこそすれ、責めることはDボゥイにはできなかったのだ。

「それに、君が謝るべき相手は俺じゃない」

 不意に、Dボゥイが視線あらぬ方向へ外した。
 マミもそれを追いかけると――そこには、まどかとさやかの二人がいた。
 
「鹿目さん……美樹さん……」
「マミさん……」

「……ご、ごめんなさい。私が至らないばっかりに、あなた達を危ない目に遭わせちゃったわね」

 謝ってくるマミに、二人も慌てて首を横に振った。

「そ、そんなことないです!」
「そうですよ! 今日はたまたまちょっと失敗しちゃっただけですって!」
「ううん、いいのよ。この埋め合わせはまた今度、ね?」
 
 まだ目の端に涙が滲んではいたが、それでもにっこりと、首を傾げて微笑むマミ。
 その微笑ましい光景に、Dボゥイも我知らず安堵の息をつく。
 と、さやかが何かに気づいたようにこちらに向けて口を開いてきた。
 
「でもDボゥイさん、なんでまたここがわかったんです?」
「私が案内したからよ」

 不意に――。
 どこからともなく声がすると、フワリ、とこれまたどこからともなく彼女はマミの前に降り立った。

「転校生!?」
「ほむらちゃん!?」

 降り立ったその少女の名を、まどかとさやかがそれぞれの呼び方で叫ぶ。

「…………ッ!」
 
 身構えたのは、無論、マミだった。
 足元のキュゥべえを抱き上げると、己の身体で庇うように抱きしめる。
 
「何しに来たの? またキュゥべえをいじめに来たのね?」
「まどかが既に接触した以上、もうそいつを潰しても何の意味もないわ」
「……ッ」

 潰す、という言葉に反応して、マミの姿勢がいっそう固くなる。
 ギリ、と軋む音すら発しそうな程に眉根に皺を寄せたその顔は、敵意という色、ただ一つに染め上げられていた。
 
「それに、言わなかったかしら? 今日の私は、彼を案内しただけ」
「彼……?」

 一瞬、訝しげな表情をしたマミは、
 
「…………!?」

 ハッとしたように、一人の人物へと視線を注ぐ。
 その先にいたのは――Dボゥイだ。
 
「……そう。そういうことだったのね」

 暁美ほむらは、Dボゥイを案内してここに連れてきた。
 ということは――二人は、協力関係にあるということだ。
 キュゥべえを殺そうとする者と、協力しているテッカマンブレード。
 ……マミにとって、敵と断じるには、十分理由だった。
 
「……マミ?」

 そんな事は知らず、Dボゥイは心配そうに歩み寄るが――。
 マミは、さっきと同じように後ずさった。
 さっきと唯一違うのは――それに込められた、明確な敵意と拒絶の意志だけ。

「……大丈夫です。一人で帰れますから」
「…………」

 くるりとこちらに背を向けてキュゥべえと共に去るマミを――。
 無言のまま、Dボゥイは見送っていた。


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


 沈む夕日は確かな温もりを与えてくれていた。
 まるで、これが最後だから、とでも言うように。

「…………」

 マミの自宅であるマンションの一室。
 窓から見滝原の街並が一望できるリビングの片隅で、マミは膝を抱えて座っていた。
 
 お洒落なテーブルの上に乗っているのは、これまた可愛らしい、三つの手作りケーキ。
 今日の魔女退治が終わったら、まどか、さやかの三人で食べようと、そう決めていたはずだったのに。
 もう、全ては台無しになってしまった。
 
 ぎゅうっと自分の身体を抱きしめながら、膝をより垂直に立てて縮こまる。
 そうやって無限に小さくなれば、この世から消えてなくなれるのかな、と、そんな愚にもつかないことを考えながら。

「……ダメね、私は。本当にダメ」

 数時間前には弾むように高鳴っていた心は、今は鉛よりも重く。
 滾りに滾らせていた熱い想いが抜け落ちた胸は、ぽっかりとした寒い空虚感に苛まれる。
 フェルトに染み込む水のように、じわじわと心を蝕む後悔に喘ぎを覚え、息苦しさから逃れるように、マミは自分の膝の間に頭を深く埋めた。
 
 孤独だった。寂しかった。
 いつも傍には大切な友達であるキュゥべえが居てくれるのに、私はいつまでも孤独から逃れられずにいる。
 寂しい、とマミは思った。
 一度思い浮かべてしまえば、それは怒涛のように有無を言わせずに他の感情を踏み潰し、押し寄せてくる。
 背筋が凍りつくほどに、心が寂しさに覆われていた。
 
 何度乗り越えようと思っても、何度忘れようと願っても、何度振り切ろうと足掻いても。
 その苦味を伴う塩辛さは、初めから何も変わり映えすることのなく。
 それは哀切を伴うほどに、いっそ笑い出したいくらいに、かつてのままで。

「………ぐすっ。ひぐっ、ふくっ、ふぇぇ」

 身体の奥から溢れてくるものを押し留めるように、スカートに顔を押し付ける。洟を啜る。だめだ、耐えられない。

(父さん……母さん……)

 記憶にある、今は亡き両親の顔を思い出しながら、マミは泣いた。
 頭の奥で、コーヒーカップに放り込んだ角砂糖のように、何かが溶け崩れていく。
 使命、建前、意地、プライド。そんな自分を護ってきた鎧が、バラバラと剥がれては消えていく。
 ……このまま独りでいることが、どうしようもなく怖かった。

「……ねえ、キュゥべえ。私ね」

 呼ぶ。友の名を。

『なんだい?』

 返事は、すぐに帰ってきた。
 ずっと横にいたわけだから、当たり前ではあるのだが。
 
「私ね、みんなを守りたいから、魔法少女としてずっと独りで戦ってきたの」
『うん』
「でもね。一緒に戦ってくれる仲間が、一緒にいてくれる友達が欲しいって思ったのも、本当なの」
『うん。それで?』
「だから、鹿目さんと美樹さんに、魔法少女としての生き方とか、色々教えてあげたいな……って思っていたんだけど」

 ――――仲間が、友人が欲しいというのなら、やるべき事は違うだろう?――――
 
 自分が去る前。Dボゥイが自分に言ってくれた言葉がリフレインする。
 魔法少女とは異なる、圧倒的な異能を持った騎士。
 暁美ほむらと協力関係にある、キュゥべえの、そして自分の敵。
 だけど。
 あの言葉だけは、不思議とマミの胸から離れてくれることはなかった。

「間違ってたの……かな。私」
『残念だけど、僕からはその辺はなんとも言えないな』
「そっか」
 
 返されたのは、彼女にとっては何の影響ももたらさない一般論。
 期待はしていたけど、どこかでこんな答えだと半ば解っていた気もする。
 だが。

『……でも、あのテッカマンには気をつけた方がいいかもしれない』

 続いて告げられた言葉は、マミにとって予想外のものだった。
 頬に残る涙の痕を拭うことも忘れて、マミは顔を上げる。
 
「……Dボゥイさん、を?」
『そうだよ。第一テッカマンは本来人間を守るなんてことするはずがないし、何より彼は暁美ほむらと共に現れたんだ。何か裏があるかもしれないよ』
「……ちょっと待って」
『なんだい?』

 キュゥべえは律儀に自分の話を中断して、小首を傾げながらこちらの顔を覗き込んできた。
 だが、そんなことはマミにはどうでもよかった。
 この白い獣は、たった今、何か致命的なことを言った。

「今の、どういうこと?」
『ん? 暁美ほむらと一緒に現れたことかい?』
「その前」
『テッカマンには気をつけたほうがいい?』
「その間」
『……テッカマンが人を守るはずがない?』
「……それよ」

 それだ。
 そういえば、テッカマンは魔法少女とは異なる存在だとキュゥべえは言っていたが。
 じゃあ、そもそもテッカマンとは何なのだろう。

『ああ、そうか。そういえば言ってなかったね。じゃあその辺について僕の知ることを教えておこうかな』

 言うと、キュゥべえはぴょんとテーブルに飛び乗ってくる。
 ケーキに触れないように位置取りしてくるのは、彼なりの優しさなのだろうか。
 
『ねえ、マミ……』

 こちらをじっと覗き込んでくるキュゥべえ。
 仮に、この獣に表情があったとしたら、得意げにしたり顔、といった顔をしていただろう。
 だが、キュゥべえにそんな「機能」はなく。
 また、マミもそれに気づけるほど「真実」にたどり着いているわけでもなかった。
 そして、キュゥべえは再び思念を放つ。
 
『――"ラダム"って、知ってるかい?』


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 他者への疑惑は己を苛み、己への嫌悪は友への信頼を蝕む。
 ならば少女よ、銃を取れ。
 己の孤独を癒すために。己の恐怖を殺すために。
 だが知るがいい、魔を手繰る少女よ。
 恐怖とは、自らの危機を告げる警鐘でもあるということを。

「え、ええと。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「急がないと、三人が危ないわ!」
「……一体何だっていうの?」
「黒い……テッカマン?」


次回「もう何も怖くない」

仮面の下の涙を拭え。



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