まどか「マスクドライダーシステム?」『それはとっても嬉しいなって(後)/『友達』との再開(前)』

2012年05月12日 20:48

まどか「マスクドライダーシステム?」

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/28(木) 21:00:13.47 ID:gVtyfcgh0

「――矢車、さん?」

ぽかんと大口を開けて驚く加賀美。
マミ以外の面々も、驚きを隠せないでいた。

「ま、マミさんの同居人って……男の人だったんですか……」

「マミさん、年上のこんなイケメンと同棲とは――」

「だからそういうのとは違うって言ったでしょう……」

とは言っても、加賀美以外の二人の驚きは、思春期の女の子相応の色恋への好奇心から来るそれだったようだが。

矢車はその場を軽く見回し人数を確認すると、静かに口を開いた。

「麻婆豆腐は食ったか?」

「まだ頂いてはいないけど……そのうち食べるわ」

「……そうか」

矢車は一言だけ返すと、リビングから出て行った。
すぐに聞こえたのは軽いパタンという音で、それが冷蔵庫を開け閉めする音なのはその場の誰もが経験から推し量れた。

マミはそれを聞くやクスリと笑うと、時計を見やった。
さやかとまどかもそれを追って時計を見やるが、加賀美は未だに矢車が行ったキッチンの方向を見ている。


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「え、あぁもうこんな時間かぁ……そろそろ帰った方がいいかな?」

「それについて、ちょっとお願いがあるんだけど……」

まどかが鞄に手を伸ばそうとするが、マミはそれを遮った。
マミは微笑みながら人差し指を立てて、こう提案する。

「皆さん、今日は夕飯をうちで食べていかない?」

「おお、マジっすか!?」

その提案にすぐに食いついたのはさやかだった。
さやかは膝立ちになるほどにテンションを上げる。

「さ、さやかちゃん落ち着いて……。
 でも、いいんですか? お夕飯にお邪魔しちゃって」

「手作りの飯が食えるのはありがたいけど……いいのか?」

「大丈夫、いつも二人だし……それにあの人、もう人数分作っちゃってるわ」

キッチンからは、炒めものをしている音が聞こえてきていた。
夕飯の準備をしているのだろう。

「矢車さんが夕飯を……なーんか想像できないんだよなあ」

「まあ、あの人も作る時とそうでない時があるし……。
 帰ってこない事も多いから」

結局一度も矢車の料理を口にしていない加賀美は、不安そうな表情で呟く。
その言葉を聞いて、さやかは思い出したように一度キッチンの方を向くと、すぐにマミに向かい直った。

「そうだそうだ! マミさんとあの矢車さんってどんな関係? 加賀美とも知り合いみたいだったけど」

「加賀美『さん』ださやか。
 ……でもそれは俺も気になってたんだよな。 マミちゃんと矢車さんの関係」

加賀美はやっと落ち着いた様子で、足を崩してからマミに問う。

「うーん、ああ、えっと……どう説明したらいいのかしら?」

マミは紅茶を一口飲んでから、再び困ったように笑う。

「ちょっと前に魔女を狩っていた時、ドジっちゃったことがあって……。
 その時に助けてくれたのが『マスクドライダー』に変身した矢車さんだったの。
 それが縁になって、色々あって今みたいな事になってる……って感じかしら」

「ちょっと前って言うと、どの位なんだ?」

マミはカレンダーを軽く見て、指差し確認をしてから答えた。

「丁度一年と四ヶ月前ね。 あの時はワームの騒動があって、色々ごたごたしてた時期だったの。
 皆が不安になってたせいで魔女も活発になってたから、忙しくて……」 

「一年と四ヶ月前か。
 ……と言うとあれから二ヶ月の時か……」

誰にも聞こえないように加賀美が呟く。
ネイティブとの最終決戦から今までは一年半経っているので、矢車はそこから二ヶ月後にマミと出会ったことになる。

「あ、ちょっといいですか?
 あの、さっきから出てくる『マスクドライダー』……? って何ですか?」

「そうそう、その単語の意味が分かんなくってついて行けないんだよ」

「私も詳しくは聞いてないわね。 矢車さんはあんなだし、加賀美さんにお伺いしようかしら」

三人の視線が一斉に加賀美に集まる。
加賀美は複雑な表情で黙りこみ、その場を見回した。

「ん、あ、いや、それは……あの――」

「おい」

「――矢車さん!?」

どう答えようかと悩んでいた加賀美に、思わぬ救いが現れる。
それは、麻婆豆腐を盛った大皿を持っている矢車その人であった。

「……飯だ」

/////

「叶えたい事、かぁ」

「そんなにして悩む必要は無いと思うけどね」

あくる日の朝、まどかは通学路で昨夜の事を思い出しながら呟いた。
その肩にはキュゥべえが乗っており、時折あくびをしながらまどかに語りかける。

キュゥべえの言っていた通り、人とすれ違っても誰もキュゥべえに気づいていない様子で、まどかはより自分の置かれた状況を思い知ることになった。

そのまま歩いて行くと、いつも通りの場所でさやかと仁美が待っている場所が見えてくる。

「おっはよー!」

「おはようございます、鹿目さん」

「おはようまど――うえぇ!?」

まどかが二人に向かって手を振ると、さやかと仁美はそれを返してくれる。
が、ある程度距離が縮まると、さやかは驚きの表情を浮かべた。
まどかの肩に乗っている小動物、キュゥべえの存在にである。

「おはようさやか」

そんなさやかの態度を気にも留めないキュゥべえだったが、やはり仁美はその存在を認識していないようだった。

さやかは足早にまどかに近寄り、耳打ちする。

「……やっぱり、あたし達にしか見えないんだ?」

「そうみたい……」

さやかがきょとんと立っている仁美をちらと見ると、仁美は首を傾げた。

「あ、いやいや何でもないって! さ、行こ行こ!」

そう言ってさやかはごまかし、仁美を押して再び学校に向けて歩き出した。
仁美はやや不思議そうな顔をしながら、さやかに流されるがまま歩いて行く。
しかしすぐさま歩みは止まった。
さやかの頭の中に直接まどかの声が届いてくるのだ。

「(頭で考えただけで、会話とかできるみたいだよ)」

突然の出来事に、さやかは肩をびくんと震わせると、すぐさま振り向いた。
まどかが言っていた――口には出していないが――ように、自分も思考をまどかに向けてみる。

「(嘘!? 私達、もうそんなマジカルな力が?)」

「(いやいや、今はまだ僕が間で中継しているだけさ)」

キュゥべえは内緒話には便利だと言い足し、にっこりと笑った。

「(なーんか、変な感じ……)」

さやかは納得しつつ、再び歩き出した。
当然ながら、この間のやり取りは仁美には聞こえていない。
何事も無かったかのように歩き出す二人に、仁美は不審の眼差しを向けた。

「お二人とも、さっきからどうしたんです?
 しきりに目配せしたりして」

「え、あ、いやぁこれは……」

「んー……」

二人は気まずそうにまた目配せをしながら言い淀む。
その様子を見て何を思ったのか、仁美はバッグを落とし、ワナワナと口を震わせた。

「ま、まさかお二人とも……私の知らない間にそんな間柄に……!?」

「いやそれは流石にねーわ」

突拍子も無い仁美の言葉に、さやかはすぐさま否定の言葉を加えたが、仁美はそれでも妄想を止めようとはしなかった。

「いけませんわお二方……女性同士で……。
 それは禁断の愛ですのよぉぉぉぉ!」

大声で叫びながら、仁美は鞄とドップラー効果だけを残して走り去っていった。

「鞄忘れてるよー……はぁ……」

「まるでいつものお前だな、さやか」

「あ、天道さ、先生」

「学校までは天道さんか天道様でいい。
 あと、学校にペットを連れてくるな」

「いや様は無いわ……」

走り去った仁美と入れ替わりに現れたのは天道であった。
天道は仁美が見えなくなると、まどかに視線を向けた。

その視線の先には、見えないはずのキュゥべえ。

「まどか、まさかその生き物を学校に連れて行くつもりか?」

「あ、はい。 ……って」

「見えてるぅ!?」

「(ま、また僕が見える人に会ったね……びっくりだよ)」

天道がキュゥべえを視認出来ていることに、三者は驚きを隠せない。
逆に天道はそんな三者に、正確に言えばまどかとさやかに怪訝な表情を向けた

「見えない筈が無いだろう。
 ……そういう設定なのか?」

「え、ああまあそういうことですよアハハハハハ……」

「こ、このぬいぐるみの設定なんです……」

しどろもどろになりながらも、二人は必死で繕おうとする。
天道は二人を怪しみながらも納得したようで、ふむ、と頷いた。

「そうか。 ……まあそれくらいなら問題なかろう」

そう言うなり、天道はあろうことかキュゥべえに手を伸ばした。
まどかにそれを避けるほどの反応はできず、それを許してしまう。

「あ、あぁっ……!」

この世の終わりのような声を上げるさやかだったが、それは杞憂に終わった。
キュゥべえは実に上手くぬいぐるみの真似をやってのけたのだ。

あまりに本物に近い(実際に本物なのだが)キュゥべえの感触に多少関心しながら、
天道はキュゥべえをいじくり回す。
その間もぬいぐるみの役を実に上手くやってのけるキュゥべえに、二人は涙を流しそうにすらなった。

「……学校では出すなよ。 流石にかばってはやれんからな」

「は、はい」

まどかがいそいそとキュゥべえを鞄の中にしまう。
天道はそれを見届けると、すぐに歩きだした。
と、しかしすぐに立ち止まる。

「……む」

「わたぁっ!」

天道の真後ろを歩いていたさやかが思い切り天道の背中にぶつかり、すぐに非難の眼差しを向けた。

しかし天道はそれには全く反応せず、ただ後ろに振り向いただけだった。
その目はさやかには向けられていない。
その目線の先には、何も無いように思われた。

「あ、あの、天道さん?」

さやかがおずおずと天道に声をかけた。

「……お前達、先に学校に行っていろ」

「それってどういうこと――」

「俺は今日少し遅れるかもしれん。 
 そう伝えておけ」

そう言うと、天道はすぐに道を逆行した。

「て、天道さん! サボりはダメだよぉ!」

「ま、待ってまどか! もう時間、時間!」

まどかはそれを止めようと走りだそうとするが、時間がそれを許さない。
余裕が無いわけでは無いが、天道を追いかけるだけの時間は残っていない。
結局まどかは方向転換してから必死に走ることになった。

「お、お前らおはよ――」

「ご、ごめん加賀美! 今急いでるから!」

「ごめんなさい加賀美さん!」

「お、おお……頑張ってこいよー」

通りがかった加賀美も、二人の急ぎように目を白黒させた。

二人を見送ると、加賀美は再び自転車を漕ぎ出した。

そう、天道の歩く道と同じ道を。



一方、天道はというと――

「……そろそろ出てきたらどうだ」

ある程度歩くと天道は立ち止まり、そう声を上げた。
人気の無い通学路。
天道の正面に、一人の男が踊り出る。

その男の名は、風間大介。

「……お前か、風間」

「ええ、お久しぶりですね。 相変わらず小憎らしい顔をしていて安心しましたよ」

嫌味を言う軽口。
しかしその表情は真剣で緊張感に満ち満ちていた。
天道はその表情から何かを感じ取ると、小さく笑いながらゆっくりと風間を見据える。

「どうやら再開を喜ぶ時間は無いようだな。
 ……何の用だ」

「……簡単な事です。 僕が君をわざわざ尋ねる理由なんて一つしかない」

そういうと、風間は素早く『何か』を取り出した。
それは正しく、銃のグリップ部。
天道はすぐさま身構え、カブトゼクターを呼び出す。
同時に飛来するのは、水色の機械トンボ――ドレイクゼクター。

ドレイクゼクターは、風間の頭上周囲をゆっくりと飛んでいる。

「……何があったんだ、風間」

「色々あるんですよ、僕にもね」

天道の手にカブトゼクターが滑りこみ、素早くベルトのバックルに装着される。
同時に、風間がかざしたグリップにドレイクゼクターが着地した。

「変身!」

二人が発声する。

それに応えるように、双方から電子音声が鳴り響いた。


『――Henshin――』


/////


――――「で、結局何なのさ? 『マスクドライダー』ってのは。
     ……お、ありがとさんです」

「い、いやあまあそれは……あ、どうも」

矢車が麻婆豆腐を取り分けるのを受け取りながら、相変わらず加賀美は困っていた。

こんな少女達に真実を話してしまっていいものだろうかと、加賀美は考える。

何しろ重すぎる。

加賀美新という人間が経験した一連の戦いは、彼自身を大きく成長させた反面、多くの悲劇を生んだからだ。
語り部が天道であるならば、それこそ偉大な英雄物語のように話せるのだろうが、そうするにはいかんせん加賀美は『等身大』過ぎた。

加賀美自身、あの戦いの中には未だに納得の行かないものが多い。
友人の死や無駄な対立、巨大な陰謀。
特に陰謀については、その全てが潰えたとは未だに思えない。

把握出来ていない事柄が多すぎる。

なにしろ加賀美は脳筋だったのだから。

そしてその中でも取り分け大きく、彼の心に引っかかっていた気がかり――
それは、今正に自分の分の麻婆豆腐を取り分けている目の前の男だった。

『マスクドライダー』という存在だけを簡潔に説明するのも彼には難しい。
父に電話でもすればわかるかも知れない、しかし余計な心配は掛けたくない。
何より、確実にこの男、矢車想の話も必要になって来る。

この男については本当に分からない。
そもそもキックホッパー自体、加賀美にとっては謎だらけの存在なのだから。

敵か味方かも分からないレベル。
きっと敵では無いのではあろうが。

加賀美は麻婆豆腐を見つめながら、思考を巡らせる。

ふと顔を上げると、他の全員が麻婆豆腐に舌鼓を打っていた。
思えばこの麻婆豆腐は美味そうである。

流石に焦ってこれを一口一杯に頬張ってみる。
ゆっくりと噛み締め、飲み込む。

「……美味い」

思わずそう声が漏れる。
それほどの絶品料理であった。

それから数分、加賀美はただひたすら麻婆豆腐を掻き込み続けた。

/////

夕食を終え、そそくさとリビングから出て行く矢車を見送ってから、さやか達は再びマミからの説明を受けていた。

「あの転校生も、えっと……その……魔法少女、なの? マミさんと同じ……」

さやかがそう質問すると、マミは多少声のトーンを下げた。
さやかはそうでも無いようだが、まどかは不安そうなな表情でその答えを待った。

「そうね、間違いないわ。 かなり強い力を持った魔法少女みたい」

「でもそれなら、魔女をやっつける正義の味方なんだよね?
 それが何で、急にまどかを襲ったりしたわけ?」

「彼女が狙ってたのは僕だよ」

答えたのはマミではなくキュゥべえ。
キュゥべえは寝そべっている体制から座り直すと、軽く首を傾げながら続けた。

「新しい魔法少女が生まれるのを、阻止しようとしてたんだろうね」

さやかが、明らかな疑念を表情に浮かべた。
まどかも同じように、キュゥべえを見つめ、加賀美は神妙な面持ちで話を聞いていた。

「なんで? ……同じ敵と戦うなら、仲間は多い方が良いんじゃないの?」

その言葉に、マミは大きな溜め息を吐き、憂いの表情を浮かべる。
その目は伏せられ、紅茶の水面を見つめていた。

「それがそうも行かなくってね……むしろ、競争になる方が多いくらい」

「そんな……どうして……?」

そう言うと、まどかはすがる様に加賀美に顔を向けた。
加賀美はそんなまどかの視線に気付くと、ゆっくりと首を横に振る。
マミは一瞬そんな加賀美を見てから、話を続けていく。

「魔女を倒せば、それなりの見返りがあるの。
 だから、時と場合によっては手柄の取り合いになることもあるのよ」

「……わかるよ、そういうの」

しばらく沈黙を守っていた加賀美が、遂に声を上げる。

加賀美は自分に視線が集まっていることを感じながら、決意を持って顔を上げた。

「例え同じ使命があったとしてもさ、皆考えてる事って違うだろ。
 だから、ぶつかり合うこともあるさ」

「でも……」

まどかが、縋るように加賀美を見つめた。
その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。

「俺達ライ――警察官もさ、あったからな……そういうこと」

普段の彼からは想像もできない様な、重く悲しげな声。
その場の少女達は、彼の言葉に、ただただ押し黙るしか無かった。

「……ん?」

しかし、そんなつもりが加賀美には無かったのも事実である。
加賀美は周りの状況を察すると、慌てて明るく声を掛けた。

「あ、ああいやいや! 俺達、結局分かり合えたからさ!
 マミちゃん達だって大丈夫だって! そう言いたかっただけだから!」

加賀美が場の雰囲気を元に戻そうと、必死に声を上げる。

「そ、そういえば美味かったな~あの麻婆豆腐!
 ありゃ絶品だ! まどかもそう思うだろ? な?」

「え、ああ、はい……?」

「いやそうじゃなくて……あぁそういえば矢車さんはどこに行ったのかな~!
 気になるな~!」

「さ、さぁ……?」

「う、う、うおおおおおおおおおお! 空気が重いんだよおおおおおおお!
 俺か? 俺が悪いのか!? そうか俺か! すまん、すまんからそんな顔しないでくれ!」

平謝りすら始めた加賀美。
まどかやマミはそれに圧倒されながらも、それでもその顔からは先のような重苦しい表情は拭い去られていた。

頭をブンブンと振りながら、もはや謝っているのか怒っているのかすら分からない加賀美に、最初に笑顔を向けたのはさやかだった。

「……あはは」

小さく、呆れたように笑い声を上げる。
その真意を知ってか知らずか、加賀美は歌舞伎役者のような顔でさやかに視線を向けた。

「んん?」

「いーや? 加賀美はやっぱり加賀美だなぁ、って」

ね、とさやかが二人に問うと、他の二人も微笑みを浮かべて頷いた。
三人の表情には、もう重い物は無い。

「うん。 加賀美さんは加賀美さんだね」

「ええ、分かりやすい人ね」

「お、お前らな――」

「うん……でも、分かりました」

マミは、ゆっくりと紅茶を口に運ぶと、大きく息を吸った。

静かにティーカップを置き、もう一度頷く。

「……私も、少し頑張ってみます。 あの子と私が、戦う事にならないように」

「マミちゃん……! そう! そうだ! そうだそれがいい! 俺も全力で応援する!」

加賀美は勢い良く立ち上がり、マミに詰め寄るとその手を取る。

「頑張ろうぜ!」

握手しながら、二人の手がぶんぶんと縦に動く。
マミは苦笑いして半身下がりながらも、その手を振り払ったりしない。
さやかとまどかも、それを見て楽しそうに笑っていた。

しかし、何事もそう上手くは行かないもので。

「水をさすようで悪いんだけどね」

キュゥべえの、透き通るような声が場を静めた。

「無理だと思うな、それは」
 
「……え?」

場が一瞬にして凍りつく。
皆一様に理解が追いつかず、ただただ目を見開いて動きを止める。

「お、おいおいちょっと待てよ……なんだよ、どういうことだよ……?」

一番最初に動き出したのは加賀美だった。
マミの手から手を離し、そのままキュゥべえに手を伸ばす。
しかしキュゥべえは、上手く身を翻してその手を避けた。

キュゥべえはまどかの肩に飛び乗り、話を再開した。

「力の差が大きすぎるのさ。
 マミの力に暁美ほむらはついて行けない筈だよ」

「どうして? ……彼女もかなり大きな力を持っている、そう言ったのはあなたよ」

嘘を吐かれたと思ったのか、マミは多少強い口調でキュゥべえに問いかけた。
しかしキュゥべえは動じるわけでも無く、あくまで無感情にそれに答える。

「確かに言ったね。 でもそれはあくまで普通の魔法少女としては、という事だよ」

「普通の、ってどういうことさ?」

さやかが発するのは当然の疑問であった。
それは当のマミも同じであり、ある意味最も今の言葉に疑問を覚えているのも彼女である。

「私と彼女では何か違うの? キュゥべえ」

「何か、というよりもね……何もかもが違うよ。
 そもそも彼女の存在は異質だ。 普通、魔法少女になる子は
 僕と契約して魔法少女になるんだけど……」

「あの子は違うのか?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。
 だからこそ僕は彼女を信頼できない」

「訳分かんないよそれ……でも、もしマミさんと転校生が戦ったら――」

「考えるまでも無い。 マミが彼女に圧勝するね」 

加賀美達も、マミの力ははっきりと目撃している。
その為、それを直接否定する事もできない。

しかしほむらの力が未知数なのもまた事実であった。

「待てよ……お前は知ってるのか、あの子の実力」

「はっきりとは見てないけど……大体は察しがつくな。
 さっきも言った通り、彼女は強い力を持ってはいるよ? でも、それでもマミの足元にも及ばない。
 才能からしてマミは凄まじかったからね」

キュゥべえが言うには、マミの持つ魔法少女としての実力は、加賀美達の見たそれを遥かに上回るという。

ライダーシステムに頼らずにそれだけの力を、しかもこんな少女が発揮する。
加賀美はその事に背筋を凍らせた。

「じゃ、じゃあマミさんが手加減すれば……」

「手加減すれば今度はマミがやられるかも知れないよ?
 魔法少女同士、何が起こるかは分からないんだから。
 それとも、ただ仲良くする為にマミが命を張るのかい?」

キュゥべえが言葉を発するたび、少女達はその顔を諦めに染めていく。

キュゥべえはそれを後押しするように、彼女達に現実を叩きつけ続けた。

加賀美は言葉より行動を選ぶ男である。
故にキュゥべえの言葉に論理的な反論はできない。

加賀美は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
そして震えるまどかの肩に手を乗せ、優しく声を掛ける。

「……大丈夫だ、まどか、さやか……マミちゃん」

「加賀美さん?」

そして今度は強く、毅然とした声で宣言する。

「そんなことは、絶対にさせない。 俺が止めてみせる。
 ……それでいいだろ」

言葉で言い表せることができないからこそ、短い言葉で。
それは、何度も自分と向き合ってきた加賀美だからこそ可能な事。

キュゥべえは尾の動きを止め、今度はテーブルの上に陣取る。

「僕は構わないけどね」

そう短く告げると、キュゥべえはテーブルから降り、リビングから出て行った。

すぐさまさやかが加賀美に手を伸ばす。

「ねえ加賀美――」

「すまん、ああ言うしか無かった。 
 でも本当だ、信じてくれ」

「……うん」

先ほどと同じ、重い物を感じさせる加賀美の声。
さやかは、ただ言われる通りに黙るしか無かった。

それから数刻は、無言の時となった。
誰も一言も発さない。
少女達は複雑な表情を作り、俯いている。

厳しい現実と、加賀美の言葉。
加賀美の発した言葉が嘘ではないことは分かっても、ただそれができるのかが分からない。
笑顔になればいいのか、泣けばいいのか、怒ればいいのか。
どうすることが正しいのかが、判断出来ないでいた。

一方加賀美は、何か考え事をしている様に口に手を当てていた。
しかし、少女達の表情に気づくと、すぐに顔を切り替える。

「……そんな顔すんな。 大丈夫だからよ!
 ……き、今日の所はもう解散だ! もう時間も時間だしな」

時計の針はもう大分進んでいた。
中学生にはかなり遅い時間である。

しかしさやかは納得が行っていない様子で、口をすぼめた。

「んー……帰っちゃっていいのこれ?」

それはマミやまどかも同じだったようで、同調するように二人で頷いた。

だが加賀美もこれで警察官の端くれ。
少女を遅い時間まで帰宅させない訳にも行かない。

「それはまた今度だ。 さ、俺が送って行くから準備しろ」

こうして、加賀美達三人は、マミ宅から帰宅することになった。
まどかは納得したようだったが、さやかはまだ少し不満げな表情を浮かべていた。

そして数刻経ち――

「じゃあな、また明日」

「はい、ありがとうございました」

さやかを送り終え、加賀美はまどかの家の前までまどかを送り終える所だった。
まどかが扉を開け、家に入るのを確認すると、加賀美も帰路に着こうと方向を変える。
が、加賀美が自転車に跨った所で、少女の声が彼を引き止めた。

「加賀美新」

「ん? ……お前は……」

加賀美が振り向いて確認すると、そこにいたのは黒髪の少女――暁美ほむらだった。
これは好機とばかりに、加賀美は彼女に明るく話しかけた。

「奇遇だなあ! そうだ、俺が家まで送って――」

「聞きたいことがある」

加賀美とは対照的に、ほむらは冷たい声で彼の声を遮った。
無表情に、抑揚の少ない声で彼に問いかける。

「『黒崎一誠』」

一言、ほむらはただそう言った。
加賀美は顔をしかめて問い返す。

「くろさき……?」

「聞き覚えは?」

「……無い、けど」

加賀美にとっては聞き覚えの無い名。
黒崎一誠。
それは、今の彼が知り得るはずのない名。

「人探しか? なら、その人の特徴とか、顔写真とか――」

「結構よ。
 恐らく『ここ』には居ないから」

「は? え? あ、ちょっと待っ――」

それだけを聞くと、ほむらはそこから姿を消した。
その場から消滅するように、瞬間的に消えた。

加賀美は彼女の持つ力に驚きながらも、その名を頭の中で探していた。

「黒崎……黒崎……やっぱ知らないな」

そう呟くと、気を取り直して自転車を漕ぎかけるが、また彼は呼び止められた。

「おい新!」

「鹿目さん?」

ほむらとは違い快活な声で呼ぶのは、まどかの母だった。
まどかの母は加賀美に向かって手招きをしている。
それに従って加賀美は自転車を降り、ドアの前まで歩いて行った。

「こんばんは。 どうしたんです?」

「おおこんばんは。 まどか、送ってくれたんだってね。 ありがとな」

「当然の事をしただけっすから」

当たり障りの無い会話をしながら、加賀美は疑問を浮かべていた。
わざわざ呼び止めながら、こんな会話だけな筈が無い、と。
その予感は当たっており、まどかの母は数分経ってやっと本題を切り出した。

「ちょっとウチに寄ってきなよ」

「……はあ。 でももう時間が」

「今来てる客人がさ、加賀美の名前聞いたら『呼んで欲しい』って言ってね」

「俺を……?」

まどかの母も、若干困ったような表情を浮かべた。
加賀美はそれ以上に頭上に疑問符を浮かべていた。

「だからさ、頼むよ」

両手を合わせて頼み込んでくるまどかの母に、加賀美はすぐに折れた。

「まあ、そういう事なら……」

「すまないね、こんなこと言って」

そう言うと、加賀美はまどかの母に案内され、家の中へと入っていった、

「ほら、連れてきたよ」

リビングへ着くと、そこには三人の人物が椅子に座っていた。
そのメンバーを確認すると、二人ほど彼にとって見覚えのある顔がある。

加賀美は驚きの表情を浮かべ、叫んだ。

「岬さんに……天道おおおおおお!?」



――話は現在に戻る。

まどかとさやかは学校へ着くと、まず仁美の席に向かい弁解を済ませ、すぐに自らの席についた。
テレパシーが使える以上、お互いが近くに居る必要は無いからだ。

キュゥべえはまどかの机の上に座っている。

二人と一匹は、テレパシーで会話をしていく。

「(つーかさ……あんた、ノコノコ学校までついてきて良かったの?
  昨日のあいつ、このクラスの転入生なんだよ?)」

「(むしろ学校の方が安全だと思うな。
  マミだって居るし)」

「(マミさんは三年生だから、教室は遠いよ?)」

「(ご心配なく。 話はちゃんと聞こえているわ)」

突然の声に動揺するまどかとさやかだったが、その主がマミだと知ると、
得心が行ったように溜め息を吐いた。

テレパシーの仕組みの中では、ある程度の距離は物ともしないらしい。

三人と一匹は適当に挨拶を済ませてから、
その場には居ないマミも交えて会話を進めていく。

「(ちゃんと見守ってるから安心して。 それに、あの子も人前では襲ってこないでしょうし)」

当然議題にあがるのは件の少女、暁美ほむら。

「(なら、いいんだけど……。 そういえばあの後あいつ、結局魔女を倒したのかな?)」

「(矢車さんによると、あの後すぐに彼女を見失ってしまったようね。
  矢車さんが見失うって滅多に無いんだけれど……。
  ライダーは魔女を探すことが出来ないから、そのまま家まで帰ってきたのよ)」

「(ほむらちゃん、一体どうしたんだろ……)」

「(さぁね。 アイツの考えることはわかんないよ。
  ……ってうわ……噂をすれば影、だね)」

教室の扉を見やると、そこには丁度登校してきたほむらが居た。
さすがにほむらにはこの会話が聞かれていないことにほっと胸を撫で下ろし、
さやかはさらに続けた。

「(……でも、いつまでもいがみ合ってるのもアレだしね……。
  加賀美の言ってたようにさ、仲良くするのが理想ってことだし)」


そう言うと、さやかは昨日の出来事を思い出す。

加賀美は彼女達の問題に、実に親身になってくれていた。
彼が一生懸命なのは今回の事だけではない。
彼は一警察官として、困っている住民を助けることに全力で取り組んでいた。

飼い犬が居なくなれば日が暮れても探し続け、
喧嘩が始まれば殴られ役になってでも止める。

小学生や幼稚園児からの相談にも全力で取り組み、
徹夜してでも自分の答えを見つけ出す。

そんな普段の彼を知る者は、彼に不信感を抱く事が一切無い。
さやかやまどかも、勿論その一員だった。

「(……ま、それは後で考えよっか。 加賀美も一緒にさ)」

まどかがふとほむらを見ると、ほむらは真っ直ぐにまどかを見つめていた。
まどかはキュゥべえを強く抱きしめ、その視線に返す。

――と、ここで校内にチャイムが響き渡った。
周りの生徒達が一斉に着席するのを横目に見ながら、まどかはキュゥべえをバッグに乗せる。

授業の準備を進めながら、まどかはこれからの事に思いを馳せた。

/////

「――そして、ここでおばあちゃんはこう言った訳だ『もういっそ、どっちも作ったら?』とな」

「(これ、ノート取った方が良いのかな……?)」

天道の授業――国語の筈がいつのまにか『おばあちゃん学』に変わっていたもの――を聞きながら、
まどかはさやかに視線を向けた。

さやかはついさっきまで頑張っていたが、遂に睡魔に負けてしまったようで、その目を
完全に閉じている。

「これはつまりおばあちゃんの寛大さと、『二兎を追うものは二兎とも捕まえろ』という考えの深さが
 垣間見え――ほう」

天道はそれにいち早く気付くと、すぐさまさやかに向けてチョークを投擲した。

「あたっ!」

チョークは寸分の狂い無くさやかの眉間へと飛び込み、小気味良い音を立てて落下する。

「この俺の授業で寝るとはいい度胸だ。
 よし、お前には特別に俺の目の前で授業を受ける権利をやろう」

天道はそう言うと、教卓の目の前に机を準備した。
天道がその机とコンコンと指で叩くと、さやかは渋々その席へと移動する。

こういった事は天道の授業ではもはや恒例の出来事となっていた。

まどかはそんなさやかから視線を外すと、自分の机の上に視線を戻した。

そこには、たくさんの絵が書いてあるノートが。
その絵は全て、まどかによる魔法少女の衣装デザインだった。

まどかのノートの中で、魔法少女達は、跳ねていたり、笑っていたり。
それは、まどかの望む『魔法少女』の形であった。



――余談だが、天道は調理実習の時間も完全に私物化していたようだ――



/////

午前中の授業が終わると、さやかはまどかを連れて屋上へとやってきた。
手には弁当と、肩にキュゥべえ。

適当な場所に陣取り、ベンチに腰掛けると、二人で弁当を食べ始める。
雑談を交わしながら、キュゥべえに弁当を分けつつ食べていく。


昼食を食べ終わり弁当を片付けた後、さやかは大きく伸びをし、話題を切り替えた。


「ねえ、まどか……願い事、何か考えた?」

まどかは首を横に振りながら、キュゥべえの背を撫でる。

「さやかちゃんは?」

「私も全然。 ……あーあ、いっくらでも思いつくと思ったんだけどなー……」

さやかは立ち上がると、金網へと向かう。

「思いつくっちゃあ思いつくんだけど……命を賭けてまでって所で、
 やっぱりひっかかっちゃうよね……『そうまですることじゃ無いよねー』ってさ」

金に困ったことも無い、何かを渇望したことも無い。
それはとても幸せなことだと、さやかも理解はしていた。

「以外だな……大抵の子は二つ返事なんだけど」

「きっと、私達が馬鹿なんだよ。 幸せ馬鹿」

さやかは目線を街並みへと向けると、物憂げに金網を握りしめた。

「別にめずらしい事でも無いはずだよ……命を引き換えにしてでも、
 叶えたい望みがある……って」

「そう、かな……?」

「一杯居るはずだよ、そういう物を抱えた人ってさ」

さやかの脳裏に、ある情景が流れる。
病室のベッドに佇む、一人の少年――

「っ……!」

金網に触れる手に力が入る。 金網はその力を受けて軋み、独特の金属音を上げた。

「だから、それが見つからない私達って、その程度の不幸しか知らないって事じゃん……!」

さやかの表情が歪む。
見下ろす街の人々の中で、何故自分だけがこのチャンスを得たのだろうか。
傍目から見れば類稀なる幸運でしか無いそれは、彼女にとっては大きな不条理だった。

「恵まれ過ぎて、馬鹿になってるんだよ」

さやかは振り返り、まどかとキュゥべえに問いかける。

「不公平だと思わない? こういうチャンス、本当に欲しいと思ってる人は他にいる筈なのに……!」

「さやかちゃん……」

まどかは
さやかのその言葉が何を意味しているのか、誰を思って言っているのか、それは簡単に推測できた。

だからこそ、何も言うことができない。 口出しなどできようはずもない。
まどかは何も言えずに黙りこむ。


――そこに、第三者の介入が起こった。


足音が聞こえてくるよりも早く、二人の耳に聞き覚えのある声が響いてくる。

「例えば、だ――」

二人の意識がはっと出入口に向く。
現れるのは、一人の男。

「何でも願いが叶うとしても、俺は何も頼まない」

その男は、ゆっくりと二人に近づく。
足音もならないようなゆっくりとした足取り。

「俺の願いは、俺自身が掴み取ることで、初めて意味を成すからだ」

その男は、独特な語り口を見せながら、二人の元へ辿り着いた。

「……ついさっき話の成り行きを把握した。 我ながら遅すぎたとも思うが、な」



天道は風間の説明により、大体の状況を理解していた。

魔法少女が願いを叶えてから変身できるようになる存在であること。
魔法少女になるのは、一般に女子中学生であること。
魔法少女は魔女と一生戦う宿命の中にあること。



「しかしまさか……その候補がこんなにも身近にいるとはな」

まずさやか。 これは話の流れから確定した。
そしてまどかは――
天道がゆっくりと視線を向けると、まどかは暗い表情を浮かべ、俯いた。

その反応が意味する所は、一つしか無い。

「……まさか、お前もなのか、まどか」

天道はまどかに直接問いかけた。

まどかは困ったように視線を右往左往させ、やがてゆっくりと首を縦に振った。

「……そうか」

天道は状況を整理し、思考を一巡させると、静かに口を開く。

「簡潔に言おう――」

「やめておけ」

天道ははっきりと、それでいてゆっくりと告げた。
その言葉には注意や警告ではない、はっきりとした『命令』のような響きがある。

「……どうしてさ」

さやかはやっと金網際から身を離し、足早に天道へと駆け寄った。
その勢いにまどかも驚き立ち上がるも、それは天道に制される。

天道はしかし動じる気配も見せず、さやかに視線を向けるでも無く、ただ静かに答える。

「必要が無いからだ。 ……いや、正確には『無くなった』と言った方が正しい」

「……は?」

「……え?」

二人はいきなりのお役御免宣言に、呆けた声を上げた。

天道の正体など知る由もない二人にとって、これはまさに眉唾物の話。

一寸の静止時間を置いた後、さやかは怪訝そうな顔で問い返す。

「ちょっと、それ……どういう事ですか?」

「お前達が知る必要の無い事だな」

無表情に返される言葉の中に、二人はどうしても冷たさの様なものを感じてしまう。

「だ、だから、それじゃあ意味が分からないんですってば!」

有無を言わさぬ天道の口振りに圧倒されながらも、
さやかは納得の行かない言葉に喰らいついた。

「お前は『無関係』の人間だ。 よって知る権利を持たない」

感情の読めない瞳は、さやかを眼中に入れようともしない。
突き放すような天道の言動に、さやかも眉を釣り上げる。
さやかの中にある一つの感傷のような心情に、天道が土足で踏み入ったかのように思えた。

さやかは一言二言天道に投げかけるが、当の天道は口を開こうとはしない。

「なんとか言って下さい! そんな事で終わりって……そんなの!」


――と、天道は不意に入り口に振り向いた。

その視線の先に居るのは一人の少女。

「……暁美」

天道が僅かに目を見開く。
ほむらはそんな天道に向かって早く大きめの足音をたてながら近づいた。

「……チッ!」

ほむらは天道を憎々しげに見やると、隠そうともせずに舌打ちする。
天道は一瞬目を細め、すぐに平常の表情に戻った。

一方さやかは、ほむらから守るようにまどかの前に立ち、すぐさまほむらに声を掛けた。

「な、なんの用だよ」

さやかの声にほむらが反応し、その目を二人に――否、まどかに向けた。
値踏みするような目で数秒彼女を見やると、ほむらはやっと答える。

「……昨日の話、覚えてる?」

まどかはその問いに、おずおずと縦に首を振った。

「ならいいわ。 忠告が無駄にならないことを、祈ってる」

ほむらはただ一言残し、踵を返した。

「ま、待って!」

去って行くほむらをまどかが引き止めた。
ほむらは立ち止まらない。

まどかはそれでも、お構いなしに言葉を続けた。

「あなたは、どんな願い事をして魔法少女になったの?」

びくり、とほむらの背が震える。
反射的に振り向いたほむらの表情からは、何も察することができない。
それも束の間、ほむらはまたすぐに歩き出した。

今度はもう止める者はいない。


屋上での出来事は、ここで終わりを告げた――


/////

屋上での出来事から数時間後
          ――見滝原某所――

放課後になり、さやかとまどかはすぐに教室を出、校門前でマミと合流した。
共に帰宅できないと言った時の仁美がした反応に困ったり、マミを友人達からひっペがしたり
するのに時間がかかり、集合場所のカフェに着いた頃には既に日が傾き始めていた。

「えーっと……加賀美あと30分くらいかかるってさ」

店員に案内された席に座りながら、さやかは加賀美からのメールの内容を告げる。
店員にオーダーを伝えると、まどかは周囲を見回し、小さく溜め息を吐いた。

「それにしても、いい雰囲気のお店だね、ここ」

「ほんとほんと! 加賀美が紹介した店なもんだから、ラーメン屋か何かだと思ってたけど……
 こんなオシャレな店とは思ってなかったよ」

「それは名前で気付こうよ……」

「綺麗だし、結構アットホームな感じがするわね。
 名前だけは知ってたけど、入ったのは初めてだわ」

「ディスカビル・コーポレーションだっけ? このチェーン系列」

「そうそう、最近よく雑誌とかTVで特集されててさぁ、結構気になってたんだよねえ。
 入ってみたいんだけど、中学生だけじゃ入りづらいっていうか……」

「気になってたなら尚更早く気付こうよ……」

「そこはほら、加賀美補正っていうか……恐るべし加賀美」

他愛もない会話をしながら、注文したケーキと遅れている加賀美の到着を待つ一行。
こうしている間にも、夕焼け空はどんどんと暗みがかっていく。

「ん、そろそろ30分経つわね」

ケーキも全て平らげ、マミは時計を見ながら呟く。

「――ごめん! すっげえ遅れた!」

と、やっとここで加賀美が到着した。
相当急いで来たようで、制服のまま、息切れは激しく、汗だくになってしまっている。

マミが加賀美を促し、加賀美はひとまず席に着く。

「麦ち――エスプレッソで」

加賀美も加え、話はいよいよ本題へと入る。

「さて、それでは魔法少女体験コース第一弾! 張り切って行きましょうか」

マミが音頭を取り、一同は大きく頷く。
それを見回すと、マミは満足気に頷き、微笑みを浮かべた。

「準備はいいかしら?」

「準備になってるかは分からないけど……持ってきました」

さやかは自慢気にある物を取り出した。
包みを開けると、そこには金属バット。

「何も無いよりは、ましかと思ってさ!」

「バットを武器に、か。 俺としてはやめてほしいんだが……まあ仕方ないか」

やはり野球道具を武器にするには抵抗があるのか、加賀美は複雑そうな表情を浮かべる。
まどかやマミも苦笑いだ。

「わ、私は……」

まどかは恥ずかしそうに、一冊のノートを取り出し、テーブルの上に開いた。
そのノートに描いてあったのは、ファンシーな服を着た少女達。
ところどころに描いてある武器から、それが魔法少女なのだと推察できる。

「一応、衣装だけでもと思って……」

それを見た一同は、一瞬静止し――

「……まどか、それはちょっと恥ずかしいぞ」

ぼそり、と一言。

一間置き、さやかの笑い声。



――「ふぅ……あんたには負けるわ」

「ひどいよ皆……」

ひと通り笑われ、まどかは顔を真っ赤にして俯いていた。
ノートはとうに閉じられ、バッグの中にしまい込まれてしまっている。

「あと、は……」

「加賀美さんは、何か持ってきました?」

「……俺は」

加賀美は、そっと腰の辺りを撫でる。
制服に隠れて見えないが、そこには金属のベルト。

加賀美は、既に戦闘の準備を終えていた。


「うん。 それじゃ、行きましょう」

マミが立ち上がる。

「はい」

「おおっ!」

さやかとまどかも。

「――ああ」

そして、加賀美も。


/////


仮面ライダーカブト!

これが魔女……でっけぇ――

なんか、かっこいい――

て、ティロ、何だってぇ?――

綺麗な人――

初めまして、私は岬祐月――


次回『上條家とディスカビル家』


天の道を往き、総てを司る!



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