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仮面ライダーW 魔法少女のM/探偵のララバイ/10

2011年08月20日 20:02

仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」

436 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/05/03(火) 01:57:54.79 ID:v5fLK6XV0

/10

「――検索終了。さあ、今回の事件もほとんど見えた。ここから脱出しようじゃないか」

「本当かよ、フィリップ。でも、どうやって、ここから逃げ出すんだよ」

「そうよ、フィリップくん。翔太郎くんの両手はもうブリの照り焼き状態よ!」

「あのさ、アンタらここから逃げ出すのはともかく、そんなデカイ声で思いっきり相談するのはやめねーか? 
あそこの、看守に思いっきり聞かれてるぜ」

「アンタの声も、充分大きいけどね」

「心配しなくていい。策はこちらにある。みんな、僕の周りに集まってくれ」

「おーい、聞こえてるかーい。アタシの話」

「ホラホラ、さやかちゃんも、もっとこっちにつめて。翔太郎くん! 顔近すぎ! 離れて、そっち」

「亜樹子、お前が仕切るんじゃねーよ。あだっ!」

「おい、大丈夫かよ。ちょっと、手、見せてみな。
あーあー、こんな無茶苦茶な巻き方したら、治るもんも治らねーよ。まったく、さやかは不器用だねぇ」

「――なっ! うるっさいわね! だったら、あんたがやってみなさいよ」

「ふーん、ふん、ふふーん。ちょちょいの、チョイ、と。完成」

「おおー」

「あら、すごいじゃない。杏子ちゃん。ま、元はといえば、翔太郎くんの自業自得なんだけどねー」

「んだとぉー!」

「……なによ、なに見てるのよ。なに勝ち誇ってるの?」

「別にぃ?」

「ああ、もお。喧嘩はしないでよ、二人とも!」

「みんな、僕の話を聞く気ないのかい」

「オーケイ、フィリップ。聞こうじゃないか、その作戦ってやつをな」


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 意識が、薄い膜を剥ぐようにして徐々に、クリアになっていく。

「う、うううっ」

 巴マミは、割れ鐘のようにズンズン低音ビートで鳴り響く頭を揺すって、冷たい床から、傷ついた身体を起こした。

 また、ひとりぼっちになってしまった。

 結局のところ、彼女はキュウべぇというワケのわからない生物に散々奉仕した挙句、
使い倒した古雑巾のように余す所なくボロボロにされ捨てられたのだった。

 マミは、財団Xの下っ端隊員にゴミのように引きずられた後、丁度空いていた部屋に押し込められた。

 彼女の瞳からは、生気というものがまったく失われており、口元や下穿きは、吐寫物や排尿で薄汚れていた。

 マミの身体は、同じ年齢の少女にしてはかなり発達していた方であった。

 このような場合に犯罪結社の隊員があたりまえのように行う暴力行為は、幸か不幸か彼女を連行していった男がガチロリの為まるで興味を示さず、 「この腐肉がっ!」という侮蔑の言葉と、んべっと顔に向かって吐き捨てられた痰程度の軽微なものに留められた。

「ふぇ、ふえええっ」

 マミは、いつものように寂しくひとり泣き叫ぶが、かといって誰かが優しく迎えに来てくれるワケでもなく、
ただ体力を無駄に消耗するに終わった。

「うぇえええっ」

 ちらり、と後輩である、鹿目まどかや美樹さやかが救出に来てくれる、夢想を脳裏に浮かべ、すぐさま打ち消した。

 そんな都合のよいことなどありえない。

 それどころか、キュウべぇの言葉に従って騙まし討ちのような形で身柄を拘束してしまった、彼女たちに恨まれている可能性が高い。

 マミは、すんすん鼻を鳴らしながら、部屋のドアノブに近づいて、それを回してみる。

 当然ながら施錠されており、脱出することは出来ない。

「うぇえええええん」

 彼女は、泣きながら元の位置に戻ると、足を抱えるようにして座り込むと、めそめそと泣き始めた。

 魔法少女に変身することも出来ない。
 そもそも、変身したところで自分以外の何かに立ち向かう勇気など出るはずもなかった。

「もおいい。私なんか、あの時死ねばよかったのよ」

 マミが全てを投げ出そうとして、いかに苦しまずに死ねばいいか、等と自問自答を脳内ではじめようとした、
その時、目の前の扉から、何かを叩きつけるような轟音が響いた。

 どおん、とその扉は、聞く人間の脳味噌を穿り返すような深いな音を立てると、やがて、紙細工のように蝶番を吹き飛ばし、きいと押し開かれた。

「こんなところにいたのか」

 翔太郎は財団Xに監禁されていた、巴マミを発見すると深くため息をついた。

 牢屋から脱出する際に行ったフィリップの作戦は、看守がロリコンであるという地球の本棚のデータを前提にした女子中学生二人の身体を張ったもので、文字通りの捨て身の戦法だった。

 世の中ロリコンが多すぎる。

 当局にばれれば、示唆した翔太郎と亜樹子は検挙されても仕方のない卑猥なものであった。

 上手く牢から出ることは出来たものの、所内から逃げる途中で全員バラバラになってしまった。

 途中で締め上げた敵から、巴マミの監禁場所を聞き出せたのは僥倖であった。

 彼女は、直前まであのキュウべぇという生物といっしょだったのである。

 何かしらの情報を得ることが出来るかもしれない。

 それに、彼女には同情の余地があった。翔太郎は、まごうことなきハーフボイルドであった。

「立てるか、いっしょに逃げ出すんだ」

「……やだ」

「は?」

「海が見たい」

「うみ?」

「私、海が見たいの」

 翔太郎は座り込んで、マミの顔を覗きこんだ。

 愕然とした。

 彼女の瞳には、負け犬特有の卑屈さと狂気が混濁した、虚ろな輝きがあった。

「おい、とにかくこの部屋から出るんだ。いつ、やつらが増援を呼ぶかわからねー」

「やー」

「こいっ!」

「やだー!!」

 翔太郎が、腕をひっぱると彼女は、かぶりをふって全力で抵抗する。

 完全な幼児退行だ。身体は大人とほとんど変わらない。

 むしろ体型そのものは、亜樹子よりもはるかに良い。翔太郎の顔に、悲痛さが滲んだ。

「いったい、どうしたってんだよ……」

「もう、誰も信じられない! 私のことは、放って置いて! 放って置いてよ、もう」

「君は、ここに居れば、奴らに捕まってしまうぜ」

「だから、なんなの。もう、いいのよ。どうでも。続きを望んだことが間違いだったのよ。
ずっと、キュウべぇのこと友達だと思ってた。
だから、なんだっていうことを聞いたの。
あなたになんか、わからないわ。パパとママを失くしてから、ひとりぼっちだった。
世界のなにもかもが信じられなくなって、自分でも上手く言えないけど、
あの事故から、私自身が変わってしまって、みんなにとけこめなくなったの。
誰かと話していても、彼女たちには、ちゃんと帰る場所があって、あたたかく迎えてくれる家族があって、
そう思うと何もかもが妬ましくて、口も利きたくなくなった。
全部、ひがみ根性なの。自分からみんなの輪を離れたくせに、そのくせ寂しくって。
誘われれば、全部断るくせに、心のうちではもっと強引に誘いなさいよって無茶苦茶なことばかり考えて。
でも、そんな私を受け入れてくれたのは、キュウべぇだけだったから。
彼は、どんなに私がおかしなこといっても、離れていかなかった。
寂しい夜は、いつも話し相手になってくれて、涙が止まらない夜は、いっしょにそばで眠ってくれたの。
いつか、仲間が出来た時に、ちゃんとおもてなしが出来ないと困るから、頑張ってケーキを焼く練習をして、
そんな私をじっと見守ってくれた。
私が、どれだけ、彼を信じていたかわかる? 
それを、あんな。あんな。……あなたになんか、わからない! 私は、いらない人間なの! 
誰にも、必要とされていない! 
なんの価値も無い人間なのよ!」

 ぱん、と音を立てて、マミの頬が鳴った。

 翔太郎は無言のまま、彼女の瞳を真っ直ぐ見つめたまま、右腕を下ろす。

(やべっ……つい、勢いで)

 努めて平静を装い、諭すように言葉を掛けた。

「自分を、無価値な人間だ、なんていうんじゃない」

「だって……」

「それで、このまま泣き喚いて、うずくまって、ここに居れば、誰かがどうにかしてくれると思っているのか。
まどかちゃんやさやかちゃんのことはどうでもいいのか。君には、まだ君だけのできることがあるんじゃねーのか」

「……どうせ、私がどうなったって、誰も、なんとも思わないわよ」

「正直なところ、オレもこのまま闇雲に逃げてどうにかなるとは思っていない。
けど、君がやつらの知ってることを話してくれれば、
それは、きっと彼女たちを救う力になるはずだ。
なーんて。オレも説教するガラじゃねーからな。たださ、もう少しだけ、自分を信じてみないか」

「自分を、しんじる」

「どれだけ信頼していても、お互いの気持ちまでは自分で手に取るように確認出来ない。
当然だ。心は何かに写し取って目で見ることは出来ないからな。
だから、最後は自分の気持ちを信じるしかない。
君が、友達を思う心を、例えほんの小さなかけらでも構わない、残っていれば信じるんだ。
その欠片は、どれだけ儚いものでも、最後の最後まで輝きを残す。
自分を無価値だなんて思っちゃいけない。自分を捨てることがなければ、きっと、最後の最後には、どんなことだって叶うはずだ」

「どんな、ことも」

「ああ、そうだ。どんな奇跡も魔法も、諦めなければ」

 翔太郎は、少女の瞳に理性の灯火が戻っていくのを確認し、肩の力を抜く。

(こんな感じでいいかな……?)

 マミの白濁していた前頭連合野に分泌されたドーパミンが行き渡っていく。

 差し出された男の手は、千切られたハンカチが巻かれ、乾いた血液が赤黒くこびり付いていた。

 マミにとってその薄汚れた手は、力強く、とても尊いものに思えた。

「こっちの方向でいいんだな」

 翔太郎が尋ねると、マミは背中の辺りに引っ付いたまま無言で頷いた。

 妙に人恋しいのか、出会ってからずっとこの少女は自分に張り付くように行動している。

 翔太郎は、何か彼女の行動原理に理屈を付けようと考えたが、一瞬で放棄した。

 面倒くさい。

 何よりも、疲労と空腹で、妙に後ろ頭がズキズキと痛いのだ。

 それよりも、今はやることが累積している。奥歯を噛み締めるようにして、コンセントレーションを高めた。

 翔太郎の基本方針としては、とにかくダブルドライバーとガイアメモリを敵から奪い返さなければならない。

 その為に二人は迷路のような研究所内を効率よく進んでいかなければならないのだ。

 もっとも、マミの記憶はかなり優秀で、似たような造りの建屋内をほとんど躊躇することなく先導していく。

 彼女を発見できたのは、チームの頭脳ともいえるフィリップと分かれてしまった自分には幸運であるといえた。

「この先の左の部屋。だと思う。ここの防備を一番厚くするっていってたの」

「わかった。マミちゃんは、ダブルドライバーとメモリを探してくれ。
敵が居たら俺が制圧する。戦おうとか考えなくていい。やばくなったら、まず自分の身を一番に考えて欲しい。いいか?」

「わかりました、信じてますから」

 寄り添うように、マミは翔太郎の腕を抱くと、じっと上目遣いに見上げてくる。

 翔太郎は、しばらく視線を合わせていたが、やがて耐え切れなくなって、目をつぶった。

「……信じてますよ」

「あ、はい」

 翔太郎はここに来て、何故か一番身の危険を感じた。

「そっか。よし、んじゃ行くか」

 運の良いことに、迷彩服を着たスキンヘッドの男が、コンビニの袋をぶら下げ、今その部屋に入っていくところだった。

「天運、我にあり、ってな!!」 

 翔太郎は、大きく深呼吸をすると、男の背中に蹴りを叩き込みながら、室内に踊りこんだ。

 転がるようにして、身を低くし、室内を瞬時に確認する。

 翔太郎は、一瞬、自分の目を疑った。

 狭い室内には、ズボンをずり下げて自分のイチモツを迷彩服の男にしゃぶらせている白衣を羽織った男が、
痴呆のように目を見開いて凍り付いていた。

 ひざまずいて奉仕していた男が、呆然と口をイチモツから離して翔太郎に視線を向ける。

 口元を覆う濃い口ひげが、ぬらぬらと濡れて、淡く光っていた。

「誰だ!!」

「……いや、おせーよ」

「おぶぅっ!!」

 後ろに突っ立っていたマミが、壁に手をついて嘔吐した。

 今度はホモ野郎かよ!! 勘弁してくれ、ここは変態強制収容所か!?

 翔太郎は、脳裏へと侵食する黒く濁った倦怠感を払拭すべく、自分を鼓舞するように、雄叫びを上げて吶喊を開始した。

「なん、なんだよ! この野郎!!」

 白衣の男は、慌ててデスクの上にある拳銃に手を伸ばそうとするが、一瞬早く翔太郎の足が椅子を蹴りこみ、
流れるような背もたれの一撃が男の顔面にぶち当たった。

「いだあああああぃ!」

 壊れた眼鏡を後方に飛ばしながら、白衣の男が仰向けにひっくり返る。

 同時に、銃声。口ひげの男が拳銃を取り出し、翔太郎に向かって撃ち始めた。

「おっとぉ!」

 横っ飛びに避けながら、二発目をかわす。

 銃弾が、デスクトップの液晶に着弾し、画面に亀裂を縦横に刻まれた。

 三発目に対して、翔太郎が身構えたと同時に、デスクの上のペン立てが弧を描いて男の顔にぶつかった。

「ぎぃいいあああっ!!」

 男は絶叫しながら、左目に刺さったコンパスを取ろうともがく。 翔太郎危うしと見たマミが投擲したのだ。

 男が、突き刺さったコンパスを掴んで引き抜くと、白濁した眼球が糸のような視神経の尾をだらりと下げてあらわになった。

「おらあっ!!」

 床を蹴って飛び掛る。翔太郎は、男に馬乗りになると、両腕を振り回して打撃を与え続け、完全に意識を喪失したことを確認してから、ようやく立ち上がった。

「翔太郎さん、後ろ」

「あ?」

 翔太郎がマミの声で後ろを振り返ると、最初に倒した白衣の男が、鼻から血を流しながら、虚ろな目をしてこちらをにらんでいた。

「なんだ。まだやるってのか」

「……よくも」

「なんだ?」

「……ったな」

「聞こえねーぞ」

 翔太郎の言葉を無視して、白衣の男は壊れてレンズを失った眼鏡を装着する。
 歪んだフレームのせいか、男の顔がいっそう悪相に変わる。

「よくも、ボクの恋人をやってくれたなぁああああああっ!!」

 男は雄叫びを上げながら、ガイアメモリを取り出すと、首もとのコネクタに挿入する。

『ナスカ』

 男の貧弱な身体が、青色の装甲に包まれ、みるみるうちに肥大化していく。

 そう、この男が使用した偽造メモリこそ、かつて園咲霧彦が使用していた上位ガイアメモリであり、今再び翔太郎の前にナスカドーパントが出現したのだ。

「こっちだ!!」

 翔太郎は、手を振ってナスカドーパントを誘導するように、室内を飛び出ると廊下へと走り去った。

 だが、マミは翔太郎が走り去る瞬間、確かに自分に目配せしたのを確認したのだ。

 自分にできることをしよう。

 マミは、口元をぬぐうと、頬を両手でぴしゃりと叩き気合をこめる。

「これ以上、翔太郎さんにカッコ悪いところ見せられないものね」

 左翔太郎。彼との出会いは運命であった。

 思えば、両親を失った後、本気で自分に対して接してくれた人間は彼以外に居たであろうか。

 マミは、室内を捜索しながら、深く自我の夢想に沈んでいった。

 自分は、もはや彼に対して全てを晒してしまったし、そして彼も自分を本気で怒り、許した。

 そう思えば、キュウべぇの裏切りや別れも、現在に至る過程のひとつに過ぎない。

(そう、むしろ感謝するべきじゃないのかしら。私と、翔太郎さんの輝かしい未来の道しるべとして)

 深く傷つく魔法少女。それを助け支える若き探偵。そして、結ばれる二人。

 精神の安定を著しく欠いたマミは、もはや己の妄想と現実の違いに気づくことが出来なくなっていた。

 悲しいかな、彼女は俗に言う『ぼっち』であり、ろくな男性経験もない中学生であった。

 白馬の王子さま幻想、いわゆる思春期の限界である。

 現役の厨二病患者と現在進行形の厨二病患者が出会ってしまったことにより、その化学反応は類を見ないものになった。

 マミの中にもはや悲壮感はなく、全ては終幕に至る道程であった。

「あった! これね、彼が探していたものは!!」

 輝くようなマミの微笑み。

 彼女の頭の中には、バラバラになった人間関係の修復と自身の幸せな人生が薔薇色に交錯していた。

 ダブルドライバーとガイアメモリを見つけた瞬間の彼女の幸福値は、ほとんどメモリの最上部に到達していただろう。

 だが、悲しいかな、現実として財団Xが異変を悟り、この部屋に大部隊を送り込んでいたのもほぼ同時刻であり、彼女の幸福値はつかの間の終わりを迎える。

 マミは、ダブルドライバーを抱え上げると、穏やかな微笑を、ただ幸せそうに浮かべていた。



 ゼリー状の海で溺れる夢の途中で、暁美ほむらは覚醒した。

(うう、なんか寒いよう……)

 ふやけたどろどろの意識の中から、薄皮を破るように自我が上昇していく。

 ゆっくりと両目を見開くと、白い人工的な光が視界を灼いた。

 頬が無意識に、ぷるぷると震える。最初に思い出したのは、まどかのことだった。

「まどか!」

 仰向けからぐっと上半身を起こすと、うつ伏せのまま、ぐったりとしている鹿目まどかと、美樹さやか、佐倉杏子等の姿が見えた。
 誰しも、床に寝転がったまま動かない。

 ほむらは、まだしびれの残る身体を引きずりながら、まどかの傍に這い寄ると彼女の口元に耳を寄せ呼吸のあることを確認した。

「生きてる、でも、なんで……」

 起き抜けで、思考が上手く働かない。

 周りを見渡すと、そこは大きなドーム型の建築物で、ぱっと見には野球場に思えた。だが、それよりも相応しいのは。

(コロッセウム、闘技場……!)

 全景は楕円形であり、観客スタンドらしき部分に人の姿は見えない。

 だが、ほむらはこの場所に、血なまぐさいものを本能的に感じ取っていた。

「なんだぁ、ここは。あれ、アタシたちは。って、アンタ!」

 気づけば、身を起こした佐倉杏子が大声を上げていた。

 ほむらは、耳を片手でふさぐと、顔をしかめ、抱きかかえたまどかを起こさぬよう声量を抑え、答えた。

「人を指差さないでちょうだい。でも、あなたたちはどうやって」

「えーと、その一度は逃げ出したんだけど、その、なあさやか」

「こっちに振らないでよ」

 杏子は、自分で振ってきたにも関わらず、途中になると声を詰まらせ真っ赤になり俯いてしまった。

 不審に思い、ほむらが身を乗り出した時、あの聞き慣れた声が、闘技場の入り口付近から、聞こえてきた。

「考えなしに逃げ出すからそんな目にあうのさ。
ホラ、君の逃げ出したお仲間も僕が親切に探してつれて来てあげたよ。感謝して欲しいくらいだよ、まったく」

「まさか」

 インキュベーターは、マスカレイドドーパントの戦闘員たちを引き連れながら、広場の中央付近に近づいてくる。

 戦闘員たちは、引きずるようにして担いでいた少年を、ゴミのように投げ出すと無言でその場を後にする。

 細かな土煙が僅かに舞った。

 ほむらは、少年の姿を目にすると、唇を硬く引き結んで眉を顰めた。

 何故なら、その少年ことフィリップが、あからさまにむごたらしい拷問を先程まで受けていたのだと、一目で理解できたからだった。

 杏子とさやかが慌てて駆け寄り、抱き起こす、フィリップの目蓋は晴れ上がり、こめかみにおびただしい血が滲んでいた。

「――や、やあ。君たちも、つ、捕まってしまったのかい。はは、まあここまでは予想通りだ」

「予想通りだ、じゃねーよ! アタシたちにあんなことまでさせといて、ばか!」

「そうだよ、フィリップくん。それより、平気? じゃないよね」

「君たち人間はいつもそうだ。たいした考えなしに行動し、結果最悪の事態を招く。
それから、もう、ひとり君たちのお仲間も見つけておいたよ。ホラ」

 インキュベーターが尾を振りながら、入り口を向くと、人影がぼんやりと見え、それはやがて徐々に近づいてくる。

 ネオン・ウルスランドだ。

 彼女は、無言のまま一人の少女の髪を両手で引きずりながら、ドームの中央部まで来ると、そっと手を離す。

 根元から長い髪が、ぶちぶちと数本引き抜けた。

「マミ、さん」

 さやかが、口元に手を当てながらつぶやく。

 彼女の全身はさらに酷かった。上半身は破りとられ、下着があらわになっている。

 白い首筋には、タバコを押し付けたと思える火傷の痕が、幾つもはっきりと見えた。

「逃げ出したあげく彼女は、君たちのガイアメモリを取り返そうとしたんだよ。
まったく彼女は節操がないというか。さやか、君もマミには随分と怒っていただろう。
代わりにお仕置きしておいてあげたよ。感謝して欲しいな」

「てめぇ……」

 インキュベーターの言葉が終わると同時に、杏子が怒りを迸らせる。

 さやかは、マミに駆け寄ると、赤黒く膿みだした彼女の傷に目をやり、それから大粒の涙をこぼした。

「ごめ……」

「マミさん、マミさん気づいたんですか? あたし、あたし――」

 さやかは、マミの小さな声を聞き取ろうと耳を澄ませる。

 彼女の中には、怒りと後ろめたさと悲しみが混在した感情が渦を巻き、大きな波頭をかたちどっていた。

「ごめん、ね……ごめん」

「あ――あっ」

 さやかが胸を詰まらせうずくまる。

 ほむらは、そんな彼女の姿を見ながらやり場のない怒りに肩を震わせ、それから何も出来ない、この期に及んで何の打開策も提示できない自分に諦めさえ浮かび始めていた。

「それで、インキュベーター。こんな所に私たちを集めてどうするつもり?」

「こんな所とは、ご挨拶だね、暁美ほむら。そうだな、僕の目的を覚えているかな」

「感情の極度な変化の際に生まれるエネルギーの収集」

「そう、まどかはどうしても契約をしてくれない。だから、ひとつ提案があるんだ」

「提案?」

「そう、僕にはもう残された時間があまりない。
だから、手っ取り早くエネルギーの収集を行いたい。だから、今この場所で、君たち魔法少女に殺しあってもらいたいんだ」

 ほむら、さやか、杏子の三人が顔を見合わせる。全員の背筋に凍りつくような感覚が走った。

 それは、法外な要求だった。

「……だめだよ、そんなの」

「まどか!?」

「気づいたの、まどか!!」

 まどかは、ほむらの腕から身を起こすと、おぼつかない足取りでなんとか立ち上がり、インキュベーターに視線を合わせる。

 さやかは、彼女に肩を貸しながら、もう一度怒りをこめて全力で無慈悲な要求する悪魔と対峙する勇気を奮い立たせた。

「キュウべぇ、私が契約します。だから、みんなを助けてください」

「ダメよ! まどか!!」

「だめだって、そんなの!」

「騙されんな!」

 インキュベーターは、その言葉に対し、一拍置くと、規定事項のように告げた。

「悪いけど、もう君との契約は必要ないんだよね。時間切れだ。奇跡の後ろ髪ははかなくも一瞬なんだよ」

「そんな。どうして。ねえ、キュウべぇ、みんなたくさん苦しんだんだよ。
このうえ、みんなで傷つけあうなんて、ダメだよ、絶対。ねえ、お願い、お願い。お願いします!」

 まどかは頭を地面に擦り付けるようにして土下座をした。

「まどか……」

「お願いします! お願いします!」

 まどかは、あふれ出る涙の中で、自分がどれだけみんなに守られて生きてきたかを思った。

 そして、生まれて初めて、誠心誠意、全力で誰かに願い事をしたのだ。

 ここにいる全員の命を救いたい。

 自分は誰かに誇れることなどなにひとつなかった。

 特別、かわいいわけでもない。

 賢いわけでもない。

 運動能力に優れていなければ、手先が器用なわけでもない。

 ずっと、このまま、世界の中で埋没し、光輝くことなど一度もないと思っていた。

「私の願いは、ただひとつだけ。みんなを助けて欲しいです」

「悪いけどそれは」

「――都合が悪いかい、インキュベーター」

 その一瞬、全員は確かに彼から意識を乖離さていた。

 そう、あの、ネオン・ウルスランドさえも。

 刹那の空隙。
 フィリップは何事もなかったかのように立ち上がり、後方にトンボを切るとネオン・ウルスランドの手提げをひったくり軽やかに着地した。

「――フィリップ、君は!」

「悪いね、インキュベーター。
ソウルジェムの在処は検索済みさ。そして、この瞬間が、君たちの、いや、君ひとりの欺瞞を暴く最後のチャンスだったのさ」

「フィリップくん、こっち、こっち!」

「へーい、パス! パース!」

 さやかと、杏子がしきりにソウルジェムを寄こせとサインを送ってくる。

 フィリップはそれを見ると、首を左右に振りながら、手提げの中からひとつのソウルジェムを取り出し、宙に掲げた。

 マミに視線を落とす。彼女は意識を失ったまま微動だにしない。

「魔法少女同士で殺し合い? もうデータの収集は充分だろう。隠しても無駄だ。
僕がただ単に逃げ回っていたのだと思っていたのかい。ずっと調べまわっていたのさ。
研究所内のデータベースをね。実に有意義だったよ。
今回の事件、欠落していた全てのデータを保管し、解析をした。僕は探偵さ。――だから僕なりの解決をさせてもらうよ」

「それは、巴マミの――」

 ほむらは、自分の目を疑った。

 ソウルジェムは魔法少女の命そのもの。

 フィリップがそれを忘れるとも思えない。ならば、何故。味方であるはずの彼が、命を壊そうとするのだ、と。

 フィリップは、摘みあげた巴マミのソウルジェムを床に落とすと、高く上げた靴底を叩きつける。

 宝石は砕けた。軽やかな音と共に。

 ――同時にそれは、彼女たちにかけられた魔法が解ける瞬間だった。

 ほむらは、マミを見た。他の全員も。

 そこには絶命した苦悶の表情などなく。

 全てを忘れ、子供のように眠る少女のあどけない顔があった。

「さあ、謎解きのはじまりだ。この世界には、魔法など存在しない。絶対にね」

「わからない、どういうことなの」

「ほむらちゃん、君は今回の依頼人だ。君は全てを知る権利がある、第一にね。まず、その前に――っと」

 フィリップは、足元のインキュベーターを、普通の子猫を捕まえるようにして両手で押さえつけると、そっと立ち上がり、ネオン・ウルスランドに目配せをした。

「いいかい? と、いうか、そろそろ自分の口で会話をしたらどうなんだい」

「……?」

 ほむらは、疑問符を浮かべながら、両者の間に視線をいったりきたりさせる。

 ついで、インキュベーターの口から、今までの少年のような言葉遣いとはかけ離れたものが飛び出した。

「……ふん。園咲来人、ばれていたのか」

「理解しがたい。まあ、財団Xならば可能なロボティクスだが所詮はただの遠隔操作だ。
音声はメインマシンで入力しないと発生できないとは、フレーム問題すら処理できないとは」

「フレーム問題程度処理できないわけはない。ただ、今回の計画に無駄な処理能力を回す空きがなかっただけのこと。あとは、私の趣味だ」

「趣味、ね。財団Xはやはりセンスがない」

 フィリップは、インキュベーターの身体を弄り回していたと思うと、口元に笑みをうっすら浮かべる。

「見つけた」

 かち、と硬質な音が鳴ったかと思うと、先程まであれほど動き回っていたインキュベーターは、
まるで死体のように硬直し、真っ赤な瞳からは光を失っていった。

「え、え、どういうことなんだよ、なあ、おい!」

 杏子が狼狽しながら、さやかの肩をぐいぐいと揺する。
 まどかは、膝を地面につけたまま泣きはらした顔を挙げ、ぽかんと口をはしたなく開けていた。

「まさか」

「そう、そのまさかだ。キュウべぇことインキュベーターは、外宇宙から来た謎の生命体でもなんでもない。財団Xの作り出した、ただのロボットさ」

「ねえ、フィリップくん。どうでもいいかもしれないけど、さっきの話に出てたフレーム問題って、なあに?」

「フレーム問題、とは1969年、AI学者のジョン・マッカーシーとパトリック・ヘイズによって提唱された概念で、
簡単にいえば、世界をどうやってコンピュータに記述するか、という問題さ。
現実世界で、AI機能に『自販機でオレンジジュースを買って来い』と命令した際、
現実世界ではさやかちゃんは、
お財布を忘れたり、
自販機の前でコインを落としてお金が足りなくなったり、
途中のコンビニで余計なお菓子を買ってしまったりするだろう。
それらの無限な変化を全ていちいちコンピュータに記述していたら情報量が多すぎてどうにもならない。
つまりそれらの考慮をはしょって、枠(フレーム)を作って記述を簡素化するにはどうすればいいかって、問題なんだ。
インキュベーターに組み込まれたAIは優れた対人折衝能力が必要だ。契約をさせるなんて、相当な処理能力が必要だからね。
だから、遠隔操作している確率が多いと思ったのさ」

「そんな、じゃあアタシたちは、ただの機械に振り回されてたって、ええ? じゃあ、アタシたちの魔法は、アタシの槍は?」

 杏子は、飛びつくようにフィリップに掴みかかると、ぐいと顔を寄せて叫ぶ。

 フィリップは顔についた唾を、ぐいと拭うと、数歩距離をとって、肩をすくめた。

「……とにかく、順番に説明させてもらう。全ては財団Xによる実験だったんだ。
君たちは無作為に抽出された人間で、脳内に直接電気信号を送り込まれ、あたかも自分が魔法少女である、
と錯覚させられながらデータを搾り取られていたんだ」

「だって、私は、時間の遡行を! それに、銃、とかも!」

「ほむらちゃん、特に君は念入りに記憶を改竄させられている。
それと銃器はただの銃刀法違反だ。
あとで処理しておこう。

時間には確かに弾性があるが、過去に飛ぶ為にはブラックホールにからのワームホールを作成し、しかもその重力の中を現在の科学力では作成不能なポットにでも乗って移動しなくてはならない。
君は、何回過去に遡行したんだ? 

君の身体はどれだけねじれたスパゲティなんだい? 
失礼。ともかく、タイムトラベルは不可能だ。
それよりも、海馬に電力を加えていじったほうがはるかに効率が良い。

側頭葉と頭頂葉をいじって視覚情報を、
大脳新皮質をいじって痛みを、扁桃体をいじって感情を、
他にも上げていけばキリがない。君たちは、人体実験の検体にされていたんだ」

「だって、そんな。そうだ! あたしが戦っていたのだって見たでしょ、ほら! 助けに来てくれたじゃん!」

「さやかちゃん。僕らがはじめてあった時のことはよく覚えているよ。
君は、ケツァルコアトルスドーパントの尾に巻きつかれていた。
そう、当たり前の制服のまま、手加減されながらね。ダブルとの戦闘データが必要だったのだろう。違うかい」

「そんな」

「さも、ソウルジェムと肉体が一体かのような暗示を掛ける。
脳に一定のベクトルに当たる電磁波を与え幻を見せる。
これが、奴らが君たちに掛けた魔法の正体なんだ」

 ネオン・ウルスランドは、無言のまま、口元を吊り上げる。

 それは、フィリップが見た、彼女の感情表現だった。

「それに、キュウべぇの存在意義はただのメッセンジャーじゃない。
君たちが戦う時、
何かに迷った時、
岐路に立った時、
いかにもなタイミングで要所要所、こいつはあらわれなかったかい。
このロボの瞳から発する音波は、一種の催眠誘導を促すものなんだ。
薄れかける度に、出現し強度の催眠暗示を回復させる。
ほむらちゃん、君たちは、ずっと財団Xの中で踊っていたのさ。
ソウルジェムもそう。
一定の距離に常に置いておくだけで、所持者の脳内に一定のパルスを送る。
そして、データ取りは、ガイアメモリ研究の成果に他ならない。
違うか、ネオン・ウルスランド、いや『悪夢の孵卵器』インキュベーター!!」

 フィリップが彼女に向かって、いまや無用な長物となったロボを投げつける。

 ネオン・ウルスランド、いや『インキュベーター』は、そのマシン“キュウべぇ”を足元に放ると、踏みつけた。何度も、何度も。

 キュウべぇは、音を立てながら、内部の構造を露出し、じりじりと電子音を発生させる。

『まどか、僕と契約して魔法少女になってよ、
契約して、
ケイヤク、ケイヤクケイヤク、ケイヤクケイヤク、
ケイヤクケイヤク、ケイヤクケイヤク、ケイヤクケイヤク、ケイヤクケイヤク、ケイヤク、ケイヤクゥウウウウウウウウウウウウウウッ!!』

 にじり込むようにして、爪先がキュウべぇの核を完全に破壊する。

 最後の雄叫びは使い捨てられた機械の悲痛な叫びだったのかもしれないと、フィリップはそっと目を細め眉間にしわを刻んだ。

「いやあああっ!!」

「まどかっ」

 まどかは、悲鳴を上げてその場に座り込む。

 ほむらは、彼女を抱きかかえながら何故だか肩の荷を降ろしたようにほっとため息をついていた。

 私たちは、魔法少女でもなんでもない。

 もう、過去に戻ることもなければ、殺し合いの螺旋を回り続けることもない。

 人体実験の道具にされ続けてきたことに対して、思うことがないわけでもない。

 それでもほむらは正直なところそれらはどうでもよかった。

 まどかを破滅の運命から救えたのだ。

 そして自分も、もう全てを偽って強いフリをする必要もない。

 これからは当たり前の生活をして、当たり前に過ごしていくのだ。

 ほむらは、目の前の白服の女に視線を向け、懇願するように叫んだ。

「私たち、今までのことは全て忘れます。だから、帰してください! 私たちを、元の世界に!!」

「――ちょっと、待てよ。ほむら、アタシは我慢ならねー。これだけのことをしておいて! このままじゃ、気が治まらない!」

 佐倉杏子! 

 この女は、またこんなどうでもいいところで、正義感を持ち出す。

 どうでもいいいのだ。放って置いて欲しい。

 私は、本当はそんなに強くない。

「……もう、ゆるしてよ」

 語尾にはかすかに鼻声が混じる。自分で自分が情けなかった。

「実験はまだ続行中だ。一人たりとも帰すわけにはいかない」

 白服のインキュベーターは、そう言い放つと、片手を上げる。

 背後にはいつ現れたのだろうか、三体の偽造メモリによって再び出現した、
ウェザードーパント・エナジードーパント・バイオレンスドーパントが、巨体を震わせながらゆっくり近づいてくる。

「――NEVER(死者蘇生兵士)であった加頭順もやぶれ、私の組織での地位は大きく落ちた。
今回の計画で、必ず人間の脳を操るメモリを開発して私は組織に返り咲く。もう、失敗は出来ない、絶対に」

 フィリップはほむらをかばうように、全面に立ちはだかると、大きく両手を広げ立ちはだかる。

「人間の脳を遠隔で操る電気信号とそれに付随する究極の精神干渉メモリ。
M計画。そんなものは開発させない。それに彼女たちの脳に与える負荷がどれほどのものか理解しているのか? 
脳に定期的に電荷を与えれば、てんかんと同じ発作を自然に起こすようになるのは動物実験で証明されている。
今現在が危険すぎるんだよ。もう、彼女たちには指一本触れさせない」

「今のお前に何が出来る園咲来人! ダブルにもなれないお前に!」

 フィリップに寄り添うようにして全員が集まる。

 前衛に立ちはだかる三体のドーパントが、襲いかかろうと身構えた時、後方の入り口から、その音が聞こえた。

 唸るようなエグゾーストノイズ。

 それはぐんぐんと近づくと、ドラゴンのような咆哮を高々と上げる。

 見えない真紅の翼を閃かせ、三体のドーパントをまとめて軽々と弾き飛ばした。

 弾き出されたドーパントの手から、アタッシュケースが投げ出される。

 目ざとく見ていた杏子が駆け寄ってキャッチすると、フィリップに向けて投げ飛ばす。

「そらよっと」

「……っと。これは、ダブルドライバー!」

 ケースを開ける。そこには財団Xが保持していたメモリ一式と、ドライバーが確かにあった。

「形勢逆転だな、フィリップ」

 バイクの男から、低く落ち着いた声が漏れた。

 一同が視線を向ける。

 男がメットに指を掛けた。

 メットを取り去ると、真っ赤なジャケットに身を包んだ、眼光鋭い男がその場に降り立っていた。

「誰だお前は!!」白服の魔女が叫ぶ。

「――俺に質問をするな!」

 メットの男、照井竜はアクセルドライバーを装着すると、視線を弾き飛ばしたドーパントに移す。

「変……身ッ!!」

――『ACCELE』

 “加速の記憶”を持つ、アクセルメモリをアクセルドライバーに挿入し、右ハンドルを握りこんで回す。

 猛々しいエンジン音が唸り、照井の全身が炎のように燃え立つ、真っ赤な装甲に包まれる。

 仮面ライダーアクセル。

「――振り切るぜっ!!」

 アクセルはエンジンブレードを握りこむと、三体のドーパントを物ともせず、踊りかかった。

 銀線が水平に走る。

 振り回したブレードがドーパントたちの胴や胸をまとめて薙ぎ払い切り落とす。

 鋼を断ち切る、鈍い轟音が当たりをつんざいた。

 アクセルは、縦横無尽に刃を振り回すと、敵の戦力の集中を避ける。

 三体が一旦距離を取ったのを見計うと、エンジンメモリをエンジンブレードに挿入した。

――『ENGINE/ELECTRIC!』

 エンジンブレードが青白い電撃を纏う。アクセルは、電火の迸りを滾らせながら、

 バイオレンスドーパントを巨体を存分に薙いだ。

 バイオレンスドーパントは、腕の鉄球を振り回しながら、どうと音を立てて崩れ落ちる。

 アクセルはそれを視界の端に捉えたまま、残りの一体、ウェザーに向かって力をこめた回し蹴りを浴びせた。

 重い衝撃。ウェザーは紙切れのように吹っ飛ぶと、空を舞った。

 軸足を滑らせたままその場で回転。地を擦るタイヤのブレーキ音が辺りに響く。

 握り締める大剣。唸りを上げて、咆哮した。

 アクセルはブレードを回しながら、ひるまず襲い掛かる二体に斬撃を喰らわせると、すべるようにして包囲網を潜り抜け、距離を取る。

 それが敵に利を与えたのか。

 ウェザーが天候を利用し、落雷を召還した。

 ドームの天井を破壊しながら、アクセルに向かい稲光が落とされる。

 身を捻ってかわす。

 落ちた電撃は、抉るように地上に放電し大穴を幾つもあけた。

 ――だが、大技を使った後ほど隙が生まれる。

 アクセルは転がり続け間合いを取ると、ブレードを構え、狙いを定める。

 剣を垂直に立て、メモリスロットを開放。エンジンメモリを挿入。

 ――『エンジン!』

 強くロックハンマーが引き落とされる。

『マキシマム・ドライブ』

 同時にシールド奥のフェイスフラッシャーが光り輝く。

「らああああっ!!」

 裂帛の気合と共に、ブレードが全力の力でAの文字を描いて振りぬかれる。

 真紅のエネルギーの奔流。アクセル必殺の“ダイナミックエース”だ。

 ウェザードーパントの硬直が解ける前に、アクセルはブレードをその場に突き立てると、ドライバーの左のクラッチを切る。

『アクセル!』

『マキシマム・ドライブ』

 右のレバーハンドルを掴んで回し、エンジンを吹かす。

 猛るような轟音と共に、アクセルの全身が真っ赤な炎に包まれていく。

 全身を低く落とす。

 狙われていると気づいたバイオレンスドーパントが、身体をよじって逃げ出そうと反転する。

 だが、遅い。

 アクセルは全身に烈火の衣を身に纏い、虚空を舞った。

 脚部のエグゾーストマズルが破壊の炎を吹き上げ、アクセルは空中を回転しながら、必殺の回し蹴りを放った。

 必殺の一撃は虚空に青白いタイヤ痕を刻み、バイオレンスドーパントの身体へと余すことなく破壊のエネルギーを叩き込んだ。

 アクセルグランツァー。

 必殺の蹴りを叩き込んだアクセルは、硬直した二体のドーパントを背後に、逃げ出した最後の一体 エナジードーパントを追う。

 ――『トライアル』

 アクセルは「挑戦の記憶」を内包したアクセルメモリの強化パッチプログラムを開放する。

 赤、黄、青と連続して装甲色が変化。

 スタートシグナルと同時に限界のスピードを突き破って、追撃に出た。

 アクセルは逃走するエナジードーパントを視界に捉えると、音速の壁を突き破って超高速のスピードに突入し、敵影を捕捉する。

「お前の最期の時間は、俺が数えてやる!」

 トライアルメモリのスイッチを押すと、トライカウンターがリミットを刻み始める。

 アクセルはトライアルメモリを虚空に投げると、敵に向かって飛び掛った。

 アクセルはエナジードーパントに接近すると高速の蹴りを連撃で繰り出し、破壊の軌跡は徐々にTの文字へと収束していく。

「はああああっ!!」

 超高速の攻撃はやがて、意思を持った力の奔流となり、ドーパントの身体を崩壊へと導く。

『トライアル/マキシマム・ドライブ』

 放り投げたメモリを掴み取る。

 そして、世界は再び動き出した。

「――タイムアウト。絶望が、お前たちのゴールだ」

 ウェザードーパントはAの文字。

 バイオレンスドーパントは青白いタイヤ痕。

 エナジードーパントはTの文字。

 三者三様、破壊の奔流を全身に浮かび上がらせ、爆炎と共に四散した。

「こいつらも、NEVERか」

 照井はメモリブレイクされた戦闘員たちが、黒い霧となって消えていくのを見ると、確認するようにつぶやく。

「そうか、お前は照井竜! くそっ、こんな所でっ! 
だがな、私にはまだある! 加頭順が使っていたものよりもはるかに完成された、ユートピアメモリが!!」

「――そうか、だがもう何を使っても無駄なような気がするな」

「なにィ!!」

 照井が顎をしゃくって、入り口を差す。

 そこには、誰かに支えられながらも、確かに皆が待ち望んでいた男の姿が、ゆっくりだが見え始めていた。

「左、翔太郎……」

 ほむらは霞む目を擦りながらじっと見つめ、ああこれで全てが終わるんだ、と心の底から安堵した。皆が歓声を上げる。

「ほむらちゃん」

「まどか……」

 抱きかかえていたまどかが、目を開けていた。お互い泣きはらした目蓋を擦り、顔を見合わせる。

「あっ……」

「どうしたの」

「ほむらちゃん、笑ってる」

「え……」

 ほむらは、自分がどんな顔をしているかわからなかった。
 笑っていたのであれば、さぞ惨めで美しいものには程遠いだろう。

 それでもほむらはそんな自分がそれほど嫌いではないことに気づき、今度は無性にはしゃぎたいような気分で笑えた。

「まどか、私、まだ笑えるのね」

「うん、うん……」

 翔太郎は亜樹子から離れると、フィリップの傍に立った。

 そうだ、この位置だ。

 最後は、オレとフィリップじゃなきゃ決まらない。

 ふらつく足に力を込めると、口元ゆがめた照井とさもおかしそうにくすくす笑いをこぼす相棒が目に入った。

「なーんだよ、おい」

「左、酷い顔だぞ」

「照井、お前にいわれたかねーんだよ」

「翔太郎、彼のいうとおりだ。まるで子供の落書きだよ、今の君は」

「へっ。そういうフィリップも随分男前が上がってるじゃねーか」

「ふっ、お前らときたら……」

「悪いな、照井。最後はオレが決めさせてもらうぜ」

「翔太郎、そこはオレではなく、オレたちが、だろ」

「はっ、そーだな。相棒!」

「ふざけるな、私はこんなところで、こんなところでェ!!」

 白衣の魔女は新たに改造したユートピアメモリを接続すると、理想郷の杖を握り締め、白い装甲を散りばめた、色違いのユートピアドーパントと変身を遂げた。

「何故だ、お前はナスカドーパントに追わせた筈なのに……」

 照井は無言で、彼女の目に付く場所へと壊れた機械の部品を放った。

「そんなっ……!」

 それは、完膚なきまでに破壊されたナスカメモリであった。

「いくぜ、フィリップ!」

「ああ。いくよ、翔太郎!」

 翔太郎は右手でダブルドライバーを腰に装着すると同時に、ジョーカーメモリをスロットに挿入した。

『サイクロン!!』

『ジョーカー!!』

 フィリップは「風の記憶」、翔太郎は「切り札の記憶」を前方に突き出すと、決意を込めて戦いの狼煙(のろし)を上げた。

「変身!!」

 ――『CYCLONE/JOKER!!』

 サイクロンとジョーカーの紋章が、エネルギーとして世界に具現化して、それは元々一つだったかのように融合する。

 地球の記憶。
 秘められたエネルギーは翔太郎を包み込むように、拡散し刻まれた力を引き出すため、今一つとなって世界に現れた。

 一陣の風が、二人を守護するように吹き渡る。

 そこには仮面ライダーWとなった二人の探偵が雄々しく立っていた。

「――ネオン・ウルスランド。いやこの街の平和を乱す悪夢の孵卵器!!」

 Wは左手を伸ばし、銃弾を撃ち付けるように断罪する。

「さあ、インキュベーター! お前の罪を数えろ!!」

「くだらなくはない。魔法ごっこは、確かに遊戯の範囲内だが、あの中には私の理念も幾らかは込められている。
この世界には無駄な人間が多すぎる。
役に立たない人間を残し、自然を滅ぼすことが本当にこの世界に必要な行為だと思うのか。
優れた一握りの人間が、永遠に生きる。この肉体という不完全な枷を捨て去って。それこそが、私のM計画の発端なのだ」

『理解できない。人は、不完全だから誰かを思いやることが出来る。
あなたの思想は、自分だけを基準に考えている。
一握りの人間が永久不滅のイモータリティを手に入れてしまえば、そこはもう地獄だよ』

 Wとユートピアは満身の力を込めて、距離を取ると互いに睨み合った。

 互いに動けない。ほんのささやかなミスが勝敗を決する。

 両者の闘気が潮のように、満ち、硬直が溶けた。

 先に動いたのはユートピア。振り回した右足が、Wの顔面を狙って繰り出される。

 Wは倒れこむように横に飛ぶと、転がりながら位置を移動し、天に向かって右手を高々と突き上げた。

『一気に決めるんだ、翔太郎!』

 フィリップの気合と共に、先程の戦闘で破壊されたドームの天井部分から、急加速で鳥型エクストリームメモリがマッハ1.2を超えて飛来する。

 鳥型ガイアメモリは、寸分の狂いもなくダブルドライバーにドッキングすると、フィリップと翔太郎を融合させ無敵の戦士へと変形させた。

 ドーム全域を覆うような、強い光の奔流。

 ――『エクストリーム!』

 身体の中央部にはセントラルパーテーションが肥大し、銀色に輝くクリスタルサーバーが現れる。

 ふたりの心と身体がひとつとなった、最強の進化形態。

 サイクロンジョーカーエクストリーム。

 Wに向かって、ユートピアドーパントが真っ向から踊りかかってくる。

 理想郷の杖。

 振りかぶるのが見えた。

 来る! Wは両腕を交差すると、叩きおろされた敵の一撃を防ぐ。

 ぐいぐいと、Wを押しつぶすように、杖が押し付けられる。

「ガラ空きだぜっ!!」

 全力で無防備な腹に向かって前蹴りを叩き込む。
 Wは軸足に力を入れて後退すると、ボディ中央からプリズムビッカーを召還した。

『敵の情報は全て閲覧済みだ。ヤツにもっとも最適な攻撃は――』

 フィリップの冷静な分析。翔太郎の心が猛った。

『プリズム――マキシマムドライブ』

 プリズムソードのマキシマムスロットにメモリを挿入。

「これで終わりだ!!」 

 Wはビッカーシールドを構えると、マキシマムスロットに四本のガイアメモリを挿入していく。

『サイクロン――マキシマムドライブ』

『ヒート――マキシマムドライブ』

『ルナ――マキシマムドライブ』

『ジョーカー――マキシマムドライブ』

「プリズムの記憶」「風の記憶」「熱き記憶」「幻想の記憶」「切り札の記憶」。

 地球の記憶を収束させ、全てのデータエネルギーが、崩壊に向かって幾何級的に高まっていく。

 プリズムビッカーが高らかに、音を立てて、虹色に輝く。

 Wは納刀されていたシールドからプリズムソードを引き抜くと、ユートピアドーパントに向かって、破壊の斬撃を叩き込んだ。

「「ビッカーチャージブレイク!!」」

 世界を両断するような虹色の光が、闘技場を覆い尽くした。

 ユートピアは、両腕を突き出し、もがくように光線の波にゆっくりと呑まれていく。

 魔女の絶叫が轟き渡る。
 彼女の身体を両断しながら、光の波は闘技場の後方観客席を完全に薙ぎ払い、削り取ったように削いだ。

 ユートピアドーパントは、身体を袈裟懸けに破壊され、がくりと膝を突くと、両手を地面に投げ出した。

 握っていた理想郷の杖は、真っ白に炭化し、やがてさらさらと地に還っていく。

「何故だ、何故お前たちの力を吸収できない……」

「そんなことは簡単だ。お前は一人で闘っているが、オレ達は一人じゃない!!」

『僕たちは、二人で一人の探偵で――』

「そろえば誰にも負けない仮面ライダーだからな!!」

 Wは大きく宙に向かって飛び上がると、腰のマキシマムスロットにプリズムメモリを叩き込んだ。

 腰のエクスタイフーンが、ドーム亀裂から舞い込む風を受け、急激に回り始める。

 メモリのエクストリームプロセッサはカリカリと起動音を立て、超高速で演算を開始した。

『プリズム――マキシマムドライブ!!』

『エクストリーム――マキシマムドライブ!!』

 ツインマキシマムが発動。

 歴史は繰り返されるが如く、地上のドーパントに向かって、必殺の連撃が炸裂した。

「ダブルプリズムエクストリーム!!」

 爆炎の中で、ユートピアに向かって連続蹴りが幾度なく叩き込まれ、破壊はやがて収束し、勝敗は決した。

 インキュベーターはこの地上から永遠に消滅したのだ。

「――私は、自分の中の醜い感情を消し去りたかった……」

 インキュベーターを気取った、元財団Xの局長 ネオン・ウルスランドは身体を横たえながら、震える声でつぶやく。

「けれども、その感情がなければ、僕らは脅威に立ち向かう勇気を持てなかった」

「人間から、感情を取り去り、機械のように扱うなんてできっこねーよ。
それと同じく、心を奪うことも。お前は、自分の中の弱い心に負けたんだ」

 翔太郎とフィリップは、黒い霧のように肉体を塵と化していく強敵をじっと見つめながら淡々と云った。

 そう、ネオン・ウルスランドも死者蘇生兵士、NEVERだったのだ。

「終わったな、相棒」

「ああ。だが、財団全てが消え去ったわけじゃない」

 翔太郎は、相棒の言葉に力強く頷くと、立ち上がろうとしてふらつく。
 咄嗟にフィリップは肩を抱き支えると、不敵な笑みを浮かべた。

「悪いな、フィリップ」

「いいってことさ、相棒」

 翔太郎は、肩を借りて痛めた足首に顔をしかめる。

 それでも力強く大地を踏みしめて帽子を深くかぶり直すと、駆け寄る魔法少女たちに手を振った。


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