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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~ 第三話 嫉妬 ~後編~

2011年10月31日 19:12

孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~

55 : ◆tUNoJq4Lwk [sage]:2011/05/29(日) 16:18:45.38 ID:RqlWRy44o


    第三話

  嫉妬 ~後編~


 俺が“魔女を引き寄せやすい体質になった”と言われてから数日。

 なかなか件の魔女が現れなかったので、もしかしてあの話はウソだったのではないかと思い始めたある日。

 俺は帰り際に魔女に襲われた。

 その日、たまたま杏子は一緒におらず、一人でマンションへ帰ろうとしていたところで、以前見た、俺がベルゼブブと名付けたあのハエの化け物が現れたのだ。

 そして、化け物から救ってくれたのは、杏子ではなく、彼女と同じ魔法少女という巴マミであった。

 マミが魔女を倒すと、魔女の結界は消え、俺はいつもの歩き慣れた歩道に立っていた。
 目の前にいるのは、杏子よりは若干成長していると思われる制服姿の少女が一人。

「巴マミさん……、か」

「はい、マミで結構ですよ、五郎さん」

 杏子もそうだが、なんで魔法少女ってのはファーストネームで呼び合おうとするかね。

「それはいいけど、なんで俺の名前を知っているんだ?」

「はい、キュゥべえから聞きました」

「キュゥべえ……」

 俺は怪しげなあの白い生物を思い出す。

「あなたは、魔女を引き寄せやすい体質なんですよね」

「正直、信じてはいなかったけど」

「実は私も、半信半疑でした。ですが、こうして今日、実際に魔女に襲われたわけですし、
何より魔法少女以外にもああして魔女の結界の中に入れる人はそうはいません」

「あの時……、浅草の店で俺に話しかけてきたのは探るためだったのか?」

「ええ、まあ……」

「でっ」

「?」

「何が目的だ」

「目的?」

「そう。助けてくれたのはありがたい。だがキミにも目的があるんじゃないのか?」

「……そうですね。ここでは話しづらいので、場所を変えませんか?」

「場所……」

 確かに、歩道で立ち止まって話をしていたのでは目立ってしまう。

「わかった。どこか喫茶店にでも行こう」

 深夜でもやっている店なんて、あっただろうか。俺は少し考えた。

「あなたの家がいい」

「……」

「ダメですか?」

「……いや」

 まさか、中学生くらいの子どもにこんなセリフを言われるとは思わなかった。



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   *


 家に帰ると、杏子がしまむらで買ったジャージを着て、草加煎餅を食べながらテレビを見ていた。

 例の高級パジャマはお気に召さなかったらしい。

「ただいま」

「ああ、おかえり。随分遅かったな。魔女に襲われてたのかと思ったぜ」

「そのまさかよ、佐倉さん」

 俺の後から、巴マミが彼女の前に姿を現した。

「あむ?」

 杏子は煎餅を咥えたままソファから転がり落ちる。やや鈍い音が聞こえた。

「いてて」

「おい、大丈夫か」

「ああ、それより」

「久しぶりね、佐倉杏子さん」

「巴マミか……」

「知り合いだったのか、二人とも」

 同じ魔法少女同士、ネットワークのようなものでもあるのだろうか。

 しかし、マミを見る杏子の目は、決して友好的なものではなかった。

「なんだよ五郎その女は。アタシというものがありながら!」

「その誤解を生むような表現はやめろ」

「私はキュゥべえから事情を聞いたの。あなたのこと、そして井之頭五郎さんのことも」

 そう言ってマミは俺のほうをチラリと見る。

「んだよ、あのクソ白ネズミ……」杏子は独り言のように呟いた。

《僕はネズミじゃないよ》

 杏子の独り言に、何者かがすぐに反論した。

 視線を上げると、窓際に白い犬か猫のような小動物がちょこんと座っている。

「キュゥべえか……」

 どうでもいいがこいつを見ると、江崎グリコのアイスクリーム、パナップのストロベリー味を思い出してしまう。
 もちろん、2010年にリニューアルされる以前のパナップだ。

《やあ、久しぶりだね。といってもまだ数日だけど》キュゥべえは何も表情を変えず、俺たちに話しかける。

「おいキュゥべえ! なんでマミにアタシたちのことを言ったんだ」

 杏子は立ち上がり、キュゥべえに詰め寄る。

《別に誰にも言うなとは言われていないよ。僕はキミだけを担当しているわけじゃないからね。
それに、マミに知らせておいて正解だったと思うよ》

「どういうことだよ」

「今日の帰り道、五郎さんが魔女に襲われたの」キュゥべえの代わりにマミが答えた。

「なに?」その言葉に杏子は振りかえり、マミのほうを見据える。

「これが証拠よ」

 そう言って、マミは何か小さな球のようなものを杏子に投げてよこした。

「これは……」

「あなたが取り逃がした魔女のグリーフシード」

「グリーフシード?」俺は聞き慣れない言葉に、思わず聞き返してしまった。

 もしかして、以前杏子が言っていた“アレ”というのはこれのことだったのだろうか。

「グリーフシードというのは、魔女の卵のようなものなの。これが呪いや恨み、絶望など
人間の負の感情を集めたら、これが魔女になるの」

「これって、何かの役に立つのか?」

「普通の人には役に立たないわ。でも、私たち魔法少女には必要不可欠なのものなの。
ね、佐倉さん」

「ふん」

 杏子は、先ほどマミから投げられたグリーフシードを彼女に投げ返した。

「こうしてね」

 マミは、どこから取り出したのか、黄金色の光を発する大きな宝石ようなものを取り出す。

《あれは、ソウルジェム。魔法少女の魔翌力の源だよ》キュゥべえが、解説してくれた。


「このソウルジェムは、魔翌力を使うと、早い話が魔法少女として戦うとこんな風に濁ってきてしまうの」

 確かに良く見ると、彼女の持っているソウルジェムの光には、ぼんやりとした黒い点のようなものが
見える。

「その濁りを、このグリーフシードに移す」

 ソウルジェムをグリーフシードに近づけると、ソウルジェムの中にある黒い濁りがグリーフシードの
方へと移動して行ったのだ。

「こうすることによって、私たちは魔翌力を回復させます」

「はじめて知った……」

「私たち魔法少女が魔女を狩る目的の一つに、グリーフシードを集めて魔翌力を回復させることがあるの。
魔翌力が回復しないと、私たちは生きて行くことができませんから」


 そうか。彼女たちは戦いたいから戦っているわけではないのだ。


 “戦わざるをえない状況”におかれているのだ。


「じゃあ杏子、お前が俺の用心棒になるって言ったのは」

「ああそうだよ……。五郎は魔女を引き寄せやすい体質なんだろう? だから五郎の近くにいれば、
楽に魔女が狩れると思ってたんだよ……」

 何だか強がって言っているように見える。

 一緒にいた期間は短いけれど、俺には彼女が根っからの利己的な人間には見えなかったからだ。

 しかし、そんな杏子にたいしてマミは冷たく言い放つ。

「でも実際は、そうはならなかったのよね。動機が不純だと、結果にもつながらないのかもしれないわね」

 何もそこまで言うことはないだろう、と俺は思ったけれど、杏子が俺を利用しようとしていたこともまた事実だ。

「何が言いたい」

「佐倉さん、五郎さんのことは私に任せて貰えないかしら」

「なにぃ?」

「あなたでは、きっと彼のことを守り切れないと思うわ。だってあなたにとって、五郎さんは、
魔女を狩るための手段(ツール)でしかないのだから」

「……!」

 マミの言葉に、杏子は一言も反論せず、そのまま黙りこんでしまった。

「……杏子」たまらず俺が声をかける。

 すると、

「ああわかったよ」

 そう言って杏子はジャージの上着を脱ぎ捨てる。

「どうした」

「五郎、今日でお別れだ」
 
「何だって?」

「アタシじゃ用心棒失格だからな。まあ、用心棒なんてのは建前で、本当は魔女をおびき寄せるための
エサとしてアンタを利用してただけなんだけど」

「おい待て杏子」

「これから着替えるんだから付いてくるな!」

 そう言うと杏子はリビングから出て行った。

 杏子は、初めて会った時にきていたパーカーとショートパンツ姿に着替え、そして何も言わず、
マンションを出て行ってしまった。

「……」

 あっけない別れだ。

 出会いも突然だったので、また別れも突然なのだろうか。

   *

 手首のスナップを利かせて小石を投げる。
 街の光に照らされた川面に大きな波紋が広がった。

「また宿なしか……」

 昼間は小学生たちがよく野球をやっている河川敷のグラウンドの近くで、杏子は体育座り
をしながら川に向かって小石を投げていた。

 別に何か目的があるわけではない。ただやることがないからこうしているだけだ。

 金はまだいくらか持っていたので、ホテルに泊まることもできる。
 しかし、どこか別の場所に行こう、という気にはなれず、結局川に向かって石を投げていた。

 このままでは不味いことはわかっている。

 魔女、狩らないと。

 ここ最近、ほとんど魔女を狩っていないので、魔力の源泉であるグリーフシードが濁りはじめている。

「はあ……」

 溜め息を一つ付く。

 溜め息の原因はわかっていた。

 井之頭五郎。

 魔女を引き寄せやすい体質。それを利用したい、という気持ちは確かにあった。
 しかし、それと同時になぜか彼に甘えたいという気持ちが出てきてしまった。理由はわからない。

 今までずっと一人でやってきたし、これからも一人でやっていける自信はあった。

 にも拘わらず、五郎に対して甘えたいと思ったのはなぜだろう。

 杏子は、もう一度石を投げようとした。

 その時、

 川面に、一、二、三、四、五と連続して波紋が広がった。

「ああ?」

 見覚えのある光景。“水切り”だ。平たい石を水平に投げて、川の表面をピョンピョンと跳ねさせる遊び。

「上手いもんだろう。子どもの頃はもう少し多くできたんだがな」

「五郎?」

 振り返るとスーツ姿の男が小石を持って、それを川に投げた。

 再び石はピョンピョンと跳ねる。今度は四回だった。

「五郎? なんでこんなところに」

 スーツ姿の男は、先ほどまで彼女が考えていた男、井之頭五郎であった。

「なんでって、杏子。お前を迎えにきただろうが」

「はあ? 何言ってんだ」

「聞き返されるのはやっかいなんだが、もう一回言おうか?」

「いや、そういう意味じゃなくて。だいたいなんで、アタシがここにいるってわかった」

「彼女たちが教えてくれた」

 杏子は振り返る。

「ども」

 五郎の後方、数メートルの場所に、巴マミが申し訳なさそうな笑顔を見せる。

 そして、マミの肩の上にはキュゥべえもいた。

「杏子、お前は俺の用心棒をやるんだろう?」

「それはもう終わったことだ」

「終わってないだろう」

「え?」

「お前はあれからメシを食ったり文句を言ってるだけで、まだ一度も用心棒っぽいことを
していないじゃないか」

「それは、当り前だろう。アタシはアンタを利用していただけなんだから」

「そうだな。お前は俺を利用した。だったら杏子、俺もお前を利用させてもらう」

「何だって?」

「出て行くんだったら、用心棒らしいことをしていけ。じゃないと契約違反だ」

「契約?」

「俺は輸入雑貨を扱う商人なんだ。契約には煩いぞ」

「そんな……」

 一体何を言っているのだろう。

 大人はみんな身勝手で汚いやつらばかりだと思っていた。

 でも、この井之頭五郎という男はなんというか……。


「ん!?」


 五郎が、不意に何かに反応した。

「あ!」

 空が暗くなる。

 いや、夜なので暗いのは当り前だが、街灯や店、それに家の光のような人工的な光が遮断された状態の暗さだ。


 これは、魔女の結界――


「五郎さん! 佐倉さん!」

 マミの声が聞こえた。

「何か来るぞ!」

 五郎が叫ぶ。

 彼の言うとおり、川から巨大な蛇のような姿をした魔女が出現した。


   *


 目の前の川から出現した巨大な蛇の化け物。

 しかも三つの目玉が闇の中で青く光る。実に不気味な光景だ。

 更に、大蛇だけでなく、その蛇の周りには、おそらく使い魔と思しき無数の小さな蛇(普通の蛇よりは十分大きい)が次々に襲いかかってくる。


「ぬおっ!」

 家路で遭遇したベルゼブブ(ハエの化け物)の使い魔以上に、こちらの蛇は攻撃的な使い魔を持っている。

 間一髪でかわすも、また別の蛇が襲ってきた。


「オラオラ!」


「杏子!」


 魔法少女に変身した杏子は、槍を持って次々に蛇を打ち払っていく。

「無事か! 五郎」

「何とか」

 遠くから、パンパンと発砲音が響く。
 どうやら巴マミも魔法少女へと変身し、魔力で作りだしたマスケット銃で、蛇の使い魔を撃ち落としているようだ。

「杏子、マミのところへ行くぞ!」

 個々に戦っていたのでは囲まれてしまう。この使い魔の多さは尋常じゃない。

「くそっ」

 俺は走りだし、杏子も使い魔を追い払いながら後へ続く。

「五郎さん! 大丈夫ですか!?」

 マスケット銃を構えつつ、マミが聞いてくる。

「大丈夫だ。それより、態勢を立て直したい」

「どうすれば?」

「煙幕か何かで敵の目をくらませられれば」

「やってみます」

 そう言うと、マミはこれまで撃っていた銃よりも少し大きめのものを作りだし、構えた。

「行くわよ。耳をふさいで」

 俺はマミに言われた通り、耳をふさぎ、身体を低くした。

 腹に響く音とともに、弾が発射された。着弾点からは白い煙が出てくる。
 こういうこともできるのか。魔法というものは実に便利だ。

「杏子、壁を作れるか? 一定時間敵からの攻撃を防げればいい」

 今度は杏子に向かって頼んでみる。

「柵みたいのならできるが」

「それでいい」

「わかった。それっ」

 杏子の掛け声とともに俺たちの周囲には、規則正しく並んだ槍が張り巡らされた。
 確かにこれなら敵の攻撃も防げそうだ。

「あまり長くは持たねえぞ」

「充分だ」

《なるほど、確かにこれなら少しの間だけでも安全が保てそうだ。でもこれからどうするんだい?》

 足元を見ると、巴マミの肩からおりたキュゥべえが相変わらずの無表情でそんなことを言っていた。

「杏子、マミ聞いてくれ」

「なんだよ」

「なんですか、五郎さん」

「恐らくあの化け物、キミたちの言葉で言う『魔女』はかなり強いと思う」

「んなことは分かってるよ。さっきは油断しただけだ。早く倒しに行かせてくれよ」と杏子は言う。

「待て杏子。お前一人で適う相手じゃない」

「なんだと?」

「キュゥべえ、どう思う?」

 俺はここで、キュゥべえに話を振る。魔女についてはこいつのほうが詳しいと思ったからだ。

《あの魔女は強力だよ。少なくともさっきマミが戦ったハエの魔女よりも数段強い》

「杏子とマミ。彼女たちが単独で戦って勝てると思うか?」

《魔翌力の総量から見ると、難しいかもしれない》

「そんな……」マミはショックを受けたようで、静かにそうつぶやいた。

「……」一方、杏子は黙っている。

「ということだ。つまり、二人が別々に戦うのは得策じゃない」

「だったら、私が佐倉さんと協力して戦えと?」

「その通り、飲み込みが早いな」

「アタシは嫌だね」

 しかし案の定、杏子は反対した。

「マミがいたって足手まといだ。アタシ一人でやる」

「杏子」

「魔法少女の魔翌力の差が戦力の決定的な差でないことを見せてやる」

「杏子!」

 俺は思わず語気を強める。

「……なんだよ」

 俺は一呼吸置いてから、彼女に語りかけた。

「マミと協力したら焼肉に連れて行ってやる」

「なに?」

 杏子の表情が変わった。本当は素直に協力したいけど、彼女の性格上すぐに「はい」とは言えないのだろう。

「私は骨付きカルビが食べたいですね」

《僕はタン塩だね。レモン汁をつけて食べるんだ》

 どさくさに紛れてマミだけでなく、白い生物も一緒に食べようとしているけれど、とりあえず、そのことは気にしないことにした。

「どうだ、杏子」

「……わかった」

「そうか」

「けど、勘違いするなよ、巴マミ」

「え?」

「アタシは焼き肉のために協力するんだ。別にお前と仲良くなりたいとか思ってるわけじゃないからな!」

「ええ、わかってるわ」

 杏子の言葉に、マミは全てを理解したような笑顔で応じた。

「二人とも、作戦を説明する」

「はい」

「わかったよ」

 俺は杏子とマミの二人に、自分の考えた作戦を説明する。
 仕事でもそうだが、いくら協力するといっても、事前の打ち合わせなしに協力できるほど甘くはないだろう。

「じゃあまず、マミ」

「はい」

「前に倒した、あのハエの魔女のことは覚えているよな」

「ええ、ついさっきのことですから」

「アレのトドメを刺した時、でっかい大砲みたいなのを出したろう」

「はい」

「あれは魔翌力を高めれば威力を増すことができるのか?」

「そうですね。でも……」

「でも?」

「威力を高めるためには少し時間をかけて魔力を溜めなければいけません。その間無防備になってしまうので」

「最大威力だと、どれくらい?」

「それは……、1分……、いえ、50秒くらいでしょうか。それくらいあれば」

「わかった。じゃあ俺が囮になって時間を稼ぐ」

「え?」

「俺の身体は魔女を引き寄せやすいんだろう? だから、俺が囮になる。その間に魔力を高めて、隙を見て魔女本体に撃ちこんでくれ」

「……はい」

「おい、それでアタシは何をすればいいんだ?」

 杏子が聞いてくる。

「杏子は、マミの護衛をたのむ」

「はあ?」

「さっきマミが言っただろう。魔力を溜めている間、彼女は無防備になるんだ。使い魔どもに襲われたりしないよう、護ってやってくれ」

「おい、そしたら」

「どうした」

「そしたら五郎が無防備になっちまうじゃねえか!」

「俺は……、俺は大丈夫だ」

「本当だな」

「ああ」

「約束だぞ、焼肉」

「わかった」

 大きな音とともに地面が揺れる。

 どうやら作戦タイムは終了らしい。

「たのむぞ、マミ」

「ええ、了解です。五郎さん」

「杏子も」

「死ぬなよ」

《僕は五郎に付いて行くよ》

 キュゥべえは、そう言って俺の肩に乗る。重さを全く感じない、本当に不思議な生物だ。

「お前、戦えるのか」

《僕は戦えないよ。でも、見張りくらいはできるかなと思って》

「そうかい」

《キミにはここで死なれては困るからね》

「なんだって?」

《なんでもないよ。さ、急ごう》

 杏子が魔力で作った、“槍の塀”が崩れた瞬間、無数の蛇がこちらに襲いかかってきた。

「くおらあああ!!」

 その蛇どもを槍でなぎ払う杏子。

 一方マミは、目を閉じて精神を集中し始めた。

 こちらも役割を果たさなければならない。そう思い、俺は走りだす。

《五郎!、後ろからくるよ!》

「わかってる」

 追いかけてくる使い魔をかわしながら俺は走った。ただ、目標はこんな小物ではなく魔女の本体だ。

「こっちだあ!! かかってこい!!」

 俺は腹から声を出して、魔女の本体に呼びかける。巨大な三つ目の蛇がゆっくりとこちらを向く。

「俺を食ってみろ! このノロマ!!」

 怖いという思いもあったけれど、大声を出すと多少の恐怖心が薄れる。


「シャアアアアアアアアアアアアア」


 蛇が巨大な口を開く。

 ハエの魔女、ベルゼブブに比べても段違いの迫力。これが魔女の強さというものなのか。

 俺は再び走りだす。

 後ろを振り返ると、複数の蛇が一つにまとまっていた。

「なんだ?」

 小さな蛇が一つにまとまると、それが巨大な蛇を形作った。思わず背筋が凍る。

 魔力の強さも段違いなら、使い魔の気色悪さも段違いだ。

「うおおおおおおお!」

 どれくらい走っただろうか。一秒が数分にも数時間にも思える。これが命がけの走りというやつか。
 随分久しぶりの感覚だ。

 足がふらつく。頭がクラクラする。
 魔女の結界内にいるだけでも精神的に不安定になるのに、使い魔や魔女本体から襲われ、それから全力で逃げているのだからなおさらキツイ。

 頭が変になりそうだ。

 俺は進路を変え、魔女の本体のいる方向に走り出した。

《何やってるんだ五郎、そっちは本体だよ!》

 キュゥべえが叫ぶ。

「わかってる」

「キシャアアアアアアアアアアア」

 不気味な音が聞こえる。三つ目の大蛇は俺の存在に興奮しているのか。

 キレイな女性が俺を見て興奮するのならまんざらでもないが、蛇に興奮されても嬉しくはない。

 水しぶきが飛んだ。


 きたぞ!

 俺は心の中で叫ぶ。

 これまで身体の約半分を水の中に沈めていた大蛇が、陸に上がってきたのだ。

 魔女の全身がその姿を現した。


 陸にのぼった、河童。そんな言葉を思い出す。


   *


 マミが精神を集中している間、杏子は彼女と自分に襲いかかってくる使い魔を叩き落としていた。

 戦いはそれほど辛くない。むしろ楽な方だ。

 少し離れた場所で、五郎が自分の身を危険にさらして囮になっているからなのだろう。

「おいマミ、まだか!」杏子は叫ぶ。

 マミは今、精神を集中しているので返事を期待しても無駄。
 それはわかっていたけれど、魔法少女でもない五郎が無防備な姿で必死に逃げていることを考えると、声を出さずにはいられなかったのだ。

「佐倉さん、私、貴方のこと誤解していたわ」

「え?」

 不意にマミが話しかけてきた。

「ごめんなさいね。あなたはとてもいい子よ」

「なに言ってやがんだ!」

「それじゃあ、あなたの“愛しの王子様”を救いましょうか」

「おい! だからなにを……」

 マミが胸元のリボンをほどく。すると、そのリボンは瞬く間に、巨大な大砲へと形を変えて行った。

「いくわよ、さがってなさい」


 不意に、水から出てくる魔女。


 絶好の的だと、杏子は思った。


「ティロ・フィナーレ!!!!!!!」


 眩しい光が、魔女本体を飲み込んだ。


    *


「はっ!」

 気がつくと夜空が見える。

 都会では珍しい星の瞬くキレイな夜空だった。

《いやあ、危ないところだったね、五郎》

「キュゥべえか」

 すぐ横に白い生物がいた。よく見ると、自分は地面に尻餅をついた状態でいたのだ。実に格好の悪い状態だ。

《それにしても、キミは普通の人間なのに実に無茶をするんだね》

「別に……。それより杏子たちは」

《やれやれ、キミは自分よりもあの子たちの心配をするのかい? わけがわからないよ。まあ大丈夫さ、彼女たちは生きているよ》

 そう言ってキュゥべえは視線を動かす。俺もその視線の先を目で追ってみた。

「おおい、五郎! 無事だな」

「大丈夫でしたか、五郎さん」

 杏子とマミの姿が見える。
 二人とも魔法少女の姿ではなく、元の服つまり杏子はパーカー、マミは学校の制服に戻っていた。

「なんだ五郎、腰が抜けて立てねえのか?」

 杏子がニヤニヤしながら聞いてくる。

「今日はちょっと疲れたんでね」

「杏子ったら、さっきまで泣きそうな顔をしていたのよ」悪戯っぽい笑みを浮かべてマミが言う。

「してねえよ」

「それより魔女は」

「大丈夫さ。ホレ」

 そう言って杏子は、ポケットから黒い球のようなものを見せる。

「グリーフシードもバッチリだ」

 グリーフシードを落としたということは、魔女を倒したと理解していいのだろうか。

「グリーフシード、使わなくていいのか?」

「ん、そういえばそうだな」そう言って、杏子は自らのソウルジェムを取り出す。

 よく考えてみたら杏子のソウルジェムを見るのはこれが初めてかもしれない。

 杏子の持つそれは、彼女の性格の通り、燃える炎のような赤い光を放っていた。

「あ、マミ」

「なあに?」

「お前先に使えよ」

「どうしたのよ急に」

「マミが魔女を倒したんだろ? だから先に使えって」

「別に大丈夫よ。私は戦う前に使ったばかりだから」

「一番の功労者が先に使うべきだろうが」

「あら、あなたも心配しながら戦っていたから疲れたんじゃないの?」

「別に五郎のことなんて心配してねえよ」

「あら、私は五郎さんのことだなんて言ってないわよ」

「なにいい?」

 ついさっきまでいがみ合っているように見えた二人が、妙に仲良くなっているところを見て、俺は少しだけ嬉しくなる。

 ただ、それを言うとまた杏子がへそを曲げてしまいそうなので、黙っていることにした。



   つづく



【次回予告】

 みなさん、こんばんは。ここでは、はじめまして。

 鹿目まどかです。

 さて、次回は五郎さんたちが川崎で焼肉を食べるお話だそうです。

 いいなー、私も食べたいなぁ。

 みなさんは、焼肉好きですか?

 私は大好き!

 一番好きなメニューは、センマイです!

 では次回も、見てくれたら、それはとっても嬉しいなって。



  【解説】

 ● 水切り(石投げ、石切りともいう)

 川でよくやる遊び。

 できるだけ平らな石を、広島東洋カープの林昌樹投手のようなサイドスローで投げることにより、横回転で川面をピョンピョンと跳ねさせる。

 愛好家も多く、国際大会が開かれるほど。




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