孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~ 第五話 怠惰

2011年11月02日 19:22

孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~

127 : ◆tUNoJq4Lwk [saga]:2011/05/31(火) 20:55:24.94 ID:caJxe4O5o


   第五話

    怠惰


 春の眩しい光が木々の青さを際立たせる。

 東京都練馬区にある石神井公園は、井之頭公園や代々木公園とはまったく違う雰囲気を
かもしだしていた。

 近くに有名な観光地や繁華街が少ないせいか、ここを訪れる人々の顔ぶれも何か違って見える。

 世間では日曜日のようで、訪れている人も夫婦や家族連れが多い。

「いい天気ですね、五郎さん」

「ん、ああ」

 そして俺はなぜか、この公園を巴マミと一緒に歩いていた。


 ――話は今朝に遡る。

 この日、俺は予定していた商談がキャンセルになったこともあって、暇を持て余していた。

 こまったぞ、せっかく早起きをしたのに。

 個人で商売をしていると、こういういおともままある。

 たまっていた事務仕事をやるのもいいのだが、どうも気乗りしない。

 奥の部屋で寝ている杏子は、まだ起きていないようだ。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。宅配便でも来たのか。

 しかし違った。

「おはようございます五郎さん」 

「マミか……?」

 杏子と同じ魔法少女の巴マミが朝から訪ねてきたのだ。
 杏子と違って、彼女にはちゃんとした家があるので、俺の家に転がり込むようなことはしない。 

 それにしても今日の巴マミはいつもと様子が違う。

「その服……」

「あ、変でしたか?」

「とりあえず、中に入ったら」

「では、お邪魔します」

 巴マミは、いつもの学校の制服姿ではなく私服姿だった。

 上着は彼女のイメージカラーである明るい黄色を基調としたコーディネートで、ベージュのロングスカートが大人っぽさを演出している。

 まだ中学生のくせに。

「コーヒーくらいしか出せないけど」

「お構いなく」

「それで、今日は何の用できたんだ? 学校は?」

 マミは杏子と違い学校に通っていた。

「今日は日曜日ですよ、五郎さん」

「あ、そうか」

「それで、用なんですけど」

「うん」

「私と、お出掛けしませんか?」

「はい?」

「だって、せっかくの日曜日ですよ。しかもこんなにいい天気」

「いや、だってそんな急に言われても……」

 そんな話をしていると、杏子が起きてきた。

「ふああ、誰か来てんのか?」

 杏子はマンションでは相変わらず、ジャージ姿だ。そしていつものように髪を結んでいない。

「あら杏子、今お目覚め?」

「んだよ、なんでマミがいるんだ? 魔女か?」

「魔女じゃないわ」

「じゃあ何だよ」

「五郎さんとお出掛けをしようと思って」

「お出掛け? なんか子どもみたいだな」

 杏子はあまり感心なさげにつぶやく。

「五郎さんは今日、何か予定があるですか?」

「いや、予定はあったんだが、今朝キャンセルになった」

「じゃあ、丁度よかったじゃないですか」

「ああ、でも」

 俺は杏子のほうをチラリと見た。

「アタシはパス」

「ん?」

「今日スカパーで、見たいドラマが連続でやってんだ。それを見て過ごすことにするよ。出かけるんなら、五郎とマミで行ってくりゃいいだろう」

「あら、いいの? 杏子」マミが少し微笑を浮かべながら言う。

「かまわんよ」

「五郎さん、いいですか? 私と二人でも」

「まあ、別にいいか」

「じゃあ、決定ですね」

「ふむ……」

 なんだか変な展開になってきたぞ。俺はそう思いつつ、残ったコーヒーを飲みほした。



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   *


「この公園に来たのは初めてです」

 公園の湖を眺めながらマミは言った。そよ風がふき、彼女独特のくるくると巻いた長い髪が静かに揺れる。

「あら、どうしました?」

「いや、何でもない」

 憂いを含んだ瞳に見とれていた、なんて言えるはずもない。

「ここの公園は、来たことがあるんですよね」

「15年くらい前にな」

「誰と来たんですか?」

「……誰だっけ。家族だったような」

「家族……」

「どうした?」

「いいえ、何でも」

「マミの家族はどうしているんだ?」

「はい?」

「いや、家族。親御さんとは」

「ああ、そういえば話していませんでしたね」

「ん?」

「私の……」

「どうした」

「いえ、何でもありません」

 マミは、その場を取り繕うように、軽く笑って見せた。


   *


 自動販売機で、俺はチェリオのメロン味を買う。

 昔、映画館などで買ったことがあったからだ。当時はビンだったチェリオも、今はペットボトルになっている。

「マミも何か飲むか?」

「いえ、私は」

 マミは遠慮したようだ。ここが杏子とは違うところか。

 俺はペットボトルのキャップを開けて、一口飲む。

「変わらないな。このわざとらしいメロン味」

 かき氷のシロップのような味はまだ健在だったようだ。

「なんだか不思議な表現ですね」

「そうかな」

「ちょっといいですか?」

 そう言ってマミは俺からボトルを受け取る。

「あ……」

 彼女は、俺と同じようにチェリオを一口飲んだ。

「確かに、わざとらしいメロン味ですね」

 そう言って、マミはボトルを返す。そして、黄色のハンカチで口元を上品に拭いた。

 関節キスというやつだろうか。マミはそれほど気にしている様子はない。
 ということは俺のほうが気にしているのか?

 とほほ、これじゃどっちが大人だかわからないじゃないか。

 同じ魔法少女でも、杏子と違ってマミとの距離の取り方がよくわからない。

 彼女のことをあまり知らない、ということもあるのだろうか。


 そういっても、俺は杏子のこともあまり知らないのだが。


 石神井公園には休憩所のような場所がある。
 座敷になっており、そこで食事をすることもできるのだ。

 ちょうどお昼時ということもあって、俺とマミはそこで昼食をとることにした。

 休憩所からは公園の緑がよく見え、また心地よい風が通る。ちょうどいい季節だと思った。
 もう少し早かったら、寒く感じたかもしれない。

「いい場所ですね」

「ああ……」

 俺は、外の自販機で買ったチェリオの残りを飲みながら風を感じた。

 周囲を見回すと、家族で来ている客が多い。風に乗って家族の会話が聞こえてくる。

「向こうの木にムラサキサギが来ているんだってさ」

「へえ、珍しいの? パパ」

「アオサギの仲間で、珍しいらしいよ」

「アオサギ、アオサギ」

「たっくんも見たいんだね」

「ああ、ビールもう一本もらっていいかしらあ」

「もうママ、飲み過ぎだよ」

「ノミスギ、ママ、ノミスギ」

 そういえば、まだ注文をしていなかった。 

「あ、すいません」

 近くを通る女性を呼びとめる。お盆を持っているので店員で間違いないだろう。

「カレー丼ください」

「カレーライスじゃなしに、カレー丼のほうね?」

「はい。マミはどうする」

「じゃあ、私はきつねうどんを」

「はい、わかりました」

 注文を聞き終えた店員が足早に厨房のほうへと向かった。

「こういう所ですまないな。もう少しいい店とかを知っていたらいいんだが」

「いえ、大丈夫ですよ。むしろこういう所で食べてみたかったんです」

「こういう場所で食べた経験は」

「あ……、ありません」

「なんかマミは育ちがよさそうだから、家族でこういう場所に来たりはしないんだろうな」

「……ん」

「どうした」

「あ、いえ」

 家族の話をすると、彼女は考え込んでしまう。一体、何がいけないのだろうか。

 家族と不和なのか?

「気に障ったんなら謝る」

「いえ、そんな。気にしないでください」

「でも……」

「お話しますね。家族のこと」

「え、ああ」

「私の両親は、とても忙しくてあまり私に構ってくれませんでした」

「……」

「だからこういった場所に来ることもなかった。少し前の私なら、あんなふうに楽しげに団らんしている家族連れをみていたら辛くなっていたかもしれません」

 マミの視線の先には、若い両親と、中学生くらいの少女。そてに1~2歳くらいの子どもが座って、何かを食べている光景があった。

 こういった場所には、ありふれた場面だ。

「ある日、めずらしく私の両親が私を連れて食事に行こうと言ったんです。
 数年ぶりの家族での食事に、私はとても嬉しくなりました。もう、本当に。でも――」

「でも?」

「その時、私たちの家族の乗った車は、交通事故に巻き込まれてしまい、運転席で運転していた父と、助手席に乗っていた母は死亡。私も瀕死の重傷を負ってしまったのです」

「そんな……」

「その時、私はキュゥべえと出会いました」

「キュゥべえと?」

「私たち魔法少女は、キュゥべえと契約する際に、何でも一つだけ願いをかなえることができるんです」

「ああ、それなら聞いたことがある」

「私の願いは、自分の命を救うこと」

「……」

「考えている余裕なんてなかった。でも、自分の命は救われたけれど、私にはもう両親は……」

「すまないマミ」

「え?」

「色々と悪いことを言ってしまった。知らなかったとはいえ、キミの前で家族の話なんてしてしまって」

「いえ、いいんですよ。誰だって家族は大切ですからね。私だって……」

「……マミ」

「……」


「お待たせしましたあ」
 

 沈黙を破るように、店員が先ほど頼んだものを持ってきてくれた。

 ある意味ナイスなタイミングだったのかもしれない。

 目の前には、食欲をそそる香りをはなつカレー丼がある。

「とりあえず、食おう。マミ」

「え? はい」

 出されたカレー丼は、やや黄色味が強く、鶏肉が入っていた。あと、やたらグリーンピースが多い。

 だがそれがいい。

「ほー、うまそうだな」俺は割り箸を取り出す。

「あ、五郎さん。七味を」

「あ、ああ……」

「……」

 気持ちの良い風が吹く。

 とてもゆっくりとした時間が流れてはいるけれど、何か気が重かった。

 原因はわかっている。食事の前にあまり重い話はするべきじゃないんだ。


   *


「ごめんなさい」

 来た道を戻っていると、急にマミが声を出す。

「どうしたんだ急に」

「私のせいで、暗くなってしまって」

「いや、気にすることじゃない」

「だって、五郎さんて食事の時間を楽しみにしているんでしょう?」

「そりゃ、まあ」

「あんな話、こんなところでするべきじゃなかったですよね」

「いや、そんなことは」

 どう言えばいいんだ?

 確かにいい気持ちではなかった。それはそうだろう。悲しい話を直接聞いて、上機嫌になる奴のほうがおかしい。

 それに、悲しい事情なんて誰だって抱えていることだ。

 ……いかん、そんなことを言っても慰めにはならんな。

 大人ぶってはいるけれど、彼女はまだ子どもなのだ。

 俺たちのように心が鈍感にはなっていない。自分と同じ風に考えていは行かん。

 ではどうすればいいのか?

 そもそもなぜ俺が悩まなければならんのだ。

 よく考えて見たら、他人のことでここまで気を使ったのは久しぶりかも知れない。

 かける言葉がない。今はただ、こうして黙って歩いているしかないのかな。


「あ……」


 くそっ、こんな時に。

「五郎さん」

「ああ、わかっている」

 空が急に暗くなる。夕立ではない。

「こんな人が多いところに出没しやがって」

「周囲の人たちにも被害が出ますね」

 俺の目の前には、先ほどとは違う光景が広がった。

 魔女の結界。

 それはそうなのだが、今回のは一味違う。

「なんだこりゃ」

 先ほどは見られなかった巨大な建物がそこにあった。

 古い洋館のようにも見えるそれは、まがまがしい空気を発している。

「この中に魔女が」

 ほっといて帰る、というわけにはいかなそうだ。

「五郎さん、私いきます」

「ちょっと待てマミ。相手がどんなやつかもわからないのに」

「それはいつものことです」

「だが、無暗につっこむのは不味い。ここは様子を見るか、そうだ。杏子を呼ぼう」

「そんな時間はありません! グズグズしている間に、ここにいる人たちが被害を。小さい子どもだっているのに……」

「マミ?」

「……ごめんなさい。ちょと取り乱してしまって」

 マミは大きく息を吸った。

「こんなにも瘴気を発している魔女です。少しでも始末が遅くなれば被害は拡大するでしょう。それに――」

「それに……?」

「さっき見たような家族が、離ればなれになってしまうようなことは……、嫌です」

「……」

「だから私、行きます」

「わかった」

「五郎さん」

「俺も行く」

「え?」

「だから俺も一緒に行くって言ってるんだ」

「危ないですよ」

「その危ないところにお前は行こうとしてるんじゃないか」

「私は魔法少女ですから」

「俺だって何回か実戦は経験した。足手まといにはならない」

「でも……」

「危険なことをするのは、本来大人の役目だ。だから――」

「……わかりました」

「マミ……」

「でも、絶対に死なないでくださいよ。あなたにもしものことがあったら」

「大丈夫だよ」

「杏子に怒られてしまいますからね」

「そうかな」

「ええ」

 こうして、俺たちは古い洋館のような形をした魔女の結界へと突入することになった。


   *


 建物の中は意外と広い。

 いや、広いのか狭いのかよくわからな。とにかく何がどこにあるのかわからない。

 ヒラヒラと舞う蝶のようなものが襲ってきた。

 マミは素早くそれらを撃ち落とす。

「マミ! 奥の方から嫌な感じがする」

「はいっ! わかりました。五郎さん、私から離れないでくださいね」

「ああ、わかった」

「行きましょう」

 マミはそう言って手を出す。

「ん?」

「だから手を。離ればなれになったら、いけないでしょう?」

「ああ」

 人と手をつないで動くなんて、いつくらいぶりだろう。小学校か幼稚園以来か。
 杏子の手も柔らかかったけど、マミの手はなんだか細く感じる。

 使い魔をかわすため、早足での移動。ついて行くだけで精いっぱいだ。

 マミは魔法少女の状態なので、身体能力が強化されているのだろうけど、それでも大人として、また男としてのプライドが頭の隅をちらつく。

 思わず、手が離れそうになったとき、俺は彼女の手をぎゅっと握りしめる。
 すると、マミのほうも、強く握り返してくれた。

 心配しなくてもいい。

 言葉を交わしたわけではないけれど、そんな風に思っているのではないかと、俺は勝手に解釈した。

 くそ長い廊下を走りきると、目の前に巨大な扉が現れた。

 床が揺れる。

 ああ、この奥に何かがいる。恐らくこの結界の元凶がいるのだ。

「大丈夫ですか五郎さん」

「ああ、大丈夫」

「では、行きます」

「せーのっ」

 俺とマミは、二人同時に扉を蹴り開けた。

 扉は物凄くやかましい音を立てて開く。すると、扉の奥から生温かい風が吹き出してきた。

 気分が悪い。

 それでも意を決して中に入る。こいつを除去しない限り、多くの犠牲が出てしまうかもしれないからだ。


「な!」


 頭に牛のような角を生やした巨大な人型の魔女が、椅子に座っている。

 部屋もデカイが魔女も巨大だ。

 靄(もや)みたいなものがかかっており視界が悪い。人の呪いや恨みといったところだろうか。

「五郎さん、さがって!」

 マミは俺を後ろに下げる。

「何の罪もない家族の団らんを邪魔する魔女は、許さないんだから。この巴マミが、おしおきしてあげる」

 そう言って、マミは複数のマスケット銃を現出させた。

 床に突き刺さった何十本とあるマスケット銃の姿は何度見ても壮観だ。

 マミは銃を抜き去ると一発、また一発と打ちこむ。魔女の周囲にある靄に紛れたハエのような使い魔を一匹一匹確実にしとめていく。

 だが魔女本体には、未だ効果的な打撃は与えられていない。

「グフウウウウ」

 魔女がその太い腕を大きく振り上げた。

「マミ!!」

 そして腕が振り下ろされる。激しい衝撃が世界を揺らす。

「ゲホッ、ゲホッ」

 土埃が立ったけれど、マミの姿がない。

 どこだ?

「こっちよ、魔女さん」

 天井を見ると、マミは天井から伸びているリボンにぶら下がっている状態であった。
 左手はしっかりとリボンを握り、右手にはマスケット銃を持っている。

「くらいなさい!」

 マミは射撃を開始する。

 いつもより魔力を込めているらしく、一発一発が強力だ。

「ウガアアアア!!」

 魔女の叫び声。顔の辺りをやられて苦しんでいるようだ。顔は女の命。魔女もそうなのだろうか。
 と言っても、この魔女は筋骨隆々だし、どう見ても女には見えないのだが。

 顔を上げた魔女がマミに対して拳を突き出す。

 しかし、のれんに腕押しとはこのこと。マミは素早くリボンから手を離すと、床に着地。
 すかさず敵の足元に向けて射撃を行い、そして駆け出す。

 危ない!

 魔女は巨大だ、踏みつぶされるかもしれない。
 それでもマミは打ち終わった銃を逆側に持ち、魔女の脚のそれも“弁慶の泣き所”と呼ばれる脛の部分にブチ当てる。

「ゴウオオオオオ!!!!」

 確かにこれは痛いかもしれない。俺は少し魔女に同情した。

 しかし魔女の攻撃はここでは終わらない。

 素早く離脱しようとするマミに対して、敵は再び使い魔を現出させてきた。

 複数のハエが高速でマミに襲いかかる。サッカーボールくらいの大きさのハエだが、あれに当たると痛そうだ。

 マミは素早く走って逃げるけれど、ハエはまるで追尾型のミサイルのようにしつこくマミを追いかける。

「くっ」

 マミは振りかえり、現出させたマスケット銃を発射した。
 しかし弾幕が足りないのか、撃ち落とせなかったハエが一気に彼女の元へ迫る。

 次の瞬間、大きな爆発音が部屋に響いた。

 爆発の後に煙がもくもくと立ち上る。

「マミ! 無事か!!」

 思わず声を出す。

「ええ、無事よ!」

 マミの声が聞こえた。

「ちょっとやられちゃったけどね」

「マミ!!」

 よく見ると、先ほど爆発があった場所の床がめくれている。

 そして、マミはその場所から数十メートル離れた場所にいた。

 彼女の服は、変身したばかりのようなキレイなものではなく、爆発に巻き込まれたのか、ホコリや煤などで汚れていた。

「負けないわよ」

 魔女の強烈な拳がマミを襲う。

 彼女はそれを素早く避けると、射撃を行う。

 まずいな。これじゃジリ貧だ。

 再び例の追尾した後に爆発するミサイルみたいなハエを出されたらただじゃすまない。
 現にマミの様子を見れば、少なからずダメージをくらっているようだ。

 しかも敵は巨大。
 細かい攻撃をいくつ当てても勝てるとは思えない。

 もっと大きい攻撃を。

 俺は、以前杏子とマミが協力して魔女を倒した時のことを思い出す。

 いかん、あの時と違って杏子がいない。

 だがここで俺が何もしなければマミの命が危ない。
 せっかく助かった命なのに。両親が死に、一人きりになってしまう。それでも助かった命。
 戦う運命を課されたとしても、生きようとした彼女の命。


 ここで失わせるわけにはいかないだろう!


 気がついた時、俺はもう走り出していた。

 最近はいつも走っている気がする。

 再び魔女が五匹の使い魔を出す。相変わらずハエの形をしたものだ。

 ハエは大きく弧を描くように飛ぶと、そのままマミめがけて突っ込んで行く。


「こっちだ!!」


 俺はハエの真後ろに立って叫ぶ。

 来るのか?

 来ないのか?

 正直賭けだった。

「はっ」

 俺の声が聞こえたのか、五匹のハエは大きく上昇してからこちらの方向を向いた。

「五郎さん!?」

 マミの声が聞こえる。

 しかし今はそれに答える余裕はない。

「こっちだ!」

 俺は再び走りだした。
 俺にはマミのように使い魔を撃ち落とす手段はない。だが、頭は使える。

 走りだす方向は決まっていた。本体のいる方向。そう、魔女の本体に向かって走り出したのだ。

「グオオオオオ」

 腹に響くような不快な鳴き声を出した魔女がこちらの存在に気づき、攻撃しようとしてくる。

 しかし、素早く飛び回るハエとは違い、魔女の動きはやや緩慢だ。そこに勝機があるかもしれない。

「来い!」

 俺は巨大な魔女の脚元に飛び込むように走りだす。

 そして股の間を走り抜ける。

 すると、後方から爆発の衝撃と音が鳴り響いた。

 俺はその爆発に思わず倒れこむ。魔女の脚元には煙が立ち上り、敵は片膝をついた。

 ザマー見ろ。だが安心したのもつかの間、誘爆に巻き込まれなかった二匹のハエがこちらに向かってきた。

「くそっ」

 もう一度片膝をついている魔女の股下を抜けるわけにはいかない。

「うおっ」

 気がつくと、いつの間にか俺の胴体には黄色いリボンが結びつけられており、俺の身体は宙を舞った。

 二匹のハエが壁にぶつかって爆発する。俺はそれを、空中で眺めていた。

 爆発自体は小さいけれど、あんなのが身体にぶつかったらただではすまないだろう。
 俺の身体が床に着地すると、目の前にマミが立っていた。

「五郎さん! 下がってって言ったじゃないですか!」

 マミは珍しく感情をあらわにして怒る。

「すまない、どうしても心配で」

「でも」

 再び魔女が立ちあがり、こちらに向かって足をのばしてきた。俺たちを踏みつぶそうというのか。
 だが動きはまだ遅い。

「こっちです!」

 マミに手を引かれて魔女の攻撃から逃れる。

 だがどうする? 今のマミでは攻撃は効きそうにない。かといって杏子はここにはいない。

 出入り口の方を見ると、先ほどの爆発に巻き込まれたのか、崩落していた。

 ここから出られそうにない。グズグズしているうちに俺たちは閉じ込められてしまったのか。

 だったら、もうあれを倒すしか方法はない。

 何か効果的な方法。


 弱点――


 そうだ、どこか弱点はないのか。

「マミ! 魔女に弱点はないのか」

「何か核になる部分はあると思います。でも」

 人に弱点があるように、魔女にも必ず弱点はあるはずだ。
 今まで全体をぶっ飛ばしていたけれど、もっと効率の良い戦い方もあるのではないか?

 弱点、魔女の弱点。俺は逃げながらも、横目で魔女の身体を観察する。
 2本の大きな角、巨大な手足、そして尻尾。顔には不快な仮面のようなものがついている。尻には尻尾。

 背中は?

 背中はどうだ。

 俺は魔女の背中をまだじっくり見てはいない。

 どこかに魔力の源泉のようなものがあるのではないか?

 俺は思考を巡らす。

 例えば、魔法少女にとってのソウルジェムのようなものが魔女にあるとすれば。

 不意に目の前に爆発が起こる。

「きゃあ」

「うわ」

 くそ、出られない、倒せない。これではどうしようもうない。

「マミ! 目くらましは出来るか」

「え? はい」

「すぐにやってくれ」

「はい!」

 マミは銃を現出させ、それを魔女に向けて撃つ。

 眩しい光が顔の前で発せられた。

「グオオオオオオ」

 魔女は顔を抑えて苦しむ。

「今だ! こっちへ」

 俺は魔女の後方に回り込む。注意して見ろ、何かがあるはずだ。

 背中、いや、その上。俺は巨人の首筋にぼんやりと光る黒紫色の光が見えた。

 もしかして、あれが?

「マミ! 見えるかあの首筋の」

「あれが弱点ですか?」

「わからん、だが狙ってみる価値はありそうだ」

 しかし、マミが射撃を始める前に魔女は復活し、振りかえる。これでは目標が見えない。

 それと同時に、ハエ型の使い魔をまた飛ばしてきた。今度はさっきよりも数が多い。

「逃げます! 五郎さん!!」

「おお!」

 俺たちは壁際を走りだす。
 だが敵もバカではないようで、魔女本体が俺たちの逃げる方向を先読みし、攻撃してきた。
 巨大な拳が俺たちの前方で壁を突き破る。
 二人は急きょ方向転換をして、魔女本体の方向へ向かった。だが敵も同じ行動を何度もやらせてはくれない。

「くらいなさい!」

 マミはいつの間にか現出させた銃で魔女の顔を狙う。

 閃光弾。

 眩しい光が再び魔女の視力を奪った。しかも威力はさっきよりも強力のようだ。

 
 チャンス!


 俺たちは素早く魔女の後方へと行く。今度こそ狙いを付けて弱点を。

 だがここで、俺たちは大事なことを忘れていた。

 ハエの使い魔がまだ残っていたのだ。

「危ない!」

 激しい爆発が俺の身体を吹き飛ばす。だが、痛みはない。
 手榴弾のような破片はあまり出ないので、直撃を避ければ何とかなるのか。

 だが、うつ伏せの状態で床にたたきつけられたはずなのに、柔らかい感触があるのはなぜだろう。

 目を開くと、目の前にはマミの胸があった。

「くはっ」

 俺はマミの胸に顔をうずめていたのだ。

 だが恥ずかしがるよりも先に、彼女の身に起こった異常に気付き、俺は血の気が引いた。

「マミ、目が!」

「大丈夫です」

 マミは目から血を流している。顔を負傷したようだ。

「傷は魔力で回復できます。だから今は」
 
「目が見えないんだろう!」

「う……」

 マミの目線が明らかに別の方向を向いている。

 ハエの使い魔はいなくなった。魔女はまだ動けない。チャンスは今しかないというのに。

「マミ、お前の銃は俺には使えないのか」

「無理です五郎さん。私の武器は私にしか」

「だったら――」

 もうすぐ魔女は立ち上がる。ハエの使い魔も再び出てくるだろう。

 その前に――


「だったら、俺がお前の目になる」


 昔読んだ漫画の中にこんな展開があったはずだ。

「え?」

「銃を出してくれ。俺が狙いを付ける。目標はすぐそこだ」

「は、はい。わかりました」

 そう言うと、マミは帽子の中から銃を現出させ、構える。

「よし、そのまま」

 俺はマミの後ろから彼女を抱きかかえるようにして支える。そして、銃の狙いを魔女の首筋へと固定した。

 魔女はゆっくりと立ち上がる。こちらを向く前にやるしかない。

「五郎さん」

「なんだ」

「ドキドキします」

「……俺もだ」



 カチッ



 引き金が引かれた。


 眩しい光の筋が、真っすぐに魔女の首筋へと向かう。

 かなり激しい衝撃に驚いた。あの大砲ほどではないけれど、さっき撃っていた銃に、これほど威力があっただろうか。

 弾道は、一瞬で魔女の首筋に到達する。

 それと同時に、何かガラスが割れるような音が頭の中に響いた。

 マミの銃から発せられた光の筋は、魔女の首筋を突き抜けて天井をも突き破り、外まで伸びて行く。

 あれはどこまで行くんだ。

 茫然としながら、その様子を眺める。

 予想通り。

 あの黒紫色の光を発する部分が、敵の弱点だったのだ。

 周囲の色が褪せ、結界が消えて行く……。

 とりあえず、俺たちは助かったらしい。


   *


 夕闇に染まる公園のベンチで、俺とマミは座っていた。

 傷が魔力で治るという話は本当らしい。

「ごめんなさい、本当に。色々面倒をかけてしまって」

「いや、むしろこっちが助けられたくらいだよ」

「でも……」

 マミは疲れた表情をしている。あれだけ激しい戦いをすれば当然か。

「そういえば、例のアレは見つからなかったな」

「そうですね」

《お探しのものは、これかな?》

 急に、脳内に聞き覚えのある高い声が響いてきた。

「キュゥべえ……」

 犬なのか猫なのかよくわからない形の白い生物、キュゥべえが公園の茂みの中から登場した。

 キュゥべえの尻尾の先には、黒い球のようなものが乗っている。

《受け取って、キミたちのものだよ》

 尻尾の上から器用に球を飛ばす。

「んっ」

 右手で受け取り、その中を見ると予想通りグリーフシードであった。

《あの魔女も随分強力なやつだったんだけど、一人でよく倒せたね、巴マミ》

「確かに強いやつだったわキュゥべえ。でも」

《でも?》

「一人じゃなかったわよ」

 そう言ってマミは俺のほうを見た。

《井之頭五郎か。キミは本当に不思議な人間だよ》

「俺にとってはお前のほうがよっぽど不思議な生き物だけどな」

《キミたち人類にとってはそうかもしれないね》

「話はそれだけか?」

《今日は特に何もないね》

「俺の体質を治す方法は?」

《まだよくわからないよ。でも、キミは観察し甲斐がありそうだ》

「俺はお前の被観察対象になった覚えはないけどな」

《それもそうだね。とりあえず、僕は失礼するよ。じゃあね、五郎、そしてマミ》

 そう言うと、キュゥべえは再び茂みの中に入って行った。

 俺たちも帰ろう。


   *


 帰りのバスに乗ると、バスの振動が心地よかった。

 気がつくとマミが俺の肩にもたれるようにして寝息を立てている。
 夕日に照らされた彼女の顔は、さきほどまで戦闘でボロボロになっていたとは思えないほどキレイな肌をしていた。

 今日は色々あって疲れたのだろう。精神的にも、肉体的にも。

 バスが目的地に着くまで、あと五分くらい。その間だけでも寝かせてあげよう。

 俺は窮屈なのを我慢して、彼女を起こさないようじっとしていた。


   つづく


   【次回予告】


 みなさんおはようございます! 早乙女和子です!

 今日はみなさんに大事なお話があります。

 目玉焼きとは、堅焼きですかそれとも半熟ですか

 ハイ! 井之頭五郎さん!!

「え? えっと、どっちでもいいんじゃないかな」

 結婚してください!

「はあ!?」


 イインデス、ココニナマエヲカイテクダサルダケデイインデス

 オネガイシマス

 チョットダケデイデスイカラ、ワタシ、メダマヤキシカツクレマセンケド

 タスケテー!!!


 (中略)


 さて次回は、五郎さんたちが秋葉原に行くというお話です。

 お楽しみに!


   【解説】

 ● シティーハンター

 週刊少年ジャンプで連載されていた北条司のハードボイルド漫画。
 裏の世界№1スイーパー(始末屋)の冴羽 リョウが主人公。
 現実ではありえないようなガンアクションや毎回美女の依頼人が出てくる。

 そのストーリーや設定は、後の作品に大きな影響を与える
 (ファントムとかを見るかぎり、虚淵玄もその例外ではないだろう)。

 1985年から1991年まで連載。漫画だけでなく、テレビアニメにもなる。
 ちなみに、実写映画は金曜ロードショーで何度か見た。最近やらねえな。

 テレビアニメ版では、EDへの入りが当時全盛期だったTMネットワークの曲とマッチして、とても印象的なものになっていたように思える。



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