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梓「これが……ベルトの力……」

2011年06月25日 20:57

梓「これが……ベルトの力……」

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/13(月) 19:34:43.63 ID:vr2e7Tnk0

梓「ただいまー……って、何これ?」

いつものようにお茶とお菓子がメインの部活を終え、それなりに疲弊して自宅に着いた梓が目にしたものは、玄関前に置かれた一つのスーツケースだった。

梓「すまーと……ぶれいん? 聞いたことないな……
それにしても、こんなところに落とし物なんて変だよね……」

父親が楽器類を購入したのかとも考えたが、包装無しで玄関先に放置など、悪名高い某宅配便でもしないだろう。

しばらく悩んだ梓だったが、中身への興味もあり、一旦部屋に持っていく事にして、そのケースを小脇に抱え、自宅の扉を開いた。

梓(明日交番に届ければいいよね)

部屋に戻り、早速ケースを開いてみる。

梓「説明書あるじゃん。
なになに……555と入力後、ファイズフォンをファイズドライバーに装填することでスーツを転送、装着します。……なにそれ」

他の道具の説明も何だか支離滅裂で、足に装着してキックする等、およそ通常の製品とは違った使い方が記されていた。
仮にも梓は高校生だ。こんな怪しげな説明を真に受けるはずもない。

梓「なんだ、玩具かあ……面白い物拾ったと思ったんだけどなあ……」

試しにファイズギアなるそれらを装着してみようかとも考えたものの、女子高生が子供用のおもちゃで遊んでいる姿を想像して考え直した。

梓「はあ、期待ハズレだったなあ。
まあいっか。明日登校ついでに交番に届けようっと」

ファイズギアを部屋の隅に投げ、脱力したかのようにベッドに横たわった。

梓(明日こそはしっかり練習しなくちゃ……)

唯たち三年生は、もう卒業を間近に控えている。
そうなれば、梓が最高学年の軽音部員として、新たに軽音部を引っ張って行かなければならなくなる。

梓(先輩達が抜けた穴を……私が埋めなきゃ、ね……)

改めて責任感にも似た覚悟を固めつつ、明日の学校生活に備えて梓の意識はブラックアウトした。


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翌日、放課後

唯「どうしたのあずにゃん?なんかクタクタみたいだけど」

梓「いえ、ちょっと寝坊しちゃいまして……」

昨晩は早めに寝たはずだったのに、何故か今朝は異様に寝起きが悪かった梓は、ベッドの上でウトウトしている間に遅刻寸前の時間になっている事に気づき、大急ぎで学校へ来た。
そのため朝から疲労はピーク、しかもまだ寝足りないというグロッキーな状態のまま放課後を迎えたのだ。

律「なんだよ梓、練習練習って煩いお前が、今日はサボりかー?」

澪「律! いつもお前がそんな態度だから梓に負担掛けてるんだろうが!」

律「なんだとー!?」

律と澪がギャーギャー噛み付き合っているのを横目に、紬が優しげな笑みを浮かべて梓の頭を撫でた。

紬「まあまあ、あの二人はすこし放っておきましょう。
梓ちゃん、部活が終わるまで寝ていたらどうかしら?」

梓「ありがとうございます。でも私、少しでも練習しておきたいんです。
……先輩方と、一緒にやれるうちに」

梓の一言で、部室内にしんみりとした空気が流れはじめる。
そんな空気に耐えかねたのか、律が突然大声を出した。

律「ま、まあなんだ! 梓がどうしてもって言うなら、今日ぐらい真面目にやってやるか!」

澪「ふふ、たまにはお前も良いこと言うじゃないか」

律「たまには、は余計だろ。ったく」

梓は不器用な律なりの優しさに少し目頭を熱くしたが、すぐに気を取り直す。

梓「じゃあ、練習を始めましょう!」

練習も一段落ついたあたりで、唯が梓の鞄を指差した。

唯「ねえあずにゃん、どうして今日はスポーツバッグなんか持ってるの?」

梓「ああ、それはですね……」

梓は昨日の事をおおよそ説明した。
つまり、おかしなベルトを拾ったから交番に届けようと思ったはいいものの、ケースが意外に大きく普段使っていた鞄に入り切らなかったので、押し入れの奥に眠っていたスポーツバッグを引っ張り出した、というような事をだ。

唯「ねえあずにゃん、そのベルトちょっと見せてよ!」

唯は顔一杯に純真な笑みを浮かべて梓に擦り寄ってくる。
不思議な玩具と聴いて、興味が抑え切れない様子だった。

梓「……まあ、見るくらいならいいでしょうけど……
これ、誰かの落とし物なんですから、あまり乱暴に扱わないで下さいね?」

律「分かったから、早く早く!」

律もかなり興味津々なようだ。

紬「そうねぇ、私も気になるわぁ」

澪「ま、まあ、ちょっと見るくらいなら構わないだろ?」

珍しく紬と澪も乗り気なようで、梓に催促するような目を向けていた。

こんなに先輩達が興味を示すとは思っていなかった梓は、多少困惑した表情を浮かべつつ、鞄に手を掛けた。

梓「言っときますけど、そんなに面白い代物じゃないと思いますよ?」

律「勿体振んなって!ほら、早く早く!」

唯「早く早く!」

正直なところ、梓は全く気乗りしなかったが、あまりにも二人が急かすので仕方なくケースを取り出した。

唯「おお、これが!」

律「へえ、思ってたよりカッコイイじゃんか!」

中の道具類を見て、唯と律はキャッキャと騒いでいる。
一方、澪と紬は説明書を取って目を通していた。

澪「携帯電話でスーツ装着、ポインターでキック……これは……」

紬「……これが事実とは思えないわね、澪ちゃん」

澪「……ああ、まあ玩具だろうな」

実にまともな感想を述べる二人に、梓は何となくホッとしたような感覚を覚えた。
何となく、これが本当に何かの兵器の様な錯覚を覚えていたのだ。
もちろん心底そう思っていたのではなく、小さな小さな疑念のような考えだが。

紬「……ねえ梓ちゃん、これ、試してみたの?」

紬が真面目な顔で尋ねてきた。
実に珍しい、と思いながら梓が首を横に振ると、紬は真面目な顔のまま俯き、何か考え始めた。

唯「あずにゃん見て見てー!」

梓と澪が考え事をしている紬を見ていると、唯がベルトを腰に巻いて寄ってきた。

梓「ゆ、唯先輩!?何やってるんですか!!」

唯はベルトを巻いたまま嬉しそうに跳びはねている。

唯「似合う?似合う?」

梓「勝手に巻いちゃだめですよ!すぐ外して下さい!」

唯「えー、いいじゃーん」

唯はむくれて、ファイズフォンをベルトに装填した。

唯「装ーー着!!……あれー?」

かっこよくポーズを決めていた唯は、拍子抜けしたような表情を浮かべた。

梓「ほーら、早く返してください!」

唯「もー、あずにゃんのいけずー」

梓が唯の腰に手を掛けると、抵抗せずにしぶしぶベルトを外した。

唯「なーんだ、何にも起こんなかったかー」

律「ちぇー」

梓「それは、555って入力してから装填するものらしいですよ」

梓は残念そうな先輩二人に呆れた表情でそう言うと、さっさとベルトを片付けてしまった。

唯「えー!?そういう事は先に言ってよお!!」

律「もう一回やらせて!今度は私がやる!」

梓は二人が騒ぎ立てるのを無視してケースを鞄にしまい、ニッコリと笑った。

梓「部活終了。下校時間です」

部室の片付けを済ませ、楽器とスポーツバッグを背負った梓に律が声を掛けた。

律「なあ梓、交番まで行くなら付いてってやるよ。最近変質者の出没情報をよく聞くからな」

梓「ああ、そういえばそんな噂もありますね。詳しい話は聞いたことないですけど」

律「まあ、何は無くとも注意するに越したことはないだろ」

皆も各々で頷いたりしている。

唯「私もあずにゃんについてくー!」

澪「あれ?唯は今日外食だから早く帰るんじゃなかったのか?」

唯「あっ!……でも、ううー」

結局、律以外の先輩達は皆それぞれ用事があるということで途中で別れ、帰って行った。

律「それにしても、梓は律儀なやつだよなー。私なら絶対交番になんか届けないぜ。
『何かの組織の陰謀に違いない!』とか考えて、自分で保管しとくな」

二人並んで歩きながら、律は自分の行動を的確に推理し、うんうんと頷いている。

梓「……拾ったものを何でもかんでも自分の物にしちゃうなんて小学生でもしませんよ」

呆れた口調の梓に反論しようとした律は、進行方向に何かを発見して立ち止まった。

律「ん?苺じゃん。こんな時間になにやってんだろ」

律の言葉につられて梓も前を見ると、唯達のクラスメートの少女がこちらに向かって歩いてきていた。
制服姿だが、歩いている方向は帰宅途中の梓達と真逆、即ち学校方面に向けて歩いている事になる。

律「おーい、どこ行くんだー?」

苺「……」

律の呼びかけに答えず、黙々と梓に向かって歩いて来る苺。
何か変だぞ、とは思ったものの、先輩のクラスメート相手にさしたる警戒心は抱かなかった。
そして、それが間違いだったのだ。

苺「ねえ、そのベルト……ちょうだい」

律「!?」

梓は聞き間違いかと思ったが、すぐにそうでない事を思い知らされた。

梓「なに……これ……?」

数メートル前に佇んでいた少女が緩やかに視線を合わせてきた次の瞬間、彼女の体中に灰色の紋章のようなものが浮かび上がったのだ。

律「嘘だろ……苺、お前……?」

苺「ねえ、ベルトちょうだい?」

さっきまで律と梓の前にいた少女は、今や無機質な灰色の怪物へと変貌していた。
怪物の足元の影に、裸の少女の姿が浮かび上がる。

苺「そしたら、助けたげるから」

怪物はじりじりと梓に迫っていた。

律「逃げるぞ!」

律は梓の手を引いて苺だったモノと反対方向へ駆け出したが、逃げられるより一歩早く怪物が動いた。

怪物は、そのゴツい体躯からは想像できないような軽やかな動きで二人の頭上を飛び越えると、あっという間に二人の進路に立ち塞がったのだ。

律「梓、下がれ!」

律は覚悟を決めたのか、梓を引っ張って後ろに下げると、怪物に向けてタックルを喰らわせる。

律「ベルトを渡すな!渡したらきっと殺される!」

しかし女子高生の細腕など怪物に通用する筈もなく、律は軽々と投げ飛ばされた。

律「あうっ……!」

ドカッという鈍い音を立てて、律はコンクリの敷居に背中を打ち付け、地面に倒れ伏した。
ショックで呼吸困難になったのか苦しそうに喘いでいる律を尻目に、怪物は梓に向かってジリジリと歩み寄ってくる。

梓「どうしよう……先輩、どうしたら……」

梓は泣きそうになるのをぐっと堪えて活路を探したが、一本道の路上で眼前の化け物から逃れる術は無いように思われた。

律「梓、ベ、ベルトを……」

律が咳き込みながら掠れた声でそう言った。使えという事だろう。
梓は律の言いたい事を汲み取ると、バッグからファイズギアを取り出した。

こんな玩具でなんとかなるのか、いや、こんな怪物が現れたのだ、もはやこのアイテムの信憑性を疑うのは愚か者のすることだろう。

そう結論付けた梓は、急いでケースからファイズドライバー(ベルト)を取り出して腰に巻き、次いでファイズフォンを取り出した。
二つ折り式のケータイ型デバイス、ファイズフォンを開き、震える手で一つずつ確実にキーを押す。

5、5、5、ENTER。
『STANDING BY...』

電子音声の後、待機音を鳴らし始めたファイズフォンをベルトに装填する。手が震えて何度か失敗したが、なんとか装填することが出来た。
するとベルトから赤い光が伸び……

『ERROR!』

梓「えっ!?」

突然、ベルトから電流のような何かが迸しり、梓を後方へ吹き飛ばした。

梓「きゃあっ!?」

ベルトは梓の腰から外れ、虚空へと放り出される。

苺「やはり普通の人間ごときには、ファイズの力は引き出せないようね」

怪物は醜悪に口元を歪め嘲笑を放った。
どうやら最初からこうなる事が分かって、敢えて梓の挙動を見守っていたらしい。

苺「素直にベルトを寄越せば、助けてあげるつもりだったけど、駄目ね。
あなた達には死んでもらうわ」

苺はベルトをまたぎ、倒れた梓に手を伸ばした。

梓「い、いや……助けて……」

苺「やだ」

怪物は梓の首を掴み、締め上げた。

梓「!? ……!!」

苺「あなたにはオルフェノクとして生まれ変わる権利も与えない。
とっとと死んで」

梓はジタバタと暴れるが、怪物の膂力には敵わない。
頸動脈が締め上げられて脳に血液が行き渡らず、梓の意識がゆっくりと混濁していったその時、怪物の背後で電子音が鳴り響いた。

『STANDING BY...』

怪物が梓を放し、振り向いた。

梓「ゲホッゲホッ! ハァッ、ハッハッ……」

梓が怪物の足元にへたりこんで呼吸を整えつつ顔を上げると、そこにはベルトを腰に巻き、ファイズフォンを構えた律が立っていた。

律「梓は……私が守る!!」

苺「笑わせるね、今からあなたも死ぬのに」

怪物は嘲りを滲ませた声で律に歩み寄る。

しかし律は、ボロボロの体には不釣り合いな程に不敵な笑みを浮かべた。

律「それはどうかな!」

実際のところ、律は足が震えて立っているのも困難であった。
しかしそれでも立ち向かう意志を見せられるのは、強靭な意志と一種の矜持のおかげだろうか。

律「私がやるしかないんだ!」

苺「無駄な事を……」

怪物は律に嘲笑を浴びせるが、律は絶望することなくファイズフォンを高く掲げた。

律「変身!」

ファイズフォンをベルトに装填して、自らを鼓舞する様に腕を振り、構える。

『COMPLETE』

酸欠で霞んだ梓の視界が、真っ赤な光に覆われる。

苺「う、嘘!?」

赤い光が収束した時、梓がその中心に見たものは、見慣れた先輩の姿ではなく機械の鎧を纏った戦士だった。

律「……っしゃ、行くぜ!」

既に日は沈み、辺りは夕闇に包まれていた。
赤いラインを輝かせながら、モノクロの怪人と戦う律。

律は初めてファイズに変身したとは思えない程戦い慣れしていて、戦況は律が一方的に苺を叩きのめしているような状況だ。

戦っている相手が元クラスメイトだという事も、その姿が怪物だから忘れられるのか、律は怪人の足を払って転ばせると、とどめを刺そうと腕を振り上げた。

律「うらああああああ!!」

苺「り、律!待って、殺さないで!」

慌てて腕を掲げた怪人を見て律が拳を止めると、怪物は、元の人間の姿に戻っていた。

さっきまで高圧的な態度で二人を殺そうとしていた怪人は、いまや機械兵器に殺されかけて命請いをする、か弱い少女になっているのだ。

苺「まって、律。私脅されていたの。そのベルトを取って来ないと殺すって、私なんか相手じゃないくらいに強い怪物に。本当よ!」

いつも冷静なクラスメイトが取り乱す姿に、律はすっかり動揺している。

律「う、くっ……」

苺「本当だよ!律! 私、死にたくないよお!」

必死に主張する苺の台詞は、嘘だと決め付けられない程に真実味があったし、苺の他に怪人がいるのかも分からない。
今の苺がどんな立ち位置なのかが分からない今、律も梓もどうするべきか判断しかねていた。

律はいつでも苺に一撃を加えられる体勢のまま暫く逡巡した後、分かった、と一言言うと一歩、二歩と後退した。

苺「分かってくれてありがとう、律。
分かってたよ、律は優しいもんね」

嬉しそうにそう言う苺を、しかし何も言わずじっと見つめる律。
仮面越しに向けられる視線をどう感じたのか、苺はさらに律と距離を取った。

苺「大丈夫、もう私、律の前には現れないから。
ううん、心配いらないよ。だって……」

苺は興奮したようによく回る口でここまで言うと、急に俯いた。

苺「今から……律の事殺しちゃうからぁぁぁぁ!!」

苺は瞬間的に怪物化すると、律が反応する隙すら与えずに体から大量の弾丸のような何かを放ち、律を吹き飛ばした。

律「ぐああぁぁぁ!?」

急に与えられた衝撃にベルトが外れ、律の変身が解ける。

梓「律先輩!」

苺「本当やっさしいよねー、律って。普通、さっきまで自分が殺されかけてた奴の言うことなんか信じるかな?
私は絶対ヤダけど」

苺は外れたベルトを拾い上げ、そのまま、腰に巻いた。

苺「ていうか、なんで律はファイズになれたんだろ。オルフェノク?まっさかー。それなら人間なんか守らないよね」

5、5、5、Enter。

『STANDING BY...』

苺「まあいっか、どうでも」

『COMPLETE』

苺がベルトにファイズフォンを装填すると、彼女も律と同様に赤い光に包まれた。
梓は目を疑った。
目の前で、怪物がファイズに変身したのだから。

苺「あれ?後輩ちゃんさあ、もしかしてファイズが正義のヒーローか何かだとか思ってた?」

唖然とする梓に向けて、ファイズとなった苺は愉快そうに言う。

苺「違うんだなー、それが。これは元々、私達オルフェノクの為のツールなんだよ。
だから、ホントは律が変身出来たのがイレギュラーな事態な訳。これはあなたからすれば、そうね、悪の殺戮兵器かしら?」

苺はさも愉快そうにキッパリと言い放ち、梓の絶望した表情を見て爆笑した。
彼女はオルフェノクになって、何かが吹っ切れてしまったようだ。今や人間だった頃の面影もない。

律「苺、お前そんなキャラだったのか」

律が苦々しい顔で吐き捨てる。

苺「うん、そうみたい。オルフェノクっていいわよ?だって気に入らない人間は殺せばいいんだもん!アッハハハハ!!」

苺は、人間らしい感情の一切を持ち合わせていないらしかった。

苺「でも駄目、律と後輩ちゃんはオルフェノクにしてあげない。
だって、ムカつくもん。アッハハハハハハハハハハ!!!!」

律「……そんな醜い姿、こっちから願い下げだぜ」

律は憎々しげにそう言って、そばにいた梓の方を向いた。

律「ごめんな梓、私には無理だったわ。せめて、お前だけでも逃げてくれ」

悲しそうな笑みを浮かべる律は、そう言って梓の頭を撫でた。
しかし、梓は首をゆっくりと横に振り、唇を開いた。

梓「すいません律先輩。折角護ろうとして貰ったのに、私さっきから足に力が入らなくて……立てそうにないです」

梓は、焦燥を通り越して達観したような笑みを浮かべていた。

律「そっかぁ……最後の最後まで駄目駄目な先輩だったなぁ、私」

梓「そんなことありません。部長は、私の、私達の最高の仲間でした」

律は倒れたまま這って梓に近寄り、抱きしめる様に覆い被さった。

律「……怖いだろ。目、閉じてな」

梓「……ありがとう、ございます」

律に、梓の震えが伝わってくる。あんな表情をしていても、やはり怖いものは怖いようだ。
苺は不機嫌そうに二人を睨んだ。

苺「気持ち悪っ。レズなの?
……まあいいや、殺してあげるね」

苺はスタスタと歩み寄ってきて―――

苺「バイバーイ」

梓(律先輩……!)

ザクッ!

苺「……はぇ?」

いつまでも来ない衝撃の中、気の抜けた声を聞いて梓は目を開け、驚愕する。
律の肩越しに見えた光景、苺の装着したファイズが、黄色い刃に胸を貫かれている所だった。

苺「えっ?何これ……えっ?」

『EXCEED CHARGE』

電子音声が響くと、苺を貫く刃はより強く光り、そのまま横薙ぎにファイズを切り裂いた。

変身が解けると、人間の姿の苺が地面に倒れた。
既に事切れている苺は、服だけ残して砂か灰のようにサラサラと消滅してしまい、後には彼女の身に着けていた物だけが残った。

?「間に合って良かった。律、梓」

梓が聞き覚えのある声の方を見上げると、そこには黄色と紫の光を纏う機械の仮面があった。
ソレがファイズフォンにそっくりの携帯電話型デバイスをベルトから外すと、眩い光が辺りを照らす。

律「み、お……?」

光が引いた後に現れたのは、律と梓がとてもよく知る人物だった。

紫のファイズは、澪だったのだ。もう何が何だか、理解する事が出来ない。

律「澪……?なん、で……」

澪「大丈夫だ、お前達は少し無理しすぎたんだ。休んでろ。今から家まで送って……」

澪はそこまで言いかけると、はじかれるように身を翻した。

澪「誰だ」

さっきまで澪がいた場所は、レーザー弾のような物で刔られており、その凶弾の軌道上には白黒のファイズが立っていた。

?「澪ちゃん、やっぱりあなたがカイザだったようね。申し訳ないけど、オルフェノクは全て灰に還さなきゃいけないのよ」

白黒のファイズが発したその声にも聞き覚えがあったが、今の梓には思考する余裕が残されていなかった。
澪は一瞬表情を曇らせると、紫のファイズフォンを構えた。

澪「デルタか……済まない、律、梓。家まで送ってやる訳にいかなくなった……」

9、1、3、Enter。

澪「変身!」

澪は紫のファイズドライバーに紫のファイズフォンを装填すると、近くに停めてあったサイドカー付きのバイクに跨がった。

?「……りっちゃんは……まだ大した驚異には成り得なさそうね。それより今はカイザを!」

白黒のファイズは何事か呟くと、バイクに乗った紫のファイズに追われ、別の路地へと消えて行った。



あれから数日が経った。
あの日、疲労しきって起き上がれなかった二人は偶然通り掛かった女性の通報によって病院に送られ、そのまま検査入院という形で今日まで入院していたのだ。

そして今日は退院の日。

梓「ありがとうございました」

看護師「うん、またねあずにゃん!」

梓「……もう、唯先輩がお見舞いに来る度に『あずにゃん』って呼ぶから、看護士さんにも『あずにゃん』って覚えられちゃったじゃないですか……もう恥ずかしくてあの病院行けませんよ……」

唯「えへへ、まあいいじゃん!あずにゃん達が無事に退院できてよかったよお~」

律「達って……私はオマケかよ……」

唯はひとしきりいつものように明るく笑ったあと、小さく溜息をついた。

唯「これで、澪ちゃんとムギちゃんもいればなあ……」

あの日から、澪は消息不明だった。親御さんには何も告げずに、ふらりといなくなったそうだ。
また、紬は風邪をこじらせた、という事でずっと学校を休んでいた。
唯が紬の家に見舞いに行っても、門前払いされたそうだ。

律「ま、無い物ねだりしてもしゃーないだろ?帰ったら私達で澪捜索だ!」

おー!と元気に叫んだ唯を眺め、梓はきっと澪を見つける事は出来ないだろうな、と確信していた。
彼女達は、私達が知り得ない程に大きな何かに巻き込まれていたのだから。

梓(……そして、私達も……)



翌日、梓は久しぶりに見た校門前で一つ深呼吸し、教室へ向かった。

憂「梓ちゃん!良かったあ、また一緒に過ごせて、良かったよぉ……」

純「へっ、どーせただのサボりだろうと思ってたよ!」

憂は涙ぐみ、純は憎まれ口を叩きながらも出迎えてくれた。

梓「う、憂ったら、泣くほどじゃないよ!ただちょっと疲れが溜まってただけで……」

憂「でもね、なんか……嘘みたいだけど、梓ちゃんが入院した日の放課後ね、何故かもう梓ちゃんに会えないような気がしたの……
それで、次の日梓ちゃんが入院したって聞いて……わたし、もう駄目かと思っちゃって……」

憂はぐずつきながら、梓の袖をギュッと握った。

憂の鋭い勘に感心していると、純がムスッとした顔で憂に抱き着いた。

純「っちゅーか、憂は心配しすぎ。こんなサボり魔の為に泣いてやる事ないって」

しかし梓は知っている。純も、梓が寝ている時に見舞いにきてくれていた事を。
そして、彼女は涙を堪えて上擦った声でこう言ったのだ。

梓「絶対戻ってこいよ、馬鹿梓……」

純「んなっ!?あ、梓!?」

梓「泣きそうな声で心配してくれたのは憂だけじゃなかったけどなー?」

純は耳の先まで真っ赤になり、慌てて教室を出て行った。

純「っるせー!」

梓「ちょっと、どこ行くの!?」

憂「……ふふ、素直じゃないね、純ちゃんは」

昼、梓達が弁当を囲んで和気藹々と雑談していると、突然校内放送が響いた。

『全校生徒に連絡します!』

梓「あれ?さわ子先生だ」

校内放送の声の主は、軽音部顧問の山中さわ子だった。彼女は焦った声で続ける。

さわ子『先程、不審な人物が校内にて発見され……きゃあっ!?』

放送が途切れ、クラス中が騒然となる。

憂「なんだろう、怖いね純ちゃん」

純「ただの悪ふざけだろ?構ってやる事ないって」

茶化すように言う純。しかし、梓は先日の事を思い出して不安を覚えた。

梓(まさか……)

その時突然、ざわつく教室内に女子生徒が飛び込んで来た。

和「急いで窓と扉を閉めて!!」

必死の形相の生徒会長の姿は、生徒達が動くには十分な理由となったようで、和の指揮の元、バリケードのように扉の前に机を置き、窓を閉めた。

和「これで何とか、なりそうね……」

ほっとした様子の和に憂が近寄った。

憂「の、和ちゃん、一体何があったの?」

和は暫く考え込み、クラスを見渡した。

和「分かった、説明するわ。皆、バリケード側に並んでくれる?」

和の言うことに従って皆が壁際に並んだのを確認すると、和は口を開く。

和「実はね……まだ何も起きてないのよ」

純「え?何言って……」

純が眉を潜めるが、その台詞を遮って和は続けた。

和「今から、起きるの」

和の体に灰色の紋章が浮かび上がる。

和「安心して。痛め付けないで殺してあげるから」

梓は茫然とした。目の前で起きたあまりの事態についていけない。

憂「和……ちゃん……」

和「安心して、憂。すぐに恐怖心なんて消してあげるから」

和は、この前の苺そっくりの怪人に変身した。

和「それと梓ちゃん、ついでにベルトも貰えるかしら」

一拍置いて、クラスは絶叫に包まれた。

和「やかましいわね」

和の手元に鞭が現れ、バリケードをどけて逃げようとしていた女子生徒を一人絞め殺した。

和「黙らないと全員苦しめて殺すわよ」

梓と憂がぺたんと尻餅をついているうちに、バリケード付近の女子達はどんどん絞め殺されていった。

和「さあ、次は梓ちゃんね。その前に、ベルトの在りかを教えてくれると、探す手間が省けるのだけど……」

あの日以来、ファイズギアは律に預けてある。まさに絶体絶命だ。

梓「……どうしてこんなことを」

和「私の質問に答えてくれないかしら」

梓が話を逸らそうとすると、鞭で打たれた。

和「で、ベルトはどこ?」

梓「くっ……べ、ベルトは私にしか分からない所に隠してあります……私を殺せば、絶対に見つからない所です」

自分でもベタな言い訳だ、とは思ったが、それなりに有効な言い訳なはずだ。
少なくとも時間は稼げる。

和「それはつまり、拷問がお望みって事かしら」

やはりそうくるか。容易に想像できた事とはいえ、若干の期待がなかった訳ではない。
つまり、元先輩として情けを掛けてくれるのではないかという事だ。

梓「……お好きに、どうぞ」

梓は自分が拷問に耐えられるという自信は全く無かったが、少しでも時間を稼ごうと考える。
そうすれば何か勝機が見えてくるかもしれない。

和「そうなんだ。じゃあ私、今から拷問するね」

梓(律先輩……)



その頃、律は梓の教室に向けて走っていた。

律(さっきの叫び声は二年生の教室の方から聞こえた……梓、無事でいろよ!)

梓から預かっていたファイズギアを抱えて廊下を疾走していると、突然眼前に人影が飛び出して来た。

姫子「りつ……」

律「うわっ!?」

廊下の曲がり角から現れたのは姫子で、トップスピードの律とぶつかり、床に倒れ転がった。

律「す、スマン!今急いで……」

姫子「り、つ……」

律「!?」

律がぶつかってしまった事に謝罪したと思ったら、姫子の手からサラサラと砂のような物が零れ始めた。
いや違う、この砂のような物には見覚えがある。それは苺と同じ、変わり果てた死体だ。

青い焔を上げながら消滅した姫子の後ろから、ゆっくりと紫のファイズが歩いてくる。

律「……貴様か、貴様が皆を!!」

以前、紫のファイズは澪が装着していた事を、激昂した彼女は忘れてしまっていた。
律はベルトを巻き、ファイズフォンを掲げる。

澪「おい、待て……」

「変身!!」

『Complete』

瞬間、赤い光が廊下中に溢れた。

律「オラァッ!」

澪「ちょっと、ちょっと待て!うわっ!」

澪は律の攻撃を躱しながら説得を試みるが、激情した律の攻撃は凄まじく、カタログスペックではファイズに圧倒的に勝る筈のカイザでも攻撃を躱すしか余裕が無い。
また、怒りで頭がいっぱいなのか、律は攻撃の手を緩めようとはしなかった。

ベルトからファイズフォンを取り外し、キーを入力する。

1、0、6、Enter。

ファイズフォンがフォンブラスター・バーストモードへと変形した。

律は銃を扱った事などないだろうが、フォンブラスターには反動が無い上、至近距離だ。
三連射式のレーザーバレットは的を外さず、ガガガッという音を立ててカイザの装甲にぶつかった。

澪「ぐあっ!?」

澪が怯むと、律はファイズナックルを装着した。
ファイズフォンを腰に戻し、ミッションメモリーをファイズナックルの上部に挿入する。

『exceed charge』

澪「!?」

澪は、律が本気で自分を殺しにかかってきている事を確信して窓ガラスを割り、外へ逃げた。

律「待ちやがれ!!」

慌てて律も後を追おうとするが、澪は既にサイドバッシャー(バイク)に跨がっていた。

ファイズの走行速度ではサイドバッシャーには追い付けない。
律が悔しげに壁を殴ると、コンクリートの壁は凄い音を立てて砕けた。

律「そうだ、梓!」

若干の冷静さを取り戻した律は、装甲を解除して再び二年の教室を目指し、走り出した。



一方、2年生教室。

和「じゃあまずは右腕ね」

和の鞭が梓の右腕を絡め取った。
鞭に生えた無数の棘が突き刺さり、梓は甲高い悲鳴を上げる。
隣にぐったりと座り込んでいる憂は、既に意識を失っているようだ。

和「ほら、早く吐いちゃったら楽にしてあげるわよ」

その時、後ろに積み重なっていた死体の山を掻き分けて、純が立ち上がった。

純「梓を離せ!!」

突然後ろから殴られた和は、よろけつつ鞭を手元に戻す。

和「……驚いたわね、あなた……」

和と梓の視線の先、純の体には灰色の紋章が浮かび上がっていた。

純の体がモノクロの怪人へと変化し、その手には持ち手が円状の剣が精製された。

和「純ちゃん、あなたオルフェノクだったのね……それで、どうして私に剣を向けているのかしら?」

和が鞭を構えると、純は剣を横薙ぎに振った。
和は剣を軽く躱すと、鞭で純の足を払い、その胴体に蹴りを入れて転がした。

和「どうやら、とんだ下級オルフェノクだったようね。私に逆らうなんて百年早いわ」

和が純に掌を向けたかと思うと、その手から光球が出現、純を襲った。

純「うあっ!?」

和「私はあなたのような出来損ないとは違うのよ。じゃあね」

和は容赦無く巨大な光球を作ると、純に打ち出さんとした。

しかし、光球が放たれる寸前に窓の外から和に向けてレーザー弾が打ち込まれた。

和「っ!」

和「何なの!?」

和が苛立たしげに窓の方を見ると、窓の外にはホバリングしている巨大なマシンに搭乗した白黒のファイズがおり、手にした銃を和に向けていた。

和「チッ、デルタね……まあいい、今日のところは引き上げるとするわ」

そう言うが早いか和は窓から飛び降り、目にも留まらぬ早さで茂みに飛び込むと、姿を消してしまった。

白黒のファイズ、和が言う所のデルタはマシンをそっと教室に近付け、窓から飛び込んできた。

デルタ「大丈夫よ梓ちゃん。今すぐこのオルフェノクを退治するから!」

デルタは手にした銃を純に向ける。純はたじろぎ、キョロキョロと辺りを見回している。

梓「待って下さい!その子は違うんです!」

デルタ「違うってどういう……くっ……」

突然デルタはよろけ、地面に膝を付く。
そのまま苦しそうに肩を上下させると、その場に倒れ込んでしまった。

デルタ「うう……」

気を失ったのか、変身が解ける。そこに横たわっていたのは、軽音部随一の温厚な先輩、紬だった。

紬「私は、まだ……」

譫言のように呟く紬は、体を包帯でぐるぐる巻きにしており、露出している部分には痛々しい痣が見て取れた。

梓「ムギ先輩!?」

梓が紬に駆け寄ると同時に、教室のドアがバリケードごと蹴破られた。

律「無事か梓!?」

そこにはファイズを装着した律がいた。どうやらバリケードを見て、普通にこじ開けるのは無理だと判断したらしい。
律は教室内を見回す。
累々と積み重なった死体。気を失った憂。ボロボロの紬と、それを抱き上げ、腕から鮮血を流している梓。

そして、怪人態の純。

律「……許さねぇ」

純「ち、違っ……」

純の言葉も聞かず、殴り掛かる律。梓は慌てて律の腰にしがみついた。

梓「律先輩、違います!その子じゃないんです!」

梓に止められ、律は立ち止まった。

律「いやでも、どう見たってコイツが……」

梓「違います!これをやったのは和先輩なんです!」

律「!?」

梓が事情を説明する。昼、急に駆け込んできた和の事。拷問されかけた梓を助けた純の事。突然乱入してきた紬の事。
大まかだが流れを理解した律は変身を解き、同じく人間態に戻った純を睨んだ。

律「……じゃあお前は、人間の心を残したまま怪人になったって事かよ」

梓「律先輩!そんな態度って……」

純「いいよ梓、信用できないのもしょうがないから……ごめんなさい、律先輩。私、もうこの学校には来ません。誰も襲いません。約束します。……だから、見逃して下さい」

純のしおらしい態度に律が戸惑っているうちに、純はぺこりと頭を下げ、駆けて行ってしまった。

梓「ちょっと純!」

律「行くな梓!……あいつは、怪物なんだよ……」

梓を制した律は噛み締めるように呟き、憂を抱えた。

律「誰か人を呼んでくれ。ムギも運ばなきゃ……梓?」

梓は律に声を掛けられた場所で立ち尽くしていた。

律「おい梓、聞いてんのか?」

梓「律先輩……すいません」

梓は律に小さく頭を下げると、純を追って駆け出した。

梓(純のあんな辛そうな顔、それにあんな態度も初めて見た。純はきっと望んであんな姿になったんじゃない!なら、私がついててあげなくちゃ!)

急に駆け出した梓を止めようと、律が追い縋って肩を掴んだ。

律「正気に戻れ、梓!あいつは……」

しかし梓は律の手を振り払い、キッと律を睨む。

梓「律先輩、見た目がどんなになっても純は人を襲ったりする子じゃありません。そんな事言うのはよしてください!」

律も負けじと言い返す。

律「何言ってんだ梓!お前も見ただろ!?苺が、和が、一体どんな奴になってたか!!あの力はな、人を狂わすんだよ!!だからもう純ちゃんだって!」

ピシャリと高い音が鳴った。
梓が、律の頬を張り飛ばしたのだ。

梓「……先輩だって、おかしいです。みんながみんなそうだって決め付けて…………最低です、律先輩」

梓は唖然とする律を尻目に、涙ぐみながら駆けて行った。

律は少しの間そこに立ち尽くして、それからぺたりと座りこんだ。

律「……梓の大馬鹿野郎……あたしだって、そんな事言いたくねーよ……
澪……和……」

ぽたりぽたりと雫が落ちる。律も限界だったのだろう、それから暫くその場で幼い少女の様に泣きじゃくっていた。

梓「純!!」

しばらく学校付近を探し回っていた梓は、とある公園でうなだれている純を見つけた。
純はビクリと身を竦ませて逃げようとしたが、急に立ち上がったからか足が縺れ、梓に捕まってしまった。

純「放して!私、もう梓とは関わらないって言ったじゃん!」

梓「勝手にそんな事決めないでよ!純がどう思ってようと私には関係ない!純は私の親友だもん!」

純「憐れみでそんな事言うのはやめてよ!
あんな醜い姿見て、本気で親友だなんて思える訳ないでしょ!!」

純は、捕まれた腕を無理矢理振り払うと梓を付き飛ばした。

急に突き飛ばされた梓は尻餅を付いたが、すぐに立ち上がって再び純に縋る。

梓「純!?そんな事言わないでよ!!!
私が、憐れみで親友とか言うって、本気でそう思ってるの!?」

梓の本気の言葉を、しかし純は受け取らない。

純「思ってるよ!!だからもう放っといてよぉ!!!」

純の悲痛な叫びを聞き、梓は愕然とした表情を浮かべ、ヨロヨロと後ずさった。

梓「……わかっ……た……」

梓は無表情のまま涙を流し、街の明かりの方へフラフラと消えて行った。

その姿を見つめながら、純はどこかぼうっとした頭で、これからの事を考えていた。

もう家には帰れない。彼女達とは、繋がりを持ってはいけないのだ。
どうやって生きて行こう。いや、野垂れ[ピーーー]ば楽になるか……

絶望的な気持ちで取り留めもなくそんな事を考えていると、突然ドカッと体に衝撃が走った。

和「ごめんなさい、裏切り者のオルフェノクは死刑って決まりなのよ」

体に力が入らず、地に身を投げ出す。
ああ、優しい親友にあんな態度を取ったから、罰があたったのかな。

和「でも安心していいわ。ちゃんと痛くないようにしてあげるから」

頭上から、優しい猫撫で声が聞こえる。
純は、せめて最後は梓の声が聞きたかったな、等と無駄な事を想う。

バキッという小気味よい音が、夜の公園の静寂を破った。



その頃、律は紬と共に琴吹家へ向かっていた。

あの後、目を覚ました紬が息も絶え絶えに車を二台手配し、自分が帰る他に憂を平沢家に送り届けてくれたのだ。

律が紬の車に乗っているのは、紬に話したい事がある、と言われたからである。

律(話したい事、か……)

今、その紬は律の肩にもたれて眠っている。その寝顔はいつもの紬で、律は何だか癒しを感じた。

車内にはずっと沈黙が横たわっていたが、急に運転手が口を開き、それは破られた。

運転手「貴方は……確か田井中律さん……でしたよね?
最近お嬢様からよくお聞き致します。カチューシャを付けた可愛らしい子だと」

律は運転手の振ってきた会話に乗らず、ぼうっと窓の外を眺める。
チカチカと光る安っぽいネオンが流星の様に流れて行く。

運転手「お嬢様はずっとお一人で文字通り死ぬほどの努力をなさってらしたのです。
貴方がお嬢様と共にいるという事は、協力関係となって下さるという事ですよね?」

運転手は半ば強制するような口調でそう尋ねる。
律が答えずに窓の外を眺めていると、話し声で目を覚ましたのか紬が眠たげに首をもたげた。

紬「りっちゃんにはまだ詳しい事を話していないの。急かさないで下さい」

少しきつい口調は起きぬけだからだろうか。運転手は申し訳ありません、と言って前に向き直った。

紬「りっちゃん、話は私の家でゆっくりするわ。親御さんにはこちらから連絡を入れておくから、今日は泊まっていって?」

律は小さく頷いて、紬を見つめた。
紬は恥ずかしそうに微笑んでいる。

紬「ごめんなさい、もう少しだけ肩を借りてもいいかしら」

律が肯定の意思を示すと、紬は少し頬を染めて律の肩に頭をあずけた。

紬「……ありがとう、りっちゃん」

それから琴吹家までの車内には、柔らかな雰囲気が漂っていた。



その頃、梓はネオンに照らされながら夜の街角に座り込んでいた。

涙は涸れ、ただ虚ろな表情でフラフラとよろけながらあてもなく歩き回っていたのだが、心身ともに疲れきってしまったようだ。

梓(純……)

梓は途方に暮れていた。純は、和やいちごとは違ったベクトルで、人生を狂わされてしまったのだ。

?「中野梓、だな?」

突然、くたびれたサラリーマンが梓に声を掛けた。
梓が声の方を見上げると、男は急に怪物に変わり、梓に向けて腕を突き出してきた。

?「ベルトをよこせ」

ベルトは律が所持している。
梓はゆっくりと首を振った。

?「そうか……ならば死ね!」

怪物が梓に向けて腕を振り上げる。

梓はどこか冷めきったような気持ちで、振り上げられた腕を眺めていた。

梓(もう、いいや……)

しかし、その腕が振り下ろされる事はなかった。

黄色い光が閃き、怪物の両腕を切断したのだ。
そのまま怪物は燃え上がり、砂と化してしまった。

梓を助けたのは澪のカイザだった。

澪「大丈夫か、梓」

澪は梓に駆け寄ると変身を解いた。

梓「……」

澪「どうした?どこか怪我でも――」

梓「……て下さい」

澪「え?」

梓「……助けて下さい、澪先輩」

梓は涙を零しながら、澪の胸に顔をうずめた。

梓「嫌なんです!怪物に襲われるのも、友達や先輩を失うのも!
でも私、何も出来ない!!私には、どうしようもないんです!!」

澪の顔を見て安心したのか、梓は堰を切ったように泣き出した。

梓「純も、和先輩も、みんな怪物になって、私、どうしたらいいか、わかんな、くて……!」

泣きじゃくる梓を宥めるように、澪はポンポンと背中を叩いた。

澪「……よしよし、辛かっただろ。大丈夫だ。全部私が何とかしてやるから」

梓「澪先輩……」

梓は澪の胸でグスグスと洟を啜っていたが、やがて落ち着いたのか顔を上げた。

梓「すいません澪先輩……こんなカッコ悪い所……」

澪「いいんだ、梓。
お前がどれだけ辛い思いをしていたかは、痛いほどわかる」

梓はまた瞳を潤ませ、澪の胸に顔をうずめた。

梓「ご、ごめんなさい……今、すっごい涙もろくなってます」

澪「ああ、好きなだけ泣けばいい。梓は妙に意地張りたがるからな」

澪は優しく梓を抱きしめた。

澪「とりあえずここは目立つ。今私が寝泊まりしてる所へ行こう」

梓「はい……」

澪と手を繋ぎ、啜り泣きながら歩く梓。
やがて二人の影は、街から消えていった。

―――

梓と澪が着いたのは、ボロボロの小さなアパートだった。

澪「ここの二階に住まわせてもらってるんだ。」

そう言って澪はカツカツと錆びた鉄板の階段を踏み鳴らし、二階へ上がった。

澪「今ココアでも淹れるよ」

玄関で靴を揃える梓に、澪が声をかけた。

梓「い、いえ!お構いなく!」

澪は薄く微笑み、遠慮する梓の頬を撫でた。

澪「遠慮するな、気持ちが落ち着くぞ」

梓が真っ赤になって頷くと、今度は満足そうにニッコリ笑い、台所に入っていった。

澪「勝手にくつろいでてくれー」

台所から澪に促され、梓はおずおずと居間に入った。
澪の部屋は二部屋程度でこぢんまりとしていたが、部屋のあちこちに可愛らしい縫いぐるみやタペストリーがあり、いかにも澪の部屋、という感じがする。

梓が部屋を眺めているうちに、ピンクのマグカップから湯気を立たせて澪が戻ってきた。

澪「あんまりまじまじと見られるのは恥ずかしいんだが……」

澪は本気で恥ずかしがっているのを隠しているようで、それはいつもの恥ずかしがり屋な表情だった。
さっきキザに梓の頬を撫でた時は全く恥ずかしがらなかった癖に、部屋を見回されただけで恥ずかしがるのはどういう訳だろう。梓は呆れたような気持ちになったが、心の深い所では強い安堵を感じていた。

梓(ああ、この人は変わっていない、優しいままの澪先輩だ……!)

梓はまた涙を零しそうになり、慌ててココアに口を付ける。一瞬火傷するかと思ったが、予想に反してココアは程よい温度で、心地好い甘みと温かさが梓を包んだ。

澪「……どうだ、落ち着くだろ?
私のスペシャルココアだからな」

澪は梓の隣に座ると、慈しむように頭や背中をさする。

澪「それを飲んだら今日はうちに泊まっていけ。
大丈夫、ここは安全だ」

温かなココアと体温に浮かされ、梓は小さく頷いた。
チビチビとなめるようにココアを飲んでいた梓が名残惜しげに最後の一口を啜り終えると、澪はマグカップを持って台所へ行き、戻って来るなり梓を奥の寝室へ連れていった。

澪「布団は一枚しかないんだ。だから私と一緒に寝てもらう事になるけど……」

梓「に゛ゃっ!?」

梓が素っ頓狂な声を上げると、澪は布団を敷きながら、梓を上目遣いに見つめた。

澪「……嫌、だったか?」

また無意識にやっているのだろう。梓は、あうう、等と変な声を上げながら首を振って否定した。

澪「ならよかった」

澪は心底喜んでいる笑みを浮かべて、梓を抱き抱えた。

梓「ふゃあ!?」

澪「さて、寝る前に汗も流さなきゃな。シャワーでも浴びるか、梓。疲れただろ、私が洗ってやる!」

澪は先程とは打って変わって意地の悪い満面の笑みをしていた。

梓「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さ……」

澪「さあ、入ろうか」

梓「にゃあああ!!!」

カーテンの隙間から月の光が差し込む寝室では、梓と澪が二人くっついて布団に包まっていた。
梓は風呂上がりのポカポカな体を澪の大きいパジャマに包んでいる。

澪と一緒にいることで安心したのか、梓がすやすやと穏やかな寝息を立てる一方、そのつやつやな髪を手櫛で梳かしながら、澪は複雑な表情を浮かべていた。

彼女が何を考えているのか、それはおよそ知り得ない事だ。
しかし、その顔は梓の身を案じているようにも、謀をめぐらせているようにも見える。

澪「梓……」

頭を撫でる手を止めて、小さく吐息を漏らした。

澪「―――」

澪は何事かを小さく小さく呟いて笑う。
青白い月明かりに照らされて、妖艶にも不気味にも見えるその笑みは月が雲に隠れるとともに暗闇に沈んだ。



梓が澪の部屋に着いた頃、律も琴吹邸に上がっていた。
絢爛とした中にも雅さを感じさせる琴吹家の屋敷内を歩き、紬の部屋へ足を踏み入れた。

紬はベッドに腰掛けると、律に向かってちょいちょいと手招きした。律がそれに従って紬の隣に座ると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

紬「……さて、どこから話せばいいかしらね」

紬は静かに溜息を着いてから律を見つめる。

紬「話すことは山ほどあるけど、まずはベルトと怪物の正体について話すわね」

律が無言で紬の方を見つめ返すと、紬は足元に視線を落として口を開いた。

紬「あの怪物の名は、オルフェノク。名前くらいは何度か聞いたかしら?」

律が頷くと、紬もそうだろうとばかりに頷き返す。

紬「オルフェノクは、人間が死を引き金に覚醒した存在なの」

その言葉を聞いて、今まで紬の言葉に受動的だった律が初めて強い反応を見せた。

律「それって和達はもう死んでるって事かよ!?」

紬は粛然とした表情で頷き、話を進める。

紬「単なる事故死や、オルフェノクに殺された場合とか色々なパターンがあるけど、和ちゃん達は確実に一度死んでから、オルフェノクとして蘇っているわ」

律は複雑な表情で俯いた。

紬「それで、オルフェノクとなった者は動植物の特性や、人間を超越した身体能力を得るの。
死後オルフェノク化する条件はまだ研究中でハッキリとした事は分かっていないけど……」

律「研究中って、誰が研究してるんだ?」

紬「琴吹家が所有している研究施設よ。
そして、その施設はベルトの話にも深く関わってくるわ」

紬は枕元の水差しとコップを取って喉を潤すと、律にも薦めてきた。
律がコップを受け取ると、話を続けた。

紬「研究施設では、オルフェノクの生態調査等と共に対策案も練っていたの。そうして最初に作られたのが、デルタギア」

そう言って紬は、スクールバッグからベルトを取り出した。

紬「これが、そのデルタギアよ」

律「……何でこんなもんムギが持ってんだ」

紬「その説明は後でね。それで、これはまだプロトタイプなの。さらに後継機として、ファイズギア・カイザギアを開発する予定『だった』」

そう言って紬は遠い目をした。

紬「でも、ファイズギアとカイザギアは設計段階で全ての資料を奪われてしまったの」

律「え!?」

律「奪われたって……でもファイズのベルトは確かに……」

紬は、混乱する律を宥めるように手の平を律に向けた。
律が落ち着きを取り戻して話の続きを促すと、紬は静かに唇を開いた。

紬「確かに今、ファイズギアもカイザギアも存在しているわ。
それは資料を盗んだ秘密結社、スマートブレインが極秘裏に二本のベルトを開発したからなの」

律「秘密……結社?」

紬「そう。スマートブレインの目的は、オルフェノクによる地球上の制圧と支配……そして私達はそれを止めるため、デルタギアを使ってスマートブレインと戦ってきたの」

紬はより一層悲しい目付きで、虚空を見上げた。

紬「……ねえりっちゃん。
りっちゃんには、斉藤の事紹介してたかしら」

律「ああ、確か執事さんだっけ?」

紬「覚えていてくれて嬉しいわ……彼、死んだの」

律「なっ……!?」

紬「初め、デルタギアで戦っていたのは斉藤だった。でも、斉藤の老体には幾度もの戦闘は不可能だったの。そしてある時、上級オルフェノク二体に襲われて……」

律「殺された、のか……」

紬は小さく頷いた。

紬「それ以来、私は斉藤の仇を討つ為に、そして私達の目的、全てのオルフェノクを殲滅する事の為に戦ってきたわ」

紬は強い意志を宿した瞳で、まっすぐに律を見据えた。

紬「お願い、りっちゃん。私と一緒に戦って欲しいの。
オルフェノクは滅びなければならない……絶対に!」

律「……なあムギ、一つ聞きたい事があるんだ」

律は紬の頼みにすぐには答えず、代わりに一つの質問をぶつけた。

律「オルフェノクってのは、みんな和やいちごみたいに狂っちまうのか?
力に溺れず、人間と変わらない生活を送ってるオルフェノクはいないのかよ」

律は、純に対する態度を後悔していた。
怪物だという理由で最初から疑ってかかっていたが、今の紬の話を聞くに彼女は死を経験した上、なりたくもない怪物として蘇ってしまった被害者かもしれないのではないか。

紬「もちろん、そういうオルフェノクはいるわ。
でも、彼らは激情したり、感情が高ぶれば自らの意志に関わらずオルフェノクの姿に変化してしまうの。そうなれば、周りの人間を殺してしまうかもしれないわ。
危険の芽は、摘み取る必要があるの!」

律は、内心紬の発言が間違っていると思っていた。
その論理でいけば世界中から人間が、いやあらゆる生物が消えるだろう。
しかし純への態度を正当化し、自らの逃げ道を作るのには、紬の言葉はあまりに抗い難い甘言だった。

律「……そうだよな。
ああ、分かった。協力してオルフェノクを殲滅しよう」

紬「本当!?
嬉しいわ、りっちゃん!」

紬は興奮して抱き着いてきた。
律の中では本当にこれで良かったのかという疑念と後悔が渦巻いていたが、今は自らを縛る自責の鎖から逃れる事しか考えられなかった。

その後、律は幾つかオルフェノクやベルトについて質問してから帰って行った。


紬「……何とか無事、りっちゃんを味方に付ける事が出来たわね。
それにしても、まさかりっちゃん、カイザの装着者を知らなかったなんて……」

律がいちごに襲われた際、澪はわざわざ変身を解除して姿を晒していた。
しかし、律はその時の記憶が霞んでいて、思い出せないそうだ。

紬「とても好都合だわ……うっ!」

突然、紬は胸を抑えて苦しみ始めた。
彼女は震える手で枕元の紙袋から大粒の錠剤を二、三粒取り出し、水も無しに飲み込む。
それでもしばらくのたうちまわった後、やっと治まったのか息を整え始めた。

紬「はぁ、はぁっ……くっ、また周期が早くなってる……
やっぱり、限界が……いや、大丈夫。大丈夫よ斉藤。必ず、オルフェノクは滅ぼしてみせる……!」



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