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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~ 第四話 淫欲

2011年11月01日 19:41

孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~

89 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/05/30(月) 20:13:30.03 ID:U8SC6v4Lo


   第四話

    淫欲


 ジャンボジェット機が随分と大きく見える。かなり低い高度で飛んでいるからだろう。

 羽田空港が近くにあるので当り前といえば当り前だ。

 自分が運転している自動車から外の様子を見ると、巨大な工場がいくつも見える。まるで巨人の内臓がむき出しになっているようだ。

 目の前に広がる京浜工業地帯に旅客機が突っ込んだら、東京が終わるのも案外簡単かもしれない。


 ふと、そんなことを思った。


「うはあ、もう腹ペコペコのペコちゃんだぜ。五郎、まだかよ」

「もう、落ち着きなさい杏子。焼き肉は逃げたりはしないわ」

 後部座席からは、二人の少女たちがこの日の昼食の話に花を咲かせている。

 俺は以前、焼肉を食べさせてやるという約束を果たすため、杏子とマミの二人を車に乗せて川崎へと向かっていた。

 焼肉は都心でも食べられるけれど、どうせ皆で食べるなら、前から気になっていた川崎のセメント通りにある焼肉屋で食べようと思っていたからだ。

 知り合いからも、あそこの焼肉は都心よりも本格的で美味いと聞いていた。

 目当ての焼肉屋の駐車場に車を止める。車のエンジンを停止させるやいなや、杏子が飛び出した。

「ひゃっほうーい」

「こら杏子。危ないわよ」

 ハイテンションで車から降りる杏子をたしなめるマミ。

 それにしても焼肉というだけであそこまで上機嫌になれる杏子が少し羨ましかった。

 大人になると、あまりわくわくするようなことがない。



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 昼間の焼肉店はあまり客がおらず、空いていた。
 しかも、12時から13時までの、いわゆるランチタイムよりは少し遅くなったので、尚更だ。

「あたしは、朝から何も食べてないから腹へってしょうがないんだよ」

「朝食はちゃんと食べないとダメだって、言ったでしょう」

 駐車場でそんな会話をしている二人に対し、車に鍵をかけた俺は呼びかける。

「ほら、行くぞ」

「わかってるって。何食べよっかなあ」

 入口を入ると、きっちりとした制服を着た店員が出迎える。

「いらっしゃいませ」 

「予約していた井之頭だけど」

「お待ちしておりました」

「なんだ五郎、予約していたのかよ」

 杏子が俺の肩に飛びつくようにして言った。

「ああ、店が閉まってたら嫌だからな」

 食事をする時はいつも行き当たりばったりだった。
 ただ、一人の時はそれでいいけれど、三人ともなればそういうわけにもいかないだろう。

 久々の予約は、少々勇気がいるものだった。

 この年になっても電話することに勇気を要する自分が情けない。
 四人掛けのテーブルに、杏子とマミ。そしてその向かい側に俺が座る。

「何頼む?」

「そうねえ」

 嬉々としながらメニューを眺める二人を見ていると、自然と笑みがこぼれる。

「何笑ってんだ? 気持ち悪いな」

 杏子が俺の様子に気がついたのか、そんなことを言っていた。

「いや、何でもない」

「あ、そうか。五郎も焼肉楽しみなんだな。ジャンジャン食えよ」

「金を出すのは俺だ」

「そうだっけ」

 とりあえず、肉類は色々な種類のものがセットで食べられるものを頼むことにした。

「お飲み物は何になさいますか?」店員が聞いてくる。

「俺はウーロン茶で」

「アタシはオレンジジュース!」

「私はアイスティーで」

 それぞれが、好きな飲み物を頼む。

「それと白いご飯を」

 俺はご飯を頼むのも忘れない。酒が飲めない俺にとって、焼肉における白米は欠かせない。

「おっしゃー、食うぞお」

「まずはタン塩ね」

 飲み物とともに、早速肉が運ばれてきた。最初は、軽くジャブのつもりでタン塩だ。

 レモン汁で食するタン塩はあっさりしていて美味い。

「うん、いいな」

 薄く切られたタン塩を口に入れると、レモンとコショウの香りが鼻腔を刺激する。
 それと同時に、ほど良い塩加減のタン塩からピュルピュルと溢れる肉汁が何とも言えない

幸せな気持ちにさせてくれた。

「くう、これですよ、これ」

 何が“これ”なのかよくわからないけれど、肉を口にすることで焼肉屋に来たことを実感する。

「よっしゃ、カルビも焼こうぜ」

 どうやら杏子は肉が食べたくてウズウズしているようだ。

「はい、五郎さん。タレですよ」

「おう、ありがとう」

 マミがこちらにタレを渡してくれた。

 アツアツに熱せられたアミの上に肉がどんどんと乗せられていく。

「うん、こいつはなかなかいい肉だ」

「わかるんですか?」マミが聞いてくる。

「まあ色を見れば」

「……」

 杏子はじっと焼ける肉を見つめていた。

 しばらくすると、肉の色が変わりはじめる。

「よっしゃ、一番!」

「こら杏子」

 肉が焼けると真っ先に、カルビを箸で取る杏子。そして、それをタレにつけて口へと運ぶ。

「くううう、ウメー」

 見ているだけで腹が減ってきそうな杏子の食べっぷりを見て、俺も負けずに肉を取る。

 タレに肉を半分ほど浸し、一気に口の中へ。

 モグモグと噛むとタレの味と肉から染み出るうま味が混ざり合って実に幸せな気持ちにしてくれる。

「うん、うまい肉だ。いかにも肉って肉だ」

 ウーロン茶を一口飲んで、再び肉を口へ運ぶ。タレの味と肉の香りが口の中いっぱいに広がって行った。

 確かに美味い。美味いのだが、大事なものが欠落している気がする。

「あれ、まだご飯こねえのかな」と杏子。

 そうだ、ご飯だ。確かに、酒を飲まない俺にとって焼肉でご飯は必需品だ。

「すいませーん、ご飯もう持ってきちゃってくださーい」

 俺は奥の店員に対して呼びかけた。

「ふう」

 食べていると暑くなってきたので、俺は上着を脱ぐ。

「お次はミノと行くか」

 いい具合に焼きあがったミノを口に運ぶ。

 このミノも美味い。

 不味いミノはゴムみたいな歯応えだが、ここの店のミノは良いものを使っているらしく、しっかりと噛めて味も良い。

「おいマミ、そのロースはアタシんだぞ」

「うふふ、そうでしたっけ?」

 こういう場所では、マミのような上品そうな娘は取り残されるんじゃないかと少し心配したけれど、彼女もわりとちゃっかりしているようなので安心した。

 いや、安心してはいられないか。

 皿の肉がどんどんと無くなって行く。若い力の消費量が半端ない。

 年頃の娘はダイエットだなんだと言って、あまり食べないのかと思っていた。

 しかしそんなことはなかった。

「五郎さん、お野菜も食べないといけませんよ」

「ん、ああ」

 中学生に注意されてしまった。しかし、焼肉で野菜を焼くのはどうも苦手だ。今も、ネギを少し焦がしてしまった。

 もう、早くご飯よ来い。焼き肉といったらご飯だろう。

 このままいくと、ご飯が来る前に皿の肉がなくなってしまうのではないか。

「お待たせしました」

 俺の心配を知ってか知らずか、店員が山盛りのご飯を持ってきた。すでに肉は半分以上なくなっている状態だ。

 こうなってくると、店員も狙ってやっているんじゃないかと疑いたくもなる。

 だが食事時にそんなことを考えるのは野暮というもの。

 俺は気を取り直してご飯を片手に、肉を焼いた。

 焼けたカルビにタレをつけ、それを白いご飯とともにいただく。

 カルビ、タレ、そして白いご飯。この組み合わせはもはや三種の神器と言っても過言ではない。
 タレの味がご飯の持つ微かな甘味と混ざり合って俺の中の食欲を更に刺激する。

「くーっ、いいですね」

 ご飯は炊きたてらしく、そのまま食べても十分美味しかった。

 なるほど、出てくるのが遅かったのはそのためか。俺は勝手に納得する。店員さん、疑ってすまなかった。

 こうしてご飯を得た俺は、水を得た魚のごとく再び肉を焼きはじめる。

 川崎に焼肉が似合うということが、今日よくわかったよ。

 まるで俺の身体は製鉄所、胃はその溶鉱炉のようだ。

 ということは、肉が鉄鉱石でタレとご飯がコークスなのだろうか。

「骨付き肉もウメー」

 焼いた肉の三分の二は若い力に食べられてしまうので、たくさん焼かなければならない。

 夢中になって食べていると、大皿の肉はすっかりと無くなってしまった。

「なあ五郎、もっと食べようぜ」

 頬にご飯粒をつけた杏子が、まだ食べ足りないという顔をしながら追加注文を要求してくる。

「ああ、わかった」

 俺は店員を呼び、注文をする。

「上ロース、上カルビ、それぞれ三人前。それからサン、サン、……サンチュ」

「あ、サニーレタスですね」

「あ……そう、それそれ。あと……」

「なあ五郎」

「ん?」

 俺と同じようにメニューを持った杏子が呼びかける。

「どうした」

「この、チャプチュっての、頼んでみようぜ」そう言って、杏子はメニューを見せる。

「わかったよ。じゃあそれ。あと、ウーロン茶」

「かしこまりました」

 しばらくすると、頼んだ品物が運ばれてきた。

 その中でも一際異彩を放っていたのが、やはりチャプチュだ。

「随分ボリュームがあるんだな」

 器もかなりデカイ。香りは、なんだかスキヤキのようにも思える。

「なんかうまそうだな」杏子が目を輝かして見ていた。

「ほら」

 俺は、チャプチュを小皿に取り分けて、杏子に渡した。

「おお、サンキュー」

 笑顔でそれを受け取る。

 俺も、チャプチュを一口食べた。

 匂いがスキヤキっぽかったけれど、味もかなりスキヤキに近い。ただ、スキヤキよりも味は濃いめ。
 このため、ご飯のおかずにはとても合いそうだ。

 気がつくと、得盛りにしてあったご飯がすっかりなくなっていた。

「うーん、ご飯どうしよう」

 ふと前を見ると、杏子が汗をかきながら肉を食べている最中だ。

 えい、こうなったら。

「すいませーん、ライスもう一つくださーい」


 うおォン! 俺はまるで人間火力発電所だ!


   *


「ああ、食った食ったあ」

 すっかり満腹になった俺たちは店を後にした。

「うへえ、こんなに肉食ったの初めてかもしれねえ」

 杏子も苦しそうにしているけれど、同時に嬉しそうでもある。

「なかなか良いお肉でしたね。このお店」

 マミのほうは、わりと平気そうな顔をしている。彼女も杏子ほどではないけれど、かなり食べていたと思うのだが。

「マミは一体どこに食べ物が入ってんだ? 全部胸に行ってんのか?」

 杏子がマミの胸を見ながら言う。

「何を言ってるのよ杏子は」

 胸? 確かにマミの胸は杏子のに比べるとデ――

「いてっ」

 いつの間にか杏子が俺のすぐ側にきて、下段蹴り(ローキック)をかましていた。

「何すんだ」

「今、エロイこと考えただろうが、このスケベ親父」

「考えてない」

 ……少ししか。

「あらあら、五郎さんもまだお若いんですね。私も気をつけないと」

「俺はまだ現役のつもりだけどな」

「バカなこと言ってんじゃねえよ」

「お前が言いだしたんだろうが杏子」

「さあ、帰ろうぜ」

「ふう」

 無益な言い争いをしていたら、余計に疲れたので俺は空を見た。

 飛行機が大きく見える。

「あら?」

「どうした、五郎」

「あの飛行機、なんか飛び方がおかしいような」

「はあ、着陸態勢に入ってるからじゃないのか?」

 杏子のその言葉をマミが否定する。

「いえ、違うわ。杏子、五郎さん」

「なに?」

「よく見て、あの飛行機!」

 マミは飛行機を指差す。


「あ!」


 思わず声をあげてしまう。


 飛行機に、何か得体の知れないモノがくっついている。それもかなりデカイ。


「マミ、まさかあれは……」

「魔女よ、間違いないわ」

 目を凝らすと、牛、羊、そして人間のような顔の三つを持った巨人が、飛行機にまたがっている。

 手には大きな槍を持っており、後ろのほうでチラチラ揺れているのは尻尾だろうか。

 アスモデウスと呼ばれる悪魔にそっくりの形をしている。
 物語などでは、地獄の竜(ドラゴン)にまたがっているというが、現在のアスモデウスは飛行機にまたがっているというのか。

「大変よ、このままでは墜落してしまうわ」

「工業地帯に落ちたら大変なことになるぞ」

 俺は飛行機のすぐ下に広がる工場群を見ながら、最悪の事態を想像して背筋が寒くなるのを感じた。

「そんなにヤバイのか?」

 危機感をあらわにする俺とマミに対し、杏子はイマイチ事態の深刻さを理解していないようだ。

「杏子、もしこの辺りに飛行機が墜落したら、しばらくここの焼き肉は食えなくなるぞ」

「……なにい? それは不味い」

「だから何とかしないと」

「なんとかって、あんな空の上にいるやつをどうすりゃいいんだ」

「……お前たち、飛べないのか」

「残念ながら、アタシたちは空を飛ぶことはできない。高くジャンプすることならできるけど……」

「そうか、ならどうすれば……」


 悩む俺たちに対し、マミが何かを思いついたらしく声を出した。


「私にいい考えがあるわ!」


「……」

「……」

「どうしたの?」

「なんだかアタシ、すごく嫌な予感がする」

「奇遇だな、俺もだ」

 まさかこんな所で、杏子と気持ちが一緒になるとは思わなかった。

「そんなことを言ってる場合じゃないでしょう。ほら、どんどん高度が下がっていってるわ」

「うわ、ヤバイな。で、どうするんだよ」

「杏子と五郎さんが、あの魔女の近くまで飛んで行って、魔女を飛行機から引き離すの」

「ちょっと待てよ、アタシは飛べないって、さっき言ったばかりだろう」

「だから、私が協力するのよ」

「え?」

 そう言うと、マミは素早くソウルジェムを取り出すと、その光で魔法処女へと変身した。

「魔法少女巴マミ、華麗に参上」

 マミは変身と同時に、モデルのようにポーズを決めた。

 このポーズに意味はあるのか。

「……、一々ポーズ取らないといけないのか?」杏子は俺の疑問を代わりに聞いてくれたようだ。

「い、いいじゃない。こういうのは気持ちよ」

 マミは顔を真っ赤にしながら言い返す。

「まあ、そんなことはいいけど、これからどうするんだ?」

「あなたも魔法少女に変身しなさい、杏子」

「アタシも? まあ、いいよ」

 杏子は自身の真っ赤なソウルジェムを取り出すと、赤い衣をまとう魔法少女へと変身した。

「五郎さん?」

「お、おう。なんだ」

「杏子の後に立ってくださる?」

「ああ。それがどうした」

 俺はマミの言われるがままに杏子の背後に立った。

「それっ」

 マミの掛け声とともに、黄色いリボンが俺の身体に巻きつく。しかも撒きついたのは、俺の身体だけではない。
 なんと、マミの出したリボンで、俺と杏子の身体が互いに縛りけられてしまったのだ。

 それもかなり強力に。

 簡単に言えば、今の俺の状態は杏子を腹に抱えているようなものだ。

「おいっ、マミ! 何しやがる。動きづらいだろ!」杏子が暴れると、彼女の持っている槍が頭や顔に刺さりそうで怖い。

「一体どういうことだ!」

 何かの冗談か? 俺はそう思いマミに声をかける。

 それに対してマミは、

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「だって、空中で離ればなれになったら危ないでしょう?」

「はあ?」

「もう一つ、それっ」

 再び掛け声を発すると、焼肉屋の駐車場に巨大な大砲のようなものが出現する。
 マミが魔力で作った大砲だ。

「はい、これに入って」

「……これにって」

「この“至高の大砲(シュペルブカノン)”であなたたちを魔女の元へ飛ばすわ」

 人間大砲。最初にその言葉が頭に浮かんだ。

「俺が一緒に行く意味はあるのか?」

「あなたは魔女を引き寄せる体質なのよ。あなたが一緒じゃないと、逃げられてしまうかもしれないわ」

「……」

「さあ、急いで。杏子も」

「うう……」

 俺たちはマミの魔力で作られた大砲の中に入る。

 中は案外狭いので、杏子がモゾモゾ動くと気になってしょうがない。

「変なところ触るなよ、五郎」

「こんな狭いんじゃどうしようもない」

 ふと、杏子の髪の毛の匂いが鼻腔を刺激する。

 焼肉を食べた後なので、焼肉臭いのかと思ったけれど、意外にも彼女独特のほんのりとしたバニラエッセンスのような香りが残っていた。

『いくわよ、二人とも』大砲の外からマミの声が聞こえる。

 もはや選択肢はない。

『角度48°、風向き、よし。行くわよ』

「ああ、ちょっとマミ」

『なに、五郎さん』

 どうしても俺は気になったことがあったので、聞いてみる。

「なんかお前、手慣れているようだけど、この技で人を飛ばしたことはあるのか?」

『……』

 しばしの沈黙。

「マミ?」

『ないわ』

「は?」

『ないけど、なんだかできるような気がするの』

「おい、ちょっと待て」

『もう時間がないわ。行くわよ』

 聞くんじゃなかった。

 俺は後悔をしながら耳をふさぐ。

『ティロ・フィナーレ!!!!!!』

 物凄い音とともに身体に衝撃が走る。本物の大砲なら、身体が砕け散ってしまうところだが、これは人を飛ばすための魔法。

 一瞬で目の前が明るくなり、激しい風が俺の身体を叩いた。

「いってええ」

「喋るな舌噛むぞ!」杏子が注意する。

 やはり魔法少女の身体は特殊なのだろう。俺と違って、空を飛んでいても怯むことがない。

「しっかり捕まってろ。結ばれてるからって、油断するな!」

「お、おう」

 俺は前にいる杏子の身体を抱きしめた。

 魔女と呼ばれる巨大な化け物と戦う彼女の身体は、思ったよりも小さく華奢であった。

 お、いかんいかん。子ども相手に何を考えているんだ。別のことを考えないと。

 ところで、俺たちはちゃんと魔女のもとへ飛んでいるのだろうか。

 俺は思い切って前を見る。激しい風で顔が痛いけれど、ある程度の空気抵抗は魔力で防がれているらしい。

 さきほどまで、小さかった旅客機がすぐ目の前まできている。

 かなり大きい。そして、その飛行機にまたがっている魔女も巨大だ。


「おいクソ魔女! アタシが相手だ!!!」


 魔女についた三つの顔が同時にこちらを見る。

 気持ちが悪いのでこっちを見てほしくない。だが近くで見て俺は確信した。
 間違いなくこいつの外見は悪魔のアスモデウスにそっくりだ。

 魔女は、俺たちのほうに気がつくと、急に飛行機から飛び降りる。

 それと同時にグラリと揺れる飛行機。

 魔女が離れると、機体が安定したようだ。

 俺は心底ほっとする。
 この工業地帯に巨大な旅客機が墜落したら、乗客乗員の犠牲だけでは済まされない大惨事になることだろう。

 しかし安心したのもつかの間、魔女はどこへ行ったのか俺は周囲を見回す。

 一瞬、辺りが暗くなった。

 雲か? それとも日食?

 そんなわけがない。

 上空を見上げると、巨大な何かが飛んでいるのが見えた。

 まさか……、

「竜(ドラゴン)!?」

 巨大な竜がいたのだ。

 バカな。飛行機に乗っていた魔女は、牛と羊と人間の顔を持つアスモデウスのような化け物だったはず。

「なんだありゃ!」

 杏子も驚いている。

 竜は俺たちの上空を通り過ぎると、大きく旋回してこちらに向かってくる。

「あ!」

 先ほどまで飛行機にまたがっていた例の魔女、というか悪魔が竜の上に乗っているではないか。


 だったら最初から竜に乗ってろよ。何文明の利器に乗ってんだ!


「ヌオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 耳障りな声を出しながら竜に乗った魔女が襲いかかってきた!

 手には、これまた巨大な槍を持っている。

 こいつで攻撃されたら厄介だ。

「杏子! あれは」

「五郎! よくつかまってな! 本物の槍の使い方をあの魔女に教えてやるぜ」

「な……!」

 いつの間にか槍を手にしていた杏子が、空中で槍を構える。

 どう考えても彼女の槍では敵には届かない。

「そりゃあああああ!」

「なに!?」

 杏子が槍を振ると、その槍は幾つか折れて、その間から鎖が出てきた。
 彼女の槍は、柄の部分がいくつか別れており、それを鎖でつないでヌンチャクのような変則的な攻撃をすることもできるのだ。

 しかもその鎖が伸びる。

 明らかに質量保存の法則を無視したその鎖はどんどんと伸びて行き、魔女とその使い魔らしい竜の周りに到達した。

「そらあああああああああああああ」

 杏子が掛け声をかけると、鎖が更にのびて、まるで人工衛星のように魔女の周りをぐるぐると回る。

「それ!」

 杏子が手を引くと、数百メートル以上伸びたと思われる鎖が一気に緊張し、魔女の本体は鎖で締め付けられてしまった。


「ヌグオオオオオオオオオ!!!」


 苦しそうな声をあげる魔女。


 しかし――


「危ない!」


 一瞬嫌な予感がしたので、俺は杏子の腕を掴んだ。

「何すんだおい!」

 手に持った槍の柄が落ちる。

 と、同時に目の前で火炎が通り過ぎて行った。

「くっそお……」

 魔女が口から炎を吐いたのだ。やつは槍による直接攻撃だけでなく炎で攻撃もできるらしい。

「杏子、正面からはダメだ!」

 たとえ炎がなくても、正面からいったらあの巨大な槍で俺たちの小さな体は潰されてしまうだろう。

「じゃあどうすりゃいいんだよ!」

 どうすれば……。

 時間はない。先日戦った時のように作戦会議をしている時間はないのだ。
 
 恐らく後方から行ってもあの三つの顔のうち、どれかから炎が出てくるだろう。
 あの長い尻尾も攻撃に使えるのではないか。


 だとしたら死角は――


 俺は目を見開く。

 くそっ、上手く行くかどうかわからないけれどやるしかない!

「杏子! またあの鎖を出せるか!?」

「ああ? 出せないことはないぞ」

「だったら、鎖を伸ばして魔女の首にかけろ!!」

「そんなことしてどうすんだ!」

「俺を信じろ!」

「……わかった!!」

 杏子は、一瞬で精神を集中させ、再び例の槍を現出させる。

 そしてその槍を、投げ釣りの竿のように大きく振る。


 シュルシュルと伸びる鎖。槍の先端がまっすぐと魔女の持つ三つの頭へと向かい、そしてその中の一つ、牛の頭の近くへと到達した。

 杏子は魚釣りの竿を操るように、魔力で槍の先端を動かす。すると、先端はくるりと回り、鎖が魔女の首に巻きついた。


「ヌグオオオオオ!!!!」またも聞こえる不気味な叫び声。


「へへっ、魔女が釣れたぜ!」


 ここからが本番だ。グズグズしているとまた火炎攻撃がくる。

「杏子! そいつを持ったまま一気に竜の腹の下へ移動する!」

「え? ああ。けん玉みたいなもんか」

「そうだ!」

「なるほど。よおし」

 杏子は反動をつけると、槍の柄を持ったまま勢いよく下へ落ちる。

 魔女の首に絡まった鎖はまだ解けない。


 頼むぞ!!


 物凄い勢いで、目の前に工場のむき出しになった銀色の配管が迫ってきた。

 遊園地のジェットコースターがまるで子供向けのゴーカートに思えるほどの迫力だ。

「うおおおおおおおおおおお!!!」

「うわあああああああああああああ!!!!!」

 恐怖心を押し殺すには、もう叫ぶしかなかった。

 鎖は竜の横腹に辺り、その反動で俺たちの身体は一気に上へと向かう。

 俺の目線の先に、今度は巨大な竜の腹が見えた。


 これが奴らの死角!!


 チャンスは一度、これを逃すと後はない。

「きょおおおこおおおお!!! 新しい槍だあああああああ!!!
 貫くぞおおおおおおおおおおおお!!!!」



「うわかったああああああああ!!!!!」


 杏子がもう一本槍を現出させる。


 今度の槍はかなりデカイ。そして、黄金色に輝いていた。

 
 まるで光の槍だ。


 杏子は、右手で鎖の付いた槍の柄を持ち、左手に新しく出した槍を持っている。

 片手はまずい。

 そう思い俺は、もう一本の光の槍を握った。

 手は熱くない。

 しかし、胸の中はとても熱い。

「ごろおおおおおおおおお!」

「いけええええええええええええ!!!!」

 杏子は鎖の付いた方の槍を手放す。

 それと同時に、地面を踏みしめているような衝撃を感じる。杏子が何か別の魔法を使ったようだ。

 すると、まるでロケットのように凄まじい勢いで俺たちの身体は竜の下腹に真っすぐ向かった。


 杏子と俺の握る槍の光が更に激しく輝く。


「突きぬけろおおおおおおおおおおお!!!!!」


 激しい衝撃とともに一瞬の闇が訪れた。 

 闇の中では色々な人の悲しみや怒り、恨みなどが一気に俺の頭の中に流れ込んでいる。


 これが魔女の体内か?


 苦しい、辛い。


 だが、それは誰もが抱えているものだ。それを抱えてなお、走り続けなければならない。


 それが生きることだ。

 そうだろう? 杏子。


 気がつくと、俺の目の前には青空が広がっていた。


「突き抜けた……」


 足元を見ると、黒い霧のようなものが見える。あれが、“魔女だったもの”だろうか。

 ふと目の前に光るものが見えた。

 手を伸ばすと、まるで俺の手に吸いつくように、それを掴むことができた。

 丸い球のような物。これが魔女の卵、グリーフシードというものか。

 俺はそれを落とさないよう、握りしめた。

 しかしこれからどうすればいいんだろう。

「杏子?」

「う、うーん……」

 気を失っている……。

 もしかして本気でヤバイのではないか。

「おい、杏子!」

 俺は杏子を揺り動かす。

「……もう食えねえ……」

「食ってる場合か!」

 俺たちは、先ほど上昇した。

 地球に重力がある限り、下に落ちなければならない。これは万有引力の法則だ。

 あれだけ科学的な法則を無視して戦っていたにも関わらず、最後は普通に引力に引かれてしまうのか?

 上昇を終えた身体は、ゆっくりと下降していく。それも段々と早くなっていく。

「おい、杏子! 起きろ!! もう夕方になるぞ!」

 物凄いスピードで落下していく俺たち。

 下を見ると川崎の街並みがどんどんと近くになってきている。

「ちょっと待てえええええ!!!」

 再び叫ぶ。

「ん?」

 気がつくと、俺の背中で何かがシュルシュルと音を立てている。

「あら?」

 どうやらマミが、俺たち二人が離れないようにと巻きつけたリボンが俺の背中でほどけているようだ。

 どういうことだ? まさか死ぬのは俺一人ということか。

「ああ」

 俺は天を仰ぐ。どうせ死ぬなら空を見て死にたい。そう思ったからだ。

 しかし、空には何か黄色い膜が張られていた。

 さっきまで青空だと思っていたのだが、もう夕方か?

 しかし、そうではなかった。

「はあ!?」

 なんと、マミが俺たちに結んだリボンが落下傘(パラシュート)のような形になっているではないか。

 単に俺たち二人を結びつけるだけでなく、着地する時のためにパラシュートを用意してくれていたのだ。

 よく考えてみればそうだ。

 着地のことも考えず、飛ばすだけだったらただの殺人者だろう。

「おーい! 五郎さーん、杏子ー!」

 街の歩道で、既に魔法少女の服装ではないマミが大きく手を振っていた。

 本来のパラシュートなら、着地の際にかなりの衝撃になるはずなのだが、マミ特製の黄色いパラシュートは、ゆっくりと俺たちを着地させてくれた。親切な設計だ。

 アスファルトの上に両足をつくと、役目を終えたマミの黄色いリボンは消えてなくなってしまった。

「……ううん、っは! どうした? あれ、魔女は?」

 気がついた杏子が周囲を見回しながら聞いてくる。

「大丈夫、魔女は倒した。お前の手柄だ杏子」

「そうよ、私も遠くから見ていたけど、凄かったわ」マミもそれに同意する。

「いやあ、それほどでもねえよ」

「そうだ。これはお前のものだ」

 俺は先ほど空中で拾った魔女の卵、グリーフシードを杏子に手渡した。

「お、こいつがあるってことは本当に倒したんだな、よかった」

「ああ、よかったな」

「あの……」

「どうした?」

 マミが恥ずかしそうにモジモジしている。一体どうしたというのだろうか。トイレにでも行きたいのだろうか。

「ここ、マズいですよ」

「マズい?」

「何がだ?」

 俺たちは周囲を見回した。

「あっ」

 目の前にはソープランドと書かれた看板が……。

 俺たちが立っている場所は、焼肉屋のすぐ近くにある堀之内のソープ街であった。


   つづく


   【次回予告】

 オッス! 美樹さやかです!

 やっと私の出番が来たね。え? 次回のお話ですか?

 ええと、マミさんと五郎さんが日曜日の石神井公園で二人……。

 これってデート!?

 くそう、私だって恭介とデートしたいのに……。

 うう、次回も見てください。後悔なんてあるわけない!


   【解説】

 ● マミさんのリボン

 作中で最も汎用性の高い魔装具の一つ。

 基本的に柔らかいので、攻撃や防御など直接的な戦闘には不向きだが、相手を縛りつけて動きを封じるなど、応用は効きそうだ。

 魔力の使い方次第で、リボンの道を作ったり、落下傘や包帯などにして使うこともできるとても便利なもの。

 姫ちゃんのリボンと違って、これを使っても他人に変身することはできない。


 ● 川崎市

 神奈川県の北東部に位置する都市。東京都と横浜市に隣接する人口約142万人の政令指定都市である。

 京浜工業地帯の中にある、工業都市としても有名。

 また、堀之内と南町の風俗街は、関東第二位の規模と言われている。 

 ほかにも色々あるみたいだけれど、筆者は行ったことがない。



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