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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~ 第九話 憂鬱 ~後編~

2011年11月07日 19:02

孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~

316 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/08(水) 20:49:32.53 ID:kKuJVhQho


    第九話 憂鬱 ~後編~


 夜の公園で、尋常じゃない瘴気を放つ少女。

 昼間に鹿目まどかから貰った写真を思い出す。
 短い髪、身長などから見て、美樹さやか本人で間違いないだろう。

「マミ、鹿目まどかに連絡を」俺は小声でマミに伝える。

「わかったわ」マミは素早く携帯電話を出す。

「杏子」

「わかってる」

 杏子は主要武器(メインウェポン)である槍を構える。

 俺は杏子のすぐ側で、美樹さやかと思われる魔法少女に声をかけた。

「美樹さやかさんだね」

「……」

 少女は答えない。

「キミの友達、鹿目まどかくんに頼まれている。キミを迎えに来たんだ」

「……まどかに?」

 少女の肩が小さく揺れる。親友の名前はまだ脳裏に刻まれているようだ。

「一緒に来てくれないか」

「……どうして」

「どうしてって」

「私はもう、戻れない……」

「何?」

「戻れないって、言っているの。私のことは放っておいて!」

 一瞬、強い風に襲われる。

「五郎!」

 杏子が俺の前に立つ。

 いつの間にか、美樹さやかは白刃を振い、杏子に斬りかかっていた。

「杏子!」

「五郎、いいから下がってろ! こいつはアタシが制圧する! マミも手だし無用だ!」

 二度、三度と剣が振るわれる。不気味な光を放つ片刃の剣を、杏子は槍の柄で素早く払いのけた。

 杏子の動きも早いが、さやかの動きはそれ以上に早く見える。

「五郎さん、こっちへ」

 俺はマミに手を引かれ、杏子の戦いを離れたところから見守ることにした。

「連絡は?」

「したわ。すぐこっちに来るって」

「そうか」

 鹿目まどかへの連絡も重要だが、今の俺たちの関心の九割は杏子とさやかとの戦いである。

「大人しくしろ、このっ!」

「うるさい、私の街から……出て行け……!」

 剣が振るわれる度に、黒い靄(もや)のようなものが見える。

「くっそ、話は聞いてもらえそうにねえな」

 大丈夫か、杏子。

「少々手荒なことになるが、我慢しろよっと」

 そう言うと、杏子は自らの槍の柄を分離させる。
 柄と柄の間は鎖で繋がれており、この鎖による攻撃や牽制もできる。

 その鎖を見てさやかは飛ぶ。

 魔法少女らしく彼女も身体能力は飛びぬけているようだ。

「逃がすか!」

 杏子は鎖ガマのように、槍の先端をさやかに投げつけた。
 しかし空中で機動を変えつつ、さやかは杏子の攻撃をかわす。

「悪いが、アンタの得意な土俵で戦うほどアタシはお人好しじゃないんでね」

 杏子の槍のほうが、さやかの剣よりも若干リーチが長い。

 攻撃力が高くても、その攻撃が届かなければ意味がない、ということか。

 杏子は槍を元に戻すと、先ほどよりも柄をやや長めに槍の再構成して、さやかに対し攻撃を仕掛ける。

「せいや!」

「……!」

 さやかはそれをなぎ払う。しかし、はじかれた槍は、柄の部分が分離し、鎖が出てくる。

「……」

 暗くてわかりにくいが、さやかの顔から戸惑いの表情が見えたような気がした。

「これまで戦ってきた魔女は、こんなしたたかな戦いはしていなかったでしょうからね」

 マミは、まるで自分のことのように得意気につぶやく。

 確かに。杏子はこれまで、俺と出会う前も後も、数え切れないほどの戦いを経験してきた。
 ありとあらゆる戦闘パターンを知っているはずだ。

 
 並みの魔法少女では、敵うはずがない。


 だが――



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 さやかの左手が光る。

「杏子! 左だ!!」

「え?」

 さやかの左手からほう1本の剣が現出し、杏子の顔を狙う。

 紙一重でそれをよけた杏子は、再び槍を構え体勢を立て直そうとするが、さやかは物凄いスピードで距離を詰め、一気に畳みかけるように攻撃をしかけてきた。

 文字通り、目にもとまらぬ速さで繰り出される剣筋に背筋が凍る。

「くっ!」

 二刀流か。

 単純に考えれば手数は二倍。

「調子に、乗るな!!」

 杏子が脚力を利用して大きく槍を振う。
 目に見える形で衝撃波がさやかを襲うも、彼女は持っていた2本の剣を十字に構えそれを防ぐ。
 そして、再び距離を詰めて攻撃を繰り返す。

 下?

 体勢を低くしたと思ったら、足払いのように剣を低く、真横に払うさやか。

「のわっ!」

 そのあまりの素早さに思わず杏子は体勢を崩してしまう。

 なんとか槍の柄で攻撃を防ぐ杏子。
 しかし、倒れずに無理に立った状態の杏子に対して、さやかは無常にも剣を振り下ろす。

「ちいっ」

 ギリギリで攻撃を避けた杏子だが、先ほどから行動が後手に回っていることは明白だった。

 このままではやられる……?

 俺の中で嫌な光景が掠める。

 そんな俺の不安を加速させるように、さやかの身体から禍々しい妖気が立ち上っているのが見えた。

 まずいな……。

「そろそろ、終わりにするわ……」

 ポツリと、さやかはつぶやく。

「なにい?」

 再び剣の攻撃。

「くっそ!」

 杏子の顔に焦りの色が見え始めた。

 明らかにさやかは、杏子を殺しにかかっている。
 そんな相手に対し、あわよくば無傷で生捕りにしよう、などと考えていたのでは敵うはずもない。

「マミ! やむを得ん」

「仕方ないわね」

 さやかの連続攻撃に、杏子が吹き飛ばされた。チャンスだ! やるなら今しかない。

「それ!」

 杏子が体勢を崩したところを更に畳みかけようとするさやかの左腕に、マミが自分の魔力で生成したリボンを飛ばし、そしてさやかの腕に巻きつける。

「大人しくしなさい」

「……」

 しかしさやかは無言で、マミのリボンを掴むと、素早く引っ張った。

「え?」

 マミの身体が宙を浮く。

 なんと、マミは自分のリボンに振りまわされて公園の反対側の広場にある石畳の上に激突したのだ。

「マミ!」

 信じられない光景だった。同じ魔法少女であるはずのマミを、いとも簡単に投げ飛ばしてしまうとは。

「大丈夫か!」

 俺はマミを助けようと、彼女の元へ走る。

 しかし、

 俺よりもはるかに早く、美樹さやかはマミの前にいた。

「邪魔しないで……」

 さやかはすでに、右手の剣を逆手に持った腕を振り上げていた。

「やめろ!!」俺は走りながら叫ぶ。

 次の瞬間、さやかのすぐ近くに、赤い影が迫っていた。

「そりゃぁ!!!」

 一瞬の光とともに、十数メートル先に吹き飛ぶさやか。
 眩しくてよく見えなかったけれど、素早く間合いを詰めた杏子が魔法による技を繰り出したようだ。

 ズンと腹に響くような音が鳴る。

「他所見してんじゃねえぞ!」

 そう言って、杏子は胸を張った。

「杏子、無事だったか」

「あのくらいでやられるかっての」杏子は片目を閉じる。

 ただ、余裕を見せている杏子だが、彼女の服はボロボロだし、肩や腕などに傷も目立つ。

「ったく、手を出すなって言っただろう。呪いにやられたらどうすんだ。立てるか」

「ごめんなさい」

 杏子に手を引かれて、マミが立ちあがる。

「それで、美樹さんは?」

「ん? アタシが一撃くらわせて――」

「!!」

 先ほど杏子に不意打ちをくらわされ、倒れたはずのさやかがすでに立ち上がっていた。

 公園の灯りに照らされたさやかの身体には、脇腹辺りに大きな傷が見える。だが血は出ていない。

 そして、彼女の身体にあったはずの無数の傷が、まるでビデオの巻き戻し映像のようにジワジワと治っていく。

「おい、デタラメだな、こりゃ」その光景を見ながら杏子は眉をひそめた。

「邪魔……、しないで……」

 理性を失った瞳がこちらを見据える。

「マミ、五郎を連れて下がってな。今度こそ」

「おいよせ、杏子」俺は杏子を止めようとする。

「いいから、下がってろよ! 邪魔なんだよ、戦えない奴は」

「……!」

 そう言われると弱い。

「アナタたち……、本当、邪魔」

 さやかが再び剣を現出させる。

 まずい……!

 しかし、ここで聞き覚えのある声が夜の公園に響いた。

 周囲が暗闇のため、音がよく通る。

「さやかちゃーん」

「ん?」

「さやかちゃん!」

 見覚えのあるツインテールの少女は、さやかの親友の鹿目まどかだった。

「!」

 一瞬顔を歪めたさやかは、身をひるがえし、どこかへと去って行った。


   *


「くそっ、逃げたか」

 杏子が槍を構えて追撃をしようとする。

「よしなさい杏子、あなた大分ダメージをくらっているでしょう」そう言ってマミが止める。

「しかし……」

 そうこうしているうちに、鹿目まどかが俺たちのいる場所に到着した。

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

 息を切らしているところを見て、家からここまで走ってきたのだろう。

「彼女の姿は見た? 美樹さやかで間違いはないかい?」

「あの子ですか? はい、間違いありません」

「本当に?」

「間違いありません」

「……そうか」

「あの……、さやかちゃんは」

「大丈夫、まだ、大丈夫だ」

 そう、まだ魔女化はしていない。

「それより、杏子ちゃん、大丈夫ですか?」まどかが心配そうに見つめているのは、右腕を抑えた杏子だった。

「そういえば」

「平気だって、アタシは。それよりさやかのことだろう。早く……イテテ」

「ほら杏子、無理しないで」今度はマミが杏子の肩を支える。

「今日は戻ったほうがいい」

「なんでだよ。あのまま放って置けば、さやかはっ……」

 そこで杏子は言葉を切る。

 友人のまどかの前で、魔女化の話をすることにためらいがあったのだろう。それに関しては俺も同じ気持ちだった。

「今はお前の怪我を治すことが先だ。マミ、できるか?」

「はい。できますよ」

 マミには癒しの力があるようで、自分や他人の怪我を治すことができる。

「時間がないことはわかっているが、ここは一旦体勢を立て直そう」

「ん……」

 杏子は不満そうな顔をしているけれど、さやかからくらったダメージは小さくなかったので、結局の俺の言葉に従ってくれた。

「マミ、まどかくんを送ってあげてくれ。俺たちは先にホテルに戻るから」

「はい、わかりました」

「まどかくん」

「その……」

「『まどか』でいいですよ。なんだか言い難そうでしたし」

「あー」

 たしかに「マドカクン」とは言いにくい。
 だからといって「まとかちゃん」とか「まどかさん」と言うのもなんだか抵抗があった。

「わかった、じゃあまどか」

「はい、なんでしょう五郎さん」

「キミのお友達、美樹さやかは必ず助ける。だからキミも早まった真似は、しないでくれ」

「……はい」

 まどかは、小さく頷いた。


   *


 翌日も俺たちは美樹さやかを探す。

 杏子の怪我は、マミの魔法で何とか治ったけれど、精神的な消耗が大きいように見えた。

 俺はさやかのもっていた剣から立ち上る黒い靄のようなものを思い出す。

 恐らく呪いの類が、攻撃に加わることによって、表面上の傷以上のダメージを杏子に与えているのではないだろうか。

 とりあえず、昼間のうちは杏子をホテルで休ませておき、俺とマミだけで探索を続けることにした。

「杏子、大丈夫でしょうか」

 不安そうな表情のマミ。

「怪我は治ったんだろう?」

「ええ、傷や骨折は治しておきました。でも……」

「でも?」

「わたしも、美樹さんに少しだけ触れたんですが」

「ああ、あの時」

 俺は昨夜、マミがリボンを出して美樹さやかの動きを封じようとした場面を思い出す。
 結果は動きを封じるどころか、逆にリボンを引っ張られてマミ自身が宙を舞ってい待ったのだが。

「自分の身体が闇に沈んでしまうような寒気を感じたんです」

「寒気か」

「あれが呪いというものなんでしょうか」

「恐らく……」

 空を見上げると真っ白だった。曇り空。たしか天気予報では、明日まで曇り空が続くと言っていた気がする。

「なんだかこんな話をしたら、寒くなってきましたね」

「そうか?」

「あったかいものでも食べましょうよ五郎さん」

「あったかいもの?」

「ほーら」

 そう言ってマミは俺の手を引いた。この先にはデパートが見える。

 エレベーターで屋上まで上ると、そこにはいくつかの店と、100円を入れたら動く遊具のようなものがあった。

 さすがに平日らしく、この日は人がまばらだ。

 ここからは町の様子が一望できる。
 これで晴れていたらもう少し気持ちが良かったのかもしれないけれど、贅沢は言ってられない。

「五郎さん、何か食べたいものはありますか?」

「いや、特には」

「じゃあ、あの手打ちうどんっていうのを食べましょうよ」

「手打ちうどん?」

 マミが指差す先には、のれんに「本格讃岐うどん」と大きく書かれたうどん屋があった。

「うどん好きなの?」

「ええ、とっても」

「意外だな」

「どうしてですか?」

「マミはもっとこう、パスタとかクレープとかそういうのが好きなのかと思ってた」

「パスタも好きですよ。でもうどんも好きです」

「そうなのか」

 なんかまた一つマミのことを知った気がした。
 彼女ともそれほど長い付き合いではないので、まだまだ知らないことが多くありそうだ。

「それじゃ、並びましょう」

 屋上のうどん屋は、カウンターでうどんなどの食べ物を受け取り、それを屋外に置いてあるテーブル席やベンチに座って食べる方式のようだ。

 俺はマミに席を取らせておき、彼女ご所望の月見下ろしうどんを買って二人で食べることにした。

「うわあ、おいしそうですね五郎さん」

「七味(唐辛子)は入れなくて良かったのか?」

「ええ、これだけでも十分あったまりますよ」

 天気が良かったら汗をかいてしまいそうな、温かいうどんを俺とマミはすする。

 月見おろしうどんは、たっぷりの大根おろしと揚げ玉、それに生卵と入っているのに350円と安いのが魅力だ。
 しかし値段のわりに、お汁もうどんのボリュームがある。

「このうどん、カドが立っていて、いかにも手打ちって感じなのがいいですよね」

 うどんの話をするマミはなぜかとても嬉しそうだ。

「そうだな」

 俺は静かに汁を飲む。出汁も美味い。

 卵とおろしの組み合わせというのはよくわからないけれど、出汁の味の染みた大根おろしや、汁の熱で白くなってきた卵の味はなかなかいいものだ。麺もコシがあって美味い。

 あー、外でうどんなんか食べるのはいつ以来だろう。

 うどんを食べ終えて一息つく。

 なんだか落ち着いた。ここ最近全然落ち着いていなかったような気がしていたからだ。

 俺は杏子やマミたちを助けることを決意して車を走らせた。危険を承知で、この街にやってきた。

 そこで出会った鹿目まどかという少女。

 世界を変え、宇宙のルールですら変える可能性があると言われた女の子。

 彼女の友達が魔法少女になったというので、俺たちは助けようと考えた。
 彼女の友達も助けられないようで、どうやって杏子たちを助けられようか。

 しかしどうすればいいだろうか。

 俺たちの行動は行き詰った。

 美樹さやか。彼女を取り押さえて鹿目まどかに会わせよう、などと考えたけれど甘かった。

 彼女は予想以上に手ごわい。

 そして俺は、予想以上に無力だ。


『いいから、下がってろよ! 邪魔なんだよ、戦えない奴は』


 杏子の言葉が俺の心に突き刺さる。

 俺は戦えない。なのになぜ俺はここにいるのだろうか。

「五郎さん、五郎さんっ」

「え? ああ」

「もう、さっきから呼んでいるのに、どうしたんですか」

「いや、ちょっと考え事をしていて」

「美樹さんのことです?」

「ん、まあ色々」

「あまり考え込まないでください。気持ちを楽に」

「そうだな」

 俺は一つ、大きく息を吸ってからマミに聞いてみる。

「なあ、マミ」

「なですか?」

「俺って、役立たずかな……」

「え……?」

 マミの表情が曇る。

 いかん、変なことを聞いてしまった。

「あ、すまない。忘れてくれ」

 俺は何のためにこんなことを言ったんだ。

 慰めて欲しかったのか?

 そうじゃないだろう。こいつらを助けようとしているのに、俺が弱気になってどうするよ。

「五郎さん」

 キッと、マミが俺の目を見据える。

「ん……」

「あなたは、私たちにとって必要なんです」

 言いきった。マミは何の迷いもなくそう言い切った。

「だから、自分が役立たずなんて言わないでください」

「いや、でも俺は戦えないから。その点では……」

「守りたいものがあれば、人って強くなれるものですよ」

「なに?」

「私も杏子も、あなたを守りたいと思ったから、ここまでやってこれたんです」

「……」

「あの時、魔法少女の行く末を知らされた時……、正直ショックでした」

 それはそうだろう。あの杏子もかなりショックを受けていたのだから。

「でも、五郎さんが絶対何とかするって言ってくれたから、私は今もこうして生きていることができるんです」

「そうなのか……」

「だから私、五郎さんならあの美樹さやかっていう子も、絶望から救い出してくれるんじゃないかって、勝手に思ってしまって」

「俺が、彼女を?」

「ええ。でも無理しなくてもいいですよ。前衛は私と杏子で何とかしますから」

「……」

 美樹さやか――

 俺が彼女を救う。

 どうやって救えばいいのだろう。

 やり方は……。


   *


 夕方になると、ホテルで休んでいた杏子が合流した。

 相変わらずさやかの居場所はわからないけれども、だいたいの見当はついてきた。

「建設中のビルか……、なんかいかにもって感じだな」

「身体はもういいのか」

「ああ、へっちゃらよ」杏子は笑顔で応える。

 俺たちの目の前には建設中の建物。敷地内にはなぜか人がいない。

 街の噂だと、この現場では今年に入ってから十数人のけが人と二人の死者がでたということで、呪いの現場として有名であった。

 どうもここでは人間の負の感情が集まりやすいようだ。

 ということは、魔女化しつつある美樹さやかも、この場所に引き寄せられやすいかもしれない。
 何より、魔女を引き寄せやすい体質の俺がいるのだ。

 もちろん、美樹さやかではなく全然別の魔女が寄ってくる危険性もあるけれど、その時はその時だ。

 日が暮れると、建設現場ではいかにもという感じの雰囲気を出してきた。

 コツコツと階段を上る。内装は出来ていないけれど、外側はほぼ出来上がっていると見ていいだろう。

 エレベーターがないので、いちいち階段であがらなければいけないのが面倒だが、そんな贅沢も言っていられない。

 一つ一つのフロアーを確認しながら登って行く。そして、最上階に近くなってきたところで、嫌な予感がした。

「いるかもしれない……」

「え?」

「ソウルジェムも反応しているわ!」

 マミの持つソウルジェムが光を強くした。

「この上に……!」

「屋上か?」

 俺たちは既に最上階にいる。この上ということは、もう屋上しかありえない。

「魔女という可能性は?」

「いいや、この感覚、あいつ以外ありえねえぜ」そう言って杏子はニヤリと笑った。

「……」

 俺たちは無言で屋上へとつながる階段を上り、そしてドアを開けた。

 いた……。

 マントが風でなびく。

 青い服をきた魔法少女姿の美樹さやかがそこにいた。

 昨晩と違い空は暗く、星は出ていない。ただ、街の光だけは今日も輝いている。

「美樹さやか……」

 俺は一歩踏み出る。

「誰……?」

「井之頭五郎。昨日も会ったよな」

「……」

 さやかは答えない。

「おい、五郎。ここはやっぱりアタシが」

「杏子」

 前に出ようとする杏子を、俺は手で制した。

「なんだよ五郎」

「前に出るな。ここは俺がやる」

「五郎?」

「危険よ五郎さん」マミも心配そうな声を出す。

「ああ、わかっている。だが、俺にやらせてほしいんだ」

「どうやるんだよ」

「わからない」

「わからないって……」

「頼む」

 ここで杏子は一息つく。

「ああ、わかったよ」

「杏子」

「だが、危なくなったらすぐ止めるからな。本当、無茶すんなよ」

「ああ……」

 俺は二人の顔を見てから、再び美樹さやかと向き合った。

「……」

 彼女は無言のままだ。

 一歩一歩進む。

 星や月の灯りがないために、彼女の表情を上手く確認することができない。
 ただ、悲しい空気だけは伝わってくる。

 怖くない、なんて言えばウソになるだろう。

 ただ、俺は大人なんだと言い聞かせた。子どもたちを守らなければならないと、心の中で必死に言い聞かせた。

「……美樹さやか」

「……こないで」

 夜の暗さに目が慣れてきたのと距離が縮まってきたことで、彼女の表情が見えるようになる。

「こないで」

 彼女も恐れているのか。

 明確な敵意というか、攻撃の意志は見られない。ただ、彼女の目は小動物のように恐れを抱えている。

「キミが何かに絶望するのは勝手だ」

「……やめて」

 俺は歩くことをやめない。

「だが、キミ一人だけが不幸なんてことはない」

「やめてってば」

「事故で両親を失った子どもの気持ちが分かるか? まだ大人になっていないのに、独りで生きて行かなければならなくなった子の気持ちがわかるか?」

「やめてよ……」

「キミは、キミを大切に思っている人のことを忘れないでほしい」

「わかってるよそんなこと……。でも私の身体は……」

 美樹さやかの身体から、昨晩のような黒い靄が出てくる。これが呪い。

「近づかないで、私のことは放っておいて!」

 呪いが強くなる。

 あの時と同じだ。都内某所で会った名の知らぬ魔法少女が、魔女になった時の。

 させるか。

「五郎!」

「五郎さん!」

 二人の声が聞こえた。

「来るな!」

 俺は大声で叫ぶ。

「来るんじゃない」

 犠牲になるなら、俺一人で充分だ。

「こないで。私はもう……」

「甘えるんじゃない!」

「いや!」

 さやかは剣を現出させる。杏子とやり合い、使い魔を一刀両断にしたあの剣だ。

「近づかないで!」

 身体からあふれ出る瘴気。ダメだ、どうすればいい?

 考えている暇なんてない。

「五郎!!!」


 遠くで杏子の声が聞こえた。


 俺は目の前にいる美樹さやかを抱きしめる。


 それと同時に、俺の腹部に激しい痛みが走った。

 ああ、刺さったのか。
 自分の今の状況はよくわからないけれど、さやかの持っていた剣が、自分の腹を貫いたことだけはわかった。

 熱いな。

「や、やめて……」

 もう後には引けない。

「やめてよ、死んじゃうよ」

「戻ってこい、美樹さやか……」

 喉の奥から熱いものが込み上げてきた。これはヤバイ。もうダメかもしれん。

 なんで俺はこんな無茶なことをしてしまったんだ。

「戻ってこい!」

 もう、この言葉しか出てこない。

「やめて! 死んじゃう。早くしないと」

 彼女の身体から得体のしれない妖気があふれだすのを感じる。

 熱い。火傷してしまいそうなくらい熱い。そして冷たい。

「早くしないと、手遅れに……」

 さやかは涙声で叫ぶ。

「血がいっぱい出てる。血が出てるんだよ。熱いよ! やめてよ! 私なんかのために……もうやめて!」

 意識が遠くなる。

「死なないで、お願いだから。私なんかのために! もう、もう……」

 遠くで誰かが呼んでいる気がする。

 誰の声かもわからない。

「……ごめんなさい」

 さやかの声が聞こえた。

「ごめんなさい」

 俺は抱きしめていた腕を放し、そしてさやかと向き合う。

 彼女の顔は、涙でぐちゃぐちゃになっている。でも、あの初めて会った時の無表情よりも何倍も可愛いと思えた。

「ご、ごめんなさい……」

 さやかはもう一度謝る。

「いい子だ……」

 俺はそう言って、さやかの頭をそっと撫でた。

 そこで意識が途切れた。


   *
 

 どれくらい眠っていたのかわからない。

 けれども、それほど長い時間でないことだけはわかる。

 ここはどこだろう。見覚えのある天井を見た時、そこが自分の泊まっているホテルだということがわかった。

 美樹さやかに刺された、右わき腹のあたりをさする。

 傷跡が、ない?

 シャツの一部は破れていたけれども、傷らしい傷はなかった。

「あ、気がつかれましたか」

「ん?」

 窓際を見ると、俺のベッドのすぐ隣に人影が見えた。

 髪の短いその影は、杏子でもマミでもない。

「ごめんなさい。起こしちゃいましたか」

「キミは……」

「改めまして、美樹さやかです」

 鹿目まどかと同じ見滝原中学の制服を着た少女はそう自己紹介をする。

 魔法少女の姿しか見たことのなかった俺には、少しだけ新鮮に映った。

「杏子たちは?」

「マミさんは、部屋で休んでます。杏子は……」

 そう言ってさやかは、俺のベッドに視線を向ける。

「ん?」

 視線を下ろすと、杏子が俺のベッドに伏せるように寝ていた。

「交代で様子を見ようって言ったんですけど、彼女、ずっとここにいるって、聞かなくて」

「そうか」

 杏子らしいといえば、杏子らしいのかもしれない。

「あの……、本当に色々と迷惑かけてしまって、すみませんでした」

「……俺の傷」

「傷のほうは、治しました。けど、シャツが破れてしまって。弁償しますので」

「いや、気にしなくていい」

「あの……、私」

「ん?」

「本当にありがとうございます。なんか、すごく嬉しかった」

「嬉しかった?」

「なんていうか、大人の人の安心感っていうか……、包容力っていうんでしょうか。すごく癒されたんです」

「……」

「私の周り、こんな風に叱ってくれたり優しくしてくれたりする大人の人って、あんまりいなくて……その」

「キミたちはまだ子どもだ」

「え?」

「まだ足りないものが沢山ある」

「……はい。その通りだと思います」

「だから、その足りない者を補うのが、俺たち大人の役割だと思う」

「……はい」

 そう言ってさやかは笑顔を見せる。目に涙をためていたけれど。

「そ、それで……、あの」

「なんだ?」

「お願いが、あるんですけど」

「お願い?」

「ええ。もしよかったら、あの時みたいに、もう一度私を抱きしめ――」



「それくらいにしておけよ、泥棒猫」



「ん?」

「ひっ!」

 俺のベッドに顔を伏せていた杏子がゆっくりと起き上がる。

「杏子っ」

「ったく、五郎。無茶すんなって言ったろう」

 杏子は腰に手を当てて、少し困ったような顔をした。

「ああ、すまな――」

 俺が言葉を言い終る前に、杏子は俺に抱きついた。彼女からは、ほんのりとバニラの香りがする。

「心配したんだぞ……」

「すまない」

 俺は、そっと杏子の頭を撫でる。

「それとさやか」

 ふと、杏子が俺に抱きついたままさやかのほうを見た。

「この五郎は一人用だ。お前の分はない」

「んんんん~~~!」

 杏子のその言葉に、さやかは顔を赤くする。

「ああ、杏子。そういえばまだ決着をつけていなかったね」

「あん? やんのか」

「やったろうじゃないの」

「おい、お前ら」

 部屋のドアが開く音が聞こえる。ここは確かオートロックのはずだが。

「あらあら、気がついたのね五郎さん」

 マミが、何かコンビニの袋を持って戻ってきたようだ。

「ふざけんなよテメー」

「あーあ、下品なこと」

 睨みあっている二人を無視するように、マミがペットボトルに入ったミネラルウォーターを差し出す。

「どうもここは騒がしいようですね。向こうの部屋で私と一緒に休みましょう?」

「はい?」

「おい、ふざけんなマミ!」

「抜け駆けですか? 抜け駆けなんですかマミさん」

「こらさやか、最初からオメーはレースに参加してねえだろう」

「ふう……。お前らいい加減にしろ!」

 俺は少し頭を抱えた後、とりあえず全員部屋から追い出した。

 一人になったところでまた一息つく。
 まだちょっと頭が混乱しているけれど、とりあえず美樹さやかは助けることができたらしい。
 最も魔法少女でいる限り、また魔女化の危機はやってくるだろうが。


《それにしても無茶をするね。五郎》


 頭の中に声が響く。どこだ?

 周囲を見回すと、部屋に備え付けてあるテーブルの上に白い猫のような生物がちょこんと座っていた。

「キュゥべえか……。今までどこに」

《こっちも色々と忙しかったものでね。とりあえず、美樹さやかは救えたようだね》

「まあ、この様だけどな」

 俺は、破れたシャツをキュゥべえに見せる。

《一歩間違えたら即死だよ。よくそんな危険なことをするね。無駄なことだとは思わないのかい?》

「無駄なこと?」

《遅かれ早かれ、彼女は魔女になるんだ。なのに、あれだけの労力を使って、それを阻止する。本当に訳がわからないよ》

「……自分でもわからん」

《まあ、僕は鹿目まどかと契約が結べれば、それでいいんだけどね》

「結局そこか……」

 どうやらキュゥべえは、かなり鹿目まどかという存在にこだわっているらしい。それほど凄い少女なのか、彼女は。

《でも気を付けて、この街には美樹さやかのほかにも、もう一人魔法少女がいるんだ》

「もう一人……、だと?」

《その魔法少女は、鹿目まどかと僕が契約を結ぶことを嫌がっている》

「嫌がっている?」

《理由はよくわからないけれど、僕が契約を結ぼうとしたら、何度も邪魔をしに来るんだよ》

 魔法少女になるための契約を邪魔する。

 考えてみれば当たり前だ。もし、自分の大切な人が魔法少女になろうとしているのなら、絶対に止める。

「待てよ、ということはその子は、魔法少女の“なれの果て”を知っているのか」

《恐らくね。僕自身は教えたつもりはないけど》

 肝心なことは教えない。本当に胡散臭いやつだよ、こいつは。

《ともかく、彼女には気をつけた方がいいよ。キミたちも、鹿目まどかと接触したんだから、その魔法少女も警戒しているだろう》

「待てキュゥべえ、その魔法少女の名前は」

《……確か、暁美ほむら、だったかな》


   *


 翌日、美樹さやかはいつものように登校することになった。

 俺たちは、そんな彼女の様子を遠くから眺めている。

「さやかちゃん!」

 彼女の姿を見るなり、鹿目まどかは飛びつく。

「もう、心配したんだよ……」

 さやかを抱きしめながらまどかは涙声で言う。

「ごめんねまどか、ごめんね」さやかも泣きながら謝っていた。

 とりあえず、日常の一部は戻った。ただ、これは応急処置にすぎない。

「めでたしめでたしってやつか?」

 二人のやり取りを遠くで眺めながら、杏子はつぶやく。

「いや、違う」俺はそれを否定する。

「まだまだこれからよね、五郎さん」とマミ。

「ああ……」

 さて、これからどうするべきか。

 俺が頭の中で考えを巡らせていた時――

 黒髪の少女が俺たちの前に現れた。

 気配を感じなかった。いつの間に現れたんだ?

 まるで瞬間移動でもしたように、見滝原の制服を着たその少女は俺たちの前に立っていたのだ。

「気を付けろ五郎、こいつ魔法少女だ」

「五郎さん」

 杏子とマミが俺の前に立って警戒する。

「……佐倉杏子、巴マミ」

 少女は、静かに彼女たちの名前を呼ぶ。

「知り合いか、杏子」

「あんな奴、知らねえよ」

「私も知らないわ」

 この子がキュゥべえの言っていた、もう一人の魔法少女。

「鹿目まどかにかかわるのは、やめなさい」

 ほぼ無表情のまま、黒髪の少女はそう言い放った。


   つづく


   【次回予告】


 まどかは私の大切な友達。

 どんな手段を使ってでも、守ってみせる。

 彼女に害を与える者は、誰であろうとも許さない。


 次回、孤独の魔法少女グルメ☆マギカ

 第十話 虚飾

 まどか、アナタは必ず私が救う。

 たとえこの身がどうなろうとも。


   【解説】

 ● オルタナティヴ・さやかちゃん

 通常の魔法少女の状態から、呪いを集めて半ば魔女化したさやかのこと。

 攻撃力が通常の三倍になるほか、魔法少女としての能力もかなり強化されている。

 一方、防御力が極端に低くなるけれども、それは超回復で補うことができる。

 なお、痛みはほとんど感じない。

 つまり不感症。



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