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孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~ 第十一話 憤怒

2011年11月09日 20:23

孤独の魔法少女グルメ☆マギカ~井之頭五郎と魔法少女の物語~

401 :◆tUNoJq4Lwk[saga]:2011/06/10(金) 21:08:09.98 ID:ZuHc8EUYo


   第十一話 憤怒


 暁美ほむらの自宅。

 リビングに集まっていた俺たちは、黙ってほむらの話を聞いていた。

「……」

 食べ物を見ればとりあえず手を伸ばす杏子が、目の前にあるシウマイにまったく手を付けず、じっとしている。

 ワルプルギスの夜。

 ほむらがそう呼ぶ魔女は、これまでの魔女とはまったく異なる最強の存在らしい。

「そんなの、アタシ一人でも楽勝だよ」

 杏子は最初、そう言っていた。

 だが、淡々と語られるほむらの言葉に、杏子だけでなく集まった魔法少女たち全員が言葉を失ってしまう。

 ワルプルギスの夜は結界を必要としない。

 具現化しただけで大規模な嵐を起こし、街は壊滅状態になる。

 魔女の従える使い魔も、通常の魔女並みに強い。
 ほむらはあらゆる時間軸で、いくどとなくその魔女に挑み、そして敗北した。

 絶対的な強さと魔力を持つ魔女。それがワルプルギスの夜。

「鹿目まどかは、そのワルプルギスの夜から街を守るため、魔法少女となり、そして……」

「ちょっと待ってくれよほむら」

 そこで杏子が口を挟む。

「なに、杏子」

「鹿目まどかって、キュゥべえの話だと、滅茶苦茶凄い魔法少女らしいじゃないか。だったらなぜやられたんだよ」

「それはわからない」

「わからないって……」

「何度か時間軸を繰り返していくうちに、ワルプルギスの夜を倒せるほどに魔力が増していったことだけは確かよ。でもその代わり、最強の魔法少女は最悪の魔女となって、この世界を壊す……」

「つまり、そのワルプルギスの夜と戦うために、鹿目まどかさんが魔法少女になったら、不味いってことよね」

 マミがほむらの言葉を先読みするように言う。

「その通りよ。あなたたちが宇宙の法則を変えようとすることはわかる。でもその前に、私はあの魔女を倒さなければいけないの」

「ちょっと待てよほむら」

 杏子はほむらの言葉を止めた。

「“私は”、じゃなくて、“私たちは”、だろ?」そう言って片目をつむる。

「杏子……」

「そうよ、ほむらさん。私たちがいるわ」マミも杏子の言葉に続く。

「この正義の魔法少女さやかちゃんがいる限り、負けませんよ」

「オメーは補欠だ、さやか」

「なんですってえ?」

「うるせえ」

 杏子とさやかの二人が喧嘩をはじめた時、

「……クスッ」

「ん?」

 全員が再びほむらの顔に注目する。

 目を細めている彼女は、明らかに笑っている。

「ほむら?」

「ごめんなさい。バカにしているわけじゃないの。ただ、あなたたちが騒いでいるのを見ていると、久しぶりに楽しい気分になってしまって」

「なんだ、ほむらも笑うんだな」

 そう言った杏子もなんだか嬉しそうだ。

「どういう意味よ」

 ちょっと怒ったような感じだったので、俺はフォローを入れておくことにした。

「暁美さん、キミは笑顔のほうがずっと可愛いってことだ」

「……!」

 一瞬、全員の動きが止まった。

「……ケッ」杏子はそう言って顔を背ける。

「あーあ、そういう人だとはわかっていたけど」なぜかさやかも不機嫌そうな顔になった。

「おい、何があった」

 俺はマミのほうを見て聞いてみる。

「五郎さん……」

「なんだ」

「女心にはもっと敏感になってもらわないと」

 女心?

「へ……変なこと言わないで」

 ほむらも、杏子と同じように顔をそむけた。

 しかし耳まで真っ赤なのはなぜだろう。風邪か?

「暁美――」

「……ほむら」

「ん?」

「呼び方、ほむらでいいわ」

 ほむらは、俺と目を合わせることなくそう言った。

「ああ、そうなのか。わかった。じゃあよろしく、ほむら」

「……よろしく」

 俺は杏子がそうしたように、ほむらと握手をする。

 大人っぽい雰囲気とは裏腹に、まるで小さな子どものように柔らかい手の感触であった。


    *



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 翌日――

 午後の昼下がり、俺たちは人のあまり寄りつかない橋の下に集まっていた。
 ドラマではよく見る場所だけど、群馬にもあるんだな。

「こんな所に集めてどうするんだ五郎」いかにもダルそうに杏子は言う。

 ここ数日、杏子の機嫌はあまりよくない。

「待って、杏子。五郎さんにも考えがあるのよ」

 俺の考えを多少は理解してくれるマミがフォローをする。
 結局、昨夜みんなが不機嫌になった理由は教えてくれなかったけど。

「明日は決戦なのよ。どうする気?」

 当然、ここにはほむらも来ている。

「おーい、遅くなってすいませーん」

 制服姿のさやかが大きく手を振りながら登場した。

「学校は大丈夫だったのか、さやか」

「ええ、病気になったみたいだから帰りますって言っときましたんで!」

 随分元気そうな病人だ。

「これで全員集まったけれど、一体これからなにをするの五郎」とほむらは聞く。

「ああ、今から話そう」

 俺は、とりあえず全員を集めた理由を発表することにした。

「今日は集まってもらってすまない。明日は大事な決戦だが、その前に『演習』をしておこうと思う」

「演習?」

 マミ以外の三人の、驚きの声が聞こえる。当然と言えば当然の反応だ。

「昨日、ほむらから色々と話を聞いた限り、ワルプルギスの夜という魔女は強い。それもけた外れの強さだ」

「……」

「ぶっつけ本番で勝てる相手とは思えない。だから、これから戦いに備えて演習をしようと思う」

「演習ってのはその、修行みたいなものか? 五郎」

 杏子は腕を組み、少し首をかしげながら聞いた。

「ああ……、だいたいそんなところだ」

「じゃあ、アタシの魔力が10倍になる演習とかあんのか?」

「いや、そんなものはない」

「じゃあどうすんのさ」

「杏子、あと皆もよく聞いてくれ。後1日しかないのに、急激に強くなるということは恐らく無理だ。だから、全員の力を合わせることで巨大な敵に対抗していきたいと思う」

「全員の力を合わせる? 具体的にどうするんですか?」さやかも聞いてきた。

「ああ、とりあえず連携の確認をする」

「連携?」

「個々の力が小さくても、協力し合えば強くなることもある」

「アタシの力が弱いってことか?」

「そうじゃない、よく聞け杏子。いいか、お前は今まで、少なくとも俺と出会ってから何回か魔女と戦ってきているけれど、自分一人の力で全部を倒したか?」

「それは……」

「もちろん、お前一人でも倒せることはあったけれど、マミと連携することによって、かなり効率的に敵を倒せたんじゃないか?」

「確かに」

「ほかの魔法少女と連携することによって、その戦闘力を上げることができる。連携がうまく行けば、2倍どころじゃない。それこそ4倍、6倍の力の力を出すことも可能だ」

「ん……」

「杏子とマミは、これまで何度か一緒に戦ってきたけれど、今回はさやかがいる」

「え? 私!?」

 急に名前を呼ばれて驚くさやか。こいつ、人の話をあまり聞かないタイプか。
 顧客にもいるな、こういうの。

 ちゃんと契約内容の話をしたのに、後から聞いていないとか言って文句いってくる。

 いかんいかん、今はそんなことを考えている場合ではない。

「さやかと俺たちは、まだ一緒に戦ったことがないので、今から演習をして、本番で少しでも上手く連携が取れるようにする」

「なるほど」杏子は大きく頷いた。

「わかりました、五郎さん」さやかは不動の姿勢を取って、挙手の敬礼をしてみせる。

「それで、相手は誰だ? 魔女か?」

「そう都合良く、魔女は現れてくれそうにないから、今回は魔法少女同士で戦ってもらう」

「なるほど。じゃあ、マミとさやかが一緒に組んで、その相手をアタシがやると」

「いや、違うぞ杏子」

「じゃあ、ほむらとさやかの連携か? それとも、三人同時」

「それも違う」

「ん?」

 首をかしげる杏子。

「杏子、今回の演習はお前とさやかの連携を確認するためのものだ。二人で、マミと戦ってもらう」

「はあ?」

「どういうことですか、五郎さん」

 さやかも驚いているようだ。

「俺が見たところ、さやかは杏子と同じ前衛タイプだ。マミは、杏子との戦いで、前衛との連携は十分に慣れていると思う」

「はい、当然です」マミは大きく頷く。

「だが、杏子とさやか。お前たち前衛同士の連携はまだ経験がない。だから、この演習で二人の連携を確認させてもらう」

「なるほど……」

 どうやら納得してくれたようだ。

「ところで、私は何をすればいいの?」

 そういえば、ここには暁美ほむらもいたのだ。

「じゃあ、ほむらはコーヒー買ってきてくれる?」

「ふざけてるの?」

 ほむらは、どこからともなく大型拳銃、デザートイーグルを取り出す。こんなものがあるなんてさすが群馬県。

「いやいや、冗談だ」

「……そう」

「ほむらは、結界のようなものは張れるか? 人目につかないように」

「ええ、一応できるわ。でも半径は50メートルくらいしかないけど」

「それだけあれば十分だ。演習が始まったら、その結界を張ってくれないか。周辺に被害が出たり、人目についたら大変だから」

「わかったわ」

「よし、それじゃあこれから演習をはじめるぞ。まず、杏子とさやか。お前たちはまずマミから50メートルくらい離れろ」

「わかった」

「はいっ」

 杏子とさやかが返事をする。

「足引っ張るなよさやか」

「アンタこそ、足手まといにならないでよね」

 何となく不安にさせる言い合いをしながら、二人はその場を離れて行く。

 俺はその間に、マミのそばに歩み寄った。

 実は、マミとはもう、午前中に演習に関する打ち合わせを済ませていたのだ。

「マミ、一応打ち合わせ通りにやってもらいたい。だが、本当に大丈夫か?」

「愚問ですよ、五郎さん」

「愚問?」

「五郎さんは、私ができると思ったからこそ、頼んだんでしょう?」

「ん、まあ」

「あなたが私を信頼してくれる以上に、私はあなたを信頼していますから。ねっ」

 マミは笑顔で片目を閉じた。

「……ありがとう」

「……」

 その様子をすぐ近くでじっと見つめていた暁美ほむらの姿に気がつく。

「そろそろ、はじめてもいいかしら」

「ん、ああ。そうだな。おし」

 俺は、随分離れた場所に行った、杏子とさやかの二人に対して、大きく手を振った。

 ほむらが結界を張った瞬間に、演習はスタートすることになっている。


 佐倉杏子 ・ 美樹さやか  VS   巴マミ


 この両者による模擬戦闘が、今始まる。


   *


「時間ね……」

 魔法少女に変身したほむらがどういう原理かはわからんが結界を発動する。

 こうして、周辺から隔離された結界が出来上がったらしい。半径は約50メートル、時間にしておよそ5分。

「状況開始!」

「それっ」

 目の前のマミも魔法少女に変身する。

 橋桁で見えにくいけれど、50メートル先の杏子とさやかも変身したようだ。

 遠距離攻撃主体のマミを相手にするには、二人はそこから距離を詰めなければならない。

「行くぜマミイイイイ!!!」

「でりゃあああああああ!!」

 物凄い気合いで、赤と青の二人がこちらに接近してくる。

「さあ、いらっしゃい」

 いつの間にか現出させた銀のマスケット銃を取り出し、射撃をはじめるマミ。
 まるで機関銃か自動小銃のように素早く撃ちまくる。

 当然、対する二人もその攻撃は読んでおり、ジグザグにかわしながらこちらに接近する。

「まずは、一人目」

 そう言って、マミは狙いを定めた。

 目標は、さやか――

 一際大きな光を放つ弾が、さやかに近づく。

「ぐっ」

 さやかはそれをよけようとするも、次の瞬間弾丸は大きくはじけ、まるで蜘蛛の巣のようにリボンが広がった。

「ああああんっ!!」

 ここから約20メートル先でさやかの叫び声が聞こえる。
 身体重にリボンが巻きついて、動きを封じられてしまったのだ。

 だが、もう一人の魔法少女はまだ動いている。

「もらったあ!」

 さやかの動きを封じている間に、槍を大きく振りかぶった佐倉杏子がマミのすぐ近くにまで接近していた。


「……甘いわね」


「え?」

 マミの身体が、まるで踊るように回転する。

 そして杏子の槍は空を斬る。

「せいっ!」

 気がつくと、マミは上段回し蹴りを放っていた。久しぶりに見たが、随分とキレイな蹴りだ。

「ぬわあああああ!!!」

 まったく警戒していなかったのか、杏子はマミの蹴りが見事にヒットして、5メートルほど吹き飛ばされてしまった。

 タンッ、とまるでステップを踏むように着地したマミは、軽くスカートをつまみお辞儀をした。

「状況終わり!!」

 俺は大きく叫んだ。

 ほむらが魔法少女の変身を解除した途端、張っていた結界も解除される。

 今まで張り詰めていた空気が一気に弛緩するのが分かった。

「大丈夫? 杏子」

 マミが杏子の元に駆け寄る。

「イテテテ、油断した」

 顔の辺りを抑えながら杏子は立ち上がった。

「助けてええええ」

 すでに魔法少女の変身は解けているのに、美樹さやかは地面の上でジタバタしていた。


   *


 テストの後に答え合わせがあるように、演習の後には反省会である。

 変身を解除した魔法少女の四人が集まる。

「さて、今回の演習の反省点だが……」

「……」

「ん……」

 明るい表情のマミと、不機嫌そうな杏子とさやか。二者の顔色は実に対照的だ。

「まず杏子、お前はなぜやられたと思う」

「ちょっと油断しただけだ……」

「ちょっと?」

「マミが近接戦闘ができるなんて、聞いてねえし」

「杏子、お前は油断と言ったが、もしこれが演習ではなく実戦だったらどうなる」

「それは……」

「マミが近接戦闘もやれることを知らなかったと言うけれど、もしお前が敵と戦う時に、自分の手の内を見せるか? 見せないだろう?」

「……」

「それから、なぜさやかを助けなかった」

「そりゃ、足手まといになるから」

「その結果、お前は一人で突っ込んで行き、マミにやられた」

「うぐ……」

「杏子、この演習は連携を確認するためのものだ。さっきも言った通り、一人では敵わない相手でも、二人、三人なら勝てることもある。だがお前は一人で突っ込んだ。これでは意味はない」

「くそっ、だったら次は……」

「次があると思っているのか?」

「ん……」

「実戦で失敗したらおしまいだ」

「……」

「普通の怪我で済めばいい。だがソウルジェムを破壊されたら、もう元には戻せないというじゃないか」

「……せえ」

「ん?」

「うるせえよ、くそお!」

「おい、待て!」

 杏子は、その場から駆け足でどこかへ行ってしまった。

 少し強く言い過ぎたか。いやしかし……。

「五郎……」

 ほむらが声をかけてきた。

「どうした」

「確かにあなたの言うことは正しいわ。でもキツ過ぎるのではないかしら」

「そうかな……」

「それに、あなたは彼女たちに戦ってほしくはないのでしょう? なのに、なぜ今さら戦いのやり方を教えようと思ったわけ」

「確かに俺は、杏子には戦ってほしくない。もちろん、マミもさやかもだ」

 俺は三人の顔を見回す。マミは少し照れくさそうに、さやかはバツの悪そうな顔をしている。

「だがそれ以上に、死んで欲しくはないんだ」

「……」

「死んでしまっては意味がないからな。だからこうして、生きる術を教える。多少キツイことを言うようだが、あいつに嫌われるよりも、あいつに死なれるほうがもっと嫌だから」

「五郎……」


    *


 どこかのビルの屋上で、杏子は風に当たっていた。

 上州のからっ風、という季節ではないけれど、今の自分にはどんな風でも骨身にしみるような気がした。

「こんなところにいたんだね、杏子」

「ん?」

 振り返ると、髪の短い少女が立っていた。

「さやか……」

「探したよ」

 彼女の手には、通学用のカバンではなく紙袋のようなものが見える。

「一緒に食べようよ」

「焼きまんじゅう……」

「知ってるの? 有名なんだなあ、やっぱり」

 地元の人間が思っているほど、ご当地の名物は全国では知られていない、ということは黙っておこうと思った。

「おいしいなあ」

「……」

 屋上の上でもくもくと焼きまんじゅうを食べる二人。傍からみているとなんだか妙な風景なのだろう。

 味噌ダレの良い匂いが風に流されていく。

「杏子ってさ、やっぱり凄いよね」

「どうしたんだよ、急に」

「だってさ、ずっと戦ってきたんでしょう? すごく強い魔女と」

「ま、まあ……」

「私なんて、戦闘の才能ないのかな。一体倒すだけでも随分苦労してさ」

「……」

「さっきの模擬戦闘だって、私はマミさんに動きを封じられちゃったのに、杏子はマミさんのところまで到達できたじゃん」

「でも結局やられた」

「むしろよかったんじゃない?」

「なんでだよ」

「だって、実戦ならやられてたんでしょう? 練習でやられといてよかったじゃない」

「ん……」

「それに、五郎さんあんなに真剣だったし。ちょっと羨ましいと思ったな」

「羨ましい? どこが」

「そりゃあ、キツイ言い方されるのは嫌だけど、それだけ杏子のことを思ってたんでしょう」

「それは……」

「だいたい杏子たちのことを思ってなきゃ、わざわざ東京からこんなところまで来ないよ」

「……アタシは」

「ん?」

「弱いな」

「だったら杏子よりも弱いさやかちゃんはどうなるのさ」

「もっと弱い」

「酷いな」

「ふふふ……」

「はははは」

 二人で笑っていると、なんだか悩んでいるのがバカバカしくなってきた。

 こういうのが友達っていうのだろうか。杏子はふと、さやかの横顔を見ながら思うのだった。


   *


 杏子たちから少し離れた場所にあるビルの屋上で、ほむらはサイトロンの軍用単眼鏡を覗いていた。

 わざわざ三脚まで使用した監視のやり方がやけに板についている。まるでプロの兵士か、もしくはストーカーのようだ。

「あの二人は、問題ないようね」

「まあ、とりあえず良かった」

「安心した?」

「そこまで心配はしていない」

「強くなるためには、自分の弱さと向き合うことも大切ですからね、五郎さん」

 そう言ってマミが妙に俺の傍にすり寄ってくる。

「近いぞマミ」

「だってここ、風が強くてちょっと寒いんですから」

「だったら下で待ってなさい、巴マミ」

 双眼鏡で杏子たちの様子を見ながらほむらは言う。

「あら、ほむらさん。羨ましいの?」

「……」

「無視しないでよ」

「基本的に魔法少女は精神的に弱い者が多い」

 独り言のように、ほむらはつぶやく。

「どういうことだ」

 マミを見ているとなんとなく納得できるけれど、とりあえず俺は聞いてみることにした。

「奇跡や魔法に頼るというのが、そもそもの弱さの証拠」

「……」

 ほむらの言葉を聞き、マミは俯く。

「本当の強さとは、どんな辛い現実も受け止めること。だから――」

「……だから?」


「一番弱いのは……、私」


 しばしの無言。

 俺の耳には、風が耳に当たるボコボコという音が響く。

「――!!」

「どうしました五郎さん?」

「結界だ。魔女の結界それもかなり近い」

 あまり嬉しいことではないが、最近つとに“こういう感覚”が鋭くなってしまった。

 携帯電話を取り出す。

「もしもし杏子か」

『はあ? 何だよ急に』

「魔女だ」

『!』


    *


 市内の陸上競技場に俺たちは集まっていた。

 これまで河川敷とか街中とか、色々な所で戦ったことがあるけれど、ここは比較的恵まれている場所かもしれない。広いし。

 競技場の中に一歩足を踏み入れると雰囲気は一変した。

 まるで、別世界に入ったような違和感。

 数日ぶりなはずなのだが、随分と久しぶりに感じる、魔女の結界。

「今回のは、随分と大きいわね」いつの間にかデザートイーグルを両手で持っているほむらがつぶやく。一体その武器はどこから出した。

「決戦は近いけど、こんな大きい奴を放置しておくわけにはいかないわ」

 マミはそう言うと、自らのソウルジェムを取り出す。

「ああ、わかってるぜ。決戦の邪魔をされたらつまらんもんな」杏子も、同様に赤いソウルジェムを取り出した。

「よーし、さやかちゃんも、がんばっちゃうよお」

 競技場の長い廊下を抜け、グラウンドに出る。

 そこはまるで、プラネタリウムのような空間だった。

 空がない。

 代わりに見えるのは、無数の化け物。

「来るぞ」

 俺のその言葉で、一斉に魔法少女へと変身した。

 俺たちの存在に気づいた、動物や虫の姿をした使い魔らしき化け物が次々と押し寄せてくる。

 しかしそれらは、こちらに近づく寸前で弾け飛ぶ。

「五郎さんには、指一本触れさせないんだから」

 マスケット銃を両手で構えながら、マミは言う。

「へっ、こっちだって負けねえぜ」

「私たちもやりますか」

 杏子とさやかも、各々の主要武器を振い次々に使い魔を倒していく。

「待てみんな! 雑魚をいくら叩いたところで意味がない。本来を見つけなければ」

「え?」

「本体……?」

 常に結界の最深部で隠れているという魔女の本体。

 どこかにいるはずだが。

 俺は周囲を探る。

 必ずどこかにいるはずなのだ。

 どこだ?

「何をしているの、五郎」

「本体を探しているんだ」

「探せるの?」

「ああ、なぜかわからんが、わかる」

 自分でも何を言っているのかよくわからなくなってしまった。

「デタラメな能力ね」

「キミほどじゃない」

「え……?」

「見たところ、時間を止められるようだな」

「あ……」

「違うか?」

「どうしてそれが」

「キミの持っている銃、弾が無くなっている。しかし俺はまだ銃声を一度も聞いていない」

「……」

 ほむらは全弾撃ち尽くしてスライドが開いた状態になっている拳銃を腕につけた円盤のようなものの中に入れる。

 あそこが四次元ポケットみたいになっているのか。つくづくデタラメな魔法少女だ。

「それで、場所はわかったの?」

「今探している」

「五郎さん、キリがないわ!」

 マミの声が聞こえた。確かに使い魔の数が半端ない。
 杏子やさやかたちも全力で狩っているけれど、その数は減るどころか逆に増えているようでもある。

 どこだ、本体はどこだ?

 競技場の中だ。街中での結界よりも本体は探しやすいはずなのだが。

 そうだ、使い魔はどこから出てきている。
 使い魔が本体から分離して出てくるのなら、その使い魔の出所が本体のいる場所のヒントになっているはず。

 しかし、使い魔がどこから出てくるのか探していると、壁だったり観客席だったり、事務所だったり
 トイレだったりと、とにかく色々な所から出てきている。

 これでは出所が特定できない。

 なぜだ。

 秋葉原の時は雲の中に隠れていたけれども、ここではどこに隠れている。

 いや待てよ。

「くそう! どこに隠れていやがる!」

 杏子がキメラのような怪物を槍で突き刺す。

 隠れている?

 そうだ。俺はずっと魔女が隠れていると思っていた。だが本当にそうか?

 そしてこの結界の中。

 陸上競技場だ。俺たちがここに来たとき、競技場の内部は見えなかった。本当にこれはあの競技場なのか?

 魔女の結界というのは、時間とか空間を無視したデタラメなものだったはず。
 だとしたら、こいつはやけに完成度が高い空間……。

「マミ!」

 俺はマミを呼ぶ。

「何? 五郎さん」

 空を飛ぶ目標が多いため、それを撃ち落とすマミは忙しそうだ。

「すまないが、今から俺の指定する場所を破壊してくれないか」

「破壊?」

「待って五郎!」

 後ろからほむらが声をかけてきた。

「ほむら?」

「破壊なら私に任せて」

 ほむらの手には、白い紙ねんどの塊のようなものが握られていた。
 俺の記憶が正しければあれはC4プラスチック爆弾だと思う。

 数分後、時間停止の魔法を使用している間、複数の場所に仕掛けたプラスチック爆弾が一斉に爆発する。

「うわあああああ!!!」

「ぐう!!」

 俺は耳をふさぎ、そして頭を押さえた。

 競技場なので、天井が降ってくる危険性はないけれど、かなりの破片が飛び散る。

 しかしその破片も、しばらくすると消えてなくなってしまった。

「競技場が消える……?」

 目を開けると、ジワジワと夏場のアイスクリームのように、競技場自体が溶けていく光景が見えた。

「思った通りだ」

「え?」

「この競技場自体が魔女の擬態なんだよ」

「擬態?」

「使い魔が出てきていたところを中心に、物理的に破壊してみたら案の定」

 だが、嫌な予感は収まらなかった。

 競技場がなくなり、使い魔が見えなくなったと思ったら、こんどは俺たちの目の前い巨大な影が現れた。

 擬態を解除した魔女の本体が現れたようだ。

「まいったな、予想以上にでかい」

 恐らく今まで見た中でもトップレベルの大きさの本体がそこにいた。

 形こそ人間のようにも見えるけれど、顔は鬼のように鋭い牙がある。
 頭には巨大な角が2本、腕は合計6本ほど。また、胴体にはいかにも硬そうな鎧だ。

「ウゴオオオオオオアアアアアアア!!!!」

 地面が揺れるほどの大声を出した敵は、背中にある巨大な翼を大きく開いた。
 全長100メートル以上はあろうかと思われるその黒い翼は、空を覆う夜の帳(とばり)のようにも見える。

 魔女の持つ複数本の手にはいつの間にか剣や槍、こん棒、モーニングスターなどが握られていた。

 やばいかもしれない。


「ゴオオオオオアアアアアア」


 ドシンドシンと大きな音を立ててこちらに近づく魔女本体。

「シャレにならん」

 こんなに強いなら、変に擬態などせず、最初から襲ってくればいいのに。

 俺は一瞬そう思った。

 しかし、すぐに考えを改める。

 やはり、この姿にも弱点があるのではないか。さもなければ、こんな面倒な擬態などするはずがない。

 俺は敵の姿をじっくりと見る。


 こいつにも、弱点はある。


 ふと、顔の部分に目が行く。

「おい! 何ボーッとしてんだ五郎!」

「一旦引くぞ」

「はあ?」

 ここは魔女の結界。逃げ場なんてないことくらいわかっている。

 俺たちは全力で走った。時々使い魔が襲ってくるけれど、その数は圧倒的に少ない。
 擬態している時のほうが使い魔を沢山だせるのか。

 そんなことを思いながら、再び魔女の顔を見る。

 目?

 二つの大きな目から、怪しい黒紫色の光が漏れ出ていた。この光には見覚えがある。

「マミ! 目を狙えるか。敵の目だ」

「やってみます!」

 マミは走るのを止め、敵の目を狙って銃を構えた。

 そして銃弾が発射される。

 しかし、その弾は6本の腕によって阻まれてしまった。
 正面からの攻撃というのは実は一番難しいのかもしれない。それでも敵を攻撃しなくては。

「やはり直接狙うしかないか……」

 俺は決意する。

「杏子! さやか!」

「ああ? なんだ五郎!」

「はい、なんでしょうか」

「奴の弱点は、おそらく目だ。しかし、どちらの目が正解なのかわからない」

「え?」

「だから、お前たち二人が同時に奴の目を攻撃してほしい」

「……わかった!」杏子は強く頷く。

「了解です、五郎さん」さやかも同様だ。

「よし、マミ! ほむら! お前たちは二人の援護を」

「わかったわ五郎さん」そう言ってマミは、多数のマスケット銃を現出させる。

「了解……」ほむらも、円盤の中からAK-47を取り出した。

「さやか、杏子! 二人の連携が大事だぞ」

 俺がそう言うと、さやかは元気に返事をした。

「はい、頑張ります!」

 しかし杏子は返事をしなかった。

 その代わり、

「……」

 グッと親指を立てて見せた。

「いくわよ二人とも、援護するわ」

 マミは連続で射撃を開始した。硬そうな鎧で守られた胴体はいくら狙っても無駄だ。

 魔女は六本の腕を使って向かってくる二人を追い払おうとする。
 そこにマミやほむらが射撃をしかけて邪魔をする。

「うおおおおおお!!!」

「でりゃあああああ!!!」

 杏子とさやかの二人はジグザグに動きながらも、確実に本体に向けて前進する。
 もちろん、敵も黙って前進させてくれるわけがない。


「ゴオオオオアアアアア!!!」


 魔女が吠えた。

 そして次の瞬間、魔女の持っている剣が飛ぶ。

「きゃあ!」

 敵の投げた剣がさやかのすぐ近くに突き刺さった。

「さやか!!!」

 予想外の攻撃に、一瞬バランスを崩すさやか。

 そしてそれを敵は見逃さなかった。

 マミたちの援護射撃をものともせず、別の剣を持っている腕を大きく振り上げた。

 まずい、よけきれない!

 俺は一瞬、彼女たち二人を突入させてしまったことを後悔した。

 だが、


「へっ、この程度の攻撃かよ」


 !?


 よく見ると、地面からまるでタケノコのように、複数の槍がと生えてきているではないか。
 その槍が集まり、まるで壁のようになっている。

「杏子!」

 間違いなくあれは、杏子が現出させた槍だ。

「いくぜええええ!!」

 槍の束が壊れ、そこから白く光る翼が出てくる。

 その翼が、一瞬強い光を放ったかと思うと、さやかを抱えた杏子が飛び出してきた。

「さやか!」

「おう!」

 杏子は、抱えたさやかを離すと槍を構えた。

「どりゃああああああああ!!!!」

 さやかも剣を振りかぶる。

「おわりだあああああああ!!!」

 二人が一斉に、敵の顔をめがけて飛び込み、攻撃を加える。

 槍と剣が刺さる音がここまで聞こえてくるようだった。


「グオオォ…………」


 魔女は、力無く吠える。

 どうやら、俺の予想は当たったようだ。

 空から、オレンジ色の光が差し込んでくるのが見える。


 結界は、崩れた。


   *


 夕日に染まる競技場の前に、俺たちはいた。

 昼間とは打って変わって、明るい表情の杏子とさやかが楽しそうに話をしている。

「いやあ、助かったよ杏子」

「貸しにしとくぜ、さやか」

「なんだよ、マミさんに蹴られた顔を治療したのは誰だったかなあ?」

「あの程度、唾つけときゃ治る」

「女は顔が命だよ、杏子」

「命あってのものだねだろうが」

 二人の連携はある程度改善されたようだ。

 しかしこれで勝てるかと言えば……。

「かなり厳しい戦いになるわよ、五郎」

 ほむらは冷静だった。

「わかっているさ」

 不安の種は尽きない。

 だが雰囲気は明るい。どんなに困難な状況でも、明るい雰囲気があることは良いことだ。

 暗い雰囲気では、できるものもできなくなる。


   *


 その日の夜、俺はホテルの屋上で一人、夜景を眺めていた。

 星は出ていない。この日も曇り空の夜だ。

《眠らないのかい? 五郎》

 これまた随分と久しぶりに声を聞いたような気がする。

 振り返ると、給水塔の近くに小さな影が見える。闇の中で赤く光る二つの目が不気味だ。

《よいしょ》

 キュゥべえは音もなく走り寄り、そしてまるでスズメか鳩のように上手く柵の上に乗った。

《明日、この街にかなりとても巨大な魔女が出現することは、もう聞いてるよね》

「ああ……」

《逃げないのかい?》

「逃げても無駄だろう。俺がいる場所に、多分そいつは現れる」

《わかっているじゃないか》

「……」

《ねえ、五郎》

「なんだ」

《五郎の望みは、魔法少女という概念を“消す”ことだよね》

「ああ……。叶えてくれるのか?」

《残念ながら大人の、それも男性の願いは聞き入れられないよ。でも――》

「ん?」


《本当にそれがキミの願いなのかい?》


「……どういう意味だ」

《だってさ、もし仮にキミの望み通り、魔法少女という概念が消えた世界が出来上がったら、キミは魔法少女たちと接点がなくなってしまうんだよ》

「接点?」

《そう、端的に言えば、キミは魔法少女たちと、具体的には佐倉杏子や巴マミたちとは出会わない》

「……それがなんだ。むしろそれが俺の望みじゃないか。平穏な生活に戻れる」

《キミは本当にそれでいいのかい?》

「何が言いたい」

《いやね、今のキミが、彼女たちとの生活を気に入っているように見えてさ》

「気に入ってる?」

《なんだか、楽しそうだ》

「……あいつらには、感謝している」

《感謝?》

「ああ。俺が忘れてしまっていた、大切なものを思い出させてくれたから」

《それなら、ずっと一緒にいればいいじゃないか。彼女たちも、きっとそれを望んでいるよ》

「そういうわけにもいかない。いや、ダメなんだ。俺のエゴに巻き込むわけにはいかない。彼女たちは――」

《魔法少女なんだよ。“普通の人間”ではないんだ》

「……わかっている。だからこの生活もニセモノだ」

《生活に偽物も本物もあるのかい? 本人たちが幸せなら、それでいいんじゃないかな》

「そうでもない」

《やれやれ……、訳がわからないよ》

「そうだな……」


 俺にだってわからない――


   *


 キュゥべえがいなくなってもなお、俺は夜景を眺めていた。夜が更けて行くにつれて、静けさを増していく。

 考えたって答えは出ない。何度も何度も繰り返すだけだ。

 部屋に戻ろう。

 そう思って振り返ったとき、そこには杏子がいた。

「どうした、杏子」

「部屋に行ったらいなくて、多分ここじゃないかと思ったから」

「そうか、それで何か用か?」

「……なあ、五郎」

「ん?」


「アタシのこと……、好きか?」


   つづく


   【解説】

 ● 佐倉杏子の翼

 秋葉原での戦い(第六話)で杏子が初めて現出させた、魔力によって生成される翼。
 色は白く、また輝いている。
 彼女の翼と、その白く輝く羽根は希望と喜びの象徴。
 逆に魔女の持つ黒い翼は絶望と悲しみの象徴である。

 基本的に魔法少女に飛行能力はない。
 空中で機動する場合は、魔力によって空中に地面や壁を作り、それを踏んで跳躍する。
 いわゆる二段ジャンプである。

 これを応用することによって、空を飛ぶような動きができるわけだ。

 ただし、跳躍に頼るため、複雑な動きや旋回などはできない。

 その点、杏子の翼は鳥のように比較的自由な飛翔が可能。

 当スレにおいては、飛行能力があるのは今のところ杏子のみである。



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