牙狼―GARO―魔法少女篇 第ニ話「牙城・君にその勇気があるのなら 」 その1

2011年09月13日 14:05

まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇

469 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/04(日) 23:55:51.06 ID:7v+1S+Owo
 闇に潜む魔獣、ホラー。
 口の中で呟いてみるが、どうにも馴染まない響き。
しかし疑う余地はない。一夜明けてみると現実味は薄れているものの、あれは紛れもない現実。

 思い出そうとすると身震いする。本能が思い出すことを忌避しているよう。
 それほど恐ろしい怪物だった。取り分け、無力な少女にとっては。
同じく人を脅かす魔女と戦う魔法少女ですらそうだったのだ。

 少女――美樹さやかも、無力な側の人間だった。
今でこそ、こうして普段通りに登校できているが、昨夜は本当に死が一歩手前まで迫っていた。
泣いて喚いて、傷付いて。何事もなかったかのように、お日様の下を歩けることが嘘のようだった。
 嘘といえば、足と腕の傷と捻挫も、すっかり完治している。これも現実感の欠如に拍車を掛けていた。

 一条の光も差さぬ暗闇で、自分を喰い殺さんとする絶望の権化。さやかがそれに屈服し、呑まれかけた時。
 同時に救いの手も差し伸べられた。
 白いコートの剣士――冴島鋼牙。もっとも、その名を知ったのはモールに戻ってからだった。

――店が立ち並び、過剰なまでの光と音が混じって溢れる世界は、ほんの数十分前と何も変わらない。
閉じられたフロアで何が起こったのか、誰も知らない。
それが凄く不思議で、それでいて数十年振りみたいに懐かしい温かさもあって。気付いたらまた涙が出ていた。
 張り詰めていた緊張の糸が切れたのだと思う。
あんな人混みであの人にお姫様だっこされている状態なのに、人目も憚らず泣きじゃくってしまった。

 今思うとかなり恥ずかしい。でも本当に死ぬかと思ったのだ。それを、あの人は救ってくれた。
 ホラーとあたしの間に割って入った剣士は、剣を天に突き立て、光の円を描く。
そこから漏れ出る眩い光に照らされた直後、狼の顔をした黄金の騎士に姿を変えたんだ――

470 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 00:11:27.26 ID:UlScQPtlo

 瞬間、魂が震えた。
 黄金の鎧の輝きはどんな美辞麗句を並べても足らず、その感動たるや筆舌に尽くしがたい。
 太陽よりも燦然と。
 満月よりも妖しく、美しく。
 記憶と目蓋に、鮮烈なイメージとして焼き付いている。

 ホラーが絶望の具現なら、黄金騎士は希望の象徴。
 だというのに、さやかは未だ黄金騎士の名を知らず、悶々とした気分が抜けなかった。
 そのせいで昨日も疲労は極限に達していたのに、なかなか寝付けなかった。

 取り留めのない思考を巡らせていると、いつの間にか足はいつもの待ち合わせ場所に来ていた。
 陽光が降り注ぐアスファルトの照り返しを逃れて、木陰に佇む人影を見つける。
そこには親友の志筑仁美が一人、ぽつんと立っていた。こちらに気付いた仁美に、さやかは軽く手を挙げる。

「はよー、仁美」

「おはようございます。まどかさんは今日も遅刻みたいですわね」

「ふぅん……」

 視線を外し、努めて平静を装うさやか。
 さやかを悩ませている事柄。その一つは魔女と魔法少女について、もう一つはホラーと黄金騎士、
最後は親友――だったはずの鹿目まどか。

 混乱の最中、さやかはホラーの前に取り残され、まどかは謎の転校生、暁美ほむらと手に手を取り合って逃げた。 
傷付いて走れないさやかを置いて。その傷だって、まどかを庇って負ったものだ。
 信じていたのに。
 裏切られたと感じた。

471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 00:22:26.66 ID:nTMi3sJm0
寝る前に来たら投稿されてた
明日の朝読もう…
472 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 00:25:44.06 ID:UlScQPtlo

 でも冷静になって考えると、色々おかしい。
 確かに状況証拠からは、まどかが転校生と連れ立って逃げた推理が導き出される。
 だが、ほんの一,二の間に視認できない、足音も届かない距離まで忍び足で逃げられるだろうか?
他にも、まどかの直前の言動と噛み合わない等、不審な点は多い。
 そして何よりも――。

 さやかの知るまどかは、あんな極限状態でも、他人を見捨てられない少女だ。
 元々、さやかは小難しい理屈よりも感情に従って生きてきた。
だから、これだけは断言できる。過ごした月日、築いた想い出、結んだ絆はどんな理屈も飛び越える。
 そのはずだったのに。

「あの、さやかさん? どうかなさいましたか?」

 気付けば、仁美が顔を覗き込んでいた。さやかは斜めに下がっていた視線を上げ、

「え? 何が?」

 首を傾げる。
 とぼけたのではない。仁美が何を疑問に思っているのか、本当にわからなかった。

「いえ……とても思い詰めた……浮かない顔をしていましたので」

「あ……」

 と、漏らしてまた俯く。
 まどかがそんなことするはずない。そう信じていたのなら、どうしてあの時、手を振り払ってしまったのだろう。
 今なら自信を持って言える。何度だって言える。
 それだけに悔しい。たった一度、まどかを信じ切れなかった自分が悔しくて仕方なかった。

――だとしたら、裏切ったのはあたしの方かもしれない……


473 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 00:40:48.59 ID:UlScQPtlo

 自責の念が胸の内側から滲み出てきて、嗚咽となって込み上げそうになる。涙が溢れてきそうだった。
さやかが痛みに押し潰されまいと懸命に堪えていると、

「ごめん! 遅くなっちゃって――」

 声の方に向くと、小柄な身体にピンクのツインテールが揺れていた。
 息を切らして、小走りで駆け寄ってくるのはまどかだ。その肩には、昨日見た白い小動物。名前は確か、キュゥべえ。

「あら。おはようございます、まどかさん。そんなに急がなくても、まだ大丈夫ですのに」

「なんで……」

 キュゥべえの存在に驚くさやかをよそに、仁美はごく普通に挨拶を交わしている。
 まさか、見えていないのだろうか。

『(あの……さやかちゃん……)』

「うわっ……なにこれ……」

 頭の中に直接まどかの声が響く。さやかは耳を押さえると、思わず口に出して驚いた。
隣では仁美が怪訝な顔をしている。

「(なんか、頭で考えるだけで会話できるみたい……だよ)』

「(そ、そうなんだ……)』

 いわゆる念話――テレパシーというやつだろうか。が、念話そのものよりも、
まどかと会話したことに動揺してしまい、素っ気ない返事をしてしまう。声が上擦るのを隠せなかった。
 まどかの返事も、どこかぎこちない。きっと彼女も同じ思いを抱いているに違いない。


474 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 00:56:48.55 ID:UlScQPtlo

 しかし何故。と思っていると、

『昨日、ちょっと話しただろう? さやか、君にも魔法少女の素質があるって』

「(それじゃ何? あたしはもう魔法少女になっちゃってるの?)」

 今度はキュゥべえが割り込みを掛けてきた。
 マミはかっこいいと思うし、尊敬に値する。が、それはつまり命懸けで戦う使命を課せられる訳で。
昨夜のマミのように、恐ろしいモンスターとの戦いを意味するのだ。
 勝手にそんなものにされては堪ったものじゃない。

『いいや、今はまだ僕が中継しているだけだよ。君たちも契約すれば単独で使えるようになる』

「(ふぅん、何か変な感じ……。ね、あんたの姿って仁美には見えてないの?)』

『そうだよ、僕がそうしない限りね。声も聞こえない』

「(でも、昨日の人……冴島さん。あの人はキュゥべえが見えてたみたいだけど……)」

 まどかの言に頷く。
 昨日、5人と一匹は落ち着ける場所で軽く今後の相談をした。当初、鋼牙は素性を明かすのを躊躇っていたが、
思案の後、情報交換を提案した。その場で、鋼牙ははっきりとマミとほむら、キュゥべえを相手に指名した。
もっとも、ほむらは明言せず立ち去ってしまったが。

 しかしマミの体調がすぐには戻らず、さやかの為に治癒魔法も使わせてしまった。
結局、時刻も午後の8時を過ぎていたので、明日の約束をして別れたのだった。

『それは僕にはわからない。けど僕が考えるに、彼らは異なる存在を視る訓練をしていると思うな。
或いは違う世界の生物、魔獣ホラーと戦ううちに耐性が付いたのか』


475 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 01:10:37.08 ID:UlScQPtlo

――ん? 彼ら?

 キュゥべえの発言に僅かだが引っ掛かりを覚える。
 鋼牙のような戦士が複数いて、キュゥべえはそれを知っている?
 言い間違いや推測の可能性もあり得るが、ともあれこの場で深く追求するのも面倒だ。
さやかは一旦キュゥべえの発言を聞き流した。

『これは忠告だけど、あまり彼に関わらない方がいい。彼は危険な存在だ』

「(そんな! あの人はそんなんじゃないよ!)」

「(違う! あたしたちのこと助けてくれて、ちゃんと事情を話すって約束したじゃん!)」 

 これには黙っていられなかった。
 さやかがキッとキュゥべえを睨むと同時に、まどかも声を――といっても心の声を、だが――荒げた。
 いくら命の恩人とはいえ、つい昨日出会ったばかりの人間を、何故こうまで庇うのか。
自分でも不思議だった。

 それでも、マミもまどかも、あの場に居合わせて彼を疑う者は一人もいない。
いや、ほむらだけはどうだかわからないが。
 彼が単なるホラーの敵対者なら、さやかに声を掛ける理由もない。
何より、槍の嵐から危険を冒してまでさやかを守る必要などあろうはずがない。

 少なくともあたしだけは知っている。白と黄金、二つの背中を間近で見ていた、あたしだけは。
あの人の剣は、人を守る為にあると。そう、さやかは信じていた。

 さやかとまどか、二人からの吊るし上げと視線を受けてキュゥべえは慌てて弁解する。

『わわ、落ち着いてよ! 言い方が悪かったね。彼個人の問題じゃなく、彼と深く関わることは、
ホラーとの関わりも意味する。彼がホラーを追っているのは確かなんだ。
奴にはマミですら勝てなかった、ある意味、魔女よりも厄介かもしれない』

「それは、そうかもしれないけど……」



476 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/05(月) 02:11:40.17 ID:UlScQPtlo

 キュゥべえの言う通り、ホラーは恐ろしい。できることなら二度と関わりたくない。
でも、それは魔女だって同じ。キュゥべえは契約して自分たちにも魔女と戦えと言っているのに。
 何か釈然としないものを感じながらも、さやかは語尾を濁した。

 二人から反論がないのを確認して、キュゥべえは更に続ける。
 
『同じく暁美ほむら。彼女にも警戒すべきだ。君たちは見てないけど、僕を狙っていたのは彼女だよ。
魔法少女が生まれるのを阻止したかったんだろうね』

「(えぇっ、ほむらちゃんが!? だって、ほむらちゃんは……)」

 まどかがほむらを庇う。さやかは、それが何となく面白くなかった。
 そりゃあ、まどかにとっては彼女は自分を守ってくれたかもしれない。でも、ほむらはさやかに銃を向け、マミを脅した。
あまつさえまどかと組んだ肩を振り解き、闇の中に置き去りにした。
 認められるはずがない。キュゥべえを狙ったのも頷ける気がした。彼女はきっと、そういう類の人間。

「(でも……ほむらちゃんは私たちを守って……。魔法少女が邪魔なら、何で私たちを助けたの?)」

 違う。
 守ったのはまどか、ただ一人。他はついでに過ぎない。現に、いよいよ危ないとなれば、まどかだけを連れて逃げ出した。
 理由なんか知らない。どうでもいい。確かなことは一つだけ。

「(だったら、マミさんはどうして? ほむらちゃんはマミさんを助けたんだよ?)」 

 また、ほむらか。
 さやかは自分の内で黒く淀んだ感情が生まれるのを感じていた。
 まどかの言葉は正論。ほむらの行動原理は善悪どちらかで説明できるものではない。理屈ではわかっている。

 それでも。
 さやかには他に術がなかった。まどかを憎みたくないが故に、その捌け口はほむらに向けるしかなかった。

477 : ◆ySV3bQLdI. [ saga]:2011/09/05(月) 02:44:59.91 ID:UlScQPtlo

 心なしか息が苦しい。膨らんだ黒い感情が気道を塞ぎ、内臓を圧迫しているかのよう。
人を憎むのは多大なエネルギーを消費すると聞いた覚えがあるが、今なら実感できる。
 いや、それとも――莫大なエネルギーを生んでもいるのだろうか。
この、自らの意志とは無関係に身体を突き動かし、暴走を促すような、全身に行き渡る力の源は。

『彼女の本当の目的はわからない。でも、僕を狙ったのは事実だ。とにかく心に留めておいて』

 キュゥべえにも構わず、まどかとさやかは視線をぶつけ合う。
 まどかは悲しそうに、さやかは疎ましそうに。
 どちらも口は開かない。思考すら交さない。交すのは視線のみ。
一たび開けば止まらない、感情に任せた言葉の応酬になりそうだった。

478 : ◆ySV3bQLdI. [ saga]:2011/09/05(月) 02:46:29.32 ID:UlScQPtlo

ああ……タイトルコールまでも行きませんでしたが、あんまり書き溜めができなかったので、ここまで。
できれば明日……明後日……水曜までにもう少し進めたいです。
一応、二話は零と杏子とマミが中心になる予定。

気持ち地の文を減らしました。いきなり減らすと違和感がありますので。減ったでしょうか。
慣れてくれば、もう少し要約できるはず。

479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/05(月) 06:39:49.15 ID:TvdgMwvV0

おお、実に虚淵だねぇ
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/05(月) 12:14:50.53 ID:vR6LNgFxo
乙です

まあほむらはさやかから見たら本当に嫌な奴だしなあ
というかまどか以外から見たら(ry
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 19:42:04.68 ID:k5gSMfcAo
乙です。

そしてほむらがああなったのは別世界のマミやさやかの影響という……世界ってどこまでも意地が悪い。
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/07(水) 23:36:47.05 ID:aUW3ZYzAO
キバ見たがパネェ
第2期に出てきそうな伏線いっぱい出てきた

483 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:29:44.44 ID:TlUijr0yo

「あの~……、お二人ともさっきから何を見つめ合っているんですの?」

 いつまでも動かないまどかとさやかの間に、仁美が割って入った。
 傍目からは、二人が無言で見つめ合っているようにしか見えないのだ。
ようやくそれに気付き、揃って返答に困っていると、

「はっ!? まさか二人とも、既に目と目でわかり合う間柄ですの?」

 何を勘違いしたのか、仁美は赤らんだ頬を押さえ、身体をくねらせながら首を振る。
 彼女らしい愉快な冗談。
普段ならここでさやかのツッコミが入り、まどかは引き気味に笑っているような、そんな場面。
 しかし、彼女の言うところの禁断の恋中の両者はピクリとも笑わず、気まずそうに視線を彷徨わせている。

「でも、いけませんわ。女の子同士でそんな……それは禁断の恋――なんて……」

 流石に空気の読めない場違いな冗談と自分でもわかっていたのか、仁美はコホンと咳払いをして、表情を引き締める。
 彼女なりに空気を変えようとしてくれたのは嬉しいのだが、そんな程度でどうにかなるレベルではなかった。
まどかもさやかも、とても笑い合うような気分にはなれなかった。

「こんな剣呑な雰囲気で、それはありませんわね。それくらい、私にもわかりますわ。
あれから喧嘩でもなさったんですか? 私でよろしければ相談に乗りますけど……」

 一転して真面目な顔になった仁美が親身な態度で尋ねるも、二人は口を噤んだ。
 天然の割に見るべきところは見て、察するべきところは察してくれる彼女は、
今回も親友同士の確執を早々に見抜いた。

 その気持ちは嬉しかった。涙が出るくらい。だからと言って話せる訳がない。
 魔女の使い魔、マミという魔法少女、転校生の正体、そしてホラーと黄金騎士。
上手く説明できる自信もなければ、信じてもらえるとも思えない。

484 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:33:23.57 ID:TlUijr0yo

 結局は、

「仁美ちゃん……」

 まどかのように迷った挙句に沈黙するか、

「仁美……ううん、何でもないよ。本当に、何でもないから」

 さやかのように笑って誤魔化すかの二択しか用意されていないのだ。
 何でもない。その台詞が上滑りしているのは自覚していた。
 あたしは上手く笑えているだろうか。誤魔化せているだろうか。

「そうですか……」

 不安は、寂しそうに目を伏せる仁美を見た瞬間に確信に変わった。
 仁美は気付いている。そして自分だけ除け者にされる疎外感に傷付いている。
 本気で心配してくれる友達に嘘を吐いて隠し事をするのは心が痛い。
それでも何でもないと答えた手前、今さら真実は打ち明けられない。

「さ、早くしないと遅刻しちゃうよ。今日も頑張っていこー!」

 せめて動揺を悟られないよう誰より前を歩き、声を張り上げる。
 空元気と空虚な笑顔を振り撒きながら。
 しかし隠しきれない僅かな不安と罪悪感が、揺れる瞳に湛えられていた。
 昨日の朝とまったく変わらない快晴の空を見上げて、さやかは思う。

――もう取り戻せない。

 この世界の裏側なんて知らなかった。知りたくもなかった。
けど、知ってしまった。そして、あたしも変わってしまった。
 だから戻れない。もう昨日までの自分にも、昨日までの親友にも。
 もう戻れないんだ、そう心のどこかで漠然と予感していた――


485 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:33:52.52 ID:TlUijr0yo

*

まどか「黄金の……狼……」

 第2話

 君にその勇気があるのなら

*

486 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:40:28.80 ID:TlUijr0yo

 見滝原中心部、駅前に位置するシティホテル。
一等地に位置するホテルは外観も立派で内装も豪奢、それなりに上等なホテルである。
 時刻は朝の9時を回った頃、ロビーから出てきたのは、酷く場違いな男だった。
と言っても、彼の服装ならどこに居ても浮いてしまうだろう。だのに、男に恥じる様子は一切見られない。
 
 もう季節は春なのに、上下とも黒のインナー、脛まである白のロングコート。
 男の名は冴島鋼牙。
 昨日、見滝原を訪れたばかりの魔戒騎士にして、
ショッピングモールで少女たちを助けた黄金騎士・牙狼。

 少女たちと別れた後も明け方まで街の探索をしていた割に、足取りは確か。
寝惚け面を晒したりもしない。いつも通りの仏頂面である。
 鋼牙は起床後、コーンフレークと簡素な朝食を平らげて、準備を整えるとすぐに街に出た。

 ホラーの活動は基本的に夜である。魔女も然り。
 魔戒騎士の昼間の仕事は、ホラーのゲートになる場所を探し、影に潜むエレメントを浄化すること。
陰我のあるオブジェが魔界と顕界を繋ぐゲートとなるのだが、これによってホラーの出現を未然に防げる。
 すべての浄化は不可能でも大分楽になる。何よりホラーが人に憑依すれば、
その時点で確実に一人犠牲者が出ている。憑依された人間だ。故に地味でも必要な仕事だった。

 当座のねぐらと定めたホテルを出るなり脇道に逸れると、左手中指にはめたザルバが口を開く。

『鋼牙、本気か?」

「ああ」

 質問の内容も確認せず、即答する鋼牙。
 昨夜も同じ問答があった。それを敢えて繰り返すのは、相当に重要な問題であるという意味。特に彼らの仲では。
 ザルバが鋼牙に食い下がるなど常なら滅多に起こり得ない。
487 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:42:05.95 ID:TlUijr0yo

「あのお譲ちゃんたちにホラーと魔戒騎士の情報を明かすなんざ掟に触れる罪。
牙狼の称号を持つお前なら尚更だ。番犬所どころか、元老院のお偉方だって黙っちゃいないぜ』

「必要な措置だ、深くは話さん。どうせ知ったところで、何ができる訳でもないだろう」

『そりゃそうだ。ま、バレなきゃ問題はないだろうが……』

 ザルバはやや呆れ気味に答えた。鋼牙は頑として考えを変える気はないらしい。
 まぁ、記憶を失っているといえども長年の付き合い。
鋼牙が決断を簡単に翻す人間でないと、本当は問う前からわかり切っていた。

 掟や制約など軽々と踏み越えていく。
 何より最優先すべき大前提。
 それは魔戒騎士に課せられた使命。

 人に仇為す者を討ち、人を守る。

 その為に邪魔になるなら、掟だろうと構わない。自由を縛る鎖はいらない。
 数年前、一人の女性と関わった頃から鋼牙は変わった。
魔戒騎士として命を賭してホラーと戦う生き方は同じ。けれども、顔もない誰かの為ではない。


488 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:43:51.35 ID:TlUijr0yo

 世界で一番大切な人と、そこに繋がる数多の人が。
 更に、そこから無限に枝分かれしていく人々の絆が。
 今の鋼牙には、はっきりとイメージできている。

"大衆"や"一般人"なんて名前ではなく、彼らにも友や家族や恋人がおり、分岐を辿ったどこかで自分と繋がっている。
 だからこそ以前にも増して、守り抜くと誓った意志が、確固たるものとして鋼牙の両足を支えている。
 時に無用な敵も作る。楽な生き方ではないだろう。
 だが、人の営みの中で何かを変える人間とは、総じてこんな愚直な人間――言い換えれば馬鹿なのかもしれない。

 鋼牙が一人の女性を救う為に掟を破ったように、彼女の想いが窮地の鋼牙に比喩でなく力を与えたように。
自らを信じ貫く一念が、掟や常識、法則や摂理、果ては運命すらも塗り替える。

 もしもこの世に奇跡なんてものがあるとすれば、それを言うのだろう。
ザルバはそれを誰より間近で見てきた。鋼牙の戦いと、彼が起こしてきた奇跡を。
奇跡などという陳腐な言葉、鋼牙はきっと否定するだろうが。

 最早、何も言うまい。
 ザルバは魔導輪の役割に徹すべく、エレメントの探索に意識を集中させる。
 元より鋼牙がどんな選択をしようと、付き合う覚悟はとうにできている。
共に過ごした長年の記憶が朧げだろうと、それが彼の"ザルバ"である証なのだから。


489 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/09(金) 02:44:22.04 ID:TlUijr0yo

*

牙狼―GARO― 魔法少女篇

 第二話

 牙城

*


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497 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/11(日) 23:55:15.32 ID:NI8OO6Wwo

 昼間は退屈だ。何をすべきか迷うことが多々ある。
 街を歩いて運悪く警官にでも見つかれば面倒だし、かといって大抵が不法侵入である寝床にいつまでも留まっていられない。
 そして身体は常に空いていても、常に心に余裕があるとも限らない。

 ただ生きているだけというのは楽な面もあれば、なかなか大変な面もある。
 こんな生活になって、佐倉杏子はそれを実感した。
 学校や仕事があれば、日々の合間合間に余暇ができるのだが、彼女の場合それがない。
生きること自体が目的では、スイッチの切り替えが難しいと言うべきか。

 他人の物を掠め取るにせよ、時に強引に奪うにせよ、コツを掴めば生きる糧を得るのは難しくない。
慣れれば単純な作業。
 例外は夕暮れと夜の時間。この時間に杏子は魔女を探して倒している。
好きでやっている訳ではないが、敗北は死を意味するのだから否応にも刺激はある。
 だが、それだけだ。

 既に生活の一部と化している夜毎の魔女狩りは、生きる為には必要なこと。
魔力が枯渇して魔法が使えなくなれば少女一人で生きていくのも難くなる。
 故に魔女との戦いは命の危険もあってか、やはり生きることの延長であり、暇を楽しむ余裕はない。

 その点、今は僅かだが充実していると感じていた。明確な目的があるからだ。
 ゼロと呼ばれた黒コートの男の捜索。
 その為だけに杏子は見滝原に戻ってきたと言っても過言ではなかった。
 
 目的の合間に休憩を取ったり、魔女を探したり。
やっていることはいつもと同じでも、気の持ちようで変わるものだと思った。
 顔見知りと会うのはできれば避けたかったので、
目的の人物を探し出して用を済ませたら立ち去るつもりだ。その時には、ちょっとした休暇ができるだろう。

498 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/12(月) 00:45:42.26 ID:J5M2j+xZo

 無論、あの男が気に食わないのも大いにある。
なのに、彼の何がこんなにも自分を苛立たせるのか、今でも判然としない。
 杏子は今日までそれを考えていた。

――思い当たる可能性は一つある。
 たぶん、あいつにあたしの弱さを垣間見せてしまったことが原因。
感情を爆発させて向きになるなんて、家族を除けば奴が二人目だ。

 あいつと出会って一週間と少し経った頃。
 あたしはあいつに向かい合って、魔法少女についての情報を教えた。
いや、正確には上手い具合に引き出された。

 自分たち魔法少女がグリーフシードを必要としていること、それは魔女が持っていること、
使い魔が人を喰って魔女になればグリーフシードを孕むこと。
 そして、自分が人間を見殺しにして使い魔を育てていること。

 あいつは驚きもせず、ただ黙って聞いていた。
 その余裕染みた沈黙が、感情の籠ってない無表情が無性に腹立たしくて、あたしはいつしか感情を昂らせてた。
 語る声色は平坦なものから悪ぶったものに、最後にはほとんど怒鳴るような調子に。
 
 止めようにも止まらなかった。腹の底から熱い情動の塊が喉を突き上げてきて、
あたしは何とか奴の仮面を剥がそうと躍起になっていた。
 殊更、偽悪的に振舞ってもみた。同情や哀れみなんて御免だと思った。
あたしは間違っていないと自分の正当性を説いた。自己を必死で肯定するみたいに。

 正直、あまりはっきりとは覚えていない。
けれど語り終えた時、あたしは顔中に汗をびっしりと掻いていた気がする。
 そして、あいつはただ一言「なるほど」と。

499 : ◆ySV3bQLdI. [sage saga]:2011/09/12(月) 02:15:12.65 ID:J5M2j+xZo

 顔は相変わらず平然としていて、声にも澱みはなかった。
 口から出るのが同情や説教の類だったら、その場で半殺しにしてやろうと思っていたから、
その反応は意外だった。あたしは暫く拍子抜けしてて、その間にあいつは姿を消した。

 何故、あんなことを言ったのか。思い出すと顔から火が出るくらい恥ずかしくて、激しく後悔した。
いっそ消せるなら消し去ってしまいたいくらい。

 これもたぶんだけど、初めて他人に話したから調子が狂ってしまったのだと思う。
 そう、断じて理解者を求めていたのでもなければ、赦してほしかったんでもない。 
 とにかくそれからだ。あたしとあいつの間に因縁が生まれたのは。
 
 会ってどうしたいのか。それすらも決まってないけど、会わずにいられない。
戦いになったらなったで、それもいいだろう。
 あいつに勝って振り切れるなら。
 あたしの生き方の正しさを証明できるなら――

 胸中に様々な想いを渦巻かせながら、杏子は見滝原の街を歩く。
杏子は昨日の昼に見滝原に着き、かれこれ約一日ゼロと呼ばれた男を捜していた。
そうしてふと街中の時計に目を遣ると、気付けば午後2時を過ぎている。

 男が何者で、見滝原のどこに、何をしに来て、何時までいるのか。そういえば何も知らない。
 かつて住んでいた街といっても、見滝原市全体だと捜索範囲はかなり広範囲に亘る。
もしかすると、もうとっくに用事を済ませて街を去ったのかもしれない。そんな予想も脳裡を過ぎる。

 来るまでは会えなかったならそれでもいいと思っていた。
たまには目的を作ってみるのもいいと、それだけだった。
見つからなければ、この街がどれだけ変わったか適当に散策して帰ろうと。

 なのに、あれこれ考えていると会わないと気が済まなくなっていた。
こういうところが気まぐれだと自分でも思う。
 魔女が出そうな場所は粗方探したのに、一向に見つからない。まだ探していない区域が一つだけあるにはあるのだが。
 歩き詰めで疲れた足を引き摺りながら、そろそろ休憩しようかと道端のオープンカフェに目を移すと――。

500 : ◆ySV3bQLdI. [saga]:2011/09/12(月) 03:18:27.51 ID:J5M2j+xZo

「はぁっ……!?」

 素っ頓狂な声を上げて、杏子は目を見開いた。
 何故なら、オープンカフェの椅子に腰掛けているのは黒いコートの背中。
 顔は見えないが間違いない。こんな暖かい季節にコートってだけでも怪しいのに、
雷の紋章と双剣とドリームキャッチャーの刺繍となれば、もう間違いない。

「ぁんの野郎……!」

 杏子は憎々しげに呟くと、早足で向かう。
 自分が足を棒にして見当違いの場所を探している間に、奴はのんびりくつろいでいたのだ。
理不尽な恨みだが、杏子の怒りは燃え上がった。ちょうど手持ちのお菓子も切らしていたし。

 しかしカフェに向かう途中、不意に背筋に寒気が走る。熱せられた怒りが水を掛けられたみたく冷めた。
 きな臭い、不穏な気配は歩道に沿って建っているビルから。
 廃ビル――なのだろうか。見た目は綺麗だが人気が感じられず、今はどこも使っていないらしい。

 まるで何者かに見られているような錯覚。魔法少女としての勘が、ここは危険だと告げる。
 杏子は一瞬迷ったが、すぐに視線を正面に戻す。今はこちらが先決だ。
 ソウルジェムが幽かに光るのにも気付かず、杏子は先を急いだ。

 近付くほどに明らかになる。男の髪型も、テーブルの上を埋め尽くしている物も。
 ケーキにパイ、アイスクリームやパフェ等々、色とりどりのスイーツが所狭しと並んでいた。
 自身でも大食いを自覚している杏子でも胸焼けがする光景。
いったい、どこにこれだけの量が入るのか。どうすれば、これだけのエネルギーを消費できるのか。

 無邪気にケーキを頬張るのん気な横顔に口の端が獰猛につり上がる。
 杏子はテーブルの対面、僅かに手が置ける程度に空いたスペースに、

 バン!!

 と力の限り掌を叩き付ける。
 皿が跳ね、ぶつかってガチャガチャ音を鳴らす。
 そして手元のケーキに向けられていた男の顔は杏子を見上げ、口を開いた。

「よっ、あんこちゃん」


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