マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その32

2012年04月23日 22:49

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

696 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/09/01(木) 00:06:37.33 ID:7ugFIpTAO
――クルジス――

砂塵舞う地表は薄いカーテンがかかったように褐色に染まる
国連軍、反国連軍の区別無く
それは容赦なく吹き付けて、装甲に爪を立てる音を響かせた

ゲリラ兵士『……来たぞッ!』

反して空は透き通るような蒼を湛え、旧式のカメラアイでも遠方までを見据えられた
各地で爆炎と轟音が響き渡り、戦いの激しさを物語っている
対空型ティエレンのパイロットが小さく叫び、部隊に緊張が走る

見えたのだ

獲物を喰らわんと一直線に空を駆ける、黒い獣の姿
今彼等が相対する国連軍、その最高戦力と呼べる存在が

ゲリラ兵士『近付けるなよ! 変形されたらおしまいだッ!』

後方から巡航形態のヘリオン、リアルドが飛び出していく
地上部隊も自らの指を引き金に掛け、照準は獣をセンターに捉える

固唾を飲むかのように、砂塵が吹き止んだ
黒い獣は一斉にその身を飛び散らせ、二つの影、三つの飛燕へと分散していく

それを目視してすぐ、一斉に地上部隊の対空放火が放たれ、空は弾丸で埋め尽くされる

ヘリオン、リアルド混成部隊が空戦を仕掛けんとぶつかっていく
しかし、飛燕は反撃もせずその合間を縫って抜けていく

その瞬間、三つに分けられた部隊の先端、三機のオーバーフラッグが四肢を大きく投げ出し同時に変形した

ゲリラ兵士『うわぁぁぁぁぁ!』

空気抵抗をわざと受け、地面に頭を向けたまま宙に浮くフラッグ
他の三機が前に出て、地上からの対空放火に牽制の射撃をバラまく
変形したフラッグから、通り抜けた空戦部隊へリニアライフルが浴びせられる
背後から弾丸を受けたヘリオンらは、一機、また一機と煙を上げ墜落していった

ゲリラ兵士『くっ……!』

ヘリオン隊の全滅から、まさに一瞬の間。フラッグは再び変形し一挙に距離を離す
追撃すらままならない速度、更には置き土産と言わんばかりのミサイルまでが地上部隊に降り注ぐ

散り散りになった反国連軍の前には、本隊のイナクト・RGM部隊が迫っている

そこからは、文字通り一瞬で片が付いた



「あげゃげゃげゃ!」

『……』

そんな様子を廃墟の隅から見ていた若者が一人
毛質の荒い金髪に緋色の瞳、発達した犬歯とつり上がった口元が特徴的な青年
ガンダムマイスター、フォン・スパーク

フォン「オーバーフラッグス……変形を取り入れた新しい戦術の開発に着手し始めたな」

874『本日だけで五回もの変形、戦線の攪乱と後続の為のライン構築のみに従事していますが、その戦果は絶大です』

丸い支援メカから浮かび上がる猫耳と尻尾を付けた立体画像少女、二次元の申し子874が語りかける
それに対してフォンは反応もまばらに、崩れた壁を登りオーバーフラッグスが消えた空を見つめた

フォン「いや……それしか出来ないのさ。オーバーフラッグじゃそれが限界なんだ」

874『……』

フォン「グラハムとやらの精一杯の足掻き……何処まで続くか見物だな」

フォン「あげゃげゃげゃげゃげゃ!」

フォンの名前の由来、代名詞ともいえる馬鹿笑いに呼応したのか
廃墟の影から光学迷彩を解き、黒い色彩の戦闘機のようなMSが姿を現す
キュリオスの素体にもなった第二世代型ガンダム、ガンダムアブルホールである

フォン「基地に戻ってアストレアを動かす」

874『では?』

フォン「あぁ」

フォン「埒が明かないなら自分で明ける……俺がいつもやる手だ」

壊滅していくゲリラ部隊を背に、アブルホールは悠々と空に消えていった
その影を追う者がいるとも知らずに……



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――前線基地・休憩室――

ダリル「ふー……」

タケイ「……」

リディ(マイ湯のみ持参なんだ……)

フェルト「お疲れ様です、皆さん」

ダリル「おうフェルトちゃん」

タケイ「……」ペコリ

フェルト「今日も……ご苦労様です」

リディ「俺達は援護担当だからね、そこまで疲れちゃいないよ」ゴシゴシ

ダリル「ったく、前線指揮官のグッドマンとかいう奴のおかげで、毎度毎度最前線だ」

リディ「仕方無いですよ……」

リディ『ゲリラなんぞに墜とされたライセンサーに期待が出来るか甚だ疑問だが……まあせいぜい頑張りたまえ』キリッ

リディ「……開口一番これですからね」

フェルト「……」

ダリル「くそっ、戦術もマネキン大佐に頼りっぱなしの白豚が偉そうに!」

タケイ「……」ポン

ダリル「! あぁ、悪いタケイ。つい熱くなっちまった」

フェルト「三人はまだロッカールームに……?」

リディ「あぁ、今日もマリーダ少尉だけが先に出て来たよ」

リディ「……俺達もアレが出来れば……ッ」

ダリル「……」

タケイ「……」

フェルト(グラハムさん……)


――ロッカールーム――

グラハム「……」

ジョシュア「……」

皆が着替えた後、二人はほぼ無言のまま長椅子に座りずっと俯いている
滴り落ちる汗はシャワーを浴びる気力すら搾り取り、ほぼ下着一枚の状態でもシャツ一枚着る気力さえむしり取られていた

グラハム「ジョシュア……大丈夫か」

ジョシュア「……」フルフル

グラハム「……そうか……」

グラハムが重々しく口を開く
ジョシュアは無言のまま首を軽く振る、憎まれ口はあと一時間は止まったままだろう
もう一人はシャワーこそ浴びに向かったものの、恐らく立ったまま浴びれず座って水滴を受けているはずだ
かれこれ三十分、姿を見ていない

この連日、四人は変形を本格的に取り入れた戦術パターンを実践していた
日に何度も変形、十を越える日も珍しくなく、パターン構築は順調に進んでいた
……しかし、マリーダ以外、それに付いていけている者は誰一人としておらず
身を削り、体力を極限状態に追いやるほどに、目に見えて疲弊していったのだった

グラハム(フラッグの耐G性能では、可変機構を完璧に取り入れるのが此処まで苦痛だとは……っ)

グラハム(グラハムスペシャルの持ち主がこれではな……プロフェッサーに合わせる顔がない)

ジョシュア「……」ガタンッ

グラハム「ジョシュア」

ジョシュア「着替えるだけだ……心配すんな」

グラハム「……そうか」

先ほどマリーダが届けてくれたドリンクに口を付ける
頬の筋肉がつりそうになるが、我慢しながら無理やり喉に液体を流し込む

グラハム「ぷぁっ!」

グラハム「はぁ……」

ジョシュア「……」フラフラ

ジョシュア「……負けて……たまるかっ……!」

グラハム「……」

グラハム「あぁ……そうだ」

グラハム「こんなところで……立ち止まってたまるものか!」グッ


――リディ回想・前線基地到着当日・食堂――

外はかんかん照りの太陽が基地に照りつけ、空にはこれ以上無いほどの蒼が広がっていた
それなのに、まるで分厚い雲に隠されているかのように空気が重い
息苦しさからか、食事もまともに喉を通らなかった

グラハム「……」

マリーダ「……」

リディ「…………」モソモソ

ここ最近、朝食は必ずこの二人と取っている
少佐は修行僧かと言うほどに早起きで、追随するマリーダ中尉も同様である
日常の一挙手一投足から学べ、というダリル少尉の言葉通りにしてはいるが、三日間もこの調子では胃腸がどうにかなってしまいそうだった

グラハム「……」ガタンッ

マリーダ「……」スッ

リディ「御馳走様です……と」

スクランブルエッグのケチャップが足りない以外には、此処の食事に不満は無い
前の基地ではとにかく我慢ならなかったベーコンの焼き加減も完璧だ、本来ならばがっついてもおかしくはないクオリティである

タケイ「……」ヒュボッ

ジョシュア「あぁっ! タケイてめぇ、俺のレタス返せ!」

ダリル「レタス奪い合ってどうすんだお前ら……?」

先輩方は相変わらずだ。こういう空気の時は傍観を決め込むのだという

……正直、言い出しっぺのダリル少尉まで傍観者なのは納得いかないが、それは後輩の辛いところだ

グラハム「リディ」

リディ「あ、はい少佐、何でしょう?」

グラハム「今日の正午には例のAEUの部隊が合流する。最初くらいは一堂に会し顔を合わせねばなるまい」

グラハム「東の滑走路に集合、彼等を出迎える。他の隊員にもそう伝えておいてくれ」

リディ「はぁ……」

いつもより小さく見えた背中は、そのまま食堂を出て影に消えていった
今みたいな伝令は、普段なら間違い無くマリーダ中尉を介して伝わるものだ
避けている――のではないと思う
理由は分からないが、彼女を気遣っているように感じられた

リディ「イナクト隊が来れば少しは変わるよな……?」

いつまでもこんな痴話喧嘩の後みたいな空気では、部隊の士気にも影響してしまうだろう

早く何とかしてほしいものだと、時計に目をやり一人ごちた

タケイ「……」ヒュボッ

ョシュア「あぁっ! タケイてめぇ、俺のジ返せ!」

ダリル「何それ怖い」



ミーナ「へぇ……そんな事があったのね」モグモグ

ビリー「そうなんだよ……全く、グラハムめ」

フェルト「……////」

ミーナ「心配ね、あの二人」

フェルト「確かに、年齢とか同じ部隊って制約はありますけど……でもお互いが想い合っているなら、それはそれで」

ミーナ「そうじゃないわよ」

フェルト「え?」

ビリー「……」

ビリー(グラハムは、マリーダ・クルスの過去の凄惨な出来事を知っている)

ミーナ(きっと異性との口づけ一つ取ってみても、彼女にとっては忌まわしい記憶を呼び覚ますきっかけにしかならないはず……)

ビリー(だから、グラハムはこれ以上踏み込むことが出来ずにいる……)

ビリー(きっと、彼女に軍を止めさせたいと考えていることを伝えられないのも……)

ミーナ「……自分のワガママを貫き通す訳でもなく、かといって諦めきれるような性格でもなし」

ミーナ「あの男も不器用よね……ホント」

ビリー「……」ズズ

フェルト「……?」


――E・滑走路――

正午、時間まではバラバラに好き勝手していた隊員も、気付けば時間前には全員滑走路に集まっていた
茹だるような暑さに、皆玉のような汗を浮かべている

ョシュア「まだ……来ねえのか?」

グラハム「いや、見えた」

グラハム少佐は双眼鏡を片手に遠くの空を眺めている
陽炎揺らめく乾いた空にはMSが二機、目視でも確認出来る位置にいた

グラハム「来たな」

マリーダ「数が足りません……やはり例の話は本当だったのですね」

グラハム「腕が立つ方が来るなら何も言わんさ。元々我々は少数精鋭だからな」

マリーダ「はい、マスター」

二人の様子にダリル少尉が安堵したような表情を一瞬見せたのを、フェルトは見逃さなかった
二人と一番付き合いが長いからだろうか、新参のフェルトから見てもダリル少尉の気の使い方はかなりのものである
胃薬を購買部で買っていたのもついさっき見かけたばかりだ

リディ「なぁフェルト……二人とも機嫌直ったのかな」ボソボソ

フェルト「そうならいいけど……」ヒソヒソ

最終決戦時、マリーダ中尉が少佐不在時に部隊を纏めるとなった時、部隊の反対派を説得したのもダリル少尉だと、タケイ少尉から聞いたことがある
ダリル少尉は、今やこの部隊には欠かせないクッションの役割をこなしていた

ダリル「隊長、部隊の編成は……」
『いぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』
リディ「!?」

フェルト「へ……?!」

マリーダ「……」イラッ

何事か?
基地のマイクから発せられたのは、軍事基地で聞けるとは到底思えぬほどの浮かれた叫び声
管制塔からではない、目の前のMSからでもない
太陽を背に隠れるかのように現れた、イレギュラーからだった

マリーダ「……馬鹿め」

グラハム「はっははははは!!」

マリーダ中尉の表情は心底うんざりしている、心当たりがあるようだ
反してグラハム少佐は腹を抱えて爆笑している、この人はこんなにも良い笑顔をするのかと目を疑った
キョトンとするフェルトを後目に、皆一様にそれが何なのかを理解したような空気だった

『よぉトップガン、俺がいない戦場は随分刺激が足りなかったと見えるな!』

『だがもう安心だ、遂に満を持して登場のー……!』

『パト(ブツッ』

…………

ミーナ『グラハム聞こえる~?』

ミーナ『五月蝿いって苦情が基地中から殺到したから、回線切ったわ』

グラハム「ご苦労ミーナ、いい仕事だ」

マリーダ「……」バキボキ

ダリル「中尉……お手柔らかにお願いしますよ」

リディ「うへ……」

フェルト「グラハムさん、今の人は……?」

グラハム「パトリック・コーラサワー」

グラハム「私に並ぶ実力を持つ、AEUのトップエースさ」

そう言葉に出した少佐の顔は、いつもの負けず嫌いで意地っ張りなグラハム・エーカーの顔だった

その時、突風と見紛う強い風が一同へと吹き付ける

フェルト「きゃっ……!?」

リディ「フェルト!」

マリーダ「これは……っ」

グラハム「……!」

その正体は、パトリック・コーラサワーの後に続いていた二機のイナクトの内の一機
巡航形態のまま勢い良く滑走路すれすれを疾走し、再び蒼空へと舞い上がる

『行きますよ大尉』

『あぁ……見せてやれルドルフ』

タケイ「ッ!」

リディ「あ、あれは……!?」

そして、機首を上空へと向けた瞬間、軽快な機械音を奏で手足は踊るように風を掴み広がっていく

ビリー「空中変形!?」

グラハム「……ほう」

速度を急激に落としながらも、空気の壁に座るような柔らかな挙動で浮かぶイナクト

――どうだ、もうこれはフラッグだけの物じゃない

そう告げるかのようにイナクトは滑走路に着地し、フラッグファイターを見下ろした

AEUの誇るエースパイロット

【不死身のパトリック・コーラサワー】

【鉄人:ヴィクトル・レオーノフ】

そして空中変形を行う五人目の男、ルドルフ・シュライバー

一筋縄では行かない空の男達が、たった今グラハムの下に集まったのだった

マリーダ「マスター、部隊編入の予定にあの男は入っていません」

グラハム「どうせ補給のために立ち寄っただけだろう、放っておけ」


――ミーティングルーム――

グラハム「それではまず各々から自己紹介を貰おう」

グラハム「私はグラハム・エーカー、階級は少佐だ。オーバーフラッグスの隊長であり、ライセンサーでもある」

グラハム「諸君等と飛ぶのを心待ちにしていた、どうかよろしく頼む」スッ

ヴィクトル「はっ……よろしくお願いします少佐」グッ

ルドルフ「噂にはかねがね聞いてますよ、ライセンサーのグラハム少佐」グッ

グラハム「それは耳が早い……だが私は噂では評価されたくない面倒な男でね」

グラハム「グラハム・エーカーがライセンスに相応しい軍人かは、君自身の目で確かめてもらいたい」

ルドルフ「是非ともそうさせてもらいますよ、元祖グラハム・スペシャルも含めてね」

マリーダ「……いちいちトゲのある言い方をする……」

ダリル「中尉、落ち着いて下さい……さっきコーラサワーで発散したでしょう?」

コーラサワー「うぅ……ほっぺがいひゃい……」ヒリヒリ

グラハム「レオーノフ大尉。鉄人ヴィクトルの異名、ユニオンにも届いております」

グラハム「轡を並べ共に戦える日が来るとは、このグラハム・エーカー、感動しております」

ヴィクトル「…………」

マリーダ「…………」

ヴィクトル「…………」

マリーダ「…………」

ヴィクトル「……それは、どうも」

ビリー(また寡黙キャラが増えるのか……意志疎通がしにくいのは辛いなぁ)

リディ「……ジョシュア少尉」

ジョシュア「あ?」

リディ「鉄人ヴィクトルって……何ですか?」

ジョシュア「知らねえのかよ? ったく……」

ジョシュア「ダリル!」ボソッ

ダリル「おめえも知らねえんじゃねえか……」

タケイ「…………」

ダリル「第五次太陽光紛争のトルコ戦線で、人革連の特務部隊の猛攻が続き型落ちしてた旧型ヘリオンばかりの前線が完全に崩壊、トルコ基地も危機に晒されていた」

ダリル「それを当時曹長だったヴィクトル・レオーノフ大尉が前線の敗残兵を纏め上げ、新型のティエレンで構成された特務部隊を迎撃、トラップと策により特務部隊を潰走させ基地を守り抜いたんだ」

マリーダ「その時人革連の指揮官が、【AEUにもティエレンのような男がいた】と通信で呟いたことから、鉄人ヴィクトルの異名がついた……」

リディ「あ……鉄人ってティエレンってことなのか」

ヴィクトル「AEU所属でティエレン呼ばわりだ……ただの皮肉だよ」

リディ「う……」

グラハム「守将として機能する兵士は私の部隊には少ない」

グラハム「このグラハム・エーカー、防衛戦のスペシャリストである大尉に技術を学ぶつもりで共に戦わせていただきます」

ヴィクトル「……」

ヴィクトル「苔むしたロートルが役に立つなら……それもまた良いでしょう」フッ

グラハム「ご謙遜を……培われた経験は何よりの宝です」

ヴィクトル「機体性能で劣っていて、攻められなかったから守った、それだけです……」

ヴィクトル「期待なら、ルドルフにかけてやってください。ロートルは出来る仕事をこなすのみです」

グラハム「空中変形……見事なものだったよルドルフ少尉」

ルドルフ「お褒めに与り光栄です、少佐」

ルドルフ「イナクトでも空中変形出来るってこと……見せられて良かったですよ」フン

グラハム「機構は似通っているからな、いつかは誰かがこなすだろうとは思っていたよ」

グラハム「それが君であり、私の部隊に編入されるということ……乙女座のセンチメンタリズムな運命を感じるよ」

フェルト(関係ない気がする……)

ルドルフ(……ふん)

ルドルフ(コイツがライセンサーだと?)

グラハム「?」

ルドルフ(認めるかよ、何が免許持ちだ!)

ルドルフ(イナクトがフラッグの猿真似じゃねえってこと、証明させてやる……!)

ゾワッ

ルドルフ「ッ!?」ゾクッ

マリーダ「……」ギロリ

グラハム「ふっ……」

グラハム「マリーダ、そのくらいにしておけ」

マリーダ「……はっ」スッ

ルドルフ「っ……!」

グラハム「済まんな少尉、彼女は少し気が強い。気にしないでくれ」

ヴィクトル「……」

ヴィクトル(いくらルドルフが先に挑発したとはいえ、本物の殺気をぶつけてくるとはな)

ヴィクトル(グラハム・エーカー、とんだ食わせ者を飼っているようだ)ニヤリ

ヴィクトル「そのくらいにしておけルドルフ」

ルドルフ「……はい、大尉」

ヴィクトル「グラハム少佐、寄せ集めとはいえ我々は背中を預け生死を共にする同じ部隊の仲間だ」

ヴィクトル「探り合いは無しにしよう……よろしく頼む」

グラハム「此方こそ。歓迎します」

グラハム「ようこそオーバーフラッグスへ、お二方」

ルドルフ「……はっ!」ビッ

ヴィクトル「……」ピッ

コーラサワー「なぁ、食堂どっち?」

リディ「あっちですよ! 看板あるじゃないですか!」

コーラサワー「あ、ホントだ」


――グラハム自室――

ミーナ「しっかしまぁ……グラハム・エーカー少佐ともあろう者が、こんな六畳一間の端部屋くらいしか貰えないなんて」

ミーナ「基地の司令官、アーサー・グッドマンって言ったっけ? 随分嫌われたものね」

マリーダ「ミーナ女史……!」

グラハム「ふっ、予め与えられた部屋を用途ごとに分けていったら、余ったのがこの部屋だったというだけのことだよ」

グラハム「よもや作戦指揮や情報を纏める為にこの部屋を使うわけにもいくまい?」

ミーナ「その通りね、合理的な思考が出来る優秀な現場監督を持って私達は幸せだわ」

ビリー「つくづく君が指揮官で良かったと思ってるよ、グラハム」

グラハム「……皮肉にしか聞こえないのは何故だ」

マリーダ「以前の件があるからかと……」

ビリー「きにしないでくれたまえ グラハムくん」

ミーナ「うふふ~、あたしとしてはしばらくは飽きないネタを提供してもらって助かるけどね」

グラハム「……そんな簡単な話ではない」

マリーダ「……」

ビリー「グ、グラハム……?」

ミーナ「ありゃりゃ……何やらいやんな空気」

ミーナ(やっぱり……しばらくはダリルの胃痛は収まりそうにないわね)

グラハム「そんなことよりだッ!」

グラハム「……例の計画、どうなっている?」

ミーナ「あ、話逸らした」

ビリー「ふふ……」

ビリー「抜かりはないよ、フラッグファイター」

ビリー「まず、グラハム・スペシャルを前提にした戦術マニューバプログラムの作成」

ビリー「これは以前から考えていたことだけど、君かマリーダしか空中変形を使えなかったから、なかなか作れなくてね」

ミーナ「ジョシュア・エドワーズ少尉と今回のルドルフ・シュライバー少尉の加入により、空中変形を本格的に部隊戦術に取り込んで作成出来るわ」

ビリー「ただ空中変形は只でさえ負担が大きい……それに技術的にも使える人間が少ない以上、もう片方の計画を優先すべきかもね」

マリーダ「空中変形を即座に実行可能にするプログラムOSの作成ですね」

ミーナ「そちらは私が担当してるわ」

ミーナ「マリーダ中尉とジョシュア少尉の変形パターンを解析してプログラム化、それを元にOSを作るつもりよ」

グラハム「私の変形パターンは使わないのか?」

ビリー「……君のは独創的過ぎるんだよ……あれをいきなり分析しろなんていわれたらあと三年は必要だね」

ビリー「本格的に解析するならまずマリーダとジョシュアのを根幹に作成した方が一応の形にはなるんだ」

ビリー「まずは基本のOSを作ってから、君の変形パターンも混ぜて本格的なものに仕上げるつもりだよ」

ミーナ「ルドルフ少尉のパターンも基本OSに使えそうね。何だかんだ彼も理論派、誰かが使うには理にかなったやり方みたいだし」

グラハム「ぬう……グラハム・スペシャルなのに私のデータは後なのか」

マリーダ「マスター、今は辛抱を」

ビリー「でも……この二つの計画も、所詮はこの計画を推進する為の準備段階に過ぎない」

グラハム「……」

ミーナ「ふふ、待ちきれないって顔ね。焦らないで?」

ビリー「……レイフ・エイフマン教授が残したこの草案」

ビリー「GNドライヴ搭載型フラッグ……コイツを完成させるための、ね」

マリーダ「GNフラッグの完成……」

グラハム「我々のフラッグの更なる高みか」

グラハム「待ち遠しいよカタギリ……あのフラッグの真の完成が」

ビリー「僕もだグラハム、結果的には今回のイナクト隊合流がこの計画に踏ん切りをつかせてくれたのは何とも言い難いが……」

ビリー「ただしあのフラッグはもう出せないよ。GNドライヴ搭載型としては、バイオシートありきのあのフラッグは毛色が違いすぎる」

ビリー「ただでさえフラッグの進化した姿なのに、NTにしか動かせない機体だなんて……エイフマン教授に怒られてしまう」

マリーダ「世界の警察としての役割を担うのがフラッグ……ですからね」

ミーナ「それに、乗ってるだけで内臓が滅茶苦茶になるほどの負荷がかかるMSなんて……聞いただけでもおぞましいわ……」

グラハム「そう言ってくれるな。あのフラッグが無ければ……私は仲間との約束も、愛する者の命も守れなかった」

グラハム「宿敵との決着も、恩義に報いることも出来た。私はそれだけで満足だ」

マリーダ「マスター……」

ミーナ「今のろけなかった? コイツ」

ビリー「さあね……昔からこういうところだけは変わらなかったから」ハハハ

グラハム「……だが、フラッグが世界を変えるわけではない。私は自らを律しなければならないな……」

ビリー「?」

ミーナ「何よ、いきなり水を差すわね」

グラハム「失礼……だが私の命題は世界と関わり、その行く末を見届けることだ」

グラハム「だが、もしその先が正しき道に無かったとしたら……」

ビリー「……」

マリーダ「……マスター?」

グラハム「……その瞬間に直面した場合……私は」

グラハム(私は、一体どうするのだろうな)

グラハム(なぁ……少年)


――???――

パチン

リボンズ「……では、国連統合本部からの情報が外部に洩れていると、そう言うのですね? 貴女は」

王留美「えぇ、此方の手の者に調べさせましたから確かな情報だと思いますわ? リボンズ・アルマーク」

リボンズ「思うだけでは困る。人類が最初に宇宙を目指してからもう四百年に手が届こうという今の時代でさえ、シャトル打ち上げには100%の成功確率が必要とされるのだよ」パチン

王留美「でもいつもの貴方なら、的外れの意見には敢えて反論せず微笑を浮かべるはず……」

王留美「つまり、ヴェーダもある程度の予測を立てており、私の情報はそれに則したものであるということですわよね?」パチン

リボンズ「……」

リボンズ「……良いでしょう、ならばそういう前提で話をするとして」

リボンズ「我々は何らかの手を講じる必要があるのは間違いない」パチン

王留美「その通り」パチン

リボンズ「……」ピクッ

王留美「ですが不思議ですわね。国連統合本部の情報に触れられるのは限られた一部の人間、それも三大国の高官か軍上層部に限られているはず」

王留美「わざわざ身の危険を犯してまで、得体の知れないテロリストの支援をするなんて……」

リボンズ「余程の利益を約束されているのか、それとも利潤目的では動いていないのか……」パチン

王留美「やはり例の未確認のMSと関連があると見て間違いなさそうですわね」パチン

リボンズ「チェック」パチン

王留美「……また負けてしまいましたわ」ハァ

リボンズ「世界の流れも所詮は盤上のゲーム」

リボンズ「まだ僕の方が上手ということだよ、王留美」

王留美「ふふ……そういうことにしておきますわ。今の内は、ね」

王留美「でも出来ればチェックではなく王手といってほしくてよリボンズ・アルマーク、せっかくの将棋なのだもの」

リボンズ「それは失敬……次からは気をつけよう」



プルツー「あたし達が動けない代わりにあの女が一極統合化を進めているってのがリジェネの見方だったけど……」

プルツー「リボンズ、やっぱりアイツは危ないよ」

リボンズ「今はまだ……リジェネに一理ある」

プルツー「リボンズ!」

リボンズ「地球圏統一の後に据える予定の大統領は、宇宙開発に力を入れたいと考えているようだ」

リボンズ「ならば尚更……こんなところで蹴躓いてはいられない」

リボンズ「彼等が腹に何かを含んでいるとしても、それすらも容認し計画を遂行する度量が必要なんだよ。イオリアの計画を超え、人類を革新に導く為には」

プルツー「……」

リボンズ「僕は創造主に弓を引いた咎人だ。だが、故に計画を遂行するのは僕でなくてはならない」

リボンズ「リジェネもそうさ。イオリア計画の実現が僕達イノベイターの存在意義」

リボンズ「些細なことなど……今更歯牙にかける必要もない」

プルツー「……」

プルツー「……相変わらず傲慢な奴」フッ

ポフッ

プルツー「もしもの時はあたしを動かせ……ちゃんとお前を勝たせてやる」

リボンズ「それが僕と君の契約だからね。プルクローン計画の成功者……二番目の名を冠した唯一無二のプルよ」

リボンズ(例えそれが、仮初めの肩書きだとしても……ね)

プルツー「……」


――ゲリラ基地――

ジンネマン「……」

クラウス「……」

ジンネマン「此処だ」ピッ

オォ……

クラウス「ネフェルに狙撃されてから一度目の変形……きりもみしながら落下する機体の機首を真下に向けた瞬間、か」

ジンネマン「四肢を広げジェットで減速しながらも、左手を失ったことによるバランスの悪化も調節している」

クラウス「まるでスカイダイビングだ」

ジンネマン「生憎フラッグやイナクトにゃ詳しくない」

ジンネマン「どうだ?」

クラウス「普通なら空中変形だけでも想定外、かつあんな状態からのは規格外です」

クラウス「これほどの被弾では、通常パイロットは早々に脱出を決めています」

ジンネマン「相当負けん気の強い、自身の技量に絶対の自信があるパイロットか……」

クラウス「……二回目です」ピッ

クラウス「高度300フィートでジェットを吹かしたまま反転、即座に機体を巡航形態に移行」

クラウス「この直後に他二体のフラッグがミサイル攻撃を敢行、それに呼応するかのように隊長機は地面すれすれを特攻……」

ジンネマン「そして弾幕による煙の壁の手前で三度目の変形、か」

ネフェル「……申し訳ありません。アグリッサと貴重な戦力を失いました」

ネフェル「現状責任を取るべきは私にあります。どうか部下には……」

ジンネマン「馬鹿言ってんじゃねえよ」

ネフェル「え……?」

ジンネマン「このフラッグが見せた空中変形を織り交ぜたコンバットマニューバ……これは今まで無かったものだ」

ジンネマン「如何に戦い慣れた傭兵といえど、コレに対応するにはまずどういうもんか知らなきゃならない。クラウスは先陣を切ったお前等を誉めこそすれ、処罰するような無能じゃない」

クラウス「はは……高く買われているようで何よりです」

ネフェル「……」ポカーン

ジンネマン「次の戦場に期待させてもらう、さっさと休め」

ネフェル「は、はっ!」ピッ

ネフェル「っ、つぅ……」

バタンッ

クラウス「まだ頭が痛むか、結構腫れてたからなぁ」

ジンネマン「例のガンダムのパイロットにやられた傷か……」

ジンネマン「こちらに無駄足を踏ませたタイミングといい、ネフェルを一撃で気絶させる腕前といい、悩みの種は尽きんな」

クラウス「全くです」

クラウス「……腕が立つなら、一度くらいは手合わせ願いたいものですが……」

ジンネマン「……」ギロッ

クラウス「うっ……」

ジンネマン(クラウス・グラード……コイツの腕前は相当なもんだが、それ故に前線に出たがる癖は何とか矯正せにゃならんな)

ジンネマン(大佐が欲しがる理由もよく分かる……コイツには優秀な指揮官になりうる才能がある)

ジンネマン(ライセンサーやガンダムからは、なるべく離さにゃならん……)

クラウス(何で今怒られたんだろう……?)

ビーッビーッ

クラウス「!」

ジンネマン「……」

ジンネマン「クラウス」

クラウス「? どうしましたキャプテン」

ジンネマン「この場所には、アフリカへと抜けるために続々と同胞たちが集結してくる」

ジンネマン「食うや食わず、物資もままならないまま追い回されて辿り着いた迷子みたいな連中だ……ろくに頭も働かないし、中には元々敵同士だった奴らも大勢いるだろう」

クラウス「……」

ジンネマン「そういう奴らは、頭のよく切れる賢い奴が上に立って纏めてやらにゃならん」

ジンネマン「俺達がそうであるようにな……」

ジンネマン「……」

ジンネマン「死ぬんじゃねえぞ。お前はやがて他の人間の上に立てる男だ」

ジンネマン「地べた這いつくばってでも生き延びろ……いいな」

クラウス「キャプテン……」

ジンネマン「行くぞ。敵を蹴散らして味方の退路を確保する」

クラウス「私のイナクトも出します。迂回して相手の腹を突いてやりますよ」

ジンネマン「任せる!」

           ・
                         ・
                         ・



――そして今――


グラハム「……」

変形を前提にしたコンバットマニューバはフラッグに劇的な戦果をもたらしている
対応しきれる兵士など殆どいない上に、目視した兵士は悉く潰してきた
もうオーバーフラッグスを止められる兵士など、敵側には殆ど残っていないだろう

グラハム(だが……)

それは国連軍も同じ事だった
GN-XとRGM部隊の性能ですら突破出来ないゲリラ側の最高戦力、【サイクロプス】の存在が戦場を完全に拮抗させていたのだ
優秀な兵士が大勢命を落とした先のガンダムとの戦い、今性能差以外でゲリラ側に優位を持った兵士が一体何人残っているだろう?
同種同性能の機体で歯が立たない以上、オーバーフラッグスとサイクロプス、いずれこの二つがぶつかるのは必然とも言えた

グラハム「……つっ」

疲れ果てた身体を起こし、汗を拭う
一回の出撃で殆ど余力の残らない現状、部隊を分けて先に一部を帰還させるなど幾つもの手は打ってみたが解決には至らない
先に引き上げさせたルドルフがまだシャワールームにいるのを見れば、結局は気休め程度の効果しか無いのは一目瞭然だった

グラハム「勝てるのか……?」

――誰かが死ぬ

そんな予感が痛めつけられた身体を這い上がる

ハワード・メイスンを失ったあの時の喪失感が、再びこの身に降りかかる
そう考えただけで膝の震えが止まらなくなる
こんなにも自分は弱い男だったかと思うほどに、胸が強く締め上げられる

グラハム「……ッ」

勝てばいい
勝つしかない
その為にイナクトの二人を新たに編入した、その為に新たな武装を手に、新たな戦術を練り上げてきた

グラハム「勝たねばならん……!」


……時を同じくして、ギラ・ドーガを駆るスベロア・ジンネマンもまた、グラハムと同じことを考え決意を新たにしていた
それを両者は知る由もない

二人のマスターが刃を交える瞬間、それは刻一刻と近付いていた


TO BE CONTINUED...


グッドマン「ま、待て! もうライセンサーは一人いる! これ以上の受け入れは……」

グッドマン「くそっ……切りおった」

兵士「司令、どうかなされましたか?」

グッドマン「……野獣が、来る!」



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