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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その33

2014年03月27日 17:52

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

755 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/09/23(金) 01:00:58.11 ID:lgEFb8UAO

爆炎が大地を灼き、黒色の炭塊と変わり果てたMSの残骸がそこかしこに転がっている

エジプトを背後に控えた、中東最後の激戦
一進一退の攻防が、ゲリラ連合と国連軍の間で繰り広げられていた

クワニ『クソッ、右見ても左見ても敵だらけだ!』

アイバン『馬鹿野郎、前見ろ前!』

連なる敵MSのうねりは地平線の先まで続いている
飛び交う砲弾と怒号、かろうじて逃げてきた味方のMSが流れ弾に当たり火花を噴きながら次々に地に伏していく
圧倒的な物量、逃げ場など何処にもない

ジンネマン「畜生がぁ!」

腹部を貫かれ動かなくなったGN-Xを盾のように使い、RGMの猛攻を凌ぐギラ・ドーガ
背後では脚をやられたヘリオンを抱え、アンフがゆっくりと退路をひた歩いている
粒子弾を吐き続けるGNビームマシンガンの銃口は、今にも溶けそうなほどに赤熱していた

デュバル「ヅダを嘗めるなぁ!」

対艦ライフルから放たれた135mmの弾丸が、盾を貫徹しRGMを胴体から真っ二つに吹き飛ばす
明らかなオーバーキル、RGM混成部隊の動揺は降り注ぐ弾幕の揺らぎで判別できた
猛攻に対する激しい抵抗、ジンネマン隊の活躍も加味され最終防衛ラインは小揺るぎもしなかった
しばらくして少しずつ弾幕が減っていき、やがて身を翻し撤退を開始するRGM部隊

これ以上の被害は無意味だと判断したのだろう
勝利と呼ぶにはあまりにも酷な結果に終わったこの戦い
だが多大な犠牲を払って、ようやく凌ぎきったのだった

ジンネマン「はぁッ……はぁッ」
756 :>>1 ◆/yjHQy.odQ [saga]:2011/09/23(金) 01:08:04.07 ID:lgEFb8UAO
肩で呼吸をし、吹き出す汗を拭う
モニターに写る友軍機は四機、どうやら宇宙組は全員生き延びたようだった

デュバル「キャプテン、どうにか正念場は乗り越えられたようだな」

ヅダは空になった弾倉を投げ捨てながら、モノアイをしきりに動かし警戒する
旧型規格とはいえ流石はGNドライブ搭載MS、その装甲に大きなダメージは見当たらなかった

ジンネマン「あぁ……だが、死んだよ。何人死んだか分からないくらい、沢山な」

デュバル「無償で何とか出来た戦場ではない……気に病むな」

ジンネマン「……」

デュバル「敵も大部隊だ、移動に時間がかかりしばらくは攻めて来まい」

デュバル「行こうキャプテン。我々も撤退だ」

ジンネマン「……そうだな」

ヅダが気を残すようにモノアイを上げた
空を見上げれば、黒い機影が禿鷹のように旋回し此方の様子を伺っているのが見える

ジンネマン「オーバーフラッグス……」

今回も散々戦場を引っ掻き回してくれた猛禽の群、しかしついぞ彼らと刃を交えることはなかった

クワニ『この激戦でも、一回もぶつかりませんでしたねアイツ等とは』

ジンネマン「分かってるのさ。俺達が真っ正面からぶつかれば、双方半数以上が確実に死ぬことをな」

ジンネマン「奇襲による完全勝利を狙うか……グラハム・エーカー、噂とは随分違う戦い方をする」

アイバン『厄介ですね』

ジンネマン「あぁ、いざという時まで自分を殺せる奴は強い」

ジンネマン「猪突猛進な方が付け入れるってもんだが……さて、どうしたもんかな」

ジンネマン「また考えるさ……今は、大佐からの指示を待とう」



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――――

ルドルフ『隊長! 例の新型です!』

ダリル『追いますか!?』

グラハム「マリーダ、各機のGNビームサーベルの粒子残量は」

マリーダ『アベレージ14……危険域です!』

グラハム「……」

グラハム「撤退だ。各機スタンドモードのまま奇襲に備えつつ後退しろ」

ジョシュア『俺達ぁまだ……!』

グラハム「反論は聞かんッ!」

ジョシュア『……くっ』

ヴィクトル『少佐、後方は此方で引き受けよう』

ヴィクトル『宜しいか、タケイ少尉』

タケイ『無論です』

グラハム「任せます。リディ、レオーノフ隊のルドルフと交代して警戒に当たれ」

リディ『了解です』

ルドルフ『チッ、またかよ』ボソッ

グラハム「二度は言わんぞ、無理をしてまたシャワー室でうなだれたいか」

ルドルフ『……了解……』

グラハム「その素直さは好感に値するな……なに、いずれ見返りはある」

マリーダ『マスター、通信繋げました』

グラハム「報告を頼む」

グラハム(……幾度と無く奇襲を試みては見たが、全てかわされてぶつかることは無かったか)

グラハム(敵の指揮官が上手いのか、フラッグの限界か……前者であると信じたいな)

グラハム「これより全機帰投する。スナイパーに注意しろ、最後まで気を抜くな!」

『了解!』

グラハム(今は我慢の時……か)

グラハム(部隊レベルでの戦闘……ワンマンアーミーでない戦場がこれほどもどかしく感じるとはな)

グラハム「だが、悪くない」

――――

国連軍とゲリラ連合の戦闘は、中東を西へ西へと移動する大規模な戦争へと変化していった
小国家程度ではゲリラ連合を足留めする軍事力も無く、ゲリラ連合も通り過ぎるのみで決して手出しをしないため、国連軍は追い切れていない現状を打開できずにいた

だが、誰もが謎を抱かずにはいれなかった

何故彼等は此処まで大規模に行動を起こし、アフリカを目指すのか……ということであった


――前線基地――

グッドマン「休暇、だと?」

グラハム「左様です」

グラハム「我々オーバーフラッグスは連日の出撃で疲弊しています。現状グッドマン司令の御命令で戦列に加わらせて頂いておりますが、これから大規模な移動でしばらく戦闘も起きないと判断してのこと」

グラハム「一度指揮系統から外していただき、部下達を休ませていただきたいのです」

グッドマン「ふん……まるで私が君達を酷使しているような物言いだな」

グラハム「その様に感じられたならば謝罪致します」

グッドマン「だが少佐の言うことにも一理ある……好きにしろ」

グラハム「はっ、ありがとうございます」

グラハム「では失礼……」

グッドマン「グラハム少佐」

グラハム「はっ?」

グッドマン「例のサイクロプスの被害は甚大だ。奴らの目的が分からないとはいえ、敵である以上、これ以上の損害は増やしたくない」

グッドマン「勝てるか?」

グラハム「それが、私達の仕事です」

ウィンッ

ビリー「や、グラハム」

グラハム「カタギリ」

ビリー「色好い返事は貰えたようだね」

グラハム「グッドマン司令は見た目に反して決断の早い人物だ、たとえ最善ではなくとも即断即決すべきという場面をよく知っている」

ビリー「うちの叔父さんにも近い思考回路の持ち主だね、思考の内容まで同じとは到底言えないけど」

グラハム「だがとりあえずの間を作ることには成功した、尚早すぎた部分を修正するには申し分ないほどの時間だ」

ビリー「パイロットの健康面……戦術とMSの噛み合わせ……新型の開発プラン……歪みはイヤと言うほどある」

グラハム「どうだ?」

ビリー「パイロットの健康面は問題ない。全員プロだ、データ上MSの操縦に支障が出た形跡も無い」

ビリー「だがこれから出ないとも限らない。アラスカ勤務のジョシュアは中東の高気温の環境に慣れていない様子だし、リディは秘密の特訓をまだ続けている」

グラハム「ダリルもだ。正直空中変形を取り入れたマニューバで隊員の意識に乱れが生じている」

グラハム「計画そのものが尚早すぎたのか、我々が未熟なのか。兎に角、今は何もかもを休ませて考えねば……」

『おや、グラハム少佐ではありませんか』

グラハム「!」

ビリー「あなたは……」

リント「ご無沙汰しております。先の戦闘でも多大な戦果を挙げられたようで」

グラハム「アーバ・リント少佐……此方こそご無沙汰しています」

リント「全く、旧型であれだけの活躍が出来るのです」

リント「GN-Xに乗り換えた後の戦果が楽しみで仕方ありませんよ……本当に」クックック

ビリー「……っ」

グラハム(カタギリ)

ビリー(大丈夫だ、このくらいならね)

グラハム「……どのMSに乗ろうとも、特務部隊としてライセンスに恥じぬ働きをするまでです」

リント「期待していますよ。ホントに……」

リント「そうだ、明日の2300にポイント5822で籠城するゲリラ達を襲撃するミッションがあるのですが……ご一緒にどうです?」

グラハム「お得意の殲滅戦、ですかな?」フン

リント「嫌いですか? 私は好きですよ……殲滅戦」ニヤァ

グラハム「お言葉は嬉しいですが、先ほど部隊に休暇のお許しを頂いたばかりでね」

リント「ほう」

グラハム「一足早く羽休めとさせていただく」

リント「それは残念、少佐に戦術の何たるかをお見せしたかったのですが……またの機会に致しましょう」

グラハム「その機会を楽しみにさせていただきますよ……アーバ・リント少佐」

リント「リントで結構ですよグラハム・エーカー少佐……ではまた」

コツコツコツ……

ビリー「くそっ……いやみったらしい」

グラハム「おおかた戦場で成り上がった私が気に入らないのだろうさ、よくあることだ」

ビリー「前線で現場を指揮する君に、後方から戦術予報する彼のような人物が目くじらを立てるなんて……ナンセンスだよ」

スタスタスタ

グラハム「先週私が独自判断で包囲殲滅を制圧戦に変えたのが、よほど腹に据えかねたのかもしれん」

ビリー「皆殺しを戦術と名乗るなんて……おこがましい」

グラハム「それくらいにしておけカタギリ、いちいち気にしていては身が持たん」

グラハム「休暇が取れたんだ、私は明日ミーナ女史の提案通りスイール王国にまで足を伸ばすつもりだ。お前も来い」

ビリー「……そのことなんだけど、僕は遠慮しておくよ」

グラハム「何?」

ビリー「さっき言いそびれたけど、正直エイフマン教授の草案を元にしたGNフラッグの完成案が全く進まなくてね」

ビリー「データは揃ってるのに、僕だけが足踏みじゃあ……君達フラッグファイターに申し訳が立たないんだ」

グラハム「……気にするな、とは言わん。お前が其処まで言うのなら私から彼女に話しておこう」

ビリー「ありがとうグラハム、後で僕の口からも済まないと伝えておくよ」

グラハム「根を詰めすぎてもよくはならんぞカタギリ、ほどほどにな」

ビリー「ほどほど、か。君には似合わない言葉だね」

グラハム「放っておけ……では」

ビリー「あぁ。また明日」


――MSドッグ――

ルドルフ「…………」

ヴィクトル「よう」

ルドルフ「! 大尉」

ヴィクトル「隣、邪魔するぞ」

カンカンカンカン……

『バーニアの点検、昼飯までには済ませとけよー!』

ルドルフ「……」

ヴィクトル「……聞いたぞ。整備班の連中とやり合ったそうじゃないか」

ルドルフ「耳がお早いですね、大尉」

ヴィクトル「向こうから泣きつかれたんだ。お前がつっかかってくるから何とかしてくれってな」

ルドルフ「チッ」

ヴィクトル「俺から見ても、少し尖りすぎじゃないか? お前らしいといえばお前らしいがな」

ルドルフ「ッ、イナクトは今のままの武装でも十分戦えます!」

ルドルフ「あんな……トライデント何とかなんて装備しなくても……」

ヴィクトル「ハァ……」

ヴィクトル「トライデントストライカー、ありゃ良い武器だぞ。速射性に優れた小口径弾で弾幕を張りつつ、チャージした高速大口径弾を叩き込む……大型化して初めてバリエーションが持てるイナクトには無いものだ」

ヴィクトル「機動力を馬鹿ほど上げた今のイナクトなら十分使いこなせるだろう、ルドルフ」

ルドルフ「使いこなせるかどうかじゃない、フラッグの武器だから嫌なんです」

ルドルフ「整備班の連中には矜持ってもんが無さ過ぎる……自分達から余りのトライデントストライカーを譲ってくれなんて……」

ヴィクトル「……ふぅむ」

ヴィクトル「整備班の仕事は、俺達が生きて帰れるようイナクトを万全に仕上げることだ」

ヴィクトル「彼等は技術を以てそれを為している、俺達だって優秀な技術を持ってる奴らがいたら真似するだろう。それと同じだ」

ヴィクトル「お前さんがグラハム・エーカーの技術を何度も真似して会得したようにな」

ルドルフ「ッ……それは……」

ヴィクトル「お前の友人の整備士な、泣いてたぞ。よかれと思ってやったのにってな」

ヴィクトル「後で謝っとけ。人の好意を無碍にする奴は独りになるぞ」

ヴィクトル「独りは……辛いもんだ」

ルドルフ「……大尉が、そうおっしゃるなら」

ヴィクトル「素直になれねえ奴だな……まぁ、いいや」

ザッ

ヴィクトル「ルドルフ、俺達の次の相手は【サイクロプス】だ。トライデントストライカーの主砲のストッピングパワーなら、奴らに効かないまでも動き位は止められるだろう」

ヴィクトル「性能差は戦術と技量でカバーだ、決め手は任せるぞ」

ルドルフ「はっ!」ビッ

ヴィクトル「その意気だ」

ヴィクトル「しっかり休めよ、マスターさんが決戦を見越して休暇を全員に取らせたんだ」

ヴィクトル「連中にくっついて街にでも行けばいい……旨いもんでも食って英気を養え」

ルドルフ「女連れにくっついていく度胸なんかありゃしませんよ」

ヴィクトル「若い奴が寂しいことを……良い女揃いじゃないか」

ルドルフ「手を出したら殺されるか宙づりにされるか狙い撃たれるビジョンしか見えませんね」

ヴィクトル「それは……うん」

ヴィクトル「だがいいなお前は……イナクトにそこまで入れ込めるんだから」

ルドルフ「当たり前じゃあないですか、我が軍の最新MSですよ!」

ルドルフ「それじゃ……大尉は何とも思わないんですか?」

ヴィクトル「ん~、お前には分かってほしくないなぁ。この感情は」ハハハ

ヴィクトル「……自分が頼りにしていたMSが味方を殺す……あんな思いはあれっきりで十分だ」

ルドルフ「は……?」

ヴィクトル「……風が強くなってきたな」

ヴィクトル「嵐にはならんだろうが、嫌な風だ」スッ

ルドルフ「……大尉……?」

ヴィクトル(……お前は今どこにいる)

ヴィクトル(ヤザン……)

――――

ジョシュア「…………」

ダリル「おい、ジョシュア」

ジョシュア「んだよ」

ダリル「せっかく隊長が合間を縫っての休暇をくれたのに、休憩室の長椅子でトドみてぇに寝転んで……」

ダリル「少しは外出てリフレッシュしてこいよ、何なら隊長達について街に来るか?」

ジョシュア「馬鹿言え……そんな暇があんなら俺は寝る」

ダリル「せめてこっち向いて会話しろ」

ジョシュア「首を動かすのも面倒だ」

ダリル「まぁ……しょうがないか。聞いたぞジョシュア」

ジョシュア「何をだよ」

ダリル「一昨日の健康診断、体重が大分落ち込んだらしいじゃねえか」

ジョシュア「……」

ダリル「お前だけじゃなく、部隊全体での話ではあるがな」

ダリル「マニューバを実践する側の奴らはもとより、それについていくだけですら負担が大きい。只でさえ装甲を薄くしたフラッグだ、弾幕に飛び込んでいくのに掠ることさえ許されない緊張状態を強制されちまう」

ダリル「……やはり、このままオーバーフラッグだけでこの戦術をこなすのは……」

ジョシュア「ふぁ~……」ゴロン

ジョシュア「相変わらず泣き言ばかりいいやがる、お前は成長しねえなダリル」

ダリル「ジョシュア!」

ジョシュア「だからこそ、隊長殿ご一行のショッピングに技術顧問殿は参加しないんだろう?」

ジョシュア「アイツぁ女に弱くて融通も利かねえ世渡りベタだが、やるときはやる」

ジョシュア「任せろよ、あれでもプロフェッサー・エイフマンの一番弟子、我らの隊長の盟友だ」

ダリル「だがよ……」

ジョシュア「無駄に心配してねえでお前こそ休んどけ、グラハムマニューバの練習で実戦が疎かになったらこっちがたまんねえ」ゴロン

ダリル「!」

ジョシュア「知らねえと思ってたならお前はリディと同レベルだ」

ダリル「……」

ジョシュア「お前にゃお前の役割がある、今更無理すんじゃねえよ……っと」

ダリル「……ッ!」

ガンッ

ジョシュア「どわっ!?」ドサァッ

ジョシュア「いっつつ……」

ダリル「……」

ジョシュア「何しやがるダリル! いきなり椅子蹴る奴が……」

ダリル「俺だってなぁ……」

ジョシュア「!」

ダリル「俺だって空中変形さえ出来りゃ……隊長の隣で戦いてえんだ!」

ダリル「俺は……俺は!」

バタンッ
ドタドタドタ……

ジョシュア「……ダリル……」

――――

『やーやー、久しぶりだねタケちゃん』

『いやぁ参ったもんだね。オキナワのアホウドリなんて呼ばれてた俺も、今では【鋼鉄のカウボーイ】だもん』

『あの時の勝利の女神が微笑み始めたかな? ほら、以前話した俺より背の高いボインの女の子』

『まぁカウボーイの異名も、【首斬り雀のタケイ】に比べたら優しい方かな? ……悪かった、悪かったって! もう言わないからさ、そんな怖い顔しないでくれよ……』

『でもあの時期に比べたらだいぶ顔つきが丸くなった? 太ったって意味じゃなくて、一応』

『やっぱりグラハムさんが良いのかね……いつかはまた一緒に飛びたいもんだ、うん』

『おっと……出撃の時間だ。じゃ、またねタケちゃん。今度は出来れば戦場以外で……例の赤毛のボインちゃんの情報、送っておいてね』

ピッ

タケイ「……タケちゃんは止せと言ったろうに、アイツめ」


――女子更衣室前――

男子禁制の聖地とも言える、女子更衣室
女性パイロットのいないこの基地では、普段の使用もマリーダくらいしかいないらしい

リディ「……こんなところにいて良いんですかね、隊長」

グラハム「何がだ?」

リディ「何がって……女子更衣室の前ですよ」

リディ「いくら今は貸切状態だからって……視線が……」

今は基地に近いスイール国の都市に外出する為、ミーナ、フェルト、マリーダの三人が中で準備をしている
男二人、軍服ではない私服で立つ姿は兄弟のようにも見えた

グラハム「……」ハァ

グラハム「リディ、お前は以前私に言ったな?」

グラハム「【生まれや家柄に関係無く、パイロットとしての自身を見せる】……と」

リディ「はぁ」

グラハム「だったら他者の眼や他人の風評になど踊らされるな。そんなもので立ち位置を決めるような生き方は、いずれ居場所を無くすぞ」

リディ「……そんなものですかね」

グラハム「そんなものだ」

リディ「…………」

グラハム「……」

会話は歯切れも悪く、長続きせずに失速し停滞する
リディが乗り気でないのを無理やり引っ張ったのはグラハム本人であった

理由は一つ

放置すれば、リディはまた隠れてハードトレーニングを行ってしまうからである

グラハム「……」

リディがこの一カ月間、特別な成果を上げていないことに対し、特に思うことなどなかった
そうさせているのは自分だし、リディはまだ若い。戦果を意識させるような育成が功を奏すとも考えられない

だが周囲は予想外にリディへと期待の眼差しを送っていて、比例するかのように失望の声を上げていた

リディ「……もう少しなんです」

グラハム「ん?」

リディ「もう少しでグラハム・スペシャルのコツが掴めそうで、きっと次の実戦には間に合わせられるから……」

リディ「だから……こんなところで油売ってなんか……」

グラハム「……」フゥ

優秀な操縦技術に冷静な観察眼、不測の事態に対処しうる精神力に加え野心という名の向上心と度胸も持ち合わせている
これでまだ二十歳を一年過ぎた程度、まだ危なっかしいがオーバーフラッグを十分乗りこなしてもいる
この若い戦士の成長はまだまだこれからであり、長い目で見てやるつもりであった

グラハム(だが……私が直接指名したのが悪かったようだな)

実際、ジョシュアが「戦果を出せ」と発破をかけたのがハードトレーニングに拍車をかけた要因だった
ダリルとタケイ、ビリー・カタギリらは真意を汲み取り過度な期待をかけたりはしていない
最近はマリーダも訓練中には落ち着いた対応を見せてくれている
だが野心家のジョシュアやオーバーフラッグスを見てきた整備班はそうもいかなかった
リディにグラハム・エーカーの再来を見て、もっともっとと期待する
重荷を背負わせたのは自分だ。手が届くと思わせてしまった自分だ
そう愚痴をこぼし、マリーダに「傲慢だ」と怒られたのは、昨日の話である
元々上院議員の息子という肩書きで浮いていた上に、ただでさえ目立つグラハム・エーカーの直接指名での抜擢が完全にリディを槍玉に上げていた

失敗だった。私としたことが、と後悔しても後の祭り
下手に動けばきっと状況は悪化する、そういう段階にまできてしまっていたのだった

グラハム(押し潰されなければいいが――)

焦りを見せるリディの横顔を見ていると、妙な気分に陥る
ユニオン史上最高のトップガン、父代わりの英雄の背中に追いつかんと必死になっていた、かつての自分を見ているような
そんな恥ずかしさの入り混じる、少し懐かしい気分に

グラハム「いいかリディ」

リディ「はい?」

グラハム「私はお前を気に入っている。だから……」

リディ「も、申し訳ありませんがその様な趣味はありませんッ!!」

グラハム「……歯を食いしばれ」ピキッ

兵士としても、男としても、きっと良いパイロットになる
気長に育てよう。そう改めて心に誓った


――その頃更衣室――

フェルト「ちょ……ちょっとヒラヒラしすぎじゃないですか?」

マリーダ「ミーナ女史……この様な露出度の高い服装は少々」

ミーナ「何よ~二人とも恥ずかしがり屋なんだからぁ」

ミーナ「素材は良いんだからちゃんとキメていかないともったいなさすぎよ?」

フェルト「素材って……」

マリーダ(……付いていけん)

シュル……

フェルト(……)

マリーダ「……少しキツいか」ジジッ

ミーナ「肩こるぅ」トントン

フェルト(何だか……敗北感が凄い)

フェルト(でもこのノリ、少し懐かしいな……)

『ほらフェルト、この水着なんか似合うわよ? ねえクリス』

『はいスメラギさん! やっぱりフェルトにはカワイイ系だよね~』

フェルト(……っ)

フェルト「……?」

フェルト「マリーダさん」

マリーダ「どうした、フェルト」

フェルト「その鳩尾辺りの傷……どうしたんですか?」

マリーダ「ん、あぁこれか」

マリーダ「新型のガンダムが初めて現れた戦場で……ガンダムに撃墜されてついた傷だよ」

フェルト「!」

フェルト「スロ……新型の、ガンダム……」

ミーナ「んしょ、グラハムを庇って付いた傷よね確か」ヌギヌギ

ミーナ「脱がない限り見えないとはいえ、やっぱり女の子に傷は結構目立っちゃうわね……」

マリーダ「傷は兵士の勲章です。マスターを守って付いた傷ならば尚更、私は何も恥じるつもりはありません」

フェルト「……」

ポンッ

フェルト「あ……」

マリーダ「心配してくれるのは嬉しいが、過ぎたことだ」

マリーダ「これから気晴らしにいくというのに、そんな顔をしていたら福が逃げるぞ」

ミーナ「フェルトは笑っていた方が断然可愛いもの、ね」クスクス

フェルト「……ありがとう、ございます」フッ

ミーナ「もうっこの可愛い生き物め!」ギュゥゥゥ

フェルト「ひゃっ!?」

マリーダ「……」

マリーダ(まだ少し固さが残るが打ち解けてくれたようだ)

マリーダ(これならいずれ彼女の秘密にも……)

フェルト「ふぁっ……ミ、ミーナさん!?」

ミーナ「うふふ、若いって良いわねぇ。肌のハリが違うわ……食べちゃいたいくらい」

フェルト「んぁ……そこ……だめぇ……っ」

マリーダ(無理かもしれない)

マリーダ「はぁ……ミーナ女史、もうそのくらいに」

ミーナ「残像よ」ヒュボッ

マリーダ「!」

マリーダ(いつの間に背後に……この私が目で追えなかった!?)

ミーナ「ふふふ、白衣という名の拘束具を外した私に勝てると思わないことね」

ミーナ「形・重量・ハリ……共に完璧なそのバスト」ツンツン

マリーダ「っ!?」

ミーナ「うっすら腹筋が浮かび上がり、それでいて肉付きもちょうど良い抱きつきたくなるようなウエスト」

ミーナ「そして腰からつま先に到るまで、究極的なラインを形成するそのヒップ……!」

マリーダ「ッ!」バッ

ミーナ「全て頂こうと言うのだよ! このミーナ・カーマインがぁぁぁぁ!!」ガバァッ

フェルト「マリーダさぁん!」

マリーダ(本気を出さねば……負けるっ!)


――車内――

ブロロロロ……

グラハム「……」

リディ「……」

フェルト「……////」

ミーナ「ふっ、完敗だわ」ボロッ

マリーダ「マスター……申し訳ありません」ボロッ

グラハム「お前達のキャットファイトで四十五分、女子更衣室の前で待たされ衆目の冷たい視線に晒され続けた事に対する謝罪ならもういい」

リディ「そうっす、もういいっす」ムスッ

フェルト(絶対根に持ってる……!)

ミーナ「なぁによ、器の小さいことを言う」

グラハム「私は我慢弱い」

グラハム「激戦の合間を縫っての休暇、あまり時間は無駄にしたくないだけだ」

マリーダ「……」シュン

グラハム「……だが、休暇はまだ始まったばかりでもある」

グラハム「挽回の機会は与えるさ。私を満足させてみせろ、マリーダ」

マリーダ「! あ、ありがとうございます!」

リディ「お甘いことで」

グラハム「女の遅刻と嘘は許す。男の義務だ、覚えておけリディ」

リディ「どちらも縁遠そうで羨ましいですよ隊長」

グラハム「あぁ……私は幸運だ。この上ないほどにな」フッ

リディ「……」

タケイ「……」ガタンッ

リディ(タケイさんが運転するんだ……)

グラハム「さぁ、見えてきたぞ」

グラハム「楽しくなってきたな……全く!」


――ゲリラ基地――

ジンネマン「クラウス、どうだ?」

クラウス「バディクラフトの被弾が激しすぎますね。少なくとも出撃にはドッキングを解除しないと……」

ジンネマン「そうか……」

ジンネマン「バディが無いならしばらくはお休みだ。雑務に専念しとけ」

クラウス「……はい」

ジンネマン(前に出過ぎていた矢先にこれか、ある意味運の良い奴だな)

カンカンカンカン

ジジジ…

ジンネマン「何とか凌いではみせたが、やはり散々だな」

クラウス「はい……無事な機体を探す方が大変です」

クラウス「各地から集結した部隊はどれも国連軍との交戦により損傷、修理も物資不足人手不足で間に合いません」

クラウス「最悪パーツを抜いて投棄も考えています。人を積むスペースは残さないと……」

ジンネマン「MSも必要だが一番貴重なのは人材だ、正しい判断だよそれは」

クラウス「甘いだけです……命の取捨選択は、どうしても手が震える」

ジンネマン「最初はそんなもんだ。他人の命を預かっておきながら、迷いもせずいきなり即断する奴などいやしない」

ジンネマン「ネフェルは……あぁ確かアフリカのPMCから送られてきたアグリッサの受け取りに向かったんだったな」

クラウス「疑似太陽炉と接続したテストタイプでしたね、無事に着いていればいいですが……」

ジンネマン「間に合えば戦力になる。MAを動かせるのはうちじゃ俺とお前、ネフェルくらいだからな」

クラウス「間に合えばですけどね……タイミングがシビアすぎます。勘定には入れられませんよ」

『おい、何だこの飯は!』

『死に物狂いで合流したと思ったらこれかよ、ふざけてんのか!?』

ジンネマン「!」

クラウス「あいつら、また……!」

ジンネマン「何処の所属だ、PMCか」

クラウス「フランス外人部隊所属第四独立騎兵連隊……と名乗ってましたが、恐らくはPMC、それも裏の部隊です」

ジンネマン「ネフェルの言っていたハイエナ共、ということか」

クラウス「えぇ」

クラウス「本来ならあんな奴らを引き入れたりはしないのですが……状況が状況です」

クラウス「各部隊の軋轢にならないよう監視だけは強化してますが……コソコソされたらこっちも目が届かなくて」

ジンネマン「……獅子身中の虫にならなければいいがな」

クラウス「その場合は私が何とかしてみせます」

ジンネマン「気を逸らせるなよ、汚れ仕事は後々に響く」

クラウス「覚悟くらい……してますよ」

ジンネマン「つまらんことにその覚悟とやらを割くなと言っとるんだ」ザッ

ジンネマン「要らん輩に構い過ぎて時間を使いすぎたのでは……」

フラスト「キャプテーン! ちょっと良いですかー!」

ジンネマン「……続きはまた後だな」フン

クラウス「はい、また後ほど」フフッ

ジンネマン「今行く!」

ジンネマン「どうした?」

フラスト「アフリカの先遣隊が準備に入りました、受け入れ対象の選別を始めたいとのことです」

ジンネマン「良い知らせだな」

フラスト「選別が問題です。部隊所属だけで判別するのは……」

ジンネマン「その辺はクラウスやPMCの一部に任せているさ」

ジンネマン「本来歴史上では駆逐されうる存在を生かすんだ……ある程度のあぶれは仕方あるまい」

フラスト「そう、ですね」

ジンネマン「期限までまだ少し猶予がある。いくら国連軍が軍備を増強しようが、上がっちまえばこっちのもんだ」

ジンネマン「だからこそ、【袖付き】に付き合ってくれる奴らは余さず大佐に届けたい。索敵、引き続き任せたぞ」

フラスト「了解、ですがキャプテンも無理しないでくださいよ」

フラスト「貴方に倒れられたらジンネマン隊は総崩れだ、クラウスに入れ込むのも分かるが、医者の不養生なんて笑えませんぜ」

ジンネマン「なぁに、腐ってもスベロア・ジンネマン。まだ若い連中にゃ負けねえよ」

フラスト「その意気だキャプテン、頼りにしてますぜ」

ジンネマン「お前もな、はっはっは!」

ジンネマン(……このまま奴らとは戦わずに終わりたいもんだがな)

ジンネマン(ガンダム、オーバーフラッグス……足元はまだおぼつかんか)


――スイール――

マリーダ「……」パクッ

スイール王国
石油禁輸出規制による中東諸国の疲弊に反し、レアメタルと情報産業を軸に繁栄した中東最大の国家である
その先見力と国力から苦しい立場にある中東のリーダー的存在でもあり、解体に応じたPMCの一部を買い取り軍事力として配備しAEUの非難を浴びるなど、後々の憂いとして挙げられる国家でもあった

グラハム「我々が集結したテロリストを追撃する上で、中東諸国の反発がこの程度で済んでいるのはスイール王国のお陰ともいえる」

フェルト「スイールが周りの国に働きかけた……?」

グラハム「理由は様々だ。国連にはAEUにPMC問題を黙ってもらうよう口添えをさせたようだし、各地から集結する非アラブのゲリラを牽制する意味合いも多分に含まれているだろう」

マリーダ「……」パクッ

リディ「利益があるから反発しなかっただけで、国連と仲良くしてくれる訳じゃないんですね……」

グラハム「国家は微妙なパワーバランスにより成り立っている。僅かな判断ミスで何十億ドルの損失を生み、国民の誰かが少なからずその被害を受ける」

グラハム「当然の判断だ。テロリストを腹の中に蓄えようとしないだけ遥かにマシだよ」

マリーダ「…………」パクッ

ミーナ(マリーダ……アイスばっかり食べてる……)

ビュッフェ形式の近代的なレストラン、色とりどりの料理を小皿に分け皆舌鼓を打っている

ミーナ「ほらマリーダ、そればかり食べてないで! フェルトも行きましょ!」

フェルト「あ……待ってくださいよミーナさん!」

マリーダ「……やれやれ」カチャン

はしゃぐ女性陣を見つめながら、静かに食事を取る男性陣
中東特有の濃厚な珈琲に眉をしかめながら、ゆっくりと過ぎる安息の時間に羽を休めていった

リディ「でもだからこそなんでしょうね……街並みだけ見たら先進国にも引けを取りませんよ」

グラハム「……そうだな」

グラハム「だからこそ、戦いたくないものだ。この国とも……中東とも」

リディ「え……」

タケイ「……」

グラハム「何だ、苦い珈琲は嫌いか?」

リディ「何も言ってないじゃないですか……」

リディ「それにガキ扱いしないでください、ブラックくらい飲めます」

グラハム「無理をしてでも飲むのが大人だと思っている時点で子供だ」

リディ「う……」

グラハム「何を入れて飲んでも良い……珈琲一つとっても自由を楽しめるのが、大人の特権だよ」

タケイ「……」ダバダバ

リディ「タケイ少尉……それじゃカフェオレですよ」

タケイ「苦いのは嫌いだ」

リディ(喋ったッ!?)

グラハム「私はMSWADの珈琲に慣れてしまったからな……ブラックが一番合う」

グラハム「しかし旨いな。あの基地の珈琲とはいったい何だったのか……なぁタケイ」

タケイ「……」フッ

リディ「意外、ですね」

グラハム「何がだ? 私がブラックを好むのがか」

リディ「戦いたくないなんて言うことが、です」

リディ「もっと隊長は戦いたがりのバトルマニアみたいな……そんな印象がありましたから」

グラハム「私だって人の子さ。軍人は戦いを忘れられない生き物だし、私達は誰かの命を奪うことでしか自己実現出来ない存在だ」

グラハム「だからといって常に戦い続けられる訳ではない。それに我々が暇なくらいが、平和という一つの形でもあるのだからな」

タケイ「……」ゴクゴク

リディ「……隊長は、軍人がいるから戦争が無くならないとお考えですか?」

リディ「軍人なのに……そんなの不自然ですよ」

グラハム「軍事力の完全放棄が平和に繋がると言えるほど、私は夢想家ではないよリディ」

グラハム「ただ……消えていく命にも意味があり、これから産まれてくる命、育ち行く命の糧になっていると考えているだけさ」

リディ「無意味に死ぬ命は無い……?」

グラハム「そう考えでもしないと、軍人という生き物はあまりにも悲しい存在だ」

グラハム「奪った命の傍ら、より多くの命が育まれていく。それが死の意味になるなら、私は十分さ」

リディ「数の問題なんですかね……」

グラハム「それはまた違うがな。効率論では語れまい」

グラハム「私は……」

ミーナ「あぁっ! もうこんな時間じゃない!!」

グラハム「!」

言葉を続けようとしたグラハムの手を取ったのは、ミーナ・カーマイン
話の腰を折られたにも関わらず、グラハムは僅かに安堵したような表情を見せた
――それに気付いたのは、マリーダとリディだけであった

ミーナ「メインイベントが待ってるわ、急がなきゃ」

グラハム「何だミーナ、もうショッピングか? 私が言えた義理では無いが、カタギリがいないからといって少々急ぎ過ぎのではないか」

ミーナ「ふふん、何を言ってるのかしらねえマリーダ」

マリーダ「はい女史」クスッ

グラハム「違う、のか?」

フェルト「私も……ミーナさん達に一任していたから行き先までは」

グラハム「……説明を要求しよう。これは君達の主催したドライブだ」

グラハム「行き先の分からぬフライトは嫌いではないが、理解するに越したことはあるまい」

ミーナ「ならば早く支払いを済ませなさい少佐、迅速な行動はパイロットに必要不可欠よ」

グラハム「だから説明を……!」

ミーナ「百聞は一見に如かず、でしょ?」

グラハム「……良かろう……!」

タケイ「」ムシャムシャ

リディ「何だぁ……?」

ミーナ「リディ少尉も急ぎなさい」

ミーナ「楽しいわよきっと、貴方達はね」

マリーダ「……」パクッ

フェルト「やっぱりアイスなんですね……」


――人革連・東南アジア基地――

セルゲイ「……グラハムがその様なことを……」

マネキン『部隊レベルで多大な戦果を上げ、中東戦線戦力の中核を担っているとの事です』

マネキン『ですが……』

セルゲイ「マリーダ・クルスから送られてきた資料は見させてもらった、私から見ても彼女の不安は的中していると言えよう」

セルゲイ「あの馬鹿者め……焦りおったな」

マネキン『それで実際にはどの様な処遇が?』

セルゲイ「容疑こそ浮かんだが、確固たる証拠も無い以上奴が懸念したようなことにはならないだろう」

セルゲイ「そうでなくとも既に故人、グラハムの技量もあったとはいえ、ガンダムに対抗しうるMSの基礎を生み出し、それをどの様な形であれユニオンにもたらしたのだ。不問にもなろう」

マネキン『そうですか……妥当な判断ですね』

セルゲイ「とにかく、私もこれで現場復帰が可能になるというものだ」

マネキン『では?』

セルゲイ「うむ。完成したティエレン全領域対応型のみで編成した新・頂武、大佐の手に委ねよう」

マネキン『有り難い限りですスミルノフ大佐、これで中東戦線はもはや盤石と言っても過言ではありません!』

セルゲイ「宇宙のGN-X隊に配備されたピーリスも、出来ればグラハム達に逢わせたかったが……」

マネキン「……軍の命令とあらば致し方ありません」

セルゲイ「キム司令には便宜を図ってもらえるようお願いしているが……大丈夫かな」

マネキン「彼女は強い子です。大丈夫ですよ、きっと」

《地球で生まれ育った、すべての人類に報告させていただきます》

セルゲイ「ん……」

マネキン『どうか致しましたか?』

セルゲイ「広域通信傍受に何処かのラジオ番組のものがひっかかったようだ」

《私たちは、ソレスタルビーイング。
モビルスーツ・ガンダムを所有する、私設武装組織です》

セルゲイ「……ソレスタルビーイングか」

マネキン『サイクロプスを所有する謎の勢力も、彼等と繋がりが有るのでしょうか?』

セルゲイ「どうかな……だが、そうだとしても我々が為すべきことはこれからも一つだ」

セルゲイ「ソレスタルビーイング……未来の為に必要悪を為す存在か」

セルゲイ「我々とは真逆、それ故に相容れぬのかも知れんな」

マネキン『真逆……』

《地球で生まれ育った、すべての人類に報告させていただきます》

《私たちは、ソレスタルビーイング。モビルスーツ・ガンダムを所有する、私設武装組織です》


――スイール王国・イベント用広場――

西暦2308年、18m級の鉄騎【モビルスーツ】が戦争の主役となり、五十年に手が伸びようというこの時代

グラハム「おぉぉ……!」

地上から空を見上げる見物客の視線の先には

リディ「あぁ……!!」

骨董品を通り越し、もはや化石とさえ呼べそうな存在
【複葉機】が風を切り、雲の合間を舞っていた

グラハム「リディ・マーセナス!」

リディ「はい! あれはフォッカー Dr.I、第一次世界大戦の英雄【レッドバロン】マンフレート・フォン・リヒトホーフェンが搭乗していた複葉機です!」ムフー

グラハム「なんと……今から四百年近くも前にあの飛行機が空戦の主流だったというのかッ!」

リディ「知らなかったんですかッ!? 元祖エースパイロット! 隊長のご先祖様ですよ!」

グラハム「私にドイツ人の血は流れているのかな!? だが見ろマリーダ、あの軽やかな旋回! 三枚の翼が風をすり抜ける雄姿!」

グラハム「あぁいいなぁ……本当に気持ちよさそうだ……!」

マリーダ「はい、マスター」

グラハム「この感情……!」

リディ「まさしく愛ですッ!!」

グラハム「ははは! 全くだ! 愛以外の何者でもない!」キャッキャッ

ミーナ「予想以上にガキね」ボソッ

フェルト「ミ、ミーナさん……」

リディ「隊長、パイロットが手を振ってますよ!」

グラハム「何と! ええい、あわよくば代わってもらいたいものだ! なぁマリーダ!」

マリーダ「はい、マスター」

グラハム「何とかして代われんものか……えぇい、あのパイロットが憎くさえ感じる!」

リディ「男のジェラシーですね隊長!」

グラハム「あぁジェラシーだ!」

リディ「見苦しいですね!」

グラハム「あぁ見苦しい!」

マリーダ「……」ガクッ

ミーナ「訳分からんわ……」ハァ

フェルト「二人とも興奮しすぎて我を忘れてますね、まるで子供みたい」クスクス

ミーナ「グラハムは元々あんな感じなのよ。いつもはすかしたナルシスト気取ってみても、根っこは我が儘な子供そのまんま」

ミーナ「いざ来ては見たものの暇ねえ……グラハムが素に戻れているから別にいいけどぉ」カランッ

フェルト「ミーナさん、最初からグラハムさんとリディ少尉をこのイベントに誘い出すためにこのドライブを企画したんですね?」

ミーナ「本当はビリーも誘いたかったのが本音なんだけどさ……グラハムが落ち着けばきっとビリーにも良い影響になるでしょ」

ミーナ「只でさえ例の件でやたら気を張ってたから……ね」

フェルト「例の件……サイクロプスですか?」

ミーナ「ん~ん、もう一つの方よ」フルフル

フェルト「もう一つ……?」

フェルト「……でも、男の人って何でああ言うの好きなんでしょうね」

ミーナ「浪漫ってやつ? 私は元々宇宙物理学専攻だし、そういうの判らないわけじゃないけどねぇ」

ミーナ「それでもあたしのは、将来的に人類の宇宙進出は近いと見越した上での専攻だし……打算無しに彼処までのめり込むのは無理ねえ」

フェルト「それにしても……こんなイベント、よく見つけましたね」

ミーナ「誰かさんからのリークよ。グラハムとリディにピンポイントのイベントがあるってね……」

ミーナ「あたしらにはつらいイベントだけど、午後からのショッピングにはしっかり付き合ってもらうし、まあいいんじゃない?」

ミーナ「ねえタケイ少尉?」

タケイ「……」ペコリ

ミーナ「気にしないで頂戴、互いの利害が一致しただけなんだから」

ミーナ「……ただまぁ、マリーダにはごめんなさいしないといけないわね」

フェルト「グラハムさんのお守りが出来るのはあの人だけだから……アハハ」

マリーダ「……」

マリーダ(何がいいのか全く分からん……が)

マリーダ(マスターが満足されているなら、それでいいのかもしれない)

グラハム「帰ったらカタギリに頼んでフラッグを出してもらうか……」

マリーダ「マスター、その時は」

リディ「お供しますよ、隊長」

マリーダ「!」

リディ「勿論マリーダ中尉も、でしょう?」

マリーダ「……当たり前だ!」

グラハム「ふふっ……」

空中を優雅に舞う複葉機、フォッカー Dr.I
かつて愛機として操ったエースパイロットの異名の如く、イベント用のそれは赤く塗り替えられていた

ミーナ「そういえば……二百年くらい前にも赤の異名を持つ軍人がいたわね」

フェルト「【赤い彗星】シャア・アズナブルですか?」

ミーナ「そうそう、シャア・アズナブル」

ミーナ「宇宙移民政策がつい最近だったってのに、あの頃の段階で既にスペースノイド政策とジオニズムを提唱していた時代の寵児」

ミーナ「軌道エレベーター計画が少しでも遅ければ、人類の宇宙進出は今より百年以上早く行われていたでしょうね」

フェルト「……パイロットとしても活動家として活躍した伝説の男……シャア・アズナブル」

フェルト「太陽光紛争時に、宇宙移民からテロリストになった人々がジオニズムを掲げ地球に反発していましたけど……」

ミーナ「あら、詳しいわねフェルト」

フェルト「た、たまたまですよ……」

ミーナ「シャア・アズナブルは宇宙に適応した人類の革新が、新たな未来を切り開くと当時から予言していた人物でもあるの」

フェルト「人類の革新……それって」

ミーナ「ニュータイプ……その名称こそ最近になって使われたけど、初めて世に出たのはシャア本人の口から発せられた言葉からよ」

ミーナ「逢ってみたかったわね……もしかしたら彼もNTだったのかも」


――時を同じくしてポイント5822――

廃棄された基地が火の海に包まれ、MSの機影が沈みかけた夕日に照らされ二つの朱に塗られていく

リント「な、何が起きたんです!?」

オペレーター「十二時の方向敵機! 友軍は総崩れですッ!」

潜伏している反政府ゲリラは少数、偵察機の情報ではそのはずだった
重装備のイナクト四個小隊ならば古ぼけた基地ごと焼き払えると、リントは殲滅戦を嬉々として選択していた

リント「馬鹿な……そんな馬鹿な……!!」

しかし
敵基地から浴びせられたのは旧MSの持つ砲弾ではなく、融解した金属の如き粒子ビームの雨
イナクト達は次々に撃ち抜かれ、包囲網は容易く崩れ去った

オペレーター「敵機捕捉! モニターに映します!」

リント「はひぃっ!?」

大画面に映し出されたのは、四つの眼を光らせた疑似太陽炉搭載型MS:GN―X
何故、彼らの手にそれが渡っているのか
何故、彼らがあれを操れるのか
リントの頭の中には様々な何故が浮かび収拾がつかずに消えていく

リント「全軍……撤退を……っ」

蛇のような狡猾さが抜けた諦観の顔で、彼が小さく呟いたのはその僅か数秒後のことであった


――前線基地――

グッドマン「馬鹿な、GN―Xだと!?」

リー「……」

リント『機体照合には引っかかっていません。我々国連軍に関わらない、出自不明所属不明のゴーストファイターです』

グッドマン「……ぬう……」

リー「撃墜されたGN―Xを組み直したのでしょうか?」

グッドマン「それなら疑似太陽炉の基幹部の反応から出自が分かるはずだ」

グッドマン「奴らにはサイクロプスがある……まさか再設計したか?」

リー「完璧なGN―Xを複製する技術があるとは思えません」

リー「それに、わざわざこの様なタイミングで存在を明かしてしまったのではサイクロプスにあれだけ負担をかけて戦って隠した意味がありません」

グッドマン「確かに……宇宙から降りてきた訳ではないのだから、あれは地上にあったものということになるな」

グッドマン「……残る可能性は……」

リー「……我々が知らない裏で秘匿され、動いていたGN―Xがいる?」

グッドマン「それが何らかの理由で敵の手に渡った……」

グッドマン「荒唐無稽だ!」ドンッ

リー「……私はそうは思いません、奴らがいるくらいですから」

グッドマン「ライセンサー……か」

リー「GN―Xの対処は如何致しましょう?」

グッドマン「グラハムめ、とんだタイミングで休暇を楽しみおって……」

グッドマン「オーバーフラッグスの残存部隊を出せ! RGMもスイールの要請があれば三小隊までは出す!」

リント『し、司令!』

グッドマン「どうした!」

リント『GN―Xが……!』

グッドマン「……!?」


――そして、スイール――

ミーナ「さー、次は何処に行く?」

街灯の明かりでパンフレットを確認するミーナら女性陣
大量の荷物を抱える男性陣は、苦笑いと無表情、明らかな疲労とそれぞれの顔でそれを見つめていた

リディ「まだ買うんですか……!?」

疲労を隠そうともしない男、リディは両手に背より高い箱を抱え悲鳴を上げる
グラハムは隣で紙袋を両手いっぱいに提げながら、苦笑と共にマリーダと会話を楽しんでいた

グラハム「せっかくこれだけ買ったのだ、後でしっかり着て見せてもらいたいものだな」

マリーダ「……時間が許す限りなら、いつでも」

懸念はもっともだとマリーダははにかみながら答える
フェルトとマリーダの購入したものは、半ばミーナ・カーマインの押しつけで買ったものが大半で、故になかなか日常で着るような落ち着いた服装ではないのだ

グラハム「沢山買っても着ないのでは、衣服も寂しかろう。なぁタケイ」

タケイ「……」

買ったもので埋まるタケイは、荷物が許す範囲の動きで頷き肯定を示す

フェルト「ごめんなさいリディ少尉、荷物持ちなんかさせて……」

リディ「気にすんなって、こっちもイベントに参加させてもらったしおあいこだよ」

フェルト「でも……」

フェルトが俯き、言葉を続けようとした瞬間

フェルト「 」ピキィィィィン

グラハム「!」

マリーダ「この感覚……!?」

フェルト「え……?」

直感が脳内へ直接、危険信号を送る
とっさに身体が動く二人、しかし訓練されていないフェルトはそれが何か理解しようと身体を硬直させてしまう

リディ「フェルト!」

フェルト「きゃっ!?」

リディが荷物を手離し、フェルトを両手で抱き留め押し倒す
それとほぼ同時、爆発音と共に付近の高層ビルの上部が大爆発を起こし、破片と炎が雨のように降り注いできたのだった

グラハム「マリーダッ!」

マリーダ「くっ!」

ミーナ「きゃっ!?」

反応が早かったのは、やはりNT勢だった
マリーダはミーナの足を後ろから蹴り上げそのまますくい上げるように抱きかかえ、隣の店舗へと逃げ込む
グラハムはタケイを誘導し同じ様に店舗へと飛び込んだ

一瞬
近代的な繁栄を謳歌する街並みは、まさに一瞬で地獄へと変わった
砕け散ったコンクリートと硝子の破片が飛び散り、火花と炎が暗闇の街を紅く塗り潰していく
グラハムらは、自らの日常へと、無理やりに引き戻されてしまったのだった

グラハム「マリーダ……大丈夫か……!」

マリーダ「はいマスター……お怪我は?」

グラハム「問題ない。硝子で少し頬を切ったくらいだ」

ミーナ「いたたたたぁ……」

タケイ「くっ……!」

グラハム「二人とも無事のようだな」

マリーダ「……!」ハッ

ミーナ「フェルト……フェルトは!?」

グラハム「!」

タケイ「まさか……!?」

店の外に飛び出す一行
突如として街並みを焼いた原因、それは見上げればすぐに見つかった

グラハム「GN―X……だと!」

スイールの軍隊から下から照らしあげているのだろう、ライトアップされた機影は朱い粒子を吐きながら夜闇にぽっかりと浮かび上がっていた
引き金を引き、無差別に粒子ビームを市街へと撃ち下ろしていく
その様は、半年前に消えたはずのソレスタルビーイングの新型ガンダム【スローネ】を彷彿とさせた

マリーダ「馬鹿な、一体何故!?」

グラハム「……!」

周りを見回す。リディとフェルトは何処にも居ない
恐らく逃げる人々の流れに呑まれてしまったのだろう
佇む間にも、何人もの人と肩がぶつかった

グラハム「タケイ、ミーナと二人でリディとフェルトを探せ」

グラハム「この恐慌状態だ、スイールにとって余所者の二人がどのような目に遭うか分からん……急げよ」

タケイ「了解!」

ミーナ「グラハムはどうするの!?」

グラハム「私とマリーダは基地に戻る、恐らくあのGN―Xは何らかの方法でテロリストの手に渡ったものだろう」

グラハム「一刻の猶予も無い……行くぞ!」

マリーダ「マスター、我々の車までのルートです!」

グラハム「最悪徒歩で行く!」

マリーダ「了解、マスター!」

グラハムとマリーダは、逃げ惑う人の波へと飛び込んでいき、やがては消えて見えなくなる

タケイ「付近の避難所を当たりましょう。リディだけならともかく、フェルトを連れて遠くにいけるとも思えない」

ミーナ「……フェルト……」

タケイ「リディが付いてる。アイツも男だ、きっと大丈夫ですよ」

やがて二人も人の流れに沿って移動を始める
空ではスイールのイナクト隊がGN―Xを止めんと攻勢を強めたが、誰の目から見ても焼け石に水であった

――――

リディ「……くそっ……何だってんだ!」

フェルト「はぁっ……はぁっ……!」

瓦礫に押し潰されたバスの影に隠れ、パンフレットの中の避難所を目指すリディ達
GN―Xから逃れようとした人々のうねりに呑まれ、抜け出した頃には何処にいるのかすら分からなくなってしまったのだった

リディ「隊長達と合流しなきゃ、ヤバいってのに……!」

最初の爆発と人の流れからフェルトを守ろうとしたリディ
頭には浅くない傷がつき、とめどなく血が溢れ出していた

リディ「……あの人のことだ、一番俺達が行き着きそうな場所にまず探りを入れるはず」

リディ「一番近い場所の避難所……こっちか!」

フェルト「きゃっ……!」

空からは絶え間なく粒子ビームが降り注ぐ
人の影があれば撃ち込む、まさに無差別テロ
急がねば自分達が狙われるかもしれない、猶予はなかった
バスが火花を散らし、小さな爆発が起きる
そこからフェルトを離すように手を引き、リディは走り出した

リディ「まだ走れるな? 一気に行くぞ!」

フェルト「リディ……!」

リディ「大丈夫、俺が必ず君を守る! だからついてきてくれ!」

フェルト「……!」コクン

リディ「良い子だ」ニコッ

引きずってきた小さな悩み、自身の傷の痛みすら忘れてリディは走る
この子だけは助けてみせると、ただ一つの命の為に


――MSドッグ――

ジョシュア「ったくいつもいつも、うちの隊長の行動にはオチがつくな!」

ルドルフ「状況予測は完璧だった。隊長に落ち度は無ぇよ」

ジョシュア「ほぉ……イナクト乗りがフラッグファイターをかばうとはな」

ジョシュア「明日はGN粒子の雨でも降るか?」

ルドルフ「文句あんのかてめえ!?」

ヴィクトル「止めろ馬鹿共! 尻ぃ叩かれなきゃ急いでMSにも乗れねえのかボケナスが!」

ルドルフ「うぇ……」

ジョシュア「っとと……」

ヴィクトル「しかしGN―Xめ、いくらアフリカとの直線上にあるからといって、近所のスイールに向かうとはな」

ダリル『よっぽど手に入れた玩具を使いたいのでしょう。誰に貰ったかは知らんが呑気なもんだ』

ヴィクトル「だがスイールにはグラハム少佐達が、そして何も知らない市民が大勢いる」

ヴィクトル「飛ばすぞ、ハッチ開け!」

『了解! 開きます!』

ヴィクトル「……命令系統はダリル、君が指揮するのかね?」

ダリル『隊長から、自分がいないときはヴィクトル・レオーノフ大尉に一任するようにと伝言が』

ヴィクトル「ふっ……隊長殿はロートルを過大評価する癖があるようだな」

ダリル『隊長の人を見る目は確かです。頼りにしてますよ、大尉』

ヴィクトル「過度な期待には、応えたくなるのが男というものだな……!」

ヴィクトル「ヴィクトル・レオーノフ! 出撃する!」

『ダリル少尉、隊長殿を頼みますよ!』

ダリル「おうさ! ダリル・ダッジ、フラッグで出る!」


――その頃、グラハム達は――

マリーダ「道が塞がっている……!」

グラハム「えぇい、此処もか!」

決して遠くないはずの車までの道のり、しかし破壊された建物や放置された車により二人は必然的に遠回りを余儀無くされていた

グラハム「くそっ……このままでは我々も火に巻かれる!」

マリーダ「一度避難すべきでは……!?」

見上げれば、三機のGN―Xがスイールの防衛軍と交戦を始めていた
どうあれ地上の被害は免れない。危険はグラハム達にも等しく近づいていた

グラハム「最悪やむを得まい、この様な場所でお前を死なせるわけには行かんからな」

マリーダ「それは私も同じです……あなたを死なせたりはしない」

グラハム「久しぶりに意見があったな、そうでなくては!」

『馬鹿言ってんじゃねえ! ガンダムと喧嘩するようなもんじゃねえか!』

グラハム「ぬ……!?」

そんな中、高層ビルの合間から姿を現したのは白いイナクト
スイールが買い取ったPMC戦力の一部である特別なものだ

『PMCからせっかくこっちに転勤してきたってのに、もうあんなのとやり合うのはこりごりだ! 俺は降りるぜ!』

膝を突き、コクピットを開けて中から兵士が降りてくる
通信と外部への音声発信を同時に開いてしまうほど慌てていたのだろう
そのまま転げ落ちるように地面に降り立つと、ほうほうの体で燃え盛る街に消えていった

兵士「くそっ!」ダッ

グラハム「MSを乗り捨てての敵前逃亡……!?」

マリーダ「俗物め!」

『ママー……ママー……!』

マリーダ「!」

紅蓮の炎が街を焼く中、マリーダが目を向けた先には親とはぐれた少女の姿
涙を流しとぼとぼと歩くか弱い命に、マリーダは迷い無く駆け寄った

グラハム「……マリーダ、その少女を連れて避難シェルターを目指せ」

マリーダ「え?」

しかし、グラハムの視線は無傷のまま乗り捨てられたイナクトに向けられていた

グラハム「停止されないまま放置されたということは、本来受け付けないはずの部外者の操縦でも動くはずだ」

マリーダ「マスター、お止めください! オーバーフラッグでも無い限りGN―Xの相手など……!!」

グラハム「急げよマリーダ。その子を死なせるな」

マリーダ「マスターッ!!」

マリーダの言葉を遮るように、すぐ近くのビルが粒子ビームにより削られ爆音を響かせた
瓦礫が二人の間を引き裂くように散らばる
グラハムはスイールイナクトのコクピットへと乗り込み、機器を指で叩いた

グラハム「流石はイナクト……多少の差違はあるがフラッグによく似ている」

グラハム「倒せるとは限らんさ……だが死なないことは出来るはずだ」

グラハム『行くぞ……!』

マリーダ「マスター……ッ」

リニアライフルを握りしめ、イナクトが飛翔する
見上げるマリーダの視線を感じたが、敢えて応えることはしなかった

グラハム「おぉぉぉぉぉぉ!!」

此方に気付いたGN―Xがビームライフルを発射する
下から近づいたのでは避けやすくともビームが地上に当たる、牽制しながら高度を同じかそれ以上に上げながらプラズマソードを構える

グラハム(やはり動きが鈍い……!)

多少とはいえフラッグとは違う、全く自身専用にカスタマイズされていないMS
予想以上の重さだが、敵も扱いに馴れていないはずだ
条件は五分とは言い難い、だがやれないはずは無い

グラハム「うぉぉおおおッ!!」

突き出したプラズマソードの切っ先がGN―Xの肩先を焼く。すぐに離れ、機体を巡航形態に変形させ一気に距離を取る

グラハム「付いて来い……!」

目論見通りGN―Xは追撃してきた、旧機体に馬鹿にされたとでも思ったのだろう
とにかく、まずマリーダからコイツを離す
それから先の事を考えないようにしながらも、グラハムは重い操縦桿に力を込めた


――一方、リディ側――

救急隊「せー……のッッ!!」

リディ「ぬぁああああッ!!」

数人の男性達が渾身の力を振り絞り、鉄骨を梃子にして壊れた車のドアをこじ開ける
同時に、転がり落ちるように初老の男性が車外へと飛び出した

フェルト「大丈夫ですか!?」

初老の男性の怪我は浅く、フェルトの呼びかけに反応も見せた
粒子が煌めく度、皆一様に身を屈めつつも担架を使い男性を運ぶ
あれから数百メートル、惨状と化した市街地ではあらゆる防衛行動が遅々として進まずにいた

救急隊「後は我々が! ご協力感謝します!」

リディ「ご苦労様! あんた達も気をつけて!」

リディ「……さて、もうそろそろの筈……」

フェルト「きゃっ!」

リディ「ッ!?」

地図に目を向けた一瞬、頭上で発生した爆発が視界を白く塗り潰す
衝撃と破片が地上に降り注ぎ、逃げ惑う人々へと容赦なく襲い掛かっていく

リディ「好き勝手しやがって……!」

フェルトを庇いながらではゆっくりとしか進めない
それでも確実に、安全を確保しつつ足を動かした
を見上げれば、白いスイール・イナクトがGN―Xに幾度となくかかっていくのが見えた
が、一つとして例外なく、皆腕の一振りにさえ抗えず叩き落とされていく

リディ「……くそッ、フラッグさえあれば……!」

フェルト「グラハムさん達……っ」

リディ「大丈夫だって、隊長達は軍人なんだ。今頃基地から援軍を呼んでいる頃さ」

フェルト「……」

言葉をわざと遮り、不安感を止めようと歩を進める
しかし、【嘘】をついたリディ自身の心からは、それが完全に消えることはなかった

リディ(俺の予測が正しければ、国連軍は来ない)

リディ(いや……来れない、か)

そして不運なことに

その予測は、正しいものになってしまっていた


――スイール・市街外――

ダリル『大尉、こりゃどういうことです!?』

ジョシュア『スイールの外で待機なんて、話が違うぜ!』

街並みは戦火の禍々しい紅に染まり、その様子を目の当たりにした兵士達は口々に不満をぶつけていた
通信を開けば、どの部隊も二人と同じことを叫んでいる
――待機せよ、これが司令部から送られてきた、ただ一つの命令であった

ヴィクトル「……命令は絶対だ。各機はその場で待機」

ダリル『納得出来ません!』

ジョシュア『ライセンスがあんだろう! 俺達だけでも……!』

ヴィクトル「落ち着け! スイールはまだ俺達の介入を許可していない」

ヴィクトル「今行けば、最悪国際問題に発展するぞ!」

ダリス「なっ……!」

ルドルフ『大尉、許可が下りないのは……やはりGN―Xですか?』

ヴィクトル「だろうな」

ヴィクトル「俺達国連側は、あいつらが所属不明のGN―Xであることを認識している」

ヴィクトル「だがスイール側からすりゃあ、ありゃあ国連軍の所属MS」

ヴィクトル「ガンダムを倒した国連の切り札としか見えやしないだろうからな」

ルドルフ『……情報の錯綜する今行けば、俺達国連軍は奴らの支援に来た後詰めにしか見えないってことか』

ヴィクトル「GN―Xにたどり着く前に、スイールの防衛隊と一戦交える羽目になるだろうな」

ヴィクトル「だからこその待機、というわけだ」

ダリル『そ……それじゃあ……!』

ジョシュア『お偉方がスイール側に説明するまで、俺達は指くわえて見てろってのかよ!』

ヴィクトル「……そうなるな……」

ダリル『隊長がまだ彼処にいるんですよッ!?』

ジョシュア『マリーダやリディもだ! それを……ッ』

ヴィクトル「分かっている!」

ヴィクトル「そんなことは……分かっている……ッ!」

ルドルフ『大尉……』

ダリル「隊長……無事でいてください……!」


――グラハム側――

グラハム「ぐおっ!?」

無人のビルに、イナクトの白いボディが叩きつけられる
コクピットに広がる、殴りつけられたかのような衝撃
パイロットスーツを着用していない身体が、みしりと軋み熱を帯びた

グラハム「……ッ……」

体感の衝撃は普段と変わらぬ強さに感じられる
不用意な挙動は機体こそ耐えられても、きっと自身が保たないだろう

グラハム「出力はこちらの約六倍……ビーム兵器よる完全武装……おまけに装甲もGN粒子を纏い攻守共に隙が無い」

モニターに移る爆炎、その中から姿を現すGN―X
先ほどから幾度もライフルを叩き込んだ装甲には、傷らしい傷の一つすら確認することは出来なかった

グラハム「こちらは調整はおろか馴れてすらいないMS……おまけに反応速度も鈍い……マリーダやダリルも……いない……ッ!」

グラハム「――それがどうしたッッ!!」

圧倒的な性能の敵を目の前にし、竦む心を言葉で鼓舞する
これしきの不利に萎縮するな
それでもお前はグラハム・エーカーか!
そう心に念じ、退くことなく前へと一歩を踏み出した
相手も此方の意図を理解したのか、ビームサーベルを抜き放ち構える

先に動いたのは、GN―Xの方だった

横薙ぎに振るわれたビームサーベル
とっさに屈めば、粒子の光刃が頭部を掠めた

グラハム「そこだッ!」

即座にブーストを踏み、機体を前に押し出す
体の移動も相まってカウンター気味に刺さるタックル
GN―Xは大きく体勢を崩し、地面へと膝を折る

グラハム「やはり旧世代機と同じ姿勢制御法……足元を崩せば自ずと結果は出るか」

グラハム「地表スレスレを舞うように跳ぶ少年のガンダム……彼にはこの様な手は使えないだろうがなッ!」

三発、GN―Xの懐へと即座に叩き込む
怯むだけでダメージにはならないが、距離を取るには十分の時間だ
追撃を避けつつ空へと上がる
所詮は時間稼ぎ、スイールが国連軍の受け入れをするまでの鬼ごっこなのだ

『やるじゃあないか三番機! 何だかんだ言いながら……』

グラハム「ぬ、通信か」

『ッ!? 誰だお前!! 三番機のパイロットはどうした!』

グラハム「彼なら逃げ出した、代わりに私が借りている」

グラハム「GN―Xを退けてから、万全な整備を施しそちらに返還しよう。悪かったな」

グラハム「しかしもう少し点検には気を遣うべきだな。ペダルの反応が甘い、それに……」

『質問に答えろ、誰だと聞いている!』

グラハム「グラハム・エーカー……通りすがりの軍人だッ!」

グラハム「ッ!?」

その時、下方から粒子弾がイナクト目掛け射かけられる
GNバルカンによる面の攻撃、威力こそ微弱だが旧世代機にとっては十分な脅威だ

グラハム「馬鹿の一つ覚えは卒業か……!」

右へ左へ、吊られた人形のような独特の挙動でGNバルカンを避ける
しかしバルカンを避けた先に飛来するは、ビームライフルの粒子弾

グラハム「つっ……!」

避け切れぬ弾はディフェンスロッドを構えて弾く
それでも、ロッドの表面は廻る度に少しずつ損耗する

グラハム(長くは受けられまい、所詮は一般機体か)

グラハム「だが流石というべきか……国連軍の新兵よりは考えた戦い方をする!」

『そういえば聞いたことがある……ガンダムと単騎で渡り歩いた、ユニオンのエースパイロット』

『名前は確か……!』

『マスター・グラハム!!』

グラハム「待てぇい!?」

グラハム「ぐっ!」

汗で濡れた裾が、首筋に冷たい感覚を残す
引くイナクトと迫るGN―X
稼いだ距離も一瞬で詰められ、猛攻が白色の装甲を焼いた
振り下ろされたビームサーベルを、組んだ両腕で腕を抑えて受ける
しかし……どう足掻いても抑えきれない

グラハム「援軍は……まだか……ッ!」

           ・
                         ・
                         ・


男「ぎゃっ!?」

タケイ「……」パンッ

ミーナ「終わった……?」コソコソ

タケイ「ええ、つつがなく」

ミーナ「強いのねタケイ少尉、暴漢五人がまるで子供扱いじゃない」

ミーナ「元特殊部隊経験とかあったりなかったり?」

タケイ「……」

ミーナ(あ、ありゃ、地雷だったかな?)

タケイ「行きましょう。時間がない」

ミーナ「あ、ちょっと!」

ズズズ……ゥゥン

ミーナ「でも……さっきの奴ら、こんな時にまで何やってんのかしらね」

タケイ「……」

ミーナ「自分の命が危ないかもしれないのに、かつあげなんて……馬鹿なのかしら」

タケイ「……」

タケイ「災害や大規模テロなどの非常事態時は、流言飛語が飛び交うものです」

タケイ「恐らく、GN―Xは国連軍が仕向けたもので、どこかに異国人のスパイがいるはずだ」

タケイ「もしくは、外国人を人質に攻撃を止めさせよう」

タケイ「……そのようなデマでも流れているのでしょう」

ミーナ「ちょっ、何よそれ!?」

タケイ「不思議なことではありません。命の危機に晒されれば、一般的に人間は平静を保とうと攻撃的になるものです」

タケイ「矛先など構わない……終わった後に、非常事態だったから、で正当化は完了ですから」

ミーナ「あ……あまり納得したくない事実ね……」

タケイ「過去にも、大地震などの後に移民が市民の手により私刑された例が確認されています」

ミーナ「フェルト……っ」

タケイ「……」

『きゃあああああっ!!』

ミーナ「!」

タケイ「……この声は……!」

――――

リディ「……ッ」ペッ

フェルト「う……うぅっ……」ガクガク

市民A「強情な奴め! さっさとその子を渡せ!」

リディ「理由が分からなきゃ無理だね……」

市民B「こいつッ!」

ガッ
ドカッ

リディ「……っ!」

フェルト「もう……止めてぇ……!」

市民A「さっきから話しているだろう! 今街を襲っているあれは、国連軍の新型MSだ!」

市民C「自分達の国の人間がいると知れば、奴らだって怯むはず!」

リディ「……それで……フェルトをよこせって?」

市民B「若い女の方が同情を買えるからな、国連軍にはいい報いだ!」

リディ「……馬鹿か」ボソッ

市民B「何ッ!?」

リディ「笑えるぜ……こんだけ良い大人が揃ってんのに、考えつくことは若い子人質にテロリストに交渉かよ?」

リディ「無差別に街を襲ってるMSがそんなもんに応じる訳ねえなんて、教わらなきゃ分からねえのか……あぁ?」

フェルト「リディ……っ」

リディ「いいから俺の後ろにいろ、出てくんな」

フェルト「でも!」

リディ「かっこつかねえだろ……男が前じゃないと」ハハ

市民B「元はといえば貴様等のせいだろう!」

市民A「お前ら異国人さえ来なければ……!」

リディ「言うに事欠いて外国のせいか、その対外政策で繁栄したスイール国民の言うことじゃあないよな?」

市民C「ぐ……」

リディ「何より許せねえのは、こんな時に自分達の保身ばっかり考える腐りきった性根だ……」

リディ「男なら!」

リディ「てめえの命張って何かを守ろうとしてみやがれ畜生ォォォォ!」

市民A「言わせておけば貴様っ!」

市民B「やっちまえぇぇ!」

リディ「ッ……!」

バッ

フェルト「……!」

リディ「フェルト!?」

フェルト「私だって……」

フェルト「私だって、守りたい!」

市民C「偉そうな口を利くなこのぉっ!」

フェルト「ッ!」

リディ「止めろぉ!!」

ガシッ

市民C「えっ?」

リディ「あ……」

フェルト「……!」プルプル

マリーダ「悪いが、彼等は私の大切な友人だ」

市民C(手……手が無くなったみたいに動かない……!?)

マリーダ「――力ずくでも、退いてもらう」

ブンッ

市民C「うわぁっ!?」

市民B「うぉっ!」

マリーダ「大丈夫か、二人とも」

フェルト「マリーダ……さん……?」

リディ「……遅いっすよ……」ズルッ

マリーダ「済まない、迷子を見つけたので少々寄り道をな」

ミーナ「フェルトぉ!!」ダキッ

フェルト「ミーナさん!」

ミーナ「よかったぁ……よかったよぉ……」グズッ

フェルト「……う」

フェルト「う……わぁぁぁん……!」

マリーダ「……間に合って良かったよ、本当に」

リディ「タ、タケイ少尉は?」

マリーダ「見張りを片付けている。駆けつけてはみたものの、路地裏故に見つけるのが遅れた」

マリーダ「済まなかった、傷は痛むか?」スッ

リディ「俺は軍人ですよ……この程度撫でられた程度のもんです」

マリーダ「軍人だって人間さ、殴られれば痛い」

市民A「この……」

マリーダ「……」ギロッ

市民A「ひっ!?」

マリーダ「無傷……か。無抵抗の人間をなぶるとは、こうはなりたくないものだ」

タケイ「中尉、お急ぎを。GN―Xが一機近い場所にいます」

マリーダ「分かった」

マリーダ(とはいえ……困ったものだな。一般市民ですら暴徒化する現状、避難場所も決して安全とは言い難いが)

ミーナ「リディ、いい男が台無しね。ほら血が出てる」

リディ「いつつ……」

マリーダ(リディ少尉、あれだけ殴られながらも市民に手はあげなかったのか)

マリーダ(評価を改めるべきか……マスターが評価する理由が少し分かった気もする)

マリーダ「とりあえずスイールの外に出よう。国連軍もそこに待機しているはずだ」

タケイ「車を手に入れますか?」

マリーダ「いや、道路が封鎖されていてまともに動けまい」

マリーダ「それに下手に動けばGN―Xの的になる、やはり徒歩しか……」

ピキィィィイン

マリーダ「ッ!?」バッ

タケイ「中尉……?」

――視線の先に立っていたのは、一人の青年であった

マリーダ「……!」

???「……」ニコッ

整った目鼻にところどころ波打った金髪、中東では不自然な白いコートに身を包んでいる
神に愛されているかの如く、彼の周りだけはただ一つの破壊も及んではいない
その青年は明らかに異質なモノとして、自然にそこに存在していた

マリーダ「何者だ……!?」

???「……」

『ヒクサー、ハヤクハヤク』

彼の足元には、黒いペットロボットがすり寄るように転がっている
ヒクサーと呼ばれた青年はそれを拾い上げ、最後にマリーダと視線を合わせた

ヒクサー「バイバイ……12番目の妹」

マリーダ「!」

ヒクサー「君が【もう一つのイオリア計画】に選ばれるべき者かどうか……もう少しの間だけ見せてもらうよ」

黒HARO『プルプルプルプルー!』

マリーダ「ま、待て!」

タケイ「中尉! 上ですッ!」

駆け寄ろうとした瞬間、二人の間を貫くビームライフルの一閃
爆発にたじろぎ、向き直った頃には青年の姿は見えなかった

マリーダ「今の男は……一体……?」

タケイ「中尉ッ! !」

マリーダ「!」

タケイの声に反応し、空を見上げる
GN―Xの影が見えた――そう認識した瞬間、自らの体が木っ端のように浮き上がった

マリーダ「ぁがっ……!?」

ミーナ「マリーダ!?」

フェルト「マリーダさぁぁん!」

横転した車のボンネットに叩きつけられ、ようやく止まる
通り過ぎた突風は弱い自分をあざ笑うかのようにかき消えた
粒子による制動力を過信した荒い着地、マリーダはそれの二次被害を受けたのだった

マリーダ「っ……!」

GN―Xのカメラアイが此方を捉えた
しかし、全身を支配する痺れが指一本の挙動さえ許してはくれない

リディ「離してくださいっ! 中尉が……中尉がッ!」

タケイ「……ッ」

GN―Xは複数存在する
全容までは把握できないにせよ、スイール軍が発見し対処するにはこのGN―Xは静かすぎた
よしんば発見したとしても、マリーダに気付かなければ間違い無くミサイルなどで攻撃してくるだろう
助けが来ても、来なくても
彼女の運命は変わらないのだ

リディ「中尉ぃぃぃ!」

踏み潰されるか、流れ弾により灼かれるか
彼女の生命は、もはや風前の灯火であった


――――

「ねえ、いいの? ヒクサー」

ヒクサー「何がだい、887(ハヤナ)」

逃げ惑い隠れる人々の合間を、涼しげな顔で通り抜けるヒクサー
その横には黒いHARO、そして887と呼ばれた少女が並んで歩いている

887「あの強化人間、テロリストに見つかったみたい。死んじゃうよ」

ヒクサー「かもしれないね」

887「かもねって……計画に選ばれるかもしれないんでしょ? 最近のヒクサー、なんか分かんない」

頭部の特徴的な猫耳をピコピコと動かし、尻尾をフリフリと揺らす887
マイスター874同様、人工生命体ならではのこの謎装備に、ヒクサーが指摘したことは一度もない

ヒクサー「ヴェーダの提示した情報はあくまでも可能性……」

ヒクサー「はっきり言うなら、この程度で死ぬくらいならそれまでの存在ってことさ」

887「ほ、本当にはっきり言うのね……」

ヒクサー「エージェント887から見たら、不服だったかな」

887「当然! こんな丸いものを持たされるあたしの気にもなってよね」

黒HARO『プルプルっ』

ヒクサー「持とうか?」

887「……それはそれでいやっ」

ヒクサー「ふふ。気難しいね、887は」

ヒクサー「…………」

ヒクサー「ガンダムマイスターとしての僕は、彼等をいつか対峙するであろう敵として認識している」

887「え?」

ヒクサー「そして、計画を影より遂行するCBのエージェントとしての僕は、彼等を重要レベル対象外、ヴェーダ同様継続観察するに値しない存在とさえ見ている」

黒HARO『……』

ヒクサー「でも……」

887「ヒクサー?」

ヒクサー「……一人のニュータイプ【ヒクサー・フェルミ】としては」

ヒクサー「彼等に未来を感じて仕方ないんだよ、これがね」

887「ニュー……タイプ」

黒HARO『ヒクサー、ニュータイプ!』

ヒクサー「……ッッ」

887「!」

887(ヒクサーが、笑った?)

ヒクサー「おかしいよね、自己を捨てて【計画】の為に自らを捧げた筈のこの僕が、こんなことを言うなんて」

ヒクサー「ほんと……グラーベが見たら、なんて言うか」

887「ヒクサー……」

ヒクサー「……」

ヒクサー「兎に角、当面僕の仕事は観察」

ヒクサー「フォン・スパークの目的と【袖付き】の組織概要を調査することだ」

887「……そーね、特にフォン・スパークの計画はギッタギタに潰してやらなきゃ!」

黒HARO『フォン・スパーク、アイツキライ!』

887「あら、初めて意見があったわね。そうこなくっちゃ」

ヒクサー「ただまぁ、フォンの動きを辿って此処に来たのもあるけど」

ヒクサー「現地に来て正解だったかもね……あのGN―Xはまず間違い無く国連軍の正規品だ」

887「じゃあ、この襲撃はやっぱり国連軍の偽装?」

ヒクサー「それはないね。【袖付き】の概要が何も分かっていないのに、国連軍を動かしている彼等が強硬手段に出るとは思えない」

ヒクサー「可能性があるとすれば、正規の部隊ではない裏の存在……」

887「例のプルツーの部隊ってこと?」

ヒクサー「出処は、多分ね」

ヒクサー「乗っているパイロットが違うとすれば、あの機体を捕らえてパイロットだけを殺した勢力がいることになる」

887「【袖付き】!?」

ヒクサー「いや……統率の取れた組織ならこんな八つ当たりじみた使い方はしないだろう」

ヒクサー「三機のGN―Xは連携もなければ明確な目標もない、恐らくはあの機体をただ渡されただけの反政府ゲリラさ」

887「じゃあ……」

ヒクサー「あぁ、此処で繋がってくるのさ」

ヒクサー「この惨劇を招いたのは恐らく……フォン・スパーク」

ヒクサー「とうとう彼が動いたのさ。何らかの目的を以て、ね」

887「でもガンダムマイスターでもあるはずのアイツが何故こんな……」

ヒクサー「フォン・スパークは元々宇宙移民二世、反政府ゲリラ出身のテロリストだ」

ヒクサー「隕石などを利用した、同じテロリストにさえ危険視されるほどの超規模テロを計画し、結果追放されるほどの危険人物」

ヒクサー「ガンダムマイスター以前に、彼の存在そのものがかつての核兵器以上に危険なものといえるだろうね」

887「……」

ヒクサー「そんな彼を支援しろと言われたシャルや874の苦労は計り知れないね」

ヒクサー「特に、874の存在は彼にとっても大きいだろうから」

887「……マイスター874……やっぱり消しとくべきだったわ」

ヒクサー「確かに、今回の件は彼女の力が強いだろう」

ヒクサー「でも君がこのHAROを手に入れてくれたこと……それこそが一番の収穫だと思っているよ」

黒HARO『マリーダ、マリーダ』

ヒクサー「そう慌てないで……まだ第二世代型ガンダム【サダルスードtypeF】を出すべき時じゃない」

ヒクサー「もしオリジナル太陽炉のガンダムの所在がバレたら、【二番目の妹】と対峙する可能性もある」

ヒクサー「フォンが今回の作戦を完全に放任したのもきっとそれさ……彼女と戦うことだけは避けなくてはならない」

887「でもサダルスードFの太陽炉はキュリオスから手に入れたもの、トランザムがあるじゃない!」

ヒクサー「確かにトランザムは優秀さ……でも彼女には【アレ】が用意された」

ヒクサー「アストレアなら何とかなるかもしれないけど……サダルスードでは賭になる」

黒HARO『GNソード! GNソード!』

ヒクサー「彼はそれをも見越してサダルスードを盗ませたのだとしたら……」

887「ま……まさかぁ……」

ヒクサー「そうだね、考え過ぎと信じたいところさ」

ヒクサー「だが結果的に僕は見ているしかない。歯がゆいね、イヤになる」

ヒクサー「……来たようだね」

見上げるヒクサー
路地裏の狭い空に、雄々しい白い影が通り過ぎた

887「あれは……イナクト?」

ヒクサー「止まることを知らぬ戦士の生き様……いつか更なる力に潰され、消えゆく定めだとしても」

ヒクサー「それでも僕は願ってやまないよ……飛べ、もっと高くとね」

――飛べなかった僕と、彼の代わりに
彼の呟きは風に掻き消され、誰の耳にも届きはしなかった

――――

仄暗い銃口が向けられた、その瞬間だった
激しい激突音と突風、伏した身体が浮き上がりそうな衝撃
はっとして見上げる
やはり、彼の乗るイナクトだった

グラハム「彼女からッッ……!」

マリーダ「マスター!!」

グラハム「離れろォォォォォォォォォォォォ!!!!」

マリーダ「!」

イナクトの左手に握られたソニックナイフが、つんざくような悲鳴を上げてGN―Xの顔面に突き立てられる
予想外のダメージと共に衝突の勢いそのままに、ビルへと押し込められるGN―X
砂漠での総力戦の際、ロックオンのガンダムへ本人が敢行した、グラハムスペシャルそのままの流れるような挙動だった

ミーナ「今のうちよマリーダ! 早くこっちへ!」

マリーダ「し……しかし」

ミーナ「アイツを誰だと思ってるの!? 信じなさいよ、あんたのマスターなんでしょう!!」

グラハム「っぐぅ……!」

しかし、機体も違えば状況も違う
GN―Xは身を翻し、押してくるイナクトをかわした
ビルに激突するイナクト、瓦礫が辺りに散乱する
ナイフが刺さったままでもセンサーは生きているのか、迷いの無い動きだった

『!』

グラハム「まだまだァァァァァァァァァァァァッ!!」

それでもグラハムは、追撃を決して止めなかった
かわされた時の反動で左肩がスパークし、腕が上がらない
それを右手で無理やり掴み、ディフェンスロッドを動かして前に進む

迎撃の為に放たれた粒子ビームがロッドを削り、装甲を抉り、遂には左腕をも吹き飛ばす
それでもイナクトは止まらない
止められないのだ

ヒクサー「…………」

足が地を蹴り、力一杯踏み込まれたブーストが白いボディを押し上げる
跳躍、ビームライフルの弾道を飛び越え、地面と平行にGN―Xへ飛びかかる

グラハム「ッッ!!」

マリーダは確信した
彼が狙うとすれば、場所は一つ
突き刺さったままのソニックナイフだ
微塵の迷いも無い、渾身の一撃
逃げるのもほどほどに、見惚れてしまった

――――

GN―Xの顔面に叩き込んだのは、イナクトの膝
ソニックナイフの柄頭を確かに捉えたそれは、カメラアイを貫徹し、内部センサーと操縦補助の全システムを滅茶苦茶に引き裂いていく

グラハム「がッ……!」

もつれ合い、倒れる二機のMS
激甚の衝撃がコクピットを襲い、口腔に血の塊がこみ上げる
ぼやけた視界に映るGN―Xは、首から上が完全に破壊されていた
生まれた幾ばくの猶予、それでも操縦桿を握る手は緩まない

『無茶をするぜマスター・グラハム! イナクトで疑似太陽炉搭載機に突っ込むなんて!』

グラハム「ッ……明らかに相手は慢心していた、賭だったがやれないことはなかったさ」

『死んだのか?』

グラハム「いや、頭部にはサブコントロールがある」

グラハム「メインカメラも無くなった……暫くは木偶の坊と信じたい」

我慢出来ず、コクピットの隅に血を吐き出す
スーツ無しで直に感じる衝撃、その予想以上のダメージに眉をしかめた

スイール軍に言った言葉は嘘ではない
ただ【賭だったがやれないことはなかった】は、終わってから考えが追いついたというのが本当のところだった

グラハム(彼女の危機を感じ取った瞬間……)

グラハム(頭に血が上って特攻したなどと言ったら、また部隊の者に笑われるな)

血に濡れる唇を袖口で拭い、機体を動かす
左腕部脱落 頭部センサー損傷 右膝関節に異常発生
イナクトは無茶が祟り、満身創痍の状態にあった

グラハム「……GN―Xは最初から散開してスイールを襲っていた」

『ん?』

グラハム「出所が同じと仮定すれば各パイロットは面識があり、ある程度以上の通信も可能な状況にあるはずだ」

グラハム「先ほど追っていた機体は逃げおおせ、かつここには身動き取れない一機……次の動きなど、予測するに足らん」

グラハム「他の防衛隊を集結させろ……来るぞ」

足元を小画面で確認する
三人の安否、そしてマリーダ・クルスの無事が確認された
すぐにその場を離れるよう、残った右腕で合図を送る
恐らく彼等も次の展開が読めているのだろう、即座に行動へと移ってくれた
ただ一人を除いて、だが

グラハム「そんな顔をするなよ……美人が台無しだ」

自嘲気味に笑い小画面を切る
軽く咳き込めば、飛沫に変わった血がモニターを汚した
レーダーに感
数は2、足元のそれと同型のGN―X

やはり、援軍に来たか
残った武装は右腕に握るブレイドライフルのみ
ガンダムタイプを相手にするには、あまりにも心もとない装備だった

グラハム「思ったより合流が早いな」

『さっき逃げた一機がもう片方を呼んだのか……!?』

グラハム「だろうな。思ったよりは、やる」

グラハム「だが逃げに回られると追いようがないのは、口惜しい話だ」

おかげで彼女達を救えたのだが――
その言葉は飲み込んで、レーダーに映る光点を数える
スイール防衛隊も続々集結しているが、既に何機も倒されており、加えて元より性能差は歴然
ギリギリ目一杯集まって、その数は七
ガンダムに対する旧機体の戦力的数として鑑みれば、これは絶望的な数字だった

グラハム「こちらの増援は後少し、といったところか」

『し、しかしマスター・グラハム……』

グラハム「私が一体を止める、一対七なら深追いしなければ何とかなる筈だ」

グラハム「耐えるぞ、なぁにもう少しの辛抱だ!」

わざと明るく演じてみたが、効果は薄いようだ
通信から聞こえてくるのはかたや溜め息、かたや呻き声
パイロットスーツも着ておらず、半壊したイナクトに乗っていては実に説得力に欠けた檄に聞こえただろう
だが、男の誓いに訂正を加えるつもりは無い
七機のイナクトが持ちこたえてくれることを願い
彼女達が少しでも遠くへ逃げてくれるのを信じ
ただ、戦い抜くだけなのだ

グラハム「私は、戦うことしか出来ないニュータイプだからな……」

ふと呟きが口から漏れた
ニュータイプが戦うことしか出来ない存在と、認めたくない本心がそうさせたのかもしれない

GN―Xのビームライフルが此方に照準を合わせるのが、微かに見える

グラハム「来るかッ!!」

そして、目映いばかりにきらめく紅い粒子光

戦場の第二幕が切って落とされた



切り裂かれて墜ちる、GN―Xと共に

『な……』

グラハム「何ッ……!?」

もう片方のGN―Xも、対峙する自分達自身も、その突然の来訪者に全ての動きを止めた
何が起きた、スローモーションで進む目の前の事態に、脳内が追いつかない
辛うじて追えたのは、両断され墜落するGN―Xの姿
そして、先ほどまでGN―Xがいた場所に立つ、イナクトの姿だった

グラハム「ッッ!!」

その機影を見た瞬間、総身が毛を逆立て警鐘を鳴らすのを感じた
アレは、危険だ
恐ろしく危険な存在だ
敵か、味方か
グラハムの本能はその位置すら超越し、目の前の存在に警戒態勢を敷いていた


――イナクト・コクピット――

今思えば、此処から始まったのかも知れない

ヤザン「ふふふふふ――――」

グラハム・エーカー

そして、ヤザン・ゲーブル

ヤザン「はぁーはっはっはっはっはっ!!」

阿修羅と野獣、この世界に於ける、二人の因縁は

今この瞬間から、始まったのかも知れない


――To Be Continued――


――スイール・郊外――

クワニ『畜生、あの馬鹿共め!』

デュバル「…………」

クワニ『好き勝手暴れやがって、これだから狂信者ってやつは!』

アイバン『幸い国連軍は足踏み状態だ、今なら踏み込めるぜ』

デュバル「なんだ、これは」

クワニ『直接逢うしかないか……どうします少佐! 少佐!?』

デュバル「私がヅダに与えたかった栄光は……こんなものでは……!」

【ジャン、認めよう。ヅダも君も、優秀な存在だ】

【だがこれだけは覚えておいてくれ】

【いつの世も至上とされるのは技術ではない、人間なのだよ】

デュバル「これが咎なのか……プロフェッサー……!」


【ヒクサー・フェルミ】

イノベイドであり、第三世代ガンダム【ラジエル】の支援機【GNセファー】のマイスター
街を歩けば女の子が振り向く美男子で、同じくイノベイドのグラーベ・ヴィオレントと共に第三世代マイスターのスカウトと査定も行った(スメラギなどのクルーも少々、ただだいたいグラーベがした)

当初はボインちゃんをマイスターにすべきと意気込んでいたが、枠が少なすぎた為(四枠中二枠は裏口確定、ニール・アレルヤも優秀だった為)その夢は叶わなかった
諸々の事情により気さくだった自身を捨て、任務に徹するエージェントとして暗躍する

なお、脳量子波とNT能力(C)が両立したイレギュラーである
グラーベもまたイレギュラー(NT:B)であったが、グラーベ存命時は覚醒していなかった

それなりに重要人物、かもしれない



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