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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その34

2014年03月28日 18:55

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」二機目

919 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2011/11/23(水) 01:07:55.88 ID:Hcc31S6AO
――スイール・市内――

デュバル「……ッ」

燃え盛る街、逃げ惑う人々。目を向けないように意識しても、かえって視線はそれらを辿ってしまう
テストパイロットとして戦場を知らぬ訳ではないが、胸糞の悪い光景だと心中で毒づいた

クワニ『動けるか!? ……よし、いい子だ!』

GN―Xに接触通信で話している声が聞こえる
声などの感じから、向こうのパイロットは酷く怯え、萎縮してしまっているのが何となしに感じられた
クワニのギラ・ドーガがGN―Xを脇に抱えるように支えながら飛ぶ
自分のヅダとアイバンのギラ・ドーガが後方からの敵機に弾幕を張り、離れる
退却はスイールと国連軍の話し合いが終わらない内に済ませねばならない、時間との勝負だった

デュバル「左をカバーしてくれ、飛び込まれたら酷だ」

アイバン『了解です!』

GN―Xを子画面に映し、拡大した
彼等が行動を起こしてからすぐに突入した筈だが、その左腕は肩から切断され、バーニアや装甲には無数の損傷が生々しく残っている
人間に喩えれば、まるで野生の猛獣に飛びかかられたかのような重傷であった

デュバル(即座に帰還していれば、無傷のGN―Xを三機も手に入れられたものを……)

当初の連絡には三機と報告されていたのに、結果二機が撃墜され、一機はこの有り様
やはり狂信者に期待など、出来るはずもない
生還した本人を前にしても、改めてそう思った
市街を抜け、砂塵散る荒野に飛び出す
追っ手は数機、いずれもRGMで、一定以上の距離をつかず離れず追跡してきていた

デュバル「ヤザン・ゲーブルは……いないか」

話には聞いていたが、やはり恐ろしい男だった
自分等が合流した時には、既にGN―Xを一機撃墜され、もう一機は袋叩きにあっていた
もう一機からは何とか引き離したものの、退き際に三機目のGN―Xが強襲され、結果撃墜
頭部を破壊された機体では、対応のしようすらなかっただろう
ヤザン・ゲーブルの判断は確かに早かった
それでも何か手は打てなかっただろうかと思ってしまい、悔やんでも悔やみきれなかった

デュバル(我々が合流してから、イナクトでは勝てないと踏んだのだろう)

デュバル(リカバーも完璧……こちらのリターンも最小限に抑えつつ反撃の隙さえ与えない見事な判断力)

デュバル(あれがもう一人のライセンス持ち……とんでもない男が敵に回ったものだ)

イナクトで太陽炉搭載機を圧倒する技量もさることながら、兵士として一番重要な判断力と決断力、度胸も兼ね備えている
何度か相対したグラハム・エーカーとは、似通っていながらも違う何かを感じさせる存在であった

デュバル「厄介なことには変わりない……がな」

アイバン『少佐、前方二時十時方向、敵機!』

デュバル「やはり来たか……!」

望遠モードのモノアイが、敵機を捉える。
元々状況はかなり悪い
少数で飛び込み、GN―Xと合流しつつ半ばその力を頼り敵陣を突破するのがキャプテン・ジンネマンのプランだったからだ
それが半壊のGN―Xを抱えながらの逃避行となれば、知恵の輪が制限付きダミー満載の爆弾処理に変貌したくらいの差があるだろう
だが危機感はさほど感じられなかった
ヅダと共にいる、それが自らに力を与えてくれているようで、自然に笑みが浮かんだ

デュバル「突破するぞ、ついて来い!」
ヒートホークを抜き、マシンガンを構える
ギラ・ドーガとヅダでは性能に差があるものの、GNドライブと土星エンジンの親和性はそれを埋めてあまりあるものだ
街のことは忘れろ。ヅダが燃やしたわけではない
今まで通り、闘いの中でヅダの存在を証明する。それしかないのだ、そう自分に言い聞かせペダルを踏み込んだ

デュバル「ライセンス持ちでもない端役では、些か物足りないがな」

デュバル「退いてもらおう――私とヅダの道からッ!」

まだ死ねない。ヅダの名を永遠不動のものにするために
湧き出す雑念に眉をしかめながらも、ただただ前へと突き進んだ
           ・
                         ・
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――前線基地・西格納庫――

唐突に起こった今回の襲撃事件、その終結もまた唐突なものだった
GN―Xの出自、撤退を援護したサイクロプスの存在
事態は収拾に向かっているとは言い難いものの、一応の区切りは付いたのだろう
何より、スイール市内で休暇を楽しんでいた仲間達の安否が判ったこと、それを素直に喜びたかった

『カタギリさん、戻ってきましたね』

ビリー「あぁ……」

出撃していた全てのMSが帰還してくる光景、それは慌ただしくもあり、壮観でもあった
しかし目はすぐに格納庫へと戻る
もっととんでもないものが其処にあるからだ

ビリー「……これが、もう一人のライセンサーのイナクトか」

事件を即座に解決し、更にはいの一番に帰還した新緑のイナクト
見上げるだけでも分かるその威容、技術者としての血が沸々とたぎるのを感じた

キッド「すげえなぁコイツ、がわはイナクトなのに中身はまるで別物だぜ!」

ビリー「オーバーフラッグス同様、コンデンサタイプのGNビームサーベルを装備しているようだが……内部構造はそれ以上に凄いみたいだね」

ビリー「格闘戦用の高性能モノアイ……プラズマエンジンも一回り大型の見たことのない代物だ」

ビリー「二眼カメラにしたGNフラッグとは真逆の調整……搭乗者の希望なのかな」

ミカムラ「エンジンは既存型に合うものがない、どうやら特注品のようだな。このサイズならばオーバーフラッグどころか、ティエレンだって浮くだろうよ」

ビリー「……」

軽く装甲に触れ、指で叩く
衝撃が鈍く沈むような低音、伝わる感覚だけでもその頑強さが伺えた

ビリー「積層されたEカーボン……質もさることながら、特筆すべきはその量だ」

ビリー「恐らく、オーバーフラッグのそれとは比べ物にならない分厚さの装甲が使用されているのだろう」

オットー「重装甲を爆発的な出力で無理やり動かす……惹かれますね」

ビリー「例えるならオーバーフラッグは戦闘機、このイナクトは重攻撃機といったところか」

ビリー「それでも、巡航形態ならオーバーフラッグに近い速度が出るだろう」

ビリー「こんな掛け値違いの設計思想があるなんて……何というのかな……こういうの」

ビリー「……」

キッド「? どした、カタギリさん」

ビリー「いや、あまり参考にはならなかったからね」

ビリー「このイナクトは僕と教授の目指したフラッグとは違いすぎる、もういいかな」

キッド「お、おいおい……」

目の前のイナクトを何故か見ていたくなくて、目を逸らす
イラつきが棘のように残り、自然と吐く息を荒げさせた

ビリー(惑わされるな……僕は僕の道を行けばいい)

ビリー(そうさ、この設計図に従っていればいつか、いつか必ず!)

キッド「……」

キッド「……カタギリさん、最近様子おかしいよな」

モーラ「ん~、妙にフラッグに固執してるっていうか、教授に拘ってるっていうか……」

ミカムラ「以前の柔軟性が見られんのは、感心せんのだがな……」

整備班の不安は自然につぶやきとなるが、それが耳に届くことはなく
自分の腹の底、くすぶる感情が嫉妬だと気付くことも、今は出来ずにいた



――休憩室――

リディ「いててっ!?」

医師「動くな、軍人だろう」

リディ「うう……」

ダリル「何がともあれ、全員が無事に帰ってきてくれて良かったよ」

ミーナ「良くないわよ……」クタァ

ヴィクトル「ん? こっちは元気なさそうだな」

タケイ「……」

ミーナ「あれだけ沢山買った服やアクセサリー、全部瓦礫の中に埋まっちゃったのよ?」

ミーナ「元気も吹き飛んじゃうわよ……骨休めの筈が、とんだ骨折り損のくたびれもうけだわ」

ルドルフ「命あっての物種だ、死ぬよりはずっとマシだろう」

ミーナ「マリーダやフェルトの服っ! あれを見てたらあんた達も絶対後悔の念を穴という穴から吐き出すわ!」

ジョシュア「なんだそりゃ」

ヴィクトル「ハッハッハ、良いなぁ、若いってのは」

リディ「……でも、良かったんでしょうかね。帰ってきちゃって」

ダリル「何がだ、リディ」

リディ「……」

リディ「隊長、いくら仕方がなかったとはいえ、スイール防衛隊のイナクトを拝借しちゃったんですよ?」

リディ「変な言いがかりつけられて、隊長に危害が及ばなきゃ良いけど……」

ジョシュア「そうなのか?」

ルドルフ「そうだよ、話聞いてなかったのかお前」

ミーナ「……へんな言いがかりも何も、完全な犯罪行為だけどね」

ダリル「逆にあの場にいた方が色々厄介だ。後はお偉方同士の話し合いで決めりゃあいい」

ダリル「言い方は悪いが、バックレちまえばこっちのもんだってな」

リディ「……まぁ……正当防衛ってことでこっちはだんまり決め込んじまえばいい、のかな?」

リディ「……むう……」

タケイ「……悩む気持ちは分かるがな」

リディ「え」

タケイ「だがあの人が行ったこと、それが正しかったか否かはあの場にいた俺達が一番分かっているはずだ」

タケイ「必ずしも社会の枠組みから外れないことが正しいとは限らない、男なら理解くらいは出来るだろう」

リディ「あ……はい……」

タケイ「折り合いをつけろ。お前は真面目すぎる」

タケイ「……」チラッ

ジョシュア「おう」

タケイ「……」

スタスタスタ

リディ「……」

ジョシュア「あいつ、まだちょっとリディにはよそよそしいのな」

リディ「よそよそしいんですか、あれ!?」

ダリル「喋らなくなってからが本領だからな」

ダリル「しかし、言ってることは理解できたろう。それでも納得出来なきゃ、隊長と話してみるといいさ」

リディ「間違いだと思えるほど自惚れちゃいません」

リディ「ただ、なんていうか……その……」

ルドルフ「……」

ヴィクトル「今日はもう休め、せっかく白馬の騎士を演じきってみせたんだ」

ヴィクトル「明日になれば考えもまとまっているだろう。肝要なのは、焦らないことだ」

リディ「……はい……」

ジョシュア「ったく、せっかく男として株を上げてきたってのにこれだもんな」

ダリル「良いじゃねえか、考えられる内に考えるのが一番だ」

ジョシュア「お甘いこって」

ダリル「さあて……そろそろ隊長もグッドマン司令から解放された頃か?」

ジョシュア「……リディじゃねえが、お咎め無しであることを祈るしかないか」

ヴィクトル「今回の一件、グラハム少佐も一応金星あげてるんだ。無事と思いたいが……」

ルドルフ「…………」

ルドルフ(やはり大尉の様子が少しおかしい)

ルドルフ(あのヤザン・ゲーブルと……何かあったのだろうか?)

ヴィクトル「…………」


――居住区・ミーナ自室――

PPP

PPP

スメラギ『はい、リーサ・クジョウです』

スメラギ『現在所用により手が放せません、ご用の方はピーッという発信音の後にメッセージをどうぞ』

フェルト「……」

『ピーッ』

フェルト「……スメラギ……さん……」

フェルト「あたし達……世界を変えられたのかな……っ」

フェルト「ここは何も……何も変わってないよ……っ……」

フェルト「クリスは……リヒティはっ……何のために……ぅっ……ひっく……」


――廊下――

帰還した兵士や整備班で賑わう他の棟とは裏腹に、妙な静けさを湛えた司令棟
廊下を歩く度に、間隔の違う二つの足音が小気味良く響き渡っていった

グラハム「ふう……ようやく説明が終わったな」

マリーダ「はい、マスター」

グラハム「これでグッドマン司令からの口添えが貰えれば、スイール国にも言い訳のしようもあるというものだが」

マリーダ「カタギリ司令にも先ほど報告を……苦い顔はされましたが、手は打っておく、と」

グラハム「……あの方には一生頭が上がらんな」

グラハム「だが思っていた以上にグッドマン司令の追及も弱かった、楽に済んでとりあえずは一安心かな」

マリーダ「カスタム機ならばともかく、一般機体でGN―Xを行動不能に追い込んだとあればかける言葉も見失いましょう」

グラハム「彼が静かなのは構わん、かえって気が楽だ」

グラハム「だが、お前が静かだと些か拍子抜けしてしまうな」

マリーダ「…………」

グラハム「寡黙な女も嫌いではないよ。理知的とあれば尚更だ」

マリーダ「からかわないでください」

少し眉をしかめ、顔を逸らすマリーダ
機嫌を損ねたというよりは、冗談を真に受けてふてくされた、という感じだ
だが、どんな顔をしても品を失わないのが彼女の特徴でもあった

マリーダ「マスター」

グラハム「ん?」

マリーダ「スイールでは……助けてくださり、有り難うございました」

グラハム「言うな。むしろ私は謝らねばならん立場だ」

グラハム「あれだけ懇願されたにも関わらず、流石に私も無謀が過ぎたというものだ」

マリーダ「……」

グラハム「今回ばかりは本当に無茶をしたという自覚がある」

グラハム「今後はもう少し節度をもって動くようにする、無茶はしない。誓わせてもらおう」

マリーダ「無茶はしない……」

マリーダ「それでは、相変わらず無理はなさるのですね。そうですか……」

グラハム「……ぬう……」

マリーダ「分かりました……あまり期待はせずに、心に留めておきます」

グラハム「くっ!」

マリーダ「お気になさらず、どうぞお話の続きを」

顔の位置が元に戻り、まとめられた髪がしなやかに揺れる
無表情ではあるが、してやったりという心中がにじむようであった
口で彼女にかなわないのが、少し悔しかった

グラハム「兎に角、これからまた忙しくなる」

マリーダ「ヅダとサイクロプスの編隊は、GN―Xを連れたままエジプト近辺で消息を絶ちました」

グラハム「最終防衛ラインに反応がないとなれば、アフリカには逃げられていないはずだ」

マリーダ「潜伏しているとしても、そう長くは保たないはずです」

グラハム「索敵にかかる前に遠回りをしてでも海路を使うか、残りのサイクロプスらと協力し、ラインを突破して逃げるか……か」

マリーダ「反国連勢力の計画は内容こそ不明ですが、発動時期は近いと推測されます」

グラハム「となれば……強行突破か」

グラハム「マリーダ」

マリーダ「はっ、直ぐに部隊の招集と機体の搬送準備、輸送機の手配を」

グラハム「全てお前に任せる」

グラハム「私は……彼と少し話してくる」

マリーダ「彼、ですか……」

グラハム「……」

マリーダ「マスター、お気をつけて……奴は危険です」

グラハム「分かっている、だが敵ではない。案ずるな」

グラハム「……マリーダ」

マリーダ「はっ」

グラハム「無茶はしない……確かにそういった」

グラハム「だが、もしまたお前の命が脅かされたとき……そのときは」

マリーダ「マスター」

グラハム「!」

マリーダ「そうならないよう、全力を以て行動します」

マリーダ「ですがあなたの価値は……私などのそれとは比べ物になりません」

グラハム「マリーダ、それは……!」

マリーダ「ですので!」

グラハム「っ……」

マリーダ「ですので、私もあなたの命が永遠に失われようとしたときは……迷いなくこの身を捧げます」

グラハム「……」

グラハム「全く、お互い一年、何も変わっちゃいないな」

マリーダ「それでいいのではないのでしょうか……少なくとも、今の私達は」

グラハム「そう、なのかな」

グラハム「……行ってくる」

マリーダ「はい……マスター」

二つの足音が分かれ、ゆっくりと遠退いていく
それでも言葉を発した唇に、温もりが何時までも残っているように感じた

グラハム「…………」

立ち止まった、扉の前
少し戸惑いながら開閉ボタンに手を伸ばした
気後れする心を映すかのように、扉はゆっくりと開く
奴は、其処にいた

ヤザン「……よう、随分と遅かったな」

グラハム「そうかな? 私としては、少し早いくらいのつもりだったのだが」

ヤザン「はっ、言ってくれるぜ」

大きなソファーの真ん中で、不遜に陣取りウイスキー片手に不敵な笑みを向ける金髪の男
上半身は裸、身長は自身より頭半分ほど抜けているだろうか
大柄で逞しく、荒々しさを随所から滲ませた野性的な男という印象だ

ヤザン「ヤザン・ゲーブル大尉、ライセンサーだ」

グラハム「グラハム・エーカー、階級は少佐。ライセンサーだ」

ヤザン「敬語は使うべきですかな、少佐殿?」

グラハム「最初に使わなかったんだ、同じライセンサーとして同格扱いで構わん」

ヤザン「そりゃ助かる」

向かいに座ると直ぐ杯を一つ勧められる
軽く手を振り断ったが、ヤザンは嫌そうな素振り一つ見せずに杯を引いた
既に瓶の中身は半分ほど無くなっているのに、酔った様子は全く見られない

グラハム「何より、尊敬の念の無い敬語ほど耳障りなものはないからな」

ヤザン「へへっ……そりゃあちと誤解だなグラハムさんよ」

ヤザン「何のカスタマイズもされていないイナクトでGN―Xを止められる奴はそうそういない、これでも一目置いているんだぜ」グビッ

グラハム「…………」

グラハム「貴様がマリーダに対して行った侮辱、忘れてはいまい」

ヤザン「……さぁてな」

グラハム「謝罪しろ、とは言わん。だが念を押して言わせてもらう」

グラハム「今後彼女に対し、侮蔑の言葉を浴びせること……それはこの私が決して許さないと」

ヤザン「…………ふん」

ヤザン「思ったよりは器の小さいことを……そんなことを言うために此処に来たのか?」

グラハム「……半分はな」

ヤザン「半分、か」

グラハム「…………」

改めて腰を据え直し、小さく息を吐く
ヤザンは立ち上がると冷蔵庫の中からよく冷えた水を取り出し、薦めてきた

ヤザン「酒の友が水とは、締まらねえ話だ」

グラハム「下戸はどの世界にもいるさ、飲むか否かはその者の自由だ」

MS搬入の光が点滅し、窓からグラスを赤く染めていく
互いの赤を軽く触れ合わせれば、硝子の擦れ合う透明な音が響いた
上機嫌のままに、ヤザンが口を開く
始まりは取り留めもない世間話
掴みとしては上々だろう、水を流し込みながら耳を傾けた           ・
                         ・
                         ・


何を話しただろうか
下らない世間話、これからの作戦、新型MSの性能の話
時間にして一時間弱、肴になる程度には進んでいた

ヤザン「おい、グラハム」

グラハム「何だ」

ヤザン「さっきマリーダに対する話が半分と言ってたが……」

ヤザン「残りの半分を聞きそびれた。覚えてたら、教えてくれ」

グラハム「……」

仕掛けてきた、と思った
一時間の雑談の合間も、お互い機会を探り合うかのような緊張の中にあった

グラハム「残り半分は、お前という存在を見極める為に」

ヤザン「ほう……」

グラハム「そう考えてきたつもりだったのだがな」

ヤザン「見えないのか? 俺が」

グラハム「当然とも言える。私は軍人だが、カウンセラーでもないし心理学者でもない」

ヤザンという人間がどのような存在かは、目の前にしても深くは理解できない
恐らくはヤザンもそうなのだろう
だからこそ仕掛けてきた
良いだろう……目的が同じなら、乗ってやる

グラハム「軍人は……戦うことでしか世界と向き合えん」

グラハム「戦ってみないことには、理解など出来ないと思わんか?」

グラハム(さぁ、来い……!)

ヤザン「……!!」

奴は、その瞬間笑っていた

ヤザンが勢い良く立ち上がる
この瞬間を待ち望んでいたような、生き生きとした表情を浮かべながら、此方を睨みつけていた
真っ直ぐに視線を交わらせるその瞳は、獲物を見つけた野獣のそれに瓜二つだった

――――

会話以外に音のない部屋、衝撃で倒れたグラスの音が大げさな位に響いて跳ねた

ヤザン「それは……俺と戦いたいって言葉と受け取るが構わねえな?」

吐息さえ感じられるほどに近い距離
額が擦れ合いそうなくらいに顔を寄せ、確認の言葉を吐いた
酒臭さが癇に障ったのかグラハムは嫌悪感こそ露わにしたが、顔を背けはしなかった

グラハム「分かっているなら話は早い……あまり言いたくはないが、謹んでこの言葉を贈らせてもらおう」

グラハム「ヤザン・ゲーブル……表に出ろ!」

ヤザン「上等だ……ユニオンのモヤシ野郎ッ!」

交わした言葉は多くなく、すぐ前に奴が宣言した通り軍人に人間観察など出来るものではない
だが、軍人だからこそ感じる【直観】が、ひしひしと己の脳髄に信号を送っていた

獅子の群にリーダーが二つも並ばぬように
虎が決して群れないように
似ているからこそ、近しいからこそ
――コイツは、決して相容れない存在だ、と

ヤザン「ダンケル、ラムサス! イナクトの準備だ! 急げよ!」

グラハム「カタギリ、フラッグを用意してくれ。皆まで聞くな、頼むぞ」

お互い真っ直ぐに格納庫に向かう
それ以降言葉は交わさなかった、ルールも決めはしなかった
戦って確かめる、その目的一つあれば十分だったからだ


――休憩室――

キッド「マ、マリーダぁ! 大変だ!」

ダリル「お?」

ジョシュア「なんだぁ、いきなり」

キッド「はぁっ……はぁっ……」

マリーダ「……どうした?」

キッド「グ、グラハム少佐がフラッグを持ち出して……ヤザン・ゲーブルとやりあうって……!」

マリーダ「な……っ!」

リディ「なんだってぇ!?」


――基地外――

ビリー『待ってくれグラハムッ! せめて模擬戦用のペイント弾に詰め替えて……!』

グラハム「構わん。申請無し、未許可の模擬戦だ。タイミングもそこそこ、僅かな時間さえ惜しい」

グラハム「それに……どうやら奴もそのつもりのようだ」

ビリー『そんな……!』

――

ラムサス『だ、大丈夫なんですか大尉!? いくらライセンサー同士ったって……未許可で実弾使用の模擬戦なんて!』

ヤザン「MSは戦争の主力、殺し合いの道具だ! 玩具を担いでチャンバラする代物じゃあねえ」

ヤザン「っと……」

ダンケル『ですけどよ、相手はグラハム・エーカーですぜ! 万が一……』

ヤザン「万が一……俺が殺されちまうとでも?」

ダンケル『い、いや……』

ヤザン「そうだな……やっちまった後のことは考えておくか」

ダンケル『冗談キツいぜ大尉……』

グッドマン『ヤザン・ゲーブルッ! 貴様何を考えている!?』

ラムサス『うぉっ!?』

ヤザン「あぁ?」

グッドマン『今すぐ馬鹿げたお遊びを止めろ! グラハムもだ、貴様らライセンスを持っているという自覚が無いのか!』

ヤザン「ライセンス権限の模擬戦だと言っている! 迷惑はかけやしませんよグッドマン司令」

グッドマン『ラ、ライセンス権限だとぉ!?』

ヤザン「へっ、此処は今戦時下だ。戦場でなら俺の好きなようにさせてもらう!」

グッドマン『なっ、なっ……なぁっ!』

グラハム「グッドマン司令、私からもお願いします」

ヤザン「!」

グッドマン『グラハム! まさか貴様までもがそんな……!』

グラハム「あのような問題の後です……申し開きのしようもありますまい」

グラハム「ですが、これはこの紛争で私が彼と肩を並べて戦う上で、欠いてはいけぬものなのです」

グッドマン『……!』

グラハム「ご理解いただけぬとは思いますが……」

グッドマン『もう、いい』

グッドマン『勝手にしろ、この戦闘狂共がッ!!』ブツッ

グラハム「……また嫌われてしまったな」

ヤザン「好かれる努力もしないくせに、何をほざいてやがる」

ゆっくりと夜の荒野を踏みしめ、基地から離れるフラッグとイナクト
滑走路を抜け、荒れた大地に並んで立つ
ヤザン専用のイナクトは、グラハム専用機に比べると一回りほど大きく見える
メインエンジンの周りなどは、殊更に違っていた

マリーダ「マスターッ!」

ビリー「マリーダ!」

マリーダ「カタギリ顧問、マスターとは話せないのですか!?」

ビリー「駄目だ……もう回線を切っている」

マリーダ「そんな……っ」

リディ「中尉、少佐はっ!?」

ダリル「あぁっ……!」

ミーナ「うそ……ほんとに?」

タケイ「……!」

――――

グラハム「……」

リニアライフルの照準を、目の前のイナクトに合わせた
操縦桿を握る指の震えが、肘にまで伝わるのを微かに感じ取った

グラハム(こんな感覚は、アレハンドロ・コーナーとの一戦以来だな)

グラハム「刮目させてもらおう……ヤザン・ゲーブル」

グラハム「貴様の全てを、私の前にさらけ出して見せろ!」

GNビームサーベルにいつでも手が伸ばせるよう、機体の左手は遊ばせておく
ヤザンのイナクトもまたクロスレンジに特化した近接格闘用のMS
耐え難い緊張感に、自然と舌が唇を舐めた


――???――

リヴァイヴ「ねえプルツー、例の手紙の件はどうなったんだい?」

プルツー「知らないよ、まだ何の連絡も来やしない」

リヴァイヴ「知らない? それは困るな――あれを書いたのはこの私なんだよ」

プルツー「返事が返ってこないなんて……変なこと書いたんじゃないだろうね! リヴァイヴ・リバイバル!」

リヴァイヴ「まさか、君に言われるがままの内容を書いたまでのことさ」

ヒリング「ねえねえねえねえっ!!」バァンッ

プルツー「ん?」

ヒリング「ヤザンから連絡っ! なんかグラハム・エーカーと一戦交えるってよぉ!」

プルツー「!」

ウィンッ

リボンズ「その話……もっと詳しく聞かせてもらおうか?」

――――

ヤザン「へへっ……たまらねえな」

大型ブレイドライフルを構え、サイトの中にオーバーフラッグを捉える
手のひらがじわりと汗に濡れる。久しい感触に、頬は独りでにつり上がっていった

ヤザン(なりは小せえのに、プレッシャーはガンダム並みか……期待させてくれるじゃねえか)

ヤザン「楽しませてくれよグラハム……このままじゃ収まりがつかねえからな」

ヤザン「あのマリーダを従えた男の力……腹一杯食わせろやッ!」

右手はGNビームサーベルで即座に攻撃出来るよう、意識を傾けておく
相手は左利き、それに加え速度と対応力では他の追随を許さぬグラハム専用カスタムフラッグだ
甘美な死の予感に、背筋が震えた
こんなに愉しい戦争は、初めてかもしれない

あまりにも、唐突

基地の中から見守る兵士達は、皆一様にそう思ったはずだ

グラハムは軽いとはいえ、流血を伴う負傷をしている
ヤザンは先程戦闘から帰還したばかり、疲労が無いはずがない
今でなくても良い、何故今なのだ、と

誰もが、そう思った

グラハム「…………」

ヤザン「…………」

動きが、止まる
二機の間、その距離は百メートル程度
踏み込めば、一挙に詰められる一触即発の距離だ
いつの間にか基地のほぼ全ての人間が、固唾を飲んでその一騎打ちを見つめていた

マリーダ「…………」

唐突ではないのだと、薄々マリーダは理解していた

グラハム・エーカーとヤザン・ゲーブル
共に戦場で名を馳せ、戦うことにのみ意義を見出す存在
そんな二人を同じ環境に置けば、一度は必ず、近い内にこうなるはずだったのだと
それがたまたま、このタイミングであっただけであり
所詮、早いか遅いかの差でしかないのだと

マリーダ「っ……」

心が通ったような気がしても、また置き去りにされたような感覚に陥る
無意識のうちに手が伸びて、頬を一筋の熱が重力に引かれて落ちていく

マリーダ「……かな……で……」

マリーダ「行かないで、マスター……」

動いたのは、無情にもフラッグの方
求められた手を振り払うように、突撃した

グラハム「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぁぁッッ!!!!」

ヤザン「るあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

一直線、お互い最大戦速、最大威力の一撃がぶつかり合った
一瞬の間に抜かれたビームサーベルは、手練れでなければ確認すら出来ない速度に到達していた
ぶつかり合うエネルギーとエネルギーは、重ねられた二つの紅刃を中心に波紋の軌跡を映し出す
イナクトとフラッグの顔が、深紅の光に染まった


グラハム「ふッ……!!」

衝突に近い激突、パワー不足を埋めてあまりある豪快な一撃をフラッグは繰り出した
重量に差のあるMSとの近接戦闘は不利でしかない、グラハムはレバーとバーニアを忙しなく調整、ハイパワーのイナクトに吹き飛ばされまいと食らいつく

ヤザン「ぐぅッ……!!」

対して、出遅れから流れを毟られぬよう、イナクトはパワーを頼みに前に出る
焦りすぎて足元を掬われぬよう、繊細な挙動と冷静な判断力がヤザンには求められた
機体の特性とは正反の課題、それをヤザンは苦もなく余裕さえ見せて操った

グラハム「はぁぁぁぁぁああ!!」

ヤザン「ずぇああぁぁ!!」

交差するサーベルを軸に数度回転、遠心力と互いの剣裁きにMS一機分の間が空いた
一閃、そしてまた一閃
息つかぬ、幾重にも繰り出される数十合の応酬
皆、息を呑んだ

ヤザン「そらぁぁッ!!」


大きく叩きつけられたブレイドライフル、それをグラハムはビームサーベルで受ける
すかさず懐に突き出されたヤザンのサーベル
しかしフラッグは機体を丸め、逆にヤザンの懐へと入り込む

ヤザン「!」

イナクトの腹と背中を合わせるフラッグ、逆手持ちのソニックナイフが唸りを上げてプラズマの刀身を延ばした
狙い目はただ一点、イナクトのコクピット
突きつけてホールドアップ、それで終わる筈だった

ヤザン「猪口才……なぁ!」

グラハム「がっ!?」

だが、刃は届かない
イナクトはプラズマソードの発生より先にフラッグへと体当たりをかまし、即座にバックブーストし距離を取ったのだ
空回りする一撃、イナクトは軽く跳躍すると空中変形、その巨体を易々と夜空へ持ち上げた

グラハム「お次は空か……!」

ヤザン「嫌いじゃあねえだろう!?」

グラハム「無論、空は私のホームだ!」

フラッグも追随し、その身を頭上深き闇の中に投げ込んでいく
絡み合う二機の機動、一瞬の交錯と数発のライフル、あわやというタイミングですら互いの弾丸は相手に届かない
前線基地にまで届くほどの暴風、二機は台風の目となり円を描いてぶつかっていく

ヤザン「ホーム? そりゃあ残念だなぁ!」

グラハム「何が言いたいッ!」

ヤザン「俺が勝てばお前の空は俺のもんって事だ、今の内に別れでも惜しんどけ!!」

グラハム「言ってくれるなヤザン・ゲーブル……!」

グラハム「ならば、他人の家に土足で踏み込むということの意味、その身を以て味わえッ!!」

太陽炉搭載機でも付いていけるか分からないほどの、壮絶なドッグファイト

最速旋回時には12G以上もの圧がかかるカスタムフラッグを、グラハムは蝶のような軽さにまで昇華させイナクトを襲う

ヤザンもまた、速度の緩急、変形の僅かなズレを意図的に利用した変則機動でグラハムを攪乱し対等近くにまで持ち越していく

死の狭間の攻防、二人の顔は愉悦に満ち満ちていた

グラハム「ぐ……ッッ!」

ヤザン「は……ッッ!」

苛烈なGに遠退く意識、つなぎ止めるように操縦桿を握った
数度の交錯、背後を取っても、急速旋回からまた背中を狙われる
互角、機体性能からフラッグが優勢ではあったが、後一歩がグラハムは掴めない

軋む身体が、意識に追いつかないのだ

グラハム「馬鹿な……奴の方が反応速度が速いとでもいうのか……!?」

ヤザン「反応が鈍い、Gに耐え切れていないのか? 情けない――!」

ヤザン「だがこのイナクトじゃ細かい動作が利かねえ……付け入るのは、ちと無理だな」

グラハム「身体の方は奴の方が遥かに精強か……だとしてもッ!」

十三度目の交錯、イナクトの肩先を蒼弾が掠め、フラッグの頭部頭頂部が僅かに削れて散る
僅かな拮抗が、二人を苛つかせた

グラハム「このままでは埒があかん……!」

ヤザン「ちっ、まどろっこしいっつうんだよ!」

グラハム「ならば――!」

ヤザン「そろそろ……第2ラウンドと行こうかぁ!!」

大きく旋回、夜空に白い無限大の印を描き、十四度目
両者共に空中変形、ビームサーベルを抜き一直線に相手へと突っ込んでいく

グラハム「でゃあッ!!」

ヤザン「ぬぅッ……!!」

開幕同様二刀で立ち向かうヤザンに対し、グラハムは両手でビームサーベルを握りしめる
再びの激突、その威容に反し、弾かれたのはヤザンのMS
手に握っていたブレイドライフルが、砕けて落ちた

グラハム「反撃体勢の前に押し込むッ!」

ヤザン「嘗めんじゃねえええええ!!」

グラハム「うぉっ!?」

高度を下げたイナクトを、踏みつけ落とさんとフラッグが構えた
だが蹴りは届く前に横合いからの張り手に叩かれ、逸れてすり抜けていく
同時に胸元に叩き込まれた左の拳
装甲がみしりと音を立て、衝撃がグラハムをシートに押し付けた

グラハム「かっ……」

ヤザン「どうだッ!」

グラハム「……逃がすッ……!」

ヤザン「な、に!?」

グラハム「ものかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ヤザン「ぬぁぁっ!!」

踏み損ねた脚が虚空に揺れる
それでも、確かな何かを踏みしめ大空で堪えた
その重量故に体勢の整わぬイナクト、そのがら空きの胴体にフラッグは飛び込んだ

ヤザン「ぐうううう……!」

グラハム「つう……!!」

ビームサーベルの紅刃がもつれ込み墜ちる二機を照らす
基地のあちこちから呻くような声が聞こえた

皆はようやく気付いたのだ
模擬戦がいつの間にか、純然たる死合に変貌していることに

グラハム「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ヤザン「つぁああああああああ……!!」

弾けた粒子の光は、二人が離れたことを告げた
離れる瞬間にさえ、刃と刃は五度ほどぶつかりせめぎ合っていた
地表すれすれ、巡航形態による減速と変形
普通なら地表に激突してもおかしくない変態着地を、二機は瞬時に行ってみせる

ヤザン「ふーっ……ふーっ……!」

グラハム「はぁーっ……はぁーっ……!」

互いの距離は五百メートル以上
また二人が踏み込めば、一瞬でその距離はゼロになるだろう

ヤザン「ふ……ふふふふふ………!!」

グラハム「はっ……はははははははっ……!」

肩を大きく揺らし、呼吸をする二人
自然ともれる笑みが、二人の表情を恐ろしい何かに変えていた

止めるなら、明確な硬直が生まれた今しかない
だが……誰も前に出ようとはしなかった

グッドマン司令が待機させたMSは、その場に足踏みし一向に進まないでいる
それもその筈だった、彼等の眼差しは、生身の視線で捉えるものと違う存在を見ていたからだ

国連兵士「ひぃっ……!」

――お互い傷つきながらも、相手の喉笛に食らいつかんとする二匹の餓えた野獣
そんなものの間に飛び込む者は、誰もいやしない

恐怖は時に自らを縛り付け、生命の危機から離そうとする
MSという鉄騎の中においては、人の感覚は鋭敏に研ぎ澄まされていく
その結果が、この有様なのだ

グラハム「……!」

ヤザン「しぃっ……!」

二人の呼吸が同時に整う
笑みも消え、決着に向けて思考を巡らせ意識を集中させていく
それと等しく、視線は同じ場所を見つめていた

グラハム(ビームサーベルの粒子残量、もう保たんか)

ヤザン(ちっ、出しっぱなしのフル出力で斬り合う奴なんかいなかったからな)

グラハム(あの装甲を貫くには、プラズマソードでは力不足……このままでは不利なのはこちらか)

ヤザン(強気に振れるサーベルじゃねえと、小回りが利くフラッグには分が悪いな……)

グラハム「ならば、決めるしかあるまい……!」

ヤザン「それじゃあ、決めるしかねえなぁ――!」

阿修羅と野獣、お互い一歩も譲らず最終局面

フラッグはライフルを投げ捨て、ビームサーベルを両手に握り正眼の構えを取る
イナクトはスピードでは不利と感じたか、脇にビームサーベルを構え、後手のカウンターを狙う

決めるつもりだ。お互いこれが最後の邂逅になると、心の中で確信した

グラハム「……」

ヤザン「……」

一触即発、時が止まったかのように基地が静まり返った
ただ唯一、世の理の不変を伝えるが如く、風のみが二人の間をすり抜けていく

ビリー「っ…………」

ミーナ「ごくり…………」

高鳴る鼓動が五月蠅いくらいに全身を響かせる
静まれと願うことはない
その時が来れば止まると、二人は知っているからだ

リディ「……ッ……」

フェルト「ぅ…………っ」

そして

グラハム「おぉッッ!!」

ヤザン「はぁッッ!!」

風が、止んだ

『――マスター――』

グラハム「……あ……!」

一瞬

二機は一気に最大戦速に到達し、一瞬で距離を詰めた

ぶつかり合う機体、爆発のような砂煙が二機を中心に巻き起こり、周囲を大地の色に染め上げた

ヤザン「……」

グラハム「くっ……!」

ヤザン「グラハム」

ヤザン「てめぇ、何のつもりだ……あぁ!?」

止まっていた風が再び吹いて、砂煙をかき消し去っていく
ビームサーベルの紅刃は一つ、ヤザンのイナクトが握る一振りのみが淡く光っていた
フラッグのビームサーベルは粒子を解除され、ただの柄となり果てている
粒子が切れたのではない。わざと解除したのは明白だった

ヤザン「答えろ、何考えてやがる! グラハムッッ!」

二機は離れ、直後フラッグの手の中から柄が落ちた
ヤザンは血管を額に浮かび上がらせ、一度は引いたビームサーベルをフラッグに突きつける

グラハム「…………」

グラハムは応えない
そればかりか、フラッグの頭部は何かを探すように基地を見つめている
ヤザンの表情が、怒りに歪んだ

ヤザン「嘗めやがって……!!」

イナクトのサーベルが、大きく振り上げられた

グッドマン『そこまでだ! もう良かろう!』

ヤザン「!?」

グッドマン『両者素晴らしい戦闘だった、これを以て模擬戦を終了とする!』

その瞬間、大音量のスピーカーが絶妙なタイミングでかけられた
それは決着と見なしたグッドマン司令が、事態を収めようと慌てて放送したものだった
直後、割れんばかりの歓声が基地中から響き渡る
敵を倒さんと振り上げたビームサーベルが、観衆の歓喜を誘う引き金になっていたは皮肉としか言いようがない

ヤザン「なっ……何だ!?」

グラハム「……何とか……収まったか」

最高峰のパイロットの演じる、最高峰の模擬戦
行き過ぎた戦いの落とし所としては、これ以上無い結末になっただろう
呆けている内にイナクトのビームサーベルは粒子切れで刃を失っていく
グラハムは小さく息を吐き、フラッグを基地へと向けた

ヤザン「何言ってやがる……こんな終わり方、納得がいくものかよ!」

グラハム「……」

ヤザン「あ、こら待ちやがれ!」

グラハム「良い模擬戦だった……久しぶりに血沸き肉躍る闘いに酔いしれた」

ヤザン「てめぇッ!」

グラハム「……ヤザン、貴様も一端の軍人だろう」

グラハム「まさかライセンサー同士、本気で殺し合っていましたなどと上に報告する訳にもいくまい」

グラハム「私の上司にも……貴様の上司にもな」

ヤザン「ぐっ……」

グラハム「良くも悪くも、これが限界だ」

グラハム「納得してくれ、私はまだライセンサーとしてやるべきことがある」

ヤザン「……」

軋むボディをゆっくりと動かし、フラッグが基地へと歩く
その後ろ、少し遅れてイナクトも動く
近付く度にMSの装甲越しにも歓声が聞こえてくるのを感じる
少しこそばゆい感触が、二人の熱を冷ましていった

ヤザン「……貸しにしとくぜ、誘ったのはてめぇなんだからな」

グラハム「ちっ、こんなところだけはこすずるい……好きにしろ!」

機体から降りると、すぐさま鬼の形相のグッドマンが近づいてくる
パジャマ姿でありながら気迫に満ちた、ヤザンですら気圧されるプレッシャーで二人の前に立つ
しかし周りの盛り上がりように、何か思うところがあったのだろう
指で【次はない】と念押して、その巨体を揺らしながら自室に帰っていった


――格納庫――

フラッグを定位置に戻し、グラハム少佐がコクピットから降りてくる
メットを外すと、汗が光の粒のように輝き、散っていった

リディ「お疲れ様です、隊長」

グラハム「助かる」

水とタオルを手渡し、メットを受け取る
グラハム少佐はその場で水を一口飲むと、残りを頭の上からかけて気持ちよさそうに髪をたくし上げる
御満悦の表情は、実年齢よりずっと若く、活き活きとして見えた

グラハム「……ふぅー……」

マスコミ受けの悪さに反し、男女問わず人気の高い人だ
汗を拭く動作一つにさえ、つい見惚れてしまう
不意に、グラハム少佐がこちらを向いた
見とれたのが恥ずかしくなり、少し視線を逸らしてごまかした

グラハム「マリーダは?」

リディ「それが、俺に水とタオルを渡してそのまま中に……」

グラハム「だろうな……舌の根も乾かぬ内のことだ。怒るのも合点がいく」

リディ「何のことです?」

グラハム「男女の間柄を詮索するのは感心しないな、リディ少尉」

リディ「……本当に何かあったりとか……?」

グラハム「安心しろ、何もない」

リディ「…………」

グラハム「心配性だな、お前は」

ビリー「グラハム!」

ミーナ「何やらかしてんのよあんた! まだ昨日今日の話じゃないのよ!?」

ダリル「隊長ーッ!」

続々と人が集まり、あっという間に少佐を囲んで群がっていく
身動きが取れない詰め物状態、少佐は窮屈そうにしながらも、静かに笑っていた

グラハム「……賑やかだな」

リディ「当然ですよ。いきなり隊長がヤザン大尉と殺し合うんだから……冷や汗かきました」

フェルト「やっ、やっぱりそういう戦いだったんですか……?」

ダリル「隊長、水臭いですぜそんな!」

グラハム「リディ……」

リディ「あ、いや……!」

グラハム「案ずるな、本当にただの模擬戦だ」

グラハム「少し熱が籠もりすぎただけのこと、結果は御覧の通りだ」

ジョシュア「御覧の通りというより……御覧の有様って感じだな」

ミーナ「フラッグもベコベコだしねー」

グラハム「……兎に角、何もない。何もないと言っている!」

グラハム「明日からまた戦場だ、今日はもう休め」

フェルト「でも……!」

グラハム「そんな泣き腫らした目で言われてもな、せっかくの可愛い瞳が霞んでいるぞ」

フェルト「か、からかわないでください! もうっ」

そう誤魔化すと、すぐにグラハム少佐は人混みを抜けて小走りで基地に入っていく

「ま、また徹夜だぁ……!」

「フレームの歪みとかどうすんのよこれ……」

後ろからは整備班の各チーフがうずくまり、嘆きの声を上げている
それを無視し、追いかけそうになるフェルトの肩をとっさに掴んで引き留めた

リディ「待ったフェルト、隊長の言うとおりだ」

フェルト「でも、リディだって感じたでしょ!? あんなの、グラハムさんじゃ……」

リディ「その辺のリカバーも兼ねて、お二人の邪魔をしちゃいけないんじゃないか?」

フェルト「あ……」

フェルトの言うことはもっともだった
事実、あの死闘が模擬戦だったなどと思っている人間は、グラハム隊の中には誰もいない
マリーダ中尉がいないことが、それを確信づけてさえいた
何時もと変わらないグラハム少佐を見ても、不安は残った

ダリル「……だからこそ、あの人に任せようぜ」

ジョシュア「そういうこった……ファァ」

タケイ「…………」

先輩方は、何も問題ないという表情で基地に帰っていく
きっと彼等は、自分などよりずっと信頼しているのだろう
グラハム・エーカーという男を、そしてマリーダ・クルスという仲間を――

フェルト「……」

フェルトも最後には納得したように、ミーナと並んで帰っていく
気丈な、優しい子だと思った

リディ「……」

模擬戦の間中、ずっと声が聞こえていた
本当にささやかで、必死に耳を澄まさなければ聞こえないような小さな声
闘いに呑まれていたグラハムを引き戻した、かけがえの無い声を

それが誰の声かは、解っていた
だからこそ、追わせなかったのだ

リディ「良いよな……ほんと」

風が耳元をすり抜ける
胸の中の靄が抜けていくような気がした
今なら、家もしがらみも捨てて、もっと高く飛べそうだ
掴めそうな気がして、夜空に手を伸ばした

――基地内・グラハム自室――

グラハム「やはり、そこに居てくれたか」

扉の前、中には入らず寄りかかる
金属の板一枚隔てて、彼女はそこにいた

マリーダ『……』

グラハム「やはり……怒っているのか」

マリーダ『約束をしていただいた……故に大丈夫だと安心したのは間違いでした』

グラハム「……」

マリーダ『でも、今はもうそんなことどうだっていい……』

グラハム「マリー、ダ?」

マリーダ『あなたは留まってくれたから――私の声で、戻ってきてくれたから』

マリーダ『今は、それが何よりも嬉しい……』

グラハム「……そうか」

グラハム「あのとき私は……ヤザンを殺し勝つことしか考えられていなかった」

グラハム「あの男の気迫と、イナクトの意志に呑まれていたのだと今は感じる」

グラハム「闘うことしか考えられないワンマンアーミー……私は自らが最も目指してはならない場所に、片足を突っ込んでいたんだ」

グラハム「知ろうとしてまんまと引きずり込まれていたのだ、情けないことにな」

マリーダ『……』

グラハム「……私は、自分の意識一つ取っても自由に出来ない、至らない男だ」

グラハム「お前はそんな私の隣にいてくれる……正直、救われる」

マリーダ『……はい……マスター』

グラハム「感謝する、マリーダ」

マリーダ『勿体無いお言葉です――私こそ、こんな私を側に置いてくださり、感謝しています』

グラハム「……明日も早い。もう休め」

返答の代わりに、扉が開いた
涙の痕を残したまま、笑って彼女は横をすり抜けていく

グラハム「おやすみ……マリーダ」

その小さな背を見送り、自らも部屋に入る
甘い匂いがまだ残っているように感じ、はにかむ顔をそのままにベッドに飛び込んだ



今は、まだこれでいい
いつか必ず、過去を断ち切ってみせる
そう誓い、瞳を閉じた


To Be Continued




ジンネマン「……駒は、全て揃った」

ジンネマン「反撃だ。目標、国連軍前線基地」

ジンネマン「敵戦力を壊滅させる!!」

ジンネマンの叫びに、その場にいた全ての兵士が呼応し拳を突き上げた
その背後には、モノアイを有した大量のMS
これならば勝てる、希望と共に闘志が沸き起こるような気がした

カークス「いよいよ……か」

ジンネマン「これがこの紛争の、最後の戦いになる」

ジンネマン「勝って終わりにしよう……ジーク・ジオン!」

『ジーク・ジオン!』

『ジーク・ジオン!』



974 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2011/11/25(金) 21:20:55.26 ID:Yw/Uqu8AO
投下終了だフラッグファイター

マリーダの制服とパイスーはユニオン準拠
私服はUC準拠もしくはミーナチョイス

ヤザンはAEU準拠、ただパイスーだけはティターンズ仕様
軍服もティターンズ仕様になるのはもう少し先

デュバル氏はジオン準拠、ただしヅダもろとも袖付きです

なんかデレすぎな気もする、EP4の反動だなこりゃ

残りは雑談などで潰してくれ、質問などもあれば受け付ける
新スレは終わり次第建てよう
ではまた、新たなる空で逢おう


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