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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その35

2014年03月29日 19:10

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目

12 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga frontier]:2011/11/28(月) 23:59:47.31 ID:SdcGx20AO

 人里から離れた、山の奥

 堅く閉ざされた鉄の扉が、ゆっくりと開かれていく

 震える足で歩を進め、目の当たりにしたのはこの世の地獄

 吐き気を抑えることが出来ず、何度も手水場に駆け込んだ

 嫌悪と憤慨に蝕まれつつも、進んだ先に彼女はいた

 狂気と悪夢に蝕まれ、欲望と悪意に体も心も食い尽くされて

 それでも尚、彼女は息をしていた、生きていた

 生気を宿さぬ人形のような眼で見つめられ、差し出された小さな手

 少し力を込めたら折れてしまいそうな、その手を握ったとき

 決心した。彼女を守るのは、自分の責務なのだと



「許してくれとは言わない――」

「全ては知らなかった……私達の罪だ」

――It's all in the past.――



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――西暦2302年:輸送機――

機長『当機は予定通り、1500に目標地点へと到着致します』

ホーマー「……」

機長『カタギリ司令?』

ホーマー「ん、あぁ……済まない。ありがとう」
文字色
 上の空で返事を返し、また窓の外を見つめる
 高度を下げた要人輸送用の航空機が、雲の海へその身を投げる最中であった

ホーマー「……」

 雲は風に流され、形を変える
 永久に変わらない雲など存在しない
 かといって、雲が完全に消え去ってしまうこともない

 雲は流浪し絶えず変化し、消えてはまた現れて、それを永遠に繰り返していく
 人もまた、同じだと思った

 そう思わなければ、やってなどいられなかった

ホーマー「……」

――三日前――

 日本風に造らせた屋敷の中、淡い日差しが生い茂る緑を強く照らしていく
 蝉の声は遠く、蒸し暑さばかりが際立つ夏であった
 広い庭に小鳥が数匹、降り立ってはしきりに地面をついばんでいく
 二人並んで、ただ淡々とその様子を眺め続けた


 楽しいかと問われれば、はいとは言えないだろう
 ただ、少しでも長く彼女と共にいたかったのだ

ホーマー「…………」

マリーダ「…………」

ホーマー「勉強は、うまくいっているか」

マリーダ「はい、何一つ滞りなく」

ホーマー「そうか……」

 今年で十三歳。どことなく大人びてきている風貌は、妻曰わく【将来は別嬪さんね】とのこと
 絹のように細い栗色の髪も、背中の中程までに伸びていた
 群青の和服に赤の帯、髪には簪。憂いを帯びた蒼の瞳は、整った顔立ちと相まって実に美しく輝いている
 妻が彼女に着せたいといった着物は、もう戸棚に入り切らぬほどにその数を増やしていた
 口数はまだ少なかったが、これでもまだいい方なのだと納得していた

ホーマー「……先生が褒めていたぞ、もう教えることが無いくらいだとな」

マリーダ「そうですか……」

ホーマー「何か学びたいことがあれば、いつでも言え」

マリーダ「ありがとうございます、ホーマー司令」

ホーマー「……うむ……」

 添水の嘶きが庭に響き渡り、小鳥が空へと舞い上がる
 会話が途切れてしまうのは少し悲しかったが、今ではこのむずがゆさも癖になってきたくらいであった

ホーマー(二年前に比べれば……本当に良くなったものだ)


――二年前、廃人寸前の彼女を救い出してからは、毎日が戦争だった

 夜、木の葉の影に怯え絶叫しながら暴れ狂い、部屋一つが完全に潰れたこともあった
 VRシステムのフラッシュバックに日頃から苛まされ、一歩も外を歩けないことさえあった
 陵辱と暴行により傷ついた身体を治すことさえ、惨めさにむせび泣きながら彼女は耐えていた

 許してくれ、と言う権利さえ自分にはないと思っていた
 他の姉妹達の居所さえ今となっては分からない
 一年ほどは血眼になって移転先を探したが、国家の力が使えぬだけでこうも掴めぬものかと、己に絶望しただけに終わった

ホーマー「……もうこんな時間か」

ホーマー「そろそろ食事にしよう」

マリーダ「はい、司令」

 呼び方が司令なのは、色々と事情がある
当初は【マスター】と呼ばれていたのだが、それはあまりにも合わないとして、無理に言って止めさせた
 加えて、自分はあくまで保護者であり、父親ではない
 父親と名乗る資格すら自分にはない、だから父とも呼ぶなとさえ話していた
 彼女はそのせいか何と呼ぶべきかと戸惑っていたが、部下達の呼ぶ【司令】がだんだん定着してしまい、こうなった
 他人行儀だからこそ、それ以外は極力身近に接するようにもしていた

ホーマー「……」

マリーダ「はふ……」

 食事は純和食、バランスを考えた一汁一菜、おかずは鮭の塩焼き
 サプリメントなどで栄養を補う将校もいたが、自分はそんなもの一切口にしたくはなかった
 妻もそれを理解してくれ、今となっては食事はささやかな楽しみになっている

ホーマー「地の物か……美味いな」

 艶やかな白米を、少しくすんだ緋色の切り身と共に口に運ぶ
 マリーダは炊き立ての米を冷ましながら、かきこむように食べている
 箸使いにも馴れたものだと、感心していた

ホーマー「そう慌てるな、ゆっくり、沢山食べるといい」

マリーダ「……ゆっくり食べたら、すぐにお腹が一杯になります」

マリーダ「せっかくのご飯が、沢山食べられなくなってしまいます」

 食べる様をじっと見られて、少し恥ずかしそうにしながらマリーダは答えた
 根はとても素直な、真っ直ぐな子であった
 ただ少し意地を張ったり、我慢しすぎるのは玉に瑕ではあったが――

ホーマー「そうだな。すまなかった」

 取るに足らない会話が楽しくて、つい食事の手が止まってしまう
 結局食べ終わったのは彼女より少し後であった
 接待で食べるどんな高級な料理より、この小さな膳がこの上なく旨く感じられた

ホーマー「ご馳走さま」

マリーダ「ごちそうさまでした」

 台所に立ち、並んで食器を洗った

マリーダ「私が洗います。司令は休んでください」

ホーマー「洗いたいから洗うのだ、そう気を使うな」

マリーダ「……申し訳、ありません」

ホーマー「いや、謝るほどのことではないのだがな……こちらこそ済まん」

マリーダ「…………」

ホーマー「……うむ……」

 大小二つの手が、泡だらけの食器を濯いでいく
 冷たい水の感触が、心地良く感じた

――――

ホーマー「……」

マリーダ「……王手です」

ホーマー「…………」

マリーダ「まったなしです」

ホーマー「では此処だ」

マリーダ「あ…………くっ!」

ホーマー「王手」

マリーダ「 」

ホーマー「待ったは無しだ」

マリーダ「…………」

マリーダ「……………………!」

マリーダ「……………………!……………………!!」

ホーマー「いや、やっぱり待ったは三回まで有りにしよう。少し大人げなかったな」


――現在、基地――

ホーマー「結局、待ったは無かったな……」

 あれから、三日

 彼女はまだ縁側で、突きつけられたと金とにらめっこしているのだろうか

 そう考えると、自然に笑みがこぼれた

ホーマー「ん…………」

ホーマー「またAEUでテロ……か」

 世界情勢は未だ荒れており、紛争と謀略の絶えず渦巻くゼロサムゲームの真っ只中
 おまけに各国とも自国領地でくすぶる紛争の火を消すのに、多大な時間をかけてもいた


 AEUはアフリカのダカールなどを中心に、増えすぎた反政府組織の鎮圧に躍起になっている
 人革連もまた黒い噂も絶えず、何やら大きな財閥が裏で手を引いているとさえ言われている
 そしてユニオンは、【棄民政策】とさえ揶揄された宇宙開拓事業の反動から、多数の火種を抱え込む形になってしまっていた

ホーマー「棄民政策……か」

ホーマー「ユニオン主導とはいえ、各国合同で行った宇宙開拓事業のツケを全部背負わされるとはな」

 テロリストの中には、二百年も昔の思想【ジオニズム】を掲げ宇宙独立を叫ぶ者さえいた
 無論ただの形でしかない、机上の空論であることは確かだ
 だが、技術的にはコロニー国家の樹立も不可能ではない
 彼等には、自らの思想をまとめあげ、統率しうるだけの存在がいなかっただけなのだ

ホーマー「ジオニズムの提唱者……シャア・アズナブルがいたなら話は違っただろうがな」

 これもまた空論だった
 二百年も昔の人間を求めたところで、何になると言うのだろう
 ジオニズムが広がることには危惧していたが、それもさほど重要とは思えずにいた

ホーマー「……」

「司令、ホーマー・カタギリ司令ではありませんか!」

ホーマー「!」

 基地に降り立ってすぐ、声をかけてきた若い男がいた

ギルボア「お久しぶりです司令、今日はどの様なご用件で?」

ホーマー「近くに用があってな、挨拶も兼ねて立ち寄ってみた」

ホーマー「調子はどうだ」

ギルボア「お陰様で、何とか馴染めてまさぁ」

 ギルボア・サント。

以前テロリストの関係者ではないか、と捕縛されていた若者だった
 真偽のほどは定かにはならなかったが、当時部下だった男の頼みでユニオン軍に編入させた経緯のある男だ
 中型艦船や輸送機などの操縦では光るものを見せる、働き盛りの若者だ
 今はMSパイロットとしても活躍しているらしく、幾度か戦果の報告も届いているのを思い出した

ギルボア「あぁ、それならちょうど良い」

ギルボア「今ちょうど新人がしごき倒されてますよ、少佐も毎日毎日飽きないもんだ」

ホーマー「ほう、運がいいな」

ギルボア「すぐ逃げ出すと思ったんですがね……案外保ってますよ、これがまた変な奴でして」

ホーマー「期待できそうじゃないか……案内を頼めるか?」

ギルボア「勿論。車を持ってきます、警護の人も含めたら大型のを借りた方がいいですかな」

ホーマー「この者達を連れて行くつもりはないが、気遣いには感謝するよ」

 ギルボアの運んできた車に乗り込み、基地の滑走路を疾駆する
 普段より安定感があるように感じたのは、気のせいではないと思った

ホーマー「それでどうなんだ、あの男がご執心の新兵とやらは」

ギルボア「センスは抜群ですよ。同期の若い連中となんか比べものになりませんね」

ギルボア「度胸もある、少佐に叩きのめされても踏んづけられても起き上がるんですから」

ホーマー「成る程、それはあいつが気に入りそうなことだ」

ギルボア「……見えましたよ」

ホーマー「……おぉ……」

 ギルボアに導かれるがまま、空を見上げる
 もつれ合いながら空で対峙する二機のユニオンリアルドが、模擬戦を開始して

 一機、明らかに動きの違うリアルドに目を奪われる

 銀と漆黒に塗られた一角獣のパーソナルマーク
 ユニオンはもとより、世界にさえ並ぶ者無しと謳われる最強の男の証である

 飛ぶだけで敵兵士が泣いて許しを請うとさえ言われた、生きた伝説

 ――一騎当千
 ――不動のトップガン
 ――空の王者

 呼ばれた二つ名は数知れず、兵士なら知らぬ者はいないユニオン最高のトップガン

ホーマー「相変わらず気持ちよさそうに飛ぶな……スレッグ」

 スレッグ・スレーチャー少佐その人が、其処にはいた
 しばらくして、ユニオンリアルドが空からゆっくりと降りてくる

 スレーチャーのリアルドは、さも当然の如く無傷
 フレームが輝いてさえいた

ホーマー「……久し振りだな、スレッグ」

スレーチャー「お久しぶりです、お元気そうで何よりですなカタギリ大佐」

ホーマー「……今は准将で司令にもなった、昇進したのはだいぶ前だぞ」

スレーチャー「…………」

スレーチャー「そうだったか?」

整備士「少佐……あんた自分で昇進祝いだっつってわざわざ自宅にリアルドで駆けつけたじゃないですか」

ホーマー「大騒ぎになって私の自宅は武装警官と戦車に囲まれた……私はよぉく覚えているぞ、よぉくな」

スレーチャー「覚えてねえな、多分酔ってた」

ギルボア「なに言っちゃってるんですか少佐!?」

ホーマー「……全く……相変わらずだな貴様は」

スレーチャー「そういうあんたは変わったな、カタギリ大佐」

ホーマー「准将だ……そう思うか」

スレーチャー「女でも出来たか? だいぶ顔つきがヤワってるぜ」

ホーマー「……ふっ」

ホーマー「当たらずとも遠からず、といったところかな」

スレーチャー「おいおい……良い奥さんがいる身が言うには、笑えねえ冗談ですな」

 階級の差など気にせずに会話を交わす
 この男と話すときはそれくらいが丁度良い
 命を懸ける作戦も、下世話な雑談も、気兼ねなく何でも話してきたからだ

 スレーチャーとは、太陽光発電紛争から続く仲だ
 腐れ縁といっても、大方差し支えはないだろう

 二人ともろくに家にも帰らず戦場に立ち続ける日々
 スレーチャーの妻が亡くなり、戦場で知らせを受けた時にも自分は隣にいた
 カタギリの家のつまらない束縛から逃れようと戦場にいたら、結果的にこの男の無理難題ばかり押し付けられていた

 もしかしたら、家族より付き合いは長いかもしれない
 それでも、公言するような事ではないと考えていた

スレーチャー「ギルボアの一件以来か、面と向かって顔を合わせるのは」

ホーマー「そうかもしれんな」

スレーチャー「あの時は助かった……改めて礼を言わせてもらうよ」

ホーマー「今更だ、お前の我が儘と尻拭いはあれっきりにしてほしいものだ」

スレーチャー「ツレねえな、ホーマー大佐ともあろう御方が」

ホーマー「放っておけ」

 手持ち無沙汰になりつい胸ポケットに手を伸ばすが、すぐに戻した

スレーチャー「止めたのか、煙草」

ホーマー「……歳だからな」

 嘘を、ついた
 煙草の臭いが彼女の何かを思い出させるのに気付いたその日から、禁煙を決めていたのだった
 スレーチャーは素振りこそ見せたが追及してこなかった
 有り難かった

「少佐!!」

スレーチャー「おう、遅かったな若僧」

 不意に、後ろから声をかけられた
 振り向くと、そこにいたのは若いパイロット
 波打った金髪に幼さの残る顔つき、そしてこちらが尻込みしそうなほど真っ直ぐな眼差しが印象深い青年である

ホーマー「……君は、さっきのリアルドのパイロットか」

スレーチャー「紹介しよう大佐。コイツが新しく第三航空戦術飛行隊に配属された……」

グラハム「グラハム・エーカー准尉であります。お会いできて光栄です、大佐!」

ギルボア「だから准将だって……」

グラハム「はっ……これは失礼致しました!」

 まだ若干の堅さは残るが、自分を前にしても堂々としている
 良い度胸だと感心し、笑って肩を叩く
 しかし何故だろう、その笑顔に白々しさが垣間見えた気がした
 そのせいだろう、好きにはなれそうもないと思った

ホーマー「ホーマー・カタギリ准将だ、こちらこそ会えて嬉しいぞ准尉」

ホーマー「スレーチャー少佐のしごきは大変だろう、何せ私の下にいたときは三日で十二人、荷物をまとめて異動を嘆願しにきたくらいだからな」

グラハム「何のことはありません。スレーチャー少佐と共に空を飛べるなら、如何なる訓練、教練、拷問にも耐える所存です」

スレーチャー「言い方考えろバカ僧、まるで俺がどこぞの鬼軍曹みたいじゃねえか」

 そんなことを言ってスレーチャーは軽くグラハム准尉を小突く
 こんな楽しそうなスレーチャーも久しぶりに見たが、それに従うグラハム准尉もまた、スレーチャーを強く慕っているようであった

スレーチャー「若僧、ペイント弾落としてから外周三十周だ。行ってこい!」

グラハム「は……はっ! 了解致しました少佐!」

ホーマー「……おう……」

 グラハム准尉が絶望を表情に浮かべながら走り去っていく
 見かねたギルボアがついて行ったのが見えた
 こっそり手伝うつもりなのだろう、相変わらず優しい男である
 見えなくなってから、スレーチャーの顔は満面の笑みを浮かべてホーマーの肩に手を置いた
 力強い、大きな手だった

スレーチャー「どうだい、あれが俺の後継者だ」

ホーマー「なに……? それは本気か、スレッグ」

スレーチャー「本気も本気さ、あいつはいずれ俺さえも超えるパイロットになる」

スレーチャー「今から楽しみで仕方ねえのさ……あの若僧、どんどん腕が上がっていくんだ」

ホーマー「あの若者がか……」

スレーチャー「娘にも話してはいるんだ、もしかしたらスレーチャーが二人になるかもな」

ホーマー「……少々気が早すぎやしないか……?」

スレーチャー「はっはっは、グラハムにも、娘にも言われたよ」

 それから、二人でMS格納庫の横に座り話し込んだ
 スレーチャーは色々と話してくれたが、実のところ殆ど右から左に抜けて何も覚えていなかった

 一度マリーダのことを思い出すと、意識だけが腹の奥底に埋没してしまい
 抜け出せない思考の坩堝に嵌まり、呼吸さえ忘れて考え込んでしまうのだ

ホーマー(これから先、どうすればいいのか……)

 身体の傷はいずれ癒えるだろう
 昨今の医療技術の発達はめざましく、事実彼女の身体的マイナス点は無くなりつつある
 ただ、心の傷ばかりはどうしようもなかった
 まだ年齢的に成熟していないということもあったが、仮想現実と現実、二つの世界で受けた精神的ダメージは今も彼女を蝕んでいる
 夢でうなされない日は無く、時折怯えた表情を影に向けるのを知っていた

 きっと一生、彼女は自らの過去と対峙し続けねばならない
 あの小さな肩に背負うには、酷すぎる荷だ

不安に、憤りに、押しつぶされそうになる

スレーチャー「カタギリ司令?」

ホーマー「!」

スレーチャー「大丈夫かよ……疲れてんじゃねえのか」

ホーマー「いや、済まん。大丈夫だ」

スレーチャー「何話してもボーッとして、もうボケたかと不安になったぜ」

ホーマー「お前にそこまで言われる筋合いは無い」

スレーチャー「まあいいが……あんたは昔から考えすぎるきらいがあるからな」

スレーチャー「……なぁ、カタギリ大佐」

カタギリ「何だ……」

いい加減直すのも億劫になり、言葉を続けさせた
どこからか暗い影を落としたような表情、何かあるのかと思い話に耳を傾ける

スレーチャー「俺もあんたももう五十路……とはいえ俺は空に長く居すぎた」

スレーチャー「やれ生きた伝説だ、やれ不動のトップガンだと持て囃されちゃいるが、俺だって人間……昔のようにはどうしてもいかないもんさ」

ホーマー「気弱なことを……後継者もまだあの調子だと言うのに」

 なかなか落ちない頑固なペイントに、遮二無二モップを叩きつけるグラハム
 大空を夢見る雛鳥、まだそういうレベルの見方しか出来ずにいた

スレーチャー「見りゃあ分かるだろう、アイツは変なところで片意地張って、世渡りがうまくない……」

ホーマー「お前みたいなタイプということか」

スレーチャー「一緒にしないでもらいたいもんだ……これでも三十年、俺は俺なりにやってきたつもりなんだぜ」

スレーチャー「ま、つまりだ」

スレーチャー「俺がいなくなった後のことを、あんたに頼みたいと思っているんだ」

ホーマー「……」

 かたや司令本部、かたや最前線、お互い立つ場所は違っていたが、長く戦場に立ち続けてきた
 言いたいことも、何となく分かっていた

ホーマー「人革連にはセルゲイとハーキュリー、二人の将校が台頭著しいという」

ホーマー「AEUには最年少将校、天才と名高いカティ・マネキンが輝かしい戦果を上げている」

ホーマー「お前の言いたいことも分かるさ……今が、今だけにな」

 後進の育成にスレーチャーが躍起になるのは当然だと思った
 如何せんユニオンには、自分以外にこれといった指揮官が存在しない
 いても物量を頼みにした力押ししかしない、有能とは言い難かった
 あと数年もすれば自分も完全に前線から退いてしまうだろう、そうなれば戦術を練って戦う者がいなくなる
 せめて、パイロットだけは――というスレーチャーの焦りが見えた

スレーチャー「まだ四十にもならん若僧に、戦術を聞きかじっただけの小娘だ」

スレーチャー「そのくらいで戦争の何たるかを知ったと思われちゃ、困るな」

ホーマー「お前には戦術も何もないからな……」

スレーチャー「そんなことはないさ。鬼のカタギリには何度も助けられた」

ホーマー「太陽光紛争……泥沼の闘争をよく生き延びたものだと今は思う」

スレーチャー「お互い、長く一人でいすぎたのかもしれないなぁ……」

ホーマー「……」

スレーチャー「アイツな……孤児なんだ」

ホーマー「!」

 足を滑らせ、助けようとしたギルボアと一緒にリアルドの翼を転げ落ちていくグラハム
 彼の方を向き、スレーチャーは呟くように話し始めた

スレーチャー「親がいないからって特別扱いはしねえさ……だけどアイツはどこか壁を作って、何事も独りでこなそうとしちまう節がある」

スレーチャー「意地なんだろうなぁ。自分一人でやれるんだって信じたいのかも知れんし、もしかしたら誰かに手痛く裏切られたのかも知れん」

スレーチャー「詳しいことは何一つ解らん……話してくれないからな」

ホーマー「……」

スレーチャー「孤児院でも訓練基地でも友達と呼べる存在はいなかったらしい……教官がいくら忠告しても人の輪には入れなかったそうだ」

ホーマー「協調性に欠ける兵士は味方を殺す」

ホーマー「貴様は、そんな男を後継者にするつもりなのか」

スレーチャー「ふふ……まぁ、最後まで聞いてくれや」

ホーマー「…………」

 グラハムはペイントにまみれ、整備士達と笑いながらモップを掲げている
 そんな暗い男にはどうしても見えなかったが、スレーチャーの見立てに間違いがあるとも思わなかった

スレーチャー「アイツには余りある才能がある、それは俺が一番よく知っている」

スレーチャー「だが、このままだとアイツは自分で自分を殺しちまう、そんな気がするのさ」

ホーマー「……」

スレーチャー「兵士は戦うための存在、俺達はその中でも空で命懸けて戦っている」

スレーチャー「だからこそアイツには……グラハムには、空以外にも世界があることを教えてやらなきゃならない、そう思っているんだ」

ホーマー「……スレッグ……」

スレーチャー「俺が其処まで保たないかもしれないが、それまでやれるだけのことはやるさ」

スレーチャー「人の価値は何をしたか、何をされたかじゃ決まらない……今何をするのか、これから何を為すのかで決まる」

ホーマー「ッ!!」

スレーチャー「俺は、アイツの内側にある【可能性】ってやつに賭けてみようと思う」

ホーマー「可能性……」

スレーチャー「だからよ、あんたもその子のことで……迷う必要なんてないんじゃあねえかな」

 頬を張られたような衝撃が、全身に響く
 まさか、知っているはずはない
 マリーダ・クルスのことを、スレーチャーが知っているはずはないのだ

スレーチャー「……悪いな、ただの当てずっぽうだ」

ホーマー「スレッグ……私は……」

 昔から、スレーチャーは野性的な嗅覚が備わっていた
 恐らくこの発言も、何となく感じ取ったというだけの話なのだろう
 だが、おかげで心が洗われたような気がした
 気に病んでも仕方ない、成るように為すしかないのだと思えたのだ

ホーマー「……感謝する、スレッグ」

スレーチャー「感謝するのは俺の方さ、司令」

ホーマー「グラハム・エーカーとか言ったか。覚えておこう」

スレーチャー「あぁ、司令殿のお墨付きとなればこちらも無理が出来る」

ホーマー「……無理をする前提か……」

スレーチャー「良い胃薬がある、飲みますかい」

ホーマー「薬は好かん」

スレーチャー「はっ、相変わらずだなあんたも」

ホーマー「今更性分は変えられんさ」

ホーマー「……」

ホーマー「彼女が今後、どんな道を選ぶかは分からない」

スレーチャー「ん?」

ホーマー「背負ったものはとてつもなく重く、受けた傷はあまりにも深すぎる」

 それでも彼女は生きていく
 生きていかねばならないのだ

ホーマー「だからせめて、あの子が選んだ道を……私は……」

ホーマー「……私だけは……っ」

スレーチャー「……」

 自然に、涙が溢れ出していた
 スレーチャーは何も言わず、肩を叩き頷いてくれた
 心の内に抑え込んでいた何かと共に視界は歪む
 だが、決意は揺るがなかった

スレーチャー「カタギリ」

スレーチャー「幸せになるといいな……その子」

ホーマー「あぁ……なるさ、きっとなる……優しくて、頭も良くて……いい子なんだ……本当に……」

ホーマー「私がしてみせる……必ず、必ず……!」

スレーチャー「…………」

 その時、けたたましく鳴り響く警報が二人を無理やり現実に引き戻した
 スクランブル、領内に所属不明のMSが侵入してきたとの ことだ

スレーチャー「……にゃろうめ」

 スレーチャーが不快感を露わにし、メットを被る
 涙を拭い、頬を両手で叩き引き締めた
 大丈夫だ、やってやる
 顔を上げたホーマー・カタギリは、鬼の顔へと戻っていた

ホーマー「私だ。敵戦力は分かるか」

ホーマー「……分かった。それは囮だ。【レッド・クロス党】の一味なら、間違いなくそこから北の資源採掘場を狙う」

ホーマー「スレーチャー少佐、スクランブルは君と誰がいく」

スレーチャー「決まってんだろう? 若僧、準備は!」

グラハム「はっ、いつでもどうぞ!」

スレーチャー「よぅし、本命には俺達が当たるぞ。囮は……」

ホーマー「待て、囮にはお前達に向かってもらう」

スレーチャー「何……?」

ホーマー「既に足止めは手配させている、だがこのままだと奴らにはまた逃げられてしまう」

ホーマー「囮を蹴散らしてから本命の背を突け、奴らをこれ以上のさばらせるわけにはいかん」

スレーチャー「蹴散らしてからって……囮との接敵から殲滅までの推奨ミッションカウントは?」

ホーマー「カウント150」

グラハム「二分半……ですと!?」

スレーチャー「言ってくれるぜ、やっぱりあんたは鬼そのものだ」

ホーマー「生きた伝説と組むなら、鬼くらいで丁度釣り合おう」

スレーチャー「ふっ……どうする、若僧」

グラハム「やります、いえやってみせます!」

スレーチャー「その意気だ、死ぬんじゃねえぞ!」

ホーマー「スレッグ!!」

スレーチャー「……おう!」

 交わした敬礼、これで何度目になるだろうか
 頼りになる男だった。何よりも自分自身がそれを知っていた
 そんな男が自分を頼ってくれていた
 悪い気になど、なるはずがなかった

 ――ミッションカウント117でファーストコンタクト終了、敵勢力は目論見通り挟撃に遭い一機残らず全滅したという
 やってくれる、司令部の硬い椅子に腰掛けながら独りごちた


――翌日――

スレーチャー「相変わらず忙しいんだな……もう行っちまうのか」

ホーマー「ユニオンが他二国に後れを取らぬよう、対策するのが私の仕事だ」

ホーマー「お前のように、将来の婿養子だけ見ていればいいのではないのだ」

スレーチャー「言ってくれるぜ、鳴いたカラスが何とやらだ」

ホーマー「コホン……兎に角、無茶苦茶するなよスレーチャー少佐」

ホーマー「では」

スレーチャー「また、いつか」

 敬礼し、輸送機に乗り込む
 ふと胸騒ぎがして、振り返った
 スレーチャーは不敵な笑みを崩さず、其処に立っていた

 輸送機がゆっくりと動き出し、直ぐに大空へと飛び立っていく
 雲一つ無い、澄んだ青空であった

 ――これが、スレッグ・スレーチャーに会った最後の日となった


――屋敷――

ホーマー「帰ったぞ、マリーダ」

マリーダ「…………」

ホーマー「マリーダ?」

マリーダ「! すみません、お帰りなさいホーマー司令」

 薄暗い畳の隅で、ちょこんと正座していたマリーダ
 その隣には、出発前と変わらない配置の将棋盤が鎮座している

ホーマー「……ふふっ」

ホーマー「クーラーも付けずに……アイスを買ってきた、一緒に食べないか?」

マリーダ「ほ、本当ですか?」

ホーマー「嘘を言ってどうする? 食器が必要だな」

マリーダ「すぐに用意します!」

ホーマー「慌てて転ぶなよ」

 将棋盤を部屋の中央に運び、腰を据えた
 年相応の背中が走り去るのを見て、感慨のようなものが腹の底から湧き上がってくるのを感じた

 彼女にはまだ無限の可能性がある、今を憂いて焦ることもあるまい
 ゆっくり、共に歩んでいこう
 まだ先は長いのだから――

ホーマー(ほう……?)

 将棋盤に目をやる
 よく見ると、何度か駒を動かしたような跡が残っていた
 それも一つ残らず、あらゆる状況を考えたに違いない

 もしかしたら、今度待ったなしで困るのは自分かもしれない
 そう考えると、マリーダが来るのが待ち遠しくなった



END




35 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2011/11/29(火) 00:59:40.06 ID:GDLiPHVAO
投下終了だフラッグファイター

まぁかいつまんだ感じの過去話、どちらかというとホーマーとスレーチャーの繋がりのが重要だったり

ホーマーがグラハムの我が儘を聞くのは二つ以上の意味がアルンダヨーグリーンダヨー的な、はい

ホーマー氏の声を担当する大友氏はベア・ウォーケンのイメージが強い

ではまた


40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/29(火) 15:23:22.72 ID:QaoQ0EjN0
このスレのマリーダさん、VRで精神を陵辱されただけで、体は暴行や陵辱を受けてないと
最初の設定で書かれていたけど、設定が変わったのかな?
それと、マリーダさんだけ残されて他のプルシリーズがいなかったは、どこか別の場所に
移送されたのか、死んで焼却処分されたのか。(プルツーは大使が連れ去った)
今後、他の個体も出てくるのなら、楽しみでなりません、今後もがんばってください。


41 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2011/11/29(火) 15:40:47.37 ID:GDLiPHVAO
>>40

あれは娼婦設定ではないというだけで、そういうことをされていたのをホーマーさんが耐えられなくて説明若干はぐらかした感じです
遅かれ早かれ、精神感応で分かることなのでグラハムは知っています

想定していなかったとはいえ上げて落とした感じになったのは申し訳ない

妊娠中絶による不妊症ではなく、粒子関係の実験による不妊症(故に再生治療が利かない、ホーマー一人称のせいで書き忘れて申し訳ない)

娼婦ではないが研究者等の倫理トラブルによるもの

変わってるのはこんな感じ


42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/29(火) 16:08:18.43 ID:QaoQ0EjN0
>>41
お答えありがとうございます。
やはりマリーダさんにはますます幸せになってほしいと思うな。


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