マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その36

2014年03月30日 18:50

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目


56 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2011/12/09(金) 03:16:04.46 ID:x6ZGLcOAO
――紅海・中東側沿岸――


 アフリカ大陸と中東の境を流れる紅海
 両方の沿岸一帯には国連軍の警備網が敷かれ、GN―XにRGM、イナクトといったMSが辺りを飛び回っている
 少し小型の空母がゆっくりと南下していく様を、じっと見つめる男が一人
 体の向きはそのままに、背後の兵士へと視線を移した

兵士「少佐、準備が整いました」

グラハム「御苦労」

グラハム「予定通り四隊に分かれサイクロプス及びヅダの捜索を行う、警戒は怠るなよ」

兵士「はっ!」

グラハム「……」

 額に滲む汗が、乾いた空気にさらわれていく
 この感触は以前中東にガンダムを追ってきたときに体験していた為、特には難儀もせずにいた
 苦労しているのは、ジョシュアくらいのものだろう

グラハム(絶好のフライト日和……晴れ男に生まれたことを、これほど嬉しく思ったことはない)

 本来パイロットスーツには調節機能が存在し、如何なる環境でも一定の体温を維持するようになっている
 暑ければ涼しく、寒ければ暖かく。四六時中パイロットスーツでも良いくらいの快適さが約束されるのだ
 しかしながら、その不自然さが好きになれず、自分はこの機能を使わないことが多かった
 盟友カタギリの苦い顔が目に浮かぶようで、つい口元がつり上がってしまう

マリーダ「マスター」

グラハム「マリーダか」

 対して、マリーダはいつもの冷静な表情を崩さず横に立っている
 二人の背後にはオーバーフラッグス、そしてRGMとイナクトの混成四個部隊
 出撃を今か今かと待ちわびていた

グラハム「……壮観だな」

マリーダ「はい、マスター」

 マリーダは頷き、メットを左から右に持ち替える
 僅かに距離が縮まる、自然なことだがつい背筋が伸びてしまうのを感じた
 彼女は直後に少し顔を伏せ、言葉を続けた
 憂いを帯びた顔には、えもいわれぬ艶が宿って見えた

マリーダ「ですが、やはりオーバーフラッグスを分けるのには少々不安が残ります」

グラハム「……懸念はもっともだと言わせてもらおう」

グラハム「此処はもう敵地、目立つオーバーフラッグが各個撃破される可能性も少なくはない」

マリーダ「……」

 これは、捜索部隊を編成する段階から危惧されていたことだ
 現状オーバーフラッグスがサイクロプスに並べるのは、決して個々の実力だけではない
 高い技量により徹底される新たなフォーメーション戦術、つまり空中変形戦術にあるからだ
 各個撃破を狙われる可能性は、十二分にあった

マリーダ「グッドマン司令からの要望とはいえ、やはり混成隊は我々には……」

グラハム「……どう足掻いても不安は拭えん、それは事実だ」

グラハム「だが今回、各部隊のイナクトにはGN粒子散布下においても電子戦が可能な偵察タイプを配備してある」

グラハム「発見が早ければ、いかにサイクロプスとてオーバーフラッグを易々と落とせはせんよ」

マリーダ「……はい」

グラハム「早期決着による地盤固めが優先とする司令の考えには、私も賛成だ」

グラハム「やるしかあるまい。他ならぬ我々の手で、な」

グラハム「マリーダ、今回部隊は分かれるが、目的が目的だ」

グラハム「あのときの約束。忘れるなよ」

マリーダ「了解、マスター」

 メットを装着し、フラッグに乗り込む
 機能を復活させた瞬間、全身を清涼感が包み込んでいく
 むずがゆさに声が出そうになりつつも、耐え切って無線を開いた

グラハム「……全部隊に通達する!」

グラハム「混成一番隊には私、グラハム・エーカーとリディ准尉が就く!」

リディ『了解です!』

グラハム「二番隊にはマリーダ・クルス中尉とダリル・ダッジ少尉!」

マリーダ『宜しく頼む』

ダリル『頼むぜ、RGM!』

グラハム「三番隊にはジョシュア・エドワーズ少尉、アキラ・タケイ少尉!」

ジョシュア少尉『足引っ張んなよ、ひよっ子諸君?』

タケイ『……』

グラハム「そして、四番隊にはヴィクトル・レオーノフ大尉とルドルフ・シュライバー少尉両名が加わる!」

ヴィクトル『……』

ルドルフ『世話焼かせるなよ、新型』

グラハム「いずれも腕には自負のある精鋭だ、好きなだけ頼れ!」

ジョシュア『ガキのお守りは御免だぜ』

ルドルフ『ふん……』

マリーダ『お前達……』

リディ(頼らせる気ねえ……)

グラハム「全部隊、1200より予定されたルートを通り索敵に入る」

グラハム「目標、サイクロプス及びヅダを発見した場合即座に全部隊へ連絡、もしくは照明弾による合図を以て知らせろ」

グラハム「敵MSは全て加速力に秀でた太陽炉搭載機、一瞬の油断が死を招くと思え。いいな!」

 総勢二十を越えるMSパイロット達からの、一斉の返答
 耳をつんざくような音量に心地良い痛みを覚えた

 予め各部隊の兵士には、それぞれあてがったオーバーフラッグスの面々と顔合わせをさせてある
 マリーダが女性だからと侮られるようなことがないようにとの配慮だったが、同時に士気も高まっているようだった

グラハム「ミッションタイムクリア、行くぞ」

リディ『了解、いつでもどうぞ!』

 大地から離れ、大空に舞い上がるフラッグ
 それに続きMS部隊も次々と動き出す
 散開し、それぞれが目指すルートへと飛翔していった

グラハム(しかし、不気味だ)

グラハム(彼等はあれ以来、何の行動も起こさない)

グラハム(GN―Xの回収も、まるでそれが本命ではないように淡白なものだった)

グラハム(やはり、策を擁しているのか……?)

 そんなことを考えている内に、地表は遥かに遠い足の下
 眼前には何処までも広がる空、右手には茶褐の大地、左手には母なる海が悠然と広がっている

グラハム「…………」

 世界の全てを手に入れたような錯覚
 一瞬とはいえ任務を忘れ吐息を漏らす
 やはり、空は良いものだ

リディ『隊長、良いもんですね。空は』

グラハム「ん……あぁ、全くもってその通りだと肯定させてもらおう」

リディ『俺、フラッグファイターで良かったですよ』

グラハム「ふふっ、いきなりどうした?」

リディ『ほら、最近ティエレンが空飛ぶのに成功したらしいじゃないですか』

リディ『どうせ飛ぶなら、やっぱり飛行機じゃなきゃ。俺には人型よりこっちです』

グラハム「ふふ……人革連のお偉方に聞かれないようにな、フラッグファイター」

リディ『このまま、何もかも忘れてずっと飛んでいられりゃあ……どんなにいいか』

グラハム「そうもいかんさ。我々には我々の使命がある」

 昔の自分ならリディの言葉に同意していたかもしれない
 だが今は違う、と心の内で呟いた

グラハム「アルファ3、反応は」

『今のところは確認出来ません』

リディ『捕まりませんね。やはり地上にはいないのかも……』

グラハム「……だとすると憂慮すべき事態だな、我々のフラッグにとってはそれが一番の気掛かりとなる」

 折り返しポイントで旋回、世界が横に傾くのを眺めながら規定ルートを消化する
 先ほどは背に、そして今は目の前に現れた紅海
 数千年変わらぬ悠久の流れを見つめながら、重い気を息にのせて吐き出した

グラハム「……奴らは海の中、か」


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――そして夜――

リディ「よっ……と」

マリーダ「マーセナス、此処だ」

リディ「おっ、ありがとうございます!」

 沿岸に仮設された国連軍の拠点が、眩い野外灯に照らされている
 数列に渡りずらりと並んだ施設群は、簡易的なものでも基地としての機能をしっかりと果たしていた

ダリル「紅海に奴らが隠れている……?」

マリーダ「可能性の一つではあるが、そう少なくはない」

マリーダ「事実、他の大陸から集まっていた反国連勢力には、その足取りさえ掴めないまま集結を許してしまっている」

ヴィクトル「確かに、我々の手の届かぬところとしては自然だな」

ジョシュア「海か……また面倒なところを……」

 夕餉を口に運びながらの雑談、オーバーフラッグスの面々は自然と集まり食事をしていた
 流石に基地などで食すものとは幾分か劣っている
 しかし腹が膨れればと、文句を押し殺し黙って胃に収めていく
 皆もまた、何も言わずに口に運んでいた

ダリル「軌道エレベーターが国家運営の基盤になった今の世の中、制空権が軍事的にも最大の焦点でしたからね」

リディ「そういや、うちのMSで海に対応出来る機体っていましたっけ」

ヴィクトル「人革連の所有するMA【シュウェザァイ】が数機配備されたらしいがな」

マリーダ「我々ユニオン、そしてAEUには水中用の機動兵器開発という概念が抜けている」

マリーダ「シュウェザァイも相当古い、いざとなればGN―Xがいるとはいえ……」

 その時、賑やかな青空食堂が僅かながら静かになる
 人の流れが止まり、兵士が道を開けていくのが見えた
 その原因は、すぐに判明した

グラハム「始めているな、諸君」

マリーダ「マスター!」

ダリル「お疲れ様です隊長」

グラハム「失礼する」

 少佐が座ると、否が応でも周りの視線が集中する
 ヤザン大尉との模擬戦の後のためだろう、いつもよりそれは強まって感じられた
 だが隊員たちはいつものことだと、慣れた様子で食事を再開する
 自分も、昔では想像出来ないくらいに図太くなっていた

グラハム「ふう……ようやく一息、といったところか」

ヴィクトル「報告は終わったのかね、少佐」

グラハム「えぇ。各方面の警備部隊や捜査網に加わった兵士の意見を纏めておりました」

グラハム「やはり反国連勢力は、海に何らかの拠点があると推測されます」

ルドルフ「やっぱりか」

グラハム「マリーダ」

マリーダ「はい、マスター」

マリーダ「カタギリ技術顧問は前線基地にて、オーバーフラッグ及びイナクトに搭載可能な爆雷、及び空対潜魚雷の準備を進めているとのことです」

マリーダ「ですが水中戦闘は……」

ジョシュア「無理、だろうな」

グラハム「流石のカタギリでも、鷹を鷹のままペンギンには出来ぬか」

リディ「ペンギンって……」

グラハム「可愛いじゃないか、ペンギン」

リディ「いや可愛いですけど……」

グラハム「マネキン大佐から、RGMのアクアタイプの配備申請が上層部に提出された」

グラハム「海の拠点はそちらに任せよう、我々の当面の敵はアフリカ南部の反国連勢力だ」

グラハム「しかしながら前線基地から沿岸基地への戦力の移動、どう見積もっても猶予が必要になる」

グラハム「それを敵が黙って見ているとは、到底思えん」

ジョシュア「様子見程度の小競り合いなら、アフリカ側で何度かあったらしいけどな」

ダリル「だが軒並み壊滅、こっちには被害らしい被害もないそうだ」

ジョシュア「そりゃそうだ……あっちの基地には、ライセンサー様々がいるんだからよ」

タケイ「……」

 オーバーフラッグスの面々の顔が、一様に尖ったものに変わる
 タケイ少尉ですら不快感を隠さなかったのには驚いたが、少佐が平然としていたのも意外に感じた

リディ「ヤザン大尉……か」

グラハム「ふふふ、あの男は相変わらずのようだな」

マリーダ「……ちッ」

ルドルフ「おい……」

リディ「なんです……?」

ルドルフ「ヤザンの話をすると何でクルス中尉は機嫌を悪くするんだ……?」

リディ「何でも、ブリティッシュ共同作戦時に撃ち合い寸前の喧嘩をしたとかで……」

ルドルフ「おう……おっかね……」

ヴィクトル「……」

 会話がピタリと止み、皆の食事の速度が目に見えて上がっていく
 置いていかれぬよう、慌てて拳大のパンを口に詰め込む
 固かった、泣きたくなるくらいに


グラハム「奴は凶暴ではあるが凶悪ではない、下手に邪険にするとかえって面倒に巻き込まれるぞ」

ジョシュア「もう巻き込んできてたりするのよね~……と」

グラハム「何?」

ダリル「模擬戦の翌日でしたっけね」

ダリル「マリーダ中尉とヤザンが廊下でばったり遭ったときに……」

ジョシュア「『よう、昨晩はグラハム少佐に可愛がってもらえたか? 良かったなマリーダちゃん』って吐き捨てて……」

マリーダ「…………」

ジョシュア「睨まれても困る、凄く困る」

リディ「下手に真似したからですよ少尉……」

ダリル「……とまぁ、近くに我々がいたから良かったものの……すっかり犬猿の仲確定ですぜ」

グラハム「ふむ、難しいラインだな」

グラハム「侮辱は許さんと釘は刺したが、ちょっかいの領分にまで口を出すのは気が引けるというものだ」

ヴィクトル「気に入られたな中尉」

マリーダ「えっ?」

ヴィクトル「アイツは行動こそ正直だが頭はひねくれてる、ようはいじめっ子理論だよ」

リディ「気に入ってる子をついいじめちゃうアレ?」

ヴィクトル「そんなとこだ」

ヴィクトル「女兵士を極端に嫌うアイツが少しでも融和したのは、何よりの証拠といえる」

マリーダ「…………」

グラハム「…………」

マリーダ「…………」

グラハム「……気が変わった、やはり奴とはじっくり話し合う必要があるようだなッ!」

ダリル「耐えてください隊長っ……お願いですから……!!」

ジョシュア「嫉妬するところかそこ!?」

リディ「……あはは……」

 やっぱりライセンサーは凄い、改めてそう思った

――――

リディ「…………」

 食事を終え、輸送機への道を一人歩いていく
 街灯どころか照らす必要のあるものが無い平坦な荒野、夜中ではあるが徒歩に困りはしなかった

「よう、遅かったな」

リディ「!」

 不意に声をかけられ、手に持つペンライトを向けた

ダリル「っ……おいおい、ライト下げろ」

リディ「あ……す、済みません!」

 光の中にいたのは、眩しそうに目を細めるダリル少尉
 咎められ、慌ててライトを足元に向けた

ダリル「構わねえよ、いきなり声をかけたのは俺の方だ」

リディ「はぁ」

ダリル「……この方向だと輸送機か、何かあったか?」

リディ「わ、忘れ物、です」

ダリル「何を忘れた?」

リディ「うっ……えぇ、と」

 嘘だとばれただろうか
 重い空気が砂混じりの風に巻かれて、息苦しさが際立っていく

ダリル「…………」

リディ「っ……」

 先に切り出したのは、ダリル少尉
 いつもフェルトや自分に向けるような、優しい顔をしながら言葉を続けた

ダリル「時間、あるか? 話がしたい」

リディ「話、ですか」

ダリル「なぁに、大した話じゃないさ。だがそろそろ必要だと思ってな」

ダリル「輸送機の中でいいだろう……行くぞ」

リディ「……はい」

 嫌な予感がした
 十分後、それはあっさりと的中するのだった


――輸送機――

リディ「…………」

ダリル「何凹んでんだ?」

リディ「そりゃ凹みもしますよ……」

リディ「秘密の特訓だから意味があるのに……みんな知ってたなんて……」

ダリル「そうか……?」

リディ「人が悪いですよ、グラハム少佐だって知ってたんでしょう!」

リディ「みんなして……俺は……っ」

ダリル「……はぁ」

ダリル「別にお前を笑ってたわけじゃねえんだ、そのくらいにしとけ」

リディ「う……」

ダリル「……ったく……」

ダリル「敵地のド真ん中に来てまで、夜な夜なハードトレーニングをやる努力は認めるさ」

ダリル「だが潮時だ、もういいだろ。これ以上は公務に支障が出る」

ダリル「いくら頑張ろうが、それじゃあ本末転倒だって」

リディ「でも!」

ダリル「!」

リディ「でも、俺がパイロットとして認めてもらうには結果を出すことが必要なんです!」

リディ「そのためには、空中変形だってなんだって……必要だからこんなこともしている……」

リディ「俺だって……何かしなきゃ、此処にいらんないんだ……!」

ダリル「…………」

ダリル「なぁ、リディ」

リディ「……」

ダリル「隊長が何故お前を呼んだか、その理由を知っているか?」

リディ「……いいえ、全く」

ダリル「隊長が、お前に初めて出会った訓練基地でのことだ」

ダリル「お前は、朝一番の集合に遅れて入ってきた」

リディ「……えぇ、その通りです」

リディ「だから何で呼ばれたか、今でも正直分かりません」

ダリル「そのとき、隊長はお前と握手をした」

ダリル「それが理由だ」

リディ「え……?」

ダリル「その肉刺だらけの、年齢不相応な無骨さを持った手」

ダリル「あの場にいたどの候補生よりも荒く、傷ついた手を握って、あの人は思ったんだそうだ」

ダリル「こいつは、自分の道を自分自身で切り開く努力が出来る男なのだ……とな」

リディ「俺が――?」

ダリル「もちろん、最初は遅刻したのに教官にもさほど叱られもしないボンボンめ、とは思ったらしいがな」

リディ「ぐぬ……」

ダリル「ま、あの人は最初からお前と家柄なんか何一つ結びつけちゃいない」

ダリル「お前をマーセナス家の人間だからと、危険な出撃に伴わせなかったことが一度でもあったか?」

リディ「……それはっ……」

ダリル「だよな、あの人はお前をいつも隣に置いて使ってきた」

ダリル「それは何故か――見どころがあるからに決まってんだろう」

リディ「……」

ダリル「気負うなよ、リディ・マーセナス。結果なんかいつの間にかついてくるもんだ」

ダリル「お前は俺達の仲間、フラッグファイターなんだからな」

リディ「ダリル少尉……」

 言いたいことを言い尽くしたのか、立ち上がるダリル少尉
 自分は見上げるだけで立ち上がれなかった
 自分の矮小さに気付かされたせいだろうか、恥ずかしくて膝に力が入らなかった

リディ「なんか、すいません……気を遣わせてしまったみたいで」

ダリル「気にすんな、だが無理だけはしてくれるなよ。うちの部隊は、昔っから無理する奴ばかり集まるからな」

ダリル「ハワード、ランディ、ヘンリー……みんな死んじまったよ。仲間が死ぬのは、イヤなもんでな」

リディ「……少尉……」

ダリル「さて、俺のお節介はおしまいだ」

ダリル「明日も早い。やるならほどほどにしとけよ」

リディ「あ…………」

 垣間見えた、寂しげな笑顔
 足早に消える、大きな背中
 いなくなった後も、網膜にはその二つが焼き付いて離れなかった

 グラハム少佐の悲しみは、マリーダ中尉が包み込むのだろう
 マリーダ中尉の悲しみは、グラハム少佐が受け止めるのだろう

 ならばあの人の、ダリル・ダッジの悲しみは誰が理解出来るのだろうか
 不意に、そんなことが頭をよぎった

 オーバーフラッグス設立前から少佐に付き従っていた、腹心の心中
 諦観と信念の入り混じった、軍人故の決意
 感じ取れたものは、今の自分が受け取るにはあまりにも重く
 その日はトレーニングもしていないのに、酷く疲れたまま寝床に潜った

           ・
                         ・
                         ・

――そして、数日が経過――

 第五陣の到着、それは中東及びアフリカ戦線につぎ込まれた戦力の半数以上が集結したことを意味していた
 前線基地と周辺基地から集まったMS、その数は優に百十余
 内RGMは三十二機、GN―Xは八機
 本来この二種のMSのみで対処出来ると判断された戦場は、今や総力戦の様相を呈していた

グラハム「……おかしい」

リディ「揃っちゃいましたね、戦力」

マリーダ「あれから何も起きなかった……戦闘らしい戦闘、奇襲、謀略の一切に至るまで」

グラハム「当初の予想では、此方の体制が整う前に間違い無く戦力を削いでくると踏んだのだがな」

ダリル「奇妙ですね、何を企んでやがるのか……」

グラハム「見えぬな、次の一手が」

 既に総攻撃の準備を始めている国連軍、しかし敵にも動きが無いわけではなかった
 実際に南部からこちらにMSの大部隊が侵攻しているという連絡も来ている
 だが、それでも疑念は薄れない
 今まで対峙してきた勢力の動きとしては、どう考えても遅きに逸していたからだ

ジョシュア「まさか手薄になった前線基地を狙うとか……そのままスルーしてヨーロッパを襲うとかじゃねえだろうな」

グラハム「非現実的だが、そういうレベルの理由でもないと説明出来んな」

ダリル「仮にこのままぶつかり合うと仮定すると……」

ヴィクトル「圧勝だな。数も此方が上、機体の総合性能も上と来たもんだ」

リディ「不安要素はサイクロプスくらいのもの……か?」

グラハム「……」

 ――サイクロプス
 今や唯一、最大の敵
 結局ヅダとGN―Xは見つからなかった、間違い無く本隊と合流していることだろう
 だが動くとなれば話は別、サイクロプス単独でも十分過ぎる脅威になる
 オーバーフラッグスが前線に出ず、中東側の沿岸基地にいるのもそれが理由だった

グラハム「……平静を装うのも辛くなる、こうも待機が長いとな」

マリーダ「心中、お察し致します」

 動向が読めないだけに動けない、歯がゆい毎日
 ヤザンが最前線にいるのも理由としてはあった
 だがサイクロプスの存在により、この場所にいることを強いられているのが現状であった

グラハム「私の中の何かが警鐘を鳴らしている……奴らめ、仕掛けてくるぞ」

グラハム「マリーダ」

マリーダ「フラッグの準備は既に整えてあります、カタギリ顧問の開発した爆雷の搭載も完了しました」

グラハム「うむ……」

ダリル「隊長」

グラハム「ん、どうしたダリル」

ダリル「次の出撃の際は、自分を隣に置いてください」

グラハム「!」

マリーダ「ダリル……?」

リディ「!」

 皆の視線がダリルに集中する
 彼は今までフォロー役に徹し、自身の言葉を意見として出すことが極端に少なかった
 そのため、発言の意図を皆すぐに読み取った
 他ならぬ自分も、彼とは一番長い付き合いだ
 読みたくなくとも、読めてしまう

ダリル「お願いします、隊長!」

グラハム「……」

マリーダ「マスター、私からも……よろしくお願いします」

リディ「ッ……」

ジョシュア「ちっ、あの馬鹿」

タケイ「……」


グラハム「ダリル・ダッジ少尉」

ダリル「はっ!」

グラハム「オーバーフラッグス最古参のお前のことだ、既に肝に銘じているだろう」

グラハム「だが、敢えて言うぞ……死ぬな、絶対にだ」

ダリル「はっ……!」

グラハム「フォーメーションを変えるぞ。マリーダ、後ろは任せた」

マリーダ「はい、マスター」

グラハム「万が一もある。オーバーフラッグス及びイナクトの両名はRGMと共にMSにて待機」

グラハム「いざという時は近いぞ、腹をくくれ。サイクロプスとの因縁は此処で断ち切る!」

『『了解!!』』

 全員を鼓舞し、決意を新たにした瞬間

グラハム「!」

 けたたましい警報が鳴り響き、幾ばくもなく空にMSが飛び立っていく
 【コンディションレッド】、つまるところの緊急事態
 予測していた事態が、今発生していた

マリーダ「……マスター、対岸の前線基地が正体不明のMSによる襲撃を受けたとのことです」

グラハム「噂をすれば影、好都合といえる」

マリーダ「侵入経路は紅海、サイクロプスの情報は確認出来ず。 ……金属反応多数、来ます!」

グラハム「オーバーフラッグス全機出撃! 返り討ちにしてやれ!」

 一斉にMSへと飛び乗っていく隊員たち
 表情こそ険しいものの、皆いずれも意気軒昂
 気合いが違った

グラハム(やれるか……!)

 サイクロプスとの性能差はいまだ高い壁としてそびえている
 それでもこれならば勝てると、一縷の希望が見えたような気さえした

グラハム「爆雷投下準備! 敵をあぶり出す!」

 水中拠点用の潜水艦からMSが発進するなら、出がかりを狙えばいい
 必要なのは拠点そのものを潰し、サイクロプスの【次】を消すことだ

 フラッグが脚部に格納した円柱状の物体を次々に投下していく
 GN粒子により爆発力を強化した、カタギリ謹製のGN爆雷
 重力に引かれ、真っ直ぐに穏やかな水面へと吸い込まれていく

 そして、水しぶきを上げながら沈み

 直後に、大爆発を引き起こした

グラハム「何……だと……!?」

マリーダ『馬鹿な!?』

 対潜爆雷はもっと沈んでから、深くで爆発するものだ
 直後の爆発、しかしそれによりMSや艦船が撃墜出来た形跡はない

 それはつまり、爆雷が撃ち落とされたという証

 嫌な予感が、全く違う形で現実になった

ダリル『隊長、金属反応が拡散、物凄い速さで上がってきます!』

グラハム「馬鹿な、水中から上がるというのか!」

リディ『サイクロプス!?』

ジョシュア『違う……数が多すぎるぞ!』

 再び水柱が上がり、次々にそれは姿を現した
 水中から基地へと着地していくMS、しかしあまりにも異形を示していた、まさに怪物

グラハム「……!」

 巨大な褐色のボディ
 大きすぎるくらいの頭部に、浮かび上がるモノアイ
 まるで熊のような、鋭い爪を有した腕
 まさに、未知との遭遇であった

グラハム「何だアイツは!?」

『ふふふ、国連軍の傀儡め。度肝を抜かれているようだな』

『シャーク1、ゴッグ! 敵基地への攻撃を開始する!』

 敵MSの胸部から放たれた、紅い粒子の一撃
 長い死闘の幕が、今切って落とされた


To Be Continued


兵士「大佐、地上部隊が例のシリーズを動かしたと」

「そうか……ふふ、これで奴らも気付くだろう」

「我々が【第二のヴェーダ】を有している事実にな……」

「慌ててももう遅い。賽は投げられたのだよ、リボンズ・アルマーク」

フロンタル「このフル・フロンタル、赤い彗星の再来の手によって……」



74 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2011/12/09(金) 05:12:03.81 ID:x6ZGLcOAO
投下終了だフラッグファイター

さて、忙しくなってきた

雛見沢ゲットー氏でもまとめられているらしい、感謝です
けんゆう飴を舐めながら頑張ろう

ではまた


75 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/09(金) 05:15:36.43 ID:jYP2kh6lo
あぎゃぎゃが持ってったヴェーダか?


76 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2011/12/09(金) 05:19:45.66 ID:x6ZGLcOAO
>>75
詳しいことはまだ話せないが、別物です

あれはスペアに一から定着させた存在だけど、此方は二つのヴェーダが並列して存在します

ヴェーダは計画に必要な存在、つまり……ということです


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