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マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その37

2014年03月31日 19:31

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目


111 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2012/01/10(火) 01:23:21.60 ID:OymKfUeAO
――基地内――

 跳ね上げられたRGMの胴体が、仮設住居に叩きつけられる
 下半身を伴わないそれはスパークと共に燃え上がり爆発、辺りに破片と粒子を撒き散らす
 業火に照らし上げられたそれは、それが何でもないことのように佇んでいた

マリーダ「っ……!」

 オイルを払うかのようにクローアームを軽く振るう、新型のMS
 その腹部から紅い粒子の光が迸る度、一本の線が破壊を伴い基地をなぞっていった

 塵に変わる建造物
 悲鳴さえ上げられず消えていく命

 その火力は、まさに圧巻

 流石に【デカブツ】と揶揄されたガンダムには及ばないものの、現行MSを圧倒し、警備の目を釘付けにするには十分過ぎる一撃であった

ダリル『反応がどんどん上がってきやがる……!』

ジョシュア『来るぜ、奴らが来る!』

 吹き上がる幾多の水柱、淡い水色の中から姿を現したのは、鉄の色そのままの円柱状の物体

 二十ほどの打ち上げられた物体は小さな爆発音と共に四つに分割
 まさに脱皮するかの如く、AEUイナクトが宙へと舞い上がった

リディ「た……隊長……!」

グラハム「…………」
112 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2012/01/10(火) 01:30:43.99 ID:OymKfUeAO
 国連軍の誰もが唖然としているうちに

 基地の司令部が呆けて口を開けているうちに

総勢二十三機のMSが、基地のすぐ真横に現れ、部隊を展開し突撃を敢行していた

 それはもはや、実体を伴う暴風

 一度飲まれれば、命は無い

 その場にいた誰もが、彼等に背を向け逃げ出した

 軍人も、非戦闘員も、皆誇りも矜持もかなぐり捨てて逃げ出した

 逃げる背中に撃ち込まれていく弾丸

 それは、目に映るもの全てに手当たり次第撃ち込む、文字通りの虐殺

 基地の至る所にミサイルが叩き込まれ、有象無象問わず焼き尽くしていく

 一つ、また一つとMSが膝をつき、命が消えていく

 【戦争】が、目の前で行われていた

リディ「隊長ッ!」

グラハム「黙れッッ!!」


 その様子をグラハムは……いや、オーバーフラッグスは微動だにせず見つめていた

マリーダ「……ッ……」

タケイ「……」

グラハム「…………」

グラハム「オーバーフラッグス全隊員、傾注」

 静かな声が無線に響く合間も、彼等は怒りを沸々とたぎらせていく
 今にも爆発しそうな感情のたかぶりを抑えることなく、憤怒に表情を染め上げ操縦桿を握り締めた

グラハム「往くぞ」

グラハム「奴らが誰に喧嘩を打ったのか、思い出させてやれ……!」

『了解』
113 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2012/01/10(火) 01:35:33.36 ID:OymKfUeAO
 重力を切り離し、一斉に舞い上がる八つの黒い翼

 加速は、一瞬で事足りた

 巻き起こる黒い陣風が、暴風へと真正面から突き当たる

 巡航形態の四機が左右半々に分かれ、前面を構成
 MS形態のフラッグが二列縦隊を組み、それに続いた

グラハム「ッ…………!!」

マリーダ「つぅっ……!」

 最大加速、唯一リミッターを外された二機が突出する

 翼を携えた一角獣と剣のマーク、敵機にその正体はすぐに知れ渡った

 一斉に向けられる銃口にも、襲いかかる数百の弾丸にも怯まない二人

 優位に立っていた敵軍の怯みが、波となって伝わっていく

グラハム「マリーダッ!」

マリーダ「了解!!」

 隙を狙い、即座に二機は空中変形を開始する
 最大戦速からの空中変形、【グラハムスペシャル】

 空気抵抗を利用しての急速な上昇、一気に射線から離脱した

グラハム「おおおぉぉぉぉぉぉッッ!!」

 一閃、袈裟に振られたビームサーベルが、イナクトを両断する

 このままラインを押し上げ、体勢を立て直す時間を稼ぐ――危険はもとより承知の上だ
 それさえこなせれば、数の上では若干優勢
 しかしあの新型MSの前ではそれも過信は出来ない

 万全を期し、最善を尽くす
 戦友に背を預け、想いを共にする者と同じ場所を見据え、ただ前に突き進む

 グラハムは、その眼差しに一片の恐怖も宿さず、敵陣の真っ只中に飛び込んだ

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――――

ヤザン「ちぃっ!!」

ヤザン「しつけえ……んだよッ!!」

 垂直に振るうビームサーベル、円を描くような配置の爪が受け止め、粒子の火花が散った
 GNフィールドによるコーティングがなされた特別製、奇妙な図体だが新型に相応しい性能を有しているようだ

ダンケル『ヤザン大尉!』

ヤザン「ぬぉっ!?」

 一呼吸、敵の爪が開けた間合いを一瞬で詰めて襲い来る
 とっさに回避したものの、肩先の装甲を軽く抉られた

 モニターには、倍近く伸びた敵MSの腕が映し出されている
 見方によっては可愛らしさすら感じる外見に、初めて寒気のような恐怖を感じた

ヤザン「やりにくい……がたいはデカいのに、こう水辺が近くちゃな」

ラムサス『大尉、手は空きそうですか!?』

ヤザン「馬鹿野郎! 新型相手にそう簡単に事が運ぶものか!」

ラムサス『り、了解! バディクラフトを付けたイナクトが暴れてるんです、早めに頼みます!』

ヤザン「おう、すぐに片を付ける!」

 ふと辺りを見回し、通信などから状況を軽く確認する

新型MSは見えているだけでも総勢、七

 茶色く頭でっかちなMSが四、首なしの水色の坊主頭が三
 それとまだ姿は見えないものの、強力な粒子砲を装備したMSが水中に数機確認出来た

 水色は明らかに太陽炉搭載型MSと思われるが、茶色は性能も一段階低く、まだ断定は出来なかった

 紅海アフリカ側基地は、北上してきていた敵部隊により、既に挟み撃ちの状態になっていた
 何とか数と性能を頼みに陸側は押し返したものの、海側は既に多数のMSが撃破されていた
 基地に隣接する分、ヤザンが離れるわけにはいかない
 必然的に、防衛戦と足止めを同時に強制される形となった

ヤザン「良いか、落ち着いて対処すりゃあ問題ない!」

ヤザン「腹をくくらんか! 戦う前からビビってたんじゃ、勝負にならんぞ!!」

 情けないことに、周囲の友軍は新型に攪乱され、右往左往している
 それに向かい檄を飛ばしながらも、飛来するGNミサイルを目に付く限り片っ端から叩き落とす
 それでも海中から次々に立ち上ってくるミサイル、きりがないという叫びが通信からも響いていた

ヤザン「糞ッ! 新型のくせに臆病風か!」

 先ほど戦っていた新型MSも、囲まれそうになるや否や一目散に水中に飛び込んでしまっていた
 一切手出しが出来ない海中からの攻撃を、歯軋りしながら受け止めていく
 如何に新型とて、ヤザンとの真っ向勝負は危険と判断したのだろう
 まともに戦えば新型だろうが潰してやるものを――ヤザンは不快感を露わにしていた

ヤザン(俺の周り、手の届く範囲にしか新型はいない……)

ヤザン(評価はされてるってことか。しかし妙だ……展開にまるで乱れがなかった。)

ヤザン(まるで、最初から俺の居場所が分かっていたような……)

ヤザン「……最初から俺の配置がバレていた……?」

 通信からひっきりなしに伝えられる救助要請
 どうやら紅海を警備していた艦船が底に大穴を開けられ、傾いているらしい
 旧型の水中用MA、名前さえ思い出せないポンコツもどうやらさっさと沈められたようだ
 RGMも慣れない水中戦闘に仕事が出来ていない
 どいつもこいつも、全く、情けない限りだ

ヤザン「ダンケル、グラハムのいる基地の様子は分かるか!」

ダンケル『駄目です、ジャミングがひっきりなし、報告もまちまちで!』

ヤザン「だろうな。あっちにも襲撃の手が伸びてるっつうことだ」

ヤザン「……これで死ぬならそれまで――そうだろう? グラハム……」

ダンケル『はっ……?』

ヤザン「……うるぁぁッ!!」

 背後に迫っていたのは、水色の新型MSの三本の爪
 飛び上がり斜めに打ち据える、全重量を乗せた一撃だ

 ブレイドライフルを諸手で握り、ブーストと脚部の踏ん張り、切り上げる動作を一つに結ぶ
 迎え撃つ、全力のカウンター
 ぶつかり合った衝撃が、目に見えるような豪快な交錯

 ブレイドライフルが耐えきれず砕け散るが、新型MSもまた地面に放り出され、叩きつけられた

ヤザン「間合いが甘いってんだよ!!」

 数に差があるとはいえ、新型MSのせいで後方にGNーXを縫い付けられている
 サイクロプスの出現の連絡が来ていない以上、オーバーフラッグスと奴らが対峙している可能性も十分にあった

ヤザン「もしそうだとしたら……ナメられたもんだぜ……!」

 RGMから手渡された予備のブレイドライフルを、ビームサーベルと共に両手で構える
 重装型のこのイナクトならば、新型MS相手に瞬間的なパワーで押し負けることはない

 ニュータイプ? そんなものはまやかしだ

 情報漏洩? 知ったことか

 サイクロプスが真っ先に此方に来なかったこと、それは自分に対する【侮辱】に等しい行為だ
 このヤザン・ゲーブルを甘く見た代償、新型MSのスクラップで払わせてやる

まだ見ぬ死闘が自分を待ち受けている感覚に、熱い吐息が洩れるのを止められずにいた


――前線基地・司令室――

グッドマン「反政府ゲリラめ、悪あがきをする……」

リー「……」

 報告を受け、興が乗らぬのか椅子の背もたれに身を投げ出すグッドマン司令
 いかにも高級そうな作りをした椅子は、その体重に悲鳴を上げ大きく軋む
 リー・ジェジャンが軽くせき込むのを、グッドマンは不思議そうに眺めながら言葉を続けた

グッドマン「奴らがまた新たなMSを開発した……このことは由々しき事態だ」

リー「いよいよ、奴らがソレスタルビーイングと繋がっているという疑惑が本格化したかと」

グッドマン「うむ」

グッドマン「だがこれを口実に、各国は軍備増強路線を邁進することになるだろう」

グッドマン「それにより、国連は更なる連結強化を求められ、やがては地球に国境というものがなくなる……」

グッドマン「大局的なモノの見方をすれば、奴らの存在は世界統一の為の生け贄とも言えるな」

リー「……」

グッドマン「数千万規模の兵力を有した地球圏防衛を担う唯一最強の軍隊……」

グッドマン「その威容が瞼に浮かぶようではないか……ジェジャン少佐」

 時計の針がゆっくりと外周をなぞっていく
 そろそろ食事の時間だ、グッドマンはそれが待ち遠しいのだろう
 彼の視線が何度も分針に向くのを、リーは何も言わず無表情で見ていた

リー「! ……司令」

グッドマン「どうした?」

リー「定期貨物を載せた輸送機が、着陸を要請しているとの連絡が入りました」

グッドマン「定期の? またタイミングの悪い……警備のMS隊に通させるよう通達してやれ」

リー「はっ」

グッドマン「さて……作戦は何分で片が付くか」

リー「…………」

グッドマン「賭けるかね? ジェジャン少佐」

リー「賭け金(ベット)によりましては、喜んで」

グッドマン「ふ、良かろう」

グッドマン「賭の結果が、食後のデザートに間に合うといいが」


――――

ミーナ「新型……ですって!?」

ビリー「……それも水中作戦に特化した機体。備えはあっても憂いは消えず、か」

 MSドック内には、オーバーフラッグスの整備班が集結、事の成り行きを見守っていた
段階的な部隊移動、本来ならオーバーフラッグスと共に整備班も紅海前線へと赴く筈であった
 しかし爆雷の製造や不足するフラッグのパーツの捻出には設備が足りず、日にちをずらしての移動を予定し基地に滞留ていたのである

ミーナ「グラハム達なら何とか……なると思いたいけどね」

ビリー「防衛戦はオーバーフラッグスの不得手とするところだからね……」

ビリー「若干不可解なことも多い。不測の事態に対処できるよう、万全の準備を頼むよ」

ミーナ「ラージャ、了解ね」

フェルト「……」

 フェルトは、あれから今まで以上にミーナの手伝いやビリーの補佐を積極的に勤めていた

 あくせく働く間だけでも、まざまざと見せつけられた世界の現実から離れられるような気がしたからだ

フェルト「……」

 実のところ、あまりにも熱心に働き過ぎて、予期せぬ疑念を周りから抱かれていた
 年齢不相応のオペレーション技術、電子機器の高度な扱い方、それらを惜しげもなく披露した為である


 【彼女は、一体何者なのか】


 ただのNTとして預けられたという肩書きでは、到底隠しきれない技量の数々
 今更悔やんでも遅いと、フェルトは半ば開き直って毎日を過ごしていた

フェルト(スメラギさんからの連絡……無いなぁ)

 唯一心残りなのは、混乱したままの頭でかけてしまった、スメラギ・李・ノリエガへの電話だった
 盗聴されているかも、という懸念さえ忘却の彼方、たった一言の言葉を吐露して終わらせてしまった

 アレから連絡が来た様子は無く、ミーナやグラハム少佐にもスメラギからのコンタクトは来ていないらしい
 何か誤解して、行動を起こさないだろうか
 意識下に刺さる棘の抜けぬまま、輸送機に積み込んだ貨物の集計をコンソールに叩き込む

「チーフ、仮設基地へのフライトは中止ですか?」

ビリー「戦闘がいつ集結するとも分からない。どのタイミングでも飛べるよう準備だけは引き続き進めておいてくれ」

「了解です」

ミーナ「オーバーフラッグは破損したら修理が利かないものね」

ビリー「マリーダならある程度は可能だけど、戦闘中、独りで部隊の全てを見るのは……ねぇ」

ビリー「我が隊の勝利の女神にも、不可能はあるさ」

フェルト「…………」

 恐らく、グラハム少佐は真っ向から敵部隊に当たるだろう
 性能を最大限生かした、部隊一丸となっての特攻だ
 元々性能では劣る旧型MSが太陽炉を搭載したMSに対抗するには、瞬間的な爆発力で圧倒するより他にない
 それを一番体現出来るのが、オーバーフラッグの加速をそのまま攻撃に転用する【グラハムスペシャル】であり、何より彼の実績がそれを証明していた

 勿論、即座に修理が可能ではない現在のような場面では賭でしかない
 輸送機で物資と技術者を運んでから直ぐに修理、という離れ業は相当馴れた者達でなければ短時間ではこなせない
 オーバーフラッグという特殊な機体なら尚更だ

ビリー「きっと、それでもグラハムは真っ正面から往くだろう」

ビリー「向こうに着いたら直ぐに修理と整備だ。最悪戦闘中の基地に強行着陸もあり得るな……」

ミーナ「それでも彼は正面衝突を選ぶ、信頼されてるわね技術顧問さん?」

ビリー「盟友の苦悩だね、これは」

フェルト「……あれ?」

 ふと、プチモビが動かす荷に目を奪われた
 積み込まれていくフラッグの胸部装甲板、留め金が甘かったのだろうか、カバーが外れ露出していた
それには塗装を塗り直しても分かる凹みが、ありありと残っていた

フェルト「これ、あの時の……」

ビリー「あぁ、そうだよ」

 あの時――

 突然始まった、グラハムとヤザンの一騎打ちのことだ
 今でも、思い出すだけで背筋に氷柱が突き刺さるような錯覚を覚える
 そんなフェルトの様子に気づかぬまま、ビリーは装甲板に歩み寄っていった

ビリー「あの後積み込み作業と平行して仕上げるのが無理そうだったから、一回剥がして取り付け直したのさ」

ビリー「見た目は悪いけど、表面塗料を凹凸に合わせて加工したから強度も風の受けも問題ない」

フェルト「…………」

ビリー「フラッグの実機はイナクトのそれより少ない……無駄には出来ないよ」

 ビリーの手が、黒い装甲板を愛おしげになぞる
 その手つきは、恋人へ向けるそれのようでもあり、我が子へ差し伸べるそれにも似通っていた
 彼のフラッグに対する愛情が本物であることを、何よりも顕した瞬間だった

?「失礼!」

フェルト「あ、ごめんなさ……?」

ビリー「さぁみんな、早く作業を終えて食事にしよう。グラハム達の安否も気になるからね、食べられる時に食べておかないと」

?「…………」

 ビリーの掛け声に皆が呼応し、急ピッチで資材機器が輸送機に運び込まれていく
 その横を、トラックがクラクションを鳴らし微速で通り抜けていった

フェルト「……?」

ミーナ「どうしたの? 此処じゃお邪魔になっちゃうわよ」

フェルト「えぇ……」

ミーナ「定期的に基地に物資を届けてくれる輸送隊ね、もう少し通る場所考えてくれないかしら?」

 ミーナは頬を膨らませ、足早に基地へと歩いていってしまう

フェルト「……」

 小さくなっていく車体
妙な胸騒ぎを覚え、目が離せないままその場に立ち尽くす
それが見えなくなるまでその場から動けずにいた



「……感づかれたか?」

「まさか、あのグラハム・エーカーならまだしも、女の子ですよ?」

「だな……」

「しかし呑気なもんですね。前線からいくら離れているからって……」

「油断するなよ。今回の作戦は、私達の手に掛かっているんだ」

「分かってますよ。では……」

「あぁ、すぐに始めよう。キャプテン達が待っている」


――海中――

カークス「状況はどうだ?」

兵士「イナクト隊は初期の二十機と追加の十機展開から七機損失」

兵士「ゴッグは損傷皆無ですが、基地への攻撃効率は68%に留まっています」

 ソナーの単調な高音が、無音のブリッジに鳴り響く
 クルー達が息を殺し従事していることもあり、それははっきりと耳に届いていた

カークス「いちいち海に逃げ込んでいれば……そうもなるか」

兵士「しかし、相手が相手です」

カークス「分かっているさ、マッドアングラー隊は実によく働いてくれている」

カークス「否定するつもりの発言ではないことは、理解してもらいたいな」

 定期的に響く高音に耳を澄まし、副官と同じやり取りを延々と繰り返す
 辺りを囲む潜水艦【ユーコン】からは、地上目掛けGNミサイルが打ち上げられていくのが見える
 国連軍の攻撃の届かぬ位置にいるせいか、妙な脱力感を覚え椅子に深々と腰を据えた

カークス「艦長の席を借りるが、構わんかね?」

兵士「えぇ、艦長からは自宅のようにくつろいでくれとのお達しです」

カークス「ははっ、こんな良い家を持てる暮らしか。想像もつかんよ」

兵士「お褒めの言葉として受け取っておきますよ」

カークス「しかし……本当に良い艦だ」

兵士「えぇ、【ユーコン】も含め、国連軍にだってこれほどの潜水艦はありません」

カークス「地上での戦線を維持するため、制海権を何よりも優先した……フロンタル大佐の目は正しかった訳だな」

 水陸両用型MSの運用を想定して開発された、GNドライブ搭載型大型潜水艦【マッドアングラー】
 付随する潜水艦【ユーコン】と共に【袖付き】からもたらされた戦力であった

カークス「……【袖付き】か」

カークス「一体、どの様にしてこれほどの戦力を独自開発、製造出来たものかな」

兵士「さぁ……噂だと、三国内にもシンパが沢山いると聞きますが」

カークス「俺の戦っていたAEU本国にもいたのかな、シンパとやらは」

兵士「? 少佐は【棄民政策】に関わっていた宇宙移民の帰還民と聞きましたが」

カークス「主導だったのはユニオンだがな、裏では三国が結託して【アステロイドの地均し】を行っていたのさ」

カークス「ん……火、あるか?」

兵士「あ、どうぞ」

カークス「……ふー……」

カークス「……下層市民ってのは、いつの時代も、何処にいても、見上げることだけは止められないんだ」

カークス「宇宙にいたとしても……な」

兵士「……」

 宇宙に上がったことを、実のところ後悔はしていなかった
 当時まだ十代半ばの若造だった自分から見ても、世界の閉塞感は息の詰まるものだったからだ
 事実、その澱んだ世界が今宇宙に自由を求める心、【ジオニズム】を広め、地球の重力から魂を解放せんともがく原動力にもなっている

 始めてしまった

 始まってしまった

 宇宙の暗闇に投げ捨てられて二十年を過ぎ、今なお我々の【戦争】は続いているのだ

カークス「……時間だな」

兵士「例の機体確認しました、護衛のズゴック、アッガイを出します」

カークス「地上部隊、及びブーン大尉のズゴック隊に連絡を。【三角頭】は一発限りだ、タイミングを逃すなよ!」

兵士「了解!」

 二百年、無理やりに押し込められた人々の意識は遥かな宇宙を目指し、既に拡散しつつあった
 ガンダムにより世界が変革を踏み出した今、それは止め処ない一つの濁流となり歴史を動かしていく
 西暦2308年、もはや人類は地球という揺りかごに収まりきりはしない

それを収めるものこそが、まさしく【ジオン】という器なのだ

兵士「ミッションタイムクリアッ! 【シャンブロ】、目標地点到達!!」

カークス「これが、宇宙移民のもとめる真の変革の狼煙となる……!!」

 連動したモニターから真紅の閃光が迸り、ブリッジを赤く照らし上げる
 カークスはその憎しみの光を、敢えて真っ向から見つめ続けていた


――地上・アフリカ側基地――

クラウス「ライセンサーッ!」

ヤザン「サンドチャリオットか!? しゃらくせえ!!」

 串刺しにされた茶色の頭部、だらしなく投げ出された伸縮性のある腕部
 破壊された新型MSを挟むようにして、二機の異なるイナクトが刃を交えた
 片方はイナクトの姿をしているが、重量、出力推力、武装に至るまで異質な改造機
 もう片方もまた下半身が完全にユニットによる補正を受け、イナクトの上半身のついたホバークラフトといった外見の専用機だ

 そして、それを駆るは国連軍最強の【野獣】と、反乱部隊最高峰のエースパイロット
 その間に割り込める人間など、いるはずもなかった

クラウス「もうこれ以上は、やらせんッ!!」

ヤザン「来いよ、もっと楽しませてみろってんだァ!!」

 クラウスは滑るような高速移動で回り込み、建造物との僅かな隙間を利用し防御と攻撃を両立
 ヤザンに接近の余地を与えまいと、距離を保ち弾幕を張る
 ヤザンは障害物の配置から、滑るクラウスの動きを読んでいく
 牽制弾を難なく回避し、先回りするように砲弾を撃ち込む

 お互いが一瞬の隙を見計らい、間合いに入るタイミングを狙う、刹那の睨み合い
 装甲すれすれ、1m以内の誤差を抜けるライフルの応酬

 それでも互いの距離は狭まっていく
 そして、にじりよるヤザンのイナクトが、遂にクラウスを間合いに捉えた

ヤザン「……っ!?」

 咄嗟の判断、まさにただの勘としか説明出来ぬ一歩
 わざわざ詰めた間合いを、ヤザンは一歩引いていた

 その直後、狙いすました弾道がイナクトの影を貫いた
 リニアライフルの遠距離砲撃、引いていなければ間違いなく頭部を撃ち抜いていただろう

ヤザン「スナイパーッ……やはり囮か!?」

ネフェル『ちっ! どいつもこいつも当てにくいね、ライセンサーってのは』

クラウス「済まない、誘いが露骨すぎたかもしれん」

ネフェル『アレに正面勝負挑んでくれただけでも大助かりさ、お気になさらず』

ネフェル『でも同じ手は使えないよ。ほら、さっさと退却っ!!』

クラウス「了解だ!」

ヤザン「うぉっ!?」

 イナクトのセンサーが狙撃手を捉えたときには、同時に大量のマイクロミサイルが視界に入る
 ビームサーベルを下げ、即座に後退するヤザン
 爆風は天まで巻き起こり、一帯を朱の光に飲み込んだ

ネフェル「やった……訳ないわよね。つくづく化け物だらけだわ、この戦場」

クラウス「……君が来たということは、始まるのだね」

クラウス「【大佐】が考案した、例の作戦が」

ネフェル『そういうことね』

ネフェル『……キャプテン、大丈夫かしら』

クラウス「信じるしかない。我々は、我々の使命を果たそう」

ネフェル「そう……よね」

  ・
  ・
  ・

 撤退を始める反国連勢力
 その背を見つめながら、ヤザンは瓦礫を払い、ゆっくりと機体を起こした

ヤザン「逃げられた……か」

 足元には、茶色の新型MS【アッガイ】の亡骸
 コクピットと頭部に幾つもの刺し傷を残し、完全に沈黙していた
 しかし、ヤザンの目には仕留めた獲物より逃がした獲物が映っている
 近づいてきた部下にも視線を向けぬまま、じっと地平線を見つめていた

ラムサス『流石は大尉、お見事です!』

ヤザン「さっきのイナクト……いい腕だったが小綺麗過ぎる、まだグラハムの方が貪欲だな」

ラムサス『はっ?』

ヤザン「くく……あと二年ってところか? 次が今から楽しみだぜ」

ラムサス『……っ』

ラムサス(最前線で戦って、新型まで落としてるってのに、まだ戦い足りないのかよこの人は)

ラムサス(たまに思うぜ……俺達は、とんでもない獣の下で働いてんじゃねえかって……)

ヤザン「よし、部隊を編成し直す! 間違いなく次が来るからな、万全の……」

ダンケル『た、大尉!!』

ヤザン「あん? どうしたダンケル」

ダンケル『今通信で、その……!』

ヤザン「勿体ぶるんじゃねえ! 一体何だってんだ!」

ダンケル『前線基地が……』

ダンケル『前線基地が、壊滅したとの連絡が、本営から入りました……!』

ラムサス『なっ!?』

ヤザン「なんだとぉ?!」

ヤザン「馬鹿を言うな! いくら戦力をこっちに集結させたからといって、あっちにRGM含め何十機残してあると思ってる!!」

ヤザン「前線基地が落とされるような戦力が動けば、何処かの基地から必ず情報が入る! 仮にガンダムレベルの少数精鋭だとしても、こんな短時間で潰されるほどグッドマンとて無能ではない筈だ!」

ダンケル『しかし、デマじゃありませんぜ大尉』

ラムサス『確かに……腑に落ちない点はありますが、本営からならガセじゃあないですね』

ヤザン「ちっ……!」

ヤザン「こっちはもう抑えられるだろう! だったら今すぐ……」

『紅海沖に高熱源反応!』

ヤザン「次から次へと……今度は何だぁッ!」

 ――ヤザンは、いつになく苛ついていた

 普段の彼の素行から分かるとおり、一度頭に血が昇れば周りの言葉などでは止まりようがない
 【野獣】と揶揄される性格の、分かりやすい一面である


ヤザン「っ!?」


 その【野獣】が、止まった

 それは、それほどに彼の視界に入ったものが異形であるという、証でもあった

 海から粛々と顔を出していた異形、それは見たこともない形状と大きさを持った機動兵器であった

 鋭角の刺々しい嘴、真っ赤に塗られた装甲
 威圧感を漂わせるクローアーム等々、現存するどの兵器にも類似しない、特異な外見

 MAという形態の、戦闘に於ける正当進化が廃れたこの西暦世界において、存在し得ない存在
20111126013557d4b.jpg
ヤザンのみならず、その場にいた誰もがその怪物に萎縮し、困惑しきっていた

ラムサス『大尉、ありゃあ何です!?』

ヤザン「……!」

ヤザン(敵機の撤退……同時に現れた敵性勢力)

ヤザン「まずい……!」

 嘴にあたる部分、大口径GNメガビームカノンに臨界状態の粒子が圧縮される
 その妖しい輝きにさえ、誰も動こうとはしない 
 ただ一人、数々の死線を潜り抜けた【野獣】を除いては……

ヤザン「避けろオォーッ!! 来るぞぉぉぉぉーッ!!!」

 ヤザンの叫びが広がり、ようやく兵士達は自分の置かれた立場を知った

 しかし、もう遅い

 慌てふためくMS機甲大隊の中心目掛け、溢れ出たメガビームカノンの一撃

 寸分違わぬ精度により、それは撃ち込まれた

 海を蒸発させ、大地を融かし、一直線に国連軍へと食らいつく膨大な圧縮粒子の一撃
 飲まれたMSはまるで火中の氷の如く形を崩し、やがては消滅していく
 MSの火力に対応するはずの基地施設の防御機能など、直撃を免れても意味がなく
 高熱量の余波に襲われ、至るところで誘爆や火災が発生、容赦なく命を灼き尽くす

ヤザン「うおぉ……!!」

 とっさに射線から離脱したヤザン隊は、その光景をまざまざと見せつけられていた

 やがては粒子の光も消え、赤い三角形の頭もまた水面の底に消えた

 残ったのは、破壊から逃れ呆然と立ち尽くす兵士達と、甚大な被害を被った仮設基地のみ

 たった一撃の砲撃が、事態を軽々一変させてしまった

ヤザン「……ッ!!」

 悔しさが、言葉にすらならない
 ヤザンは、モニターに有らん限りの力を込めて拳を叩きつけた
 火花を散らし、消える映像

ヤザン「おおぉぉぉーーーーッッ!!!!」

 彼はそのまま、とある人物からの通信が入る一時間の間
 行き場の無い怒りに身を焦がし、俯いていた


 ・
 ・

 前線基地壊滅の報と、アフリカ側仮設基地の機能停止の連絡は、ほぼ同時にオーバーフラッグスに届いていた
 被害甚大、被害甚大
 ただその一言のみが、壊れたレコードのように通信機から連呼されている

 しかし、それに耳を傾けるものは誰一人としていなかった 皆、一様に空を見上げていたからだ


ジョシュア『がッ……くそ……!』

タケイ『う……ッ』

リディ『な……あ……?』

 両断された新型MS
 大破し、力無く倉庫に寄りかかるオーバーフラッグ
 打ち砕かれ、残骸と化したイナクトは文字通り死屍累々と辺りに散らばっていた
 そして皆の視線は、朱に染まる空に浮かぶ、ただ一つのMSに結ばれていた

『此処からだ……』

グラハム「……貴様はっ……!」

『俺様は此処から、全てを見通す眼を手に入れる!』

グラハム「……まさか……?!」

『あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!』

 【トランザム】の輝きをその身に纏い、もぎ取ったフラッグの左腕を掲げ狂ったように笑う悪魔
 カモフラージュの仮面を自ら剥ぎ取り、その素顔を惜しげもなく晒してみせた
 それはまさに一年前、世界に楔を打ち込んだ存在

 【ガンダム】そのものであった……


To Be Continued


「……GNキャノン、及び強襲用コンテナ。作戦領域に到達」

「ティエリア・アーデ、ミハエル・トリニティ。ミッションプランに従い作戦行動に入る」


【ゴッグ】

疑似太陽炉搭載機。GN粒子砲とびっくりなくらい硬いGN複合装甲、GN粒子で鋭いクローアームが武器
トリロバイト同様、GN―Xみたいに飛べません。その代わり水中ではヤバい速い
水陸両用、地上ではそこまで速くはない。

【ズゴック】
疑似太陽炉搭載機。ゴッグほど硬くないが素早い。GNビームガンを両手に装備しGN粒子による鋭い爪が武器
GNミサイルもあるよ
同じく飛行は不可能

【アッガイ】

袖付きが他の二機同様、【サルベージ】と呼ばれる行為により製造した水陸両用MS
疑似太陽炉非搭載機でありながらEセンサーにも極端に反応しにくい高いステルス性能と、各関節の柔和性による伸縮自在な機動を可能にしている
エネルギーは主に軌道エレベーターから受信するタイプで、GNコンデンサーは主に火器転用、関節防護に利用されている
武装はクローアーム/腕部内蔵ロケット/低出力GNビームガン/頭部バルカン
パワーが圧倒的に足りないものの、他の二機とは違いコストが圧倒的に低く、唯一地上で製造可能な水陸両用MSである

なお、ゴッグ、ズゴックはGNドライブを完全に内蔵しているので外見は変わらず皆UC準拠

俺が好きだかr水陸両用という概念が00には少ないので、結構強めに描写



196 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [sage]:2012/03/14(水) 03:20:29.67 ID:mntEUpTAO
うん、済まない。こんな最後の一つくらいさっさと投下しろよ童貞技術顧問という蔑みの眼差しが感じられるよ

続きはまた明日、遅れは取り戻したいものだな

【グラハムの階級に関して】

ブリティッシュ作戦立案

AEU・人革は指揮官クラスを出せたもののユニオンには該当者がいない

焦るユニオン、このままじゃ我々ばかりが前線に立たされてジンクスを使い潰されてしまう(ただの思い込み)

そうだ、グラハム上級大尉を少佐に引き上げて形は保とう

半ば無理矢理な理由で少佐に昇進

ロックオンとのスキャンダル

ユニオン手のひらを返してグラハム追放を思案

もたらされた情報によりグラハム釈放、しかし元からそんなに良く見られてなかったのもあり少佐の話はお流れに

後日改めて昇進

こんな流れです。グラハムがブリティッシュ作戦に合流した段階では上級大尉と名乗っているのもその為です
グラハムとカタギリが捕まる直前昇進に大してやたら反応が薄いのも、そういう舞台裏に霹靂していたからでもある


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