マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その40

2014年04月03日 19:07

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目

394 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2012/12/12(水) 10:46:30.66 ID:WksrI/rAO
――フェレシュテ・秘密基地――


 その日は、基地全体が華やいだ雰囲気に包まれていた。
 恐らくフェレシュテ発足以来、初めてであろう正式なガンダムマイスターの来訪。
 そしてそれは、フェレシュテが当面の最重要目標として掲げていた、ソレスタルビーイングの実働部隊との合流でもあった。

エコ「…………」

シャル「どうぞ、こんなものしか無いけれど……」

ティエリア「お心遣い、感謝する」

ヨハン「有り難く頂く」

 パイロットスーツから私服に着替えた二人に、茶と菓子が振る舞われる。
 依然として予断を許さない状況ではあったが、フェレシュテも、マイスター二人も、苦境を打破する糸口を掴めたことを素直に喜んでいた。

シェリリン「えっと……紅茶は口に合わなかったかな?」

ヨハン「いや、美味しく頂いている」

ティエリア「あぁ、何か問題でも?」

ヒクサー「っっ……」

ティエリア「何がおかしい、ヒクサー」

ヒクサー「ごめんごめん、二人とも表情がピクリともしないから、フェレシュテのみんなは緊張しているんだよ」

シャル「ヒクサー!」

ティエリア「む」

ヨハン「……済まない、そんなつもりは無かったのだが」

シェリリン「気にしない、気にしない!」

シャル「えぇ、でも良かった。こうやって合流出来たのは、私達全員にとって本当に幸いなことだもの」


←ブログ発展のため1クリックお願いします
シェリリン「これでソレスタルビーイング復興の第一歩、だね!」

黒HARO『バンザーイ』

黄HARO『バンザーイ』

エコ「いや、ちょっと待った!!」

 長机を囲む面々に対し、エコが机を叩いて立ち上がる。
 皆は驚きの表情を浮かべたが、その視線の先を確認し、彼が何を言い出すのか直ぐに理解できた。
 ソレスタルビーイングへの世界の反感を増幅させ、フェレシュテにも事実上の襲撃をした、チーム・トリニティ。
 その構成員たるヨハンへの不満が、全く無い筈などないのだから。

ヨハン「…………」

エコ「まずはっきりしようじゃないか! なんで此処にコイツ……!」

ティエリア「予備マイスター及びフェレシュテ構成員、エコ・カローレ」

エコ「へぁっ?!」

ティエリア「彼はブリティッシュ作戦の折、危険を省みず我々ソレスタルビーイングに合流し、黒幕であるアレハンドロ・コーナーとの決戦時には先陣を勤めた実績がある」

ティエリア「確かにトリニティとしての活動、それがもたらした世界への影響と結末に関しては万死に値する行いだと断言出来る」

ティエリア「しかし今はソレスタルビーイングの復興の為、少しでも実力のある者が必要なのも事実だ」

ティエリア「ヨハン・トリニティには、贖罪の意味も多分に含め、身命を賭して未来の為に働いて貰う。それで構わないか?」

エコ「えっと……そのぉ……」

ティエリア「構わないな?」

エコ「でも……」

ティエリア「…………か」

エコ「はい、構いません。はい」

ティエリア「よし」

887(わぉ、苛烈ぅ……)

 有無を言わさず意見を叩き潰され、エコは椅子に座り直すと黙り込んでしまう。
 縮こまるエコに、ふんぞり返るティエリア。
 たった一度のやり取りながら、エコ・カローレという男の立場がよく顕された展開であった。

ヨハン「寛大な処置に感謝する。私は私の役割を全力で果たすと約束しよう」

ティエリア「当然だ。馬車馬のごとく働け」

ティエリア「もし怠けたり、背信行為に走ろうものなら、我々は背中からでも君を撃つ」

ヨハン「肝に銘じよう」

887(あ、乗っかった)

シェリリン(まあ今回は、分かり切ってることを今更聞いたエコが悪いってことで)

シャル「……ハァ」

ヒクサー「うん……それじゃ、そろそろ話を始めよう。忙しくなるしね」

シャル「えぇ」

ティエリア「話し合うべきことは星の数ほどあるが、個人的に優先して考えたい案件が幾つかある」

シャル「どうぞ」

ティエリア「この基地内に残されている第二世代型ガンダム……その内稼働可能なものは幾つある?」

ヨハン「…………」

シャル「シェリリン」

シェリリン「えっと……アストレアはフォンが持って行っちゃったし、サダルスードはヒクサーがマイスターとして仮登録」

シェリリン「プルトーネは、以前トリニティが太陽炉確保の為に基地を襲ったとき、自爆して喪失しちゃったから……」

ヒクサー「残存しているのはたったの一機、ガンダムアブルホールだけだね」

ティエリア「アブルホール、か」

シャル「アブルホールね……」

ヨハン「アブルホール……」

シェリリン「アブルホール……じゃあねえ……」

 皆、一様に唸ると続く言葉を飲み込んでしまう。
 これほど落胆するのには、大きな理由があった。

 第二世代ガンダムは、武力介入に実用される第三世代ガンダムの製造の為の前身であり、全てが実験機である。
 そしてガンダムアブルホールはその中でも特に、その意味合いが顕著なMSであった。

 可変機構を有しているとはいえ、実験機ゆえに未完成で純粋な人型にはなれず、飛行機に頭と脚が生えたような外見。
 固定武装および標準装備はGNバルカンとミサイルのみ。
 巡航形態時の機動力はキュリオスに比べても遜色ないレベルだが、肝心のMS形態は火器も白兵戦能力も貧弱、おまけに巡航形態でもユニットの有無で大きく離されてしまう。

 あのフォンですらアブルホールの使用には偵察と旧世代機との戦闘を徹底、イレギュラーとの接触時は撤退し、戦闘行為がメインの任務には一切出撃させなかったと言えば、その戦闘力は容易に理解出来るだろう。

ヒクサー「GN―XやRGMがあちらこちらに配備されている現状、むしろ機動力に富み、戦わないという選択肢を徹底出来るアブルホールは優秀な機体だよ」

ヨハン「それは理解している。しかし、地上では第三世代ガンダムに匹敵するMSが増産の一途、宇宙には例の所属不明機が何機いるか分からない」

ヨハン「せめてプルトーネがあればと思ってしまうのは……後悔、なのだろうな」

ティエリア「……」

 ヨハンは、血が滲むほど握りしめた拳を、静かに机の下に隠した。
 フェレシュテの太陽炉を回収せんと三機で恫喝した過去に、フォンとマイスター874の起死回生の機転でガンダムプルトーネは自爆、消滅しているからだ。
 プルトーネ一機あれば事態が変わるなどということは勿論有り得ない。
 しかし、Oガンダムの襲撃以来、防衛の為の戦力確保は急務となっていた。

 とどのつまり時機と用途の問題でしかない。
 だが自身の行いが仲間の首を絞めていると、ヨハン自身は考え、苦悶していた。

シャル「過ぎてしまったことを今更悔やんでも、得るものは何もありません」

シャル「まずは出来ることをする。そしてこれから起きることを考える。尽くしましょう、最善を」

ヨハン「……」

シャル「シェリリン、GNキャノンと強襲用コンテナは……」

シェリリン「GNキャノンの方は被弾も無いしオールグリーン、問題は強襲用コンテナの方かな」

シェリリン「ちょっと見ただけなんだけど、大気圏突入時の外装の不具合、無理やりくっつけたスラスターの調整、コンデンサの取り替え……時間、結構かかるよ」

シェリリン「でもすごいね、これ師匠がやったんでしょ? これだけの形に仕上げるなんて、やっぱり流石だなぁ」

ティエリア「……強襲用コンテナの修理にかかる時間は」

シェリリン「あ、ごめん。えぇとガタガタの基幹ユニットを騙して使うと考えて、も……」

シェリリン「……ん~……パーツ吟味や回収、諸々考えれば最低ひと月、かな……」

ティエリア「ならば、並行して頼みたいことがある」

ティエリア「アブルホールの準備にはどれくらいかかる?」

シェリリン「そっちは問題無し、フォンがいつでも使えるよう整備しといたから、片手間でもバッチリ」

ティエリア「……そうか、ならば」

ティエリア「粒子貯蔵タンクを搭載し、太陽炉無しで稼働させた場合どれくらいの稼働時間になる?」

ヒクサー「ティエリア、待ってくれ」

ティエリア「GNアームズ及び強襲用コンテナに搭載しているのは大型のものだが、敵の量産型MSには太陽炉非搭載型が多数配備されている」

ティエリア「内蔵粒子火器が少なく、プラズマによる噴射機構もあるアブルホールならば、GNキャノンを同じように改造するよりは遥かに長持ちするだろう」

シャル「……確かに、もとより戦いが出来る状態でもないし、国連軍は反乱軍との睨み合いで動きは読みやすい」

ヒクサー「ティエリア!」

 今度はヒクサーが立ち上がり、向かいに座るティエリアに詰め寄る。
 険しい眼差しを向けるヒクサーに対し、真っ直ぐに見つめ返すティエリア。
 狼狽えを見せるフェレシュテとは対照的に、ヨハンは静かに一部始終を見守った。

ヒクサー「……まさか、残存するガンダムを総動員してアレルヤ・ハプティズムの救出する、なんてことは考えてないよね?」

シェリリン(救出……?)

シャル(あぁ……そういうこと、ね)

ティエリア「それは違う。私は、アレルヤ・ハプティズムの存命を君に聞いてから、一瞬たりとも救出作戦のことを考えなかったことはない」

ティエリア「だが今は、今はまだその時ではない。然るべき時に、必ず迎えに行く」

ヒクサー「……そうか、考え過ぎたようだね。済まない」

ティエリア「如何なる可能性をも考え対処する、その用心深さを賞賛こそすれ非難はしないさ」

 エコ一人、置いてけぼりにしながら議論は終わり、二人の視線は離れていく。
 ティエリアが紅茶を一口啜る頃、またヒクサーが口を開いた。

ヒクサー「もしアブルホールが使用可能になったとして、乗るのは君かい?」

ティエリア「GNキャノンにようやく慣れ始めたところだ、私は乗らない」

ティエリア「手の空いたマイスターを搭乗させる、それが一番合理的だ」

ヒクサー「成る程……ね」

887「ってことはパイロットは……」

エコ(俺!?)

ティエリア「ヨハン・トリニティ」

エコ(あ、やっぱり……?)

ヨハン「私がアブルホールに、か?」

ティエリア「コンテナの操縦は手の空いたマイスター、もしくはHAROに任せるさ」

ティエリア「それにスローネトゥルブレンツを操縦した経験のある君なら、アレルヤほどではないにせよ、私よりは上手く扱えると思うが」

ヨハン「……」

黄HARO『マカセロ マカセロ』

ヨハン「了解した。その期待に必ずや応えよう」

エコ「お、お、おれ……」

ヒクサー「エコ、アブルホールのミッションは偵察が主だから、イレギュラー発生率もダントツだよ?」

エコ「……ナンデモアリマセン……」

シャル(ヒクサー、エコをいじめないの!)

ヒクサー(っっ……ごめんごめん、つい、ね)

ヨハン「……シェリリン・ハイド」

シェリリン「?」

 ヨハンは机に大容量メモリを滑らせ、シェリリンに投げ渡す。
 シェリリンは何も言われはしなかったが、それがスローネから取り出した、ヨハン自身のパイロットデータであることをすぐに理解した。
 準備の早さから、乗る気満々だったんじゃないのか? と887が口にしそうになったが、ヒクサーがそっとその口を塞ぎ、声になることはなかった。

シャル「あとは此方側で話をつけるわ、シェリリンは直ぐにでも仕事について頂戴」

シェリリン「OK、直ぐに調整するよ」

ヨハン「宜しく頼む」

 席を立ち、自らの仕事場へひた走る少女。
 二機のHAROが異なるテンポで飛び跳ね、その背中を追っていった。
 向き直る一同。
 その表情は一転、暗鬱に沈んでいた。

ヨハン「……良かったのか? 彼女に聞かせなくて」

シャル「明日や明後日にでも教えるわ、でも出鼻を挫かれるのは避けないと……あの子はノれる時にノらないと駄目なのよ」

ティエリア「……ヒクサー、先ほどの情報は本当なんだな?」

ヒクサー「信頼できる情報だよ。オリジナル太陽炉搭載のガンダムアストレアが戦場に突如襲来、国連軍を牽制し反乱軍に加わった」

ヒクサー「国連軍は一部報道や記事に乗ったそれらを公式に否定、映像のそれはガンダムに似せた模造機であると公表するらしい」

ティエリア「しかし……」

シャル「えぇ、本物でしょうね。まごうことなき」

ヨハン「となればパイロットはフォン・スパークか……こんな馬鹿げた行いを堂々とやってのける奴が、他にいるとは考えたくない」

エコ「本当に何考えてんだアイツ?! ガンダムがテロリストの味方なんて……!」

887「え~? 天下のフォン・スパークよ~?」

887「世界がイヤになって心中なんてことしてもあたしは不思議じゃないわね、なんたって極悪人の、凶悪なテロリストなんだもの」

シャル「……」

ヒクサー「確かに、彼はテロリスト出身の超危険人物だ」

ヒクサー「だが今回の一件、どうやら彼の行動を注視するのみに留める必要があるかもしれないね」

887「えっ!?」

ヨハン「ヒクサー、何を!」

ティエリア「成る程、そういうことか……」

ティエリア「それはヴェーダが万全ではない、という言葉に重なることだな? ヒクサー」

ヒクサー「御名答。その様子ならもう、当たりはついてるんじゃないかい、ティエリア」

ティエリア「……憶測でしかない、荒唐無稽で突拍子もない意見だ」

ティエリア「だが今の今までヴェーダの力が悪用され、ねじ曲げられたことはあっても、ヴェーダの機能そのものが低下するようなことは一度たりともなかった」

ヒクサー「……」

エコ「ってことは……内部の問題ではない?」

ティエリア「恐らくはな」

ティエリア「だがヴェーダを操る存在の不手際でもない。そいつはあくまでヴェーダの方針と力を操作しているだけで、ヴェーダそのものを傀儡には出来ていない。」

ティエリア「もしこれが内的要因に起因する不具合ならば、その原因を引き起こした者は最悪ヴェーダからアクセス権を取り上げられる、そういうレベルのミスだ。リスクを考えても手を出す理由が無い」

ティエリア「そして、その何者かが守っているヴェーダへ、第三者からの物理的な接触など殊更有り得ん」

ヨハン「では……?」

ティエリア「ならば原因はただ一つ、【ヴェーダへのアクセス権を持ち、外部からヴェーダの機能を制限するだけのサイバーアタックを仕掛ける存在】……それが不調の原因だ」

シャル「そんな存在……」

ティエリア「有り得ない。そうだ、有り得ないんだ、だが実際それは起きている」

ティエリア「ならば、この仮定が示すモノが存在する、ということになる」

ティエリア「……そう……もう一つのヴェーダが」


――――

シェリリン「なーんか盛り上がってるかんじがするなぁ。あたしを追い出して皆だけで、何やってんだろ?」

黒HARO『ぷっ……ぷるる……』

シェリリン「え? 」

黒HARO『ぷるる……ぷるるる……ブツン』

シェリリン「ど、どうしたの黒HARO? エネルギー切れ? 精密機器の故障?」

黒HARO『……映像を受信した。シェリリン・ハイド、フェレシュテのメカニックとお見受けする』

シェリリン「へっ? ふぇっ!?」

黒HARO『ヒクサー・フェルミ、もしくは887に至急繋いで貰いたい、【財団】からと伝えて貰えばすぐに判るはずだ』

黒HARO『急いでくれ……奴らが、【袖付き】が動き出す!』


――国連軍前線基地・士官用個室――


 最初にその存在を示唆されたのは、自分が粒子の毒で倒れたときであった。
 スミルノフ大佐――当時はまだ中佐だった彼から名前だけ聞かされた。
 【プルツー】、自分と同じプルの名前を冠した、ニュータイプ。
 その出自は誰よりも自分が一番理解しているだろう。

マリーダ「…………」

リヴァイヴ「モニターの準備は完了したよ。いつでもいい」

『……持ったままでかい?』

リヴァイヴ「君が彼女をどう思っているかは知っているつもりだけど、【彼】は彼女を其処まで信用していない」

マリーダ「!」

リヴァイヴ「彼女なら端末を回収して私を振り切り、組織の内情に多少なりとも近付ける可能性がある」

リヴァイヴ「万が一にも愚は犯したくはない……とのお達しさ。用心だね、君のマスターは」

マリーダ(確かにその手は考えた……だが……マスター、か)

『……ここはアイツにも一定の評価をされていると、一応喜んでおくところかい?』

リヴァイヴ「好意的な解釈だね。君らしくもない」

『まるであたしが冷血漢だと言いたげじゃないか。まあいいさ、じゃあ見やすいように抱えてろ』

リヴァイヴ「そのつもりだよ」

 通信端末からモニターが立ち上り、そこには栗色の髪の少女の姿が映し出される。
 緋色のパイロットスーツなど、見覚えのないものもあるにはあった。
 しかし、その顔は紛れもなく、疑いようもなく。
 十九年間自身が付き合い続けてきた、自分自身の顔、そのものであった。

マリーダ「っ……く……」

プルツー『どうだい? 最近まで冷凍庫の中にいたから、見た目は子供のままだけどね』

プルツー『ま、顔くらいは現代の整形手術ならいくらでもいじれるだろうけどさ……少なくとも気は済んだだろう』

プルツー『私はプルツー、製造番号からしたら一番最初、正真正銘お前の姉だ』

マリーダ「……!」

プルツー『面と向かって顔を合わせればもっと確実なんだが……』

マリーダ「どうして……」

プルツー『?』

マリーダ「どうして今頃になって……まさか、またあの計画を始めようというのか……?」

プルツー『……あぁ、お前が連絡しなかったのはそれを危ぶんでたのか? てっきり手紙の中身をリヴァイヴに任せたせいかと』

マリーダ「もしそうなら、私は……!」

プルツー『何が出来るって? 現場主義者の成り上がり将校の腰巾着に』

マリーダ「っ」

リヴァイヴ(おっと)

プルツー『少し、黙れ。邪推、つまらない勘ぐり、最悪の想定……あぁ、好きにすればいい』

プルツー『でもいちいち口には出すな。あたしはお前に話をしに来たんだ、お前の話を聴きにきたんじゃない』

マリーダ「う……っ」

リヴァイヴ「……」

 猫が首根っこを捕まれるが如く、言葉も出ずに俯いた。
 脳波のプレッシャーも、外見的な威圧感も無い。
 にも関わらず黙らざるを得なかったのは、彼女の存在が計画を想起させるのと
 やはり、自らの姉だという事実が内側から蝕んでいる、ということなのだろう。

 本来ならば歓喜の感情が沸き起こっても仕方ない筈なのだが、それはすっかり鳴りを潜めてしまっていた。
 あの手紙が来たときから、薄々は感づいていたことだったからかも知れないが。

リヴァイヴ「じゃ、そろそろ話をしてもいいかな?」

マリーダ「!」

プルツー『お前なぁ……』

リヴァイヴ「ふふふ、モニター越しでは感動の再会には程遠いだろう」

リヴァイヴ「それにデヴァインを待たせすぎると少し面倒なんだ。脳量子波が短気なんだよ、彼」

プルツー『知ったことか』

リヴァイヴ「まあ、手紙を蔑ろにされたのに関しては、今の叱責で少し気が晴れたよ」

プルツー『なんだ、お前意外にちょろいな』

リヴァイヴ「流石に前言撤回させるのが早すぎるよ小娘」

マリーダ「……マスター、いや、グラハム・エーカーの命に関わる話だと聞いた」

リヴァイヴ「ん、あぁ、その通りだ」

リヴァイヴ「君達が遭遇した【ガンダムもどき】……政府見解ではガンダムと認知されていないが」

リヴァイヴ「我々はあれがガンダム、ないしはそれに酷似した機能を有したMSであると判断している」

マリーダ「判断している……か」

リヴァイヴ「ふふ、あまり此方から言わなくても分かるだろう? このままフラッグでぶつかり合えば、彼は間違い無く二階級特進だ」

リヴァイヴ「奇襲という戦術的要素は絡んだが、初戦があのざまだ。君とて、よもやあれに骨董品で勝負出来るなんて思ってないだろう?」

マリーダ「……喧嘩を売りに来たのなら、言い値で買うぞ」

リヴァイヴ「ふふ、失敬、フラッグファイター。でも我々からしても頭の痛い問題なんだ、アレはね」

マリーダ「……」

リヴァイヴ「つまりは、それに対する君達の懸念、回避を試みる努力、グラハム少佐個人の意志……」

リヴァイヴ「全てを解決に導く手段を、我々から用意させてもらった……ということだよ」

マリーダ「…………」

リヴァイヴ「場所を変えよう。付いてくると良い、百聞は一見に如かず、だ」

 立ち上がるリヴァイヴ、合わせるように壁から背を離す。
 しかし、寸前で出口の前に動き、リヴァイヴを留めた。
 朱と蒼、二つの視線が交わる。
 リヴァイヴは一瞬だけ腰のホルスターに手を延ばしたが、眼を見て何かを感じたらしく、ゆっくりと手を離した。

リヴァイヴ「……何かな、お嬢さん?」

マリーダ「これだけはこの場で聞かせてほしい。誰から私達のことを聞いた?」

プルツー『おい、トゥエルヴ』

リヴァイヴ「良いじゃないかプルツー、一つなら」

プルツー『ちっ』

リヴァイヴ「さて……質問の意図が曖昧だが、調査したから、じゃ不足かい?」

マリーダ「お前の頭がそうは言っていない……と言ったら?」

リヴァイヴ「はは、成る程、そう来たか」

リヴァイヴ「ならば此方の答えは、すごく念入りに調査したから――だ」

マリーダ「…………」

リヴァイヴ「さあ、道を開けてくれ。君の甘い体臭に酔いしれるのも結構だが、同僚の抗議を受け続けるのもなかなかに辛いものでね」

リヴァイヴ「ただ、君の好奇心を満たす機会はいずれ必ず訪れる、と約束するよ」

マリーダ「良いだろう」

 視線は外れ、遮るものの無くなったリヴァイヴが再び歩み始める。
 後に続くマリーダは、疑念と根拠を脳内で吟味し、予測する。
 彼らに情報を与えた者、その正体を。


――――


――前線基地近辺・南方二十キロ――


 金属の弾ける音が、まずは一発、続けてまた一発。
 繰り返し三発の破裂音が発せられた。
 両腕を千切られ、腹に大穴を空けた陸戦型ヘリオンが大地に倒れ伏す。
 それを作り出した張本人は一瞥すらせず、次なる目標へと銃口を向けた。

セルゲイ「状況、知らせ!」

『全機健在! しかし、四番機と五番機を振り切り、フラッグが!』

セルゲイ「……そいつは私が倒す! 周囲の警戒を怠るな!」

『了解!』

『了解しました、大佐殿!』

セルゲイ「……敵機の加速確認……接触タイミングはカウント20……」

セルゲイ「タオツーならば、雑作もないッ!」

 両肩の偏向スラスターが火を噴き、群青色のティエレンは矢の如く加速し突貫する。
 全領域対応型試作量産タイプ、しかし彼ら頂武特務部隊は皆、彼等の仲間が駆っていた【タオツー】の名前で呼んでいた。
 他ならぬセルゲイ・スミルノフ大佐も、である。

 迎え撃つは地上型に調整された陸戦型のフラッグ、通称【シェルフラッグ】
 それも重装型と呼ばれる、フラッグでありながら頑強な装甲と強大な火力を確保している機体である。

 フラッグはセルゲイの駆るティエレンに劣らぬ速度で突進、速射型のリニアガンで弾幕を張る。
 跳ねるような挙動のフラッグに対し、地を滑るティエレン。
 ひたすらに撃ち込まれる蒼弾をかいくぐり、左手の無骨な斧刃を盾代わりにセルゲイは更に前進した。

セルゲイ「腕は確か、だが若い!」

 牽制目的の滑腔砲が地面を砕き、フラッグが僅かに体勢を崩す。
 そんな状態からでも右脇のロケットランチャーが正確に狙いを定め、ティエレン目掛けて引き金を引く。

 砲弾は限界まで姿勢を低く取ったティエレンの頭上を掠めるに留まる。
 反撃の滑腔砲、追撃のリニアガン、大口径砲の応酬は砂塵を巻き上げ大地を削る。
 しかし、跳ねる先に撃ち込んでも、着地地点に撃ち込もうとも、ティエレンのそれは大型ディフェンスロッドの防護の前に弾かれ、体勢もまたパイロットが無理やりに立て直していく。
 流石にそこはフラッグファイターか、とセルゲイは小さくほくそ笑んだ。

 距離は詰まり、あと一歩でクロスレンジ。
 ティエレンの得物は重厚なカーボンブレイド、フラッグの手にはプラズマソードが握られている
 止まることなく、されど勢いに呑まれることもなく、両者が同時に圏内へと飛び込んだ

『大佐ッ!!』

セルゲイ「ッ……!」

 刃と刃の交錯は散った火花に照らされ、遠目からもその激突の激しさが分かる程であった。
 数秒間、二機は互いに支え合うようにして立ち尽くす。
 やがて光を失ったソニックブレイドが、握る腕ごと足元に転がる。
 引き下がるティエレン。フラッグは背中にカーボンブレイドを生やしたまま、崩れるように地面へと倒れた。

セルゲイ「…………」

『大佐、お見事です!』

セルゲイ「周囲に敵影は」

『ありません。予定であれば友軍はもうすぐ目視圏内の筈ですが……』

セルゲイ「ならば我々は友軍の到着と同時に離脱する。まさかとは思うが、陽動の危険性は少しでも減らしたい」

『了解です』

 金属同士の擦れが生み出す、耳障りな高音がセルゲイの顔をしかませた。
 カーボンブレイドが一気に引き抜かれた際の、干渉音であった。
 シェルフラッグはぴくりとも動かないが、コクピットを避けている以上、まだ中にはパイロットがいるはずだ。
 下した命令を変更するつもりはなかったが、その実、セルゲイは中にいるパイロットと話してみたいとも感じていた。

セルゲイ「フラッグ……生産ラインの停止により少数しか存在しないMSだと聞いている」

セルゲイ「離反者が少なからず三国内のパイロットにもいる……か」

『大佐、フラッグの機体照合が完了しました』

『登録パイロットはイェーガン・クロウ少尉。このシェルフラッグと共にMIA(戦闘中行方不明)となっていたようですが……』

セルゲイ「……そうか」

セルゲイ「同じパイロットかどうかは開いてみなくちゃ分からんな……グラハムにもあまり良い土産にはならんか」

『はい?』

セルゲイ「いや……何でもない」

『大佐殿、友軍を確認しました』

セルゲイ「全機、帰還する!」

『了解!』

 ・
 ・
 ・


――同時刻・輸送機・MSドック――

 導かれるまま乗せられた車が、輸送機へと載り込んでいく。
 逆三角形の筒状のボディが特徴的な輸送機、明らかに宇宙での運用が目的のフォルムだと感じた。

リヴァイヴ「着いたよ」

マリーダ「これは……!」

 見えてきた二つのシルエットに、まだ車が走っているにも関わらず身を乗り出した。
 一瞬ハッとして身体を引きはしたが、視線だけは文字通り釘付けとなっていた。
 深緑と漆黒、守護神の如く聳え立つ二機のGN―X。
 バーニアの大型化、特徴的な肩部のハードポイント。
 特殊調整機だと、一目で分かった。

リヴァイヴ「良いリアクションだ……リジェネの視線を背中に受け続けた甲斐もあったということだ」

マリーダ「……済まない、取り乱した」

リヴァイヴ「いいさ。この二機にはそれだくの価値がある、むしろそう来なくては」

『マリーダ!!』

マリーダ「! この声……」

リヴァイヴ「……早いな、君の差し金?」

プルツー『揺さぶれることが前提ならば、いっそ二人の方が落としやすい』

リヴァイヴ「ふふ、悪い子だ、君は」

 車がGN―Xの足元に止まる。
 MSを囲むように組まれた足場から、ビリー・カタギリ技術顧問が顔を覗かせていた。

ビリー「こっちだマリーダ!」

 車がジープであることも幸いし、ドアも開けず飛び越した。
 背後からリヴァイヴの忍び笑いが聞こえたが、気になどしてはいられなかった。
 すぐさまリフトに乗り込み、声の方へと急ぐ。
 二機のMSの威風堂々たる様に、昇る最中にも視線を釘付けにされる自分に気付きながら。

ビリー「やぁ、マリーダ……!」

マリーダ「カタギリ顧問、これは!?」

ビリー「あぁ、僕が聞きたいくらいだよ! 仮眠中にそこの赤毛のエージェントに叩き起こされて、連れてこられたかと思えば、だ」

デヴァイン「事態は急を要した、無礼は承知の……」

ビリー「あぁごめん、ちょっと黙ってて」

デヴァイン「!」

マリーダ「これはGN―X、なのですか?」

ビリー「スペックの写しは貰ったけど……全くもってナンセンスだよ、ほら!」

マリーダ「これは……は……?!」

ビリー「全く、こうも易々とGN―Xのアップグレードを生み出してくるなんてね。どうやら彼等は隠すつもりもないらしい」

デヴァイン「隠すとは心外だ。我々は……」

マリーダ「五月蝿い!」

デヴァイン「……済まない」

マリーダ「…………っ」

マリーダ「……最高速度、旋回性能、加速性能、反応速度に対応のOS、どれを取っても現行のMSを遥かに凌駕している……!」

ビリー「任されてみたのはいいけど、気分はリップヴァンウィンクルだ……ライト兄弟が超音速旅客機を修理するときなら、似たような感情を抱くかもね」

ビリー「こいつはまさに怪物だよ。それこそガンダムに匹敵……いや、それ以上のだ」

デヴァイン「…………」

リヴァイヴ『デヴァイン、打ちひしがれてないでリフトを降ろしてくれ』

デヴァイン「……了解した」

プルツー『いつの間にあんな技術屋気質になったんだ、あいつ』

リヴァイヴ『さぁ?』

 渡されたデータは、漆黒の機体の方であった。
 二機は基本性能こそ同等で、カタギリ顧問曰わく武装面の差別化が計られている、とのこと。
 機動性もさることながら、特筆すべきはまさにその武装面だと一目で理解できた。

 ビームサーベルを銃剣に据え、通常のビームライフルとは違い速射性を重視したビームマシンガン。
 大腿部に外付けされた、粒子ビームを拡散するフィールドを作り出す粒子グレネード。
 伝達力を高め高出力ビームに対応したことで、結果威力を増したGNクロー。
 だが一際目を引くのはやはり、MSにも匹敵する無骨で巨大な刃、かつてグラハム・エーカーがガンダムから奪い取ったものと同型の大型粒子実体剣だろう。 詰め込まれた武装に圧倒的な性能、これだけ並べてみれば、容易に想像は付いた。
 これは明らかに【対ガンダム用装備】であり、このGN―Xは【対ガンダム専用機】なのだと。
 そして今までの流れから見て、彼等の目的が何なのかも。

プルツー『かたや筆舌に尽くしがたく、かたや立て板に水の如くまくし立てる』

プルツー『満足いただけたようで光栄だね、お二方』

ビリー「君は……?」

プルツー『良いだろう、それ?』

ビリー「……あぁ、素晴らしいよ。嫉妬を通り越してバラバラにしたくなるくらいにね」

リヴァイヴ「それは良かった。いつの時代も嫉妬は力になる、この機体を糧に君達が更なるステップに踏むことを願っているよ」

リヴァイヴ「では」

デヴァイン「ならば」

プルツー『あぁ、もう良いな?』

プルツー『マリーダ・クルス……いや、プル・トゥエルヴは貰い受ける』

ビリー「は……?」

マリーダ(やはりッ…………!)

 そして、はっきりと分かった。

 自分は、この【申し出】を断れないことを。


To Be Continued...


セルゲイ「…………本気かね、大佐」

マネキン「本気も本気、大真面目でありますよスミルノフ大佐」

マネキン、「奴らがこの計画を実行するというのなら、阻止する役目は我々をおいて他にありますまい」

セルゲイ「期限は」

マネキン「一週間」

マネキン「一週間後、反国連軍の基地を強襲、宇宙への打ち上げを阻止します。」



←ブログ発展のため1クリックお願いします
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://kannki.blog39.fc2.com/tb.php/3186-6dbd9492
    この記事へのトラックバック



    アクセスランキング ブログパーツ レンタルCGI
    /* AA表示 */ .aa{ font-family:"MS Pゴシック","MS PGothic","Mona","mona-gothic-jisx0208.1990-0",sans-serif; font-size:16px; line-height:18px; }