マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」 その41

2014年04月04日 18:58

マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目

436 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2013/02/07(木) 02:41:06.28 ID:J3/JFd5AO
――ミーティングルーム――

 その日、基地内では整備士達の格闘する声と作業の音が絶えず響いていた。
 本来基地施設の復旧に当てられていた人員も、全てが輸送機とMSの点検・整備に回されていた。
 此処は軍事基地、軍人が聞く音はかくあるべきと言うように、そのけたたましいまでの騒音に誰も反応を示さない。
 ただ目の前のモニターをじっと見つめ、己の役割を頭に叩き込んでいた。

マネキン「……以上が、本作戦の概要であります。」

グッドマン「……甚大な被害を被った後の、このような短期間で行える電撃戦ではないかもしれない」

グッドマン「だが我々は一矢でも報いねばならない! あの日死んでいった多くの英霊達の苦悩を、我々こそが世界の秩序を護るのだという矜持を!」

グッドマン「諸君らならば、必ずや無法の軍勢に思い知らせてやれると私は確信している」

グッドマン「今回諜報部からもたらされた情報は、今までの反国連組織の行動の中でも特に異質かつ大規模なものである!」

グッドマン「だからこそ! 奴らのこの最後の作戦を阻止しうるは、諸君ら前線の最精鋭を置いて他には無い!」

グッドマン「たった今から144時間後、作戦名【ファイアワークス】を開始する!」

グッドマン「諸君等の健闘に期待する! 以上!」

 グッドマン司令の激励に、その場の全員が敬礼する。
 軍人があらゆる想いを込める、ただ一つの礼。
 何度も作ってきたこの形が、今は重く感じてしまう。

リディ「…………」

グッドマン「解散!」

 グッドマン司令の檄が飛び、兵士達が一斉に部屋を飛び出していく。
 何せあと六日間で、大規模な電撃戦を可能にしなくてはならないのだ。
 ある者は鈍った身体を鍛え直そうとトレーニングルームへ、ある者はMSの調整の為にドックへ。 各々が為すべき事を成すために、わき目もふらずに走っていった。


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 そして、オーバーフラッグスは作戦時の部隊編成の都合上、ミーティングルームに残った。
 隊長であるグラハム少佐の欠員、及びMS数の不足を補うため、頂武特務部隊のティエレン隊、そして補充要員のジニン隊との共同作戦が決定したからだ。
 オーバーフラッグスは、イナクトを除けばマリーダ中尉と自分しか出られない。
 そのプレッシャーが、自然に嫌な汗をかかせていた。

セルゲイ「久し振りだな、マリーダ」

マリーダ「大佐こそ、お変わりないようで何よりです」

セルゲイ「うむ。だが再開を喜んでいる場合ではない」

セルゲイ「我々は【最精鋭の囮】だ。寄せ集めかも知れないが、それは各員の力量で補えるものと確信している」

セルゲイ「本作戦を再度確認したい。全員、席に着いてくれ」

リディ「はっ!」

マリーダ「了解」

 出撃を見合わせる他の隊員も、全員がこの場に集まり話に耳を傾けていた。
 何故なのだろうか、オーバーフラッグスから参加する二名に自分が選ばれた際、誰一人と反対意見を出すことはなかったのだ。
 正直、技量では一番劣っている自分を出す理由が分からない。
 もちろん聞いてはみたが、誰一人まともに答えてなどくれず、レオーノフ大尉には説教まで食らう始末。
 辞退したいわけではなかった。
 ただ選ばれた理由を知りたいだけだったのに……そんな泣き言を飲み込んで、作戦の内容に耳を傾けた。

セルゲイ「本作戦の要は皆が知っての通り、此処にはいない二人のライセンサーが握っている」

セルゲイ「グラハム・エーカー少佐、ヤザン・ゲーブル大尉。この両名の乗る特務型GN―Xの敵陣中央突破及び敵基地からのロケット発射の阻止」

セルゲイ「それが本作戦の肝となる。我々は多重の敵防衛ラインを引きつけ突破を支援、そして彼等の背後を追撃させないよう食い止めることが任務となる」

セルゲイ「ジニン隊はまだ交戦経験は無かったな。反国連勢力の防衛ラインには、水陸両用と思われる太陽炉搭載型MSが多数配備されていると思われる」

セルゲイ「決して楽な戦いではない。友軍の被害を抑える意味でも、諸君等のRGMには期待させてもらうぞ」

ジニン「はっ、身を粉にして任務に当たる所存であります!」

リディ「…………」

 そうだ、敵はガンダムもどきだけではない。
 水中を航行できる新型MS、そして基地を破壊した強力なビーム兵器を有する機動兵器も存在している。
 敵陣中央を強襲するグラハム少佐だけじゃない、自分達だっていつ死ぬか分からないんだ。

 ダリル少尉は幸運にも生き延びられた。
 でも、彼よりも技量の劣る自分は……もしかしたら助からないかもしれない。

リディ(殺されてしまうかもしれない――。)

 いつも隣り合わせにあるはずの死が、その時ばかりはやけに身近に感じられて。
 マリーダ中尉の指が肩に触れるまで、きっと情けない顔をしていたことだろう。

マリーダ「リディ准尉?」

リディ「っ! は、はい!?」

マリーダ「いや、何でもない。反応するのか確かめただけだ」

リディ「……すみません……」

セルゲイ「大丈夫かね。新兵だと聞いているが、オーバーフラッグスからは彼が出るのだろう?」

マリーダ「マスターの推薦です。若くはありますが、必ずや作戦遂行の一助になるかと」

ジニン「若……い……?」

ジョシュア「あぁ止めとけ、そこつっこんでたらキリないぜ」

セルゲイ「ふむ、成る程な」

セルゲイ「あの男が言うなら、そうなのだろう。よろしく頼むぞ、准尉」

リディ「……はい」

 一度でも、そう考えてしまったのが悪かったのだろうか。
 その日のミーティングの内容は、結局まるで耳に入らずじまいで。
 結局、フェルトに電話をしようと思っていたことも、少佐に自分を推薦した理由を聞くことも。
 何もかもすっかり忘れ、ベッドの中に沈み込んでしまったのだった。


――輸送機・MSドック――

グラハム「…………」

 レバーを掴み、左右に軽く機体を動かす。
 火を入れた炉が粒子を放出し始めると、身体全体が重力から解き放たれたかのように軽くなるのを感じた。

グラハム「これほどとはっ……!」

『どうだいグラハム、君のGN―Xの乗り心地は』

グラハム「フラッグと比べるとかなり軽いな。まだ起動しただけだが、ここまで柔らかいとは」

グラハム「サイコミュを搭載していなくともこの反応、見事と言わざるを得んな」

 名残惜しさを残しつつ、コクピットを解放し席を立つ。
 新しく開発中らしい、専用のパイロットスーツのおかげだろうか、キャットウォークに踏み出す一歩が驚くほど軽く感じられた。
 作戦の内容から、試運転らしい試運転が出来ない問題があるため、その性能を確かめる術がないのは残念といえる。
 しかしはっきりと言えること、それは、今まで自分が乗ってきたどのMSをも、このGN―Xは易々踏破する性能を有しているということである。

グラハム「…………」

ヤザン「ようグラハム」

グラハム「断固辞退する」

ヤザン「まだ何も言ってねえぞ」

グラハム「お前のことだ、どうせこのGN―Xで模擬戦をしたいとか言い出すに決まっている」

ヤザン「おうおう、ニュータイプ兵士殿は人の心を御理解なさっておられる!」

グラハム「お前の考えていることなどパトリックでも分かる」

ヤザン「……俺が単純馬鹿だと言いてえのか、てめえは」

グラハム「そうは言っていない」

ヤザン「……女がいなきゃ何も出来ねえ甘えん坊が、一丁前に……」

グラハム「あ?」

ヤザン「ん?」

グラハム「…………チッ」

ヤザン「…………ペッ」

整備士A「おい、お前あの二人止めてこいよ……なんかすげえ睨みあってるよ……」

整備士B「やだよ、まだ死にたくねえもん」

ビリー「グラハム!」

グラハム「カタギリ」

ヤザン「…………」

ビリー「何時までも降りてこないから心配したよ。で、大尉と何かあったのかい?」

グラハム「特に何も」

ヤザン「そういうこった、邪魔したな技術顧問殿」

ビリー「はぁ……」

グラハム「……命拾いしたな」

ヤザン「どっちがだよ……せいぜい背中に気をつけな」

グラハム「…………」

ビリー「…………」

ビリー「君、ヤザン大尉にはやたら突っかかるよね。何かあった?」

グラハム「生理的に駄目な人物というのはいるものだ。自身に似ているならばなおさら、な」

ビリー「同族嫌悪までくると、僕にはちょっと分かりかねる範囲だね」

グラハム「それよりカタギリ、GN―Xの調整に関してだが……」

ビリー「あぁ、抜かりないよ。ユニオンフラッグ時代から君のデータは逐一記録し、調節しているからね」

ビリー「おおっぴらに動かせないのが辛いところだけど、基本的なデータ調整はGNフラッグのコピーをマイルドにして当てればOK、かな」

グラハム「流石だな、盟友」

ビリー「僕くらいじゃないと、君の無理難題にはつき合ってやれないからね」

グラハム「後はマリーダくらいのものだな。二人にはいつも世話になりっぱなしだ……」

ビリー「……グラハム?」

 カタギリは僅かな言い回しの変化にも気付き、訝しがる。
 遠回しに追及してみようとも考えたが、恐らくボロは出すまい。やはり付き合いが長すぎるのだ。
 やはり真っ正面から問いただすに限る。
 お互い、いつだってそうしてきたのだから。

グラハム「なぁ、カタギリ」

グラハム「……私に何か隠し立てをしてはいまいな?」

ビリー「……突然だな……何か思い当たる節でもあるのかい?」

グラハム「……このMSさ」

グラハム「ただでさえNT兵士に対する対応が硬化しているときに、私に対して明らかにオーバースペックのGN―Xが送られてきた」

グラハム「こんなもの、普通ならあと数年隠してもおかしくはないMSだ。それをあろうことか、彼らの不信をその身に受ける私が受領したのだぞ」

グラハム「それだけでも、どうしても拭い去れぬ違和感を私は覚えるのだよ」

ビリー「…………」

グラハム「だのに、だのにだ。お前もマリーダも、私以上に鋭敏であろう二人が、私に何の疑問も口にしない」

グラハム「私自身の違和感よりも、むしろそのことが気にかかるくらいだ」

ビリー「それは……」

グラハム「カタギリ、何があった」

グラハム「いや……お前とマリーダに、誰が何を言った?」

ビリー「ッ…………!」

 明らかに表情を崩し、視線を外すカタギリ。
 その時だった。背後から、【殺意】が向けられたのは。
 それもかつて自ら感じたことのある、二度目の【殺意】を。


「おやおや、作戦前に仲間割れですか?」


グラハム「ッ……!」

リヴァイヴ「いけませんね。この作戦の中心はあなたと大尉のGN―Xだ」

リヴァイヴ「下手な勘ぐりで自ら機を逃すのは、貴方としても不本意の筈では?」

ビリー「君は…………!」

 声をかけられ、とっさに振り向く。
 予想外に近い位置、自身と二歩の間しかない場所に彼は立っていた。
 スーツ姿の、中性的な顔立ちの若い青年。
 端麗なその顔に仮面のような冷笑を浮かべ、真っ直ぐに此方の目を見つめながら、淡々と警告をしてきていた。

グラハム「……軍人の背後に近寄るのは、あまり誉められた行為ではないな」

グラハム「何者だ。カタギリやマリーダとの関係は」

リヴァイヴ「失礼、私はリヴァイヴ・リバイバル。このGN―Xの、いわば担当者ですよ」

グラハム「担当者、だと?」

リヴァイヴ「えぇ」

リヴァイヴ「最新鋭の技術の粋を集めた、いわば地球圏最強のMSがこのアドヴァンスドGN―X」

リヴァイヴ「それがたとえライセンサーと言えども、所有するに相応しくないと判断された場合、機体の受領を保留にする権限が我々には与えられております」

グラハム「ほう……」

グラハム「その相応しくない理由とは、力量か? それとも態度のことか?」

リヴァイヴ「双方……もちろん、それだけではありませんがね」

リヴァイヴ「そのことについては、少佐のMSを任されているお二方には既にお話ししていたのですが、少々深刻に受け取られてしまったようで」

リヴァイヴ「今回の作戦で結果を出していただけたなら、もちろんそんなことを心配する必要も無くなると思うのですが……?」

グラハム「くっ……!」

 わざわざ挑発するかのように、肩を指でなぞっていく。
 その感覚が不快で振り払おうとしたが、腕が何かに触れることはなく。
 リヴァイヴと名乗った青年も、いつの間にか数歩も間を広げ去ろうとしていた。

グラハム「っ、待て!」

リヴァイヴ「待ちませんよ。貴方に出来るのは戦い、勝つことだけ」

リヴァイヴ「そのとき、貴方は初めて全てを理解するでしょう。全て、ね」

リヴァイヴ(そして思い知ることになる……己の立場が、薄氷の上に等しく脆い場所にあると)

グラハム「っ……!」

ビリー「……」

 唇を噛み締め、拳をきつく握るカタギリの様子を見て、もう何も言うことは出来なかった。
 ただ一つ、生きて任務を終わらせることだけが真相を知る術なのだろう。
 相手はガンダム。それも相当の手練れが駆る、暴力の化身。
 倒さねばならぬ、という使命感と共に、また戦える、という高揚感が沸々と湧き上がってくるのが分かる。
 盟友達に延びた魔の手の真相が掴めぬ不快感、それ故に生まれるわだかまりから離れるように、兵士としての自分に浸っていく。

 この不明を、後に酷く後悔するとも知らずに。



――ジオン・秘密基地――


 ひっきりなしに響き渡る基地内放送、止まることのない人の流れとコンテナの山。
 減ればまた積み上げられ、集まったかと思えばまた目の前を通り過ぎていく。
 為せることなど何一つ無いというのに、毎日足繁く通う自分に気付いたのは、つい最近のことである。

デュバル「まさに壮観、だな」

 キャットウォークの広めの場所に寄りかかり、絶え間なく動く人と物を見つめ、ただ過ぎ行く時間に身を任せる。
 昨晩のGN―X襲撃も偵察だったのだろうか、幾何と戦わぬ内に退いてしまった。
 こんなことが続くものだから、戦闘要員である自身は、たとえ自ら申し出たとしても何もさせてはもらえなくなっていた。
 これは数少ない【袖付き】からの援軍であると同時に、疑似太陽炉搭載型ヅダに乗れる人間が自分独りのみという事実を暗に証明してもいた。

 限られた人間しか乗ることの出来ない、操縦難度の高いMS。
 機動兵器としては失格とも言える事実より、自身がヅダに選ばれし存在だと夢想し逃避している自分に嫌気が差す。

兵士「デュバル少佐、お疲れ様です」

デュバル「うむ」

 通り過ぎる兵士に挨拶され、会釈する。
 あれはユニオンのパイロットスーツだ。此処では国籍や人種による差別が見られないのが心地いい。
 人革連ではあまり良い思いをしなかっただけに、なおさら強く感じるのかもしれない。

デュバル「ん……?」

 搬入路には昼夜問わず人員と物資が送り込まれている。
 そんな数多に分かれた支流の中で、ティエレンだけは目ざとく見つけてしまう。
 視線を吸い寄せるのは、ティエレンとヅダ、結びついた二つの因縁によるものだろう。 
 あの時、幾何の違いさえあれば、ヅダは歴史の闇から抜け出せた筈だと。
 その胸中にくすぶる思いが、いたたまれぬ過去が。
 そう、目の前の鉄機へと、怨嗟の視線を送っていた。


「おぉ、怖い怖い」

デュバル「!」

 はたと声のした方へ振り向く。
 驚いたのは、誰のものかは分かっていたが、その誰かが問題であったから。

フォン「……まるで親の仇でも見つめるような目だ」

デュバル「フォン・スパーク……!?」

フォン「邪魔するぜ」

 不敵な笑みに紅い瞳が光る。
 だらしないともいえる着崩した身なりにボサボサの金髪、それでも隙一つ無い剣呑な雰囲気がただ者ならぬ印象を作り上げていた。

 周りには彼一人とマスコットロボットが一機だけ。
 どうやら監視役の兵士は捲かれたようである。
 此処に来て日が浅い筈の男がやれることではないのだが、疑念はさして湧きはしなかった。

デュバル「何か用かね」

フォン「用が無けりゃ会いに来ちゃいけないか」

デュバル「君が求めているような情報を、こんな所でくすぶっている私が持っているとでも?」

フォン「俺に何が必要で、何が不要かを決めるのは俺だけだ」

デュバル「…………」

874『フォン、余計警戒されています』

フォン「あげゃげゃ、想定内だ」

 掴みどころの無い、それでいて一種の危うさを秘めた感触。
 一度MSで対峙した自分だからこそ分かることがある。
 この男は、非常に危険だ。

フォン「ヅダ」

デュバル「!」

フォン「形式番号EMS-10。何年前だったか、宇宙開発及びテロリズムの宇宙拡大に先立ち、宙間戦闘に於ける絶対的優勢確保を名目に開発されたMS」

フォン「あらゆる宇宙仕様MSに対抗すべく開発されたその性能は、MSJ-06II-Eティエレン宇宙型はおろか、現在のイナクト、フラッグの宇宙仕様に勝るとも劣らぬ性能だったとか」

デュバル「止めてくれ」

フォン「最大の特徴である土星エンジンの系譜、太陽炉との親和性も上々」

フォン「良い性能だ、流石は……」

デュバル「止めろと言ったッ!!」

874『…………』

フォン「あげゃ」

デュバル「……済まない、取り乱した」

フォン「気にするな。わざとだ」

フォン「その様子じゃ、どうやら太陽炉をまんま載せても駄目だったらしいな」

デュバル「…………」

フォン「……実地試験では、ティエレン宇宙型六機を相手に、二機で圧倒的とも言える性能差を見せつける」

フォン「しかし、障害物を盾に退避するティエレンを追いかけた二番機が突如として制御不能に陥り、そのまま爆散」

フォン「パイロットは死亡、機体は大破……」

フォン「その後の調査で、ヅダには構造上致命的な欠陥があることが判明し、採用は見送りとなったとさ」

デュバル「ぐぅ……っ」

フォン「あげゃげゃげゃげゃ!!」

 耳障りな高笑いと、搬入作業の音が混ざり合う。
 まるで、己が所業を責め立てるかのように頭に響く。
 手すりを掴み、折れそうになる膝を何とかして支えていた。

デュバル「貴様は、私を笑いに来たか……!?」

フォン「まっさか。そんな非生産的なことに時間は費やさん」

フォン「ただ気になっただけだ。何故現存する唯一のヅダが此処にあり……」

フォン「何故、当時実地試験で一番機を駆っていたあんたが此処にいるのか、な」

デュバル「っ…………!」

 一時、辺りの喧騒が消え失せたような錯覚を覚えた。
 フォンは真っ直ぐにこちらの眼を見据え、不敵な笑みを崩そうともしない。
 ほんの数秒、そのとてつもなく長い数秒の後、耐えられずに視線を外し、口を開いた。
 内なる呵責を吐くその様は、他人が見たらまるで懺悔のようであろう。

デュバル「ヅダは……当時の水準、いや、現行量産機と比較しても足るほどの性能を持って生まれたMSだった……!」

デュバル「初めてコクピットに座り、最高速度にまで踏み込んだ時の感動は、今でも昨日のことのように思い出せる……」

フォン「…………」

デュバル「問題点はあったかもしれない。だが、たった一度の過ちで表舞台から消え去って良いはずがなかった!」

デュバル「なかったのに……人革連はあれから一度たりともヅダへの対応を変えようとはしなかった……!」

874『…………!』

デュバル「そしてガンダムが現れた! フラッグやイナクトでさえ対処出来ない存在だ、ティエレンで対抗出来るわけがない!!」

デュバル「ならばヅダがッ! 今こそヅダの性能が求められて然るべきだったのだッ! 」

デュバル「だのに!! だのに奴らは、ティエレンを桃色に塗り潰して御満悦だッ!!」

デュバル「自国の要たる軌道エレベーターをテロリストに護られ、四十機体制で臨んだ捕獲作戦にも失敗!!」

デュバル「ティエレンの相次ぐ失態にも、ヅダは汚名返上の機会すら与えられなかった! そんなことが、許されるのか!? 許されていいのか?!」

デュバル「良い……訳が無いぃ……ッ!!」

フォン・スパークの表情から、笑みが消えた。
その理由など、ただの一つしか有り得ないだろう。

 吐き出せるだけ、全てを吐き出した。
 少しずつ音が戻ってくるのが、不思議に心の猛りを抑え込んでくれた。
 哀れだ。何と情けのない、子供じみた姿だろう。
 もはや己の為に流す涙すら惜しい、醜い亡者の嘆きだ。

フォン「……滑稽だな。その一言に尽きる」

デュバル「…………」

874『フォン』

フォン「だが、あんたはそれを自覚している。己に酔ったテロリストに比べたら、まだ多少はマシだ」

デュバル「……慰めにもならん……」

フォン「慰めてるつもりはない。事実、あんたはGN―Xのテロ行為を見てショックを受けていた」

デュバル「!?」

フォン「組織に荷担してりゃ同じこと、確かにそうだ。それでも、あんたはヅダに命を賭けても魂は売り渡しちゃいない」

フォン「性能を評価してほしいからって、護るべき対象に銃口向けてりゃ本末転倒……そしてあんたは気付いちまった」

フォン「此処はヅダに相応しい戦場ではない、とな」

デュバル「な……何を……!?」

フォン「ジャン・リュック・デュバル、あんたはもう気付いてもいいはずだ」

フォン「あんたを苛んでいるのは【ヅダを評価しなかった連中】じゃあない、【ヅダをこんな場所に連れてきてしまった自分自身】だとな」

デュバル「ッ……?!」

 フォン・スパークが言い放った直後、警報機が赤色灯と共に吼え出した。
 敵襲、第一種警戒態勢を告げるときの声だ。
 先ほどまでとは別種の慌ただしさが波のように伝わる。
 騒然となっていく搬入路で、自分とフォン・スパークだけが、取り残されたように立ち尽くしていた。

デュバル「フォン・スパーク……お前は……」

フォン「おおかたフロンタルにヅダの量産計画でも打診されたんだろう。だがアイツはヅダを量産したりはしない、絶対にだ」

フォン「恐らく、あんたがその理由を一番理解してると踏んだ上で誘っている。誘った理由は知ったこっちゃないが、どうせろくでもない小細工の布石だろう」

フォン「少なくともヅダやあんたが欲しかったわけじゃあないのは確実だ」

デュバル「…………」

フォン「投げた賽は戻らない。あんたはもう一線を越えちまった」

フォン「だが、今ならまだけじめくらいはつけられる。努々忘れないことだ」

デュバル「けじめ……か」

フォン「選ぶのはあんただ。見届けさせてもらうぜ、ゴーストファイター」

 彼は軽く肩を叩くと、警報にも負けないけたたましさで笑いながら去っていった。

 けじめ。
 それは果たして、何に対し何を為すことなのだろうか。
 恐らくその答えは自分の中にしかなく、そしてそれは既に固まりつつあることで。



 自分がヅダに乗って出来る、最期のことだとも解り始めていた。



 ・
 ・
 ・


フォン「盗み聞きは趣味が悪い、そうは思わないか?」

クラウス「!!」

フォン「あげゃげゃ、ある意味唆しの現場を押さえたことになるな、お前はどうする?」

クラウス「…………」

クラウス「一つ聞かせてほしい。デュバル少佐は、迷いを断ち切れたのだろうか?」

フォン(ほう……)

フォン「……さぁな。俺様はただ道を示しただけだ」

フォン「どの道を行くかはアイツ次第だ。ただ、どうあれ永くはない」

クラウス「分かっていて、教えたのか」

フォン「アイツが選ぶ前ならまだ選択の余地はあったが、まぁ道化のまま死ぬよりは遥かに……」

クラウス「……良かった」

フォン「は?」

クラウス「いや、デュバル少佐のことさ」

フォン「……アイツと道を違えることが嬉しいってか?」

クラウス「まさか! 彼には何度も助けられた、出来ればこれからも良い関係でいたいとも思っている」

クラウス「ただ……彼はここ暫く、ずっと何かに悩んでいるようだった。それが気になって、機を見て話しかけたり、作業に誘ったりしていたんだよ」

クラウス「彼が前を向けるようになったのならば、戦友として素直に喜ぶべきことだろう? それからのことは、お互いその時に考えるさ」

フォン「…………」

クラウス「ははは、何だか恥ずかしい話なんだがね。結局少佐からは相談もされずじまいだから、少し寂しいかなとは思ってもいてさ」

クラウス「でも彼が吹っ切れたのなら、きっかけや往く先がどうあれ、素直に嬉しいと思う。僕だけかもしれないけれど……」

874『…………』

フォン(……コイツ……)

フォン(天然か)

クラウス「?」

フォン(いや、だとすれば……あげゃげゃ、成る程、これは面白い)

フォン(フロンタルが欲しがる逸材こそが、まさに奴にそぐわぬ油というわけだ)

フォン「面白い……あぁ、実に面白い。あげゃげゃ」

クラウス「??」

フォン「忠告しといてやる。クラウス・グラード、お前も、いつかは選ぶ日が来る。必ずな」

クラウス「……忠告?」

フォン「予言ともいう。俺様には全て見える。全て、な」

フォン「だが、賽はまだお前の手の内にある。投げてしまう前に手札を充実させておくことだ……フロンタルの鬼札に対抗出来うる、手札をな」

クラウス「……仲間を集めておけ、と? 今から参加する組織の中で、離反するために?」

フォン「あげゃげゃ……」

クラウス「言っている意味が分からない。承服しかねるな」

フォン「忠告といった。選ぶときが来るのは、予言だ。」

フォン「そのときが楽しみだぜ、あげゃげゃげゃげゃ……!」

クラウス「…………」


 ――以降、数回の哨戒機との接触と、小競り合いを避けるように動く国連軍の動きに戸惑いながらも、反国連勢力は着々と準備を遂行していく。

 そして144時間後。
 たった二人の人間の手のひらの上で、国連軍と反国連勢力、双方の一大反攻作戦が開始されようとしていた。


To Be Continued...


ヤザン「おう、パトリック!」

コーラサワー「げ……ヤザン大尉」

ヤザン「お前の部隊に俺のMSと部下を預けとく。面倒見てやってくれや」

コーラサワー「え?」

ヤザン「GN―Xを貰っちまったからもう要らねえんだが、あのイナクトも気に入ってんだ」

ヤザン「大事に使ってやってくれや、じゃあな」

コーラサワー「え、いや、あの……」

コーラサワー「……えぇ~……」



456 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 [saga]:2013/02/07(木) 04:48:57.88 ID:J3/JFd5AO
本日は此処まで
次回は来週。
ではまた。


473 :>>1 ◆FnwJR8ZMh2 :2013/04/01(月) 04:43:55.43 ID:Pk/n+LeAO
スランプで全然書けなくて、2/14は板がエタるわ3月一杯ボロボロで全然来れなくて申し訳無い

本当に申し訳無い

気分転換に即興で書いたものがあるので、良かったら読んで楽しんでいただけたら幸いです

「このSSを書けよボケ!歪んだ男!」

という指摘はごもっともです。すみません。


ガルマ「グフとか要らないんじゃあないか?」シャア「えっ」

シャア「私もギャンが欲しいなぁ」ガルマ「えっ」

ララァ「大佐、私専用のザクレロが欲しいわ」シャア「えっ」
http://blog.livedoor.jp/redcomet2ch/archives/25192618.html

ではまた


478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/02(火) 21:13:53.91 ID:zJd+mo5x0
あとドズルに認められたいバナージと、
バナージ浮気疑惑ネタ
サムスとコブラのクロスネタでも書いていたな

休息して英気を養うのも大切だぞ、フラッグファイター


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