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仮面ライダーW 魔法少女のM/探偵のララバイ/02

2011年05月23日 19:59

仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」

47 :◆/Pbzx9FKd2 :2011/03/24(木) 22:23:24.48 ID:VzXfE/Lt0

/02

 私が誰かの好意を裏切ったのは初めてではない。けれどもこの時、確かに超えてはいけない一線を踏み越えてしまった気がした。

 手にしたスタンロッドは青白い魔翌力と火花を散らしながら、ふるふると震えている。

 目の前には、先程まで屈託無く笑っていた青年がうつ伏せに倒れていた。

 探偵だと名乗っていた左翔太郎の背後から一撃を与えるには、余りにも容易過ぎた。

 荒い呼吸がやけに耳につく。自分のものだ。

 脂汗が額を伝って左目に入ると、軋んだように左目が痛んだ。彼の取り返してくれたソウルジェムをそっと握り締める。

 この男は危険だ。

 魔法少女以外の、いやそれ以上の強力な力。

 私にはいちいち関わりあったり、人並みに興味を持ったりする暇はないし、必要も無い。

 幸いにも、インキュベーターが連れて来た男たちは残らず始末されたようだ。

 いや、まだ、ひとりだけ残っている。

「ひっ」

 左翔太郎に撃破されたうち、一人だけ消滅せずに倒れている者がいた。
 私は、起き上がろうともがく男に近づくと、手の中に顕現させたグロック17を見せ付け、恐怖を煽るように銃口を向けたまま上下にゆっくりと揺らした。

 男は四つん這いのまま無防備な背中を見せて、動かない両足を無理やり酷使しいざっていく。

 まるで、ピンで張り付けられた虫けらみたいだ。

 私は男の背中の中央を蹴りつけると存分に地べたの砂を食らわせ、おもむろに前方に回ってから顔面を容赦なく蹴上げた。

「ぎひいいっ!」

 無言のまま、二度、三度とつま先を男の顔面中央にに突き入れる。

「痛い? でも、仕方ないわ。これは罰なのだから」

 蹴りつければ蹴りつけるほど、自分の中のドス黒い感情が高まってくる。魔女を殲滅する時にはまったくなかったものだ。

「や、やべ、やべてくださ、ください」

「やだ」

 男は両手で顔を覆って痛みから逃れようとする。

 もはや腹の中のくぐもったむかつきは、自分でも誤魔化しようの無いくらい膨れ上がっていた。

 頭の中で、今まで何度も繰り返してきた、まどかを失ってきた悲しみ、
自分の言葉を何一つ理解しようとしないみんなのこと。

 それから、終わりの無い苦しみの道程。すべていっしょくたになって、胸の中で渦を巻いて激しく唸っている。

「いだ、いだぁい、びょ、びょういんへぇ」

 男の覆面を無理やり剥ぎ取る。白い骨のような模様が描かれていたそれは、血反吐ど泥でぐちゃぐちゃの汚物に成り果てている。

 仮面の下から出てきた顔を、凡庸な中年男性のものだった。

「答えなさい。あなたは、なに?」

「お、おれは、ざいだんえっくす、のものぉ、いぎぃいいいっ!! いだああああっ!! やべっ、やべてぇええっ!!」

 前髪を毟るようにして引き絞り、俯きがちな顔を無理やり上げてやる。

「私に理解できるように答えなさい、といったの」

 その時の私の顔は、鏡を見なくてもわかるくらい凶悪なものだったと思う。

 男の話を総括すると以下のようになる。

 第一に、私を襲った彼らは財団Xという組織であり、これらはこの待ちにソウルジェムとグリーフシードを求めてやってきたらしい。

 第二に、彼らはガイアメモリという「地球の記憶」と呼ばれる、
事象・現象を再現するデータプログラムを収納させたメモリを使うことによって超人的な力を得ることが出来る、ということ。

 つまり彼らは、ガイアメモリ研究の為に、魔法少女の力の要であるソウルジェムやグリーフシードを集めにやってきたらしい。

 もっとも、このガイアメモリ、極めて特殊なもので適正者はほとんど居らず、使用者の全てといっていいほどその強大な力によって精神を破壊されてしまう。

 そういった意味では、左翔太郎は限定された適合者なのだろう。

 なんというか、ほとんど理解できない世界だ。

 私も魔法少女の力を知らなければ、こんなことは絶対に理解できなかったと思う。

 今考えれば、知らないことがどれだけしあわせだったのだろう。

「これで知っていることは全て?」

「は、はぁい」

「そう、もうこちらに用はないわ」

 立ち上がってグロックを構える。精薄者のように呆けた男の間抜け面を眺めながらトリガーを二回引くと、9mmパラベラム弾が軽やかに発射。弾着。至極上手に両膝を撃ち抜くことに成功した。

 絶叫と嗚咽を上げながらのたうつ男を尻目に、左翔太郎の傍らに移動する。

 彼は、何の見返りも無く私を助けた。

 それなのに自分は今、恩を仇で返そうとしている。

 知らず、唇を噛み締める。鉄錆に似た血の匂いが口腔いっぱいに溢れた。

 まどかのため。

 まどかのため。

 まどかのためなんだ。

 呟くようにいい聞かせる。

 この言葉こそが魔法の呪文。

 彼のようなイレギュラーがいれば、財団Xのような輩が集まって来ないとも限らない。

 銃把を持つ指先が、カタカタと震える。

 命まで奪う必要は無い。

 それにもう、とうに超えてしまったのだから。

 引き返すことは出来ない。

 ……そもそもこんなことを迷っている時点でもはや自分は人間の範疇に入らないだろう。

 銃口が定まらない。調査だかなんだか知らないが、これ以上引っ掻き回されるのはもうたくさん。

 もうたくさん。

 何もかも。

 大きく深呼吸をする。

 引き金を絞る。

 軽やかな音が、たんとひとつ鳴った。

「でき、ない」

 気づけば、両手でグロックを握り締め、空に向かって銃弾を放っていた。

「私は、魔法少女じゃない、ただの魔女よ」

 くたりと倒れこんだままの探偵の顔を覗き込む。

 こんな時でもなければ、胸をときめかせていたのだろうか。間近で見た彼の顔は、すっきりとした目鼻立ちの二枚目だった。

 落ちていた帽子を拾い、埃を軽く払う。私は、彼の顔の上にそれを乗せると立ち上がり、握り締めていた拳を開いた。

 ガイアメモリとベルト。

 この二つが無ければ彼も、首を突っ込んでくることも無いだろう。

「まったく。手癖が悪い」

 自嘲がこぼれる。右手で、自分の左手の甲を叩くと、闇の中で小さく音が鳴った。
 さよなら、おせっかいな探偵さん。心の中でもういちど呟き、その場を振り返ることは無かった。

 またひとつ、自分の心を闇の中に押し込めた。


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 私はどうしてまどかを救いたいかを考えながら、帰宅した。

 服は泥と汚れにまみれていたし、身体は泥のごとく、ぐずぐずに疲れきっていた。

 ぼろきれのような身体を自宅に投げ込み、熱いシャワーを浴び、チンチンに沸かしたあたたかいミルクを飲むとようやくひとごこちついた。

 それからまもなく、たえようの無い、罪悪感が今更ながら襲ってきて、ひとり身悶えする。

 私は、テーブルの上に乗せた、左翔太郎の所持品を眺めた瞬間、衝動的にそれらを視界から消し去るように払い落とした。

 彼が私を助けたのは、ただの優越感だろう。

 そう思い込むことにする。男のことなどよくわからない。

 私の知っている男子というものは、馬鹿で愚かで粗野で乱暴な人間未満の生き物だけだった。

 彼は自分よりひとまわりは年上だろうか。
 父親の世代に当てはめるのは若すぎるし、学内の先輩後輩のくくりに入れるのは遠すぎる。

 なんだか、いろいろ考えすぎた。たたでさえやることはたくさんあるのに、これ以上頭を使いたくない。

 疲れすぎて、気分まで悪くなってきたようだった。

 それでも、これから再び行動するには何か、おなかの中に物を詰めておかなければ、いろいろ支障を来たすだろう。

 いざという時、おなかがすいてまどかを助けられませんでした、でお話にもならない。

 私はまとめ買いしておいた菓子パンを二つほど無理やり喉に詰め込むと、それを野菜ジュースで流し込む。
 頭に巻いていたタオルを外すと、櫛を簡単に入れて身支度を整えてから、再び家を出ようとした時、一番会いたくないやつが、勝手に自室に入りこんでいるのに気づき、胃の腑に強烈な疼きを感じた。

「女性の家に勝手に入り込むなんて、真性下劣ね」

「助けた相手を騙まし討ちにかける君にいわれてもね。
それより、彼は結構頑丈みたいだよ。あの後、すぐに立ち上がって大騒ぎしてたよ」

 インキュベーターが、部屋の隅に視線を走らせる。

 何故だかとがめられたような気がしてひどく落ち着かなくなった。

 私は無言で魔翌力を解放すると、散弾銃であるモスバーグM500を突きつけ、引き金に指をかけた。

「ミンチにされたいのかしら」

「こんなところで撃つつもりかい、 暁美 ほむら? ここを追い出されるのは君にとって時間のロスだろう。有意義な所作とは考えられない」

「先端のバヨネットが見えないの? この距離なら逃がさないわ」

 いちいちこの生き物の言葉に腹が立つ。自分でも不思議なくらい感情のたかぶりが制動できない。

「いいね、その感情。僕にとっては、少なくとも君とあの男の接触は、エネルギー増幅にとても効率がいい。
どんどん、高ぶってもらいたいよ」

 頭の回線が、まとめて焼き切れたように白熱した。
 押し出すように銃剣を繰り出すと、尖った刃は狙いたがわずインキュベーターの左目から頭部を突き刺し、部屋の畳へと赤黒い体液を撒き散らした。

「素晴らしい。 暁美 ほむら、君は優れた魔女に成れるよ、絶対に。僕が保障する」

 インキュベーターは、左目を完全に破壊されているにも関わらず、淡々と言葉を繋いでいく。

 私は喉元へと圧し上がってくる苦い水を無理やり飲み込んで、両手に力を一段と込めた。

 苦しめ!

 何度と無くまどかを傷つけた分まで。

 苦しめ!

 罪も無い人々を葬り去ったその咎を。

 苦しめ! 

 私たちを騙してのうのうと過ごしている魂まで。

 苦しめ! 苦しめ! 苦しめ!

 白刃が完全にインキュベーターを押し割ると、部屋の中は、腐った臓物と薬品を攪拌したような悪臭でいっぱいになった。

 ずたずたになった肉塊の前で荒い息をつく。

 こわれた出来損ないのおもちゃを回収するように。

 まったく同一のケダモノが、どこからともなく現れると、共食いをはじめ、やがてその行為にそぐわないかわいいげっぷ漏らす。

「困るなぁ、僕の身体を安易に壊されても。ま、安心してよ。君があの男から所持品を盗んだことは黙っててあげるよ。
この世界にたいした影響は無い。君が、どれだけ邪魔をしたって、僕はまどかを必ず魔法少女にしてみせるよ。ノルマのためにもね」

「ノルマ……」

 そんなものために、私は、私たちは。

 気づけば、インキュベーターは目の前から姿を消していた。

 畳に落ちた体液も全て回収されたのだろう、染みひとつなかった。

 それからずっと私は前のめりに両手を畳に突いたままじっと姿勢を崩さず、自分が入ってきた部屋の扉を見続け、もう一度立ち上がった。


 動きのあったのは次の日だった。

 私は、まどかと巴マミ、美樹さやかが廃ビルに乗り込むのを見届けると、ゆっくりとその後に続こうと建物の影から身を乗り出した。

「暁美ほむらだな」

 完全に油断していた。背後をぐるりと五人の男たちに囲まれている。

 それは先日、工場裏で襲ってきた財団Xと同じ衣装を纏った怪人たちだった。

「ソウルジェムを渡してもらおうか」

 ――まったく、本当についてない。

 この男たちを倒してもグリーフシードを手に入れることは出来ないし、再び魔翌力の無駄遣いをすることになる。

 私の能力を使えば逃げることはたやすい。だがそれは、同時に後方のまどかたちを危険にさらすことだった。

 やるしかない。

 先日の戦い方を見れば、彼らは肉体を強化しているあくまで人間の範疇に過ぎず、その点は今まで戦ってきた常識の通用しない魔女や使い魔に比べれば、どうということのないものだった。

 ソウルジェムから魔翌力を開放して変身すると同時に、唯一の力である時間操作の魔術を行使した。

 距離を取って戦えば、彼らの能力は私にとって児戯に等しいものだ。

 右手にモスバーグM500、左手にハンドガンを構えると、時間を縫いとめられたまま硬直している怪人たちに向かって引き金を絞る。

 魔翌力を込められた銃弾は、神秘の力を内包しながら螺旋を描いて飛翔し、直前で静止。

 ――再び時空制御を解いた瞬間、幾多の火線はその爆発力を開放させ、瞬時に四人の男を屠った。

 最後に残った一人はワケがわからないといった様子で、一瞬うろたえる様子を見せたが、覇気を振り絞ると、自分の首筋に小さな物を突き立てるのが見えた。

『ビースト!』

 無機質な機械音。ガイアメモリだ。

 男の口からほとばしる、うなり声を聞いて総毛立つ。

 この男を一番最初に始末すべきだった。

 男の姿は、鈍く闇の中で発光すると同時に、全身が青白く、まるで巨大な熊を模した怪物に変貌を遂げた。

 その一瞬が明暗を分けた。

 怪物が地を蹴って猛進する。左手の魔法盤を操作するのが遅れた。

 いや、気づいたとしても到底間に合わなかっただろう。怪物の右腕。空を切り裂いて振られたと同時に、宙を舞っていた。

 まとめてへし折られた肋骨が内臓を攪拌しながら、ばらばらに分解する。

 とっさに痛覚を切った。意識を強く持て。

 喉元にこみ上げる血の塊を飲み干すと、猫のように身を丸め、それから両足を突き出す。

 かろうじて背後の壁との激突だけは防いだ。が、激突を和らげるため伸ばした右足の置き所が悪かったのか、完全に折れた。

 痛みはほとんど感じない。だが、機能的にはマイナスだ。

 スピードを失った。

 この敵には、致命的。 

 もう一瞬、身をひねるのが遅れたら全身がミンチになっていたはずだ。そう思えばよしと、考えるしかない。

 ヤツが私を殴り飛ばしたせいで、距離が取れた。

 組み合えば、一瞬でこなごなにされるだろう。そして、ソウルジェムを回収される。

 それが最悪のシナリオだ。

 考えている暇は無い。

 怪物は再び殺意を収斂させ、全力で殴りかかってくる。

 私は時間操作の魔法を行使すると、時を止めた。

 この敵はハンドガンでは到底倒せない、ならば。

 建屋の脇に隠しておいた、とっておきを取り出す。

 携帯式対戦車擲弾発射器、通称RPG-7といわれる無反動砲だ。

 弾頭にありったけの魔翌力を込める。

 時間に縫いとめられ、凍ったように立ち尽くした怪物に向け、引き金を絞り込むと、銃器の後方から燃焼ガスが噴出し、弾丸は放物線を描き、敵の顔面直前で静止。
 私が発射機を放り投げ飛び跳ねると同時に時間が再び息を吹き返し、爆炎が視界を覆ったのは同時だった。

 ――やった。

 安堵した瞬間、煙の中をゆっくりと動き出した大きな影が網膜に映りこむ。

「うそ、でしょ」

 怪物、ビーストの顔面は確かに魔翌力と火薬を混合させた力で破壊されていたが、まるで時間を巻き戻すかのように、その怪我はみるみるうちに復元されていった。

 ほとんど反射的にハンドガンを取り出すと、狙いもつけずに撃ちまくる。

 けれども、ヤツは小雨を振り払うかのように片手をかざし、弾丸を弾きながら一歩一歩近づいていくる。

 ソウルジェムに視線を落とす。

 濁りすぎている。

 昨日から、想定以上に無駄な魔翌力を使いすぎたのだ。

 このままでは例え、こいつを倒せたとしても、魔女になってしまう。

 そんなのはいやだ。

 承服できない。

 来るな!

 来るな!!

 来るな!!!

「は――」

 直前で停止した怪物が、左腕の大詰めを大きく振るうのが見えた。

 死ぬ。

 死んでしまう。

 この距離ではかわせない。

 例え、ソウルジェムが残ってさえいれば大丈夫だったとしても。

 あの爪で真っ二つにされるのはいやだ!!

 咄嗟に首をひねったのは奇跡だった。だが、左腕から身を逸らした直後、敵の右足が、脇腹へと垂直に突き刺さるのを理解した瞬間、時間が跳んだ。

 空を飛んでいるのか、地に伏しているのか。もう、そんなことはわからないくらい、強烈な一撃だ。

 意識を急速に真っ暗な闇がすっぽりと包んでいく。

 その中で、ただくっきりと私が救うべき少女の顔が浮かんだ。

 終われない。混濁する世界の中で手を伸ばす。

 掴み取る場所など無く、むなしく虚空を彷徨う。

「おい、大丈夫か!!」

 力強い、大きな手が私の手のひらをしっかり握り締めていた。

「……ん、あ?」

 気づけば、目の前には、あの力強い眼をした、あの探偵の顔が合った。

「お嬢さん、今夜の舞踏会はここでお開きだ」

 抱きかかえられている。力が入らない。

 頭の中はふわふわとしたまま、状況がうまく飲み込めない。

 怪物を見る。どうやら彼は、バイクごとあの化け物に体当たりを食らわせ、その隙に私を抱き起こしたらしい。

「にしても、ビースト・ドーパントとは、またへヴィな展開だな」

 青年、左翔太郎が自分のポケットを探る身振りをし、それから舌打ちを鳴らす。

 ようやく得心がいった。このお人よし、左翔太郎は何も気づいていないのだ。

 私が、奥の手を取り上げたことすら。

「ま、ハードボイルドな展開はいつものことだ」

「どうして」

 左翔太郎は、指先で帽子のふちを軽く上げると、辺りを飛び回るコウモリのようなメカを示す。

「こいつに昨日から君が逃がそうとした二人を追跡させておいた。尾行は探偵の基本だろ」

「余計なことを」

「――どうやら、おせっかいは生まれつきなんでな。こいつばかりは似合わない」

「おせっかいなハードボイルド? 聞いたこともないわ」

 頬が、小刻みにぴくぴく震えている。意外と気は短いようだ。

「だー、うるせーっ!! ああいえば、こういううぅ……っと。どうやら、敵さん律儀に待ってた、わけじゃないな」

 怪物、ビースト・ドーパントは身悶えをするように頭を両手で押さえ唸っている。

「メモリの副作用……? 使いこなせていないのか。なら――」

 彼への罪悪感を振り払うように、身体の軋みに歯を食いしばりながら、顔を上げた。

「おいっ、なにやってんだ」

 ぐいと、遠ざけるように彼の肩を押して、ふらつく足で立ち上がる。

 逃げまわることも出来ない。誰にも頼れない。彼女を救うと決めた日からずっと自分の足で立ってきたのだ。

 たとえ、この身が朽ち果てようと、全てを打ち倒して、必ず絶望しか見えない運命を踏破する。

「その眼は意地でも関わらないで、って眼だな」

「わかってるなら、回れ右して。この街を去りなさい」

「そうはいかねーな」

「ああ、もおおおっ!!」

 なんでこの男はここまで意地っ張り馬鹿なのだろうか。

 本気で頭に来た。

「写真」

「は、写真って、この状況で……?」

「出す!! 早く!!」

「え? あ、はい」

 くしゃくしゃになった写真をつまみ上げると、輪郭のぼやけた闇に浮かぶそれを指差し声高に叫ぶ。

 こんな時まで、あの女は。本当に、いまいましい。

「その写真の女は巴マミ! あとは自分で調べて、依頼主に報告でもなんでもしなさ――い!?」

 腕をつかまれたと同時に、彼はバイクに向かって走り出す。

「いったいなんのつもり!?」

「とにかく逃げるぞ!!」

 逃げて、どうにでもなるものでもない。

 まどかに降りかかる危険は、段階的に排除しておかなければならない。
 今の装備では、あの怪物の装甲を破るのは不可能だ。

 私は、下っ腹に力をこめるとバイクに飛び乗って、国道の続く方角を示した。

「出して!」

「おい、いきなり乗り気だなっ!! んじゃ、まドライブと洒落込むか!」

 彼は、バイクに乗り込むと、いきなり全開でアクセルを吹かす。

 背後に、化け物の怒号。バックミラーに目をやると、殺意を身にまとったドーパントが、地を蹴立てて追跡してくる。

 命を掛けたツーリングのはじまりだ。

 景色が後方へとあっというまに流れていく。

 私は、彼の腰に左手を回したまま右手でリボルバーを引き絞り、つかず離れず駆けて来るビースト・ドーパントを的にしていた。

「どこまで行くんだ!」

「あの、橋の下まで」

 それにしても、後方の怪物はあの巨体で惚れ惚れするような速力を保っている。

 改めて、ガイアメモリの恐ろしさを痛感した。

 堤防を転がるようにしてバイクに乗ったまま駆け下りると、足の長い草むらを掻き分け、目的の場所までしゃにむに走った。

「なんとか、時間を稼いで」

「なんとかって、もうこうなったら、やぶれかぶれだっ! こいやっ、このドーパント野郎がっ!!」

 わめき散らす彼を尻目に、目的の物を発見し、急いでブルーシートを引っぺがした。

 キャリバー50。

 ブローニングM2重機関銃だ。

 現在でも、住友重工がライセンス生産を行っているそれは、夜目にも禍々しく、
その鈍色の砲身は出番を今か今かと待ち望んでいるように見えた。

 重さは40キロ近い。だが、人間土壇場になれば、どんなことだって出来るものだ。

 もう一度やれといわれても出来ないほど見事なまでに、私はそれを満身の力を込めて持ち上げると、手早く三脚へと、据え付けに掛かった。

「もういい! 戻って!!」

 悲壮な顔で、駆け寄る左翔太郎の顔。

 その背後に怪物の巨体が、夜空の月明かりに照らし出され、膨張するように殊更大きく見えた。

 残りの魔翌力は、ソウルジェムの濁りを考えればほとんど余裕は無い。

 それでも。
 怖くない。
 私は。
 まどかのためなら、なんだってできる。

 左腕に装着した円盤の歯車が作動し、世界の時間を凍りつかせる。
 奥歯を噛み締めながら、トリガーを絞り込む。
 天も裂けよとばかりに爆音が轟き、白煙が立ち昇った。その向こう側に、発射された無数の弾丸が怪物に向かって収束される。

 同時に、時間が動き出した。

 弾丸は、狙いたがわずにドーパントの頭部に向かって叩き込まれ、瞬時にひしゃげた肉塊を形成していくが、
それをものともせずに突進はゆるまない。
 なんというリペア能力。破壊と同時に細胞分裂を繰り返し復元させているのだ。

 怪物の拳が目の前に迫る。
 死ぬ、の?
 私は胸元のソウルジェムごと身体を破壊される幻視をぼんやりと思い浮かべながら思わず半目をつぶった。
 だが。
 衝撃は来ない。

 恐る恐る目をそろそろと開ける。

「う――え?」

 そこには両腕を交差させたまま、怪物の一撃を受け止めている、左翔太郎の背中があった。

「らあああっ!!」

 交差を解くと前蹴りを放つ。

 まともに喰らった怪物は、たたらを踏んで、数歩後ずさった。

「誰が、助けてなんていったのよ」

 翔太郎は両腕をだらりと垂れ下げながら、じっとこちらを見ている。

 ああ、きっと私の今の顔は見れたものじゃない。

 怒りと羞恥心と、それから自分でも理解したくない感情で胸がいっぱいになってしまったからだ。

「――終わっちまったからな。照井に頼まれた依頼」

「い、らい?」

 巴マミの調査のことだろうか。

「しかも、ほとんど理由のわからないままだ。アンタは何にも話してくれないしな。
オレは、今回ほとんど何もしていない。
こんなんで事件解決しました、なんていったらおやっさんにドヤされちまうし、何よりオレ自身納得いかねぇよ」

 どうして、どうして、どうして!?

「私は、もう誰にも頼らないって……」

「何でも一人でやる必要なんてどこにもない。
この世には完璧な人間なんて一人もいねえ。互いに支え合って生きていくのが人生ってゲームさ」

「あ、あああっ」

 もう、俯いたまま顔を上げることは出来なかった。
 彼から奪っていた、メモリとベルトを差し出す。私に出来ることは、両膝を突き心の底から彼に懇願するだけだった。

「……わかっていたのね、なにもかも」

「それが、ハードボイルドってやつだからな」

 彼の口元が僅かに笑みを作る。素直に頭を下げることが出来た。

「まどかと、私を助けてください」

「――ってことだ、フィリップ。この追加依頼、問題ないな」

『ああ、僕にとっては望むところさ、翔太郎』

 彼は携帯から手を離すと、ガイアメモリをかざして、ビースト・ドーパントに向き直った。

『サイクロン!!』

『ジョーカー!!』

「変身!!」

――『CYCLONE/JOKER!!』

 烈風が世界を切り裂き、そこに一人の超人が顕現した。


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