刹那「IS学園?」

2011年06月20日 19:13

刹那「IS学園?」

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/30(水) 16:39:15.73 ID:TVj8mS7E0

              ,ィ       _            、__
            八___   ´      、_      ヽ \
              ゝ  /   ´ ̄      \   \   、ヽ
             ア  , /    | 、    ヽ  ヽ\  ヽ\
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               / /  ,     ,  ムハ|||      ヽi    l  ',
           l /  /     / /   l/l/     、、 \   l   !
         r  レ  / ,/   ! ' /,. ≦ ̄\_   \\ ―丶 __,レ
         |ー '/ //|、l  l 「/r公テ〒 リ / / ム` ニ=-  、_ヽ
         ゝ__{´厂 、|Aゝ トl〃 ゙='_ノ  丿イノl ハ )||| l || ``
           Ⅵ |  {ィ汚i、!   ´     ´ /' 〈 / 丿 /  ,!/
            `トlゝ _ゝ7 `            r'_/ /  'l′
                ン               | | l   /
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                  `、`¨二         ___jム_l≧z
                   丶      ┌f‘” ̄           ̄`ヽ
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              ||         _」_| |                |
              ||         /ノ | |               /`"ー- ,,,__



久しぶりだなあ、諸君。会いたかった……会いたかったぞ!

本来はIS最終回放送後に立てる予定だったが……相応の理由がある。
男の誓いに、訂正はないはずだったのだがな……


~乙女座による前回のあらすじと伏線のまとめ~

あえて言わせてもらおう、アニメを九話まで視聴するか、過去ログを読むべきであると!
先刻承知だと言うのなら……付き合ってもらうぞ、ガンダム!

・ELSとの対話を終えた少年は量子ワープで地球に帰還しようとするも、到着したのは一夏少年のいないIS世界であった。
 この状況……青天の霹靂、いや、千載一遇の機会と言うべきか。
・ELSとISを融合させることにより、世界初の男性操縦者として学園に迎えられる少年。
 女性だらけの学園へ、男子生徒として一人転入することとなる。
 つまりはワンマンアーミー……たった一人の男性なのだよ。どれほどやれるか、刮目させてもらおう、ガンダム。
・ISエクシア(仮称)でセシリアの歪みを断ち切った少年。
 その圧倒的な性能に、私は心奪われた!
・自身を倒した少年の雄姿に、心を奪われたセシリア。
 惚れた理由など、どうでもいい! それが彼女の意思だっ!
・クラス代表になった少年は、クラス対抗戦で中国の代表候補生、凰 鈴音(ファン リンイン)と戦闘することと相成ってしまう。
 いざ、尋常に勝負!
・かと思いきや、特殊なISを装着した謎の第三者が試合に武力介入。少年らが撃退するも、対抗戦はお流れに。
 ええい、水入りか! アリーナも崩壊した……! あえて言うぞ少年、覚えておくがいい!
・なんと、そのISは無人機であった。コアも、登録されていない独自の物。その影には、例のアムロ声が……
 しぶとさは筋金入りか。私とて、因縁めいたものを感じてはいる。
・翌日現れた着任者、シャルル・デュノア。一流ISメーカー‘デュノア社’の令息である。
 よくぞ来た! この私、グラハム・エーカーが、君の着任を歓迎しよう。
・イメージカラーと物腰の柔らかさから、シャルルに仲間の超兵を重ねる少年。
 しかし、少年に一夏のような男色の気はない。
・シャルルに何かを感じたティエリアは、刹那に自身の考察を伝える。
 どんなに性格を変えようとも、目を見れば分かる。
・明日、新たな転入生が。ラウラ・ボーデヴィッヒ……ネオドイツのガンダムファイターだ。
 アイパッチの下には金色の瞳……彼女もまた、イノベイターであると言うのか?
・転入早々少年にビンタをかますラウラ。だが、少年は金属生命体、ELS。
 逆に手首を傷めてしまうも、ラウラは果敢に宣戦布告。
 黄金の鉄の塊で出来ている少年が、ISすら装備していないゲルマン忍者に遅れをとるはずは無い
・教官に執着するラウラを目にした後、少年はシャルルの本当の性別を知る。
 男装とは……趣味か!?
・女性であることを知ってもなお、少年はシャルルを認めた。その事実に、シャルルは心を動かす。
 少年もまた、フラ(ッ)グファイターであったと言うことか。
・一夜が明け、少年とシャルルはIS戦で鈴音とセシリアを圧倒するラウラを目にする。
 これは、あまりにも一方的だ……
・その光景を目にし、少年は戦場に武力介入。ラウラと事を構えるも、寸でのところで千冬に救われる。
 生身でIS装着者と渡り合うなど、常人の業とは思えん。流派東方不敗の継承者か?
・その後、タッグマッチ開催の報せが入る。少年はシャルルとペアを組むことに。
 セシリアと鈴音は負傷により欠場か……一矢は報いるぞ。
・一回戦の相手は、そのラウラ・ボーデヴィッヒであった。
 手加減は無用……真剣なる勝負を!
・シャルルとの連携、戦士としての技量でラウラを上回り、見事撃破する少年。
 しかし、そのラウラは自らのISに取り込まれてしまう。
 ELSではない……だが、あれは一体……?
・強い脳量子波を放つラウラへ、少年はトランザムバーストで対話を試みる。
 私は……既に涅槃にいると言うのか……?
・ラウラの誤解を解き、彼女へ変革をもたらした少年。その思いに触れ、ラウラは凍った心を溶かす。
 人と人とがわかりあえる道を模索し続け、未来を切り開く。それが君の戦いなのだな、少年。
・その折、ラウラは‘過去に千冬がガンダムと交戦した’と言う情報を漏らす。
 少年の知り得ないガンダム……黒歴史の産物だとでも?
・明くる朝、少年のクラスへ颯爽と登場すると、少年の唇を奪ったラウラ。
 くぅっ……堪忍袋の緒が切れた、許さんぞ!
・時分は既に夏……臨海学校だ! 赴いた先で歴代主人公と戯れていた少年は、乙女座とビーチバレーをする羽目に。
 私を切り裂き、その手に勝利を掴んでみせろ!
・相方であるキングオブハートの力もあり、少年は見事勝ちを得る。
 私が越えなければならないのは、この少年だ。

~乙女座によるこれからの方針~
・少年が異星人である以上、一夏は存在せず、結果的に箒と鈴音はヒロイン入りしないことになる。
 その上、ラウラの過去に無理が生じている。
 ISの作品だと言うのにメインヒロインに出番がないとは……このSS、存在自体が矛盾している!
・だが、IS学園が初対面の場であった人間……セシリア・シャル・ラウラに関してはそうはいかん。
 矛盾を孕んでも存在し続ける、それが生きることだ!
・セシリアを倒してしまった上、少年は一夏より優秀と来ている。メアリ・スーと言われても仕方がないな、これは。
 だが……メアリを越え、厨二を超越し、SSとなった! ご都合主義に耐性のない者は下がれ、ガンダムは私がやる!
・原作の展開をなぞる以上、ヒロイン達が少年に心を傾ける展開になり得る。
 NTRを嫌う諸君は撤退したまえ。信心深さが暴走すると、あらぬ悲劇を招く。


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 日が沈み、月が顔を出す頃。

 充分に海ではしゃいだ生徒たちは、皆一様に宿へと帰還している。

 自室に戻った刹那は、思考に時間を割いていた。
 考えるのは、ラウラの言葉。

 過去に千冬を襲った、ガンダムについてである。

 まず間違いなく、刹那ではない。
 刹那がこの地球に跳躍してきたのは、最近のこと。
 千冬が大会に参加していたその時、刹那はELSとの対話を行っていたのだ。出来るはずがない。
 何より、覚えも無かった。

 他人の空似、偶然の一致と言う線もある。
 だが。名称と、外見と、武装と。その全てが非常に似通っていると、ラウラは語っていた。

 ここまで来ると、出来すぎている。
 いくらなんでも、たまたまではすませられない。

 加えて、ISに取り込まれたラウラが放った、強い脳量子波。
 この地球の人間も、向こうの一般人と同じく微弱な脳量子波を持っているが、

 ラウラのそれは、違った。
 ひどく、強いのだ。
 超兵やイノベイターには及ばないにしても、常人の比ではない数値を誇っている。

 また、刹那はラウラから常に強い脳量子波を感知していた。
 それ故、トランザムバーストの折の対話はいつも以上に意思の伝達を行えたし、二人は色々な面で似た物同士なのだ。
 それは、ラウラが刹那を気に入っている要素の一つには入るだろう。

 それと、眼帯で隠している、あの左目。前回寝床にもぐりこまれた際に目にした、あの、金色の瞳。
 刹那の――――イノベイターのそれと、同様である。虹彩が、変色しているのだ。
 ラウラ自身、右目は赤だ。ただのオッドアイではないようで、曰く、軍施設にいた頃の実験からそうなったらしい。

 実験で、イノベイターに近い能力を開花させるとは。
 思い出すのは、一人の少女。

 戦争に踊らされた、優しい女の子――――ルイス・ハレヴィ。
 彼女もまた、アロウズで様々な処置を施され、脳量子波を操るようになった。

 もし。もし、ラウラが、ルイス・ハレヴィと同じような境遇にあったのだとしたら。
 過去のガンダムの、正体は――――

 ここまで考えて、刹那は保留と言う結論に至った。
 どうせ、答えは出ない。わからないことを、いつまでもうじうじ考え込んではいられない。

 今は、丁度予定も無い。風呂にでも入ってこようか。
 海から旅館に戻る際にシャワーを浴びたとは言え、一応体はしっかりと洗っておきたかった。

 さて、女子生徒の入浴時間は定められているが、一人しか居ない男性である刹那はそのあたり自由である。
 空いた時間ですませてしまえとのお達しもあり、
 食事前にリフレッシュでもしようと、刹那は浴場――それも露天風呂――に向かった、はず、なのだが。

 そこは、刹那たちIS学園の者とは違う団体が占拠していた。
 飛んでくる言葉から推察する限りは、学生と教師の集団――――

 だろうに、教職であろう大人が、お猪口と徳利を手にしていたが。

「お風呂はお酒を飲む場所じゃないでしょーっ!」
「どうして風呂で酒なんか飲む!
 ここで飲んでは、アルコールがまわりやすくなって、最悪死に至る!
 そうでなくても、湯冷めして体が寒くなってしまう!」
「飲酒者だけを殺す風呂場かよ!」
「だが、君たちは酒もろくに飲めない教職員の苦労を知らねばならん!
 出資者は、聖職である以上私生活にも気を使えと要求してくる! そのつらさを何故分からん!」
「だからって、未成年の前でお酒を飲むんじゃありませんよ! あなたは何やってんです、大尉!」

 酒を片手に入浴する教諭と、それを非難する生徒たち。
 未成年が同席しているにも関わらず、おおっぴらに飲酒していればそうなるだろう。

「そうやってレッテルを押し付けるから、個人の意思は廃れ、政治は腐り、こうして私が酒を飲むに至ったのだ!」
「エゴだよそれは! 貴様だって、教員だろうに!」
「教員である以前に、私は人間だ!」
「だとしても、子供の前でお酒なんて……それが人間のやることかぁーっ!」
「わかる……わかるぞ……アルコール中毒者の意思が、俺の体に!
 だめだよ、そんなんじゃ、あんたドザエモンになっちゃうよ!」
「私は節度をわきまえている!」
「性懲りもなくっ!」
「あんたみたいな奴がいるから、溺死者と中毒者がっ!」
「お前は、ここにいてはいけない人間なんだ! 酒飲みは、ここからいなくなれーっ!」
「魔法剣、ガーベラストレート卓袱台返しぃっ!」

 一歩進み出た少年が、お盆に手をかけ、一息にひっくり返す。
 名は体を表すと言ったところか、その絵面は卓袱台返しを髣髴とさせた。

「なんだ……徳利が、死ぬ……!?」
「俺はジャンク屋だからな、自分で物は壊さねぇ!」
「酒をお湯に入れたら、意味ないじゃないか!」
「僕たちは……取り返しのつかないことを……」
「どうして……僕たちは、こんなことをしているんだろう……」


 それは、刹那も知りたいところであった。





 風呂場での逆襲イベントを終えて、刹那は女子生徒と合流。
 メンバーが整ったことで、揃って夕食をすませることになる。

 日本人以外の面子も多いことから、テーブル席と座席とを選択できたが、刹那が選んだのは座席。
 テーブル席を希望する人間の絶対数に対し、枠そのものの総数が少なかったことが理由である。

 それに合わせたのか、シャルとセシリアも刹那と同様座席に。
 長時間の正座は厳しいと判断したらしいラウラは、遺憾の意を示しながらもテーブル席へ。


 そんなこんなで、食事が始まった。





 出されたのは、刺身やすき焼き、煮物に味噌汁、漬物、白米などの純日本食。
 日本の旅館だからと言うのもあるだろうし、他国籍の人間へと文化を浸透させる狙いもあるようだ。

 かつて日本に滞在――潜伏――していた刹那からすれば物珍しくはなかったが、
 ソレスタルビーイングとしての活動が本格化してきて以降、食事はほとんどレーションだったから、悪くは無いチョイスだった。

 わさびを箸で少量挟み、刺身の腹にそっと置いてやる。
 それから、身に少しだけ醤油をつけて、ゆっくりと、かつこぼさないように口へ運ぶ。

 久しく味わっていなかった、芳醇な味と香りが感覚を支配する。
 本来のうまみに加え、醤油とわさびがいいアクセントになっていた。
 文句なしに、美味しいと言える味だろう。
 学園側も、中々にいい店を指定したものだ。

 その味を堪能している刹那の、右手側の席に位置するシャルがふと問いかける。

「ねえ、刹那」

 口中のそれを咀嚼し、飲み込んでから、刹那は答えた。

「どうした、シャル」
「これ、何かな? 確か……」

 視線で、指し示す。
 刺身の更に盛られた、緑色の香辛料――――わさびである。

 フランス生まれのシャルからすれば、馴染みの薄いものだろう。
 知らないのも無理はない。

「わさび、だっけ?」
「ああ、香辛料の一種だ。独特の香りと強い辛味がある」
「へぇ~……」

 感嘆の声を上げながら、シャルが箸を伸ばす。
 密かに練習していたのだろう、その箸裁きは、一般的な日本人のそれと比べて遜色ない。

 ……が、今注目すべきはそんなことではなかった。
 シャルは、恐れを知らずに丸々一山いこうとしている。

「待て、シャル。
 あまり量を取りすぎるな」

 静止の声に、シャルの動きが止まった。
 その一連の流れを目にしていたのだろう、給仕の仕事についているらしき少年が、おひつを片手にシャルへ警告する。

「……一つだけ忠告がある」
「えっ?」
「……死ぬほど痛いぞ」
「い、痛い……?」

 確かに、わさびには鼻に抜けるような感触を伴う。
 慣れていない人間は、それを痛みと捉える傾向にある。

 それを伝えに来たしい少年は、言い切ると即座にきびすを返し、仕事を再開した。
 生徒のおかわりの要請に応え、茶碗にご飯を盛ってやっている。

 その背を見送りながら、刹那は補足した。

「……少しにしておいた方がいい。
 興味があるのはいいが、慣れていないとつらいものがある」
「う、うん……」

 どもりながらも、シャルは箸でわさびのてっぺんのあたりをつまむ。
 そのまま、おそるおそる口内へ招きいれ、

 言葉にならぬ声で、悲鳴を上げた。

 目をぎゅっと閉じ、鼻に手を添え、眉をしかめる。
 目じりには、うっすらと涙が浮かんでいた。

 うつむいてしまうシャルへ、刹那は自らの湯のみを差し出してやる。
 震える手でそれを受け取って、シャルは緑茶に口をつけた。

 しかし、ここまで耐性がないとは。
 味そのものを把握させるために単体で行かせたが、
 こうなるのなら刺身と一緒に食べさせるべきだったか。

 刹那は、自身の不注意を呪った。

「……すまない、俺のミスだ」
「だっ、大丈夫……風味があって、美味しいよ」

 お茶を飲み終えたらしいシャルが、おぼつかない呂律で感想を述べる。
 ……全く、大丈夫には見えなかったが。

 しかし、大丈夫でない人間はもう一人いた。

 刹那の左側の一席に座っているのは、セシリア。
 普段とは違い、何やらもじもじと落ち着かない様子である。

 原因は、言わずとも知れた。
 足が痺れているのだ。
 イギリス人であるセシリアにとって、正座は苦行以外の何物でもない。

「セシリア」
「刹那さん……」
「無理をするな。つらいのなら、テーブル席に移動しても……」
「へっ、平気ですわ……」

 にっこりと笑みを作って、セシリアはその場を繕う。

(この席を獲得するのにかかった労力に比べれば、このくらい……!)
「しかし……」
「刹那」

 刹那の言葉を、シャルが断ち切る。

「女の子にはいろいろあるんだよ」

 そう言われては、刹那は黙るしかない。
 刹那は男である。気遣いはできても、心を読むことは出来ない。
 女性の事情であるのだから、男性である刹那がずけずけと踏み入ることは許されぬと言うものだ。





 食事を終え、刹那は一度部屋へと戻る。
 これは合宿ではなく臨海学校、スケジュールが詰められているわけでもない。
 消灯までは自由時間だ。

 さてどうしたものかと自室へ戻った刹那を迎えたのは、

「久しぶりだな……会いたかった、会いたかったぞ、少年!」
「お前は……!」

 昼間の乙女座。

「まさかこのような場所で見(まみ)えようとは……何と言う僥倖!
 乙女座の私は、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」
「何故ここに……!」
「決まっている……! 決着をつけるためだ!」

 乙女座は口端を吊り上げ、手で部屋の中央を指す。
 そこにあったのは、ゲームの筐体。四ボタン+一ボタン式のゲーム筐体が、四対セットで連結している。
 ゲームセンターにあるような、本格的なそれだ。

「これは……!」
「説明は不要だな? ここで引導を渡す!」

 叫ぶ乙女座。しかし、このゲームは四人用。
 二人でも遊べなくはないが、本来は二体二で行うものだ。

 そんな疑問などとうに察しているのだろう、刹那に続き、部屋へ続々とメンバーが集まってくる。

「これ、勝てば賞金がもらえるんでしょ? これでリィナを山の手の学校に……」
「待っててくれよ、ティファ。必ず勝って帰るからな……!」
「見せてもらおう……ガンダムのパイロットの腕前とやらを」
「ここで奴を仕留めなきゃ、死に切れるもんじゃない……」
「見せてやるぜ、最強の悪運ってやつをな!」
「上手く言えないけど……あいつと、ガンダムと戦ってみたくなったんだ」
「人が安心して眠るためには……!」

 これが皆、プレイヤーだと言うのか。
 いつの間に、こんな段取りをすませていたのか。

 だが、そんなことはどうでもいい。大事なのは、これからどうするかだ。

「行くぞ、少年!」
「……了解。全力で行く!」
「よく言ったガンダムぅぅぅぅぅぅぅ!」





「俺のレッドフレームは、悲しみなんか背負っちゃいねえ! やれるはずだ!」
「クロスボーンは、接近戦に強く調整されている。恐れるな……」
「純粋に戦いを楽しむ者こそぉーっ!」
「自分を捨てて戦える者にはぁーっ!」
「トゥ! トゥ! トゥッ、ヌ゙ォォォ!? (キラキラバシュウウウウン) モウ、ヤメルンダッ!」
「守ったら負ける、攻めろ!」
「コウ・ウラキ、吶喊します!」
「2000コストかい!? 早い、早いよ!」
「ビーム・マグナムは、加減がきかない……!」
「世界を滅ぼされてたまるかぁーっ!」
「しつっこいんだよっ!」
「行ってしまえっ!」
「抵抗するんじゃない、行っちゃえよ!」
「ははっ、ざまぁないぜ!」
「ゴォォッド、フィンガー!」
「ダァァァクネス、フィンガー!」
「やめろ、シャア! ゲルググを使うんじゃない!」
「そんな決定権がお前にあるのか!」
「その薙刀を止めろと言ってるんだ! このままでは、過疎の冬が来るぞ!」
「五飛、教えてくれ。俺はあと何ヶ月、トールギスⅢを待てばいい……
 ゼロは何も答えてはくれない。教えてくれ、五飛……」

「さあ……勝負だ、少年!」
「目標を、駆逐するっ!」





 気づけば、朝になっていた。
 登った日が、眩しい。

 結局、一同は夜通しガンダムファイトとしゃれ込んでいた。
 ELSである刹那はともかく、普通の人間である連中はその辺で雑魚寝している。
 その中にも、ストレッチと筋トレに励む青年と老人がいたりしたが。

 顔を洗うべく、刹那は部屋を後にする。
 廊下に出て、洗面所へと歩を進め、

 ふと、妙な違和感を覚えた。

 原因は、中庭。
 土の中に、何か埋まっている。

 近づいて、観察。
 ウサギの耳だろうか、それらしき造形の物体が、地中から突き出ていた。
 その後ろには、ご丁寧に『ひっぱってください』と書かれた看板がつきたてられている。

(……ティエリア)
≪……僕にもわからない≫

 さしものイノベイドにも、この不可思議極まりないアーティファクトが何なのかわからないらしい。
 まあ、駄目元で尋ねた以上、それほど期待もしていなかったが。

 しかし、どうするか。
 ひっぱってくださいと懇願されているのだからひっぱった方がいいのかもしれないが、怪しすぎる。
 ひっぱった瞬間爆発でもしたらと思うと、迂闊にはひっぱれない。

 うんうんと悩む刹那の後ろから、声がかかる。

「何をしてらっしゃいますの?」

 振り向けば、そこに立っていたのはセシリア。
 時間から考えるに、彼女は朝に弱いわけではないようだ。

 刹那が顎で地中のそれを示すと、セシリアは言葉に困ったように表情を歪めて、

「……これは……」
「俺にもわからない」
「『ひっぱってください』……と書いてありますけれど」

 看板と耳とを交互に見やるセシリアに、刹那は踏ん切りをつけて、

「……セシリア、離れていろ」
「刹那さん?」

 耳に歩み寄り、思い切って手をかける。
 指示通りセシリアが後退しているのを確認してから、上方へと引き抜く。

 抵抗もなく、耳が出てきた。
 ほぼ地上に出ている部分しかない。
 それ故、簡単に抜けたのだろう。拍子も抜けようと言うものだ。

 何だこれは、と手に持った耳をためつすがめつしていると、

≪上空から熱源……! 刹那、警戒を!≫

 ティエリアから、警告が入る。
 その報せを受け、刹那は掴んだ耳を放棄、ISを装着。
 ダブルオーライザーを象った装甲をまとい、セシリアを手元に引き寄せる。
 肩を掴まれたセシリアは、油断していたのだろう、あっけなく刹那に身を寄せた。

「せっ、せせせ刹那さん? い、一体何を……!?」
「動くな」

 焦った様子のセシリアへ返答しつつ、刹那はGNフィールドを展開。
 人二人分を包むよう出力を調整し、エトランゼの出現に備える。

 そして、それはやってきた。

 中庭に到達したそれは、派手に爆音と砂塵を上げつつ着弾。
 地形を変形させるほどの衝撃を、刹那たちに与えてくる。

 しかし、ISとて伊達ではない。
 GNフィールドにより阻まれ、それは威力を殺された。

 そして、砂埃が晴れる。
 地面に突き刺さっているのは、にんじんのような形をした機械だった。
 それに遅れ、けたけたと笑い声が響く。
 そこには、わずかな狂気が含まれていた。

 刹那とセシリアが怪訝な目を向けると同時、にんじんが割れる。

 中から出てきたのは、人。
 艶やかな長い髪と、たれた目、そして着用しているキュロットスカートが特徴的な女性であった。

「はっはぁ、引っかかったね~?」

 おそらく、埋まっていたあれは偽物で、引っこ抜いた瞬間に上から来ると言うフェイントなのだろうが、
 何かもう色々と破綻していた。

 と言うか、移動するのなら、機械の外見をにんじんにする必要性は皆無なように思える。
 にんじん、いらないよ。





「ごめんごめん、驚かせちゃったねえ。
 本当はあの子にやってもらうつもりだったんだけど……」

 後ろ手に頭をかきつつ、女性は続ける。

「そう言えば、君は刹那・F・セイエイ君?」
「……ああ」
「じゃあせっちゃんだね、よろしくせっちゃん」
「…………」
「あっ、流石にせっちゃんじゃ嫌かあ。もう大人だもんねえ。
 じゃあせっさんかな? よろしくせっさん」
「…………」

 ……なんだこいつ。
 思わず、刹那はそんな感想を抱いた。

 いきなり飛び込んできたかと思えば、いきなり人の名前を当てて、いきなりあだ名までつける。
 意図の読めない行動だった。

「そう言えばせっさん、ちーちゃんがどこにいるか知ってる?」
「……ちーちゃん?」
「知らないかぁ。そっかあ。しょうがないなあ。
 じゃあ、ちょっと探しに行ってくるね」
「…………」
「ばいばい、せっさん、また後でね~」

 手を振りながら、女性はぱたぱたと駆けていく。
 靴を脱いで廊下に上がると、教職員の寝室に向け走り出した。

 まさしく、嵐の様な騒がしさであった。
 マイペースと言うか何と言うか。

「せっ、刹那さん。今の方は一体……?」

 ぽかんとしたままのセシリアが、刹那に状況の説明を求めてくる。
 刹那は首を横に振った。刹那自身、何もわからないのだ。





 昼。
 朝の準備を終えて、各クラスの専用機持ちは旅館近くの渓谷へと集合していた。
 近くに人が居ては、何かと不都合なのだろう。

 並んだメンバーをざっと一瞥して、千冬が口を開く。

「よし、専用機持ちは全員揃ったな」

 左から、セシリア、鈴音、刹那、ラウラ、シャル、乙女座。

 ……乙女座?

「……あの、専用機持ちじゃない人が混じってるんですけど?」

 違和感をぬぐいきれない鈴音が、千冬に質問をぶつける。
 予想していた千冬は、鈴音の目を見て、

「私から説明しよう。実はだな……」
「やっほぉーーーーーーーっ!」

 しかし、遠方から聞こえてきた声に、表情を渋めた。

 刹那にも、聞き覚えがある。
 この、高い声音は。

 渓谷の岩肌を滑り降り、途中で壁を蹴る。
 爆発のように足元が弾け飛び、その第三者は空を舞う。

 キュロットスカートが、空気の抵抗を受け、なびいた。

「ちーーーーーぃちゃーーーーん!」

 ちーちゃんとは千冬のことだったのか。
 ともかく、名を呼びつつ、女性は千冬に突撃。

 真正面から飛びつこうとするも、千冬の迎撃を受けあえなく失敗。
 頭を右腕で掴まれてしまい、接地を余儀なくされる。
 そんなことなどお構いなしに、女性は続けた。

「やあやあ会いたかったよちーちゃん!
 さあハグハグしよう! 愛を確かめ――――」
「うるさいぞ、束(たばね)」

 ぶっきらぼうに言い切る千冬。

「相変わらず容赦の無いアイアンクローだねえ!」

 言いながらも、女性――――束は千冬の手中から脱出。

 乙女座の前まで一瞬で移動し、大仰な身振り手振りでアピールを開始する。

「じゃじゃーん! やあ! 元気だったブシドー?」
「体調は万全です、プロフェッサー」
「それは何より! うんうん、人間元気が一番だね!
 ……およ? おお、せっさん! また会ったね! 覚えてるかな?」
「……ああ」

 二転三転する話を振られて、刹那はとりあえず頷く。
 何がどうなっているのか、何をどうすればいいのか、刹那はさっぱりわからない。

 その様を見かねて、千冬が言い含める。

「束、自己紹介ぐらいしろ」
「ええ~、面倒くさいなぁ~」

 渋々一同の前に出ると、束はくるりと一回転して、ぱっと両手を開く。
 ミュージカルやフィギュアスケートのような、そう言う芝居がかった動きだった。

「私が天才の束さんだよ! はろ~ん!
 おーわりっ」
「束、って……」
「ISの開発者にして、天才科学者の……!」
「篠ノ之束……!?」

 その名前には、刹那も覚えがあった。
 単独でISの基礎理論を考案、実証し、全てのISのコアを製造した、ISの生みの親である。
 参考書に名前が載るほど、有名な人物なのだが。

 まさか、こんな人となりをしているとは。誰もが思わなかった事態である。
 そんなことなど関係ないと、束はマイペースなま天を指差し、

「んっふっふ~。さあ、大空をご覧あれ!」

 皆に促す。
 釣られて空を見れば、何やら光るものが。

 直後、落下。
 地面に大穴を穿ったそれは、八角形のコンテナだった。
 一面銀色のそれは、若干ながら浮遊しており、地面に対して垂直に直立している。

 束はポケットから小型のリモコンを取り出し、親指でボタンを押し込んだ。
 その操作を受け、コンテナが展開。中から、一体のISを放出する。

 黒い装甲に、兜を象った頭部、両の手に装備された一対の剣。
 どこか、日本の武士を思わせるデザインだ。

「じゃじゃーん! これぞブシドー専用機こと、スサノオ!
 せっさんのISデータを元に製作した、束さんお手製だよぉ~ん!」
「フラッグの面影が垣間見える……見事な造形です、プロフェッサー」
「ご所望どおり、最高のスピードと最強の剣を備えたスサノオは、
 現行のISを上回るスペックと、擬似GNドライヴを持つ機体……第四世代型ISなんだよお~!」
 
 自慢げに胸を張る束と、スサノオを眺める乙女座――――いや、ブシドー。

 だが、一行が気にするべき場所はそこではない。

「第四世代……!?」
「各国で、やっと第三世代型の試験機が出来た段階ですわよ……?」
「なのに、もう……」
「そこはほれ。天才束さんだからぁ。
 それじゃあブシドー。今からフィッティングとパーソナライズを始めましょうかぁ」
「はっ! スサノオを受領致します!」

 束の手によって装着可能状態に持っていかれたスサノオへ、ブシドーが乗り込む。

「あらかじめ、ある程度データを先行入力してあるから。
 あとは最新データに更新するだけだね!」

 説明をしながら、束は空中に表示されたパネルを高速の指さばきで叩いていく。
 その速さたるや、人の到達できる域を凌駕していると言っても過言ではない。

「すごい……信じられないスピードだわ……」

 鈴を筆頭に、残った面々は、ただ驚嘆するほかない。

「ほいっ、フィッティング終了~。超早いねさすが私ぃ。
 そんじゃ、試運転も兼ねて飛んでみてよ。ブシドーのイメージ通りに動くはずだよ?」
「了解しました」

 スサノオが、起動する。
 GNドライヴから赤い粒子が発生し、それを推力に、スサノオは空中へと躍り出る。
 瞬きの間に、高度を保つ。早い。刹那のエクシアに並ぶ、あるいはそれを上回る速度だ。

「すごい、早い……」
「これが、第四世代のIS……」
「どうどう、思った以上に動くでしょ~?」
『ええ。この機体ならば、極みに到達できる……!』
「じゃあ、刀使ってみてよ~。右のがウンリュウで、左のがシラヌイね。
 武器特性のデータを送るよ~ん」

 スサノオの両手には、既に刀剣が握られている。
 右の短刀、ウンリュウ。左の長刀、シラヌイ。

 ブシドーが目をつけたのは、十メートルはあるだろう巨岩。
 切れ味を試そうと言うのだ。

 下降しつつ、シラヌイを構える。
 そして、刃を立てて真っ直ぐに降下。

「切捨て……!」

 岩塊に、シラヌイの白刃が差し込まれる。

「ごめえええええええええんっ!」

 乾坤一擲、裂帛の気合と共に、シラヌイが閃いた。
 岩が、割れる。
 包丁で豆腐を斬ったかのような、手ごたえの無い切れ方だった。

 中心から真っ二つに割れた岩の断面は、平らである。
 ムラがないのだ。操縦者の技量と、シラヌイの性能。両者が揃ってこそ成せる業。

「いいねいいねえ! 次は、これ撃ち落してみてね!」

 にっこり笑顔のまま頷きつつ、束は宙のスサノオを指差す。
 応えて、束の傍らに、彼女の身長をゆうに越す設置型のミサイルランチャーが出現した。
 光学迷彩か何かで、人間の目を欺いていたのだろう。エクシアにも、同様の技術が組み込まれている。
 もっとも、ガンダムの場合は、迷彩皮膜を被せているのだが。

「はあ~いっと!」

 束の一声を引き金に、十二をワンセットとして、都合三十六発のミサイルが放たれた。
 音でそれを認識すると、ブシドーはエネルギーを操作。

「行け!」

 兜の角の間に集中させチャクラムを形成、打ち出す。
 赤い円盤は空中を自在に飛び回り、ミサイルを両断していく。

 数秒の後、立て続けに爆発が起きる。
 巻き立つ爆風の中、黒き機体は悠然と佇んでいた。

「……やるな」

 腕を組み、スサノオを見上げるラウラが、ぽつりと感想をこぼす。
 代表候補生を二人まとめて相手するほどの腕前を持つラウラが、素直に賞賛するほどの操縦技術。
 かの者の力量たるや、並大抵のものではない。第四世代の新型を担うに相応しい器量か。

「いいねいいねえ、うふ、ふふふふふふふ!」

 けたけたと人目をはばからずに笑う束は、心底楽しんでいる様子だ。
 その様を、千冬は怪訝な目で見ていた。





「たっ、大変です! 織斑先生!」

 そこに、真耶の声が立ち入る。
 息を弾ませながらも真耶は疾走、千冬の元へたどり着くと、手に持ったデバイスを手渡す。

「これを……!」

 モニターに浮かぶ、警告色の文字――――緊急事態発生、の一文。
 千冬は真耶からもたらされた小型の機械を手に取り、中心のボタンをプッシュ。
 新しく、黒いウインドウがポップした。

「特命任務レベルA……現時刻より対策を始められたし……
 テスト稼動は中止だ!」

 千冬が、一行を見やる。

「お前達に、やってもらいたいことがある」





 刹那たちが通されたのは、旅館の一室だった。
 部屋中には、これでもかとばかりにモニターやプロジェクターが鎮座している。
 大方、遠方にあっても学園と情報を共有できるようにと備え付けたのだろう。

 いかんせん畳や障子とはそぐわないが、景観を損なうだの何だのと言っていられる状況でもなさそうだ。

「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあった、アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代のIS、
 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)……通称福音が、制御下を離れて暴走。
 監視空域より離脱したとの連絡があった」

 銀の福音。
 耳慣れぬ単語である。ISの名称にしては、やや特異的であった。
 おそらくは、個別に名づけられたのだろう。しかし、特別な名称を授けられる兵器は、得てして強力なものである。

 加えて、暴走と言うその状態。
 いかに高度な技術が用いられていても、ISは基本的にヒトが動かすもの。
 言い回しからして、パイロットが錯乱したと言うわけでもなさそうだ。
 ならば、特殊なシステムが搭載されているのだろうが――――

「情報によれば、‘無人のIS’と言うことだ」

 千冬の言は、案の定であり、案に相違したものだった。

 無人。
 その条件は、クラス対抗戦の際、介入を行ってきた襲撃者と同等である。
 クアンタムバーストに反応しなかったこと、また、解体した際に発覚した独自の構造から、あれも無人だったことが証明された。

 きな臭いものを、感じずにはいられない。
 それは、千冬も含めて皆同様だ。一様に口を閉ざしているが、表情は強張っている。

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。……時間にして五十分後。
 学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。
 教員は学園の訓練機を使用して、空域、及び海域の封鎖を行う。
 よって本作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」
「……お言葉ですが」

 ブシドーが、口を開いた。

「どうした。降りるか」
「いかに専用機と言えど……未熟なパイロットに務まる任であるとお考えですか?」
「…………それが、命令だ。専用機持ちに迎撃させろ、とな」
「……断固辞退する、と言いたいところですが」
「興が乗らんのは私も同じだ」

 千冬の顔には、いくらかの苛立ちが浮かんでいた。彼女の本意ではないのだ。
 ……命令。
 専用機の戦闘能力は、一般的なISを容易く凌駕する。が、しかし、それを操るのは腕の青い学生だ。
 このような、命が危険に晒されかねない案件に放り込むべきではないのは確実である。

(……だとするならば)
≪試されているのか……それとも、目標の機体に何かが仕掛けられているのか≫

 未知の個体である刹那に、
 そして刹那の干渉によって生まれた二機の太陽炉搭載型ISに、
 何らかの接触を図ろうと言うのだろうか。
 上層部とやらは、何を企んでいる?

「……それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」
「はいっ」

 セシリアが、右手を挙げた。
 千冬が、視線を向ける。

「目標ISの、詳細なスペックデータを要求します」
「……ああ。だが、決して口外するな。
 情報が漏洩した場合、諸君には、査問委員会による裁判と、最低でも二年の監視が付けられる」
「……了解しました」

 機密事項か。ならばなおさら、一端の学生が触れさせないのがベターだろう。
 ブシドーの眉間に、小さくしわが寄った。

 床に投影されたスクリーンに、いくつかの窓が開く。
 浮かぶ、文字の羅列。

 広域殲滅を目的とした、特殊射撃型。
 ISとしては、そのように分類されるらしい。

「……私(わたくし)のISと同じ、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 ブルー・ティアーズと同じ、ファングのような自立兵装が、福音には積み込まれているようだ。

「攻撃と機動の、両方に特化した機体ね……厄介だわ」
「この特殊武装が曲者って感じはするね……連続しての防御は、難しい気がするよ」 
「……このデータでは、格闘性能が未知数だ」

 各々が、思い思いの所感をこぼす。者によっては、初の実戦――――命の取り合いになるだろう。
 軍事施設の出身であるラウラはともかく、鈴音とシャルには、経験がないかもしれない。
 彼女たちは聡明であるから、危険であると理解はしているだろうが。

「偵察は、行えないのですか?」
「……それは、無理だな。この機体は、現在も超音速飛行を続けている。
 アプローチは、一回が限界だ」
「超音速……殺人的な加速だな」
「一回きりのチャンス……ってことは、一撃で仕留めるしかない、か」

 鈴音の呟きに、しんと静まる。
 機会は一度。失敗は許されない。
 一撃必殺。求められるのは、高火力。そして、敵機に追いつく機動力。

「俺が出る。足回りでは、ガンダムに分があるはずだ」

 その一点においてなら、ダブルオーライザーは充分及第点だ。
 更に、

「我がスサノオは、最高のスピードと、最強の剣……そして、隠し玉を備えている。
 新型を相手取り、斬り合うも一興」

 天才である束の設計した第四世代型ならば、ガンダムに匹敵するポテンシャルを発揮できる。
 本人の言う'隠し玉’もある以上、採用に値するだろう。

「……なら、本命はあんたたち二人ね。しっかり落とすのよ」
「それしか、ありませんわね」

 方針は、定まった。後は、ただ全力で当たるのみ。
 刹那の隣に座っているブシドーが、小さく口元を歪めた。

「よもや、君と肩を並べて戦う時が来るとはな。乙女座の私は、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」
「……戦果を期待する」
「期待には応えよう」





 青い空に、白と黒のISが舞う。
 一方は、刹那の擬似専用機、ダブルオーライザー。
 一方は、ブシドーの専用機、スサノオ。

 ゆっくりと、浮上する。
 テスト飛行として、上昇と下降を何度か繰り返した後、中空で停滞。

『二人とも、聞こえるか?』
「ああ」
「ええ、よく聞こえます」

 通信機越しに響く千冬の声に、彼らは返答した。
 最終確認とばかりに、指示が飛ばされる。

『今回の作戦の要は、一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ。
 討つべきは……銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)。以降、福音と呼称する』
「了解」
「熟知している」
『……決して、無理はするな。敵機は新型だ。何が飛び出してくるかわからん』

 念押しに頷き、それぞれGNドライヴを稼動。
 赤と緑のGN粒子が、空気中に散布される。

『……ミッション、スタート!』
「ミッションプランを確認……フェイズ1に移行。ダブルオーライザー、目標に向け飛翔する!」
「オーバーフラッグス! フォーメーションEで、ミッションを開始する!」

 天を、二つの流星が駆けた。





≪暫時衛星リンク確立、情報照合完了……目標の現在位置を確認。各機に転送するぞ≫
「確認した」
『この分ならば、あと数分とかかるまい。
 ……あえて言おう。死ぬなよ』
「ああ……俺は、生きる。生きて明日を掴む。ここで朽ち果てるわけにはいかない」
『それでこそだ、少年』

 通信越しにブシドーの笑みを受けて、刹那は気を引き締める。
 そうだ、これは、訓練でも模擬戦でもない。
 命を賭けて鎬を削りあう、争いだ。油断は、死を招く。

≪……目標を捕捉。接触まで、10セコンドを切った。刹那≫

 ティエリアからのメッセージに、二人が武器を構える。
 レーダーも、既に敵機を捉えていた。

 早い。なるほど、超音速と言うだけはある。
 だが、ここで臆してなるものか。
 GNドライヴの稼働率を上げて、戦闘態勢に移行する。

 その内、視認が可能になった。

 ――――白い。銀の色に相応しい、穢れの無い純白。
 空の青さすらも拒むように浮き出る、強く気高き白銀の色。
 機体後部には、翼の様な大型のスラスターを装備している。

 まるで、天使か何か、神々しいもののようにすら移る。
 だとしても、決断を緩めることはしない。

 GNソードⅡをライフルモードに変更し、銃口を向ける。
 今のところ、敵手は真っ直ぐに飛行しているだけだ。軸が合っている今ならば、後方からの射撃が命中するはず。

「俺が牽制する。その隙に奴を駆逐しろ……いけるな?」
『望むところだと言わせてもらおう』

 応えながら、スサノオは二対の剣にエネルギーを疾走させる。
 シールドをまとい、刀身が赤熱に染め上げられた。

 それを見届けて、刹那は両手のGNソードⅡを銀の福音に向ける。

「狙い撃つ!」

 先端から、粒子ビームが射出された。
 大型砲の数倍を誇る殲滅力をもって、巨大な弾丸が福音へ迫る。

 背を向けたまま、福音は上方へ進路変更。
 慣性をねじ伏せ、九十度に等しい角度で、天空へ向け突き進んでいく。

 ――――早い。装甲やパイロットへの負担を丸きり無視した動きだ。
 最新鋭機と言うだけはある。その軌道は、ISはおろかモビルスーツにも追えるものではないだろう。

 だが。こちらも、第四世代のガンダム。ツインドライヴを擁する、高スペック機なのだ。
 たったこれだけで、諦めてやる道理はない。

 頭上を取った福音を目で追い、体全体を向ける。
 GNソードⅡから、再び粒子ビーム。
 しかし、今度は一発ではない。

 複数だ。小粒のビームが、扇状に広がっていく。
 拡散ビームの攻撃に、福音は右方への回避を選択。
 大きく、東方へと退避する。

 それを、刹那は予測していた。
 GNソードⅡからGNソードⅢへと換装、ツインドライヴの圧倒的な馬力でもって移動し、福音とぶつかるような進路を取る。
 右腕の巨大な刃が、太陽光を反射してきらめいた。

 刹那を相手に接近戦は不味いと踏んだのだろう、福音は方向転換、下方へと撤退する。

「隙あり!」

 そこへ、スサノオが攻め込む。
 この好機を、待っていたのだ。準備は、万全である。

「御命、頂く!」

 シラヌイとウンリュウを水平に保ち、体全体を回転。
 独楽のように、高速で福音に迫る。

 不意打ちの一撃にすら、福音は反応してみせた。
 即座にバックブースト、後方へと下がりながら、翼を広げる。

 青の光弾が、ブシドーの視界を埋め尽くした。

 迎撃をくらい、ブシドーが取ったのは防御。
 剣を交差させ、前方にエネルギーフィールドを展開。
 あまたの弾丸を、全て受けきる。

 その時には、既に距離を離されていた。
 福音の影は、もう三分の一程度の大きさである。

 刹那と合流したブシドーが、口惜しげに声を漏らす。

「やってくれる……!」
「押されている……何とか、反撃の糸口を……!」
「ええい、フォーメーションをCに変更する! 挟撃に持ち込むぞ!」
「了解!」

 ダブルオーライザーは右から、スサノオは左から。
 太陽炉によるハイスピードで、左右から突進する。

 翼からビーム弾をバラ撒きながら、福音は逃げの一手を打つ。
 最低限の挙動で敵弾をいなし、両者は福音に接近。

 スサノオから、ビームチャクラムが発射される。
 弾速・誘導に優れるその武装をかわしきるのは、難しいはずだ。

 事実、福音も対応に手を焼いているらしい。
 大きな動きで、執拗に襲い来るチャクラムから逃れる。

 そればかりに気を取られいた福音は、刹那の剣を防ぎきれない。
 GNソードⅢの、一閃。翼部の装甲に、一文字が刻み込まれる。

 迎え撃つべく、福音は刹那へと向き直った。
 そこに、スサノオからの強襲。
 背後から、刀で滅多切り。ダメ押しとばかりに、右の蹴りを叩き込む。

 大きく吹き飛ばされ、福音が制御を失う。
 今こそ、最大のチャンス。

 刹那が、ブシドーが、大技を放つ予備動作に入る。

「ティエリア!」
≪圧縮粒子、開放!≫
「我がスサノオの奥義、とくと見るがいい!」

 赤の色を、孕む。

 福音の、装甲が。

 空中に投げ出されていた福音は、しかし瞬きの間に操作を取り戻し、体勢を整えていた。
 直後、刹那の腹部が、ブシドーの右腕が、爆ぜる。

「何とっ!?」
「くっ……!? あれは……!」

 早い。明らかに、素早くなっている。
 そして、火力も向上しているのだろう。
 今の一撃は、先のそれよりもずっと重く、痛い。

 だが、何よりも。
 あの、福音の周囲に舞う、きらめく粒子は。

「トランザム……!?」
「馬鹿な、技術が漏洩したとでも言うのか……!?」

 福音のブースターが、開放されている。
 かつて翼だった部位から覗くのは、二基の擬似太陽炉。

 一体、どう言うことだ。
 この世界で擬似太陽炉を開発したのは束だと聞いているが、まさか、技術提供をしたとでも言うのか?

 混乱に支配される刹那の頭に、ティエリアの声音が響く。

≪刹那! 熱源接近……遠距離砲撃だ!≫

 歓迎できない現実を否定する間もなく、刹那はダブルオーライザーを動かしていた。
 海面ぎりぎりまで、降下させる。スサノオも、同様に撤退を開始。

 直後、閃く。
 超高出力の、粒子ビーム。
 雲を切り裂き、天空を染め上げる。

 それが、なぎ払うように、曲がった。
 刹那たちを、狙っているのだ。

 舌打ちをこぼし、両機は反対方向へ散開。
 高度をずらし、一網打尽にされないよう距離を取る。

 長距離狙撃をやり過ごしたその時には、もう、福音の姿は無かった。
 粒子ビームに紛れ、逃げ去ったのだろう。

「今の砲撃……」
≪データの照合は終了している。……間違いない。あれは、僕達の世界の技術……≫

 IS相応にダウンサイジングすることで少なからず劣化しているとは言え、
 ダブルオーライザーのレーダーで捉えられない程の距離から、射撃してきたのだ。

 加えて、あの粒子ビーム。
 黄と紫色のそれは、この地球においても普及していない。

「……やはり」
≪ああ。GNZ-003……ガデッサの、GNメガランチャーだ≫

 ガデッサ。
 リボンズ・アルマークの一派が使用した、モビルスーツだった。





 旅館、先の一室。

「……停止していますね」

 真耶の力ない声が、室内に浮かんだ。
 モニターを眺める千冬の表情は、険しい。
 デスクのパソコンの操作を中断し、真耶は椅子に腰掛けたまま、問いかける。

「本部はまだ、私たちに作戦の継続を?」
「……解除命令が出ていない以上、継続だ」
「ですが、セイエイ君たちが持ってきてくれた映像記録から見るに、敵は福音だけではありません。
 これから、どのような手を――――」

 言いかけて、真耶は口をつぐんだ。
 千冬にだって、わからない。
 わかるわけがないのだ。彼女もまた、下っ端の一人に過ぎないのだから。





 刹那は、黙々と思案にふけっていた。
 旅館の自室で、壁に背を預け、座り込む。

(……あの粒子ビームは、俺たちの知る世界のもの)

 先の、砲撃。
 データと、寸分違わぬものであった。

(加えて、福音の状態変化……あれは間違いなく、トランザムだった)

 ISを一人で作成するほどの天賦の才を持つ束が、擬似GNドライヴを作るのはまだ理解できる。
 だが。何故、それがアメリカ・イスラエルで共同開発されたISに採用されている?
 束が協力を行ったのか。それが、最も濃厚な可能性だろう。

 しかし。
 刹那の脳裏に、ある者の存在が過ぎる。

 世界の歪みを、体現したような。
 因縁の、相手が。





~次回予告~


 新型機を受領してもなお、任務を失敗するとは。
 私は、専用機持ち失格だな。

 ……いや、ここで挫けてはいられない。
 すまない、ハワード、ダリル。
 私としたことが、己を見失っていたようだ。

 さて、諸君。私は、司令部より独自行動の免許を与えられている。
 つまりはワンマンアーミー……たった一人の軍隊なのだよ。
 そうである以上、命令違反など知ったことか! 私は、自らの手で福音との決着を着ける!
 我がスサノオは、未だ真価を発揮していない。今度こそ、真剣なる勝負を!

 ……おや、そこに見えるは少年か。
 フラッグファイターには意地がある。止めてくれるなよ。

 ……む、そうか。すまない、無粋だったな。
 行くぞ、少年。意地があるだろう、男にはな!


 次回、『変革の刃』。裏に潜む世界の歪みを、破壊しろ、ガンダム!



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