スポンサーサイト

--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

刹那「インフィニット・ストラトス?」 中

2011年06月18日 20:14

刹那「インフィニット・ストラトス?」

126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/02(水) 20:43:20.38 ID:ow3SYJxH0

 諸君、夜の挨拶、即ちこんばんはと言う言葉を、謹んで贈らせてもらおう。
 おっと、名乗るのが遅れたな。グラハム・エーカーだ。

 さて、私が何故このような舞台にひっばりだされたのか、しっかり説明しておこう。
 次のシーンは、セシリア・鈴音VS真耶の模擬戦闘だ。
 この試合に、一夏少年は介入していない。空気状態というやつだな。
 それ即ち、少年の出番は皆無であると言うことだ。
 加えて、アニメのワンシーンをただ文章に起こすと言うのも気が遠くなる作業……
 それ故、丸々カットしたために生じた障害を取り除くべく私が駆り出されたというわけさ。
 つまりは幕間、たった一人の道化なのだよ……

 そう言えば、3月23日発売「IS」のBlue-ray&DVDはもう予約したかね?
 なんとっ、未だ果たしていないと言うのか!?
 初回特典の豪華設定資料集はISのあらゆる設定が網羅されている重要資料だ。
 残念ながらガンダムやフラッグのデータは掲載されていないが、
 各種ISのカタログスペックはきっちり調査済みらしい。
 未だ予約していないフラッグファイターの諸君、私と共に予約に行くぞ!


←ブログ発展のため1クリックお願いします
 上空から叩き落され、二機のISが轟音と砂嵐を巻き起こした。
 負けたのは、セシリアと鈴音のペア。
 代表候補生二人がかりだと言うのに、真耶のISには傷一つついていない。

 ――――完全試合である。

 いくらカスタムしてあるとは言え、旧式機で専用機二機を相手取り大勝を上げるなど、並みの腕ではない。
 それに対し、敗者の側は、

「まさか、この私が……」
「あんたねぇ……! 何面白いように回避先読まれてんのよ!」
「鈴さんこそ……! 無駄にバカスカと撃つからいけないのですわ!」

 地面に墜落し、互いにISの装甲が複雑に絡み合った格好のまま、二人で言い合いをする始末である。
 昔のティエリアと自分を見ているようで、刹那は思わずわずかな笑みを飛ばした。

「これで諸君にも、教員の実力が理解できただろう」 

 腕を組んだまま、千冬は二人の前まで歩み出ると、

「以後は敬意を持って接するように」

 言い含めて、千冬は視線を隊列に戻した。

「次に、グループになって実習を行う。リーダーは、専用機持ちがやること。
 では分かれろ!」





「デュノア君の操縦技術を見たいな~」
「ねえねえ、私もいいよね!」





「セイエイ君、一緒に頑張ろう!」
「わかんないところ、教えて!」

 いくらか予想はしていたが、刹那にとっては歓迎できない誘いであった。
 刹那は形式上IS操縦者ではあるが、ティエリアとELSのサポートを受けて初めて動かすことができるのだ。

(……ティエリア)
≪……あ、ああ、すまない刹那。どうした?≫
(……ティエリア?)

 ティエリアの本体は、今やヴェーダのターミナルユニットである。
 体調不良とは考えがたい。

(他の生徒に操縦の指導を行うことになった。力を借りたい)
≪了解した。ELSとのチャンネルを開く≫

 ティエリアのアドバイスを得ながら、刹那は生徒に稽古をつけていく。
 口と手を動かしながら、合間を縫い刹那は脳量子波でティエリアとのコミュニケーションを取っていた。

(……何を考えている?)
≪刹那?≫
(一日中、注意が散漫だ。……俺でよければ、話相手にはなれる)
≪そうか……ありがとう、刹那≫
(気にするな。俺は気にしない)
≪……本格的に気に入ったのか。
 まあいい、君には話してもいいかもしれないな……≫





 合同演習も終わり。

「ねえ刹那、今日のお昼、空いてる?」
「ああ」

 シャルルの質疑に、刹那は肯定の意を示した。
 先ほど大人気だったシャルルだが、見たところそれほど疲労していない。
 先ほどの全力疾走を含めて考えるに、体力はある方なのだろう。

「よかったら、お昼ごはん、一緒に食べない?」

 持ちかけられた誘いに、刹那は首を縦に振る。
 本来、ELSと同化した刹那に食事と言う行為は必要ないが、一応周囲には人間として通してあるのだ。
 昼食時に何も食べずにいると言うのも不自然極まりないため、形式上の食事を取ってはいる。

「それじゃあ、屋上でいいかな」
「あの……私も混ぜてもらって、よろしいでしょうか?」

 場所の検討を始めるシャルルへ、声をかけたのは、

「セシリアか」
「その、迷惑でしたら……」
「ううん、そんなことないよ。一緒に食べよう」

 おずおずと申し出るセシリアに、シャルルは柔らかい笑顔を見せた。
 さて、セシリアと刹那との距離は、あのクラス代表を決める戦い以来、確実に近づいていると言ってもいい。
 加えて、対話を第一に望む刹那からすれば、自身の立場はともかくとして、シャルルとも親しくしたいところである。
 この機会を逃すわけにはいかなかった。





「いい天気だね。晴れててよかった」
「ええ。私、雨はあまり好きではありませんもの。湿度は低すぎてもいけませんが、高すぎると、髪も痛んでしまいますし」
「ああ、そうだよね。僕も……いや、女の人は大変だろうね、そういうの」
(……やはり)
≪ああ。怪しくはある≫

 シャルルの言動に注目しつつ、一行は食事を取っていた。
 それはあくまでティエリアの疑念を明らかにするためであり、そこに他意はないことをここに記しておく。

 刹那の視線がシャルルに向いていることに気づいたのか、
 セシリアは小さく咳払いをしてから、

「刹那さん、その、私今朝偶然早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの」

 背に隠していたバスケットを両手に持ち、そっと刹那に差し出す。

「イギリスは、料理が評価されていない傾向がありますから……
 せっかくですし、本当はどうなのか、刹那さんにも確かめてもらおうと思いまして」

 中に詰まっていたのは、イギリスが生み出した世界的に有名な料理、サンドイッチだった。
 見た目にも鮮やかであり、色合いやバランスは充分及第点、あるいはそれ以上だろう。

「デュノアさんもどうぞ」
「わぁ、ありがとう」

 刹那とシャルルが、それぞれ一つずつサンドイッチを手に取る。

「頂きます」
「いただきます」

 そのままごく自然な流れで、口に運び。

 シャルルの顔が、青くなった。
 刹那は自身の傍に置いておいたペットボトルのお茶を、キャップを外してシャルルに手渡す。

 シャルルは咄嗟にそれを受け取って、口内に水を流し込んだ。
 傍目にもわかるほどの喉の動きが数回繰り返され、何度か咳き込みつつも、シャルルはペットボトルから口を離す。

「デュノアさん、大丈夫ですか?」
「うっ、うん、喉に詰まっちゃったみたい。あ、あは、ははは……」

 笑いを振りまいて、シャルルはこの場を誤魔化そうとする。
 ともあれ、セシリアの本命は刹那。
 当の本人は、未だ食べている途中。咀嚼を繰り返し、よく噛んでから、飲み込む。

「……いかが?」
「……美味い」

 刹那は微笑んで、セシリアに返した。
 シャルルが驚愕の目を向け、セシリアは喜びの視線を贈る。

 さて、こう言ってはなんだが、セシリアの料理はお世辞にも上手くない。
 むしろ、一般的な味覚からすれば不味いと言っても差し支えないレベルであった。

 しかし、刹那は元少年兵。泥を食み、雨水を啜って生きてきた男である。
 一般人と比べ、‘下限’が突き抜けているのだ。

 その上、刹那はELS。舌まで金属と化している。
 さて、味覚や痛覚と言った五感、中でも痛みや不味いなどの感覚は、‘生命の危機’に密接に関連している。
 痛覚と言うのは、言わば命を保持するための危険信号なのだ。
 痛覚の一種でもある味覚。
 その中の不味い――――言うなれば臭い、苦い、気持ち悪い、などは、基本的に人間にとって悪影響を及ぼすものから発せられる味である
 (それを逆手に取り、甘い匂いを漂わせることで他の生物を引き寄せ寄生する虫や、
  苦み成分を実に含ませることで食べられるのを避けようとする植物などもあるが)。

 ELSとなったことで死から遠ざかった刹那は、味覚と言う瑣末な衝撃程度で命の危険を感じるほどヤワではないのだ。
 故に、セシリアの料理に対し、何ら脅威を検出しなかったのである。

 そんな事情もあって、刹那はセシリアの作ったサンドイッチを堪能していた。

「どんどん召し上がってくださって、かまいませんのよ」

 心底嬉しそうな表情を浮かべながら、セシリアは再びバスケットを差し出す。
 期待に応える意図があったのかはわからないが、刹那は手に持ったサンドイッチを食べきってから、バスケットへ手を伸ばした。

 刹那にとっては久々の、楽しいランチタイムであった。
 隣で、シャルルは笑みを保ち続けていたが。
 ……そこに苦笑いが混じっていたことは、記さずともわかることだろうが。


≪……刹那、僕の言葉を忘れていないか?≫
(……次の機会はすぐに来る)
≪…………≫
(…………すまない)





 午後の授業を消化し、HRを終え、刹那はISの操縦訓練を行うべく、いつもの場所へ向かおうとしていた。

「刹那」

 呼び止められて、刹那は振り返る。
 視線を下げて、己より頭一つは低いだろう身長の持ち主、シャルル・デュノアを見つけ、刹那は何の用かと問い返した。

「どこかに行くの?」
「ああ。ISの操縦訓練にな」
「そう言えば、いつも放課後に特訓してるって聞いたけど」
「俺の腕は、他のパイロットに比べて劣っている。
 その差を、少しでも埋めなければならない」

 無論、それは自己顕示欲や個人の欲求から来るものではなく、あくまで元の地球へ帰還する上での手段だが。
 それを知る由もないであろうシャルルは、

「僕も、加わっていいかな? 専用機もあるから、役に立てると思うんだ」

 キラキラと少年のように――事実少年だが――目を輝かせ、刹那に問いかけた。
 好意的に接してくれるのならば、それに越したことはない。むしろ願ってもないことである。
 刹那は、シャルルに向け首肯した。

「ああ。頼む」
「うん。任せて」

 シャルルは、柔和な笑みを見せる。

≪…………≫

 その笑顔に、やはりティエリアはどこか引っかかるものを感じていた。





「えっとぉ……きょ、今日も、嬉しいお知らせがあります」

 やや困惑した様子で、真耶は教壇に立っていた。

「また一人、クラスにお友達が増えました」

 ――――転入生が、いやに多い。何故この時期に? 刹那は、訝しまずにいられなかった。
 自分が転入生であるから、と言う事情もあるが、いかんせん、刹那を第一号として、続々と着任者が増えている。
 そして、その全てが、代表候補生、一流ISメーカーの息子など、大きなポストについている人間だ。

 刹那の思案を後に、真耶は続ける。

「ドイツから来た転校生の、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです」

 背中まである長い銀髪に、左目につけられた黒いアイパッチ。
 肌は健康的でないまでの白さを保っているが、その儚げな容貌と違い、どこか近寄りがたい雰囲気をかもし出している。

「どういうこと?」
「二日連続で転校生だなんて……」
「いくらなんでも変じゃない?」

 流石に、生徒達も違和感を覚えているらしい。
 ざわめき出した教室に、真耶は焦りつつも、話をまとめにかかる。

「皆さん、お静かに! まだ自己紹介が終わってませんから……!」
「挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」

 千冬の指示に、転入生の少女――――ラウラは返答した。

 ……教官。軍との戦争を経験した刹那はともかく、ISを動かせるだけの一般人しかいないこの学園では、なかなか耳にしない単語であった。
 それを突っ込む暇もなく、ラウラはぱっと教室の中心へ向き直り、

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 それだけ、言った。
 皆、黙る。何か続けるのだろうと思って、黙る。
 その牽制合戦が、数秒間続いた。

「あの……以上、ですか?」

 沈黙に耐え切れなくなったのか、真耶がラウラに質問をなげかける。

「以上だ」

 きっぱりと言い切って、ラウラは視線を滑らせた。
 捉えたのは、刹那・F・セイエイ。
 敵意をむき出しにしたその目に、刹那は自然と警戒体勢に入る。

「貴様が……」

 彼女にしか聞こえない程度の音量で呟き、ラウラは歩を進める。
 そのまま、刹那の席までたどり着くと、


 思いっきり、右の手の甲でビンタした。


 刹那の頬へ、殴られた感覚が走る。

 だが、それだけだ。痛くはない。腫れもしない。

 繰り返し言うが、刹那はELSである。
 即ち、肌も、骨も、血液も金属なのである。
 それも、MSの装甲すら再現できるような、硬質の。

 そして、刹那は普段、肉体の硬度を一般的な人間と同じぐらいに調整してある。
 肩を叩かれたり、頬を突っつかれたりする際に、やたら硬かったら訝しまれてしまい、困るためだ。

 しかし、刹那は警戒態勢に入っていた。
 戦闘状態とほぼイコールであるその状態は、即ち、肉体の硬度を引き上げている状態である。

 そのため、結果的に、ラウラは金属塊へビンタを見舞った形になった。
 直立不動、立っていないが、ビンタをくらったところでピクリともしない刹那は、自分から立ち上がり、

「……すまない、手は大丈夫か?」

 いきなり攻撃してきた相手の心配までやってのけた。

「……いや刹那さん、まずはいきなりの態度の説明から求めるべきではありませんの?」

 セシリアが突っ込みに入るものの、ラウラは動かない。
 刹那を睨みつけながら、左腕で自ら右の手首を支え、

「……私は認めない。貴様があの人の‘特別'であるなど……」

 敵対の意思の表れとして、目を細める。

「認めるものか!」





 そんなわけで、一日中親の仇を見るような目で見られながら、刹那は授業をやりすごした。
 刹那がそうされるだけのことをしてきたのは、事実であるが。

 ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして、戦場に武力介入し。
 殺した。

 アロウズの悪逆を正すため、邪魔をする者を切り伏せ。
 殺した。

 イノベイドを相手取り、世界の歪みを断ち切るために。
 殺した。

 悪鬼の所業である。
 それから逃げるつもりは毛頭ない。憎まれて当然だ。その憎しみを、刹那は受けるべきなのだ。

 だが。

『……私は認めない。貴様があの人の‘特別'であるなど……』
『認めるものか!』

 ラウラ・ボーデヴィッヒの、あの物言い。
 刹那自身が原因であることは確かなようだが、
 しかし、その憎しみは刹那を特別と称した人間と言う外的要因があって始めて成立するもの。

 刹那自身を特別と言ってくれた者は、確かにいる。
 刹那に変革の意思を託した、ニール・ディランディ。
 家族として、男性として刹那を求めた、フェルト・グレイス。
 対話の末にわかえりあえた、運命の人、マリナ・イスマイール。

 思いつくのはこのあたりであるが、しかし、上に挙げたメンバーの中で、
 ラウラと関わりを持っている人間はいないと言っていい。

 故人であり、例え肉親であろうともガンダムマイスターであることを隠し通さなければならないニール・ディランディは言わずもがな、
 もしフェルトやマリナの知り合いだとしても、
 彼女らの友人――あるいは、それに順ずる関係の人物――が説明もなしに初対面の人間をひっ叩くことをするだろうか?

 どうにも考えがたいが、しかし、今ここで悩んでいても答えは出ない。
 本人に直接問いただす方が早いか。
 そう考えた刹那は、最後の時間割終了と同時に動き出すものの、

「…………」

 ラウラは刹那を一瞥すると、鼻を鳴らし、足音を立てることにすら何ら頓着していない様子で、つかつかと退室していった。
 呼び止める選択肢もあったが、あの敵意に満ちた瞳から推察するに、どうせ口をきいてはくれないだろう。
 無意識に気落ちしてしまった刹那に声をかけたのは、

「ねえ、刹那」
「シャルル?」
「放課後、ちょっと相手してくれる? エクシアと戦ってみたいんだ」





「じゃあ行くよ、刹那」
「ああ」

 アリーナで向かい合う、刹那とシャルル。
 青と白の二色で彩られた刹那のエクシアと、
 オレンジのカラーリングが施されたシャルルのラファール・リヴァイヴ・カスタムIIは、暖色・寒色の差により丁度良く対比になっている。

 先手を打ったのは、刹那のエクシア。
 GNドライヴの出力を頼りに、GNソードを前方へ突き出す体勢で突撃。
 それに応えるように、シャルルも刹那に吶喊。

 自然、激突。
 体を傾けることでGNソードの刺突を防いだシャルル。

 しかし、刹那の攻勢は途切れない。
 そのまま、GNソードを半回転させ、垂直に振り下ろす。
 剣の進行方向上にあるのは、シャルルの首に他ならない。

 シャルルとて、そう簡単にさせてはやらぬ。
 左腕に装着された盾を、GNソードに覆われていない刹那の腕にかち当て、上方へと押し上げる。

 GNソードごと、刹那の右腕が天を指す形になる。
 これは好機と、シャルルは右腕に握り締めた手甲で、ガラ空きの腹へ拳を叩き込む。

 だが、攻撃を凌がれることは覚悟の上。
 左腕でGNロングブレイドを抜刀し、カウンターの形で反撃を狙う。

 刹那が対策を練っていたことを悟ると、シャルルは攻撃を中止。
 スラスターを吹かし、上空へと退避。

 この機を逃すまい、GNロングブレイドを納刀し、刹那が後を追う。
 自機の後方へ刹那が食いついていることを確認すると、シャルルはシールドと手甲を収納し、五五口径アサルトライフル――――ヴェントを呼び出す。

 これこそ、シャルル・デュノアの真骨頂。
 大容量の拡張領域を活用し、リアルタイムで武器を持ち替えつつ自身の有利を保つ独自の戦法、高速切替(ラピッド・スイッチ)。
 純粋なスペックで第三世代ISに劣る、と言う短所を丸々潰せるほどの高等技術である。

 自らへ突撃してくる刹那へ銃口を向け、シャルルはアサルトライフルの引き金を絞った。
 実体弾が、まっすぐに刹那へ迫る。

 しかし、迎撃を受けることなど百も承知だ。
 刹那は敵の射角から外れるべく、GNショートブレイドを抜刀、空中で円を描くように進路を取り、シャルルの後方へ回り込む。

 そうはさせない。
 刹那を近づかせないよう、シャルルは振り返り、

 背中から、斬撃を受けた。

 何事か、と損害状況を確認すると、背中に敵機の武器が突き刺さっている。
 その正体は、先ほど刹那が抜刀したGNショートブレイド。

 GNショートブレイドを投擲してから、相手の視線を釘付けにするために大仰な軌道を描き、不意打ちを確実に成功させるための策。
 シャルルが状況把握に気を取られている隙に、刹那はシャルルに接近。

 離されていた距離を詰め、二丁のGNビームソードを手に持ち、交差させシャルルの機体へ×の字を掘り込む。

「くぅっ……!」

 攻撃を受けながら、シャルルはヴェントを刹那の胸部に密着させ、発砲。
 刹那がのけぞっている間に、バックブーストで仕切りなおしに持ち込む。

 取り出したのは、ISに適応する程度に大きさを違えたライフル。
 後方へ移動しながら、敵機進路を予測し弾幕を張る。

 刹那としても、これをくらってやるわけにはいかない。
 無規則な機動で空を駆け、確実にシャルルへ接近していく。

 目測で、十メートル。ここは、刹那の距離だ。
 もはや、シャルルに勝ち目はない……しかし、彼の表情に、諦めの色はない。
 むしろ、余裕の笑みでもって、刹那を迎え入れていた。
 ここまで近づけば無用の長物とばかりに、シャルルはアサルトライフルからシールドへ装備を変更。

 刹那のGNソードが、シャルルへ向かい。
 シャルルのシールドが、刹那を捉え。



 どちらも、寸止めの状態を保っていた。





「やっぱり、近距離の読み合いじゃ刹那には勝てないね。もっと練習しなきゃ」
「だが、武器の取り回しではシャルルが勝っている。今の勝負、続けていたらわからなかった」

 模擬戦を終えて、刹那とシャルルは品評会を行っていた。
 互いに感想を言い合って、悪所を発見し、正す。長所を見つけ、伸ばす。
 一人でただ基礎訓練を続けるより、ずっと効率的な方法だった。

「じゃあ、次は――――」
「ねえ、ちょっとあれ……!」
「もしかして……」

 シャルの言葉を上塗りする形で、アリーナの女生徒が好奇の声をあげた。
 それに釣られて、二人が視線を上方へ向ける。

 そこには、ISがあった。
 黒一色で固められた外部装甲、
 随所が尖った頑強なフォルム、
 巨大な後翅のごときブースター。

 操縦者は、そのISのイメージといやにマッチしていた。

 ――――ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 その明確な敵意は未だ衰えることなく、冷たい眼光を刹那へ浴びせている。

「嘘、ドイツの第三世代じゃない……!」
「まだ本国でもトライアル段階だって聞いていたけど……」
「刹那・F・セイエイ……」

 野次馬をものともせず、ラウラは刹那の名を呼んだ。
 不思議と、よく通る声だった。そこに、好意的な感情は一切見受けられなかったが。

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「貴様も専用機持ちだそうだな……ならば話は早い。私と戦え」
「断る」

 高圧的なラウラの命令に、刹那は背いた。

「俺たちは、対話によってわかりあえるはずだ。
 ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前が何故俺を厭うのかは知らない。
 だからこそ、俺たちはわかりあわなければならない。戦いではなく、対話によって」
「貴様がどう思っていようが、私には関係ない。
 ……戦え」
「……何が望みだ。
 お前はその戦いの先に、何を見出している。その果てで、何を得ようとしている」
「答えてやる義理はない」
「ならば、戦えない。戦いには理由が伴わなければならない。
 破壊するだけの戦いは、世界を歪めるだけだ」

 互いに、一歩も引かない。
 各々が、自らの意思に矜持を持っているのだ。曲げられるわけがない。

「……ならば」

 不意に、ラウラが肩のレールカノンを始動させる。
 ISには不釣合いなほどの大口径を誇る兵装の矛先が向いているのは――――怨敵、刹那・F・セイエイ。

「刹那!」

 シールドを展開し、シャルルが刹那の眼前に飛び出した。
 堅牢な城壁に阻まれ、弾丸は明後日の方向へ突き抜ける。

 拳銃の十倍はあるだろうか、まるでドラム缶のような薬きょうが、無造作に地面に転がった。

「シャルル!」
「いきなり戦いを仕掛けるなんて……ドイツの人は随分沸点が低いんだね!」

 言葉の端に怒りを滲ませながら、シャルルは引っ張り出した六一口径アサルトカノン、ガルムの銃口をラウラに突きつけた。

「フランスの第二世代型ごときで、私の前に立ち塞がるとはな」
「未だに量産化の目処が立たない、ドイツの第三世代型よりは動けるだろうからね……!」
「……」

 今度はシャルルを睨みつけ、ラウラは感情を昂らせる。
 シャルルの言はまさしく事実なのだろうが、
 敵対者に味方する者の言葉に「はいそうですか」と納得するような性格をしていないだろうことは、付き合いの短い刹那にもわかることだ。

『そこの生徒! 何をやっている!』
「……ふん。今日のところは退いてやろう」

 拡声器越しに伝えられた教員の声に、ラウラは害意を隠さないままISを解除。
 最後に刹那へ鋭い眼光を飛ばしてから、きびすを返した。





 アリーナ、更衣室。
 腑に落ちないと言った顔でベンチに腰を下ろし、刹那は深く考え込んでいた。
 その内容はもちろん、ラウラ・ボーデヴィッヒに関することである。

 個人的な怨恨があるとは言え、ラウラは刹那に向け引き金を引いた。
 ――――殺すつもりだったのである。
 あの悪感情を詰め込んだような目の中には、殺意すら混じっていたのだ。

(……あのような子供が、殺意を……)

 ソレスタルビーイングは、世界の憎まれ者だった組織。
 当然、蔑視され、石を投げられ、避難されるのが相応しい対応である。
 だがしかし、未だ十五、十六の子供が、刹那に復讐を誓っている事実は、決して認可できない話だった。

(彼女もまた、俺たちに……俺によって歪められたというのか……?)

 されど、彼女はこの‘IS世界’の人間。
 刹那が行ってきた非道を、そして救いを、彼女が知り得ているとは思えない。
 加えて、刹那の過去の行いを把握しているのは、千冬と真耶、それから学園の上層部程度である。
 生徒の一人が、そう易々と手を出せる領域ではあるまい。

(だとするなら、原因はこの学園に訪れてからの俺の行動……)
「刹那……大丈夫?」

 終わらない思考の連鎖を断ち切るように、同じように着替えに来たシャルルが声をかける。

「ああ……先ほどは助けられた。礼を言う」
「…………」

 刹那の言葉に、何か得心のいかない点でもあったのか、シャルルはIS用のアンダーウェアの上から上着を羽織り、

「じゃあ……僕は、先に部屋に戻るね」
「わかった」

 ぱたぱたと走り去って、廊下へと出て行く。
 何やら妙な格好だが、他人のセンスに口出しするほど、刹那は無遠慮な男ではない。

≪……段々と証拠が揃ってきているな、刹那≫
(ああ。だが、例えそうだとしても、本人が打ち明けるまで待つべきだろう。それ相応の理由があるはずだ)
≪……変わったな、君も≫
(ティエリアもそうだ)

 会話をかわしながら、刹那は床に何か光るものが落ちていることに気づいた。
 拾い上げ、観察してみる。
 シャルルが着用していたアクセサリーだろうか。彼のISと同じ、オレンジ色で染められている。

 落し物か。そう判断した刹那は、シャルルに届けに行かなければと、それをポケットにしまいこんだ。





 時分は放課後。
 寮へ戻る道を歩きながら、刹那はラウラの言動を思い返していた。

『……私は認めない。貴様があの人の‘特別'であるなど……』
『認めるものか!』

 叩かれた頬が、痛む気がする。
 彼女が抱えたあの悪意は、一体。

「答えてください教官! 何故こんなところで……!」
「何度も言わせるな。
 私には私の役目がある……それだけだ」

 聞き覚えのある声に、刹那ははっと音源を探る。
 イノベイターの空間把握能力は、常人を簡単に上回るのだ。

 秒と経たず、見つける。
 後姿でわかる、あれは千冬とラウラだろう。

 盗み聞きをすることに若干の後ろめたさを覚えないでもないが、もしこれで今の状況が改善されるなら。
 二人から死角になるような場所へ移動し、刹那は耳をそばだてた。

「こんな極東の地で、何の役目があると言うのですか!
 お願いです、教官! 我がドイツで、再びご指導を!」

 熱くなっているのか、ラウラはいつになく饒舌だ。

「ここでは貴方の能力は、半分も活かされません!」
「……ほう」
「だいたい、この学園の生徒など、教官が教えるに足る人間ではありません!
 危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている!
 そのような者たちに、教官が時間を割かれるなど……!」
「……そこまでにしておけよ、この小娘が」
「あ…………」
「少し見ない間に、偉くなったな。
 十五歳でもう選ばれた人間気取りとは、恐れ入る」

 ヒートアップしているラウラに対して、冷めた様子で返答する千冬。
 どうやら、ラウラは千冬に対して執着があるらしい。

「わ、私は……!」
「寮に戻れ。私は忙しい」
「……くっ……!」

 ドライな千冬の言葉に、ラウラは歯を食いしばって、走り出した。 
 去っていくラウラを見ようともせず、千冬は黙ったまま正面を見つめている。
 それからやや経って、千冬は声を上げた。

「……そこの男子。盗み聞きか? 異常性癖は感心しないぞ」

 プロフェッショナルとして教育を受けた刹那の潜伏を見抜くとは、中々侮れない女傑だ。
 気づかれていたのなら仕方が無いと、刹那は素直に姿を見せる。

「……すまない」
「下らんことをしている暇があったら、自主訓練でもしろ。
 このままでは、月末のトーナメントで、初戦敗退だぞ」
「……ああ、わかっている」
「そうか。ならいい」

 刹那に一瞥をくれて、千冬は背を見せた。
 ――――いつもの覇気がない。
 きっと、ラウラとは浅からぬ縁があるのだろう。
 ならば、赤の他人である刹那が踏込むべきではない。

 千冬を見送って、刹那はもう一度寮へと足を向けた。





 ――――IS学園、寮の一棟。
 シャルルも、刹那と同じく一人一部屋である。
 男性独自の措置と取れなくもないが、シャルルと同時に生活していては、監視がやりづらくなることが要因だろう。
 いざ隠密に事を運ぶ際、同居人が居ては面倒なことになるためだ。

 扉をスライドさせ、刹那はシャルルの部屋に足を踏み入れる。

「シャルル」

 名前を呼んでも、返事はない。
 奥から聞こえてくる水音から、おそらくアリーナですませなかったシャワーを浴びているのだろう、と刹那はあたりをつけた。

 ならば、部屋で待たせてもらおう。
 肌身離さず身に着けていたぐらいなのだから、きっと大切なものなのだ。
 ならば、明日でいいや、などと適当な結論には至れなかった。

 刹那が部屋に到着してから一分と経たず、水が止む。
 きっと、シャワーを終えたのだろう。
 いくらか布擦れの音がしてから、ドアが開いた。
 ポケットから目的のものを取り出して、刹那はシャルルが出てくるのを待ち。

「……え?」
「…………」
≪……やはりか≫

 体にバスタオルを巻いただけの格好の女の子が洗面所から出てきて、しばらくの間言葉を失った。





 長い髪は束ねられておらずストレートに、白い肌に華奢な手足、
 そして女性特有の腰のくびれと、その上に位置する豊満な双丘。

 予想はしていたとは言え、まさかその通りだったとは、刹那も思わなかった。
 じろじろ見ているわけにもいかず、刹那は手近な机にオレンジ色のロケットを置くと、さかさかと退室していく。

「あっ、まっ、待って!」

 シャルルが、刹那を呼び止めた。
 その声は、同じ。しかし、体は違う。

 まさか、ここであなたはシャルルの妹さんですか、と問いかけるほど、刹那は間が抜けていなかった。
 何より、的を射ていたティエリアの予測のおかげで、心の準備が出来ていたのも大きい。

 さて、ティエリアは過去に女装したことがある。
 連邦主催のパーティに、赤いドレスを着用して、単身アウェーへと飛び込んだのだ。

 その時の経験が活きたのか、ティエリアはシャルルにとある疑念を抱いていた。
 彼は、性別を偽っているのではないか、と。
 違う性別の真似をするのは、なかなか難しいものである。不慣れであれば、すぐにボロが出るものだ。
 そして、ティエリアはその破綻を見逃さなかった。
 シャルルが撒いた種を、ティエリアは一つ残さず拾っていたのである。

 だが、性別を隠すのには相応の理由が伴うものだ。
 プライバシーに関わる問題だとしたら、刹那も強引に暴くようなことはできなかった。

「……すまない」
「謝らなくていいよ……隠していたのは、僕なんだから……」
「……ああ。それよりシャルル、服を……」
「えっ? あっ、わわっ!」
「……外に出ている。終わったら呼んでくれ」

 刹那は部屋の外へ出て行った。





 着替え終わったらしいシャルルに呼ばれて、刹那は二つあるベッドの一つに腰かけていた。
 対面のベッドには、同じようにちょこんとシャルルが座っている。

「……答えにくかったら、黙っていて構わない。
 理由を、聞かせてもらえるか」
「……実家から、そうしろって言われて」
「実家……デュノア社か?」
「そう。僕の父はそこの社長……その人から直接の命令でね」
「…………」
「……僕はね、刹那。父の本妻の子じゃないんだよ」

 自身の罪を白状するように、シャルルはぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。

「父とは、ずっと別々に暮らしてたんだけど……二年前に引き取られたんだ。
 そう……お母さんが亡くなった時、デュノアの家の人が迎えに来てね」
「…………」

 母。その言葉に、刹那の胸がずきりと痛んだ。

「それで、色々検査を受ける過程でね。
 IS適正が高いことがわかって……で、非公式ではあったけれど、テストパイロットをやることになってね。
 ……でも、父に合ったのはたったの二回だけ。話をした時間は、一時間にも満たないかな」
「…………」
「その後のことだよ……経営危機に陥ったんだ」
「デュノア社が?」

 デュノア社には、量産型ISのシェア第三位を誇る実績がある。
 そのような有名企業が、倒産の危機に晒されるなど考え難い話であった。
 それに補足するように、シャルルは続けた。

「結局、リヴァイヴは第二世代型なんだよ。
 現在ISの研究は、第三世代型の開発が主流になってるんだ。
 セシリアさんやラウラさんが転入してきたのも、そのためのデータを取る必要からだと思う。
 デュノア社(あそこ)も、第三世代型の開発に直視はしてるんだけど……なかなか形にならなくて。
 このままだと、開発許可が剥奪されてしまうんだ」
「そのための性別詐称……つまりはプロパガンダか」

 やはり、男性IS操縦者のネームバリューには多大なものがある。
 身元すら定かでない異星人を招き入れるほどなのだ、そこに純粋な人間の男性IS操縦者が現れれば、興味を引かれるのは当然であろう。

「それに、同じ男子なら、日本に出現した特異ケースと接触しやすい……
 その使用機体と本人のデータも取れるかも、って」

 特異ケース。なるほど、ELSを介してISを動かす仕組みは、おそらく世界的に二つとない操縦系統である。
 加えて、GNドライヴや自由な形態移行など、他のISとは一線を画す技術がこれでもかと積み込まれているのだ。
 そう呼称されるのも、当然と言えた。

「そう、君のデータを盗んで来い、って言われてるんだよ。
 ……僕は、あの人にね」
「…………」

 この空気に耐え切れなくなったのか、シャルルは吐息をこぼして、

「……自分勝手だけど、本当のこと話したら、楽になったよ。
 ……聞いてくれてありがとう。今まで嘘をついていて、ごめん」
「気にするな、俺は気にしない。
 ……お前は、これからどうする気だ」
「どう、って……」

 シャルルは、視線を組んだ手元に落とし、

「女だってことがばれたから、きっと、本国に呼び戻されるだろうね。
 ……後の事はわからない……良くて牢屋行きかな」
「お前は、そうしたいのか」
「…………そうしなきゃ、いけないよ」
「もう一度言う。お前は、そうしたいのか」
「…………」

 シャルルは、黙り込んだ。その沈黙は、即ち否――――否定である。

「ならば、お前はここに居ろ」
「えっ……」
「俺が黙っていればすむことだ」
「でも……」
「安心しろ。
 真実が露見しても、この学園に居る限りは、お前をどうこうすることは出来ない」
「……どうして?」
「IS学園特記事項……『本学園における生徒は、その在学中において、ありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない』」

 生徒手帳の内容を暗記している刹那は、文章をそらんじた。
 要約すると、IS学園に在学している間、シャルルに手を出すことは出来ないのだ。
 もっとも、その三年間に限られるが。

「期限はある……だが、その間は自由だ。三年間の中で、方法を模索すればいい」
「…………」
「……ないのなら見つける。なくても見つけ出す」

 刹那の言に、シャルロットは小さく笑った。

「それ、無茶だよ……でも、よく覚えてたね。特記事項なんて五十五個もあるのに」
「ああ……友人のおかげだ」
(ありがとう……ティエリア)
≪礼を言われることじゃない≫

 その友人とは、ティエリア・アーデのことである。
 シャルルの男装をいち早く見抜いたティエリアは、そのことに関する条項を見つけ出し、完璧に把握していたのだ。
 当のティエリア本人は、感謝されることではないとばかりのポーカーフェイスだが。

「……刹那。かばってくれて、ありがとう」
「気にするな」
「俺は気にしない……って?」
「ああ」

 刹那が微笑むのに応えるように、シャルルは、笑った。





 そこへ、

 コンコン、と、ノックの音。

「敵襲……! シャルル、ベッドへ」
「わ、わかった!」
≪……少なくとも、敵ではないと思うが≫

 体を隠すべく、流れるような動きでシャルルはベッドにもぐりこみ、布団をひっかぶる。

「デュノアさん? いらっしゃいますか?」

 ドア越しのくぐもった声の主は、セシリア・オルコットだろう。

「夕食をまだ取られていないようですけれど、お加減でも悪いのですか?
 もしお忘れでしたら、私もまだですので、一緒にどうかと思いまして……
 ……デュノアさん? 入りますわよ?」

 ゆっくりと、部屋の扉が開いた。
 それに遅れて、セシリアが部屋に入ってくる。

「あら……刹那さん? 部屋を空けていると思ったら……何をしていますの?」
「シャルルが体調を崩したようだ……アリーナの時からおかしいと思ってはいたが、どうやら風邪を引いたらしい」
「ごほっ、ごほごほっ」

 あくまでいつも通りの冷静な刹那に対し、シャルルのそれは演技過剰だ。
 内心冷や汗をたらす刹那だが、セシリアは違和感を覚えてはいない様子で、

「それはお気の毒ですわね……何かお持ちしましょうか?」
「それは俺が受け持とう。同じ男性同士だ」
「そうですか?」
「うっ、うん、僕はいいから、二人で行ってきてよ。うつしちゃったら悪いし」
「刹那さんも?」
「ああ、まだすませていない」
「では、ご一緒に……」
「了解した」

 ほぅ、とセシリアは息を漏らすと、無理にシャルルを連れて行っても悪いと言う結論に行き着いたのか、

「では、刹那さんをお連れしてもよろしいですか?」
「どっ、どうぞ、ごゆっくり」
「では、参りましょう」

 刹那の手を引いて、部屋から出て行った。





「すまない、シャルル。遅れてしまった」
「ううん、気にしないで」

 トレーを手に、刹那は再びシャルルの部屋に足を踏み入れる。
 机に置くと、シャルルは着席しながら献立を確認し、

「うっ……」

 小さくうめき声を漏らした。

「何か食べられないものでもあったか?」
「いっ、いや、大丈夫……」

 明らかに大丈夫でない震えた声で返答すると、シャルルは割り箸を手に取り、左右に割る。
 明らかに大丈夫でない割れ方をした割り箸を震えた手で持ちながら、
 明らかに大丈夫でない動きでおかずをつっつこうとして、

「……箸が苦手なのか」
「練習しては、いるんだけどね……」
「気遣いが足りなかったな。フォークをもらってくる」
「うぇっ? いや、いいよ、そんな」
「……シャルル。お前はもう少し、他人に甘えることを覚えたほうがいい。
 人を頼ることは、信頼関係の表れだ」
「…………」

 刹那の言葉に、シャルルはもじもじと体を揺らしながら口をつぐんだ。
 それから、口にしづらいのか、何度かどもりながらも、遠慮がちに、

「じゃっ、じゃあね……」
「?」
「刹那が、食べさせて」
「了解した」
「えっ? い、いいの?」
「問題は無い」

 即答した刹那は、シャルルから箸を受け取って、焼き魚をほぐしていく。
 ELSには、日本人のパイロットも取り込まれていたのだ。
 ELSは一個体にして複数個体。知識の共有も、簡単に行える。

 差し出された箸に、シャルルはゆっくりと顔を近づけた。
 そのまま口を開いて、銜えるように口に含む。
 よく噛んでから、飲み下す。

「どうだ?」
「うん、美味しいよ」
「次は何がいい?」
「ごはんがいい、かな」

 シャルルの答えに、刹那は器用に箸を操る。
 何の苦もなく白米を挟むと、シャルルに向け運んでやる。
 シャルルが口の中へ食物を迎え入れる時、唇の横に米粒がついたようだ。

「シャルル、ご飯粒が付いていている」
「えっと……取って?」
「わかった」

 手で、そっとシャルルの頬に触れる。
 そのまま、逡巡する様子もなしに、刹那は指を銜え、米粒を自身の口内へ招き入れる。

「あ……」
「どうした?」
「うっ、ううん、なんでもない……」

 何やら顔を赤らめるシャルルに、刹那は、ああそういうことかと納得しつつも、作業を続けた。

(……餌付けのようだな)
≪…………≫

 全くデリカシーのない思考に、ティエリアは思わず閉口する。
 この男、実年齢は七十三歳。思春期を戦場で過ごしたことで、その翼は存分に殺されていたのであった。





 日が沈み、月が顔を出す頃。
 アリーナの二階に上り、ラウラは一人空を眺めていた。

「教官……貴方の完全無比な強さこそ、私の目標であり、存在理由……」

 その言葉は、彼女の教官――――即ち千冬へと宛てたものである。
 だがしかし、この場に千冬の姿は見えない。

「刹那・F・セイエイ……いや、ガンダム……!」 

 呟く、憎むべき男の名前。
 歯噛みしながら、ラウラは後頭部へ手を回し、アイパッチを外す。

「……教官に汚点を与えた張本人……排除する」

 外気に晒される、瞳。
 闇夜を拒む、金の虹彩。
 イノベイターと、同じ色の。

「どのような手段を使ってでも……!」

 ラウラは、月夜に咆えた。





 一日が経っての放課後、肩を並べて刹那とシャルルは廊下を歩いていた。

「刹那、今日も特訓、するよね?」
「ああ。努力を怠れば、いずれ結果に現れてくる」
「第三アリーナで、代表候補生三人が模擬戦やってるって!」

 そこに、突然飛び込んでくる報せ。
 耳を疑うようなその話の真偽を、確かめる必要があった。 

「刹那」
「ああ、急ぐぞ」





 第三アリーナの観覧席に到着した二名は、目に飛び込んできた光景に、目を疑った。
 ISを装着したセシリアと鈴音が、一機のISの前で倒れ伏しているのだ。
 その黒い装甲は――――

「シュヴァルツェア・レーゲン……! ラウラ・ボーデヴィッヒか……!」

 状況証拠は、これでもかと言わんばかりに揃っていた。
 もはや、疑う余地も無い。

 満身創痍の状態ながら、連結させた双天牙月を杖に鈴音が立ち上がる。
 直後、甲龍の肩に設置された穴から、目に見えぬ衝撃が発射された。

「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの、停止結界の前ではな!」

 口端を吊り上げ、ラウラは嘲笑と共に宣言。
 そのまま、ISの装甲に覆われた右腕を掲げる。
 虹色の膜がラウラの腕を中心に広がって行き、そこに接触した砲弾が爆ぜる。
 ラウラの眼前、三十センチ程前で、甲龍の取っておきは玉砕したのだ。

(GNフィールドではない……! あれは……!)
「AICだ……!」
「AIC?」

 聞きなれぬ単語を、刹那は聞き返す。
 一度頷いてから、シャルルは口を開いた。

「シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵器、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー……慣性停止能力だよ」

 ――――慣性停止能力。
 刹那には馴染みのない機能であるが、その名前から、大体の程度は知れた。
 おそらくは、シールドエネルギーを利用して力場を作成、その空間に接した物体の慣性を停止させてしまう能力。
 ビームであろうと実弾であろうと無効化できる、無敵の盾であろう。

 その城壁を貫く、あるいは迂回しない限り、勝ち目は無い。
 ならば、直線的な攻撃しか行えぬ甲龍では、相性の悪い相手と言えた。

 直接剣を交えた鈴音は、とっくにそのからくりに気づいているのだろう。
 打開策を練るべく、衝撃砲を低出力で連射。牽制しつつ、距離を取る。

 だが、それもラウラの予想の上。
 肩部装甲から分離したのは、小さな矢じりのような鋼鉄――――ペンデュラム。
 ワイヤー代わりに形を持ったエネルギーで肩と繋がったそれは、四つ共空中の鈴音を追う。

 鈴音も必死にかわしているが、ISの巨体で人間の手のひら大のそれを避け続けるのに無理が来た。
 右足へ、ヘビのごとくしなったワイヤーが巻きつけられる。

「ふん。この程度の仕上がりで第三世代兵器とは、笑わせる」

 戦闘ではなく、狩猟でもしているかのように力を抜いているラウラは、嘲りを含んだ笑いを投げかけた。

 しかし、一方もやられてばかりではない。

 その慢心を突くように、ビット、ブルー・ティアーズがシュヴァルツェア・レーゲンを囲う。
 一基一基に仕掛けられた銃口から、青白い閃光が放たれる。

 その攻撃すら見抜いていたのか、ラウラは地面を滑るように疾走。
 勢いを保ったまま、慣性を殺さずに上空へと移動する。

 ビームで追いきれぬのなら、誘導する兵器を使えばいい。
 そう考えたセシリアは、ブルー・ティアーズの腰に備え付けられた二基のミサイルを撃つ。

 自身を追跡するミサイルから逃れるべく、ラウラは大仰な軌道を描く。
 それこそ、セシリアの狙いであった。

 ラウラの移動先へ、ビットを待機させておいたのである。
 その事実を把握したラウラは、AICを起動。
 ビットの動きを止め、直撃を避ける。

「動きが止まりましたわね!」

 ライフルを構えながら、セシリアは告げた。
 そう、AICは多大な消耗をもたらす。高速で移動しながら使用できるものではないのだ。

 だが、ラウラがその弱点を補えないはずもなし。

「ふん。貴様もな」

 余裕の笑みを顔に貼り付けながら、ラウラはISに指示を下す。
 シュヴァルツェア・レーゲンの肩部装甲が、今度は横へスライド。
 刹那へ向け撃った、大型のレールカノンをセシリアへ放つ。

 スターライトmkⅢの光弾と、レールカノンの電磁弾がぶつかり合う。
 爆音と閃光に感覚を奪われつつ、ラウラはワイヤーを操作。
 その先にくくりつけられた甲龍が、釣られて動き。

 セシリアのブルー・ティアーズと激突、両者共々地面へ叩きつけられる。

 無様に転がる二機へ、ラウラは余裕の笑いを浮かべたまま接近。
 三メートルほどに距離を詰める。
 上空から見下ろしつつ、再びレールカノンを突きつけた。

 諦めるものか。
 鈴音が、衝撃砲へエネルギーを集め始める。

「甘いな。この状況でウェイトのある空間圧兵器を使うとは……」

 淡々と言葉を紡ぎながらも、ラウラはレールカノンの射撃準備を整えた。
 後はトリガーを引けば、二人まとめて始末できるだろう。

 だが、そうはいかない。
 その油断を活かし、セシリアが再びミサイルの発射口をラウラに向けた。

 ラウラの顔が、驚愕に染まる。
 しかし、逃げられぬ。

 この間合いで外すものか、セシリアはミサイルを撃ち出した。





 爆炎の中から、二人が姿を現す。
 手ひどい損傷を受けてはいるが、動けないほどではないようだ。

「この至近距離でミサイルだなんて……無茶するわねあんた」
「苦情は後で。でも、これなら確実にダメージは……」

 セシリアの言葉が、途切れた。
 吹いた風で、砂埃が掻き消える。
 その中から悠然と出現したシュヴァルツェア・レーゲンには、傷一つついていなかったのだ。

「……終わりか?」

 涼しい顔で、ラウラは手を組みながら問いかけた。

「ならば、私の番だ」

 肩部装甲が、パージ。
 ペンデュラムが、四つ、一斉に行動を開始する。

 そのうちの半数は、牽制。
 セシリアと鈴音の行動範囲を狭め、本命が、それぞれの首に巻きついた。

 ISのシールドを削るそれではなく、物理的な攻撃。
 呼吸をすることすらままならず、二人の動きが鈍る。

 それを、ラウラは見逃さない。
 急速で接近すると、両者に向け拳と蹴りの乱打を叩き込む。

 鈴音へ、加減の一切無い右ストレート。
 セシリアへ、サッカーボールを飛ばすような蹴り。

 軽量な機体故か、その一撃で転倒したセシリアを一度捨て置き、
 未だ倒れぬ鈴音へと左右のジャブ、右のアッパー、とどめとばかりにハイキック。

 苦悶の表情を見せる二人の機体の装甲が崩れ、それに合わせて赤枠の警告文がポップする。

 ――――警告
 ――――生命維持警告域通過

「ひどい……! あれじゃ、二人が……!」

 凄惨なその光景を目の当たりにして、シャルルが悲痛な声を上げる。
 確かに、客観的に見れば、あれはまさしく虐殺であった。
 圧倒的な暴力で、一方的に弱者をいたぶっている。

(同じだ……あの時と……)

 刹那の記憶が、よみがえった。
 彼が少年兵だった頃は、まさしく弱肉強食の世であったのだ。
 他人を謀り、裏切り、殺し、奪った。
 何かを得るために、何かを犠牲にして、生きてきた。

 その時と、同じだ。
 複数人で徒党を組み、殺す。
 弱者を狙い、なぶる。
 命乞いなど聞かず、悲鳴は無視して、罪悪感を飲み込み、奪いつくす。


 ならば、刹那・F・セイエイは何だ?
 何のために生きている? 刹那・F・セイエイが、成さなければならないことは?
 ――――世界の歪みを、断つことだ。


「エクシアを出す」
「刹那!?」
「シャルル、お前はここで待っていろ」

 シャルルに言い含め、刹那はISを展開。
 瞬きの間に、装着を終えた。

 観覧席とアリーナの間には、シールドが張ってある。
 エクシアの出力をもってすれば突破は可能だが、そうしては後々自らの首を絞めかねない。

(ティエリア、ここからアリーナへの最短経路は?)
≪今表示する。……これだ≫

 ティエリアの言葉に遅れて、モニターに地図が表示される。
 元々同じ施設内だ、出入り口の間隔はそう長くない。
 マップを頼りに非常用の避難口を渡れば、時間の短縮が図れるはずだ。

 GNドライヴから、粒子が噴出する。
 異常なまでの加速力で、刹那はアリーナ内を駆け抜けた。





 愉悦の笑みのまま、ラウラは右腕を振り上げる。
 その進路上にあるのは、鈴音の頭だ。
 この手を振り下ろせば、どうなるだろうか。
 そんなこと、ラウラはとうに承知している。


 だから、やる。
 渾身の力で、ラウラは拳を振るい――――


 かけて、横殴りに吹き飛ばされた。

「目標地点に到着。
 ……エクシア、武力介入を開始する」

 登場したのは、白と青の機体、ガンダムエクシア。
 武力で紛争を根絶するべく、この戦場に立ち入ったのだ。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……何故、このような真似をした」
「二度も言わせるな。答えてやる義理などない」
「何故俺を憎む? その理由は何だ」
「貴様の脳は腐っているのか?」
「…………」
≪刹那、時間を稼ぐんだ。しばらくすれば教員が来る≫
(了解)
「……対話をする意思はないのか」
「くどい」
「俺たちは同じ人間……わかりあえるはずだ」
「貴様とわかりあう気は毛頭ない」

 答えながら、ラウラはレールカノンの銃口を刹那に向けた。
 一寸の間を作り、電磁砲弾が刹那に迫る。

 いかに弾速に優れようと、所詮は単発の直線。
 刹那が、それに当たる道理はない。
 足を後ろに引き、体をひねる。
 その最低限の動作で、刹那は敵弾を回避した。

 やはり、戦うほか無い。時間を稼ぐだけの消極的な戦いだが、やる以外に道は無いのだ。
 刹那はGNソードでラウラを狙い、ライフルモードでビームをばら撒く。

 ラウラとて、代表候補生。
 当てる気のない射撃に当たってやるほど、お人よしでもなければ、判断力が欠如してもいない。

 全弾をいなすと、ラウラはペンデュラムを刹那に伸ばす。
 先ほど目にした以上、刹那からすれば初見の武器ではない。

 下手に退避しようともせず、刹那は前進。
 四本のペンデュラムを避け、ラウラへ高速で接近する。

「直線的な行動だな……愚か者が」

 ラウラは鼻で笑うと、自身の正面へAICで力場を張った。
 そこへ、刹那が突っ込んでくる。GNソードの切っ先が、慣性停止空間へ刺し込まれる。

 途端、止まった。
 ラウラを両断するはずだったGNソードは、作り物の石膏のように固まってしまう。

「やはり敵ではないな……! この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、有象無象の一つでしかない……!」

 憎しみを露にしながら、ラウラは咆える。

「消えろ!」

 硬直した刹那に、レールカノンから弾丸が放たれる――――

「刹那、離れて!」

 直前、ラウラに降り注ぐ、実弾の雨。
 空中から降下してきているのは、両手にアサルトライフルを携えた山吹色のIS――――シャルル・デュノアのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。

 鳴り止まぬ銃声に、ラウラは刹那への攻撃を中断、上空を見上げ、対処を迫られる。

「雑魚が……!」

 苛立たしげに吐き捨てて、ラウラはレールカノンの照準を設定し直した。

「シャルル!」
『刹那! 二人を!』
「……了解!」

 口から出ようとする静止の言葉を飲み込み、刹那はセシリアと鈴音を回収に向かう。
 接近戦以外では選択肢の潰れるエクシアより、手数や手札で勝るラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの方が適任だ。

 ならば、優秀な加速力を持つエクシアは負傷者の救助に回るべきである。
 ISが強制解除されたらしい二人を脇に抱え、刹那はアリーナの出口へ急ぐ。

 逃がすものか、とラウラが刹那を狙うが、シャルルの妨害を受け、サイトが定められない。
 その間に刹那は出口へ抜け、保健室へと駆ける。

 保険医に二人を預け、刹那は全速力で来た道を引き返す。





 その機動性により、ISの戦闘は非常に高速だ。
 数分の攻防で決着がつくことも、珍しくはない。

「面白い……世代差と言うものを見せ付けてやろう」

 シャルルの左腕に巻き付けたペンデュラムを引き寄せながら、ラウラは嗜虐性を含んだ笑みを見せる。
 いかに限界までカスタムが施されていても、シャルルのISは旧式。
 旧世代機と最新鋭機では、有利不利の差が生まれて当然であった。

 最後の抵抗として、シャルルは右腕のアサルトライフルを乱射する。
 事も無げに、ラウラは同じ右腕をかざし、AICを使用。
 弾丸の慣性を奪うことで、自らへ襲い来る脅威を払いのけた。

 奮戦もむなしく、シャルルは少しずつラウラに引っ張られる。
 シュヴァルツェア・レーゲンの左腕に仕込まれたビームブレードが、その刀身を一際輝かせた。

「行くぞ!」

 凶刃が、シャルルに迫る。
 丁度その場に立ち会った刹那は、GNショートブレイドを抜刀し、

 視界の端に、黒い影を捉えた。





 甲高い金属音が、アリーナに反響する。
 その音の主は、シュヴァルツェア・レーゲンのビームブレードと――――


 織斑千冬の持つ、IS用の巨大な実体剣であった。

「教官……!?」
「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 生身で、ISと打ち合ったと言うのか。
 ISを装備した人間とそうでない人間の能力には、雲泥の差が生まれる。
 その道理を、千冬はこじ開けていた。
 ――――規格外すぎる、豪腕である。

「模擬戦をやるのは構わん。だが、生徒の命が危険に晒されるような事態になられては、教師として黙認しかねる。
 ……この戦いの決着は、学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「教官がそうおっしゃるなら」

 千冬の言葉に、ラウラは素直に従った。
 ISを解除し、これ以上危害を加えないと言うことをアピールする。

「セイエイ、デュノア。お前達もそれでいいな」
「……問題は無い」
「……僕も、それで構いません」
「では、学年別トーナメントまで、私闘の一切を禁止する! 解散!」

 この場で最も強い人間の命令に、他の者はただ従うしかなかった。





「別に、助けてくれなくてよかったのに……」
「……あのまま続けていれば、勝ってましたわ」

 医務室に放り込まれ、包帯を身につけた状態でベッドに寝ている二人のビッグマウスに、刹那は思わず閉口した。
 先の勝負の結果は、誰の目にも明らかだ。二体一であるにも関わらず、ラウラはノーダメージで多勢を圧倒している。

「二人とも無理しちゃってぇ」

 かと言って、ここで事実を突きつけるのも酷だと思ったのだろう、シャルルは冗談半分に笑顔を飛ばしつつ、
 二人にカップを渡していく。

「……何故、ラウラ・ボーデヴィッヒと戦闘を行っていた」

 いつも通りの低いトーンのまま、刹那が二人に問いかける。
 鈴音は未だ納得がいっていない様子でふくれっ面を晒し、セシリアはバツが悪そうに、シーツで手慰みをした。

「あいつが挑発してきたからよ」
「ま、まあ、何と言いますか、女のプライドを侮辱されたから……ですわね」

 やはり、あのトゲトゲしい物言いが原因か。
 刹那だけでなく、周囲の人間全てに、あの敵対心を向けているのだろうか。
 その中でも、刹那が飛びぬけているのだろうが。

 しかし、刹那からすれば戦闘など望ましくないが、その要因の一つにラウラが入っている以上、大きな声では言えないことだった。
 取り付く島もないのだから、対話の場にすら持ち込めない。

 ならばどうするか、頭を悩ませる刹那の意識を浮上させたのは、地震の様な振動だった。
 がだん、と乱暴に扉が開かれ、数え切れないほどの数の女子生徒が、保健室に乱入してくる。

 彼女らの手には、一様にA4サイズの用紙が握られていた。
 押し付けられたうちの一枚を手に取り、刹那とシャルルはそれぞれ文章に目を通す。

『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、二人組みでの参加を必須とする。
 なお、ペアが出来なかった者は、抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする
 締め切りは――――』
「とにかく! あたしと組もう、セイエイ君!」
「あたしと組んで、デュノア君~!」

 何やら嵐の様にやって来て嵐のように要求をする女子生徒に、シャルルはほとほと辟易した様子だ。
 その彼――――彼女からアイコンタクトを受け取り、刹那は頷いた。

「ごっ、ごめん、僕刹那と組むから……」

 シャルルの鶴の一声が響き、女子生徒はぞろぞろと撤収していく。

「まあ、そう言うことなら……」
「まあ、他の女子と組まれるよりはいいしね~」
「男同士って言うのも絵になるし……」

 聞き逃せぬに聞き逃せぬ発言を耳にしたが、刹那はそれを流すことにした。

「ごめんね、刹那……」
「問題は無い。……戦果を期待する」

 しょぼくれた様子で謝ってくるシャルルに、刹那は気にするなと返答する。
 その様を呆然と見つめていた二人は、怪我をしているにも関わらず、声を張り上げた。

「ええっ!? ちょっと、この調子で組まれたんじゃ強い奴がいなくなっちゃうじゃない!」
「刹那さん、クラスメイトとしてここは私が――――」
「ダメですよ」

 保健室に足を踏み入れながら二人を制したのは、真耶だった。

 カルテを片手に、

「お二人のIS、ダメージレベルがCを越えています。
 トーナメント参加は許可できません」
「そんな……! あたし、充分戦えます!」
「私も納得できませんわ!」
「ダメと言ったらダメです。当分は修復に専念しないと、後々、重大な欠陥が生じますよ」

 珍しく語気を強めた真耶に、二人して口をつぐむ。
 自分の状態を把握できるのは自分自身だ。その事実は、自ら理解しているのだろう。

「…………」
「…………」

 ショックも大きいはずだ。
 下手に声はかけられない。

 刹那は真耶の横を通り、保健室を後にする。
 シャルルもそれに気づいて、小走りで後についた。





 寮への道を、とぼとぼと歩く。
 ラウラ・ボーデヴィッヒの、暴虐。あの行動を引き起こした一因として、刹那の名が並ぶのは避けられないだろう。
 ……また、刹那は誰かを傷つけてしまった。間接的であれど、そこに罪悪感を覚えずにはいられない。
 心なしか影をまとった刹那に、シャルルは上ずった声をかけた。

「あ、あのね、刹那」
「シャルル?」

 歩調を速めて、刹那の隣に並ぶ。
 一度目が合って、シャルルは足元へ視線を落とした。

「遅くなっちゃったけど……助けてくれて、ありがとう」

 保健室での、トーナメントペアのことか。
 口元を緩めているシャルルに、刹那は自然な態度で告げる。

「誰かとペアを組むことで、女性であることが発覚する恐れもあった。
 ……加えて、俺はシャルルを信頼している。
 パートナーとしては、申し分ない」
「うえぇっ!? あっ、ありがとう、刹那……」
「ああ」

 こくりと頷いて、刹那は再びシャルルを見やる。

「……二人の時は、自分を偽らなくてもいい」
「えっ?」
「性別のことだ。強要するつもりはないが」

 己の気持ちを抑えねばならないつらさを、刹那は知っている。
 不自由ながらにもがいた少年兵時代、刹那は窮屈な世界で過ごしていたのだ。

 そのことをつつかれても特別不快な念を抱いたりはしないのか、シャルルは自然な態度で言った。

「でも、ここに来る前に、正体がばれないように、って徹底的に男子の仕草や言葉づかいを覚えさせられたから……
 すぐには、直らないと思う」
「……そうか」
「でも、刹那が気になるなら……二人きりの時だけでも、女の子っぽく話せるように、頑張るけど」

 頬を紅潮させつつ、シャルルの視線が再び足元へ向かう。

「いや、無理をする必要はない。自分が楽な方でいい」
「そう……かな」
「信じられないもののための戦いは、己を歪ませるだけだ。……仮面は、いずれ壊れる」

 やや抽象的な刹那の言葉を、よくよく考えながら、シャルルは飲み込んでいく。
 要するに、自分のしたいようにしろ、と、刹那はそう言っているのだ。
 そうしなければ、自分の中の何かを見失ってしまう、とも。

「気負いすぎる必要はない。
 ……お前は人とわかりあえるはずだ。お前を必要とする人間は、この世界にも必ずいる。
 ……少なくとも、俺がそうであるように」
「…………」
「シャルル?」
「……ありがとう、刹那。すごく、嬉しいよ」

 ――――今の、台詞。
 シャルルは、はじめて、自分が誰かに必要とされた気がした。
 彼女は、妾の子供である。どのような扱いを受けてきたかは、想像に難くない。
 ……率直に言えば、シャルルは望まれていない子供だった。

 IS学園に編入してからは、まあちやほやされていたものの、それは‘男性IS操縦者'と言う希少価値から来るものに過ぎない。
 そもそも、シャルルは男性ではない。性別を隠しての入学は、父の命令によるものである。
 そうして父がシャルルを動かしたのも、不要であったシャルルを実験台として利用し、たまたまIS適正があると発覚したからである。
 結局、シャルルの存在意義は、彼女と言う容器に張られたラベルとイコールなのだ。
 自身を認め、その存在を受け止めてくる人間を、シャルルは母以外に知らなかった。

 だが、刹那は違ったのだ。
 少し無骨なところもあるけれど、彼はとても優しい人だった。
 シャルルが女性であると知ってもなお、刹那は変わらずに、ただシャルルと言う一人の人間を見つめていた。

 生まれや性別、人種や肌の色で、刹那は他人を差別しない。
 対話の上では、そんなレッテルに意味などないからだ。
 わかり合い、分かち合い、未来へ進んでいく。手を取り合う理由は、銃を向ける理由よりも大きい。

 だから、刹那はシャルルを拒まなかった。
 その心根にある優しさに気づき、ただ人間同士として接していた。
 だから、刹那はシャルルを求める。彼女とならば、分かり合えるはずだから。
 他人を気遣える優しさが、いずれ世界の平和を成すとわかっているから。





 学年別トーナメント、当日。
 会場であるアリーナの観覧席に、これでもかと言うほどに人が詰め掛けている。
 その上、二階には前回にはなかった新しい席が用意されていた。
 つくりはシンプルながらも、各部が凝ってあるそれは、素人目にもなかなかの品であることが見て取れる。

 その様子を更衣室のモニターで眺めながら、刹那はシャルルの準備を待っていた。

「……来賓席か」
「うん。三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

 着替えを終えたらしいシャルルが、部屋の奥から出てくる。

≪ここで優勝すれば、実質学年最強に等しい名誉が与えられる。油断はするなよ、刹那≫
(了解した)

 ティエリアからの念押しを受け、刹那は決意を固めた。
 戦いを好まない刹那だが、帰還のためだ。仕方が無い。
 それに、何より。

(ラウラ・ボーデヴィッヒは必ず勝ち上がってくる……)

 ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
 彼女の真意は、未だ汲み取れていない。
 この戦いで、何かわかることがあれば。刹那はそう願った。

「組み合わせが、決まったみたいだね」

 シャルルの声に、刹那は思考を切り上げ、電光掲示板に目をやる。
 一回戦、刹那たちの隣に並んだ相手、飛び込んできた名前は――――


「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」


 試合開始前、選手はアリーナの中心で待機することになる。
 そこに、刹那たちはいた。
 当然、向かい合う敵手は――――ラウラ・ボーデヴィッヒ。

「一戦目で当たるとはな……待つ手間が省けたと言うものだ」
「…………」

 確かに、一回戦で当たれたのは幸運ではあった。
 先の模擬戦闘を見るに、ラウラの実力は本物である。
 加えて、あの攻撃性だ。大会と言う空気も相まって、生徒達も危機感が薄れている。死人が出かねない。
 それを阻止できたのは、不幸中の幸いであった。

 ラウラと刹那、シャルルの視線が交差する。
 そして、一人尋常でない疎外感と場違い感に苛まれている女子生徒は、涙目になりながらも敵意に耐えていた。

 そんな連中をよそに、カウントダウンが開始される。
 ――――3。

「……ラウラ・ボーデヴィッヒの相手は俺がする」
「えっ、でも……」

 ――――2。

「勝算は有る。もう一人を頼む」

 ――――1。

「……わかった。でも、無理はしないでね」

 ――――0。


 電子音の音階が高くなり、それに合わせ、刹那とラウラはお互いに向け突撃。

「叩きのめす!」
「駆逐する!」

 エクシアのGNソードが、太陽光を反射してきらめいた。
 その鋭い刃が、ラウラの喉仏へ迫る。
 急所へ直撃すれば、たちまちシールドゲージは空になるだろう。

 だが、そんなことはラウラとて百も承知だ。
 予定調和とばかりに右腕をかざし、AICを起動。

 進路上に展開されたそれへ、GNソードが突き刺さる。
 慣性を失い、エクシアの動きが止まった。

「開幕直後の先制攻撃か……分かりやすいな」

 ラウラが、口端を吊り上げる。
 ――――馬鹿が。
 口に出さずそう告げると、シュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンが稼動。
 フレキシブルに動かせるためか、その巨大な砲身を自在に操り、刹那へ銃口を押し付ける。

 エネルギーが充填され、レールカノンが放たれた。

 刹那とて、AICの特性は把握している。
 右腕のGNソードを、刹那は躊躇なく‘取り外した’。

 そのまま地面を蹴り、空中へと舞い上がる。
 AIC力場に進入していたのは、GNソードの先端。
 その部位を外すことで、AIC力場から抜け出したのである。
 前回の戦闘で、有効範囲を見切っていたのが有効に働いた。

 ラウラの頭上を取った刹那は、GNロングブレイドを抜刀。
 GNロングブレイドは、GNソード以上の重量と刃渡りを誇る。
 切れ味では劣るが、斬馬刀の要領で叩き斬ることを目的とした兵装なため、デメリットとしては薄い。

 そのGNロングブレイドを、刹那は重力の加護を受けつつラウラに押し付ける。
 AICは、同時に二つ展開することが出来ない。多方向からの攻撃には、対処しきれないはずだ。

 ラウラは舌打ちをこぼすと、GNソードを捉えたAIC力場を解除。
 上空から襲い来る刹那へ、右腕のビームブレードを構え、迎撃。

 迎え撃たれることなど、刹那は予測できている。
 GNロングブレイドとビームブレードがぶつかり合うその寸前、刹那はGNビームサーベルを引き抜く。
 自らの得物を持ち替え、ラウラの虚を突き、GNビームサーベルを両肩に突き刺した。

 しかし、ラウラとて一流の兵士。揺さぶりにも動じることなく、
 ビームブレイドでロングブレイドを弾き、右肩を狙うビームサーベルとのつばぜり合いに持ち込む。
 結果、シュヴァルツェア・レーゲンの左肩に、エクシアのビームサーベルが差し込まれた。

 眉をひそめると、ラウラは刹那に向けAIC力場を発動しようとする。
 動きからそれを読み取った刹那は、ラウラの肩をえぐったままのビームサーベルを踏み抜き、中空へと退避した。
 AICの間合いを、大体ではあるが把握しているのだ。

 更に肩部装甲をえぐったビームサーベルを無造作に引っこ抜くと、
 ラウラは苛立ちを隠そうともせず、足元のGNソードとGNロングブレイドをまとめて蹴り飛ばす。
 勢いよく地面を転がったそれは、アリーナの壁にぶつかった。
 回収は難しいだろう。背を向けていては、レールカノンの餌食だ。





「ねえ、あれ……」
「ええ、動きがよくなっていますわ……」

 観客席から試合を観戦している鈴音とセシリアの二人は、思わず刹那の動きに目を奪われていた。
 刹那の挙動が、前とは違うのだ。反応が早く、対応が正確になっている。

 そう、刹那はこれまでこなしたISでの戦闘は、模擬戦を含めれば相当な数に達するのだ。
 それほどの時間をかけたことで、刹那はようやくISに慣れた。
 セシリアの指導の下での特訓と、シャルルとの訓練が、実を結び始めたのである。

 そうなれば、刹那はガンダムマイスター。いくつもの戦場を渡り歩いた、戦いのプロフェッショナルだ。
 たかが十五年の歳月しか重ねていない小娘に、引けを取る要素がない。

 刹那の本領が、発揮されようとしていた。





 今度はラウラから、刹那に吶喊してくる。
 直線を引くような、単純な軌道。しかし、それは恐ろしく早く、それでいて隙がない。
 高速で接近しながら、ビームブレードを横に振るう。

 しかし、ここは刹那の距離だ。
 エクシアの武器は、残り少ない。セブンソードのうち、四つを失っている。
 それ故、ラウラは攻め込んだのか。

 ならば、それは見当違いだ。


 ラウラのビームブレードと、刹那の‘GNソード’がぶつかり合う。
 突如として出現したGNソード。その事実に、ラウラの目が見開かれる。
 先ほど、ラウラは刹那の武器を移動させたはずなのに。

 その前提からして、間違っているのだ。遠くにやるだけでは、刹那の武器を奪えない。
 今やISを構成しているのは、ELSなのである。ELSはMSと同等の速度での単独行動が可能なのだ。
 刹那が手ずから拾わなくとも、武器の方からエクシアに戻ってくるのである。

 その事実を、ラウラは知らなかった。知りえなかった。
 故に、動揺する。太刀筋が、わずかに鈍る。
 刹那が、それを見逃すはずもない。

 ビームブレードと打ち合ったGNソードをそのままに、刹那は空いた左手でGNショートブレイドを抜く。
 そのまま、無防備なラウラの鳩尾へ、ショートブレイドを突き立てる。

 それに気づいたラウラは、地面を蹴り後方へ撤退。
 体勢を立て直すべく、刹那から離れようとする。

 それを、刹那は許さない。
 GNショートブレイドを投擲し、自身も直進。二つの弾丸が、ラウラに迫る。

 咄嗟に、ラウラは正面へAIC力場を展開。
 GNショートブレイドが、慣性を失って落下する。


 GNショートブレイド、だけが。


 後方から、気配。
 気づいても、振り返れない。
 ラウラは、たった今AICを使用したばかりである。

 だから、刹那は容赦しない。
 今が好機とばかりに、袈裟斬り、横薙ぎ、縦斬りの三連撃を、ラウラの背に刻み込む。

 ラウラは苦悶の表情を浮かべつつ、しかしされるがままではいてやらぬ、と、
 シュヴァルツェア・レーゲンの装甲の一部をパージ。
 四本のペンデュラムが、刹那に向かう。

 刹那は一時攻勢を緩め、空中へと上昇。
 円を描くように動き回り、ペンデュラムから逃れようとする。

 そこを、ラウラは狙う。
 レールカノンのサイトを定め、刹那の進路を予測。
 直撃するようにタイミングを計り、トリガーを引く――――

 それが、出来ない。
 背中に、実弾の乱射。
 舌打ちをこぼしながらラウラが振り向けば、アサルトライフルを二丁構えたシャルルが、射撃体勢に入っていた。
 彼女の相手をしていた生徒は、既に戦闘続行は不能。
 刹那がラウラとやりあっている間に、シャルルは片をつけたのだ。
 
 銃に気を引かれたラウラは、ひとまずうっとうしいシャルルを仕留めようとターゲットを切り替え、

「お前の相手は、この俺だっ!」

 背後から、GNダガーの奇襲を受ける。
 シールドゲージが削れる音がするが、構わずラウラはシャルルに接近。
 シャルルもバックブーストで逃げ回るが、しかし、世代差が出る。
 スピードにおいては、シュヴァルツェア・レーゲンの方が上だ。
 AIC力場の中へ、シャルルが取り込まれ――――

「刹那!」

 シャルルが、声を張り上げた。
 それは、助けを求める弱気なそれではない。
 ならば、これは、仕組まれた状況なのだ。

「オーバーブーストモードを使う! ティエリア!」
≪了解! GNドライヴの安全装置を解除する!≫

 ティエリアの手によって、太陽炉を抑えるパーツが外される。
 一時的ながらも最大出力を誇る、ガンダムエクシアの奥の手、オーバーブーストモード。

 GNソードを真っ直ぐに突きつけると、エクシアの背中が‘爆ぜた’。
 いや、違う。爆発したように見えたのだ。あれは、GN粒子の光。

 桁外れの加速力を得たエクシアが、ラウラを襲う。
 あの勢いでGNソードが突き刺されば、大破は免れまい。
 ラウラはシャルルのAIC力場を解き、刹那に対して自ら攻める。

 ラウラと刹那との間に、直線が結ばれた。
 当然、ラウラはAICを使用し――――


 背後から、GNソードによる一撃を受けた。
 何故? ラウラが思考するが、しかし答えは出ない。
 糸の切れた人形のように、シュヴァルツェア・レーゲンが落下する。
 地面に墜落したそれは、アリーナを揺るがす轟音と、視界を覆う砂埃を立てた。


 何故、刹那はAICの影響を受けなかったのか。
 簡単な話である。
 後ろ側に、回り込んだだけなのだ。
 オーバーブーストモードであれば、エクシアの機動力は第四世代ガンダム――――ツインドライヴ搭載型に匹敵する。
 それに、MSで養われた刹那の操縦技術が加われば、敵機のシールドを避け、弱点に攻撃をねじ込むことなど容易い。


 ――――だが。途中で強引に進路変更した以上、破壊力は大きく削がれた。
 試合終了のアナウンスがないことからも、未だ敵機は健在であることが知れる。

(ティエリア、太陽炉は?)
≪……エクシアのGNドライヴはしばらく使えないだろう≫
(了解した。準備を頼む)
≪わかった。最中は無防備だ、警戒を≫





 ――――私は、負けられない。負けるわけにはいかない!

「遺伝子強化試験体、C-0037。
 君の新たな識別記号は、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だよ。
 ……『ラウラ・ボーデヴィッヒ』」

 頭の中に、男の声が反響する。
 高くもない。低くもない。くせもない。感情もない。
 およそ個性と言うものを没した声が、頭の中で、ぼんやりと響く。

 ――――私はただ、戦いのために作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、兵器であった。

 ――――私は優秀だった。最高レベルを維持し続けた。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、機械であった。

 ――――しかしそれは、世界最強の兵器、ISの出現までだった。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、軍人であった。

 ――――ただちに私にも、適合性向上のため、肉眼へのナノマシン移植手術が施された。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、機材であった。

 ――――しかし私の体は適応しきれず、その結果……出来損ないの烙印を押された。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、無用であった。

 ――――そんな時、あの人に出会った。
 ラウラ・ボーデヴィッヒは、


 人間に、なった。


 ――――彼女は極めて有能な教官だった。
 織斑千冬は、希望であった。

 ――――私はIS専門となった部隊の中で、再び最強の座に君臨した。
 織斑千冬は、戦士であった。


「どうして、そこまで強いのですか? ……どうすれば、強くなれますか」
「……私は強くない。私では、敵わなかった者がいる」
(……違う。
 ……どうして、そんな弱気な顔をするのですか。
 私が憧れる貴方は、強く、凛々しく、堂々としているのに……)
「……ガンダムと言う言葉を、知っているか?」
「…………いえ」
「そいつさ。私では、勝てなかった。……それで、このザマだ」

 ――――ガンダム。

(……許せない。
 教官にそんな運命を強要した者を……
 ガンダムを、私は認めない……!)

 ――――刹那・F・セイエイ。
 ――――ガンダムエクシアの、パイロット!

(力が欲しい……!)

「君は、より強い力が欲しいんだね?」

 頭の中に、男の声が反響する。
 高くもない。低くもない。くせもない。
 ――――感情は、あった。
 ほくそ笑んでいる。その嘲り、不愉快だ。しかし、構わない。例え無様であっても、力を手に入れる。

(……寄越せ、力を)

「……そうかい。素直なのは、嫌いじゃないよ」

(比類なき、最強を!)





 ラウラの叫びが、会場に木霊する。
 雷の様な放電現象が、シュヴァルツェア・レーゲンの着地点を中心に広がりだした。

 その衝撃で、砂塵が晴れる。
 姿を現したラウラは、しかし、予想と風貌を違えていた。

 ISが、溶けているのだ。
 粘土をこねているかのように、ぐねぐねと奇怪な動きを繰り返し、ラウラ・ボーデヴィッヒを取り込もうとしている。

「何……!?」

 その光景の異常性に、シャルルが声を漏らした。

(……ティエリア)
≪ああ、急ごう。……あれは、危険だ≫

 刹那も、シャルルと同じく、何かを感じていた。
 しかし、それは感覚的なものではない。
 形を持った、いやな予感。不安。
 ――――この世界に来てから一度として感知しなかった強い脳量子波を、ラウラが放っているのだ。

 ラウラの顔は、恐怖に引きつっているように見えた。
 初めて見せる、弱い表情。では、あれはラウラの意思とは無関係だとでも言うのだろうか。

 その様を見守るしかない二人をよそに、ISだった黒い固形が、ラウラの全てを包み込んだ。
 彼女の白い肌も、銀色の髪も、黒どろどろとしたそれに覆われている。

 そのうち、ISだったそれは、ヒトガタを作り始めた。
 未だバランスの狂った異形だが、しかし周囲の人間に嫌悪感を抱かせるには充分にグロテスクだ。

 学園側も予想外の出来事だったのか、サイレンが鳴り始め、焦った様子のアナウンスが入る。

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止!
 状況はレベルDと認定、鎮圧のため、統治部隊を送り込む。
 来賓、生徒はすぐに避難してください』

 観覧席のシェルターが閉まり、来賓席の人間が慌てて逃げ去っていく。
 それをものともせず、黒い粘着質のそれは、ついに成形を終えた。

 黒い、甲冑。
 シュヴァルツェア・レーゲンの剛健さは見る影もなく、ぬらりと光る体表が、言い知れぬおぞましさを感じさせた。
 その体長は、ISの二倍……先の襲撃者を彷彿とさせる外見だ。
 しかし、その造形は、どこか人間を――――それも、女性をイメージさせる。

 あれは、本当にラウラ・ボーデヴィッヒなのか?
 刹那は、そう疑わずにはいられなかった。

 事態を収拾すべく、教員がISを装備してやって来る。
 ……黒いISは、動かない。

 警戒のためか、教員がライフルを構えた。


 そして、吹き飛ばされる。
 アリーナの壁へ、緑色のISが叩きつけられた。


 突然の攻撃に、教員らは反射的に武器を構える。
 黒いISが装備しているのは、一振りの日本刀だけだ。
 距離を取れば、一方的になぶれるはず。
 そこへ、

『待て、銃を捨てろ!』

 通信機越しに、千冬の指示が下される。
 教員らは、素直にそれに従った。敵の前で警戒態勢を解くなど自殺行為だが、
 千冬がそんなことをさせるわけがないと、信頼しているのだ。

 皆が銃を地面に置いた途端、黒い巨人の動きが止まる。

(あの動き……敵対者にのみ反応しているのか?)

 刹那のそれはあくまで当て推量だが、そう推理することも出来た。
 しかし、真相は分からない。あの黒いISが、人語に対して応答するかどうかもわからないのだ。

(……ダブルオーライザーを出す)
≪了解……形態移行に移るぞ≫

 そこで刹那が取った選択肢は、トランザムバーストによる意思の伝達だった。
 あの中にラウラが残っているのなら、GN粒子を介して対話が行えるはずだ。

 刹那のISが発光、エクシアの装甲が、変形していく。
 白を中心としたカラーリングが、青を基調とした色彩へ。
 二つのGNドライヴが、肩へと配置される。
 セブンソードは、GNソードⅡとⅢへ形を変えた。

 光が収まり、刹那は早速トランザムのために操作を開始する。

「刹那、そのIS……」
「説明は後だ。今は、あの機体と対話を試みる」
「対話……?」

 事情を知らないシャルルや教員は面食らっているようだが、構っている暇は無い。
 二つのGNドライヴが、共鳴を開始した。

≪ツインドライヴ、同調……やれ、刹那!≫
「トランザム、バースト!」

 GN粒子と、ダブルオーライザーの機体が、赤く染まる。
 刹那を中心に、高濃度の粒子空間が形成された。





(私……私は……)

 ラウラの意識は、曖昧だった。
 それに合わせ、体もぼけっとしている。
 宇宙空間を漂っているような心地だった。

 何故、こんなことになっているのだろう。
 そう思ったが、ラウラはその疑問を放り投げてしまいそうになる。

 何だか、ものが考えられない。思考より、眠気が勝っているような状態だ。
 けれど、彼女は思う。何故? 何故だろう。

 やがて、ラウラは結論にたどり着いた。
 ――――感情だ。嫌だったから。

 ……感情。どんな感情だろうか。
 いや、感情?
 彼女の中の感情は、全て外に出て行ってしまったような気もするし、全部奥にしまいこんだような気もする。

 それはいい。とにかく嫌だったのだ。
 嫌。嫌だった。何が嫌だった?

 教官が、あんな顔をするのが嫌だった。嫌だ。それは嫌だろう。
 何故、そうなる? 教官を沈ませて、心に傷跡を残したのは誰だ?

 段々と筋道が立ってきたラウラの思考。
 そして浮かんだのは、一人の男の顔。

「刹那・F・セイエイ……!」
「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 忽然と、この不思議な空間に出現した刹那へ向け、ラウラは敵意を露にする。
 教官に嫌な思いをさせるこいつが嫌いだったし、何より、ラウラは負けた。だから、余計に腹が立つ。

「……やはり、このISの中にいたのか」
「貴様、何を……!」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前と対話するために、俺はここへ来た」
「対話だと……!」
「ああ」
「私と教官の敵である貴様に、話すことなど……!」
「教官……織斑千冬か」

 何故、と言いかけて、ラウラは口をつぐむ。
 この場所は、どこか変だ。そんなつもりはないのに、自分の気持ちを、打ち明けてしまう。

「教えてくれ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
 織斑千冬と俺の間に、一体何があった」
「貴様……! 白を切るつもりか!
 大会の前日、教官を襲ったお前が……!」
「大会……?」
「第二回IS世界大会だ……!
 教官は決勝まで勝ち残ったが、試合前日に何者かの襲撃を受けて重症を負い、不戦敗に終わった……!」
「…………」

 そんな事情があったのか。刹那は、今始めて千冬の過去を知った。
 千冬は、あまり自分のことを話したがらない。
 ましてや、汚点になりかねないそんな話、語りたくはないだろう。

「その襲撃者の名を、私は知っている……!
 ガンダム……! 貴様と同じISを装着した男が、教官の不意を打った!」
「ガンダム……!?」

 刹那がこの地球を訪れたのは、つい先日のことである。
 時間跳躍の技術は、西暦2364年現在、未だ開発されていない。

「そのガンダムは、俺ではない」
「何を……!」
「ガンダムは、紛争を根絶するためにある。
 そのような世界を歪める行為を、ソレスタルビーイングは良しとしない」
「知ったことか!」
「お前は知らなければいけない。
 その怒りは、矛先を違えている。
 そのままでは憎しみが歪みとなり、やがて争いを生む……!」
「そうさせたのはお前だ! ガンダムと言う存在だ!」
「違う。俺たちは、未来を切り開くために戦っている」
「…………」

 刹那の低い声に、ラウラは押し黙った。 
 彼が嘘をついているわけではないと、直感的にわかったからだ。
 誰に説明されたわけではないが、ラウラはそう思った。この場所は、きっと、己の思いを伝えるためにある。

「……お前は戦いに執着しすぎている。悪意による戦いは、世界を歪めるだけでしかない……何が、お前をそうさせた」
「……私は」

 ラウラは、それだけ言って、黙った。
 しかし、刹那にはわかる。高濃度のGN粒子が散布されていれば、自然とわかるのだ。

「お前は……超兵なのか」
「……似ている。貴様の考えている、それとな」

 超兵と言う言葉の意味を、ラウラは知らない。
 だが、刹那の意思を通して、理解できる。
 それと同じ原理で、刹那もラウラの生まれを把握したのだ。

「戦うだけの人生……俺もそうだ」
「…………」
「だが今は、そうでない自分がいる」

 刹那の目は、まっすぐだ。
 その瞳を、ラウラはじっと見つめた。自分と同じ、金色の虹彩。

「お前は変われ。
 お前なら、破壊するだけではなく、分かり合うことが出来るはずだ」
「……私には」
「出来る。お前は変わるんだ。
 未来と向き合うために、自分自身を変革させろ」
「……私は、強くない。
 教官を失い、矜持すら砕かれて……何を頼りに生きればいいんだ」
「ならば、生きるために戦え。
 自分自身のために、未来を切り開け。その先に、必ず何かがある。
 お前はまだ生きている。……生きているんだ。命がある限り、人は変わっていける」

 刹那自身が、そうしたように。
 ラウラも、きっと変われるはずなのだ。

「……お前は、何故強くあろうとする。どうして、強い」
「俺は、託された……仲間の希望を、変革の意思を。だから、歩みは止めない。
 そのために俺は戦う。破壊するためではない、守るための戦いを成す」
「……守るための、戦い」

 ――――それはまるで、あの人のようだ。

「……オーバーロード……!?
 トランザムの限界時間か……」
「そうか……もう、終わるのだな」
「ああ。だが忘れるな、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
 お前は変われる……未来のために、変わるんだ」





「私は……」

 覚醒したラウラ・ボーデヴィッヒは、ベッドに体を横たえていた。
 節々が、痛む。鍛えられているこの体が、こうまで疲労するとは。

「……何が、起きたのですか」

 ベッドのそばで椅子に腰掛ける千冬に、ラウラは問いかけた。
 表情を崩さないまま、千冬は答える。

「……一応重要案件である上に、機密事項なのだが……VTシステムを知っているな?」
「ヴァルキリー・トレース・システム……」
「そう。IS条約で、その研究はおろか、開発、使用、全てが禁止されている。
 ……それが、お前のISに積まれていた。
 精神状態、蓄積ダメージ、そして何より、操縦者の意思。
 ……いや、願望か。それらが揃うと、発動するようになっていたらしい」
「……私が……望んだからですね……」

 ラウラは、ぎゅっとシーツを握った。

 弱ったその心を再び持ち直させるように、千冬は声を張る。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「はっ……はいっ」
「お前は誰だ」
「私は……」

 質問の意図を探りかねて、ラウラは口をつぐんだ。
 それが狙いだったのだろう、千冬は構わず続ける。

「誰でもないなら丁度いい。
 お前はこれから、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「えっ……」
「それから……お前は、私になれないぞ」

 そう言い残して、千冬は保健室から出て行く。
 扉が閉まる音がして、ラウラは力なく天井を見つめ。

 それから、笑った。腹の底から、笑っていた。





 騒動が収拾して、しばらく。
 シャルルと食卓を囲みながら、刹那は学園側からの通知に目を通していた。

「結局、トーナメントは中止だって。でも個人データを取りたいから、一回戦は全部やるそうだよ」
「中止……」
「ちょっと残念?」

 シャルルの問いに、首を横へ振る。
 進んで戦いたくはないが、一応学園側への売り込みは必要だ。
 複雑な事情が絡み合っていたが、ここは一応否定の意を示しておいた。

 そこへ、明るい声が介入してくる。

「セイエイ君、デュノア君、朗報ですよ!」

 姿を現したのは、クラス副担任の真耶だった。

「今日は大変でしたね~。でも、二人の労をねぎらう素晴らしい場所が、今日から解禁になったのです!」
「場所……?」

 シャルルが聞き返すと、真耶は待ってましたとばかりに大げさな動きをとり、言った。

「男子の、大浴場なんです!」





≪刹那、錆びる心配はない。ゆっくりとつかっておけ≫
(……ああ)

 浴槽の中で、刹那はリラックスした体勢のまま風呂に入っていた。
 やろうと思えば人間と同じ体・感覚を復元できる以上、堪能しない手はない。

 しかし、こうも大きな風呂場に一人だと、どうにも寂しいものを感じる。
 せめてティエリアが体を持っていれば、いつも手間をかけてばかりな以上、よりくつろげただろうに。

≪僕のことは気にするな、感覚共有は行っている≫

 ティエリアの言に、そうか、と刹那は納得した。
 同一個体である以上、ティエリアと刹那の五感はリンクしている。
 やろうと思えば、ターミナルユニット内でも擬似的な入浴は可能なのだろう。

≪せっかくだ、もう少し――――≫
「お、お邪魔します……」
(敵襲……!?)
≪……何度も言うが、敵ではないぞ≫

 いきなり浴場へ介入してきた、第三者。今の声は、

「シャルル……!? 何故ここに!」
「僕が一緒だと……嫌?」
「そうではない。理由を――――」
「やっぱ、その……お風呂に入ってみようかな、って。迷惑なら、あがるよ?」
「……なら、俺は上がる」
「ああっ、待って! 話が、あるんだ……大事なことだから、刹那にも聞いてほしい」

 呼び止められて、刹那は動きを止めた。
 ゆっくりと、再びお湯に体を沈めると、シャルルへ背中を向けるよう方向を変える。

 シャルルはぎこちない足取りで浴槽に足を入れると、そっと刹那の近くで腰を下ろす。
 丁度、背中合わせの形になった。

「その……前に言ってたことなんだけど」
「……学園に残ると言う話か?」
「そう、それ。……僕ね、ここにいようと思う。刹那がいるから、僕はここにいたいと思えるんだよ?
 ……それに、ね? もう一つ、決めたんだ。僕の、在り方を」

 背中合わせのまま、シャルルは言葉を紡いでいく。

「在り方?」
「僕の事を、これから『シャルロット』って呼んでくれる?
 ……二人きりの時だけでいいから」
「シャルロット……本名か?」
「そう。僕の名前……お母さんがくれた、本当の名前」

 刹那は、本名を明かしていない。
 ソラン・イブラヒム――――その名は、ガンダムマイスターとなった時に捨てたのだ。
 だから、刹那は刹那のままだ。そのことを、刹那は今更口にするまいと決めた。

「……了解した。これからもよろしく頼む、シャルロット」
「……うん」

 シャルルは――――シャルロットは、小さな声で、けれどしっかりと返事をした。





 翌日。

「…………今日は、皆さんに、転校生を紹介します」

 加減を悟ったのか、真耶は言いづらくも教師の職務を果たしていた。
 しかし、当の着任者はまったく意に介さず。

 つかつかと教壇の隣に歩み寄り、にっこりと笑みを浮かべて名乗った。

「シャルロット・デュノアです。みなさん、改めてよろしくお願いします!」

 束ねられた金髪、西洋人らしい碧眼、そして柔らかい物腰と声。
 一人の少女が、そこに立っていた。

 当然、皆から困惑の声が上がる。

「ええっとぉ……デュノア君は、デュノアさん、と言うことでした……」

 事態を収めようと思ったらしい真耶は、しかし全く収められていない。

「……は? つまりデュノア君って女?」
「おかしいと思った。美少年じゃなくて、美少女だったってわけね」
「セイエイ君、あんなに仲良かったのに知らないってことは……ちょっと待って、昨日は確か、男子が大浴場使ったわよね!」

 クラスの女子からしっちゃかめっちゃかに言葉を投げつけられて、刹那は対応に困った。
 シャルロットから入って来たわけだが、まさか、それを口にするわけにもいくまい。
 仕方が無いと、刹那は口をつぐんだまま耐えた。

 すると、遠くから、教室の後ろの方に飾ってあった花瓶が刹那に迫る。
 誰かが投げたのか、あるいは騒ぎで飛んできたのか。

 ともあれ、キャッチするべく刹那は身構えて――――

 窓から飛び込んできたラウラが、その花瓶を停止させた。
 見れば、ラウラはISをまとっている。
 それによるAIC、慣性停止能力。即ち絶対防御。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

 予想外のエトランゼの出現に、刹那が小さく息を漏らす。
 ラウラの怪我は軽くないと言われて、例の事件以降、刹那は顔を合わせていないのだ。
 どう出る、と警戒する刹那の胸倉へ、ラウラは手を伸ばした。

 それを、刹那は避ける。
 足を後方へ移動させ、軸をずらして回避。

 またも、ラウラが右手を刹那に伸ばす。
 刹那は地面を蹴り、間合いを保って回避。

 再び、ラウラが右手を刹那に伸ばす。
 刹那はしゃがみ、高度を違えさせることで回避。

 そのまま、両者にらみ合う。
 それが数秒続いて、ラウラは告げた。

「……悪いようにはしない。じっとしていろ」

 そう言われて、刹那は立ち上がり、身動きをやめた。
 対話は、信じあうことから始まる。
 この前のトランザムバーストから、ラウラはどこか雰囲気を変えた。ならば、賭ける価値はある。

 ゆっくりと、ラウラの右手が刹那の襟元を掴む。
 そのまま、手元へと引き寄せると、

 ラウラは、刹那にそっと口付けた。

(何……!?)
≪刹那!?≫

 予想の斜め上の行動に、刹那はただただ驚愕するばかりである。
 ネーナ・トリニティにも同じようなことをやられたが、まさか、こんな、いきなり。

 一呼吸の間、じっと唇を寄せていたラウラは勢いよく顔を離し、頬を赤く染め、

「こっ、この間の謝罪だ。
 それと、お前は私の嫁にする。隣で、私が変わっていくのを見届けてもらう! ……決定事項だ! 異論は認めん!」


 その堂々極まりないブライダル宣言に、教室へ動揺が走り、


「ええええええええええーーーーーーーっ!?」
「嘘おおおおおおおおおーーーーーーーっ!?」
「はあああああああああーーーーーーーっ!?」
「なんとぉーーーーーーーーーーーーーっ!?」
「オ・ノーレェェェェェーーーーーーーッ!!」

 学園中が、震撼した。



~次回予告~

 諸君、ついに訪れたぞ、熱く燃える夏……太陽の季節が!
 夏と言えば当然海……臨海学校だ!
 しかし、水中行動すら可能とは。汎用性が高すぎるぞ、ガンダム!

 明日は日曜日! 買出しに行く必要があると見た!
 フラッグファイターの諸君、急ぐぞ!
 ビーチバレーで、ガンダムとの決着をつける!

 盟友と編み出した我が奥義『グラハムスペシャル・アンドサーブ』、とくと見るがいい!
 次回、‘海は即ち乙女座の地’。体の端からにじみ出た欲望を、断ち切れ、ガンダム!




←ブログ発展のため1クリックお願いします
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://kannki.blog39.fc2.com/tb.php/660-08319382
    この記事へのトラックバック



    アクセスランキング ブログパーツ レンタルCGI
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。
    /* AA表示 */ .aa{ font-family:"MS Pゴシック","MS PGothic","Mona","mona-gothic-jisx0208.1990-0",sans-serif; font-size:16px; line-height:18px; }